説明

薬剤送達のための生物分解性ブロックコポリマー組成物

【課題】薬剤送達の改善された送達組成物およびその方法を提供する。
【解決手段】組成物は、1つ以上の生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤーと;ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物を含む再構成を高めかつ可能とする薬剤を含む。本組成物は、そのまま投与されるか、または、水性ビヒクルに溶解されるか、または迅速に再構成された後投与される、均質な溶液または均一なコロイド系を生ずる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達のための組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、液体ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物;および、生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーを含むコポリマー組成物に関する。とりわけ、本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体の混合物と;生物分解性の疎水性ポリエステルまたはポリ(オルトエステル)Aブロックと親水性ポリエチレングリコール(PEG)Bブロックとを基体とする生物分解性のABA、BABおよびABタイプのブロックコポリマーとを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生物分解性のポリマーは、外科的縫合、傷口の包帯としておよび薬剤送達系として使用されている。これらのうち、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)およびそれらのコポリマー(PLGA)が、最も注目されている。生物分解性の高分子薬剤送達系の1つの例は、薬剤が手術によって移植される生物分解性のポリマーマトリックスに含まれる系であり、これが、大きな欠点である。注入可能な薬剤送達系の形態にて、高分子微細球およびナノ微細球(nanosheres)は、当分野公知である。PLGA微細球を基体とする市販入手可能な薬剤送達配合物としては、Lupron DepotR(上付きRは、登録商標を表す)およびNutropin DepotRが挙げられる。微細球およびナノ微細球は、それらが特殊かつ複雑な製造方法を必要とする欠点を有する。遺憾ながら、微細球およびナノ微細球剤形を製造するには、毒性または危険な溶剤(例えば、塩化メチレン、酢酸エチル)の使用および合成法(例えば、ダブルエマルジョンまたは極低温スプレー技術)を必要とする。バッチサイズは、通常、小さくかつコストが高い。また、使用されるPLGA生物分解性ポリマーは、有機溶剤にしか溶解しないので、それらの調製は、ヒト身体と異物でありかつヒト身体を傷付けるこのような溶剤の使用を必要とし、公知のいずれの方法によっても製造の間に完全に取り除くことができない。さらに、幾つかの薬剤、例えば、ペプチドおよび蛋白質は、有機溶剤との接触後、それらの薬理学的活性を失うかもしれない。
【0003】
前述の薬剤送達系に対する改良は、U.S.特許5,599,552に開示されているように、in situでPLGAを基体とするデポーを形成することである。その系にて、PLGAは、水溶性有機溶剤、例えば、N-メチル-2-ピロリドンに溶解させ、その薬剤をこの高分子溶液に懸濁または溶解させる。溶液は、皮下に注射して、有機溶剤が拡散するにつれて沈殿するポリマー中の薬剤をトラップするためのデポー(depot)をin situで形成することができる。しかし、欠点は、生物分解性のPLGAポリマーを溶解するために使用される有機溶剤を必要とする点である。有機溶剤、例えば、N-メチル-2-ピロリドンは、ヒトの身体に対して異物であり、急性および慢性的な思わぬ副作用を生じかねない。
【0004】
U.S.特許5,543,158は、本質的に、ポリ(アルキレングリコール)およびポリ(乳酸)からなる水不溶性のブロックコポリマーから形成されるナノ粒子またはミクロ粒子を開示している。ブロックコポリマーの分子量は、大きく、そのコポリマーは、水不溶性である。ナノ粒子またはミクロ粒子にて、コポリマーの生物分解性部分は、ナノ粒子またはミクロ粒子の心であり、ポリ(アルキレングリコール)部分は、網内細胞系によってナノ粒子またはミクロ粒子の取り込みを減少させるのに十分な有効量、ナノ粒子またはミクロ粒子の表面上に存在する。ナノ粒子は、ブロックコポリマーと薬剤とを有機溶剤中に溶解させ、超音波または攪拌によってo/wエマルジョンを形成し、薬剤含有ナノ粒子を沈殿させてから収集することによって製造される。
【0005】
現在のところ、明瞭に定義された分解経路およびポリマーと分解生成物との安全性を有する厳格な規約コンプライアンス要件、例えば、生物学的相容性、低い毒性があるので、薬剤、例えば、ペプチドおよび蛋白質の送達を制御するのに使用することのできる合成または天然の高分子材料は、数少ない。利用可能な毒性および臨床データに関して最も広く研究され、かつ、進歩している生物分解性のポリマーは、脂肪族ポリ(α-ヒドロキシ酸)、例えば、ポリ(D-、L-またはD,L-乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)およびそれらのコポリマー(PLGA)である。これらのポリマーは、市販入手可能であり、現在、生物再吸収性縫合糸としておよび生物分解性の微細球薬剤送達系にて使用されている。ロイプロライドアセテート(Lupron DepotTM)およびヒト成長ホルモン(Nutropin DepotTM)の放出制御のためのFDA-承認された微細球系は、PLGAコポリマーを基体とする。使用のこの歴史に基づき、PLGAコポリマーは、生物分解性キャリヤーを使用する非経口放出制御薬剤送達系の初期設定にての選択材料であった。
【0006】
幾つかの限られた成果が存在するものでさえ、生物分解性ポリエステルもしくはポリ(オルトエステル)とポリエチレングリコール(PEG)ブロックとを基体とする生物分解性のブロックコポリマーは、薬剤キャリヤーとして使用される時、それらの物理化学的特性および付随する二次加工に伴う問題が存在する。例えば、生物分解性ブロックコポリマーは、設計によって、水性環境中で安定ではないが、それらを貯蔵凍結する時、棚持ち数年が、達成される。しかし、ほとんどの例にて、冷却貯蔵要件が存在しないのが有益である。通常または周囲温度条件で、生(ニート(neat))ブロックコポリマーの水性ビヒクルへの迅速な溶解に関してさらなる有益性を達成することも望ましい。ブロックコポリマーの迅速な溶解は、使用時にて再構成が生ずることを可能とし、このことは、ひいては、生ブロックコポリマーの室温貯蔵を可能とする。公知の水溶性ブロックコポリマーは、水に溶解するのが遅く、完全な溶解を生ずるまでに数時間を必要とすることが多い。溶解動力学の加速を示す組成物が所望される。
【0007】
