説明

薬剤揮散体

【課題】強度を保持しながらも原料の使用量を大幅に削減でき、また使用する原料の100%に再生樹脂を用いることもできる薬剤揮散体が望まれていた。また
、防虫成分を揮散させるための開口部の開口面積が理論値よりも少ない場合であっても、防虫成分の十分な揮散効率を確保することができる薬剤揮散体が望まれていた。
【解決手段】本発明に係る薬剤揮散体1は、開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性防虫剤を保持させた担体を収納した薬剤揮散体であって、薬剤容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製したものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イガ、コイガ等の衣料害虫や蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除および忌避するための薬剤揮散体に係り、詳しくは、薬剤容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製したものとすることによって、強度を保持しながらも原料の使用量を大幅に削減でき、また使用する原料の100%に再生樹脂を用いることもできる薬剤揮散体に関するものである。
さらに、防虫成分を揮散させるための開口部の開口面積が理論値よりも少ない場合であっても、防虫成分の十分な揮散効率を確保することができる薬剤揮散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、防虫剤などの薬剤を保持させた担体を収納した薬剤揮散体は、例えば特許文献1や特許文献2に挙げられるような各種の製品が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−187798号公報
【特許文献2】特開2003−250414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1や特許文献2に記載の薬剤揮散体については、薬剤容器に防虫成分を吸収しない材料を用いたり(特許文献1の[請求項1]、段落[0007]参照)、あるいは担体の交換時に指を汚さずに交換できるようにしたり(特許文献2の[請求項1]参照)するなどの工夫がなされているものの、いずれの薬剤容器も薬剤容器の強度を保つために射出成形(特許文献1の段落[0028]、特許文献2の段落[0009]参照)で作製されているのが現状である。
【0005】
しかしながら、上記のように薬剤容器を射出成形で作製する場合には、容器の強度を確保するため、特許文献1の段落[0045]に記載されているように容器の肉厚を1cm以上確保にする必要がある。従って、使用する原料の量も多くなってしまい、その結果コストUPにつながってしまうという問題があった。
また、上記の通り、容器の肉厚が厚くなることによって容器自体もある程度の重量を有してしまうことから、容器の本体部と蓋体部との連結方法にも複雑な構造を採用しなければならないという問題もあった。具体的には、ヒンジ構造を採用したり、嵌合構造を採用する場合においても強い嵌合力が必要となることから大型の雄型部材と雌型部材を設けなければならなかったり、あるいは一体成形を採用したりするような対策が必要であった。
【0006】
さらに、再生樹脂を使用して薬剤容器を作製する場合においても、再生樹脂のみで薬剤容器を作製してしまうと十分な強度の確保ができなくなるため、原料の一部には必ずバージン樹脂を混合しなければならず、省資源の観点からも問題があった。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、薬剤容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製したものとすることによって、強度を保持しながらも原料の使用量を大幅に削減でき、また使用する原料の100%に再生樹脂を用いることもできる薬剤揮散体の提供を目的とする。
さらに、防虫成分を揮散させるための開口部の開口面積が理論値よりも少ない場合であっても、防虫成分の十分な揮散効率を確保することができる薬剤揮散体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る薬剤揮散体は、開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性防虫剤を保持させた担体を収納した薬剤揮散体であって、薬剤容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製したものであることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る薬剤揮散体は、ポリエチレンテレフタレート樹脂が、再生ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る薬剤揮散体は、薬剤容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製し、かつ開口部を少なくとも薬剤容器に収納した担体の外周部の位置に設けることを特徴とする。
【0011】
