説明

薬液充填封入シリンジ製剤及びその製造方法

【課題】内壁に気泡が付着することを抑制することができる薬液充填封入シリンジ製剤の提供。
【解決手段】出力50〜400Wのコロナ放電処理により、流体滴に50〜80°の接触角を生じさせる内部表面が形成された環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒に、注射液が充填封入されていることを特徴とする薬液充填封入シリンジ製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を予め注射筒に充填封入したシリンジ製剤(所謂「プレフィルドシリンジ製剤」)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液充填封入シリンジ製剤用のシリンジ外筒としては、その取り扱いの簡便さから、一般に合成樹脂製のシリンジ外筒が汎用されている。
しかしながら、斯かる従来の合成樹脂製シリンジ外筒には、その内壁に気泡が付着し易い、と云う問題があった。この薬液充填封入シリンジ製剤内の気泡は、薬液投与の際に血管内に混入してしまうと、空気塞栓等の重大な事故を引き起こす危険がある。このため、従来の薬液充填封入シリンジ製剤にて薬液投与を行なう際には、医師等が、予め、注射筒を指で弾くことにより、内壁に付着した気泡を1箇所に集めた上で投与開始するなど、気泡が血管内に混入しないように充分に注意する必要があった。しかしながら、繁忙な医療現場において、このような作業をすることは、患者の治療及び検査時間の遅延を招くという問題点があった。
【0003】
そこで、当該問題点を未然に防止すべく、注射筒の内部表面を酸素プラズマ処理して親水性を高めることにより、気泡の付着を減少せしめる技術が既に報告されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この酸素プラズマ処理には多大な設備が必要とされ、しかも生産ライン上連続処理に不向きなため、効率的な生産が困難なのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−534596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたもので、内壁に気泡が付着することを抑制することができる薬液充填封入シリンジ製剤及びその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、シリンジ外筒の内部表面をコロナ放電処理すれば、内壁への気泡の付着が格段に抑制されることを見い出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、出力50〜400Wのコロナ放電処理により、流体滴に50〜80°の接触角を生じさせる内部表面が形成された環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒に、注射液が充填封入されていることを特徴とする薬液充填封入シリンジ製剤により上記課題を解決したものである。
【0008】
また、本発明は、環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒に、出力50〜400Wにてコロナ放電処理して、流体滴に50〜80°の接触角を生じさせる内部表面を形成した後、当該シリンジ外筒に注射液を充填封入することを特徴とする薬液充填封入シリンジ製剤の製造方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内壁に気泡が付着することを抑制することができる薬液充填封入シリンジ製剤を提供することができる。
また、本発明の薬液充填封入シリンジ製剤を用いれば、内壁に気泡が付着することを抑制できるので、医療現場において、医師等が薬液を注射する際に、シリンジ外筒の内壁に付着した気泡を1箇所に集める作業を行なう必要がなくなり、より効率的かつ安全に薬液投与を行なうことができる。
更に、本発明の製造方法によれば、多大な設備は必要なく、しかも連続処理が容易なため、気泡の付着を抑制することができる薬液充填封入シリンジ製剤の効率の良い生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の薬液充填封入シリンジ製剤の概略断面説明図。
【図2】(a)はコロナ放電未処理のシリンジ外筒表面における接触角を示す模式説明図、(b)はコロナ放電処理済みシリンジ外筒表面における接触角を示す模式説明図。
【図3】試験例2で用いたコロナ放電処理済のシリンジ外筒における気泡の付着状況結果を示す図。
【図4】試験例2で用いたコロナ放電未処理のシリンジ外筒における気泡の付着状況結果を示す図。
【図5】試験例3で用いたコロナ放電処理済のシリンジ外筒における気泡の付着状況結果を示す図。
【図6】試験例3で用いたコロナ放電未処理のシリンジ外筒における気泡の付着状況結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
【0012】
図1は、本発明の薬液充填封入シリンジ製剤の概略断面説明図である。
図1において、10は薬液充填封入シリンジ製剤で、シリンジ外筒11の内部に薬液Pが充填され、かつ着脱自在のキャップ12によりその先端ノズル部が封止されていると共に、摺動自在の栓具13によりその尾部開口部が封止されている。
【0013】
当該シリンジ外筒11の内部表面はコロナ放電処理されており、その表面上で流体滴に50〜80°の接触角θ(図2(b)参照)を生じさせるものとなっている。
斯かる接触角θを生じさせるコロナ放電処理の条件としては、シリンジ外筒11の大きさや形状に応じて、当該効果が得られるのに充分な出力及び処理時間を適宜設定したコロナ放電処理装置により行なえばよいが、例えば、造影剤用のシリンジ外筒の場合には、出力50〜400Wで、5〜10秒間程度行なうのが好ましい。
尚、コロナ放電処理装置としては特に限定されないが、例えば株式会社春日電機製コロナ放電処理装置が好適に使用される。
【0014】
また、当該シリンジ外筒11の材質は特に限定されないが、合成樹脂であることが好ましい。斯かる合成樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等を挙げることができるが、環状ポリオレフィン樹脂により成形したものが、透明性に優れ、気泡の発生が抑制されているかどうかを目視にて確認できる点で好ましい。当該環状ポリオレフィン樹脂としては、例えば、日本ゼオン株式会社製合成樹脂「商品名:ZEONEX(登録商標)」や、三井化学株式会社製合成樹脂「商品名:APEL(登録商標)」、Topas Advanced Polymers GmbH社製合成樹脂「商品名:TOPAS(登録商標)」等を挙げることができる。
【0015】
薬液Pは、薬液充填封入シリンジ製剤として適用され得る薬剤の溶液または懸濁液であって、注射用に製された注射液であれば、特に制限されず、例えば、造影剤、循環器官用剤、鎮痙剤、局所麻酔薬、輸液製剤、ビタミン剤、予防接種用薬、抗プラスミン剤、ヒアルロン製剤等の注射液を用いることができる。
【0016】
ここに造影剤としては、例えば、イオプロミド、イオメプロール、イオパミドール、イオベルソール、イオヘキソール、イオキシラン、イオトロラン、イオジキサノール等の非イオン性ヨードX線造影剤、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオラクタム酸ナトリウム、イオラクタム酸メグルミン、イオキサグル酸、イオトロクス酸メグルミン等のイオン性ヨードX線造影剤、ガドジアミド水和物、ガドテリドール等の非イオン性MRI用造影剤、ガドテル酸メグルミン、ガドペンテン酸メグルミン等のイオン性MRI用造影剤等の注射液を挙げることができる。
【0017】
また、循環器官用剤としては、例えば、ヘパリン、ヘパリンナトリウム、アルガトロバン等の抗凝固剤、エピネフリン、ノルエピネフリン等の強心剤等の注射液を挙げることができる。
また、鎮痙剤としては、例えば、臭化ブチルスコポラミン等の注射液を挙げることができる。
また、局所麻酔薬としては、例えば、塩酸リドカイン、塩酸ジブカイン、塩酸ブピパカイン、塩酸ロピバカイン等の注射液を挙げることができる。
また、輸液製剤としては、例えば、塩化カルシウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸2カリウム等の注射液を挙げることができる。
また、ビタミン剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、パルミチン酸レチノールおよびこれらを組み合わせた混合ビタミン等の注射液を挙げることができる。
また、予防接種用薬としては、例えば、インフルエンザHAワクチン、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPT)、風疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、水痘ワクチン、B型肝炎ワクチン等の注射液を挙げることができる。
また、抗プラスミン剤としては、例えば、トラネキサム酸等の注射液を挙げることができる。
【0018】
本発明においては、上記の如き薬液中、非イオン性ヨードX線造影剤の注射液、中でもイオヘキソールの注射液およびイオジキサノールの注射液が特に好ましい。
【実施例】
【0019】
以下実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0020】
実施例1
環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒(容量100mL)の内部表面全体を、株式会社春日電機製コロナ放電処理装置にて、出力250Wで、約5秒間処理して、本発明薬液充填封入シリンジ製剤用シリンジ外筒を得た。
【0021】
試験例1
実施例1で得られた本発明のシリンジ外筒と、コロナ放電未処理の環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒のそれぞれについて、表面上に形成される流体滴の接触角θ(図2(a),(b)参照)を測定した。流体滴としては、イオヘキソールの注射液(第一三共株式会社製「オムニパーク:商品名」)およびイオジキサノールの注射液(第一三共株式会社製「ビジパーク:商品名」)を使用し、それぞれの接触角を測定した。
その結果は表1のとおりであった。
【0022】
【表1】

