説明

薬液中の放射能濃度の測定および調節技術

【課題】放射性薬剤の製造中に放射能濃度の測定および調節を自動で行う
【解決手段】本発明の具現化形態の一例となる方法は、初期状態の薬液ボトルに収容されている薬液の一部を抽出すると共に、該抽出した薬液の放射能量を測定する一次放射能測定と;前記一次放射能測定の終了後、前記抽出した薬液を前記薬液ボトルへ戻すと共に、前記薬液ボトル内の薬液を所定量の希釈液で希釈する段階と;前記薬液ボトルから前記希釈された薬液の一部を抽出すると共に、該抽出した薬液の放射能量を測定する二次放射能測定と;前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の放射能量をX,前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の量をY,前記一次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をa,前記注入された希釈液の量をb,前記二次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をcとしたとき、前記X,Yを、X=a*b*c/(a−c),Y=b*c/(a−c)によって得る段階とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液中の放射能濃度を測定および調節する技術に関する。特に、PET製剤やSPECT製剤の製造過程における、放射性薬液の放射能濃度を調節する場合に好適に適用しうる。
【発明の背景】
【0002】
PET(ポジトロン断層撮影法)やSPECT(単一光子放射断層撮影法)は、体内にトレーサー(放射性薬剤)を注入し、体内から放射されるガンマ線を検出することにより、生体の断層画像を得る技術である。外科的手段によらずに体内の様子を画像化することができるために、医療や研究の分野で広く利用されている。
【0003】
これらの技術に利用されるトレーサーは、放射性物質であるため、その取り扱いには被曝を最小限にする工夫が求められる。
【0004】
PETやSPECT用の放射性薬剤は、まず放射能濃度(すなわち単位体積あたりの放射能量)の比較的高い原液を作り、それに希釈液を注入して所定の放射能濃度に薄めることによって、製造されている。この濃度調整の工程においては、まず、希釈前の原液の放射能量および液量を求める必要がある。しかし、現在では、原液の放射能濃度および液量を測定する段階が、人の手で行わざるをえない状態である。すなわち、原液が入った瓶を一旦合成システムから外して電子天秤等を用いて質量を計り、さらにその瓶を放射能測定器に収容して放射能量を計っているのであるが、原液が入った瓶を秤量する操作や、その瓶を放射能測定器に入れる操作は、人の手で行わざるを得ない状況である。一見不思議であるが、製造においては瓶に多くの輸液ラインが接続されており、それらが接続されたまま、瓶の重さを計ることは困難であるため、結局、瓶から輸液ラインを外して計量する操作を人の手で行わねばならないことになっているのである。当然、作業者は、少なからぬ被曝を避けることはできない。
【0005】
また、製造工程中に人の手が介在することは、製造速度を向上する上でボトルネックともなっていた。PETやSPECTに用いられる放射性核種は、半減期が短いため、できるだけ早く製剤に加工し、出荷することが求められる。例えば、PET用の代表的なトレーサーの1つである18Fの半減期は、僅か110分である。従って、放射性トレーサーの製造者にとって、製造工程のスピードアップは大変重要な課題である。さらに、信頼性や再現性の面でも、PET製剤はできるだけ自動で行うことが望ましいとされている(非特許文献1、11頁a.第1段落)。
【非特許文献1】"PET Drugs - Current Good Manufacturing Practice (CGMP)" U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), December 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの事情に鑑み、本願発明者は、放射能濃度の測定および調節を自動で行うことを可能とし、被曝量の低減と製造工程の速度向上を実現しうる、新たな技術を提供することを目的とし、本発明を為すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の具現化形態の一例となる方法は、
初期状態の薬液ボトルに収容されている薬液の一部を抽出すると共に、該抽出した薬液の放射能量を測定する一次放射能測定と;
前記一次放射能測定の終了後、前記抽出した薬液を前記薬液ボトルへ戻すと共に、前記薬液ボトル内の薬液を所定量の希釈液で希釈する段階と;
前記薬液ボトルから前記希釈された薬液の一部を抽出すると共に、該抽出した薬液の放射能量を測定する二次放射能測定と;
前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の放射能量をX,前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の体積をY,前記一次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をa,前記注入された希釈液の体積をb,前記二次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をcとしたとき、前記X,Yを、式:
X=a*b*c/(a−c),Y=b*c/(a−c)・・・(1)
によって得る段階と、
を有する。
【0008】
この方法は、初期状態において薬液ボトルに収容されていた薬液の放射能量Xおよび薬液の体積Yを、注入した希釈液の体積bと、希釈液注入の前後で求めた放射能濃度a,cによって、計算することを特徴の一つとする。従って、量X,Yを得るために、薬液ボトルの質量を計量器まで運んで測定したり、薬液ボトルを放射能測定器まで運んで測定したりという作業は不要となる。希釈液の注入量bは制御することができるため、その量を知るのに人の手を借りる必要はない。また、放射能濃度も、既知の量の薬液に対して放射能量を測定すれば求めることができるため、やはり人の手を借りずに知ることが可能である。つまり、本発明によれば、初期状態において薬液ボトルに収容されていた薬液の量Yおよび放射能量Xを、自動プロセスで測定することが実現され、従って、製造に従事する作業者の被曝量を低減することが可能となり、また、製造にかかる時間を短縮することが可能となる。さらに、作業工程を自動プロセスで行うことにより、信頼性や再現性も向上しうる。
