説明

薬液容器

【課題】排出用弱シール部の接合強度を仕切り用弱シール部の接合強度より向上させたコスト安の薬液容器を提供すること。
【解決手段】仕切り用弱シール部を介して連設される複数の薬液収納室の内の1つが口部を有する空室と排出用弱シール部を介して連設されてなる薬液容器である。前記空室に連設される薬液収納室には、前記排出用弱シール部の接合強度を向上させるためのフィルム材が、前記排出用弱シール部の全周又は片面に該排出用弱シール部に隙間なしに隣接して貼り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め配合しておくと経時変化を起こすような不安定な各種薬液を個別に分別収納しておき、投与時にこれらを無菌的に混合するように使用される薬液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
静脈注射により患者に投与される薬剤の中には、予め配合しておくと好ましくない経時変化を起こすような不安定な薬剤がある。例えばアミン酸輸液とブドウ糖輸液とを配合して保存しておくと、いわゆるメイラード反応によって混合液が褐変する。また、脂肪乳剤と電解質溶液を配合して保存すると脂肪分が凝集を生じ、リン酸含有液とカルシウム含有液を配合しておくとリン酸カルシウムの沈殿を生じ好ましくない変化を起こす。
【0003】
このような薬剤には、混合前の成分をそれぞれ個別に収納する複室容器が用いられることが多い。この複室容器は、個別に薬剤を収納する複数の収納室を設け、その収納室間に、外部から圧力を加えることにより開通し得る仕切り用弱シール部を備えたものである。このような複室容器は、使用時まで薬剤を仕切り用弱シール部によって隔離された状態に保持し、投与時に混合すべき薬液を無菌的に混合できる構成になっているが、最近、仕切りを開通するのを失念し、誤って1室のみの薬液を投与してしまうようなトラブル(医療事故)が発生する危険性が指摘され始めている。
【0004】
そこで、このようなトラブルの発生を未然に防止するために、確実に各収納室に収納されている薬剤を混合した後に投与するようにした医療用複室容器が提案されている。例えば、複数の収納室を仕切り用弱シール部を介して連設すると共に、少なくとも一つの収納室と排出口との間に排出用弱シール部を設け、その排出用弱シール部のシール強度(接合強度)を仕切り用弱シール部よりも大に設定した医療用複室容器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この医療用複室容器では、各収納室を押圧して薬剤を混合する際に、仕切り用弱シール部が排出用弱シール部より先に開通するので、排出用弱シール部のみが開通するのを防止することができ、これにより誤投与を防止できるとされている。
【0005】
また、排出用弱シール部のシール強度を仕切り用弱シール部よりも小に設定した医療用複室容器も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この医療用複室容器では、投与時に、まず、排出口から離れた側の収納室を押圧して仕切り用弱シール部を開通させることにより薬剤を混合し、次いで、全体を押圧して排出用弱シール部を開通させる際に、排出用弱シール部のシール強度を小に設定しているため、開通させやすくなる利点があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−136570号公報
【特許文献2】特開2003−159310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記2つの従来例のように、仕切り用弱シール部と排出用弱シール部の間に、シール強度の差を設定する場合には、そのシール幅や加熱時間、加熱温度、加圧力等を設定するための設計条件が複雑になり、また、製作のプロセスも複雑化するためコスト高になるという問題があった。例えば、シール強度を向上させるためにシール幅を大に設定すると収納室の容積が小さくなるという問題があり、シール強度を強化するために加熱時間を長くすると生産性が低下するという問題があった。
【0008】
特に、異なる薬液がそれぞれ収納される複数の薬液収納室が仕切り用弱シール部を介して連設され、かつ、その薬液収納室の内の1つに口部を有する空室が排出用弱シール部を介して連設される薬液容器では、たとえ空室に隣接する側の薬液収納室が押圧された場合でも、仕切り用弱シール部より先に排出用弱シール部が開通してしまうことのないように、排出用弱シール部のシール強度(フィルム同士の接合強度)を確実に向上させることができる簡易かつ確実な手段が求められる。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑み、排出用弱シール部の接合強度を仕切り用弱シール部の接合強度より向上させたコスト安の薬液容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の薬液容器は、仕切り用弱シール部を介して連設される複数の薬液収納室の内の1つが口部を有する空室と排出用弱シール部を介して連設されてなる薬液容器であって、前記空室に連設される薬液収納室には、前記排出用弱シール部の接合強度を向上させるためのフィルム材を、前記排出用弱シール部に隙間なく隣接してその全周又は片面に貼り付けたことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、ヒートシール又は接着剤による接着等によってフィルム材を排出用弱シール部に隙間なく隣接してその全周又は片面に貼り付けるだけの簡単な加工によって、排出用弱シール部を効果的に補強することができ、その接合強度を確実に向上させることができる。これにより、薬液の投与時には、どの薬液収納室を押圧してもまず仕切り用弱シール部が先に開通し、従来のように、排出用弱シール部が先に開通してしまうようなトラブルの発生を防ぐことができる。このように薬液収納室にフィルム材を貼り付けるだけで弱シール部を確実に補強することができるので、その設計や製作が容易でありコスト安に提供することができる。ヒートシールによる貼り付けでは、ヒートシール性のある熱可塑性のフィルム材が選択されればよく、接着剤による接着ではヒートシール性や熱可塑性は要件とされず適宜な素材が選択されてよい。
