説明

薬物代謝機能測定方法

【課題】代謝物の構造等が不明であっても適用でき、かつ適用範囲が広い薬物代謝機能測定方法を提供する。
【解決手段】放射性化合物を投与した被検者の試料に含まれる前記放射性化合物の放射性代謝物を分析することを含む薬物代謝機能の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
薬物等の代謝物を利用した薬物代謝機能測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロムP450は、細菌から植物、哺乳動物に至るまでのほとんどすべての生物に存在する、分子量約45000から60000の酸化酵素で、異物(薬物)代謝においては主要な第一相反応の酵素である。還元状態で一酸化炭素と結合して450nmに吸収極大を示す色素という意味でシトクロムP450(P450)と命名された。シトクロムP450は、水酸化酵素ファミリーの総称であり、略してCYP(シップ)と呼ばれることが多い。様々な基質を水酸化するので、多くの役割を果たす。肝臓において解毒を行う酵素として知られているが、ステロイドホルモンの生合成、脂肪酸の代謝や植物の二次代謝など、生物の正常活動に必要な反応にも関与している。シトクロムP450は、NADPHなどの電子供与体と酸素を用いて基質を水酸化することも共通である。シトクロムP450は細胞内の小胞体に多く、一部はミトコンドリアに存在する。動物では肝臓に多く、特によく研究されている。
【0003】
シトクロムP450の代謝能が低い人では、通常の用法・用量にて服用すると、血中濃度が上昇し、治療域を超えるリスクがあり、一方、代謝能の高い人では、血中濃度が治療域に達せず、治療効果が得られないリスクがある。シトクロムP450の代謝能が低い人が、通常の代謝能の人と同じ量を継続的に服用すると、薬物が蓄積し、血中濃度がより上昇するリスクがある。
【0004】
薬物の適正投与量を決定したり、患者の代謝異常を検査する上で、シトクロムP450による薬物代謝機能を測定することは非常に重要である。
【0005】
特許文献1には、シトクロムP450等の薬物代謝酵素を作用させた後、生じた生成物(代謝物)を免疫化学的手法により測定する薬物代謝酵素活性の測定方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、各代謝物の抗体を調製する必要があり、また代謝物が不明の場合には、抗体を調製することは困難である。
【0007】
特許文献2には、呼気分析によって、13C標識シトクロムP450 2C19アイソザイム(CYP2C19)基質化合物の静脈内投与又は経口投与後に被験体が吐き出した13COの相対量を求めることにより、CYP2C19関連代謝能を測定する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、脱アルキル反応(脱O−メチル反応)によるもので、代謝を受けるO−メチル基にラベルをして、呼気中の13Cを測定することが必要であり、適用範囲が限られる。
【0009】
また、生体内に投与する放射性化合物としては、種々の放射性医薬品が知られているが、従来生体内に投与されていた放射性医薬品は、その作用・効果を奏するためには、代謝されないことが前提であり、これまで、放射性代謝物を分析することは行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−69491号公報
【特許文献2】特表2010−502194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、代謝物の構造等が不明であっても適用でき、かつ適用範囲が広い薬物代謝機能測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)放射性化合物を投与した被検者の試料に含まれる前記放射性化合物の放射性代謝物を分析することを含む薬物代謝機能の測定方法。
(2)薬物代謝機能がシトクロムP450による薬物代謝機能である前記(1)に記載の方法。
(3)放射性化合物が放射性アミノ酸である前記(1)に記載の方法。
(4)放射性アミノ酸が天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸の放射性標識体である前記(3)に記載の方法。
(5)薬物の適正投与量を決定するために行う前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)被検者の代謝異常を検査するために行う前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(7)被検者の試料が血液、血清又は血漿から得られる試料である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミンもしくはその塩、又はこれらの標識体を含有するシトクロムP450による薬物代謝機能を測定するための検査薬。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薬物代謝機能測定方法は、代謝物の構造等が不明であっても適用でき、かつ適用範囲が広い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はヒト肝ミクロゾーム及びNADPHの存在下におけるN−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩(IMP)の濃度の反応時間依存的減少を示す。
