説明

薬学的複合体における担体としてのアプロチニンポリペプチドの使用

【課題】薬物の効力の増加、化合物の薬物動態の改変、および癌の処置および診断のための薬学的組成物の提供。
【解決手段】アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体、または断片からなる群より選択される担体と、標識または薬物とを含む複合体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、薬物の効力を増加するためおよび化合物の薬物動態を改変するための、担体複合体、薬学的組成物、およびそれらの使用に関する。より詳しくは、本発明は、本明細書に記述される担体を含む複合体ならびに癌の処置および診断におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
原発腫瘍の処置における臨床の進歩は遅く、これらの腫瘍に関連する問題の一つは抗癌薬に対する腫瘍の反応が弱いことである。化学療法および免疫療法の有効性は、癌細胞における固有のまたは後天的な多剤耐性(MDR)表現型によって損なわれている。MDR表現型に関係する一つのメカニズムは、MDR1発現細胞から様々な抗癌薬を押し出す膜輸送体であるP糖タンパク質(P-gp)の発現によって引き起こされる。P-gpはまた腎臓、肝臓、および腸管のような大多数の通常の分泌組織において発現される。この流出ポンプは、脳毛細管において強く発現され、その発現は管腔の内側を覆う内皮細胞の管腔膜に主に局在する。ヒトにおいて、P-gpは、二つのMDR遺伝子、すなわちMDR1およびMDR3によってコードされる。ヒトMDR1遺伝子によってコードされるP-gpは、耐性表現型を付与するが、ヒトMDR3遺伝子によってコードされるP-gpはそうではない。このように、P-gpは脳からまたは癌細胞から薬物を押し出すことによって、それらが細胞障害性濃度に達することを妨害することによって薬物の流入を制限する監視者のように見えるかもしれない。
【0003】
脳転移を形成する癌細胞は、ほとんどが肺または乳癌、結腸直腸癌腫、黒色腫および泌尿器腫瘍を起源とする。これらの転移はしばしば、手術、一次化学療法処置または放射線療法の後に起こり、化学療法抵抗性である。脳転移に対する化学療法は、化学療法がその対応する原発腫瘍に関して有効である場合に限って有効となりうるであろう。たとえば、小細胞肺癌および生殖細胞を起源とする脳転移は、他の部位での転移と同様の割合で反応することが示された。
【0004】
薬剤耐性は腫瘍細胞の固有の特性である可能性があり、または処置後に獲得する可能性がある。MDR1によってコードされるP-gp流出ポンプ(以降、P糖タンパク質、MDR1 P-gp、またはMDR1とも称する)の存在は、ほとんどの神経膠腫およびより特に新たに形成された毛細血管の内皮細胞がMDR1 P-gpに関して染色陽性である原発性脳腫瘍のほとんどにおいて報告されている。このように、様々な研究により、多剤耐性表現型が癌細胞におけるP-gpの発現のみならず、腫瘍において新たに形成された内皮細胞におけるその発現によって引き起こされる可能性があるという考え方が支持される。MDR1レベルはまた、黒色腫および肺腺癌からの脳転移において有意に低いことが見いだされた。さらに、放射線療法、化学療法、または双方の処置を受けた患者におけるMDR1レベルが同一であったことから、手術前の処置は、黒色腫からの脳転移におけるMDR1レベルに主要な影響を及ぼさないことが示された。肺転移において、MDR1は化学療法を受けた患者に限って検出され、このことは、これらの先に行った処置がその発現を誘導して、それによってMDR表現型の獲得が起こる可能性があることを示している。原発性肺腫瘍およびその対応する脳転移においてMDR1発現が認められないことはまた、これらの転移がその発達の際に正常な脳組織において見いだされるレベルと同じP-gp発現レベルを獲得しなかったことを示している。これらの結果はまた、脳転移における毛細管からの内皮細胞のMDR1レベルが、原発性脳腫瘍のレベルとは異なることを示している。いくつかの脳転移においてMDR1発現がないことは、それらのいくつかが原発性脳腫瘍より化学療法剤に対して感受性がある理由を部分的に説明する可能性がある。
【0005】
血液脳関門を超えて化合物を輸送する方法は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、公開番号WO2004060403として2004年7月22日に公開された国際特許出願番号PCT/CA2004/000011(特許文献1)において記述されている。簡単に説明すると、本文書において、アプロチニン、アプロチニン断片、および類似体が、中枢神経系(CNS)のためのおよびCNS関連疾患を処置するための薬物送達系として発表された。
【0006】
抗癌薬の効力を増加させる必要性がなおもある。
【0007】
本発明は、これらおよび他の必要性に応じようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】PCT/CA2004/000011(WO2004060403)
【発明の概要】
【0009】
本発明は、その一つの局面において、アプロチニンのアミノ酸配列、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む担体に関する。アプロチニン配列ならびに生物学的に活性な類似体のいくつかの例となる態様は、国際特許出願番号PCT/CA2004/000011において見いだされる可能性がある。
【0010】
本発明はまた、アプロチニンのアミノ酸配列、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angioprep-1、Angioprep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体、または断片からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる担体にも関する。
【0011】
本発明に含まれる担体の例としての態様には、たとえば以下からなる群より選択されうる態様が含まれる:
- アプロチニン(配列番号:98)、
- アプロチニン類似体
- 配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含んでもよい(または本質的にそれからなってもよい)アプロチニン断片、
- 配列番号:1の生物学的に活性な類似体、
- 配列番号:1の生物学的に活性な断片、および
- 配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片。
【0012】
より詳しくは、担体は、たとえば以下の群から選択されてもよい:
- 配列番号:1において定義されたアミノ酸配列を含んでもよいアプロチニン断片、
- 配列番号:1の生物学的に活性な類似体、
- 配列番号:1の生物学的に活性な断片、および
- 配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片。
【0013】
本発明に従って、アプロチニン断片は、配列番号:1において定義される配列からなってもよい。さらに本発明に従って、アプロチニン断片は配列番号:1を含んでもよく、アミノ酸約19個〜アミノ酸約54個までの長さ、たとえばアミノ酸10〜50個の長さ、アミノ酸10〜30個の長さ等を有してもよい。
【0014】
本発明に従って、配列番号:1の生物学的に活性な類似体は、アミノ酸約19個〜アミノ酸約54個まで(たとえば、21〜23、25〜34、36〜50、および52〜54個を含む)の長さ、アミノ酸約19〜約50個、アミノ酸約19〜約34個(たとえば、19、20、21、22、23、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34個)、アミノ酸約19〜約23個の長さ、またはアミノ酸約19、20、21、22、23、24、35、51個の長さを有してもよい。
【0015】
本発明のポリペプチドは、アミド化されてもよく、すなわちアミド化されたアミノ酸配列を有してもよい。
【0016】
本明細書に記述されるポリペプチド(たとえばアミノ酸19個)の生物学的に活性な断片には、たとえば、アミノ酸約7、8、9、または10〜18個のポリペプチドが含まれてもよい。したがって、本発明に従って、配列番号:1または配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片は、アミノ酸約7〜約18個、またはアミノ酸約10〜約18個の長さを有してもよい。
【0017】
米国特許第5,807,980号は、本明細書において配列番号:102として識別されるポリペプチドを記述する。
【0018】
米国特許第5,780,265号は、本明細書において配列番号:103として識別されるポリペプチドを記述する。
【0019】
アプロチニンアミノ酸配列(配列番号:98)、Angiopep-1アミノ酸配列(配列番号:67)ならびに生物学的に活性な類似体のいくつかの配列は、たとえば国際公開番号WO2004060403として2004年7月22日に公開された国際特許出願番号PCT/CA2004/000011において見いだされる可能性がある。さらに、国際公開番号WO04/060403は、配列番号:104として本明細書において識別されるポリペプチドについて記述する。
【0020】
米国特許第5,118,668号は、配列番号:105において図解される配列を有するポリペプチドについて記述する。
【0021】
さらにより詳しくは、担体はたとえば以下の群から選択されてもよい:
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも35%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも40%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体、
- 配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも95%(すなわち、96%、97%、98%、99%、および100%)の同一性を含んでもよい配列番号:1類似体。
【0022】
たとえば、配列番号:1の生物学的に活性な類似体は、配列番号:2〜配列番号:62、配列番号:68〜配列番号:93、および配列番号:97、ならびに99、100、および101のいずれか一つにおいて定義されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0023】
さらに本発明に従って、配列番号:1の生物学的に活性な類似体は、配列番号:67において定義されるアミノ酸配列を含んでもよい。この配列はより詳しくはアミド化されてもよい。
【0024】
たとえばおよび非制限的に、ペプチド配列番号:102、103、104、および105を含む複合体も同様に、本発明に含まれる。
【0025】
さらに本発明に従って、配列番号:1の生物学的に活性な断片または配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片は、配列番号:1または配列番号:1類似体の少なくとも9個または少なくとも10個の(連続または隣接した)アミノ酸を含んでもよい。
【0026】
本発明のポリペプチドは、アミノ酸置換1〜12個を含んでもよいアミノ酸配列(すなわち、配列番号:91)を有してもよい。たとえば、アミノ酸置換は、アミノ酸1〜10個の置換、アミノ酸1〜5個の置換であってもよい。本発明に従って、アミノ酸置換は、非保存的アミノ酸置換または保存的アミノ酸置換であってもよい。
【0027】
たとえば、本発明のポリペプチドが、配列番号:1のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列と、同一ではない(非同一の)他のアミノ酸とを含む場合、非同一のアミノ酸は保存的アミノ酸置換であってもよい。同一および非同一のアミノ酸の比較は、対応する位置を見ることによって行ってもよい。
【0028】
少なくとも35%の同一性を有しうる配列番号:1類似体の例には、たとえば配列番号:91において定義されるアミノ酸配列(約36.8%の同一性、すなわち、配列番号:91のアミノ酸19個中アミノ酸7個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、配列番号:98において定義されるアミノ酸配列(約68.4%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸13個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、配列番号:67において定義されるアミノ酸配列(約73.7%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸14個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、配列番号:76において定義されるアミノ酸配列(約73.7%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸14個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、および配列番号:5において定義されるアミノ酸配列(約79%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸15個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチドが含まれる。
【0029】
少なくとも60%の同一性を有しうる配列番号:1類似体の例には、たとえば配列番号:98において定義されるアミノ酸配列(約68.4%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸13個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、配列番号:67において定義されるアミノ酸配列(約73.7%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸14個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、配列番号:76において定義されるアミノ酸配列(約73.7%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸14個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチド、および配列番号:5において定義されるアミノ酸配列(約79%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸15個が配列番号:1と同一である)を含む(からなる)ポリペプチドが含まれる。
【0030】
少なくとも70%の同一性を有しうる配列番号:1類似体の例には、たとえば配列番号:67(約73.7%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸14個が配列番号:1と同一である)、配列番号:76(約73.7%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸14個が配列番号:1と同一である)、配列番号:5(約79%の同一性、すなわちアミノ酸19個中アミノ酸15個が配列番号:1と同一である)において定義されるアミノ酸配列を含む(からなる)ポリペプチドが含まれる。
【0031】
本発明に従って、担体は、特にペプチド番号5、67、76、91、およびペプチド97(すなわち、配列番号:5、67、76、91および97(Angiopep-2))からなる群より選択してもよい。
【0032】
本発明は特に、化合物の(インビボ)薬物動態を改変および/または改善するための、本明細書に記述される担体または薬学的組成物の使用に関する。
