説明

薬液用配管チューブ

【課題】
酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用した過酷な洗浄を繰り返した場合であっても、継手部や曲がり部等の応力が作用している箇所において薬液用配管チューブ内面に劣化が生じ難いシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを提供する。
【解決手段】
シリコーンゴム組成物からなる薬液用配管チューブであって、応力を負荷しない状態で、30質量%水溶液の酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用し、2160時間浸漬させて測定される浸漬前後の引張強度及び硬さの変化率が±5%以内となるシリコーンゴム製の薬液用配管チューブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工透析機器やその他の医療用機器の薬液用配管チューブに関し、より詳しくは、酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用し薬液用配管チューブ内を洗浄した場合においても、劣化が起こり難いシリコーンゴム製の薬液用配管チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工透析機器やその他の医療用機器の長期間の使用により、その配管中にスケール(主として炭酸カルシウム)が蓄積することが知られている。従来、このようなスケールを除去するために、無機酸水溶液や酢酸水溶液、或いは、過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を配合した無機酸系水溶液が酸系スケール除去剤(洗浄液)として用いられている。
【0003】
しかし、これら従来の無機酸系のスケール除去剤(洗浄液)は、機器の金属部分を腐食し、強烈な刺激臭があり、人体及び環境に悪影響を及ぼす(排水のBOD負荷が大きい等)等の問題点を有していた。そのため、最近では、無臭で、分解後は無毒な水と二酸化炭素になり排水処理も一般の活性汚泥生物処理が行えるといった、取り扱いが容易で安全性の高いスルファミン酸及び有機カルボン酸を必須成分として含有する有機酸系のスケール除去剤が洗浄液として使用され始めている(特許文献1を参照のこと)。
【0004】
これらの酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用して人工透析機器等に使用されているシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内を洗浄する場合には、ときおり洗浄効果を高めるために、内部に洗浄液を長時間封入する洗浄(例えば24時間封入)や通常使用される洗浄液濃度(例えば5質量%以下水溶液)より高い濃度(例えば30質量%水溶液)を使用した洗浄等が行われることがある。
これらの過酷な洗浄を繰り返すことにより、継手部や曲がり部等のように応力が作用している箇所において、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面に白濁やひび割れ、亀裂等の劣化が発生することがあった。特に劣化が著しい場合には、亀裂箇所より液漏れが生じ、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブを交換しなければならないといった問題もあった。具体的にはこのような過酷な洗浄を20〜30回程度行うと、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブが劣化する為、所望の機能を十分に発揮することができなくなる。ここでいう過酷な洗浄とは、30質量%水溶液の酸系スケール除去剤(洗浄液)を用い、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内に前記の洗浄液を24時間封入しスケールを溶解させ、24時間後に洗浄液を抜き取り、さらに水でシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内を洗浄する方法のことであり、この洗浄を1回とする。(以下、過酷な洗浄という。)
【特許文献1】特開2000−64069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、以上のような従来の問題点を解消すべく、酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用した過酷な洗浄を繰り返した場合であっても、継手部や曲がり部等の応力が作用している箇所において薬液用配管チューブ内面に劣化が生じ難いシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
過酷な洗浄において酸系スケール除去剤(洗浄液)に接触すると、シリコーンゴムであっても物性が変化する。その際、応力が作用していると表面の劣化が生じ易いことが明らかになった。本発明では、物性の変化を判断する手段として引張強度及び硬さの変化を用いれば、表面の劣化が生じ易いか否かを判別できることを見出した。しかし、この引張強度及び硬さの変化を精度よく応力を作用させつつ測定することは容易でない。そこで、引張強度及び硬さの変化を応力が作用しない状態で測定することにより、応力が作用した状態における表面の劣化を予測できることを更に見出し、この発明に到達した。
そこで、この発明は、上記課題を実現するために以下の手段を採用した。
