説明

薬液含浸シート

【課題】ポピドンヨード液のヨウ素の脱色効果と消毒効果を同時に発揮し、しかも、拭き取り、保液性および取り扱い性に優れ、且つ拭き取り面に繊維屑が残らない薬液含浸シートを提供すること。
【解決手段】セルロース繊維を含有したシートに、チオ硫酸ナトリウムおよびアルコール水溶液を含浸させた事を特徴とする薬液含浸シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術前の身体部分の皮膚消毒や手術室の環境を消毒する目的で使用する医療用のヨード系消毒剤ポピドンの色を消す為の薬液含浸シートに関する。更に詳しくは、繊維屑が少なく広い面積での拭き取り性に優れた薬液含浸シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、外用消毒剤の1つとして、強力な殺菌作用を持ち、日本薬局方にも収載されている医薬品としてポピドンヨードが使用されており、特許文献1には、ポピドンヨードを含浸させた不織布シートが開示されている。また、特許文献2には、清拭用として、高濃度アルコールを含浸させた合成繊維からなる不織布シートが開示されている。しかしながら、ポピドンヨード液は、色が褐色で特異な匂いがあり、衣服等に着色すると落ちにくい等の問題があった。
【0003】
そこで、ポピドンヨード液の色消しと共に消毒殺菌効果を有し、ヨウ素の脱色と消毒効果を同時に発揮し、しかも、拭き取り、保液性および取り扱い性に優れ、且つ拭き取り面に繊維屑が残らない薬液含浸シートが、病院等より強く求められていた。本発明は、これらを改善したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−137702号公報
【特許文献2】特開2005−232655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポピドンヨード液のヨウ素の脱色効果と消毒効果を同時に発揮し、しかも、拭き取り、保液性および取り扱い性に優れ、且つ拭き取り面に繊維屑が残らない薬液含浸シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、セルロース繊維からなるシートにチオ硫酸ナトリウムとアルコールを含浸することで本発明の上記課題を解決できる事を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)セルロース繊維を含有したシートに、チオ硫酸ナトリウムおよびアルコー水溶液を含浸させた事を特徴とする薬液含浸シート。
(2)シートのセルロース繊維の含有率が50wt%以上であることを特徴とする上記1項に記載の薬液含浸シート。
(3)シートが不織布である事を特徴とする上記1または2項に記載の薬液含浸シート。
(4)薬液含浸シートを構成するシート、チオ硫酸ナトリウムおよびアルコー水溶液の重量比率が、1:0.01〜0.4:1.5〜3.5の比率からなる事を特徴とする上記1〜3項のいずれか一項に記載の薬液含浸シート。
(5)シートが再生セルロース又は精製セルロースの繊維からなる長繊維不織布であることを特徴とする上記3または4項に記載の薬液含浸シート。
(6)パウチ式容器、ボトル式容器またはおしぼりタイプの包装袋に収納されている事を特徴とする上記1〜5項のいずれか一項に記載の薬液含浸シート。
(7)アルコールがエタノールであることを特徴とする上記1〜6項のいずれか一項に記載の薬液含浸シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬液含浸シートは、ポピドンヨード液のヨウ素の脱色効果と消毒効果を同時に発揮し、しかも、拭き取り、保液性および取り扱い性に優れ、且つ拭き取り面に繊維屑が残らないという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下具体的に説明する。
本発明におけるセルロース繊維とは、例えばビスコースレーヨンおよびキュプラ等の再生セルロース繊維、又は溶剤紡糸セルロース繊維(リヨセル)等の精製セルロース繊維や、コットン、コットンリンターおよびパルプ等の天然繊維素からなる繊維をいう。このようなセルロースからなる繊維は、薬液の含浸性に優れ、拭き取り時の肌への刺激が小さく好適な素材である。
