説明

薬剤注入方法

【課題】 各薬剤成分を個別に注入するといった煩雑さを低減しつつも、注入する各薬剤成分量を適量に維持できる薬剤注入方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、ボイラ水の一部を蒸気として排出し一部をブローするように構成されたボイラ缶体と、該ボイラ缶体から排出された蒸気によって生成したドレン水を循環させて補給水とともに給水として利用する循環経路とを備えたボイラ装置に、複数のボイラ用薬剤成分を注入する薬剤注入方法であって、前記ボイラ用薬剤成分の内、前記補給水の供給量に応じて増加する不要成分と反応して消費される消費系成分群を、前記補給水の供給量に応じて注入し、それ以外の非消費系成分群を前記ブロー量に応じて注入し、且つ、少なくとも何れか一方の注入に、複数の成分が予め複合された複合薬剤を用いることを特徴とする薬剤注入方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレン水の循環経路を備えたボイラ装置に、複数のボイラ用薬剤成分を注入する薬剤注入方法に関する。特に、循環率が極めて高いボイラ装置に好適な薬剤注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラ装置内の腐食やスケール付着を防止するために、複数のボイラ用薬剤成分を注入することがなされている。そして、これらの薬剤成分を注入する方法としては、これらを個別に注入することが非常に煩雑であり注入装置の複雑化を招くことから、注入するすべての薬剤成分を所定割合に複合した複合薬剤を用いる方法が採用されている(下記特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−274427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蒸気によって生成したドレン水を循環させて給水として利用するボイラ装置に於いて、上記の如く、全ての薬剤成分を複合した複合薬剤を用いた場合には、以下の如き問題点が生じることとなる。
即ち、薬剤成分の内、硬度分散剤などの如く、補給水に含まれる不要成分(例えば、カルシウム等の金属成分)に反応して消費される消費系成分群は、補給水の供給量に応じて注水することにより適量を注水することができるが、pH調整剤などの非消費系成分群は、ボイラ水に維持されることから、上記の如き複合薬剤を補給水量に応じて注入しつづけると、非消費系成分群の濃度が必要以上に高くなり、逆に腐食を招くこととなる。
【0005】
従って、各薬剤成分を個別に管理しそれぞれ個別に注入するといった煩雑さを解消しつつも、注入する各薬剤成分量を適量にすることのできる方法が要望されるところである。
本発明は、上記問題点及び要望に鑑み、各薬剤成分を個別に注入するといった煩雑さを低減しつつも、注入する各薬剤成分量を適量にすることのできる薬剤注入方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明は、ボイラ水の一部を蒸気として排出し一部をブローするように構成されたボイラ缶体と、該ボイラ缶体から排出された蒸気によって生成したドレン水を循環させて補給水とともに給水として利用する循環経路とを備えたボイラ装置に、複数のボイラ用薬剤成分を注入する薬剤注入方法であって、前記ボイラ用薬剤成分の内、前記補給水の供給量に応じて増加する不要成分と反応して消費される消費系成分群を前記補給水の供給量に応じて注入し、それ以外の非消費系成分群を前記ブロー量に応じて注入し、且つ、少なくとも何れか一方の注入に、複数の成分が予め複合された複合薬剤を用いることを特徴とする薬剤注入方法を提供する。
斯かる薬剤注入方法においては、消費系成分群及び非消費系成分群の少なくとも何れか一方の注入に、複合薬剤を用いることから、すべてを個別に注入する場合に比して煩雑さを低減できる。
また、消費系成分群を補給水の供給量に応じて注入することから、該消費系成分群を適量とすることができる。また、非消費系成分群をブロー量に応じて注入することから該非消費系成分群をも適量とすることができる。
即ち、非消費系成分群は、主にブローによって系外に排出されることとなるため、このブロー量に応じて非消費系成分群を注入することにより、同様に非消費系成分群も適量注入することができる。
【0007】
本発明に於いては、前記消費系成分群が、少なくとも、前記補給水に含まれる金属成分を分散させる硬度分散成分と、前記補給水に含まれるMアルカリ成分が前記ボイラ装置内で分解することにより発生する炭酸ガスを中和する炭酸ガス中和成分とを含むものが好ましい。
