説明

薬剤発散用シート

【課題】 薬剤発散効果に優れ、吸入が容易な薬剤発散用シートを提供する。
【解決手段】 薬剤を含有する含水ゲル層2を備える薬剤発散用シート1であって、 含水ゲル層2は、一方面が平滑な貼付面3とされ、他方面が貼付面3よりも表面積が大きい露出面5とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体やその他の部位に貼り付けて、薬剤を発散させるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
人体への薬剤の投与方法として、容器や器具を用いて薬剤を自然蒸散または強制蒸散させることにより、人体に吸入させる方法が知られている。しかし、この種の薬剤発散方法では、薬剤発散部と人体の吸入部との距離が不均一になりやすいことから、効率的な吸入ができないという問題があった。
【0003】
また、特許文献1には、ラベンダー抽出物などを冷却シートに含有させ、寝ている間に頭部に冷却効果を与えながらラベンダーを吸入させる方法が開示されている。しかし、ラベンダーの効率的な発散方法については検討されておらず、示唆もされていない。
【特許文献1】特開平11−246397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、薬剤発散効果に優れ、吸入が容易な薬剤発散用シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の前記目的は、薬剤を含有する含水ゲル層を備える薬剤発散用シートであって、前記含水ゲル層は、一方面が平滑な貼付面とされ、他方面が前記貼付面よりも表面積が大きい露出面とされている薬剤発散用シートにより達成される。
【0006】
この薬剤発散用シートによれば、含水ゲル層の平滑な貼付面により人体などの被貼付物への粘着性能を維持しつつ、この貼付面よりも表面積が大きい露出面により、薬剤の蒸散速度を高めることができ、かつ、含有する水分の蒸発速度を高めることができるので、良好な薬剤発散効果を得るとともに、良好な冷却効果も得ることができる。
【0007】
前記露出面の表面積の、前記貼付面の表面積に対する比は、1.2以上であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の前記目的は、薬剤を含有する含水ゲル層を備える薬剤発散用シートであって、前記含水ゲル層は、貼付面と反対側の露出面に突起部を有する薬剤発散用シートによっても達成され、上記薬剤発散用シートと同様に薬剤発散効果を高めることができる。
【0009】
この薬剤発散用シートにおいて、前記突起部は、帯状に複数形成され、互いに平行に配置されていることが好ましく、高さが1mm以上であることが好ましい。
【0010】
上記各薬剤発散用シートにおいて、前記含水ゲル層は、ゲル化剤としてカラギーナンを含み、含水率が90%以上であることが好ましく、これによって、良好な薬剤発散効果を長時間持続させることができる。
【0011】
また、上記各薬剤発散用シートは、前記含水ゲル層の露出面に、透湿性を有する支持体が積層されていてもよい。この場合も、支持体の透湿性により、含水ゲル層の露出面における蒸発能力を維持することができる。
【0012】
上記薬剤発散用シートに含有する薬剤は、揮発性成分であればよいが、鼻づまりやのどの痛みなどの風邪の諸症状に対しては、メントールおよびその誘導体、サリチル酸およびその類似物質の一種または二種以上であることが好ましく、その他にも症状に対して必要な揮発性成分を含有させればよい。例えば、
α−ピネン、β−ピネン、リモネン、p−サイメン、ターピノレン、α−ターピネン、γ−ターピネン、α−フェランドレン、ミルセン、カンフェン、オシメン等の炭化水素テルペン;ヘプタナール、オクタナール、デカナール、ベンズアルデヒド、サリシリックアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、シトロネラール、ハイドロキシシトロネラール、ハイドロトロピックアルデヒド、リグストラール、シトラール、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、リリアール、シクラメンアルデヒド、リラール、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、ヘリオナール、バニリン、エチルバニリン等のアルデヒド類;エチルフォーメート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピオネート