説明

薬剤耐性増殖性疾患の治療剤

式Iに従うα,β−不飽和スルホン、スルホキシド及びスルホンアミド(式中、Ar1、Ar2、n、*及びRは、明細書中に規定した通りである)は、ATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性の増殖性疾患の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ATP競合性キナーゼインヒビターである治療剤に耐性の増殖性疾患の治療に関係する。
【背景技術】
【0002】
I.増殖性疾患の、ATP競合性キナーゼインヒビターに対する耐性
プロテインキナーゼは、細胞増殖を制御することが示されてきた。プロテインキナーゼの阻害が、増殖性疾患特に癌の新しい治療剤の開発の可能性を有する研究領域として浮かび上がってきている。
【0003】
プロテインキナーゼの阻害は、治療的には、ATP競合性の小型分子の投与によって達成されてきた。かかるインヒビターは、キナーゼの酵素活性をブロックし、それにより、細胞性基質のリン酸化を邪魔する。キナーゼの、ATP競合性の小型分子のインヒビター例を、表1に示す。
【0004】
ATP競合性キナーゼインヒビターは、異常を治療するために該インヒビターを投与する当該異常と関係する標的の増殖性細胞において選択圧を与えることが示されている。これらの選択圧は、しばしば、標的細胞における耐性の発生を生じる。耐性は、標的のキナーゼの突然変異から生じうる。
【表1】



【0005】
A.BCR−ABLと関連する増殖性疾患
1.この疾患の分子的基礎
慢性骨髄性白血病(CML)は、特異的な染色体異常(即ち、フィラデルフィア又はPh1染色体)と関連付けらた最初の疾患である。分子レベルにおいて、最も顕著な特徴は、プロトオンコジーンc−ablの、第9染色体長腕から第22染色体上のブレークポイントクラスター領域(bcr)への転座であり、これは、bcr−ablハイブリッド遺伝子の形成を生じる。c−ablプロトオンコジーンは、通常、チロシンキナーゼ活性を有するタンパク質(ABL)をコードする。bcr−ablハイブリッド遺伝子を有する細胞において、オンコジーンBCR−ABLが発現される。BCR−ABLのチロシンキナーゼ活性は、ABLのチロシンキナーゼ活性と比較して相当増大されている。
【0006】
フィラデルフィア染色体CML患者において一般的に見出されるこのBCR−ABL融合タンパク質は、約210kDaのタンパク質である(p210wt又はp210BCR−ABL)。この融合転写物は、典型的には、ABLエキソン2に結合したBCRエキソン13又は14から生じる。(Chissoe等(1995) Genomics 27:67-82)。それ故、p210wtのABL部分は、c−ABL遺伝子のエキソン2〜11よりなる。特定のBCL−ABLアレル中のABLチロシンキナーゼ部分における位置を同定するための文献中の一般的な慣用法は、エキソン1aを用いて選択的スプライシングから生じるc−ABLについてのアミノ酸番号付けを利用することである(タンパク質ID AAB60394.1及びGenBank AccessionナンバーU07563)。それ故、この明細書中で引用した突然変異が、この配列がSEQ ID NO:1として与えられたスプライシング変異体のアミノ酸番号付けに対してキーとなることはありそうなことである。SEQ ID NO:1の最初の26アミノ酸は、ABLエキソン1aによりコードされており、BCR−ABL融合タンパク質210wt中には見出されない。このエキソン2によりコードされるアミノ酸配列は、エキソン1aを利用する選択的スプライシングから生じる転写物から生じるプロトオンコジーンABLのE27から開始する。このプロテインキナーゼドメインは、ほぼIle242〜アミノ酸493からのものである。この番号付けシステムにおいて、ホスフェート結合ループ(p−ループ)は、アミノ酸249〜256であり、触媒領域は、アミノ酸361〜367であり、そして活性化ループは、アミノ酸380〜402である。
【0007】
ATP競合性チロシンキナーゼインヒビターイマチニブは、チロシンキナーゼABL、KIT及び血小板由来成長因子受容体(PDGFR)の阻害において大いに有効である。イマチニブの治療用投与は、CML及び急性リンパ芽球性リンパ腫(ALL)の治療における臨床的有効性を示す。BCR−ABLは又、特発性肺線維症にも関連付けられており、該線維症においては、ABLのイマチニブによる阻害は、細胞増殖を妨げることが示されている。Daniels等、J.Clin.Invest., 114, 1308-16 (2004)。しかしながら、イマチニブ処理した患者の一部は、イマチニブ耐性細胞が現れた場合に再発する。
【0008】
(2)BCR−ABLの変異は、イマチニブ耐性を与える
イマチニブ耐性は、キナーゼのイマチニブ結合部位における突然変異から生じうる。突然変異は、いわゆる「ゲートキーパー」残基、Thr315及び他のイマチニブと結合中に接触する残基(例えば、Phe317及びPhe359)を含むキナーゼの触媒ドメインで起こりうる。他の変異は、ATP結合ドメイン(p−ループ)及び活性化ループ(イマチニブ結合に際して起きるコンホメーション変化に関与するキナーゼ構造の領域)において起こる。
【0009】
BCR−ABLへのイマチニブの結合は、Thr315の水酸基への水素結合の形成を含む。315位におけるスレオニンのイソロイシンへの置換は、イマチニブ耐性CMLにおける最も頻繁なBCR−ABL変異の一つである。Thr315の一層大きい非水素結合性イソロイシンへの変化は、直接、イマチニブの結合を邪魔する。Thr315は、イマチニブの結合に必要であるが、ATPのBCR−ABLへの結合には必要とされない。従って、その触媒活性(従って、BCR−ABL癌タンパク質の腫瘍促進機能)は、T315I変異体において保存されている。
【0010】
イマチニブ結合は又、キナーゼのp−ループの変異によっても影響される。再発したCML及びPh+ALLの患者におけるBCR−ABL配列分析は、Tyr253及びGlu255におけるp−ループ変異を検出した。これらの位置におけるアミノ酸置換は、イマチニブ結合のためのゆがんだp−ループコンホメーションを邪魔しうる。これは、観察されたイン・ビボでの耐性及びBCR−ABLp−ループ変異例えばY253及びE255Kにより影響された患者の特に悪い予後と一致する(Branford等、Blood, 102, 276-283 (2003))。
【0011】
イマチニブ結合は、BCR−ABL活性化ループの不活性な、非リン酸化状態と関係している。この領域における変異例えばH396Rは、活性化ループの閉じたコンホメーションを不安定にし、それによりイマチニブ阻害を妨げる。
【0012】
イマチニブ結合部位から離れた別の点突然変異のグループは、このキナーゼドメインのカルボキシ末端ローブにある。このグループに入る最も頻繁に検出されるBCR−ABL変異は、M351Tである。M351T変異は、臨床的イマチニブ耐性の全症例の15〜20%を説明する(Hochhaus等、Leukemia, 18, 1321-31 (2004))。M351T変異は、イマチニブとの直接接触における残基の正確な配置に影響を与えるようである(Cowan-Jacob等、Mini Rev. Med. Chem., 4, 285-299 (2004)、及びShah等、Cancer Cell, 2, 117-125 (2002))。
【0013】
上記のBCR−ABL変異は、イマチニブ耐性と関係した殆どのBCR−ABL変異を説明する。しかしながら、イマチニブの存在下でBCR−ABL駆動される細胞増殖について選択する細胞スクリーニング手順と結合させた完全長BCR−ABLの飽和変異分析は、このキナーゼドメインの外側の突然変異がキナーゼのイマチニブとの相互作用を弱め、それにより標的の耐性に寄与することを明らかにした(Azam等、Cell, 112, 831-843 (2003))。
【0014】
ATP競合性キナーゼインヒビター例えばイマチニブに対する耐性の発生に、臨床的に関連するBCR−ABL突然変異は、次を含む:G250E、F317L、Y253F、H396R、F311L、M351T、T315I、H396P、E255V、Y253H、Q252H、M244V、L387M、E355G、E255K及びF359V。von Bubnoff等、Leukemia 17, 829-838 (2003);Cowan-Jacob等、Mini Rev. Med. Chem. 4, 285-299 (2004);Hochhaus等、Leukemia 18, 1321-1331 (2004);Nardi等、Curr. Opin. Hematol. 11, 35-43 (2004);Ross等、Br. J. Cancer 90, 12-19;及びDaub等、Nature Reviews Drug Discovery, 3, 1001-10 (2004)。
【0015】
治療剤PD180970、BMS−354825及びAP23464は、幾らかのイマチニブ耐性の増殖性疾患に対する有効性を示した(Daub等、前出)。しかしながら、如何なる薬剤も、BCR−ABL変異に対する有効性を示さなかった。その上、何れの薬剤も、T315I変異により与えられる耐性に対しては効果的でない。
【0016】
B.血小板由来成長因子(PDGF)と関連する増殖性疾患
血小板由来成長因子レセプター(PDGFR)は、別のチロシンキナーゼである。BCR−ABL癌タンパク質を生成する染色体転座と類似の分子機構が、イマチニブ感受性のPDGFR融合タンパク質PDGFRα(SEQ ID NO:2)及びPDGFRβ(SEQ ID NO:3)を生じることが示されている。PDGFRα及びPDGFRβは、特発性好酸球増加症候群及び慢性骨髄性単球性白血病にそれぞれ関係している(Apperley等、N. Engl. J. Med., 347, 481-487 (2002), 及び Cools等、N. Engl. J. Med, 348, 1201-14 (2003))。好酸球増加症候群において、好酸球の過剰増殖は、しばしば、FIP1L1とPDGFRαとの融合から生じるキメラのFip1様(FIP1L1)−PDGFRタンパク質の構成的チロシンキナーゼ活性から生じる。
【0017】
PDGFR及びプロトオンコジーンc−kitは、悪性線維性組織球腫(MFH)に関連している。イマチニブは、標的キナーゼの一方又は両方を発現する3つのMFH細胞株(TNMY1、GBS−1及びNara−F)における細胞増殖の阻害を示した(Kawamoto等、Anticancer Res., 24, 2675-9 (2004))。
【0018】
PDGFRβも又、前立腺癌(Hofer等、Neoplasia, 6, 503-12 (2004))、アンドロゲン依存性前立腺癌(Mathew等、J. Clin. Oncol., 22, 3323-9 (2004))及び皮膚線維肉腫(Klener等、Cas. Lek. Cesk., 143, 582-3 (2004))に関連してきた。
【0019】
PDGFR及びBCR−ABLは又、子宮内膜癌(EEC)及び子宮乳頭漿液性癌(UPSC)にも関連している(Slomovitz等、Gyneco. Oncol., 95, 32-36 (2004))。
【0020】
PDGFRβは又、脊索腫にも関連し、脊索腫の患者のグループにおいて、イマチニブの臨床的投与が、抗癌活性を有することが示されている(Casali等、Cancer, 1, 2086-97 (2004))。
【0021】
PDGFRα及びPDGFRβは、事実上すべてのグリオーマ細胞株において及びヒトの悪性星状細胞腫の新鮮な外科的分離物において発現される。イマチニブは、ヒトのグリア芽細胞腫細胞の成長を、ヌードマウスにおいてイン・ビボで阻害することが示されている(Kilic等、Cancer Res., 60, 5143-50 (2000))。
【0022】
一の研究において、検出可能なFIP1L1−PDGFR遺伝子融合物を用いてイマチニブ治療された5人の患者の内の5人は、完全な血液学的軽減を経験した(Cools等、同書)。これらの5人の患者の1人は、結局、再発して、イマチニブに耐性であることが見出された。このイマチニブ耐性は、αPDGFRαATP結合部位における点突然変異に帰せられた。スレオニンのイソロイシンへの置換(T674I)は、BCR−ABLのゲートキーパー残基のT315I変異と同等の位置に起きる。
【0023】
BCR−ABLのゲートキーパー残基は、PDGFR、KIT、EGFR、SRC及びP38を含む幾つかのキナーゼにおけるゲートキーパー残基に対応する。キナーゼ関連疾患の治療における臨床的前進にもかかわらず、臨床的に意味のある変異は、PDGFR、KIT及びEGFRのキナーゼドメイン中で同定されてきた。これらの突然変異の幾つかは、BCR−ABLに起きる変異に対応しており、ゲートキーパー残基を含んでいる。一層大きい残基例えばイソロイシン又はメチオニンへのゲートキーパー残基の変異は、キナーゼp38、SRC及びEGFRにおいて、それぞれATP競合性インヒビターSB203580、PP1及びPD153035に対する耐性を与えることが示されている(Eyers等、Chem. Biol., 5, 321-328 (1998);Liu等、Chem. Biol., 8, 257-266 (1999);及びBlencke等、J. Biol. Chem., 278, 15435-40 (2003))。
【0024】
C.KITと関連する増殖性疾患
胃及び小腸の間充織腫瘍である胃腸間質腫瘍(GIST)は、KITチロシンキナーゼレセプター(SEQ ID NO:4)を発現する。GIST細胞は、しばしば、KITキナーゼドメイン中に、構成的キナーゼへと導く活性化点突然変異を含む。マウスにおける活性化KIT変異の発現は、ヒトのGISTに類似の腫瘍を引き起こすことが示された(Somsmer等、Proc.Natl.Acad.Sci., 100, 6706-11 (2003))。c−kit発現は又、小脳の高度に侵襲性の未分化神経外胚葉性腫瘍であり、最も一般的な子供の悪性の中枢神経系の腫瘍である髄芽細胞腫にも関連している。10の髄芽細胞腫の腫瘍試料の研究において、すべては、c−kitを発現した(Chilton-Macneill等、Pediatr. Dev. Pathol., 7, 493-8 (2004))。c−kitは又、多くの子宮平滑筋肉腫において発現されることも示されている(Raspollini等、Clin. Cancer Res., 10, 3500-3 (2004))。
【0025】
イマチニブに対する二次的な耐性の形成が、少なくとも一人のGIST患者において報告されている。この耐性は、KITキナーゼドメイン中のT670I変異により引き起こされ;この変異部位は、BCR−ABLのT315Iゲートキーパー残基に対応する(Demitri等、N. Engl. J. Med, 347, 472-480 (2002))。この変異は、継続されるイマチニブ治療中に進行した固形腫瘍の転移病巣に限られ、他の病巣は依然としてイマチニブ治療に応答した(Tamborini等、Gastroenterology, 127, 294-299 (2004))。
【0026】
別の二次的KIT変異であるY823Dは、イマチニブ治療中に現れて有意のイマチニブ耐性を与えることが示されている。この点突然変異は、ABL活性化ループ中の主要リン酸化部位のTyr393に対応する位置にある(Wakai等、Br. J. Cancer, 90, 2059-61 (2004))。野生型ABLのこの部位のリン酸化は、活性化ループの不活性コンホメーションを不安定にするのに役立つ(Schindler等、Science, 289, 1938-42 (2000))。Y823D KIT変異は、ABLのリン酸化されたTyr393を真似ることができ、それにより類似のイマチニブ耐性を与えることができるということが示唆されている(Daub等、Nature Reviews Drug Discovery, 3, 1001-10 (2004))。
【0027】
他の変異は、KIT活性化ループにおいて特徴付けられてきた。KITタンパク質中のキナーゼ活性化D816V変異は、主なイマチニブ耐性を与え、ヒトの肥満細胞症における病気の原因として同定されてきた(Ma等、Blood, 99, 2059-61 (2002))。
【0028】
D.EGFRと関連する増殖性疾患
上皮成長因子レセプター(EGFR、SEQ ID NO:5)は、他のチロシンキナーゼである。ゲフィチニブ(EGFRインヒビター)は、確立された化学療法養生法に応答しない進行した非小細胞肺癌(NSCLC)の治療につき承認されている(Muhsin等、Nature Rev. Drug Discov., 2, 515-516 (2003)及びCohen等、Clin. Cancer Res., 10, 1212-18 (2004))。イマチニブ不従順T315I BCR−ABL変異体へと導くCからTへの単一ヌクレオチドの変異は又、対応するゲートキーパー残基Thr766をメチオニン残基で置き換えること(T766M)によりゲフィニチブに対してEGFRを劇的に不安定化させる(Blenke等、Chem. Biol., 11, 691-791 (2004)及びBlenke等、J. Biol. Chem, 278, 15435-40 (2003))。
【0029】
II.イマチニブ耐性を克服するための従来の試み
ピリド[2,3−d]ピリミジン例えばPD180970(表1)は、BCR−ABL活性化ループ変異体例えばH396Pの癌促進活性を抑制することが示されている(La Posee等、Cancer Res., 62, 7149-53 (2002)及びvon Bubnoff等、Cancer Res., 9, 1267-73 (2003))。これらの化合物は又、臨床的に一般的なTyr253又はGlu255と関係するp−ループ変異を含むBCR−ABLをも阻害する。PD180970は又、M351T変異体(この変異は、イマチニブ耐性CMLの症例の約15〜20%を説明する)を含むBCR−ABLを阻害することも示されている(Kantarjian等、Blood, 101, 473-475 (2003))。
【0030】
SRC(記載された最初のプロトオンコジーンタンパク質)は、非レセプターチロシンキナーゼである。SRC及びABLインヒビターのBMS−354825及びAP23464(表1)は、イマチニブ耐性と関係するある種の臨床的に一般的な変異を含むBCR−ABLの阻害において、ピリド[2,3−d]ピリミジンに類似した活性を示している(Shah等、Science, 305, 399-401 (2004)及びO'Hare等、Blood, 104, 2532-39 (2004))。
【0031】
III.α,β−不飽和スルホン、スルホキシド及びスルホンアミド
ある種のα,β−不飽和スルホン、スルホキシド及びスルホンアミド、特に、スチリルベンジルスルホン、スチリルベンジルスルホキシド及びスチリルスルホンアミドは、抗増殖性、放射線防護的及び化学防護的活性を有することが示されている。米国特許第6,599,932号、6,576,673号、6,548,553号、6,541,475号、6,486,210号、6,414,034号、6,359,013号、6,201,154号、6,656,973号及び6,762,207号を参照されたい。しかしながら、これらのα,β−不飽和スルホン、スルホキシド及びスルホンアミドの何れも、ATP競合性キナーゼインヒビターを用いる治療に耐性のキナーゼ依存性の増殖性疾患の治療において活性を有することは報告されていない。
【0032】
キナーゼ変異により引き起こされる薬物耐性の克服において幾らかの進歩がなされた。しかしながら、ATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性の増殖性疾患特に癌を治療することができ、かかる耐性の発生を防止することのできる新しい治療法が必要とされている。加えて、ATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性の増殖性疾患特に癌の発生を防止又は遅延させることのできる新しい治療法が必要とされている。
【0033】
発明の概要
この発明の一具体例により、個人における、ATP競合性のキナーゼインヒビターを用いる治療に耐性の、キナーゼ依存性の増殖性疾患特に癌を治療する方法を提供する。この方法は、かかる治療の必要な個人に、有効量の少なくとも一種の下記式Iの化合物を投与することを含む:
【化1】