幾つかの薬剤、例えば、蛋白質は、水溶液にて、極短時間安定である。この短時間の安定性を補償するために、これら薬剤は、水を含まない条件下ではるかに長時間貯蔵することのできる乾燥ケーキおよび粉末として一般に配合される。投与直前、乾燥ケーキまたは粉末は、水性ビヒクルで再構成される。かくして、再構成可能な形に配合された薬剤およびブロックコポリマー薬剤送達系の両方を有することが望ましい状況に遭遇することがしばしばである。容易とするために、再構成、すなわち、ブロックコポリマーと薬剤との溶解は、短時間に完了することが重要である。
【0008】
U.S.特許No.5,384,333は、薬学的に活性な物質が、親水性部分と疎水性部分とを含むコポリマーに含有される注射可能な薬剤組成物を開示している。しかし、その組成物は、使用直前に、比較的高い温度、例えば、38℃〜52℃に加熱する必要があり、高分子組成物中に均一に分配することが困難である。U.S.特許No.5,612,052は、水と接触させた時にヒドロゲルを形成するブロックコポリマーを開示している。しかし、この組成物に組み込まれた薬剤は、迅速に放出される。U.S.特許No.5,599,552は、水不溶性生物分解性熱可塑性ポリマーが水混和性有機溶剤に溶解され、生ずる組成物が、移植することができ、ついで、それが、水または体液と接触させた時に相転移を受ける。しかし、その欠点は、単分子有機溶剤が生物分解性熱可塑性ポリマーを溶解するために使用されるので、それが使用困難であることである。大部分の単一溶剤、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、乳酸エチル、ジメチルスルホキシド等は、副作用、例えば、細胞脱水および組織壊死等を生じ、それらは、また、適用部位にて非常な苦痛をも生じかねない。
【0009】
U.S.特許No.5,607,686は、親水性液体ポリマーと、単一分子有機溶剤の代わりに、水不溶性疎水性ポリマーとを混合することによって製造される液体高分子組成物を開示している。水と接触させた時、組成物は、相転移を受け、移植片を形成し、かくして、それは、迅速な体積減少を生じず、それは、低分子量ポリエチレンオキシドの良好な細胞相容性により特異な副作用を有しない。しかし、使用される水不溶性疎水性ポリマーは、生物分解性ではない。また、その組成物の調製は、水不溶性疎水性ポリマーと親水性液体ポリマーとの均一な混合を達成するために、約80℃への加熱を必要とする。したがって、この系は、いずれの生理学的に活性な物質も含むことなく、付着防止および傷口保護に使用するのに適しているかもしれないが、生理学的に活性な物質、とりわけ、ペプチドまたは蛋白質医薬品の送達のためには適していない。何故ならば、ペプチドおよび蛋白質医薬品は、高温でそれらの活性を喪失するからである。さらに、蛋白質医薬品は、水溶性であり、かくして、それらを組成物に均一に組み込むことは困難である。また、いかなる薬剤または生理学的に活性な物質が高分子組成物に均一に組み込まれうるかは、この特許には、開示されていない。とりわけ、ポリラクチド、ポリグリコリドおよびそれらのコポリマーは、均一な組成物を得るために、80℃の高温でポリエチレングリコールと混合され、その組成物は、それを長期間放置する時、ポリラクチド、ポリグリコリドまたはそれらのポリエチレングリコールとのコポリマーの低い親和性により相分離を受ける。したがって、均一な組成を維持することは、非常に困難である。
【0010】
滅菌工程は、移植配合物の調製にて不可欠である。既存の滅菌法は、移植配合物の特性であるか、または、その方法が経済的ではないか厄介なために、持続性薬剤送達配合物には不適当である。例えば、薬剤、水不溶性生物分解性ポリマーおよび親水性ポリマーを混合することにより均一な溶液を調製することは、ほとんど不可能である。したがって、組成物は、簡単な方法、例えば、膜濾過により滅菌することが不可能である。さらに、配合物は、滅菌条件下で調製してもよいが、このような方法は、調製の実用性レベルを下げない限り非常に高価である。
【0011】
したがって、容易に調製され、かつ、投与されるために、流動性の液体であり、水性ビヒクル中で迅速に再構成されて、真の溶液または均一なコロイド系を生ずる、改善された薬剤送達を提供する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】U.S.特許5,599,552
【特許文献2】U.S.特許5,543,158
【特許文献3】U.S.特許No.5,384,333
【特許文献4】U.S.特許No.5,612,052
【特許文献5】U.S.特許No.5,599,552
【特許文献6】U.S.特許No.5,607,686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、流動性の液体であり、水性ビヒクル中で迅速に再構成されて、均質な溶液またはコロイド系を生ずることができる薬剤送達のための生物分解性組成物;および、薬剤の送達のための薬学的に有効な配合物を製造するためのその使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、生物分解性の薬剤送達組成物を製造するための方法;および、このような組成物を温血動物に効率的に投与するための方法を提供する。本発明の薬剤送達組成物は、水性ビヒクルなしで温血動物に直接投与することができるか、または、水性ビヒクル中で迅速に再構成した後に投与して、均質な溶液または均一なコロイド系を生ずる。投与は、いずれの機能的手段、例えば、非経口、眼内、吸入、経皮、膣内、頬、経粘膜、経尿道、直腸、鼻腔、経口(oral)、経口(peroral)、肺、局所または耳内;および、本発明に適合性のいずれかのその他手段によって行うことができる。
【0015】
本発明の組成物は、 1) A-B、A-B-AまたはB-A-Bブロックを含み、Aブロックが、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)であり、Bブロックが、ポリエチレングリコール(PEG)であり、Aブロックの重量パーセンテージが、20%〜99%である1つ以上の生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤー;および、 2) ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物を含み; 生物分解性の薬剤キャリヤーが、液体PEGおよび/またはPEG誘導体に可溶性である組成物を含む。本発明の生物分解性ブロックコポリマーの重量平均分子量は、好ましくは、1,000〜100,000ドルトンの範囲内、さらに好ましくは、1,000〜50,000ドルトンの範囲内、最も好ましくは、1,000〜15,000ドルトンの範囲内である。好ましくは、生物分解性のブロックコポリマー内の疎水性Aブロックの重量パーセンテージは、20%〜99%、さらに好ましくは、20〜85%である。
【0016】