【0033】
本発明に従って、化合物はたとえば、標識、タンパク質、ペプチド、および小分子薬、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択してもよい。
【0034】
同様に本発明に従って、小分子薬は、たとえば抗癌薬であってもよい。
【0035】
本発明に従って、抗癌薬は、担体と複合してそれによって複合体を形成してもよい。本発明の例としての態様において、複合体はたとえば、各担体分子に対して少なくとも一つの抗癌薬を含んでもよい。本発明のもう一つの例としての態様において、複合体は、たとえば各担体分子に対して少なくとも二つの抗癌薬分子を含んでもよい。本発明のなおもう一つの例としての態様において、複合体はたとえば、各担体分子に対して少なくとも三つの抗癌薬分子を含んでもよい。
【0036】
本発明に従って、担体は、たとえば個体の腎臓(腎臓組織)、肝臓(肝臓組織)、眼(眼組織)、および肺(肺組織)のような組織における薬物の蓄積を促進してもよい。
【0037】
同様に、本発明に従って、担体は化合物の生物学的利用率を改変または改善しうる。
【0038】
さらに本発明に従って、担体はまた、化合物の(通常の)組織分布を変化させうる。
【0039】
本発明に従って、担体はまた、個体の脳(脳組織)における薬物の蓄積を促進しうる。
【0040】
本発明に従って、脳は腫瘍状の脳であってもよい。
【0041】
さらに本発明に従って、脳は肺癌細胞を含んでもよい。
【0042】
同様に本発明に従って、担体は、癌細胞における薬物の蓄積(たとえば、癌細胞における薬物の細胞内蓄積)を促進しうる。
【0043】
本明細書において用いられるように、「腫瘍状の脳」という用語は、原発腫瘍、または肺腫瘍、乳房腫瘍、黒色腫、結腸直腸腫瘍、泌尿器官またはその他の腫瘍を起源とする転移のような、しかしこれらに限定されない異なる組織起源の転移のいずれかを含む脳を指す。このように腫瘍状の脳の細胞の例には、神経膠芽腫、およびたとえば肺、乳房、結腸、尿管、または黒色腫を起源とする転移細胞が含まれる。
【0044】
本発明に従って、たとえば同じ治療効果を得るために(たとえば、腫瘍細胞増殖の低減を得るために等)必要な薬物の用量を低減させるために、担体を用いてもよい。
【0045】
本発明はさらに、所望の標的部位、所望の標的組織、または所望の標的細胞に化合物を輸送するための、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、または断片、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される担体の使用に関する。
【0046】
本発明の担体と複合してもよい、および本発明に含まれる小分子薬の例には、たとえばタキソール、タキソール誘導体、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、タキソテール(Taxotere)、メルファラン、クロラムブシル、これらの薬学的に許容される塩等、およびこれらの組み合わせ、ならびにP-gp基質であってもよい任意の薬物が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0047】
本発明に含まれる他の小分子薬には、たとえば本発明の担体との複合を可能にする基を有する薬物が含まれてもよい。
【0048】
本発明に従って、タキソール誘導体(または類似体)の例としての態様には、たとえばその全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2005年6月28日に発行された米国特許第6,911,549号において開示および参照される誘導体が含まれる。
【0049】
本発明の担体と複合してもよく、かつ本明細書に含まれる標識の例には、たとえば同位元素、蛍光標識(たとえば、ローダミン)、レポーター分子(たとえば、ビオチン)等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0050】
本発明の担体と複合してもよく、かつ本発明に含まれるタンパク質の例には、抗体、抗体断片、ペプチド、またはタンパク質に基づく薬物(たとえば、正の薬理学的調節物質(アゴニスト)または薬理学的阻害剤(アンタゴニスト))が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0051】
本発明はまた、薬物の効力を増加させるための、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片および組み合わせからなる群より選択される担体の使用を提供する。より詳しくは、担体は、たとえばP-gpまたはP-gp関連タンパク質(たとえば、P-gpヒトまたは哺乳動物対立遺伝子変異体、たとえば齧歯類のmdr1aおよび/またはmdr1bイソ型)によって排出される(すなわち、細胞から放出、駆出される)P-gp基質または薬物であってもよい薬物の効力を増加させるために用いてもよい。
【0052】
本発明に従って、担体は、抗癌薬、たとえばP-gp基質であってもよい抗癌薬の効力を増加させることができる。
【0053】
なおさらなる局面において、本発明は、より詳しくは抗癌薬の抗腫瘍成長効果を増加させる(最適にする)ための、本明細書において記述される担体、複合体、または薬学的組成物の使用に関する。
【0054】
本発明はさらに、薬物もしくは標識を所望の標的部位でもしくは標的部位に輸送するための、または薬物もしくは標識を標的細胞内に輸送するための、および/またはたとえばその表面でP-gpを発現する細胞もしくはP-gpを(その表面で)発現することができる細胞の内部での薬物もしくは標識の蓄積を促進するための、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片および組み合わせからなる群より選択される担体の使用を提供する。
【0055】
担体は、たとえばP-gpまたはP-gp関連タンパク質によって排出される(すなわち放出される、細胞外に輸送される、駆出される)特徴を含んでもよい薬物の細胞内での蓄積を促進するために用いてもよい。
【0056】
本発明に従って、所望の部位はたとえば、脳、または腎臓、肝臓、膵臓、結腸、眼、肺、およびこれらの組み合わせのような脳以外の他の部位(たとえば、頭蓋外部位)であってもよいがこれらに限定されない。したがって、所望の標的部位は、脳、腎臓、肝臓、膵臓、結腸、眼、肺、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される一つまたは複数の部位であってもよい。
【0057】
本発明の特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、脳の細胞または組織であってもよい。
【0058】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、肝臓の細胞または組織であってもよい。
【0059】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、腎臓の細胞または組織であってもよい。
【0060】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、膵臓の細胞または組織であってもよい。
【0061】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、結腸の細胞または組織であってもよい。
【0062】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、眼の細胞または組織であってもよい。
【0063】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、所望の標的部位はたとえば、肺の細胞または組織であってもよい。
【0064】
さらに、本発明に従って、所望の部位は、担体受容体または輸送体を発現する細胞、たとえば低密度リポタンパク質関連受容体(LRP)を発現する細胞を含む部位であってもよい。細胞はまた、P-gpまたはP-gp関連タンパク質を同時発現する細胞であってもよい。細胞はたとえば、正常細胞、腫瘍細胞、または転移細胞であってもよい。このように本発明の担体は、脳の細胞、肝臓の細胞、腎臓の細胞、膵臓の細胞、結腸の細胞、眼の細胞、肺の細胞、およびこれらの組み合わせ(正常または腫瘍状のいずれか)を標的とするために用いてもよい。
【0065】
本発明はまた、そのより特定の局面においては、化合物の細胞内蓄積を促進するための(すなわち化合物の細胞内部での蓄積を促進するための)、本明細書に記述される担体(たとえば、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片からなる群より選択されてもよい)、または本明細書において記述される薬学的組成物もしくは複合体の使用に関する。
【0066】
本発明の態様に従って、化合物は、たとえば標識、タンパク質、ペプチドおよび小分子薬からなる群より選択されてもよい。
【0067】
本発明のさらなる態様に従って、細胞は、P-gpを発現することができる細胞、またはP-gpを発現する細胞であってもよい。より詳しくは細胞は、細胞表面にP-gp(MDR1)を発現してもよい。
【0068】
細胞はたとえば腫瘍細胞であってもよい。腫瘍細胞はたとえば脳腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、眼の腫瘍、肝臓腫瘍、結腸直腸腫瘍、泌尿器起源の腫瘍等を起源としてもよいがこれらに限定されない。
【0069】
本発明に従って、細胞は、個体(哺乳動物、動物等)の脳の外部に存在してもよい。たとえば、細胞は個体(哺乳動物、動物等)の脳の外部に存在しうる腫瘍細胞であってもよい。
【0070】
本発明のさらなる態様に従って、細胞は、個体(哺乳動物、動物等)の脳の内部に存在してもよい。たとえば、細胞は個体(哺乳動物、動物等)の脳の内部に存在しうる腫瘍細胞であってもよい。
【0071】
本発明の例となる態様において、腫瘍細胞は脳腫瘍細胞であってもよい。たとえば、脳腫瘍細胞は神経膠芽腫を起源としてもよく、または神経膠芽腫であってもよい。
【0072】
本発明のもう一つの例となる態様において、腫瘍細胞は肺腫瘍細胞であってもよい。
【0073】
本発明はまた、そのさらなる局面においては、たとえばP-gp(MDR1)を発現することができうる細胞またはP-gpを発現する細胞の内部からの薬物の消失を低減させるための、本明細書に記述される担体、複合体、または薬学的組成物の使用にも関する。本発明に従って、薬物はP-gp基質であってもよい。
【0074】
同様に本発明に従って、細胞は多剤耐性癌細胞であってもよい。
【0075】
なおさらなる局面において、本発明は、細胞の成長を低減させるための、本明細書に記述される担体、複合体、または薬学的組成物の使用に関する。その目的に関して、担体を、細胞の成長を低減させることができうる薬物と複合させてもよい。
【0076】
本発明の非制限的な例となる態様に従って、担体、このように形成された複合体、または約学的組成物は、腫瘍細胞または内皮細胞の成長を低減させるために用いてもよい。
【0077】
本発明の特定の態様において、腫瘍細胞はP-gp(MDR1)を発現することができてもよく、または発現してもよい。
【0078】
本発明の例としての態様において、腫瘍細胞は脳腫瘍細胞であってもよい。より具体的には、脳腫瘍細胞は神経膠芽腫を起源としてもよく、または神経膠芽腫であってもよい。
【0079】
本発明のもう一つの例としての態様において、腫瘍細胞は肺腫瘍細胞であってもよい。
【0080】
本発明のなおもう一つの例としての態様において、腫瘍細胞は乳房腫瘍細胞であってもよい。
【0081】
本発明のさらなる例としての態様において、腫瘍細胞は、腎臓腫瘍細胞であってもよい。
【0082】
本発明のなおさらなる例としての態様において、腫瘍細胞は眼の腫瘍細胞であってもよい。
【0083】
本発明のさらなる態様において、腫瘍細胞は結腸直腸癌に由来してもよい。
【0084】
本発明のもう一つのさらなる態様において、腫瘍細胞は泌尿器腫瘍に由来してもよい。
【0085】
本発明の特定の態様において、抗癌薬はより具体的にはタキソール、タキソテール、またはタキソールもしくはタキソテール誘導体であってもよい。
【0086】
本発明のもう一つの態様に従って、抗癌薬はたとえばビンブラスチンであってもよい。
【0087】
本発明のなおもう一つの態様に従って、抗癌薬はたとえばビンクリスチンであってもよい。
【0088】
本発明のさらなる態様に従って、抗癌薬はたとえばエトポシドであってもよい。
【0089】
本発明のさらなる態様に従って、抗癌薬はたとえばドキソルビシンであってもよい。
【0090】
本発明のさらなる態様に従って、抗癌薬はたとえばシクロホスファミドであってもよい。
【0091】
本発明のなおさらなる態様に従って、抗癌薬はたとえばメルファランであってもよい。
【0092】
本発明のなおもう一つの態様に従って、抗癌薬はたとえばクロラムブシルであってもよい。
【0093】
もう一つの局面において、本発明は、小分子薬の薬物動態を改変するための、薬学的組成物または医用薬剤の作製における本明細書に記述される担体の使用に関する。
【0094】
より詳しくは、担体は細胞の成長を低減させるために用いてもよい。
【0095】
同様により詳しくは、担体は、細胞内の小分子薬の蓄積を促進するために用いてもよい。
【0096】
さらに、担体は、細胞内の小分子薬の消失を低減させるために用いてもよい。
【0097】
同様に、担体は、小分子薬の抗腫瘍成長効果を増加させるために用いてもよい。
【0098】
さらに、担体は、小分子薬の生物学的利用率を改善するために用いてもよい。
【0099】
本発明のほかにおよび本発明に従って、担体は、小分子薬の(通常の)組織分布を変化させるために用いてもよい。
【0100】
さらに、本発明は、癌、転移性癌、および/または転移を処置するための、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、および組み合わせからなる群より選択される担体の使用に関する。本発明に従って、例としての転移は、脳腫瘍、肺腫瘍、黒色腫等を起源としうる転移を含んでもよいがこれらに限定されない。
【0101】
本発明はまた、所望の標的細胞を検出するための、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片および組み合わせからなる群より選択される担体の使用に関する。
【0102】
本発明はさらに、癌、転移性癌、および/または転移の診断のための、アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片および組み合わせからなる群より選択される担体の使用を提供する。
【0103】
本発明はさらに、さらなる局面において、本発明の担体(および/またはその薬学的に許容される塩)と薬学的に許容される担体とを含む組成物(たとえば、薬学的組成物)に関する。
【0104】
さらなる局面において本発明は、複合体および/またはその薬学的に許容される塩に関する。複合体は、たとえば本明細書において記述される担体および薬物、標識、またはタンパク質を含んでもよい。担体は、薬物、標識、タンパク質、またはペプチドに共有結合的に付着してもよい。
【0105】
より詳しくは、複合体は、たとえばアプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片および組み合わせからなる群より選択される担体と、薬物、標識、タンパク質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含んでもよい。本発明に従って、複合体は一つまたは複数の薬物分子を含んでもよい。
【0106】
同様に本発明に従って、化合物は担体から放出されてもよく放出されなくてもよい。従って、化合物は複合体から(または担体から)放出可能であってもよい。
【0107】