【図2】図2は12種の組み換えヒトCYPによるIMPの消失反応の結果を示す。
【図3A】図3AはCYP2C19によるIMPの消失反応の結果を示す。
【図3B】図3BはCYP1A1によるIMPの消失反応の結果を示す。
【図4】図4はCYP2C192/2のIMPの消失に対する効果を示す。
【図5】図5は125I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩(125I−IMP)由来放射性代謝物の液体クロマトグラフィーにおけるピーク面積の経時変化を示す。
【図6】図6はマウス膵臓、肝臓、腎臓における14C−L−Met及び14C−/H−D−Metのタンパクへの組み込み率を示す。
【図7】図7は肝臓、腎臓における14C−L−Met及び14C−D−Metの組織内放射性代謝物の存在比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の薬物代謝機能の測定方法に用いる放射性化合物としては、生体内で代謝され、放射性代謝物を生じるものであれば、特に制限はなく、例えば、シトクロムP450により代謝され、放射性代謝物を生じるもの、天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸の放射性標識体が挙げられる。
【0016】
前記シトクロムP450により代謝され、放射性代謝物を生じる放射性化合物としては、例えば、脳血流診断薬として市販されている123I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン(123I−IMP)又はその塩、例えば塩酸塩が挙げられる。
【0017】
また、シトクロムP450(CYP)の各分子種について、基質となりうる化合物が知られているので、これらの化合物に対応する放射性化合物を常法により合成して用いることができる。
【0018】
CYPの各分子種と基質となりうる化合物との具体例を以下に示す。
(CYP1A2)
amitriptyline, caffeine, clomipramine, clozapine, cyclobenzaprine, estradiol, fluvoxamine, haloperidol, imipramine, mexiletine, naproxen, olanzapine, ondansetron, acetaminophen, propranolol, riluzole, ropivacaine, tacrine, theophylline, tizanidine, verapamil, R-warfarin, zileuton, zolmitriptan
(CYP2B6)
bupropion, cyclophosphamide, efavirenz, ifosphamide, methadone, sorafenib
(CYP2C8)
amodiaquine, cerivastatin, paclitaxel, repaglinide, sorafenib, torsemide
(CYP2C9)
非ステロイド性抗炎症薬:diclofenac, ibuprofen, lornoxicam, meloxicam, S-naproxen, piroxicam, suprofen
経口血糖降下剤:tolbutamide, glipizide
アンジオテンシンII阻害薬:losartan, irbesartan
スルホニル尿素系薬剤:glyburide, glibenclamide, glipizide, glimepiride, tolbutamide
その他:amitriptyline, celecoxib, fluoxetine, fluvastatin, glyburide, nateglinide, phenytoin-4-OH2, rosiglitazone, tamoxifen, torsemide, S-warfarin
(CYP2C19)
プロトンポンプ阻害薬:lansoprazole, omeprazole, pantoprazole, rabeprazole
抗てんかん剤:diazepam, phenytoin, S-mephenytoin, phenobarbitone
その他:amitriptyline, carisoprodol, citalopram, chloramphenicol, clomipramine, clopidogrel, cyclophosphamide, hexobarbital, imipramine, indomethacin, R-mephobarbital, moclobemide, nelfinavir, nilutamide, primidone, progesterone, proguanil, propranolol, teniposide, R-warfarin
(CYP2D6)
tamoxifen
β遮断薬:carvedilol, S-metoprolol, propafenone, timolol
抗うつ薬:amitriptyline, clomipramine, desipramine, fluoxetine, imipramine, paroxetine
