説明

薬剤注入装置

【課題】アスベスト層等に薬液を効率良く注入することができる薬剤注入装置を提供する。
【解決手段】円筒形の曲面部分外側に、円筒の回転軸から放射状に注入針を配置し、注入針の挿入から薬液注入、注入針引抜の工程を、当該円筒の回転により連続的に行うことができる薬剤注入装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入針により、アスベスト層等に薬液を効率良く注入することができる薬剤注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストを含む各種製品は、長年、断熱材として重用されてきた。なかでも、アスベストにセメント(バインダー)を配合してなるアスベスト含有セメント硬化体は、施工性に優れることから、主に建築物の壁や天井の断熱材等として多用されてきた。
しかし、近年、アスベストに起因する呼吸器障害や呼吸器疾患が顕在化するに至り、アスベストの使用が禁止されるとともに、既設のアスベストの早期除去が緊急の社会的課題になってきている。
【0003】
アスベスト含有セメント硬化体の除去方法としては、アスベスト含有セメント硬化体に薬剤等を吹付けて湿潤状態にし、アスベストの飛散を防止して除去する湿式除去工法等が実施されている。しかしながら、アスベスト表面に薬剤等を吹付ける場合、単に表面側だけに吹付けるだけでは、アスベスト層内へ薬剤が浸透せず、十分湿潤状態にすることができない。
【0004】
アスベスト層内に注入針を用いて液剤を注入し、薬剤をアスベスト層内に浸透せしめる方法も検討されている。例えば、特許文献1では、効率的にアスベスト層への薬剤浸透を行うことのできるノズル装置が提案されている。
しかしながら、このようなノズル装置を用いても、広範囲のアスベスト層への薬剤浸透を効率的に行うには、十分満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平2−237664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、アスベスト層等に薬液を効率良く注入することができる薬剤注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、円筒形の曲面部分外側に放射状に注入針を配置し、円筒の回転により連続的に薬液を注入すれば、薬剤を効率良く注入できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、円筒形の曲面部分外側に、円筒の回転軸から放射状に複数の注入針を配置し、注入針の挿入から薬液注入、注入針引抜の工程を、当該円筒の回転により連続的に行うことができる薬剤注入装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の薬剤注入装置は、注入針により、アスベスト層等に薬液を効率良く注入することができる。アスベスト層への薬液注入のほか、地盤改良の際の薬液注入等、広範囲への薬液注入に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の薬剤注入装置の一例を図1に示す。本発明の薬剤注入装置は、円筒形の曲面部分外側に、円筒の回転軸から放射状に複数の注入針を配置したものである。
また、注入針の一例を図2に示す。注入針は、長軸に対して法線方向に薬液を吐出することのできる吐出口を有するものであれば良く、特に吐出口を複数有するものであれば、より効率良く薬液を注入することができ好ましい。また、注入針における吐出口の位置は、制限されないが、先端の場合には、深い位置まで薬液を注入することができる。
【0010】
注入針の長さ、太さ等は特に制限されず、注入対象の硬さによる挿入抵抗に耐え得る強度、注入深さ、薬液の注入量から必要な内径等種々の条件を満足させるよう、長さや太さを決定すればよい。また、注入針が注入装置の回転駆動力を与える機能も有しているので、注入作業時に注入針が折れない強度についても、十分考慮する必要がある。
例えば、アスベスト含有セメント硬化体に薬液を注入する場合、注射針の長さは20〜50mm程度、太さは2〜10mm程度のものを用いるのが好ましい。
【0011】
注入針の配列方法は特に制限されず、等間隔で配列させても良く、ランダムに配列させても良い。また、各注入針の長さ、注入針における吐出口位置を変えることにより、任意の深さに薬液を注入させることもできる。
【0012】