【0009】
本発明の薬液含浸シートに用いるシートは、セルロース繊維の含有率が50重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは80重量%以上であり、最も好ましくは100重量%である。セルロース繊維の含有により保液性が向上する。セルロース繊維は吸液性能、特に吸水性能に優れているが、その中で再生セルロース繊維及び精製セルロース繊維は綿等の天然セルロース繊維と比べても、非常に優れた吸水性能を持っているので好ましい。セルロース繊維が50重量%未満であると保液性に乏しく、本発明の目的である吸液性および拭き取り性を満足することが困難となる。
本発明のシートに用いるセルロース繊維の単糸繊度も特に限定されるものではなく、0.1〜5dtexの範囲のものが好ましい。
【0010】
本発明におけるシートとは、不織布、織物、編物および紙等、その構造は特に限定されるものではないが、薬液の含浸性や拭き取り性の観点から不織布シートである事が特に好ましい。
【0011】
本発明で用いられる不織布の例としては、再生セルロース繊維やコットン等のセルロース繊維とポリエステル、ナイロンおよびポリプロプレン等の合成繊維を一定割合で混合した短繊維を水流絡合法によってシート化した不織布やニードルパンチ法、ケミカルボンド法およびサーマルボンド法によりシート化した短繊維不織布や溶剤紡糸法で製造したセルロース長繊維不織布やキュプラアンモニウム法で製造されるキュプラ長繊維不織布等が挙げられる。又、上述した短繊維不織布と長繊維不織布が複合化された不織布であってもよい。
【0012】
これらの上述した不織布の中で本発明の薬液含浸シートに用いる不織布として特に好ましいのは、例えば特表2002-521582号公報に記載の精製セルロース長繊維であるリヨセル不織布や、キュプラアンモニア法レーヨン原液を流下緊張紡糸法によりネット上に連続紡糸し、繊維自体の自己接着や必要に応じて水流交絡により繊維を交絡させて不織布化した再生セルロース長繊維不織布である。これらの不織布は、構成する繊維が長繊維であるため皮膚や手術用器具を清拭したあとの繊維屑の脱落が極端に少ないので本発明の薬液含浸シートのシート材として特に好ましい。
【0013】
また、これら再生セルロース連続長繊維不織布の場合は、前述した通り自己接着や水流交絡により不織布が形成される為、接着用の樹脂等のバインダーを使用しないので接着樹脂等のバインダー成分が薬剤等により溶出する事が極めて少なく拭き取り面の再汚染がないので好ましい。
【0014】
本発明のシートとして好適に用いる不織布には、開口部、凹部および凹凸等で形成された表面パターンが存在してもよい。開口部、凹凸部および表面パターンの形状は用途等を考慮して適宜選択すればよい。例えば楕円形、円型、正方形、長方形およびひし形等の独立したパターンや、それらの凹凸形状が組み合わされた、例えば杉綾形状のパターン等適宜選択すればよい。またその配列パターンも、例えば独立した開口部や凹部を千鳥配列にしたりする等、適宜選択すればよい。
【0015】
但し上述の独立した開口部や凹部のパターンを設ける場合には、開口部や凹部の1個あたりの面積は0.05〜10mm2が好ましく、より好ましくは0.1〜5mm2、更に好ましくは0.2〜2.5mm2である。開口部や凹部の1個あたりの面積が0.05mm2未満では拭き取り等の寄与がほとんど得られない。また、開口部や凹部の1個あたりの面積が10mm2を超えると拭き取り対象物が開口部や凹部を通過して手等を汚染する事がある。
【0016】
上述したような表面パターンは、例えば不織布をメッシュ状のネットに乗せた状態で高圧液体流で処理する事により、ネットの交絡部の上にある不織布の繊維が高圧液体流で周囲に押しやられる事によって、好適に得る事ができる。また例えば金属ロールの表面に凹凸パターンを作成し、金属ロールとゴムロール間に圧力をかけながら不織布を通して凹凸形状をつけるいわゆるエンボス等の手法でも好適に得る事ができる。
薬液含浸シートの表面パターンの有無により、拭き取り性や通液性の機能性をコントロールしたり意匠性を向上させたりすることができる。
【0017】