(式中、Ar1及びAr2は、独立に、置換された及びされてないアリール及び置換された及びされてないヘテロアリールから選択し;
Xは、N又はCHであり;
nは、1又は2であり;
Rは、−H又は−(C1〜C8)ヒドロカルビルであり;そして
*は、XがCHで且つRが−H以外の場合には、Xの炭素原子上の置換基のコンホメーションが、R−、S−又はR−とS−の任意の混合物であり;又はその塩であることを示し;
但し、XがNである場合には、nは2である)。
【0034】
この発明の他の具体例により、キナーゼ依存性の増殖性疾患を病んでいる個人において、ATP競合性キナーゼインヒビターの投与を含む治療に対する耐性の発生を防ぎ又は遅延させる方法を提供する。この方法は、かかる治療を必要とする個人に、有効量の上記の式Iに従う少なくとも一種の化合物を投与することを含む。一具体例によれば、この方法は、更に、有効量の少なくとも一種のATP競合性キナーゼインヒビターの投与を含む。
【0035】
キナーゼ依存性の増殖性疾患の、ATP競合性キナーゼインヒビターを用いる治療に対する耐性は、キナーゼ依存性の増殖性疾患と関連するキナーゼのタンパク質配列中の突然変異から生じる。
【0036】
この発明の一具体例によれば、この治療されるキナーゼ依存性の増殖性疾患は、少なくとも一種のATP競合性BCR−ABLインヒビターに耐性である。
【0037】
この発明の一具体例によれば、BCR−ABLのATP競合性インヒビターに対する耐性は、BCR−ABLタンパク質のキナーゼドメイン内の少なくとも一つのアミノ酸残基の変異から生じる。幾つかの具体例によれば、この耐性は、BCR−ABLのp−ループ内の少なくとも一つの残基の突然変異から生じる。特定の具体例によれば、この変異は、BCR−ABLのTyr253又はGlu255の変化を含む。他の具体例によれば、この耐性は、BCR−ABLの活性化ループ内の少なくとも一つの残基の変異から生じる。特定の具体例によれば、この変異は、His396の変化である。
【0038】
好適具体例によれば、ATP競合性BCR−ABLインヒビターは、イマチニブである。
【0039】
他の具体例によれば、BCR−ABLのATP競合性インヒビターに対する耐性は、F317L、H396R、M351T、H396P、Y253H、M244V、E355G、F359V、G250E、Y253F、F311L、T315I、E255V、Q252H、L387M、E255Kよりなる群から選択する少なくとも一つの変異を含むBCR−ABLタンパク質内の突然変異から生じる。
【0040】
この発明の幾つかの具体例により、ATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性のキナーゼ依存性の増殖性疾患は、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性リンパ腫、特発性肺線維症、特発性好酸球増加症候群、慢性骨髄性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、前立腺癌、アンドロゲン依存性前立腺癌、皮膚線維肉腫、子宮内膜癌、子宮乳頭漿液性癌、脊索腫、グリオーマ、悪性星状細胞腫、グリア芽細胞腫細胞、胃腸間質腫瘍、髄芽細胞腫、子宮平滑筋肉腫、及び非小細胞肺癌よりなる群から選択する。
【0041】
この発明の一具体例により、キナーゼ依存性の増殖性疾患は、KITの少なくとも一のATP競合性インヒビターに対して耐性であり、この耐性は、KITタンパク質内の少なくとも一つのアミノ酸残基の突然変異から生じる。一具体例により、この変異は、KITキナーゼドメイン内にある。
【0042】
ある具体例により、このKITタンパク質内の変異は、Thr670、Tyr823又はAsp816の少なくとも一つの変化を含む。他の具体例によれば、このKITタンパク質内の変異は、T670I、Y823D及びD816Vよりなる群から選択する少なくとも一つの変異を含む。
【0043】
この発明の一具体例により、キナーゼ依存性の増殖性疾患は、EGFRの少なくとも一つのATP競合性インヒビターに耐性であり、この耐性は、EGFRタンパク質内の少なくとも一つのアミノ酸残基の変異から生じる。一具体例によれば、この変異は、EGFRキナーゼドメイン内にある。
【0044】
ある具体例により、EGFR変異は、Thr766の変化を含む。一つのかかる変異は、変異T766Mである。
【0045】
この発明の他の具体例によれば、このキナーゼ依存性の増殖性疾患は、PDGFRαの少なくとも一つのインヒビターに耐性であり、この耐性は、PDGFRαタンパク質内の少なくとも一つのアミノ酸残基の変異から生じる。一具体例によれば、この変異は、PDGFRαキナーゼドメイン内にある。
【0046】
ある具体例によれば、このPDGFRα変異は、Thr674の変化を含む。一つのかかる変異は、T674Iの変異である。
【0047】
この発明の他の具体例によれば、このキナーゼ依存性の増殖性疾患は、PDGFRβの少なくとも一つに耐性であり、その耐性は、PDGFRβタンパク質内の少なくとも一つのアミノ酸残基の変異から生じる。一具体例により、この変異は、PDGFRαキナーゼドメイン内にある。
【0048】
ある具体例によれば、このPDGFRβ変異は、Thr681の変化を含む。一つのかかる変異は、T681Iの変異である。
【0049】
この発明の一具体例により、式I中の置換されたアリール又はヘテロアリールAr1上の置換基は、独立に、ハロゲン、−(C1−C8)ヒドロカルビル、−C(=O)R2、−NR22、−NHC(=O)R3、−NHSO23、−NH(C2−C6)アルキレン−C(=O)R6、−NHCR24C(=O)R6、−C(=O)OR2、−C(=O)NR22、−NO2、−CN、−OR2、−OC(=O)R3、−OSO23、−O(C2−C6)アルキレン−C(=O)R6、−OCR24C(=O)R6、−P(=O)(OR2)2、−OP(=O)(OR2)2、−O(C2−C6アルキレン)N(C1−C3)アルキル)2、−NHC(=NH)NHR2、−(C1−C6)ハロアルキル、−O(C1−C6)ハロアルキル;−SO2NH2;及び−N=CH−R7よりなる群から選択することができ;式I中の置換されたアリール又はヘテロアリールAr2上の置換基は、独立に、−(C1−C8)ヒドロカルビル、−C(=O)R2、ハロゲン、−NO2、−CN、−OR2、−C(=O)OR2、−NR22、−(C1−C6)ハロアルキル;−SO2NH2;及び−O(C1−C6)ハロアルキルよりなる群から選択することができる;
(式中、
各R2は、独立に、−H及び−(C1−C8)ヒドロカルビルよりなる群から選択され;
各R3は、独立に、−(C1−C8)ヒドロカルビル、−O(C1−C8)ヒドロカルビル、置換された及びされてないアリール、置換された及びされてないヘテロシクリル(C1−C3)アルキル、置換された及びされてないヘテロアリール(C1−C3)アルキル、−(C2−C10)へテロアルキル、−(C1−C6)ハロアルキル、−CR24NHR5、−NR22、−(C1−C3)アルキレンNH2、−(C1−C3)アルキレンN((C1−C3)アルキル)2、−(C1−C3)ペルフルオロアルキレン−N((C1−C3)アルキル)2、−(C1−C3)アルキレン−N+((C1−C3)アルキル)3、−(C1−C3)アルキレン−N+(CH2CH2OH)3、−(C1−C3)アルキレン−OR2、−(C1−C4)アルキレン−CO22、−(C1−C4)アルキレン−C(=O)ハロゲン、ハロ(C1−C3)アルキル−、−(C1−C3)アルキレン−C(=O)(C1−C3)アルキル、及び−(C1−C4)ペルフルオロアルキレン−CO22よりなる群から選択され;
各R4は、独立に、−H、−(C1−C6)アルキル、−(CH2)3−NH−C(NH2)(=NH)、−CH2C(=O)NH2、−CH2CO22、−CH2SH、−(CH2)C(=O)−NH2、−(CH2)CO22、−CH2−(2−イミダゾリル)、−(CH2)4−NH2、−(CH2)2−S−CH3、フェニル、−CH2−フェニル、−CH2−OH、−CH(OH)−CH3、−CH2−(3−インドリル)、及び−CH2−(4−ヒドロキシフェニル)よりなる群から選択され;
各R5は、独立に、−H,−C(=O)(C1−C7)ヒドロカルビル及び1〜3アミノ酸を含むカルボキシ末端結合したペプチジル残基よりなる群から選択され、該ペプチジル残基の末端アミノ基は、−NH2、−NHC(=O)(C1−C6)アルキル、−NH(C1−C6)アルキル、−N(C1−C6アルキル)2及び−NHC(=O)O(C1−C7)ヒドロカルビルよりなる群から選択する官能基として存在し;
各R6は、独立に、−OR2、−NR22、及び1〜3アミノ酸を含むアミノ末端結合したペプチジル残基よりなる群から選択され、該ペプチジル残基の末端カルボキシル基は、−CO22及び−C(=O)NR22よりなる群から選択する官能基として存在し;そして
各R7は、独立に、置換された及びされてないアリール及び置換された及びされてないヘテロアリールよりなる群から選択され;
但し、Ar1及びAr2上の置換基の最大数は、それらの置換基が結合している環内の置換可能な水素原子の数に等しい。
【0050】
3又はR7を含む置換されたアリール又はヘテロアリール基上の置換基は、好ましくは、−(C1−C6)アルキル、−(C1−C6)アルコキシ、ハロゲン、−C(=O)(C1−C6)アルキル、−NH2、−NH(C1−C6)アルキル、−N(C1−C6)アルキル)2、−NHC(=O)(C1−C6)アルキル、−NO2、−CN、(C1−C6)ハロアルキル、−(C1−C6)アルキレン−NH2、−CO2H、CONH2、C(=N)NH2、及びヘテロシクリル(C1−C6)アルキルよりなる群から選択され;ここに、ヘテロシクリル(C1−C6)アルキルを含むヘテロシクリル環は、適宜、−(C1−C6)アルキル又はC(=O)(C1−C6)アルキルにより置換されている。
【0051】
3を含む置換されたヘテロシクリル基上の置換基は、好ましくは、独立に、−(C1−C6)アルキル、−(C1−C6)アルコキシ、ハロゲン、−C(=O)(C1−C6)アルキル、−CO2H、及びCONH2よりなる群から選択する。
【0052】
この発明の幾つかの好適具体例によれば、Ar1は、フェニルである。この発明の他の好適具体例によれば、Ar2は、フェニルである。この発明の更に別の好適具体例によれば、Ar1及びAr2の両者は、フェニルである。
【0053】
好ましくは、Ar1及びAr2の両者がフェニルである場合には、Ar1及びAr2の両者は、少なくとも一置換されている。
【0054】
この発明の幾つかの具体例によれば、式Iの化合物中のAr1及びAr2を含むアリール及びヘテロアリール基は、一、二又は三置換されている。他の具体例によれば、Ar1及びAr2を含むアリール及びヘテロアリール基は、すべての置換可能な位置で置換されている。
【0055】
Rは、好ましくは、−H又は−(C1−C6)アルキル、最も好ましくは−H又は−(C1−C6)アルキルである。
【0056】
好適具体例によれば、置換されたアリール又はヘテロアリールAr1上の置換基は、独立に、ハロゲン、−NR22、−NHCR24C(=O)R6、−OR2、−OCR24C(=O)R6、及び−OP(=O)(OR2)2よりなる群から選択され;そして置換されたアリール又はヘテロアリールAr2上の置換基は、独立に、(C1−C8)ヒドロカルビル、ハロゲン、−OR2、−C(=O)OR2、及び−NR22よりなる群から選択される。
【0057】
一層好適な具体例によれば、置換されたアリール又はヘテロアリールAr1上の置換基は、独立に、ハロゲン、−NH2、−NHCHR4C(=O)OR2、−OH、−OCHR4C(=O) OR2、及び−OP(=O)(OR2)2よりなる群から選択され;そして置換されたアリール又はヘテロアリールAr2上の置換基は、独立に、(C1−C6)アルキル、ハロゲン、−OR2、−C(=O)OR2、及び−NR22よりなる群から選択される。
【0058】
最も好適な具体例によれば、置換されたアリール又はヘテロアリールAr1上の置換基は、独立に、ハロゲン、−NH2、−NHCH(CH3)C(=O)OH、−NHCH2C(=O)OH、−OH、−OCH(CH3)C(=O)OH、及び−OCH2C(=O)OHよりなる群から選択され;そして置換されたアリール又はヘテロアリールAr2上の置換基は、独立に、−(C1−C3)アルキル、ハロゲン、−O(C1−C6)アルキル、−C(=O)OR2、及び−NR22よりなる群から選択される。
【0059】
式Iに従う好適化合物には、例えば、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸;(ラセミ)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(R)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(S)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルフィニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸;(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルフィニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(E)−2,4,6−トリメトキシスチリル−N−(3−カルボキシメチルアミノ−4−メトキシ−フェニル)スルホンアミド;(S)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−フェニル酢酸;(R)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−フェニル酢酸;(ラセミ)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−フェニル酢酸;(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−メチルプロパン酸;(E)−1−(2−(4−ブロモベンジルスルホニル)ビニル)−2,4−ジフルオロベンゼン;及び製薬上許容しうるこれらの塩が含まれる。
【0060】
この発明のある具体例によれば、式Iに従う化合物は、反対のエナンチオマーを実質的に含まない単離された光学異性体を含む。一つの好適な下位具体例により、この単離された光学異性体は、*により示された原子における(R)−絶対配置を有し、実質的に(S)−エナンチオマーを含まない。他の好適な下位具体例によれば、この単離された光学異性体は、*により示された原子における(S)−絶対配置を有し、実質的に(R)−エナンチオマーを含まない。
【0061】
この発明は又、式Iに従う化合物又は製薬上許容しうるその塩の、(1)個人におけるキナーゼ依存性の増殖性疾患(該疾患は、ATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性である)を治療し又は(2)キナーゼ依存性の増殖性疾患を病んでいる個人においてATP競合性キナーゼインヒビターの投与を含む治療に対する耐性の発生を予防若しくは遅延させる医薬の製造のための利用にも向けられている。
【0062】
定義
用語「個人」は、ヒト及び非ヒト動物を包含する。
【0063】