本発明の1つの実施態様は、1) A-B、A-B-AまたはB-A-Bブロックコポリマーを含み、Aブロックが、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)であり、Bブロックが、ポリエチレングリコール(PEG)である1つ以上の生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤー;および、 2) ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物を含み; 生物分解性のブロックコポリマーの少なくとも1つが、水溶液に可溶性であり、PEGおよび/またはPEG誘導体と混和性である組成物である。好ましくは、生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーは、合計分子量2000〜8000ドルトンを有し、Aブロックの重量パーセンテージは、50.1%〜83%である。ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物は、分子量150〜1100ドルトンを有する。組成物は、そのまま投与されるか、または、水溶性ビヒクルに溶解させるかもしくは迅速に再構成させて、均質な溶液または均一なコロイド系を生じさせた後投与される。投与後、水溶性生物分解性ブロックコポリマーは、組成物中に含まれるブロックコポリマーの分子量および疎水性ブロックの重量パーセンテージに依存してゲルを形成するかまたはさせなくともよい。
【0017】
本発明のもう1つの実施態様は、 1) A-B、A-B-AまたはB-A-Bブロックコポリマーを含み、Aブロックが、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)であり、Bブロックが、ポリエチレングリコール(PEG)である、1つ以上の生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤー;および、 2) 液体ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物を含み; 生物分解性のブロックコポリマーが、水溶液に不溶性であるが、PEGおよび/またはPEG誘導体に可溶性である液体組成物である。好ましくは、水不溶性生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤーは、合計分子量1000〜10,000ドルトンを有し、Aブロックの重量パーセンテージは、20%〜99%である。液体ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物は、好ましくは、分子量150〜1100ドルトンを有する。液体組成物は、均質な溶液または均一なコロイド系であり、温血動物に直接投与することができる。投与後、液体組成物は、薬剤含有デポーを形成し、長期間にわたって、活性な物質を緩やかに放出し、ついで、ヒトの身体に無害な物質に分解し、排出される。
【0018】
適した生物分解性の水溶性薬剤キャリヤーの例としては、生物分解性のABA-またはBABタイプのトリブロックコポリマー;または、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)A-ブロックとポリエチレングリコールからなる親水性のBポリマーブロックとを基体とするAB-タイプのジブロックコポリマーが挙げられる。生物分解性のポリエステルは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチドD,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプトラクトン、1,4-ジオキサン-2-オン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリアン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸およびそれらのコポリマーからなる群より選択されるモノマーから合成される。
【0019】
ポリエチレングリコール(PEG)は、また、場合によっては、ブロックコポリマーに組み込まれる時、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)またはポリ(オキシエチレン)と称されることもあり、この用語は、本発明の目的に対し、互換的に使用することができる。
【0020】
AブロックがPLA/PLGAポリマーである場合、ラクテート含量は、約20〜100モル%の間で、好ましくは、約50〜100モル%の間である。グリコレート含量は、約0〜80モル%、好ましくは、約0〜50モル%の間である。あるいは、言葉を換えていうと、A-ブロックが、PLGAである時、グリコレート含量は、約1〜80モル%の間であり、好ましくは、約1〜50モル%の間であり、ラクテート含量は、20〜99モル%の間であり、好ましくは、50〜99モル%の間である。
【0021】
本発明にふさわしいPEG誘導体は、分子量150〜1100を有するエステルまたはオルトエステル誘導されたPEGを称す。好ましくは、エステル誘導されたPEGは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、1,4-ジオキサン-2-オン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリアン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸およびそれらの混合物からなる群より選択される員より誘導されるPEGである。PEG誘導体は、また、R1-CO-O-(CH2CH2-O)n-CO-R2またはR1-O-(CH2CH2-O)n-R2(式中、R1およびR2は、独立に、HおよびC1-C10アルキルからなる群より選択される員であり、nは、3〜20の整数である。)によって表される員であってもよい。
【0022】
本発明に対してふさわしい生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーは、均質なさらさらした流動性の溶液または水性ビヒクル中もしくは液体PEGもしくはPEG誘導体またはそれらの混合物中の均一なコロイド系を形成することができる。薬剤送達組成物の均質な溶液および均一なコロイド系としては、薬学的および治療学的に有用な配合物を調製するために必要とされる水あり水なし、必要に応じて、いずれかの添加剤または賦形剤を含んでもよい本発明の組成物のあらゆる流動形を含む。薬剤は、真の溶液またはコロイド状態、例えば、エマルジョンまたは懸濁液として存在することができる。いずれの形も作用して、薬剤の投与を促進し、治療効果を高める。このような治療効果は、コポリマー分子量;組成;および、親水性ブロックと疎水性ブロックとの相対比;薬剤対コポリマーの比;コポリマー対PEGおよび/またはPEG誘導体の比;および、最終投与剤形における薬剤とコポリマーとの両方の濃度を調節することによって最適化することができる。本発明のさらなる利点は、種々の実施態様についての以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、本明細書に開示する個々の構成、プロセス工程および材料に限定されるものではなく、このような構成、プロセス工程および材料は、幾分変化させることができる。本明細書で使用する用語は、個々の実施態様のみを説明するために使用され、本発明の範囲は、特許請求の範囲の請求項およびそれらの等価体によってのみ限定されるであろうから限定することを意図されるものでないことも理解する必要がある。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲にて、単数形“a”、“an”および“the”は、文脈によらない限り複数の引用を含む。かくして、例えば、“1つの薬剤(a drug)”を送達するための組成物を挙げると、1つ、2つ以上の薬剤を参考とすること含む。本発明を説明および特許請求するには、以下の用語が、以降に記載する定義に従い使用されるであろう。