本発明のセルロースを含有したシートの目付は15g〜200g/m2が好ましく、より好ましくは30g〜100g/m2である。厚みは、0.03〜1.2mmが好ましく、より好ましくは0.05〜1.0mmである。
目付及び厚みは、用途により適宜選択が可能である。目付が上記の範囲であると、特に好適なシートとして用いる不織布の場合の強度が高く、製品とした場合に破れ難くなりリントの発生等実使用において問題を生じる事が無く、また繊維充填密度が適度な為、薬液を含浸した場合にソフトシートとなり拭き取り性が向上する。
【0018】
本発明の薬液含浸シートにおいて、薬液含浸シートを構成するセルロース繊維を含有したシート(A)とチオ硫酸ナトリウム(B)及びアルコール水溶液(C)の重量比率は、A:B:C=1:0.01〜0.40:1.5〜3.5の範囲にあることが好ましい。
本発明において、アルコールは低級アルコールが好ましく、エタノールおよびイソプロパノ−ルがより好ましく、特にエタノールが好ましい。
【0019】
薬液含浸シートを構成するチオ硫酸ナトリウム(B)の重量比率が、シート重量1に対して0.01未満であるとポピドンヨード液の脱色効果が小さく、0.4を超えて配合しても脱色効果が向上しない。重量比率の好ましい範囲としては0.05〜0.35の範囲であリ、特に好ましくは、0.10〜0.30の範囲である。
【0020】
薬液含浸シートを構成するアルコール水溶液の重量比率が、シート重量1に対して、1.5未満では含浸量が少なく拭き取り性に劣るものとなる。3.5を超えると含浸量が多すぎ拭き取り後に、シートからエタノール水溶液が脱落し拭き取り面にエタノール水溶液が残るという問題が発生する。好ましい範囲としては、2.0〜3.0であり、特に好ましくは、2.2〜2.8の範囲である。
【0021】
本発明において、チオ硫酸ナトリウム(B)とアルコール水溶液(C)の重量比率B/Cが特に重要である。B/Cは、1/30〜1/5の範囲が好ましく、より好ましくは1/20〜1/10の範囲である。B/Cがこの範囲にあると、ポピドンヨード液のヨウ素の脱色効果と消毒効果を、同時に良好な効果として、発揮することができる。
【0022】
本発明のアルコール水溶液とは、アルコール純度が75vol%〜96vol%の範囲にあるアルコールと、精製水等を任意の割合で混合した水溶液の事をいう。
本発明におけるエタノール水溶液とは、エタノール純度が75vol%〜96vol%の範囲にあるエタノールと精製水等を任意の割合で混合した水溶液の事をいう。混合後のエタノール水溶液中のエタノール純度は、30vol%〜85vol%の水溶液として用いる事が消毒効果の点から好ましい。エタノール純度が75vol%〜96vol%のエタノールの代表例としては、日本薬局方エタノールや消毒用エタノールが挙げられる。
【0023】
本発明の薬液含浸シートは、使用時の形態は特に限定されず適宜用途に応じて扱い易い形状を選択する事ができる。例えば薬液含浸シートを広げた場合の形状が正方形や長方形等の多角形、円形や楕円形でも問題なく使用でき用途によって適宜選択すればよい。
例えば目付が高い場合には平版の形状でもよいし、おしぼりタイプのロール状でも良い。目付が低い場合には、四つ折りや八つ折り等の折品やシートを円柱状に巻き上げるとともにシートに切れ目を入れたロール状の形状であってもかまわない。
【0024】
例えば折品について詳しく説明する。25cm角の平版を4つ折りにする場合、両端を合わせて2つに折り出来上がった長方形(12.5cm×12.5cm)の短い端を合わせて更に2つに折ればよい。この場合拭き取り表面は12.5cm角(156cm2)程度になり、ほとんどの部分が4枚重なった構造となる。この大きさは一般的な成人の手のひらの部分をおおよそカバーできる大きさであり作業性が向上する。
【0025】
又、本発明の薬液含浸シートのサイズは特に限定されず、使用用途、使用目的に応じて適宜選択できる。
又、本発明の薬液含浸シートへの薬剤の含浸方法は、薬剤が液体状で含浸される含浸方法であれば良い。例えば、アルコール水溶液にチオ硫酸ナトリウムを溶解した溶液にシートを浸漬させる方法、シートに薬液を噴霧・滴下させる方法、シートを包装材や容器に収納した後に薬液を充填する方法等が挙げられる。
【0026】