表現「有効量」は、増殖性疾患特に癌を病んでいる患者の治療との関連において、異常に高速度で増殖している細胞の成長を阻止し或はかかる細胞好ましくは癌細胞のアポトーシスを誘導し、増殖性疾患特に癌を病んでいる患者に投与した場合に増殖性細胞に対する治療上有用な選択的細胞傷害性効果を生じる式Iの化合物の量を指す。用語「有効量」は、異常に増殖性の細胞の成長を阻止し又はかかる細胞のアポトーシスを誘導する量で、活性な代謝産物に代謝されうる式Iの化合物の量を含む。
【0064】
表現「増殖性疾患」は、身体によって、異型に促進された速度で細胞が作られる疾患を意味する。表現「キナーゼ依存性の増殖性疾患」は、異常に速い細胞増殖が、プロテインキナーゼの発現によって駆動される増殖性疾患を指す。
【0065】
用語「腫瘍」は、異常な細胞増殖から生じて、生理的機能に役立たない組織の異常な成長を意味する。腫瘍は、良性腫瘍即ち周囲組織を侵襲せず個体の生命を危険に曝さない腫瘍であってよい。腫瘍は、癌性であってよい。癌性腫瘍は、悪性即ち周囲組織を侵襲し且つ/又は転移即ち元の腫瘍の部位から離れた身体の組織に広がる傾向があるものである。
【0066】
表現「キナーゼインヒビター」は、キナーゼのキナーゼ活性を阻害する作用をする薬剤を指す。
【0067】
表現「ATP競合性のキナーゼインヒビター」は、キナーゼを、そのキナーゼ上のATP結合部位とATPを競合することによって阻害するキナーゼインヒビターを意味する。
【0068】
用語「アルキル」は、それ自体又は他の置換基の部分として、別途示された場合を除いて、(Cx−Cy)アルキルなどの表現において示された炭素数を有する直鎖、分枝鎖又は環状鎖の飽和炭化水素基(2以上の基を含む)を意味する。表現(Cx−Cy)アルキル(式中、x<y)は、最少でx炭素原子、最大でy炭素原子を含むアルキル鎖を表している。例には、下記が含まれる:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル及びシクロプロピルメチル。好ましいのは、(C1−C3)アルキルであり、特に、エチル、メチル及びイソプロピルである。
【0069】
用語「シクロアルキル」は、少なくとも一つの環状構造を含むアルキル基を指す。例には、シクロヘキシル、シクロペンチル、ノルボルニル、アダマンチル及びシクロプロピルメチルが含まれる。好ましいのは、(C3−C12)シクロアルキルであり、特に、シクロペンチル、ノルボルニル及びアダマンチルである。
【0070】
用語「アルキレン」は、示された炭素数を有する2価のアルキル基を指す(即ち、(C1−C6)は、−CH2−;−CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−;−CH2CH2CH2CH2CH2−;及び−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−を意味し、分枝した2価の構造例えば−CH2CH(CH3)CH2CH2−及び−CH(CH3)CH(CH3)−、及び2価の環状構造例えば1,3−シクロペンチルも含む)。
【0071】
用語「アリーレン」は、それ自体又は他の置換基の部分として、別途示されていない限り、2価のアリール基を意味する。好ましいのは、2価のフェニル基即ち「フェニレン」基、特に、1,4−二価フェニル基である。
【0072】
用語「ヘテロアリーレン」は、それ自体又は他の置換基の部分として、別途示されていない限り、2価のヘテロアリール基を意味する。好ましいのは、5員又は6員の単環式ヘテロアリーレンである。一層好ましいのは、ピリジン、ピペラジン、ピリミジン、ピラジン、フラン、チオフェン、ピロール、チアゾール、イミダゾール及びオキサゾールよりなる群から選択する二価のヘテロアリール環を含むヘテロアリーレン部分例えば2,5−二価ピロール、チオフェン、フラン、チアゾール、オキサゾール、及びイミダゾールである。
【0073】
用語「アルコキシ」は、単独で又は他の用語と組み合わせて用いるが、別途示されていない限り、上記のように、酸素原子を介して分子の残りと結合された示された数の炭素原子を有するアルキル基例えばメトキシ、エトキシ、1−プロポキシ、2−プロポキシ(イソプロポキシ)及び一層高分子の同族体及び異性体を意味する。好ましいのは、(C1−C6)アルコキシ、特に、エトキシ及びメトキシである。
【0074】
この発明の化合物中に出現しうるアルキル基及びアルコキシ基における炭素鎖は、環状、直鎖又は分枝していてよいが、直鎖が好ましい。表現「(C1−C6)アルキル」は、従って、1、2、3、4、5又は6炭素を含むアルキル基に及ぶ。表現「(C1−C6)アルコキシ」は、従って、1、2、3、4、5又は6炭素を含むアルコキシ基に及ぶ。
【0075】
用語「ヒドロカルビル」は、水素及び炭素原子のみを含む任意の部分を指す。この用語は、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール及びベンジル基を包含する。好ましいのは、(C1−C7)ヒドロカルビルである。一層好ましいのは、(C1−C6)アルキル及び(C3−C12)シクロアルキルである。
【0076】
用語「ヘテロアルキル」は、それ自体又は他の用語との組合せにおいて、別途示されない限り、示された数の炭素原子及び、O、N及びSよりなる群から選択した1つ又は2つのヘテロ原子よりなる安定な直鎖又は分枝鎖の基を意味し、ここに、窒素及び硫黄原子は、適宜、酸化されていてよく、窒素ヘテロ原子は、適宜、四級化されていてよい。この(これらの)ヘテロ原子は、ヘテロアルキル基の任意の位置(ヘテロアルキル基の残りとそれが結合している断片との間を含む)に位置してよく、ヘテロアルキル基中の最も遠位の炭素原子に結合していてよい。例には、次が含まれる:−O−CH2−CH2−CH3、−CH2−CH2CH2−OH、−CH2−CH2−NH−CH3、−CH2−S−CH2−CH3、及び−CH2CH2−S(=O)−CH3。最大2ヘテロ原子まで連続させることができる、例えば、−CH2−NH−OCH3、又は−CH2−CH2−S−S−CH3
【0077】
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、それら自体又は他の置換基の部分として、別途示されない限り、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素原子を意味する。
【0078】
用語「芳香族の」は、少なくとも一つの芳香族性(4n+2)の非局在化π(パイ)電子を有する不飽和多環を有する炭素環又はヘテロ環を指す。用語「芳香族の」は、炭素環原子のみを含む環系を包含するだけでなく、少なくとも一つの非炭素原子を環原子として含む系をも包含することを意図している。少なくとも一つの非炭素原子を含む系は、「ヘテロアリール」又は「ヘテロ芳香族」系として知られているものであってよい。用語「芳香族の」は、従って、「アリール」及び「ヘテロアリール」環系を包含するものと認められる。
【0079】
用語「アリール」は、単独で又は他の用語と組み合わせて用いられるが、別途示されていない限り、少なくとも一つの環(典型的には、1、2又は3環)を含む炭素環式芳香族系を意味し、かかる環は、ビフェニルのように懸垂様式で一緒に結合することができ、又はナフタレンのように融合してよい。例には、フェニル、アントラシル、及びナフチル(置換されていてもされてなくてもよい)が含まれる。前述のアリール部分の一覧は、代表することを意図したものであり、制限するものではない。
【0080】
用語「ヘテロ環」又は「ヘテロシクリル」又は「ヘテロ環式」は、それ自体又は他の置換基の部分として、別途示されない限り、置換されてない又はされた、安定な、炭素原子及びN、O及びSよりなる群から選択する少なくとも一つのヘテロ原子よりなる単環式又は多環式のヘテロ環系を意味し、ここに、窒素及び硫黄ヘテロ原子は、適宜、酸化されていてよく、窒素原子は、適宜、四級化されていてよい。このヘテロ環系は、別途示されない限り、安定な構造を与える任意のヘテロ原子又は炭素原子で結合することができる。
【0081】
ヘテロシクリル基には、単環式及び多環式ヘテロアリール基、及び芳香族でない単環式及び多環式基例えば飽和及び部分飽和のもの並びに単環式及び多環式の部分的に飽和の単環式及び多環式基が含まれる。
【0082】
用語「ヘテロアリール」又は「ヘテロ芳香族」は、芳香族性を有するヘテロ環を指し、単環式ヘテロアリール基と多環式ヘテロアリール基の両方を包含する。多環式ヘテロアリール基は、少なくとも一つの部分的に飽和した環を含むことができる。
【0083】
単環式ヘテロアリール基の例には、次のものが含まれる:ピリジル;ピラジニル;ピリミジニル、特に2−及び5−ピリミジル;ピリダジニル;チエニル;フリル;ピロリル、特に2−ピロリル及び1−アルキル−2−ピロリル;イミダゾリル、特に2−イミダゾリル;チアゾリル、特に2−チアゾリル;オキサゾリル、と国2−オキサゾリル;ピラゾリル、特に3−及び5−ピラゾリル、イソチアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、1,3,4−トリアゾリル、テトラゾリル、1,2,3−チアジアゾリル1,2,3−オキサジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル;及び1,3,4−オキサジアゾリル。
【0084】
芳香族でない単環式ヘテロ環の例には、飽和単環式の群例えばアジリジン、オキシラン、チイラン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリン、ピラゾリジン、ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、スルフォラン、テトラヒドロフラン、チオファン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、テトラヒドロピラン、ホモピペラジン、ホモピペリジン、1,3−ジオキセパン、ヘキサメチレンオキシド及びピペリジン;及び部分的に飽和した単環式の群例えば1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1,4−ジヒドロピリジン、2,3−ジヒドロフラン、2,5−ジヒドロフラン、2,3−ジヒドロピラン、1,2−ジヒドロチアゾール、1,2−ジヒドロオキサゾール、1,2−ジヒドロイミダゾール及び4,7−ジヒドロ−1,3−ジオキセピンが含まれる。
【0085】
多環式ヘテロアリール基の例には、次のものが含まれる:インドリル、特に3−、4−、5−、6−及び7−インドリル、キノリル、イソキノリル、特に1−及び5−イソキノリル、シノリニル、キノクサリニル、特に2−及び5−キノクサリニル、キナゾリニル、フタラジニル、1,8−ナフチリジニル、1,4−ベンゾジオキサニル、クマリン、ベンゾフリル、特に3−、4−、1,5−ナフチリジニル、5−、6−及び7−ベンゾフリル、1,2−ベンズイソキサゾリル、ベンゾチエニル、特に3−、4−、5−、6−及び7−ベンゾチエニル、ベンゾキサゾリル、ベンズチアゾリル、特に2−ベンゾチアゾリル及び5−ベンゾチアゾリル、プリニル、ベンズイミダゾリル、特に2−ベンズイミダゾリル、ベンズトリアゾリル、チオキサンチニル、カルバゾリル、カルボリニル、アクリジニル、ピロリジニル、テトラヒドロキノリル、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリル、ジヒドロクマリニル、2,3−ジヒドロベンゾフリル;2,3−ジヒドロベンゾチエニル、N−メチル−2−インドリニル;及びインドリニル。
【0086】
非芳香族多環式ヘテロ環の例には、ピロリジジニル及びキノリジジニルが含まれる。
【0087】
非芳香族ヘテロ環式部分及びヘテロアリール部分の前述の一覧は、代表であって、制限することを意図したものではない。
【0088】
好適なヘテロアリール基は、2−、3−及び4−ピリジル;2−及び5−ピリミジニル;3−ピリダジニル;2−及び3−チエニル;2−及び3−フリル;ピロリル;特にN−メチルピロール−2−イル;2−イミダゾリル;2−チアゾリル;2−オキサゾリル;ピラゾリル;特に3−及び5−ピラゾリル;イソチアゾリル;1,2,3−トリアゾリル;1,2,4−トリアゾリル;1,3,4−トリアゾリル;テトラゾリル、1,2,3−チアジアゾリル;1,2,3−オキサジアゾリル;1,3,4−チアジアゾリル及び1,3,4−オキサジアゾリル;インドリル、特に2−、3−、4−、5−、6−及び7−インドリル;シノリニル;キノクサリニル、特に2−及び5−キノクサリニル;キナゾリニル、特に2−、5−、6−、7−及び8−キナゾリニル;フタラジニル;1,8−ナフチリジニル;1,5−ナフチリジニル、特に1,5−ナフチリジン−3−イル及び1,5−ナフチリジン−4−イル;1,4−ベンゾジオキサニル;クマリニル;ベンゾフリル、特に2−、3−、5−、6−及び7−ベンゾフリル;1,2−ベンズイソキサゾリル、ベンゾチエニル、特に2−、3−、4−、5−、6−及び7−ベンゾチエニル;ベンゾキサゾリル;ベンズチアゾリル、特に2−ベンゾチアゾリル及び5−ベンゾチアゾリル;プリニル;ベンズイミダゾリル、特に2−ベンズイミダゾリル;ベンズトリアゾリル;チオキサンチニル;カルバゾリル;カルボリニル;及びアクリジニル、特に6−アクリジニルである。
【0089】
一層好ましいヘテロアリール基は、2,3−及び4−ピリジル;2−及び3−チエニル;2−及び3−フリル;2−ピロリル;2−イミダゾリル;2−チアゾリル;2−オキサゾリル;2−及び3−インドリル;2−及び3−ベンゾフリル;3−(1,2−ベンズイソキサゾリル);2−及び3−ベンゾチエニル;2−ベンゾキサゾリル;1−及び2−ベンズイミダゾリル、2−、3−及び4−キノリル;及び2−及び5−ベンズチアゾリルである。最も好ましいヘテロアリール基は、2−及び3−インドリル;2−及び3−ピロリル、2−及び3−ベンゾフリル;及び2−及び3−ベンゾチエニルである。
【0090】
用語「置換された」は、原子又は原子団が、他の基に結合した置換基として水素に置き換わったことを意味する。アリール及びへテロアリール基に関して、用語「置換された」は、任意のレベルの置換即ちモノ−、ジ−、トリ−、又はペンタ−置換(かかる置換が可能な場合)を指す。これらの置換基は、独立に選択されて、置換は、化学的に許容しうる任意の位置であってよい。
【0091】
α,β−不飽和の(アリール又はヘテロアリール)スルホン、スルホキシド及びスルホンアミドは、二重結合の存在から生じる異性により特徴付けられる。この異性は、一般に、シス−トランス異性と呼ばれるが、E及びZ命名法を用いるさらなる包括的な命名規則がある。これらの化合物は、Cahn-Ingold-Prelogシステム、IUPAC1974推奨、区分E:立体化学、有機化学命名法、John Wiley & Sons、Inc.、New York、NY、第4版.、1992、p.127-138によって命名される。このシステムの命名法を使用し、二重結合について4個の基が一連の規則に従って優先順位が決められる。続いて、二重結合の同じ側に2個の高順位の基を有する異性体は、Z(ドイツ語の単語“zusammen”、一緒にという意味)と呼ばれる。2個のより高順位の基が二重結合の反対側にある異性体は、E(ドイツ語の単語“entgegen”、“反対”を意味する)と呼ばれる。従って、Aが一番低い順位でありDが一番高い順位として、A>B>C>Dとして炭素−炭素二重結合上の4個の基を順位付けする場合、異性体はスキーム1中のように命名される。
【化2】