本発明に従って、複合体は、式R-L-Mを含んでもよく、式中Rはアプロチニン(たとえば、アプロチニン、アプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、類似体、誘導体または断片)に関連するクラスの分子であり、Lはリンカーまたは結合であってもよく、およびMは薬物(たとえば小分子薬)、標識、タンパク質(たとえば、抗体、抗体断片)、およびポリペプチドからなる群より選択される薬剤または薬物であってもよい。本明細書において式R-L-Mは特異的順序または特異的比率に限定されないと意図される。本明細書において例示されるように、MはRに対して数倍の比率で見いだされてもよい。
【0108】
本発明は、そのさらなる局面においては、a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片からなる群より選択されうる担体と、b)それに付着する薬物または標識の薬物動態を(インビボで)改変するための少なくとも一つの小分子薬または標識とを含んでもよい複合体の使用に関する。
【0109】
本発明の一つの態様に従って、複合体は、より詳しくは細胞の成長を低減させるために用いてもよい。
【0110】
さらに本発明に従って、複合体は細胞内での小分子薬または標識の蓄積を促進するために用いてもよい。
【0111】
同様に本発明に従って、複合体は、細胞の内部からの小分子薬または標識の消失を低減させるために用いてもよい。
【0112】
さらに本発明に従って、複合体は小分子薬の抗腫瘍成長効果を増加させるために用いてもよい。
【0113】
同様に本発明に従って、複合体は化合物の生物学的利用率を改善してもよい。
【0114】
さらに本発明に従って、複合体はまた化合物の組織分布を変化させてもよい。
【0115】
本発明の一つの態様において、小分子薬は、細胞の成長を低減させることができうる。
【0116】
本発明はまた、そのさらなる局面においては、小分子薬の薬物動態を改変するための薬学的組成物または医用薬剤の作製(製造)における、a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片からなる群より選択されうる担体と、b)少なくとも一つの小分子薬とを含んでもよい複合体の使用を提供する。
【0117】
本発明はまた、癌、転移性癌、および/または転移のような状態を処置するための組成物または医用薬剤の製造における担体の使用にも関する。
【0118】
本発明はまた、そのさらなる局面においては、a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片からなる群より選択されうる担体と、b)眼の細胞、脳の細胞、乳房の細胞、肝臓の細胞、腎臓の細胞、泌尿器官の細胞、結腸の細胞、直腸からの細胞、および肺の細胞からなる群より選択されうる細胞を検出するための少なくとも一つの標識とを含んでもよい複合体の使用に関する。
【0119】
本発明の特定の態様において、検出されうる細胞は、たとえば眼の細胞であってもよい。
【0120】
本発明のもう一つの特定の態様において、検出されうる細胞は、たとえば脳の細胞であってもよい。
【0121】
本発明のさらに特定の態様において、検出されうる細胞は、たとえば肝臓の細胞であってもよい。
【0122】
本発明のなおさらなる特定の態様において、検出されうる細胞は、たとえば乳房の細胞であってもよい。
【0123】
本発明のもう一つの特定の態様において、検出されうる細胞は、たとえば腎臓の細胞であってもよい。
【0124】
本発明のなおもう一つの特定の態様において、検出されうる細胞は、たとえば肺の細胞であってもよい。
【0125】
本発明はさらに、本発明の複合体と薬学的に許容される担体とを含む組成物(たとえば、薬学的組成物)に関する。
【0126】
本明細書において記述される薬学的組成物は、たとえば癌、転移性癌、および/または転移の処置または検出において用いてもよい。
【0127】
本発明は、その特定の局面において、たとえば細胞の成長を低減させることができうる、または細胞を検出するための薬学的組成物を提供し、薬学的組成物は、
a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片と、標識または細胞の成長を低減させることができる小分子薬とを含んでもよい複合体、ならびに
b)薬学的に許容される担体
を含んでもよい。
【0128】
本発明はまた、そのさらなる局面において、
a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片と、小分子薬または標識とを含んでもよい複合体、
b)薬学的に許容される担体、ならびに
c)可溶化剤
を含んでもよい薬学的組成物を提供する。
【0129】
本発明に従って、可溶化剤はたとえば、脂肪酸のポリオキシエチレンエステルであってもよい。本発明によって含まれる可溶化剤には、たとえばSolutol(登録商標)HS-15が含まれる。
【0130】
本発明の例示的な態様、適した可溶化剤は、たとえばSolutol(登録商標)HS-15のような脂肪酸のポリオキシエチレンエステルを含んでもよいがこれらに限定されない。
【0131】
本発明の態様に従って、薬学的組成物はより具体的に、化合物の薬物動態を改変するため、腫瘍細胞の成長を低減させるため、または腫瘍細胞を検出する等のために用いてもよい。
【0132】
本発明はさらに、癌、転移性癌、および/または転移を処置するための、本発明の少なくとも一つの複合体の使用に関する。本発明に従って、本発明の複合体を用いて処置されうる例としての転移は、たとえば乳房腫瘍、肺腫瘍、黒色腫等を起源とする可能性があるがこれらに限定されない転移である。
【0133】
本発明はまた、そのもう一つの局面において、癌(たとえば、原発腫瘍、転移癌、および/または転移のような)を処置するための、または癌細胞を検出するための方法を提供し、本方法は、本明細書において記述される薬学的組成物、またはa)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体もしくは断片からなる群より選択されうる担体と、b)抗癌薬もしくは標識とを含んでもよい複合体を個体に投与する段階を含んでもよい。
【0134】
本発明に従って、個体は、たとえば頭蓋外腫瘍、原発性脳腫瘍、または転移起源の脳腫瘍を有してもよい。
【0135】
本方法はまた、個体の腫瘍が、多剤耐性腫瘍細胞、もしくはたとえばP-gp(MDR1)を発現する細胞を含むか否かを査定する段階、または腫瘍が多剤耐性表現型を有しうるか否か、もしくは有するか否かを決定する段階を含んでもよい。
【0136】
個体は腫瘍を有する個体であってもよい。個体はまた、化学療法、放射線療法、またはその双方を受けたことがある、または受けるであろう個体であってもよい。個体はまた、手術を受けたことがある個体であってもよい。さらに、個体は、脳腫瘍を有する個体であってもよく、または脳以外の部位で腫瘍を有する(脳腫瘍を有しない)個体であってもよい。必要のある個体は、たとえば少なくとも一つの薬物に対して耐性(多剤耐性(MDR)表現型)を呈する、または呈するリスクを有する個体であってもよい。
【0137】
より詳しくはおよび本発明に従って、個体はたとえば頭蓋外腫瘍を有してもよい。
【0138】
本発明に従って、頭蓋外腫瘍はたとえば肺腫瘍であってもよい。
【0139】
同様に本発明に従って、頭蓋外腫瘍はたとえば、脳腫瘍からの頭蓋外転移であってもよい。本発明のより特異的な態様において、頭蓋以外脳腫瘍はたとえば、神経膠芽腫(神経膠芽腫からの頭蓋外転移)であってもよい。
【0140】
本発明のもう一つの特定の態様において、個体は、転移起源の脳腫瘍を有してもよい。転移起源の脳腫瘍は、たとえば肺腫瘍を起源としてもよい。転移起源の脳腫瘍はまた、たとえば乳房腫瘍を起源としてもよい。さらに、転移起源の脳腫瘍はたとえば、黒色腫を起源としてもよい。さらにおよび本明細書において記述されるように、転移起源の脳腫瘍はまた、結腸直腸癌を起源としてもよい。さらに、転移起源の脳腫瘍はたとえば泌尿器腫瘍を起源としてもよい。
【0141】
本発明に従って、腫瘍は、P-gpを発現することができうる、またはP-gpを発現する腫瘍細胞を含んでもよい。
【0142】
本発明に従って、腫瘍は、LRPを発現することができうる、またはLRPを発現する腫瘍細胞を含んでもよい。
【0143】
本発明に従って、腫瘍細胞はP-gpとLRPとを同時発現することができうる、またはP-gpとLRPとを同時に発現する腫瘍細胞を含んでもよい。P-gpおよびLRPは、たとえば細胞表面に存在してもよい。
【0144】
より詳しくは、本発明はその局面において、転移を有する個体の脳における薬物の蓄積を促進する方法に関する。本方法は、脳転移を有する個体に、本明細書に記述される担体または複合体を投与する段階を含んでもよい。本発明に従って、転移は肺癌等を起源としてもよい。
【0145】
本発明は、そのさらなる局面において、標識、タンパク質、ペプチド、および小分子薬からなる群より選択される化合物の細胞内蓄積を促進するための方法を提供する。
【0146】
本方法は、a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体または断片からなる群より選択されうる担体と、b)所望の化合物とを含んでもよい複合体を、細胞に接触させる段階、または細胞に提供する段階を含んでもよい。
【0147】
本発明に従って、細胞はたとえばP-gpを発現する細胞であってもよい。
【0148】
さらに本発明に従って、細胞はたとえば脳の細胞、肺の細胞、乳房の細胞、腎臓の細胞、眼の細胞、または肝臓の細胞であってもよい。
【0149】
同様に本発明に従って、細胞はたとえば、個体(哺乳動物、動物等)の脳の外部に存在しうる腫瘍細胞であってもよい。
【0150】
本発明はまた、なおさらなる局面において、P-gp(MDR1)を発現することができる、またはP-gpを発現する細胞の内部からの薬物の消失を低減させるための方法を提供する。
【0151】
本方法は、薬物を本明細書において記述される担体と複合させて、それによって複合体を形成する段階、および細胞に複合体を提供する段階を含んでもよい。
【0152】
本発明の例示的な態様において、細胞は多剤耐性癌細胞であってもよい。
【0153】
本発明のさらに例示的な態様において、細胞は個体の頭蓋外腫瘍内に含まれてもよい。
【0154】
本発明のさらに例示的な態様において、細胞は、個体の脳内に含まれてもよい。細胞は、たとえば脳腫瘍細胞(原発性)または転移性脳腫瘍細胞のような腫瘍細胞であってもよい。
【0155】
細胞に複合体を提供するための手段は、たとえば多剤耐性細胞または多剤耐性腫瘍細胞(たとえば、またはMDR1を発現する細胞)を含む個体に複合体を提供することである。
【0156】
本発明に従って、方法は、P-gp基質である、またはP-gp基質であってもよい薬物の消失を低減させるために用いてもよい。
【0157】
もう一つの局面において、本発明は細胞の成長を低減させるための方法を提供する。本方法は、a)アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体からなる群より選択されうる担体と、b)細胞の成長を低減させることができる薬物とを含んでもよい複合体、または本明細書において記述される薬学的組成物を、細胞に接触させる段階を含んでもよい。
【0158】
本発明に従って、担体は小分子薬の効力(有効性、有効度)を増加させるために用いてもよい。
【0159】
同様に本発明に従って、小分子薬と担体との複合は、適した原子、たとえば酸素原子を通して薬物を会合させることができるリンカー(たとえば、エステル結合を生成することができるリンカー)を用いることが含まれうる、いくつかの手段によって行われてもよい。
【0160】
さらなる局面において、本発明は、たとえば標識、タンパク質、ペプチドおよび小分子薬からなる群より選択されうる化合物の薬物動態を改変するための方法を提供し、本方法は、化合物を本明細書に記述される担体に複合させて、それによって複合体を形成する段階、およびその必要のある個体に複合体を提供する段階を含んでもよい。
【0161】
本発明に従って、各担体分子に対して化合物1分子の比率を複合段階のために用いてもよい。
【0162】
さらに本発明に従って、各担体分子に対して化合物が少なくとも2分子の比率を複合段階のために用いてもよい。
【0163】
同様に本発明に従って、各担体分子に対して化合物が少なくとも3分子の比率を複合段階のために用いてもよい。
【0164】
本発明の特定の態様において、化合物は、たとえば小分子薬であってもよい。
【0165】
本発明のもう一つの特定の態様において、化合物は、たとえば標識であってもよい。
【0166】
本発明に従って、必要のある個体は、より詳しくは腫瘍を有する個体であってもよい。たとえば、個体は脳腫瘍を有してもよい。本発明に従って、脳腫瘍は、たとえば原発性脳腫瘍であってもよい。同様に本発明に従って、脳腫瘍は、たとえば脳組織とは異なる組織起源の腫瘍であってもよい。
【0167】
本発明の例示的な態様において、個体の脳腫瘍は、たとえば頭蓋外脳腫瘍であってもよい。
【0168】
本発明に従って、腫瘍はP-gp(MDR1)を発現する、または発現することができる腫瘍細胞を含んでもよい。
【0169】
脳腫瘍は、たとえば肺腫瘍を起源としてもよい。脳腫瘍はまた、たとえば乳房腫瘍を起源としてもよい。同様にたとえば、脳腫瘍は黒色腫を起源としてもよい。
【0170】
本発明の特定の態様に従って、方法は、たとえば抗癌薬の抗腫瘍成長効果(非複合薬と比較して)を増加させ(最適にし)てもよい。
【0171】
本発明のもう一つの特定の態様に従って、方法はたとえば、細胞内(すなわち、細胞内部)での化合物の蓄積を促進してもよい。
【0172】
本発明のなおもう一つの特定の態様に従って、方法は、細胞(たとえば、P-gpを発現する細胞)の内部からの小分子薬の消失を低減させてもよい。
【0173】
本発明のさらなる態様に従って、方法は細胞成長を低減(たとえば、腫瘍細胞成長を低減)させてもよい。
【0174】
さらに、方法は、小分子薬の生物学的利用率を改善させてもよい。
【0175】
本発明のほかにおよび本発明に従って、方法は、小分子薬の(通常の)組織分布を変化させるために用いてもよい。
【0176】
なおさらなる局面において、本発明は、RAPのLRP依存的蓄積を低減させるためおよびRAP媒介細胞(細胞内)事象または効果を低減させるための、本明細書において記述される担体、複合体、または薬学的組成物の使用を提供する。
【0177】
本発明の目的に関して、以下の用語を以下に定義する。
【0178】
本明細書において用いられるように「Angiopep」という用語は、Angiopep-1およびAngiopep-2を指す。
【0179】
「タキソール-Angiopep」および「TxlAn」という用語は互換的に用いられ、タキソール分子1、2、または3個を含むタキソール-Angiopep-1およびタキソール-Angiopep-2を指す。
【0180】
「タキソール-Angiopep-1」および「TxlAn1」という用語は互換的に用いられ、タキソール分子1、2、または3個のいずれかを含むタキソール-Angiopep-1を指す。
【0181】
「タキソール-Angiopep-2」および「TxlAn2」という用語は互換的に用いられ、タキソール分子1、2、または3個のいずれかを含むタキソール-Angiopep-2を指す。
【0182】
「TxlAn1(2:1)」という用語は、所定の複合体におけるAngiopep-1分子に対するタキソールの比率を指す。たとえば、「TxlAn1(2:1)」という用語は、Angiopep-1 1分子に会合したタキソール2分子を有する複合体を指す。さらに、「TxlAn1(3:1)」という用語は、Angiopep-1 1分子に会合したタキソール3分子を有する複合体を指す。
【0183】
同様に、「TxlAn2(2:1)」という用語は、所定の複合体におけるAngiopep-2分子に対するタキソールの比率を指す。たとえば、「TxlAn2(2:1)」という用語は、Angiopep-2 1分子に会合したタキソール2分子を有する複合体を指す。さらに、「TxlAn2(3:1)」という用語は、Angiopep-2 1分子に会合したタキソール3分子を有する複合体を指す。
