説明

薬剤溶出ステント

【課題】血管平滑筋細胞の増殖を効率よく防止でき、再狭窄を長期に渡って抑制し抗血栓性を付与することができるステントを提供する。
【解決手段】体温でゴム状エラストマーの柔軟な生分解吸収性ポリマーがステント表面に均一にコーテイングされ、そこから数ヶ月間にわたってエピガロカテキンガレート(EGCG)が徐放されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮的冠動脈形成術等の後の再狭窄を長期間にわたって効率的に抑止するための薬剤溶出ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心臓の筋肉に栄養を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりする狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は薬物療法、冠動脈バイパス術および経皮的冠動脈形成術(PTCA)によって治療が行われている。この治療でチタンなどの金属製ステントが多く用いられている。このステントは直径2〜3mm、長さ13〜28mmの網目状の筒のことである。
【0003】
これは、足の付け根から血管内にカテーテルを挿入し、狭くなった血管を内側からバルーンで押し広げ、再び狭くなることを防ぐために使われている。このステントは1990年代に世界的に普及し多くの患者に恩恵を与え社会復帰できたものの、術後数年後には30〜50%の頻度で再狭窄が生じ、再手術を余儀なくされている。
【0004】
再狭窄を防止する対策の一つとして、必要とされる時期に生物学的生理活性物質を放出し、なおかつ生分解性高分子が生体内で分解して金属薄膜表面を有するステント本体が露出した場合、前記金属薄膜表面が、血管平滑筋細胞の粘着を抑制することを目的とし、種々の生物学的生理活性物質、例えば抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質の徐放を試みている特許が知られている(特許文献1)。
【0005】
また、茶葉等に含まれるカテキン類には、抗酸化作用(Khsan S.G.,et al.,Cancer Res,52,4050(1992))、抗変異原性(Okuda T.,et al.,Chem.Pharm.Bull,32,3755(1984))、抗プロモーション活性(Yoshizawa S.,Phythotherapy Res.,1,44(1987))などと共に血管平滑筋細胞の増殖を抑える作用があることが報告されている(Liang−HueiLu,Shoei−Sheng Lee and Huei−Chen Huang,British Journal of Pharmacology,124,1227−1237(1998))。これらの知見を基に、カテキンをステントの再狭窄防止に応用する試みがされた(特許文献2)。
【0006】
しかし、臨床の現場においてカテキン類を用いて再狭窄を抑止する手段は、いまだに成功していない。
【0007】
更に、カテキン類を含有する生分解性材料から構成されている血管内治療用材料、および、前記血管内治療用材料と、前記血管内治療用材料を保持する保持体とを備える血管内治療用器具が提案されている(特許文献3)。
【0008】
しかし、カテキン類は熱に対して極めて不安定で生分解性ポリマー例えばポリ乳酸を繊維状に成形する際、熱溶融成型されるのでその殆どが分解され活性を失ってしまう。
【0009】
薬剤溶出ステント用のポリマーとして非吸収性ポリマーを用いる場合、薬剤放出後も永久に体内に残存し、この残存ポリマーが将来炎症を惹起し、遠隔期における再狭窄やステント血栓症の要因となりうる。このような危惧をなくす目的で、スタチン系薬剤であるbiolimusを添加した生分解吸収性ポリマーのポリ乳酸をステントにコーテイングした研究が報告されている(非特許文献1)。この論文では、ブタ冠動脈を用いた検討においてbiolimus溶出ステント留置1ヶ月後にはポリ乳酸が完全に消失し、ステントストラット周囲に炎症は認められず、血管表面は完全に内膜化していたようである。しかし、ポリ乳酸が1ヶ月で分解吸収されるはずはなく、1ヶ月の短期間での検討しかされていない。
【0010】
一方、現在臨床で使用されているステントのほとんどは金属製であるが、冠動脈ステントの歴史は20年未満と浅く、体内に永久的に残留する金属製ステントの過大評価を危惧する声もある。実際、動脈ステントは手術後6〜9ヶ月間のみステントの機能を保持すれば、その後は生体内に不要の異物となるため、半永久的に残留することは望ましくない。
【0011】
1990年、米国のデューク大学は、必要な期間のみステントの機能を保持した後、体内に完全に分解吸収されるステントを開発し、イヌの動脈に応用した報告を行った。その後も生体内分解吸収性ステントの有用性や可能性が報告され、また、少ないながら臨床応用の報告もあるが、金属製ステント同様に再狭窄を惹起することがあるため、未だに広く使用されるには至っていない。
【特許文献1】特開2005−168937
【特許文献2】米国特許US 6,214,868 B1
【特許文献3】特開2002−85549
【特許文献4】国際公開WO2004/080521
【特許文献5】特開2006−335695
【特許文献6】特許2961287
【非特許文献1】Honda H.et al,Everoliums−eluting stents significantly inhibit neointimal hyperplasia in an experimental pig coronary model.Am.J Cardio.2002;90:72H.