【0009】
なお、本発明の具現化形態は、上記の段階の全てを自動化しなければならないというものではなく、そのいくつか又は全てを手動で行うものも含む。重要なことは、上記の量XおよびYを、式(1)によって計算することである。
【0010】
式(1)によって量XおよびYが得られる理由は次の通りである。
【0011】
前記一次放射能測定で求められる放射能濃度aは、X/Yに等しい。従って、
X=a*Y・・・(2)
と表される。また、前記二次放射能測定で求められる放射能濃度cは、X/(Y+b)であるので、
X=c*(Y+b)=c*Y+c*b・・・(3)
ここで式(3)を式(2)に代入してYに関して解くと、
Y=b*c/(a−c)・・・(4)
式(4)を式(2)に代入すると、
X=a*b*c/(a−c)・・・(5)
が得られる。
【0012】
このように、初期状態における放射能濃度a、途中で注入する希釈液の体積b、希釈後の放射能濃度cの3つの値が分かれば、薬液ボトルを製造システムから外した上で計量器や放射能測定器にかけなくとも、当該薬液ボトル中の薬液量や放射能量を求めることが可能となる。これらの値によって薬液ボトル中の薬液量や放射能量を求めうるというのは、本願発明者による重要な発見である。
【0013】
初期状態における薬液ボトル中の薬液の体積Yおよび放射能量Xが分かれば、薬液ボトル中の薬液を所望の放射能濃度に調節することも容易となる。例えば、放射能濃度の目標値をg、当該目標値を達成するために追加注入する希釈液の体積をdとすると、g=X/(Y+b+d)と表される。これをdについて解くと、
d=(X/g)−(Y+b)・・・(6)
となる。かかる体積の希釈液を注入し、薬液ボトル中の薬液を所望の放射能濃度に調節することも、本発明の具現化形態の一例である。
【0014】
体積dの希釈液を薬液ボトルに注入したあと、前記薬液ボトルから更に所定量の薬液を抽出して放射能濃度を求める三次放射能測定を行ってもよい。そして、もし放射能濃度が目標値まで下がっていなければ、さらに希釈液を追加する。追加する希釈液の体積をeと表すと、g=X/(Y+b+d+e)であるから、
e=(X/g)−(Y+b+d)・・・(7)
となる。例えばこのような量の希釈液を注入し、薬液ボトル中の薬液を所望の放射能濃度に調節することも、本発明の具現化形態の一例である。
【0015】
前述のように、本発明は、PETやSPECT用の放射性薬剤の製造中に、放射能濃度の測定および調節を自動で行うことを目的としてなされた発明である。しかし、本明細書の説明や図面、各請求項に規定される好適な実施形態の構成からも明らかであるように、本発明は、この目的に沿った利用に限定されることなく、濃度の測定や調節を必要とするあらゆる分野において、制限なく利用可能な技術である。また、前述のように、本発明の具現化形態には、上記の段階の全てを自動化しなければならないというものではなく、そのいくつか又は全てを手動で行うものも含む。重要なことは、上記の量XおよびYを、式(1)によって計算することである。
本発明の具現化形態には、上記の方法を実施するための様々な方法、装置、システム、プログラム、および当該プログラムを格納する記憶媒体などが含まれる。以下、そのいくつかの例を、添付図面を参照しつつ紹介する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の一例である放射性薬剤製造システム100の構成を説明するための図である。
【図2】放射性薬剤製造システム100の動作を説明するための図である。
【図3】放射性薬剤製造システム100の更なる具体化形態の一例である放射性薬剤製造システム300の構成を説明するための図である。
【図4】放射性薬剤製造システム100の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態の一例である放射性薬剤製造システム100の構成を説明するための図である。薬剤製造システム100は、放射性薬剤の原液と希釈液を混合するための薬液ボトル102と、前記薬液ボトルに希釈液を供給する希釈液供給モジュール104と、薬液ボトル102に入っている薬液の一部を吸い上げて薬液溜め106内に溜めたり、薬液溜め106に溜められている薬液を薬液ボトル102へと戻したりするための圧力を発生する薬液吸入・吐出モジュール108と、前記薬液溜め106に溜められている薬液の放射能量を測定する放射能測定装置110とを備える。放射性薬剤製造システム100は更に、希釈液供給モジュール104や薬液吸入・吐出モジュール108、放射能測定装置110の動作を制御する制御モジュール112も備える。
【0018】
よく知られているように、PETやSPECTの測定で用いられる放射性核種から得られる放射線は、ガンマ線である。従って薬液ボトル102をはじめとする各要素は、ガンマ線により劣化し難い物質で製作される必要がある。PETの場合、核種から実際に放出される放射線は陽電子であるが、放出された陽電子は近くの電子と直ちに対消滅を起こし、2つの光子となって系外へ飛び去る。現在のPET検査で最も良く使われている標識化合物は、18F−FDG(フルデオキシグルコース)であり、これはグルコースの2位の水酸基を陽電子放出核種であるフッ素18で置換した誘導体である。SPECTには、目的によって様々な核種が用いられるが、いずれもガンマ線を放出する核種が用いられる。このように、PET用薬剤にしてもSPECT用薬剤にしても、最終的にはガンマ線が放出されるので、それに強い材質で、薬剤製造システム100を構成することが望ましい。例えば薬液ボトル102は、例えばガラス瓶であることができる。
【0019】
薬液ボトル102に注がれる原液は、PETやSPECTの測定で用いられる放射性核種標識化合物が高濃度に含まれる液体である。原液は、原液供給部114から薬液ボトル102に供給される。原液供給部114は、制御モジュール112の制御によって原液を供給するように構成されてもよく、制御モジュール112は、原液供給部114による原液の供給を制御しうるように構成されてもよい。
【0020】
薬液ボトル内102で原液を希釈するのに用いられる物質は、製造された薬剤が血管へ注入されるものであることから、生体認容性が高い液である必要がある。このような液として、例えば生理食塩水が好適に用いられる。希釈液供給モジュール104は、制御モジュール112の制御によって、制御された量の生理食塩水を薬液ボトルへ供給可能なように構成されてもよい。制御モジュール112は、希釈液供給モジュール104を制御することにより、意図した量の生理食塩水を薬液ボトルへ供給可能なように構成されてもよい。