、メチルイソブチレート、エチルイソブチレート、エチルブチレート、プロピルブチレート、イソブチルアセテート、イソブチルイソブチレート、イソブチルブチレート、イソブチルイソバレレート、イソアミルアセテート、イソアミルプロピオネート、アミルプロピオネート、アミルイソブチレート、アミルブチレート、アミルイソバレレート、アリルヘキサノエート、エチルアセトアセテート、エチルヘプチレート、ヘプチルアセテート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、エチルオクチレート、スチラリルアセテート、ベンジルアセテート、ノニルアセテート、ボルニルアセテート、リナリルアセテート、安息香酸リナリル、エチルシンナメート、ヘキシルサリシレート、メンチルアセテート、ターピニルアセテート、アニシルアセテート、フェニルエチルイソブチレート、ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、エチレンブラシレート、γ−ウンデカラクトン、γ−ノニルラクトン、シクロペンタデカノライド、クマリン等のエステル・ラクトン類;アニソール、p−クレジルメチルエーテル、ジメチルハイドロキノン、メチルオイゲノール、β−ナフトールメチルエーテル、β−ナフトールエチルエーテル、アネトール、ジフェニルオキサイド、ローズオキサイド、ガラクソリド、アンブロックス等のエーテル類;イソプロピルアルコール、cis−3−ヘキセノール、ヘプタノール、2−オクタノール、ジメトール、ジヒドロミルセノール、リナロール、ベンジルアルコール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、ターピネオール、テトラハイドロゲラニオール、セドロール、サンタロール、チモール、アニスアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;ジアセチル、メントン、アセトフェノン、α−又はβ−ダマスコン、α−又はβ−ダマセノン、α−、β−又はγ−ヨノン、α−、β−又はγ−メチルヨノン、メチル−β−ナフチルケトン、ベンゾフェノン、テンタローム、アセチルセドレン、α−又はβ−イソメチルヨノン、α−、β−又はγ−イロン、マルトール、エチルマルトール、cis−ジャスモン、ジヒドロジャスモン、l−カルボン、ジヒドロカルボン等のケトン類など、さらにはを例示することができる。これらの揮発性成分は、1種単独で使用されても、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、薬剤発散効果に優れ、吸入が容易な薬剤発散用シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る薬剤発散用シートの平面図であり、図2は、この薬剤発散用シートの側面図である。本実施形態の薬剤発散用シートは、発熱による鼻づまりやのどの痛み等の際に額に貼り付けて、発散した薬剤を鼻腔および/又は口腔から吸入することを想定したものである。
【0015】
薬剤発散用シート1は、薬剤を含有した含水ゲル層2から構成されており、被貼付部位に対応した大きさで矩形状に形成されている。薬剤としては、グリセリンに最大溶解量を溶解させたl−メントールの液状物である。
【0016】
含水ゲル層2としては、ゲル化剤の主材料として、カラギーナン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タラガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、マンナン、ゼラチン、寒天、ペクチンなどから1又は複数種を選択した天然高分子多糖類を含水ゲルである。例えばグリセリン0.001〜20重量%、l−メントール0.001〜20重量%、カラギーナン0.5〜8重量%、イオン交換水52〜99.498重量%程度含むものを例示することができ、その他効果を妨げない範囲で他の物質を含有させることも可能である。
【0017】
本実施形態においては、被貼付部位に対する粘着性と形状保持性を維持しつつ大きな含水量を得る観点から、含水ゲル層2としてカラギーナンをゲル化剤の主材料として含むものを使用しており、使用開始前の含水量を90〜99重量%としている。
【0018】
