説明

薬剤評価方法

【課題】有効な白毛制御剤をスクリーニングできる新たな薬剤評価方法を提供する。
【解決手段】体毛の白毛割合が経時変化する白髪モデル動物に供試薬剤を適用して白毛制御効果を評価する方法であって、(a)白髪モデル動物の体毛の測色値、(b)白髪モデル動物における体毛発生部分の皮膚組織の観察結果、(c)白髪モデル動物の体毛におけるメラニン量の測定値、のいずれか1以上の評価指標に基づいて評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤評価方法に関する。更に詳しくは本発明は、体毛の白毛割合が経時変化する白髪モデル動物に供試薬剤を適用し、その白髪モデル動物の白毛評価によって前記供試薬剤の白毛制御効果を評価する薬剤評価方法に関する。
〔定義〕
本発明において、「体毛」とはヒト及び動物における各種の体毛を包含する概念であり、体毛を単に「毛」ということもある。「毛髪」とは、いわゆる頭髪、即ち、頭部における顔面部以外の部分に生える体毛をいう。ヒトの体毛として、毛髪、口髭、顎鬚、眉毛、睫毛の他に、腕・脚・胸に生える毛を好ましく例示することができる。毛髪、口髭、顎鬚、眉毛、睫毛を更に好ましく例示することができ、毛髪、口髭、顎鬚を特に好ましく例示することができる。
【0002】
また、「白毛」とはメラニン色素を有しない体毛をいい、「白髪」とはメラニン色素を有しない毛髪をいう。これに対して、例えば「黒毛」とはメラニン色素を有し黒色を呈する体毛をいい、「黒髪」とはメラニン色素を有し黒色を呈する毛髪をいう。なお、薬剤評価用のモデル動物については、一般的な称呼に従い「白髪モデル動物」と呼ぶが、本発明において実質的には「白毛モデル動物」の意味である。
【背景技術】
【0003】
メラニン色素を有し黒色、褐色、赤色、栗色等の色を呈する体毛を持つヒトの加齢に伴う白毛の発生は、美容上、外見上の大きな関心事であり、有効な白毛予防・治療剤が求められている。反面、中途半端に白毛化した状態(例えば毛髪における中途半端な白髪化による「ごましお頭」の状態や、口髭、顎鬚等における同様な状態)を嫌う心理から、白毛が多くなって来た時点で真っ白な美しい体毛への移行を促進する白毛促進剤が求められる場合もある。
【0004】
そのため、従来より種々の化合物、組成物、抽出物等を用いた白毛制御剤(白毛予防・治療剤又は白毛促進剤)が提案されているが、白毛制御剤の開発に関連する技術として、白毛制御剤をスクリーニングするための評価方法も種々に提案されている。
【0005】
供試薬剤の白毛制御効果を評価する場合において、通常に考えられる直接的な指標として「白毛率」を挙げることができる。白毛率とは、検体である一定量の体毛中の毛を1本ずつ顕微鏡等で観察して、検体の全体毛中の白毛の比率(%)を算出するものである。例えばマウスの場合、体毛のメジュラー中にメラニンが見られるか否かで黒毛か白毛かを判定すれば、信頼性の高い結果が得られる。
【0006】
しかし、白毛率の算出には手間と時間がかかり、評価の迅速性に欠けるという欠点がある。例えば、1検体の白毛率を算出するために1時間程度も要する。又、この指標は、体毛の白毛化を結果として追認するものであって、評価時点以後の白毛化の進行に対する予測性を持たない。更にこの指標は、検体中の体毛1本ずつのミクロな観察結果の積上げに基づくものであり、検体中の全ての体毛をマスとして捉えた指標ではないから、通常の肉眼的な全体観察による白毛化体毛の外観的印象とは必ずしも一致しない。
【0007】
白毛制御剤のその他の評価方法として、例えば以下の特許文献1〜特許文献3に開示されたものが挙げられる。これらの薬剤評価方法には、ヒト等の体毛の成長に関連する部分の組織あるいは細胞を採取して評価に利用する方法、ヒト等の体毛を集めて直接に観察する方法、白毛の発生に関して特定の表現形質を持つマウス等のモデル動物を利用する方法等が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−229889号公報。 この特許文献1は、被験物質の存在下でメラノサイトを培養し、このメラノサイトを毛乳頭細胞の培養上清と接触させて、メラノサイトが培養上清に向かって移動するかどうかを観察し、あるいはその移動の程度を観察して、被験物質の抗白髪剤効果を評価する方法を開示する。
【0009】
【特許文献2】特開2001−128957号公報。 この特許文献2は、ヘアサイクルの新毛発生時に作用する抗白髪薬剤を評価するため、特定の頭部エリアの毛髪を全てカットして毛髪を回収し、その回収した毛髪とカット後のエリア部位とのカメラ撮影画像により白髪量及び黒髪量を計測する方法を開示する。
【0010】
【特許文献3】特開2003−171240号公報。 この特許文献3は、モデル動物としてビチリゴマウスを用い、毛包を構成する細胞や毛包に近接して存在する細胞に被験物質を接触させた際における遺伝子発現量、タンパク質発現量、細胞増殖に対する被験物質の作用等の多様な解析結果の情報をデータベースとして管理し、それらの2つ以上の情報を組み合わせて白髪有効成分を検出する方法を開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1〜特許文献3に開示された薬剤評価方法も、必ずしも十分に満足できるものではなかった。そこで本発明は、有効な白毛制御剤をスクリーニングできる新たな薬剤評価方法を提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、体毛の白毛割合が経時変化する白髪モデル動物に供試薬剤を適用し、前記白髪モデル動物の白毛評価によって前記供試薬剤の白毛制御効果を評価する方法であって、
前記白毛評価を以下(a)〜(c)のいずれか1以上の評価指標に基づいて行う、薬剤評価方法である。
【0013】
(a)白髪モデル動物の体毛の測色値。
【0014】
(b)白髪モデル動物における体毛発生部分の皮膚組織の観察結果。
【0015】
(c)白髪モデル動物の体毛におけるメラニン量の測定値。
【0016】
