説明

薬物の血漿蛋白質結合を制御するための製剤

本発明は、血漿蛋白質と結合親和性を有する有効成分の投与に際して、当該有効成分と共通の血漿蛋白質に結合親和性を有する単一又は複数のアミノ酸を含む製剤を、有効成分の投与と同時又はその前後に投与し、有効成分の血漿蛋白質への結合を制御することを特徴とする、血漿蛋白質に結合親和性を有する有効成分の血液中遊離濃度を制御する製剤、及びその投与方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血漿蛋白質に結合親和性を有する有効成分の血液中遊離濃度を制御するための製剤及びその投与方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、血漿蛋白質に結合親和性を有する有効成分含有製剤の投与に際し、当該有効成分と共通の血漿蛋白質に結合親和性を有する単一又は複数のアミノ酸を含む製剤を投与し、当該有効成分の血漿蛋白質への結合を制御する製剤及びその投与方法に関する。
【背景技術】
一般に治療、診断等を目的として投与される薬剤は、一度全身血液循環を経由して吸収、分布、代謝、排泄等の過程を経る。吸収、分布の過程において薬剤は血液の流れに乗って移動するが、血管内、組織間隙、細胞内のそれぞれのスペース間の移行は、蛋白質等と結合していない状態の遊離型薬剤の拡散、輸送によって起こり、標的作用部位に到達することになる。移行が定常状態に達すると、遊離型薬剤の濃度は各スペース間で均一となり、全体の濃度パターンは蛋白質等との結合の大小によって定まる。
このように、生体の中で薬剤は、その特性に応じて一部血漿蛋白質等の生体高分子と可逆的に結合して存在している。一般に毛細血管壁或いは細胞膜等を透過できるものは非結合型の薬剤であるので、有効成分として作用し得るのは血漿蛋白質等と結合していない遊離型の薬剤であり、その作用部位への移行は、血漿蛋白質等との結合によって大きく影響を受ける。
かかる鑑点から、国際公開00/78352号公報には、血漿蛋白質と結合親和性を有する第一の薬剤の投与に際して、当該第一の薬剤と共通の血漿蛋白質に結合親和性を有する第二の薬剤を投与し、第一の薬剤の血漿蛋白質への結合を制御することができる薬剤の投与方法及び製剤が記載されている。すなわち、当該公報には、第一の薬剤の投与と同時又はその前後に、かかる第二の薬剤を投与することによって、第一の薬剤の血漿蛋白質への結合を制御し、血液中の第一の薬剤の遊離濃度を高める若しくは低減することができることが記載されている(国際公開第00/78352号パンフレット参照)。
例えば、99m−テクネチウム標識メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン(99mTc−MAG)は、腎臓において尿細管分泌により効率的に尿中排泄されるため、腎及び尿路疾患の診断を目的として広く用いられている体内用放射性医薬品である。診断剤の用量において、99mTc−MAGは、血漿蛋白質にその約90%が結合していることが知られている。国際公開00/78352号公報には、99mTc−MAGを第一の薬剤とした場合、第二の薬剤であるブコローム、セファゾリン、バルプロ酸等の投与により、99mTc−MAGと血漿蛋白質との結合が抑制され、99mTc−MAGの遊離濃度を高めることができ、結果として99mTc−MAGがより効率的に尿中排泄されるようになることが記載されている。
しかしながら、国際公開00/78352号公報で挙げられている、第一の薬剤と共通の血漿蛋白質に結合親和性を有する第二の薬剤である、ブコローム、セファゾリン、エトポシド、フェニルブタゾン、アスピリン等は、本来治療薬として使用されており、一定の薬効を示す薬剤である。従って、かかる第二の薬剤を投与する際には、第二の薬剤そのものが生体へ及ぼす影響を慎重に考慮しなければならない。すなわち、その薬剤本来の薬理作用が臨床的に許容される範囲でなければならない。
【発明の開示】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであって、血漿蛋白質に対する有効成分の結合を制御することが可能な製剤を提供し、また、血漿蛋白質に対する有効成分の結合を制御することによる製剤の適切な投与方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、血漿蛋白質に対する有効成分の結合を制御することが可能な製剤及びその投与方法に関するものであって、当該結合を制御するために投与される製剤として、生体に与える影響がより少なく、かつ、現実の投与により一層適した製剤を提供することを目的とする。