【0021】
薬液溜め106は、一定量の液体を収容可能な空間を内部に有する。薬液溜め106は、輸液ラインによって薬液ボトルに接続される容器として製作されることができる。輸液ラインが薬液溜め106の下流へとさらに延びている場合には、内部に所定量の薬液を収容可能なメスメスアダプター等を輸液ライン上に設けることによって、薬液溜め106を形成してもよい。
【0022】
薬液吸入・吐出モジュール108は、負圧を発生させることにより、薬液ボトル102から薬液溜め106へと薬液を吸い上げ、また正圧を発生させることにより、薬液溜め106に溜められている薬液を薬液ボトル102へと戻す装置である。従って、薬液吸入・吐出モジュール108は、例えばポンプであることができる。また、薬液吸入・吐出モジュール108の好適な実施形態が後に詳細に説明されるので、参照されたい。
【0023】
放射能測定装置110は、薬液溜め106に収容されている薬液の放射能量を測定する測定器である。前述のように、PETやSPECT用の核種から得られる放射線はガンマ線であるので、放射能測定装置110はガンマ線検出器でなければならない。ガンマ線検出器には、イオンチャンバーやシンチレーション・カウンターなど幾つかの種類があるので、ガンマ線のエネルギーや設置の容易さなどを勘案し、適当なものを使えばよい。放射能測定装置110が薬液溜め106に収容されている薬液の放射能量のみを測定できるように、薬液溜めと放射能測定装置110の周りを放射線シールド116で覆うことが好ましい。
【0024】
放射能測定装置110は、制御モジュール112によって制御されることにより、放射能測定を開始・停止したり、測定データを制御モジュール112へ送ったりするように構成されることができる。制御モジュール112は、放射能測定装置110の測定開始や停止、各種データの送受信を制御するように構成されることができる。
【0025】
制御モジュール112はCPU118とメモリ120とを備えるコンピュータ装置である。メモリ120には、制御モジュール112に関してこれまで説明してきた機能をCPU118に実行させるようにプログラムされた、コンピュータ・プログラム122が格納されている。今後も、特に説明がなくとも、制御モジュール112の機能は、CPU118がプログラム122の指示に従って実行するものと理解していただきたい。ただし、実施形態によっては、制御モジュール112の機能の一部をハードウェア回路で実現したり、プログラマブル回路で実現する場合もある。メモリ120としては、各種のRAMやフラッシュメモリ、ハードディスクなど、既存の記憶手段を用いることができる。CPU118についても、既に市販されているCPUを用いることができる。しかし、CPU118やメモリ120が放射線によって誤作動や故障を生じないように、これらは放射線から遮蔽された場所に設置されることが好ましい。プログラム122は、CD−ROMなどの記憶媒体に格納されて、単体で製造販売されることもあり、かかる記憶媒体も本発明の実施例に含まれる。
【0026】
続いて図2を用いて、放射性薬剤製造システム100の動作を説明する。ステップ200は動作の開始を表す。この時点で、薬液ボトル102には、原液供給部114から供給された放射性薬剤の原液が貯められている。前述のように、この原液には、放射性核種標識化合物が高濃度に含まれている。放射性薬剤製造システム100の動作の最終目的は、この原液の放射能濃度を、規格に合致した濃度に調節することである。
【0027】
ステップ202において、制御モジュール112は、薬液吸入・吐出モジュール108に信号を送り、モジュール108に負圧を発生させることにより、薬液ボトル102から薬液を吸い出す。吸い出された薬液は、薬液溜め106の内部空間に充填されていく。続いて制御モジュール112は、ステップ204において、放射能測定装置110に信号を送り、薬液溜め106に溜められた薬液の放射能量を測定する(一次測定)。前述のように、薬液溜め106と放射能測定装置110とは放射線シールド116に囲まれているので、放射能測定装置110が測定する放射線は、実質的に薬液溜め106から放射される放射線である。測定されたデータは放射能測定装置110から制御モジュール112へと送られる。
【0028】
ステップ206において、制御モジュール112は、薬液吸入・吐出モジュール108に信号を送り、モジュール108に正圧を発生させることにより、薬液溜め106に溜められていた薬液を薬液ボトル102へと排出する。続いて制御モジュール112は、ステップ208において、希釈液供給モジュール104に信号を送信し、薬液ボトル102に所定量の希釈液を注入させる。このとき、モジュール108から高圧の空気を薬液ボトル102へ送り込んだり、薬液ボトル102内で攪拌用の羽根を回転させるなど、何らかの手段によって薬液ボトル102内を攪拌し、希釈液が薬液内に均等に行き渡るようにすることが好ましい。
【0029】
ステップ210において、制御モジュール112は、再び薬液吸入・吐出モジュール108に信号を送り、モジュール108に負圧を発生させることにより、薬液ボトル102から薬液溜め106に薬液を吸入する。続いて制御モジュール112は、ステップ212において、放射能測定装置110に信号を送り、薬液溜め106に溜められた薬液の放射能量を測定する(二次測定)。一次測定の時と同様に、測定されたデータは放射能測定装置110から制御モジュール112へ送られる。ステップ214においては、ステップ206と同様の制御によって、薬液溜め106内の薬液が薬液ボトル102へと排出される。
【0030】
ステップ216において、制御モジュール112は、諸情報の計算を行う。まず、一次測定において測定した薬液の放射能濃度を求める。一次測定における放射能濃度aは、薬液溜め106内の薬液の体積をp,測定された放射能量をqとすると、a=q/pである。pは、例えば、薬液溜め106の容積を予め調べておくことによって、知ることができる。薬液吸入・吐出モジュール108モジュール108qは、放射能測定装置110による測定データである。同様にして、二次測定における放射能濃度cは、薬液の体積をp,測定された放射能量をq'とすると、c=q'/pから求められる。
【0031】
実施形態によっては、放射能濃度a,cを、それぞれステップ204,212において求めるように、処理フローを組んでもよい。
【0032】