抗精神病薬:haloperidol, perphenazine, risperidone, thioridazine, zuclopenthixol
その他:alprenolol, amphetamine, aripiprazole, atomoxetine, bufuralol, chlorphenimipramine, chlorpromazine, codeine, debrisoquine, dexfenfluramine, dextromethorphan, donepezil, duloxetine, encainide, flecainide, fluvoxamine, lidocaine, metoclopramide, methoxyamphetamine, mexiletine, minaprine, nebivolol, nortriptyline, ondansetron, oxycodone, perhexiline, phenacetin, phenformin, promethazine, propranolol, sparteine, tramadol, venlafaxine
(CYP2E1)
麻酔薬:enflurane, halothane, isoflurane, methoxyflurane, sevoflurane
その他:acetaminophen, aniline, benzene, chlorzoxazone, ethanol, N,N-dimethylformamide, theophylline
(CYP3A4,5,7)
マクロライド系抗生物質:clarithromycin, erythromycin (not 3A5)
抗不整脈薬:quinidine (not 3A5)
ベンゾジアゼピン系薬物:alprazolam, diazepam, midazolam, triazolam
免疫調節剤:cyclosporine, tacrolimus (FK506)
抗HIV薬:indinavir, nelfinavir, ritonavir, saquinavir
消化管運動改善薬:cisapride
抗ヒスタミン薬:astemizole, chlorpheniramine, terfenadine
カルシウム拮抗薬:amlodipine, diltiazem, felodipine, lercanidipine, nifedipine, nisoldipine, nitrendipine, verapamil
HMG−CoA還元酵素阻害薬:atorvastatin, cerivastatin, lovastatin, simvastatin
ステロイド類:estradiol, hydrocortisone, progesterone, testosterone
その他:alfentanil, aprepitant, aripiprazole, boceprevir, buspirone, caffeine, cilostazol, cocaine, dapsone, dexamethasone, dextromethorphan, docetaxel, domperidone, eplerenone, fentanyl, finasteride, gleevec, haloperidol, imipramine, irinotecan, LAAM, lidocaine, methadone, nateglinide, ondansetron, pimozide, propranolol, quetiapine, quinine, risperidone, salmeterol, sildenafil, sirolimus, sorafenib, sunitinib, tamoxifen, taxol, telaprevir, terfenadine, torisel, trazodone, vincristine, zaleplon, ziprasidone, zolpidem
【0019】
天然アミノ酸は代謝されやすく、非天然アミノ酸は代謝を受けにくい。したがって、天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸の放射性標識体を投与した被検者の試料に含まれる放射性代謝物を分析することにより、薬物代謝機能を測定することができ、薬物の適正投与量を決定したり、被検者の代謝異常を検査することができる。
【0020】
本発明の薬物代謝機能の測定方法においては、目的に応じて、基質となる放射性化合物を1種又は2種以上を用いる。
【0021】
分析対象物である放射性代謝物の形態としては、有機物、無機物、イオンのいずれでもよいが、分析の容易性の点で有機物が好ましい。本発明における放射性アミノ酸の代謝物には、当該放射性アミノ酸が組み込まれたタンパクも包含される。
【0022】
本発明の測定方法に用いる放射性化合物を合成するために用いる放射性核種としては、例えばトリチウム(H)、11−炭素(11C)、14−炭素(14C)、15−酸素(15O)、18−フッ素(18F)、32−リン(32P)、59−鉄(59Fe)、67−銅(67Cu)、67−ガリウム(67Ga)、81m−クリプトン(81mKr)、81−ルビジウム(81Rb)、89−ストロンチム(89Sr)、90−イットリウム(90Y)、99m−テクネチウム(99mTc)、111−インジウム(111In)、123−ヨード(123I)、125−ヨード(125I)、131−ヨード(131I)、133−キセノン(133Xe)、117m−スズ(117mSn)、153−サマリウム(153Sm)、186−レニウム(186Re)、188−レニウム(188Re)、201−タリウム(201Tl)、212−ビスマス(212Bi)、213−ビスマス(213Bi)及び211−アスタチン(211At)が挙げられる。
