説明

薬学的製剤

PKC調節ペプチド及び輸送部分のための、前記構成要素及び抗凝集剤を含有する薬学的製剤について開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は薬学的製剤に関し、特にアミノ酸、ペプチド及び小タンパク質の製剤に関し、そして詳細には、PKCペプチド/輸送体抱合体に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
タンパク質キナーゼC(PKC)は、細胞生長、遺伝子発現制御、及びイオンチャンネル活性を含む多様な細胞機能に関与しているシグナル伝達の重要な酵素である。同位酵素のPKCファミリーは、そのホモロジー及び賦活物質に対する感受性に基づいて、少なくとも3つのサブファミリーに分類できる、少なくとも10の異なるタンパク質キナーゼを含む(図1参照)。各同位酵素は、同位元素特異的(「可変(variable)」または「V」)ドメインによって散らばらされた幾つかの相同な(「保存(conserved)」または「C」)ドメインを含む。「在来型(classical)」サブファミリーの一員であるα(SEQ ID NO: 164)、βI(SEQ ID NO: 165)、βII(SEQ ID NO: 166)及びγ(SEQ ID NO: 167)PKCは、4つの相同なドメイン(C1、C2、C3及びC4)を含み、そして、活性化にカルシウム、ホスファチジルセリン、及びジアシルグリセロールまたはホルボールエステルを必要とする。「新型(novel)」サブファミリーの一員であるδ(SEQ ID NO: 168)、ε(SEQ ID NO: 169)、η(SEQ ID NO: 170)及びθ(SEQ ID NO: 171)PKCは、C2相同性ドメインを欠き、そして活性化にカルシウムを必要としない。最後に、「非典型(atypical)」サブファミリーの一員、ζ(SEQ ID NO: 174)及びλ/ι(SEQ ID NO: 172)PKCは、C1相同性ドメインの半分、及びC2相同性ドメインの両方を欠き、そしてジアシルグリセロール、ホルボールエステル及びカルシウムに対して非感受性である。
【0003】
PKCの個々の同位酵素は、次のものを含む種々の疾病状態の機構に連座している:ガン(アルファ及びデルタPKC);心肥大及び心不全(ベータI及びベータII PKC);侵害刺激(ガンマ及びイプシロンPKC);心筋梗塞を含む虚血(デルタ及びイプシロンPKC);免疫応答、特にT細胞媒介(シータPKC);並びに線維芽細胞生長及び記憶(ゼータPKC)。
【発明の開示】
【0004】
発明の開示
上に概説した対象と一致し、開示された発明は、タンパク質キナーゼC調節ペプチド、及び陽イオン性(即ち、陽性荷電)輸送ペプチド、及び抗凝集剤の薬学的製剤を提供する。好適な抗凝集剤は、調節ペプチド並びに/または輸送ペプチドの疎水性及び/もしくは陽性に荷電した部分が、互い凝集するよりも抗凝集剤との結束を選ぶように反応する、十分な数の立体化学的に配列された水酸基部分により特徴付けられる糖である。種々のPKC可変領域由来のペプチド等のPKC調節ペプチドが、好適な態様を構成する。本発明に有用な陽イオン性輸送部分は、ポリアルギニン及びHIV-tat等の陽イオン性ペプチドを含む。特に好適な態様は、PKC阻害ペプチド及びHIV-tat由来輸送ペプチドを含有する。このような態様の一例はKAI-9803(SEQ ID NO: 1)である。
【0005】
上記の薬学的製剤の特定の局面の一つでは、抗凝集剤のペプチド/輸送体抱合体に対する割合は、約100:1から約1:1、90:1、80:1、70:1、60:1、50:1、40:1、30:1、20:1、10:1、5:1及び1:1に亘る。
【0006】
本発明の別の局面は、密閉された容器中のKAI-9803及び抗凝集剤の凍結乾燥された塊を含む、使用前に出荷及び貯蔵されるための安定な薬学的製品を提供する。凍結乾燥された製品は好ましくは、KAI-9803にアセテートカウンターイオンを加えた溶液から得られる。KAI-9803の抗凝集剤に対する割合は、約1:5から約1:100、特には約1:80、そしてとりわけ約1:8である。抗凝集剤は好ましくは糖である。このような製品の特定のものの一つは、栓をしたガラス瓶中の、5mg KAI-9803及び40mgマンニトールである。再構成のための指示書が、容器の上または貼付されたラベル、外装及び/または包装挿入物に好ましくは付けられている。
【0007】
