説明

薬品注入ノズルおよび薬品注入装置

【課題】脱塩原油に水酸化ナトリウム水溶液を長期間安定して注入できる薬品注入ノズルを提供する。
【解決手段】外管11と内管12との間に、脱塩処理後の脱塩原油と水酸化ナトリウム水溶液との混合液を流通する内管12の内周面の温度が149℃より低い温度となる間隙15を設け、薬品注入ノズル10を二重管構造とする。水酸化ナトリウムが濃縮して149℃以上に加熱された水酸化ナトリウムによる内管12の内周面の脆化や腐食などを防止できる。脱塩原油の流量や水酸化ナトリウム水溶液を注入する条件などを変更することなく、外管11と内管12との間に所定の間隙15を設けた二重管とする簡単な構成で、腐食や減肉を防止でき、長期間安定して脱塩原油を常圧蒸留処理できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬品を注入する薬品注入ノズルおよびこの薬品注入ノズルを備えた薬品注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を蒸留し、ガソリンや灯油、軽油などの石油製品の基材を蒸留分離する常圧蒸留処理に際し、原油中に含まれる塩素、硫化水素、有機酸などの不純物により、常圧蒸留装置の各機器や配管などに腐食を生じるため、常圧蒸留処理前の原油に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、これら不純物などを中和している。
この原油に水酸化ナトリウム水溶液を添加する方法としては、脱塩処理後の脱塩原油が流れる原油配管に取り付けた水酸化ナトリウム注入ノズルから、脱塩原油に水酸化ナトリウム水溶液を混合した混合液を注入する構成が採られている。
【0003】
しかしながら、注入ノズルは、SUS316Lなどのステンレス鋼などの耐食性の材料にて形成しても、200℃以上の高温の脱塩原油中に浸漬されており、短期間で腐食および減肉が発生する。このことから、常圧蒸留処理を停止しての注入ノズル交換処理を頻繁に実施する必要があり、効率よく常圧蒸留処理できない。
一方、気体や液体などの流通路に、異なる性状の流体を注入する注入ノズルでは、耐食性を高めたり、熱負荷環境下で長期間安定使用できるようにするために注入ノズルを二重管構造とすることが広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の二重管構造の薬剤等吹込用ノズルは、ごみ焼却設備からの排ガスの流通路となる煙道内に薬剤などを吹き込むものである。
この吹込用ノズルは、煙道内に配置される外側管と、外側管内に同軸上に配置され薬剤などを輸送するための空気が流通される内側管とを備えている。そして、吹込用ノズルは、外側管の内周面と内側管の外周面との間に間隙を設けて空気層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−80116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の二重管構造の薬剤等吹込用ノズルは、従来の吹込用ノズルの外側表面に排ガス中の硫酸などの酸性ガスが結露し、吹込用ノズルの外側表面からの腐食の問題を回避するものであった。
一方、脱塩処理後の脱塩原油が流れる原油配管に取り付けた水酸化ナトリウム注入ノズルで発生する腐食および減肉は、注入ノズルの内側表面に発生するものであった。発明者らは、この内面腐食の原因について鋭意検討した結果、これは、高温の脱塩原油と、水酸化ナトリウム水溶液と脱塩原油が混合した低温の混合液が注入ノズルを介して接触することにより、混合液中の水酸化ナトリウム水溶液が水滴状に相変化、いわゆるフラッシュが発生して水酸化ナトリウム水溶液が濃縮され、この濃縮した水酸化ナトリウム水溶液と脱塩原油中に含まれる硫化水素などが反応し、チオ硫酸ナトリウムや硫酸などの腐食性物質が注入ノズルの内側表面に生成して、腐食および減肉が生じたことを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づき、脱塩処理後の脱塩原油に水酸化ナトリウム水溶液を長期間安定して注入できる薬品注入ノズルおよびこの薬品注入ノズルを備えた薬品注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薬品注入ノズルは、常圧蒸留装置の蒸発塔で処理される前の脱塩原油に