本発明の薬剤注入装置は、円筒形の曲面外周部に放射状に取り付けられた注入針の円筒の軸に対して、水平方向に並んで配置された注入針の任意の列より薬液を吐出できる構造を有する。薬液は、複数種を、任意の列より吐出させることもできる。
薬液は、ステンレス製加圧圧送タンクにストックされ、エア圧力により一定圧力で圧送タンクよりチューブを通って注入装置へと供給される。注入装置では、薬液供給部に設置されたチューブコネクタを介して供給された薬液が、注入装置本体部、円筒部の回転軸水平方向に設けられた配液管を通り、注入針に導入される。なお、薬液供給部と注入装置本体の摺動部には、薬液漏れを防止するためにOリングを設置しても良い。
【0013】
また、装置に入った薬液を完全に吐出させるため、注入針の任意の列より薬液を吐出した後、同任意の列よりエアパージすることにより、装置に入った薬液を完全に吐出させるのが好ましい。
【0014】
本発明の薬剤注入装置は、図3に示すように、円筒形の平面部分両端で、円筒軸の延長上同心軸に、円形ディスクを配置することができる。例えばアスベスト含有セメント硬化体に薬液を注入するような場合、注入対象であるアスベスト含有セメント硬化体は比較的柔らかく、吹付けられた駆体は硬い場合が多い。そこで、円形ディスクの外径を注入針の先端部の回転直径と同等若しくはそれ以上にすることにより、想定以上の力で注入対象に注入装置を押し付けたときに、注入針と駆体が接する前に円形ディスクが駆体に接することにより、注入針の曲がりや破損を防止することができる。
また、円形ディスクの外径と注入針の吐出口の位置を適切に設定し、円形ディスクを常に駆体に接するように注入作業を実施すると、設計値どおりの深さに薬液を注入することができる。
注入装置への回転力は通常注入針と注入対象の摩擦力で発生させるが、円形ディスクを配置することにより、円形ディスクと注入対象や駆体との摩擦力により、注入装置の回転駆動力を発生させることができる。さらに、円形ディスクは、先端に滑り止め防止機能を有するのが好ましい。
【0015】
また、本発明の薬剤注入装置は、注入装置や注入面からたれ落ちた薬液を受けるトレイを有することもできる。
【0016】
本発明の薬剤注入装置は、図4に示すように、円筒形の側面外周部にスクレーパーを有することができ、注入対象が駆体から剥がれた際に注入針と注入針の間に固着するのを防止できるので好ましい。
スクレーパーは、図5に示すように、注入針とスクレーパーの角度が常に45°以上になるよう配置するのが、剥がれた注入対象が、注入針とスクレーパーやスクレーパーに設けられたスリットに挟まるのを防止できるので好ましい。また、図6に示すように、スクレーパーのスリット両端の幅が中央部より広くなっているのが、注入針の若干の曲がりが発生したり、注入装置の組立精度を高精度にしなくても、スリット両端の広くなっている部分が案内ガイドとなり、曲がった注入針を狭いスリット部へ案内してくれるので好ましい。
【0017】
本発明の薬剤注入装置は、図7に示すように、注入装置本体部と薬液供給部の配管径が、注入装置本体部よりも薬液供給部との摺動部側の配管径が細いのが、薬液が漏れることなく注入針に供給されるので好ましい。
また、薬液供給部の反対側に反力部を有するのが、薬液の圧力により、薬液供給部と摺動部のクリアランスが広がるのを防止できるので好ましい。
【0018】
本発明の薬剤注入装置は、円筒を回転させることにより、注入針の挿入、薬液注入、注入針引抜きの工程を連続的に行うことができる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0020】
実施例1
天井梁部分に施工された吹付けアスベスト層を対象とし、本発明の薬剤注入装置を用いた注入工法、及び既存のJPI工法により、アスベスト層除去試験を行った。梁の底版部分を天井部、梁の側面部分を壁部分と想定した。底版部分の厚さは30mm、側面部分の厚さは10mmである。
【0021】
注入工法では、図7に示す薬剤注入装置を用い、アスベスト層に薬液を注入した。また、JPI工法では、薬液をエアレススプレーで均等に噴霧した。いずれの工法においても、薬液として、アスベスト除去剤である5質量%硝酸水溶液を、1.1kg/m2となる量で用いた。注入又は噴霧作業の開始から終了までの時間を、ストップウオッチにより測定した。
【0022】
薬液の注入又は噴霧し、15分間放置した後、スクレイパーによる除去作業を行った。スクレイパーによる除去作業の開始から終了までの時間、及びブラシなどによる仕上げ作業開始から終了までの時間を、ストップウオッチにより測定した。