本発明の別の局面は、注射用塩化ナトリウム(米国薬局方(USP))(好ましくは0.9%)を用いて凍結乾燥された塊から、約0.001から2.5mg/mL、好ましくは0.01から1.0mg/mLに亘る濃度に再構成される、約2.5mg/mL KAI-9803及び約20mg/mLマンニトールである、非経口(特に冠動脈内)投与のための製剤を提供する。凍結乾燥された製剤を投与のために再構成するには、最初に製品の密閉容器を室温くらいまで温めた後、凍結乾燥された塊を溶解するのに十分な量の薬学的に許容される溶媒(塩水等、好ましくは9%塩水)を加え、続いて投与に望ましい濃度を得るのに必要なだけの追加の容量の溶媒を加える。
【0008】
本発明のさらに別の局面は、以下の工程を含む製造方法である:
(a)適した大きさの容器(好ましくはガラス瓶)に、乾燥した固体として、抗凝集剤、疎水性活性剤及び/または陽イオン性輸送部分の適正量を入れる;
(b)容器に、薬学的に許容される溶媒を、固体を溶解するのに十分な量で添加する;
(c)このようにして形成された溶液を、乾くまで凍結乾燥する;
(d)(任意で、窒素等の不活性気体で頭隙をまず満たした後)容器を密閉する。
【0009】
他の局面及び態様は、以下の詳細な説明から当業者には明白であろう。
【0010】
発明を実施するための形態
目下記載される発明は、一つまたは複数のタンパク質キナーゼC同位酵素の活性を調節するペプチドの薬学的製剤に関する。ある態様では、本明細書中で論じられるペプチドは、調節ペプチドの標的細胞への輸送を容易にするため担体部分に結合される。典型的には、開示された薬学的製剤の好適な態様は、抗凝集剤、及び、一つまたは複数の賦形剤をさらに含有する。調節ペプチドを含有する薬学的製剤は、活性薬学的成分の扱い、製剤製造、安定性、濃度及び使用の容易さにおいて、利点を示す。これら、及びその他の利点をより詳細に以下に記載する。
【0011】
定義
本明細書中において使用されるように、以下の単語及び成句は、それらが使用される文脈において異なるよう示されない限りにおいて、下に示されるような意味を持つように一般的に意図される。
【0012】
「PKC調節ペプチド」または「一つまたは複数のタンパク質キナーゼC同位酵素の活性を調節するペプチド」は、一つもしくは複数のPKC同位酵素を促進、増幅または活性化できるペプチド、または代わりに、さらに一つもしくは複数のPKC同位酵素を阻害または不活性化できるペプチドを指す。
【0013】
「API」という用語は、活性な薬学的成分を意味し、本明細書中で使用されるように、互いに共有結合されたPKC調節ペプチド及び輸送部分、並びに/または、一つもしくは複数の活性剤を指す。
【0014】
「疾患」または「疾病状態」という用語は、あらゆる哺乳動物の疾病、状態、症状または徴候を意味し、好ましくは、ヒト患者において起こる。
【0015】
「有効量」という用語は、APIの量が、そのような処置を必要とする哺乳動物に投与された場合に、以下に定義されるように処置を達成するのに十分であることを指す。
【0016】
「KAI-9803」という用語は、Cys-Cysジスルフィド結合を介してHIV Tat由来の輸送体ペプチドに抱合されたδPKCの最初の可変領域由来のペプチドを指し、そして、次のように表され得る:

【0017】
「任意の」または「任意により」という用語は、続いて記載される事象または状況が起こっても、または起こらなくてもよいことを意味し、そして、当該記載が、そのような事象または状況が起こった例及び起こらなかった例を含むことを意味する。
【0018】
ここで使用されるように、「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」は、あらゆる、そして全ての溶媒、分散媒体、抗細菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤等などを含む。このような媒体及び剤の薬学的に活性な物質のための使用は、当技術分野において周知である。補足の活性成分を組成物に組合せてもよい。
【0019】
「薬学的に許容される塩」または「カウンターイオン」という用語は、APIの生物学的有効性及び特性を保持し、そして、生物学的またはその他の意味で望ましくなくない塩を指す。多くの場合において、APIは、アミノ及び/もしくはカルボキシル基、またはそれに類似の基の存在によって、酸性及び/または塩基性の塩を形成することが可能であろう。薬学的に許容される塩基付加塩は、無機及び/または有機塩基から調製できる。薬学的に許容される酸付加塩は、無機及び/または有機塩基から調製できる。例えば、無機酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等などを含む。有機酸は、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエン-スルホン酸、サリチル酸等などを含む。