、水酸化ナトリウム水溶液を前記脱塩原油で希釈した混合液を注入する薬品注入ノズルであって、前記脱塩原油が流通される原油配管内に一端側が配置された外管と、一端側が前記外管の一端側より突出し前記外管内に同軸上に配置され、前記外管より突出する一端部に前記混合液を流出する流出口を開口する内管と、前記外管の一端と前記内管の外周面との間を閉塞して設けられた閉塞部と、を備え、前記外管は、軸方向が前記原油配管の径方向に沿って前記原油配管に配置され、前記内管の流出口は、前記原油配管における前記脱塩原油が流通する下流側に面して形成され、前記外管の内周面と前記内管の外周面との間には、前記内管の内周面の温度が149℃より低い温度となる間隙が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明では、該薬品注入ノズルの外管と内管との間に、脱塩原油と水酸化ナトリウム水溶液との混合液を流通する内管の内周面の温度が149℃より低い温度となる間隙を設けて二重管構造としている。このことにより、149℃より低い内管の内周面では、149℃以上に加熱されることで濃縮された水酸化ナトリウム水溶液と、フラッシュした脱塩原油中の硫化水素等が反応して生成する硫酸および塩酸による内管の内周面の脆化や腐食などを防止できる。
このため、従来の原油の流量や水酸化ナトリウム水溶液を注入する条件などを変更することなく、外管と内管との間に所定の間隙を設けた二重管とする簡単な構成で、腐食および減肉を防止できる。
なお、水酸化ナトリウム水溶液の注入温度を149℃以下とするのは、この温度以上では水酸化ナトリウムによるステンレス鋼の脆化および汚れが顕著に進行するからである。
【0010】
そして、本発明では、前記外管の内周面と前記内管の外周面との間は、2mm以上であることが好ましい。
このことにより、外管の高温の脱塩原油の熱が、水酸化ナトリウムの濃縮が生じやすい内管の内周面に直接伝わらないため、外管と内管との間隙を2mm以上とする簡単な構成で水酸化ナトリウムの濃縮を抑制でき、腐食物質である硫酸や塩酸の生成を抑制でき、該薬品注入ノズルの腐食を防止できる。
【0011】
本発明の薬品注入装置は、本発明の薬品注入ノズルと、前記水酸化ナトリウム水溶液を前記薬品注入ノズルに供給するポンプと、を備え、前記混合液が前記内管内を1m/秒以上の流速で流通する状態に前記混合液を供給することを特徴とする。
【0012】
この発明では、本発明の所定の間隙を有する二重管構造の薬品注入ノズルに、1m/秒以上の流速でポンプから供給する水酸化ナトリウム水溶液と脱塩原油との混合液を内管内で流通させるので、内管の内周面の温度を149℃以下に低く維持することができ、高温の脱塩原油の熱による水酸化ナトリウムの濃縮を十分に防止でき、腐食をより防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態の薬品注入装置を示す概略図。
【図2】上記薬品注入装置の薬品注入ノズルを示す一部を切り欠いた断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の薬品注入装置に係る一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限られるものではない。
【0015】
[薬品注入装置の構成]
図1に示すように、薬品注入装置1は、薬品注入ノズル10と、図示しない水酸化ナトリウム水溶液の供給ポンプと、を備えている。
そして、薬品注入装置1は、脱塩処理された脱塩原油3と、水酸化ナトリウム水溶液の供給ポンプの駆動により移送された水酸化ナトリウム水溶液との混合液を原油配管2内に注入し、原油配管2内に流れる脱塩原油3に添加する。混合液は、原油を脱塩処理した後、プレフラッシュドラム(蒸発塔)での処理前の脱塩原油3に注入される。
【0016】
薬品注入ノズル10は、図2に示すように、外管11と内管12とが同軸上に配置された二重管構造に構成されている。
外管11は、例えばステンレス鋼などの耐食性の金属材料にて形成されている。特に、SUS310Sなどが好適である。そして、外管11は、図1に示すように、軸方向の一端側が原油配管2内に位置するように配置され、原油配管2の取付部4(図1参照)に取り付けられる。
外管11の軸方向の他端には、環状のフランジ部13が一体に設けられている。
【0017】