請求項1に記載の発明は、シリコーンゴム組成物からなる管壁を備え、酸系スケール除去剤(洗浄液)による洗浄が施される薬液用配管チューブであって、前記シリコーンゴム組成物は、前記管壁相当厚さの片を、応力を負荷しない状態で、30質量%水溶液の酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用し、2160時間浸漬させて測定される浸漬前後の引張強度及び硬さの変化率が±5%以内となることを特徴とする薬液用配管チューブである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記酸系スケール除去剤(洗浄液)は、酢酸水溶液である請求項1に記載の薬液用配管チューブである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記酸系スケール除去剤(洗浄液)は、スルファミン酸及び有機カルボン酸を必須成分として含有する有機酸系水溶液である請求項1に記載の薬液用配管チューブである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記シリコーンゴム組成物は、[1]オルガノポリシロキサン100質量部、[2]BET比表面積250〜350m2/gの微粉状シリカ系充填剤25〜65質量部、[3]白金系触媒を含む加硫剤0.1〜1.7質量部、[4]オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤0.5〜6.6質量部を含有する請求項1に記載の薬液用配管チューブである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、人工透析機器に使用される請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液用配管チューブである。
【0011】
請求項6に記載の発明は、医療用機器に使用される請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液用配管チューブである。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、所定条件下で酸系スケール除去剤(洗浄液)に浸漬した際の引張強度及び硬さの変化率が特定範囲内となるシリコーンゴム組成物により管壁が形成されているので、酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用して、過酷な洗浄を繰り返した場合であっても、継手部や曲がり部等の応力が作用している箇所において、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面に白濁やひび割れ、亀裂等の劣化が発生し難い。その結果、長期間使用しても、薬液の輸送を安定的にかつ確実に行うことができると共に、医療用機器に使用されるシリコーンゴム製の薬液用配管チューブに求められる所望の機能を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態に係るシリコーンゴム製の薬液用配管チューブについて説明をする。
本発明による薬液用配管チューブは、弾性変形可能なシリコーンゴム製の薬液用配管チューブであり、好ましくは医療用途、特に、人工透析機器やその他の医療用機器に好適に用いられるものである。通常、2〜40mm程の外径及び0.8〜5mm程の肉厚を有するものが知られている。
このシリコーンゴム製の薬液用配管チューブは、その弾性を利用して、端部に各種の継手部等の筒状体が嵌挿されたり、曲がり部を含んで配管され、径方向や軸線方向に変形された状態で配置される。一般に、継手部等の筒状体が嵌挿される場合、例えば嵌挿部位及びその近傍においてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内径が101%〜150%に拡径された状態となる。また、曲がり部を含んで配管される場合、曲がり部における軸線の曲率半径は10〜300mm程で、例えば外径に対して10倍以下で配管されることがあり、5倍以下となることもある。この曲がり部ではシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの折れ曲がりが生じると流路が扁平形状となって輸送液量が減少するが、管壁の弾性により折れ曲がりは防止される。そのため、これらの部位では、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブの管壁に局部的に引張応力、圧縮応力、曲げ応力等の各種の応力が作用した状態で配置されることになる。
【0014】
このようなシリコーンゴム製の薬液用配管チューブは、各種の薬液を通液するために使用される。本発明の場合、このような薬液が複数回、通常2〜5回程度繰り返して通液されると共に、定期的に或いは任意に、薬液通液期間と薬液通液期間との間で、酸系スケール除去剤(洗浄液)を用いた洗浄が実施される。
シリコーンゴム製の薬液用配管チューブの洗浄は、一般的にはシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内を水で通水させ洗浄後に、所定の濃度(例えば5質量%以下水溶液)の酸系スケール除去剤(洗浄液)で通液して洗浄し、さらに所定時間(例えば15分〜6時間)
シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内に洗浄液を封入してスケールを溶解させ、所定時間経過後に酸系スケール除去剤(洗浄液)を抜き取り水を通水させ洗浄し、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内に堆積したスケールを溶解し除去させている。しかしながら、ときおり洗浄効果を高めるために、過酷な洗浄が行われることがある。過酷な洗浄とは、30質量%水溶液の酸系スケール除去剤(洗浄液)をシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内に24時間封入してスケールを溶解させ、24時間後に洗浄液を抜き取り、さらに水でシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内を洗浄する方法であり、洗浄効果が非常に高いが、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブにかかる負荷が大きい方法である。
【0015】
このような洗浄に用いる酸系スケール除去剤(洗浄液)としては、無機酸水溶液や酢酸水溶液、或いは、過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を使用した無機酸系水溶液が挙げられる。中でも多くの人工透析機器等で酢酸水溶液が使用されている。酸成分の酢酸は一般的に入手可能な市販品の試薬でよく、適宜水により酸成分濃度が調整された酢酸水溶液が酸系スケール除去剤(洗浄液)として使用される。
【0016】
また、上記の酸系スケール除去剤(洗浄液)の他に、無臭で、分解後は無毒な水と二酸化炭素になり、排水処理も一般の活性汚泥生物処理が行えるといった、取り扱いが容易で安全性の高いスルファミン酸及び有機カルボン酸を必須の酸成分として含有する有機酸系のスケール除去剤(洗浄液)がある。有機酸系のスケール除去剤(洗浄液)としては、例えば、ノンスケールCL(商品名 エーアンドケー(株)製)が挙げられる(特許文献1を参照のこと)。これも適宜水により濃度調整されたノンスケールCL水溶液として使用される。
これら酸系のスケール除去剤(洗浄液)が使用される酸成分濃度は、一般的には0.01〜5質量%水溶液の範囲内であるが、ときおり洗浄効果を高めるために、30質量%水溶液程度まで濃度を高くして使用されることもある。
【0017】
このような用途に使用される本発明の薬液用配管チューブは、管壁が特定のシリコーンゴム組成物から構成されている。
この硬化物は、酸系スケール除去剤(洗浄液)に浸漬されても、浸漬された後の引張強度及び硬さと、浸漬される前の引張強度及び硬さとの変化量(差)は極めて小さい。具体的には、管壁相当厚さの片を、応力を負荷しない状態で、酸系スケール除去剤(洗浄液)、詳細には、30質量%酢酸水溶液または、スルファミン酸及び有機カルボン酸を必須成分として含有する30質量%有機酸系水溶液に、2160時間浸漬させて測定される浸漬前後の引張強度及び硬さの変化率が±5%以内となるものである。浸漬前後の引張強度及び硬さの変化率とは、浸漬前の引張強度及び硬さに対する浸漬後の引張強度及び硬さの差を浸漬前の引張強度及び硬さで除して百分率で示したものである。
この変化率は、まず、管壁相当厚さの片により測定される値である。この管壁相当厚さの片は管壁と実質的に同一の厚さを有していてもよく、使用時にシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ管壁として許容される範囲で近似する厚さを有していてもよい。この管壁相当厚さの片の他の大きさは適宜選択することができる。
また、この変化率は、応力を負荷しない状態で測定される値である。即ち、管壁相当厚さの片に使用状態のような引張応力、圧縮応力、曲げ応力等の特別な外力を与えることなく、酸系スケール除去剤(洗浄液)中に浸漬させて測定される値である。一般に使用状態でシリコーンゴム製の薬液用配管チューブに局部的に作用する各種の応力は、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブの形状、肉厚、使用条件等、各種の理由で一概に予測することが容易でない。そのため、本発明では、応力が作用しない状態の物性の変化であっても応力が作用した状態で起こる表面の劣化を予測できるという知見に基づき、応力を負荷しない状態で変化率を測定している。
【0018】
このようにして測定される引張強度及び硬さの変化率が±5%以内の範囲にあると、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブに対して酸系スケール除去剤(洗浄液)で過酷な洗浄を繰り返しても、継手部や曲がり部等の応力が作用している箇所において、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面に白濁やひび割れ、亀裂等の発生を防止することができる。
また、引張強度及び硬さの変化率が±5%以内であると、苛酷な洗浄を繰返すことにより生じ易い配管途中での折れ曲がり等による輸送液量の減少や継手部からの液漏れ等の発生も防止することができ、薬液の輸送を安定的に、しかも、確実に行うことができる。従って、医療用機器としての使用の信頼性を向上することができる。
このような効果をより一層高い水準で満足させられる点で、引張強度及び硬さの変化率は、±4%以内であるのがより好ましく、±3%以内であるのが特に好ましい。その結果、過酷な洗浄を90回繰返しても、物性変化も劣化等も少なく、長期間安定的に使用することができる。
【0019】
このような薬液用配管チューブは、シリコーンゴム組成物を硬化して製造される。