【0020】
「薬学的製品」という用語は、製剤され、貯蔵、輸送または投与のために容器満たされたAPIを指す。
【0021】
「PKC由来ペプチド」という用語は、例えば、参照により本明細書に全内容が組み入れられる、米国特許及び公報第5,783,405号、第6,165,977号、第2002/0150984号、第2002/0168354号、第2002/057413号、第2003/0223981号、第2004/0009922号、並びに、2004年3月5日に出願された継続中の米国仮出願第60/550,755号に記載されるような、PKC同位酵素及び/または可変領域に特異的なペプチドを指す。
【0022】
「輸送体部分」という用語は、ポリリジン、ポリアルギニン、アンテナペディア由来ペプチド、HIV Tat由来ペプチド等などを含む、陽イオン性ポリマー、ペプチド及び抗体配列等の細胞による取り込みを容易にする、APIの構成要素を意味する。「輸送体ペプチド」は輸送体部分の一例であり、輸送体ペプチドに化学的に会合または結合されたPKC調節ペプチドの細胞取り込みを容易にするペプチドである。
【0023】
「処置」または「処置する」という用語は、哺乳動物における疾病または疾患に対するあらゆる処置を意味し、次のものを含む:疾病もしくは疾患の予防もしくは保護、即ち、臨床症状が発展しないようにすること;疾病もしくは疾患の阻害、即ち、臨床症状の発展を抑止もしくは抑制すること;及び/または、疾病もしくは疾患の緩和、即ち、臨床症状を退行させること。
【0024】
「防御」という用語は「処置」の一要素として意図され、本明細書中において定義されるように、「予防する」及び「抑制する」の両方を包含する。終局の帰納的事象もしくは事象群は未知、潜在的であるか、または事象もしくは事象群の出現からかなり後にならなければ患者が確信できないため、ヒト医療においては、必ずしも「予防する」及び「抑制する」の間で区別することが可能な訳ではないことが当業者には理解される。
【0025】
タンパク質キナーゼC調節ペプチド
種々のPKC同位酵素-及び可変領域-特異的ペプチドが記載されてきており、ここで開示される発明において使用され得る。好ましくは、PKC調節ペプチドはV1、V3またはV5由来ペプチドである。以下の米国特許または特許出願は、ここで開示される発明において使用され得る、多様な、適したペプチドを記載している:第5,783,405号、第6,165,977号、第6,855,693号、US第2004/0204364号、US第2002/0150984号、US第2002/0168354号、US第2002/057413号、US第2003/0223981号、US第2004/0009922号、及び第10/428,280号。各々が、参照により本明細書に全内容が組み入れられる。表1に、本発明における使用が好適なPKC調節ペプチドの一覧を提供する。
【0026】
(表1)PKC同位酵素由来のペプチド





【0027】
以下においてより完全に検討しているように、PKC調節ペプチドが輸送ペプチドと化学的に会合されることが好ましい。特に好適な態様では、調節ペプチド及び輸送ペプチドは、ジスルフィド結合により連結されている。ジスルフィド結合を形成する場合、好ましくはペプチドのアミノ末端において、PKC調節ペプチド配列にCys残基を付加することが都合が良い。代わりに、調節ペプチドを輸送ペプチドまたは部分と連結するため、内生Cys残基を活用してもよい。ジスルフィド結合を形成する方法は当業者に周知であり、例えば、還元させる環境下で構成要素を混合し、その後、構成要素を酸化させる環境下に導入する。
【0028】
輸送ペプチド
細胞取り込みを意図した広範で多様な分子(特に、ペプチド等のマクロ分子)が、細胞膜を介して不十分にしか輸送されないことが見出された。細胞取り込みを容易にするために提案された解決法のうちには、ポリリジン、ポリアルギニン、アンテナペディア由来ペプチド、HIV Tat由来ペプチド等などを含む陽イオン性(即ち、陽性荷電)ポリマー、ペプチド及び抗体配列等の輸送体部分の使用がある(例えば、全て参照により本明細書に全内容が組み入れられる米国特許並びに公報である、第4,847,240号、第5,652,122号、第5,670,617号、第5,674,980号、第5,747,641号、第5,804,604号、第5,888,762号、第6,316,003号、第6,593,292号、US第2003/0104622号、US第2003/0199677号及びUS第2003/0206900号参照)。
【0029】