【0025】
“有効量”とは、所望される局所または全身的な効果を奏する薬剤、生物学的な活性剤または薬理学的な活性剤の量を意味する。
“コポリマー溶液”とは、このような溶液に含まれる生物分解性のブロックコポリマーを言うのに使用される時、均質な溶液または均一なコロイド系のいずれかを形成するために溶解されるこのような生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーを有する水性組成物を意味する。
【0026】
“薬剤配合物”、“薬剤送達組成物”等は、薬剤、ブロックコポリマー薬剤キャリヤーとPEG、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物との組み合わせを意味ずる。これらは、ブロックコポリマーと、PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物との薬剤のあらゆる組み合わせを包含するものとする。
【0027】
“水溶液”、“ 水性ビヒクル”等は、添加剤を含まない水;添加剤または賦形剤、例えば、薬学的配合物を調製するのに一般に使用されるpH緩衝液、張度調節のための成分、酸化防止剤、保存剤、薬剤安定剤等を含む水溶液を包含する。
【0028】
“薬剤溶液”、“可溶化された薬剤”、“溶解された薬剤”および溶液または溶解された状態の薬剤を称するその他の全ての用語としては、均質な溶液、ミセル溶液またはコロイド状態、例えば、エマルジョンまたは懸濁液のいずれかとして存在する薬剤が挙げられる。かくして、可溶化された薬剤および薬剤溶液としては、本発明の薬剤送達組成物のあらゆる流動形態が挙げられる。あらゆる形が、作用して、薬剤の投与を促進して治療効果を高める。
【0029】
“再構成(Reconstitution)”とは、生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーおよびPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物を水性溶剤系と混合させて、均質な溶液または均一なコロイド系を創出することをいう。これは、薬剤および賦形剤が溶剤と混合されるさらに慣用的な定義以外に、通常、投与直後に、水性となる。
【0030】
“高められた再構成特性”とは、ブロックコポリマー薬剤キャリヤーを最終的な物理的状態、すなわち、真の溶液または均一なコロイド系に迅速に再構成可能とする特性を称す。再構成プロセスは、短時間内、典型的には、0.01分〜120分、好ましくは、0.01分〜60分、最も好ましくは、0.01分〜30分内に生ずる。
【0031】
“逆加熱ゲル化(Reverse thermal geletion)”は、それによって、ブロックコポリマーの水溶液が、自然に、粘度を増大する現象であり、多くの場合、ポリマー溶液の温度が、ブロックコポリマー溶液のゲル化温度より高くなると、半固体ゲルに転化する。本発明の目的に対し、ゲルという用語は、半固体ゲル状態;;および、ゲル化温度より高くて存在する高粘度状態を含む。ゲル化温度より低く冷却する時、ゲルは、自然に、逆転して、より低い粘度のポリマー溶液を再形成する。
【0032】
溶液とゲルとの間のこのサイクリングは、ゾル/ゲル転移がポリマー溶液の化学的な組成を全く変化させないので、無限に繰り返されるかもしれない。ゲルを創出するためのあらゆる相互作用が性質にて物理的であり、共有結合の形成または破断に関与しない。
【0033】
“投与”とは、それによって、薬剤配合物がヒトおよびその他の温血動物に有効な量提供される手段であり、薬剤を投薬または投与するためのあらゆるルートを含み、これらは、医療実施者によって半投与または全投与される。
【0034】
“非経口投与”とは、消化管を経由する以外の手段によって、例えば、筋肉内、腹膜内、腹腔内、皮下、くも膜下、胸内、静脈内および動脈内手段によって投与されることを意味する。
【0035】
“デポー(Depot)”は、濃縮された活性剤または薬剤を含有する体内の局在化された部位を意味する。デポーを形成する配合物の例は、ゲル、移植片、微細球、マトリックス、粒子等である。
【0036】
“生物分解性”とは、ブロックコポリマーまたはオリゴマーが、化学的に破断されるかまたは、体内で分解して、非毒性成分を形成することを意味する。分解の速度は、薬剤放出の速度と同一または異なっていてもよい。
【0037】
“薬剤”は、治療目的に適合するかまたは使用される生物学的または薬理学的活性を有するいずれの有機または無機化合物または物質を意味する。
“ペプチド”、“ポリペプチド”、“オリゴペプチド”および“蛋白質”は、ペプチドまたは蛋白質薬剤をいう時、互換的に使用され、特に断らない限り、いずれの個々の分子量、ペプチド鎖または長さ、生物活性または治療使用の領域に限定されるものではない。
【0038】
“PLGA”は、乳酸とグリコール酸の縮合共重合より、または、ラクチドおよびグリコリドの開環共重合によって誘導されるコポリマーまたはコポリマーラジカルを意味する。乳酸およびラクチドは、互換的に使用され;グリコール酸およびグリコレートもまた互換的に使用される。
【0039】
“PLA”は、乳酸の縮合により誘導されるかまたはラクチドの開環重合によるポリマーを意味する。
“PGA”は、グリコール酸の縮合により誘導されるかまたはグリコリドの開環重合によるポリマーを意味する。
【0040】
“生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)”は、いずれの生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)を称す。ポリエステルは、好ましくは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、1,4-ジオキサン-2-オン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリアン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマーから合成されるのが好ましい。
【0041】
“オルトエステル”は、その単結合が3つの酸素原子に共有結合している炭素である。
