説明

薬物嗜癖の治療および嗜癖関連行動を改善するための組成物

本発明は、有効成分としてカルバモイル化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを含む組成物;該組成物の使用;および治療有効量のカルバモイル化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを投与することを含む、対象における乱用薬物嗜癖の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乱用薬物、特にオピオイドなどへの嗜癖と薬物嗜癖に関連した行動変化とを治療するための、カルバマート化合物の単独または他の薬剤と組み合わせた使用に関する。具体的には、本発明は、薬物嗜癖または薬物嗜癖もしくは薬物乱用に関連した行動変化を治療するための、カルバマート化合物を単独または他の薬剤との組み合わせで含む医薬組成物、またはカルバマート化合物の単独または他の薬剤との組み合わせた使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物乱用などの物質嗜癖やそれに起因する嗜癖関連行動は、大きな社会経済問題となっており、その数は増え続け、悲惨な結末をもたらしている。
【0003】
乱用薬物、たとえば、コカイン、ニコチン、メタンフェタミン、モルヒネ、ヘロイン、エタノール、フェンシクリジン、メチレンジオキシメタンフェタミン、他の乱用薬物などが嗜癖傾向を有することは、中枢神経系(CNS)の終脳中心ドーパミン(DA)強化/報酬経路(mesotelencephalic dopamine reinforcement/reward pathway)に対してこれらの薬物が薬理作用を発揮することと結びつけられてきた。この経路におけるドーパミン作動性伝達は、γ−アミノ酪酸(GABA)によって調節される。
【0004】
ニコチンをはじめとするほとんどすべての乱用薬物は、哺乳動物の側坐核において細胞外ドーパミン濃度を急激に上昇させることが示されてきた。この上昇は、これらの化合物が嗜癖傾向を有することと明らかに関連している。このユニークな生化学的特徴に基づくと、この応答を緩和もしくは消失させる薬剤は、物質乱用の治療に非常に効果的だと考えられる。
【0005】
物質嗜癖は、合法物質および非合法物質のいずれの使用によっても引き起こされうる。ニコチン、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、エタノール、ヘロイン、モルヒネ、フェンシクリジン(PCP)、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)、および他の嗜癖性物質は、容易に入手可能であり、大勢の米国人によって習慣的に使用されてきた。
【0006】
乱用薬物の多くが天然由来である。たとえば、コカインは、コカ植物、すなわちコカノキ(Erythroylon coca)の葉に由来する天然の非アンフェタミン系興奮剤である。コカの葉は、純粋なコカインアルカロイドを1%のおよそ半分しか含んでいない。コカの葉を咀嚼しても、比較的わずかな量のコカインしか遊離されず、消化管における吸収も遅い。これは、ラテンアメリカにおいてコカを噛む習慣がなぜ公衆衛生上の問題にならなかったのかを明確に説明するものである。アルカロイド自体の乱用では、事態は全く異なる。
【0007】
ニコチン、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、エタノール、ヘロイン、モルヒネ、フェンシクリジン、メチレンジオキシメタンフェタミンなどの嗜癖性薬物は、前脳の終脳中心報酬/強化回路において、(場合によっては直接的に、場合によっては間接的に、あるいは経シナプス的に)ドーパミン(DA)を増加させることがわかっているが、これが脳の報酬系を増強させて薬物使用者に「ハイ(高揚感)」をもたらすと推測される。
【0008】
薬物渇望、および回復しつつある嗜癖者における薬物摂取習慣の再発においては、DAシステムの機能変化も示唆されている。たとえば、コカインは、ドーパミン輸送体(DAT)に結合してDAのシナプス前終末への再取り込みを防ぐことにより、DAシステムに作用する。
【0009】
ニコチン、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、エタノール、ヘロイン、モルヒネ、フェンシクリジン、メチレンジオキシメタンフェタミン、および他の乱用薬物などが有する嗜癖傾向と、中枢神経系(CNS)の報酬/強化経路における再取り込み遮断とを結び付ける証拠は数多く存在する。たとえば、げっ歯類おいては、コカインで誘導される細胞外DAの増加と、報酬効果および渇望効果とが関連付けられている。
【0010】
ヒトにおいては、11C−コカインの薬物動態学的結合プロファイルにより、標識コカインの取り込みと自己申告による「ハイ」とが直接相関することが示されている。さらに、コカインに関連する環境刺激にさらされたコカイン嗜癖者は、DA受容体アンタゴニストであるハロペリドールと拮抗する、コカインへの渇望の増加を経験する。コカインが有する嗜癖傾向と前脳のDA報酬/強化回路との推定される因果関係に基づいて、コカインへの嗜癖を治療するため薬理学的戦略が数多く提案されている。
【0011】
過去に提案された治療戦略のひとつは、高親和性のコカイン類似体によりDATを直接標的とし、これによって、コカインの結合を遮断するものであった。また別の治療戦略は、DAアゴニストまたはDAアンタゴニストを使用することによりシナプスのDAを直接調節するものであった。さらに別の治療戦略は、生化学的には異なるが機能的には関連のある神経伝達物質系を特異的な標的とすることにより、シナプスのDAを間接的あるいは経シナプス的に調節するものであった。
【0012】
コカイン使用者を依存症から離脱させるための薬剤が数多く提案されてきた。いくつかの治療薬は「ドーパミン枯渇仮説」によって支持されるものであった。コカインがドーパミンの再取り込みを遮断し、シナプスのドーパミン濃度を急激に上昇させることはよく立証されている。しかしながら、コカインの存在下では、シナプスのドーパミンは3−メトキシチラミンとして代謝され排泄される。コカイン投与後にチロシンヒドロキシラーゼ活性が増加することによって裏付けられるように、シナプスにおいてドーパミンが消失することにより、体内においてドーパミンの合成亢進が促される。ドーパミン前駆体の供給源が使い果たされると、ドーパミン欠乏症が発症する。
【0013】
上記の仮説に基づき、ドーパミン受容体アゴニストであるブロモクリプチンの評価が行われた。また別の方法として、ドーパミン遊離薬であるアマンタジンの投与が行われた。ドーパミン枯渇仮説に基づいたさらに別の方法は、L−ドーパなどのドーパミン前駆体を供給するものであった。
【0014】
アゴニストは、治療薬としては好ましくない。ある特定のアゴニストは、特定の受容体や刺激を与えたい細胞のみならず、複数種の受容体、または異なる細胞における同様の受容体に作用する可能性がある。(受容体数の変化および受容体の薬物に対する親和性の変化によって)薬物に対する耐性が形成されるのと同様に、アゴニストに対する耐性も形成される可能性がある。アゴニストであるブロモクリプチンに関する問題としては、たとえば、それ自体が薬物依存を形成する可能性があることが挙げられる。したがって、過去に使用された治療戦略では、患者が有するコカインへの渇望を軽減することはできなかった。さらに、ブロモクリプチンなどの特定のアゴニストを使用することで、患者の渇望の対象がコカインからアゴニストへとすり替わる傾向があった。
【0015】
乱用されることの多いまた別の薬物として、ニコチンが挙げられる。アルカロイド(−)−ニコチンは、紙巻きタバコ、および喫煙用または咀嚼用の他のタバコ製品中に存在する。ニコチンは、タバコの使用が危険因子となっている、がん、心臓病、呼吸器疾患、および他の病態を含む各種疾患、特に心臓病に寄与することが判明している。
【0016】
タバコやニコチンの摂取に反対するキャンペーンが活発に行われており、タバコの使用中止とともに数多くの不快な離脱症状がもたらされることは現在周知の事実である。このような離脱症状としては、短気、不安、落ち着きのなさ、集中力欠如、めまい、不眠、震え、空腹感の増大、および体重増加が挙げられ、タバコへの激しい渇望もそこに含まれることは言うまでもない。
【0017】
ニコチンが有する嗜癖傾向は、報酬/強化作用、および脳の報酬経路のDAニューロンに対する作用と関連付けられてきた(Nisell et al., 1995; Pontieri, et al., 1996)。たとえば、他の多数の乱用薬物と同様に、ニコチンの急性全身投与は、報酬系の重要な構成要素である側坐核(NACC)において、細胞外DAレベルを上昇させる(Damsma et al., 1989; Di Chiara and Imperato, 1988; Imperato et al., 1986; Nisell et al., 1994a, 1995; Pontieri et al., 1996)。同様に、げっ歯類の腹側被蓋野(VTA)へのニコチン注入も、NACCにおけるDAレベルを著しく上昇させる(Nisell et al., 1994b)。
【0018】
ニコチン依存症を治療するのに有用なものとして、いくつかの医薬品が報告されており、これらには、ニコチンガム、経皮的ニコチンパッチ、スプレー式点鼻薬、ニコチン吸入器、はじめての非ニコチン禁煙治療薬であるブプロピオンなどのニコチン置換治療が含まれる(Henningfield, 1995; Hurt, et al., 1997)。
【0019】
残念ながら、ニコチン置換治療は、ニコチンの投与を伴うことから、ニコチン離脱症状およびそれに続くタバコ製品使用への逆戻りをたびたび引き起こす。したがって、ニコチンへの長期的な渇望を含むニコチン離脱症状を軽減するために、望ましい副作用プロファイルを有する治療法が求められている。
【0020】
他の周知の嗜癖性物質は、モルヒネ、ヘロイン、および他の天然・半合成オピオイドなどの麻薬性鎮痛薬である。オピオイドの乱用は、耐性と依存性を引き起こす。オピオイドの使用中止による離脱症状の強さは、オピオイドの投与量、CNSに対して連続的に発揮されるオピオイドの作用の度合、慢性的に使用した期間、およびオピオイドの受容体からの解離速度を含む多数の要因によって大いに異なる。
【0021】
これらの離脱症状としては、渇望、不安、不快感、欠伸、発汗、流涙、鼻漏、落ち着きのなさ、途切れ途切れの睡眠、短気、瞳孔散大、骨・背部・筋肉の痛み、立毛、ほてり、悪寒、悪心、嘔吐、下痢、体重減少、発熱、血圧上昇、頻脈、頻呼吸、筋肉の単収縮、および下肢のキック運動が挙げられる。
【0022】
オピオイド注射に関連した医学的合併症としては、CNSにおける種々の病理学的変化が挙げられ、淡蒼球における変性変化、脊髄灰白質の壊死、横断脊髄炎、弱視、神経叢炎、末梢神経障害、パーキンソン症候群、知能障害、人格変化、ならびに筋肉および末梢神経における病理変化が含まれる。さらに、皮膚および全身臓器の感染症もごく一般的であり、ブドウ球菌による間質性肺炎、結核、心内膜炎、敗血症、ウイルス性肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、マラリア、破傷風、および骨髄炎が含まれる。オピオイド嗜癖者の平均余命は、過剰服用、薬物関連感染症、自殺、および殺人に起因して大幅に短縮される。
【0023】