【0092】
本発明は、E配置のα,β−不飽和(アリール又はヘテロアリール)スルホン、スルホキシド及びスルホンアミドを企図する。
【0093】
式Iに従うα,β−不飽和(アリール又はヘテロアリール)スルホン、スルホキシド及びスルホンアミドの幾つかは、XがCHで且つRが−H以外の場合、Xにおけるキラル中心の存在から生じる異性により特徴付けられうる。キラル中心の存在に起因する異性体は、異性体と重ね合わせることができないペアを含み、それらは“光学異性体”と呼ばれる。純粋な化合物の単一の光学異性体は光学的に活性であり、即ち、それらは直線偏光の平面を回転することができる。単一の光学異性体はCahn-Ingold-Prelogシステムに従って指名される。マーチ、応用有機化学、第4版、(1992)、p.109。一旦4個の基の優先順位が決定されると、分子は最低順位の基が観察者から見て向こう側に配置される。そして、他の基の降順が時計回りに進む場合、分子は(R)と規定され、他の基の降順が反時計回りに進む場合、分子は(S)と規定される。スキーム2の例中、Cahn-Ingold-Prelog順位はA>B>C>Dである。最低順位の原子、Dは観察者から見て向こう側に配置される。
【化3】

【0094】
別途示されない限り、絶対配置及びそれらの混合は、式Iのα,β−不飽和(アリール又はヘテロアリール)スルホン、スルホキシド及びスルホンアミドの範囲に含まれる。
【0095】
表現(R)又は(S)−エナンチオマーを「実質的に含まない」は、式Iに従う光学的に活性な化合物を参照して用いる場合には、この化合物の(R)及び(S)−エナンチオマーが、その組成が80重量%以上単一のエナンチオマーであるように分離されていることを意味する。好ましくは、その組成は、90重量%以上単一のエナンチオマーである。一層好ましくは、この組成は、95重量%以上単一のエナンチオマーである。最も好ましくは、この組成は、99重量%以上単一のエナンチオマーである。
【0096】
従って、実質的に(S)−エナンチオマーを含まない式Iに従う化合物の(R)−エナンチオマーとは、その化合物が、80重量%以上の(R)−エナンチオマーを含み、20重量%以下の(S)−エナンチオマーを夾雑物として含むことを意味する。
【0097】
単離された光学異性体は、周知のキラル分離技術によってラセミ性混合物から精製することができる。このような方法の一例によると、式Iの構造を有する化合物のラセミ混合物又はそのキラル中間体は、適当なキラルカラム例えばダイセル・キラルパックファミリー(商標)シリーズのメンバーのカラム(ダイセル化学工業株式会社、東京、日本)を使用したHPLCにより、99重量%純粋な光学異性体に分離される。このカラムは製造業者の指示書によって操作される。
【0098】
式Iに従う化合物に関して、一つより多いキラル中心が、分子中に存在しうる。2対のエナンチオマーが、2つのキラル中心の存在から生じる。鏡像異性体間の関係のみが、エナンチオマーと呼ばれる。単一のエナンチオマーと他の更なるキラル中心の結果として存在する異性体との間の関係は、「ジアステレオマー」と呼ばれる。ジアステレオマー対は、正常及び逆相クロマトグラフィー、及び結晶化を含む公知の分離技術によって分離することができる。2つのキラル中心を含む式Iに従う本発明の化合物は、単離されたジアステレオマー例えば(R,R)、(R,S)、(S,R)及び(S,S);単離されたジアステレオマー対例えば(R,R)と(R,S)、又は(S,R)と(S,S);及び任意の割合でのジアステレオマーの全混合物を包含すると理解される。
【0099】
ここに開示した化合物の系統名を与えるためにここで採用した命名法は、コンピュータープログラムパッケージ、CHEMDRAW(登録商標)(CambridgeSoft Corporation, マサチューセッツ、02140 Cambridge在)を用いて得ることができる。
【0100】
図面の説明
図1は、化合物1、イマチニブ又は塩溶液の、32D/BCR−ABLT315I細胞の、該細胞1×106を静脈注射した後の、ヌードマウスにおけるイン・ビボでの成長に対する効果のグラフである。データは、10フィールド当たりの32D/BCR−ABLT315I細胞の平均数±SEM(n=10)としてプロットしてある。
図2は、化合物1(100mg/kg)、イマチニブ(100mg/kg)又は塩溶液を投与された個々のマウスの体重のプロットである。これらの3投与グループの各マウスの体重は、毎日測定された。平均体重を、出発体重のパーセントとしてプロットした。
図3は、塩溶液又は塩溶液に溶解させた化合物1(100mg/kg)を静脈注射(尾静脈注射)したCD−1マウスにおける造血コロニー形成のグラフである。
図4(a)は、変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なCML K562細胞のパーセントのプロットである。
図4(b)は、変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後の生存可能なマウス32Dcl3.BCR−ABL細胞のパーセントのプロットである。
図5(a)は、変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL T315L発現細胞のパーセントのプロットである。
図5(b)は、変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL E255K発現細胞のパーセントのプロットである。
図5(c)は、変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL Y253H発現細胞のパーセントのプロットである。
図5(d)は、変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL G250E発現細胞のパーセントのプロットである。
図6は、BCR−ABLの野生型又はイマチニブ耐性型を発現するようにトランスフェクトされて化合物2で処理された32Dcl3細胞の成長のグラフである。
図7は、野生型BCR−ABL、又はBCR−ABL変異G250E、T315I又はM351Tを発現する生存可能な細胞の、変化する濃度の化合物4との72時間のインキュベーション後のパーセントのプロットである。
【0101】
発明の詳細な説明
本発明によれば、ある種のα,β−不飽和スルホン スルホキシド及びスルホンアミド、又は製薬上許容しうるそれらの塩は、ATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性のキナーゼ依存性の増殖性疾患における標的細胞の増殖の阻止において有効である。
【0102】
これらの化合物は、標的キナーゼにおける突然変異によりATP競合性キナーゼインヒビターによる治療に耐性となった個人における増殖性疾患の治療に用いることができる。例えば、この発明の化合物は、標的キナーゼにおける点突然変異BCR−ABLから生じたイマチニブ耐性のCML及びALLを治療するために投与することができる。この発明の化合物は、キナーゼ変異のために治療に対して無反応性となった他のキナーゼ依存性の増殖性疾患例えばKIT、PDGFRα、PDGFRβ、EGFR、SRC及びP38の発現により特徴付けられる増殖性疾患に対して用いることができる。これらのキナーゼにおける突然変異は、イマチニブ及び他のATP競合性キナーゼインヒビターの結合を阻止することが示されている。
【0103】
キナーゼ発現により駆動されうる増殖性疾患には、例えば、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性リンパ腫、特発性肺線維症、特発性好酸球増加症候群、慢性骨髄性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、前立腺癌、アンドロゲン依存性前立腺癌、皮膚線維肉腫、子宮内膜癌、子宮乳頭漿液性癌、脊索腫、グリオーマ、悪性星状細胞腫、グリア芽細胞腫細胞、胃腸間質腫瘍、髄芽細胞腫、子宮平滑筋肉腫、及び非小細胞肺癌が含まれる。
【0104】
I.ATP競合性キナーゼインヒビターに耐性の増殖性疾患の同定
イマチニブで治療した慢性骨髄性白血病(CML)におけるBCR−ABLキナーゼドメイン内の突然変異は、CMLにおけるイマチニブ耐性の獲得の主要な機構である。同様に、他のキナーゼをコードする遺伝子のキナーゼドメイン内の突然変異例えばPDGFR、KIT、EGFR、SRC及びP38は、非変異キナーゼに対して抗増殖活性を有するプロテインキナーゼインヒビターに対する獲得された耐性の主たる機構として関係してきた。
【0105】
本発明の方法を用いることによる薬物耐性の症例における介入は、患者の細胞におけるキナーゼ変異の検出後に、特に患者の新生物細胞の検出後に実施することができる。変異は、例えば、標的細胞例えば新生物細胞における患者の関係するキナーゼ遺伝子を配列決定して、その配列を耐性を与える突然変異のデータバンクと比較することにより検出することができる。直接のDNA配列決定に加えて、当業者に公知の次の方法を利用してキナーゼ変異を検出することもできる:一本鎖コンホメーションの多型(SSCP);変性勾配ゲル電気泳動(DGGE);変性高性能液体クロマトグラフィー(DHPLC);化学的ミスマッチ開裂(CMC);酵素ミスマッチ開裂(EMC);ヘテロ二本鎖分析;及びDNAマイクロアレイの利用。
【0106】
この発明の一具体例によれば、イマチニブで治療した患者において、BCR−ABLmRNAの定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RQ−PCR)を利用して、耐性の危険にある患者を検出することができる。bcr−abl発現の2倍以上の増加を示すイマチニブで治療した患者の相当の部分は、検出可能なBCR−ABL変異を有し、これは、かかるBCR−ABLの上昇が、イマチニブを不活性化するBCR−ABLキナーゼドメインの突然変異について患者を調べるための主たる指示として役立ちうることを示している(Branford等、Blood, 104, 2926-32 (2004))。ATP競合性キナーゼインヒビターでの治療を受けた患者の細胞における、上昇したBCR−ABL発現は、可能な耐性付与BCR−ABL変異、特にBCR−ABLキナーゼドメインにおける変異を同定するための突然変異の分析の必要性を示唆している。
【0107】
II.化合物の投与
これらの化合物は、経口投与及び非経口投与を含む任意の経路によって投与することができる。非経口投与には、例えば、静脈投与、筋肉内投与、動脈投与、腹腔内投与、鼻内投与、直腸投与、膣内投与、嚢(例えば、膀胱)内投与、皮内投与、局所投与又は皮下投与が含まれる。やはりこの発明の範囲内で企図されるのは、遅れて起きる薬物の全身又は局所的放出を用いる、制御された配合での患者の身体における薬物の点滴である。例えば、循環への又は腫瘍成長の局所部位への制御された放出のために薬物をデポー剤中に局在化させることができる。