【0012】
(2)前記排出用弱シール部には、開通を容易とするための易開通部分を設けてもよい。このようにすれば、仕切り用弱シール部を開通させた後では閉鎖空間が拡がっているが、排出用弱シール部に易開通部分を設けているため、薬液容器の全体を押圧して排出用弱シール部を容易に開通させることができる。
【0013】
(3)前記フィルム材は、前記薬液収容室の各面の全面を覆う2枚の四角形状に形成することができる。
【0014】
(4)前記易開通部分は、前記薬液収納室に向けて連続した凹凸状に形成されてもよい。このようにすれば、薬液収納室に押圧力が作用したときに、その凹部と凸部の間で作用する押圧力に差が生じ、凸部の端縁部分に作用する総圧力が他の領域(凹部)よりも大になるため、その端縁部分から剥離しやすくなる。
【0015】
(5)前記易開通部分は、前記薬液収容室に向けて突出状に形成されてもよい。このようにしても、薬液容器が押圧された時に突出端周辺に作用する総圧力は、排出用弱シール部の他の領域よりも大になるため、その突出端から剥離しやすくなる。
【0016】
(6)前記突出状に形成される易開通部分が複数設けられてもよい。このようにすれば、より一層剥離しやすくなる。
【0017】
(7)前記易開通部分は、V字状に形成され、その頂角が20°〜150°に設定されてもよい。このような角度に頂角を設定すれば頂部から容易に剥離させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る薬液容器は、薬液収納室にフィルム材をヒートシール又は接着剤による接着等によって排出用弱シール部に隙間なく隣接してその全周又は片面に貼り付けるだけの簡単な加工によって、排出用弱シール部を効果的に補強することができ、その接合強度を確実に向上させることができる。これにより、薬液の投与時には、どの薬液収納室を押圧してもまず仕切り用弱シール部を先に開通させることができ、誤って排出用弱シール部を仕切り用弱シール部より先に開通させてしまうようなトラブルの発生を防止することができる。また、薬液収納室にフィルム材を貼り付けるだけで弱シール部を確実に補強することができるので、その設計や製作が容易であり、コスト安に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る薬液容器の正面図。
【図2】同薬液容器の断面図で、図1のA−A線矢視断面図。
【図3】(a)は同易開通部分の拡大説明図、(b)は(a)のC−C線矢視断面である。
【図4】同フィルム材による弱シール部の補強効果を確認するための実験結果を示す説明図。
【図5】本発明の異なる実施の形態に係る薬液容器の正面図。
【図6】(a)は同易開通部分の拡大説明図、(b)は(a)のE−E線矢視断面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る薬液容器について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は薬液容器の正面図、図2は断面図である。この薬液容器は2枚のフィルムの周縁部を熱融着して袋状に形成され、符号1,3は混合すべき各種薬液を収納する薬液収納室、2は薬液収納室1,3間に設けられる仕切り用弱シール部、4は薬液収納室3の他端側に設けられる排出用弱シール部、5は無菌状態の空室、6は排出用の口部であり、その薬液収納室1には、排出用弱シール部4の接合強度を向上させるためのフィルム材7が、排出用弱シール部4に連係されてヒートシール又は接着剤による接着等によって貼り付けられている。即ち、フィルム材7の両側縁71,71を薬液収納室3の両側縁に貼り付けると共に、貼り付け部分72を排出用弱シール部4に重合させて貼り付けている。
【0021】
上述の排出用弱シール部4には、開通を容易とするための易開通部分8が設けられている。その易開通部分8は、薬液収納室3に向けて連続した凹凸状に形成されている。排出用弱シール部4にこのような易開通部分8を形成することによって、薬液収納室3に押圧力を作用させたときに、図3(a)(b)に示すように、凸部4aと凹部4bの間で圧力差が生じ凸部4aの端縁に作用する総圧力が他の領域(凹部4b)よりも大になるため、その凸部4aの頂点Pを含む突出端部Bの辺りから剥離しやすくなる。即ち、仕切り用弱シール部2を開通させた後押圧される容積が拡大しても小さい押圧力で突出端部Bの外側から排出用弱シール部4を容易に開通させることができる。
【0022】
そして、上述のように、薬液収納室3に貼り付けるフィルム材7の貼り付け部分72を、連続した凹凸状に形成される易開通部分8を避けた排出用弱シール部4の空室5側の部分に重ね合わせている。そのフィルム材7の貼り付け(ヒートシール)による補強効果については実験によって確認されている。その実験結果を図6に示す。
【0023】
その実験結果では、サンプル3のように、フィルム材7の貼り付け部分(実験ではバリアシール位置として示す)72を排出用弱シール部(実験ではEPSシール部として示す)4の排出側に重合させた場合には、仕切り用弱シール部2を開通させた後に、薬液容器の全体を押圧した際に容易に開通せず、充分な補強効果があったことが確認されている。なお、この実験では、排出用弱シール部4に易開通部分8を設けておらず、補強効果のみを確認している。