本発明においては、上述のような薬液含浸シートを包装袋や容器に収納する事により、密閉した薬液含浸シートの最終製品を得る事が出来る。この密閉された薬液含浸シートの最終製品は、パウチ式に収納するタイプ、おしぼりタイプのように基布1枚毎に包装するタイプおよび円柱状のロールタイプのシートを容器に収納するタイプ等が望ましい。
【0027】
中でも、おしぼりタイプが使い易く好ましい。基布を1枚毎に包装した場合、使用時に必要とする個数の包装された含浸シートのみ開封する事ができるので、薬効を良好に維持する事ができ、しかも衛生的である。また必要な個数のみを衛生的に保持できるので、使い易く携帯にも便利である。また冬場の使用は、常温では冷たく抵抗があるが、おしぼりタイプでは、あらかじめ適度に保温して使用すれば冬場でも暖かく、快適に使用できる点で優れる。
【0028】
本発明の薬液含浸シートを収納するための包装・容器の材質は、通常薬剤に悪影響を与える事のない衛生性および安全性を有し、強度、ガスバリヤー性、遮光性、防湿性、耐熱性および耐寒性などの薬剤保存性に優れ、しかも、強度、シール性および印刷適正など加工性・製品性などの面で優れた素材であることが望ましい。
【0029】
特にパウチ式の包装材料やおしぼりタイプの包装材としては、上記特性を備えた材質を複数種組み合わせた積層樹脂フィルムを用いる事ができる。中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)層とアルミニウム箔(Al)層と未延伸ポリプロピレン(CPP)層とからなる積層フィルムが好ましい。このような積層フィルムは、衛生性および安全性を有し、強度、ガスバリヤー性、遮光性、防湿性、耐熱性および耐寒性などの薬剤保存性に優れ、しかも強度、ヒートシール性および印刷適性などの加工性・製品性並びにコストなどの面でも優れている。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例および比較例に基づいて説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、本実施例で記載する拭き取り性、消毒性及び脱落繊維等の評価方法は以下の通りである。
【0031】
(1)ポピドンヨード液の拭き取り性及び消毒性の評価
テーブルの上に10%のポピドンヨード液5mlを噴霧する。次にテーブル上に広がったポピドンヨード液を本発明の薬液含浸シートにて拭き取り、状態を観察し、拭き取り性能(脱色性能)および消毒性能を下記基準で判定する。
○:ポピドンヨード液の褐色液がきれいに脱色されており、透明なアルコール液が均一にテーブル上に残り、拭き残りがない。
△:ポピドンヨード液の褐色液が若干残り、透明なアルコール液が不均一にテーブル上に残り、拭き取り斑が見られる。
×:ポピドンヨード液の褐色液がかなり残り、透明なアルコール液がほとんどテーブル上に残らず、かなり拭き残りが見られる。
【0032】
(2)脱落繊維の評価
上記(1)にて試験した拭き取り後のテーブル上を目視により観察し、テーブル上に脱落繊維の存在の有無を下記基準で判定した。
○:テーブル上に全く脱落繊維が認められない。
△:テーブル上に1〜5本の脱落繊維が認められる。
×:テーブル上に6本以上の脱落繊維が認められる。
(3)開口部(貫通孔)および凹部の1個あたりの面積
シートを光学顕微鏡で100倍に拡大し、開口部(貫通孔)および凹部の面積を、10箇所測定し、平均値を1個あたりの面積とする。
【0033】
(実施例1)
紡糸原液を作製した。このときの紡糸原液は、精製したコットンリンターを銅アンモニア溶液で溶解し、セルロースが10wt%、銅が4wt%、アンモニアが7.5wt%、水が78.5wt%であった。原液吐出孔の直径が0.6mmで45個/cm2の吐出孔を有した長方形の紡糸口金(50mm×1800mm)から原液を押し出し、紡糸水と共に漏斗内に入った原液は、脱アンモニアによる凝固と同時に流下緊張法により延伸させた。凝固した繊維は、通液可能なメッシュ構造のネット上に振り落としつつ、ネットをネット進行方向と垂直方向に振動させた。得られた1層のウエブの上に同様の条件で紡糸したウエブを更に4層重ね、最終的に5層重ねのセルロース連続長繊維ウエブを得た。得られたセルロース連続長繊維ウエブを希硫酸で再生し、水洗後、得られた再生セルロース連続長繊維ウエブを高圧水流で繊維を交絡させた後、熱風乾燥を行い、貫通孔及び凹部が表面に形成された再生セルロース連続長繊維不織布を得た。得られた再生セルロース連続長繊維不織布は、目付27.5g/m2、厚み0.45mm、平均繊維径15μmであった。又、貫通孔および凹部の面積を光学顕微鏡により測定した結果、1.35mm2であった。