本発明の薬物の血漿蛋白質結合を制御するための製剤によって、血漿蛋白質への有効成分の結合を制御し、それによって、有効成分の血液中遊離濃度を調節することができる適切な製剤及びその投与方法の提供が可能となった。すなわち、本発明では、有効成分の蛋白質への結合を制御するために、単一又は複数のアミノ酸を含む製剤を投与するため、当該結合を制御するための製剤そのものが生体へ及ぼす影響をより少なくし、かつ、現実の投与により一層適した製剤を提供することができる。
本発明は、血漿蛋白質と結合親和性を有する有効成分(通常は診断又は治療効果を期待する薬物である)を含有する製剤の投与に際して、有効成分と共通の血漿蛋白質に結合親和性を有する単一又は複数のアミノ酸を含む製剤を、有効成分含有製剤の投与と同時又はその前後に投与し、当該有効成分の血漿蛋白質への結合を制御することを特徴とする、薬物の血漿蛋白質結合を制御するための製剤及びその投与方法を提供する。
特に、有効成分と血漿蛋白質との結合を抑制する場合には、有効成分及びアミノ酸の両者が、共通する血漿蛋白質の結合部位に結合親和性を有することが好ましい。また、アミノ酸を含む製剤の投与時期は、有効成分含有製剤の投与の前後又は同時のいずれでもよく、有効成分の適切な効果が得られる血液中遊離濃度が得られる時期に応じて適宜選ばれる。さらに、アミノ酸は、単一であってもよいし複数のアミノ酸を併用してもよい。特に相乗効果が期待されるような場合には複数のアミノ酸が併用される。
有効成分含有製剤及びアミノ酸を含む製剤を同時に投与してもよい場合には、有効成分及びアミノ酸を含む一つの製剤として供給することも可能である。また、有効成分及びアミノ酸を別容器に充填、製剤化したキット剤として供給することも可能である。このようなキット剤とした場合には、用時混合による同時投与も可能であることはもちろん、有効成分とアミノ酸を別時期又は別投与経路で投与することも可能となる。別のキット剤の形態として有効成分を含有する製剤とアミノ酸を含む製剤とを単一容器内の別区画に充填し、用時混合する形のキット剤とすることもできる。さらに、有効成分含有製剤及びアミノ酸を含む製剤は、両者とも又はどちらか一方が既存の医薬品であってもよい。
有効成分含有製剤が、体内用放射性診断薬又は体内用放射性治療薬から選ばれる場合、その放射性核種は、11−炭素(11C)、15−酸素(15O)、18−フッ素(18F)、32−リン(32P)、59−鉄(59Fe)、67−銅(67Cu)、67−ガリウム(67Ga)、81m−クリプトン(81mKr)、81−ルビジウム(81Rb)、89−ストロンチウム(89Sr)、90−イットリウム(90Y)、99m−テクネチウム(99mTc)、111−インジウム(111In)、123−ヨード(123I)、125−ヨード(125I)、131−ヨード(131I)、133−キセノン(133Xe)、117m−スズ(117mSn)、153−サマリウム(153Sm)、186−レニウム(186Re)、188−レニウム(188Re)、201−タリウム(201Tl)、212−ビスマス(212Bi)、213−ビスマス(213Bi)及び211−アスタチン(211At)等から選ばれる。
この場合に、当該体内用放射性診断薬又は体内用放射性治療薬が有する、上記放射性核種によって標識されるキレート基又は受容体リガンド等の化合物は、例えばビスアミノチオール又はその誘導体、モノアミノモノアミドビスチオール又はその誘導体、ビスアミドビスチオール又はその誘導体、メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン又はその誘導体、ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム又はその誘導体、エチレンビス[ビス(2−エトキシエチル)ホスフィン](テトロホスミン)又はその誘導体、2,3−ジメルカプトコハク酸又はその誘導体、エチレンシステインダイマー誘導体、メトキシイソブチルイソニトリル誘導体、ポリアミン誘導体、ピリドキシリデンアミネート誘導体、メチレンジホスホネート、ヒドロキシメチレンジホスホネート誘導体、β−メチル−ω−フェニルペンタデカン酸又はその誘導体、N−イソプロピルアンフェタミン、ヒプル酸、ベンジルグアニジン、トロパン誘導体等から選ばれる。