本発明に用いられる熱板圧空成形法とは、予め加温した金型(熱板)に原料である樹脂シートをセットした後、圧縮空気を用いて樹脂シートを金型に密着させることによって所定の成形品を得る成形方法である。
このような成形方法を用いて、本発明に用いられる薬剤容器を作製することによって、射出成形に比べて肉厚が薄く、かつ均一な薬剤容器を作製することができ、原料の使用量を大幅に削減することができる。
また、薬剤容器の肉厚を薄くできることから、薬剤容器を本体部と蓋体部の2パーツ(部品)による嵌合構造とすることができる。
さらに、薬剤容器の肉厚を均一にすることができることから、かかる嵌合構造についてもより寸法精度の高い嵌合構造を作製することができる。具体的には、例えば図6に示すようにフランジ部13を小さくすることができ、図7に示す従来品のようにフランジ部14を大きくして嵌合性能を確保する必要がなくなることになるため、この点からも原料の使用量を削減することができ、またデザイン性にも優れた薬剤揮散体を作製することができる。
なお、使用する樹脂シートの種類や薬剤容器の形状などに応じて、樹脂シートについても予め加温しておくこともできる。
【0012】
本発明の薬剤揮散体に用いられる薬剤容器の材質はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂であるが、他の樹脂を排除するものではなく、熱板圧空成形法によって本発明に用いられる薬剤容器と同等の性能を有する薬剤揮散体を作製できる場合には他の樹脂を配合することもできる。
【0013】
本発明の薬剤揮散体に用いられる薬剤容器には、収納する担体から防虫成分を容器の外に揮散させるための開口部が設けられている。
ここで、薬剤容器の開口部は、通常、使用状況に応じて必要とされる薬剤揮散量と担体面積によってその開口面積が算出、決定されるものであるところ、従来技術のように射出成形によって薬剤容器を作製する場合には、容器の肉厚が厚いことから、強度面における心配をすることなく開口面積を大きくすることができ、理想的な開口面積を確保することができる。
一方、熱板圧空成形によって薬剤容器を作製する場合には、容器の肉厚が薄いことから、理想的な開口面積を確保しようとすると薬剤容器の強度が低下してしまい、使用に耐え得る薬剤揮散体を作製できない可能性がある。
【0014】
そこで、本発明に用いられる薬剤容器については、開口部を少なくとも担体の外周部の位置に設けることが好ましい。通常、担体の外周部は断面に近く、断面部は担体中央部よりも揮散効率が高いことから、かかる位置に開口部を設けることによって、開口面積が理想値よりも低い場合においても防虫成分の十分な揮散効率を確保することができるのである。
なお、本発明における担体の外周部の位置とは、揮発性防虫剤を保持させた担体の端面から3mm程度の幅を占める部分のことをいう。また、担体外周部の開口部の割合(開口比率)は、かかる3mm程度の幅を占める担体の外周部全体に対して20%以上となるようにするのが好ましく、より好ましくは30%以上である。
なお、担体外周部の位置に設けた開口部とその他の位置に設けた開口部との比率や、開口部の形状などについては、適宜決定することができる。
【0015】
本発明の薬剤揮散体に用いられる薬剤容器の肉厚に関しては、使用される空間によって要求される容器の大きさや容器の強度などに応じて適宜決定されることになるが、0.2〜0.5mm程度の肉厚があれば十分な強度が確保されることから好適である。
【0016】
本発明に用いられる薬剤揮散体の形状や大きさについては特に限定されず、薬剤揮散体が使用される空間に応じて適宜決定されることになる。
なお、薬剤揮散体をクローゼットなどハンガーパイプに掛けられた衣料の間に吊るして使用する場合には、薬剤揮散体が収納空間内で無駄なスペースを取らないように、薬剤揮散体の形状を板状にしておくことが好ましい。
また、薬剤揮散体の形状を板状とした場合において、使用時に薬剤揮散体の開口部が衣料に挟まれて塞がれてしまうことが懸念される場合には、薬剤の揮散効率を向上させるために、開口部が設けられている面に衣料との隙間を作るための凹部や凸部を設けておくこともできる。
【0017】
本発明で用いられる常温揮散性防虫剤を保持させた担体とは、紙などからなる基材にピレスロイド系の防虫成分を含浸または練り込んだ担体のことである。
ここで、基材の材質としては、常温揮散性防虫剤を含浸または練り込むことができるものであれば特に限定されず、例えば、紙、パルプ紙、板紙、合成繊維混抄紙、不織布、織物、ポリオレフィン樹脂等が使用可能である。そして、この中でも防虫成分を含む薬液を特に多量に含浸させることができる点から、紙、パルプ紙、板紙等を用いることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる防虫成分としては、常温において防虫成分が揮散するものであれば各種のものが使用でき、特に限定されるものではないが、少量で十分な効力を有し、においがなく、人体に対する安全性が高いという点からピレスロイド系防虫剤を使用することが好ましい。
ここで、ピレスロイド系防虫剤としては、エムペントリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、テラレスリン、メトフルトリン等の化合物が常温揮散性の防虫剤として挙げられる。なお、これらの常温揮散性ピレスロイド系防虫剤については、各種の光学異性体または幾何異性体が存在するが、いずれの異性体類も使用することができる。