続いて制御モジュール112は、上で求めた放射能濃度a,cと、ステップ208で注入した希釈液の体積bとから、ステップ200の時点で薬液ボトル102に溜められていた薬液の放射能量Xおよび薬液の体積Yを、式(4)および式(5)によって求める。なお、希釈液供給モジュール104は、制御モジュール112に指示された量の希釈液を薬液ボトル102へと供給しうるように構成されるため、量bは既知とすることができる。
【0033】
さらに制御モジュール112は、ステップ216において、薬液ボトル102内の薬液を目標放射能濃度gに調節するために、追加供給しなければならない希釈液の量dを計算する。前述のように、この量dは、式(6)から求めることができる。
【0034】
ステップ218において、制御モジュール112は、ステップ216で計算した量dの希釈液を薬液ボトル102に供給するよう、希釈液供給モジュール104に信号を送信する。前述のように、希釈液の供給後は薬液ボトル102内の液体を攪拌することが好ましい。続いてステップ220において、制御モジュール112は、再び薬液吸入・吐出モジュール108に信号を送り、薬液ボトル102内の薬液の一部を薬液溜め106に吸入すると共に、ステップ222において、放射能測定装置110に信号を送り、薬液溜め106に溜められた薬液の放射能量を測定する(三次測定)。これまでの測定と同様に、測定されたデータは放射能測定装置110から制御モジュール112へ送られる。ステップ224においては、ステップ206,214と同様にして、薬液溜め106に溜められた薬液が薬液ボトル102へ戻される。
【0035】
ステップ226において、制御モジュール112は、三次測定の結果から、薬液の放射能濃度を計算する。薬液溜め106内の薬液の量をp,三次測定で測定された放射能量をq",とすると、放射能濃度c"=q"/pである。ここで、許容誤差の範囲内でc"=gであれば、放射能濃度の調節は完了となる(ステップ230)。しかし、何らかの事情でc"がgとは等しいと言えず、c">gである場合、動作はステップ228に進み、制御モジュール112は、目標濃度gを達成するために必要な希釈液の量eを計算し、ステップ218に戻って、希釈および測定をやり直す。このとき必要な希釈液の量eは、前述のように、式(7)から計算できる。
【0036】
実施形態によっては、放射能濃度c"をステップ222において求めるように、処理フローを組んでもよい。
【0037】
なお、ステップ226において、c"<gの場合、すなわち放射能濃度が目標値以下に下がっていることが判明した場合は、薬液ボトル102に原液を追加しなければならない。追加する原液の体積をfとすると、原液の放射能濃度はステップ216においてaと判明しているため、
g=(X+af)/(Y+b+d+f)
と表される。これをfについて解くと、
f=(X−g(Y+b+d))/(g−a)・・・(8)
となる。制御モジュール112は、量fの原液を薬液ボトル102へ供給するよう、原液供給部114に命令を出すように構成されてもよい。原液供給部114は、制御モジュール112の命令に応じて、指示された量の原液を薬液ボトル102へ供給しうるように構成されてもよい。
【0038】
このように、放射性薬剤製造システム100によれば、制御モジュール112による自動制御プロセスによって、初期状態における原液の体積と放射能量を得ることができ、また、原液を所望の放射能濃度に希釈調節することが可能となる。これらのプロセスにおいて、作業員が薬液ボトルに直接触れたり運んだりする必要がなくなるので、作業員の被曝を防止するという、大変有益な効果を呈する。さらに、自動制御プロセスとして実装できるということは、放射能濃度の調節速度の向上が期待できるということである。前述のように、PETやSPECTに用いられる放射性核種は、半減期が短いため、できるだけ早く製剤に加工し、出荷することが求められる。放射性薬剤製造システム100によれば、製造時間が短縮しうるため、従来よりも余裕をもって加工し、また従来よりも遠くに製剤を届けることが可能となる。
【0039】
作業員が薬液ボトルを直接取り扱わなくてよいという、放射性薬剤製造システム100の特徴は、被曝の低減という利点の他にも、薬液ボトルの破損や、移動中に薬液ボトルから薬液がこぼれたりするという危険を排除するという、更なる利点を提供する。前述のように、従来の方法では、初期状態の薬液量や放射能量を測定するために、薬液ボトルを手で運搬して測定器へかけていたため、誤ってボトルを落下させたり、薬液をこぼしたりという可能性が否定できない状況にあった。万一薬液ボトルを落として破損してしまえば、放射性物質が飛び散り、ボトルの破片が散乱し、その後の製造の続行が困難となる可能性があった。PETやSPECT用の放射性薬剤は貯蔵できないため、製造ができなくなると、病院や研究施設等における検査にも大きな支障が出ることとなる。放射性薬剤製造システム100によれば、自動プロセスにて薬液ボトルを移動させずに放射能濃度の調節が可能となるため、ボトルの移動に起因した破損等のリスクを避けることができる。
【0040】
続いて、放射性薬剤製造システム100の更なる具体化形態の一例を図3を用いて説明する。
【0041】
図3に描かれる放射性薬剤製造システム300は、前述の放射性薬剤製造システム100の更なる具体化の一例である。薬剤製造システム300は、図1の薬液ボトル102に対応する薬液ボトル302,希釈液供給モジュール104に対応する希釈液供給モジュール320,薬液溜め106に対応する薬液溜め306,放射能測定装置110に対応するガンマ線検出器310,原液供給部114に対応する原液供給部314,薬液吸入・吐出モジュール108に対応する薬液吸入・吐出モジュール340,制御モジュール112に対応する制御モジュール370を備える。薬液ボトル302,薬液溜め306,ガンマ線検出器310,原液供給部314,希釈液供給モジュール320,薬液吸入・吐出モジュール340,制御モジュール370は、それぞれ、薬剤製造システム100の薬液ボトル102,薬液溜め106,放射能測定装置110,原液供給部114,希釈液供給モジュール104,薬液吸入・吐出モジュール108,制御モジュール112と、同様の機能を有する。
【0042】