本発明は、数分で、生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーの水性媒体への溶解を有効に促進しうるPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物の発見に基づく。本発明の液体PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物は、また、生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーを溶解して、流動性の薬剤送達組成物を創出する。本発明の“PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物”は、重量平均分子量150〜1100を有する。本発明にてふさわしいPEG誘導体は、分子量150〜1100を有するエステルまたはオルトエステル誘導されたPEGを称す。好ましくは、エステル誘導されたPEGは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、1,4-ジオキサン-2-オン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリアン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸およびそれらの混合物からなる群より選択される員より誘導されるPEGである。PEG誘導体は、また、R1-CO-O-(CH2CH2-O)n-CO-R2またはR1-O-(CH2CH2-O)n-R2(式中、R1およびR2は、独立に、HおよびC1-C10アルキルからなる群より選択される員であり、nは、3〜20の整数である。)によって表される員であってもよい。
【0042】
本発明の生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤーは、水溶液に可溶であってもよく、液体PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物に可溶性であってもよく、その両方に可溶であってもよい。これら生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーの若干の例は、U.S.特許6,201,072および、それぞれ、10/3/2001および09/971,082に出願された継続中のU.S.特許出願Nos.09/559,799;09/971,074に開示されており、ここで、参考とすることによって完全に組み込む。組成物は、そのまま投与することができるか、または、溶解されるか水性ビヒクル中で迅速に再構成された後、均質な溶液または均一なコロイド系を生ずる。投与後、水溶性生物分解性ブロックコポリマーは、組成物に含まれるブロックコポリマーの分子量および疎水性ブロック重量パーセンテージに依存して、ゲルを形成してもよく、形成しなくてもよい。水溶性の生物分解性ブロックコポリマーは、親水性B-ブロックがコポリマーの約17〜49.9重量%を構成し、1つまたは複数の疎水性Aブロックは、コポリマーの約50.1〜83重量%を構成する。水溶性生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤーと、PEG、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物との重量比は、5:1〜1:99である。本組成物は、そのまま;または、水または水溶液中で迅速に再構成された後投与することができ、水中または水溶液中に重量比2:1〜1:10000で本発明の組成物を含むポリマー溶液を形成する。
【0043】
あるいは、生物分解性のブロックコポリマーは、水溶液に不溶性であるが、液体ポリエチレングリコール、PEG誘導体またはそれらの混合物に可溶性である。この場合、液体組成物は、均質な溶液または均一なコロイド系であり、温血動物に直接投与することができる。投与後、液体組成物は、薬剤含有デポーを形成し、長期間かけて、活性物質を緩やかに放出し、ついで、ヒト体内に無害な物質に分解され、排出される。本発明の液体組成物にて、生物分解性のブロックコポリマー対PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物の重量比は、好ましくは、5:1〜1:99の範囲内、さらに好ましくは、2:1〜1:99の範囲内、最も好ましくは、1:2〜1:5の範囲内である。
【0044】
1つの実施態様にて、生物分解性の薬剤キャリヤーは、ABA-タイプまたはBAB-タイプのトリブロックコポリマー、AB-タイプのジブロックコポリマーまたはそれらの混合物を含み;A-ブロックは、比較的疎水性であり、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)を含み;B-ブロックは、比較的親水性であり、ポリエチレングリコール(PEG)を含み;前記コポリマーは、疎水性内容物50.1〜83重量%;親水性内容物17〜49.9重量%;および、全体のブロックコポリマー分子量2000〜8000を有す。薬剤キャリヤーは、通常の哺乳動物の体温より低い温度で水溶解性を示し、可逆的な加熱ゲル化を受けて、その時、生理学的哺乳動物体温に等しい温度でゲルとして存在する。
【0045】
もう1つの実施態様にて、生物分解性の薬剤キャリヤーは、ABA-タイプ、BAB-タイプまたはAB-タイプのブロックコポリマーまたはそれらの混合物であり、A-ブロックは、比較的疎水性でありかつ生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)を含み;B-ブロックは、比較的親水性でありかつポリエチレングリコール(PEG)を含み;前記ブロックコポリマーは、疎水性内容物50.1〜65重量%;親水性内容物35〜49.9重量%;全体のブロックコポリマー平均分子量2400〜4999を有する。薬剤キャリヤーは、水溶性であり、薬剤、とりわけ、水中での疎水性薬剤の溶解度を高めることが可能であり、薬剤溶液を形成する。
【0046】
なおもう1つの実施態様にて、高分子薬剤キャリヤーは、生物分解性ポリエステルまたはポリ(オルトエステル)オリゴマー、とりわけ、生物分解性ABA-タイプまたはBAB-タイプのトリブロックコポリマーと混合された重量平均分子量400〜10,000を有するPLA/PLGAオリゴマー、または、重量平均分子量2400〜4999を有するAB-タイプのジブロックコポリマーを含む。ブロックコポリマーは、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)を含む50.1重量%〜65重量%の疎水性Aブロックと、ポリエチレングリコール(PEG)からなる親水性Bブロック35重量%〜49.9重量%とを含む。
【0047】
本発明にて使用されるPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物は、生物分解性ブロックコポリマーを溶解させるかまたは均一に混合し、かくして、粘度を低下させ、組成物の流動性を高める。本発明の組成物は、流動性の液体であるか、または、液体ビヒクルと容易に配合されて、液体均質溶液または均一なコロイド系を生ずる。ブロックコポリマー薬剤キャリヤーが水性ビヒクルに不溶性であるが、液体PEGおよび/またはPEG誘導体に溶解性である場合、水または体液に接触した時、ブロクコポリマーは、薬剤デポーを形成する。ブロックコポリマー薬剤キャリヤーが水性ビヒクルに可溶性であり、PEGおよび/またはPEG誘導体と混和性である場合、組成物は、そのまま容易に投与しうるかまたは水性ビヒクルで再構成されうる。投与後、ブロックコポリマー薬剤キャリヤーは、薬剤デポー(drug depot)を形成してもしなくともよい。したがって、本発明の液体PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物は、生理学的に活性な物質の活性の低下を生ずることがない。
【0048】
