説明

薬液注入器

【課題】ボタンを押した際に、従来のような板ばねの弾性力による係止でボタンの復帰を規制する規制手段より、容易な操作で確実に規制できる規制手段を備えた薬液注入器を提供すること。
【解決手段】筐体20内に収納され、薬液が充填されたバルーン30を収縮させて薬液を排出させる加圧機構40を備える。加圧機構40は、バルーン30を押圧するピストン60と、第1ばね41を圧縮させてピストン60を付勢するロックパイプ70と、ロックパイプ70を押すボタン80とを備える。ボタン80を押すと、ロックパイプ70の被当接片71が筐体の案内溝24に沿って移動して、第1ばね41を圧縮させる。そして、ロックパイプ70は、ボタン80の当接片81によって回転され、当接部25によって復帰を規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に薬液を注入するための薬液注入器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療においては、手術等の処理が済んだ後、疼痛を軽減するために患者に対してしばらく鎮痛剤を処方することが多い。通常、カテーテルを用いて、鎮痛剤を含んだ薬液を患者の体内に持続的に注入している。
しかし、患者の症状や体質は様々であり、当初の処方では、時間の経過と共に激しい痛みを訴える者も少なくない。この場合、痛みを緩和するためには、鎮痛剤の一時的な大量投与が必要となる。そして、このようなときに医師や看護師を呼ばずとも、患者自身が鎮痛剤を含んだ薬液を一時的に多く体内に注入できれば、患者の負担が軽減される。
【0003】
このような一時的に薬液を注入するための注入器として、通常の持続的に注入される薬液を保存する保存器とカテーテルとの中間部に設けられるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の注入器は、一時的に注入される量の薬液を貯留するリザーバと、このリザーバを押すためのボタンとを有して構成され、患者がボタンを押すとリザーバに貯留された薬液が体内に注入されるようになっている。
詳細な構成を説明すると、ボタンとリザーバとの間には、プランジャーが介在配置され、プランジャーとボタンとの間には、圧縮ばねが設けられる。ボタンを押した際に、まず、圧縮ばねが収縮され、この圧縮ばねの付勢力で徐々に、プランジャーがリザーバを押し込むようになっている。これによって、所定量の薬液が一定の時間を掛けてリザーバから押し出される。
【0004】
この注入器には、ボタンが押されてから薬液の注入が完了するまで、患者がボタンを押し続けなくてもいいように、押されたボタンの復帰を規制する規制機構が設けられる。
具体的には、リザーバやボタンを収納するハウジングに、板ばねのプレス加工品であるバネキャッチが固定される。このバネキャッチには凸部が形成され、ボタンには凸部に対応する凹部を有する戻り止めが形成される。ボタンが押された際、バネキャッチの板ばねが弾性変形して、凸部が戻り止めの凹部に係止され、ボタンが押下げ位置で保持される。
【0005】
一方、プランジャーには、バネキャッチの係止を解除するためのキャッチリリースが形成されている。キャッチリリースは、バネキャッチと戻り止めとの間に差込まれる差込部を有する。差込部は、プランジャーがリザーバを押し終える位置で、バネキャッチと戻り止めとの間に差込まれるように配置される。バネキャッチと戻り止めとの間に差込部が差込まれると、バネキャッチの板ばねが湾曲され、凸部が戻り止めの凹部から切り離されることで、ボタンが復帰される。
これによって、注入が完了した後、再度リザーバに薬液を貯留して、注入器を繰り返し使用できる。
【0006】
【特許文献1】特表2006−512167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の注入器では、バネキャッチ自体が板ばねのプレス加工品であるため、次のような不都合が生じ易い。
例えば、バネキャッチの弾性率が大きいと、ボタンを押して戻り止めをバネキャッチに係止させる際に、大きな押し力が必要となり、容易にボタンを押すことができなくなる。一方、バネキャッチの弾性率が小さいと、戻り止めとバネキャッチとの係止が不完全になり、ボタンが押下げ位置で保持されず、注入完了まで使用者がボタンを押し続けなければならなくなる。
【0008】