【非特許文献2】D.−W.Han,H.H.Cho,K.Matsumura,J.−C.Park,H.S.Baek,H.R.Lim,M.H.Lee,Y.I.Woo,S.−H.Hyon,“Attenuated Proliferation and Migration of Rat Aortic Smooth Muscle Cells into Epigallocatechin−3−O−gallate−Loaded Collagen Matrices”,Biomaterials Research,10(1),36−42(2006).
【非特許文献3】D.−W.Han,H.R.Lim,H.S.Baek,M.H.Lee,S.J.Lee,S.−H.Hyon, J.−C. Park, “Inhibitory effects of epigallocatechin−3−O−gallate on serum−stimulated rat aortic smooth muscle cells via nuclear factor− κ B down−modulation”,Biochemical and Biophysical Research Communications,345(1),148−155(2006).
【非特許文献4】D.−W.Han,H.H.Cho,D.−Y.Jung,J.J.Lee,K.Matsumura,J.−C.Park,S.−H.Hyon,“Vascular Smooth Muscle Cell Behaviors Onto Epigallocatechin Gallate−Blended L−Lactide/ ε −Caprolactone Copolymers”, Key Engineering Materials,342−343(2007),189−192.
【0012】
一方、(特許文献4)の実施例11には、「ステンレススチール製のステント本体にタクロリムスを重量比として20%混合させたPL/GA比75/25のポリ乳酸−グリコール酸共重合体をスプレー塗布した。」との記載がある。この特許では、金属製のステント薬剤を含有した生分解性のポリ乳酸をコーテイング材として用いているが、ポリ乳酸のガラス転移点は60℃で体温より高いため、ステントがバルーンで拡張した際、亀裂が入ること、また、薬剤が初期に大量に放出されるバースト現象が起こること、などの欠点がある。
【0013】
また、(特許文献5)には、静脈グラフトをEGCG溶液に浸漬することで内膜肥厚を抑制できることが示されているがステントへの応用は開示されていない。更に、(特許文献6)には、ポリグリコール酸モノフィラメントを編成して得られるステントが示されているが、この特許はステント本体が生分解性のポリマーから構成されており、ポリマーとしてポリ乳酸あるいはポリグリコール酸のように、ステントとして要求される形状維持のためのいわゆる硬いポリマーが使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、効率的かつ確実に血管平滑筋細胞の増殖を顕著に抑えることによって、PTCA後の再狭窄を防止することができる血管内治療用器具を臨床の場に提供することに主たる目的がある。
【0015】
本発明者らは、マウス線維芽細胞由来L929細胞およびブタ肝細胞を緑茶カテキンで処理することで、細胞分裂を一旦停止させ、またその洗浄により増殖を再開させることが可能であることを数年前に発見した。フローサイトメトリーを用いた詳細な検討より、カテキンを投与することによりS期、M期の細胞の減少とともにG0/G1期の細胞が増加し、洗浄後は徐々にSおよびM期の細胞が増加してくることが確認された。
【0016】
この細胞増殖抑制作用に着目し、心臓血管外科分野における冠動脈バイパスグラフト手術時の内膜肥厚防止作用について検討した。虚血性心疾患に対する外科治療は、1960年代初頭に初めて冠動脈バイパス手術が行われて以来発達し、これまでに確立されてきた。
【0017】
冠動脈バイパス術に使用される大伏在静脈グラフトは、術後10年以内にその40〜50%が閉塞もしくは高度の狭窄を来すとされ、その原因は新生内膜肥厚により静脈グラフト内腔に瀰漫性の変化が起こるためである。新生内膜肥厚は、移植静脈グラフトの採取時における手術手技による機械的ストレスおよび移植後の動脈圧負荷にさらされることによるストレスから平滑筋細胞が増殖することにより起こる。このようなグラフト移植後の狭窄を予防するためには、内膜肥厚を抑制する薬物療法が理想であるが、現時点では有効な薬物療法は確立されていない。