【0184】
「担体」または「ベクター」という用語は、所望の標的部位または細胞で分子を輸送することができる化合物または分子を意味すると意図される。担体は、もう一つの化合物または薬剤に付着(共有結合によってまたはそれ以外)または複合してもよく、それによって所望の標的部位に他の化合物または薬剤を輸送することができうる。担体は、タンパク質、ペプチド、またはペプチド模倣体であってもよいがそれらに限定されるわけではなく、天然に存在しうるか、または化学合成もしくは遺伝子組換え技術(遺伝子操作)によって産生されうる。
【0185】
「小分子薬」という表現は、分子量1000 g/molもしくはそれ未満、または300〜700 g/molを有する薬物を意味すると意図される。
【0186】
「処置」、「処置する」等の用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果、たとえば癌細胞成長の阻害、癌細胞の死、または神経疾患もしくは状態の改善を得ることを意味すると意図される。効果は、疾患もしくはその症状の完全もしくは部分的な予防に関して予防的であってもよく、および/または疾患および/または疾患に起因しうる有害事象の部分的もしくは完全な治癒に関して治療的であってもよい。本明細書において用いられるように「処置」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を含み、以下が含まれる:(a)疾患に対する素因を有する可能性がある個体に疾患または状態が起こることを防止する(たとえば、癌が起こることを防止する);(b)疾患を阻害する(たとえば、その発達を停止させる);または(c)疾患を軽減する(たとえば、疾患に関連した症状を低減させる)ことが含まれる。本明細書において用いられるように「処置」は、その必要のある個体に、本明細書に記述される担体を含む薬物または複合体を投与する段階が含まれるがこれらに限定されるわけではない、個体における状態を処置、治癒、緩和、改善、縮小、または阻害するための、個体に対する薬学的物質または化合物の任意の投与を含む。
【0187】
「癌」という用語は、独自の形質が正常な制御の喪失であり、それによって調節されない成長、分化の欠如、ならびに局所組織への浸潤能および転移能が起こる、任意の細胞の悪性疾患を意味すると意図される。癌は、任意の臓器の任意の組織において発生しうる。より具体的には、癌には、脳の癌が含まれるがこれらに限定されるわけではないと意図される。
【0188】
「投与する」および「投与」という用語は、動脈内、鼻腔内、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、または経口が含まれるがこれらに限定されるわけではない送達様式を意味すると意図される。1日量を、期間を通して1回、2回、またはそれより多く投与される適した形で1、2、またはそれより多い用量に分割してもよい。
【0189】
「治療的有効」または「有効量」という用語は、疾患または病態に関連したいくつかの症状を実質的に改善するために十分な化合物の量を意味すると意図される。たとえば、癌の処置において、疾患または状態の任意の症状を減少させる、予防する、遅らせる、抑制する、または停止する薬剤または化合物は治療的に有効であると考えられる。薬剤または化合物の治療的有効量は、疾患または状態を治癒するために必要ではないが、疾患もしくは状態の発症が遅れる、妨害される、もしくは予防されるように、疾患もしくは状態の症状が改善されるように、疾患もしくは状態の期間が変化するもしくはたとえばさほど重度でなくなる、または個体における回復が加速されるように、疾患または状態の処置を提供すると考えられる。
【0190】
本発明の担体および複合体は、従来の処置法および/または治療のいずれかと組み合わせて用いてもよく、または処置および/または治療の従来の方法と個別に用いてもよい。
【0191】
本発明の複合体を、他の薬剤と組み合わせた治療において投与する場合、それらは個体に連続的または同時に投与されてもよい。または、本発明に従う薬学的組成物は、本明細書に記述される薬学的に許容される担体または薬学的に許容される賦形剤、および当技術分野において公知のもう一つの治療剤または予防剤と会合した、本発明の担体-薬剤複合体の組み合わせを含んでもよい。
【0192】
薬学的に許容される酸(付加)塩は、当技術分野において公知で用いられる方法によって調製してもよい。
【0193】
本明細書において用いられるように、「薬学的組成物」とは、薬学的に許容される希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、補助剤、および/または担体とあわせた薬剤の治療的有効量を意味する。本明細書において用いられるように、「治療的有効量」とは、所定の条件および投与療法に関して治療効果を提供する量を指す。そのような組成物は液体もしくは凍結乾燥剤、またはそうでなければ乾燥製剤であり、これには様々な緩衝剤成分(たとえば、トリス-HCl、酢酸塩、リン酸塩)の希釈剤、pHおよびイオン強度、表面に対する吸収を防止するためのアルブミンまたはゼラチンのような添加剤、洗浄剤(たとえば、Tween 20、Tween 80、Pluronic F68、胆汁酸塩)が含まれる。可溶化剤(たとえば、グリセロール、ポリエチレングリコール)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸、異性重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(たとえば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量剤、または等張性改変剤(たとえば乳糖、マンニトール)、ポリエチレングリコールのようなポリマーのタンパク質への共有結合的付着、金属イオンとの錯体形成、またはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ハイドロゲル等のようなポリマー化合物の微粒子調製物中またはその上への材料の取り込み、またはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層、多層小胞、赤血球ゴースト、もしくはスフェロプラストへの材料の取り込み。そのような組成物は、物理的状態、溶解度、安定性、インビボ放出速度、およびインビボクリアランス速度に影響を及ぼすと考えられる。放出制御型または徐放性組成物には、親油性デポー剤(たとえば、脂肪酸、ロウ、油)における製剤が含まれる。同様に、ポリマー(たとえば、ポロキサマーまたはポロキサミン)によってコーティングした微粒子組成物も本発明に含まれる。本発明の組成物の他の態様は、非経口、肺内、鼻腔内、経口、膣内、直腸経路を含む様々な投与経路のために保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤、または浸透増強剤を微粒子剤形に組み入れる。一つの態様において、薬学的組成物は、非経口、癌近傍、粘膜内、経皮、筋肉内、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、頭蓋内、および腫瘍内に投与される。
【0194】
さらに、本明細書において用いられるように、「薬学的に許容される担体」または「薬学的担体」は、当技術分野において公知であり、これには、0.01〜0.1 Mまたは0.05 Mリン酸緩衝液または0.8%生理食塩液が含まれるがこれらに限定されるわけではない。さらに、そのような薬学的に許容される担体は、緩衝剤、水溶液または非水溶液、懸濁液、および乳液であってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルのような注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩液および緩衝媒質を含む、水、アルコール/水溶液、乳液または懸濁液が含まれる。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース塩化ナトリウム、乳酸リンゲル、または固定油が含まれる。静脈内媒体には、リンゲルデキストロース等に基づく補給剤のような液体および栄養補給剤、電解質補給剤が含まれる。たとえば抗菌剤、抗酸化剤、コレーティング(collating)剤、不活性ガス等のような、保存剤および他の添加剤も同様に存在してもよい。
【0195】
「断片」は、本明細書において当初のまたは親配列の一部を起源とする(を含む)ポリペプチドとして理解される。断片は、一つまたは複数のアミノ酸の切断を有するポリペプチドを含み、切断はアミノ末端(N末端)、カルボキシ末端(C末端)、またはタンパク質の内部を起源としてもよい。断片は、当初の配列の対応する部分と同じ配列を含んでもよい。本明細書において記述される担体の生物学的に活性な断片は、本発明に含まれる。
【0196】
タンパク質またはペプチドの文脈における「誘導体」は、本明細書において当初の配列を起源とするまたは当初の配列の一部を起源とするポリペプチドであって、一つまたは複数の改変;たとえばアミノ酸配列における一つもしくは複数の改変(たとえば、アミノ酸付加、欠失、挿入、置換等)、および骨格もしくは側鎖における一つもしくは複数のアミノ酸の一つもしくは複数の改変、または一つもしくは複数のアミノ酸(側鎖または骨格)への基もしくはもう一つの分子の付加、を含んでもよいポリペプチドとして理解される。本明細書に記述される担体の生物学的に活性な誘導体は、本発明に含まれる。
【0197】
タンパク質またはペプチドの文脈における「類似体」は、本明細書に記述されるポリペプチドと類似の生物学的活性および化学構造を有する分子であると理解される。たとえば、類似体は、ポリペプチドの末端の一方または双方のいずれかに、および/またはポリペプチドのアミノ酸配列の内部に、一つまたは複数のアミノ酸挿入を有してもよいポリペプチドを含む。
【0198】
「類似体」は、当初の配列または当初の配列の一部と配列類似性を有してもよく、同様に本明細書において考察されるように、その構造の改変を有してもよい。たとえば、「類似体」は、当初の配列または当初の配列の一部と少なくとも90%の配列類似性を有してもよい。「類似体」はまた、たとえば当初の配列または当初の配列の一部と少なくとも70%または50%配列類似性を有してもよい。「類似体」は、たとえばアミノ酸の骨格もしくは側鎖における一つもしくは複数の改変、または基もしくはもう一つの分子の付加等の組み合わせによって、当初の配列と50%、70%、80%、または90%の配列類似性を有してもよい。もう一つのアミノ酸と類似である(保存的アミノ酸)と意図されるアミノ酸は、当技術分野において公知であり、これにはたとえば表1において記載されるアミノ酸が含まれる。
【0199】
さらに、「類似体」は、当初の配列または当初の配列の一部と少なくとも50%、70%、80%、または90%配列同一性を有してもよい。同様に、「類似体」は、アミノ酸の骨格もしくは側鎖における一つもしくは複数の改変、または基もしくはもう一つの分子の付加等の組み合わせによって当初の配列と50%、70%、80%、または90%の配列類似性を有してもよい。
【0200】
類似性または同一性は、たとえば2、3、4、5、10、19、20個またはそれより多いアミノ酸(およびそのあいだの任意の数)のあいだで比較してもよい。本明細書において、同一性には、当初のペプチドと同一であるアミノ酸、および当初のポリペプチドと比較した場合に同じまたは類似の位置を占有する可能性があるアミノ酸が含まれてもよい。たとえば当初のポリペプチドと50%の同一性を有する類似体には、たとえば当初のポリペプチドのアミノ酸の50%を含み、同様に他の百分率を有する類似体が含まれてもよい。本明細書において、当初のペプチドのアミノ酸と同一または類似である類似体のアミノ酸のあいだにギャップが見いだされる可能性があると理解されるべきである。ギャップには、アミノ酸が含まれなくてもよく、当初のペプチドと同一または類似でない一つまたは複数のアミノ酸が含まれてもよい。本発明の担体の生物学的に活性な類似体は本発明に含まれる。
【0201】
このように、本明細書に記述される担体の当初のポリペプチド、断片(改変または非改変)、類似体(改変または非改変)、誘導体(改変または非改変)、相同体(改変または非改変)の形での生物学的に活性なポリペプチドは、本発明に含まれる。
【0202】
したがって、当初のポリペプチドと比較して所望の生物学的活性を有意に破壊しない改変を有するいかなるポリペプチドも本明細書に含まれる。その生物学的活性に有害な影響を及ぼすことなく本発明のポリペプチドに多数の改変を行ってもよいことは、当技術分野において周知である。一方、これらの改変は、当初のポリペプチドの生物学的活性を維持もしくは増加してもよく、またはいくつかの状況において必要であるもしくは望ましい可能性がある本発明のポリペプチドの特異性(たとえば、安定性、生物学的利用率当)の一つもしくは複数を最適にする可能性がある。本発明のポリペプチドは、たとえば翻訳後プロセシングのような天然のプロセスまたは当技術分野において公知の化学改変技術によって改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。改変は、ポリペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノまたはカルボキシ末端を含むポリペプチドのいかなる場所で起こってもよい。同じタイプの改変が所定のポリペプチドにおけるいくつかの部位で同じまたは異なる程度で存在してもよいと認識されると考えられる。同様に、所定のポリペプチドは、多くのタイプの改変を含んでもよい。ポリペプチドは、ユビキチン化の結果として分岐してもよく、それらは分岐を有するまたは有しない環状であってもよい。環状、分岐、および分岐環状ポリペプチドは、翻訳後の天然のプロセスに起因してもよく、または合成法によって作製されてもよい。改変はたとえば、PEG化、アセチル化、アシル化、アセトミドメチル(Acm)基の付加、ADPリボシル化、アルキル化、アミド化、ビオチニル化、カルバモイル化、カルボキシエチル化、エステル化、フラビンに対する共有結合的付着、ヘム部分に対する共有結合的付着、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合的付着、薬物の共有結合的付着、マーカー(たとえば、蛍光、放射活性等)の共有結合的付着、脂質または脂質誘導体の共有結合的付着、ホスファチジルイノシトールの共有共有的付着、クロスリンク、環状化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合クロスリンクの形成、システインの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化およびユビキチン化のようなタンパク質への転移RNA媒介アミノ酸付加等を含むがこれらに限定されない。本明細書において記述されるポリペプチドに対する一つより多い改変は、生物学的活性が当初の(親)ポリペプチドと類似である程度に本発明に含まれると本明細書において理解される。
【0203】
先に考察したように、ポリペプチド改変は、たとえば、そのような改変がポリペプチドの全体的な生物学的活性を実質的に変化させない、ポリペプチド配列における保存的または非保存的(たとえば、D-アミノ酸、デスアミノ酸)のいずれかであるアミノ酸挿入(すなわち付加)、欠失および置換(すなわち交換)を含んでもよい。
【0204】
置換の例は、保存的である置換(すなわち残基が同じ一般的なタイプまたは基のもう一つの残基に交換されている)または望ましい場合には非保存的置換(すなわち、残基がもう一つのタイプのアミノ酸に交換されている)であってもよい。さらに、天然に存在しないアミノ酸を、天然に存在するアミノ酸の代わりに用いてもよい(すなわち、天然に存在しない保存的アミノ酸置換、または天然に存在しない非保存的アミノ酸置換)。
【0205】