本発明の目的は、ボタンを押した際に、従来のような板ばねの弾性力による係止でボタンの復帰を規制する規制手段より、容易な操作で確実に規制できる規制手段を備えた薬液注入器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の薬液注入器は、基端および先端を有する筐体と、前記筐体内の基端側に収納され、前記筐体外から内部に薬液が充填されて先端側に向かって拡張し、薬液が排出されると基端側に収縮可能に設けられる貯留部と、前記貯留部を加圧して薬液を排出させる加圧機構と、を備える薬液注入器であって、前記加圧機構は、前記筐体内において前記貯留部より先端側の排出開始位置に配置され、前記排出開始位置およびこの排出開始位置より基端側の排出完了位置の間を、前記筐体の基端から先端を結ぶ移動軸に沿って移動可能に設けられるピストンと、前記筐体内において前記ピストンより先端側に配置され、前記ピストンを基端側へ付勢するばねと、前記筐体内において、前記ばねを圧縮して前記ピストンを基端側に付勢する付勢力を保持する保持位置と、前記ばねを圧縮前の状態とする復帰位置との間を、前記移動軸に沿って移動可能に配置される保持部材と、前記筐体内の先端側に配置され、外部から基端に向かって押圧可能で、前記保持部材を前記復帰位置から前記保持位置まで移動させることができるボタンと、を備え、前記保持部材は、前記保持位置において、前記ばねの付勢力を保持したまま前記復帰位置への移動が規制される規制位置まで、前記移動軸を中心に回転可能に設けられ、前記ボタンは、前記保持位置で前記保持部材を前記規制位置まで回転させる回転力発生手段を有し、前記筐体は、前記保持部材が前記復帰位置から前記保持位置まで移動する間、前記保持部材の回転を規制する回転規制手段と、前記保持部材が前記保持位置において前記規制位置まで回転した状態で、前記保持部材の前記復帰位置への移動を規制する復帰規制手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ボタンを押して保持部材を復帰位置から保持位置まで移動させると、ばねが圧縮され、ばねの付勢力によってピストンが基端側に付勢される。これによって貯留部が収縮され、内部の薬液が排出される。
また、保持部材が移動軸を移動する間、回転規制手段が移動軸を中心とする保持部材の回転を規制する。保持部材が保持位置まで移動すると、回転力発生手段が保持部材を規制位置まで回転させ、復帰規制手段が復帰位置への保持部材の移動を規制するので、薬液の排出完了まで使用者がボタンを押し続ける必要がなくなる。
このように保持位置において保持部材が回転することで、復帰位置への移動が規制されるので、ボタンを押した際に、従来のような板ばね等の弾性力による係止でボタンの復帰を規制する規制手段と比べて、ボタンを押す力が大きくなることもなく、また、保持部材の規制が不完全となることもなく、容易な操作で確実にボタンの復帰を規制することができる。
【0011】
本発明の薬液注入器では、前記回転力発生手段は、当接片を有し、前記保持部材は、前記当接片と当接する被当接片を有し、前記回転規制手段は、前記移動軸に沿って形成され、前記被当接片を案内する案内溝を有し、前記復帰規制手段は、前記保持部材が規制位置まで回転した状態で、前記被当接片と当接する当接部を有し、前記当接片および被当接片には、互いに当接するとともに、前記移動軸に対して所定の角度で傾斜する傾斜面がそれぞれ形成されることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、ボタンの当接片が保持部材の被当接片と当接した状態で、筐体の案内溝に案内されるので、保持部材が保持位置まで移動する間は、案内溝によって保持部材の回転が規制される。保持部材が保持位置まで移動すると、当接片の傾斜面が被当接片の傾斜面を回転する方向に押す。すなわち、ボタンを押す力が、互いに当接する傾斜面間のすべりによって、保持部材を回転させる力に変換される。これによって、保持部材が規制位置まで回転され、被当接片が筐体の当接部と当接し、保持部材の復帰位置への移動が規制される。従って、当接片、被当接片、案内溝、および、当接部という簡単な構成を用いて、当接片および被当接片に傾斜面を形成するだけで、前述のボタンの復帰を規制する構成を実施することができる。
【0013】
本発明の薬液注入器では、前記保持部材が前記保持位置で規制位置まで回転した状態で、かつ、前記ピストンが前記排出完了位置まで移動した場合に、前記規制位置から前記保持部材を回転させて前記復帰位置への移動の規制を解除する解除機構を備えることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、まず、ピストンの付勢によって貯留部から薬液が排出されると、ピストンが排出完了位置まで移動して薬液の排出が完了する。すると、解除機構が、保持部材を回転させて保持部材の規制を解除するので、保持部材が移動軸に沿って復帰位置まで移動することができる。このようにして、再度、収縮した貯留部を拡張させて、貯留部に薬液を充填させることができる。
