説明

薬剤溶出ステント

【課題】生体内の管腔への留置後、早い段階で心筋を保護することにより、心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制し、かつ新生内膜増殖による再狭窄を防止することができるステントの提供。
【解決手段】基材2と、前記基材の内表面上に形成される、第1の生分解性ポリマーおよび第1の薬剤を含む第1のコーティング層3と、前記基材の外表面上に形成される、第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤を含む第2のコーティング層4と、を備え、前記第1の薬剤の溶出速度が前記第2の薬剤の溶出速度よりも速い、薬剤溶出ステント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤溶出ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステントに免疫抑制剤や抗癌剤等の生理活性物質を担持させることによって、生体内の管腔の留置部位で局所的にこの生理活性物質を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ステントの内表面部にヘパリンを、ステントの外表面部にラパマイシンをそれぞれコートしたステントが開示されている。また、特許文献2には、ステントストラットの外面に、第1の高分子材料および生理活性物質を含む第1のコーティング層を形成し、ステントストラットの内面に第2の高分子材料および生理活性物質を含む第2のコーティング層を形成したステントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−237951号公報
【特許文献2】特表2006−500163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載のステントでは、新生内膜増殖による再狭窄の防止には効果を発揮するものの、ステント留置前に進行していた心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、生体内の管腔への留置後、早い段階で心筋を保護することにより、心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制し、かつ新生内膜増殖による再狭窄を防止することができるステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を積み重ねた。その結果、ステントの基材の内表面上に形成されたコーティング層に含まれる薬剤の溶出速度が、ステントの基材の外表面上に形成されたコーティング層に含まれる薬剤の溶出速度よりも速い薬剤溶出ステントにより、上記課題が解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、基材と、前記基材の内表面上に形成される、第1の生分解性ポリマーおよび第1の薬剤を含む第1のコーティング層と、前記基材の外表面上に形成される、第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤を含む第2のコーティング層と、を備え、前記第1の薬剤の溶出速度が前記第2の薬剤の溶出速度よりも速い、薬剤溶出ステントである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体内の管腔への留置後、早い段階で心筋を保護することにより、心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制し、かつ新生内膜増殖による再狭窄を防止することができるステントが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ステントの形状の一例を示す模式図である。
【図2】薬剤溶出ステントの断面形状の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、基材と、前記基材の内表面上に形成される、第1の生分解性ポリマーおよび第1の薬剤を含む第1のコーティング層と、前記基材の外表面上に形成される、第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤を含む第2のコーティング層と、を備え、前記第1の薬剤の溶出速度が前記第2の薬剤の溶出速度よりも速い、薬剤溶出ステントである。
【0012】
以下、本発明の薬液溶出ステントの構成について、詳細に説明する。しかしながら、本発明は下記の形態に何ら制限されるものではない。
【0013】
[ステントの基材、形状]
ステントは、血管などの生体内の管腔に生じた病変部(例えば、心筋梗塞がある程度進行した狭窄部等)を拡張し、かつそこに留置することができれば、その基材材料、形状等は特に限定されない。また、ステントは、バルーンエクスパンダブルタイプ、セルフエクスパンダブルタイプのいずれであってもよい。また、ステントの大きさは適用箇所に応じて適宜選択すれば良い。
【0014】
本発明の薬剤溶出ステントの基材材料は、特に制限されない。その具体的な例としては、例えば、SUS304などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、クロム、チタンおよびそれらの合金などの各種金属材料、各種セラミックス材料などの無機材料、金属−セラミックス複合体、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルスルホンなどの高分子材料が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ステントの形状も特に制限されない。例えば、図1に示す態様において、ステント1は、弾性線材2からなり、内部に切欠き部を有する略菱形の要素21を基本単位とする。複数の略菱形の要素21の略菱形の形状がその短軸方向に連続して配置され結合することで環状ユニット22をなしている。環状ユニット22は、隣接する環状ユニットと線状の弾性部材23を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット22が一部結合した状態でその軸方向に連続して配置される。ステント1は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。ステント1は、略菱形の切欠き部を有しており、この切欠き部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。
【0016】
ただし、本発明において、ステントの形状は図示した態様に限定されず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠き部を有し、この切欠き部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造を広く含む。