理解されるように、天然に存在するアミノ酸は酸性、塩基性、中性および極性、または中性および非極性のアミノ酸にさらに分類されてもよい。さらに、コードされるアミノ酸の三つは、芳香族である。決定された本発明のポリペプチドとは異なるコードされるポリペプチドは、交換されるアミノ酸と同じタイプまたは基に由来するアミノ酸に関する置換コドンを含む。このように、いくつかの場合において、塩基性アミノ酸Lys、Arg、およびHisは、互いに交換可能であってもよい;酸性アミノ酸AspおよびGluは互いに交換可能であってもよい;Ser、Thr、Cys、Gln、およびAsnは互いに交換可能であってもよい;非極性脂肪族アミノ酸Gly、Ala、Val、Ile、およびLeuは互いに交換可能であるが、大きさの点からGlyおよびAlaはより密接に関連し、Val、IleおよびLeuは互いにより密接に関連し、ならびに芳香族アミノ酸Phe、TrpおよびTyrは互いに交換可能であってもよい。
【0206】
ポリペプチドが合成によって作製される場合、DNAによって天然にはコードされないアミノ酸(天然に存在しない、または非天然アミノ酸)による置換も同様に行ってもよいことにさらに注意すべきである。
【0207】
天然に存在しないアミノ酸は、哺乳動物において天然に産生されないまたは見いだされないアミノ酸であると本明細書において理解される。天然に存在しないアミノ酸は、D-アミノ酸、システインの硫黄原子に付着したアセチルアミノメチル基を有するアミノ酸、PEG化アミノ酸等を含む。したがって、定義されたポリペプチド配列において天然に存在しないアミノ酸を含めることにより、当初のポリペプチドの誘導体が作製されると考えられる。天然に存在しないアミノ酸(残基)にはまた、nが2〜6である式NH2(CH2)nCOOHのωアミノ酸、サルコシン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、ノルロイシン等のような中性非極性アミノ酸が含まれる。フェニルグリシンをTrp、Tyr、またはPheの代わりに置換してもよく;シトルリンおよびメチオニンスルホキシドは中性非極性であり、システイン酸は酸性であり、およびオルニチンは塩基性である。プロリンをヒドロキシプロリンに置換してもよく、立体配座を付与する特性を保持する。
【0208】
類似体は、置換的変異誘発によって作製してもよく、本発明のポリペプチドの生物学的活性を保持することは当技術分野において公知である。これらの類似体は、タンパク質分子における少なくとも一つのアミノ酸残基が除去されてその場所に異なる残基が挿入されている。「保存的置換」であると同定された置換の例を表1に示す。そのような置換によって望ましくない変化が起こる場合、表1における「例示的な置換」と呼ばれる置換、または本明細書においてアミノ酸のクラスを参照してさらに記述される他のタイプの置換を導入して産物をスクリーニングする。
【0209】
いくつかの場合において、アミノ酸置換、挿入、または欠失によってポリペプチドの生物学的活性を改変することは重要である可能性がある。たとえば、ポリペプチドの改変によって、ポリペプチドの生物学的活性の増加が起こる可能性があり、その毒性を調節する可能性があり、生物学的利用率もしくは安定性の変化が起こる可能性があり、またはその免疫活性もしくは免疫学的同一性を調節する可能性がある。機能または免疫学的同一性における実質的な改変は、(a)たとえば、シートまたはへリックス立体配座としての置換領域におけるポリペプチドの骨格構造、(b)標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖のかさ、の維持に及ぼすその効果が有意に異なる置換を選択することによって行われる。天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいて群に分割される:
(1)疎水性:ノルロイシン、メチオニン(Met)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)
(2)中性親水性:システイン(Cys)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)
(3)酸性:アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)
(4)塩基性:アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)
(5)鎖の方向に影響を及ぼす残基:グリシン(Gly)、プロリン(Pro);および芳香族:トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)。
【0210】
非保存的置換は、これらのクラスの一つのメンバーをもう一つのメンバーに交換する段階を必然的に伴うと考えられる。
【0211】
(表1)アミノ酸置換

【0212】
生物学的に活性な類似体は、たとえば当初の配列において少なくとも一つの保存的アミノ酸置換を有する類似体であってもよい。生物学的に活性な類似体はまた、たとえばアミノ酸の挿入を有する類似体であってもよい。
【0213】
たとえば、Angiopep-1類似体は式I:X1-Angiopep-1-X2を有してもよい。たとえばAngiopep-2類似体は式II:X1-Angiopep-2-X2を有してもよい。
【0214】
X1およびX2は独立して、アミノ酸0〜約100個(たとえば、0〜約60個)のアミノ酸配列であってもよい。X1およびX2は、アプロチニンもしくはアプロチニン類似体(相同なアミノ酸配列)の連続アミノ酸に由来してもよく、または任意の他のアミノ酸配列(異種アミノ酸配列)であってもよい。式IまたはIIのいずれかの化合物も同様に、Angiopep-1またはAngiopep-2のアミノ酸配列内にアミノ酸置換、欠失、または挿入を含んでもよい。しかし、類似体は好ましくは、本明細書において記述されるアッセイの一つによって、または任意の類似もしくは同等のアッセイによって決定されるように生物学的活性であると考えられる。
【0215】
アプロチニン類似体の例は、たとえばインターネットで利用できる多くのデータベースに蓄積された配列情報を用いて、国際特許出願番号PCT/CA2004/000011において開示される合成アプロチニン配列(またはその一部)と比較する相同性検索(たとえば、ベーシックローカルアライメント検索ツール−BLAST-アルゴリズムを利用する)を行うことによって見いだされる可能性がある。米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)ではBLASTアルゴリズムを組み込んだソフトウェアを提供している。例としてのアプロチニン類似体は、たとえばアクセッション番号CAA37967(GI:58005)、1405218C(GI:3604747)等において見いだされる可能性がある。
【0216】
本明細書において記述されるポリペプチド(たとえば、アミノ酸19個)の生物学的に活性な断片には、たとえばアミノ酸7、8、9または10〜18個のポリペプチドが含まれてもよい。
【0217】
生物学的に活性なポリペプチド(たとえば、担体)は、本明細書において記述されるアッセイまたは方法の一つを用いることによって同定されてもよい。たとえば、候補担体は、通常のペプチド合成によって産生され、本明細書に記述されるタキソールと複合して、実施例5において記述されるようにインビボモデルにおいて試験されてもよい。生物学的に活性な担体は、たとえばプラセボ処置マウスと比較して腫瘍の負荷の低減に対するその有効性に基づいて同定されてもよい。本明細書において記述される担体の複合において用いられうる小分子薬候補物質は、たとえば本明細書において記述されるように薬物がP-gp過剰発現細胞によって排出されるか否かを決定する段階、および担体とのその複合が所望の細胞内でのその蓄積を増加させるか否かを評価する段階によって同定されてもよい。
【0218】
生物学的に活性な担体(すなわち、Angiopep-1および/またはAngiopep-2の生物学的に活性な類似体)には、たとえば、

のようなクニッツ(Kunitz)ドメインに由来するペプチドが含まれてもよい。
【0219】
生物学的に活性な類似体の他の例は、表2および配列表において見いだされる可能性がある。
【0220】
(表2)異なる電荷およびアミノ酸挿入を有するアプロチニンおよびAngiopep-1と類似のドメインからのペプチド96個の設計

【0221】
本明細書において、本発明の特定の特徴(たとえば、温度、濃度、時間等)に関連して「範囲」または「物質の群」が言及されている場合、本発明は、その中におけるいかなる小範囲または亜群のそれぞれのおよびあらゆる特異的なメンバーおよび組み合わせに関し、それらを明確に組み入れると理解されるべきである。このように、任意の明記された範囲または群は、範囲または群のそれぞれのおよびあらゆるメンバーと共に、その中に含まれるそれぞれおよびあらゆる起こりうる小範囲または亜群のそれぞれのおよびあらゆるメンバーを個々に参照する簡略な方法として理解されるべきである。このように、たとえば、
- アミノ酸19個またはそれ未満の長さに関して、本明細書においてそれぞれのおよびあらゆる個々の長さ、たとえば18、17、15、10、5個等の長さを特異的に組み入れると理解されるべきである。したがって、特に明記していなければ、本明細書において言及されるあらゆる範囲は、含めるものとして理解すべきである。たとえば、表現においてアミノ酸5〜19個の長さは、5および19個を含むとされる;
- および配列、長さ、濃度、要素等のような他のパラメータに関しても同様である。
【0222】
特に、本明細書において定義される配列、領域、部分にはそれぞれ、そのような小配列、小領域、小部分が特定の可能性を積極的に含むとして定義されるか否か、特定の可能性を除外するとして定義されるか否か、またはこれらの組み合わせとして定義されるか否かによらず、それぞれおよびあらゆる個々の配列、領域、それによって記述される部分と共に、それぞれおよびあらゆる可能性がある小配列、小領域、小部分が含まれると理解すべきである;たとえば領域の除外基準は以下のように読んでもよい:「該ポリペプチドがアミノ酸4、5、6、7、8、または9個を超えて長くはないことを条件として」。負の制限のなおさらなる例は以下である:配列番号:Yのポリペプチドを除外する配列番号:Xを含む配列等。例としての負の制限の他の例は以下である:「脳の癌以外」、「脳組織以外」、または「脳細胞以外」。
【図面の簡単な説明】
【0223】
本発明の例示的な態様を示す図面は、以下の通りである。
【0224】
【図1】アプロチニン由来ペプチドのアミノ酸配列。
【図2】流出ポンプ、すなわち細胞表面のP糖タンパク質(P-gpまたはMDR1)の略図である。多剤耐性に関連する流出ポンプP-gpまたはMDR1は、多くの癌細胞および血液脳関門を含む様々な組織の細胞表面において高度に発現されている。
【図3】本発明の担体タンパク質に対する薬物の複合の略図である。
【図4】TxlAn2(3:1)の大量産生を図解するクロマトグラムである。
【図5】AKTA-エクスプローラを用いて疎水性カラム上で精製されたピークのHPLC分析である。
【図6】放射標識Angiopep-2および血管マーカーイヌリンのインサイチュー脳灌流を図解するダイアグラムである。
【図7】脳全体、脳毛細管、および脳実質におけるトランスフェリン、アプロチニンおよびAngiopepの見かけの分布容積を図解するヒストグラムである。
【図8】親薬物タキソールの存在下における細胞増殖のダイヤグラムである。神経膠芽腫細胞(U-87)を様々な濃度のタキソールに3日間曝露した。細胞に取り込まれた3H-チミジンをタキソール濃度の関数としてプロットした。
【図9】図9Aは、P-gp阻害剤である10 μM CsAの存在下または非存在下(対照)におけるMDR1をトランスフェクトしたMDCK細胞における様々な薬物の蓄積を表すダイアグラムである。実験は、1%DMSOの存在下で行った。 図9Bは、P-gpを過剰発現する細胞における複合体の蓄積を表すダイアグラムである。
【図10】図10Aおよび10BはタキソールおよびTxlAn1複合体の組織分布を表すダイアグラムである。
【図11】タキソールとTxlAn1の肺分布を表すダイアグラムである。
【図12】血漿および肺におけるTxlAn1複合体のレベルを表すダイアグラムである。
【図13】皮下神経膠芽腫(U-87)腫瘍成長に及ぼすTxlAn2処置の効果を表すダイアグラムである。
【図14】タキソールもしくはTxlAn2に曝露した癌細胞における、または対照として1%DMSOに曝露した細胞における免疫蛍光または可視光による、NCI-H460におけるβ-チューブリンの検出を図解する写真である。
【図15A】FACSによって測定したNCI-H460細胞周期に及ぼすタキソールおよびTxlAn2複合体の効果を図解するダイアグラムである。細胞を溶媒(DMSO)に24時間曝露した。
【図15B】FACSによって測定したNCI-H460細胞周期に及ぼすタキソールおよびTxlAn2複合体の効果を図解するダイアグラムである。細胞をタキソール(100 nM)に24時間曝露した。
【図15C】FACSによって測定したNCI-H460細胞周期に及ぼすタキソールおよびTxlAn2複合体の効果を図解するダイアグラムである。細胞をTxlAn2複合体(30 nM、100 nMタキソールと同等)に24時間曝露した。
【図16】図16Aおよび16Bはヒト脳腫瘍生検におけるLRPの免疫検出を表す写真である。
【図17】図17Aは、様々なアプロチニン濃度の存在下での線維芽細胞MEF-1およびPEA-13における[125I]-RAPの蓄積を図解するダイアグラムである。 図17Bは、図17Aの結果を表すダイアグラムであり、[125I]-RAPのLRP依存的蓄積を、MEF-1による結果からPEA-13細胞に関して得られた取り込みの結果を差し引くことによって計算して、アプロチニン濃度の関数として表記した。
【図18】RAP取り込みに及ぼすアプロチニンとAngiopep-2の効果を図解するヒストグラムである。線維芽細胞MEF-1およびPEA-13における[125I]-RAPの蓄積を25μMアプロチニンまたはAngiopepの存在下で測定した。[125I]-RAPのLRP依存的蓄積は、PEA-13細胞について得られた取り込みに関する結果を、MEF-1に関して得られた結果から差し引くことによって計算した。
【図19A】ボーラス注射後の80%DMSOにおけるTxlAn2(3:1)複合体の血中動態を図解するダイアグラムである。
【図19B】ボーラス注射後の20%Solutol(登録商標)HS15におけるTxlAn2(3:1)複合体の血中動態を図解するダイアグラムである。
【図19C】ボーラス注射後の80%DMSOにおけるタキソールの血中動態を図解するダイアグラムである。
【図20A】DMSO(80%)またはSolutol(登録商標)HS15(20%)において希釈したTxlAn2(3:1)複合体の組織分布のダイアグラムである。
【図20B】DMSO(80%)またはSolutol(登録商標)HS15(20%)において希釈したTxlAn2(3:1)複合体の組織分布のダイアグラムである。
【図21A】静脈内(i.v.)注射後のいくつかの組織におけるタキソール、TxlAn2(3:1)、およびTxlAn2(2:1)の組織分布を図解するヒストグラムである。
【図21B】静脈内(i.v.)注射後の正常および腫瘍状の脳におけるタキソール、TxAn2(3:1)、およびTxlAn2(2:1)の組織分布を図解するヒストグラムである。
【図22A】右脇腹にNCI-H460細胞を埋め込んだマウスにおけるタキソール(10 mg/kg)、またはTxlAn2(3:1)複合体(20 mg/kg)製剤(Solutol(登録商標)における)の静脈内投与後の腫瘍容積を図解するグラフである。
【図22B】右脇腹にNCI-H460細胞を埋め込んだマウスにおけるTxlAn2(2:1)またはTxlAn2(3:1)複合体製剤(Solutol(登録商標))の腹腔内投与後の腫瘍容積を図解するグラフである。