ここで、従来のバネキャッチを用いた注入器では、バネキャッチの板ばねを強制的に弾性変形させてバネキャッチの係止を解除するためのキャッチリリースが設けられているが、注入器を繰り返し使用すると、板ばねが塑性変形してバネキャッチの原状回復力が低下してしまい、戻り止めとの係止が不十分となる場合がある。
これに対して、本発明の構成によれば、解除機構が、保持部材を逆方向に回転させて保持部材の規制を解除するので、従来のように繰り返しの使用による保持部材の規制が不十分になるようなことが生じず、耐久性にも優れた規制手段を具備することができる。
【0015】
本発明の薬液注入器では、前記解除機構は、前記保持部材に設けられた突部と、前記ピストンに設けられた解除用傾斜面とを有し、前記突部は、前記保持部材が前記保持位置の状態では、前記解除用傾斜面と当接しない位置に設けられ、前記保持部材が前記規制位置まで回転された状態では、前記解除用傾斜面と当接可能な位置まで回転移動され、前記ピストンが前記排出開始位置から前記排出完了位置まで移動した場合に、前記傾斜面が前記突部に当接して、前記保持部材を前記規制位置から前記保持位置まで回転させることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、保持部材に突部を形成し、ピストンに解除用傾斜面を形成するという簡単な構成を用いるだけで、前述のボタンの規制を解除する構成を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る薬液注入器1の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
本発明に係る薬液注入器1は、患者自身が自己の体内に薬液を注入するためのものであり、図1は、本発明に係る薬液注入器1を用いて構成される薬液自己注入システム10を示す。
薬液自己注入システム10は、薬液注入器1と、薬液を保存する保存器2と、保存器2から薬液注入器1に薬液を送る供給チューブ3と、薬液注入器1からカテーテル(不図示)に薬液を送る排出チューブ4と、を備えて構成される。
【0018】
保存器2は、薬液注入器1に供給する薬液を保存する容器であり、内部には所定の薬液が充填された保存用バルーン5を備える。保存用バルーン5は、材料としてエラストマーが選択されることが好ましく、この例においてはシリコーンゴムが選択されている。保存器2は、保存用バルーン5の収縮力によって、内部に充填された薬液を供給チューブ3に送るようになっている。
【0019】
[薬液注入器1の全体構成]
図2は、薬液注入器1の内部構成を示す縦断面図である。
薬液注入器1は、患者が片手で持てる程度の大きさの略筒状に形成され、ABS等の合成樹脂製の筐体20と、筐体20内部に収納され薬液の貯留部としてのバルーン30と、バルーン30を押込んで薬液を排出するための加圧機構40とを備える。
【0020】
筐体20は、略筒状に形成され、基端に供給チューブ3と排出チューブ4とを内部に挿通して固定するソケット21を有し、先端に、ボタン80を押下げるための開口部22を有する。
筐体20内の略中央部には、基端側から先端側に伸びる筒状のシリンダケース50が配置される。シリンダケース50の先端側は開口されており、基端側は底板51によって閉塞されている。
底板51には、貫通する孔である薬液の入口流路52(図中の上側の孔)および出口流路53(図中の下側の孔)が形成される。筐体20内の基端側には、外部から挿通された供給チューブ3と入口流路52とを連通する入口導管11が収納され、また、外部から挿通された排出チューブ4と出口流路53とを連通する出口導管12が収納される。
【0021】
バルーン30は、シリンダケース50内の基端側に収納され、入口流路52および出口流路53の開口を覆う袋状の弾性部材である。バルーン30は、保存用バルーン5(図1)と同様に例えばシリコーンゴムで形成される。入口流路52から薬液が内部に充填されると、バルーン30は、シリンダケース50内を先端側に向かって袋状に拡張し、所定量の薬液を保持するようになっている。また、後述する加圧機構40によって押圧されると、バルーン30は、基端側に収縮して、薬液を出口流路53から排出するようになっている。
【0022】
[加圧機構40の構成]