ペプチド/輸送体抱合体の特定の例は、δPKC由来ペプチド及びHIV Tat由来輸送体ペプチドより作られたKAI-9803(SEQ ID NO: 1)である。現在、再灌流傷害の処置におけるヒト治療用途のため開発されている。多くの薬学的活性剤と同様に、KAI-9803は、一定の安定性、忍容性及びバイオアベイラビリティーの必要条件を持つ薬学的製剤として調製される。
【0030】
賦形剤及び抗凝集剤
担体または希釈液としての使用に適した薬学的に許容される賦形剤は、当分野において周知であり、多様な製剤中で使用し得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, A.R.Gennaro,編集者, Mack Publishing Company(1990)、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版, A.R.Gennaro,編集者, Lippincott Williams & Wilkins(2000)、Handbook of Pharmaceutical Excipients, 第3版, A.H.Kibbe,編集者, American Pharmaceutical Association and Pharmaceutical Press(2000)、並びにHandbook of Pharmaceutical Additives, Michael及びIrene Ash編集, Gower(1995)参照。
【0031】
凍結乾燥された製剤は典型的には、任意により充填剤、溶解性増幅剤、pH緩衝液等などの賦形剤を含む薬学的に許容される溶媒中に溶解した活性剤から調製される。液体を無くし、将来的な使用のために貯蔵可能な固体の固まりを残すよう、溶液の温度及び圧力を下げる。
【0032】
開示された発明の凍結乾燥した製剤は糖等の抗凝集剤を有利には含み、活性剤の疎水性及び/または陽性荷電部分が互いに凝集するよりも糖との結束を好むよう、糖は活性剤の疎水性及び/または陽性荷電部分と十分に相互作用できる。好ましい抗凝集糖には、フルクトース、ラクトース、グリセロール、マンニトール及びD-マンノースが含まれ、好ましくはマンニトールである。
【0033】
ペプチド(KAI-9803のδPKC配列部分等)の細胞取り込みを容易にするために使用される輸送部分は、そのインビボにおける機能性に寄与する一定の属性(一般的に陽イオン性である)を共有するが、凍結乾燥貯蔵条件下において凝集物形成の元となることが発見された。調節ペプチドもまた、凝集物の形成を容易にする構造的特性を有しているかもしれない。いかなる特定の理論によって拘束されることも望ましくないが、このような凝集は、ペプチドのダイマー化、及びペプチドの凝集物へと「結束する」傾向の結果であるかもしれない。
【0034】
凝集物の有害なレベルでの形成は、ペプチド及びペプチド抱合体の再溶解を妨げ、しいては、粒子が許容されない一定の投与経路(例えば、冠動脈内)の投与を妨げる。これらの欠点の上、製剤中の有害なレベルでの凝集物の形成は、ユニット当りの液体に溶解したペプチドの正確な量から、最終濃度を決定することを複雑にする。このような決定は、最初に溶解しなかった材料の重量を決定し、引き算することをなくしては正確に計算され得ない。許容できないレベルでの凝集は、ペプチド抱合体の0.1から50%の凝集となり得る。従って、本発明の別の局面は、ペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体の凍結乾燥製剤中に、抗凝集剤を組み合わせることに関する。凍結乾燥製品中での凝集物の形成を抑制することに加え、或る抗凝集剤は、薬学的製剤の安定性を増大し得る。
【0035】
投与
非経口投与は、皮下、筋肉内、腹膜内、血管内のいずれかへの注射により一般的に特徴付けられ、本発明の場合には、冠動脈内注射を介する。注射可能物は、液体溶液もしくは懸濁液、注射前に液体中で溶液もしくは懸濁液に再構成するのに好ましい固体(例えば、乾燥もしくは凍結乾燥)形体、または乳濁液のいずれかの慣用の形態で調製され得る。一般的に、好ましい賦形剤は、例えば、水、塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール等などを含む。さらに、例えば、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエート、シクロデキストリン等を含む、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、溶解性増幅剤、等張化剤糖等などの少量の非毒性補助物質を採用してもよい。血管内(IV)投与のための用量形体は、糖、アミノ酸または電解質等の循環器系により容易に運ばれ、そして同化され得る、単純な化学製品の滅菌溶液に組み合わされた活性剤を一般に含有する。このような溶液は典型的には塩水または緩衝液で調製される。当技術分野において知られるよう、このようなIV流体のpHはまちまちであり、典型的には3.5から8.0である。