一方、本発明の製剤に含まれるアミノ酸は、例えば、トリプトファン、アスパラギン酸、グリシン、セリン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、プロリン、システイン及びアラニン又はそれらの塩並びにそれらの誘導体又はそれら誘導体の塩等から選択される。すなわち、本発明におけるアミノ酸には、N−アセチルトリプトファン、ヒドロキシフェニルグリシン等のアミノ酸分子中に置換基を導入したアミノ酸誘導体及びそれらの塩も含まれる。このとき、例えば、複数の血漿蛋白質又はヒト血清アルブミンの複数の結合サイトに対する有効成分の結合制御を期待する場合、相乗効果を期待する場合等では、複数のアミノ酸が選択されることもある。また、複数のアミノ酸を用いる場合に、プロテアミン12X(登録商標)及びキドミン(登録商標)等のアミノ酸を含む輸液を選択してもよいし、それら輸液と同等の組成又は成分量を含む製剤としてもよい。有効成分の血漿蛋白質への結合を制御するため、単一又は複数のアミノ酸を用いることにより、血漿蛋白質結合を制御するための製剤そのものの生体への影響をより少なくし、かつ、現実の投与により一層適した製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、123I−IMPのサル脳への経時的集積曲線を示す図である。図中、実線はコントロールを示し、点線はプロテアミン12X負荷をかけたものを示す。
発明を実施するための形態
血漿蛋白質と結合親和性を有する有効成分を含有する製剤の投与と同時或いはその前後に、共通の血漿蛋白質に高い結合親和性を有するアミノ酸を含む製剤を投与すると、結合部位において競合的置換が生じ、有効成分の遊離濃度が増加する(置換効果)と考えられ、従って、有効成分含有製剤を単独で投与するよりは高い薬剤活性を得ることが期待できる。逆に、アミノ酸を含む製剤の作用により、有効成分の血漿蛋白質結合が高まる場合には、有効成分の遊離濃度が低減し(遊離濃度低減効果)、血液中における有効成分の遊離濃度が長時間にわたり低めに維持されることによるクリアランスの低下で、持続的な薬効発現を達成することも期待できる。
本発明において、かかる血漿蛋白質と結合親和性を有する有効成分含有製剤は、投与の目的に沿った製剤であれば治療薬又は診断薬のいずれでもよい。
一方、本発明のアミノ酸を含む製剤に含まれるアミノ酸は、上述の置換効果を得るためには有効成分と同じ血漿蛋白質への競合的結合親和性を有し、有効成分の血漿蛋白質への結合を阻害し有効成分の血液中遊離濃度を増加させるもの、又は有効成分と血漿蛋白質への結合部位が共通し、かつより結合親和性の高いものから選ぶのが好ましい。逆に、遊離濃度低減効果を得るためには、アミノ酸が血漿蛋白質に結合することにより、有効成分の血漿蛋白質結合率が上昇するようなアミノ酸から、その効果の高いものを選ぶことにより目的を達成できる。
剤型に関しては、有効成分及びアミノ酸が配合により分解する等の変化がない場合で、かつ両者を同時投与してよい場合には、有効成分及びアミノ酸を混合し、同一容器に充填した製剤として供給することも可能である。混合した製剤は、pH調節剤、浸透圧調節のための無機塩類、各々の成分を安定化するための安定化剤等の医療用に使用が許される成分を添加することもできる。
また、混合した製剤は構成成分、保存性等を考慮して液剤、凍結乾燥製剤等、適切な剤型に加工することもできる。
さらに、有効成分を含有する製剤とアミノ酸を含む製剤とを別容器に充填したキット剤として供給することも可能である。混合した製剤同様、各々の製剤には安定化剤等の医療用に使用が許される成分を添加することもできるし、各々の製剤の投与法、安定性等を考慮して液剤又は凍結乾燥剤等の最適な製剤に加工してよい。成分をこのような別容器のキット剤とした場合には、有効成分含有製剤とアミノ酸を含む製剤とを別々に投与することも可能であるし、用時混合により同時投与も可能となる。特に、有効成分とアミノ酸を含む製剤を混合すると長期保存時に分解する等の変化が予測される場合、別投与経路を選択する必要がある場合、又は投与時期をずらす必要がある場合には、別容器に充填、製剤化したキット剤が有用である。