図2に示すように、加圧機構40は、筐体20内においてバルーン30よりも先端側に収納されており、バルーン30を押圧するピストン60と、保持部材としての筒状のロックパイプ70と、筐体20外に突出する円筒状のボタン80とを有して構成され、これらの部材が筐体20内のバルーン30から筐体20の先端までの間に並設される。ピストン60とロックパイプ70との間には、第1ばね41が圧縮状態で配置され、ボタン80とロックパイプ70との間には、第2ばね42が圧縮状態で配置される。ロックパイプ70の外周には、リターンリング90が、筐体20の先端から基端を結ぶ軸中心に回転可能に、筐体20に支持される。
【0023】
ピストン60は、ピストン本体61と、後述する解除機構としての解除棒62とを有する。ピストン本体61は、第1ばね41の付勢力をバルーン30に加えるためのもので、基端側に半球状の押圧面63を有する円筒状に形成される。ピストン本体61は、シリンダケース50内をバルーン30と接触した状態で、先端側から基端側に移動可能に設けられる。ピストン60は、拡張した状態のバルーン30に押圧面63が接触する排出開始位置と、バルーン30を収縮させて薬液の排出が完了する排出完了位置との間を進退できるようになっている。
【0024】
筐体20には、ピストン本体61が移動軸を中心に回転することを規制するための回転止め溝23が形成される。回転止め溝23は、シリンダケース50の外周における筐体20の内面に、ピストン60の移動軸に沿って設けられる。
ピストン本体61の先端側端部の外周には、回転止め溝23に向かって突出する被案内片64が形成される。被案内片64は、シリンダケース50が有する移動軸に沿ったスリット54を貫通して、回転止め溝23内に案内される。
【0025】
ロックパイプ70は、筐体20内にピストン60よりも先端側に収納される。ロックパイプ70は、筐体20内をピストン60の移動軸に沿って移動可能に支持される。ロックパイプ70が基端側に移動すると、ピストン60との間に介在配置される第1ばね41を圧縮しながら、ピストン本体61の内部に収納されるようになっている。
ロックパイプ70は、第1ばね41を圧縮してピストン60を基端側に付勢する第1ばね41の付勢力を保持する保持位置と、第1ばね41を圧縮前の状態とする復帰位置との間を、進退可能に設けられる。
【0026】
ボタン80は、基端側が開口した円筒状で、筐体20の開口部22から外部に突出している。ボタン80は、例えばポリアミド(PA)等の合成樹脂で形成される。ボタン80は、外部から基端に向かって押圧可能に形成され、第2ばね42を介してロックパイプ70を復帰位置から保持位置まで移動させることができるようになっている。すなわち、ボタン80は、筐体20から最も外部に突出する位置である伸長位置と、筐体20内に押し下げられた押下げ位置との間を進退可能に筐体20によって支持される。
【0027】
図3は、ロックパイプ70、ボタン80およびリターンリング90を示す分解斜視図である。ボタン80とロックパイプ70との間の第2ばね42は、図示を省略している。
ボタン80の基端側の端部には、周方向に180度間隔で、基端側に突出する一対の当接片81が一体形成される。当接片81の突出端には、移動軸に対して斜め45度に傾斜する傾斜面82が形成される。
【0028】
ロックパイプ70の先端側の外周には、周方向に180度間隔で当接片81に対応する位置に、先端側に突出する一対の被当接片71が一体形成される。被当接片71の突出端には、移動軸に対して斜め45度に傾斜する傾斜面72が形成される。この傾斜面72は、対応する当接片81の傾斜面82と互いに当接する向きに形成される。
【0029】
リターンリング90は、ロックパイプ70が挿通されるリング本体91と、リング本体91の先端側に形成され周方向の一部に切欠部93を有する支持部92とを備える。支持部92は、筐体20(図2)に対して移動軸を中心に回転可能に支持される。
リング本体91の内周には、周方向に180度間隔で、ロックパイプ70の被当接片71を係止可能な一対の係止溝94が形成される。また、リング本体91の外周には、後述する解除機構を構成する円柱状の突起95が形成される。
【0030】
図4は、図2において、加圧機構40を構成するロックパイプ70およびボタン80を破断しないで示した縦断面図である。
ボタン80の当接片81およびロックパイプ70の被当接片71は、筐体20の内部に軸方向に形成される案内溝24(図中の2点鎖線で示す)に案内される。この回転規制手段としての案内溝24は、筐体20の先端から移動軸に沿って所定の長さ分だけ形成される。
ボタン80の当接片81は、伸長位置から押下げ位置までを移動する間、この案内溝24に当接片81が案内され、移動軸を中心とする回転が規制される。ロックパイプ70の被当接片71は、復帰位置から保持位置に達するまでの間、案内溝24に案内され、移動軸を中心とする回転が規制されるが、ロックパイプ70が保持位置に達すると、被当接片71が案内溝24の基端側の端部から外れて、ロックパイプ70が規制位置まで回転できるようになっている。