【0036】
開示された発明の冠動脈内注射製剤は、凍結乾燥されたAPIを0.001から2.5mg/mL、好ましくは0.01から1.0mg/mLに亘る濃度の溶液に再構成するために、注射用の塩化ナトリウム(USP)(好ましくは0.9%)を用いて典型的には調製される。
【0037】
例示的製剤
開示された発明の薬学的製剤は、好ましくは、PKC調節ペプチド、輸送ペプチド及び抗凝集剤を含む。典型的には、PKC調節ペプチド及び運搬ペプチドは互いに化学的に会合される。例えば、調節ペプチド及び輸送ペプチドは互いに共有結合していることが好適である。好適な態様において、PKC調節ペプチド及び輸送ペプチドは、ジスルフィド結合を介して連結される。
【0038】
本発明の凍結乾燥前の態様では、前述の構成要素を溶解するために、製剤は、さらに十分量の薬学的に許容される溶媒(好ましくは注射用の水、USP)を含む。本発明の凍結乾燥された態様は、上記の構成要素を固体の塊の形で含む。
【0039】
開示された製剤中のペプチドの抗凝集剤に対する割合は、約100:1から約5:1、好ましくは約80:1から約5:1、より好ましくは約80:1から8:1に亘り、実際の割合は、構成要素の正体、並びに、凍結乾燥及び/または再構成された薬剤製品に望ましい濃度に依存する。
【0040】
本発明の一局面では、次のような、ペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体のための、凍結乾燥前の製剤及び、それから凍結乾燥された製品が提供される。
【0041】
(表2)

【0042】
好適なペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体製剤の別の局面は、次のものの凍結乾燥により得られ得る。
【0043】
(表3)

【0044】
好適なペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体製剤は、次のものの凍結乾燥により得られ得る。
【0045】
(表4)

【0046】
別の好適なペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体製剤は、次のものの凍結乾燥により得られ得る。
【0047】
(表5)

【0048】
また別の好適なペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体製剤は、次のものの凍結乾燥により得られ得る。
【0049】
(表6)

【0050】
さらに好適なペプチドまたはペプチド/輸送体抱合体製剤は、次のものの凍結乾燥により得られ得る。
【0051】
(表7)

【0052】
代わりに、KAI-9803の水性非経口溶液は、実質的に糖を含まない、約0.01から約10.0mg/mL、好ましくは約0.1から約5.0mg/mL、そして最も好ましくは約0.1から約1.0mg/mLに亘る濃度で調製され得る。このような水性溶液のpHは、約2.0及び4.0の間、好ましくは約2.5及び3.5の間に調整される。
【0053】
製造及び使用の方法
PKC調節ペプチド及び輸送体ペプチドは、慣用の(例えば、固相)手法により合成され得る。PKC調節及び輸送体ペプチド上の一つのCysの活性化後[例えば、担体ペプチドを活性化するために2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)を用いて]、2つのペプチドを結合し、分離し、その後精製する[例えば、精製されたリン酸塩を生じさせるTEAP緩衝液(トリエチルアミン及びリン酸)中のアセトニトリル溶出を用いた予備的RP-HPLCにより]。その後、精製され、且つ結合されたペプチドを含むHPLCからの画分を溜める。薬学的に許容される塩は、アセトニトリル、及び所望の有機酸または無機酸のカウンターイオンドナー(酢酸、塩酸、酒石酸等など、好ましくは酢酸)による反復RP-HPLC溶出により交換され得る。所望の最終産物を溜め、凍結乾燥フラスコに分け、凍結乾燥し、そして、製剤前、適した容器に貯蔵の為に移される(好ましくは、低くした温度、例えば-20℃で、密閉された琥珀色のガラス容器中に)。
【0054】
KAI-9803の産生中に採用されたカウンターイオンは、溶解性及び安定性にプラスの効果を有する。好適な態様では、酢酸カウンターイオンが使用される。塩化物カウンターイオン等の他のカウンターイオンもまた企図される。酢酸カウンターイオンの使用が、開示された発明の好適な態様ではあるが、必須ではない。