この明細書において、「白髪モデル動物」にヒトは含まれない。又、「体毛の白毛割合が経時変化する」とは、長期にわたり徐々に体毛の白毛割合が増大する場合から、極めて短期間に一挙に白毛割合が増大する場合までを含む。又、(b)でいう「体毛発生部分の皮膚組織」とは、少なくとも皮膚の体毛発生部分である毛胞(毛根)部分を含む皮膚組織を言う。
【0017】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る薬剤評価方法において、(a)の測色値が、Lab表色系の明度指数Lの測色値である、薬剤評価方法である。
【0018】
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る薬剤評価方法において、(b)の体毛発生部分の皮膚組織の観察結果が、毛胞部分の色素細胞生産組織における色素幹細胞数である、薬剤評価方法である。
【0019】
この第3発明において、色素幹細胞数は、単一の毛胞(毛根)部分の色素細胞生産組織における色素幹細胞数のカウント数を用いても良いが、統計的な信頼性の点から、好ましくは複数ケ所(例えば70箇所程度)の毛胞部分についての色素幹細胞数の合計値を用い、あるいはその合計値を毛胞部分の箇所数で除した平均値を用いることが、より好ましい。
【0020】
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第3発明に係る薬剤評価方法において、色素幹細胞数を計数するに当たり、白髪モデル動物の皮膚組織を採取し、c−kitとdctの二重染色により免疫組織染色し、以下(1)〜(3)の全ての条件を満たす細胞を色素幹細胞と認定する、薬剤評価方法である。
【0021】
(1)体毛バルジ領域に存在する細胞である。
【0022】
(2)dctの発現状態によって色素細胞であると判定できる。
【0023】
(3)c−kitの発現状態によって未分化細胞であると判定できる。
【0024】
この第4発明において、「c−kitとdctの二重染色」とは、実際には「c−kitの遺伝子産物(タンパク質)とdctの遺伝子産物(タンパク質)との二重染色」を意味する。「dctの発現状態によって」とは、dctの発現産物であるタンパク質が認められる状態を言う。「c−kitの発現状態によって」とは、c−kitの発現産物であるタンパク質が全くあるいは実質的に認められない状態を言う。
【0025】
(第5発明)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第3発明又は第4発明に係る薬剤評価方法において、明度指数Lの測色値を、この測色値と第3発明又は第4発明に記載の色素幹細胞数の計数値との相関に基づいて色素幹細胞数に換算し、この色素幹細胞数の換算値を評価指標として白毛評価を行う、薬剤評価方法である。
【0026】
(第6発明)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第3発明又は第4発明に係る薬剤評価方法において、一定数の体毛の内の白毛の比率を視覚的観察により計数して得られる白毛率を、この白毛率と第3発明又は第4発明に記載の色素幹細胞数の計数値との相関に基づいて色素幹細胞数に換算し、この色素幹細胞数の換算値を評価指標として白毛評価を行う、薬剤評価方法である。
【0027】
(第7発明)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第2発明〜第6発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、明度指数Lの測色値を、この測色値と第1発明の(c)に記載のメラニン量測定値との相関に基づいてメラニン量に換算し、このメラニン量の換算値を評価指標として白毛評価を行う、薬剤評価方法である。
【0028】
(第8発明)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、前記第6発明又は第7発明に係る薬剤評価方法において、明度指数Lの測色値を、この測色値と白毛率との相関に基づいて白毛率に換算し、この白毛率の換算値を評価指標として白毛評価を行う、薬剤評価方法である。
【0029】
(第9発明)
上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、前記第5発明〜第8発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、ファクターAとしての測色値あるいは白毛率と、ファクターBとしての色素幹細胞数、メラニン量あるいは白毛率との関係(ファクターA、ファクターBが共に白毛率である場合を除く)を表す一次回帰直線を予め作成し、これらの一次回帰直線を用いて、前記換算値をファクターAからファクターBへの換算として求める、薬剤評価方法である。
【0030】
(第10発明)
上記課題を解決するための本願第10発明の構成は、前記第1発明〜第9発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、薬剤評価方法が、
(イ)毛周期(体毛サイクル)が休止期間中の白髪モデル動物の体毛の白毛評価を行う段階と、
(ロ)白髪モデル動物の体毛を除去する段階と、
(ハ)白髪モデル動物に対し、供試薬剤を1回以上適用する段階と、
(ニ)供試薬剤の適用後に発毛した時点で白毛評価を行う段階と、
を含む、薬剤評価方法である。
【0031】
なお、この第10発明において、白髪モデル動物の体毛を毛刈りして白毛評価を行う場合には、(イ)の段階及び(ニ)の段階において、(ロ)に規定する「白髪モデル動物の体毛の除去」も行うことになる。
【0032】
(第11発明)
上記課題を解決するための本願第11発明の構成は、前記第10発明に係る薬剤評価方法において、(イ)の段階を経た白髪モデル動物に対して、(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを複数サイクル行う、薬剤評価方法である。
【0033】
(第12発明)