キット剤としては、有効成分を含有する製剤とアミノ酸を含む製剤とを単一容器内の別区画に充填し、用時混合する形態を採用することもできる。例えば、キット剤の容器として、コネクタで連結された複数の区画を有するプラスチック容器があり、各区画に溶解剤、希釈液や有効成分を含む医薬を充填し、用時、溶解剤や希釈液を充填した区画からコネクタを介して有効成分を含む医薬区画に溶解剤や希釈液を流入させ、最終的な投与形態の製剤を調製するものがある。この形態の容器を利用すると、例えば、3区画型のものの各区画に有効成分を含有する粉末製剤、アミノ酸を含む粉末製剤、溶解剤を充填し、溶解剤をアミノ酸を含む粉末製剤に流入させた後さらに有効成分を含有する粉末製剤に流入させ、最終的な投与液剤を調製する、又は2区画型のものの各区画に有効成分を含有する粉末又は液状製剤、アミノ酸を含む液状製剤を充填し、アミノ酸を含む液状製剤を有効成分を含有する粉末又は液状製剤に流入させ最終的な投与液剤を調製する等、多様なキット剤を作成することが可能となる。
また、別の形態として成分を収容するための複数の区画を有する注射器型容器もあり、このような容器を利用して利便性に優れたキット剤を提供することも可能となる。
一般に、有効成分が結合する血漿蛋白質としては、ヒト血清アルブミン(HSA)、α−酸性糖蛋白質(AGP)、γ−グロブリン及びリポ蛋白質等があるが、HSA又はAGPに結合するものが多い。アミノ酸の選択は、例えば有効成分が主としてHSAに結合親和性を有するときは、HSAに結合親和性を有するものから選ぶのが好ましく、有効成分がAGPに結合親和性を有するものであれば、AGPに結合するものから選ぶのが好ましい。
また、有効成分が複数の血漿蛋白質に結合親和性を有する場合や単一の蛋白質中の異なる結合サイトに結合親和性を有する場合等には、複数のアミノ酸の併用が有効である場合がある。アミノ酸を含有する製剤の投与時期は、有効成分の投与と同時又はその前後のいずれでもよく、有効成分の投与目的に合致した効果を及ぼすように適宜選ばれる。製剤の投与経路は、静脈内、動脈内、皮下、リンパ管、経口等から適宜選ばれる。
有効成分含有製剤である、血漿蛋白質と結合親和性を有する体内用放射性治療薬又は診断薬が有する、放射性核種で標識されるキレート基或いは受容体リガンド等の化合物としては、例えば、メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン(MAG)又はその誘導体、ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム(HMPAO)又はその誘導体、エチレンビス[ビス(2−エトキシエチル)ホスフィン](テトロホスミン)又はその誘導体、2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)又はその誘導体、N,N’−エチレン−L−システインジエチルエステル等のエチレンシステインダイマー(ECD)誘導体、メトキシイソブチルイソニトリル(MIBI)誘導体、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等のポリアミン誘導体、ピリドキシレンイソロイシン等のピリドキシリデンアミネート誘導体、その他のメチレンジホスホネート(MDP)、ヒドロキシメチレンジホスホネート(HMDP)誘導体等の放射性金属と錯体を形成するキレート基等や、ヨウ素で標識された、β−メチル−p−ヨードフェニルペンタデカン酸(BMIPP)、N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン(IMP)、ヨウ化ヒプル酸(OIH)、3−ヨードベンジルグアニジン(MIBG)、N−(3−フルオロプロピル)−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン(FP−CIT)やN−メチル−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン(CIT)等のトロパン誘導体等が例示される。
また、放射性核種としては、11−炭素(11C)、15−酸素(15O)、18−フッ素(18F)、32−リン(32P)、59−鉄(59Fe)、67−銅(67Cu)、67−ガリウム(67Ga)、81m−クリプトン(81mKr)、81−ルビジウム(81Rb)、89−ストロンチウム(89Sr)、90−イットリウム(90Y)、99m−テクネチウム(99mTc)、111−インジウム(111In)、123−ヨード(123I)、125−ヨード(125I)、131−ヨード(131I)、133−キセノン(133Xe)、117m−スズ(117mSn)、153−サマリウム(153Sm)、186−レニウム(186Re)、188−レニウム(188Re)、201−タリウム(201Tl)、212−ビスマス(212Bi)、213−ビスマス(213Bi)及び211−アスタチン(211At)等が例示され、診断用としては18−フッ素(18F)、99m−テクネチウム(99mTc)、67−ガリウム(67Ga)、111−インジウム(111In)、123−ヨード(123I)、131−ヨード(131I)等が用いられることが多い。