【0018】
研究としては、静脈グラフト採取時および移植後の平滑筋細胞のMitogen−Activated Protein Kinase(MAPK)シグナル伝達が活性化することで増殖のスイッチが入ることから、MAPK抑制剤を局所的あるいは全身的に投与するものがある。しかし、この合成阻害剤では非可逆的にMAPKシグナルを完全に遮断するため、予期不可能な合併症の可能性などの問題点がある。
【0019】
そこで、緑茶カテキンの主成分の一つであるエピガロカテキンガレート(EGCG)の細胞増殖抑制作用が内膜肥厚を防止するのではないかと期待し、次の実験を行った(特許文献5)。
【0020】
ウサギ総頚動脈を、同側の外頚静脈にて置換し、静脈グラフトモデルとし、外頚静脈採取後のEGCG処理による内膜肥厚抑制作用について検討した。採取した外頚静脈を、生理食塩水に1時間浸漬した後に移植したコントロール群、EGCG1mg/mL溶液に1時間浸漬した後に移植したEGCG1mg群、EGCG0.1mg/mL溶液に1時間浸漬した後に移植したEGCG0.1mg群の3群に分け検討した(各群それぞれn=8)。移植後3週目に犠牲死とし、組織学的に内膜肥厚抑制効果を評価した。
【0021】
移植3週目に各群の静脈グラフトはすべて開存しており、HE染色にてEGCG処理群は、コントロール群に比較し、内膜肥厚を抑制していた。また、各内膜の厚みを測定し比較した結果、内膜厚はEGCG未処理系で104.7μm、EGCG0.1mg/mLの系で48.5μm、EGCG1mg/mLの系で43.5μmであり、統計的有意差を持って濃度依存的に半分以下の厚みに抑えられることがわかった。また、MAPKの一種であるERK、p38の活性化を有意に抑えるという結果も得られた。これらの結果から、EGCG処理が内膜肥厚を抑制していることが確認され、静脈グラフトの成功率を高めるための有効な治療法となる可能性が示唆された。
【0022】
ポリフェノールが種々の生理活性作用、例えば、抗ガン作用、抗酸化作用、抗菌・抗ウィルス作用に優れていることは1980年代から多くの研究者によって報告されてきている。このポリフェノールが細胞増殖に及ぼす影響に関する研究も既に報告されているものの、そのほとんどはガン細胞の増殖を抑制するというもので、ポリフェノール、特に緑茶カテキンの主要成分の一つであるエピガロカテキンガレート(EGCG))が臓器(特に、心臓、腎臓、膵島、神経など)や細胞の機能保護、また、前述したように血管の内膜肥厚防止に有効であるということは、本発明者らによって発見されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
そこで、本発明では、再狭窄を防止する薬剤として、高い生理活性を有する緑茶ポリフェノールの一種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)を用い、このEGCGを生分解性ポリマーに含有させステント素材にコーティングした薬物徐放性を有するステントの開発を行い、ステント表面の生分解ポリマー中のEGCGが拡散で放出されることにより、再狭窄を抑制したステントを提供する。また、本発明の血管内治療用器具は、内膜肥厚抑制剤を含有するゴム状の生分解吸収性材料から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
経皮的冠動脈インターベンション(PCI;Percutaneous Coronary Intervantion)治療でのステント治療後に血管平滑筋細胞の増殖を効率よく防止でき、再狭窄を長期に渡って抑制することができる薬剤溶出ステント(DES;Drug Eluting Stent)を提供できる。これにより長期間の抗血栓薬の服用や抗血栓薬による副作用の心配がなくなるばかりでなく、社会の高齢化に対応した低侵襲・低ストレスの医療技術を提供可能にする。
【0025】
また、心臓病の患者数は確実に増加しており、欧米と比較して少ないと言われていた日本でも今後さらに患者数の増加が予想されている。厚生労働省の人口動態統計(平成16年)によれば、心臓病の年間死亡者数は159,625人、虚血性心疾患による死亡者数71,285人で、ガンによる死亡者数320,358人、脳血管疾患による死亡者数129,055人に迫る勢いで増加している。従って、再狭窄を防止したステントを実用化することで、虚血性心疾患患者数の減少に貢献できるものと考えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の血管内治療用器具は、金属性ステントあるいポリ乳酸などの生分解性ステントの表面に高純度のEGCGを含有した生分解性ポリマーがコーテイングされている。