オピオイド依存症の治療に使用される医薬品としては、オピオイドの一種であるメタドン、ならびにナロキソンおよびナルトレキソンを主とするオピオイドアンタゴニストが挙げられる。クロニジンは、オピオイドからの離脱症状のうちいくつかを抑制することが示されているが、低血圧や鎮静といった副作用を引き起こし、これらの副作用は極度にもなりうる。行動を修正する心理療法およびトレーニングは、医薬品による治療とともによく行われる補助療法である。オピオイド嗜癖およびその離脱症状を軽減するために、より望ましい副作用プロファイルを有する治療法が求められている。
【0024】
エタノールは、ほとんどの文化圏において恐らく最も頻繁に使用かつ乱用されている抑制薬であり、発病および死亡の主な原因となっている。大量のエタノールを繰り返し摂取すると、身体のほぼすべての臓器系、特に、胃腸管、循環器系、中枢神経系、および末梢神経系に影響が及ぶ可能性がある。胃腸管に対する作用としては、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、肝硬変、および膵炎が挙げられる。
【0025】
さらに、エタノールの乱用により、食道がん、胃がん、および胃腸管の他の部位におけるがんの発生率が上昇する。心血管系に対する作用としては、トリグリセリドレベルと低比重リポ蛋白コレステロールレベルとが著しく上昇する、高血圧、心筋症、および他の筋疾患が挙げられる。これらの心血管系に対する作用は、心臓病のリスクを顕著に増加させる。
【0026】
エタノールの乱用は、筋力低下、感覚異常、および末梢感覚の低下によって裏付けられるように、末梢神経障害として現れうる。中枢神経に対する作用としては、認知障害、重度の記憶障害、小脳の変性変化、および新規記憶のコード化機能が著しく損なわれるエタノール誘発性持続性健忘障害が挙げられる。一般に、これらの作用は、ビタミン欠乏、特にビタミンB欠乏に関連する。
【0027】
エタノール依存症患者またはエタノール嗜癖患者は、消化不良、悪心、鼓脹、食道静脈瘤、痔核、震え、不安定歩行、不眠、勃起障害、睾丸萎縮、テストステロンレベル低下に関連した女性化作用、自然流産、および胎児期アルコール症候群を含む症状や肉体的変化を呈する。エタノールの使用中止または離脱に関連する症状としては、悪心、嘔吐、胃炎、吐血、口渇、斑点の多い腫れた顔貌、および末梢性浮腫が挙げられる。
【0028】
エタノール嗜癖および離脱に対して一般に認められている治療は、クロルジアゼポキシドなどの中程度の精神安定薬の投与により達成される。典型的には、ビタミン、特にビタミンBも投与される。任意に、硫酸マグネシウムおよび/またはグルコースも投与される。悪心、嘔吐、および下痢には、主治医の裁量で対症療法が施される。禁酒の継続を補助するために、ジスルフィラムを投与してもよい。ジスルフィラムを服用中にエタノールを摂取した場合、アセトアルデヒドが蓄積して悪心や低血圧を引き起こす。エタノール嗜癖およびその離脱症状を軽減するために、より望ましい副作用プロファイルを有する治療法が求められている。
【0029】
最近、多種薬物使用もしくは混合薬物の乱用が憂慮すべき速度で増加していることが報告されている。たとえば、コカインとヘロインは組み合わせられて、「スピードボール」として知られる混合薬物の形態で乱用されることが多い。このような使用の増加は、使用者の多幸感を高める相乗効果によると考えられる。
【0030】
多くの場合、麻薬の売人は、「ハイ」の強度を高めるために種々の乱用薬物を組み合わせている。これは、常連客の麻薬使用者が単一薬物に対して耐性を形成している場合において特に行われている。麻薬使用者は、このような薬物を組み合わせることの危険性に気付いていないことが多い。
【0031】
PCPとして一般に知られているフェンシクリジンの作用は、解離性と評される。これは、精神が身体から分離されたように感じることを意味する。PCPは、1950年代に初めて外科用麻酔薬として使用された。痙攣や幻覚などの非常に有害な副作用により、使用されなくなった。
【0032】
PCPの違法使用は、1960年代後半に初めて報告された。しかしながら、数多くの悪い体験が報告されたことにより、PCPは人気を失った。1970年代に、PCPは、マリファナやコカインなどの他の違法薬物と組み合わせられて、おのずと再び使用され始めた。PCPは現在も乱用物質の1つである。PCPを一度使用した者の多くは、二度とPCPを使用しようとはしない。一方で、PCPを定期的に継続して使用する者もいる。PCP常用者は、PCPを使用する理由のひとつとして、精神的かつ肉体的な痛覚鈍麻を挙げている。
【0033】
PCPは、丸剤、粉末、または液体懸濁液の形状を取りうる合成物質である。PCPは、吸煙、鼻からの吸引、経口摂取、または静脈内投与が可能である。PCPの短期的影響は数時間または数日続き、呼吸促迫、血圧上昇、心拍数増加、体温上昇、多量の発汗、奇妙な姿勢、および筋痙攣を含む。高用量では、嘔吐、視力障害、ひきつけ、および昏睡を引き起こしうる。
【0034】
PCPの長期的影響としては、フラッシュバック、会話障害、記憶喪失、不安、うつ病、および社会的引きこもりが挙げられる。「ハイ」を維持するには、摂取量を増やす必要があることが常用者から報告されている。PCP乱用の治療法として、一般に認められているものはない。
【0035】
「エクスタシー」として一般に知られているメチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)は、興奮性および幻覚誘発性を有する合成向精神薬である。MDMAは、食欲抑制薬候補として1912年に初めて合成された。MDMAの不法使用は、1980年代後半になって流行し始めた。
【0036】
MDMAは、通常、経口摂取され、その効果は4〜6時間継続しうる。使用者によると、MDMAを使用することにより、大いに積極的な気持ちになれ、極めてリラックスできるという。さらに、MDMAは、食べたり、飲んだり、寝たりする欲求を抑えるといわれている。それゆえ、MDMAの使用により、重度の脱水症や極度の疲労に陥る場合がある。
【0037】
MDMA使用者は、アンフェタミン使用者やコカイン使用者が抱える問題と類似した問題に遭遇する場合があり、嗜癖もこれに含まれる。さらに、MDMAは、混乱、うつ病、睡眠障害、不安、およびパラノイアを引き起こしうる。MDMAの使用による肉体的影響としては、筋緊張、無意識の歯ぎしり、悪心、視力障害、失神性めまい、および、悪寒または発汗が挙げられる。
【0038】
MDMAの長期使用による影響は、科学的に分析され始めたところである。米国国立精神衛生研究所は、1998年にMDMA常習者に関する研究を行い、セロトニンを伝達する脳内ニューロンが損傷を受けることを明らかにした。セロトニンは、学習、睡眠、および感情の統合を含む種々の重大な機能に関連する重要な生化学物質である。上記研究結果により、MDMA使用者は、うつ病、不安、記憶喪失、および他の神経精神障害として現れうる恒久的な脳損傷を起こすリスクが高いことが示されている。MDMA乱用の治療法として、一般に認められているものはない。
【0039】
したがって、乱用薬物嗜癖の治療において、中枢神経系における乱用薬物の薬理作用を変えることによって患者の渇望を軽減できる新規な方法の提供が求められている。さらに、混合薬物の乱用を治療する新規な方法の提供が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明は、構造式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素;炭素原子数1〜8の低級アルキル;F、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン;炭素原子数1〜3のアルコキシ;ニトロ基;ヒドロキシ;トリフルオロメチル;ならびに炭素原子数1〜3のチオアルコキシからなる群から選択され;
xは、1〜3の整数であるが、xが2または3の場合、Rは同一でも異なっていてもよく;
とRは、同一でも異なっていてもよく、水素、炭素原子数1〜8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素原子数3〜7のシクロアルキルからなる群からそれぞれ選択され;
とRは結合して、水素、アルキル基、およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換された5〜7員複素環を形成してもよく、該複素環化合物は、1〜2個の窒素原子と0〜1個の酸素原子とを含み、該窒素原子は互いにまたは該酸素原子と直接結合していない)
を有する化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルの治療有効量を治療が必要な哺乳動物に投与することを含む、薬物嗜癖の治療方法に関する。
【0041】
また別の実施形態において、本発明は、対象における乱用薬物嗜癖関連行動の改善方法であって、治療有効量の式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルをこのような治療が必要な対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0042】
さらに別の実施形態において、本発明は、対象における乱用薬物嗜癖による影響の緩和方法または除去方法であって、治療有効量の式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルをこのような治療が必要な対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0043】
さらなる実施形態において、本発明は、治療有効量の式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを含む、薬物嗜癖を治療するための医薬組成物に関する。
【0044】
さらに別の実施形態において、本発明は、治療有効量の式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを含む、対象における乱用薬物嗜癖関連行動を改善するための医薬組成物を提供する。
【0045】
さらに別の実施形態において、本発明は、治療有効量の式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを含む、対象における乱用薬物嗜癖による影響を緩和または除去するための医薬組成物を提供する。
【0046】
さらなる実施形態において、本発明は、薬物嗜癖を治療するための、式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルの使用に関する。
【0047】
さらに別の実施形態において、本発明は、対象における乱用薬物嗜癖関連行動を改善するための、式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルの使用を提供する。
【0048】
さらなる実施形態において、本発明は、対象における乱用薬物嗜癖による影響を緩和または除去するための、式(I)の化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルの使用を提供する。
【0049】
構造式(I)を有する前記化合物は、他のエナンチオマーを実質的に含まないエナンチオマー、または構造式(I)を有する前記化合物の1種のエナンチオマーが大部分を占めるエナンチオマー混合物である。1種のエナンチオマーは、全体の約90%以上、好ましくは約98%以上を占める。
【0050】
上記エナンチオマーは、構造式(Ia):
【化2】