薬剤発散用シート1は、裏面側が平滑な貼付面3である一方、表面側が波形に形成された露出面5とされている。露出面5の波形を構成する各突起部4は、帯状に形成されており、露出面5の短辺方向に沿って互いに平行となるように複数配置されている。各突起部4の高さは、露出面5の表面積を大きくする観点からなるべく高いことが好ましく、顕著な薬剤発散効果を得るためには、後述する実験データなどから1mm以上であることが好ましい。各突起部4の高さの上限は特にないが、強度上の問題などから薬剤発散用シート1の突起部4が形成されていない部分の厚みと同程度であることが好ましく、例えば3mmである。また、隣接する突起部4の頂部間隔は、大きすぎると表面積を増大し難くなる一方、小さすぎると強度上の問題が生じ易くなることから、1〜8mmが好ましく、2〜4mmがより好ましい。
【0019】
このように構成された薬剤発散用シート1は、上述したゲル化剤や他の公知の添加剤を精製水に順次混合し、突起部4の形状に対応した凹凸形状を底部に有する成形型内に流し込み、80〜90℃で加熱後に冷却することにより、製造することができる。
【0020】
この薬剤発散用シート1は、予め密閉ケース(図示せず)内に収容しておき、必要時に取り出して、貼付面3を額などの被貼付部位に貼り付けて使用する(図4参照)。薬剤発散用シート1において、薬剤が発散する露出面5の表面積が増加したことにより、効果的にl−メントールが発散され、また、含有水分が徐々に蒸発することにより、このときの蒸発潜熱により熱が奪われて、被対象部位が冷却される効果をも奏する。本実施形態の薬剤発散用シート1は、突起部4が形成されることで表面積が増加しており、外気との接触エリアが増大することで高い蒸発速度を得ることができるため、良好な薬剤発散効果と冷却効果を得ることができ、特にすみやかな薬剤の吸入や急冷が必要な場合に有効である。一方、貼付面3は、平滑に形成することで被冷却部位との接触面積を確保することができ、良好な粘着性能を維持することができる。
【0021】
また、本実施形態においては、ゲル化剤としてカラギーナンを含むことにより90%以上の含水率としているため、高い蒸発速度にも拘わらず、冷却効果を長時間維持することができる。
【0022】
突起部4の形状としては、必ずしも本実施形態のものに限定されず、湾曲状、リング状、ドット状など露出面5の表面積を増大できる構成であればよい。露出面5の表面積の、貼付面3の表面積に対する比(以下、単に「表面積比」という)は、後述する実験データなどから、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。この表面積比の上限は特に存在しないが、実用的な観点からは2以下である。
【0023】
含水ゲル層2の材質としては、上述した以外に、ゲル化剤の主材料として、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタアクリル酸の塩などを1又は複数種選択したポリアクリル酸類を、含水ゲル層2全体に対して1〜59.5重量%程度含むものを使用することができる。このような材料を選択することにより含水ゲル層2自体の形状を保持し難い場合には、図3に示すように、薬剤発散用シート11を、含水ゲル層2の露出面5側に透湿性を有するシート状の支持体6が積層された構成にしてもよい。尚、図3において、図1及び図2と同様の構成部分には同じ符号を付している。
【0024】
支持体6は、エンボス加工により表面に突起部41が形成されており、このような突起部41を有する支持体6に含水ゲル層2を積層することにより、含水ゲル層2にも突起部4が形成されている。すなわち、図1及び図2に示す構成と同様に、含水ゲル層2の露出面5の表面積が増加する。この結果、支持体6を介して含水ゲル層2の薬剤の発散および水分の蒸発が促され、高い薬剤発散効果と高い冷却効果を得ることができる。尚、含水ゲル層2の貼付面3には、使用時に除去可能な剥離フィルム(図示せず)を積層しておくことが好ましい。
【0025】
支持体6は、含水ゲル層2の露出面5における薬剤の発散や、水分の蒸発が阻害されないように、透湿性や通気性を有するものであれば、不織布以外に、織布、編布などを使用することも可能であり、更には、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートなどからなる多孔性の樹脂フィルムなどを使用することも可能である。
【0026】
このような支持体6を備える薬剤発散用シート11の構成においても、含水ゲル層2の表面積比や突起部4の高さは、上述した数値範囲に設定することが好ましい。この場合、含水ゲル層2の表面積比は、支持体6表面の表面積の、含水ゲル層2の貼付面3の表面積に対する比から便宜的に求めることができ、含水ゲル層2の突起部4の高さは、支持体6の突起部41の高さから便宜的に求めることができる。
【0027】