【0019】
なお、本発明に係る薬剤揮散体の製品1個当たりの有効成分使用量としては、防虫成分が、エムペントリンであれば50〜150mg、プロフルトリンであれば30〜100mgを上記の基材に含浸等させた担体を使用することで、1年間を通じて十分な防虫効果を発揮することができる。
そして、このような製品は、通常、市販されている衣装ケースであれば、十分な防虫効果を有する。なお、市販されている衣装ケースは内容積が30〜60L程度のものであるが、これ以上の内容積の衣装ケースに用いるのであれば、本発明に係る薬剤揮散体を複数個使用すればよいことになる。
【0020】
また、本発明の防虫成分には、各種の添加剤を使用してもよい。例えば、ヘキサン、パラフィン等の炭化水素系化合物や各種の石油系溶剤、各種の安定剤、忌避剤、抗菌剤、防黴剤、消臭剤、芳香剤、香料等を配合することができる。具体的には、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等の抗菌剤、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノール、オルソフェニールフェノール等の防黴剤、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α―ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香剤、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒドが配合されている香料などが挙げられる。
【0021】
さらに、薬剤揮散体には、薬剤の交換時期を知らせるためのインジケータを設けておくこともできる。具体的には、担体の一方の面にシリカまたは炭酸カルシウムなどを用いて防虫成分が含浸しない部分と防虫成分が含浸する部分を設けておき、防虫成分が揮散するのに伴い、防虫成分が含浸している部分の色が薄くなったり、模様が出てくるようしておくことで、担体の交換時期を表示させるものである。ここで、隠蔽層としては、例えば、無定形シリカ、カオリン、炭酸カルシウムなどの無機材料に適当な結合剤を添加したものを用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の請求項1に係る薬剤揮散体によれば、薬剤容器を、熱可塑性樹脂を用いつつ、熱板圧空成形によって薬剤容器を作製することで、以下の効果を得ることができる。
1)原料の使用量を大幅に削減することができる。加えて、薬剤容器に弾性を付与できることから薬剤容器の破損や割れを防止しつつ、薬剤容器の軽量化、薄板化を図ることができ、さらに薬剤容器の肉厚の均一化を図ることができる。
2)薬剤容器の肉厚を均一にできることから、本体部と蓋体部との連結方式に簡単な嵌合構造を採用することができ、従前のような複雑な構造を採用する必要がなくなるため部品点数を削減することができる。さらに、本体と蓋体を容易に分別廃棄することができる。
3)薬剤容器にフック部を形成した場合には、弾性を有することからポール等への係止が従前の薬剤揮散体に比べてより容易になる。
【0023】
本発明の請求項2に係る薬剤揮散体によれば、強度を保持しながら再生品のみで薬剤容器を作製することができる。
【0024】
本発明の請求項3に係る薬剤揮散体によれば、薬剤容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製し、かつ開口部を少なくとも薬剤容器に収納した担体の外周部の位置に設けることを特徴としているので、開口部の開口面積が理論値未満であっても防虫成分の十分な揮散効率を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の薬剤揮散体を示す模式図である。
【図2】本発明の薬剤揮散体を構成する本体部を示す模式図である。
【図3】本発明の薬剤揮散体を構成する蓋体部を表面から見た状態を示す模式図である。
【図4】本発明の薬剤揮散体を構成する蓋体部を裏面から見た状態を示す模式図である。
【図5】本発明の薬剤揮散体を構成する担体を示す模式図である。
【図6】本発明に用いられる薬剤容器の端部を示す模式図である。
【図7】従来の薬剤容器の端部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
図1は本発明の薬剤揮散体を示す模式図であり、図2は本発明の薬剤揮散体を構成する本体部を示す模式図であり、図3は本発明の薬剤揮散体を構成する蓋体部を表面から見た状態を示す模式図であり、図4は本発明の薬剤揮散体を構成する蓋体部を裏面から見た状態を示す模式図であり、図5は本発明の薬剤揮散体を構成する担体を示す模式図であり、図6は本発明に用いられる薬剤容器の端部を示す模式図であり、図7は従来の薬剤容器の端部を示す模式図である。
【0027】
最初に、図1〜図5において示した、薬剤揮散体1の基本的な構造について説明する。
薬剤揮散体1は、本体部2と蓋体部3からなる薬剤容器4と、常温揮散性防虫剤を含浸させた担体5によって構成されている。また、本体部2と蓋体部3はPET製のフィルムを用いて熱板圧空成形によって成形したものとなっている。