【0017】
ステントを構成する弾性線材2の断面形状についても、特に限定されず、例えば、矩形、円形、楕円形、矩形以外の多角形等が挙げられる。また、ステントの内表面上に第1のコーティング層(第1の薬剤)がコートされやすいように、図2のようにステントを構成する円筒体全体の曲率よりも各基材(各弾性線材2)の内側が湾曲しているような断面形状を有していてもよい。さらに、図示していないが、ステントの基材の外側が湾曲しているような断面形状を有していてもよい。
【0018】
ステントの基材の製造方法は、特に限定されず、ステントの基材および形状に応じて、通常使用される製造方法から適宜選択すればよい。
【0019】
[第1のコーティング層]
本発明の薬剤溶出ステントは、図2に示すように、基材(弾性線材2)の内表面上に、第1の生分解性ポリマーおよび第1の薬剤を含む第1のコーティング層3を備える。
【0020】
前記第1の生分解性ポリマーとして用いられる生分解性ポリマーの具体的な例としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ポリ−D,L−乳酸、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ−D−グルコネート、ポリ−L−グルコネート、ポリ−D,L−グルコネート、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(p−ジオキサノン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−δ−バレロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−β−リンゴ酸)、ポリ(乳酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコール酸−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリ(β−ヒドロキシブチレート−コ−β−ヒドロキシバレラート)、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン−コ−セバシン酸]、ポリ(セバシン酸−コ−フマル酸)などのポリエステル;ポリ(アジピン酸無水物)、ポリ(スベリン酸無水物)、ポリ(セバシン酸無水物)、ポリ(ドデカンジオ酸無水物)、ポリ(マレイン酸無水物)などのポリ酸無水物;ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)メタン無水物]、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン無水物]、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン無水物]などのポリ[α,ω−ビス(p−カルボキシフェノキシ)アルカン無水物]、ポリα−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。これら生分解性ポリマーは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0021】
前記第1の薬剤として用いられる薬剤は、特に制限されないが、心筋を保護することにより、心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制することが可能な薬剤が好ましく、例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アデノシン、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、カルシウム拮抗薬、アドレナリンβ受容体遮断薬(β遮断薬)、硝酸薬、ニコランジル、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インシュリンなどの心筋保護薬あるいは心筋リモデリング防止薬;血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)などの血管新生剤が挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0022】
これら第1の薬剤の中でも、心筋梗塞後のリモデリングをいち早く抑制するという観点から、ACE阻害剤、ARB、アデノシン、スタチン、カルシウム拮抗剤、β遮断薬などの心筋保護薬あるいは心筋リモデリング防止薬を用いることが好ましい。
【0023】
ACE阻害剤の具体的な例としては、例えば、ペリンドプリル、デラプリル、トランドプリル、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ベナゼプリル、イミダプリル、ラミプリルなどが挙げられる。
【0024】
ARBの具体的な例としては、例えば、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、オルメサルタンメドキソミル、イルベサルタンなどが挙げられる。
【0025】
スタチンの具体的な例としては、例えば、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、メバスタチン、ロスバスタチン、ロバスタチンなどが挙げられる。
【0026】
カルシウム拮抗薬の具体的な例としては、例えば、ニフェジピン、ニカルジピン、アムロジピン、ジルチアゼム、ベラパミルなどが挙げられる。
【0027】
β遮断薬の具体的な例としては、例えば、ボピントロール、ピンドロール、カルテオロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、カルベジロール、アモスラロール、アロチノロールなどが挙げられる。
【0028】
第1のコーティング層における前記第1の生分解性ポリマーの含有量は、第1のコーティング層の総質量を100質量%として、10〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。また、第1のコーティング層における前記第1の薬剤の含有量は、第1のコーティング層の総質量を100質量%として、30〜90質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましい。
【0029】
前記第1のコーティング層の厚さは、特に制限されないが、第1の薬剤の溶出速度を制御する観点から、1〜30μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。
【0030】