分子量パラメータを開示する目的のためには、報告する分子量値は、すべて、1N-NMRまたはGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析技術による測定に基づく。報告する重量平均分子量および数平均分子量は、それぞれ、GPCおよび1H-NMRによって測定した。報告するラクチド/グリコリド比は、1H-NMRデータから計算した。GPC分析は、Styragel HR-3カラムまたは等価体で行い、RI検出と溶離液としてのクロロロホルムとを使用してPEG標準で検量するか、または、RI検出とABAおよびBABトリブロックコポリマーについての溶離液としては、テトラヒドロフランを使用して、PEG標準で検量するPhenogel、混合床および500Åカラムの組み合わせで行った。
【0049】
ABA-タイプおょびBAB-タイプのトリブロックコポリマーおよびAB-タイプのジブロックコポリマーは、開環重合または縮合重合によって合成することができる。また、B-ブロックは、ある種の場合、エステルまたはウレタン結合カップリング等によってA-ブロックにカップリングすることができる。縮合重合および開環重合処理操作は、カップリング剤、例えば、イソシアネートの存在で、単官能性親水性Bブロックの二官能性疎水性Aブロックのいずれかの末端へのカップリングに使用される。さらに、カップリング反応は、官能基の活性剤、例えば、カルボニルジイミダゾール、無水コハク酸、N-ヒドロキシコハク酸アミド、p-ニトロフェニルクロロホルメート等による活性化に従ってもよい。
【0050】
親水性B-ブロックは、適当な分子量のPEGから形成される。PEGは、その独特の生物適合性;非毒性;親水性;溶解特性;および、患者の体内からの迅速な浄化ゆえに親水性のB-ブロックとして選択される。疎水性A-ブロックは、それらの生物分解性、生物適合性および溶解特性ゆえに使用される。疎水性生物分解性ポリエステルまたはポリオルトエステル)A-ブロックのin vitroおよびin vivo分解性は、十分に理解されており、分解生成物は、容易に代謝され、および/または、患者の体内から除かれる。
【0051】
本発明の薬剤送達組成物に組み込むことのできる薬剤は、いずれの生物活性剤であってもよいが、水溶液または親水性環境中で限られた溶解度または分散性を有する生物活性剤、または、高い溶解度または分散性を必要とするいずれかの生物活性剤によって特異な利点が達成される。本発明の範囲を限定するわけではないが、適した薬剤としては、Goodman and Gilman’s“The Pharmacological of Basis of Therapeutics”の最新版またはThe Merck Indexの最新版に示された薬剤類が挙げられる。いずれの巻も、多数のタイプの治療用途に適した薬剤を列挙し、例えば、以下のカテゴリー:シナップスおよび神経−効果器接合部位で活性な薬剤;中枢神経系に作用する薬剤;炎症応答に影響を及ぼす薬剤;体液の組成に影響を及ぼす薬剤;腎臓機能および電解質代謝に影響を及ぼす薬剤;心臓血管剤、胃腸管機能に影響を及ぼす薬剤;子宮運動性に影響を及ぼす薬剤;寄生中感染症のための化学療法剤、微生物病のための化学療法剤;抗腫瘍性剤;免疫抑制剤、血液および血液形成器官に影響を及ぼす薬剤;ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト;皮膚剤;重金属アンタゴニスト、ビタミンおよび栄養素、ワクチン、オリゴヌクレオチドおよび遺伝子治療等が挙げられる。
【0052】
上記したカテゴリーに記載した1つ以上の薬剤を本発明の組成物に組み込み、溶解するか容易に再構成される、水溶液または均一なコロイド系を形成する薬剤送達組成物を形成し、薬剤を液体組成物または本発明の組成物の水溶液に単に加えることにより、または、薬剤を本発明の組成物と混合し、その後、水または水溶液を加えて、溶液または均一なコロイド系を形成することによって達成することができる。
【0053】
本発明の組成物のペプチド/蛋白質薬剤、および/または、その他のタイプの薬剤との混合物は、溶液または分散液の形に容易に再構成することのできる1つまたは複数の流動性の薬剤配合物として製造することができる。ついで、流動性の配合物は、例えば、眼、膣、経尿道、直腸、鼻腔、経口(oral)、経口(peroral)、頬、肺動脈または耳投与によって、患者に、非経口、局所、経皮、経粘膜、吸入または挿入投与される。本発明を実行することによって調製される可溶化された薬剤配合物は、i.v.バッグまたはその他の手段によって希釈することができ、患者に長時間にわたり投与しても、薬剤が沈殿しない。材料の生物適合性および生理学的温度での系のさらさらした流動性により、この系は、最小の毒性および周囲の組織への最小の機械的刺激を生ずるであろう。
【0054】
本発明の際立った利点は、PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物の能力に基礎をなして生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤーの粘度の流動性液体形への抵下であるかまたは水または水溶液中での急速な再構成が可能であって、薬剤送達のための溶液または均一なコロイド系を形成することである。1つの可能な構成にて、薬剤を含有するブロックコポリマー薬剤キャリヤーおよびPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物によって構成される1つの剤形が、体内に投与される。もう1つの可能な構成にて、本発明の薬剤送達組成物は、水または水溶液を使用することによって急速に溶解または再構成されるのがよい。
【0055】
如何に大量に本発明の薬剤送達組成物に溶解させるかまたは分散させるかについての唯一な制限は、官能性の1つであり、すなわち、薬剤:コポリマー比は、混合物の特性が許容不能な程度に悪影響を及ぼすまで、または、系の特性が、系の投与を許容不能な困難とする程度まで増大させる。一般的に言えば、溶解が所望されるほとんどの例にて、薬剤が、約10-6〜約100重量%の合計重量とブロックコポリマー薬剤キャリヤーおよびPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物で存在し、約0.001%〜25重量%の範囲が最も一般的である。例えば、100重量%のブロックコポリマー薬剤キャリヤーとPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物の組み合わせ重量(100%を有する)とは、薬剤および組み合わせ重量ブロックコポリマー薬剤キャリヤーならびにPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物が、等量(すなわち、等重量)存在することと予想される。一般的に言えば、分散液が所望されるほとんどの場合、上限薬剤:コポリマー比は、溶解について上記した範囲を実質的に上回りうることを理解するべきである。薬剤負荷のこれらの範囲は、単なる例であり、本発明にて使用することのできる大部分の薬剤が含まれるであろう。しかし、このような範囲は、本発明を制限することなく、この範囲から外れた使用量も、また、機能的かつ効率的であるはずである。
【0056】