【0055】
本発明の薬学的製剤は、最も受け入れられている実践により製造され得、例えば、次のように製造され得る:
(a)抗凝集剤、疎水性活性剤及び/または陽イオン性輸送部分の適正量を、乾燥した固体として、適した大きさの容器(好ましくはガラス瓶)に導入する;
(b)固体を溶解し、所望の濃度を達成するのに十分な量の薬学的に許容される溶媒[例えば、注射用の水(water for injection; WFI)]を容器に加える;
(c)このように形成された溶液を濾過し、滅菌された容器に無菌的に分配し、そして乾くまで凍結乾燥する;
(d)(任意で、窒素等の非反応性の気体で最初に頭隙を満たしてから)投与のために再構成するまで貯蔵するため、容器を密閉する。
【0056】
このような薬学的製品は、室温またはそれ以下、好ましくは約2〜8℃(より好ましくは5℃)で貯蔵されることが推奨され、その指示は容器の上またはそれに貼付されるラベル、外装、及びその中に含まれる包装挿入物に掲げられるべきである。
【0057】
投与のために凍結乾燥された製剤を再構成するため、製品は開封する前に最初に室温まで温められる。使用の直前に、密閉された容器のゴム栓に針を介して侵入し、そして凍結乾燥された塊を溶解し、投与に望ましい濃度を提供するのに十分な量で薬学的に許容される溶液(塩水等、好ましくは9%塩水)を添加する。このような再構成のための指示は、薬局のマニュアル、用量カード、または容器の上もしくはそれに貼付されるラベル、外装、及び/もしくはその中に含まれる包装挿入物に含めることができる。
【0058】
試験
本発明の薬学的製剤の試験は、例えば、活性な薬学的成分の正体及び濃度をHPLC-UVにより(206、220及び/もしくは280nmにおける吸光度を測定する)、例えば凍結乾燥及び再構成の前及び後に決定し、凍結乾燥された製品中の水分含量、凍結乾燥前の溶液及び再構成された溶液のpH、並びに凍結乾燥された塊の外観を決定することを含む、当分野において周知の手法により達成され得る。
【0059】
実施例
以下の実施例は、上記発明を使用する方法をより完全に記載すると共に、本発明の種々の局面を行うために企図された最適の様態を説くために役立つ。これらの実施例は、本発明の真の範囲を如何なる意味でも限定するものでなく、むしろ例証の目的で示されることが理解される。本明細書中で引用される全ての参考文献は、その全内容が参照として含まれる。
【0060】
実施例1
KAI-9803酢酸塩の製造
A.ペプチド断片合成
メリフィールド樹脂を、少なくとも2時間、ジクロロメタン(DCM)中で予め膨潤する。DCMを排出する。輸送体ペプチド及びδ-PKCペプチドは、以下のように、固相合成により調製する:
1.脱保護(TFA/DCM);
2.樹脂洗浄(2-プロパノール、メタノール、10%TEA/DCM、メタノール及びDCM)、
3.次のアミノ酸残基の結合(t-Boc-AA-OH、HOBt/HBTU/NMMを用いて)、並びに
4.樹脂洗浄(メタノール及びDCM)。
【0061】
脱保護及び結合は、ニンヒドリン試験を行ってモニターする。最終アミノ酸残基を各ぺプチド(Cys)に結合した後、樹脂ペプチドを脱保護し、且つ洗浄する(上の工程1、2及び4)。ペプチド-樹脂結合及び側鎖保護基は、HF/アニソールによる処理により切断し、そしてエチルエーテルにより沈殿させる。
【0062】
B.ペプチド断片の精製及び分離
例えば実施例IAのようにして得られた、輸送体ペプチド及びδPKCペプチドは、トリフルオロ酢酸溶液に対するアセトニトリル勾配を用いたC-18カラム上での予備的RP-HPLCに付される。これらの中間体ペプチドの精製についての容認基準は、90.0%以上である。
【0063】
C.結合
例えば実施例IBのようにして得られた輸送体ペプチドは、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)との接触により活性化され、その後、結合されたペプチド抱合体KAI-9803を生じるよう、実施例IBのδ-PKCペプチドと接触される。
【0064】
D.精製、塩交換、及び分離
例えば実施例ICのようにして得られた粗KAI-9803を、YMC C-18カラム上で、TEAP緩衝液(トリエチルアミン及びリン酸)中のアセトニトリル溶出を用いて予備的RP-HPLCにより精製する。精製により得られる画分は、分析的RP-HPLCインプロセス方法により分析する。精製基準(95%以上)を満たす画分を溜め、同じC-18カラム上に戻し、対応するKAI-9803酢酸塩を与えるように酢酸緩衝液中のアセトニトリルで溶出する。このようにして精製されたKAI-9803酢酸塩を溜め、凍結乾燥フラスコに分け、そして凍結する。凍結されたフラスコを凍結乾燥機マニフォルドに連結し、凍結乾燥を行う。凍結乾燥が完了した後、得られたKAI-9803酢酸塩粉末を計量し、試験のための試料を採り、そして残りは50mLの琥珀色のガラス容器に移す。容器は、20mmの(灰色)ブチルのスナップ方式の栓で閉め、そして-20℃で貯蔵される。