単一又は複数のアミノ酸を含む製剤には、例えば、トリプトファン、アスパラギン酸、グリシン、セリン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、プロリン、システイン及びアラニン又はそれらの塩並びにそれらの誘導体又はそれら誘導体の塩等から選ばれる一つ又は複数のアミノ酸を用いることができる。また、複数のアミノ酸を用いる場合に、プロテアミン12X(登録商標)及びキドミン(登録商標)等のアミノ酸を含む輸液を選択してもよいし、それら輸液と同等の組成又は成分量を含む製剤としてもよい。本発明の製剤は、一つ又は複数のアミノ酸、あるいはアミノ酸を含む輸液を含有するものであるため、それ自体が生体に及ぼす影響が少なく、また、現実の投与に、より一層適した製剤を提供することが可能である。
有効成分の血液中遊離濃度を増加させるアミノ酸を含む製剤、すなわち、置換効果を生じる製剤としては、トリプトファンとその誘導体、アスパラギン酸、グリシン、セリン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、プロリン及びシステイン又はその塩等から選ばれるアミノ酸を含む製剤が挙げられる。同様に、置換効果を生じる製剤として、プロテアミン12X(登録商標)及びキドミン(登録商標)等から選ばれるアミノ酸輸液、又はそれらと同等の組成又は成分量を有する複数のアミノ酸を含む製剤が挙げられる。特に、トリプトファン、アスパラギン酸、グリシン、セリン、フェニルアラニン及びN−アセチルトリプトファン又はその塩から選ばれる一つ又は複数のアミノ酸を含む製剤、並びにプロテアミン12X(登録商標)及びキドミン(登録商標)から選ばれるアミノ酸輸液、又はそれらと同等の組成又は成分量のアミノ酸を含む製剤が好ましい。逆に、有効成分と血漿蛋白質との結合を高め、遊離濃度を低減する製剤、すなわち、遊離濃度低減効果を生じるアミノ酸を含む製剤としては、アラニン及びヒドロキシフェニルグリシン又はその塩から選ばれる一つ又は複数のアミノ酸を含有する製剤が好ましい。
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 血漿蛋白質に結合した放射性ヨード標識IMPに対する置換効果の検討
ヒト血清を用い、血清蛋白に結合した123I−IMP(123Iで標識したN−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン)又は125I−IMPに対するアミノ酸又はアミノ酸輸液(置換薬)の置換効果を検討した。
市販のヒトプール血清(コスモバイオ製Lot.No.13768)のアルブミン濃度等を予め測定し、アルブミン濃度が500μMになるように1/15Mリン酸緩衝液(pH=7.4)で希釈した。この血清溶液500μLに表1及び表2に示した置換薬(アミノ酸又はアミノ酸輸液)を20μL添加した。この時、アミノ酸は生理食塩水で溶解し、表1及び表2に示す試験濃度となるように血清溶液に添加した。その後、123I−IMP又は125I−IMPを20μL(約220kBq)添加し試験溶液とした。コントロール溶液としては、上記血清溶液に置換薬の代わりに生理食塩水を20μL添加したものを用いた。
コントロール溶液及び各試験溶液より各20μLを採取し限外濾過前のサンプルとした。次にコントロール溶液及び各試験溶液より各450μLを限外濾過器(トーソー製Ultracent10)に採取し、遠心分離機(TOMY製RLX−135)で3000rpm、10分間遠心分離することにより限外濾過を行った。遠心操作後それぞれ20μLの濾液を採取し限外濾過後のサンプルとした。限外濾過前後のそれぞれのサンプルの放射能(cpm)をオートウェルガンマカウンタ(アロカ製ARC−380)で測定し、下記式により各試験溶液の遊離率(%)並びにアミノ酸又はアミノ酸輸液添加による遊離率の変化率を求めた。
遊離率(%)={限外濾過後の放射能(cpm)/限外濾過前の放射能(cpm)}×100
変化率(倍)=試験溶液の遊離率(%)/コントロール溶液の遊離率(%)
結果を表1及び表2に示す。なおコントロール及び各試験濃度の遊離率はn=3の平均値である。
