説明

薬物及び重合体の固体無定形分散を形成するための噴霧乾燥(スプレードライ)方法

薬物及び重合体の固体無定形分散を含む医薬組成物を形成するために、噴霧乾燥方法が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、難溶解性薬物及び重合体の固体無定形分散を含む医薬組成物を形成するため噴霧乾燥(スプレードライ)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物及び重合体の固体無定形分散を形成することが望まれることがある。固体無定形分散を形成することの1つの理由は、薬物及び重合体の無定形分散を形成することによって水溶解度の低い薬物の水性溶解薬物濃度を改善できるということにある。例えばCuratolo et al.,欧州特許第0901786A2号は、やや溶けにくい薬物及び重合体ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナートの薬学的噴霧乾燥分散の形成について開示している。薬物及び重合体のこのような固体無定形分散は、結晶形態の薬物と比べてさらに高い水溶液中の溶解薬物濃度を提供する。かかる固体無定形分散は、薬物が重合体全体を通して均質に分散している場合に最も優れた性能を示す傾向をもつ。
【0003】
噴霧乾燥プロセスは周知であるが、固体無定形分散を噴霧乾燥することは、数多くの独自の課題を提供する。噴霧乾燥には、溶媒中に薬物及び重合体を溶解させて噴霧溶液を形成すること、噴霧溶液を霧化させて液滴を形成させること、そして次に液滴から溶媒を急速に蒸発させて小さな粒子の形で固体無定形分散を形成させることが関与している。固体無定形分散粒子は、好ましくは重合体内の無定形薬物の均質な固体分散である。往々にして、薬物富有領域へと分離されるのではなく重合体内に均質に分散された薬物をなおも有しながら、(溶媒の不在下で)重合体中の薬物の溶解度よりも固体無定形分散中の薬物の量の方が大きいものであることが望ましい。かかる均質な固体無定形分散は「熱力学的に不安定な」ものと称される。噴霧乾燥によりこのような分散を形成するためには、噴霧溶液液滴から溶媒を急速に蒸発させ、かくして均質な固体無定形分散を達成しなければならない。しかしながら、溶媒の急速な蒸発は、非常に小さいか、密度が非常に低い(比容積が高い)か又はその両方である粒子を導く。かかる粒子特性は、材料の取扱い及び固体無定形分散粒子を含有する剤形の形成に関する問題点を導き得る。
【0004】
これとは対照的に、比較的大きく密度の高い粒子に有利に作用する傾向にある乾燥条件は、結果としてその他の問題をもたらす可能性がある。まず第1に、噴霧溶液液滴からの溶媒の低速蒸発は、液滴の蒸発中に重合体から薬物を分離させ、不均質で相分離した分散を導くことができる。すなわち、固体分散は、薬物富有相と重合体富有相を含有する。第2に、大きく高密度の粒子に有利に作用する乾燥条件は、結果として、固体無定形分散中に高レベルの残存溶媒をもたらす可能性がある。これは、少なくとも2つの理由で望ましくない。まず第1に、固体無定形分散粒子中の高い残存溶媒レベルは、重合体から薬物相が分離している不均質分散を結果としてもたらす可能性がある。第2に、残存溶媒の量が増大するにつれて、噴霧乾燥からの生成物収率は、乾燥機のさまざまな部分に湿った液滴を粘着させる液滴の不完全な乾燥に起因して、減少する。乾燥機の表面に粘着する重合体及び薬物は収率を低下させるのみならず、表面からゆるんで崩壊し、生成物中に大きな不均質粒子又は塊として存在する可能性がある。かかる材料は往々にして、噴霧乾燥された材料の大部分よりも長い時間高温にさらされた場合、より高レベルで不純物を有する。
【0005】
さらに、商業目的での固体無定形分散粒子の大量生産には、大量の溶媒の使用が必要となる。噴霧溶液を大量に噴霧乾燥するのに使用されるプロセスは、所望のレベルの残存溶媒及び取扱い特性をもつ粒子を形成する必要性と、均質の固体無定形分散を形成するべく溶媒を急速に蒸発させる必要性とを均衡させる能力を有していなければならない。
【0006】
最終的に、不活性でかつ火災又は爆発の潜在性を低減させる窒素といったような乾燥用ガスを利用することが望ましい場合が多い。コストに起因してかかるガスの使用を最小限におさえかつ使用後のかかるガス中の蒸気として放出された溶媒の量を最小限におさえることが望ましい。
【0007】
従って、均質で密度が高くかつ残存溶媒含有量が低い噴霧乾燥された固体無定形分散を大量に提供する能力をもつ、難溶解性薬物と重合体を含む固体無定形分散の薬学組成物を調製するための噴霧乾燥プロセスに対する必要性がなおも存在する。
【発明の開示】
【0008】
本発明の概要
1つの態様では、以下の段階を含む、薬物と重合体を含む固体無定形分散を含む医薬組成物を形成するための方法が提供されている。入口及び出口を有する乾燥チャンバに連結されたアトマイザを有する乾燥用器具が提供される。難溶解性薬物及び重合体を溶媒中で溶解させることによって、噴霧溶液が形成される。(難溶解性薬物は、以下で定義されているような水溶液中での低い溶解度を有する。)噴霧溶液は、アトマイザを通してチャンバ内に噴霧されて、500μm未満の体積平均サイズをもつ液滴を形成する。乾燥用ガスは、液滴が約20秒未満で凝固するような温度TIN及び流速で入口を通して流される。噴霧溶液の供給速度は、少なくとも10kg/時であり、噴霧溶液の供給速度及び乾燥用ガスのTINは、出口での乾燥用ガスが溶媒の沸点よりも低い温度でTOUTを有するような形で制御される。
【0009】
発明者らは、噴霧乾燥された分散の特性は噴霧乾燥条件によって大きく変動し得るものの、それでも出口での排気乾燥用ガスの温度つまりTOUTは、均質で残存溶媒が低くかつ高密度である固体無定形分散を生産する上できわめて重要であると思われるということを発見した。かくして、噴霧乾燥プロセスの規模をより大量の噴霧溶液及びより大量の乾燥用ガスに拡張する場合、溶媒の沸点より低くTOUTを維持するように各々のものの流速を制御しなければならない。
【0010】
発明者らは、実質的に均質で、高密度でかつ残存溶媒レベルが低い固体無定形分散を形成するためには、比較的低温で乾燥した条件下で噴霧溶液を噴霧乾燥することが望ましいことを発見した。かくして、本発明は、溶媒を急速に蒸発させるのに高温乾燥条件を利用する従来の噴霧乾燥方法と好対照を成す。従来、噴霧乾燥用器具からの生成物の生産を最大限にするためには、噴霧溶液は、乾燥用器具の能力の限界で器具の中に供給される。乾燥用ガスの流速は乾燥用器具による制約を受けているため、乾燥用ガスは、溶媒を蒸発させるのに充分なエネルギーを提供するため非常に高温まで加熱される。以下でより詳細に記述する通り、発明者らは、従来の高温噴霧乾燥条件が、均質、高密度で残存溶媒が低い固体無定形分散の生産へと導くものでないということを発見した。その代り、乾燥用ガスの入口温度及び噴霧溶液の供給速度は、出口における乾燥用ガスの温度TOUTによって決定されるように、乾燥チャンバ内で比較的低温の条件を維持するべく制御されなくてはならない。さらに、条件は乾燥状態となるように選択される。すなわち、入口における低い乾燥用ガス温度TINにも関わらず溶媒が急速に蒸発するように乾燥チャンバ内で溶媒に対し充分余剰の乾燥用ガスを与えるように選択される。当該プロセスの結果としての利点の1つは、それが従来の製造方法で可能であるよりも高い薬物重合体比をもつ均質の固体無定形分散を結果としてもたらすという点にある。
【0011】
もう1つの態様においては、以下の段階を含む、薬物と重合体を含む固体無定形分散を含む医薬組成物を形成するための方法(プロセス)が提供されている。入口及び出口を有する乾燥チャンバに連結されたアトマイザを有する乾燥用器具が提供される。難溶解性薬物及び重合体を溶媒中で溶解させることによって、噴霧溶液が形成される。噴霧溶液は、アトマイザを通してチャンバ内に噴霧されて、500μm未満の体積平均サイズをもつ液滴を形成する。乾燥用ガスは、液滴が約20秒未満で凝固するような温度TIN及び流速で入口を通して流される。入口に進入する乾燥用ガスはさらに、蒸気形態で溶媒を含んでいる。この態様の好ましい実施形態においては、出口を通って乾燥チャンバから退出する乾燥用ガスは、溶媒収集システムを通って入口まで再循環され、該溶媒収集システムは、入口内への乾燥用ガスの再進入に先立ち乾燥用ガスから溶媒の一部分のみを除去する。
【0012】
該発明のもう1つの態様においては、TOUTは溶媒の沸点よりも5〜25℃低く、さらに好ましくはTOUTは溶媒の沸点よりも10〜20℃低い。
【0013】
もう1つの態様では、TOUTは、乾燥チャンバから退出するときの固体無定形分散の残存溶媒レベルでの固体無定形分散のガラス遷移温度よりも低い。
【0014】
もう1つの態様では、乾燥チャンバ内の溶媒の露点は、TOUTよりも実質的に低く、TOUTよりも少なくとも10℃、少なくとも20℃、又さらには少なくとも30℃低いものであってよい。
【0015】
該発明のもう1つの態様においては、噴霧溶液は、粉末分散装置といったような別の混合装置の中で難溶解性薬物、重合体及び溶媒を混合することによって形成される。
【0016】
該発明のもう1つの態様においては、アトマイザは圧力ノズルである。1実施形態においては、圧力ノズルは、ノズル上への乾燥した材料の蓄積を低減させるべくノズルの出口オリフィスの近くに内部円錐形表面を画定する。
【0017】
該発明のもう1つの態様においては、噴霧溶液は高い供給速度を有する。供給速度は少なくとも50kg/時、少なくとも100kg/時又さらには少なくとも200kg/時であり得る。1実施形態においては、噴霧溶液の供給速度は少なくとも400〜600kg/時である。
【0018】
該発明の以上の及びその他の目的、特長及び利点は、以下の該発明の詳細な説明を考慮するとさらに容易に理解できるものと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、難溶解性薬物及び重合体の均質な固体無定形分散を含む薬学組成物を形成するための噴霧乾燥プロセス、特に、大体積の噴霧溶液を噴霧乾燥して固体無定形分散を大量に形成するためのプロセスに関する。当該プロセスでは、まず最初に噴霧溶液を形成するべく溶媒中に難溶解性薬物及び重合体を溶解させることにより、均質の固体無定形分散が形成される。次に溶媒を急速に除去して固体無定形分散を形成する。
【0020】
本書で開示されているプロセスによって形成される結果として得られた分散中の薬物の濃度は、(室温での)重合体内の薬物の溶解度より低いものであってよい。このような分散は、熱力学的に安定した分散と称され、通常均質である。すなわち、薬物は分子レベルで重合体内に実質的に均質に分散され、かくして固溶体とみなすことができる。
【0021】
往々にして、重合体内の薬物の濃度がその溶解度を超えていてもなお均質である分散を形成することが望ましい。かかる分散は熱力学的に不安定であると称される。熱力学的に不安定である均質の固体無定形分散を形成するための秘訣は、溶媒を急速に除去することにある。溶媒が蒸発するにつれて、噴霧溶液から薬物及び重合体相が分離する時間的尺度よりも速い時間的尺度で溶媒が噴霧溶液から除去される場合には、重合体中の薬物の濃度がたとえその溶解度よりも高く従って熱力学的に不安定であっても、均質の固体無定形分散が形成され得る。しかしながら、溶媒が除去される速度は、結果として得られる固体無定形分散の物理的特性に著しく影響する。固体無定形分散の所望の特性、及びこれらの特性を達成するのに必要とされる噴霧乾燥条件について以下で詳述する。
【0022】
固体無定形分散
I. 固体無定形分散の所望の特性
水性使用環境中の難溶解性薬物の濃度増強を達成するためには、固体無定形分散はいくつかの特性を有していなくてはならない。水性使用環境は、溶解試験媒質といったようなインビトロ使用環境か、又は胃腸管といったインビボ使用環境のいずれかであり得る。溶解した薬物の濃度増強の度合については、以下でさらに詳細に記述するが、一般に、分散は、水性使用環境に投与された時点で、使用環境中の薬物の結晶形態の溶解度よりも大きい使用環境中の溶解済み薬物濃度を、少なくとも一時的に提供する。使用環境中で濃度増強を提供する固体無定形分散は、以下のような特徴をもつ:(1)固体分散は「実質的に均質」である;(2)薬物は「実質的に無定形」である;(3)固体分散は、比較的高い薬物負荷をもつ;及び(4)固体分散は低い残存溶媒含有量を有する。
【0023】
1. 実質的に均質
本書で使用される「実質的に均質」というのは、固体無定形分散内の比較的純粋な無定形領域に存在する薬物が比較的小さく、およそ20%未満であることを意味する。好ましくは純粋無定形領域内に存在する薬物の量は、薬物の合計量の10%未満である。実質的に均質な分散中では、薬物は重合体全体を通して可能なかぎり均質に分散しており、重合体(単複)中に分散した薬物の固溶体と考えることができる。分散はいくつかの薬物富有領域を有し得るものの、分散が実質的に均質であることを実証する単一のガラス遷移温度(Tg)を分散自体が有することが好ましい。このことは、一方は薬物のもの、もう一方は重合体のものという2つの全く異なるTgを一般に示す純粋な無定形薬物粒子及び純粋な無定形重合体粒子の単純な物理的混合物と対照をなす。本書で使用されるTgというのは、漸進的な加熱の時点でガラス材料が、ガラス状態からゴム状態までの比較的急速な(例えば10〜100秒)物理的変化を受ける特徴的な温度である。
【0024】
固体無定形分散の均質性を経時的に維持するためには、固体無定形分散のTgが周囲貯蔵温度よりも高いことが望ましい。固体無定形分散中の薬物の移動度は、固体無定形分散のTgによって左右される。移動度というのは、固体材料を通して分散する薬物の能力を意味する。固体無定形分散中の薬物の移動度が高い場合、薬物は、薬物と重合体の均質な固溶体から相分離して別々の薬物富有領域を形成することができる。かかる薬物富有領域はそれ自体結晶化し得る。このような場合、結果として得られた不均質分散は、均質な固体無定形分散と比べて低い水溶液中の溶解済み薬物濃度及び低い生物学的利用能を提供する傾向をもつ。薬物の移動度は、固体無定形分散のTgが周囲温度より高い場合、劇的に低下する。特に、固体無定形分散のTgは少なくとも40℃、好ましくは少なくとも60℃であることが好ましい。Tgは、それ自体固体無定形分散が露呈されている相対的湿度(RH)の関数である固体無定形分散の水及び溶媒含有量の関数であることから、これらのTg値は、貯蔵中に見い出されるものと同等のRHと平衡状態にある量で水を含有する固体無定形分散のTgを意味する。好ましくは固体無定形分散のTgは50%RHで測定して少なくとも40℃、好ましくは少なくとも60℃である。薬物自体が比較的低いTg(約70℃以下)を有する場合、分散重合体が50%のRHで少なくとも40℃、好ましくは少なくとも70℃、より好ましくは100℃を上回るTgを有することが好ましい。
【0025】
2. 実質的に無定形
さらに、分散中の薬物は、「実質的に無定形」である。本書で使用されている「実質的に無定形」という語は、無定形形態である薬物の量が少なくとも75重量%であること、すなわち、存在する結晶質薬物の量が約25重量%を超えないことを意味する。より好ましくは、分散中の薬物は「ほぼ完全に無定形」であり、これはすなわち薬物の少なくとも90重量%が無定形であるか又は結晶質形態の薬物の量が10重量%を超えないことを意味している。結晶質薬物の量は、粉末X線回折、走査型電子顕微鏡(SEM)分析、示差走査熱量計(DSC)又はその他のあらゆる標本定量測定法によって測定可能である。