【0023】
本発明における放射性化合物の投与経路としては、静脈内、皮内、皮下、経口、経粘膜、及び直腸投与などが挙げられる。被検者の試料としては、例えば血液、血清、血漿、尿、唾液又はその他体液、好ましくは血液、血清、血漿が挙げられる。
【0024】
放射性化合物の投与形態としては、投与経路に適した剤形であれば、注射剤、液剤、錠剤等から適宜選択すればよく、本発明の作用及び効果を損なわない限り、薬学的に許容される担体、又は剤形によって当該技術分野において一般的に使用される添加剤を更に含んでもよい。添加剤として、例えば、着色剤、保存剤、風味剤、香り改善剤、呈味改善剤、甘味剤、又は安定剤、その他薬学的に許容される添加剤を含有することができる。
【0025】
放射性化合物の投与量は、投与方法、投与する化合物ならびに患者の年齢、性別及び体重によって、適宜決定すればよい。
【0026】
本発明の測定方法においては、放射性化合物を投与した被検者の試料に含まれる前記放射性化合物の放射性代謝物を分析する。前記放射性代謝物の分析は、例えば、親化合物(未変化体)の放射性化合物と前記放射性代謝物とを分離して、前記放射性代謝物の放射能を測定することにより行うことができる。
【0027】
脂溶性の放射性化合物は、代謝されることにより水溶性の放射性代謝物を生じることが多く、このような場合には、例えばオクタノール抽出法により親化合物(未変化体)の放射性化合物と前記放射性代謝物とを分離することができる。また、薄層クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー等によっても、親化合物(未変化体)の放射性化合物と前記放射性代謝物とを分離することができる。
【0028】
本発明の測定方法によれば、一般的な放射性診断薬においては夾雑物されている放射性代謝物を解析することにより、各種代謝異常、例えばCYPの異常を見つけることができ、また、代謝物を見ることにより、CYP分子種ごとの遺伝子を調べることなく、CYPファミリー全体として代謝プロファイルができ、また薬物の適正投与量を決定できる。
【0029】
本発明の測定方法は、放射性代謝物を分析するので、非標識代謝物を分析する場合に比較して、非常に低い投与量でも十分な効果を発揮することができ、更に、内因性の代謝物と容易に区別することもできる。
【0030】
N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン(IMP)はCYP2C19により選択的に代謝される。したがって、IMPもしくはその塩、又はこれらの標識体は、CYP、特にCYP2C19による薬物代謝機能を測定するための検査薬として用いることができる。前記したように低い投与量で十分な効果が得られ、また脳血流診断薬として市販されているように、安全性が確認されている点から、123I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン(123I−IMP)又はその塩を用いることが好ましい。
【0031】
IMP又は123I−IMPの塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)等の有機酸との塩が挙げられる。
【0032】
IMPの標識体に用いる標識としては、例えば、前記の放射性核種による標識の他、同位体、蛍光等による標識が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩のCYP2C19による代謝物の分析
(目的)
123I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩(123I−IMP)は、臨床において単光子放射断層撮影(SPECT)による脳血流の診断に用いられている。123I−IMPはヒトの体内で代謝を受ける希な診断薬である。代謝の第1段階は123I−p−ヨードアンフェタミンの生成であること、また引き続いて123I−p−ヨード安息香酸、更に123I−p−ヨード馬尿酸へと代謝されることが報告されている。しかしながらこれまでにこれらの代謝反応に関与する薬物代謝酵素についての知見はない。そこで本実験ではIMPの代謝におけるチトクロームP450(CYP)の関与を調べた。
【0035】
(方法)
N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩(IMP)及びp−ヨード安息香酸の非標識体を使用した。ヒト肝ミクロゾームを酵素源とし、IMPからp−ヨード安息香酸への代謝がNADPH依存的に起こるか否かを調べた。このときIMPの消失の有無及びその程度も調べた。組み換えヒトCYP1A1、1A2、1B1、2A6、2B6、2C8、2C9、2C19、2D6、2E1、3A4及び3A5を用いて、IMPの代謝における各CYP分子種の寄与を調べた。
I.試薬