で表されるような(S)もしくは(L)−エナンチオマー、または構造式(Ib):
【化3】

で表されるような(R)もしくは(D)−エナンチオマーである。
【0051】
Rx、RおよびRがいずれも水素から選択され、かつxが1であることが好ましく、このような化合物は以下の式で示される。
【化4】

【0052】
本発明の実施形態は、他のエナンチオマーを実質的に含まない、式(Ib)のエナンチオマーである式(I)のエナンチオマー、または式(Ib)のエナンチオマーが大部分を占めるエナンチオマー混合物の使用方法を含む。(注:下側に位置する式(Ib)の構造式において、β炭素に結合したアミノ基は、紙面の奥側に突き出ている。この化合物は、絶対配置が(R)である右旋性(D)エナンチオマーである。)
【0053】
乱用薬物は、ニコチン、コカイン、オピオイド、アンフェタミン、メタンフェタミン、エタノール、ヘロイン、モルヒネ、フェンシクリジン(PCP)、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)、および他の嗜癖性物質からなる群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の上記および他の目的は、以下の本発明の説明および添付の請求項より十分に理解されるだろう。
【0055】
本発明は、有効成分として、構造式(I)を有する化合物、そのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ化合物、もしくはこれらの混合物、またはその水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、エステル、もしくはアミドを含む、薬物嗜癖を治療するための医薬組成物に関し;治療有効量の、構造式(I)を有する化合物、そのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ化合物、もしくはこれらの混合物、またはその水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、エステル、もしくはアミドを、治療が必要な哺乳動物に投与することを含む薬物嗜癖の治療方法に関する:
【化5】

(式中、Rは、水素;炭素原子数1〜8の低級アルキル;F、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン;炭素原子数1〜3のアルコキシ;ニトロ基;ヒドロキシ;トリフルオロメチル;ならびに炭素原子数1〜3のチオアルコキシからなる群から選択され;
xは、1〜3の整数であるが、xが2または3の場合、Rは同一でも異なっていてもよく;
とRは、同一でも異なっていてもよく、水素、炭素原子数1〜8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素原子数3〜7のシクロアルキルからなる群からそれぞれ選択され;
とRは結合して、水素、アルキル基、およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換された5〜7員複素環を形成してもよく、該複素環化合物は、1〜2個の窒素原子と0〜1個の酸素原子とを含み、該窒素原子は互いにまたは該酸素原子と直接結合していない)。
【0056】
さらに、本発明の方法は、式(Ia)または(Ib)、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ化合物、もしくはこれらの混合物、またはその水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、エステル、もしくはアミドからなる群から選択される化合物の使用を含む:
【化6】