【0026】
特に使用前に長時間貯蔵した時点で、最大レベルの溶解済み薬物濃度及び生物学的利用能の増強を得るためには、薬物が可能なかぎり無定形状態にとどまることが好ましい。発明人らは、固体無定形分散のガラス遷移温度Tgが上述のように分散の貯蔵温度よりも実質的に高い場合に最もうまく達成されるということを発見した。
【0027】
3. 薬物量
投薬すべき不活性材料の量を低減させるために、通常は、うまく性能を発揮する(例えば哺乳動物といったような動物に投薬した場合の生物学的利用能及び使用環境内での溶解した薬物濃度を増強させる)分散をなおも達成しながら可能なかぎり多い量で薬物が固体無定形分散中に存在していることが望ましい。本発明の固体無定形分散内に存在する重合体の量との関係における薬物の量は、薬物及び重合体によって左右される。往々にして、存在する薬物の量は、重合体内の薬物の溶解度よりも大きい。該発明は、なおも均質に分散された状態にありながら重合体中でのその溶解度よりも高いレベルで固体無定形分散の中に薬物が存在できるようにする。薬物の量は、0.01〜約49の薬物−重合体重量比から大幅に変動しうる(例えば1重量%の薬物〜98重量%の薬物)。しかしながら、大部分のケースでは、薬物対重合体比が少なくとも約0.05(4.8重量%の薬物)、より好ましくは少なくとも0.10(9重量%の薬物)さらに一層好ましくは少なくとも約0.25(20重量%の薬物)であることが好ましい。より高い比率は、少なくとも0.67(40重量%の薬物)といったような薬物及び重合体の選択に応じて可能であり得る。しかしながら、一部のケースでは、濃度−増強の度合は高い薬物負荷で低下し、かくして、薬物対重合体比は一部の分散については約2.5(71重量%の薬物)未満であり得、約1.5未満(60重量%の薬物)でさえあり得る。
【0028】
さらに、分散中の薬物及び重合体の量は、好ましくはその他の賦形剤に比べ高い。集合的には、薬物及び重合体は好ましくは分散の少なくとも80重量%を構成し、固体無定形分散の少なくとも90重量%さらには最高100重量%を構成し得る。
【0029】
4. 低い残存溶媒含有量
固体無定形分散は同様に低い残存溶媒含有量を有する。残存溶媒含有量というのは、噴霧乾燥機から退出した直後の噴霧乾燥後の固体無定形分散内に存在する溶媒の量を意味する。分散中の溶媒の存在は、分散のガラス遷移温度を低下させる。かくして、分散中の薬物の移動度ひいてはその相分離及び結晶化傾向は、固体無定形分散中の残存溶媒量が減少するにつれて減少する。一般的に、固体無定形分散の残存溶媒含有量は約10重量%未満、好ましくは約5重量%未満さらに一層好ましくは3重量%未満であるべきである。
【0030】
II. 分散の所要サイズ及び密度
上述の特性に加えて、固体無定形分散が、取扱い及び処理を容易にするような或る種の特徴を有することも望まれる。分散は、取扱いを容易にするために以下の特徴を有するべきである:(1)分散は過度に小さくてはならない;及び(2)分散は高密度であるべきである。
【0031】
1. サイズ
一般に、噴霧乾燥によって形成された固体無定形分散は、小さい粒子として乾燥チャンバから退出する。小さい粒度は一部のケースでは溶解性能を補助し得るが、非常に小さい粒子、特に微粉(例えば直径約1μm未満)は取扱い及び処理が困難であり得る。一般に、粒子の平均サイズは、直径500μm未満でなくてはならず、より好ましくは、直径200μm未満、そしてより好ましくは直径100μm未満である。平均粒径の好ましい範囲は、約1〜約100μm、より好ましくは約5〜約80μmである。粒度は、例えばMalvernレーザー光散乱器具を用いることによって、従来の技術を用いて測定可能である。
【0032】
好ましくは、固体無定形分散は、非常に小さい(1μm未満)粒子画分を最小限におさえるべく、比較的狭い粒度分布を有する。粒子は、3以下そしてより好ましくは約2.5以下のスパンを有し得る。本書で使用する「スパン」という用語は以下の通りに定義され;
【数1】

式中、D10は、それ以下の直径をもつ粒子を含有する合計体積の10%を構成する粒子の直径に対応する直径であり、D50は、それ以下の直径の粒子を含有する合計体積の50%を構成する粒子の直径に対応する直径であり、D90は、それ以下の直径をもつ粒子を含有する合計体積の90%を構成する粒子の直径に対応する直径である。
【0033】
2. 密度
粒子は、乾式配合、湿式又は乾式造粒、カプセル充てん又は錠剤への圧縮といった単位作動での取扱い及び後処理を容易にするべく充分高密度でもあるべきである。固体無定形分散粒子は、少なくとも0.1g/ccの密度を有するべきである。密度は、代表試料を収集し、質量を決定し次に目盛り付きシリンダ内の試料の体積を決定することによって測定可能である。好ましくは、粒子は、少なくとも0.15g/cc、より好ましくは0.2g/ccより高い密度を有する。換言すると、粒子の嵩比容積は10cc/g以下、好ましくは6.7cc/g未満そして好ましくは5cc/g未満であるべきである。粒子は、約8cc/g以下、より好ましくは5cc/g未満、そしてさらに一層好ましくは約3.5cc/g以下のタップ比容積を有し得る。粒子は約3以下、より好ましくは約2以下のハウスナ比を有し得る(ハウスナ比というのは、タップ比容積で嵩比容積を除した比である)。
【0034】
噴霧乾燥(スプレードライ)のためのプロセス
噴霧乾燥という語は従来通りに使用されており、広義には液体混合物を小さい液滴へと崩壊させ(霧化)、溶媒の蒸発のための強い駆動力が存在するコンテナ中で液滴から溶媒を急速に除去することが関与するプロセスを意味する。噴霧乾燥システム10の一例が図1に概略的に示されている。システム10は、ミキサー20を用いて噴霧溶液を混合するためのタンク18を内含する。噴霧溶液は、溶媒中に溶解した薬物及び重合体を含有する。処理を補助するために任意の溶媒タンク22を利用することができる。タンク18はポンプ26をもつ供給ライン24を介して乾燥チャンバ28に連結される。供給ライン24は、チャンバ28の上面にあるアトマイザ30に連結されている。アトマイザ30は、乾燥チャンバ内で噴霧溶液を細かい液滴へと崩壊させる。窒素といったような乾燥用ガスが同じく気体ディスペンサ32を通してチャンバ内に導入される。乾燥用ガスは、入口34で乾燥チャンバ28内に入る。溶媒は、チャンバ28内部で液滴から蒸発し、薬物及び重合体の固体無定形分散を形成する。固体無定形分散粒子及び排気乾燥用ガス(今や冷却された状態の乾燥用ガス及び蒸発した溶媒)は、乾燥チャンバ28の底面で出口36を通って乾燥チャンバを退出する。サイクロン38又はその他の収集装置を用いて、排気ガスから固体無定形分散粒子を分離することができる。
【0035】
噴霧溶液及び乾燥条件は、さまざまな要因の間のバランスをとるように選択されなくてはならない。まず第1に、噴霧溶液及び乾燥条件は、上述の物理的特性をもつ実質的に均質な固体無定形分散を結果としてもたらすべきである。第2に、噴霧溶液及び乾燥条件は同様に、大きな体積の噴霧溶液でかかる分散を効率よく製造できるようにしなくてはならない。これら2つの最終目的を達成するのに必要な噴霧溶液及び乾燥条件の特徴について以下で詳述する。
【0036】
1, 噴霧溶液
噴霧溶液は、結果として得られた固体無定形分散の薬物負荷を決定し、同様に、固体無定形分散が均質であるか否か及び分散の生産効率に影響を及ぼす。噴霧溶液は少なくとも薬物、重合体及び溶媒を含有する。
【0037】
1. 薬物及び重合体の量
溶媒中に溶解した薬物及び重合体の相対的量は、結果として得られた固体無定形分散中で所望の薬物対重合体比を生み出すように選択される。例えば、0.33(25重量%の薬物)という薬物対重合体比をもつ分散が望まれる場合には、噴霧溶液は、溶媒中に溶解した3部分の薬物と3部分の重合体を含む。
【0038】
噴霧溶液の合計溶解済み固体含有量は、好ましくは、噴霧溶液が固体無定形分散の効率の良い生産を結果としてもたらすことになるように充分高いものである。合計溶解済み固体含有量は、溶媒中に溶解した薬物、重合体及びその他の賦形剤の量を意味する。例えば、5重量%の溶解済み固体含有量を有し、25重量%の薬物負荷をもつ固体無定形分散を結果としてもたらす噴霧溶液を形成するためには、該噴霧溶液は、1.25重量%の薬物、3.75重量%の重合体及び95重量%の溶媒を含むことになる。薬物は、溶解限度に至るまで噴霧溶液中に溶解させることができる。溶解した量は、通常、霧化に先立つ溶液の温度での溶液中の薬物の溶解度の80%未満である。溶解済み固体含有量は、溶媒中の薬物及び重合体の溶解度に応じて、0.2重量%〜30重量%の範囲内であり得る。溶媒中での優れた溶解度を有する薬物については、噴霧溶液は好ましくは少なくとも3重量%、より好ましくは少なくとも5重量%そしてさらに一層好ましくは少なくとも10重量%の固体含有量を有する。しかしながら、溶解済み固体含有量は過度に高くてはならず、さもなければ噴霧溶液は粘度が高すぎて小さな液滴へと効率良く霧化できない可能性がある。噴霧溶液の粘度は約0.5〜約50,000cp、より標準的には10〜2000cpの範囲内であり得る。
【0039】
2. 溶媒の選択
第2に、溶媒は、低い残存溶媒レベルを有する実質的に均質な分散を生み出すように選択される。溶媒は、以下の特徴に基づいて選択される:(1)薬物及び重合体の両方が溶媒中で可溶性であり、好ましくは高い溶解度をもつ;(2)溶媒は比較的揮発性である;及び(3)溶液は溶媒の除去中にゲル化する。好ましくは、溶液中の薬物の溶解度は、溶液がゲル化する固体含有量で薬物が可溶性をもち続けるように充分高いものである。
【0040】
a. 溶解度特性
ほぼ完全に無定形でかつ実質的に均質である分散を達成するために、溶媒は、その中で重合体及び薬物が両方共可溶でありかつ好ましくはきわめて溶解度が高い噴霧溶液を生成する。薬物及び重合体は好ましくは、霧化に先立ち噴霧溶液中の溶媒内で完全に溶解されているべきである。こうして、分子レベルで重合体、薬物及び溶媒の密な混合が可能となる。好ましくは、薬物は、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも2.0重量%、そしてより好ましくは少なくとも5.0重量%の溶媒中の溶解度を有する。
【0041】
重合体は、溶媒中でもきわめて溶解度が高くなくてはならない。しかしながら、重合体については、このことは、重合体が形成する溶液の性質によって最も良く標示される。理想的には、重合体が高レベルで凝集し目に見えて透明な溶液を形成するほどに充分に重合体を溶媒和させる溶媒が選択される。重合体凝集は、凝集が高い場合溶液が曇るか又は混濁することによって、及び溶液が大量の光を散乱させることによって標示される。かくして、溶媒の受諾可能性は、当該技術分野において周知の通り、溶液の濁度又は光散乱レベルを測定することによって決定可能である。例えば、重合体ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタート(HPMCAS)については、アセトンは優れた溶媒選択肢であり、重合体が溶解した時点で透明な溶液を形成する。これとは対照的に、純粋エタノールは、その中でHPMCASがわずかな部分(約20〜30重量%)しか溶解できないことから、拙劣な選択肢である。このことは、溶媒としてエタノールを用いる場合に結果としてもたらされる不均質混合物の性質、(すなわちゲル化した未溶解重合体の不透明溶液の上の透明な溶液)によって実証される。優れた溶媒和は同様に、以下で記述するもう1つの関連する物性、すなわちゲル化をも導く。溶媒和が低いレベルである場合、重合体は、ゲル化すなわち極めて粘度の高い液体又は固体の単相(重合体及び溶媒)材料としてとどまるのではなくむしろ沈殿する(貧溶媒固体及び貧重合体溶液に分離する)。
【0042】
噴霧乾燥に適した溶媒は、薬物及び重合体がその中で相互に溶解できるあらゆる化合物であり得る。好ましい溶媒としては、アルコール例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、及びブタノール;ケトン例えば、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソ−ブチルケトン;エステル例えば、エチルアセタート及びプロピルアセタート;及び様々なその他の溶剤例えば、アセトニトリル、メチレンクロリド、トルエン、THF、環状エーテル、及び1,1,1−トリクロロエタンが含まれる。ジメチルアセタミド又はジメチルスルフォキシドといったようなより低い揮発度の溶媒も同様に使用可能である。50%のメタノール及び50%のアセトンといった溶媒の混合物は、重合体及び薬物が噴霧乾燥プロセスを実施可能にするのに充分な溶解度を有するかぎり、水との混合物と同様、使用可能である。一部のケースでは、噴霧溶液中の重合体の溶解度を補助するべく少量の水を添加することが望ましいかもしれない。
【0043】
b. 沸点
高速溶媒除去を達成するため及び結果として得られる固体無定形分散中の残存溶媒レベルを低く(好ましくは約5重量%未満に)保つために、比較的揮発度の高い溶媒が選択される。好ましくは、溶媒の沸点は約200℃未満、より好ましくは約150℃未満、さらに好ましくは約100℃未満である。溶媒が溶媒の混合物である場合、溶媒の最高約40%が低揮発度の溶媒を含み得る。好ましくは、かかる混合物中、その他の成分の沸点は低い(例えば100℃未満)。溶媒配合物の沸点は、経験的に決定することができる。しかしながら、溶媒の揮発度が過度に高い場合、溶媒は過度に急速に蒸発することになり、その結果、蒸発段階が低温で行なわれないかぎり、低密度の粒子をもたらす。出口での排気乾燥用ガスの温度(TOUT)が約20℃未満である条件での作動は往々にして非実用的である。実際には、アセトン(56℃の沸点)及びメタノール(65℃の沸点)がさまざまな薬物について良好に作用する。
【0044】
c.ゲル化
溶媒は、好ましくは蒸発プロセス中で凝固する前に薬物、重合体及び溶媒の霧化された液滴をゲル化させるように選択される。当初、噴霧溶液は、溶媒中の溶解した薬物及び重合体の均質な溶液である。噴霧溶液が乾燥チャンバ内に噴霧される場合、該噴霧溶液は液滴の形に霧化される。溶媒は液滴から急速に蒸発して、溶解した薬物及び重合体の濃度を液滴中で増大させる。溶媒が蒸発し続けるにつれて、3つの可能なシナリオが存在する:すなわち(1)液滴中の重合体濃度が重合体のゲル点を超えて、均質なゲルを形成する;(2)液滴中の溶解した薬物の濃度が液滴中の溶液内薬物の溶解度を超え、薬物を溶液から相分離させる;又は(3)液滴中の重合体の濃度が、液滴中の溶液内の重合体の溶解度を超えて、溶液から重合体を相分離させる。溶媒が蒸発させられるにつれて重合体、薬物及び溶媒が薬物の相分離又は重合体沈殿に先立ち均質なゲルを形成するような形で溶媒及び重合体及び薬物の濃度が選択された場合に最も容易に、均質な固体無定形分散が形成される。これとは対照的に、重合体ゲル化に先立ち薬物又は重合体が相分離する場合には、実質的に均質な分散を生成するような噴霧乾燥条件を選択するのがさらに困難になる。薬物の溶解限度に達する前の溶液のゲル化は、薬物の相分離プロセスを減速させ、有意な相分離無く噴霧乾燥プロセスにおいて粒子が凝固するための適切な時間を提供する。
【0045】