薬液ボトル302は、薬液ボトル102と同様に、ガンマ線に強い材質で作成されることが好ましく、例えばガラスで作成されることができる。原液供給部314は、例えばPET用のトレーサーに用いられる18F−FDG(フルデオキシグルコース)を高濃度に含有する放射性薬剤の原液を、薬液ボトル302に供給しうるように構成される。薬液溜め306は、薬液ボトル302と薬液吸入・吐出モジュール340との間の輸液ライン342の途中に設けられ、例えば内部容量が既知のメスメスアダプターにより構成される。ガンマ線検出器310は、薬液溜め306に収容されている薬液から放出されるガンマ線を効率的に検出すべく、図示されるように薬液溜め306の周囲に配される。ガンマ線検出器310と制御モジュール370との間には、制御モジュール370からの命令をガンマ線検出器310に伝えたり、ガンマ線検出器310からのデータを制御モジュール370へ運んだりするための、信号ライン372が設けられている。薬剤製造システム100の場合と同様に、薬剤製造システム300においても、薬液溜め306とガンマ線検出器310とは、ガンマ線シールド316によって外部からガンマ線が入り込まないようにされる。
【0043】
希釈液供給モジュール320は、生理食塩水(希釈液)を薬液ボトル302へ注入するためのシリンジS02を有する。シリンジS02は、薬液ボトル302へ通じる流路324と、生理食塩水タンク322へ通じる流路326とに、流路切替弁C10を介して選択的に接続しうるように構成される。シリンジS02が流路326に接続されるように流路切替弁C10を切り替え、シリンジS02のプランジャ332をシリンジS02のバレル(外筒)330から引き出すと、バレル330及び流路326に負圧が生じ、生理食塩水タンク322内の生理食塩水がバレル330内へ吸い上げられる。その後、シリンジS02が流路324に接続されるように流路切替弁C10を切り替え、プランジャ332をバレル330内に押し込むことで、バレル330内の生理食塩水を、薬液ボトル302へと通じる流路324へ流し込むことができる。プランジャ332の移動は、モータ駆動によるプランジャ駆動部334によって行われる。プランジャ駆動部334のモータの動作は制御モジュール370によって制御される。
【0044】
流路324には更に、流路切替弁C09およびフィルタ328を介して圧空供給器338が接続されている。圧空供給器338が流路324に接続されるように流路切替弁C09を切り替え、圧縮空気を流路324へ注入することにより、流路324に残った生理食塩水を薬液ボトル302へと押し出すことができる。実施形態によっては、圧空供給器338を、希釈液供給モジュール320の一部と考えてもよい。圧空供給器338はまた、流路324を介して圧縮空気を薬液ボトル302へ注入することにより、薬液ボトル302内の液体を攪拌することに使用することができる。
【0045】
制御モジュール370と希釈液供給モジュール320との間には、制御モジュール370からの制御信号を希釈液供給モジュール320へ運ぶための信号ライン374が設けられている。希釈液供給モジュール320は、信号ライン374から伝えられる制御信号を、流路切替弁C09,C10を切り替える切替器や、プランジャ駆動部334のモータなどへ伝えるように構成されている。また、図示されていないが、制御モジュール370と圧空供給器338との間も制御信号ラインで接続されており、制御モジュール370は当該制御信号ラインを介して命令を送信することにより、圧空供給器338による圧空の供給を制御しうるように構成される。これらの機能により、制御モジュール370は、所望の量の生理食塩水を薬液ボトル302へ供給しうるように構成されている。なお、流路切替弁の切り替えやシリンジのプランジャの出し入れを遠隔操作する構成の例が、本出願人による過去の特許出願公開公報、特開2009−185880号公報に記載されているので、必要に応じて参照されたい。
【0046】
薬液吸入・吐出モジュール340は、流路切替弁C01を介して輸液ライン342に接続されるシリンジS01を備える。なお、図示されるように、輸液ライン342は薬液ボトル302へと達しており、途中に薬液溜め306を有している。シリンジS01のプランジャ346は、モータ制御によるプランジャ駆動部348によって、シリンジS01のバレル(外筒)344から引き出されたり押し込まれたりされうるように構成される。プランジャ駆動部348のモータの動作は、制御モジュール370からの制御信号によって制御されうる。プランジャ駆動部348がプランジャ346をバレル344から引き出すと、輸液ライン342に負圧が発生し、薬液ボトル302から薬液が吸引されて薬液溜め306を満たす。一方、プランジャ駆動部348がプランジャ346をバレル344内へと押し込むと、輸液ライン342に正圧が生じ、薬液溜め306を満たしていた薬液が薬液ボトル302へと押し戻される。従って、シリンジS01とプランジャ駆動部348は、薬液を吸引する薬液吸引装置および薬液を排出する薬液排出装置として動作する。
【0047】
流路切替弁C01には、シリンジS01と選択的に、圧空供給器352が接続されてもよい。流路切替弁C01と圧空供給器352との間には、輸液ライン350,342へ送り込む圧縮空気を浄化するための、フィルタ354を設けてもよい。流路切替弁C01を、圧空供給器352が輸液ライン342に接続されるように切り替え、圧空供給器352から圧縮空気を輸液ライン342に注入することにより、輸液ライン342や薬液溜め306内に存在する薬液を、薬液ボトル302へと押し出すことができる。従って、圧空供給器352は、単独で、またはプランジャ駆動部348と共に、薬液溜め306内の薬液を薬液ボトル302へ排出する薬液排出装置として動作しうる。
【0048】
また、圧空供給器352は、輸液ライン342を介して圧縮空気を薬液ボトル302へ注入することにより、薬液ボトル302内の液体を攪拌することができる。
【0049】
圧空供給器352は、圧空供給器338と同一の装置であってもよい。
【0050】
制御モジュール370と薬液吸入・吐出モジュール340との間には、制御モジュール370からの制御信号を薬液吸入・吐出モジュール340へ運ぶための信号ライン376が設けられている。薬液吸入・吐出モジュール340は、信号ライン376から伝えられる制御信号を、流路切替弁C01を切り替える切替器や、プランジャ駆動部348のモータなどへ伝えるように構成されている。また、図示されていないが、制御モジュール370と圧空供給器352との間も制御信号ラインで接続されており、制御モジュール370は当該制御信号ラインを介して命令を送信することにより、圧空供給器352による圧空の供給を制御しうるように構成される。これらの機能により、制御モジュール370は、薬液ボトル302から薬液溜め306へ薬液を吸入し、また薬液溜め306から薬液ボトル302へと薬液を排出しうるように構成されている。また制御モジュール370は、圧空供給器352を制御して圧縮空気を薬液ボトル302に注入することにより、薬液ボトル302内の液体を攪拌することができるように構成されている。