(式中、Rx、R、およびRは、上記で定義されたものと同一である)。
【0057】
さらに、本発明の組成物または方法は、式(I)およびそのエナンチオマー混合物からなる群から選択される(絶対配置が(R)の)D(右旋性)エナンチオマーの使用を含むことが好ましい。式(Ib)の構造式において、β炭素に結合したアミノ基は、紙面の奥側に突き出ている。この化合物は、絶対配置が(R)である右旋性(D)エナンチオマーである。
【0058】
以下の構造式で表されるように、構造式(I)において、Rx、R、およびRが水素であり、xが1であることが好ましい。
【化7】

【0059】
O−カルバモイル−(D)−フェニルアラニノールは、(R)−(β−アミノ−ベンゼンプロピル)カルバマート一塩酸とも称される。エナンチオマー混合物においては、O−カルバモイル−(D)−フェニルアラニノールが、好ましくは全体の約90%以上、より好ましくは全体の約98%以上を占める。
【0060】
式(I)の化合物は、当技術分野において当業者に公知の方法によって合成することができる。式(I)の化合物の合成反応スキームは、米国特許5705640号公報、米国特許5756817号公報、米国特許5955499号公報、および米国特許6140532号公報に記載されている。上記の反応スキームの詳細および特定の化合物の調製における代表的な実施例も、米国特許5705640号公報、米国特許5756817号公報、米国特許5955499号公報、米国特許6140532号公報に記載されており、これらはすべて参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0061】
式(I)の化合物の塩およびエステルは、適切な溶媒中における該化合物の酸(HX)処理、または当業者によく知られている方法によって製造することができる。
【0062】
構造式(I)より、本発明の化合物のうちいくつかは、少なくとも1個または恐らくそれ以上の不斉炭素原子を有することは明らかである。本発明は、構造式(I)の化合物の立体化学的に純粋な異性体およびそれらのラセミ化合物をその範囲内に含むことを意図するものである。立体化学的に純粋な異性体は、当該技術分野において公知の原理を適用することによって得てもよい。ジアステレオマーは、分別結晶、クロマトグラフ法などの物理的分離方法によって分離してもよく、エナンチオマーは、光学的に活性な酸もしくは塩基を用いたジアステレオマー塩の選択的結晶化、またはキラルクロマトグラフィーによって分離してもよい。また、純粋な立体異性体は、適切かつ立体化学的に純粋な出発物質を用いることによって、または立体選択的反応を使用することによって合成的に調製してもよい。
【0063】
本発明の化合物のいずれの調製過程においても、当該分子の感受性基または反応基を保護することが必要かつ/または望ましいと考えられる。このような保護は、Protective Groups in Organic Chemistry,J.F.W. McOmie編集, Plenum Press, 1973;およびT.W. Greene & P.G.M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, Third Edition, John Wiley & Sons, 1999に記載されているような慣用の保護基を用いた方法により達成してもよい。保護基は、当該技術分野において公知の方法を使用して、後に続く都合のよい工程で取り除いてもよい。
【0064】
本発明は、上述された式(I)のフェニルアルキルアミノカルバマートが新規かつ独自の薬理学的特性を有するという発見に部分的に基づくものである。数多くの動物モデルにおいて、これらの化合物が、乱用薬物嗜癖と乱用薬物嗜癖に関連した行動変化とを治療する作用を有することが示されている。
【0065】
正確な作用機序は完全には理解されていないが、本発明の化合物は、乱用薬物嗜癖に使用される他の公知の治療法のほとんどとは作用機序が異なることが知られている。これらの理由により、式(I)の化合物は、乱用薬物嗜癖と乱用薬物嗜癖に関連した行動変化とに対する単独療法または補助療法としての使用に特に適している。
【0066】
したがって、これらの化合物は、単独でも、他の有用な薬剤との組み合わせでも安全に使用することができるが、併用した場合、効果が増強され、各薬剤の用量が低減されるため副作用が軽減される。
【0067】
一態様において、本発明は、有効成分として治療有効量の1以上の本発明のカルバマート化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルと、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤とを含む、乱用薬物嗜癖を患う対象を治療するための組成物および該組成物の使用;ならびに、治療有効量の1以上の本発明のカルバマート化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルと、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤とを対象に送達することを含む、乱用薬物嗜癖を患う対象の治療方法に関する。
【0068】
一態様において、本発明はさらに、薬物嗜癖を患う対象における乱用薬物の報酬/誘因効果を軽減、阻害、または除去するための、有効成分として有効量の本発明のカルバマート化合物を含む組成物および該組成物の使用;ならびに、乱用薬物の報酬/誘因効果を軽減、阻害、除去するために、有効量の本発明のカルバマート化合物を対象に投与することを含む、薬物嗜癖を患う対象における乱用薬物の報酬/誘因効果の軽減、阻害、または除去方法を提供する。
【0069】
乱用薬物は、ニコチン、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、エタノール、ヘロイン、モルヒネ、フェンシクリジン(PCP)、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)、および他の嗜癖性物質からなる群から選択される。
【0070】
用語の定義
便宜上、本明細書、実施例、および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0071】
本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル、動物種属、および試薬に限定されず、これらは変更可能であることが理解されるものである。さらに、本明細書中で使用される用語は、個々の実施形態を説明する目的で使用されるにとどまり、これらの用語が、添付の請求項のみによって限定される本発明の範囲を制限することは意図されないことも理解される。
【0072】
本明細書において「対象」は、治療、観察または実験の対象となっている、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト男女を指す。
【0073】
本明細書において「治療有効量」とは、研究者、獣医、医師または他の臨床医によって探究されている組織系、動物またはヒトにおいて、治療対象の疾患もしくは障害の1以上の徴候または症状の緩和を含む生物学的もしくは医学的反応を引き出す活性化合物または医薬品の量を意味する。
【0074】
「予防有効量」は、研究者、獣医、医師または他の臨床医によって探究されている組織、体系、動物またはヒトにおいて予防しようとする生物学的もしくは医学的事象の発生を予防またはそのリスクを低減するとされる医薬品の量を意味することが意図される。
【0075】
「薬学的に許容される塩またはエステル」とは、遊離酸を適切な有機塩基または無機塩基と反応させることにより通常調製される、本発明で使用される化合物の無毒の塩またはエステルを意味する。このような塩としては、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物塩、カルシウム塩、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クラブラン酸、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレソルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナプト酸塩、ヨウ化物塩、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチル臭化物、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、カリウム塩、サリチル酸塩、ナトリウム塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、および吉草酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
したがって、本明細書において「治療を必要とする患者」は、抗うつ薬で治療可能なあらゆる気分障害を含む上記の症候群もしくは障害を現在有するもしくは発症する可能性があるあらゆる対象または患者;あるいは、1以上の式(I)の化合物の単独投与もしくは別の治療的介入(別の薬剤投与を含むがこれらに限定されない)と組み合わせた投与が患者の現在の臨床症状またはその予後に有効である他の障害を現在有するもしくは発症する可能性があるあらゆる対象または患者を指す。「患者」とは、ヒト男女である患者を含むヒト;ヒト以外の霊長類;ウサギ、ラット、マウスなどの実験動物;ならびに他の動物を含むあらゆる哺乳動物を意味するが、これらに限定されない。
【0077】
本明細書において「治療する」または「治療」は、乱用薬物嗜癖および乱用薬物嗜癖に関連した行動変化による傷害、病状もしくは病態の予防または緩和の成功のあらゆる徴候を指し、このような徴候としては、軽減;寛解;症状の軽減、または、患者にとって、傷害、病状、もしくは病態が耐容可能となること;変性速度、衰弱速度または疾患の悪化速度の遅延;悪化の最終的な状態の消耗が軽減されること;対象の心身の健康状態の改善などの客観的もしくは主観的なあらゆるパラメータが含まれる。症状の治療または緩和は、理学的検査、神経学的検査、および/または精神鑑定の結果を含む客観的もしくは主観的パラメータに基づいてもよい。したがって、「治療する」または「治療」は、ヒト男女における任意の形態の乱用薬物嗜癖を治療するために、本発明の化合物もしくは薬剤を投与することを含む。場合によっては、本発明の化合物を用いた治療は、乱用薬物嗜癖の進行を予防、阻害、または阻止する他の化合物と組み合わせて行われるものとする。
【0078】
本明細書において「治療効果」は、乱用薬物嗜癖の症状の効果的な改善または軽減を指す。本明細書において「治療有効量」とは、上記のような神経保護による治療を必要とする対象または患者において、1以上の本発明の化合物が上記で定義されたような治療効果をもたらすのに十分な量を意味する。
【0079】
本発明の医薬組成物の治療有効投与量および予防有効投与量を決定する方法は、当技術分野において公知である。たとえば、本発明の化合物は、平均的な成人のヒトに対し、通常1日当たり1〜2回の用法において1日用量を約0.1〜400mgとして使用することができる。しかしながら、上記有効量は、使用する個々の化合物、投与方法、製剤の効力、投与方法、および病状の進行に応じて異なってもよい。さらに、患者の年齢、体重、食事、および投与時間を含む、治療対象の個々の患者に関連する要因に応じて、用量を調整する必要があるとされる。
【0080】
本発明の化合物は、慣用のいかなる投与経路によって対象に投与されてもよく、投与経路は、静脈内投与、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、および非経口投与を含むが、これらに限定されない。投与経路に応じ、式(I)の化合物はあらゆる形態とすることができる。たとえば、経口投与に適した形態としては、丸剤、ジェルカプセル、錠剤、カプレット、カプセル剤(いずれも即放性製剤、徐放性(timed release)製剤および持効性(sustained release)製剤を含む)、顆粒剤、散剤などの固体形態が挙げられる。経口投与に適した形態として、さらに、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤などの液体形態が挙げられる。さらに、非経口投与に有用な形態としては、滅菌液剤、乳剤、および懸濁剤が挙げられる。
【0081】
本発明の医薬組成物を調製するには、慣用の医薬品配合技術に従って、有効成分としての1以上の式(I)の化合物またはその塩を医薬担体とよく混合する。担体は、不可欠かつ不活性な医薬添加剤であり、結合剤、懸濁化剤、滑沢剤、香味剤、甘味剤、保存剤、色素、およびコーティング剤を含むが、これらに限定されない。経口投与形態の組成物の調製においては、通常の医薬担体であればいずれを使用してもよい。たとえば、液体経口剤に適した担体および添加剤としては、水、グリコール類、油類、アルコール類、香味剤、保存剤、着色剤などが挙げられ;固体経口剤に適した担体および添加剤としては、デンプン類、糖類、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などが挙げられる。非経口使用における上記担体には、通常、滅菌水が含まれるであろうが、たとえば溶解性の向上または保存を目的として、他の成分が含まれていてもよい。さらに、注射用懸濁剤を調製してもよく、この場合、適切な液体担体や懸濁化剤などを使用してもよい。
【0082】
投与が容易であることから、最も有利な経口投与単位形態として錠剤およびカプセル剤が挙げられ、この場合、固体医薬担体が使用されることは言うまでもない。所望であれば、錠剤は、標準的な技術によって糖コーティングまたは腸溶コーティングしてもよい。また、坐剤を調製してもよく、この場合、担体としてカカオ脂を使用することができる。錠剤または丸剤は、コーティングあるいは配合調製して、持続性作用という利点をもたらす投与形態とすることができる。たとえば、錠剤または丸剤は、内側の投与成分と外側の投与成分とを含むことができ、外側の投与成分が内側の投与成分を包むように形成される。この2種の成分は、腸溶層で隔てることができ、この腸溶層は、胃での崩壊を抑制し、内側の成分が損なわれることなく十二指腸を通過することあるいはその放出を遅らせることを可能にする。種々の物質をこのような腸溶層または腸溶性コーティングに使用することができ、このような物質としては、セラック、セチルアルコール、酢酸セルロースなどの物質を含む種々のポリマー酸が挙げられる。
【0083】
上記の有効成分は、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソーム、多重層リポソームなどのリポソーム送達系によっても投与することができる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンなどの種々のリン脂質から形成することができる。
【0084】
また、モノクローナル抗体を担体として用い、これに本発明の化合物の分子を結合させて、有効成分を送達してもよい。また、有効成分は、ターゲティング可能な薬剤担体としての可溶性ポリマーと結合させてもよい。このようなポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシ−プロピル−メタクリルアミド−フェノール、ポリヒドロキシ−エチル−アスパルトアミド−フェノール、およびパルミトイル基で置換されたポリエチレンオキシドポリリシンが挙げられる。さらに、有効成分は、薬剤の放出制御に有用な生分解性ポリマー類と結合させてもよく、このようなポリマーとして、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸とのコポリマー、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、およびヒドロゲルの架橋性または両親媒性ブロックコポリマーが挙げられる。
【0085】
上記の組成物は、経口投与、非経口投与、鼻腔内投与、舌下投与、直腸内投与、または吸入もしくは吹送による投与のための、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、滅菌非経口液剤もしくは懸濁剤、定量エアロゾルもしくは液体噴霧剤、滴剤、アンプル剤、自己注射装置、坐剤などの単位投与形態であることが好ましい。
【0086】
あるいは、本発明の組成物は、週1回投与または月1回投与に適した形態であってもよい。たとえば、本発明の活性化合物の不溶性塩(たとえば、デカン酸塩)を適合させて、筋肉内注射用のデポー製剤としてもよい。
【0087】
本発明の医薬組成物は、投与単位(たとえば、錠剤、カプセル剤、散剤、注射剤、茶さじ1杯量、坐薬など)当たり、上記の有効投与量を送達するのに必要な有効成分量を含むものとする。たとえば、本発明の医薬組成物は、投与単位当たり、約25〜400mgの有効成分を含むことができる。上記有効成分量は、約50〜200mgであることが好ましい。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の実施における使用に適したカルバマート化合物は、単独または少なくとも1以上の他の化合物もしくは治療剤との併用で投与されるものである。これらの実施形態において、本発明は、患者における乱用薬物嗜癖および乱用薬物嗜癖に関連した行動変化を治療する方法を提供する。この方法は、有効量の本明細書に開示したカルバマート化合物のいずれかを、有効量の1以上の他の化合物または治療剤と組み合わせて、治療を必要とする患者に投与する工程を含む。
【0089】
当業者が、本発明の化合物における置換基および置換パターンを選択し、当該技術分野で公知の技術および本明細書に記載の方法で容易に合成できる化学的に安定な化合物を提供できることは言うまでもない。
【0090】
代表的な2−フェニル−1,2−エタンジオールモノカルバマート類およびジカルバマート類は、たとえば、以下の化合物を含む。
【化8】