上述した本発明の薬剤発散用シートは、発熱時の冷却用として使用する以外に、例えば、バップ剤として使用することも可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。図1及び図2に示す薬剤発散用シート1の構成において、薬剤としてl−メントール3%、グリセリン5%、カラギーナン1%、水分91%として含水ゲルを作成し、含水ゲル層2の露出面5の表面積を変化させたときの薬剤発散効果を比較した。実施例として、実施例1(突起部の頂部間隔:4mm、高さ:2mm、表面積比:1.57)、実施例2(突起部の頂部間隔:2mm、高さ:1mm、表面積比:1.56)、実施例3(突起部の高さ:1mm、表面積比:1.2)、実施例4(突起部の高さ:0.5mm、表面積比:1.1)を使用し、比較例として、比較例1(表面積比:1.0)を使用した。
【0029】
具体的には、薬剤発散用シートの貼付面をホットプレート上に貼り付けて0.7Wで通電し、薬剤発散用シートの経時的な減量値を測定した。そして、減量値から、3%のl−メントールの発散量を計算した(各時間後は積算的に記載し、4時間を通しての1時間あたりの平均値を平均として示す)。この結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


さらに、鼻のつまりとのどの痛みを伴う症状の患者3名に対し、実施例1と比較例1について、額に貼付してから3時間後の官能評価を行ったところ、比較例1はやや鼻通りが緩和された程度と答えたのに対し、実施例1は鼻通りはすっきりして、のどの痛みも緩和されたと回答した。
【0031】
以上から、薬剤発散用シートの表面積比が増大するにつれて、薬剤発散量の絶対値も大きくなる傾向にあった他、官能的にも鼻づまりやのどの痛みが緩和され、薬剤としての効果が良好であったことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬剤発散用シートの概略平面図である。
【図2】図1に示す薬剤発散用シートの概略側面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る薬剤発散用シートの概略側面図である。
【図4】図1に示す薬剤発散用シートの使用状態を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1,11 薬剤発散用シート
2 含水ゲル層
3 貼付面
4,41 突起部
5 露出面
6 支持体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を含有する含水ゲル層を備える薬剤発散用シートであって、
前記含水ゲル層は、一方面が平滑な貼付面とされ、他方面が前記貼付面よりも表面積が大きい露出面とされている薬剤発散用シート。
【請求項2】
前記露出面の表面積の、前記貼付面の表面積に対する比が、1.2以上である請求項1に記載の薬剤発散用シート。
【請求項3】
薬剤を含有する含水ゲル層を備える薬剤発散用シートであって、
前記含水ゲル層は、貼付面と反対側の露出面に突起部を有する薬剤発散用シート。
【請求項4】
前記突起部は、帯状に複数形成され、互いに平行に配置されており、高さが1mm以上である請求項3に記載の薬剤発散用シート。
【請求項5】
前記含水ゲル層は、ゲル化剤としてカラギーナンを含み、含水率が90%以上である請求項1から4のいずれかに記載の薬剤発散用シート。
【請求項6】
前記含水ゲル層の露出面に、透湿性を有する支持体が積層されている請求項1から5のいずれかに記載の薬剤発散用シート。
【請求項7】
薬剤が、揮発性物質であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の薬剤発散用シート。
【請求項8】
薬剤が、メントールおよびその誘導体、サリチル酸およびその類似物質の一種または二種以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の薬剤発散用シート。
【請求項9】
前記露出面から発散した薬剤を鼻腔および/又は口腔から吸入可能な人体の部位に貼り付け可能に形成されている請求項1から8のいずれかに記載の薬剤発散用シート。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−104079(P2006−104079A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289343(P2004−289343)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】