上記課題を解決するための本願第12発明の構成は、前記第10発明又は第11発明に係る薬剤評価方法において、薬剤の白毛制御効果の評価を、(イ)の段階で得られた白毛評価の評価指標と、(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを1サイクル又は複数サイクル行う場合における(ニ)の段階で得られた白毛評価の評価指標との比較によって行う、薬剤評価方法である。
【0034】
この第12発明において、「(ニ)の段階で得られた白毛評価の評価指標」とは、(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを複数サイクル行う場合においては、その各サイクルにおける(ニ)の段階で得られた白毛評価の評価指標を包含し、かつ、この場合における「評価指標との比較」とは、複数回の(ニ)の段階で得られた評価指標の相互比較も含まれる。
【0035】
(第13発明)
上記課題を解決するための本願第13発明の構成は、前記第1発明〜第12発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、白髪モデル動物に対する供試薬剤の適用を、白髪モデル動物の皮膚への塗布、皮下注射、皮内注射、吸入投与及び経口投与から選ばれる一つ以上の形態で行う、薬剤評価方法である。
【0036】
(第14発明)
上記課題を解決するための本願第14発明の構成は、前記第1発明〜第13発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、供試薬剤の白毛制御効果の評価が、該供試薬剤の白毛抑制効果を評価するものである、薬剤評価方法である。
【0037】
(第15発明)
上記課題を解決するための本願第15発明の構成は、前記第1発明〜第13発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、供試薬剤の白毛制御効果の評価が、該供試薬剤の白毛促進効果を評価するものである、薬剤評価方法である。
【0038】
(第16発明)
上記課題を解決するための本願第16発明の構成は、前記第1発明〜第15発明のいずれかに係る薬剤評価方法において、白髪モデル動物がマウスである、薬剤評価方法である。
【発明の効果】
【0039】
体毛の白毛割合が経時変化する白髪モデル動物を用いて供試薬剤の白毛制御効果を評価するという方法自体は公知である。白髪モデル動物に対する供試薬剤の適用はヒトに適用した場合と類似した評価結果を期待できるし、ヒトに適用する場合に懸念される人体への負担や危険を回避できる。更に、小型で、評価に適切な体毛サイクルを有し、管理が容易な白髪モデル動物を用いることによって、評価時間を短縮できるというメリットもある。本願発明者は、白髪モデル動物を用いて供試薬剤の白毛制御効果を評価するに当たり、白毛評価を第1発明の(a)〜(c)の評価指標に基づいて行うことが特に有効であることを見出した。
【0040】
第1発明における白毛評価の第1の評価指標である「(a)白髪モデル動物の体毛の測色値」は、毛刈りした体毛を束にして光学的測色系で測定して、あるいは毛刈りしていない白髪モデル動物の体毛を直接に光学的測色系で測定して、得られる指標である。この測色値のうち、特に、第2発明に規定するLab表色系の明度指数Lの測色値が好ましく、かつ非常に有用である。このような測色値は、1検体当たり僅か数秒程度で測定できるので、簡便かつ迅速な評価が可能である。又、検体中の全体毛をマスとして測定する指標であるため、通常の肉眼的な全体観察による白毛化体毛の外観印象と良好に対応した白毛評価が可能となる。しかも、信頼性の高い評価指標である白毛率と非常に高い相関を示す。
【0041】
第1発明における白毛評価の第2の評価指標である「(b)白髪モデル動物における体毛発生部分の皮膚組織の観察結果」は、少なくとも毛胞部分を含む皮膚組織の観察により得られるものである。このような体毛発生部分の皮膚組織の観察結果としては、特に、第3発明に規定する色素幹細胞数の計数が好ましい。色素幹細胞数の計数値を得るに当たり、個々の細胞が色素幹細胞であるか否かを認定する方法としては、第4発明に規定する方法が特に好ましい。なぜなら、(1)体毛バルジ領域に存在し、(2)色素細胞であり、かつ(3)未分化細胞(幹細胞)であれば、体毛発生部分の色素幹細胞であると判定できるからである。色素幹細胞数も白毛率と高い相関を示し、白毛評価の評価指標としての信頼性が高い。
【0042】
色素幹細胞数は非常にユニークな評価指標である。即ち、色素幹細胞が体毛のメラニンを供給する色素細胞に分化した後、毛母に移動すると考えられるから、色素幹細胞数は、通常の白毛評価だけではなく、評価時点以後の白毛化の進行に対する予測や、外観的に未だ生じていない白毛化の発生時期に対する予測ができる可能性を秘めていると考えられる。
【0043】
更には、白毛化の亢進は毛周期(体毛サイクル)の回数と相関があるので、色素幹細胞数から体毛年齢が分かる。
【0044】
一方、色素幹細胞は表皮にも移動して皮膚のメラニンを供給する色素細胞に分化すると考えられるから、白毛評価とは直接の関係はないが、皮膚が外傷を受けた際の皮膚色の再生を予測し、又はメラノーマの発生を予測する指標ともなり得る。
【0045】
第1発明における白毛評価の第3の評価指標である「(c)白髪モデル動物の体毛におけるメラニン量の測定値」は、検体中の全ての体毛に含まれるメラニン量をマスとして測定する指標であるため、通常の肉眼的な全体観察による白毛化体毛の外観と良好に対応した白毛評価が可能となる。その信頼性も高いことが確認されている。この(c)のメラニン量の測定値は、例えば回収した体毛を10分間アルカリ処理して溶解させ、その溶解液中のメラニン量を吸光度計にて測定するという手順によって測定することができるが、このような測定方法に限定されるものではない。
【0046】