【0091】
本発明は、式(I)の単離エナンチオマーの使用を含む。好ましい一実施形態において、式(I)の単離S−エナンチオマーを含む医薬組成物は、対象の薬物乱用嗜癖を治療するために使用される。また別の好ましい実施形態においては、式(I)の単離R−エナンチオマーを含む医薬組成物が、対象の薬物乱用嗜癖を治療するために使用される。
【0092】
さらに、本発明は、式(I)のエナンチオマー混合物の使用を含む。本発明の一態様においては、1種のエナンチオマーがその大部分を占めるとされる。混合物の大部分を占めるエナンチオマーとは、混合物中に存在する他のエナンチオマーのいずれよりも量が多く存在するエナンチオマーであり、その量は、たとえば、50%を超える。一態様において、1種のエナンチオマーは、90%を占めるか、あるいは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、またはそれ以上を占めるとされる。好ましい一実施形態において、式(I)の化合物を含む組成物の大部分を占めるエナンチオマーは、式(I)のS−エナンチオマーである。
【0093】
本発明は、式(I)で表される化合物のエナンチオマーおよびエナンチオマー混合物の使用方法を提供する。式(I)のカルバマートエナンチオマーは、ベンジル位に不斉(キラル)炭素を含んでおり、該不斉炭素は、フェニル環から2番目に位置する脂肪族炭素である。
【0094】
単離エナンチオマーは、対応するエナンチオマーを実質的に含まない。したがって、単離エナンチオマーは、分離技術により分離された化合物、あるいは対応するエナンチオマー含まないように調製された化合物を指す。本明細書において「実質的に含まない」は、上記化合物の構成において、1種のエナンチオマーが非常に大きな割合を占めていることを意味する。好ましい実施形態においては、上記化合物は好ましいエナンチオマーを少なくとも約90重量%含む。本発明の他の実施形態においては、上記化合物は好ましいエナンチオマーを少なくとも約99重量%含む。好ましいエナンチオマーは、当業者に公知の任意の方法によって、ラセミ混合物から単離することができ、このような方法としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ならびにキラル塩の生成および結晶化が挙げられる。あるいは、好ましいエナンチオマーは、本明細書に記載の方法によって調製することができる。
【0095】
医薬品としてのカルバマート化合物:
本発明は、医薬品としての、式(I)のラセミ混合物、エナンチオマー混合物、および単離エナンチオマーを提供する。本発明のカルバマート化合物は、医薬品として製剤化され、補助的な抗うつ作用を対象に提供する。
【0096】
本発明のカルバマート化合物は、通常、当技術分野で公知の任意の治療薬投与方法により、医薬組成物として投与することができ、このような投与方法としては、経口投与、頬側投与、局所投与、全身投与(たとえば、経皮投与、鼻腔内投与、または坐薬による投与)、および非経口投与(たとえば、筋肉内投与、皮下投与、あるいは静脈内注射)が挙げられる。本発明の化合物を神経系に直接投与する方法としては、たとえば、ポンプ装置を備えたあるいは備えていない針またはカテーテルを頭蓋内もしくは脊椎内に挿入して送達が行われる、大脳内、室内、脳室内、鞘内、槽内、脊髄内、または脊髄周囲への投与が挙げられる。
【0097】
組成物は、錠剤、丸剤、カプセル剤、半固形剤、散剤、徐放性製剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、エアロゾル剤、または他の適切な組成物の形態をとることができ;少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤と組み合わせて、少なくとも1種の本発明の化合物を含むことができる。適切な添加剤は当業者によく知られている。これらの添加剤、および組成物の製剤化方法は、Alfonso AR: Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton PA, 1985などの標準的な参考書に記載されており、この文献の開示内容は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。適切な液体担体、特に注射用液剤に適した液体担体としては、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、およびグリコールが挙げられる。
【0098】
本発明のカルバマート化合物は、水性懸濁液として提供することができる。本発明の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した添加剤とともにカルバマート化合物を含むことができる。そのような添加剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴムなどの懸濁化剤;ならびに、天然のホスファチド(たとえば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物(たとえば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物(たとえば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物(たとえば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物(たとえば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)などの分散剤または湿潤剤が挙げられる。
【0099】
上記水性懸濁液は、さらに、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸−n−プロピルなどの1以上の保存剤;1以上の着色剤;1以上の香味剤;およびスクロース、アスパルテーム、サッカリンなどの1以上の甘味剤を含むことができる。製剤のオスモル濃度も調整することができる。
【0100】
本発明の方法で使用される油性懸濁剤は、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油などの植物油;流動パラフィンなどの鉱油;またはこれらの混合物に、カルバマート化合物を懸濁することにより製剤化することができる。油性懸濁剤は、ミツロウ、固形パラフィン、セチルアルコールなどの粘稠化剤を含むことができる。グリセロール、ソルビトール、スクロースなどの甘味剤を加えて、味のよい経口剤を提供することができる。このような製剤は、アスコルビン酸などの酸化防止剤を添加することで保存が可能になる。注射可能な油性ビヒクルとしては、Minto, J. Pharmacol. Exp. Ther.281:93-102, 1997を参照されたい。さらに、本発明の医薬製剤は、水中油型乳剤の形態とすることができる。この乳剤の油相は、上記の植物油、鉱油、またはこれらの混合物であってよい。
【0101】
適切な乳化剤としては、アラビアゴム、トラガカントゴムなどの天然のゴム;大豆レシチンなどの天然のホスファチド;モノオレイン酸ソルビタンなどの、脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来するエステルまたは部分エステル;およびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどの、上記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物が挙げられる。乳剤は、さらに、シロップ剤やエリキシル剤のように、甘味剤および香味剤を含むことができる。このような製剤は、さらに、粘滑剤、保存剤、または着色剤を含むことができる。
【0102】
選択した化合物を、単独または他の適切な成分と組み合わせて、吸入投与されるエアロゾル剤とすることができる(すなわち、「霧状化」することができる)。エアロゾル剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの許容される加圧噴射剤中に入れることができる。
【0103】
非経口投与、たとえば、関節内経路、静脈内経路、筋肉内経路、皮内経路、腹腔内経路、および皮下経路に適した本発明の製剤には、水性または非水性の滅菌等張注射液、および水性または非水性の滅菌懸濁液が含まれる。該注射液には、酸化防止剤;緩衝剤;静菌剤;および、製剤を対象のレシピエントの血液と等張にする溶質が含まれていてもよい。該懸濁液には、懸濁化剤、可溶化剤、粘稠化剤、安定化剤および保存剤が含まれていてもよい。使用可能な許容されるビヒクルおよび溶媒としては、水、リンゲル液、等張食塩水が挙げられる。さらに、滅菌固定油を、溶媒または懸濁媒質として従来通りに使用することができる。この目的のために、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含むあらゆる非刺激性固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に注射剤の調製に使用することができる。これらの液剤は、滅菌されており、通常、望ましくない物質を含まない。
【0104】
本発明の化合物が十分な溶解性を有する場合、プロピレングリコールやポリエチレングリコールなどの適切な有機溶媒を使用してあるいは使用せずに、通常の生理食塩水に直接溶解することができる。微粉化した化合物を、デンプン水溶液もしくはカルボキシルメチルセルロースナトリウム水溶液、またはラッカセイ油などの適切な油を用いて分散液として調製することができる。このような製剤は、従来公知の滅菌技術によって滅菌することができる。このような製剤は、生理学的条件を近づけるために必要とされる、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤などの薬学的に許容される補助剤を含むことができ、このような補助剤としては、たとえば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0105】
上記製剤におけるカルバマート化合物の濃度は幅広く変えることができ、選択した個々の投与方法および患者のニーズに従い、主として、液量、粘性、患者の体重などに基づいて選択される。静脈内投与においては、上記製剤は、水性もしくは油性の滅菌注射用懸濁剤などの滅菌注射用製剤とすることができる。このような懸濁剤は、適切な分散剤、湿潤剤、および懸濁化剤を使用して、公知の技術に従って製剤化することができる。さらに、滅菌注射用製剤は、1,3−ブタンジオール溶液などの非経口的に許容される無毒の希釈剤もしくは溶媒を用いて、滅菌注射用液剤または懸濁剤とすることもできる。推奨される製剤は、アンプルやバイアルなどの密閉容器で提供される単位用量形態または複数回用量形態であってもよい。注射用液剤および懸濁剤は、上述したような、滅菌された散剤、顆粒剤、および錠剤から調製することができる。
【0106】
本発明の実施における使用に適したカルバマート化合物は、経口投与することができ、またこの投与経路が好ましい。組成物中の本発明の化合物の量は、組成物の種類、単位投与形態の大きさ、添加剤の種類、および当業者によく知られている他の要因に応じて大きく変わりうる。通常、最終組成物は、たとえば、カルバマート化合物を0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜25重量%含むことができ、その残りは1以上の添加剤が占める。
【0107】
経口投与用医薬製剤は、当技術分野でよく知られている薬学的に許容される担体を使用して製剤化し、経口投与に適した用量とすることができる。該医薬製剤は、このような担体によって、錠剤、丸剤、散剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ロゼンジ、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁剤などの患者が摂取するのに適した単位投与形態に製剤化することができる。
【0108】
経口投与に適した製剤は、
(a)水、生理食塩水、PEG400などの希釈剤に懸濁した有効量の医薬製剤などの溶液;
(b)液剤、固形剤、顆粒剤またはゼラチン剤としての有効成分を所定量含んだ、カプセル剤、分包剤、または錠剤;
(c)適切な液体を用いた懸濁剤;および
(d)適切な乳剤
で構成することができる。
【0109】
経口投与用医薬製剤は、本発明の化合物を固形添加剤と組み合わせることで得ることができ、必要であれば得られた混合物を粉砕してもよく、また、適切な追加の化合物を添加した後に、顆粒状の混合物を所望であれば錠剤または糖衣錠コアとすることもできる。適切な固形添加剤は、炭水化物またはタンパク質由来の充填剤であり、このような充填剤としては、ラクトース、スクロース、マンニトール、およびソルビトールを含む糖類;トウモロコシ、小麦、コメ、ジャガイモ、または他の植物由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;アラビアゴム、トラガカントゴムなどのゴム;ならびに、ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
所望であれば、崩壊剤または可溶化剤を添加することができ、例として、架橋ポリビニルピロリドン、カンテン、アルギン酸、またはその塩(たとえば、アルギン酸ナトリウム)が挙げられる。錠剤は、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、結晶セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、香味剤、色素、崩壊剤、および薬学的に許容できる担体のうちの1以上を含むことができる。ロゼンジ剤は、スクロースなどの香味剤とともに有効成分を含んでもよい。同様に、香錠(pastille)は、ゼラチン、グリセリン、スクロース、アラビアゴムなどの不活性基剤とともに有効成分を含んでもよい。乳剤、ゲル剤などは、有効成分に加えて当該技術分野で公知の担体を含んでもよい。
【0111】
本発明の化合物は、薬剤を直腸に投与するための坐薬の形態で投与することもできる。このような製剤は、薬剤と、常温では固体だが直腸温では液体であるため直腸内で溶けて薬剤を放出することができる適切な非刺激性の添加剤とを混合することにより調製することができる。このような物質として、カカオ脂およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0112】
本発明の化合物は、坐剤、吸入剤、散剤、エアロゾル製剤などとして、鼻腔内経路、眼内経路、膣内経路、直腸内経路で投与することもできる(たとえば、ステロイド吸入剤としては、Rohatagi, J. Clin. Pharmacol. 35:1187-1193, 1995;およびTjwa, Ann. Allergy Asthma Immunol. 75:107-111, 1995を参照されたい)。
【0113】
本発明の化合物は、アプリケータスティック、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、ペースト剤、ゼリー剤、塗布剤、散剤、またはエアロゾル剤として製剤化して、局所的経路により経皮的に送達することができる。
【0114】
また、封入材料も、本発明の化合物とともに使用することができる。「組成物」には、他の担体を使用してあるいは使用せずに、製剤としての封入材料と組み合わせた有効成分も含まれる。たとえば、本発明の化合物は、体内徐放性ミクロスフェアとして送達することもできる。一実施形態において、ミクロスフェアの投与は、薬剤(たとえば、ミフェプリストン)を含有する皮内注射用皮下徐放性ミクロスフェア(Rao, J. Biomater Sci. Polym. Ed.7:623-645, 1995参照);生物分解性注射用ゲル剤としてのミクロスフェア(たとえば、Gao, Pharm. Res. 12:857-863, 1995参照);または、経口投与用ミクロスフェア(たとえば、Eyles, J. Pharm. Pharmacol. 49:669-674, 1997参照)を用いて行われる。経皮経路および皮内経路はいずれも、数週または数ヶ月にわたり一定量の薬剤を送達する。カシェ剤も、本発明の化合物の送達に使用することができる。
【0115】
また別の実施形態において、細胞性膜と融合するもしくはエンドサイトーシスされるリポソームを用いることにより、すなわち、細胞の膜表面タンパク質受容体に結合するリガンドをリポソームに付着させることによって最終的にエンドサイトーシスが起こり、本発明の化合物を送達することができる。リポソーム、特に、標的細胞に特異的なリガンドを表面に有するリポソーム、あるいは、別の方法で特定の臓器を標的とするリポソームを使用することによって、インビボにおいてカルバマート化合物を標的細胞に集中的に送達させることができる(たとえば、Al-Muhammed, J. Microencapsul. 13:293-306, 1996; Chonn, Curr. Opin. Biotechnol. 6:698-708, 1995;およびOstro, Am. J. Hosp. Pharm. 46:1576-1587, 1989参照)。
【0116】
本発明の医薬製剤は、塩として提供することができ、塩は種々の酸を使用して形成することができる。酸としては、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。塩は、対応する遊離塩基の形態である、水性溶媒または他のプロトン性溶媒に溶解しやすい傾向にある。他の場合では、本発明の好ましい製剤は凍結乾燥散剤であってもよく、この凍結乾燥散剤は、たとえば、溶解時のpHが4.5〜5.5であり、1〜50mMヒスチジン、0.1〜2%スクロース、および2〜7%マンニトールのいずれかもしくはこれらすべてを含んでもよく、この凍結乾燥散剤は、使用前に緩衝剤と組み合わせられる。