また、本発明に於いては、前記非消費系成分群が、少なくとも、前記ボイラ水のpHを調整するpH調整剤と、前記ボイラ装置内部に皮膜を形成する皮膜形成剤とを含むものが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、各薬剤成分を個別に注入するといった煩雑さを低減しつつも、注入する各薬剤成分量を適量とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に於いてボイラ用薬剤成分が注入されるボイラ装置を示す概略模式図である。
【0010】
図1に示すように、前記ボイラ装置は、内部に存在するボイラ水の一部を蒸気として排出し一部をブローするように構成されたボイラ缶体2と、該ボイラ缶体2から排出された蒸気の一部によって生成したドレン水Cを循環させて、補給水Aとともに給水Bとして利用する循環経路3とを備えている。
【0011】
前記ボイラ缶体2は、ボイラ水を貯留する缶体本体と貯留されたボイラ水を加熱する加熱手段とを備え(図示せず)、該加熱手段の加熱によって蒸気を生成し、生成した蒸気を排出しうるように構成されている。
更に、前記ボイラ缶体2は、蒸気の排出によってボイラ水中に含まれる不純物の濃度が上昇することから、不純物濃度を所定の範囲に保つべく、不純物が濃縮された水Eをブローしうるように構成されている。
ここでは、ブローによってボイラ水の電気伝導度が所定以下(例えば、450mS/m以下)に維持されるように設定されている。
【0012】
前記循環経路3は、蒸気及びドレン水Cが流れるドレン水配管3aと、該ドレン水Cと補給水Aとの混合水である給水Bが流れる給水配管3cと、該ドレン水配管3aと給水配管3cとの間に介装され、ドレン水Cと補給水Aとが供給されて給水Bとして貯留する給水タンク3bとを備えている。
【0013】
前記補給水Aは、水道水F等が軟水器4等によって軟水化され、更に、必要に応じて脱気されてから補給水ポンプ7を介して前記給水タンク3bに供給されるようになっている。
【0014】
本実施形態のボイラ装置は、更に、複数のボイラ用薬剤成分を給水タンク3bに供給しうるように構成されている。即ち、前記補給水量に応じて増加する不要成分(不純物)との反応により消費される消費系成分群を貯留し供給する消費系成分群供給手段5と、その他の非消費系成分群を貯留し供給する非消費系成分群供給手段6とを備えている。
【0015】
前記消費系成分群供給手段5は、該成分群の複合薬剤液を貯留する貯留部5aと、補給水量に関連する情報を入手し、入手した情報による補給水量に応じて給水タンク3b内に貯留部5aから薬液を注入するように制御する制御部5bとを備えている。
尚、補給水量は、例えば、供水タンク3b内に配された水位センサー(図示せず)から水位情報を得て、この水位情報に基づいて調整されるようになっている。
前記非消費系成分群供給手段6は、例えば、該成分群の複合薬剤液を貯留する貯留部6aと、ブローラインに配された流量計等からブロー量に関連する情報を入手し、入手した情報に応じて貯留部6aから給水タンク3b内に非消費系成分群の薬液を注入するように制御する制御部6bとを備えている。
尚、ブロー量は、例えば、濃度センサー(図示せず)から缶体2内の水に含まれる所定不純物(例えば、金属イオン)の濃度情報を得て、この濃度情報に基づいて調整されるようになっている。
【0016】
本実施形態に用いられるボイラ装置は上記の通りであるが、次ぎに、本実施形態の薬剤注入方法について説明する。
上記の如きボイラ装置の稼働時に於いては、蒸気として排出され且つドレン水Cとして回収されない水Dの量及びブロー量に応じて給水タンク3bの水位が低下することから、給水タンク3bの水位に基づいて補給水Aが供給されることとなる。
ここで、本実施形態に於いては、この補給水量の情報を入手し、入手した情報による補給水量に応じて消費系成分群供給手段5から該成分群の複合薬液を給水タンク3b内に注入する。更に、ブロー量の情報を入手し、入手した情報によるブロー量に応じて非消費系成分群供給手段6から該成分群の複合薬液を注入する。
【0017】
前記消費系成分群としては、補給水A中の酸素量を低減させる脱酸素成分、金属成分を分散させる硬度分散成分、金属成分をスラッジ化させる硬度スラッジ化成分、スラッジをボイラ水中に分散させスケール付着を防止するスラッジ分散成分、炭酸ガスを中和させる炭酸ガス中和成分のうちの2種以上含むものを採用することができる。
好ましくは、少なくとも硬度分散成分及び炭酸ガス中和成分を含むものを採用することができる。
【0018】
前記脱酸素成分は、補給水Aに溶存している不要成分たる酸素を除去するものである。即ち、水に溶存している酸素は、酸化剤として機能し、ボイラ装置内部(例えば缶体2内部、水管内部、ドレン水配管3a内部等)、特に伝熱面を腐食させるものであるが、前記脱酸素成分は、このような溶存酸素を除去して、ボイラ装置内部の腐食を防止するものである。