【0028】
次に、薬剤容器の構造について説明する。
本体部2は、揮散性防虫剤が保持された担体5を、薬剤容器4内において浮かせた状態で収納できるように突起部6が設けられた凹状の容器となっており、担体から防虫成分を揮散させるための開口部7が設けられているとともに、端部の全周は蓋体部3と嵌合するための雄型部8となっている。
蓋体部3についても、本体部2と同様に揮散性防虫剤が保持された担体5を、薬剤容器4内において浮かせた状態で収納できるように突起部6が設けられた凹状の容器となっており、担体から防虫成分を揮散させるための開口部7が設けられている。なお、蓋体部3には、薬剤の揮散効率を向上させるための凹部9が開口部と連通するように設けられている。また、蓋体部3の端部の全周は本体部2と嵌合するための雌型部10となっている。
さらに、薬剤容器4には、クローゼットなどに設けられているポール等に係止することができる係止部11や担体5の交換時期を表示するインジケータ部12が設けられている。
【0029】
次に、上記のように構成された薬剤揮散体1の使用状態を説明する。
【0030】
図1に示す通り、担体5を本体部2に収納し、蓋体部3を嵌合することによって薬剤揮散体1を作製し、係止部11によってクローゼット内のポールに係止されるなどして使用される。
ここで、図1に示すように、開口部7が担体5の外周部にも設けられていることから、開口部7の開口面積が理論値に未満である場合でも十分な防虫成分の揮散効率が確保されることになる。
また、本体部2と蓋体部3が熱板圧空成形によって成形されたものであることから、嵌合部分となる雄型部8と雌型部10の寸法精度を向上させることができる。その結果、図6に示すフランジ部13を図7に示す従来品のフランジ部14よりも小さくすることができ、デザイン性にも優れた薬剤揮散体とすることができる。
さらに、蓋体部3に設けられた凹部9によって、衣料との間に隙間が形成されることから、薬剤の揮散効率を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の具体的な効果を実施例と比較例とを対比させて詳しく説明する。
【0032】
(実施例1)
まず、以下の手順によって薬剤容器を作製し、かかる容器に防虫成分を保持させた担体を収納することで実施例1の薬剤揮散体を作製した。
【0033】
(薬剤容器の作製)
ポリエチレンテレフタレート樹脂のA−PETシートを、熱板圧空成形によって成形することによって、寸法が縦128mm×横100mm×幅8mm、肉厚が0.3mm、開口面積が15cm、担体外周部における開口部の割合が35.0%の図2に示す本体部と図4に示す蓋体部を作製した。作製した本体部および蓋体部の重量は、本体部が4.7g、蓋体部が4.5gであった。
【0034】
(薬剤揮散体の作製)
次に、縦57mm×横79mm×厚み1mm、表面積45cmのパルプ紙に防虫成分としてエムペントリン200mgを含浸させた担体を、上記にて作製した本体部に収納し、蓋体部で覆うことによって実施例1の薬剤揮散体を作製した。
【0035】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート樹脂のシートを再生品に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の薬剤揮散体を作製した。
【0036】
(実施例3〜5)
表1に記載の開口面積、担体外周部における開口部の割合にした以外は、実施例1と同様にして実施例3〜5の薬剤揮散体を作製した。
【0037】
(実施例6〜8)
本体部および蓋体部の寸法を縦128mm×横177mm×幅8mm、担体の表面積を90cmとし、表1に記載の開口面積、担体外周部における開口部の割合にした以外は、実施例1と同様にして実施例6〜8の薬剤揮散体を作製した。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同じポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、肉厚が0.3mmになるように射出成形にて比較例1の薬剤揮散体の作製を試みた。しかしながら、本体部および蓋体部の成形時に充填不良の部分が発生してしまい、薬剤容器自体の作製ができなかった。
【0039】
(比較例2)
実施例1と同じポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、肉厚が3mmになるように射出成形にて比較例2の薬剤揮散体を作製した。その結果、本体部および蓋体部の重量は、本体部が54g、蓋体部が52gとなり、実施例1に比べて材料であるPET樹脂が10倍も多く必要になるという結果となった。
【0040】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート樹脂に実施例2と同じ再生品を使用し、肉厚が3mmになるように射出成形にて比較例3の薬剤揮散体を作製した。
【0041】
(比較例4〜7)
表1に記載のようにした以外は、実施例1と同様にして比較例4〜7の薬剤揮散体を作製した。
【0042】
そして、これら実施例および比較例の薬剤揮散体について、防虫成分の揮散効率、実用性の評価を行った。