重合体をゲル化させる溶媒を選択することにより、重合体の濃度は、溶媒から溶媒が蒸発するにつれて重合体のゲル点を超えることになり、その結果、薬物、重合体及び溶媒の均質なゲルが得られる。これが発生した場合、液滴中の溶液の粘度は急速に増大し、溶媒の存在の如何に関わらず液滴中の薬物及び重合体を固定化させる。付加的な溶媒が除去されるにつれて、薬物及び重合体は液滴全体を通して均質に分布した状態にとどまり、実質的に均質な固体分散が結果として得られる。
【0046】
代替的には、溶媒及び重合体及び薬物の濃度は、溶媒が蒸発するにつれて、薬物濃度が溶媒中の薬物溶解度を超えるすなわち過飽和するような形で選択される。かかる系は、薬物が溶液から究極的に相分離する(例えば過飽和される)ことになる点より高い薬物濃度を溶液が有し、しかもなお液体である(例えばまだ固体でない)時間が充分短かくそのため薬物は実質的に相分離しないかぎりにおいて、満足のいく固体無定形分散(例えば薬物は無定形又は結晶質の薬物として相分離されていない)を生み出すことができる。
【0047】
3. 溶液混合
薬物及び重合体の全てが完全に溶解している均質な噴霧溶液を達成するべく噴霧溶液を調製することが重要である。一般に、薬物及び重合体を溶媒に添加し、一定の時間、機械的に混合又は攪拌する。混合プロセスの例には、液中羽根車又は攪拌機が含まれる。好ましくは、重合体及び薬物の全てが確実に溶解してしまうように、4〜8時間といったような比較的長時間にわたり、溶液を混合する。
【0048】
好ましい実施形態においては、高せん断粉末分散装置、ジェットミキサー又はラインブレンダといったような別々の混合装置を用いて、薬物及び重合体を溶媒と混合する。発明人らは、噴霧溶液の大きなバッチ(約100リットルを超える)を形成する結果となりうる1つの問題は、適正な時間内で溶媒中で重合体が完全に溶解できないということにある、ということを発見した。重合体粉末が充分に分散しない場合又はそれが過度に急速に溶媒に添加された場合、重合体は群がって溶解し始める可能性がある。溶媒は、重合体の外部層を溶媒和させ始め、ゲルを形成する。ゲルの外部層がひとたび形成した時点で、溶媒がゲル層を通って乾燥重合体の内部層内に進入することがさらに困難になる。かかる部分的に溶媒和した塊は、アトマイザを詰まらせることなどにより、噴霧乾燥プロセスと干渉し得る。さらに、かかる塊は、大部分が所望されるものよりも高い薬物対重合体比で構成され一部の粒子が所望されるものよりも低い薬物対重合体比を有する、不均質な粒子を生み出す可能性がある。極端なケースでは、一部の粒子は大部分重合体で構成される場合さえある。この問題を無くするためには、例えば高せん断粉末分散装置を使用することによって、噴霧溶液の入ったタンクとは分離して、重合体を薬物と混合することができる。
【0049】
図2は、概略的に、溶液タンク18、ポンプ40、ホッパー42及び別の混合装置44を含む混合システムを概略的に示している。溶液タンク18は当初、溶媒を収納しており、この溶媒はポンプ40を介して混合装置44まで圧送される。薬物、重合体又はその両方の乾燥粉末材料が、ホッパー42を通して装置44の内部に供給される。混合用装置44は、後にタンク18に供給される溶解した薬物と重合体の均質な溶液を形成するべく、充分な機械的攪拌及び/又はせん断を用いて、溶媒及び乾燥材料を組合わせる。別の混合装置の例としては、Quadro Engineering incorporated; Waterloo, Ontario, Canada; Silverson Machines inc; East Longmeadow, MA; LIGHTNIN; Rochester, NH; 及びEKATO Corporation; Ramsey, NJ.から入手可能な高せん断粉末分散装置がある。
【0050】
II. 溶媒の蒸発
1. プロセス条件
噴霧溶液からの溶媒の蒸発方法も同様に固体無定形分散粒子の密度及びサイズならびに固体無定形分散が均質であるか否かに影響を及ぼす。溶媒を除去する上での問題点は、均質な粒子の形成に有利に作用する傾向をもつ要因が往々にして望ましくない低密度を有する粒子を導き、逆も成り立つということにある。実質的に無定形の均質な分散を形成するためには、溶媒を急速に除去することが望ましい。噴霧溶液は薬物、重合体及び溶媒の均質な混合物であることから、溶媒は、薬物及び重合体が互いに分離するのに必要な時間に比べて短かい時間枠上で除去されなくてならない。一方、高密度の粒子を形成するためには、溶媒をゆっくりと除去しなくてはならない。しかしながら、これは、不均質でかつ/又は望ましくないほどに高い残存溶媒レベルを有する粒子を生成する可能性がある。
【0051】
一般に、溶媒は、液滴が乾燥チャンバの出口に達した時点で基本的に固体であり10重量%よりも低い残存溶媒含有量を有するような形で充分急速に蒸発する。液滴の大きい表面対体積比及び大きい溶媒蒸発駆動力は、数秒以下、より標準的には0.1秒未満の実際の乾燥時間を導く。10重量%未満の残存溶媒レベルまでの乾燥時間は、100秒未満、好ましくは20秒未満、そしてより好ましくは1秒未満でなくてはならない。
【0052】
さらに、乾燥チャンバを退出する場合の固体分散の最終的溶媒含有量は、分散中の残存溶媒が分散のTgを押し下げることから、低いものであるはずである。かくして乾燥条件は、乾燥チャンバから退出するときの分散のガラス遷移温度が高くなるように低い残存溶媒レベルを結果としてもたらすように選択されなくてはならない。一般に、乾燥チャンバを離れるときの固体無定形分散の溶媒含有量は、約10重量%未満、好ましくは約5重量%未満そしてより好ましくは約3重量%未満であるべきである。好ましくは、残存溶媒レベルは、固体無定形分散のTgが少なくとも出口における排気乾燥用ガスの温度(TOUT)より20℃低く、好ましくは少なくともTOUTであるように、充分に低いものである。例えば、出口における乾燥用ガスが40℃の温度を有する場合には、乾燥チャンバを退出するときの残存溶媒レベルでの固体無定形分散のTgは、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも40℃である。
【0053】
このことは、もう1つの潜在的な課題を浮き彫りにしている。一般に、低い残存溶媒レベルは従来、乾燥用ガスの温度TINを上昇させることによって達成され、このことが今度はTOUTのより高い値を導く。発明者らは、比較的低い入口温度TINで(噴霧溶液の流速に比べて)比較的大きい乾燥用ガスの流速を用いることによって、この問題を回避した。こうして、低い残存溶媒レベルをなおも達成しながら比較的低いTOUTを達成するという所望の結果が導かれる。この一組の運転条件は、一般にTOUT−Tgを20℃未満、好ましくは0℃未満に保つという所望の最終目標へと導く。実際には、乾燥用ガス流速は、上述の通り比較的狭い範囲内で固定される。かくして、乾燥用ガス流速対噴霧溶液流速の比は、噴霧溶液流速を(ならびにTOUTを低く保つためにTINを)低下させることにより一定の与えられた器具について大きく保たれる。これは、器具の生産性(生成物kg/時)を低下させることから、従来の噴霧乾燥方法と好対照を成す。
【0054】
噴霧溶液は最高80重量%以上の溶媒で構成され得ることから、溶媒の実質的な数量を、蒸発プロセス中に除去する必要がある。溶媒蒸発のための強い駆動力は一般に、乾燥しつつある液滴の温度で溶媒の蒸気圧よりもはるかに低く乾燥チャンバ内の溶媒の部分圧を維持することにより提供される。これは、(1)部分真空に乾燥チャンバ内の圧力を維持すること(例えば0.01〜0.50バール);(2)噴霧溶液の液滴を温かい乾燥用ガスと混合すること;又は(3)その両方によって達成される。溶媒の蒸発のために必要とされる熱の一部分は同様に、噴霧溶液を加熱することによっても提供され得る。
【0055】
いくつかのパラメータが、噴霧液滴からの溶媒の蒸発の速度及び程度及び結果として得られる固体無定形分散粒子の特性に影響を及ぼす。すなわち、(1)乾燥チャンバ内の圧力;(2)乾燥用ガスの供給速度;(3)乾燥用ガスの組成;(4)噴霧溶液の温度;(5)入口における乾燥用ガスの温度(Tin);(6)噴霧溶液の供給速度;及び(7)霧化された噴霧溶液の液滴サイズ、である。
【0056】
乾燥チャンバ内の圧力及び乾燥用ガスの供給速度は、CYC及び付随する生成物収集装置(例えばサイクロン、バグハウスなど)の特定の形態により、相対的に狭い作動範囲内で標準的に決定される。噴霧乾燥機内の圧力は、標準的には、周囲圧力との関係において正圧(例えば1バールを上回るもの)に維持される。例えば、NIRO(Niro A/S、Copenhagen;Denmalk)PSD−2噴霧乾燥機については、チャンバ内の圧力は、1.017〜1.033バール、好ましくは1.022〜1.032バールの範囲内であり得る。チャンバ内の正圧を維持するという必要条件は、空気が乾燥チャンバ内に入る確率を低減させ従って酸素に対する蒸発済み溶媒の露呈を最小限におさえることから、一部には安全上の配慮に起因している。さらに、サイクロンといったような生成物収集装置は標準的に正圧でより効率良く作動する。
【0057】
噴霧チャンバの中に入る乾燥用ガスは、噴霧溶液溶媒としてチャンバ内に導入された蒸発済み溶媒のためのシンクとなるように充分高い流速にあるべきである。こうして、蒸発が低温条件で発生できるよう充分に乾燥した環境が提供される。低い残存溶媒レベルを達成するためには、乾燥チャンバ内の乾燥用ガス中の溶媒の露点は低いものでなくてはならない。(露点を決定する)乾燥用ガス中の溶媒蒸気の量は、所望の残存溶媒含有量を有する固体無定形分散と平衡状態にある溶媒蒸気の量よりも少ないものであるべきである。例えば、乾燥チャンバを退出する固体無定形分散が10重量%以下の残存溶媒含有量を有するべきであることが望まれている場合、乾燥チャンバ内の乾燥用ガス内の溶媒蒸気の最大量は、TOUTの温度で10重量%の残存溶媒をもつ固体無定形分散と平衡状態にある気体中に存在する溶媒蒸気の量よりも少ないものでなくてはならない。乾燥チャンバ内に存在しうる溶媒蒸気の最大量は、任意の与えられた所望の残存溶媒レベルについて経験的に計算又は決定され得る。経験的に決定される場合、固体無定形分散を乾燥用ガスと共に密封コンテナ内に入れることができる。溶媒蒸気を添加することができる。溶媒蒸気と平衡状態にある残存溶媒含有量を決定するために定期的に固体無定形分散を評価することが可能である。
【0058】
実際には、乾燥した乾燥用ガスに対するニーズは、乾燥用ガス内の溶媒の非常に低い露点を導く。乾燥チャンバ内の溶媒の露点(溶媒の全てが蒸発した場合)は、TOUTより実質的に低くなくてはならず、TOUTよりも少なくとも10℃、少なくとも20℃又さらには少なくとも30℃低いものであってよい。例えば、40℃の出口温度TOUTでの溶媒アセトンで噴霧乾燥する場合、乾燥用ガスの流速を、乾燥チャンバ内のアセトンの露点が−5〜5℃の範囲内となるように設定することができる。この乾燥した乾燥用ガスは、比較的低温条件においても急速に蒸発するため強い駆動力を提供する。約50kg/時〜約80kg/時の噴霧溶液供給速度については、乾燥用ガスの供給速度は、約400〜約600m3/時の範囲にあり得る。噴霧溶液の大きい供給速度については(例えば約400〜500kg/時の供給速度)、乾燥用ガス供給速度は約200〜約2500m3/時の範囲にあり得る。これは、比較的高い乾燥用ガス流速対噴霧溶液供給速度比を導く。好ましくは、この比は少なくとも4m3/kg、より好ましくは少なくとも4.5m3/kgである。
【0059】
乾燥用ガスは、事実上あらゆる気体であってよいが、可燃性蒸気の着火に起因する火災又は爆発の危険性を最小限にするため、かつ薬物、濃度増強用重合体又は分散中のその他の材料の望ましくない酸化を最小限におさえるために、窒素、窒素富化空気又はアルゴンといった不活性ガスが利用される。さらに、入口において乾燥チャンバ内に入る乾燥用ガスは、蒸気形態の溶媒を少量含有し得る。ここで再び図1を参照すると、噴霧乾燥用器具は、溶媒回収システム48をさらに含む乾燥用ガス再循環システム46を内含し得る。乾燥用ガス再循環システム48と関連して以下にさらに詳述するように、乾燥用ガス中の溶媒蒸気の量は、液滴からの溶媒の蒸気速度ひいては粒子の密度に影響を及ぼす。
【0060】
噴霧溶液の温度は標準的には、噴霧溶液の成分の溶解度特性及び安定性によって標準的に決定される。一般的には、噴霧溶液は約0℃〜50℃の範囲内の温度に保持され得、通常はほぼ室温に維持される。温度は溶液中の薬物又は重合体の溶解度を改善するべく上昇させることができる。さらに、噴霧溶液の温度は、液滴からの溶媒の蒸発速度をさらに増大させるべく乾燥プロセスに付加的な熱を提供するため、高温に設定可能である。該温度は、必要とあらば、噴霧溶液内の薬物の安定性を改善するために低下させることもできる。
【0061】
INと呼ばれるチャンバへの入口における乾燥用ガスの温度は、噴霧溶液液滴からの溶媒の蒸発を駆動するように設定されるが、同時に、乾燥チャンバ内に比較的低温の環境を維持するように制御される。乾燥用ガスは通常、乾燥チャンバに流入する溶媒を蒸発させるためのエネルギーを提供するように加熱される。一般に、乾燥用ガスは、溶媒の沸点よりも高い温度TINまで加熱可能であり、溶媒の沸点より約5℃〜約150℃高い範囲であり得る。例えば、56℃の周囲温度の沸点を有する溶媒アセトンを用いて噴霧乾燥する場合、TINについての標準温度範囲は、乾燥チャンバが約1.035バールの圧力で作動している場合、60℃〜200℃である。実際には、乾燥機の入口に進入する乾燥用ガスの温度TINは、80℃を上回るものであり得、90℃を上回ってよく、又100℃を上回ってもよい。
【0062】
INのための最大値に対する1組の制約条件は、噴霧乾燥された固体無定形分散の熱特性である。TINは、乾燥用ガスのための入口の近くにある固体無定形分散粒子を分解させないよう充分低いものでなくてはならない。一般に、TINは、固体無定形分散の融点より低く維持される。TINについての好ましい最大値は、固体無定形分散を加熱し、固体無定形分散が例えば変色したり又は粘着性又は粘つきが出てきて、分解し始める温度を見極めることによって決定可能である。TINは好ましくは、これらの条件のいずれかが起こる温度よりも低く維持される。標準的には、TINは200℃より低く好ましくは150℃未満である。1実施形態においては、TINは90〜150℃、好ましくは100〜130℃の範囲内にある。
【0063】
噴霧溶液の供給速度は、乾燥用ガス入口温度TIN、乾燥用ガス流速、乾燥チャンバ及びアトマイザのサイズといったようなさまざまな要因によって左右されることになる。実際には、NiroPSD−2噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥する場合の噴霧溶液の供給速度は、10〜85kg/時、より好ましくは50〜75kg/時の範囲内にあり得る。該発明は、噴霧溶液の供給速度が上昇して増大した量の生成物の生産が可能となることから、特に有用である。好ましい実施形態においては、噴霧溶液の供給速度は少なくとも50kg/時、好ましくは少なくとも100kg/時、より好ましくは少なくとも200kg/時、さらに一層好ましくは少なくとも400kg/時である。1つの実施形態においては、噴霧溶液供給速度は400kg/時〜600kg/時の範囲にあり得る。
【0064】