前記第1のコーティング層は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。その具体的な例としては、例えば、ヘパリンなどの抗凝固剤、抗血小板薬などが挙げられる。
【0031】
[第2のコーティング層]
本発明の薬剤溶出ステントは、図2に示すように、基材(弾性線材2)の外表面上に、第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤を含む第2のコーティング層4を備える。
【0032】
前記第2の生分解性ポリマーとして用いられる生分解性ポリマーの具体的な例としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ポリ−D,L−乳酸、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ−D−グルコネート、ポリ−L−グルコネート、ポリ−D,L−グルコネート、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(p−ジオキサノン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−δ−バレロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−β−リンゴ酸)、ポリ(乳酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコール酸−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリ(β−ヒドロキシブチレート−コ−β−ヒドロキシバレラート)、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン−コ−セバシン酸]、ポリ(セバシン酸−コ−フマル酸)などのポリエステル;ポリ(アジピン酸無水物)、ポリ(スベリン酸無水物)、ポリ(セバシン酸無水物)、ポリ(ドデカンジオ酸無水物)、ポリ(マレイン酸無水物)などのポリ酸無水物;ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)メタン無水物]、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン無水物]、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン無水物]などのポリ[α,ω−ビス(p−カルボキシフェノキシ)アルカン無水物]、ポリα−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。これら生分解性ポリマーは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0033】
なお、前記第1の生分解性ポリマーおよび前記第2の生分解性ポリマーは、同じ種類のものを用いてもよいし、違う種類のものを用いてもよい。前記第1の薬剤の溶出速度が前記第2の薬剤の溶出速度よりも速い構成になるよう、適宜選択すればよい。薬剤の溶出速度の制御方法についての詳細は、後述する。
【0034】
前記第2の薬剤として用いられる薬剤は、特に制限されないが、新生内膜の増殖を抑制することが可能な薬剤が好ましく、例えば、シロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセル、スタチン、ピリミジン類似体、プリン類似体、白金配位錯体などの新生内膜増殖抑制剤;ヘパリンなどの抗凝固剤;アスピリン、チクロビジン、クロピドグレルなどの抗血小板薬が挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0035】
中でも、シロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルなどの新生内膜増殖抑制剤が好ましい。
【0036】
第2のコーティング層における前記第2の生分解性ポリマーの含有量は、第2のコーティング層の総質量を100質量%として、30〜80質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。また、第2のコーティング層における前記第2の薬剤の含有量は、第2のコーティング層の総質量を100質量%として、20〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。
【0037】
前記第2のコーティング層の厚さは、特に制限されないが、第2の薬剤の溶出速度を制御する観点から、1〜30μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
【0038】
[溶出速度の制御]
本発明のステントは、ステントの内表面上に形成される第1のコーティング層に含まれる第1の薬剤の溶出速度が、ステントの外表面上に形成される第2のコーティング層に含まれる第2の薬剤の溶出速度よりも速い。
【0039】
一般的に、生分解性ポリマーを含むコーティング層からの薬剤の溶出速度は、生分解性ポリマーの分解速度に依存する。したがって、薬剤の溶出速度をコントロールするためには、第1および第2の生分解性ポリマーの種類や重量平均分子量、第1のコーティング層および第2のコーティング層における生分解性ポリマーと薬剤との配合比、第1のコーティング層および第2のコーティング層の厚さ、あるいは第1のコーティング層および第2のコーティング層の表面状態などを適切に選択することが好ましい。これらを調節することにより、薬剤の溶出速度を制御することができる。
【0040】
例えば、第1および第2の生分解性ポリマーの種類によって溶出速度を制御する場合、第1の生分解性ポリマーとして、ポリ(乳酸−コ−ε−カプロラクトン)あるいはポリ(乳酸−コ−グリコール酸)を用い、第2の生分解性ポリマーとして、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−D−グルコネート、ポリ−L−グルコネートあるいはポリ−D,L−グルコネートを用いることが好ましい。
【0041】
例えば、第1および第2の生分解性ポリマーの重量平均分子量の違いによって溶出速度を制御する場合、前記第1の生分解性ポリマーの重量平均分子量を10,000〜150,000の範囲とし、かつ前記第2の生分解性ポリマーの重量平均分子量を30,000〜300,000の範囲とすることが好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値を採用する。
【0042】