【0023】
試験例2
実施例1で得られた本発明のシリンジ外筒と、コロナ放電未処理の環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒のそれぞれに造影剤であるイオヘキソールの注射液(第一三共株式会社製「オムニパーク:商品名」)を充填封入し、気泡を予め完全に除去した後、衝撃を与え、気泡の付着状況を確認した。
その結果、本発明のシリンジ外筒(図3)には殆ど気泡が認められなかったが、未処理のシリンジ外筒(図4)には多数の気泡が認められた。
【0024】
試験例3
試験例2におけるイオヘキソールの注射液をイオジキサノールの注射液(第一三共株式会社製「ビジパーク:商品名」)に変えて、試験例2と同様にして気泡の付着状況を確認した。
その結果、本発明のシリンジ外筒(図5)には殆ど気泡が認められなかったが、未処理のシリンジ外筒(図6)には多数の気泡が認められた。
【符号の説明】
【0025】
10:薬液充填封入シリンジ製剤
11:シリンジ外筒
12:キャップ
13:栓具
P:薬液
θ:接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力50〜400Wのコロナ放電処理により、流体滴に50〜80°の接触角を生じさせる内部表面が形成された環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒に、注射液が充填封入されていることを特徴とする薬液充填封入シリンジ製剤。
【請求項2】
前記注射液が、イオヘキソール注射液又はイオジキサノール注射液であることを特徴とする請求項1記載の薬液充填封入シリンジ製剤。
【請求項3】
環状ポリオレフィン樹脂製シリンジ外筒に、出力50〜400Wにてコロナ放電処理して、流体滴に50〜80°の接触角を生じさせる内部表面を形成した後、当該シリンジ外筒に注射液を充填封入することを特徴とする薬液充填封入シリンジ製剤の製造方法。
【請求項4】
前記注射液が、イオヘキソール注射液又はイオジキサノール注射液であることを特徴とする請求項3記載の薬液充填封入シリンジ製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53160(P2013−53160A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−268074(P2012−268074)
【出願日】平成24年12月7日(2012.12.7)
【分割の表示】特願2008−550042(P2008−550042)の分割
【原出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【出願人】(596132019)株式会社荒川樹脂 (2)
【Fターム(参考)】