噴霧溶液の供給速度は、効率の良い噴霧乾燥、高い生成物収率及び優れた粒子特性を達成するべくTINと合わせて制御される。噴霧溶液の供給速度及びTINの受諾可能な範囲は、容易に定量化される乾燥プロセスの熱力学によって決定可能である。加熱された乾燥用ガスの熱含量及び流速は既知であり;噴霧溶液の熱含量、気化熱及び流速も既知であり;乾燥チャンバからその環境への熱損失も定量化可能である。従って、入口流(噴霧溶液及び乾燥用ガス)のエネルギー及び物質収支は、プロセスのための出口条件、すなわち乾燥チャンバを退出する乾燥用ガスの出口温度(TOUTと呼ばれる)及び乾燥チャンバ内の乾燥用ガス内の溶媒蒸気濃度の予測を可能にする。
【0065】
一定の与えられた乾燥チャンバの物質及びエネルギー収支、噴霧溶液及び一組の作動パラメータは、(湿度図表と類似した)等温線図上に示すことができる。図3はNiroPSD−2パイロットスケール噴霧乾燥機についての等温線図の例である。この図表は、16重量%の固体及び84重量%のアセトンを含む噴霧溶液及び530m3/時の乾燥用ガス流速の場合のものである。水平軸は、60℃から最大180℃までの乾燥用ガスTINの入口温度を示す。垂直軸は、kg/時単位の噴霧溶液の供給速度を示している。実線の斜線は、恒常な乾燥用ガス出口温度TOUTを示す。破線の斜線は、乾燥用ガス中の溶媒の恒常な露点Tdewptを示す。このタイプの図表は、一定の与えられた噴霧溶液のための一定の与えられた乾燥チャンバの潜在的処理量を決定するために使用可能である。さらに、所望の品質をもつ固体無定形分散が製造されることになる作動条件の範囲を識別するために、等温線図を使用することができる。
【0066】
ここで図3をさらに詳細に参照すると、結果として得られた固体無定形分散に対するさまざまなプロセス条件の関係を観察することができる。噴霧乾燥プロセスに対する1つの制限は、乾燥用ガス中の溶媒蒸気の露点とTOUTの間の関係である。乾燥用ガス中の溶媒蒸気の露点がひとたびTOUTを上回ると、乾燥チャンバ内の乾燥用ガスは溶媒蒸気が飽和し、固体無定形分散の完全な乾燥が不可能になる。実際、この限界に近づいた場合でも、不充分な乾燥時間及び/又は距離のため、乾燥チャンバの壁に著しい量の噴霧溶液が突き当たる。この領域は、図表中、「低収率増大残存溶媒」部域としてラベル付けされている。かくして、露点をTOUTよりも著しく低く維持するように噴霧条件を選ぶべきである。好ましくは、露点は、TOUTよりも少なくとも20〜30℃低い。
【0067】
噴霧乾燥プロセスについてのもう1つの制限は、結果として得られる固体無定形分散粒子の溶解及びガラス遷移温度とTOUTの間の関係である。TOUTが溶融温度よりも高い場合には、固体無定形分散粒子は乾燥チャンバ壁と接触した時点で溶解し、低い収率を結果としてもたらす可能性がある。さらに、TOUTを固体無定形分散のガラス遷移温度より低く維持することも好ましい。上述のように、固体無定形分散中の薬物の移動度は固体無定形分散のガラス遷移温度の一関数である。固体無定形分散の温度がガラス遷移温度より低い場合、薬物の移動度は低く、薬物は重合体全体を通して無定形状態で均質に分散した状態にとどまる。しかしながら、固体無定形分散が長時間にわたりそのガラス遷移温度よりも高い温度に露呈された場合、薬物の移動度はその時間中高く、薬物は分散中に相分離し、究極的には結晶し得る。かくして、TOUTが固体無定形分散のガラス遷移温度より低く維持された場合、実質的に均質で、実質的に無定形の分散が結果としてもたらされる確率が最も高い。ここで図3を参照すると、固体無定形分散のガラス遷移温度は約30℃である。かくして、50℃のTOUTを表わす斜線より下の領域は、均質でない生成物を導く確率がさらに高い。好ましくは、TOUTは、固体無定形分散粒子のTgに20℃を加えたもの(Tg+20℃)よりも低く、好ましくはTgより低い。
【0068】
さらに、発明者らは、少なくとも50重量%の重合体を含む固体無定形分散については、TOUTは一般に固体無定形分散の密度及びその中の残存溶媒を指示するということを発見した。発明者らは、TOUTが上昇するにつれて粒子の密度は低下するということを発見した。いかなる特定の理論により束縛されることも望まないが、発明者らは、高い乾燥温度で、液滴が迅速に乾燥した外部「スキン」を形成すると考えている。このスキンは、粒子の表面部域を樹立する。液滴内部の温度が高い場合、液滴は中空球の形で乾燥し、その結果低い密度をもたらす。より低い温度では、液滴はさほど迅速に乾燥スキンを形成せず、スキンがまさに形成した場合でもそれは蒸発中により密度の高い粒子へと崩壊する。より低いTOUTによって反映される通りの乾燥チャンバ内部の温度の低下は、より緩慢な乾燥及びより密度の高い生成物を結果としてもたらす。しかしながら、TOUTが過度に低い場合には、固体無定形分散中の残存溶媒レベルは過度に高くなる。ここで図3を再度参照すると、10℃を超えるTOUTより上の部域は、固体無定形分散内の残存溶媒の増大に起因して「低収率」とラベル付けされている。一般に、溶媒の露点より高く溶媒の沸点より低く、好ましくは沸点よりも約5〜約25℃低く、そしてさらに好ましくは溶媒沸点よりも約10〜約20℃低くTOUTを維持することが望ましい。
【0069】
実際には、乾燥用ガスの供給速度、チャンバ内の圧力及び噴霧溶液の熱は、標準的に狭い範囲内で予め決定される。従って、噴霧溶液の供給速度及び乾燥用ガスの温度TINは、上述の通りの満足のいくTOUTを得るように制御される。ここで図3に戻ると、図3により表わされている乾燥機のための最適な作動領域は、50℃と30℃のTOUT等温線の間の斜線の帯域である。かくして、TIN及び噴霧溶液の供給速度は、この帯域内のTOUTを達成するように制御される。乾燥チャンバの熱容量を最大にするためには、帯域の高い入口温度TIN及び高噴霧溶液供給速度のコーナーで作動するように条件が選択されることになる。しかしながら、粒子の密度は往々にして、乾燥用ガス対噴霧溶液供給速度の比が増大するにつれて増大する。かくして、それが乾燥チャンバを通しての供給溶液の最適な処理量を結果としてもたらさなくとも、一定の与えられたTOUTについてのより低い左側コーナー(すなわち、より低い噴霧溶液供給速度及びより低いTIN)で作動させることが好ましいかもしれない。こうしてより低いTdewptひいては乾燥機乾燥用ガスが導かれる。図3ではTdewptが−5〜5℃である作動状態で作動させることにより、高密度(10cc/g未満の比容積)及び低い残存溶媒(<10重量%)をもつ均質の固体無定形分散が生成されている。さらに、以上で論述した通り、それが乾燥チャンバ内の過度に温度の高いあらゆる表面上の噴霧乾燥済み生成物の局所化された溶融、炭化又は燃焼に起因する乾燥チャンバ内の固体無定形分散の蓄積を削減する場合には、TINを加減することも可能である。
【0070】
2. 噴霧乾燥用機器
a. アトマイザ
噴霧溶液は、小滴を形成するべくアトマイザを通して乾燥チャンバ内に供給される。小滴を形成することは、高い表面積対体積比を結果としてもたらし、かくして、溶媒の蒸発を助ける。一般に、溶媒の急速な蒸発を達成するためには、噴霧乾燥プロセス中に形成された液滴のサイズが直径約500μm未満、好ましくは約300μm未満であることが好ましい。液滴サイズは一般に直径1μm〜500μmの範囲内にあり、5〜200μmというのがより標準的である。アトマイザの例としては、圧力ノズル、回転式アトマイザ、及び2流体ノズルが含まれる。均質の固体無定形分散を形成する上で使用するためのアトマイザを選択する場合、噴霧溶液の所望の供給速度、最大許容液体圧力及び噴霧溶液の粘度及び表面張力を含めた、いくつかの要因を考慮すべきである。これらの要因の間の関係及び液滴サイズ及び液滴サイズ分布に対するその影響は、当該技術分野において周知である。
【0071】
好ましい実施形態においては、アトマイザは圧力ノズルである。「圧力ノズル」というのは、10μm以上の平均液滴直径をもつ(液滴の約10体積%未満が約1μm未満のサイズを有する)液滴を生成するアトマイザを意味する。一般に、適切にサイズ決定され設計された圧力ノズルとは、噴霧溶液が所望の速度でノズルを通して圧送された時点で10〜100μmの範囲内の液滴を生成することになるものである。かくして、例えば、PSD−1乾燥機に対し400g/分の噴霧溶液を送り出すことが望まれる場合、所望の平均液滴サイズを達成するべく液体の粘度及び供給速度に一致するノズルを選択しなければならない。所望の流速で作動させた場合、過度に大きいノズルは過度に大きい液滴サイズを送り出すことになる。溶液の粘度は直接アトマイザの性能に影響を及ぼすことから、このことはさらに高い噴霧溶液粘度で特に言えることである。粘度が増大するにつれて、恒常な流速の噴霧溶液について液滴サイズは増加し、ノズル圧力は減少する。過度に大きい液滴は、乾燥速度を過度に低速にする結果となり、こうして不均質な分散を生成する可能性があり、それらが噴霧乾燥機の壁に達した時点でなおも流動性を有する場合には、液滴は乾燥機の壁に粘着するか又はさらにそれを被覆しさえし、結果として所望の生成物の収率が低いか又は全く無くなることになる。このような場合には、乾燥チャンバ又は収集コーンの壁に衝突する前に液滴が走行する最小距離を増大させるべく、噴霧乾燥チャンバの高さを増大させることができる。このような修正された噴霧乾燥用器具は、より大きい液滴を生成する霧化手段の使用を可能にする。かかる修正型噴霧乾燥用器具の詳細について以下で記述する。過度に小さいノズルの使用は、望ましくないほどに小さいか又は特に高粘度の供給溶液について所望の流速を達成するのに受諾できないほど高いポンプ圧力を必要としうる液滴を生成する可能性がある。
【0072】
圧力ノズルの特に好ましいタイプは、円錐形の退出オリフィスをもつものである。かかる圧力ノズルは、図4の組立て図に示されている。圧力ノズル50は、噴霧溶液供給を受入れるための上面にある入口オリフィス(図示せず)及び噴霧チャンバ28内に液滴を噴霧するための底面にある退出オリフィス52を有する。図4は、ハウジング54、ガスケット56、旋回チャンバ58、オリフィスインサート60及びノズル本体62を含む圧力旋回ノズルを示している。図5は、ノズル本体例62の横断面を示す。退出オリフィス52に隣接するノズル本体62の内部のテーパ付き壁64は、噴霧された液滴の円錐角に対応する円錐形を画定している。かかる円錐形は、退出オリフィス52に隣接するノズル66の外部面上の乾燥した固体材料の蓄積を減少させるという利点を有する。このような円錐形を画定する内部壁をもつ圧力ノズルの例としては、DELAVANSDX円錐面ノズル(Delavan, Inc; Bamberg, SC)がある。圧力ノズルは、当該技術分野において周知であるように、旋回圧力ノズルであり得る。図4及び5に示されているようなかかる圧力ノズルは、中空円錐形の液滴雲へとバラバラになる溶液フィルム又はシートの形で噴霧溶液の中空「円錐」を生成する旋回チャンバを内含する。
【0073】
大部分のアトマイザが、1つのサイズ分布を伴う液滴へと噴霧溶液を霧化する。アトマイザにより生成される液滴のサイズ分布は、溶融−ろう及び凍結−落下技術といったような機械的技術;帯電ワイヤ及びホットワイヤ技術といったような電気的技術;及び写真及び光散乱技術といったような光学的技術を含むいくつかの技術によって測定可能である。アトマイザにより生成される液滴サイズ分布を決定するための装置の例としては、Malvern Instruments Ltd (Framingham, Massachusetts)から入手可能なMalvern粒度分析装置及びTSI,Inc(Shreview, MN)から入手可能なドップラ粒子分析装置が含まれる。かかる計器を用いて液滴サイズ及び液滴サイズ分布を決定するために使用される原理についてのさらなる詳細は、Lefebvre、「霧化とスプレー」(1989)の中に見い出すことができる。
【0074】
液滴サイズ分布装置を用いて得られたデータを使用して、液滴の複数の特徴的直径を決定することができる。そのうちの1つは、それ以下の直径の液滴を含む合計液体体積の10%を構成する液滴の直径に対応する直径であるD10である。換言すると、D10が1μmに等しい場合、液滴の10体積%は1μm以下の直径を有する。かくして、D10が約1μmより大きいつまり液滴の90体積%が1μmより大きい直径を有するような液滴を霧化用手段が生成することが好ましい。この必要条件は、凝固した生成物中の微粉の数(すなわち1μm未満の直径をもつ粒子)が最小限になることを保証する。好ましくは、D10は約10μmを上回り、さらに好ましくは約15μmを上回る。
【0075】
霧化用手段により生成される液滴のもう1つの有用な特徴的直径は、それ以下の直径の液滴を含む合計液体体積の90%を構成する液滴の直径に対応する直径であるD90である。換言すると、D90が100μmに等しい場合、液滴の90体積%は100μm以下の直径を有する。本発明の技術を用いて実質的に均質で実質的に無定形の分散を生成するためには、D90は好ましくは約300μm未満、より好ましくは250μm未満でなくてはならない。D90が過度に高い場合、より大きい液滴の乾燥速度は過度に低くなり得、こうして不均質な分散を生成する可能性があり、そうでなければ、噴霧乾燥機の壁に達した時点でなおも流動状態である場合、より大きい液滴は以上で指摘したとおり、乾燥機の壁に粘着するか又はこれを被覆することがある。
【0076】
もう1つの有用なパラメータは
【数2】

として定義される「スパン」であり、式中、D50は、それ以下の直径の滴を含む合計液体体積の50%を構成する滴の直径に対応する直径であり、D90及びD10は以上で定義づけした通りである。当該技術分野においては時として相対スパン係数又はRSFとも呼ばれるスパンは、滴のサイズ分布の均一性を表わす無次元パラメータである。一般に、スパンが低くなればなるほど、霧化用手段により生成される液滴サイズ分布は狭くなり、このことが今度は一般に、乾燥させられた粒子についてのより狭い粒度分布を導き、その結果フロー特性は改善される。好ましくは、アトマイザにより生成される液滴のスパンは、約3よりも小さく、より好ましくは約2未満、最も好ましくは約1.5未満である。
【0077】
乾燥チャンバ内で形成された固体無定形分散粒子のサイズは、一般的にアトマイザが生成する液滴のサイズよりも幾分か小さい。標準的には、固体無定形分散粒子の特徴的直径は、液滴の特徴的直径の約80%である。低いフロー特性に起因する小さい無定形分散粒子を回避することが望ましいことから、ノズルは標準的に、噴霧乾燥用器具の中で充分に乾燥され得る最大の液滴サイズを生成するように選択される。
【0078】
上述のように、アトマイザの選択は、使用される噴霧乾燥用器具の規模によって左右されることになる。約5〜400g/分の含溶媒供給物を噴霧できるNiroPSD−1といったようなさらに小規模の器具については、適切なアトマイザの例として、Spraying Syotems (Wheaton, Illinois)製SK及びTX噴霧乾燥ノズルシリーズ;Pelavan LTV(Widnes, Cheshire,イギリス)製WGシリーズ;及びDusen Schlick-GmbH(Untersiemau,ドイツ)製の121型ノズルが含まれる。約25〜600kg/時の含溶媒供給物を噴霧し得るさらに大規模な器具については、アトマイザ例として、以上で列挙したもの、ならびにDelavan LTV製のSDX及びSDXIIIノズル及びSpraying Syotems SBシリーズが含まれる。
【0079】