【0034】
得られた再生セルロース連続長繊維不織布を幅10cmで長さ200m巻のシートにカットした後、直径1cm、長さ25cm、重さ0.7gのおしぼり型のロール状品を作成した。このロール状品を、ポリエチレンフィルムの内層、アルミニウムシートの中間層およびポリエチレンテレフタレートフィルムの外層が一体積層された包装材の中に入れた。
次に、80vol%のエタノール水溶液100gに5gのチオ硫酸ナトリウムを溶解させた薬液を作成し、この薬液を包装材の中に1.8g注入し、ロール状繊維シートに均一に薬液が含浸された薬液シートを作成した。この薬液シートを構成するシート(A)、チオ硫酸ナトリウム(B)およびエタノール水溶液(C)の重量比率は、A:B:C=1:0.12:2.45である。
この薬液含浸シートを用いて前述した評価方法にてポピドンヨード液の拭き取り性能、消毒性及び脱落繊維の有無を評価した。評価結果を表1に示した。
表1から明らかなように本発明の薬液含浸シートは、ポピドンヨード液の脱色性や消毒性及び拭き取り性が良好で、脱落繊維が極めて少ない。
【0035】
(実施例2)
原液吐出量を少なくした以外は実施例1と同様の方法で、再生セルロース連続長繊維不織布を得た。得られた再生セルロース連続長繊維不織布は、目付19g/m2、厚み0.25mm、平均繊維径15μmであった。
得られた再生セルロース連続長繊維不織布と旭化成せんい株式会社製のポリプロピレンスパンボンド不織布(目付18g/m2、厚み0.19mm)を重ねて高圧水流により複合化した後、乾燥させ複合シートを得た。得られた複合不織布は、目付37g/m2、厚み0.41mmであり、不織布を構成するセルロース繊維の含有量は51%であった。また、貫通孔および凹部の面積を実施例1と同様の方法で測定した結果、1.55mm2であった。
得られた複合シートを幅25cm、長さ100mにスリットした後、折り機に仕掛けてタテ12.5cm×ヨコ12.5cmの四つ折り品のシートを30枚作成した。30枚の重なったシートの重量は、70gであった。
次に、この30枚のシートを実施例1と同じ構成の包装材に収納した。
【0036】
次に、60vol%のエタノール水溶液500gに50gのチオ硫酸ナトリウムを溶解させた薬液を作成し、この薬液を包装材の中に140g注入し、シートに均一に薬液が含浸された薬液シートを作成した。この薬液シートを構成するシート(A)、チオ硫酸ナトリウム(B)およびエタノール水溶液(C)の重量比率は、A:B:C=1:0.18:1.82である。
この薬液含浸シートを用いて前述した評価方法にてポピドンヨード液の拭き取り性能、消毒性及び脱落繊維の有無を評価した。評価結果を表1に示した。
表1から明らかなように本発明の薬液含浸シートは、ポピドンヨード液の脱色性や消毒性及び拭き取り性が良好で、脱落繊維が極めて少ない事が判る。
【0037】
(実施例3)
実施例1と全く同様の方法で、再生セルロース連続長繊維不織布を得た。得られた再生セルロース連続長繊維不織布から、実施例1と同様のおしぼり型のロール状品を作成した。このおしぼり型のロール状品を実施例1と同じ構成の包装材の中に入れた後、80vol%のエタノール水溶液100gに16.7gのチオ硫酸ナトリウムを溶させた薬液を作成し、この薬液を包装材の中に1.47g注入し、ロール状繊維シートに均一に薬液が含浸された薬液シートを作成した。この薬液シートを構成するシート(A)、チオ硫酸ナトリウム(B)およびエタノール水溶液(C)の重量比率は、A:B:C=1:0.35:1.75である。
【0038】
この薬液含浸シートを用いて前述した評価方法にてポピドンヨード液の拭き取り性能、消毒性及び脱落繊維の有無を評価した。評価結果を表1に示した。
表1から明らかなように本発明の薬液含浸シートは、ポピドンヨード液の脱色性や消毒性及び拭き取り性が良好で、脱落繊維が極めて少ない。