内管12は、例えば外管11と同様にステンレス鋼などの耐食性の金属材料にて、外径が外管11の内径より小さい管状に形成されている。内管12は、軸方向の一端側が外管11の一端より突出する状態に、外管11に同軸上に隙間を介して配置されている。
そして、内管12の外管11から突出する軸方向の一端側周面には、排出口12Aが開口形成されている。
内管12は、図1に示すように、排出口12Aが原油配管2の中心軸上で開口する寸法に形成されている。
なお、内管12の一端部は、閉塞板12Bにて閉塞されている。
【0018】
内管12の他端外周縁には、フランジ部13の内周縁が一体に接続されている。さらに、内管12の一端側の外周面には、外管11の一端との間を閉塞する管状の閉塞部14が設けられている。
これらフランジ部13および閉塞部14にて一体に連結された外管11の内周面と内管12の外周面との間には、2mm以上の間隙15が設けられている。
【0019】
原油配管2には、薬品注入ノズル10を取り付ける取付部4を有している。
取付部4は、原油配管2に設けられた図示しない開口に連続して設けられた取付管4Aを有している。この取付管4Aの端部には、取付鍔部4Bが一体に設けられている。取付管4Aには、一端側がポンプに接続される薬品供給管5Aが接続される。この薬品供給管5Aの他端には、ボルト−ナットなどの図示しない取付部材を用いて取付鍔部4Bに取り付けられる挟持鍔部5Bが一体に設けられている。
そして、取付鍔部4Bと挟持鍔部5Bとの間に、薬品注入ノズル10のフランジ部13が挾持されて保持され、薬品供給管5Aが薬品注入ノズル10に連結される。
取付部4に取り付けられた薬品注入ノズル10は、内管12の排出口12Aが原油配管2における脱塩原油3が流通する下流側に面して配置される。
【0020】
[薬品の注入]
次に、上述した薬品注入装置により水酸化ナトリウム水溶液を脱塩原油3に注入する動作を説明する。
水酸化ナトリウム水溶液の供給ポンプにより供給される水酸化ナトリウムの水溶液を、自圧にて送られる脱塩原油に混合することにより混合液を調製し、この混合液を薬品供給管5Aを介して薬品注入ノズル10に供給する。
薬品供給管5Aから供給される混合液は、薬品注入ノズル10の内管12を流通し、排出口12Aから脱塩原油3に供給される。供給される混合液は、内管12内を1m/秒以上の流速で流通するように調整される。
【0021】
混合液の供給時、例えば脱塩原油3の温度が200℃強であっても、間隙15により、内管12の内周面では最も高い温度でも149℃より低い。詳細には、流通する脱塩原油3が当接し最も熱負荷が高い脱塩原油3の流通方向の上流側に対応する内管12の内周面でも、2mm以上の間隙15により熱の伝達が阻止され、149℃より低い温度で維持されることとなる。
このため、混合液中の水酸化ナトリウムが内管12の内周面で濃縮することが抑制されるとともに、水酸化ナトリウムが内管12の内周面を脆化および腐食する温度となる149℃まで上昇せず、内管12の脆化および腐食を防止できる。さらに、水酸化ナトリウムの濃縮が抑制されるので、濃縮した水酸化ナトリウムと、混合液中の脱塩原油3中に含まれる硫化水素などが反応し、チオ硫酸ナトリウムや硫酸などの腐食性物質が生成することを抑制でき、腐食性物質により内管12の腐食や減肉を防止できる。
【0022】
[実施形態の作用効果]
上述したように、上記実施形態では、外管11と内管12との間に、脱塩処理後の脱塩原油3と水酸化ナトリウム水溶液との混合液を流通する内管12の内周面の温度が149℃より低い温度となる間隙15を設けて二重管構造としている。
このことにより、149℃より低い内管12の内周面では、水酸化ナトリウムが濃縮して149℃以上に加熱された水酸化ナトリウムによる内管12の内周面の脆化や腐食などを防止できる。このため、脱塩原油3の流量や水酸化ナトリウム水溶液を注入する条件などを変更することなく、外管11と内管12との間に所定の間隙15を設けた二重管とする簡単な構成で、腐食や減肉を防止でき、長期間安定して脱塩原油3を常圧蒸留処理できる。
【0023】
そして、上記実施形態では、間隙15の寸法を2mm以上としている。
このことにより、外管11の高温の脱硫原油3の熱が、水酸化ナトリウムの濃縮が生じやすい内管12の内周面に直接伝わらないため、内管12の内周面は149℃より低い温度となる。このため、加熱濃縮された水酸化ナトリウム水溶液に起因する水酸化ナトリウム水溶液注入ノズルの腐食や減肉が生じることを防止する構成が、間隙15を2mm以上とする簡単な構成で得られる。
