説明

薬液処理装置および薬液処理方法

【課題】ロール状基材の薬液処理工程においては、ロール状基材は高速で搬送されているため、基材に対する目視での水切り状態や、水しみの発生の有無などの監視は困難である。代替的にニップロールの幅の圧を確認し、ニップロールに洗浄液がたまっていないかを確認することで水きり状態を判断することができるが、洗浄液が完全に切れているかを確認することは困難である。
【解決手段】ロール状基材を薬液処理するための、薬液処理手段、薬液洗浄手段、洗浄液切り手段、乾燥手段を備えた薬液処理装置であって、洗浄液切り手段と乾燥手段の間に、温度監視手段を備えていることを特徴とする薬液処理装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロール状の基材表面を薬液処理する装置及び方法にかかるものであり、特に液晶分野で使用される光学フィルムの基材として用いられる樹脂フィルムに対し、アルカリ鹸化処理を実施する際に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
現在の液晶表示デバイスはますます高精細化、大画面化が進んでおり、光学補償シートの透明支持体のスジ・ムラ等が、光学補償シートの故障として認識されることがあることが判ってきた。
前記のような光学補償シート等の光学的機能性を有するシート状材料は光学フィルムと呼ばれているが、光学フィルムの透明支持体として、優れた光透過性、光学的な無配向性で、優れた物理的、機械的性質を有し、且つ温度湿度変化に対する寸法変化が少なく等の特性を有するセルロースアセテートフイルムに代表されるセルロースエステルフイルムが用いられる。
【0003】
透明支持体のセルロースエステルフイルムに偏光素子や光学補償層が偏光膜や配向膜(通常はポリビニールアルコール)を介して設けられるが、これら偏光膜や配向膜との密着性を持たせるための1つとして、セルロースエステルフイルムをアルカリ水溶液に浸漬処理してその表面を鹸化し親水化する方法が知られている。
また、そのための工程として、アルカリ水溶液に接触させる装置(浴槽に漬ける、もしくはシャワー等で液をフィルムに当てる)を経て、純水で洗浄し、乾燥させる工程を用いることが必要となる。
【0004】
通常純水で洗浄をする工程においては、ニップロールと呼ばれるゴム製のロールでフィルムを挟んで水を切って(落として)から熱風やエアーナイフ等風速の大きい装置で乾燥させる工程、もしくはニップロールを介さないでエアーナイフに直接フィルムをあてて水きりと乾燥を行う工程をとる。
しかし、水を落とす段階で不備(水切り不足、水切り不良)があったまま乾燥してしまうと、フィルム上に水しみと呼ばれる水残り現象が発生してしまう。その状態で他の材料と張り合わせて光学補償シートとして使用した場合にスジ、ムラが発生することが判明している。
【0005】
通常上記のようにニップロールと呼ばれるフィルムを挟んで水を落とす工程や、水を切り落とすためのエアーナイフをあてる工程においては、水を完全に落とせるかは人が目視で確認していたり、もしくはニップロールの幅の圧を定期的に測定して締め付け不足がないか確認するレベルであり、薬液処理中、ロール搬送時に製品の品質の安定を保つことの確認は出来ていない状態である。
水切り不足を目視で監視するには限界があり、また、水しみが発生したフィルムを光学補償シートとして使用して初めて不良が判明する場合も多く、その損害は大きい。
また、プリント配線板に用いる銅箔の表面粗化などの場合においても、水しみが残ることによって次の工程での積層や表面処理にムラができてしまい、不良発生の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−182893号公報
【特許文献2】特開2007−39524号公報
【特許文献3】特開2008−115268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、ロール状基材の薬液処理工程においては、ロール状基材は高速で搬送されているため、基材に対する目視での水切り状態や、水しみの発生の有無などの監視は困難である。代替的にニップロールの幅の圧を確認し、ニップロールに洗浄液がたまっていないかを確認することで水きり状態を判断することができるが、洗浄液が完全に切れているかを確認することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はロール状基材に薬液処理を施した後、洗浄液で洗浄を行ったのち、ロール状基材がニップロールもしくはエアーナイフなどの水きり手段を通過後乾燥の前にロール状基材表面の温度を測定する手段を備えた薬液処理装置である。
【0009】
本出願に係る第1の発明は、ロール状基材を薬液処理するための、薬液処理手段、薬液洗浄手段、洗浄液切り手段、乾燥手段を備えた薬液処理装置であって、洗浄液切り手段と乾燥手段の間に、温度監視手段を備えていることを特徴とする薬液処理装置である。
【0010】
本出願に係る第2の発明は、前記洗浄液切り手段はエアーナイフであって、前記温度監視手段は水切り後のロール状基材表面の温度を監視するものであることを特徴とする請求項1記載の薬液処理装置である。