トリプトファン、アスパラギン酸、グリシン及びセリンを添加した場合、コントロール溶液の123I−IMP遊離率(28.00%)が添加アミノ酸濃度に依存して増加した。特にトリプトファン及びアスパラギン酸で顕著な増加が見られた。また、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、プロリン、システイン、プロテアミン12X及びキドミンを添加した場合、30.00%を超える123I−IMP遊離率が観測された。一方、アラニンを添加した場合、123I−IMP遊離率が24.80%まで低下し、遊離濃度低減効果が見られた。
また、アミノ酸誘導体であるN−アセチルトリプトファンを添加した場合は、125I−IMPの遊離率が増加した。ヒドロキシフェニルグリシンを添加した場合、125I−IMPの遊離率はわずかに増加したが、N−アセチルトリプトファンほどの効果はなかった。


実施例2 血清蛋白質に結合した各種薬物の置換効果の検討
一般治療薬の有効成分であるジアゼパム(実験には14C標識体:14C−DZPを使用)及びプロプラノロール(実験にはH標識体:H−PPLを使用)を用い、実施例1と同様の方法で血清蛋白に結合した各薬物に対するトリプトファン、アスパラギン酸、N−アセチルトリプトファン、ヒドロキシフェニルグリシン(各試験濃度:400μM)、プロテアミン12X及びキドミン(試験濃度:1/100)の置換効果を検討した。
本実験では、健常成人男性の血液から分離した血清のアルブミン濃度を500μMになるように1/15Mリン酸緩衝液(pH=7.4)で希釈した。この血清溶液500μLに14C−DZP(3.7×10−1kBq/5μL)、H−PPL(9.25×10−1kBq/5μL)を添加し、限外濾過前後のサンプリング液量は5μLとした。結果を実施例1の放射性ヨード標識IMPの結果とともに表3及び表4に示す。
トリプトファンは14C−DZP及び放射性ヨード標識IMPに有効な置換薬であることが明らかになった。特に、14C−DZPに対する置換効果は顕著であった。また、トリプトファンの誘導体であるN−アセチルトリプトファンは14C−DZP及び放射性ヨード標識IMPに有効な置換薬である一方H−PPLには若干遊離濃度を低減させる効果を示した。アスパラギン酸は14C−DZP、H−PPL及び放射性ヨード標識IMPに有効な置換薬であった。さらに、グリシンの誘導体であるヒドロキシフェニルグリシンは14C−DZP及びH−PPLに対して遊離濃度低減効果を示した。これに対してプロテアミン12X及びキドミンの例(表3)で示されたように、アミノ酸の混合物であるアミノ酸輸液はその組成によって置換効果の程度は異なるものの、いずれの化合物にも置換効果を示し、汎用置換薬として利用できる可能性が示された。


実施例3 アミノ酸輸液のin vivo置換効果の検討
日本サル(雌性:体重4.5〜4.6kg)をペントパルビタールで腹腔内麻酔し、123I−IMP(37MBq/1mL生理食塩液)を前腕静脈より投与した。2検出器型シンチレーションカメラ(Picker製Prism2000)にて投与直後から1分ごとに60分まで全身プラナー像を経時的に撮像した。その後引き続き3検出器型シンチレーションカメラ(Picker製Prism3000)にて脳の断層像を撮像した。投与10分後に対側前腕より採血し、限外濾過法により123I−IMPの血中遊離率を測定した。以上の手順によりアミノ酸輸液無負荷時のデータを得た後、放射能の減衰を待って、同一個体にてアミノ酸輸液負荷時のデータを得た。アミノ酸輸液としてはプロテアミン12Xを用い、123I−IMP投与直前に5mL静注し、その後30分間0.5mL/minの速度で点滴することにより負荷した。それ以外は無負荷時と同一手順で実験した。以上の実験を2頭のサルについて実施した。
図1に示すようにプロテアミン12X負荷により対無負荷時1.4〜1.6倍と顕著な脳集積の増加が認められた。また、投与後10分における123I−IMP血中遊離率も対無負荷時1.27〜1.47倍と顕著に増加した。一方、プロテアミン12X負荷時と無負荷時の脳の断層像を比較すると、両者の脳内局在パターンに差は認められなかった。以上より、プロテアミン12Xは123I−IMPの血中遊離率を高め、それにより123I−IMP脳集積率を高めるが、脳内の局在パターンには影響しないことが明らかとなった。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分の血漿蛋白質結合を制御することを特徴とする単一又は複数のアミノ酸を含む製剤。