更に本願発明者は、前記したように明度指数Lの測色値と白毛率との間だけでなく、明度指数Lの測色値と色素幹細胞数の計数値との間、白毛率と色素幹細胞数の計数値との間、明度指数Lの測色値とメラニン量測定値との間にもそれぞれ、非常に高い相関があることを見出した。従って第5発明〜第9発明に規定するように、これらの指標間の相関に基づき、より好ましくは、これらの指標間で予め作成した一次回帰直線を用いて、実際に測定され又は算出された測色値又は白毛率(ファクターA)から、未知の色素幹細胞数、メラニン量あるいは白毛率を信頼性ある換算値として求め、これらの換算値を評価指標として白毛評価を行うことができる。これにより、目的に応じた多様な白毛評価が簡便に可能となる。
【0047】
次に、第10発明〜第12発明に規定するように、以上の第1発明〜第9発明の薬剤評価方法において、第10発明の(イ)の段階で白髪モデル動物の体毛の白毛評価を開始することは、一般に体毛がその毛周期(体毛サイクル)の回数を重ねるに従い白毛化し易くなる傾向がある点に鑑みれば、検体に含まれる多数の体毛のサイクルを揃えて正確な評価を期する上で合理的である。このことは、同一の白毛評価に係る実施例又は比較例に用いる複数個体の白髪モデル動物間においても言える。更に、(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを1サイクル又は複数サイクル行うと共に、そのうちの(ハ)の段階では必要に応じて供試薬剤を2回以上適用し、その中で(イ)の段階で得られた白毛評価の評価指標と(ニ)の段階で得られた白毛評価の評価指標とを比較することは、白髪モデル動物に対する供試薬剤の経時的効果を詳細に分析する上で極めて効果的である。
【0048】
なお、第13発明〜第16発明に規定するように、白髪モデル動物に対する供試薬剤の適用方法は限定されないが、例えば、皮膚への塗布、皮下注射、皮内注射、吸入投与及び経口投与から選ばれる一つ以上の適用方法が好ましく、供試薬剤の白毛制御効果の評価としては、白毛予防・治療効果あるいは白毛促進・増加効果の評価が好ましく例示され、白髪モデル動物の種類はヒトを除く他は限定されないが、マウスが好ましく例示される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例における薬剤評価のスケジュールの概要を示す。
【図2】黒毛か白毛かの判定基準を示す写真である。
【図3】L値の測定に供した毛束を示す写真である。
【図4】白毛率とL値の関係を示すグラフである。
【図5】白毛率と色素幹細胞数の関係を示すグラフである。
【図6】吸光度で示されるメラニン量とL値の関係を示すグラフである。
【図7】薬剤の皮膚への塗布による白毛予防効果を示すグラフである。
【図8】薬剤の経口投与による白毛予防効果を示すグラフである。
【図9】薬剤の皮膚への塗布による白毛促進効果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0051】
〔薬剤評価方法〕
本発明に係る薬剤評価方法は、白髪モデル動物に供試薬剤を適用し、その白髪モデル動物における白毛評価によって前記供試薬剤の白毛制御効果を評価する方法である。
【0052】
(白髪モデル動物)
白髪モデル動物は、ヒト以外の動物であって、体毛の白毛割合が経時変化するという表現型を持つ各種のモデル動物中から任意に選択することができるが、より好ましくは体毛の白毛化現象についてヒトとの共通性が大きい哺乳動物であり、更に好ましくは、小型、体毛サイクルの適切さ、管理の容易さ等の点からラット、マウス等の齧歯目動物であり、とりわけ好ましくはマウスである。
【0053】
白髪モデルマウス等の白髪モデル動物としては、体毛の白毛割合が経時変化するモデル動物を用いる。白毛割合の経時変化は、長期にわたって徐々に白毛割合が増大するものでも、極めて短期間に急速に白毛割合が増大するものでも使用できる。好ましい白髪モデルマウスの具体例としては、PCT/JP2006/302783号に開示されたものや、公知のビチリゴマウス(C57BL/6 Mitfmi−vit)を例示できる。
【0054】
(供試薬剤)
白髪モデル動物に適用する供試薬剤の種類は限定されない。供試薬剤の剤型も限定されず、供試薬剤のみからなり又はこれを主成分として含む液剤、粉剤、錠剤等を、そのまま、あるいは餌料等に混合して用いることができる。
【0055】
白髪モデル動物に対する供試薬剤の適用形態も限定されず、公知の任意の適用形態を採用できるが、好ましくは、皮膚への塗布、皮下注射、皮内注射、吸入投与及び経口投与から選ばれるいずれか一つの適用形態を実施するか、あるいはそれらの内の二つ以上の適用形態を併せ実施することができる。
【0056】
(評価項目)
本発明において、薬剤評価方法の評価項目は白毛制御効果である。「白毛制御効果」とは、白毛抑制効果と白毛促進効果とを含む。「白毛抑制効果」とは、体毛の白毛化を予防し、既に生じた白毛化の一層の進行を抑制又は停止させ、あるいは更に既に生じた白毛を黒毛化させる効果をいう。「白毛促進効果」とは、体毛の白毛化を誘発し、又は既に生じた白毛化を一層進行させる効果をいう。
【0057】
(薬剤評価のスケジュール)
薬剤評価方法における薬剤評価の具体的なスケジュールは、少なくとも、白髪モデル動物に対して供試薬剤を適用する段階と、供試薬剤の適用後に白髪モデル動物の体毛について白毛評価を行う段階とが含まれる限りにおいて、限定されない。
【0058】
好ましくは、白髪モデル動物に対して供試薬剤の適用を開始する時期が、好適に選択される。白髪モデル動物が余りに未成熟で幼いと、体毛が十分に生え揃わず、又は体毛評価のための毛刈りや供試薬剤の適用に耐えない恐れがある。一方、多数の体毛を収集して評価するに当たり、それらの体毛サイクルがバラバラであると、正確な白毛評価を期待し難い。
【0059】
このような点から、特にマウスにおいては体毛サイクルが休止期間中にバリカンとシェーバーにて毛刈りし、供試薬剤の適用を開始することが特に好ましい。この時点では白髪モデル動物が毛刈りや供試薬剤の適用に耐える程度に成長しており、又、この時点で最初の白毛評価を行って評価結果を初期値とし、この初期値を供試薬剤適用後の白毛評価結果と比較すれば、より正確な白毛評価が可能になる。更に、上記の最初の白毛評価の際、又はその直後に白髪モデル動物の体毛をバリカンとシェーバーにて除去すれば、その後の評価における体毛サイクルを揃えることができ、一層正確な白毛評価が可能になる。なお、休止期間中にバリカンとシェーバーにて毛刈りすることにより、体毛サイクルを白毛制御効果の評価に好適な成長期に揃えることが出来る。