具体的にはシリコーンゴム組成物は、例えば、前記成分[1]〜[4]を上述のような引張強度及び硬さの変化率が得られるように選択された状態で含有する。
[1]オルガノポリシロキサン100質量部に対し、[2]BET比表面積250〜350m2/gの微粉状シリカ系充填剤を25〜65質量部と、シリカ分散剤等のゴム添加剤を適量に加え、ニーダー等の加熱混練機にて混合し、ベースとなるシリコーンゴムコンパウンドを調製する。このシリコーンゴムコンパウンドに、[3]白金系触媒を含む加硫剤を成分[1]のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1〜1.7質量部、[4]オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤を成分[1]のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.5〜6.6質量部を加え、ミキシングロールにて均一に混練しシリコーンゴム組成物を調製する。次に、このシリコーンゴム組成物を押出機にてチューブ形状に押出し、加熱加硫炉にて所定温度と所定時間で加熱し、付加反応により硬化させ、乾燥機にて所定温度と所定時間で二次加硫し、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形する。この得られたシリコーンゴム製の薬液用配管チューブが、酸系スケール除去剤(洗浄液)に長時間浸漬させても、浸漬前後での引張強度及び硬さの変化率が極めて小さく、かつ、過酷な洗浄を繰返しても継手部や曲がり部等の応力が作用している箇所において、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面に白濁や亀裂、ひび割れ等の問題が発生しないものとなる。
【0020】
成分[1]のオルガノポリシロキサンとしては、チューブ状に押出し可能なものであれば、従来から使用されている公知のものでよい。特に付加反応用に適したものが好ましい。
これは下記平均組成式(1)
【化1】

で示され、式中a=1.90〜2.05、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、フェニル基、トリル基などのアリール基またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノメチル基などのような同一または異種の非置換または置換一価炭化水素基で、好ましくはその80モル%がメチル基であり、0.1〜0.5モル%がビニル基とされるオルガノポリシロキサンをベースとするものであればよい。なお、オルガノポリシロキサンの末端はシラノール基、メチル基、ビニル基で封鎖されたもの、特にはビニル基で封鎖されたものが好ましい。
【0021】
成分[2]の微粉状シリカ系充填剤としては、酸系スケール除去剤(洗浄液)に対する耐久性を向上させるために、BET比表面積250〜350m2/gの微粉状シリカ系充填剤を添加する。ここでBET比表面積とは、BET吸着法により測定される比表面積である。このような微粉状シリカ系充填剤としては、煙霧質シリカ、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ等があるが、異なるBET比表面積を有するシリカが入手しやすく、また優れた機械的強度が得られるヒュームドシリカが好ましい。微粉状シリカ系充填剤はシロキサンまたはシラザン等で表面を疎水化処理してあっても構わない。微粉状シリカ系充填剤のBET比表面積は、250〜350m2/gの範囲であることが好ましい。BET比表面積が250m2/gより小さい微粉状シリカ系充填剤であると、酸系スケール除去剤(洗浄液)に対して、白濁などの外観上の著しい劣化が確認されたり、引張強度や硬度が著しく変化するなどしたりする為に好ましくない。また、BET比表面積が350m2/gより大きい微粉状シリカ系充填剤であると、押出成形性が著しく悪化して収率が低下したりして好ましくない。微粉状シリカ系充填剤の添加量としては、成分[1]のオルガノポリシロキサン100質量部に対し25〜65質量部であるのが好ましい。これより多く添加されたり、また少なく添加されても、押出し成形性が悪くなったり、十分な硬さ及び機械的強度が得られなくなることがあり、33〜53質量部であるのが特に好ましい。
【0022】
成分[3]の白金系触媒を含む加硫剤は付加反応触媒として知られた公知のものでよく、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、塩化白金酸−オレフィン錯体、塩化白金酸−ビニルシロキサン錯体などである。白金系触媒を含む加硫剤の添加量としては、シリコーンゴム組成物を加硫硬化させるのに十分な有効量とすればよく、成分[1]のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1〜1.7質量部であるのが好ましく、0.5〜1.0質量部であるのが特に好ましい。
【0023】
成分[4]のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤は、付加反応架橋剤として知られた公知のものでよく、分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンなどである。オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤の添加量としては、シリコーンゴムを加硫硬化させるのに十分な有効量とすればよく、成分[1]のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.5〜6.6質量部であるのが好ましく、2.0〜4.0質量部であるのが特に好ましい。