【0024】
さらに、上記実施形態では、1m/秒以上の流速で混合液を内管12内で流通させている。
内管12内の混合液の流速は、混合液の温度を149℃以下に維持できる流速であればよく、本発明では混合液の薬品注入ノズル1の間隙15を2mm以上とすることにより、該流速が1m/秒以上であれば、混合液の温度を149℃以下に維持することができ、水酸化ナトリウム水溶液のフラッシュによる内管12の内周面に水酸化ナトリウムが濃縮することを十分に防止でき、腐食および減肉を十分に防止できる。
【0025】
[変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
具体的には、間隙15を2mm以上で形成したが、この限りではない。例えば、間隙15内を真空としたり、冷媒を流通させる構成とするなど、外管11で受ける熱が内管12に伝達されにくく、内管12の内周面が149℃より低い温度で維持されるいずれの構成とすることができる。
また、1m/秒以上の流速で混合液を注入したが、内管12の内周面が149℃より低い温度で維持されるのであれば、より遅い流速としてもよい。
【0026】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構成に変更するなどしてもよい。
【実施例】
【0027】
本発明による薬品注入ノズルおよび薬品注入装置の効果は、出光興産株式会社徳山製油所に設置された常圧蒸留装置で確認した。常圧蒸留装置では、原油配管2に200℃の脱塩原油3を0.45MPaで流通させ、150℃の混合液を、0.8MPaで200kL/日(流速1.1m/秒)注入した。
なお、薬品注入ノズルとして、上記実施形態の薬品注入ノズル10の他、薬品注入ノズル10の外管11を有しない構造のものを比較として用いた。
その結果、以下の表1に示すように、外管11を有しない比較のノズルでは、内周面の温度が141℃であったが、上記実施形態の薬品注入ノズル10の内管12の内周面の温度は118℃であった。
そして、外管11を有しないノズルでは、気化率が0.17体積%、水分残存率が8%で水酸化ナトリウム水溶液が濃縮されることが認められた。一方、上記実施形態の薬品注入ノズル10では、気化率が0.05体積%、水分残存率が78%で、水酸化ナトリウム水溶液の濃縮が抑制されていることが認められた。
【0028】
【表1】

【符号の説明】
【0029】
1……薬品注入装置
2……原油配管
3……脱塩原油
10……薬品注入ノズル
11……外管
12……内管
12A…排出口
14……閉塞部
15……間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧蒸留装置の蒸発塔で処理される前の脱塩原油に、水酸化ナトリウム水溶液を前記脱塩原油で希釈した混合液を注入する薬品注入ノズルであって、
前記脱塩原油が流通される原油配管内に一端側が配置された外管と、
一端側が前記外管の一端側より突出し前記外管内に同軸上に配置され、前記外管より突出する一端部に前記混合液を流出する流出口を開口する内管と、
前記外管の一端と前記内管の外周面との間を閉塞して設けられた閉塞部と、を備え、
前記外管は、軸方向が前記原油配管の径方向に沿って前記原油配管に配置され、
前記内管の流出口は、前記原油配管における前記脱塩原油が流通する下流側に面して形成され、
前記外管の内周面と前記内管の外周面との間には、前記内管の内周面の温度が149℃より低い温度となる間隙が設けられている
ことを特徴とする薬品注入ノズル。
【請求項2】
請求項1に記載の薬品注入ノズルにおいて、
前記外管の内周面と前記内管の外周面との間は、2mm以上である
ことを特徴とする薬品注入ノズル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薬品注入ノズルと、
前記水酸化ナトリウム水溶液を前記薬品注入ノズルに供給するポンプと、を備え、
前記混合液が前記内管内を1m/秒以上の流速で流通する状態に前記混合液を供給する
ことを特徴とする薬品注入装置。

【図1】
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【図2】
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