【0060】
以上の点から、薬剤評価のスケジュールとしては、(イ)体毛サイクルが休止期間中の白髪モデル動物の体毛の白毛評価を行う段階と、(ロ)白髪モデル動物の体毛を除去する段階と、(ハ)白髪モデル動物に対し、供試薬剤を1回以上適用する段階と、(ニ)供試薬剤の適用後に発毛した時点で白毛評価を行う段階と、を含むスケジュールが特に好ましい。その際、白毛評価を毛刈りした体毛について行う場合には、(イ)と(ロ)の段階を同時に行うことができる。
【0061】
又、前記(イ)の段階を経た白髪モデル動物に対して、前記(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを複数サイクル行うことも、長期的かつ詳細な評価を行う上で好ましい。この際にも、白毛評価を毛刈りした体毛について行う場合には、前のサイクルの(ニ)の段階と、次のサイクルの(ロ)の段階を同時に行うことができる。更に、前記した白毛評価の初期値を各サイクルの(ニ)の段階の評価値とそれぞれ比較し、かつ、各サイクルの(ニ)の段階の評価値相互間で比較することも好ましい。
【0062】
〔白毛評価の評価指標〕
本発明においては、白髪モデル動物の白毛評価を、以下(a)〜(c)のいずれかの評価指標に基づき、又はこれらの内の二つ以上の評価指標に基づいて行う。
【0063】
(a)白髪モデル動物の体毛の測色値
この評価指標は、白髪モデル動物の一定量の体毛を毛刈りして検体とし、この検体を綿塊状の束のままで、適宜な光学的測色系で測定して得られる数値化された指標である。
【0064】
又、この評価指標は、毛刈りしていない白髪モデル動物の体毛を直接に光学的測色系で測定して得ることもできる。但し、この手法による場合は、測定中の白髪モデル動物の身動き等に起因してデータがばらつくなどのデメリットを生じ得る。
【0065】
検体としては、例えば白髪モデル動物の背中の一定面積部分の体毛を用いることができる。光学的測色系としては、例えば、コニカミノルタ社製の色彩色差計「CR-400」等の適宜な色差計を用いることができる。
【0066】
(b)白髪モデル動物における体毛発生部分の皮膚組織の観察結果。
【0067】
この評価指標は、白髪モデル動物の毛胞部分を含む皮膚組織の観察結果、より具体的には毛胞部分の色素細胞生産組織の観察結果である。その観察結果は、色素幹細胞数の計数値であることが特に好ましい。色素幹細胞数は、単一の毛胞部分についての色素幹細胞数の計数値、より好ましくは、数箇所ないし数十箇所の毛胞部分についての色素幹細胞数の合計計数値又は平均値である。色素細胞生産組織における色素幹細胞の認定に当たり、(1)体毛バルジ領域に存在する細胞であること、(2)dctが発現していることによる色素細胞であるとの判定、(3)c−kitが発現していないことによる未分化細胞であるとの判定、の3条件を全て満たす細胞を、色素幹細胞と認定することができる。
【0068】
皮膚組織の採取は微量で済むため、動物に苦痛を与えない程度に抑えることができる。ましてやマウスを屠殺する必要もなく、体毛サイクルが回る度に皮膚の一部を回収することで経時変化を観察することも可能なので、皮膚組織の観察により白毛制御効果を評価することはメリットがある。
【0069】
(c)白髪モデル動物の体毛におけるメラニン量の測定値。
【0070】
この評価指標は、要するに白髪モデル動物の一定量の体毛に含まれるメラニン量の、適宜な方法による定量値である。具体的なメラニン量の定量方法としては、その目的を達する限りにおいて公知の任意の方法を採用すれば良いが、例えば前記したように回収した体毛を10分間アルカリ処理し、メラニン量を吸光度計にて測定する方法が例示される。
【0071】
白髪モデル動物を用いて供試薬剤の白毛制御効果を評価するに当たり、一般的に考えられる評価指標である白毛率、及び本発明に特有の評価指標である(a)白髪モデル動物の体毛の測色値(特に、明度指数Lの測色値)、(b)白髪モデル動物における体毛発生部分の皮膚組織の観察結果(特に、色素幹細胞数)、(c)白髪モデル動物の体毛におけるメラニン量の測定値の各々は、前記のように、それぞれ特徴的な白毛評価を可能とするものである。
【0072】
これらの内の特定の評価指標間には、実施例欄で後述するように一次回帰直線を作成可能な高い相関が認められることが分かっている。従って、測定値/計数値が既に得られた評価指標をファクターAとし、測定値/計数値が得られていないが実際に利用したい評価指標をファクターBとしたとき、ファクターAとファクターBの関係を表す一次回帰直線を予め作成しておけば、ファクターAの測定値/計数値に基づき、ファクターBの評価指標を信頼性の高い換算値として容易に求めることができる。
【0073】
このような高い相関を示す一対の評価指標として、「明度指数Lの測色値と色素幹細胞数の計数値」、「白毛率と色素幹細胞数の計数値」、「明度指数Lの測色値とメラニン量」、「明度指数Lの測色値と白毛率」を挙げることができる。これらの一対の評価指標間では、任意の一方の評価指標を上記のファクターAとし、他方の評価指標を上記のファクターBとすることができる。
【0074】
しかし実用的な見地からは、相対的に測定値/計数値が得られ易い評価指標がファクターAであり、相対的に測定値/計数値が得られ難い評価指標がファクターBであることが合理的である。かかる実用的な見地から、以下の1)〜4)の評価指標間の換算が好ましい。
【0075】
1)明度指数Lの測色値から色素幹細胞数の換算値を求める。
【0076】
2)白毛率から色素幹細胞数の換算値を求める。
【0077】
3)明度指数Lの測色値からメラニン量の換算値を求める。
【0078】
4)明度指数Lの測色値から白毛率の換算値を求める。
【実施例】