【0108】
式Iの一種以上の化合物は、同時に同じ若しくは異なる経路によって投与することができ、又は治療の異なる時点で投与することができる。
【0109】
式Iの化合物及びATP競合性キナーゼインヒビターの両者を患者に投与する場合には、好適なスケジュール及び投与量は、ATP競合性キナーゼインヒビターに好適な様式で指示される。その治療のコースは、個人間で異なり、当業者は、このATP競合性キナーゼインヒビターの、所定の臨床的状況における、適当な投与量及び投与スケジュールを容易に決定することができる。
【0110】
式Iの化合物の、増殖性疾患の治療に関する治療的利益を得るための、特定の投与量は、当然、個々の患者の、大きさ、体重、年齢及び性別、増殖性疾患の性質及び段階、増殖性疾患の侵襲性、及び化合物の投与経路を含む特定の事情によって決定される。
【0111】
例えば、毎日の、約0.01〜50mg/kg/日の投薬量を利用することができ、一層好ましくは、0.05〜25mg/kg/日の投薬量を利用することができる。特に好ましいのは、約0.5〜10.0mg/kg/日の、例えば約5.0mg/kg/日の投与量である。この投与量は、多数回の投与例えば2回の2.5mg/kgの投与で与えることができる。一層多い又は少ない投与量も企図される。
【0112】
式Iの化合物及びATP競合性キナーゼインヒビターの両方を患者に投与する場合には、投与の経路は、これらの2種の薬物について同じであっても異なってもよい。これらの薬物は、同じ日に投与することもできるし異なる日に投与することもできる。一具体例によれば、これらの薬物は、連続する日に投与される。同じ日に薬物を投与することは、同時又は事実上同時の投与(互いに約24時間の時間枠内での投与)を包含する。
【0113】
白血病性の増殖性疾患、特に慢性骨髄性白血病に対して養生法を施与することは、下記を含みうる。
【0114】
bcr−abl遺伝子のキナーゼドメインの突然変異のためにイマチニブ耐性になっている慢性期のCML患者に対して、治療は、式Iの化合物の、約1.5〜4mg/kg/日に及ぶ毎日の経口投与を含む。もし所望の治療結果が、3ヶ月の治療の後に達成されないならば、投与量を、3ヶ月ごとにモニタリングを行なって、約0.5〜1.5mg/kg/日の増加量で増加させる。病気の進行が現れた場合には、投与量を、約1.0〜3.0mg/kg/日の増加量で、所望の治療結果が達成されるまで増加させる。
【0115】
加速期又はブラスト期のCML患者については、治療は、式Iの化合物の、約2.5〜4.5mg/kg/日に及ぶ毎日の経口投与を含む。もし所望の治療結果が、3ヶ月の治療の後に達成されないならば、投与量を、3ヶ月ごとにモニタリングを行なって、約0.5〜1.5mg/kg/日の増加量で増加させる。病気の進行が現れた場合には、投与量を、約1.0〜3.0mg/kg/日の増加量で、所望の治療結果が達成されるまで増加させる。
【0116】
毎日400mgのイマチニブでの治療のコース中にイマチニブ耐性となったCML患者の治療のためには、イマチニブ投与量を、毎日600又は800mgに増大させ、約2.0〜5.0mg/kg/日の式Iの化合物の経口投与量を加える。もし所望の治療結果が、3ヶ月の治療の後に達成されないならば、式Iの化合物の投与量を、3ヶ月ごとにモニタリングを行なって、約0.5〜1.5mg/kg/日の増加量で増加させる。病気の進行が現れた場合には、式Iの化合物の投与量を、約1.0〜3.0mg/kg/日の増加量で、所望の治療結果が達成されるまで増加させる。
【0117】
CML患者に対する第一ライン治療としては、治療は、イマチニブ及び式Iの化合物の組合せを含む。毎日の、400ミリグラムのイマチニブ及び約1.0〜4.0mg/kg/日の式Iの化合物の経口投与量を投与する。もし所望の治療結果が、3ヶ月の治療の後に達成されないならば、式Iの化合物の投与量を、3ヶ月ごとにモニタリングを行なって、約0.5〜1.5mg/kg/日の増加量で増加させる。病気の進行が現れた場合には、イマチニブの投与量を600又は800ミリグラムに増やし、式Iの化合物の投与量を、約1.0〜3.0mg/kg/日の増加量で、所望の治療結果が達成されるまで増加させる。
【0118】
上記の養生法の各々において、治療を、許容しうる毒性を前提に、患者が死亡するか又は他の因子(末期の病気など)が治療の停止を命ずるまで継続する。病状のモニタリング頻度は、当業者によって、必要に応じて調節することができる。
【0119】
病状のモニタリングは、当分野では、周知である。白血病性の増殖性疾患特に慢性骨髄性白血病のモニタリングのためには、病気のマーカーには、血球計数、骨髄細胞の細胞遺伝学的監視(例えば、フィラデルフィア陽性の中期のパーセント)及び分子マーカー(例えば、RQ−PCRにより測定したbcr−abl mRNA転写物の量又は蛍光イン・シトゥーハイブリダイゼーション(FISH)による分子的再配置)が含まれるが、これらに限られない。
【0120】
III.医薬組成物
式Iの化合物は、製薬上許容しうるキャリアーと組合わせた医薬組成物の形態で投与することができる。かかる配合物中の活性成分は、0.1〜99.99重量パーセントを含むことができる。「製薬上許容しうるキャリアー」とは、配合物の他の成分と適合性で且つレシピエントに有害でないの任意のキャリアー、希釈剤又は賦形剤を意味する。
【0121】
この活性剤は、好ましくは、投与経路及び標準的製薬プラクティスに基いて選択される製薬上許容しうるキャリアーと共に投与される。この活性剤は、製薬の分野における標準的プラクティスに従って投薬用の形態に配合することができる。Alphonso Gennaro 編、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第18版、(1990) Mack Publishing Co., ペンシルベニア、Easton。適当な投薬用形態には、例えば、錠剤、カプセル、溶液、非経口液、トローチ、座薬、又は懸濁液が含まれうる。
【0122】
非経口投与のためには、この活性剤を、適当なキャリアー又は希釈剤例えば水、油(特に、植物油)、エタノール、塩溶液、水性デキストロース(グルコース)及び関連糖溶液、グリセロール、又はグリコール例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコールと混合することができる。非経口投与のための溶液は、好ましくは、活性剤の水溶性の塩を含む。安定剤、抗酸化剤、及び防腐剤も又、加えることができる。適当な抗酸化剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸及びその塩、及びナトリウムEDTAが含まれる。適当な防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、メチル又はプロピルパラベン、及びクロロブタノールが含まれる。この非経口投与のための組成物は、水性又は非水性の溶液、分散液、懸濁液又は乳濁液の形態をとることができる。
【0123】
経口投与のためには、この活性剤を、錠剤、カプセル、丸薬、粉末、顆粒又は他の適当な経口投薬形態の製造のために、一種以上の固体の不活性成分と合わせることができる。例えば、この活性剤を、少なくとも一種の賦形剤例えば充填剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸収剤又は潤滑剤と合わせることができる。一つの錠剤の具体例によれば、この活性剤を、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール及び澱粉と合わせてから、慣用の錠剤化方法によって錠剤に成形することができる。
【0124】
IV.式Iに従う化合物の塩
式Iの化合物は、塩の形態をとりうる。用語「塩」は、この発明の化合物である遊離酸又は遊離塩基の付加塩を包含する。用語「製薬上許容しうる塩」は、医薬適用において有用性を与える範囲内の毒性を有する塩を指す。
【0125】
適当な製薬上許容しうる酸付加塩は、無機酸又は有機酸から製造することができる。無機酸の例には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸及びリン酸が含まれる。適当な有機酸は、脂肪族、脂環式、芳香族、アリール脂肪族、ヘテロ環式、カルボン酸及びスルホン酸クラスの有機酸から選択することができ、その例には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、パモ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、γ−ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸及びガラクツロン酸が含まれる。
【0126】
式Iの化合物の適当な製薬上許容しうる塩基付加塩には、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属塩例えばカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛の塩を含む金属塩が含まれる。製薬上許容しうる塩基付加塩は又、塩基性アミン例えばN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)及びプロカインから作られた有機塩も包含する。
【0127】
これらの塩のすべては、慣用の手段によって、式Iに従う対応する化合物から、例えば、適当な酸又は塩基を式Iに従う化合物と反応させることにより製造することができる。
【0128】
V.この発明の実施において有用なα,β−不飽和スルホン、スルホキシド及びスルホンアミドの製造
α,β−不飽和スルホンD1(式中、Ar1、Ar2、R及び*は、式Iの化合物について定義した通りである)を、芳香族アルデヒドのベンジルスルホニル酢酸C1とのクネーベナーゲル縮合によって製造することができる。その手順は、Reddy等、Acta. Chim. Hung. 115:269-71 (1984);Reddy等、Sulfur Letters 13:83-90 (1991);Reddy等、Synthesis No. 4, 322-323 (1984);及びReddy等、Sulfur Letters 7:43-48 (1987)により記載されており、これらの全開示を、参考として本明細書中に援用する。クネーベナーゲル縮合に従う一般的合成を、下記のスキーム3に描いた。
【化4】