本出願に係る第3の発明は、前記洗浄液切り手段はニップロールであって、前記温度監視手段はニップロール表面もしくはロール状基材表面のいずれかの温度を監視するものであることを特徴とする請求項1記載の薬液処理装置である。
【0011】
本出願に係る第4の発明は、ロール状基材を薬液処理する方法であって、ロール状基材を薬液処理する工程、ロール状基材に付着した薬液を洗浄する工程、ロール状基材に付着した洗浄液を切る工程、ロール状基材に残った洗浄液を乾燥する工程を備え、前記ロール状基材に付着した洗浄液を切る工程の後、ロール状基材を乾燥する前に、当該ロール状基材もしくは水切り装置のいずれかの温度を監視する工程を備えることを特徴とする薬液処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、基材の高速搬送時であっても水きり手段もしくはロール状基材の表面温度を監視・測定することにより、水切り不良を生じた場合に表面温度の異常を検出することで不良発生を認識し、不良部分を除去したり、装置を調整するなど、対処が可能となる。
【0013】
具体的には、ロール状基材が光学補償フィルムに用いられるフィルム状基材である場合に、これを後の偏光板張り合わせ工程のために、アルカリ処理溶液に浸漬し、純水で洗浄し、ニップロールもしくはエアーナイフで水切りを行い、乾燥する手段を備えたアルカリ鹸化処理装置においては、ニップロールの閉め方が不足していたり、ニップロールの劣化によりニップロール幅手(回転に対して直角方向)一部に間隙が生じてロールがうまくかみ合っていなかったり、フィルム状基材へのエアーナイフから吹き出す風の当たり方が均一になっていないことで水切り不足が発生しており、その際にニップロールもしくはフィルム状基材の幅手(搬送方向に対して垂直方向)に対してほぼ同じ位置に連続的に水が残ることが判明している。
【0014】
これを目視で迅速に発見することは困難であるが、水きり不足が生じている部分は他の正常に水切りが行われた部分と比較して表面温度が低くなるため、温度監視手段によりフィルム状基材表面の温度分布にムラが生じていることを確認することで、水きり不足の発生を認識することができる。
また、工程異常としてニップロールが締め切っていなかったり、エアーナイフが故障している場合は水を大幅にニップロールもしくはフィルム状基材に残すことになり、正常に水きりをされた状態と比較してニップロールもしくはフィルム状基材の幅手全体の温度低下を確認することで、水きり不良発生を認識することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の薬液処理装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の構成を説明する。
本発明の薬液処理装置で処理することのできるロール状基材は、可撓性のあるロール状基材であれば何でもよいが、薬液や洗浄液に暴露しても基材が水分を含むことなく、物理的手段で水分を落とせる(水を切ることのできる)基材が好ましい。また、高速搬送や物理的な水切りに耐えることのできる強度を備えていることが好ましい。このような基材としては、金属箔、プラスチックフィルム等を挙げることができる。
特に、偏光板などの光学補償フィルム向けのプラスチック基材においては、少しの水切り不良が大きなロスにつながるため、本発明の適用が好ましい。
【0017】
本発明の装置もしくは方法で処理されるロール状基材は、一般的な搬送方法で薬液処理手段側から乾燥手段側へ順次巻き取り搬送される。
【0018】
本発明を構成する薬液処理手段は、例えば、プラスチックフィルム表面に親水性を付与するためのアルカリ鹸化処理のための、アルカリ水溶液のシャワー吹付け装置や浴槽での浸漬を挙げることができる。
本発明を構成する薬液洗浄手段は、例えば、アルカリ性水溶液を洗浄するために純水をシャワーで吹付ける装置または方法を挙げることができる。
【0019】
本発明を構成する洗浄液切り手段は、たとえば、ニップロールやウエスでのふき取りのように物理的接触により洗浄液を除去する方法や、エアーナイフからの送風のように非接触的に洗浄液を吹き飛ばす方法を挙げることができる。接触、非接触両方の手段を設けてもよい。本発明を構成する乾燥手段は熱風または室温での送風(ドライヤー、エアーナイフ)や、オーブン(内の通過)を挙げることができる。
【0020】
本発明を構成する温度監視手段は、洗浄液切り手段と乾燥手段との間に設けるものである。
洗浄液切り手段がエアーナイフなど、非接触のものである場合には、温度監視手段は、ロール状基材が、洗浄水切り手段を通過後、乾燥手段を通過する前に設け、ロール状基材表面の温度を監視する。
洗浄液切り手段がニップロールなど、物理的接触である場合には、温度監視手段で監視する対象はロール状基材でも、洗浄液切り手段でもよい。ロール状基材を監視する場合には、洗浄液切り手段が非接触である場合と同様、洗浄液切り手段を通過後、乾燥手段の前に表面温度を監視する。一方、洗浄液切り手段を監視する場合には、ロール状基材が通過中の洗浄液切り手段(ニップロール表面)の温度を監視することになる。
温度を監視する場所は、ロール状基材と洗浄液切り手段のどちらか一方でもよく、両方を監視してもよい。
【0021】