【0051】
図3の薬液吸入・吐出モジュール340には、流路切替弁C01やシリンジS01の他にも、流路切替弁C02〜C08など、幾つかの要素が描かれている。これは、放射性薬剤の製造過程において、必要に応じて流路を切り換えるためなどに用いられる要素である。このように、薬液吸入・吐出モジュール340には、流路切替弁C01やシリンジS01の他にも、様々な要素が備えられていてもよい。流路切替弁C02〜C08は、例えば前掲の特開2009−185880号公報の技術を用いて、制御モジュール370によって遠隔操作で流路切り替えを行いうるように構成されることが好ましい。
【0052】
制御モジュール370は、薬剤製造システム100の制御モジュール112と同様に、CPU380とメモリ382とを備えるコンピュータ装置である。メモリ382には、制御モジュール370に関してこれまで説明してきた機能をCPU380に実行させるようにプログラムされた、コンピュータ・プログラム384が格納されている。本明細書を通じて、特に説明がなくとも、制御モジュール370の機能は、CPU380が、プログラム384の指示に従って実行するものと理解されたい。
【0053】
続いて図4を用いて、放射性薬剤製造システム300の動作を説明する。ステップ400は動作の開始を表す。この時点で、薬液ボトル302には、原液供給部314から供給された放射性薬剤の原液が貯められている。この原液には、放射性核種標識化合物が高濃度に含まれている。放射性薬剤製造システム300の動作の最終目的は、この原液の放射能濃度を、実際のPET・SPECT測定に用いることのできる濃度に調節することである。
【0054】
ステップ402は、放射能量を測定すべく、薬液ボトル302内の薬液の一部を薬液溜め306内に抽出する段階である。この目的のため、制御モジュール370は、プランジャ駆動部348に信号を送り、シリンジS01のプランジャ346をバレル344から出る方向へ移動させる。これによって輸液ライン342に負圧が発生し、薬液ボトル302内の薬液が吸引され、薬液溜め306へと移動させられる。なお、プランジャ駆動部348に信号を送る前に、制御モジュール370は、輸液ライン342にシリンジS01が接続されるように、流路切替弁C01〜C06の流路方向を制御してもよい。
【0055】
ステップ404では、薬液溜め306内の薬液の放射能量を測定する。制御モジュール370は、ガンマ線検出器310に信号を送り、薬液溜め306に溜められた薬液の放射能量を測定させる(一次測定)。前述のように、薬液溜め306と放射能測定器310とは放射線シールド316に囲まれているので、放射能測定器310が測定する放射線は、薬液溜め306から放出される放射線とみなす事ができる。測定されたデータは放射能測定器310から制御モジュール370へと送られる。
【0056】
ステップ406は、薬液溜め306内に吸入された薬液を薬液ボトル302へと戻す段階である。制御モジュール370は、プランジャ駆動部348に信号を送り、シリンジS01のプランジャ346をバレル344に入る方向へ移動させる。これによって輸液ライン342に正圧が発生し、薬液溜め306内の薬液が薬液ボトル302へと押し戻される。実施形態によっては、プランジャ346をバレル344に押し戻した後、制御モジュール370は、流路切替弁C01を切り替えて圧空供給器352を輸液ライン342に接続し、圧空供給器352から圧縮空気を輸液ライン342内に送出するように制御することにより、輸液ライン342や薬液溜め306に残った薬液を薬液ボトル302へ排出するように構成されてもよい。また、実施形態によっては、圧縮空気の送出とプランジャ346の移動の順番を逆にしてもよい。実施形態によっては、薬液溜め306内の薬液の排出を、プランジャ346の移動によるのではなく、圧空供給器352による圧縮空気の送出のみで行うようにしてもよい。
【0057】
ステップ408は、薬液ボトル302内の薬液を生理食塩水を初めとする希釈液で希釈する段階である。まず制御モジュール370は、シリンジS02が流路326を介して生理食塩水タンク322に接続されるように、流路切替弁C10を設定する。続いて制御モジュール370は、プランジャ駆動部334に信号を送り、シリンジS02のプランジャ332をバレル330から出る方向に、前記信号により制御される距離だけ移動させる。すると、バレル330及び流路326に負圧が生じ、生理食塩水タンク322から、前記負圧に応じた量の生理食塩水がバレル330内へと吸い上げられる。続いて制御モジュール370は、シリンジS02が、流路324を介して薬液ボトル302に接続されるように、流路切替弁C10およびC09を設定する。そして制御モジュール370は、プランジャ駆動部334に信号を送り、プランジャ332をバレル330に入る方向に移動させる。これによって、バレル330内の生理食塩水は、流路324を通じて薬液ボトル302へと押し出される。制御モジュール370はさらに、圧空供給器338が流路324に接続されるように流路切替弁C09を設定すると共に、圧空供給器338に信号を送って圧縮空気を流路324へと送出せしめる。これによって、流路324に残った生理食塩水を薬液ボトル302へと押し出すことができる。プランジャ332の移動量と薬液ボトル302へ供給される生理食塩水との関係は、予め調べておく必要があり、制御モジュール370は、その関係に基づいて、薬液ボトル302へ追加する生理食塩水の量を正確に制御することができるように構成される。
【0058】
ステップ409は、薬液タンク内で原液と希釈液がよく混合するように、薬液タンク内の液体を攪拌する段階である。この目的のため、制御モジュール370は、圧空供給器338または/および圧空供給器352を制御して、圧縮空気を薬液ボトル302へ吹きつける。これによって、薬液タンク内の液体が攪拌される。このとき、流路切替弁C01〜C06やC09,C10を、圧縮空気の通路が開かれるように、必要に応じて設定する必要がある場合がある。
【0059】
ステップ410,412,414は、希釈された薬液について、改めて放射能量の測定(二次測定)を行う段階である。これらのステップにおける動作は、それぞれステップ402,404,406と同一であるので、説明を省略する。
【0060】