【0027】
本発明のEGCGは、緑茶から抽出されたカテキンの一種で、最も抗酸化活性が高く血管平滑筋細胞の増殖を抑える作用がある。このEGCGの純度は高ければ高いほどその効果が高いので、95%以上でも使用されるが98%以上が最も効果が高い。
【0028】
本発明の生分解性材料は、生体内で分解され、なおかつ分解されたものが毒性を示さない材料であれば特に限定されないが、ガラス転移点が体温以下の37℃のポリマーであり、また結晶化度が40%以下のポリマー、例えば、乳酸/カプロラクトン共重合体、乳酸/グリコール酸共重合体、グリコール酸/カプロラクトン共重合体、グリコール酸/トリメチレンカーボネート共重合体、ポリ−p−ジオキサノン、乳酸/ポリエチレングリコール共重合体、あるいは乳酸/p−ジオキサノン共重合体などで、体温付近でゴム状エラストマーのポリマーが適している。
【0029】
ガラス転移点が体温以上であると薬物が拡散で放出されにくく、生分解性ポリマーの分解に伴って薬物が放出されるため徐放性の制御が困難である。また、体温で硬いとステントをバルーンで拡張する際にスムーズに拡張できなく、剥離や亀裂が生じやすい欠点がある。例えばポリ乳酸であるとガラス転移点が60℃であるため体温では硬く、またポリグリコール酸ではガラス転移点が40℃であるが結晶化度が約0%と高いため有機溶媒による溶解性が悪く、硬すぎるため本発明には適さない。
【0030】
本発明の血管内治療用具においては、上記生分解性材料がEGCGを含有している。含有の様態は、特に限定されず、EGCGが生分解性材料からなるコーティング材中に均一または不均一に存在していてもよく、また生分解性材料中に局所的に存在していても良く、あるいはEGCG徐放性を制御するためにナノもしくはマイクロ微小球を混入させても良い。
【0031】
コーティング材は、生分解性材料100重量部に対し、EGCGを0.1〜30重量部、好ましくは、1〜20重量部添加したものである。コーティング層の厚みは、例えば0.01〜200μmである。
【0032】
本発明の血管内治療用具の製造方法は、特に限定されない。例えば、生分解性ポリマーとして乳酸/カプロラクトン共重合体を用いる場合、その良溶媒であるジオキサンやアセトンにポリマーを溶解させた後、一定量の割合でEGCGを攪拌下で溶解し、金属性もしくは生分解性ステントの表面に浸漬することで均一にコーテイングし、乾燥することで作成できる。
【0033】
また、市販のメデイコートステントコーテイングシステム(SONO TEK Corporation)を用い、上記ジオキサンにポリマーとEGCGを溶解させた溶液をスプレーにてマイクロオーダーで塗布することもできる。本発明の血管内治療用具は、ステント本体が非分解性の金属材料もしくは生分解性のポリマー材料でも応用できる。本発明の血管内治療用器具は、ステント、カテーテル、バルーン、血管補綴材、人工血管等を保持体々することができ、中でも、保持体がステントであるのが好ましい形態である。
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
2mlのジオキサンに乳酸/カプロラクトン共重合体(共重合組成比=75/25、重量平均分子量285、000)0.5gを溶解し、この溶液に、さらにEGCG(純度98%以上)を100mg加えて溶解した。そして、この溶液に直径50μm、内径2mm、長さ1cmの円筒径のステンレス製のメッシュステントを浸漬させた後に乾燥させ、血管内治療用器具を作成した。このステントからのEGCGのin vitro溶出実験を37℃の生理食塩中で行った。溶出されるEGCGの定量を、HPLCを用い行った。その定量の条件はODSカラムに10mMリン酸:アセトニトリル=85:15(vol/vol)を移動相としてUV(280nm波長検出器で検出した。その結果、初期バーストがなく約1ヶ月にわたってEGCGの溶出が認められた。(図1)
【比較例1】
【0036】