【0117】
薬学的に許容される塩およびエステルは、薬学的に許容されており、かつ所望の薬理学的特性を有する塩およびエステルを指す。このような塩は、本発明の化合物中に存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応することによって形成されてもよい塩を含む。適切な無機塩としては、アルカリ金属類(たとえば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなど)と形成される塩類が挙げられる。適切な有機塩としては、アミン塩基(たとえば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミンなど)などの有機塩基と形成される塩類が挙げられる。薬学的に許容される塩としては、さらに、親化合物中のアミン部分と無機酸(たとえば、塩酸および臭化水素酸)や有機酸(たとえば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、ならびにメタンスルホン酸およびベンゼンスルホン酸などのアルカンスルホン酸およびアレーンスルホン酸)との反応から形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容されるエステルとしては、本発明の化合物中に存在するカルボキシ基、スルホニルオキシ基、およびホスホノキシ基から形成されるエステルが挙げられる。2個の酸性基が存在する場合、薬学的に許容される塩またはエステルは、モノ酸−モノ塩もしくはモノ酸−モノエステル、またはジ塩もしくはジエステルであってよく;同様に、存在する酸性基の数が2個を超える場合、このような基のいくつかまたはすべてを塩化もしくはエステル化してもよい。
【0118】
本発明に記載の化合物は、非塩化もしくは非エステル化形態でも、塩化かつ/またはエステル化形態でも存在することができ、このような化合物の名称は、元の(非塩化もしくは非エステル化)化合物も、薬学的に許容されるその塩およびエステルも含むことが意図される。本発明は、式(I)の薬学的に許容される塩およびエステルを含む。式(I)のエナンチオマー結晶が2種以上存在してもよく、このようなものも本発明に含まれる。
【0119】
本発明の医薬組成物は、カルバマート化合物に加えて、乱用薬物嗜癖の治療に有用な少なくとも1種の他の治療剤を含んでもよい。たとえば、投与を簡便化するために、式(I)のカルバマート化合物は、多剤混合薬として、他の嗜癖治療と物理的に組み合わせることができる。
【0120】
医薬組成物を製剤化する方法は、Marcel Dekker, Incより出版されている、Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets.Second Edition.Revised and Expanded. Volumes 1-3, Lieberman et al編集;Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications.Volumes 1-2, Avis et al編集;およびPharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems. Volumes 1-2, Lieberman et al編集などの多数の刊行物に記載されており、これらの刊行物の開示内容は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0121】
本発明の医薬組成物は、通常、実質的に等張な滅菌製剤として、米国食品医薬局の医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)に完全に準拠して製剤化される。
【0122】
用法
本発明は、カルバマート化合物を使用することにより、補助的な抗うつ作用を哺乳動物に提供する方法を提供する。乱用薬物嗜癖の軽減または治療に必要なカルバマート化合物の量は、治療有効投与量または薬学的有効投与量として定義される。投与計画およびそれに使用される有効量、すなわち、用量・用法は、疾患の病期、患者の身体状況、患者の年齢などを含む種々の要因に依存するとされる。患者への用法を決定する際には、投与方法も考慮に入れる。
【0123】
当業者は、必要以上の実験をせずとも、自身が有する技術および本明細書の開示内容を考慮することによって、本発明を実施するための個々の置換カルバマート化合物の治療有効量を決定することができる(たとえば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (Vols. 1-3, 1992);Lloyd, 1999, The art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding;およびPickar, 1999, Dosage Calculations参照)。また、治療有効投与量は、臨床的にみて、有効成分が有するなんらかの毒性または有害な副作用にまさって治療上有益な効果が発揮される量でもある。さらに、個々の対象における具体的な用法は、各患者のニーズと本発明の化合物を投与する者またはその投与を監督する者による専門的な判断とに応じて、時間の経過とともに評価され調整されるべきであることにも留意されたい。
【0124】
治療目的のために、本明細書に開示された組成物または化合物は、単回ボーラス投与、長期間にわたる連続投与、あるいは、反復投与プロトコル(たとえば、1時間ごと、1日ごと、または1週ごとの反復投与プロトコル)によって、対象に投与することができる。本発明の医薬製剤は、たとえば、1日1回以上、週3回、または毎週投与することができる。本発明の一実施形態において、本発明の医薬製剤は、1日1回または2回経口投与される。
【0125】
本明細書において、カルバマート化合物の治療有効用量は、長期治療計画において、乱用薬物嗜癖を治療するために臨床的に有意な結果をもたらすとされる反復投与量を含みうる。本明細書における有効用量は、通常、動物モデルにおける調査およびそれに続くヒトでの臨床試験に基づいて、標的とされる暴露症状もしくは病態の発生またはその重症度を対象において顕著に低減する有効用量および投与プロトコルを定めることにより決められる。この場合の適切なモデルとしては、たとえば、ネズミ科の動物、ラット、ブタ、ネコ、ヒト以外の霊長類、および当技術分野で公知の一般に認められている他の動物モデルが挙げられる。あるいは、有効用量は、インビトロモデル(たとえば、免疫学的分析および組織病理学分析)を用いて決定することもできる。このようなモデルを使用すれば、通常、一般的な計算および調整をするだけで、治療有効量の生理活性物質を投与するための適切な濃度および投与量(たとえば、所望の反応を引き出すために効果的な、鼻腔内投与量、経皮投与量、静脈内投与量、または筋肉内投与量)を決定することができる。
【0126】
本発明の典型的な実施形態おいては、化合物の単位投与形態は標準的な投与計画用に調製されている。このようにすると、本発明の組成物を、内科医の指示により低用量へと容易に細分することができる。たとえば、単位用量を、個包装された散剤、バイアル、またはアンプルの形態とすることができ、カプセル剤または錠剤の形態にすることが好ましい。
【0127】
本発明の組成物の単位投与形態中に含まれる活性化合物の量は、たとえば、患者の個々のニーズに応じ、1日1回または複数回の投与において、約10mg〜1g以上とすることができる。最小1日投与量を約1gとして治療計画を開始することによって、カルバマート化合物の血中濃度に応じて投与量を増やすか減らすかを決定することができる。
【0128】
本発明のカルバマート化合物は、たとえば、約0.01〜150mg/kg/投与量の経口投与量または非経口投与量で有効に投与することができる。上記投与量は、好ましくは、約0.1〜25mg/kg/投与量、より好ましくは、約0.2〜18mg/kg/投与量であるとされる。したがって、本明細書に記載の投与単位当たりに含まれる有効成分の治療有効量は、平均体重が、たとえば、70kgである対象に対して、たとえば、約1〜7000mg/日であってもよい。
【0129】
本発明の方法は、さらに、乱用薬物嗜癖の治療を提供するために使用されるキットを提供する。薬物乱用嗜癖の治療を提供するために、本発明の1以上のカルバマート化合物を含む医薬組成物は、治療上有益な1以上の他の化合物を任意に添加し、適切な担体を用いて製剤化した後、適切な容器に入れてラベルを貼ってもよい。さらに、上記の疾患の治療のために、薬物乱用嗜癖の治療に有用な少なくとも1種の他の治療剤を含む別の医薬品も同様に、容器に入れてラベルを貼ってもよい。このようなラベルの表示には、たとえば、各医薬品の投与量、投与頻度、および投与方法に関する説明が含まれていてもよい。
【0130】
理解を明確にするために例を用いて上述の発明を詳細に説明したが、本発明の開示内容に一定の変更および修正が含まれること、ならびに、必要以上の実験をせずとも、限定することなく説明された添付の請求項の範囲内において、これらの変更および修正が可能であることは当業者には明らかであろう。以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するために提示され、本発明を何ら限定するものではない。
【0131】
本発明を説明するために記載され、本発明を何ら限定するものとは見なされない以下の実施例を鑑みることにより、本発明をより深く理解できるであろう。
【実施例】
【0132】
実施例1
試験化合物(O−カルバモイル−(D)−フェニルアラニノール)は、10mg/kgのコカイン(ED50=37.43mg/kg)によって生じる弁別刺激効果の完全な代替となった。反応率は、試験化合物100mg/kgを投与後、コントロールの41%まで低下した。
【0133】
(方法)
試験化合物がコカイン(10mg/kg)による弁別刺激効果を代替できるか否かを、ラットを用いて評価した。
【0134】
2レバー選択法を用いて、Sprague−Dawley系雄性ラット6匹を、コカイン(10mg/kg)と生理食塩水とを弁別するように訓練した。各注射剤に対応するレバーで反応が示された場合、定比率(FR10)スケジュール下で、食餌を強化子として摂取可能とした。すべての実験は、強化子として食餌ペレット(Bioserve)45mgを用い、標準的な市販チャンバー(Coulbourn Instruments)内で行った。
【0135】
訓練セッションは、2回毎に訓練を交替して実施し、実験は、同一訓練セッション2回一組と同一訓練セッション2回一組との間(すなわち、生理食塩水もしくはコカイン訓練セッション2回と生理食塩水もしくはコカイン訓練セッション2回との間)に実施した。先に行われる2回の訓練セッションで、被験体が、1次強化子(1次定比率)およびセッション全体のいずれにおいても、正しい注射剤レバーで自発的反応を示した率が85%の基準を満たした場合にのみ実験を実施した。実験セッションは、20分間または強化子が20回与えられるまで継続した。3匹未満のラットしか1次定比率を完了できなかった場合、その試験化合物投与量は弁別刺激効果を発揮できなかったと見なした。
【0136】
試験化合物(1ml/kg)またはそのビヒクル(0.9%生理食塩水)を、実験セッションを開始する60分前に腹腔内注射した。試験化合物の開始投与量2.5mg/kgは、実験責任者によって提供されたデータに基づいて決定した。また、評価した投与量は、2.5〜100mg/kgであった。この投与量範囲は、活性を示さない用量から、完全な代替物となることで示される生物活性を発揮する用量までを含む。
【0137】
(結果)
セッション全体
試験化合物は、10mg/kgのコカインによって生じる弁別刺激効果の完全な代替となった。ED50値37.43mg/kgは、投与量10〜100mg/kgの対数(log10)を直線回帰して決定した。反応率は、試験化合物100mg/kgを投与後、ビヒクルコントロールの41%まで低下した。(全投与量を摂取したラット4匹における)セッション全体の反応率に対して1因子の反復測定分散分析を行ったところ、有意な全体的効果(F(6,18)=3.38、p=.021)が示され;ビヒクルコントロールに対する計画的比較(ア・プリオリな対比)では、投与量100mg/kgにおいて有意差が示された(図1において、p<.05に該当するところはすべてアスタリスクで示した)。
【0138】
1次強化子
1次強化子の測定結果は、セッション全体のデータとほぼ一致した。ED50値37.45mg/kgは、投与量10〜100mg/kgの対数(log10)を直線回帰して決定した。反応率は、試験化合物100mg/kgを投与後、ビヒクルコントロールの37%まで低下した。(全投与量を摂取したラット4匹における)1次強化子の反応率に対して1因子の反復測定分散分析を行ったところ、有意な全体的効果(F(6,18)=3.82、p=.012)が示され;ビヒクルコントロールに対する計画的比較(ア・プリオリな対比)では、投与量100mg/kgにおいて有意差が示された。
【0139】
実施例2
試験化合物(O−カルバモイル−(D)−フェニルアラニノール)(0.1〜18mg/kg)がコカインを代替できるか否かを、薬物弁別法によりコカイン(0.40mg/kg)と生理食塩水とを弁別するように訓練されたサル4匹を用いて評価した。4匹のサルすべてにおいて、試験化合物は投与量依存的にコカインの完全な代替となった。評価した全投与量範囲にわたり、2匹のサルにおいて試験化合物の投与により反応率が上昇し、また、コカインによってもこれらの2匹のサルにおいて反応率が上昇した。3匹目のサルにおいては、試験化合物およびコカインのいずれによっても反応率は変化せず、4匹目のサルにおいては、試験化合物およびコカインのいずれによっても反応率が低下した。さらに、試験化合物は、評価した投与量範囲全体にわたって明らかな行動的影響をもたらさなかった。これらの結果により、試験化合物は、コカインに類似した行動的影響をアカゲザルにもたらすが、その効力はコカインの約20分の1であることが示唆された。
【0140】
(方法)
被験体:
被験体は、体重が7.0〜8.0kgである4匹の雄性アカゲザル(Macaca mulatta)であった。これらのサルそれぞれに、1日当たり、モンキービスケット(Purina Monkey Chow Jumbo #5037)7〜12枚と新鮮果物1個とからなる食餌を与えて飼育した。平日は実験セッション後に食餌を与えたが、週末は午前9時と正午の間に食餌を与えた。水は常時自由に摂取可能とした。サルを収容した部屋は、午前7時から午後7時まで点灯し、12時間の明暗サイクルで管理した。
【0141】
実験全体にわたって、これらのサルは、視覚的、聴覚的、かつ嗅覚的に他のサルと互いに接触可能であった。オペラント食餌自己投与法では、環境調整と環境改善の機会が与えられる。
【0142】
装置:
それぞれのサルを、換気の良いステンレス製チャンバー(56×71×69cm)に個別に収容した。すべてのサルの飼育ケージを改造して、前壁にオペラントパネル(28×28cm)を設置した。半透明・正方形の反応キー(6.4×6.4cm)3個を、オペラントパネルの上部から3.2cmの箇所に、2.54cm間隔で横並びに配置した。各キーは、赤色または緑色の刺激光(Superbright LED’S)を透過することができた。さらに、オペラントパネルの外側には、果物味の食餌ペレット(Precision Primate Pellets Formula L/I Banana Flavor、P. J. Noyes Co.、ランカスター、NH)1gをケージのオペラント反応パネルの下部に設置された食餌容器に供給するペレットディスペンサー(Gerbrands、モデル G53 10、アーリントン、MA)を設置した。オペラントパネルの操作およびデータ収集は、別個の部屋に設置したIBM互換のコンピュータおよびインタフェースシステム(Med Associates;セントオールバンズ、VT)で実施した。
【0143】
弁別訓練:
弁別訓練は、複数のサイクルを含む1日セッションを週5日行った。各サイクルは、15分間のタイムアウトと、それに次ぐ5分間の反応期とからなった。タイムアウトにおいては、刺激光をすべて消灯し、反応が示されてもスケジュールに基づいて結果は与えなかった。反応期においては、左右の反応キーに赤色光または緑色光を透過させ、サルが、FR30スケジュールにおける食餌提示に反応することによって最大10個の食餌ペレットを得られるようにした。この実験に用いたサル4匹すべてに対しては、左のキーには緑色光を透過させ、右のキーには赤色光を透過させた。中央のキーは一切点灯させず、中央のキーで反応が示されてもスケジュールに基づいて結果は与えなかった。5分間の反応期が終了する前に供給可能な食餌ペレットすべてが供給された場合、反応キーを透過する刺激光を消灯し、残り時間において反応が示されてもスケジュールに基づいて結果は与えなかった。
【0144】
訓練期においては、各タイムアウト開始5分後(すなわち、反応期の10分前)に、生理食塩水またはコカイン0.40mg/kgのいずれかをサルに筋肉注射した。生理食塩水を投与後に反応が緑色キー(生理食塩水対応キー)のみで示された場合に食餌を与え、コカイン0.40mg/kgを投与後に反応が赤色キー(薬物対応キー)のみで示された場合に食餌を与えた。対応しないキーで反応が示された場合は、対応キーにおけるFR要求をリセットした。各セッションは、1〜5のサイクルからなっていた。コカインの訓練投与量を投与する場合、最後のサイクルにおいてのみ投与した。したがって、訓練期は、0〜5の生理食塩水サイクルと、それに続く0〜1の薬物サイクルからなった。
【0145】
各反応期において、以下の式を使用して3種の従属変数を決定した。
1)1次強化子供給以前に示された、注射剤に対応する反応のパーセンテージ