【0024】
なお、本発明のシリコーンゴム組成物には、必要に応じてシリコーンゴムに使用される公知の添加剤を本発明の目的を妨げない範囲で添加することができる。例えば、シリカ分散剤としてアルコキシ基、シラノール基などを含有するシランや低分子シロキサン、さらには着色のための顔料、その他通常のシリコーンゴムに使用される添加剤を用途等に応じて適宜用いることができる。
【0025】
シリコーンゴム組成物の各成分の所定量を均一に混合する方法は、公知の方法で差し支えない。これはオルガノポリシロキサン、微粉状シリカ系充填剤、シリカ分散剤等のゴム添加剤を加圧ニーダー、バンバリーミキサーなどを用いて加熱混練しベースとなるシリコーンゴムコンパウンドを調整し、冷却後ミキシングロールなどを用いて付加反応架橋剤、加硫剤等と混練すればよい。
【実施例】
【0026】
以下、この発明に係るシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの実施例及び比較例とその試験結果について説明する。
[実施例1]
両末端がビニル基で封鎖されたビニル基含有量0.15mol%のメチルビニルポリシロキサン100質量部に対し、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカを43質量部、シリカ分散剤として、両末端シラノール基を有するジメチルポリシロキサンを1.0質量部加え、加圧ニーダーで混練し、150℃で2時間加熱処理してベースとなるシリコーンゴムコンパウンドを作製した。このシリコーンゴムコンパウンドに、白金系触媒を含む加硫剤(商品名:C−25A、信越化学工業(株)製)を0.7質量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤(商品名:C−25B、信越化学工業(株)製)を2.9質量部加え、ミキシングロールにて均一に混練しシリコーンゴム組成物を調整した。このシリコーンゴム組成物をスクリュー径50mmの押出機にてチューブ状に押出し、加熱加硫炉にて400℃で10秒間加熱加硫して付加反応により硬化させ、更に乾燥機にて200℃で4時間の二次加硫を行って、外径11mm×内径5mmのシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形した。得られたシリコーンゴム製の薬液用配管チューブに対して、酸系スケール除去剤(洗浄液)として、スルファミン酸及び有機カルボン酸を必須成分として含有する有機酸系のスケール除去剤(商品名:ノンスケールCL、エーアンドケー(株)製)及び酢酸水溶液を使用し、後述する評価試験を実施した。
【0027】
[実施例2]
実施例2は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカをBET比表面積350m2/gのヒュームドシリカに変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0028】
[実施例3]
実施例3は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカをBET比表面積250m2/gのヒュームドシリカに変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0029】
[実施例4]
実施例4は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカを25質量部、白金系触媒を含む加硫剤(商品名:C−25A、信越化学工業(株)製)を0.6質量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤(商品名:C−25B、信越化学工業(株)製)を2.5質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0030】
[実施例5]
実施例5は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカを65質量部、白金系触媒を含む加硫剤(商品名:C−25A、信越化学工業(株)製)を0.8質量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤(商品名:C−25B、信越化学工業(株)製)を3.3質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0031】
[実施例6]
実施例6は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカをBET比表面積400m2/gのヒュームドシリカに変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0032】
[比較例1]
比較例1は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカをBET比表面積200m2/gのヒュームドシリカに変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0033】
[比較例2]