リン酸水素二ナトリウム・12水(和光純薬)
リン酸二水素カリウム(和光純薬)
EDTA・2Na(和光純薬)
Glucose-6-phosphate(和光純薬)
β−NADP(和光純薬)
Glucose-6-phosphate dehydrogenase(和光純薬)
MgCl・6HO(和光純薬)
過塩素酸(60%)(和光純薬)
p−クロロ安息香酸(和光純薬)
アセトニトリル(和光純薬)
ジブチルアミンフォスフェート溶液(D4試薬)(Waters)
BDウルトラプール150ドナープールドヒト肝ミクロゾーム(日本ベクトン・ディッキンソン)
特級グリセリン(和光純薬)
【0036】
II.試薬調製
1.ミクロゾーム
納品時にミクロゾームは250mMスクロースに懸濁され、蛋白濃度は20mg/mLである。一度融解してミクロゾーム500μLに対しグリセリンを125μL添加した(蛋白濃度は16mg/mLとなる)。エッペンに分注して−80℃に保存し、反応時に必要量を融解して使用した。
【0037】
2.0.167mM EDTA/0.33M NaKリン酸緩衝液(pH7.4)
(1)0.5Mリン酸水素二ナトリウム水溶液(MW:358.14、179.07g/1000mL)に0.5Mリン酸二水素カリウム水溶液(MW136.09、34.02g/500mL)を加え、0.5M NaKリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。
(2)0.5mM EDTA水溶液を調製した(MW372.24、37.22mg/200mL)。
(3)0.5mM EDTA水溶液:0.5M NaKリン酸緩衝液(pH7.4)=1:2の割合で混合し、0.167mM EDTA/0.33M NaKリン酸緩衝液(pH7.4)とした。
【0038】
3.NADPH生成系(用時調製)
(1)1M MgCl水溶液を調製(MW:203.30、10.17g/50mL)した。
(2)Glucose-6-phosphate 18.2mgを精製水536μLに溶解した。
(3)β−NADP4.5mgを精製水482.4μLに溶解した。
(4)(2)の溶解したGlucose-6-phosphateと(3)のβ−NADPを混合し、(1)の1M MgCl水溶液53.6μL及びGlucose-6-phosphate dehydrogenase(1000U/1mL)10.72μLを添加しNADPH生成系とした。
【0039】
III.実験方法
1.親化合物(IMP)減少を指標とした方法
反応溶液は0.05mM EDTA、100mM NaKリン酸緩衝液(pH7.4)、0.64mg/mL蛋白相当のグリセリン添加ヒト肝ミクロゾーム、NADPH生成系(0.5mM β−NADP、5mM Glucose-6-phosphate、1U/mL Glucose-6-phosphate dehydrogenase、5mM MgCl)及び0.5μM IMPを混合し250μLとなるようにした(i)。対照は、NADPH生成系を精製水に置き換え行ったもの(ii)、ミクロゾーム及びNADPH生成系を精製水に置き換え行ったもの(iii)を実施した。IMP添加で反応を開始し37℃で反応後、50μL過塩素酸水溶液を加え反応を停止させた。反応時間を10、20、60分間とした。反応停止後、内部標準物質の20μM p−クロロ安息香酸水溶液を30μL添加し15000rpm、20℃で5分間遠心した。その上清100μLを液体クロマトグラフィーにて分析した。
1検体あたりの組成及び操作を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
分析条件を以下に示す。
カラム:CAPCELL PAK C18 SG120,4.6×250mm(資生堂製)
カラム温度:40℃
移動相Aはアセトニトリル330mL、水670mLを混ぜ、ジブチルアミンフォスフェート溶液(D4試薬)10mLを加えた。
移動相Bはアセトニトリル900mL、水100mLを混ぜ、ジブチルアミンフォスフェート溶液(D4試薬)10mLを加えた。
溶離条件:移動相A:移動相B=100:0→78:22(0min.→16min.)グラディエント、その後移動相A:移動相B=100:0で9分平衡化した。
流量:0.8mL/min.
検出(UV):IMPは232nm、代謝物p−ヨード安息香酸は248nm、内部標準物質p−クロロ安息香酸は235nmで検出した。
*本条件で約6.3分にIMP、約15.6分に代謝物p−ヨード安息香酸、約12.6分に内部標準物質p−クロロ安息香酸が検出された。
【0042】
2.代謝物(p−ヨード安息香酸)の増加を指標とした方法
反応溶液は0.05mM EDTA、100mM NaKリン酸緩衝液(pH7.4)、0.64mg/mL蛋白相当のグリセリン添加ヒト肝ミクロゾーム、NADPH生成系(0.5mM NADP、5mM Glucose-6-phosphate、1U/mL Glucose-6-phosphate dehydrogenase、5mM MgCl)及び1000μM IMPを混合し250μLとなるようにした。対照は、実験方法1.と同様に行った。IMP添加で反応を開始し37℃で反応後、50μL過塩素酸水溶液を加え反応を停止させた。反応時間を10、60、120分間とした。反応停止以降の操作、分析方法は、実験方法1.と同じである。
1検体あたりの組成は、実験方法1.の5μM IMPを10mM IMPとし、他は同様に行った。