これらの作業を、天井部(0.74m2)及び壁部(1.0m2)に対して行い、その結果を、表1及び表2に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表1及び表2の結果より、本発明の薬剤注入装置を用いた場合には、既存工法に比べ、各作業時間が短縮された。特に、注入・散布時間及びケレン作業時間において、時間短縮効果が大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の薬剤注入装置の一例を示す全体斜視図である。
【図2】本発明の薬剤注入装置に配置される注入針の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の薬剤注入装置に配置されるディスクの一例を示す図である。
【図4】スクレーパーを配置した本発明の薬剤注入装置の一例を示す図である。
【図5】スクレーパーを配置した本発明の薬剤注入装置の一例を示す図である。
【図6】スクレーパーのスリットを示す図である。
【図7】薬液供給部と摺動部側の配管を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の曲面部分外側に、円筒の回転軸から放射状に複数の注入針を配置し、注入針の挿入から薬液注入、注入針引抜の工程を、当該円筒の回転により連続的に行うことができる薬剤注入装置。
【請求項2】
注入針が、長軸に対して法線方向に薬液を吐出することのできる吐出口を複数有するものである請求項1記載の薬剤注入装置。
【請求項3】
円筒形の曲面外周部に放射状に取り付けられた注入針の円筒の軸に対して、水平方向に並んで配置された注入針の任意の列より薬液を吐出できる構造を有する請求項1又は2記載の薬剤注入装置。
【請求項4】
円筒形の曲面外周部に放射状に取り付けられた各注入針の長さ、吐出口位置を変えることにより、任意の深さに薬液を注入させる請求項1〜3のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項5】
円筒形の曲面外周部に放射状に取り付けられた注入針の円筒の軸に対して、水平方向に並んで配置された注入針の任意の列より、複数種の薬液を吐出することができる請求項1〜4のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項6】
円筒形の曲面外周部に放射状に取り付けられた注入針の円筒の軸に対して、水平方向に並んで配置された注入針の任意の列より薬液を吐出した後、同任意の列よりエアパージすることにより、装置に入った薬液を完全に吐出させる請求項1〜5のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項7】
円筒形の平面部分両端で、円筒軸の延長上同心軸に、円形ディスクを配置した請求項1〜6のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項8】
円筒形の平面部分両端で、円筒軸の延長上同心軸に、先端に滑り止め防止機能を有する円形ディスクを配置した請求項1〜7のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項9】
注入装置や注入面からたれ落ちた薬液を受けるトレイを有する請求項1〜8のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項10】
円筒形の側面外周部にスクレーパーを有する請求項1〜9のいずれか1項記載の薬剤注入装置。
【請求項11】
スクレーパーを、注入針とスクレーパーの角度が常に45°以上になるよう設置した請求項10記載の薬剤注入装置。
【請求項12】
スクレーパーのスリット両端の幅が中央部より広くなっている請求項10又は11記載の薬剤注入装置。
【請求項13】
注入装置本体部よりも薬液供給部との摺動部側の配管径が細い請求項12記載の薬剤注入装置。
【請求項14】
薬液供給部の反対側に反力部を有する請求項1〜13のいずれか1項記載の薬剤注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−36498(P2008−36498A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212266(P2006−212266)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【Fターム(参考)】