【0079】
以下に本発明の実施例を比較例と共に説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例及び比較例によって限定されない。
〔実施例1:薬剤評価のスケジュール〕
(白髪モデル動物)
白髪モデル動物として、PCT/JP2006/302783号に開示された公知の白髪モデルマウス(以下、単に「マウス」という)を使用した。このマウスは、詳細な説明は省くが、一定の遺伝子型を持ったノックアウト・トランスジェニックマウスであって、生後はじめて生える体毛の色が黒色ないしほぼ黒色であり、加齢と共に白毛を自然発症するという表現型を持っている。
【0080】
(薬剤評価のスケジュール)
本実施例における薬剤評価のスケジュールを図1に示す。図1の上部に示すタイムテーブルにおいて右端に「age」の表記で示す段はマウスの月齢を示し、最初の「4M」との表記は「4ケ月齢の時点で評価を開始した」ことを意味する。本実施例における評価の開始時点は休止期の体毛を持った4ヶ月齢のマウスをバリカンとシェーバーにて毛刈りした時点である。
【0081】
タイムテーブルの右端に「Exp. Period」の表記で示す段は評価の開始時点からの経過月数を示し、その下部の「下方が欠けた丸形状の矢印」様の記号はその時点で「マウスの体毛を毛刈りした」ことを示す。即ち、マウスを評価開始時点である4ケ月齢の時点で初めて毛刈りし、以後、マウスの体毛サイクルがほぼ1ケ月であることから、1ケ月経過ごとに8ケ月齢の時点まで毛刈りを繰り返した。この毛刈りにおいては、マウスの背中部分における長方形のエリアの体毛を刈り取った。このエリアで刈り取った体毛を、以下、「検体毛」という。
【0082】
そして4ケ月齢の時点(評価開始時)から8ケ月齢の時点(評価終了時)に至るまで、実施例に係るマウス(図に「Drug」と表記)の毛刈りした部分には供試薬剤の70%エタノール溶液を、図に「コントロール(70%EtOH)」と表記したコントロール用のマウスの毛刈りした部分には70%エタノール(エタノール:水=容積比7:3)を、それぞれ毎日200μL塗布した。
【0083】
実施例及びコントロール用のマウスの体毛の白毛評価は、前記の「下方が欠けた丸形状の矢印」様の記号の傍らに上向きの矢印で示すように、それぞれ4ケ月齢、6ケ月齢及び8ケ月齢の時点で毛刈りした検体毛について行った。評価項目は、後述の実施例で述べるように、「白毛率」、「明度指数Lの測色値(以下、単に「L値」という)」、「色素幹細胞数」及び「メラニン量」である。
〔実施例2:白毛率の視覚的観察による測定〕
白毛率とL値との相関を求めるため、検体毛中の白毛の数を視覚的観察による計数によって算出した。バリカン・シェーバーによって刈り取ったマウスの検体毛について、光学顕微鏡(オリンパス社製BX61、10倍〜20倍)にて1本ずつ白毛か黒毛かを分別し、「白毛率=白毛本数/全体毛本数」として算出した。白毛か黒毛かの分別においては、毛髪のメジュラー中にメラニンが見られるか否かを基準として判断した。この基準に基づく黒毛の例を図2の「黒毛」と表記した上側の顕微鏡写真(メジュラー中にメラニンが詰まっている)に示し、白毛の例を図2の「白毛」と表記した下側の顕微鏡写真(メジュラー中にメラニンが見られない)に示す。
〔実施例3:検体毛のL値の測定〕
刈り取った検体毛を図3で示したように毛束状にした。図3の右側には白毛の毛束を、左側には白毛混じりの黒毛の毛束を示す。色彩色差計(コニカミノルタ社製CR-400)のプローブをこれらの毛束に押し当ててL値を測定した。なお、毛刈りせず直接マウスの体毛にプローブを押し当てても測定は可能であるが、マウスが動いたり、データがばらつくなどのデメリットが生じるため、前記の通り毛束状での測定がより好ましい。なお、後述するL値はすべて本方法により求めたものである。
〔実施例4:白毛率とL値の相関〕
実施例2で測定した白毛率と実施例3で測定したL値との相関性を、白毛率が異なる61種の検体毛を対象に検討した。その実測値を表1に示す。
【0084】
【表1】

表1に示す結果に基づき、表計算ソフト(マイクロソフト社製エクセル)を用い、統計処理をした。その結果、yを白毛率(%)、xをL値、決定係数R2とした時、y=0.021x−0.4024、R=0.9101という一次回帰直線を求めることができ、白毛率とL値に相関があることが示された。
【0085】
この点を図4のグラフに示す。従って、高い信頼性のもとに、L値と白毛率を相互に換算することができる。
〔実施例5:色素幹細胞数の計数〕
体毛発生部分の皮膚組織を観察し評価する方法として、色素幹細胞数を以下の(1)〜(9)に述べる手順により計数した。
【0086】
(1)検体毛を毛刈りした部分の皮膚の一部(約10mm×5mm角)を切除後に縫合可能なように切り取る。
【0087】
(2)切り取った皮膚を未固定にて凍結包埋する。
【0088】
(3)凍結切片を12μmの厚さにて作製する。
【0089】
(4)スライドグラスに切片をのせ、10分間冷アセトンで固定する。
【0090】
(5)PBSにて洗浄し、4℃で抗dct抗体(サンタクルーズ社製を1:1000で使用)および抗c-kit抗体(サンタクルーズ社製を1:1000で使用)にて免疫染色する。
【0091】
(6)12時間後、PBSにて洗浄する。
【0092】
(7)Alexa 594 donkey αgoat IgG (サンタクルーズ社製を1:1000で使用)およびAlexa 488 donkey αRat IgG (サンタクルーズ社を1:1000)にて室温で10分間二次抗体反応をさせる。
【0093】
(8)PBSにて洗浄し、核染色後封入する。
【0094】
(9)光学顕微鏡(オリンパス社製BX61 20〜40倍)にて毛包を観察し、下記(I)〜(III)の全ての条件を満たす細胞を色素幹細胞とし、各例で評価するマウス皮膚中の毛包70本中の色素幹細胞をカウントする。
【0095】
(I)体毛バルジ領域に存在する細胞である。
【0096】
(II)dctの発現産物であるタンパク質が認められる細胞である。
【0097】