【請求項2】
単一又は複数のアミノ酸が有効成分と同一容器に充填された請求項1記載の製剤。
【請求項3】
単一又は複数のアミノ酸が、有効成分とは別容器に充填されたキット剤であることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項4】
単一又は複数のアミノ酸が、単一容器内において有効成分とは異なる区画に充填されたキット剤であることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項5】
単一又は複数のアミノ酸がトリプトファン、アスパラギン酸、グリシン、セリン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、プロリン、システイン及びアラニン又はそれらの塩並びにそれらの誘導体又はそれら誘導体の塩からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
複数のアミノ酸の組成又は成分量が、アミノ酸輸液と同等であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
アミノ酸輸液がキドミン又はプロテアミン12Xであることを特徴とする請求項6記載の製剤。
【請求項8】
有効成分が体内用放射性診断薬又は体内用放射性治療薬の主成分である請求項1から7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
体内用放射性診断薬又は体内用放射性治療薬の主成分が、11−灰素(11C)、15−酸素(15O)、18−フッ素(18F)、32−リン(32P)、59−鉄(59Fe)、67−銅(67Cu)、67−ガリウム(67Ga)、81m−クリプトン(81mKr)、81−ルビジウム(81Rb)、89−ストロンチウム(89Sr)、90−イットリウム(90Y)、99m−テクネチウム(99mTc)、111−インジウム(111In)、123−ヨード(123I)、125−ヨード(125I)、131−ヨード(131I)、133−キセノン(133Xe)、117m−スズ(117mSn)、153−サマリウム(153Sm)、186−レニウム(186Re)、188−レニウム(188Re)、201−タリウム(201Tl)、212−ビスマス(212Bi)、213−ビスマス(213Bi)及び211−アスタチン(211At)よりなる群から選ばれる一つの放射性核種で標識されている請求項8記載の製剤。
【請求項10】
体内用放射性診断薬又は体内用放射性治療薬の主成分が、ビスアミノチオール又はその誘導体、モノアミノモノアミドビスチオール又はその誘導体、ビスアミドビスチオール又はその誘導体、メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン又はその誘導体、ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム又はその誘導体、エチレンビス[ビス(2−エトキシエチル)ホスフィン](テトロホスミン)又はその誘導体、2,3−ジメルカプトコハク酸又はその誘導体、エチレンシステインダイマー誘導体、メトキシイソブチルイソニトリル誘導体、ポリアミン誘導体、ピリドキシリデンアミネート誘導体、メチレンジホスホネート、ヒドロキシメチレンジホスホネート誘導体、β−メチル−ω−フェニルペンタデカン酸又はその誘導体、N−イソプロピルアンフェタミン、ヒプル酸、ベンジルグアニジン及びトロパン誘導体よりなる群から選ばれる一つに核種が標識されている請求項8記載の製剤。
【請求項11】
有効成分の血漿蛋白質結合を制御するためのアミノ酸の使用。
【請求項12】
血漿蛋白質に結合親和性を有する有効成分を含む製剤の投与に際して、アミノ酸を含む製剤を有効成分含有製剤の投与と同時又はその前後に投与し、有効成分の血漿蛋白質への結合を制御することを特徴とする、アミノ酸を含む製剤の投与方法。

【国際公開番号】WO2004/024188
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535917(P2004−535917)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011516
【国際出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】