【0031】
案内溝24の基端側には、当接部25が形成される。当接部25は、ロックパイプ70が保持位置において規制位置まで回転した状態で、ロックパイプ70の復帰位置への移動を規制する復帰規制手段として形成される。当接部25は、移動軸に直交する面であって、案内溝24の内側面に連続している。当接部25には、ロックパイプ70が規制位置まで回転した場合に、ロックパイプ70の被当接片71の先端が当接できるように構成されている。
【0032】
[ロックパイプ70が規制されるまでの加圧機構40の動作の説明]
以上のような構成において、ボタン80を押下げた場合の加圧機構40の動作について図面に基づいて説明する。
図4にて、ボタン80が押し下げられると、ロックパイプ70が復帰位置から保持位置まで移動する。この際、当接片81が被当接片71と当接した状態で、筐体20の案内溝24に案内されるので、ロックパイプ70は、保持位置に達するまでは、案内溝24によって回転を規制される。
【0033】
図5は、ボタン80が押し下げられ、ロックパイプ70が保持位置にある状態を示す縦断面図である。
ロックパイプ70によって第1ばね41が圧縮され、第1ばね41の付勢力によってピストン60がバルーン30を押圧する。バルーン30内には薬液が充填されているため、バルーン30が収縮するのに要する時間よりも、ボタン80を押すのに要する時間の方が短くなる。ボタン80が押下げ位置にある状態で、ピストン60がバルーン30を徐々に基端に向かって収縮させる。これによって、バルーン30からの薬液の排出が開始される。なお、ピストン60の押圧力によって、バルーン30を介してシリンダケース50が僅かに基端側に移動する。すると、シリンダケース50の底板51と、筐体20に設けられた逆流防止部材26との間で入口導管11が挟持され、薬液が入口導管11から逆流することが防止される。また、出口導管12に設けられた逆止弁13によって、バルーン30にピストン60の押圧力が作用した場合のみ、出口導管12から薬液が排出されるようになっている。
【0034】
図6は、図5において、ロックパイプ70およびボタン80を破断しないで示した縦断面図である。
ロックパイプ70が保持位置まで移動すると、ロックパイプ70の被当接片71が案内溝24から外れる。同時に、被当接片71の基端側がリターンリング90の係止溝94に係止される。この状態で、さらにボタン80が押下げられると、当接片81の傾斜面82が被当接片71の傾斜面72を回転する方向に押す。すなわち、ボタン80を押す力が、互いに当接する傾斜面72,82間に発生するすべりによって、移動軸を中心にロックパイプ70を回転させる力に変換される。また、被当接片71が係止溝94に係止されるので、ロックパイプ70とリターンリング90が一体となって回転する。
【0035】
図7は、ロックパイプ70が保持位置において規制位置まで回転した状態で、ロックパイプ70およびボタン80を破断しないで示す縦断面図である。
ロックパイプ70が規制位置まで回転され、被当接片71が筐体20の当接部25と当接し、ロックパイプ70の復帰位置への移動が規制される。
【0036】
[解除機構の構成]
次に、復帰位置への移動が規制されたロックパイプ70の規制を解除する解除機構について図面に基づいて説明する。
図8(A)は、図7の状態で、ピストン60およびリターンリング90を破断しないで示した横断面図である。図8(B)は、移動軸に直交する断面で示す図である。図8(A)では、図7の断面方向を移動軸周りに90度回転させた場合の断面を示す。
【0037】
本実施形態における解除機構は、リターンリング90に設けられる突起95と、ピストン60に設けられる解除棒62とを有して構成される。
解除棒62は、ピストン60の先端側の外周から更に先端に向かって延設された部材であり、その端部には、解除用傾斜面65が形成される。解除用傾斜面65は、移動軸に対して斜め45度に傾斜する傾斜面である。
図8(A)に示すように、リターンリング90がロックパイプ70とともに規制位置まで回転した状態では、突起95と解除用傾斜面65とは、移動軸に平行な同軸上に配置される。ピストン60が排出開始位置から排出完了位置まで移動した場合に、解除用傾斜面65が突起95に当接して、ロックパイプ70を移動軸周りに回転させるようになっている。
【0038】
[ロックパイプ70の規制を解除する動作の説明]
以上のような構成において、薬液の排出が完了した場合に、ロックパイプ70の復帰位置への規制を解除する動作について図面に基づいて説明する。