2)反応期全体で示された、注射剤に対応する反応のパーセンテージ

3)反応率

【0146】
8つの連続した訓練セッションのうちの7つにおいて、以下基準のうち3つを満たした場合、サルがコカインを弁別したと見なした。
1)1次強化子の供給前に示された、注射剤に対応する反応のパーセンテージが、すべてのサイクルにおいて80%以上であった
2)サイクル毎に示された、注射剤に対応する反応のパーセンテージが、すべてのサイクルにおいて90%以上であった
3)生理食塩水訓練サイクルにおける反応率が、1秒当たり0.5回を超えた
【0147】
弁別試験:
サルがコカイン弁別の基準レベルを満たした時点で実験を開始した。実験セッションは、1)反応がいずれか一方のキーで示された場合に食餌を与えたこと、および2)代替プロトコルを使用して試験化合物(0.1〜18mg/kg)を投与したこと以外は訓練セッションと同様にして行った。代替プロトコルにおいては、生理食塩水またはコカインのいずれかの代わりに試験化合物を単独で投与し、投与量を徐々に増やした。複数サイクルを含むセッションの各サイクル開始時に、試験化合物をサルに注射し、各投与量は1/4または1/2対数単位ずつ増加させた。
【0148】
実験日直前の訓練日において、上記「弁別基準」に列記した3つの基準を満たした場合のみ、実験セッションを実施した。実験初日直前の訓練日における生理食塩水サイクルおよび薬物サイクルから求めた平均値を、訓練後の実験日におけるコントロールデータとして使用した。反応が弁別成績の基準レベルを満たさなかった場合、弁別成績の基準レベルを少なくとも2日間連続して達成するまで訓練を継続した。
【0149】
データ解析:
それぞれの被験体における、コカインに対応する反応のパーセンテージ(反応期全体)およびその反応率のグラフは、試験化合物の投与量の関数としてプロットした(対数目盛)。生理食塩水訓練サイクルおよびコカイン訓練サイクルにおけるコントロールデータも、比較のために各グラフにプロットした。試験化合物のある投与量において、コカインに対応する反応が少なくとも90%引き起こされた場合、試験化合物でコカインをほぼ代用することができたと見なした。コカインに対応する反応が50%引き起こされた試験化合物の投与量をED50値として定義し、ED50値は、コカインに対応する反応が投与量依存的に50%以上示されたすべてのサルにおいて、線形補間により算出した。
【0150】
薬物:
塩酸コカインは、滅菌生理食塩水に溶解した。試験化合物は、蒸留水に溶解した。
【0151】
(結果)
実験日前の訓練期間中に、サルの反応は、生理食塩水サイクルにおいてはほぼ生理食塩水キーのみで示され(生理食塩水に対応する反応の平均値=98.75±1.25%)、コカインサイクルにおいてはコカインキーのみで示された。平均反応率は、生理食塩水訓練サイクルと薬物訓練サイクルのそれぞれにおいて、1.79(±0.44)および2.58(±0.67)回/秒であった。生理食塩水コントロール反応率と比較すると、サル92N012およびサルL958では訓練投与量のコカインにより反応率が上昇し、サル186Fでは反応率に変化はなく、サル153Fでは反応率は低下した。
【0152】
サル4匹すべてにおいて、試験化合物(0.1〜18mg/kg)は、コカイン訓練刺激の完全な代替となった。4匹のサルすべてに対してコカインの代替として試験化合物を投与すると、いずれの投与量でも、訓練投与量のコカインによって引き起こされるのと同様な反応率の変化がもたらされた。具体的には、試験化合物により、サル92N012では反応率が上昇し、サル186Fでは反応率に変化はなく、サル153Fでは反応率は低下した。評価した投与量範囲全体にわたって、試験化合物は、いずれのサルにおいても顕著かつ明らかな行動的影響を引き起こさなかった。
【0153】
【表1】

【0154】
これらの結果より、試験化合物はコカインに類似した行動的影響をアカゲザルにもたらすが、その効力はコカインの約20分の1であることが示唆された。
【0155】
実施例3
試験化合物(O−カルバモイル−(D)−フェニルアラニノール)が、アカゲザルのコカイン自己投与に対して効果を有するか否かを評価した。アカゲザルは、迅速評価法による2時間の実験セッションにおいて、コカイン(0.032mg/kg/静脈内注射)とバナナ味の食餌ペレット1gとを自己摂取するように訓練された。各セッションは、20分間の薬物接種可能コンポーネント4つと、各コンポーネントを隔てる5分間のタイムアウトとからなった(100分)。4つの薬物接種可能コンポーネントの前後には、9分間の摂食可能コンポーネントをもうけた。訓練中、セッションのコンポーネント毎に、コカインの単位用量を変えて(0.001〜0.03mg/kg/注射または0.01〜0.32mg/kg/注射)、コカイン自己投与における完全な用量−効果曲線を作成した。用量−効果曲線の位置および傾斜は、それぞれのサルにおいて様々であったが、定比率スケジュール条件下でのコカイン自己投与においては、全体的に逆U字型関数の特徴を示した。いくつかのセッションにおいては、コカインの単位用量をセッションの全コンポーネントにわたって、静脈内自己投与による用量−効果曲線の頂点における単位用量(0.0032または0.032mg/kg/注射)に固定した。ベースラインのコカイン用量−効果曲線と最大効力用量による効果の得られ方が、セッションを通して安定したところで、試験化合物の実験を開始した。
【0156】
試験化合物を用いた投与量決定試験
2種のコカイン自己投与実験、すなわち、(1)試験化合物の投与量決定試験、および(2)コカイン用量−効果曲線における試験化合物の単回投与量の効果試験を行って、試験化合物を用いた前処置を評価した。最初に挙げた投与量決定試験においては、セッションの30分前に、それぞれのサルに試験化合物10〜32mg/kgを筋肉注射により投与して評価を行った。サル群における平均値から、18mg/kgまたは32mg/kgの試験化合物の投与は、それぞれのサルにおける摂食維持行動を連続して中断させることなく、最大効力単位用量のコカインの静脈注射を維持する自己投与行動を著しく減少させることが示された。低用量の試験化合物(10mg/kg)では、コカイン自己投与に対して一貫した効果は見られなかった。
【0157】
コカイン用量−効果曲線における試験化合物の急性効果
次いで、試験化合物の単回筋肉内投与が、種々の単位用量のコカイン自己投与に対して効果を有するか否かを、単独の実験セッションにおける迅速評価法を使用して評価した。サル群の平均値から、単位用量0.032〜0.32mg/kgのコカイン静脈注射が接種可能な条件下においては、試験化合物32mg/kgの筋肉注射による前処置によりコカイン自己投与行動が減少し、また、生理食塩水または低用量コカインが接種可能な条件下においては、反応率が上昇したあるいは変化しなかったことが示された。迅速評価実験においては、摂食維持行動が2匹のサルにおいて中断されたが、他のサル2匹においては中断されず、これによりコカイン自己投与セッション前後における平均反応率は50%を超えて低下した。これらのデータにより、試験化合物が、摂食維持行動に一貫した影響を与えることなく、高単位用量コカインの静脈内自己投与を低減する可能性が示された。
【0158】
(方法)
被験体
雄性アカゲザル(Macaca mulatta)5匹(89B013、96D155、97D105、RQ2215および93N082)を、徐々にFR値を漸増させる定比率(FR)スケジュールにおいて、1gのバナナペレットの供給に反応するように訓練し、この訓練を最終的にFR30で反応が安定するまで続けた。次いで、ダブルルーメン静脈カテーテルを、無菌条件下において外科的にそれぞれのサルに挿入した。次いで、コカインに反応するようにサルを訓練した(以下参照)。すべてのサルを、契約DA−7−8073の規定通りに、同一の飼育状況で飼育した。それぞれのサルは、視覚的、聴覚的、かつ嗅覚的に他のサルと互いに接触可能であり、数種類の環境改善装置が飼育チャンバーに設置された。
【0159】
装置
すべての実験装置は、上述の薬物自己投与実験で使用された装置と同一であった。以下に要約する。サルはそれぞれ、換気の良いステンレス製チャンバー(64×64×79cm)に個別に収容した。すべてのサルの飼育ケージを改造して、前壁にオペラントパネル(28×28cm)を設置し、赤色または緑色の刺激光(LED)を透過することができる反応キーを備え付けた。さらに、オペラントパネルの外側には、果物味の食餌ペレット(P.J.Noyes Co.、ランカスター、NH)1gをケージのオペラント反応パネルの下部に設置された食餌容器に供給するペレットディスペンサー(Gerbrands、モデルG5210)を設置した。ダブルルーメン静脈カテーテルを通して生理食塩水または薬液を供給するために、各ケージ上にそれぞれ2本のシリンジポンプ(モデルB5P−IE、Braintree Scientific、ブレーントリー、MA;または、モデル980210、Harvard Apparatus、サウスナティック、MA)を設置した。オペラントパネルの操作およびデータ収集は、隣接した部屋に設置した、Med Associates,Inc.製のIBM互換のコンピュータで実施した。実験制御ハードウェアは、Med Associates,Inc.より供給され、MedState Notationで記述したカスタマイズソフトウェアで制御した。
【0160】
実験セッション
迅速評価法の概略図を以下に示す。実験セッションは、1日2回、午前11時と午後3時に開始した。セッション毎に、室内灯を消灯し、反応パネルを点灯させ、2時間のセッションを開始した(下記の概略図参照)。各セッションは、反応コンポーネント6つと、各コンポーネントを隔てる5分間のタイムアウトとからなった。第1コンポーネントおよび最終コンポーネント(それぞれ摂食コンポーネント)においては、バナナ風味の食餌ペレット1gがFR30で摂食可能であった(5分間に対して10秒間のタイムアウトを設定)。第2、第3、第4および第5コンポーネント(それぞれ薬物コンポーネント)においては、コカインまたは生理食塩水の静脈内注射がFR30で接種可能であった(20分間に対して10秒間のタイムアウトを設定)。反応キーは、摂食コンポーネントにおいては赤色に、薬物コンポーネントにおいては緑色に点灯させた。強化子を供給した後の10秒間のタイムアウト毎に、反応キーを黄色に点灯させた。コンポーネントとコンポーネントとの間のタイムアウトにおいては、光をすべて消灯させ、反応が示されてもスケジュールに基づいて結果は与えなかった。20分間の薬物自己投与コンポーネントの前に、この後に行われる実験コンポーネントにおいて接種可能な投与量のコカインまたは生理食塩水の単回「プライミング(priming)」注射を非随伴的に行うとともに、黄色光を10秒間点灯させた。
【0161】
【表2】