ステップ416は、ステップ404の一次測定とステップ412の二次測定の結果から、初期状態すなわちステップ400の時点における薬液ボトル302内の薬液の放射能量や体積を計算により求めることと、薬液ボトル302内の薬液を所望の放射能濃度に希釈するために更に追加すべき希釈液の量を計算することとを行う段階である。この段階における計算処理は、図2のステップ216などに例示された処理と同一であるので、説明を省略する。なお、希釈液注入の前後における放射能濃度を、それぞれステップ404,412において計算するように処理フローを組んでもよいことも、図2の処理と同様である。
【0061】
ステップ418は、ステップ416で追加すべき量として計算した量の希釈液を薬液ボトル302内に追加供給する段階である。希釈液を追加するための動作は、ステップ408と同一であるので、説明を省略する。ステップ419は、追加した希釈液を薬液ボトル内の液体とよく混合すべく攪拌する段階であるが、その動作はステップ409と同一であるので、説明を省略する。
【0062】
ステップ420,422,424は、ステップ418,419で希釈された薬液について、改めて放射能量の測定(三次測定)を行う段階である。三次測定は、ステップ418,419の希釈によって、薬液ボトル302内の薬液が、本当に所望の放射能濃度に調節されたかどうかを確認するデータを採取するために行うものである。ステップ420,422,424における動作自体は、それぞれステップ402,404,406と同一であるので、説明を省略する。
【0063】
ステップ426は、三次測定のデータから、薬液の放射能濃度が所望の値に調節されたかどうかを判定する段階である。薬液の放射能濃度が所望の値であると判定されれば、放射能濃度の調節は完了となる(ステップ430)。しかし、所望の値はないと判定されれば、薬液を目標放射能濃度に調節するために必要な値を再び計算し(ステップ428)、ステップ418からやり直す。ステップ426,428の動作は、図2のステップ226,228と同一であるので、これ以上の説明を省略する。
【0064】
以上、放射性薬剤製造システム100や300の構成や動作を説明することを通じて、本発明を実施するための様々な側面を説明してきたが、これらの説明は本発明の範囲を限定することを目的として提供されたものではなく、本発明のより深い理解に資するために提供されたものであり、特許を受けるための法的要件を満たすために提供されたものである。請求項には本発明の好適な実施形態がいくつか定義されているが、これらの実施形態も、本発明の思想を逸脱することなく、様々な具体的構成として具現化されうることはいうまでもない。そして、それらの具体的実施形態は、請求項に係る発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
100 放射性薬剤製造システム
102 薬液ボトル
104 希釈液供給モジュール
106 薬液溜め
108 薬液吸入・吐出モジュール
110 放射能測定装置
112 制御モジュール
114 原液供給部
116 放射線シールド
118 CPU
120 メモリ
122 プログラム
300 放射性薬剤製造システム
302 薬液ボトル
306 薬液溜め
310 ガンマ線検出器
314 原液供給部
316 ガンマ線シールド
320 希釈液供給モジュール
322 生理食塩水タンク
324,326 流路
328 フィルタ
330 バレル
332 プランジャ
334 プランジャ駆動部
338 圧空供給器
340 薬液吸入・吐出モジュール
342 輸液ライン
344 バレル
346 プランジャ
348 プランジャ駆動部
352 圧空供給器
354 フィルタ
370 制御モジュール
372,374,376 信号ライン
382 メモリ
384 プログラム
C01−C10 流路切替弁
S01,S02 シリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期状態の薬液ボトルに収容されている薬液の一部を抽出すると共に、該抽出した薬液の放射能量を測定する一次放射能測定と;
前記一次放射能測定の終了後、前記抽出した薬液を前記薬液ボトルへ戻すと共に、前記薬液ボトル内の薬液を所定量の希釈液で希釈する段階と;
前記薬液ボトルから前記希釈された薬液の一部を抽出すると共に、該抽出した薬液の放射能量を測定する二次放射能測定と;
前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の放射能量をX,前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の体積をY,前記一次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をa,前記注入された希釈液の体積をb,前記二次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をcとしたとき、前記X,Yを、式:
X=a*b*c/(a−c),Y=b*c/(a−c)
によって得る段階と、
を有する、放射性薬剤濃度の調整方法。
【請求項2】
前記薬液ボトル中の薬液の放射能濃度が目標値になるように調整するため、前記薬液ボトルに希釈液を追加注入する段階を更に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記希釈液を追加注入する段階の後に、前記薬液ボトルから更に所定量の薬液を抽出して放射能濃度を求める三次放射能測定を有し、
前記三次放射能測定において得られた放射能濃度が前記目標値に合致していなければ、前記希釈液または前記薬液の原液を前記薬液ボトルへ更に注入する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
薬液を収容しうる薬液ボトルと、
前記薬液ボトルから薬液を吸引する薬液吸引装置と、
前記薬液吸引装置に吸引された薬液を溜める薬液溜めと、
前記薬液溜め内の薬液を前記薬液ボトルへと排出する薬液排出装置と、
前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定する放射能測定装置と、
前記薬液ボトルへ希釈液を供給しうる希釈液供給装置と、
を備えるシステムのために、前記薬液吸引装置、前記薬液排出装置、前記放射能測定装置、前記希釈液供給装置の動作を制御する制御装置の動作方法であって、
初期状態の前記薬液ボトルから所定量の薬液が吸引されて前記薬液溜めに保持されるように、前記薬液吸引器を動作させると共に、前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定するように前記放射能測定装置を動作させることを含む、一次放射能測定を実行することと;