図9は、ピストン60が排出完了位置まで移動した状態を示す縦断面図である。
ピストン60が排出完了位置まで移動すると、バルーン30は完全に収縮され、内部の薬液の排出が完了する。
【0039】
図10(A)は、図9の状態で、ピストン60、ロックパイプ70およびリターンリング90を破断しないで示した横断面図である。図10(B)は、移動軸に直交する断面で示す図である。図10(A)では、図9の断面方向を移動軸周りに90度回転させた場合の断面を示す。
ピストン60が排出完了位置まで移動すると、解除用傾斜面65が突起95を解除棒62から離間する向きに回転させ、リターンリング90を回転させる。同時にロックパイプ70が回転する。すると、ロックパイプ70の被当接片71が、当接部25から外れて案内溝24に案内可能な状態にされる。
このように、解除機構によって、ピストン60が排出完了位置まで移動すると、ロックパイプ70が回転して、復帰位置への移動の規制が解除される。
【0040】
[本実施形態による効果]
本実施形態によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)ロックパイプ70が保持位置まで移動すると、当接片81がロックパイプ70を規制位置まで回転させ、当接部25が復帰位置へのロックパイプ70の移動を規制するので、薬液の排出完了まで使用者がボタン80を押し続ける必要がなくなる。
【0041】
(2)保持位置においてロックパイプ70が回転することで、復帰位置への移動が規制されるので、ボタンを押した際に、従来のような板ばね等の弾性力による係止でボタン80の復帰を規制する規制手段と比べて、ボタン80を押す力が大きくなることもなく、また、ロックパイプ70の規制が不完全となることもなく、容易な操作で確実にボタン80の復帰を規制することができる。
【0042】
(3)当接片81、被当接片71、案内溝24、および、当接部25という簡単な構成を用いて、当接片81および被当接片71に傾斜面82,72を形成するだけで、ボタン80の復帰を規制する構成を実現できる。
【0043】
(4)ピストン60が排出完了位置まで移動すると、同時に、解除棒62が基端側に移動するので、リターンリング90を介してロックパイプ70が回転して復帰位置への規制が解除される。このようにして、再度、収縮したバルーン30に薬液を充填させることができる。
【0044】
(5)従来のバネキャッチを用いた注入器では、バネキャッチの板ばねを強制的に弾性変形させてバネキャッチの係止を解除するためのキャッチリリースが設けられているが、注入器を繰り返し使用すると、板ばねが塑性変形してバネキャッチの原状回復力が低下してしまい、戻り止めとの係止が不十分となる場合がある。これに対して、本実施形態のように、ロックパイプ70を回転させて、復帰位置への復帰を規制するとともに、解除機構によりロックパイプ70を逆方向に回転させて規制を解除するので、従来のように繰り返しの使用によるロックパイプ70の規制が不十分になるようなことが生じず、耐久性にも優れる。
【0045】
[本発明の変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、保持部材としてロックパイプ70を用いて、ロックパイプ70が保持位置にて規制位置まで回転する際に、リターンリング90と一緒に回転するという説明をしたが、リターンリング90がない構成としてもよい。この場合、リターンリング90に形成される突起95は、ロックパイプ70に設けられてもよい。
ロックパイプ70の復帰規制手段としては、当接部25に限らず、ロックパイプ70が回転した場合に、移動軸方向の移動を規制できる構成であればよい。
また、解除機構を備えず、保持部材の回転規制手段だけを備えていてもよい。
【0046】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば、患者が痛みを感じたときに、鎮痛薬の一定量の投与を患者が管理できるPCA(Patient Controlled Analgesia)に用いる薬液注入器として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薬液注入器を用いて構成される薬液自己注入システムを示す図。
【図2】前記薬液注入器の内部構成を示す縦断面図。
【図3】前記薬液注入器の加圧機構の一部を示す分解斜視図。
【図4】図2において、前記加圧機構の一部を破断しないで示す縦断面図。
【図5】前記加圧機構の保持部材が保持位置にある状態を示す縦断面図。
【図6】図5において、前記加圧機構の一部を破断しないで示す部分縦断面図。
【図7】前記保持部材が保持位置において回転した状態を示す部分縦断面図。