前記脱酸素成分としては、例えば、ビタミンC、ビタミンCの塩、タンニン、糖類型脱酸素剤、エリソルビン酸、エリソルビン酸塩、亜硫酸塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上用いることができる。
好ましくは、ビタミンC及びビタミンCの塩の少なくとも一方を用いることができる。
【0019】
前記硬度分散成分は、補給水Aに含まれるマグネシウムイオン、カルシウムイオン等の不要成分たる金属成分と反応して該金属成分を分散状態で維持させて、ボイラ装置内部に於けるスケール形成を防止するものである。
前記硬度分散成分としては、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸及びそれらの塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
好ましくは、エチレンジアミン四酢酸及びその塩の少なくとも一方を用いることができる。
前記硬度分散剤として、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸又はその塩(EDTA−Na)が用いられた場合には、補給水Aに含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオンがキレート化され、ボイラ装置の内部表面に対してスケールが付着されにくくなる。また、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸又はそれらの塩などが用いられた場合には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンによって形成されたスケールの結晶核の成長が妨げられ、スケールが付着しにくくなる。
このような硬度分散剤を用いることにより、ボイラ装置の内部表面に於けるスケール付着を防止でき、例えば、ボイラの伝熱効率を維持して運転することができる。
【0020】
前記硬度スラッジ化成分は、ボイラ水中の濃縮されたマグネシウムイオン、カルシウムイオン等の不要成分たる金属成分と反応し、浮遊性のスラッジを形成し、ボイラ装置外に排出しやすくするものである。
前記硬度スラッジ化成分としては、リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等からなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることができ、好ましくは、リン酸ナトリウムを用いることができる。
【0021】
前記スラッジ分散剤成分は、不要成分たるスラッジと反応して該スラッジをボイラ水中に分散させ、ボイラ装置外に排出しやすいようにするものである。
前記スラッジ分散剤成分としては、タンニン、リグニン、デンプン等からなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
前記炭酸ガス中和成分は、補給水A中に含まれるMアルカリ成分がボイラ装置内で分解することによって発生する不要成分たる炭酸ガスを中和して、ボイラ装置内部、特にドレン水Cの配管3a内部の腐食を防止するものである。
ここで、前記Mアルカリ成分とは、補給水Aに溶存する炭酸水素塩及び炭酸塩としてのアルカリ成分を意味するものである。
前記炭酸ガス中和成分としては、モルホリン、シクロヘキシルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノエタノール等からなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることができ、好ましくは、モルホリン又は2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを用いることができる。
【0023】
前記非消費系成分群としては、ボイラ水のpHを上昇させるpH調整成分、ボイラ装置内に皮膜を形成する皮膜形成成分を含むものとすることができる。
【0024】
前記pH調整成分は、ボイラ水のpHをアルカリ側(通常、pH11.0〜11.8)に調整するものである。該pH調整成分によれば、ボイラ水が酸性であることに起因するボイラ装置内部の腐食が防止されることとなる。
前記pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などを1種又は2種以上用いることができる。
【0025】
前記皮膜形成剤は、ボイラ装置の内部表面、特に水管や缶体2等の伝熱面などに腐食に対する保護皮膜を形成して、内部の腐食を防止するものである。