【0129】
スキーム3で用いた出発ベンジルスルホニル酢酸C1は、対応するベンジルメルカプト酢酸の酸化によって製造することができる。この酸化は、硫黄をスルホンに酸化するのに適した任意の酸化条件を用いて達成することができる。適当な試薬には、過酸化水素などの過酸化物、メタ−クロロペルオキシ安息香酸(MCPBA)などの過酸及びOXONE(登録商標)(ペルオキソ一硫酸カリウム)などの過硫酸塩が含まれる。この酸化反応は、好ましくは、適当な溶媒の存在下で実施する。適当な溶媒には、例えば、水、酢酸又は非極性溶媒例えばジクロロメタン(DCM)が含まれる。
【0130】
ベンジルメルカプト酢酸は、メルカプト酢酸をベンジル化合物A2と反応させるか、又はハロ酢酸をベンジルメルカプタンA1と反応させることにより製造することができる。
【0131】
スキーム3に描いたように、α,β−不飽和スルホキシドは、芳香族アルデヒドのベンジルスルフィニル酢酸C2とのクネーベナーゲル縮合によって製造することができる。
【0132】
スルホキシドD2の製造において、スキーム3において用いられている出発ベンジルスルフィニル酢酸C2は、対応するベンジルメルカプト酢酸の酸化によって製造することができる。この酸化は、スルフィドをスルホキシドに酸化するのに適した任意の酸化条件を用いて達成することができる。適当な試薬には、過酸化水素などの過酸化物、メタ−クロロペルオキシ安息香酸(MCPBA)などの過酸及びOXONE(登録商標)(ペルオキソ一硫酸カリウム)などの過硫酸塩が含まれる。この反応は、好ましくは、適当な溶媒の存在下で実施する。適当な溶媒には、例えば、水、酢酸又はジクロロメタン(DCM)などの非極性溶媒が含まれる。スルホキシドへの酸化は、一般に、対臨界温度例えば約10〜25℃で行なわれ、その酸化反応は、スルホンへの過酸化の前に反応を終了するようにモニターされる。
【0133】
α,β−不飽和スルホンアミド(式中、Ar1、Ar2及びRは、式Iについて定義した通りである)は、スキーム4に示したように、芳香族アルデヒドのアリールアミノスルホニル酢酸とのクネーベナーゲル縮合により製造することができる。
【化5】