比較例2は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカを15質量部、白金系触媒を含む加硫剤(商品名:C−25A、信越化学工業(株)製)を0.6質量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤(商品名:C−25B、信越化学工業(株)製)を2.3質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0034】
[比較例3]
比較例3は、実施例1において、BET比表面積300m2/gのヒュームドシリカを75質量部、白金系触媒を含む加硫剤(商品名:C−25A、信越化学工業(株)製)を0.9質量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤(商品名:C−25B、信越化学工業(株)製)を3.5質量部に変更した以外は同様の方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを成形し、後述する評価試験を実施した。
【0035】
[評価試験方法]
実施例及び比較例について、耐久性の評価として外観評価(白濁、亀裂、ひび割れ)及び物性評価(引張強度、硬さ)を行い、更に押出成形性を以下の評価試験方法によって行った。
【0036】
(1)外観評価(白濁、ひび割れ、亀裂)
過酷な洗浄方法にてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面の劣化についての耐久性を評価した。洗浄液(浸漬液)として30質量%酢酸水溶液、30質量%ノンスケールCL(商品名 エーアンドケー(株)製)水溶液を用い、図1に示したように、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ1内に各洗浄液(浸漬液)2を封入して内面を浸漬させ、半径40mm程度に曲げて継手3に接続して輪状とし、継手3を下にして垂直に立てた状態で温度23±5℃の室内に保持した。24時間後に封入した洗浄液を抜き取り水で中を洗浄した。この一連の洗浄作業を1回とし、連続的に90回実施した後の、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面の劣化(白濁、ひび割れ、亀裂)を目視で観察して外観評価とした。
【0037】
(2)物性評価(引張強度、硬さ)
外観評価と同様に、洗浄液(浸漬液)として30質量%酢酸水溶液、30質量%ノンスケールCL(商品名 エーアンドケー(株)製)水溶液を用い、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブをストレート状態で特別な応力の負荷を与えることなく、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面及び外面の全体を浸漬させた状態で温度23±5℃の室内に放置し、2160時間経過後にシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを取り出し、後述する測定方法で浸漬前後の引張強度及び硬さの変化を測定し評価した(測定はそれぞれ5点のシリコーンゴム製の薬液用配管チューブで実施し、算術平均値を用いた)。評価結果は浸漬前の5点のシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの平均測定値と比較し、変化率(%)を次式により算出した。
【数1】

【0038】
(3)押出成形性
成形したシリコーンゴム製の薬液用配管チューブより、長さ1mに切断したサンプル100本について、外観(気泡等)を目視観察し、外観不良のないサンプルの収率を評価した。
【0039】
[測定方法]
(1)引張強度の測定
JIS K 6251−1993「加硫ゴムの引張試験方法」に準拠して実施した。具体的にはシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの一端を長手方向に切断して一枚のシート状とし、引張試験機(株式会社 エー・アンド・デイ製)を用いて、3号ダンベル形状に打抜いた試験片を500mm/分の速度で引張試験を行い、最大引張応力を引張強度として測定した。
【0040】
(2)硬さの測定
JIS K 6253−1997「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準拠して実施した。具体的にはシリコーンゴム製の薬液用配管チューブを長手方向に半分に切断して半円状とし、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブの内径に合せた保持治具(図示せず)を使用し、外曲面上をIRHDマイクロ硬さ計(H.W.WALLACE & CO.LTD.CROYDON製)を用いて、国際ゴム硬さ(IRHD)を測定した。
【0041】
[評価試験結果]
以上のような評価試験方法及び測定方法によって得られた結果は、表1のとおりである。
【表1】

外観変化の評価基準
○:白濁、ひび割れ、亀裂が発生していない。
△:白濁、ひび割れ、亀裂は発生していないが、曲がり部が若干折れ気味であり、内面の劣化が生じやすい。
×:白濁、ひび割れ、亀裂のいずれかが発生し、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブとして機能しない。
押出成形性の評価基準
○:長さ1mのシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ100本に、気泡等の外観不良が発生していない。
△:長さ1mのシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ100本に、気泡等の外観不良が1〜9本発生している。