2mlのクロロホルムにポリL−乳酸、PLCL(重量平均分子量212,000)0.5gを溶解し、さらにEGCG(純度98%)を100mg加えて溶解した。この溶液に、さらにEGCG(純度98%)を100mg加えて溶解した。そして、この溶液に直径50μm、内径2mm、長さ1cmの円筒径のステンレス製のメッシュステントを浸漬させた後に乾燥させ、血管内治療用器具を作成した。EGCGのin vitro溶出実験を実施例1と同じように行ったところ、溶出1日目で38%のEGCGが溶出し、その後十分なEGCGがリリース量が得られず、約6週間後に残存するEGCGが大量に放出された。このように、ポリ乳酸を用いた場合、約一ヶ月間にわたる長期の均一な徐放性が得られなかった。
【実施例2】
【0037】
EGCG0,5,10%含有乳酸/カプロラクトン共重合体、PLCL(共重合組成比=50/50、重量平均分子量263、000)フィルム上にラット血管平滑筋細胞を20000cells播種し、3日間培養した時の細胞数を計数し、0%EGCG−PLCLフィルム(比較例1)に対する比を調べた(図2)。EGCG含有量に比例して平滑筋細胞の増殖が抑制されていることがわかった。0%および5%EGCG含有PLCLフィルム上で3日間培養したときのラット平滑筋細胞の光学顕微鏡像を図yに示した。0%EGCGフィルム上では細胞が伸展して増殖傾向にあるのに対し、5%フィルム上で細胞が球状になり、増殖が停止している状態であることがわかる。
【実施例3】
【0038】
ウサギ総頚動脈バルーン擦過による血管傷害モデルを用いた血管内治療効果について、実施例1で用いたステントによる内膜肥厚抑制作用について検討した。コントロール群として、EGCG含有ポリマーのコーテイングなしのステントを用いた。各群をn=8とした。移植後8週目に犠牲死とし、組織学的に内膜肥厚抑制効果を評価した。移植8週目に各群のグラフトはすべて開存しており、HE染色にてEGCG処理群は、コントロール群に比較し、内膜肥厚を抑制していた。また、各内膜の厚みを測定し比較した結果、内膜厚はコントロール群で124μm、EGCG処理群で43μmであり、統計的有意差を持ってコントロール群に比べて半分以下の厚みに抑えられることがわかった。(図3A,3B)
【実施例4】
【0039】
実施例1で用いたEGCGに変えて、biolimusを添加した生分解吸収性ポリマーである乳酸/カプロラクトン共重合体、PLCL(共重合組成比=50/50、重量平均分子量263、000)を生分解吸収性ポリマーであるポリ乳酸のステントにコーテイングした。Biolimusのin vitro溶出実験を実施例1と同じように行ったところ、初期バーストがなく約1ヶ月にわたってbiolimusの溶出が認められた。
【図1】

【図2】

【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料または生分解性のポリマー材料からなるステント本体と、これを被覆するコーティング材からなり、このコーティング材は、ガラス転移点が37℃以下で、結晶化度が40%以下で、37℃における弾性率が5x10〜5x10(dyne/cm)であるゴム状エラストマーの生分解吸収性ポリマー100重量部に対して、純度95%以上のエピガロカテキンガレート(EGCG)を0.1〜30重量部添加したものであることを特徴とするステント。
【請求項2】
前記ゴム状エラストマーの生分解吸収性ポリマーが、乳酸/カプロラクトン共重合体、乳酸/グリコール酸共重合体、グリコール酸/カプロラクトン共重合体、グリコール酸/トリメチレンカーボネート共重合体、ポリ−p−ジオキサノン、乳酸/ポリエチレングリコール共重合体、乳酸/p−ジオキサノン共重合体、あるいはセバシン酸をベースとする脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載のステント。
【請求項3】
コーティング材中に、抗癌剤、抗炎症剤、抗血栓剤、抗酸化剤、あるいは免疫抑制剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のステント。

【公開番号】特開2008−253707(P2008−253707A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122860(P2007−122860)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(506224252)株式会社バイオベルデ (12)
【Fターム(参考)】