(III)c−kitの発現が、全くあるいは実質的に認められない細胞である。
〔実施例6:白毛率と色素幹細胞数の相関〕
実施例5の手順に従って計数した毛包70本当たりの色素幹細胞数と、該当する皮膚部分に生えていた検体毛についての実施例2と同じ視覚的観察による計数により測定した白毛率との相関性を、白毛率が異なる29種の検体毛を対象に検討した。実測値を表2に示す。
【0098】
【表2】

この結果に基づき実施例4と同様に統計処理をした。yを色素幹細胞数、xを白毛率、決定係数R2とした時、y =−0.0075x + 0.3842,R2=0.8247という一次回帰直線を求めることができ、検体毛を毛刈りした部分の皮膚組織における一定数の毛包当たりの色素幹細胞数と、その部分から採取した検体毛の白毛率に相関があることが示された。結果を図5のグラフに示す。
【0099】
図5に示すグラフから、色素幹細胞数と白毛率に相関があることも認められるので、色素幹細胞数から白毛率を求めることも可能であることが分かる。
〔実施例7:メラニン量の測定〕
検体毛中のメラニン量を以下の方法により測定した。即ち、メラニン量を、検体毛を溶解した溶液の吸光度により測定をおこなうため、試薬として入手できるメラニンを用い、常法により検量線を作成し、それを用いてメラニン量M(μg/ml)を求めた。吸光度は、バイオラッドラボラトリー社製のプレートリーダー(450nm)を用いて測定した。検体毛10mgを精秤し、NaOH0.6g、200mMのEDTA250μl、蒸留水49.75mlを混合し調製したアルカリ溶液(pH>13)に10分間浸漬させ、メラニンを抽出した後、吸光度を測定し、検量線を用いてメラニン量Mに変換した。
〔実施例8:L値とメラニン量の関係〕
実施例7において測定した一定量の検体毛当たりのメラニン量と、その検体毛からなる毛束について実施例7に先立って測定しておいたL値との相関性を、白毛率が異なる8種の検体毛を対象に検討した。実測値を表3に示す。
【0100】
【表3】

この結果に基づき、実施例4,6と同様に統計処理をした。yをメラニン量M、xをL値、決定係数をR2とした時、y =−0.0247x +1.866、R2=8355という一次回帰直線を求めることができ、メラニン量とL値に相関があることが示された。このグラフを図6に示す。図6における「吸光度」はメラニン量に対応する。
【0101】
また、この結果から、前記の図5のグラフを踏まえれば、メラニン量と白毛率に相関があることも認められるので、メラニン量から白毛率を求めることも可能である。
【0102】
実施例6の結果も併せれば、本実施例で用いたマウスについて、白毛率、L値、色素幹細胞数及びメラニン量の全てに相関性があることが認められたので、このうち1つのパラメーターが測定できれば、残り3つのパラメータを求めることができる。例えば、メラニン量から色素幹細胞数を求めることも可能である。
〔実施例9:皮膚への塗布による薬剤の白毛予防効果の評価〕
実施例1の方法に基づく薬剤評価を、ポリフェノールの一種であるルテオリンを用いて行った例を示す。
【0103】
ルテオリンとして、LKT社製ルテオリンを用い、70%エタノールにて1%(v/v)希釈した溶液を用いn=13にて白毛予防・治療効果を評価した結果を図7に示す。図7に示す通り、ルテオリンは、皮膚への塗布による4ケ月間の適用によってマウスの白毛化を有意に抑制し、白毛を制御する効果を有すると評価することができた。
〔実施例10:経口投与による薬剤の白毛予防効果の評価〕
次に、上記の供試薬剤であるルテオリンの適用形態を皮膚への塗布から経口投与に変更し、それ以外の点は実施例1の薬剤評価スケジュールに従って、ルテオリンの白毛予防効果を評価した。
【0104】
具体的には、実施例のマウスにはルテオリン6.25mg、精製水250ml、5規定水酸化カリウム2.5ml、アスパルテーム312.5mgおよびチョコレートフレーバー500μlを混合した溶液の形態で毎日50mg経口投与し、コントロールのマウスには前記溶液からルテオリンのみを除いた溶液の形態で毎日同量経口投与し、投与開始から4ケ月間にわたり実施例及びコントロールに係るマウス検体毛の白毛率を実施例2の方法で測定した。実施例は5個体、コントロールは3個体を供試し、測定値としてはこれらの複数個体の測定値の平均値を採用した。
【0105】
結果を図8に示す。図8において例えば「1M」とある表記は「投与の開始から1ケ月経過時」を意味する。
【0106】
図8に示すように、「■」のプロットで示すルテオリン投与マウスは、「◆」のプロットで示すコントロールのマウスに比較して、投与の開始から4ケ月経過時においては白毛率の増大を抑制することについて有意な差が認められる。従って、ルテオリンは、投与経路に関わらず、マウスの白毛化を有意に抑制し、白毛を制御する効果を有すると評価することができた。なお、この実験期間中、マウスに有意な体重変化は認められなかった。
〔実施例11:皮膚への塗布による薬剤の白毛促進効果の評価〕
実施例1の薬剤評価スケジュールに基づいて行った薬剤評価の他の一例を示す。植物抽出液として市販されているタイムエキス(一丸ファルコス株式会社社製 ファルコレックスタイムB)を1%含有する70%エタノール溶液を実施例に係るマウス4個体に適用し、これとは別に70%エタノール溶液をコントロールに係るマウス4個体に適用して、タイムエキスの白毛促進効果を評価した。
【0107】
評価の結果を図9に示す。図9において横軸に表記した、例えば「6M」とある表記は、「投与の開始から6ケ月経過時」を意味する。又、白毛率の測定値としては、上記の複数個体の測定値の平均値を採用した。
【0108】
図9に示すように、「■」のプロットで示すタイムエキス適用マウスは、「◆」のプロットで示すコントロールのマウスに比較して、投与の開始から6ケ月経過時においては白毛率の増大を促進することについて有意な差が認められる。従って、タイムエキスは、マウスの白毛化を有意に促進し、白毛を制御する効果を有すると評価することができた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によって、有効な白毛制御剤をスクリーニングできる新たな薬剤評価方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体毛の白毛割合が経時変化する白髪モデル動物に供試薬剤を適用し、前記白髪モデル動物の白毛評価によって前記供試薬剤の白毛制御効果を評価する方法であって、