かくして、本発明は、生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーと、流動性の液体であるかまたは水性ビヒクル中で迅速に再構成されて、均質な真の溶液または均一なコロイド系であってもよいPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物とを含む組成物を提供する。本発明の薬剤送達組成物で形成される薬剤溶液は、望ましい物理的安定性、治療効能および中毒性を有する。本発明のPEG、PEG誘導体またはそれらの混合物は、特に、逆ゲル化された特性を有する生物分解性ジ-またはトリブロックコポリマーのための水溶性または非水溶性ブロックコポリマー薬剤キャリヤー、および/または、薬剤の溶解度、特に疎水性薬剤の溶解度を高めることのできるポリマーのために使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下は、本発明の好ましい実施態様を示す例であり、典型的であることのみを意図する。
実施例1
PEG-300(107.6g)を250-mLの丸底フラスコに入れ、減圧下(0.2 torr,90℃)で3時間乾燥させた。D,L-ラクチド(33.4g)とグリコリド(9.0g)とを加え、ヘッドスペースを乾燥させた窒素によって置換した。混合物を135℃まで上昇させ、乾燥シリンジを介して第1錫オクトエート(20mg)を加えることによって反応を開始した。反応混合物を乾燥窒素下155℃でさらに4時間攪拌させた。残留モノマーを減圧(0.2torr,90℃,2時間)下で除去した。生ずるPEG誘導体(D1)は、透明なさらさらした流動性の液体であった。
【0058】
実施例2
実施例1に記載した処理操作に従い、以下のPEG誘導体を製造した。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例3
PEG-300(40g)を250-mLの丸底フラスコに入れた。減圧下(0.2torr)90℃で3時間乾燥させることによって、水分を除去した。無水酢酸(30g)を加え、反応混合物を窒素下48時間還流させた。過剰の無水酢酸を100℃で24時間減圧蒸留することによって除去した。生ずるPEG誘導体(D10)は、透明なさらさらした流動性の液体であった。
【0061】
実施例4
本実施例は、開環重合によるABA-タイプのトリブロックコポリマーPLGA-PEG-PLGAの合成を示す。
【0062】
PEG1000 NF(65.3g)およびPEG 1450 NF(261g)を減圧(1mmHg)下130℃で5時間乾燥させた。D,L-ラクチド(531.12g)およびグリコリド(142.6g)をそのフラスコに加え、155℃まで加熱して、均質な溶液を生じさせた。250mgの第1錫オクトエートを反応混合物に添加することによって重合を開始した。反応物を145に5時間維持した後、反応を停止させ、フラスコを室温まで冷却した。未反応のラクチドおよびグリコリドを減圧蒸留によって除去した。生ずるPLGA-PEG-PLGAコポリマー混合物(ABA1)は、GPCにより測定して、重量平均分子量(Mw)4255を有した。このトリブロックコポリマー混合物は、室温で水溶性である。このトリブロックコポリマー混合物の23重量%は,ゲル化温度30℃〜37℃を有した。
【0063】
実施例5
実施例4の処理操作を使用して、以下のコポリマーまたはコポリマー混合物を合成した。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例6
25.7gのPEG-Me(Mw:2000)を250mL3-径の丸底反応フラスコ内に入れることによってABジブロックコポリマーを合成した。油浴(155℃)内で減圧(0.5torr)下で3時間加熱することによって水を除去した。ついで、反応フラスコを油浴から上げ、減圧を解除した。
【0066】
D,L-ラクチド(32.0g)を秤取し、反応フラスコに加えた。乾燥窒素を5回排気およびフラッシュすることによって、ヘッドスペースを乾燥窒素によって置換した。
ついで、フラスコを降ろし、155℃の油浴に浸した。内容物が溶解し、内部温度が150℃に到達したら、2滴の(200ppm)の第1錫2-エチルヘキサノエートを加えて、重合を開始させた。頭上攪拌機を使用し、8時間100〜200rpmの速度で、反応混合物を攪拌した。ついで、温度を140℃まで低下させ、残留モノマーを減圧下(<1torr)で1時間かけて除去した。残渣は、分子量5450を有する透明なオフホワイト色の固体である。
【0067】
ジブロックコポリマー1グラムをPEG誘導体(D 10)4グラムに加えて、透明かつさらさらした流動性の液体を生じさせた。混合物を37℃の水に添加すると、混合物は、水不溶性のジブロックコポリマー成分の明らかな沈殿により曇った。
【0068】
実施例7
Me-PEG(MW550;48.6g)を250mLの3径丸底反応フラスコに移した。油浴を100℃まで加熱した。溶融したPEG-Meを、減圧下、5時間攪拌して水を除去した。ついで、反応フラスコを油浴から上げ、減圧を解除した。D,L-ラクチド(97.68g)およびグリコリド(26.47g)を秤取し、反応フラスコに加えた。頭上空間を乾燥窒素で置換した。ついで、フラスコを155℃の油浴に浸漬した。D,L-ラクチドが溶融し、反応フラスコ内部の温度が150℃に到達したら、2滴の(200ppm)の第1錫2-エチルヘキサノエートを反応フラスコに加えた。反応物を8時間100〜150rpmの速度で、継続的に攪拌した。
【0069】
油浴温度を140℃まで低下させ、反応フラスコを減圧(<1torr)にもう1時間賦して、残留モノマーを除去した。ジブロックコポリマーは、分子量2010を有するハチミツ様の稠度を有した。オーブン乾燥させたシリンジを介して、残渣(145g)を1,6-ジイソシアナートヘキサン(6.06g)に加え、反応混合物を140℃でさらに2時間攪拌させた。ポリマーを水に溶解させ、70℃で沈殿させることによって、残渣を精製した。水を凍結乾燥させることによって除去すると、残留BABトリブロックコポリマーは、分子量4250を有した。
【0070】
ポリマー1グラムをPEG誘導体(D 4)4グラムに溶解させ、24-Gニードルを介して、混合物を25mLの温水(37℃)に加えた。混合物を37℃の水に添加すると、水不溶性ジブロックコポリマー成分の明らかな沈殿により、混合物は、曇った。
【0071】
実施例8
再構成用の使用PEGは、本実施例にて示す。
実施例1より製造したPEG(1.5g)を実施例4から製造したPLGA-PEG-PLGAの1グラムに加えた。2つの成分は、直ちに混合されて、均質な混合物となった。混合物に、注射用の水(5g)を加えて振盪した。混合物は、再構成されるのに1分かかった。生ずる水溶液は、ゲル化温度30℃と37℃とを有した。
【0072】
亜鉛インシュリン(5mg)を5mLの水溶液で再構成し、溶液を37℃の水に注入した。溶液は、急速に、ゲル化した。
実施例9
Zn-インシュリン(5mg)をPEG誘導体(D2)6gに溶解させたトリブロックコポリマー(ABA6;1g)を含む混合物に懸濁する。混合物は、さらさらした流動性の液体である。この懸濁液の1mLを温水(25mL;37℃)に注入した。混合物を37℃の水に加えると、水不溶性のトリブロックコポリマー成分の明らかな沈殿により曇った。
【0073】