【0134】
α,β−不飽和スルホンアミドは、スキーム5に描いたように、別法により、芳香族アミンを芳香族スルホニルハリドと反応させることによって製造することができる。この芳香族スルホニルハリドは、好ましくは、芳香族オレフィンJを塩化スルフリルと反応させることにより製造する。
【化6】

【0135】
式Iの化合物の製造は又、次の米国特許(これらの全開示を参考として本明細書中に援用する)の少なくとも一つにも記載されている:第6,599,932号、6,576,675号、6,548,553号、6,541,475号、6,486,210号、6,414,034号、6,359,013号、6,201,154号、6,656,973号及び6,762,207号。
【0136】
この発明の実施を、下記の非制限的実施例により説明する:
【0137】
「化合物1」は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸:
【化7】

である。
【0138】
「化合物2」は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸:
【化8】

である。
【0139】
「化合物3」は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−メチルプロパン酸:
【化9】

のナトリウム塩である。
【0140】
「化合物4」は、(E)−1−(2−(4−ブロモベンジルスルホニル)ビニル)−2,4−ジフルオロベンゼン:
【化10】

である。
【実施例】
【0141】
実施例1:(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸(化合物1)の、イマチニブ耐性BCR−ABLT315Iを発現する細胞のイン・ビボでの成長に対する効果
A.32Dcl3細胞株
32Dcl3細胞(Rovera等、Oncogene, 1, 29-35 (1987))を、10% FBS、1U/mL ペニシリン−ストレプトマイシン及び10% WEHI−3B調整培地(IL−3源として)(Ymer等、Nature, 317, 255-258 (1985))を補ったIscove改変ダルベッコ培地中に維持した。
【0142】
B.野生型及びイマチニブ耐性変異型のBCR−ABLの生成
イマチニブ耐性と関係する公開されたbcr−abl突然変異(Shah等、Oncogene 22, 7389-85 (2003))に対応するオリゴヌクレオチドを利用して、これらの変異を、完全長のbcr−abl cDNA中に、PCRベースの位置指定突然変異導入法(Myers等、PCR Technology, Erlich, H.A.編、Stockton Press, London (1989))を用いて導入した。すべての構築物を、配列分析により確認した。野生型及びイマチニブ耐性型のBCR−ABLをコードするpCDNA3ベースの発現プラスミドを、活発に増殖している32Dcl3細胞に、エレクトロポレーションによって以前に記載された(Kumar等、Mol. Cell. Biol., 23, 6631-45 (2003))ようにして導入して、細胞をIL−3の非存在下で選択した。BCR−ABLタンパク質の発現を、下記のように、ウエスタンブロット及びキナーゼアッセイにより測定した。
【0143】
C.T315I細胞のイン・ビボでの成長の分析
雌の無胸腺ヌードマウス(ner/ner)に、1×106の変異型BCR−ABLT315Iを発現する32Dcl3細胞を尾静脈から静脈注射した。治療(投薬群ごとに10匹のマウスよりなる3群)を、細胞注射の24時間後に、塩溶液(ビヒクル)、化合物1(100mg/kg)又はイマチニブ(100mg/kg)の日々の腹腔内注射によって開始した。イマチニブ注射を、毒性のために、10日後に停止した。
【0144】
(i)イマチニブ及び化合物1の毒性
試験動物の体重を、2日ごとに測定した。この体重データを、図2に示してある。化合物1で治療したマウスは、毒性の徴候例えば体重減少、もつれた毛、嗜眠又は異常な糞を示さなかった。定常的に、10日にわたるイマチニブの投与は、20%を超える体重の減少から判断して重い毒性を生じ、これは、薬物投与の停止を生じた。
【0145】
(ii) T325I細胞のイン・ビボでの成長の分析
治療したマウスにおける血液塗抹標本作成を、治療開始後7日及び14日に、行なった。各マウスからの一滴の血液を、スライド硝子上に塗って、風乾し且つ改変Wrightステイン(Sigma)でしみを付けた。血液中のT315I細胞は、それらのブルー染色及びサイズの差異のために容易に見ることができた。10フィールド当たりのT3151の数を、オリンパス製の直立顕微鏡で同密度の赤血球を含む10視野を40倍対物レンズを用いて計数することにより測定した。この研究におけるT315I細胞のイン・ビボでの成長を図1に示した。化合物1で治療したマウスの血液中のT315I細胞の数は、7日目及び14日目において、ビヒクル及びイマチニブ処理した群において見出された細胞数と比較して有意に減少した。
【0146】
実施例2:造血コロニー形成アッセイ
イン・ビボで正常な造血細胞集団に対する化合物1の効果を調べるために、この化合物の正常塩溶液(又は対照としての塩溶液のみ)中の100mg/kgの投与量を、CD−1マウス(1群当たり10匹)に静脈注射(尾静脈注射)した。これらのマウスに由来する正常骨髄細胞のイン・ビトロでの造血コロニー形成に対する効果を、投与の24時間後に測定した。24時間後に骨髄細胞をマウスから抽出して、2×105細胞を、系統特異的なコロニー形成に適当なサイトカインを含むメチルセルロース上にプレートした。5〜14日のインキュベーションの後にコロニーを計数した。骨髄コロニー形成アッセイについてのデータは、図3に示してある。赤血球、骨髄又はリンパ系統のコロニー形成には、化合物1の投与による減少はない。
【0147】
実施例3:化合物1の、BCR−ABLを発現する細胞株に対する活性
A.細胞株
K562細胞を、10% FBS及び1U/ml ペニシリン−ストレプトマイシンを補ったRPMI(Roswell Park Memorial Institute)培地中に維持した。
【0148】
32Dcl3細胞(Rovera等、Oncogene, 1, 29-35 (1987))を、10% FBS、1U/mL ペニシリン−ストレプトマイシン及びWEHI−3B調整培地(IL−3源として)(Ymer等、Nature, 317, 255-258 (1985))を補ったIscove改変ダルベッコ培地中に維持した。
【0149】
B.イマチニブ又は化合物1による治療における細胞生存力
K562細胞及びマウス32Dcl3.BCR−ABL細胞(野生型p210BCR-ABL癌タンパク質を異所的に発現)を、変化する濃度の化合物1と共に72時間にわたってインキュベートした。次いで、細胞生存力を、トリパンブルー排除により測定した。生存可能な細胞の、ビヒクルで処理した対照と比較したパーセントを測定した。両細胞株において、化合物1とのインキュベーションは、図4a及び4bに示したように、10〜15nMのLD50での、生存力の急速な喪失を生じた。この細胞生存力アッセイを、イマチニブを用いても実施した。イマチニブのIC50は、100nMより大きいことが見出された(図4a及び4b)。このイマチニブについてのデータは、公表されたデータ(O'Dwyer、同書)と一致する。
【0150】
化合物1及びイマチニブの両者は、BCR−ABL+細胞の増殖を阻止する。化合物1は、BCR−ABL+細胞株の増殖を、イマチニブについて示されたものより10倍低い濃度で阻止した。
【0151】
実施例5:化合物1の、イマチニブ耐性腫瘍細胞株に対する活性
文献(Shah等、Oncogene, 22, 7389-7395 (2003))に公開されたものに対応する突然変異を、bcr−abl cDNA中に導入してから、活発に増殖している32Dcl3細胞(Rovera等、Oncogene 1, 29-35 (1987))中に下記の手順に従って導入した。
【0152】
イマチニブ耐性と関係する公開されたbcr−abl突然変異(Shah等、Oncogene, 22, 7389-85 (2003))に対応するオリゴヌクレオチドを用いて、これらの変異を完全長のbcr−abl cDNA中に、PCRベースの位置指定突然変異導入法(Myers等、PCR Technology, Erlich, H.A.編、Stockton Press, London (1989))を用いて導入した。すべての構築物を、配列分析により確認した。野生型及びイマチニブ耐性型のBCR−ABLをコードするpCDNA3ベースの発現プラスミドを、活発に増殖している32Dcl3細胞に、以前に記載されたようにしてエレクトロポレーション(Kumar等、Mol. Cell. Biol., 23, 6631-45 (2003))により導入して、細胞をIL−3の非存在下で選択した。これらのBCR−ABLタンパク質の発現を、ウエスタンブロット及びキナーゼアッセイにより測定した。
【0153】
トランスフェクタントを、IL−3の非存在下で選択した。各変異型BCR−ABLタンパク質の発現及び活性を、ウエスタンブロット分析及びキナーゼアッセイにより確認した(データは、示してない)。すべての変異体は、イマチニブ耐性を、野生型p210BCR-ABL発現細胞と比較した場合、以前に公開された研究(Azam等、Cell, 112, 831-843 (2003))に匹敵するレベルで与えた(データは、示してない)。
【0154】
これらのトランスフェクトされた細胞を、次いで、様々な濃度の化合物1又はイマチニブの存在下で培養した。生存可能な細胞の総数を、処理後72時間で、トリパンブルー排除により測定した。ビヒクルで処理した対照と比較した生存可能細胞のパーセントを測定した。トランスフェクトされた細胞株のすべて(T315I変異体を発現する細胞を含む)は、化合物1の成長阻害活性に極めて敏感であることが見出された。これらの細胞株の感度(GI50(50%の成長阻害を達成する濃度)で表す)を、16の臨床的に関係するBCR−ABL変異につき、表2に列記した。
【表2】

【0155】
BCR−ABL変異体を発現する4つの選択した細胞株T315I、E255K、Y253H及びG250Eの結果を、それぞれ、図5a、5b、5c及び5dに示した。
【0156】
実施例6:化合物2((E)-2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)-2−メトキシフェニルアミノ)酢酸)の、イマチニブ耐性腫瘍細胞株に対する活性
表2に列記した細胞株を、250nM 化合物2又はイマチニブの存在下で培養した。その結果を、図6に示した。これらの細胞株のすべては、化合物2の成長阻害活性に敏感であった。
【0157】
実施例7:慢性期のイマチニブ耐性CMLの治療
慢性骨髄性白血病と診断されたある成人の患者は、イマチニブ耐性であることが見出されている。白血病細胞により発現されるbcr−abl遺伝子の配列決定は、そのbcr−ablキナーゼドメインにおける突然変異の存在を確認する。この患者の病気は、慢性期にある(血液又は骨髄試料において、10%未満の芽細胞、又は合わせて20%の芽細胞及び前骨髄細胞)。この患者を、次の投与養生法を用いて、化合物1で治療する:200ミリグラムの化合物1を毎日一回経口投与する。治療を、病気の進行の証拠又は許容しえない毒性のない限り継続する。病気の促進期への進行の出現(骨髄又は血液試料が、10%より多くの芽細胞を有する(又は合わせて20%の芽細胞及び前骨髄細胞)が、30%未満の芽細胞及び前骨髄細胞)の場合には、化合物1の毎日の投与量を、300ミリグラムに増加させる。もし必要であれば、更なる投与量の増加を(許容しえない毒性が現れなければ)行なって、所望の治療結果を達成する。
【0158】
実施例8:芽細胞期のイマチニブ耐性CMLの治療
慢性骨髄性白血病と診断されたある成人の患者は、イマチニブ耐性であることが見出されている。白血病細胞により発現されるbcr−abl遺伝子の配列決定は、そのbcr−ablキナーゼドメインにおける突然変異の存在を確認する。この患者の病気は、芽細胞期にある。芽細胞期(急性期又は芽細胞危期としても知られる)は、30%より多くの芽細胞及び前骨髄細胞を有する骨髄及び/又は血液試料により特徴付けられる。この患者を、次の投与養生法を用いて、化合物1で治療する:300ミリグラムの化合物1を毎日一回経口投与する。治療を、病気の進行の証拠又は許容しえない毒性のない限り継続する。病気の促進期への進行の出現の場合には、この投与量を、400ミリグラムに増加させる(単一投与又は、適宜、200ミリグラムの投与量を毎日2回)。もし必要であれば、更なる投与量の増加を(許容しえない毒性が現れなければ)行なって、所望の治療結果を達成する。
【0159】
実施例9:イマチニブによる初期治療後の、CMLの治療
慢性骨髄性白血病と診断されたある成人の患者は、先ず、イマチニブで治療される。時間が経つと、この患者の病気は、イマチニブ耐性となる。白血病細胞により発現されるbcr−abl遺伝子の配列決定は、そのbcr−ablキナーゼドメイン内の突然変異の存在を確認する。この患者の治療養生法は、次の組合せ養生法に変えられる:イマチニブを、患者が許容する最大投与量まで増加させて、毎日2回、400ミリグラムの投与量で投与する。300ミリグラムの投与量の化合物1も、毎日一回、経口投与する。治療を、病気の進行の証拠又は許容しえない毒性のない限り継続する。病気の進行が現れた場合には、化合物1の量を、所望の治療結果を達成するのに必要なだけ増大させる。
【0160】
実施例10:2種類の薬物によるCMLの第一線の治療
ある成人の患者が、新たに、慢性骨髄性白血病と診断される。イマチニブへの感受性は、未知である。第一線の治療として、この患者には、イマチニブと化合物1の組合せを、次の投与養生法を用いて投与する:400ミリグラムのイマチニブと100ミリグラムの化合物1を含む一日一回の経口投与を施与する。治療を、病気の進行の証拠又は許容しえない毒性のない限り継続する。病気の進行が現れた場合には、イマチニブの投与量を、600ミリグラムに増加させて、化合物1の投与量を、200ミリグラムまで増加させる。もし必要であれば、イマチニブ(最大800ミリグラム)及び化合物1の一方又は両方において、更なる投与量の増加を(許容しえない毒性が現れなければ)行なう。
【0161】
実施例11:化合物3((E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−メチルプロパン酸ナトリウム塩)の、イマチニブ耐性腫瘍細胞株に対する活性
表3に列記した細胞株を、様々な濃度の化合物3((E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−メチルプロパン酸ナトリウム塩)の存在下で培養した。この野生型は、野生型p210BCR-ABL癌タンパク質を異所的に発現した32Dcl3.BCR−ABL細胞を含む。生存可能な細胞の総数を、処理後72時間で、トリパンブルー排除により測定した。ビヒクルで処理した対照と比較した生存可能な細胞のパーセントを測定した。これらの細胞株の、GI50で表した感受性を表3に列記した。これらの細胞株のすべては、化合物3の成長阻害活性に対して感受性であった。
【表3】