数多くのケースにおいて、噴霧溶液は圧力下でアトマイザまで送達される。必要とされる圧力は、アトマイザの設計、ノズルオリフィスのサイズ、含溶媒供給物の粘度及びその他の特性そして所望の液滴サイズ及びサイズ分布によって決定される。一般的に、供給圧力は、1〜500バール以上の範囲内にあるべきであり、2〜100バールがより標準的である。アトマイザとして圧力ノズルを用いるPSD−2噴霧乾燥機については、ノズル圧力は、50〜約90kg/時の供給流速で40〜55バールであり得る。アトマイザとして圧力ノズルを用いるPSD−5噴霧乾燥機については、ノズル圧力は、約400〜約500kg/時の噴霧溶液供給速度で140〜210バールであり得る。
【0080】
圧力ノズルを使用する場合、アトマイザに噴霧溶液を導くポンプは、低い脈動を伴う所望の供給速度で充分な圧力を生成する能力を有していなくてはならない。ポンプの例としては、容積移送式ダイヤフラムポンプがある。再度図1を参照すると、ポンプ26はBran+Leubbe GmbH(Norderstedt,ドイツ)から入手可能な容積移送式ダイヤフラムポンプVED型でありうる。
【0081】
b. 気体ディスペンサ
噴霧乾燥用器具は同様に、液滴と乾燥用ガスを混合するための気体ディスペンサをも内含している。気体ディスペンサは、新たに導入された乾燥用ガスが霧化された噴霧乾燥Tと適切に混合して、噴霧チャンバ内及びアトマイザ上の生成物の蓄積を最小限にとどめるのに充分なほど迅速に全ての液滴が乾燥されるような形で蒸発が発生するような形で設計されている。従って、気体ディスペンサは、アトマイザ噴霧パターン、乾燥用ガス流速及び乾燥チャンバの寸法を念頭において設計される。
【0082】
図1は、気体ディスペンサ32を概略的に示している。図6は、乾燥チャンバ100内部で乾燥チャンバの上面104より下に位置づけされた気体分散用手段102を内含する、乾燥チャンバ100の横断面概略図を示す。乾燥用ガスは、チャンバ108内に進入し、プレート112内の開口部110を通過する。気体分散用手段102は、乾燥用ガスが当初霧化用手段106の軸に対して全体として平行でありかつ図6の上部に多数の下向き矢印によって概略的に示されている器具の直径を横断して比較的均等に分配されるような形で、チャンバ内に乾燥用ガスを導入できるようにする。この気体ディスペンサの詳細については、本書に参考として内含されている2002年2月2日付けの共有譲渡された米国仮特許出願第60/354,080号(PC23195)の中で、より完全に記述されている。代替的には、Niro, Inc. Columbia, Marylandから入手可能なDPH気体ディスペンサも使用することができる。
【0083】
c. 乾燥チャンバ
乾燥チャンバのサイズ及び形状は、チャンバのあらゆる表面にぶつかる前に噴霧溶液液滴の充分な蒸発を可能にし、かつ効率の良い生成物収集を可能にするように設計される。図7を参照すると、標準的に乾燥チャンバは、上部円筒部分140と下部収集コーン142を有する。乾燥チャンバの内部表面とアトマイザの間の距離は一般に、蒸発され得る液滴のサイズそしてそれに代って乾燥チャンバ及び収集コーンの側壁上に材料が過剰に蓄積すること無く形成され得る生成物粒子の量を制限する。
【0084】
乾燥チャンバの上部円筒部分140の高さHは、乾燥チャンバの下部部分にぶつかる前に蒸発するのに充分な時間を霧化済み液滴に与えるよう充分高いものであるべきである。乾燥チャンバ又は収集コーンの壁に衝突する前に液滴が走行する充分な最小距離を提供する乾燥チャンバの上部部分の高さHは、(1)含溶媒供給物の乾燥特性、(2)含溶媒供給物及び乾燥用ガスの噴霧乾燥機までの流速、(3)乾燥用ガスの入口温度、(4)液滴サイズ及び液滴サイズ分布、(5)噴霧乾燥機内の材料の平均滞留時間、(6)乾燥チャンバ内の気体循環パターン及び(7)霧化パターンを含むいくつかの因子の関数である。500m3/時の乾燥用ガス流量について、約1mを超える高さHが一般に好まれる。この高さは、一部には選択された特定の気体ディスペンサにより左右されることになる。図6に示された気体ディスペンサについては、共有譲渡の米国仮特許出願第60/354,080号でより完全に記述されているように、より高い高さHが望ましい。
【0085】
乾燥チャンバの表面上に衝突する前に液滴が走行する最小距離を決定するためには乾燥チャンバの高さがきわめて重要であるが、乾燥チャンバの容積も又重要である。噴霧乾燥機の容量は、一部には、乾燥用ガスの温度及び流速に対して噴霧溶液の供給速度を整合させることによって決定される。上述のように、乾燥用ガスの温度及び流速は、噴霧溶液を蒸発させるのに充分な熱が噴霧乾燥用器具に送達されるように充分高いものでなくてはならない。乾燥用ガスの温度及び流速は、噴霧溶液を蒸発させるための充分な熱が噴霧乾燥用器具に送達されるように充分高くなくてはならない。かくして、噴霧溶液の供給速度が増大するにつれて、乾燥用ガスの流速及び/又は温度を増大させて所望の生成物の形成のための充分なエネルギーを提供しなければならない。乾燥用ガスの許容可能な温度は往々にして噴霧溶液中に存在する薬物の化学的安定性によって制限されることから、乾燥用ガスの流速は往々にして、噴霧乾燥用器具の容量の増加(すなわち噴霧溶液の供給速度の増加)を可能にするべく上昇させられる。一定の与えられた容積をもつ乾燥チャンバについては、乾燥用ガス流速の上昇は結果として、乾燥機中の液滴又は粒子の平均滞留時間の短縮をもたらすことになり、これは、乾燥チャンバが従来の乾燥機よりも高い場合でさえ、乾燥チャンバ内の表面に衝突する前に固体粒子を形成するように液滴から溶媒を蒸発させるのに不充分な時間を導く可能性がある。その結果、乾燥機の容積は、材料の蓄積を防止するべく乾燥チャンバの内部表面に衝突する時間までに液滴が充分に乾燥するよう、充分大きいものでなくてはならない。
【0086】
乾燥用器具に供給された乾燥用ガスの体積流速に対する乾燥チャンバの容積の比又は
【数3】

(なお式中、Vdryerは乾燥チャンバの容積であり、Gは乾燥チャンバに供給される乾燥用ガスの体積流速である)として定義づけされる「平均滞留時間」によってこの乾燥時間を考慮に入れることができる。乾燥チャンバの容積は、乾燥チャンバ110の上部部分及び収集コーン112の容積の和である。直径D、乾燥チャンバの高さHそして収集コーンの高さLである円筒形噴霧乾燥器具については、乾燥機の容積Vdryerは、
【数4】

から求められる。
【0087】
発明人らは、噴霧乾燥機内の1つの表面上に衝突する前に液滴が乾燥する充分な時間が確保できるよう平均滞留時間は少なくとも10秒であるべきであるということを見極めた。より好ましくは、平均滞留時間は、少なくとも15秒であり、最も好ましくは少なくとも20秒である。
【0088】
例えば、0.25m3/秒の乾燥用ガスの体積流量及び20秒という平均滞留時間について、噴霧乾燥用器具の所要容積は以下のように計算することができる:
【数5】

【0089】
かくして、53mの体積、2.3mの高さH及び60°の円錐角を伴う収集コーン112(すなわち収集コーン112の高さLは乾燥チャンバの直径Dに等しい、つまりL=D)を有する噴霧乾燥機については、噴霧乾燥用チャンバの所要直径Dは、以下の通りに、上述の等式から計算され得る。
【数6】

【0090】
乾燥チャンバの直径が少なくとも1.5mであることを条件として、乾燥機内の粒子の平均滞留時間は少なくとも20秒となり、適切な高さ及び直径、霧化パターン及び気体流量パターンを仮定して、アトマイザにより生成される液滴は、乾燥チャンバ及び収集コーンの壁の上の材料の蓄積を最小限におさえるべく乾燥機の表面上に衝突する時間までに充分乾燥し得る。
【0091】
乾燥チャンバの縦横比は、乾燥チャンバの上部部分140の高さHをチャンバの直径Dで除した比である。例えば、乾燥チャンバが2.6mの高さHと1.2mの直径Dを有する場合には、乾燥チャンバは2.6/1.2=2.2の縦横比を有することになる。一般に、乾燥チャンバの縦横比は、約0.9〜約2.5まで変動し得る。Niro, Incから入手可能なガスDPH気体ディスペンサについては、約1〜1.2の縦横比がうまく機能し、一方、図6に示された気体ディスペンサについては、約2以上というさらに大きい縦横比が望まれる。収集コーンの円錐角114は、効率の良い生成物収集を達成するように選択される。円錐角114は、約30°〜約70°、好ましくは40°〜約60°まで変動し得る。
【0092】
1つの実施形態においては、10kg/時から約90kg/時の噴霧溶液供給速度の能力を有する乾燥チャンバは、約26mの高さH、約1.2mの直径、2.2の縦横比、約60℃の円錐角、約1.3mの円錐高さL及び約400〜約550m3/時の気体流速で約30〜35秒の気体滞留時間を有する。もう1つの実施形態においては、400kg/時から約500kg/時の噴霧溶液供給速度の能力をもつ乾燥チャンバは、約2.7mの高さH、約2.6mの直径D、約1の縦横比、約40℃の円錐角、約3.7mの円錐高さL、及び約2000〜約2500m3/時の気体流速で約30〜約35秒の気体滞留時間を有する。
【0093】
c. 固体無定形分散の収集
ここで再び図1を参照すると、固体無定形分散粒子は、噴霧乾燥用チャンバ28を退出し、排気乾燥用ガスと共に単数又は複数の生成物収集装置まで輸送される。生成物収集装置の例としては、サイクロン、バグハウス及び塵埃収集装置がある。例えば、図1に示されているシステムにおいては、サイクロン38が、固体無定形分散粒子の大部分を収集している。固体無定形分散粒子は、1対のバルブ120及び122を通ってサイクロン38から退出し、ドラムといったようなコンテナ124内に収集される。サイクロン38は、サイクロン38からの材料の除去の効率を改善するため当該技術分野において既知の通り、サイクロン38内の粒子を攪拌させるために、振動器(図示せず)又はその他の機械的装置を内含することができる。排気乾燥用ガスは、サイクロン38から退出し、サイクロン38を迂回した小さい微粒子を収集するバグハウス126を通る。
【0094】
d. 乾燥用ガスの再循環
噴霧乾燥プロセスは大量の乾燥用ガスを使用することから、乾燥用ガスを再循環させることが往々にして望まれる。再び図1を参照すると、噴霧乾燥用システムは任意には、乾燥用ガスを再循環させるため乾燥チャンバ出口36から乾燥チャンバ入口32まで閉ループを形成する乾燥用ガス再循環システム46を内含し得る。乾燥用ガス再循環システムには、溶媒回収システム48に乾燥用ガスを導くためバグハウス126に後続してブロワ128を内含する。溶媒回収システムの例としては、コンデンサ、湿性気体洗浄装置、半透性膜、吸収、生物学的気体洗浄装置、吸着及びトリクルベッド反応器が含まれる。図1に示されているように、溶媒回収システムは、コンデンサ130である。コンデンサ130は溶媒を除去するために乾燥用ガスを冷却する。乾燥用ガスは次にプロセス加熱器132まで進み、ここでこの乾燥用ガスは、所望の入口温度TINを達成するように加熱される。もう1つのブロワ134が次に乾燥用ガスを気体ディスペンサ32内に導き、該乾燥用ガスが入口34を通って乾燥チャンバ28内に進入できるようにする。再循環ループ46は同様に、再循環された乾燥用ガスを放出できるようにする出口136と、再循環ループに対する乾燥用ガスの付加を可能にするための入口138をも内含する。
【0095】
溶媒除去システム48内では、コンデンサ130は、Atlas Industrial Manufacturing (Cliftou, Niew Jersey)製といったさまざまな供給源から入手可能なシェル及び管式熱交換器である。標準的なコンデンサ出口温度は約−30°〜約15℃の範囲内であり、溶媒の氷点によって左右されることになる。例えば、溶媒としてアセトンを使用する場合、コンデンサ出口温度は−30°〜0℃、好ましくは−25℃〜−5℃の範囲である。コンデンサは標準的に、コンデンサが溶媒蒸気の一部分のみを乾燥用ガスから除去するような出口温度で作動する。例えば、溶媒アセトンを使用する場合、コンデンサの温度は、コンデンサから退出する乾燥用ガスが約5〜50重量%、より好ましくは約15〜30重量%のアセトン相対蒸気濃度を有するような形で設定可能である。代替的には、コンデンサから退出する乾燥用ガス中のアセトンの露点は、約−20℃〜約25℃、より好ましくは約−5℃〜約20℃の範囲内であり得る。
【0096】
発明人らは、乾燥用ガス内に少量の残存溶媒蒸気を保持することが、結果として得られる噴霧乾燥済み分散の物理的特性を改善し得るということを発見した。従来の知識では、溶媒の急速な蒸発を達成するために乾燥用ガスは可能なかぎり乾燥したものでなくてはならないとしていることから、これは、驚くべき結果である。特に、少量の溶媒を含有する乾燥用ガスを使用することにより、均質な固体無定形分散をなおも生成しながら乾燥チャンバを退出する固体無定形分散粒子の比容積及び残存溶媒を低減させることが可能である。好ましくは、乾燥用ガス中の溶媒蒸気の量は5〜約50重量%の範囲である。
【0097】
代替的には、乾燥用ガス内の溶媒蒸気の量は溶媒除去システムの効率の関数であることから溶媒除去システムは、少量の溶媒が再循環された乾燥用ガスと共に溶媒除去システムから退出できるように作動可能である。例えば、図1に示されている乾燥用ガス再循環システムについては、コンデンサは、少量の溶媒蒸気がコンデンサを通過することができる温度で作動可能である。アセトンベースの噴霧溶液のための約−5〜約5℃のコンデンサ出口温度は、乾燥用ガス内に充分な量の溶媒蒸気を結果としてもたらす。しかしながら、乾燥用ガス中の溶媒蒸気の量がより多くなると固体無定形分散内の残存溶媒は上昇し始め、これは液滴の乾燥をさらに低効率化させ、そして究極的には乾燥用ガスが溶媒蒸気で飽和した場合に全く乾燥がなくなることから、乾燥用ガス内に過度の溶媒蒸気を含み入れないように注意を払わなくてはならない。
【0098】
いかなる理論による束縛も望まないが、発明者らは、乾燥用ガス中の少量の溶媒蒸気の存在が、以下の効果のうちの一方又は両方によって乾燥を改善させうると考えている。まず第1に、乾燥用ガス中の溶媒蒸気は、(以上で論述した通りの)スキンの形成を遅らせることにより噴霧溶液の液滴をより均等に乾燥させることができる。第2に、溶媒蒸気は、その熱容量が乾燥用ガスよりも大きいことから、同じ温度での同じ乾燥した乾燥用ガスの流量と比べて、乾燥用ガスの一定の与えられた温度及び流量についてより多くの熱エネルギーを乾燥チャンバ内に提供し得る。いずれのケースでも、少量の溶媒蒸気を乾燥用ガスに加えることで、残存溶媒は減少し、乾燥チャンバから退出する固体無定形分散粒子の比容積が減少する。
【0099】
医薬(薬物 Drug)
「医薬(薬物)」という用語は、動物特にヒトに投与された場合に有益な予防的及び/又は治療的特性を有する化合物を表わす従来通りのものである。難溶解性薬物が該発明で使用するのに好ましい種類ではあるものの該薬物は、本発明から恩恵を得るために難溶解性薬物である必要はない。それでも所望の使用環境内でかなりの溶解度を示す薬物でさえ、それが治療的効能に必要とされる用量のサイズを低減させるか又はその薬物の有効性の迅速な開始が望まれるケースにおいて薬物の吸収速度を増大させる場合、本発明によって可能となる溶解度/生物学的利用能の恩恵を受けることができる。
【0100】