【0039】
(実施例4)
長さ8mmにカットした平均単繊度1.7dtexのビスコースレーヨン繊維65wt%と長さ12mmにカットした平均単繊度1.0dtexのポリエステル繊維35wt%とを水中に分散させ均一スラリーとして、長網式抄紙機により目付50g/m2の繊維抄造シートを製造した。この抄造シートを80メッシュの金網の上に置き、直径0.15mm、ピッチ0.8mmの一列ノズルから7.5kg/cm2の水圧で水を噴霧し、20m/分の速度で移動しながら柱状流パンチングした。この操作を5回繰り返し繊維交絡シートとした後、80℃のピンテンター式熱風乾燥機で乾燥して不織布状シートを作成した。
この不織布シートを実施例2と同様な方法で、12.5cm×12.5cmの四つ折り品30枚を作成した。30枚重なったシートの重量は95gであった。
【0040】
次に、実施例2と同一の包装材に収納した後、実施例2と同一の薬液を250g注入し、シートに薬液が含浸された薬液シートを作成した。この薬液シートを構成するシート(A)、チオ硫酸ナトリウム(B)およびエタノール水溶液(C)の重量比率は、A:B:C=1:0.26:2.5である。
この薬液含浸シートを用いて前述した評価方法にてポピドンヨード液の拭き取り性能及び脱落繊維の有無を評価した。評価結果を表1に示した。
表1から明らかなように本発明の薬液含浸シートは、ポピドンヨード液の脱色性や拭き取り性が良好で、脱落繊維が極めて少ない事が判る。
【0041】
(比較例)
直径が20mm、重量0.5g/個の市販の綿球(脱脂綿100%)を10個準備し、この10個の綿球をビーカーに入れた後、実施例1で作成したチオ硫酸ナトリウムとアルコール水溶液を12.5g注入し、綿球に均一に薬液が含浸した綿球を作成した。この薬液含浸綿球、チオ硫酸ナトリウムおよびアルコール水溶液の重量比率は、1:0.13:2.5である。
薬液が含浸された綿球を用いて前述した評価方法にてポピドンヨード液の拭き取り性能及び脱落繊維の有無を評価した。評価結果を表1に示した。
表1から明らかなように本発明の薬液含浸シートは、ポピドンヨード液の脱色性や拭き取り性に劣り、脱落繊維も極めて劣る事が判る。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ポピドンヨード液の脱色効果に優れ、かつ拭き取り性に優れた繊維屑の発生がほとんどない薬液含浸シートを得る事が出来るので、産業上の利用可能性は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含有したシートに、チオ硫酸ナトリウムおよびアルコー水溶液を含浸させた事を特徴とする薬液含浸シート。
【請求項2】
シートのセルロース繊維の含有率が50wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の薬液含浸シート。
【請求項3】
シートが不織布である事を特徴とする請求項1または2に記載の薬液含浸シート。
【請求項4】
薬液含浸シートを構成するシート、チオ硫酸ナトリウムおよびアルコー水溶液の重量比率が、1:0.01〜0.4:1.5〜3.5の比率からなる事を特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬液含浸シート。
【請求項5】
シートが再生セルロース又は精製セルロースの繊維からなる長繊維不織布であることを特徴とする請求項3または4に記載の薬液含浸シート。
【請求項6】
パウチ式容器、ボトル式容器またはおしぼりタイプの包装袋に収納されている事を特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬液含浸シート。
【請求項7】
アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬液含浸シート。

【公開番号】特開2010−189814(P2010−189814A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36856(P2009−36856)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】