【0043】
(結果・考察)
IMP(0.5又は1μM)をヒト肝ミクロゾーム及びNADPHの存在下においてインキュベートしたところ、p−ヨード安息香酸の生成は認められなかった。IMPの濃度は、NADPHの存在下において反応時間依存的に減少し(図1)、IMPがヒト肝ミクロゾーム中の酵素によりNADPH依存的に代謝されることを明らかにした。組み換えヒトCYPを用いた実験により、IMPはCYP2C19により独占的に代謝されることを見いだした(図2及び3)。CYP2C19によるIMPの消失反応のKmは8.6μM、Vmaxは9.7nmol/min/nmol CYPであった。CYP2C19を欠損するヒト肝ミクロゾーム(CYP2C192/2)を用いた場合、IMPの消失速度は野生型のCYP2C19を発現するヒト肝ミクロゾームを用いた場合の約50%であり(図4)、IMPの代謝がCYP2C19の遺伝子多型に依存することを明らかにした。IMPがCYP2C19によって代謝された結果、未知ピークがHPLCクロマトグラムで検出された。ピーク面積はIMPピークの減少に比例して反応時間依存的に増加した。
【0044】
(結論)
以上、IMPはCYP2C19により代謝されることがわかった。したがって、IMP又はその標識体を用いることにより、シトクロムP450による薬物代謝機能を測定できることがわかった。
【0045】
(実施例2)125I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩のCYP2C19による代謝物の分析
N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩(IMP)の代わりに125I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン塩酸塩(125I−IMP)を用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表2及び図5に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
125I−IMPもIMPと同様に、CYP2C19により代謝されることがわかった。したがって、125I−IMPを用いることにより、シトクロムP450による薬物代謝機能を測定できることがわかった。
【0048】
(実施例3)放射性ヨウ素標識アミノ酸の放射性代謝物の分析
(1)放射性ヨウ素標識チロシンの調製
125I−3−ヨード−D−チロシン(125I−D−MIT)及び125I−3−ヨード−L−チロシン(125I−L−MIT)を以下のようにして調製した。
125I−NaIは、Amersham社より購入した。125I−D−MIT及び125I−L−MITは、D−及びL−チロシンを原料としてchloramine−T法によりそれぞれ作製した。即ち、chloramine−T 2.0×10−8mole(Aldrich社)を溶解した0.05Mリン酸緩衝溶液(pH6.2)10μlを、標識原料のアミノ酸1.0×10−8moleと無担体125I−NaI(7,4〜37MBq)を食む35μlの0.4Mリン酸緩衝溶液(pH6.2)に加えた。反応液を2分間放置し、飽和ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液の10倍希釈液を加え、反応を止めた。放射性ヨウ素標識MITの精製は、Sephadex LH−20(Pharmacia社)カラムクロマトグラフィー(10×200mm、溶出液;酢酸エチル:メタノール:2Nアンモニア水=40:10:4)により行なった。溶出した標識アミノ酸画分を集め、減圧下、溶媒を完全に留去した後、生理食塩水に溶解し、以下の実験に用いた。
【0049】
(2)マウス組織ホモジネートを用いた脱ヨウ素化反応
体重約25gのddY系雄性マウス2匹を屠殺解剖した後、即座に肝臓及び腎臓を摘出し、一定量の組織に水冷したKrebs−Ringerリン酸緩衝溶液(pH7.4)を加えてホモジナイズした。氷冷した各ホモジネート100μlに125I−D−MIT又は125I−L−MITを20μl(1.1×10−13mole、7.4kBq)加えて、37℃あるいは4℃にてインキュベートし、5分後、トリクロロ酢酸を最終濃度が5%になるように加えた。遠心分離した後、その上清をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(Merck社Art.5553、展開溶媒;メタノール:酢酸=100:1,メタノール:10%酢酸アンモニア水=10:1)にて分析した。インキュベート5分後の結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
125I−D−MITは、37℃及び4℃のいずれの温度条件においてもほとんど脱ヨウ素化を受けなかった。一方、125I−L−MITは37℃でインキュベートすると、ほとんど脱ヨウ素化された。
【0052】
(3)マウス体内分布実験と代謝物の分析
125I−D−MIT及び125I−L−MITのそれぞれの生理食塩溶液0.1ml(1.6×10−13mole、11.1kBq)を体重約25gのddY系雄性マウス2匹に尾静脈より投与し、一定時間後にエーテル麻酔にて屠殺した。ヘパリン処理注射器を用いて心臓穿刺により採血した後、肝臓、腎臓を摘出した。
【0053】