実施例10
PEG誘導体(D 6;4g)をPLGA-PEG-PLGAトリブロックコポリマー(ABA3)の1グラムに加えた。また、混合物に50mgのパクリタクセル(paclitaxel)を加えた。混合物は、直ちに混合して約40℃、約20分間で均質な混合物となった。混合物は、透明なさらさらした流動性液体であった。25mLの温水(37℃)を入れたビーカーに、この混合物の1グラムを入れた。混合物は、迅速に明らかに溶解して、透明な溶液または均一なコロイドを生じた。
【0074】
実施例11
実施例1からのPEG誘導体(3g)を、直ちに、PLGA-PEG-PLGAトリブロックコポリマー(ABA3)1グラムおよびポリ(D,L-ラクテート-コ-グリコレート)(MW1200)0.08gと混合して、均質な混合物とした。パクリタクセル(75mg)を、約45℃で緩やかに攪拌しつつ、混合物に溶解させた。周囲温度まで平衡とさせた後、注入用の水(5g)を加え、混合物を振盪した。混合物は、明らかに、迅速に溶解されて、透明な溶液または均一なコロイドを生じた。
【0075】
実施例12
本実施例は、ポリ(オルトエステル)ABジブロックコポリマーの合成を示す。
乾燥させた1,4-シクロヘキサンジメタノール(2.6g)、PEG2000メチルエーテル(4g)をDETOSU(3,9-ビス(エチリデン)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン;4.35g)とともに、乾燥させた1,4-ジオキサン(100mL)中で8時間かけて70℃に加熱し(0.5torr;70℃)、40時間かけて、溶剤を除去する。生ずるポリ(オルトエステル)ABジブロックコポリマーは、透明なコポリマーである。
【0076】
実施例13
本実施例は、PEGオルトエステル誘導体の合成を示す。PEG300(25.0g)を、減圧下90℃に3時間、丸底フラスコ内で加熱して、残留水を除去する。溶融DETOSU(3,9-ビス(エチリデン)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン)(4.0グラム)をオーブン乾燥させたシリンジを介してフラスコに加える。混合物は、90℃で5時間かけて加熱させた。生ずるPEGオルトエステル誘導体は、透明な液体である。
【0077】
実施例14
本実施例は、PEGオルトエステル誘導体の使用を示す。パクリタクセル(50mg)を、緩やかに加熱しつつ、実施例13で合成したPEG誘導体(15g)と実施例12で製造したABジブロックポリ(オルトエステル)コポリマー(3g)との混合物に溶解させる。生ずる混合物は、透明な液体である。混合物を37℃の水に添加すると、混合物は、水不溶性ジブロックコポリマー成分の明らかな沈殿により曇った。
【0078】
上記説明は、当業者であれば、生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤーと、PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物とを含み;前記組成物が、流動性の液体であるかまたは水性ビヒクルで迅速に再構成されて、均質な溶液または均一なコロイド系とする組成物を製造することを可能とするであろう。薬剤送達組成物は、本発明の組成物の機能性を示すことを記載したが、これらの説明は、本発明の組成物によって可溶性とするかおよび/または構成可能とすることのできるあらゆる薬剤キャリヤーについてあますところなく説明することを意図するものではない。
【0079】
確かに、治療剤の種々のカテゴリーからの数多くのその他の薬剤キャリヤーまたは薬剤は、本発明にて記載した薬剤送達組成物に十分に適している。当業者であれば、特許請求の範囲の請求項およびそれらの機能的等価体によってのみ限定される本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更がなされうるであろうことは即座に明らかとなるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1) 合計重量平均分子量2000〜4990ドルトンを有するA-B、A-B-AまたはB-A-Bブロックコポリマーを含み、Aブロックが、生物分解性のポリエステルまたはポリ(オルトエステル)であり、Bブロックが、ポリエチレングリコール(PEG)であり、Aブロックの重量パーセンテージが、51%〜83%であり、Bブロックの重量パーセンテージが、17%〜49%である1つ以上の生物分解性ブロックコポリマー薬剤キャリヤー;および、
2) PEGまたはPEG誘導体が、分子量150〜1100ドルトンを有する、ポリエチレングリコール(PEG)、PEG誘導体またはPEGとPEG誘導体との混合物を含み;
生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤーの少なくとも1つが、水溶液に可溶性であり、PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物と混和性であり;
生物分解性のブロックコポリマー薬剤キャリヤー対PEG、PEG誘導体またはそれらの混合物の重量比が、5:1〜1:99の範囲内であり、当該組成物が、水中または水溶液中で再構成されて、0.01分〜180分内に、均質な溶液または均一なコロイド系を形成し;
前記組成物が、逆加熱ゲル化特性を保有する組成物。
【請求項2】
PEG誘導体が、オルトエステル誘導されたPEGである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
PEG誘導体が、R1-CO-O-(CH2-CH2-O)n-CO-R2またはR1-O-(CH2-CH2-O)n-R2によって表され、R1およびR2が、独立に、HおよびC1-C10アルキルであり、nが、3〜20の整数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、薬剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
PEG誘導体が、エステル誘導されたPEGであり、ここで、当該PEGが、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、1,4-ジオキサン-2-オン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリアン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸またはそれらの混合物より誘導される、請求項1に記載の組成物。

【公開番号】特開2009−280600(P2009−280600A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171750(P2009−171750)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【分割の表示】特願2004−517595(P2004−517595)の分割
【原出願日】平成15年5月29日(2003.5.29)
【出願人】(502169973)マクロメド・インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】