好ましくは、薬物は「難溶解性薬物」である、すなわち該薬物は、0.01mg/mLより低い生理学的に適切なpH(例えばpH1〜8)で最小の水溶解度をもつことを意味する「実質的に不水溶性」であるか、又は「やや不水溶性である」すなわち最高約1〜2mg/mLの水溶解度を有するか又はさらには約1mg/mLから約20〜40mg/mLまでの水溶解度である低乃至中レベルの水溶解度を有する可能性がある。該発明は、薬物の溶解度が減少するにつれてより大きい有用性を見い出す。かくして、本発明の組成物は、10mg/mL未満の溶解度をもつ難溶解性薬物のために好ましく、1mg/mL未満の溶解度をもつ難溶解性薬物のためにより好ましく、0.1mg/mL未満の溶解度をもつ難溶解性薬物のためにさらに一層好ましい。一般に、該薬物は、10mLより大きい、より標準的には100mLより大きい用量対水溶解度比を有すると言うことができる。なおここで、薬物溶解度(mg/mL)は、USPシミュレートした胃腸緩衝液を含むあらゆる生理学的に適切な水溶液(例えば1〜8の間のpH値をもつもの)中で見られる最小値であり、用量はmg単位である。かくして、用量対水溶解度の比は、用量(mg単位)を溶解度(mg/mL単位)で除することによって計算可能である。
【0101】
好ましい種類の薬物としては、抗高血圧薬、抗不安剤、抗凝固薬、抗けいれん剤、血糖値低下剤、充血除去剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳薬、抗新生物薬、βブロッカー、抗炎症薬、抗精神病薬、向知性薬、コレステロール低下剤、抗アテローム性動脈硬化症剤、抗肥満剤、抗免疫障害剤、抗性的不全剤、抗菌及び抗真菌薬、催眠剤、抗パーキンソン薬、抗アルツハイマー病剤、抗生物質、抗うつ薬、抗ウイルス剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害物質、及びコレステリルエステル輸送タンパク質阻害物質が含まれるがこれに制限されるわけではない。
【0102】
指名された薬物は各々、その薬物の薬学的に許容可能なあらゆる形態を内含するものと理解すべきである。「薬学的に許容可能な形態」というのは、立体異性体、立体異性体混合物、鏡像異性体、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、仮像、中性型、塩形態及びプロドラッグを含むこれに制限されるわけではないなあらゆる誘導体又は変形形態を意味する。抗高血圧薬の特定の例としては、プラゾシン、ニフェジピン、アムロジピンベシラート、トリマゾシン及びドキサゾシンが含まれる;血糖値低下剤の特定的例としては、グリピジド及びクロロプロパミドが含まれる;抗性的不全剤の特定的例は、シルデナフィル及びクエン酸シルデナフィルである;抗新生物薬の特定的例には、クロラムブシル、ロムスチン及びエキノマイシンが含まれる;イミダゾールタイプの抗新生物薬の特定的例はツブラゾールである;抗高コレステロール血症剤の特定的例はアトルバスタチン−カルシウムである;不安緩解剤の特定的例には塩酸ヒドロキシジン及び塩酸ドキセピンが含まれる;抗炎症剤の特定的例にはベータメタゾン、プレドニゾロン、アスピリン、ピロキシカム、バルデコキシブ、カルプロフェン、セレコキシブ、フルルビプロフェン及び(+)−N−{4−[3−(4−フルオロフェノキシ)フェノキシ]−2−シクロペンテン−1−イル}−N−ヒドロキシ尿素が含まれる;バルビツール酸系催眠薬の特定的例はフェノバルビタールである;抗ウイルス薬の特定的例には、アシクロビル、ネルフィナビル、及びビラゾールが含まれる;ビタミン/栄養剤の特定的例には、レチノール及びビタミンEが含まれる;ベータブロッカの特定的例にはチモロール及びナドロールが含まれる;催吐剤の特定的例はアポモルヒネである;
【0103】
利尿薬の特定的例にはクロルタリトン及びスピロノラクトンが含まれる;抗凝血剤の特定的例は、ジクマロールである;強心薬の特定的例にはジゴキシン及びジギトキシンが含まれる;アンドロゲンの特定的例には17−メチルテストステロン及びテストステロンが含まれる;鉱質コルチコイドの特定的例は、デゾキシコルチコステロンである;ステロイド性睡眠薬/麻酔薬の特定的例はアルファキサロンである;タンパク同化剤の特定的例には、フルオキシメステロン及びメタンステノロンが含まれる;抗うつ剤の特定的例には、スルピリド、[3,6−ジメチル−2−(2,4,6−トリメチル−フェノキシ)−ピリジン−4−イル]−(1−エチルプロピル)−アミン、3,5−ジメチル−4−(3’−ペントキシ)−2−(2’,4’,6’−トリメチルフェノキシ)ピリジン、ピロキシジン、フルオキセチン、パロキセチン、ベンラファキシン及びセルトラリンが含まれる;抗生物質の特定的例にはカルベニシリンインダニルナトリウム、バカムピシリンヒドロクロリド、トロレアンドロマイシン、ドキシサイクリンヒクラート、アンピシリン及びペニシリンGが含まれる;
【0104】
抗感染薬の特定的例には、塩化ベンザルコニウム及びクロルヘキシジンが含まれる;冠拡張薬の特定的例にはニトログリセリン及びミオフラジンが含まれる;睡眠薬の特定的例はエトミデートである;カルボニックアンヒドラーゼ阻害物質の特定的例にはアセタゾールアミド及びクロルゾールアミドが含まれる;抗真菌薬の特定的例にはエコナゾール、テルコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール及びグリセオフルビンが含まれる;抗原虫剤の特定的例はメトロニダゾールである;駆虫剤の特定的例にはチアベンダゾール及びオクスフェンダゾール及びモランテルが含まれる;抗ヒスタミン剤の特定的例にはアステミゾール、レボカバスチン、セチリジン、デカルボエトキシロラタジン及びシンナリジンが含まれる;抗精神病薬の特定的例にはジプラシドン、オランゼピン、シオシクセンヒドロクロリド、フルスピリレン、リスペリドン及びペンフルリドールが含まれる;胃腸薬の特定的例にはロペラミド及びシサプリドが含まれる;セロトニン拮抗薬の特定的例には、ケタンセリン及びミアンセリンが含まれる;麻酔薬の特定的例はリドカインである;血糖降下薬の特定的例はアセトヘキサミドである;制吐薬の特定的例はジメンヒドリナートである;抗菌剤の特定的例はコトリモキサゾールである;ドーパミン作動薬の特定的例はL−DOPAである;抗アルツハイマー病剤の特定的例はTHA及びドネペジルである;抗潰瘍薬/H2拮抗薬の特定的例はファモチジンである;鎮静・催眠剤の特定的例にはクロルジアゼポキシド及びトリアゾラムが含まれる;血管拡張剤の特定的例はアルプロスタジルである;
【0105】
血小板阻害物質の特定的例はプロスタサイクリンである;ACE阻害物質/抗高血圧剤の特定的例には、エナラプリル酸及びリシノプリルが含まれる;テトラサイクリン抗生物質の特定的例にはオキシテトラサイクリン及びミノサイクリンが含まれる;マクロライド抗生物質の特定的例にはエリスロマイシン、クラリスロマイシン及びスピラマイシンが含まれる;アザライド抗生物質の特定的例にはアジスロマイシンが含まれる;グリコーゲンホスホリラーゼ阻害物質の特定的例には[R−(R’S’)]−5−クロロ−N−[2−ヒドロキシ−3−{メトキシメチルアミノ}−3−オキソ−1−(フェニルメチル)プロピル−1H−インドール−2−カルボキサミド及び5−クロロ−1H−インドール−2−カルボン酸[(1S)−ベンジル−(2R)−ヒドロキシ−3−((3R,4S)−ジヒドロキシ−ピロリジン−1−イル−)−3−オキシプロピル]アミド;が含まれる;そしてコレステリルエステル輸送タンパク質(CETP)阻害物質には[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステル、[2R,4S]4−[アセチル−(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル、[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル;
【0106】
共にあらゆる目的のためその全体が本書に参考として内含されている同一所有権者の米国特許出願第09/918,127号及び10/066,091号中で開示されている薬物及び全てあらゆる目的のためその全体が本書に参考として内含されている、ドイツ特許第19741400A1号;ドイツ特許第19741399A1号;国際公開第9914215A1号;国際公開第9914174号;ドイツ特許第19709125A1号;ドイツ特許第19704244A1号;ドイツ特許第19704243A1号;欧州特許第818448A1号;国際公開第9804528A2号;ドイツ特許第19627431A1号;ドイツ特許第19627430A1号;ドイツ特許第19627419A1号;欧州特許第796846A1号;ドイツ特許第19832159;ドイツ特許第818197;ドイツ特許第19741051号;国際公開第9941237A1号;国際公開第9914204A1号;国際公開第9835937A1号;日本国特許第11049743号;国際公開第200018721号;国際公開第200018723号;国際公開第200018724号;国際公開第200017164号;国際公開第200017165号;国際公開第200017166号;欧州特許第992496号;及び欧州特許第987251号といった特許及び公開出願の中で開示されている薬物が含まれる。
【0107】
重合体(Polymers)
本発明のさまざまな態様において使用するのに適した重合体は、薬学的に受容可能であるべきであり、少なくとも生理学的に適切なpHで(例えば1〜8)水溶液中で幾分かの溶解度を有するべきである。1〜8のpH範囲の少なくとも一部分全体にわたり少なくとも0.1mg/mLの水溶解度を有するほぼあらゆる中性又はイオン化可能な重合体が適切でありうる。
【0108】
重合体が事実上「両親媒性」であることすなわち重合体が疎水性部分と親水性部分を有することが好ましい。両親媒性重合体は、かかる重合体が薬物との比較的強い相互作用を有する傾向にあり、溶液中のさまざまなタイプの重合体/薬物集合の形成を促進し得ると考えられていることから、両親媒性重合体が好まれる。両親媒性重合体の特に好ましい種類は、イオン化可能なものであり、かかる重合体のイオン化可能な部分は、イオン化された時点で重合体の親水性部分の少なくとも一部分を構成する。
【0109】
本発明と共に使用するのに適した重合体の1つの種類には、中性非セルロース重合体が含まれる。重合体の例としては、ヒドロキシル、アルキルアシルオキシ及び環状アミドを含む群から選択された少なくとも1つの置換基を有するビニル重合体及び共重合体;少なくとも1つの親水性ヒドロキシル含有反復単位及び少なくとも1つの疎水性アルキル又はアリール含有反復単位のビニル共重合体;未加水分解(ビニルアセタート)形態でその反復単位の少なくとも一部分を有するポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールポリビニルアセタート共重合体;ポリビニルピロリドン;ポリエチレン−ポリビニルアルコール共重合体及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体(ポリオキサマーとも呼ばれる)が含まれる。
【0110】
本発明で使用するのに適したもう1つの種類の重合体は、イオン化可能な非セルロース重合体を含む。重合体例としてはカルボン酸官能化されたビニル重合体、例えばカルボン酸官能化されたポリメタクリラート及びカルボン酸官能化されたポリアクリラート、例えばマサチューセッツ州Maiden、Rohm Tech Incが製造したEUDRAGITSR;アミン官能化されたポリアクリラート及びポリメタクリラート;高分子量タンパク質、例えば、ゼラチン及びアルブミン;及びカルボン酸官能化されたデンプン、例えばグリコール酸デンプンが含まれる。
【0111】
両親媒性である非セルロース重合体は、比較的親水性及び比較的疎水性の単量体の共重合体である。その例としては、アクリラート及びメタクリラート共重合体が含まれる。かかる共重合体の商用銘柄には、メタクリラート及びアクリラートの共重合体であるEUDRAGITSが含まれる。
【0112】
好ましい種類の重合体は、中で重合体が各々の置換基について少なくとも0.05の置換度を有している少なくとも1つのエステル及びエーテル連結された置換基を伴うイオン化可能で中性の(又はイオン化可能でない)セルロース重合体を含む。本書で使用される重合体の命名法において、エーテル連結した置換基が、該エーテル基に付着した部分として「セルロース」の前に列挙されており、例えば「エチル安息香酸セルロース」がエトキシ安息香酸置換基を有することを指摘しておくべきである。類似の要領で、エステル連結された置換基は、カルボキシラートとして「セルロース」の後に列挙される。例えば、「セルロースフタラート」は、未反応のその他のカルボン酸と重合体にエステル連結された各フタラート部分の1つのカルボン酸を有する。
【0113】
同様に、「セルロースアセタートフタラート」(CAP)といったような重合体名が、エステル連結を介してセルロース重合体のヒドロキシル基のかなりの割合に付着されたアセタート及びフタラート置換基を有するセルロース重合体のファミリーのいずれかを意味するということにも留意すべきである。一般に、各置換基の置換度は、重合体のその他の基準が満たされているかぎり0.05〜2.9の範囲内であり得る。「置換」というのは、置換されたセルロース鎖上の1糖類反復単位あたり3つのヒドロキシルの平均数を意味する。例えば、セルロース鎖の上のヒドロキシルの全てがフタラートで置換されたとすると、フタラート置換度は3である。各々の重合体ファミリタイプ内に同様に内含されるのは、重合体の性能を実質的に改変しない比較的少量で添加された付加的な置換基を有するセルロース重合体である。
【0114】
両親媒性セルロース誘導体は、親セルロース重合体が、少なくとも1つの比較的疎水性の置換基で各々の糖類反復単位上に存在する3つのヒドロキシ基のいずれか又は全てにおいて置換されている重合体を含む。疎水性置換基は、充分高い置換レベル又は置換度まで置換された場合、セルロース重合体を基本的に不水溶性にすることのできるあらゆる置換基であり得る。疎水性置換基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどといったようなエーテル連結されたアルキル基;又はアセタート、プロピオナート、ブチラートなどといったようなエステル連結されたアルキル基;及びフェニル、ベンゾアート又はフェニラートといったようなエーテル及び/又はエステル連結されたアリール基が含まれる。重合体の親水性領域は、未置換ヒドロキシルがそれ自体比較的親水性であることから、比較的未置換であるような部分が、又は親水性置換基により置換されているような領域のいずれかである。親水性置換基には、ヒドロキシアルキル置換基ヒドロキシエテル、ヒドロキシプロピルといったようなエーテル又はエステル連結された非イオン化可能基、及びエトキシエトキシ又はメトキシエトキシといったようなアルキルエーテル基が含まれる。
【0115】
セルロース重合体の1つの種類は、中性重合体を含む。すなわちこれらの重合体は水溶液中で実質的にイオン化不可能である。かかる重合体は、エーテル連結されているか又はエステル連結されていてよいイオン化不可能な置換基を含有する。エーテル連結されたイオン化不可能な置換基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチルといったようなアルキル基;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルなどといったヒドロキシアルキル基;及びフェニルといったようなアリール基が含まれる。エステル連結されたイオン化不可能な置換基としては、アセタート、プロピオナート、ブチラートなどといったアルキル基及びフェニラートといったようなアリール基が含まれる。しかしながら、アリール基が含まれる場合、重合体は、重合体が1〜8のあらゆる生理学的に適切なpHで少なくとも幾分かの水溶性を有するような形で、親水性置換基を充分量内含する必要があるかもしれない。