×:長さ1mのシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ100本中に、気泡等の外観不良が10本以上発生している。
総合評価
○:押出成形性も良好で、かつ、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面の耐久性に優れている。
△:押出成形性が劣るものの、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面の耐久性に優れている。
×:押出成形性が劣っていたり、または、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面の耐久性に劣っている。
【0042】
実施例1〜5はいずれも、押出成形性は特に問題なく、シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ1の外観も良好であった。各洗浄液(浸漬液)2に浸漬後も、特に外観評価試験におけるシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面の劣化は見られなかった。これらの実施例1〜5では、引張強度及び硬さについての物性変化率が±5%以内と変化が小さく、応力が作用しない状態における引張強度及び硬さの変化率により、応力が作用した状態で起こる表面の劣化を予測することが可能であることが確認された。即ち、そのようなシリコーンゴム組成物の硬化物からなる管壁を備えた薬液用配管チューブであれば、過酷な洗浄を90回繰返しても、継手部や曲がり部等の応力が作用している箇所においてシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ内面に劣化が生じ難く、長期間安定的に使用できるシリコーンゴム製の薬液用配管チューブが得られる。
【0043】
実施例6では、押出成形性において、押出されたシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの外観に気泡が多く発生し、実施例1〜5の収率に比較して約10%以上低下しており成形性が劣っていた。
【0044】
比較例1では、30質量%酢酸水溶液に浸漬後はシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ1の内面付近がやや白濁ぎみになっていることが確認された。また、30質量%ノンスケールCL水溶液に浸漬後はシリコーンゴム製の薬液用配管チューブ1の内面の継手3の抜け防止付近及びR曲げ部にひび割れが多数発生した。この比較例1では、引張強度が著しく変化しており変化率が大きかった。
【0045】
比較例2〜3では、押出成形性において、押出されたシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの外観に気泡が若干発生し、実施例1〜5の収率に比較して若干低下しており成形性がやや劣っていた。これらの比較例2、3では、引張強度及び硬さについての物性変化率も±5%付近であるため外観評価試験は実施例1〜5に近い結果ではではあるものの、曲がり部が若干折れ気味となりやや劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施の形態に係るシリコーンゴム製の薬液用配管チューブの外観評価試験の概念図である。
【符号の説明】
【0047】
1 シリコーンゴム製の薬液用配管チューブ
2 洗浄液(浸漬液)
3 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム組成物からなる薬液用配管チューブであって、応力を負荷しない状態で、30質量%水溶液の酸系スケール除去剤(洗浄液)を使用し、2160時間浸漬させて測定される浸漬前後の引張強度及び硬さの変化率が±5%以内となることを特徴とする薬液用配管チューブ。
【請求項2】
前記酸系スケール除去剤(洗浄液)は、酢酸水溶液である請求項1に記載の薬液用配管チューブ。
【請求項3】
前記酸系スケール除去剤(洗浄液)は、スルファミン酸及び有機カルボン酸を必須成分として含有する有機酸系水溶液である請求項1に記載の薬液用配管チューブ。
【請求項4】
前記シリコーンゴム組成物は
[1]オルガノポリシロキサン100質量部、
[2]BET比表面積250〜350m2/gの微粉状シリカ系充填剤25〜65質量部、
[3]白金系触媒を含む加硫剤0.1〜1.7質量部、
[4]オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む付加反応架橋剤0.5〜6.6質量部を含有する請求項1に記載の薬液用配管チューブ。
【請求項5】
人工透析機器に使用される請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液用配管チューブ。
【請求項6】
医療用機器に使用される請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液用配管チューブ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−325671(P2007−325671A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157702(P2006−157702)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】