前記白毛評価を以下(a)〜(c)のいずれか1以上の評価指標に基づいて行うことを特徴とする薬剤評価方法。
(a)白髪モデル動物の体毛の測色値。
(b)白髪モデル動物における体毛発生部分の皮膚組織の観察結果。
(c)白髪モデル動物の体毛におけるメラニン量の測定値。
【請求項2】
前記(a)の測色値が、Lab表色系の明度指数Lの測色値であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤評価方法。
【請求項3】
前記(b)の体毛発生部分の皮膚組織の観察結果が、毛胞部分の色素細胞生産組織における色素幹細胞数であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薬剤評価方法。
【請求項4】
前記色素幹細胞数を計数するに当たり、白髪モデル動物の皮膚組織を採取し、c−kitとdctの二重染色により免疫組織染色し、以下(1)〜(3)の全ての条件を満たす細胞を色素幹細胞と認定することを特徴とする請求項3に記載の薬剤評価方法。
(1)体毛バルジ領域に存在する細胞である。
(2)dctの発現状態によって色素細胞であると判定できる。
(3)c−kitの発現状態によって未分化細胞であると判定できる。
【請求項5】
前記明度指数Lの測色値を、この測色値と請求項3又は請求項4に記載の色素幹細胞数の計数値との相関に基づいて色素幹細胞数に換算し、この色素幹細胞数の換算値を評価指標として白毛評価を行うことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の薬剤評価方法。
【請求項6】
一定数の体毛の内の白毛の比率を視覚的観察により計数して得られる白毛率を、この白毛率と請求項3又は請求項4に記載の色素幹細胞数の計数値との相関に基づいて色素幹細胞数に換算し、この色素幹細胞数の換算値を評価指標として白毛評価を行うことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の薬剤評価方法。
【請求項7】
前記明度指数Lの測色値を、この測色値と請求項1の(c)に記載のメラニン量測定値との相関に基づいてメラニン量に換算し、このメラニン量の換算値を評価指標として白毛評価を行うことを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれかに記載の薬剤評価方法。
【請求項8】
前記明度指数Lの測色値を、この測色値と請求項6に記載の白毛率との相関に基づいて白毛率に換算し、この白毛率の換算値を評価指標として白毛評価を行うことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の薬剤評価方法。
【請求項9】
ファクターAとしての測色値あるいは白毛率と、ファクターBとしての色素幹細胞数、メラニン量あるいは白毛率との関係(ファクターA、ファクターBが共に白毛率である場合を除く)を表す一次回帰直線を予め作成し、これらの一次回帰直線を用いて、前記換算値をファクターAからファクターBへの換算として求めることを特徴とする請求項5〜請求項8のいずれかに記載の薬剤評価方法。
【請求項10】
前記薬剤評価方法が、
(イ)毛周期(体毛サイクル)が休止期間中の白髪モデル動物の体毛の白毛評価を行う段階と、
(ロ)白髪モデル動物の体毛を除去する段階と、
(ハ)白髪モデル動物に対し、供試薬剤を1回以上適用する段階と、
(ニ)供試薬剤の適用後に発毛した時点で白毛評価を行う段階と、
を含むことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の薬剤評価方法。
【請求項11】
前記(イ)の段階を経た白髪モデル動物に対して、前記(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを複数サイクル行うことを特徴とする請求項10に記載の薬剤評価方法。
【請求項12】
前記薬剤の白毛制御効果の評価を、前記(イ)の段階で得られた白毛評価の評価指標と、前記(ロ)〜(ニ)の段階からなるサイクルを1サイクル又は複数サイクル行う場合における前記(ニ)の段階で得られた白毛評価の評価指標との比較によって行うことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の薬剤評価方法。
【請求項13】
前記白髪モデル動物に対する供試薬剤の適用を、白髪モデル動物の皮膚への塗布、皮下注射、皮内注射、吸入投与及び経口投与から選ばれる一つ以上の形態で行うことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれかに記載の薬剤評価方法。
【請求項14】
前記供試薬剤の白毛制御効果の評価が、該供試薬剤の白毛予防・治療効果を評価するものであることを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載の薬剤評価方法。
【請求項15】
前記供試薬剤の白毛制御効果の評価が、該供試薬剤の白毛促進・増加効果を評価するものであることを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載の薬剤評価方法。
【請求項16】
前記白髪モデル動物がマウスであることを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載の薬剤評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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