【図23A】右脇腹にNCI-H460細胞を埋め込んだマウスにおいて溶媒(対照)、タキソール(10 mg/kg)、またはTxlAn2(3:1)製剤(20 mg/kg)を腹腔内注射によって、またはAlzetポンプ(30 mg/kg/14日)による注入によって投与した後の腫瘍容積を図解するグラフである。処置を矢印で示す。
【図23B】右脇腹にU87細胞を埋め込んだマウスにおいて溶媒(対照)、タキソール(10 mg/kg)、またはTxlAn2(3:1)製剤(20 mg/kg)を腹腔内注射によって、またはAlzetポンプによる注入によって投与した後の腫瘍容積を図解するグラフである。処置を矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0225】
発明の詳細な説明
Angiopep-1および-2は、本明細書において試験されたアプロチニン由来ペプチドの二つの非制限的な例示的な態様を表す(図1)。本発明の担体に複合した分子または化合物の非制限的な例示的な態様を表すタキソールは、イチイの木の樹皮および針状葉から単離されたこの天然化合物が、非常に有効な化学療法剤であることから候補抗癌薬として選択された。その上、この化合物は卵巣癌、乳癌、非小細胞肺癌、およびカポジ肉腫に関して米国食品医薬品局(FDA)によって承認されており、よく特徴付けのなされた抗癌薬である。
【実施例】
【0226】
細胞増殖アッセイ
インビトロ細胞増殖アッセイに関してU87またはA549細胞2.5〜5×104個を、10%血清を有する培地の最終容量1 mlにおいて24ウェル組織培養マイクロプレートにおいて播種して、37℃および5%CO2において24時間インキュベートした。次に培地を無血清培地に交換して終夜インキュベートした。翌朝、薬物をジメチルスルホキシド(DMSO)に新たに溶解して、培地を、異なる濃度の薬物を含む完全な培地に1試料あたり3個ずつ交換した。DMSOの最終濃度は0.1%であった。用いた対照は、細胞を加えて薬物を加えなかったマイクロプレートウェルである。細胞を37℃および5%CO2において48〜72時間インキュベートした。インキュベーション後、培地を[3H]-チミジン(1μCi/アッセイ)を含む完全な培地1 mlと交換した。プレートを37℃および5%CO2において4時間インキュベートした。培地を除去して、細胞を37℃に加温したPBSによって洗浄した。細胞をエタノール:酢酸混合物(3:1)によって固定して、水によって洗浄し、10%氷冷TCA(トリクロロ酢酸)によって3回沈殿させた。最後に、PCA(過塩素酸)500μlをウェルに加えて、マイクロプレートを65℃で30分間加熱して75℃で30分間加熱した。各ウェルの内容物を、シンチレーションカクテル10 mlを有するシンチレーションバイアルに移して、活性をPackardの液体シンチレーションカウンターTri-CarbにおいてCPM(1分間あたりのカウント数)で測定した。
【0227】
ペプチドのヨウ素化
ペプチドを、Sigmaのヨードビーズを用いる標準的な技法によってヨウ素化した。Angiopep-1およびAngiopep-2はいずれも、0.1 Mリン酸緩衝液、pH 6.5(PB)において希釈した。各タンパク質に関してヨードビーズ2個を用いた。これらのビーズをWhatman濾紙上でPB 3 mlによって2回洗浄して、PB 60μlに浮遊させた。Amersham-Pharmacia biotechの125I(1 mCi)をビーズ浮遊液に室温で5分間加えた。それぞれのヨウ素化は、ペプチド(100μg)を加えることによって開始した。室温で10分間インキュベートした後、遊離のヨウ素をHPLCによって除去した。
【0228】
皮下移植
腫瘍の成長に及ぼすタキソール複合体および製剤の有効性を推定するために、本発明者らは、皮下神経膠芽腫モデルを開発した。このモデルにおいて、1%メチルセルロースを含む血清を含まない細胞培地100 μl中に細胞2.5×106個をマウスの脇腹に皮下注射した。腫瘍は明らかに目に見え、ノギスを用いて測定することができた。次に、推定される腫瘍容積を時間の関数としてプロットした。
【0229】
インサイチューマウス脳灌流
マウス脳毛細管の管腔側への[125I]-ペプチドの取り込みは、マウス脳における薬物取り込み試験に関して本発明者らの研究室において採用されたインサイチュー脳灌流法を用いて測定した。簡単に説明すると、ケタミン/キシラジン(140/8 mg/kg i.p.)麻酔マウスの右総頸動脈を露出して、後頭動脈に対して吻側の総頸動脈分岐レベルで結紮した。総頸動脈の吻側に、ヘパリン(25 U/ml)を充填したポリエチレンチューブをカテーテルにより挿入して、26ゲージ針を留置した。灌流液(95%O2および5%CO2を通気したpH 7.4のクレブス/重炭酸緩衝液における[125I]-ペプチドまたは[14C]-イヌリン)を含むシリンジを注入ポンプ(Harvard pump PHD 2000; Harvard Apparatus)に留置して、カテーテルに接続した。灌流の前に、心室を切断することによって反対側の血流の関与を消失させた。脳を、流速1.15 ml/分で表記の時間還流した。14.5分間還流した後、脳をさらにクレブス緩衝液によって60秒間還流して、過剰量の[125I]-タンパク質を洗浄した。次に、マウスを断頭して、灌流を終了させ、右半球を氷中に単離してから、毛細管を枯渇させた。ホモジネート、上清、沈降物、および灌流液のアリコートを採取してTCA沈殿によって[125I]-複合体におけるその含有量を測定し、見かけの分布容積を評価した。
【0230】
実施例1
複合体の調製
ビンクリスチン、エトポシド、およびドキソルビシンのような様々な薬物に対する耐性はP-gp(MDR1)の過剰発現によって媒介されることから(図2)、この流出ポンプを迂回するいかなる方法も、様々な癌のタイプに及ぼすこれらの薬物の作用を増強する可能性がある。したがって、P-gpの迂回はP-gpによって媒介される耐性に関連する薬物の効力を増加させるために有用となる可能性がある。したがって、本明細書において記述される担体を、そのP-gpの迂回能に関して試験した。
【0231】
本明細書に記述される担体に対する薬物の複合を図3において図解する。簡単に説明すると、タキソールをAngiopep-1またはAngiopep-2担体に複合させるために、タキソールをまず、N-スクシニミド(2'-NHS-Txl)誘導体に活性化した。次に、たとえばAngiopep-1またはAngiopep-2のリジン残基またはアミノ末端において見いだされるアミンを、ペプチド結合(アミド結合)を形成することによってこの活性化タキソール上で反応させた。Angiopep-1またはAngiopep-2において、アミノ末端(位置1)およびリジン(位置10および15)は、活性化タキソールと反応することができた。したがって、複合体の多数の組み合わせは、用いるモル比に応じてペプチドにタキソール1、2、または3個を付加することによって起こることが見いだされた(図3)。複合体全体をHPLCによって分析して、複合体を質量分析(Maldi-Tof)によって確認した。タキソールは、エステラーゼによるエステル結合の切断によって担体から放出可能であることが見いだされた。したがって、担体を抗癌薬と組み合わせることによって、複合体が効率的に産生された。
【0232】
本発明の例示的な態様において、TxlAn2(3:1)複合体の産生は、Angiopep-2の1モル等量を、2'-NHS-タキソールの2.5モル等量の溶液に直接付加することによって行われた。反応はリンゲル液(pH 7.3)において68%DMSOにおいて12℃で1時間行われ、氷浴を除去した後、室温で約22時間(図4)行った。Angiopep-2、2'-NHS-タキソールおよびTxlAn2(3:1)複合体を、クロマトグラムにおいて矢印で示す。反応のアリコートを採取して、図4において示されるように25分、2時間15分、5時間、および23時間後にHPLCによって分析した。Angiopep-2、2'-NHS-タキソール、およびTxlAn2(3:1)複合体のピークをクロマトグラムにおいて矢印で示す。図4の結果は、主にTxlAn2(3:1)複合体の利益に対して、反応の際のAngiopep-2および2'-NHS-タキソールの消失を図解している。
【0233】
産物のこの混合物を、AKTA-エクスプローラを用いて流速4 ml/分でRPC 300 mmカラム上での疎水性クロマトグラフィーによって分離した(図5)。TxlAn2(3:1)複合体に対応するピークに関して、分画をプールしてHPLCおよびMSによって分析した。図5において、上のクロマトグラムはt=23時間での流出分画に対応し、一方下のクロマトグラムはAKTA精製後に質量分析(分子量5107)によって確認されたTxlAn2(3:1)複合体に対応する。
【0234】
実施例2
タキソール-Angiopep-2複合体のインサイチュー脳灌流
インビボでのAngiopepの脳の取り込みを評価するために、マウス脳実質への[125I]-Angiopepの初回輸送速度を、本明細書に記述されるインサイチュー脳灌流を用いて測定した。マウス脳を[125I]-Angiopep-2または[14C]-イヌリンのいずれかによって表記の時間灌流した。灌流後、脳をリンゲル液によってさらに60秒間灌流して、過剰量の放射標識分子を洗浄した後、右半球を氷中で単離した後毛細管枯渇を行った。ホモジネート、上清、沈殿物、および灌流液のアリコートを採取して、[125I]-Angiopep-2または[14C]-イヌリンにおけるその含有量を測定した。これらの分子の脳実質への蓄積に関して得られた結果を図6に示す。[125I]-Angiopep-2の蓄積は時間の関数として増加して、血管マーカー[14C]-イヌリンの蓄積より高い。
【0235】
本発明者らはさらに、[125I]-アプロチニン、[125I]-トランスフェリン、および[125I]-Angiopepに関する5分間の灌流後の初回脳取り込みを比較した(図7)(1:1)。結果は、Angiopepおよびアプロチニンがトランスフェリンと比較して最高の初回輸送を有することを示している。
【0236】
実施例3
細胞成長に及ぼす複合体の効果
インビトロアッセイにおいて、タキソール(非複合)は、本明細書において神経膠芽腫細胞(U-87)の増殖を約10 nM付近のIC50値によって遮断することが示された(図8)。本明細書において記述された担体と複合したタキソール複合体の様々な細胞株の増殖に及ぼす効果を評価して。非複合タキソール(タキソールと呼ばれる)と比較した。表3において示されるように、タキソール-Angiopep-2(TxlAn2)複合体に関して得られたIC50は、多くの癌細胞において非複合タキソールの値と非常に類似であった。ラット脳の内皮細胞(RBE4)は、調べた癌細胞株より感度が低かった。全体的に、これらの結果はインビトロで細胞増殖を遮断する複合体の効力が非複合タキソールと非常に類似であることを示している。比較目的のために、得られた結果をタキソール濃度に関して表記した。
【0237】
(表3)細胞増殖に及ぼす複合体の効果

【0238】
これらの細胞のほとんど(U-87、U-118、NCI-H460、A549)がLRPを発現する。しかし、このデータはRBE4細胞には利用できない。
【0239】
実施例4
複合体によるP-gpの迂回
本発明の複合体がP-gp基質であるか否かを決定するために、MDCK細胞にヒトMDR1(MDCK-MDR1)を安定にトランスフェクトして、非複合抗癌薬または本発明の複合体と共にインキュベートした。第一の実験において、MDCK-MDR1細胞を、P-gp競合的阻害剤である10μMシクロスポリンA(CsA)の存在下または非存在下で3H-ビンブラスチン(3H-VBL)、ローダミン、3H-タキソール、125I-タキソール-Angiopep-1(125I-TxlAn1)、125I-タキソール-Angiopep-2(125I-TxlAn2)と共に37℃で1時間インキュベートした(図9A)。インキュベーション後、細胞を洗浄して、細胞内での放射活性の蓄積または細胞内蛍光を定量した。これらの薬物の蓄積の増加を、CsAの非存在下で測定したそのそれぞれの対照と比較してx倍として表記する。このように、各薬物の対照値を1倍に設定した。
【0240】
もう一つの実験において、P-gpを過剰発現する細胞において複合体が蓄積する能力をモニターした(図9B)。MDCK-MDR1細胞を3H-タキソール、125I-タキソール-Angiopep-1(125I-TxlAn1)、または125I-タキソール-Angiopep-2(125I-TxlAn2)のいずれかの50 nMと共に37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄して、細胞に蓄積した放射活性を定量した。結果をpmol/120分での薬物蓄積として表記した。
【0241】
図9Aににおいて示されるように、[3H]-タキソールの蓄積はP-gp競合的阻害剤シクロスポリンA(CsA)の存在下で15倍増加した。ローダミンおよび[3H]-ビンブラスチンの蓄積も同様にCsAの存在下でそれぞれ、7.5倍および10倍増加した。これらの結果は、タキソール、ローダミン、およびビンブラスチンがP-gp基質であることを示している。しかし、[125I]-タキソール-Angiopep-1および[125I]-タキソール-Angiopep-2複合体の双方の蓄積に及ぼすCsA効果がないことは、それらがP-gp基質ではないことを示している。CsAの非存在下での双方の複合体の蓄積は、[3H]-タキソールより少なくとも11倍高かった(図9B)。これらの後者の結果は、P-gpが細胞からこれらを排出できないことから、双方の複合体がP-gpの作用を迂回することを強く確認している。これらの結果はさらに、抗癌薬と複合した担体の存在が薬物の効力を増加することを証明している。したがって、本明細書において記述される担体は、細胞内部での薬物の輸送および/または蓄積にとって有用であり、P-gpによって通常排出される薬物(すなわちP-gp基質である薬物)にとって特に有用である。
【0242】
実施例5
複合体の分布および薬物動態
薬物の分布に及ぼす薬物と担体との複合の影響を、3H-タキソール(5 mg/kg)、または125I-タキソール-Angiopep-1(TxlAn-1)(10 mg/kg、タキソール5 mg/kgと同等)のいずれかをマウスに投与することによって評価した。非複合抗癌薬および複合体をボーラスとしてマウスに静脈内(i.v.)注射した。組織を異なる時間に採取して(0.25、0.5、1および4時間)ホモジナイズした。3H-タキソールの量を定量するために、組織ホモジネートを組織可溶化剤(可溶性)によって消化して、液体シンチレーター10 mlを試料に加えた。TCA沈殿後に、異なる組織における125I-標識複合体の量を測定した。したがって、組織に関連する放射活性が定量された。曲線下面積(AUC0-4)をプリズムソフトウェアを用いて推定して、異なる組織に関してプロットした(図10)。図10Aの結果は、複合体に関して得られたAUC0-4値が、非複合薬と比較してこれらの組織における複合体の高い蓄積を示す、脳、腎臓、肝臓、および眼を含む様々な組織におけるタキソールの値より高いことを示している。より詳しくは、図10Bにおいて表された結果は肺における複合体の蓄積が非複合薬よりかなり高いことを示している。
【0243】
タキソール-Angiopep-2複合体に関して行った類似の実験の結果を、以下の表4に要約する。TxlAn-1複合体に関して得られた結果と差が認められるが、表4の複合体も同様に、非複合タキソールより効率的に肺、脳、および肝臓に蓄積する。
【0244】
(表4)

5 mg/kgタキソールと同等の処置
【0245】
肺におけるタキソールおよびタキソール-Angiopep-1の蓄積の動態も同様に図11に表す。結果は、異なる時間で肺において測定した複合体の量が非複合薬よりかなり高いことを明らかに示している。その上、本発明者らは、肺における複合体の蓄積が、様々な時間での血清(血漿)中のその濃度よりかなり高いことを観察した(図12)。図10、11、および12において表される結果は、本発明の担体(たとえば、Angiopep-1または2)と抗癌薬(たとえば、タキソール)との複合が、抗癌薬の生体分布およびその薬物動態を改変することを強く示している。
【0246】
実施例6