【図8】図7において、前記加圧機構の一部を破断しないで示す部分横断面図、および、移動軸に直交する断面で示す図。
【図9】前記加圧機構のピストンが排出完了位置まで移動した状態を示す縦断面図。
【図10】図9において、前記加圧機構の一部を破断しないで示す部分横断面図、および、移動軸に直交する断面で示す図。
【符号の説明】
【0049】
1…薬液注入器、20…筐体、24…案内溝(回転規制手段)、25…当接部(復帰規制手段)、30…バルーン(貯留部)、40…加圧機構、41…第1ばね(ばね)、60…ピストン、65…解除用傾斜面(解除機構)、70…ロックパイプ(保持部材)、71…被当接片、72…被当接片の傾斜面、80…ボタン、81…当接片(回転力発生手段)、82…当接片の傾斜面、95…突部(解除機構)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端および先端を有する筐体と、
前記筐体内の基端側に収納され、前記筐体外から内部に薬液が充填されて先端側に向かって拡張し、薬液が排出されると基端側に収縮可能に設けられる貯留部と、
前記貯留部を加圧して薬液を排出させる加圧機構と、を備える薬液注入器であって、
前記加圧機構は、
前記筐体内において前記貯留部より先端側の排出開始位置に配置され、前記排出開始位置およびこの排出開始位置より基端側の排出完了位置の間を、前記筐体の基端から先端を結ぶ移動軸に沿って移動可能に設けられるピストンと、
前記筐体内において前記ピストンより先端側に配置され、前記ピストンを基端側へ付勢するばねと、
前記筐体内において、前記ばねを圧縮して前記ピストンを基端側に付勢する付勢力を保持する保持位置と、前記ばねを圧縮前の状態とする復帰位置との間を、前記移動軸に沿って移動可能に配置される保持部材と、
前記筐体内の先端側に配置され、外部から基端に向かって押圧可能で、前記保持部材を前記復帰位置から前記保持位置まで移動させることができるボタンと、を備え、
前記保持部材は、前記保持位置において、前記ばねの付勢力を保持したまま前記復帰位置への移動が規制される規制位置まで、前記移動軸を中心に回転可能に設けられ、
前記ボタンは、前記保持位置で前記保持部材を前記規制位置まで回転させる回転力発生手段を有し、
前記筐体は、前記保持部材が前記復帰位置から前記保持位置まで移動する間、前記保持部材の回転を規制する回転規制手段と、前記保持部材が前記保持位置において前記規制位置まで回転した状態で、前記保持部材の前記復帰位置への移動を規制する復帰規制手段と、を有することを特徴とする薬液注入器。
【請求項2】
請求項1に記載の薬液注入器において、
前記回転力発生手段は、当接片を有し、
前記保持部材は、前記当接片と当接する被当接片を有し、
前記回転規制手段は、前記移動軸に沿って形成され、前記被当接片を案内する案内溝を有し、
前記復帰規制手段は、前記保持部材が規制位置まで回転した状態で、前記被当接片と当接する当接部を有し、
前記当接片および被当接片には、互いに当接するとともに、前記移動軸に対して所定の角度で傾斜する傾斜面がそれぞれ形成される
ことを特徴とする薬液注入器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薬液注入器において、
前記保持部材が前記保持位置で規制位置まで回転した状態で、かつ、前記ピストンが前記排出完了位置まで移動した場合に、前記規制位置から前記保持部材を回転させて前記復帰位置への移動の規制を解除する解除機構を備えることを特徴とする薬液注入器。
【請求項4】
請求項3に記載の薬液注入器において、
前記解除機構は、前記保持部材に設けられた突部と、前記ピストンに設けられた解除用傾斜面とを有し、
前記突部は、前記保持部材が前記保持位置の状態では、前記解除用傾斜面と当接しない位置に設けられ、前記保持部材が前記規制位置まで回転された状態では、前記解除用傾斜面と当接可能な位置まで回転移動され、
前記ピストンが前記排出開始位置から前記排出完了位置まで移動した場合に、前記傾斜面が前記突部に当接して、前記保持部材を前記規制位置から前記保持位置まで回転させることを特徴とする薬液注入器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−131443(P2009−131443A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310067(P2007−310067)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000103600)オーベクス株式会社 (12)
【Fターム(参考)】