例えば、第1のコーティング層および第2のコーティング層における生分解性ポリマーと薬剤との配合比の違いによって溶出速度を制御する場合、第1のコーティング層中の第1の生分解性ポリマーの含有量を第1のコーティング層の総質量を100質量%として10〜50質量%とし、第1のコーティング層における第1の薬剤の含有量を第1のコーティング層の総質量を100質量%として50〜90質量%とすることが好ましい。そして、第2のコーティング層中の第2の生分解性ポリマーの含有量を第2のコーティング層の総質量を100質量%として40〜60質量%とし、第2のコーティング層における第2の薬剤の含有量を第2のコーティング層の総質量を100質量%として40〜60質量%とすることが好ましい。
【0043】
例えば、第1のコーティング層および第2のコーティング層の厚さで制御する場合、前記第1のコーティング層の厚さを2〜10μmとし、前記第2のコーティング層の厚さを5〜20μmとすることが好ましい。
【0044】
例えば、第1のコーティング層および第2のコーティング層の表面状態で制御する場合、第1のコーティング層表面のみにブラスト処理などを施してその表面積を増加させることによって、第1の薬剤の溶出速度を速くすることが好ましい。
【0045】
以上のような溶出速度の制御方法は1つのみを採用しても良いし、2つ以上を採用しても良い。かような制御を行うことにより、第1の薬剤の溶出速度が第2の薬剤の溶出速度よりも速い薬剤溶出ステントを得ることができる。
【0046】
[ステントの製造方法]
ステントの基材の製造方法は、上述した通り、ステントの基材および形状に応じて、通常使用される製造方法から適宜選択することができる。
【0047】
(第1のコーティング層の形成)
ステントの基材の内表面上に第1のコーティング層を形成する方法は、特に制限されず、例えば、第1の薬剤、第1の生分解性ポリマー、および必要に応じて他の成分を有機溶媒に溶解した溶液(以下、単に第1のコーティング液とも称する)を、ステントの基材の内表面に塗布または噴霧し、その後溶媒を除去することにより第1のコーティング層が形成される。
【0048】
前記有機溶媒の例としては、例えば、メタノール、エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。
【0049】
前記第1のコーティング液中の第1の生分解性ポリマーおよび第1の薬剤の合計の濃度は、0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0050】
塗布または噴霧の方法は特に制限されず、塗布・印刷法、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。さらに、塗布または噴霧後の溶媒除去は、減圧、送風、加熱などの方法により適宜行われる。
【0051】
ステントの基材の内表面上に上記第1のコーティング液をコーティングするにあたっては、コーティング層のステント表面への密着性を高めるために、コーティング作業の前に、必要に応じて、ステント基材の表面の洗浄や表面処理を行ってもよい。表面処理の方法としては、例えば、酸化剤やフッ素ガスなどによる薬品処理、表面グラフト重合、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、UV/オゾン処理、電子線照射などが挙げられる。
【0052】
(第2のコーティング層の形成)
第2のコーティング層は、第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤を有機溶媒に溶解した溶液(以下、単に第2のコーティング液とも称する)を、ステントの基材の外表面上に塗布することにより形成される。使用する溶媒や塗布・乾燥方法、洗浄や表面処理の方法などは、上記第1のコーティング層の形成の欄に記載の方法と同様の方法が採用されるので、ここでは説明を省略する。
【0053】
前記第2のコーティング液中の第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤の合計の濃度は、0.01〜20質量%であることが好ましい。
【0054】
なお、第1のコーティング層および第2のコーティング層を形成する順序は特に制限されない。例えば、(1)第1のコーティング層を形成した後に第2のコーティング層を形成する;(2)第2のコーティング層を形成した後に第1のコーティング層を形成する;(3)第1のコーティング層と第2のコーティング層とを同時に形成する;などの方法が適宜採用されうる。
【0055】
このようにして得られた本発明の薬剤溶出ステントは、生体内の管腔の病変部に直接、留置して用いることができる。そして、第1の薬剤(好ましくは心筋保護薬あるいは心筋リモデリング防止薬)は、第2の薬剤よりも速く標的部位に放出される。また、第2の薬剤(好ましくは新生内膜増殖抑制薬)は、ステントの留置部位に放出され、新生内膜の増殖を抑制する。したがって、生体内の管腔への留置後、早い段階で心筋を保護することにより、心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制し、かつ新生内膜増殖による再狭窄を防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ステント、
2 弾性線材、
21 略菱形の要素、
22 環状ユニット、
23 線状の弾性部材、
3 第1のコーティング層、
4 第2のコーティング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の内表面上に形成される、第1の生分解性ポリマーおよび第1の薬剤を含む第1のコーティング層と、
前記基材の外表面上に形成される、第2の生分解性ポリマーおよび第2の薬剤を含む第2のコーティング層と、
を備え、前記第1の薬剤の溶出速度が前記第2の薬剤の溶出速度よりも速い、薬剤溶出ステント。
【請求項2】
前記第1の薬剤が、心筋を保護することにより、心筋梗塞後の心筋リモデリングを抑制することが可能な薬剤であり、
前記第2の薬剤が、新生内膜の増殖を抑制することが可能な薬剤である、
請求項1に記載の薬剤溶出ステント。
【請求項3】
前記第1の薬剤が、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アデノシン、HMG−CoA還元酵素阻害薬、カルシウム拮抗薬、アドレナリンβ受容体遮断薬からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記第2の薬剤が、シロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1または2に記載の薬剤溶出ステント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−196252(P2012−196252A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60820(P2011−60820)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】