本発明で用いることのできる温度監視手段は非接触式の温度計であればよく、サーモグラフィーや放射温度計などを挙げることができる。放射温度計のように点で温度を測定する手段の場合は、処理を行うロール状基材の幅を全て網羅できるように複数個配置する必要がある。広い範囲を監視しやすいことから、サーモグラフィーによるものであることが好ましい。
また、後に水切り不良発生の検証や不良ロットの検索が行えるように、温度監視結果を記録できる手段を備えていることが好ましい。
ロール状基材、もしくは接触式洗浄液切り手段の一部の温度の低下、あるいは、全体の温度の、正常に水切りが行われている場合に比べての低下を監視することで、水切り不良を認識することができ、装置の調整や不良部分の除去などの対処が可能となる。
【0022】
図1では、ロール状基材10としてフィルム状基材を用い、薬液処理手段20としてアルカリ鹸化処理槽、薬液洗浄手段30として純水洗浄槽、洗浄液切り手段40としてニップロール、乾燥手段60としてオーブンを備え、温度監視手段50として、洗浄液切り手段と乾燥手段の間にロール状基材表面の温度を監視するようにサーモグラフィーを配置した薬液処理装置100を示している。
【実施例】
【0023】
以下の実施例によって、本発明の具体的態様と効果をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ロール状基材として、セルローストリアセテートフイルム:フジタックTD80UF(富士写真フイルム(株)製、以下フィルム)を薬液処理手段としてKOHaq(15wt%、50℃)を満たした薬液槽に計7min浸漬する工程を経て、純水洗浄手段(幅手に対して20mm間隔全幅でシャワーノズル設置し、純水浴槽にフィルムを漬けてからシャワーノズル洗浄を行う工程を交互に実施、洗浄水温度15℃)を経て、洗浄液切り手段としてφ200のニップロール(EPDM製、硬度70)で水を切り落とし、エアーナイフ(風速60m/min)にてさらに水を切り落としてから乾燥手段としてオーブンによる乾燥(100℃、5min)を実施した。
工程内速度としては20m/minで実施した
その際に、ニップロール通過後50mm後の位置で温度監視手段として非接触式温度測定器(サーモグラフィー)を用いてフィルム表面温度を計測した。
【0024】
条件1として、通常の加圧量(線圧10kg/m)にてニップロールを設置してフィルム表面温度を測定した。
条件2として、ニップロールの一部を通常の状態からニップ圧を軽く(線圧6kg/m)し、目視では条件1と同じような水の切れをしていると見える状態でフィルム表面温度を測定した。
【0025】
条件1ではフィルム表面温度は幅手(ロール幅方向)に対してほぼ同じ温度であり、温度のばらつきはなく、室温(23℃)からやや低めの18℃±1℃であった。本フィルムにおいては偏向板加工をした段階で水しみに起因するスジ、ムラなどの欠陥は存在しなかった。
条件2ではフィルム表面温度は幅手(ロール幅方向)に対してほぼ同じ温度であったが、全体として16℃±1℃であった。本フィルムを偏向版加工したところ、幅手に対して複数(10個/m)の水しみ(200μmサイズ)に起因する欠陥が確認された。
【0026】
これらの結果から、本発明によれば、目視においては差を認識することのできない水切り不良であっても検出することができることがわかった。また、本発明の装置によって水切り不良が検出されたロール状基材を用いると、水しみによる不良が発生していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明はロール状の基材を薬液処理し乾燥する手段を備えた薬液処理装置に適用することができ、特にロール状基材において、薬液処理後の洗浄液切り不足による水しみに起因する不良が問題となるものであれば利用することができる。例えば、光学フィルムの加工に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
10 ロール状基材
20 薬液処理手段
30 薬液洗浄手段
40 洗浄液切り手段
50 温度監視手段
60 乾燥手段
100 薬液処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状基材を薬液処理するための、
薬液処理手段、薬液洗浄手段、洗浄液切り手段、乾燥手段を備えた薬液処理装置であって、
洗浄液切り手段と乾燥手段の間に、温度監視手段を備えていることを特徴とする薬液処理装置。
【請求項2】
前記洗浄液切り手段はエアーナイフであって、前記温度監視手段は水切り後のロール状基材表面の温度を監視するものであることを特徴とする請求項1記載の薬液処理装置。
【請求項3】
前記洗浄液切り手段はニップロールであって、前記温度監視手段はニップロール表面もしくはロール状基材表面のいずれかの温度を監視するものであることを特徴とする請求項1記載の薬液処理装置。
【請求項4】
ロール状基材を薬液処理する方法であって、
ロール状基材を薬液処理する工程、
ロール状基材に付着した薬液を洗浄する工程、
ロール状基材に付着した洗浄液を切る工程、
ロール状基材に残った洗浄液を乾燥する工程を備え、
前記ロール状基材に付着した洗浄液を切る工程の後、ロール状基材を乾燥する前に、当該ロール状基材もしくは水切り装置のいずれかの温度を監視する工程を備えることを特徴とする薬液処理方法。

【図1】
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