インビボでの腫瘍成長の阻害(U-87)
次に、複合体の腫瘍成長阻害能をインビボモデルにおいて評価した(図13)。したがって、U-87細胞をマウスの右脇腹の皮下に埋め込んで、移植後3日目にマウスに溶媒(DMSO/リンゲル:80/20;対照)、タキソール(5 mg/kg)、またはタキソール-Angiopep-2(10 mg/kg;タキソール5 mg/kgと同等(タキソール:Angiopep-2は3:1))を注射した。本発明者らは、腫瘍の成長阻害が、非複合抗癌薬を処置したマウスより複合体を処置したマウスにおいて顕著であることを観察した。
【0247】
実際に移植後17日目に、腫瘍の成長は、複合体によって75%より大きく阻害されたが、非複合薬を用いた場合では34%阻害されたに過ぎなかった(表5)。これらの結果は、本明細書に記述される複合体がインビボでの腫瘍成長の阻害に関して非複合タキソールより効率的であることを示している。全体的に、非複合薬と比較して複合体に関して2.2倍の腫瘍の成長阻害レベルが測定された。
【0248】
(表5)複合体による腫瘍成長の阻害

5 mg/kgタキソールと同等の処置
* 移植後3日目に対応(最初の処置)
** 移植後17日目に対応(4回処置後)
【0249】
実施例7
複合体の作用機序
図14において、肺癌細胞(NCI-H460)を遊離のタキソール(30 nM)またはTxAn2複合体(10 nM;30 nMタキソールと同等)のいずれかと共に24時間インキュベートした。FITCに連結した二次抗体を用いて細胞をβ-チューブリンに関して標識した。可視モードおよび蛍光モードで写真を撮影した。これらの結果は、タキソールおよびタキソール-Angiopep複合体が、その重合化に至るβ-チューブリンに対して類似の効果を有することを示している。その上、図15において示されるように、タキソールおよびタキソール-Angiopep複合体の付加は、G2/M期におけるNCI-H460細胞の遮断を誘発する。β-チューブリンの重合化および細胞周期に関して得られた結果は、TxlAn複合体が、癌細胞に対してタキソールと類似の作用メカニズムを有することを示唆している。
【0250】
実施例8
LRP媒介RAP蓄積に及ぼす効果
受容体関連タンパク質(RAP)が、血液脳関門のインビトロモデルにおいてアプロチニンのトランスサイトーシスを阻害することは、国際特許出願番号PCT/CA2004/00011において既に示されている。これらのデータに従って、本発明者らは、低密度リポタンパク質関連受容体(LRP)が、脳へのアプロチニンの浸透に関係すると提唱した。インビトロ血液脳関門モデルにおいてAngiopep輸送の類似の阻害が同様に得られ(データは示していない)、脳の内皮細胞を通してのAngiopepのトランスサイトーシスも同様にLRPに関係していることを示唆している。LRPは、二つのサブユニット、すなわちサブユニット-α(515 kDa)およびサブユニット-β(85 kDa)で構成される600 kDaのヘテロ二量体膜受容体である。LRPの免疫検出を行って、この受容体が、神経膠芽腫のようなヒト原発脳腫瘍、ならびに乳癌、肺癌、および黒色腫癌からのヒト脳転移において発現されているか否かを査定した(図16)。簡単に説明すると、ヒト原発性脳腫瘍(神経膠芽腫)またはヒト脳転移からのタンパク質ホモジネートの等量をゲル電気泳動によって分離した。電気泳動後、タンパク質をPVDFメンブレンに転写して、Cedarlane Laboratories(Hornby, ON, Canada)から得られたサブユニット-αに対するモノクローナル抗体を用いて、LRPを免疫検出した。LRPは、西洋ワサビペルオキシダーゼおよび化学発光試薬に連結したマウスIgGに対する二次抗体によって可視化した。
【0251】
用いた実験条件において、LRPのサブユニットαは、神経膠芽腫U-87細胞において515 kDaで免疫検出された。LRPはまた、全てのヒト原発性脳腫瘍およびヒト脳転移において検出された(図16)。対照的に、メガリン(LRP2)は、肺の脳転移に限って検出された(示していない)。異なる患者の生検におけるLRPの発現は、本発明者らが先に、ヒト脳におけるタキソール-アプロチニン複合体のより高い蓄積を観察した理由を部分的に説明する可能性がある。全体として、LRPは本明細書に記述される担体の輸送に関係する可能性があることから、これらの結果は、複合体が同様にこの受容体を発現する細胞および腫瘍を標的とする可能性があることを示している。
【0252】
アプロチニンおよびAngiopepトランスサイトーシスがLRPを含みうるか否かを決定するために、LRPの内因性のリガンドである受容体関連タンパク質(RAP)の取り込みに及ぼすその影響を決定した(図17A)。RAPの取り込みを、LRPを発現する線維芽細胞(MEF-1)およびLRPを発現しない線維芽細胞(PEA-13)において測定した(図17Aおよび17B)。アプロチニンを加えると、LRP陽性細胞における[125I]-RAPの輸送を用量依存的に阻害した。対照的に、LRP陰性細胞におけるRAP取り込みはこれらのアプロチニン濃度によってほとんど影響を受けなかった。図17Bにおいて、MEF-1およびPEA-13において測定された[125I]-RAPの取り込みの差を計算して、アプロチニン濃度の関数としてプロットした。これらの結果は、RAPのLRP依存的取り込みの一部が、アプロチニンによって低減することを示し、このことは、アプロチニンがこの受容体と相互作用しうることを示している。異なる実験において(図18)、[125I]-RAPの取り込みを同様に過剰量のアプロチニンおよびAngiopepの存在下で測定した。結果は、アプロチニンおよびAngiopepがいずれも[125I]-RAPのLRP依存的蓄積に影響を及ぼすことを示している。
【0253】
要約すると、本明細書において記述される複合体に関して得られたデータは、担体に対する抗癌薬の複合によって、抗癌薬はP-gpの作用を免れることができ、したがって(担体と複合させた場合に)その効力を増加させることができることを示している。その上、インビボ腫瘍成長に関して得られた結果は、担体に対する抗癌薬の複合が、P-gpを迂回して、おそらく受容体LRPをターゲティングすることによって、または非複合薬の薬物動態もしくはバイオディスポニビリティ(biodisponibility)を改変することによってその効率を増加させる可能性があることを示している。
【0254】
併せて考慮すると、本明細書に記述されるデータは、乳房、肺、および皮膚癌を含む原発腫瘍と共に、原発腫瘍を起源とする転移に対して複合体を用いてもよいことを示している。
【0255】
実施例9
改善されたタキソール-Angiopep複合体製剤
異なるTxlAn複合体の溶解度を査定するために行われた予備的なアッセイにより、タキソールの疎水性の高い性質により全ての複合体が水溶液(リンゲル/Hepes溶液)において低い溶解度を有することが示された。しかし、複合体は全て、ジメチルスルホキシド(DMSO)/リンゲル(80%/20%)において非常に溶解性が高かった。このようにその溶解度を増加させるため、および溶解のために必要なDMSOを低減させるために異なる戦略を査定した。興味深いことに、本発明者らは、可溶化剤Solutol(登録商標)HS15(BASF)を用いることによって製剤からDMSOを完全に除去することができた。たとえば、TxlAn2(3:1)は、5 mg/mlで、20%Solutol(登録商標)HS15およびpH 5.5のリンゲル/Hepes溶液において効率よく溶解した。この薬剤は、静脈内(i.v.)および腹腔内(i.p.)投与に関していくつかの薬物応用のために承認されていることから、その使用は本発明の製剤に対する商業的長所を提供する。
【0256】
このように、本発明の製剤は、たとえばa)タキソール-Angiopep複合体、b)Solutol(登録商標)HS15、およびc)水溶液または緩衝液(たとえば、pH 5〜7のリンゲル/Hepes溶液)を含んでもよい。製剤におけるSolutol(登録商標)HS15の濃度は、たとえば30%に達してもよい。30%より高い濃度も同様に有用となる可能性がある。複合体の濃度は患者を有効に処置するために必要な用量に基づいて決定してもよい。
【0257】
実施例10
改善された製剤の血中動態
組織分布および血中動態研究に関して、ヨウ素化[125I]-複合体(すなわち、[125I]-TxAn複合体)および[3H]-タキソールを用いた、。簡単に説明すると、TxlAn2複合体(1 mg)をヨードビーズおよびTxl-[125I]-An2を用いて放射性ヨウ素処理した。次に、複合体をリソースRPC樹脂を含むカラムを用いて精製した。カラムを20%アセトニトリルによって十分に洗浄することによって、遊離のヨウ素を除去した。カラム洗浄の際に、放射活性を計数して遊離のヨウ素の減少を査定した。次に、Txl-[125I]-An2複合体を100%アセトニトリル洗浄によって低下させた。次にアセトニトリルを蒸発させて、ヨウ素化複合体を100%DMSO(100μl)において希釈した。放射ヨウ素処理した複合体のアリコートをHPLCに注入して、分画を回収し、放射活性が複合体に対応する分画に関連することを確認した。
【0258】
覚醒マウスについて行った静脈内((i.v.)尾静脈)または腹腔内(i.p.)および皮下(s.c.)注射後に、血中動態を査定した(図19)。簡単に説明すると、TxlAn2(3:1)複合体をDMSO/リンゲル-Hepes(80/20)またはSolutol(登録商標)/リンゲル-Hepes(20/80)、Txl-[125I]-An2において希釈した。CD-1マウスに製剤を注射して、濃度10 mg/kgを得た。注射後、血液分画(50μl)を尾末端から採取して、放射活性を直接査定した。同じプロトコールを用いて、[3H]-タキソールを用いてタキソールの血中動態を決定した。タキソールをDMSO/リンゲル-Hepes(80/20)において5 mg/kg注射となる濃度に溶解して、[3H]-タキソールを加えた(2.5μCi/注射)。注射後、血液分画を尾から採取して、シンチレーションカクテルを加えて、放射活性をPackardカウンターにおいて計数した。この実験の結果を図19A、図19B、および図19Cにおいて図示し、以下の表6において要約する。
【0259】
要約すると、図19および表6の結果は、TxlAn2生物学的利用率がタキソールの生物学的利用率よりかなり高いことを示している。たとえば、AUC(0〜24時間)TxlAn2/AUC(0〜24時間)タキソールは169(すなわち、203.3/1.2)である。
【0260】
タキソールに関して、AUC(0〜24時間)TxlAn2/AUC(0〜24時間)タキソールは84.7(すなわち101.65/1.2)である。Angiopep-2の各分子においてタキソール分子3個が存在することから、タキソールの量はAngiopepの分子量の約0.5を表す(すなわち、3×854/5301)。したがって、タキソールに関して表記するためには、複合体のAUC(すなわち203)に0.5を乗じなければならない。
【0261】
加えて、TxlAn2複合体の血中バイオディスポニビリティは、静脈内および腹腔内注射後で同等であるが、これはタキソールに関しては当てはまらない。最後に、図19および表6の結果は、DMSOと比較してSolutol(登録商標)を可溶化剤として用いる場合には、TxlAn2の血中バイオディスポニビリティが高いことを示している。
【0262】
(表6)

0〜24時間までの面積下曲線をGraphPadソフトウェアを用いて計算した。
【0263】
実施例11
組織分布
Solutol(登録商標)/リンゲル-Hepes(20%/80%)、またはDMSO/リンゲル-Hepes (80/20)に溶解した10 mg/kg TxlAn2の尾静脈からの静脈内注射後のTxlAn2組織分布を、正常CD-1マウスにおいて評価した。簡単に説明すると、CD-1マウスに、Solutol(登録商標)またはDMSOに溶解して、同様にTxl-[125I]-An2を含むTxlAn2製剤を尾静脈から注射した。既定の時点で、血液試料を採取して、麻酔したマウスに冷PBSを灌流した。組織を切除して、γカウンターにおいて放射活性を計数した。
【0264】
図20の結果は、Solutol(登録商標)を用いることによってほとんどの組織においてTxlAn2(3:1)複合体のより高い分布が可能となることを示している。
【0265】
実施例12
脳腫瘍における分布
脳腫瘍モデルにおいてTxlAn2(3:1)複合体の分布を評価する試みにおいて、ヌードマウスの脳内にNCI-H460肺癌細胞を移植した。移植の10日後、マウスの体重減少は有意であり、脳腫瘍が十分に確立されたことを示した。既に記述されているように、タキソール、TxlAn2(3:1)およびTxlAn2(2:1)組織分布を評価した(図21)。
【0266】
このように、マウスに、DMSOに溶解したタキソール(5 mg/kg)、またはそれぞれSolutol(登録商標)に溶解したTxlAn1(3:1)(10 mg/kg)もしくはTxlAn2(2:1)(12.5 mg/kg)のいずれかを静脈内注射した。10分後、冷PBSを用いて氷中でマウスを灌流して、臓器を採取して放射活性を測定した。正常脳と脳腫瘍の蓄積の差を評価するために、脳を半分に切断して、右半球(腫瘍細胞注射部位)が腫瘍状の脳に対応し、左半球が正常脳に対応した。
【0267】
図21Aおよび図21Bの結果は、TxlAn2(3:1)複合体が正常脳と比較して腫瘍脳においてより高い分布を表す(2倍の増加)のに対し、タキソール分布は正常な脳と腫瘍状の脳のあいだで差を認めないことを示している。TxlAn2(3:1)複合体の分布は、脳腫瘍におけるタキソール分布よりかなり高く(10倍増加)、同様にTxlAn2(2:1)分布より高かった(4〜5倍)。
【0268】
実施例13
タキソール-Angiopep複合体改善製剤の皮下腫瘍成長に及ぼす効果
タキソール-Angiopep複合体を含む改善された製剤が、肺癌細胞(NCI-H460)の成長または神経膠芽細胞(U87)の成長を阻害しうるか否かを決定するために、これらの癌細胞を皮下移植したマウスインビボモデルにおいてインビボ試験を行った。
【0269】
簡単に説明すると、マウスにヒトU87神経膠芽腫細胞またはNCI-H460細胞2.5×106個を皮下注射した。腫瘍の成長を観察した後、マウスに、遊離のタキソール、タキソール-Angiopep複合体または媒体の静脈内または腹腔内注射による処置を行った。次に、動物を屠殺するまで処置を週に2回行った。マウスを臨床症状および体重減少に関して毎日モニターした。腫瘍容積は、キャリパーおよび以下の等式によって推定した(腫瘍容積=π/2×(長さ(mm)×幅2(mm)))。
【0270】
第一の皮下腫瘍成長試験において、NCI-H460細胞をマウスの右脇腹に埋め込んだ(図22A)。マウスに媒体、タキソール、またはタキソール-Angiopep-2(3:1)複合体製剤を尾静脈からの静脈内注射によって、または腹腔内注射によって投与した。複合体を10 mg/kgタキソールの同等量で投与した。図22において表される結果は、リンゲル/Hepes溶液(pH 5.5)において20%Solutol(登録商標)HS15を含むTxlAn2(3:1)複合体の改善された製剤がタキソールよりかなり強いNCI-H460腫瘍成長の阻害を引き起こしたことを示している。これらの結果をまた、以下の表7において要約する。
【0271】
(表7)

【0272】
これらの結果は、TxlAn複合体がインビボの状況において腫瘍成長の阻害に関してタキソールより強力であることを示している。さらに、複合体が静脈内または腹腔内投与された場合にも類似の結果が得られた。最後に、タキソール分子2または3個を含むTxlAn複合体についても類似の結果が得られた。
【0273】
実施例14
皮下移植腫瘍成長に及ぼすタキソール-Angiopep複合体改善製剤の効果
さらなる試験において、皮下移植したNCI-H460またはU87成長に及ぼすTxlAn2(3:1)複合体製剤の効果を評価した。マウスを改善製剤20 mg/kg/日の腹腔内注射によって5日間連続して、またはAlzetミニ浸透圧ポンプの埋め込みによって2 mg/kg/日の用量を14日間注入することによって処置した。図23Aおよび図23Bにおいて示されるように、TxlAn2(3:1)複合体製剤に対するマウスの反応は、改善製剤の注入によってマウスを処置した場合ではより高かった。