【0043】
(揮散効率の評価)
内容積が900Lで、かつ内容積の8割程度となるように衣料を入れたクローゼットを準備し、実施例および比較例の薬剤揮散体をクローゼットのハンガーパイプに設置した。試験開始6ヶ月後に、担体に残っているエムペントリンの量を測定し、揮散量を求め、防虫効果を発揮する為に必要とされる目標値に対する揮散量の割合を算出することで揮散効率を評価した。
【0044】
(防虫性能の評価)
内容積が900Lで、かつ内容積の8割程度となるように衣料を入れたクローゼットを準備し、実施例および比較例の薬剤揮散体をクローゼットのハンガーパイプに1個設置した。
【0045】
そして、試験開始6ヶ月後に、イガ幼虫各20匹を2cm角のウールモスリン布とともにアミカゴに入れたものを衣料の間に置き、置いてから1週間後のウールモスリン布の食害状況を観察することによって防虫効果を評価した。
具体的には、衣料の間5箇所のそれぞれ上部・中部・下部の3つの位置、計15箇所に、上記アミカゴを置き、置いてから1週間後のウールモスリン布の食害状況を観察することによって防虫性能を評価した。
なお、防虫性能は以下の基準で評価した。
○:(全く食害なし)
△:(わずかな食害あり)
×:(明らかに食害が認められる)
【0046】
(使用耐久性の評価)
防虫性能の評価試験と同様に内容積が900Lで、かつ内容積の8割程度となるように衣料を入れたクローゼットを準備し、実施例および比較例の薬剤揮散体をクローゼットのハンガーパイプに1個設置した。
そして、7日ごとに衣料の出し入れの作業を行い、設置後3ヶ月後の薬剤容器の状態を観察した。
【0047】
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
上記表1の結果から、熱板圧空成形によって薬剤容器を作製した実施例の薬剤揮散体は肉厚が薄いにもかかわらず、いずれも使用耐久性において問題がないことがわかった。特に、原料に再生品だけを使用した場合(実施例2)においても問題がないことがわかった。
また、薬剤容器の肉厚が薄いにもかかわらず、本体部と蓋体部の嵌合状態において問題がないこともわかった。
さらに、担体外周部に開口部を設けていることから、開口面積が理論値未満であっても十分な揮散効率および防虫性能を示すことがわかった。
【0050】
これに対し、比較例の薬剤揮散体は以下のような結果となった。
射出成形によって作製した比較例1〜5の薬剤揮散体は、まず、肉厚を実施例と同様の厚みにした場合(比較例1)には容器自体を作製することができなかった。
射出成形で薬剤容器の成形が可能となる、肉厚3mmの条件において作製した薬剤揮散体(比較例2、4、5)は、容器の重量が実施例に比べて10倍も多くなってしまった。
再生品だけを原料に薬剤容器を作製した薬剤揮散体(比較例3)は、長期の使用において容器の破損が発生した。
次に、真空圧空成形によって作製した比較例6,7の薬剤揮散体は、肉厚の寸法精度が悪いことから、本体部と蓋体部の嵌合構造に問題が生じやすくなり、表面積が90cmの担体を収納するような寸法の大きい薬剤容器を作製した場合(比較例7)には、嵌合不良が発生し、担体を収納することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の薬剤揮散体は、イガ、コイガ等の衣料害虫や蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除および忌避するために用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 薬剤揮散体
2 本体部
3 蓋体部
4 薬剤容器
5 担体
6 突起部
7 開口部
8 雄型部
9 凹部
10 雌型部
11 係止部
12 インジケータ部
13 フランジ部
14 フランジ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性防虫剤を保持させた担体を収納した薬剤揮散体であって、
前記薬剤容器を、
ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製したものであることを特徴とする薬剤揮散体。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、
再生ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤揮散体。
【請求項3】
前記薬剤容器を、
ポリエチレンテレフタレート樹脂を熱板圧空成形することによって作製し、
かつ前記開口部を少なくとも前記薬剤容器に収納した前記担体の外周部の位置に設けることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬剤揮散体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−39112(P2013−39112A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179974(P2011−179974)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】