【0116】
重合体として使用可能であるイオン化不可能なセルロース重合体の例としては以下のものが含まれる:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースアセタート、及びヒドロキシエチル−エチルセルロース。
【0117】
イオン化不可能な(中性)セルロース重合体の好ましいセットは、両親媒性のものである。重合体の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースアセタートが含まれ、ここで、未置換ヒドロキシル又はヒドロキシプロピル置換基との関係において比較的高い数のメチル又はアセタート置換基を有するセルロース反復単位が、重合体上のその他の反復単位との関係において疎水性領域を構成する。
【0118】
好ましい種類のセルロース重合体は、生理学的に適切なpHで少なくとも部分的にイオン化可能でありかつ、エーテル連結又はエステル連結され得る少なくとも1つのイオン化可能な置換基を内含する重合体を含む。エーテル連結されたイオン化可能な置換基の例としては、カルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、安息香酸、サリチル酸;アルコキシ安息香酸、例えばエトキシ安息香酸又はプロポキシ安息香酸;アルコキシフタル酸の様々な異性体、例えばエトキシフタル酸及びエトキシイソタル酸;アルコキシニコチン酸の様々な異性体例えばエトキシニコチン酸、及びピコリン酸の様々な異性体、例えばエトキシピコリン酸など;チオカルボン酸、例えばチオ酢酸;置換フェノキシ基、例えばヒドロキシフェノキシなど;アミン、例えばアミノエトキシ、ジエチルアミノエトキシ、トリメチルアミノエトキシなど;リン酸塩、例えば、リン酸エトキシ;及び硫酸塩、例えば硫酸エトキシが含まれる。エステル連結されたイオン化可能な置換基には、カルボン酸、例えばコハク酸塩、クエン酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、イソフタル酸塩、トリメリト酸塩及びピリジンジカルボン酸など様々な異性体など;チオカルボン酸、例えばチオコハク酸塩;置換フェノキシ基、例えばアミノサリチル酸;アミン、例えば天然又は合成アミノ酸、例えばアラニン又はフェニルアラニン;リン酸塩、例えばリン酸アセチル;及び硫酸塩、例えば硫酸アセチルが含まれる。芳香族で置換された重合体が必須水溶解度をも有するためには、ヒドロキシプロピル又はカルボン酸官能基といったような充分な親水性基が重合体に付着されて、少なくともあらゆるイオン化可能な基がイオン化されるpH値で重合体に水溶解性を付与する。一部のケースでは、フタラート又はトリメリタート置換基といったような芳香族置換基はそれ自体イオン化可能でありうる。
【0119】
生理学的に適切なpHで少なくとも部分的にイオン化されるセルロース重合体の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシナート、ヒドロキシプロピルセルロースアセタートスクシナート、ヒドロキシエチルメチルセルローススクシナート、ヒドロキシエチルセルロースアセタートスクシナート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート(HPMCP)、ヒドロキシエチルメチルセルロースアセタートスクシナート、ヒドロキシエチルメチルセルロースアセタートフタラート、カルボキシエチルセルロース−エチルカルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルエチルセルロース又はCMECとも呼ばれる)、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセタートフタラート(CAP)、メチルセルロースアセタートフタラート−エチルセルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルセルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルセルロースアセタートフタラートスクシナート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナートフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシナートフタラート、セルロープロピオナートフタラート、ヒドロキシプロピルセルロースブチラートフタラート、セルロースアセタートリメリタート(CAT)、メチルセルロースアセタートリメリタート、エチルセルロースアセタートリメリタート、ヒドロキシプロピルセルロースアセタートリメリタート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートリメリタート、ヒドロキシプロピルセルロースアセタートリメリタートスクシナート、セルロースプロピオナートトリメリタート、セルロースブチラートトリメリタート、セルロースアセタートテレフタラート、セルロースアセタートイソフタラート、セルロースアセタートピリジンジカルボキシラート、サリチル酸セルロースアセタート、ヒドロキシプロピルサリチル酸セルロースアセタート、エチル安息香酸セルロースアセタート、ヒドロキシプロピルエチル安息香酸セルロースアセタート、エチルフタル酸セルロースアセタート、エチルニコチン酸セルロースアセタート及びエチルピコリン酸セルロースアセタートが含まれる。生理学的に適切なpHで少なくとも部分的にイオン化されているこれらのセルロース重合体のうち、最も好ましいことがわかっているのは、HPMCAS、HPMCP、CAP、CAT、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びエチルカルボキシメチルセルロースである。
【0120】
もう1つの好ましい重合体種は、中和された酸性重合体から成る。「中和された酸性重合体」というのは、「酸性部分」又は「酸性置換」のかなりの割合が「中和された」すなわちその脱プロトン化形態で存在するあらゆる酸性重合体を意味する。「酸性重合体」というのは、酸性部分を有意な数有するあらゆる重合体を意味する。一般的に有意な数の酸性部分とは、1グラムの重合体につき約0.1ミリ当量の酸性部分以上であると思われる。「酸性部分」には、水と接触するか又は水中に溶解させられた時点で少なくとも部分的に水素カチオンを水に供与し、かくして水素イオン濃度を増大させることのできる、充分酸性であるあらゆる官能基が含まれる。この定義には、約10未満のpkaをもつ重合体に官能基が共有結合により付着させられた場合に称されるようなあらゆる官能基又は「置換基」が含まれる。以上の記述の中に内含される官能基の種類の例としては、カルボン酸、チオカルボン酸、ホスファート、フェノール基及びスルフォナートが含まれる。このような官能基は、ポリアクリル酸の場合のように重合体の一次的構造を構成することができるが、より一般的には、親重合体の主鎖に対し共有結合により付着され、かくして「置換基」と称される。中和された酸性重合体は、その関連する開示が参考として内含されている、2001年6月22日付けの「薬物及び中和された酸性重合体の薬学組成物」という題の本発明の譲受人に譲渡された特許出願米国第60/300,256号の中でより詳細に記述されている。
【0121】
特定の重合体が本発明の混合物中で使用するのに適しているものとして論述されてきたが、かかる重合体の配合物も同様に適切でありうる。かくして、「重合体」という語は、重合体の単一の種に加えて重合体の配合物を内含するように意図されている。
【0122】
濃度の増強
組成物中に使用される重合体は、好ましくは、「濃度増強用重合体」であり、すなわち、以下の条件のうちの少なくとも1つそして好ましくは両方を満たす。第1の条件は、その最も低いエネルギー形態にある等量の結晶質薬物から成り重合体は全く含まない対照組成物との関係において使用環境における薬物の最大薬物濃度(MDC)を増加させるのに充分な量で濃度増強用重合体が存在している、ということである。すなわち、組成物がひとたび使用環境内に導入されると、該重合体は、対照組成物との関係において薬物の水中濃度を増大させる。対照組成物は、可溶化剤又は薬物の溶解度に実質的に影響を及ぼすことになるその他の成分を含まないこと、そして薬物が対照組成物中で固体形態にあることを理解すべきである。対照組成物は従来、その最低エネルギー、最低溶解度形態にある単独の薬物の未分散又は結晶質形態である。好ましくは、重合体は、水溶液中の薬物のMDCを対照組成物との関係において少なくとも1.25倍、より好ましくは少なくとも2倍、そして最も好ましくは少なくとも3倍だけ増大させる。驚くべきことに、該重合体は、水中濃度のきわめて大幅の増強を達成することができる。一部のケースでは、テスト組成物によって提供される薬物のMDCは、対照によって提供される平衡濃度の少なくとも5倍から10倍を上回る。
【0123】
第2の条件は、濃度増強用重合体が、その最低エネルギー形態での等量の結晶質薬物から成るものの重合体は含まない対照組成物との関係において、使用環境内の薬物の濃度対時間曲線(AUC)の下の溶解部域を増大させるのに充分な量で存在すること、である。(AUCの計算は、製薬技術分野で周知の手順であり、例えばWellingの「薬学動態学のプロセスと数学」ACSモノグラフ185(1986)の中で記述されている。より特定的には、使用環境内で、薬物及び濃度増強用重合体を含む組成物は、使用環境への導入から約0〜約270分の任意の90分の期間について、上述の対照組成物のものの少なくとも1.25倍であるAUCを提供する。好ましくは、組成物により提供されるAUCは、対照組成物のものの少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍である。一部の分散については、本発明のテスト組成物は、上述の対照組成物ものの少なくとも5倍さらには10倍以上のAUC値を提供しうる。
【0124】
好ましい実施形態においては、濃度増強用重合体は、組成物が、無定形薬物から成るものの濃度増強用重合体を全く含まない第2の対照組成物との関係において濃度の増強を提供するように充分な量で存在する。好ましくは、該重合体は、第2の対照組成物との関係において少なくとも1.25倍、より好ましくは少なくとも2倍、そして最も好ましくは少なくとも3倍だけ水溶液中の薬物のMDC又はAUCのうちの少なくとも一方、好ましくは両方を増大させる。
【0125】
「使用環境」は、動物特にヒトの胃腸管といったようなインビボ水性使用環境、又はリン酸緩衝生理食塩水(P分散)溶液又はモデル絶食十二指腸(MFD)溶液といったようなテスト溶液のインビトロ水性使用環境のいずれかであり得る。
【0126】
本発明のプロセスを用いて形成された濃度増強用重合体及び難溶解性薬物を含む結果として得られた固体無定形分散は、インビトロ溶解試験において溶解した薬物の濃度の増強を提供する。MFD溶液又はPBS溶液中のインビトロ溶解試験における薬物の濃度の増強は、インビボ性能及び生物学的利用能の優れた標示であることが見極められた。適切なPBS溶液は、20mMのNa2HPO4、47mMのKH2PO4、87mMのNaCl、及び0.2mMのKClを含み、NaOHでpH6.5に調整された水溶液である。適切なMFD溶液は、7.3mMのタウロコール酸及び1.4mMの1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンも存在する同じPBS溶液である。特に、本発明のプロセスによって形成された組成物は、それをMFD又はPBS溶液に添加し、かつ攪拌して溶解を促進することにより溶解試験することができる。
【0127】
水溶液中の増強された薬物濃度を評価するためのインビトロ試験を、(1)薬物の平衡濃度を達成すべくMFD又はPBS溶液といったようなインビトロテスト媒質に対し、充分な量の対照組成物、標準的には未分散薬物を単独で攪拌しながら添加すること;(2)別々の容器内で、全ての薬物が溶解した場合薬物の理論的濃度が薬物の平衡濃度より少なくとも2、好ましくは少なくとも10という係数だけ上回ることになるように、同じテスト媒質内で充分な量のテスト組成物(例えば薬物と重合体を含む組成物)を攪拌しながら添加すること;及び(3)平衡濃度及び/又は対照組成物の水性AUCと、テスト媒質中のテスト組成物の測定されたMDC及び/又は水性AUCを比較すること、によって実施することができる。かかる溶解試験を実施する上で、使用されるテスト組成物又は対照組成物の量は、薬物が全て溶解した場合に薬物濃度が平衡濃度のものの少なくとも2倍、好ましくは少なくとも10倍そして最も好ましくは少なくとも100倍となるような量である。
【0128】
溶解した薬物の濃度は、標準的には、MDCを確認できるようにテスト媒質を試料採取しテスト媒質中の薬物濃度と時間の関係をプロットすることによって、時間の一関数として測定される。MDCは、試験の持続時間全体にわたって測定された溶解した薬物の最大値となるように取られる。水性AUCは、水性使用環境中に組成物を導入する時点(時間はゼロに等しい)と使用環境への導入から270分後(時間は270分に等しい)の間の任意の90分の時限全体にわたり濃度対時間曲線を積分することによって計算される。標準的には、組成物が例えば約30分より少ない時間で急速にそのMDCに達した時点で、AUCを計算するために使用される時間的間隔は、時間=0から時間=90分の間である。しかしながら、上述の任意の90分の時限全体にわたる組成物のAUCが本発明の基準を満たす場合には、形成された組成物は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0129】
誤った判定を提供することになる大きい薬物微粒子を回避するためには、テスト溶液は、ろ過されるか又は遠心分離される。「溶解した薬物」というのは標準的には、0.45μmのシリンジフィルタを通過する材料か又代替的には遠心分離後の上清中にとどまる材料として考えられる。ろ過は、Scientific Resources (Sientific Resources, Inc; St, Paul, MN)により、TITAN(登録商標)という商標で販売されている13mmの0.45μmの二フッ化ビニリジンシリンジフィルタを用いて実施可能である。遠心分離は、60秒間13,000Gで遠心分離することによりポリプロピレンマイクロ遠心分離管の中で標準的に実施される。その他の類似のろ過又は遠心分離プロセスを利用し、有用な結果を得ることができる。例えば、その他のタイプのマイクロフィルタを使用すると上述のフィルタで得られるものよりも幾分か高いか又は低い(±10〜40%)値が生成されるかもしれないが、好ましい分散の同定はなお可能となる。「溶解した薬物」のこの定義は、単量体の溶媒和された薬物分子のみならず、薬物凝集体、重合体及び薬物の混合物の凝集体、ミセル、重合体ミセル、コロイド粒子又はナノ結晶、重合体/薬物複合体、及び特定された溶解試験内のろ過液又は上清中に存在するその他のこのような薬物含有種といったような、サブミクロンの寸法をもつ重合体/薬物集合といった広範囲の種をも包含する。
【0130】