各組織50mgを精秤し、重炭酸緩衝溶液450μlを加え、ホモジナイズした。この一定量を1.9mlに希釈し、100%トリクロロ酢酸溶液0.1mlを加え、混和した。遠心分離した後、その上清をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(Merck社Art.5553、展開溶媒;メタノール:酢酸=100:1,メタノール:10%酢酸アンモニア水=10:1)にて分析した。インキュベート10分後の結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
いずれの組織においても、125I−D−MITに比較して、125I−L−MITは容易に代謝(酵素的脱ヨウ素化)され、放射性代謝物である遊離ヨウ素が多量に検出された。この傾向は尿中ではより顕著であった。
【0056】
以上のように、125I−D−MIT及び125I−L−MITは代謝のしやすさが大きく異なり、これらの傾向を利用し、個体差、病態の変化による放射性代謝物の量の相違を測定することにより、薬物代謝機能を測定が可能であることがわかった。
【0057】
(実施例4)放射性天然/非天然アミノ酸の放射性代謝物の分析
5週齢ddY系雄性マウスに標識L−/D−メチオニン(Met)を尾静脈注し、10分後にマウスを屠殺した後、膵臓、肝臓、腎臓を摘出した。摘出臓器に重炭酸緩衝液を加えホモジナイズした。このホモジネートに最終濃度5%となるように100%トリクロロ酢酸(Nacalai tesque)を加え、混和した。この沈殿画分をグラスフィルター(GC−50、Toyo)に捕集し、氷冷5%トリクロロ酢酸で洗浄した後、150℃、1時間加熱処理することによりタンパクを固定し、その放射能を測定したものをタンパク画分への組み込み率として評価した。
【0058】
また、前記のトリクロロ酢酸を加えたホモジネートを遠心分離し、上清を薄層クロマトグラフィーにスポット後、展開溶媒(ブタノール:酢酸:水=4:1:1)で展開し、イメージングプレート(BAS−SR2025,Fuji Film)に露光後、BAS5000(Fuji Film)を用いて解析したものを酸可溶性画分における未変化体残存率として評価した。
【0059】
D−Metについて、膵臓においては、体内分布実験の膵臓を分析したため、ダブルトレーサー用のH体を用いた。また、肝臓、腎臓に関しては酸可溶性画分における代謝安定性の評価に14C専用イメージングプレートを用いたために、[S−methyl−14C]−D−Met(14C−D−Met;American Radiolabeled Chemicals)を用いた。したがって、放射性代謝物分析におけるD−Metの表記は14C−/H−D−Metとする。
【0060】
トレーサー投与後10分のマウス膵臓、肝臓、腎臓における14C−L−Met及び14C−/H−D−Metのタンパクへの組み込み率を図6に示した。14C−L−Metは組織集積率の約25〜50%のタンパク組み込み率を示したのに対し、14C−/H−D−Metでは約3%と14C−L−Metと比較し顕著に低下した。
【0061】
また、図7に代表的な代謝性組織である肝臓、腎臓の組織集積率を100%としたときの14C−L−Met及び14C−D−Metの組織内放射性代謝物の存在比を示す。14C−D−Metにおいては約80%が未変化体として存在していたのに対し、14C−L−Metにおいては未変化体は約40%以下しか存在しておらず、約25〜50%はタンパク画分に、約25〜50%は放射性代謝物として存在していることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性化合物を投与した被検者の試料に含まれる前記放射性化合物の放射性代謝物を分析することを含む薬物代謝機能の測定方法。
【請求項2】
薬物代謝機能がシトクロムP450による薬物代謝機能である請求項1記載の方法。
【請求項3】
放射性化合物が放射性アミノ酸である請求項1記載の方法。
【請求項4】
放射性アミノ酸が天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸の放射性標識体である請求項3記載の方法。
【請求項5】
薬物の適正投与量を決定するために行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
被検者の代謝異常を検査するために行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
被検者の試料が血液、血清又は血漿から得られる試料である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミンもしくはその塩、又はこれらの標識体を含有するシトクロムP450による薬物代謝機能を測定するための検査薬。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−81430(P2013−81430A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224666(P2011−224666)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(504013775)学校法人 埼玉医科大学 (39)
【Fターム(参考)】