【0065】
実施例2
製剤、凍結乾燥、充填及び仕上げ
例えば実施例IDのようにして得られたKAI-9803酢酸塩粉末(50.0mg)、及びマンニトールUSP(400.0mg)を約14.0mLのWFIに溶解し、続いて、澄んだ無色の溶液が得られるよう、総量20ml(〜6ml)までのWFIを必要に応じ添加する。清澄さ、色、及び固体の完全な溶解は、視覚的に検査することにより確認される。2連の0.22μmフィルターで溶液を無菌的に、クラス100無菌充填スイート(filling suite)中へ濾過する。2mLの濾過溶液を各々、10個の予め殺菌した20mLの瓶に無菌的に分注する。各瓶に孔付き凍結乾燥栓で蓋をし、予め-50℃に冷却した棚に載せる。20時間以上かけ、5℃の棚温度で第一次乾燥サイクルを行い、続いて、3時間以上、棚温度25℃の第二次乾燥サイクルを行う。凍結乾燥サイクルが完了した後、窒素下、部分的に減圧して瓶に栓をし、密閉する。栓をした瓶をクリンピングし、クラス10,000処理スイート(processing suite)で検査する。瓶をラベルし、その後、2〜8℃の貯蔵に移し、隔離する。
【0066】
実施例3
KAI-9803+マンニトール製剤の再構成
5mg KAI-9803及び40mgマンニトールの凍結乾燥された薬学的製剤を含む瓶(例えば、実施例1及び2に記載されるようにして得られた)に、注射用の0.9%塩化ナトリウム(USP)を20mL を注入することにより瓶に加え、内容物を穏やかに振り回すことにより溶解して清澄な溶液を得る。無菌の空のIVバックに、18mLの注射用0.9%塩化ナトリウム(USP)を加え、続いて、2mLのKAI-9803溶液(瓶より取得)を添加して、IVバック中に総容量20mLの0.1mg/mLのKAI-9803溶液を得る。溶液は室温で貯蔵し、調製から4時間以内に使用する。
【0067】
実施例4
凍結乾燥されたKAI-9803製剤の安定性
マンニトールを用い、並びに、フルクトース及びスクロースを実施例2の製剤手順の抗凝集糖としてマンニトールを代替し、例えば実施例1及び2のようにしてKAI-9803製剤を調製する。清澄さ、色及び固体の完全な溶解について全ての溶液を視覚的に検査し、そして、各々から部分標本を取る。HPLC-UVを用いて206及び280nmにおける吸光度を測定することにより、各部分標本をKAI-9803濃度について分析する。残りの溶液を、例えば実施例2に記載されるように、濾過し、充填し、凍結乾燥し、そして仕上げる。各製剤を代表する1対の瓶を、即時再構成し、そして再構成された製品におけるKAI-9803濃度を確認するために試験(HPLC-UV、206/280nmにおける)できるよう分ける。残りの瓶は、低くした温度(例えば、2〜8℃)、室温、及び高めた温度(例えば、35℃)における貯蔵のためにグループに分ける。各製剤を代表する瓶のセットは、選択された時点(例えば、1日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月)において取り出し、再構成され、視覚的に検査され、そしてKAI-9803濃度について試験される(HPLC-UV、206/280nmにおける)。
【0068】
実施例5
KAI-9803製剤のCK放出及び梗塞サイズに対する効果
250gの雄Sprague Dawleyラットを、1mlの5.2%ペントバルビタールナトリウムの腹膜内注射により麻酔した。痛みに対する応答が無いことを確認した後、心臓を採り、大動脈にカニューレを挿入し、約4℃に冷却したカルシウムまたはグルコースを欠くKreb-Henslitt緩衝液を注入した。カニューレを逆行Langendorff装置に取り付け、37℃に温められたカルシウム及びグルコースを加えたKrebs-Henslitt緩衝液が心臓に逆行するように灌流した(10ml/分)。
【0069】
心臓が安定するよう10分間置いた。その後、心臓への灌流のスイッチを切り、37〜38℃のKrebs-Henslitt緩衝液の温度が調整された浴槽中に心臓を入れることにより、心臓を30分間の温かい全体的な虚血に付した。虚血期間に続いて、心臓を30分間再灌流した。50pM、500pM、5nM、50nM、及び500nMの試験化合物の用量範囲を用いた。用量濃度は、緩衝液中の試験物の最終濃度を表す。
【0070】
Krebs-Henslitt緩衝液:
0.1256M NaCl− 50mlの2.512Mストックを1L中へ
0.02475M NaHCO3−50mlの0.495Mストックを1L中へ
0.00475M KCl− 10mlの0.475Mストックを1L中へ
0.00118M MgSO4− 10mlの0.118Mストックを1L中へ
0.00118M KH2PO4−10mlの0.118Mストックを1L中へ
5mMグルコース− 0.9g/L
0.002M CaCl2− 8mlの0.25Mストックを1L中へ
1M HClを用いてpHを7.4に。
【0071】
組織損傷に対する効果をモニターするため、終了点は特異的に選択された。設備による制限の為、左心室に生じた圧力等の機能的終了点は選択しなかった。組織損傷の終了点は、組織的(historically)に、再灌流損傷のその他全ての測定値と一貫して相関している。
【0072】
クレアチンキナーゼ(CK)放出:
再灌流の間中、灌流液の画分を2.5分の間隔で集めた。96ウェルのELISAプレートリーダーを用いて、CKキナーゼキット(Diagnostic Chemicals Limited, Oxford, CT)により、各画分をクレアチンキナーゼ活性について分析した。分析の結果を図2及び3に示す。KAI-9803濃度の増加により、総クレアチンキナーゼ放出が減少した。
【0073】
梗塞サイズ:
再灌流後、心臓を3〜4の水平切片に切断した。その後、心臓を39℃で2.5分間、塩水中の2%トリフェニル-テトラゾリウムクロライド(TTC)により染色した。梗塞のサイズを、心臓切片の重さ、及び、染色した心臓のデジタル写真からの組織領域当りの梗塞割合に基づいて定量した。心臓の上端から3番目の切片を、梗塞サイズを計算するために使用した。デジタル写真を用いて、Photoshop上の表面領域測定により%梗塞サイズを決定した。図4は典型的な結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】タンパク質キナーゼC同位酵素の3つのファミリーの概略を示す。
【図2】δPKC阻害剤KAI-9803量の増加に対する、放出されるクレアチンキナーゼの総ユニット数のグラフを示す。
【図3】δPKC阻害剤KAI-9803量の増加に対する、総組織における梗塞サイズの割合のグラフを示す。
【図4】KAI-9803により処理された組織試料と、コントロール製剤で処理された組織における血流を比べたイメージを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送ペプチドに化学的に結合されたタンパク質キナーゼC調節ペプチド;及び糖を含有する薬学的製剤であって、糖とペプチド/輸送体抱合体が、約100:1から約1:1の割合で存在する薬学的製剤。
【請求項2】
糖が、フルクトース、ラクトース、D-マンノース及びマンニトールからなる群より選択される、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
割合が、約80:1から約8:1である、請求項1記載の製剤。
【請求項4】
割合が、約80:1から約5:1である、請求項1記載の製剤。
【請求項5】
輸送ペプチドがペプチドを含むポリアルギニンである、請求項1記載の製剤。
【請求項6】
輸送ペプチドがHIV-tatペプチドである、請求項1記載の製剤。
【請求項7】
製剤が凍結乾燥されている、請求項1記載の製剤。
【請求項8】
調節ペプチドが、SEQ ID NO: 2〜162または163である、請求項1記載の製剤。
【請求項9】
調節ペプチドがSEQ ID NO: 33である、請求項8記載の製剤。
【請求項10】
糖の調節ペプチドに対する割合が約5:1である、請求項9記載の製剤。
【請求項11】
製剤が非経口経路の投与に適したものである、請求項1記載の製剤。
【請求項12】
非経口経路の投与が冠動脈内投与である、請求項11記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−510057(P2009−510057A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533336(P2008−533336)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/027328
【国際公開番号】WO2007/040711
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(508083415)カイ ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (7)
【Fターム(参考)】