【0024】
その他のサンプル2,4では、サンプル3程ではないが手応えのある補強効果が認められた。なお、サンプル2では、貼り付け部分72を排出用弱シール部4の排出側に隙間なく隣接させており、サンプル4では、貼り付け部分72を排出用弱シール部4の薬液収容室3側に重ね合わせている。貼り付け部分72を排出用弱シール部4の排出側に5mmの間隔をおいて貼り付けたサンプル1、及び貼り付け部分72を排出用弱シール部4の薬液収容室3側に隣接させたサンプル5では補強効果が低かったが容易には開通しなかった。また、貼り付け部分72を排出用弱シール部4の薬液収容室3側に5mmの間隔をあけたサンプル6では補強効果がなく容易に開通してしまった。以上の結果から、サンプル2,3,4を最良の形態として採用できることを確認することができた。
【0025】
このように排出用弱シール部4をフィルム材7で補強しているため排出用弱シール部4のフィルム同士の接合強度が向上されているので、薬液を投与するまでは、外力の作用で不用意に開通するような不具合が防止される。そして、薬液を投与する際には、まず、一方の薬液収容室1に押圧力を作用させることによって仕切り用弱シール部2を開通させて薬液同士を混合し、その混合状態を確認した後で全体を押圧することで易開通部分8を開通させて薬液を投与することができる。このように薬液収容室3にフィルム材7を貼り付ける薬液容器は、その設計や製作が容易であるため、コスト安に提供することができる。また、この薬液容器では、薬液収納室3と排出用弱シール部4を介して口部6を有する空室5を連設しているため、必ず薬液同士が混合された状態で空室5を介して投与されるので、誤った投与の発生を防ぐことができる。また、対環境性については何ら問題なく廃棄処分が容易であるのは言うまでもない。
【0026】
図5,図6は異なる実施の形態を示し、この例では、排出用弱シール部4に設ける易開通部分8をV字状に突出した形状としている。このような易開通部分8では、薬液容器が押圧されると、図6(a)(b)に示すように、矢印で示す方向に圧力が作用し、頂点Pを含む突出端部Dの外側周辺に作用する総圧力が、排出用弱シール部4の他の領域よりも大になるため、その突出端部Dの外側から剥離しやすくなる。即ち、押圧される容積が拡大しても小さい押圧力で突出端部Dの外側から排出用弱シール部4を容易に開通させることができる。なお、その突出端部Dの頂角は20°〜150°に設定することができる。この場合、易開通部分8の頂点Pの位置が、フィルム材7の貼り付け部分72の内側水平縁72a(図1参照)よりも内側(薬液収容室3の側)にあることが開通を容易とするための要件となる。また、図示は省略するが、このようなV字状の易開通部分8は複数設けられてもよく、その場合には連続して設けることが好ましい。
【0027】
なお、本発明は、実施の最良の形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜、必要に応じて、設計変更や改良等を行うのは自由であり、例えば、フィルム材7は、充分な補強効果が得られる場合には片面だけに貼り付けてもよい。また、ヒートシールによる貼り付けの場合にはヒートシール性のある熱可塑性の素材をフィルム材として選択すればよく、ヒートシール性のないフィルム材を接着剤で貼り付けてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1,3…薬液収納室
2…仕切り用弱シール部
4…排出用弱シール部
5…空室
6…口部
7…フィルム材
72…貼り付け部分
8…易開通部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕切り用弱シール部を介して連設される複数の薬液収納室の内の1つが口部を有する空室と排出用弱シール部を介して連設されてなる薬液容器であって、
前記空室に連設される薬液収納室には、前記排出用弱シール部の接合強度を向上させるためのフィルム材を、前記排出用弱シール部に隙間なく隣接してその全周又は片面に貼り付けた、薬液容器。
【請求項2】
前記排出用弱シール部には、開通を容易とするための易開通部分を設けられている、請求項1に記載の薬液容器。
【請求項3】
前記フィルム材の一端側縁の貼り付け部分を前記排出用弱シール部の口部側に隣接させた、請求項1又は2に記載の薬液容器。
【請求項4】
前記易開通部分は、前記薬液収納室に向けて連続した凹凸状に形成されている、請求項2又は3に記載の薬液容器。
【請求項5】
前記易開通部分は、前記薬剤収容室に向けて突出状に形成された、請求項2又は3の何れかに記載の薬液容器。
【請求項6】
複数の易開通部分が前記突出状に形成された、請求項5に記載の薬液容器。
【請求項7】
前記易開通部分は、V字状に形成され、その頂角が20°〜150°に設定されている、請求項5又は6に記載の薬液容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−157709(P2012−157709A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93413(P2012−93413)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【分割の表示】特願2006−108891(P2006−108891)の分割
【原出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】