前記一次放射能測定の後に、前記薬液溜め内の薬液を前記薬液ボトルへと排出するべく、前記薬液排出装置を動作させると共に、前記薬液ボトルに所定量の希釈液を注入するように前記希釈液供給装置を動作させることと;
前記希釈液が注入された楽液ボトルから、前記所定量の薬液が吸引されて前記薬液溜めに保持されるように、前記薬液吸引器を動作させると共に、前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定するように前記放射能測定装置を動作させることを含む、二次放射能測定を実行することと;
前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の放射能量をX,前記初期状態において前記薬液ボトルに収容されていた薬液の体積をY,前記一次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をa,前記注入された希釈液の体積をb,前記二次放射能測定の結果から求められる放射能濃度をcとしたとき、前記X,Yを、式
X=a*b*c/(a−c), Y=b*c/(a−c)
によって計算することと;
を有する、方法。
【請求項5】
前記薬液ボトル中の薬液の放射能濃度が目標値になるように調整するため、前記薬液ボトルに希釈液を追加注入するように前記希釈液供給装置を動作させることを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記希釈液を前記追加注入した後に、前記所定量の薬液が吸引されて前記薬液溜めに保持されるように、前記薬液吸引器を再び動作させると共に、前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定するように前記放射能測定装置を動作させ、前記測定した放射能量と前記薬液溜め内の薬液量とから放射能濃度を求めることを含む、三次放射能測定を実行することと;
前記三次放射能測定において測定された放射能濃度が前記目標値に合致していなければ、前記希釈液を前記薬液ボトルに更に注入するように前記希釈液供給装置を動作させるか、前記薬液ボトルに放射能濃度が高い薬液を注入するように、前記システムの薬液注入装置を動作させることと;
を更に有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記薬液溜めは、前記薬液吸引装置および前記薬液排出装置と前記薬液ボトルとの間の輸液ライン上に設けられ、
前記放射能測定装置は前記薬液溜めの周囲に設置され、
前記薬液溜めと前記放射能測定装置とは、前記薬液溜め以外からの放射線を遮蔽するシールドに囲まれるように設置される、
請求項4から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記薬液排出装置は圧空供給器を有し、該圧空供給器は、
前記薬液溜めに圧縮空気を送出することにより、前記薬液溜め内の薬液を前記薬液ボトルへと押し出し、及び/または、
前記薬液溜めを介して前記薬液ボトルへ圧縮空気を送出することにより、前記薬液ボトル内の液体を攪拌しうるように構成される、
請求項4から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記薬液吸引装置と前記圧空供給器とは、流路切替器によって前記薬液溜めに対して選択的に接続されるように構成され、
前記制御装置が、処理段階に応じて前記薬液吸引装置または前記圧空供給器が前記薬液溜めに接続されるように前記流路切替器を制御することを更に有する、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記薬液吸引装置と前記薬液排出装置とを単一の吸排装置で構成する、請求項4から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
薬液を収容しうる薬液ボトルと、
前記薬液ボトルから薬液を吸引する薬液吸引装置と、
前記薬液吸引装置に吸引された薬液を溜めておく薬液溜めと、
前記薬液溜め内の薬液を前記薬液ボトルへと排出する薬液排出装置と、
前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定する放射能測定装置と、
前記薬液ボトルへ希釈液を供給しうる希釈液供給装置と、
を備えるシステムのために、前記薬液吸引装置、前記薬液排出装置、前記放射能測定装置、前記希釈液供給装置の動作を制御する制御装置において、前記制御装置の処理手段で実行されることにより、該制御装置が請求項4から10のいずれか1項に記載の方法を実行しうるように動作させる、プログラム。
【請求項12】
薬液を収容しうる薬液ボトルと、
前記薬液ボトルから薬液を吸引する薬液吸引装置と、
前記薬液吸引装置に吸引された薬液を溜めておく薬液溜めと、
前記薬液溜め内の薬液を前記薬液ボトルへと排出する薬液排出装置と、
前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定する放射能測定装置と、
前記薬液ボトルへ希釈液を供給しうる希釈液供給装置と、
を備えるシステムのために、前記薬液吸引装置、前記薬液排出装置、前記放射能測定装置、前記希釈液供給装置の動作を制御する制御装置であって、請求項4から10のいずれか1項に記載の方法を実行しうるように構成される、制御装置。
【請求項13】
薬液を収容しうる薬液ボトルと、
前記薬液ボトルから薬液を吸引する薬液吸引装置と、
前記薬液吸引装置に吸引された薬液を溜めておく薬液溜めと、
前記薬液溜め内の薬液を前記薬液ボトルへと排出する薬液排出装置と、
前記薬液溜め内の薬液の放射能量を測定する放射能測定装置と、
前記薬液ボトルへ希釈液を供給しうる希釈液供給装置と、
前記薬液吸引装置、前記薬液排出装置、前記放射能測定装置、前記希釈液供給装置の動作を制御する制御装置であって、請求項4から10のいずれか1項に記載の方法を実行しうるように構成される制御装置と、
を備える、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−141147(P2012−141147A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292038(P2010−292038)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】