【0162】
実施例12:化合物4((E)−1−(2−(4−ブロモベンジルスルホニル)ビニル)−2,4−ジフルオロベンゼン)の、イマチニブ耐性腫瘍細胞株に対する活性
野生型p210BCR-ABL癌タンパク質(32Dcl3.BCR−ABL)又はBCR−ABL変異G250E、T315I又はM315Tを発現する細胞を、変化する濃度の化合物4((E)−1−(2−(4−ブロモベンジルスルホニル)ビニル)−2,4−ジフルオロベンゼン)と共にインキュベートした。生存可能な細胞の総数を、処理後72時間で、トリパンブルー排除により測定した。ビヒクルで処理した対照と比較した生存可能細胞のパーセントを、測定した。その結果を、図7に示した。これらの細胞株のすべては、化合物4の成長阻害活性に感受性であった。
【0163】
ここで論じたすべての参考文献を、参考として本明細書中に援用する。当業者は、容易に、本発明が、言及した及び内在する目的を達成し及び利益を得るためによく適合されることを認めるであろう。本発明は、そお精神又は本質的属性から離れることなく、他の特定の形態で具体化することができ、従って、この発明の範囲を示すものとしては、前述の明細書よりも、添付の請求の範囲を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】化合物1、イマチニブ又は塩溶液の、32D/BCR−ABLT315I細胞の、該細胞1×106を静脈注射した後の、ヌードマウスにおけるイン・ビボでの成長に対する効果のグラフである。
【図2】化合物1(100mg/kg)、イマチニブ(100mg/kg)又は塩溶液を投与された個々のマウスの体重のプロットの図である。
【図3】塩溶液又は塩溶液に溶解させた化合物1(100mg/kg)を静脈注射(尾静脈注射)したCD−1マウスにおける造血コロニー形成のグラフである。
【図4a】変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なCML K562細胞のパーセントのプロットの図である。
【図4b】変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後の生存可能なマウス32Dcl3.BCR−ABL細胞のパーセントのプロットの図である。
【図5a】変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL T315L発現細胞のパーセントのプロットの図である。
【図5b】変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL E255K発現細胞のパーセントのプロットの図である。
【図5c】変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL Y253H発現細胞のパーセントのプロットの図である。
【図5d】変化する濃度の化合物1又はイマチニブとの72時間のインキュベーション後に残っている生存可能なBCR−ABL G250E発現細胞のパーセントのプロットの図である。
【図6】BCR−ABLの野生型又はイマチニブ耐性型を発現するようにトランスフェクトされて化合物2で処理された32Dcl3細胞の成長のグラフである。
【図7】野生型BCR−ABL、又はBCR−ABL変異G250E、T315I又はM351Tを発現する生存可能な細胞の、変化する濃度の化合物4との72時間のインキュベーション後のパーセントのプロットの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人における、ATP競合性のキナーゼインヒビターを用いる治療に耐性のキナーゼ依存性の増殖性疾患特に癌を治療する方法であって、該方法は、かかる治療の必要な個人に、有効量の少なくとも一種の下記式Iの化合物を投与することを含む当該方法:
【化1】

(式中、Ar1及びAr2は、独立に、置換された及びされてないアリール及び置換された及びされてないヘテロアリールから選択し;
Xは、N又はCHであり;
nは、1又は2であり;
Rは、−H又は−(C1〜C8)ヒドロカルビルであり;そして
*は、XがCHで且つRが−H以外の場合には、Xの炭素原子上の置換基のコンホメーションが、R−、S−又はR−とS−の任意の混合物であり;又は製薬上許容しうるその塩であることを示し;
但し、XがNである場合には、nは2である)。
【請求項2】
置換されたアリール及び置換されたヘテロアリールAr1上の置換基を、独立に、ハロゲン、−(C1−C8)ヒドロカルビル、−C(=O)R2、−NR22、−NHC(=O)R3、−NHSO23、−NH(C2−C6)アルキレン−C(=O)R6、−NHCR24C(=O)R6、−C(=O)OR2、−C(=O)NR22、−NO2、−CN、−OR2、−OC(=O)R3、−OSO23、−O(C2−C6)アルキレン−C(=O)R6、−OCR24C(=O)R6、−P(=O)(OR2)2、−OP(=O)(OR2)2、−O(C2−C6アルキレン)N(C1−C3)アルキル)2、−NHC(=NH)NHR2、−(C1−C6)ハロアルキル、−O(C1−C6)ハロアルキル;−SO2NH2;及び−N=CH−R7よりなる群から選択し;そして
置換されたアリール及び置換されたヘテロアリールAr2上の置換基を、独立に、−(C1−C8)ヒドロカルビル、−C(=O)R2、ハロゲン、−NO2、−CN、−OR2、−C(=O)OR2、−NR22、−(C1−C6)ハロアルキル;−SO2NH2;及び−O(C1−C6)ハロアルキルよりなる群から選択する、請求項1に記載の方法
(式中、
各R2は、独立に、−H及び−(C1−C8)ヒドロカルビルよりなる群から選択され;
各R3は、独立に、−(C1−C8)ヒドロカルビル、−O(C1−C8)ヒドロカルビル、置換された及びされてないアリール、置換された及びされてないヘテロシクリル(C1−C3)アルキル、置換された及びされてないヘテロアリール(C1−C3)アルキル、−(C2−C10)へテロアルキル、−(C1−C6)ハロアルキル、−CR24NHR5、−NR22、−(C1−C3)アルキレンNH2、−(C1−C3)アルキレンN((C1−C3)アルキル)2、−(C1−C3)ペルフルオロアルキレン−N((C1−C3)アルキル)2、−(C1−C3)アルキレン−N+((C1−C3)アルキル)3、−(C1−C3)アルキレン−N+(CH2CH2OH)3、−(C1−C3)アルキレン−OR2、−(C1−C4)アルキレン−CO22、−(C1−C4)アルキレン−C(=O)ハロゲン、ハロ(C1−C3)アルキル−、−(C1−C3)アルキレン−C(=O)(C1−C3)アルキル、及び−(C1−C4)ペルフルオロアルキレン−CO22よりなる群から選択され;
各R4は、独立に、−H、−(C1−C6)アルキル、−(CH2)3−NH−C(NH2)(=NH)、−CH2C(=O)NH2、−CH2CO22、−CH2SH、−(CH2)C(=O)−NH2、−(CH2)CO22、−CH2−(2−イミダゾリル)、−(CH2)4−NH2、−(CH2)2−S−CH3、フェニル、−CH2−フェニル、−CH2−OH、−CH(OH)−CH3、−CH2−(3−インドリル)、及び−CH2−(4−ヒドロキシフェニル)よりなる群から選択され;
各R5は、独立に、−H,−C(=O)(C1−C7)ヒドロカルビル及び1〜3アミノ酸を含むカルボキシ末端結合したペプチジル残基よりなる群から選択され、該ペプチジル残基の末端アミノ基は、−NH2、−NHC(=O)(C1−C6)アルキル、−NH(C1−C6)アルキル、−N(C1−C6アルキル)2及び−NHC(=O)O(C1−C7)ヒドロカルビルよりなる群から選択する官能基として存在し;
各R6は、独立に、−OR2、−NR22、及び1〜3アミノ酸を含むアミノ末端結合したペプチジル残基よりなる群から選択され、該ペプチジル残基の末端カルボキシル基は、−CO22及び−C(=O)NR22よりなる群から選択する官能基として存在し;そして
各R7は、独立に、置換された及びされてないアリール及び置換された及びされてないヘテロアリールよりなる群から選択され;
但し、Ar1及びAr2上の置換基の最大数は、それらの置換基が結合している環内の置換可能な水素原子の数に等しい)。
【請求項3】
式1に従う化合物を、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸;(ラセミ)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(R)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(S)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルフィニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸;(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルフィニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸;(E)−2,4,6−トリメトキシスチリル−N−(3−カルボキシメチルアミノ−4−メトキシ−フェニル)スルホンアミド;(S)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−フェニル酢酸;(R)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−フェニル酢酸;(ラセミ)−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−フェニル酢酸;及び製薬上許容しうるこれらの塩よりなる群から選択する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式Iに従う化合物を、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−メチルプロパン酸;(E)−1−(2−(4−ブロモベンジルスルホニル)ビニル)−2,4−ジフルオロベンゼン;及び製薬上許容しうるこれらの塩よりなる群から選択する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
式Iに従う化合物が、反対のエナンチオマーを実質的に含まない単離された光学異性体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
単離された光学異性体が、*により示された原子における(R)−絶対配置を有し、実質的に(S)−エナンチオマーを含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
単離された光学異性体が、*により示された原子における(S)−絶対配置を有し、実質的に(R)−エナンチオマーを含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
キナーゼ依存性の増殖性疾患が、PD180970、BMS−354825、イマチニブ、SU5416、SU6668、SU11248、AP23464、ゲフィチニブ、エルロチニブ、PD153035、及びSB203580よりなる群から選択する少なくとも一つの化合物による治療に耐性である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
増殖性疾患が、BCR−ABLのATP競合性インヒビターに耐性である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ATP競合性BCR−ABLインヒビターに対する耐性が、BCR−ABLの少なくとも一つのアミノ酸残基の突然変異から生じる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
BCR−ABLのATP競合性インヒビターがイマチニブである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
突然変異が、BCR−ABL p−ループ内の少なくとも一つのアミノ酸残基の変化を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
突然変異が、Tyr253又はGlu255の変化を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
突然変異が、BCR−ABL活性化ループ内の少なくとも一つのアミノ酸残基の変化を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
突然変異が、His396の変化を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
突然変異が、F317L、H396R、M351T、H396P、Y253H、M244V、E355G、F359V、G250E、Y253F、F311L、T315I、E255V、Q252H、L387M、及びE255Kよりなる群から選択する少なくとも一つの変異を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
増殖性疾患を、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性リンパ腫、特発性肺線維症、特発性好酸球増加症候群、慢性骨髄性単球性白血病、悪性線維性組織球腫、前立腺癌、アンドロゲン依存性前立腺癌、皮膚線維肉腫、子宮内膜癌、子宮乳頭漿液性癌、脊索腫、グリオーマ、悪性星状細胞腫、グリア芽細胞腫細胞、胃腸間質腫瘍、髄芽細胞腫、子宮平滑筋肉腫、及び非小細胞肺癌よりなる群から選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
増殖性疾患が、KITのATP競合性インヒビターに耐性である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ATP競合性KITインヒビターに対する耐性が、KITの少なくとも一つのアミノ酸残基の突然変異から生じる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
突然変異を、T670I、Y823D及びD816Vよりなる群から選択する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
増殖性疾患が、上皮成長因子レセプターのATP競合性インヒビターに耐性である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
ATP競合性上皮成長因子レセプターのインヒビターに対する耐性が、上皮成長因子レセプターの少なくとも一つのアミノ酸残基の突然変異から生じる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
突然変異が、突然変異T766Mを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
増殖性疾患が、PDGFRαのATP競合性インヒビターに耐性である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
PDGFRαのATP競合性インヒビターに対する耐性が、PDGFRαの少なくとも一つのアミノ酸残基の突然変異から生じる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
突然変異が、突然変異T674Iを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
増殖性疾患が、PDGFRβのATP競合性インヒビターに耐性である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
PDGFRβのATP競合性インヒビターに対する耐性が、PDGFRβの少なくとも一つのアミノ酸残基の突然変異から生じる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
突然変異が、T681Iを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
キナーゼ依存性の増殖性疾患を病んでいる個人において、ATP競合性キナーゼインヒビターの投与を含む治療に対する耐性の発生を防ぎ又は遅延させる方法であって、該方法は、かかる治療を必要とする個人に、有効量の式Iに従う少なくとも一種の化合物を投与することを含む当該方法:
【化2】

(式中、Ar1及びAr2は、独立に、置換された及びされてないアリール及び置換された及びされてないヘテロアリールから選択し;
Xは、N又はCHであり;
nは、0、1又は2であり;
Rは、−H又は−(C1〜C8)ヒドロカルビルであり;そして
*は、XがCHで且つRが−H以外の場合には、Xの炭素原子上の置換基のコンホメーションが、R−、S−又はR−とS−の任意の混合物であり;又は製薬上許容しうるその塩であることを示し;
但し、XがNである場合には、nは2である)。
【請求項31】
有効量の少なくとも一種のATP競合性キナーゼインヒビターを投与することを更に含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
キナーゼ依存性の増殖性疾患が、PD180970、BMS−354825、イマチニブ、SU5416、SU6668、SU11248、AP23464、ゲフィチニブ、エルロチニブ、PD153035、及びSB203580よりなる群から選択する少なくとも一つの化合物による治療に耐性である、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−526852(P2008−526852A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550417(P2007−550417)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/000059
【国際公開番号】WO2006/074149
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(591135163)テンプル・ユニバーシティ−オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション (11)
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY−OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
【Fターム(参考)】