【0274】
これらのインビボ実験は、神経膠芽腫または肺癌細胞の腫瘍成長に対する改善製剤の有効性を明らかに示している。類似の実験も同様に、動物の生存の延長におけるこれらの改善製剤の有効性を示している(データは示していない)。
【0275】
本出願において言及したそれぞれの刊行物、特許、および特許出願の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0276】
本発明は、本明細書において詳細に記述し、添付の図面において図解しているが、本発明は、本明細書に記述される態様に限定されず、様々な変更および改変を行ってもよく、それらも本発明の範囲または趣旨に含まれると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体と、標識もしくは細胞の成長を低減させることができる小分子薬とを含む複合体;ならびに
b. 薬学的に許容される担体
を含む、細胞の成長を低減させる、または細胞を検出するための薬学的組成物。
【請求項2】
可溶化剤をさらに含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
可溶化剤が、脂肪酸のポリオキシエチレンエステルである、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
脂肪酸のポリオキシエチレンエステルがSolutol(登録商標)HS-15である、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
細胞が腫瘍細胞である、請求項1〜4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
a. アプロチニン、生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体と、小分子薬または標識とを含む複合体;
b. 薬学的に許容される担体;ならびに
c. 可溶化剤
を含む、薬学的組成物。
【請求項7】
可溶化剤が、脂肪酸のポリオキシエチレンエステルである、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項8】
脂肪酸のポリオキシエチレンエステルがSolutol(登録商標)HS-15である、請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項9】
標識、タンパク質、ペプチド、および小分子薬からなる群より選択される分子の細胞内蓄積を促進するための、長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体、または請求項1〜8のいずれか一項記載の薬学的組成物の使用。
【請求項10】
細胞が、P-gpを発現する細胞である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
細胞が脳の細胞、肺の細胞、乳房の細胞、腎臓の細胞、眼の細胞、および肝臓の細胞である、請求項9または10記載の使用。
【請求項12】
細胞が腫瘍細胞である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
細胞が個体の脳の外部に存在する、請求項10〜12のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
細胞が個体の脳の内部に存在する、請求項10〜12のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
腫瘍細胞が脳腫瘍細胞である、請求項13または14記載の使用。
【請求項16】
脳腫瘍細胞が神経膠芽腫を起源とする、請求項15記載の使用。
【請求項17】
腫瘍細胞が肺腫瘍細胞である、請求項13または14記載の使用。
【請求項18】
細胞の成長を低減させるための、長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体、または請求項1〜8のいずれか一項記載の薬学的組成物の使用。
【請求項19】
担体が、細胞の成長を低減させることができる薬物と複合される、請求項18記載の使用。
【請求項20】
細胞が腫瘍細胞または内皮細胞である、請求項19記載の使用。
【請求項21】
腫瘍細胞が、P-gpを発現する細胞である、請求項20記載の使用。
【請求項22】
腫瘍細胞が脳腫瘍細胞、肺腫瘍細胞、乳房腫瘍細胞、腎臓腫瘍細胞、または眼腫瘍細胞である、請求項20または21記載の使用。
【請求項23】
細胞が個体の脳の外部に存在する、請求項22記載の使用。
【請求項24】
細胞が個体の脳の内部に存在する、請求項22記載の使用。
【請求項25】
脳腫瘍細胞が神経膠芽腫である、または神経膠芽腫を起源とする、請求項23または24記載の使用。
【請求項26】
薬物が抗癌薬である、請求項19〜25のいずれか一項記載の使用。
【請求項27】
抗癌薬が、タキソール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、タキソテール(Taxotere)、メルファラン、クロラムブシル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項26記載の使用。
【請求項28】
化合物の薬物動態を改変するための、長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体の使用、または請求項1〜8のいずれか一項記載の薬学的組成物の使用、または該担体と、標識、タンパク質、ペプチド、および小分子薬からなる群より選択される化合物とを含む複合体の使用。
【請求項29】
小分子薬が抗癌薬である、請求項28記載の使用。
【請求項30】
抗癌薬が、タキソール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、タキソテール、メルファラン、クロラムブシル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項29記載の使用。
【請求項31】
抗癌薬が、担体と複合されて、それによって複合体を形成する、請求項29または30記載の使用。
【請求項32】
複合体が、各担体分子に対して少なくとも一つの抗癌薬分子を含む、請求項31記載の使用。
【請求項33】
複合体が、各担体分子に対して少なくとも二つの抗癌薬分子を含む、請求項31記載の使用。
【請求項34】
複合体が、各担体分子に対して少なくとも三つの抗癌薬分子を含む、請求項31記載の使用。
【請求項35】
担体が、個体の腎臓、肝臓、眼、および肺からなる群より選択される組織における化合物の蓄積を促進する、請求項28〜34のいずれか一項記載の使用。
【請求項36】
担体が、個体の脳における化合物の蓄積を促進する、請求項28〜35のいずれか一項記載の使用。
【請求項37】
脳が腫瘍状の脳である、請求項36記載の使用。
【請求項38】
脳が肺癌細胞を含む、請求項36記載の使用。
【請求項39】
担体が、癌細胞における薬物の蓄積を促進する、請求項29〜34のいずれか一項記載の使用。
【請求項40】
担体が、化合物の生物学的利用率を改変する、請求項28〜34のいずれか一項記載の使用。
【請求項41】
担体が、化合物の組織分布を改変する、請求項28〜34のいずれか一項記載の使用。
【請求項42】
担体が、抗癌薬の抗腫瘍成長効果を増加させる、請求項29〜34のいずれか一項記載の使用。
【請求項43】
小分子薬が、細胞の成長を低減させることができる薬物である、請求項28記載の使用。
【請求項44】
細胞が腫瘍細胞である、請求項43記載の使用。
【請求項45】
腫瘍細胞がP-gpを発現する、請求項44記載の使用。
【請求項46】
腫瘍細胞が多剤耐性細胞である、請求項44記載の使用。
【請求項47】
細胞が内皮細胞である、請求項43記載の使用。
【請求項48】
腫瘍細胞が脳腫瘍細胞、肺腫瘍細胞、乳房腫瘍細胞、腎臓腫瘍細胞、または眼腫瘍細胞である、請求項44〜46のいずれか一項記載の使用。
【請求項49】
細胞が個体の脳の外部に存在する、請求項44〜46のいずれか一項記載の使用。
【請求項50】
細胞が個体の脳の内部に存在する、請求項44〜46のいずれか一項記載の使用。
【請求項51】
脳腫瘍細胞が神経膠芽細胞からの頭蓋外転移である、請求項49記載の使用。
【請求項52】
小分子薬もしくは標識の薬物動態を改変するため、または小分子薬の抗腫瘍成長効果を増加させるための薬学的組成物もしくは医用薬剤の作製における、a)長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、およびこれらの生物学的に活性な類似体、誘導体、または断片からなる群より選択される担体と、b)少なくとも一つの小分子薬または標識とを含む複合体の使用。
【請求項53】
小分子薬もしくは標識の薬物動態を改変するため、または小分子薬の抗腫瘍成長効果を増加させるための薬学的組成物もしくは医用薬剤の作製における、長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体の使用。
【請求項54】
長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体に化合物を複合させて、それによって複合体を形成する段階、ならびにその必要のある個体に複合体を投与する段階を含む、標識、タンパク質、ペプチド、および小分子薬からなる群より選択される化合物の薬物動態を改変する方法。
【請求項55】
各担体分子に対して、化合物が1分子複合される、請求項54記載の方法。
【請求項56】
各担体分子に対して、化合物が少なくとも2分子複合される、請求項54記載の方法。
【請求項57】
各担体分子に対して、化合物が少なくとも3分子複合される、請求項54記載の方法。
【請求項58】
化合物が小分子薬である、請求項54〜57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
小分子薬が抗癌薬である、請求項58記載の方法。
【請求項60】
化合物が標識である、請求項54〜57のいずれか一項記載の方法。
【請求項61】
必要のある個体が、腫瘍を有する個体である、請求項54〜60のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
腫瘍が脳腫瘍である、請求項61記載の方法。
【請求項63】
腫瘍が頭蓋外脳腫瘍である、請求項61記載の方法。
【請求項64】
腫瘍が、P-gpを発現する腫瘍細胞を含む、請求項61記載の方法。
【請求項65】
脳腫瘍が原発性脳腫瘍である、請求項62記載の方法。
【請求項66】
脳腫瘍が、脳組織以外の異なる組織起源の腫瘍である、請求項62記載の方法。
【請求項67】
脳腫瘍が、肺腫瘍、乳房腫瘍、結腸直腸腫瘍、泌尿器官の腫瘍、または黒色腫を起源とする、請求項66記載の方法。
【請求項68】
細胞内での化合物の蓄積を促進する、請求項54〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項69】
担体が、化合物の生物学的利用率を改変する、請求項54〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
担体が、化合物の組織分布を改変する、請求項54〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項71】
抗癌薬の抗腫瘍成長効果を増加させる、請求項59〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
小分子薬が、細胞の成長を低減させることができる薬物である、請求項58記載の方法。
【請求項73】
細胞が腫瘍細胞である、請求項72記載の方法。
【請求項74】
細胞が内皮細胞である、請求項72記載の方法。
【請求項75】
腫瘍細胞が個体の脳の内部に存在する、請求項73記載の方法。
【請求項76】
腫瘍細胞が、肺癌、乳癌、結腸直腸腫瘍、泌尿器官の腫瘍、または黒色腫を起源とする、請求項75記載の方法。
【請求項77】
腫瘍細胞が個体の脳の外部に存在する、請求項73記載の方法。
【請求項78】
a)長さがアミノ酸50個未満の生物学的に活性なアプロチニン断片、Angiopep-1、Angiopep-2、これらの生物学的に活性な類似体、誘導体、および断片からなる群より選択される担体と、b)抗癌薬または標識とを含む複合体を、頭蓋外腫瘍、原発性脳腫瘍、または転移起源の脳腫瘍を有する個体に投与する段階を含む、癌または転移癌を処置または診断する方法。
【請求項79】
個体が頭蓋外腫瘍を有する、請求項78記載の方法。
【請求項80】
頭蓋外腫瘍が肺腫瘍である、請求項79記載の方法。
【請求項81】
頭蓋外腫瘍が脳腫瘍からの頭蓋外転移である、請求項78記載の方法。
【請求項82】
頭蓋外腫瘍が脳腫瘍からの転移である、請求項79記載の方法。
【請求項83】
脳腫瘍からの転移が神経膠芽腫である、請求項82記載の方法。
【請求項84】
個体が転移起源の脳腫瘍を有する、請求項78記載の方法。
【請求項85】
転移起源の脳腫瘍が肺腫瘍に由来する、請求項84記載の方法。
【請求項86】
転移起源の脳腫瘍が乳房腫瘍に由来する、請求項84記載の方法。
【請求項87】
転移起源の脳腫瘍が黒色腫に由来する、請求項84記載の方法。
【請求項88】
転移起源の脳腫瘍が結腸直腸腫瘍に由来する、請求項84記載の方法。
【請求項89】
転移起源の脳腫瘍が泌尿器官の腫瘍に由来する、請求項84記載の方法。
【請求項90】
腫瘍が、P-gpを発現する腫瘍細胞を含む、請求項78〜89のいずれか一項記載の方法。
【請求項91】
腫瘍が、LRPを発現する腫瘍細胞を含む、請求項78〜89のいずれか一項記載の方法。
【請求項92】
腫瘍細胞がLRPをさらに発現する、請求項90記載の方法。
【請求項93】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項9記載の使用。
【請求項94】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項18記載の使用。
【請求項95】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項28記載の使用。
【請求項96】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項52記載の使用。
【請求項97】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項53記載の使用。
【請求項98】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項54記載の使用。
【請求項99】
担体が、配列番号:1において定義されるアミノ酸配列を含むアプロチニン断片、配列番号:1の生物学的に活性な類似体、配列番号:1の生物学的に活性な断片、および配列番号:1類似体の生物学的に活性な断片からなる群より選択される、請求項78記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【公開番号】特開2013−47249(P2013−47249A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230853(P2012−230853)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2008−520685(P2008−520685)の分割
【原出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(508006517)アンジオケム インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】