前記皮膜形成剤としては、シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、オルトケイ酸塩、ポリケイ酸塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
好ましくは、シリカ(無水ケイ酸)又はケイ酸ナトリウムを用いることができる。
【0026】
本実施形態に於いて、補給水量に応じて消費系成分群を注入する方法としては、例えば、補給水量を調整する補給水ポンプから補給水量に関連する情報(補給水量情報)を受信し、この情報に基づき所定量の消費系成分群の薬液を注入させる方法を採用することができる。
また、ブロー量に応じて非消費系成分群を注入する方法としては、例えば、ブローラインに配された流量計からブロー量に関連する情報(ブロー量情報)を受信し、この情報に基づき所定量の非消費系成分群の薬液を注入させる方法を採用することができる。
【0027】
注入量として具体的には、例えば、前記消費系成分群としてモルホリン及びEDTAを含む複合薬剤を注入する場合においては、補給水量1L当たりモルホリンが10〜100mg(EDTAが40〜600mg)となる量とすることができる。
また、例えば、前記非消費系成分群として水酸化ナトリウム及びシリカを含む複合薬剤を注入する場合においては、ブロー量1L当たり水酸化ナトリウムが40〜400mg(シリカが10〜600mg)となる量とすることができる。
【0028】
本実施形態の薬剤注入方法は、上記の通りであるが、本発明に於いては、本発明の意図する範囲内に於いて適宜設計変更可能である。
例えば、本実施形態に於いては、補給水量に応じて消費系成分群を注入する方法として例えば、補給水量を調整する補給水ポンプから補給水量に関連する情報として、補給水量情報を入手し、この情報に基づき所定量の消費系成分群の薬液を注入させる方法を採用したが、本発明に於いては、水位センサーなどから補給量に関連する情報として水位情報などを入手し、この情報に基づき所定量の消費系成分群の薬液を注入させる方法を採用してもよい。
同様に、ブロー量に応じて非消費系成分群を注入する方法としても、例えば、濃度センサーなどからブロー量に関連する情報として濃度情報などを受信し、この情報に基づき所定量の非消費系成分群の薬液を注入させる方法を採用してもよい。
【0029】
また、本発明に於いては、注入される消費系成分群に属する成分全てが複合薬剤として注入される必要はなく、一部が個別に注入される場合であってもよい。尚、この点は、非消費系成分群に属する成分において同様である。
【0030】
更に、本発明に於いては、必ずしも消費系成分群の注入及び非消費系成分群の注入の双方に複合薬剤を用いる必要はなく、何れか一方の注入にのみ複合薬剤を用いる場合であっても本発明の意図する範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】一実施形態の薬剤注入方法において用いるボイラ装置を示す概略模式図。
【符号の説明】
【0032】
2・・・ボイラ缶体、 3・・・循環経路、
A・・・補給水、 B・・・給水、 C・・・ドレン水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ水の一部を蒸気として排出し一部をブローするように構成されたボイラ缶体と、該ボイラ缶体から排出された蒸気によって生成したドレン水を循環させて補給水とともに給水として利用する循環経路とを備えたボイラ装置に、複数のボイラ用薬剤成分を注入する薬剤注入方法であって、
前記ボイラ用薬剤成分の内、前記補給水の供給量に応じて増加する不要成分と反応して消費される消費系成分群を、前記補給水の供給量に応じて注入し、それ以外の非消費系成分群を前記ブロー量に応じて注入し、且つ、少なくとも何れか一方の注入に、複数の成分が予め複合された複合薬剤を用いることを特徴とする薬剤注入方法。
【請求項2】
前記消費系成分群が、少なくとも、前記補給水に含まれる金属成分を分散させる硬度分散成分と、前記補給水に含まれるMアルカリ成分が前記ボイラ装置内で分解することにより発生する炭酸ガスを中和する炭酸ガス中和成分とを含む請求項1記載の薬剤注入方法。
【請求項3】
前記非消費系成分群が、少なくとも、前記ボイラ水のpHを調整するpH調整剤と、前記ボイラ装置内部に皮膜を形成する皮膜形成剤とを含む請求項1又は2記載の薬剤注入方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−281228(P2008−281228A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123396(P2007−123396)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】