代替的には、組成物は、ヒト又はその他の動物に対して経口投薬された場合、同等量の結晶質薬物がいかなる付加的な重合体もなく単独で投薬される場合に見られるものの少なくとも約1.25倍、好ましくは少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約3倍、好ましくは少なくとも約5倍そして、さらに一層好ましくは少なくとも約10倍である血中(血清又は血漿)中の薬物濃度内のAUCを提供する。かかる組成物は、対照組成物のものの約1.25倍又は約10倍の相対的生物学的利用能を有するものと言うことができる、という点に留意されたい。
【0131】
組成物中の薬物の相対的生物学的利用能は、かかる判定を行なうための従来のプロセスを用いて動物又はヒトにおいてインビボで試験できる。交差研究といったようなインビボ試験を用いて、薬物と濃度増強用重合体の1つの組成物が上述の通りの対照組成物と比較して増強された相対的生物学的利用能を提供するか否かを決定することができる。インビボでの交差研究においては、薬物及び重合体の固体無定形分散のテスト組成物をテスト対象のグループの半数に対し投薬し、適当な洗い流し期間(例えば一週間)の後、同じ対象に対し、テスト組成物と等量の結晶質薬物(ただし重合体は全く存在しない)から成る対照組成物を投薬する。そのグループのもう半数には、まず最初に対照組成物そしてそれに続いてテスト組成物を投薬する。相対的生物学的利用能は、対照組成物により提供された血液中のAUCで除したテストグループについて決定された血中(血清又は血漿)濃度時間−曲線下面積(AUC)として測定される。好ましくは、このテスト/対照比は、各対象について決定され、次にこれらの比を研究内の全ての対照にわたり平均する。AUCのインビボ決定は、横座標(x軸)に沿った時間に対して縦座標(y軸)に沿った薬物の血清又は血漿濃度をプロットすることによって行なうことができる。投薬を容易にするため、投薬量を投与するのに投薬用ビヒクルを使用することができる。該投薬用ビヒクルは好ましくは水であるが、これらの材料が組成物を溶解させないか又はインビボで薬物の溶解度を変えないことを条件として、テスト又は対照組成物を懸濁させるための材料を含有する可能性もある。
【0132】
該発明のその他の特長及び実施形態は、その意図された範囲を制限するためではなくむしろ該発明の例示のために示されている以下の実施例から明らかになるであろう。
【実施例】
【0133】
実施例1
この例は、濃度増強用重合体中で薬物の無定形分散を形成するための改良型プロセスを実証している。薬物1は、トルセトラピブとしても知られている[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステルであり、以下の構造により示されている:
【化1】

【0134】
分散は、アセトン中に4重量%の薬物1と12重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート(HPMCAS)(日本国東京の信越化学製AQUOT−MG)を含む噴霧溶液を形成することによって作製した。該噴霧溶液は約130cpの粘度を有していた。圧力ノズル(Spraying Systems SK80-16)の備わった噴霧乾燥機(液体供給プロセス容器を伴うNiroXP型ポータブル式噴霧乾燥機(PSD−1)に対し、高圧ポンプを用いて噴霧溶液を圧送した。PSD−1には同様に、気体ディスペンサのために1%の開放部域をもつ拡散プレートを有する、9インチのチャンバ拡張部分が備わっていた。ノズルは、作動中拡散プレートと同一平面に置かれていた。550psiの霧化圧力で、約280g/分で噴霧乾燥機まで噴霧溶液を圧送した。乾燥用ガス(窒素)は132℃の入口温度、1280g/分の流速で気体ディスペンサ内に入った。蒸発した溶媒及び湿性乾燥用ガスは、37℃の出口温度で出口で噴霧乾燥機から退出した。このプロセスによって形成された噴霧乾燥された分散をサイクロン内で収集し、湿性乾燥用ガスはまずバグハウスまで、次にコンデンサその後プロセス加熱器まで退出し、その後、噴霧乾燥用チャンバ内に再循環された。コンデンサ出口温度は−18℃であった。
【0135】
噴霧乾燥の後の固体無定形分散の特性は以下の通りであった:
【0136】
【表1】

【0137】
実施例2〜4
実施例2〜4は、実施例1について記述された通りの再循環された乾燥用ガスと共にD噴霧−1を用いて噴霧乾燥された。該分散を、アセトン中で4重量%の薬物1と12重量%のHPMCASを含有する噴霧溶液を形成し、これらの溶液を表2に示された運転条件で噴霧乾燥することによって作った。
【0138】
【表2】

【0139】
噴霧乾燥後の固体無定形分散の特性は以下の通りのであった(実施例1を比較のため再度示す):
【0140】
【表3】

【0141】
表3のデータは、乾燥用ガス中に溶媒蒸気を少量含み入れることにより、固体無定形分散粒子の残存溶媒レベル及び比容積を低下させることができることを示している。表3に示されているように、固体無定形分散粒子中の残存溶媒の量は、−1〜2℃のコンデンサ出口温度で最低であった(実施例3)。より低いコンデンサ出口温度、ひいては乾燥用ガスのより低い溶媒蒸気圧において、残存溶媒量は増加する。同様にして、8.9℃というさらに高い出口コンデンサ温度で(実施例4)、残存溶媒レベルは4.8重量%まで増大する。かくして、乾燥用ガス内に少量の溶媒蒸気を内含することで、乾燥した乾燥用ガスを使用するよりも少ない固体無定形分散中の残存溶媒の量を生み出すことができる。固体無定形分散粒子の比容積も同じく、乾燥用ガス中の溶媒蒸気の量の増大と共に減少した。
【0142】
実施例5〜6
これらの実施例は、再循環された乾燥用ガスと共にNiroPSD−2ポータブル式噴霧乾燥機を用いて、濃度増強用重合体中で薬物1の固体無定形分散を形成するための改良型のプロセスを実証している。固体無定形分散は、アセトン中で4重量%の薬物1及び12重量%のHPMCAS(日本国東京の信越化学製AQUOT−MG)を含有する噴霧溶液を形成し、低せん断羽根車を用いて混合することにより、固体無定形分散を作製した。圧力ノズル(60℃の逆円錐面を伴うSpraying Systems SK70-27)及びNiro,Inc製のDPH気体ディスペンサを備えたNiroPSD−2乾燥チャンバを用いて、噴霧溶液を噴霧乾燥した。
【0143】
【表4】

【0144】
噴霧乾燥後の固体無定形分散の特性は以下のとおりであった。
【0145】
【表5】

【0146】
実施例5及び6はここでも又、コンデンサの出口温度が−20℃から0℃(実施例5から実施例6)まで増加するにつれて、乾燥用ガス中のアセトン蒸気濃度の増加が残存溶媒及びバルク比容積の減少を導くということを示している。
【0147】
実施例7
実施例5の噴霧乾燥システムを用いて、4重量%の薬物1、12重量%の重合体ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート及び84重量%の溶媒アセトンを含む噴霧溶液を噴霧する。ノズル圧力を、500〜800psi、好ましくは600〜700psiに維持する。乾燥チャンバ内の圧力を175〜325mmWC、好ましくは225〜325mmWCの範囲内に維持する。乾燥機入口に入る乾燥用ガスの温度を、90〜150℃、好ましくは100〜130℃の入口での温度にまで加熱する。噴霧溶液の供給速度は50〜85kg/時、より好ましくは60〜75kg/時に設定する。乾燥用ガス流速を、400〜500m3/時、好ましくは470〜480m3/時に設定する。入口温度及び噴霧溶液供給速度は、35〜45℃、好ましくは38〜42℃の出口温度を維持するように制御される。固体無定形分散粒子は、90〜170mmWC、好ましくは110〜150mmWCの差圧を有するサイクロンの中で収集される。乾燥用ガスはコンデンサを通して再循環され、コンデンサ出口温度は−30〜0℃、好ましくは−25〜−15℃に維持される。
【0148】
実施例8
4重量%の薬物1.12重量%の重合体ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート及び84重量%の溶媒アセトンを含む噴霧溶液を、約21m3の容積を有する乾燥チャンバ内に噴霧する。アトマイザは、退出オリフィスに隣接するテーパ付き円錐形表面を画定する内部壁を有する圧力ノズルである。ノズル圧力を、約2000〜約3000psiに維持する。乾燥チャンバ内の圧力を約0〜800mmWCの範囲内に維持する。乾燥機入口に入る乾燥用ガスの温度を、100〜200℃、好ましくは120〜160℃の入口での温度にまで加熱する。噴霧溶液の供給速度は400〜500kg/時に設定する。乾燥用ガス流速を、2000〜2500m3/時に設定する。入口温度及び噴霧溶液供給速度は、35〜45℃、好ましくは38〜42℃の出口温度を維持するように制御される。固体無定形分散粒子は、サイクロンの中で収集される。乾燥用ガスはコンデンサを通して再循環され、コンデンサ出口温度は−30〜0℃、好ましくは−25〜−15℃に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】図1は、噴霧乾燥システムの概略図である。
【図2】図2は、混合システムの概略図である。
【図3】図3は、1組の噴霧乾燥条件例の等温線図である。
【図4】図4は、圧力ノズルの組立て図である。
【図5】図5は、図4のノズル本体の横断面図である。
【図6】図6は、気体分散装置の概略図である。
【図7】図7は、乾燥チャンバ例の横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物及び重合体を含む固体無定形分散を含む医薬組成物を形成するための方法であって、以下のステップ:
(a) 入口及び出口を有する乾燥室に連結されたアトマイザを有する乾燥用器具を提供するステップ;
(b) 溶媒中に難溶解性の前記薬物及び前記重合体を溶解させることにより噴霧溶液を形成するステップであって、前記重合体がヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセタートフタラート、及びセルロースアセタートトリメリタートから成る群から選択されているステップ;
(c) 前記アトマイザを通して前記乾燥チャンバ内に前記噴霧溶液を噴霧して500μm未満の体積平均サイズをもつ液滴を形成するステップ;
(d) 前記液滴が約20秒未満で凝固して前記重合体内に前記難溶解性薬物の前記固体無定形分散を形成するような流速及び温度TINで前記入口を通して乾燥用ガスを流すステップ;
を含み、
(e) ここで、前記重合体中の前記難溶解性薬物の前記固体無定形分散が、前記難溶解性薬物単独で構成された対照組成物に比較して速い水性使用環境中の前記難溶解性薬物の溶解又は濃度増強のいずれかを提供し、
前記噴霧溶液の供給速度が少なくとも10kg/時であり、前記噴霧溶液の前記供給速度及び前記乾燥用ガスの前記TINは、前記出口における前記乾燥用ガスが温度TOUTを有するように制御され、前記TOUTが前記溶媒の前記沸点よりも低い前記方法。
【請求項2】
薬物及び重合体を含む固体無定形分散を含む医薬組成物を形成するための方法であって、以下のステップ:
(a) 入口及び出口を有する乾燥室に連結されたアトマイザを有する乾燥用器具を提供するステップ;
(b) 溶媒中に前記難溶解性薬物及び前記重合体を溶解させることにより噴霧溶液を形成するステップであって、前記難溶解性薬物がcETC阻害物質及び抗ウイルス薬から成る群から選択されているステップ;
(c) 前記アトマイザを通して前記乾燥チャンバ内に前記噴霧溶液を噴霧して500μm未満の体積平均サイズをもつ液滴を形成するステップ;
(d) 前記液滴が約20秒未満で凝固して前記重合体内に前記難溶解性薬物の前記固体無定形分散を形成するような流速及び温度TINで前記入口を通して乾燥用ガスを流すステップ;
を含み、
(e) ここで、前記重合体中の前記難溶解性薬物の前記固体無定形分散が、前記難溶解性薬物単独で構成された対照組成物に比べて速い水性使用環境中の前記難溶解性薬物の溶解又は濃度増強のいずれかを提供し、
前記噴霧溶液の供給速度が少なくとも10kg/時であり、前記噴霧溶液の前記供給速度及び前記乾燥用ガスの前記TINは、前記出口における前記乾燥用ガスが温度TOUTを有するように制御され、前記TOUTが前記溶媒の前記沸点よりも低い前記方法。
【請求項3】
前記TOUTが前記溶媒の前記沸点よりも少なくとも5℃低い、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記TOUTが前記乾燥チャンバ内での前記溶媒の露点より少なくとも10℃高い、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記TOUTが前記固体無定形分散のガラス遷移温度よりも低い、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥用ガスがさらに蒸気形態の前記溶媒を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記出口から前記入口まで前記乾燥用ガスの少なくとも一部分を再循環させるための再循環システムをさらに含み、前記再循環システムが溶媒除去システムを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒除去システムから退出する前記乾燥用ガスが20℃未満の溶媒露点を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥用ガスの前記流速対前記噴霧溶液の供給速度の前記比が少なくとも4m3/kgである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記アトマイザが圧力ノズルであり、前記圧力ノズルが前記退出オリフィスに隣接するテーパ付き円錐形表面を画定している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記噴霧溶液が少なくとも200kg/時の流速を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記TINが90〜130℃の範囲にあり、前記TOUTが35〜45℃の範囲にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
前記固体無定形分散が、10重量%未満の残存溶媒含有量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記難溶解性薬物がトルセトラピブであり、前記重合体がヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナートである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法の産物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−501219(P2007−501219A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522431(P2006−522431)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002519
【国際公開番号】WO2005/011636
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】