【0162】
薬物自己投与コンポーネントにおけるコカインの単位用量の変更
自己投与可能なコカインの単位用量は、最大効力静脈投与量のコカインが自己投与可能なセッションのコンポーネントにおいては一定とし、コカイン自己投与の用量−効果関数の迅速評価においては、コンポーネントにわたり変動させた。迅速評価のセッションでは、それぞれの薬物コンポーネントにおいて接種可能な単位用量は、1)各注射剤の注入時間およびそれによって決まる容量、ならびに2)注射器内の薬物濃度より決定した。注入時間に応じて、注入容量は以下のように変化した:0.32秒で32μl;1秒で100μl;3.2秒で320μl;および10秒で1000μl。各注入時間/注入容量に伴う実際の単位用量は、注射器内のコカイン濃度に依存した。たとえば、濃度が0.032mg/kg/100μlのコカインをコカイン注射に用いると、次のような単位用量になる:32μl中0.01mg/kg;100μl中0.032mg/kg;320μl中0.10mg/kg;および1000μl中0.32mg/kg。1つの実験セッションの各コンポーネントにおいて、接種可能なコカインの単位用量をそれぞれ変える場合、コカイン投与量は常に漸増させた。さらに、オーバーラップしたコカイン用量−効果曲線を決定できるように、各セッションで評価する投与量範囲を変化させた。たとえば、0.001、0.0032、0.01、および0.032mg/kg/注射のコカインを、1セッションにおける4つの薬物コンポーネントで評価して、0.01、0.032、0.10、および0.32mg/kg/注射のコカインを、別の実験セッションにおける4つのコンポーネントで評価してもよい。
【0163】
訓練手順および訓練継続時間
迅速評価法の訓練では、2つの摂食コンポーネントのみからなるセッションから開始した。薬物コンポーネントにおいては、照明をすべて消灯し、被験体を効果的にタイムアウトへと移行させた。最初の訓練は、FR30スケジュール(93N082に対してはFR10)で食餌ペレットへの反応が確実に維持されるまで継続した。摂食維持行動が安定した後、薬物コンポーネントをセッションに加え、コカイン自己投与訓練を開始した。すべての被験体は、摂食維持行動で使用されたFR30反応スケジュール(93N082に対してはFR10反応スケジュール)で、コカインに反応するように訓練された。これに続く訓練は以下の段階を含んだ。
【0164】
(1)最初に、4つの薬物コンポーネントにおいて、コカインの非随伴性「プライミング」注射を行わず、かつ各コンポーネントにおける自己投与可能な注射回数に制限をもうけずに、すべてのサルがコカイン0.032mg/kg/注射を自己投与するように訓練した。さらに、セッションを通じて、コカインの代わりに生理食塩水を用いることにより消去訓練を開始した。2回毎に訓練を交替する条件下で、生理食塩水による置換を導入し(すなわち、コカイン自己投与を2セッション行った後に、生理食塩水の接種が可能な2セッションを行った)、生理食塩水接種維持反応の消去が十分に認められなかった場合は、生理食塩水による置換の頻度をさらに増やした。
【0165】
(2)確実に消去できたことを確認した後、訓練手順を変更して、各薬物コンポーネントの開始時に非随伴性プライミング注射を組み込んだ。最初に、コカインが接種可能な各コンポーネントの開始時には、コカイン0.032mg/kgのプライミング注射を行い、生理食塩水が接種可能な各コンポーネントの開始時には、生理食塩水100μlのプライミング注射を行った。消去行動は、全体的に、プライミング注射の導入によってほとんど妨害されなかった。
【0166】
(3)プライミング注射を実施してから数週間後、訓練手順をさらに変更して、セッションの自己投与コンポーネントにおいて、種々の単位用量のコカインを導入した。いくつかのセッションにおいては、0.032mg/kg/注射のコカインを供給するように調製したコカイン溶液を注射器に充填し、1つのセッションの連続したコンポーネントにおいて、0.01、0.032、0.1、および0.32mg/kgの注射剤を供給できるように、ポンプ駆動時間および注入量を変更した(高用量)。他のセッションにおいては、0.0032mg/kg/注射のコカインを供給できるように調製したコカイン溶液を注射器に充填し、1つのセッションの連続したコンポーネントにおいて、0.001、0.0032、0.01、および0.032mg/kg/注射の注射剤を供給できるように、ポンプ駆動時間および注入量を変更した(低用量)。生理食塩水消去セッションでは、生理食塩水を注射器に充填し、1つのセッションの連続したコンポーネント毎に容量を漸増させた生理食塩水(32〜11000μl)を供給した。
【0167】
投与量を様々に変更したコカイン投与を訓練に導入すると同時に、非随伴性プライミング注射の投与量も、供給量が一定(0.032mg/kg)ではなく、訓練直後のコンポーネントにおいて自己投与可能な単位用量と同一になるように変更した。これらの変更を行った後、以下に示したスケジュールに従い、これ以上の変更をせずに訓練を継続した。
【0168】
試験化合物を用いた実験は、実験セッションの30分前に、選択した投与量を筋肉内に投与することにより行った。直前のセッションにおけるデータが、コカイン自己投与および生理食塩水消去におけるコントロール値と同等であったならば、実験セッションは、通常、火曜日または金曜日に実施した。予定された実験セッションの直前のセッションにおけるデータが、コカイン自己投与または生理食塩水消去におけるコントロール値と大幅に異なった場合(すなわち、1以上のコントロール投与量のコカインにおける反応率または接種回数が50%以上低下した場合)、一貫した値が再度得られるまで試験化合物の評価は見合わせた。
【0169】
【表3】

【0170】
データ解析
これらの実験における主な従属変数は、実験セッションの各コンポーネントにおいて供給される強化子(食餌ペレットまたは注射剤)の数、および反応率(1秒間当たりのキー押し反応回数)であった。反応率は、セッションのコンポーネントにおける反応数を、それぞれの供給を行った後の10秒間のタイムアウトを除いたコンポーネントの時間(秒)で除することにより算出した。サルの反応が定比率スケジュール下で分析され、強化子を与えた後のタイムアウトが短く(10秒)、および、訓練後の1コンポーネント当たりの強化子数が制限されていなかったため、上記手順では、それぞれのサルにおける1コンポーネント当たりの強化子数は反応率と非常に密接に相関した。
【0171】
薬物
塩酸コカインおよび試験化合物は、滅菌生理食塩水に溶解した。コカインは、静脈内自己投与が可能であり、試験化合物はセッション開始の30分前に筋肉注射した。
【0172】
(結果)
試験化合物を用いた投与量決定試験
コカイン自己投与
最大効力単位用量のコカイン(0.0032または0.032mg/kg/注射)が、静脈内注射により自己投与可能であった場合、試験化合物のセッション前投与は反応に対して効果があり、その効果は筋肉注射による前処置投与量に応じて変動した。サル群を平均すると、最低用量および中用量の試験化合物の前処置投与ではほとんど効果が見られなかったが、最大用量(32mg/kg)の試験化合物の前処置投与では、最大効力単位用量のコカインの静脈内自己投与を約50%減少させた。平均データを考察すると、最低用量(10mg/kg)の試験化合物では、4匹のサルのいずれにおいても、コカインの静脈内自己投与行動を変化させることはできず、中用量(18mg/kg)の試験化合物の前処置投与では、1匹のサル(89B013)でのみ、最大効力単位用量のコカインの静脈内自己投与が約50%減少した。他の3匹のサルにおいては、中用量の試験化合物では静脈内自己投与行動の変化は見られなかった。
【0173】
しかしながら、実験対象のサル3匹それぞれにおける、最大用量(32mg/kg)の試験化合物の前処置投与では、最大効力単位用量のコカインの静脈内自己投与が50%以上減少した。
【0174】
摂食維持行動
サル群を平均すると、試験化合物の前処置投与では、投与量決定試験における摂食維持行動に一貫した効果がなかった。最低用量(10mg/kg)の試験化合物では、4匹のサルのうちの2匹(96D155および93N082)で、コカインの静脈内自己投与後のコンポーネント(摂食2)においてのみ摂食維持反応が減少し、他の2匹のサル(89B013およびRQ2215)では、コカインの静脈内自己投与前後(摂食1および摂食2)の摂食維持行動は変化しなかった。中用量(18mg/kg)の試験化合物の前処置投与でも、2匹のサル(89B013および93N082)では、コカインの静脈内自己投与後のコンポーネント(摂食2)において摂食維持行動が顕著に減少したが、他の2匹のサル(96D155およびRQ2215)では、摂食2における摂食維持行動は変化しなかった。いずれのサルにおいても、18mg/kgの試験化合物では、コカインの静脈内自己投与前のコンポーネント(摂食1)における摂食維持行動にほとんど効果を発揮しなかった。最大用量(32mg/kg)の試験化合物による前処置では、1匹のサル(93N082)においては、コカイン静脈内自己投与コンポーネントの前後(摂食1および摂食2)の摂食維持行動を目覚ましく減少させたが、他の2匹のサル(96D155およびRQ2215)では、摂食コンポーネントのいずれにおいても反応は変化しなかった。
【0175】
コカイン自己投与に対する試験化合物(O−カルバモイル−(D)−フェニルアラニノール)の効果[迅速用量−効果法]
コカイン用量−効果データ
上記の投与量決定試験の結果に基づいて、試験化合物32mg/kgの筋肉注射による前処置が、種々の単位用量のコカイン静脈内自己投与にどのように影響するのかを調査することにより、試験化合物をさらに評価した。サル89B013は、実験前にカテーテル開存性を失ったため、サル97D105と入れ替えた。高単位用量(0.032〜0.32mg/kg/注射)のコカインの自己投与に対する試験化合物の効果と、生理食塩水または低単位用量のコカイン(0.001〜0.01mg/kg/注射)が接種可能な状況における試験化合物の効果は、質的に異なるものであった。サル群を平均すると、試験化合物の投与により、生理食塩水が接種可能なコンポーネントおよび低単位用量(0.001〜0.01mg/kg)のコカインが静脈内接種可能なコンポーネントにおいて反応が増加した。一方、試験化合物の投与により、高単位用量(0.032〜0.32mg/kg)のコカインが静脈内接種可能なコンポーネントにおいて自己投与行動が減少した。
【0176】
平均データにより、4匹のサルのうちの3匹(96D155、93N082および97D105)において、試験化合物の効果が一貫して示された。これらの被験体では、試験化合物32mg/kgにより、静脈内自己投与によって生理食塩水または低単位用量(0.001〜0.01mg/kg)のコカインのいずれかが接種可能であったコンポーネントにおいて反応が増加し、高単位用量のコカインが接種可能なコンポーネントにおいては、逆U字型の用量−反応曲線の下降部分における静脈内自己投与行動が減少した。4番目のサル(RQ2215)では、試験化合物32mg/kgを用いた前処置による効果はそれほど顕著ではなかった。高単位用量(0.1および0.32mg/kg)のコカインが接種可能なコンポーネントおける反応は変化しなかったが、これに矛盾して、生理食塩水または単位用量が0.001〜0.032mg/kg/注射の範囲の静脈内注射コカインが接種可能なコンポーネントにおける反応は増加した。
【0177】
摂食維持行動
サル群を平均すると、試験化合物32mg/kgにより、コカイン静脈内自己投与の用量−反応曲線の迅速評価におけるセッション内の摂食1および摂食2コンポーネントのいずれでも、摂食維持反応が顕著に(50%を超えて)低下した。平均した結果より、4匹のうち3匹の被験体において、コカインの静脈内自己投与前後(摂食1および摂食2コンポーネント)の摂食維持反応が減少したことが示された。したがって、コカインの静脈内自己投与前(摂食1コンポーネント)のサルRQ2215では反応は適度に(40%)減少し、サル93N082およびサル97D10では反応はほとんど消去され、コカインの静脈内自己投与後(摂食2コンポーネント)のサル96D155、93N082、および97D105においては、反応はほとんど消去された。
【0178】
試験化合物を用いた投与量決定試験の結果から、最大効力単位用量のコカイン静脈内注射がセッションを通して接種可能であった場合、試験化合物32mg/kgを用いた筋肉注射による前処置により自己投与行動が顕著に減少したことが示された。サル群を平均すると、コカインの静脈内自己投与が可能なコンポーネントの前後においては、摂食維持行動は試験化合物の前処置投与により一貫した変化は見られなかった。
【0179】
後続の実験によりこれらの結果が確認され、さらに、平均すると、生理食塩水または低〜中用量のコカイン静脈内注射が可能な状況においては、試験化合物(32mg/kg)により反応が増加したこと、および高用量コカインの静脈内自己投与が減少したことが示されるに至った。これらの効果の組み合わせによって、コカイン用量−効果曲線の下降部分が左上方向へとシフトする。コカイン自己投与に対して試験化合物が効果を発揮するのに付随する摂食維持行動の中断は、投与量決定試験を実施したときよりも、サル間でより結果が一致した。これらの結果により、試験化合物を用いた筋肉注射による前処置が、アゴニスト作用プロファイルに一致した方法でコカイン自己投与を減少できることが示された。
【0180】
引用文献
本明細書において引用されたすべての文献は、あたかもそれぞれの刊行物、特許、または特許出願が、参照によりそれら全体があらゆる目的で組み込まれるよう具体的かつ個別に述べられているのと同じように、参照によりそれら全体があらゆる目的で本明細書に組み込まれる。
【0181】
本明細書の引用文献の考察は、著者によってなされた主張を単に要約するものとされ、いかなる引用文献も先行技術を構成することは容認されない。出願人は、引用文献の正確性および適切性に異議を唱える権利を留保する。
【0182】
本発明は、本出願に記載された個々の実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態は、本発明の個々の態様を説明するものに過ぎない。本発明の精神および範囲から逸脱せず、本発明の修正および変更を行うことができ、このことは当業者には明らかであろう。本明細書に列挙されたものだけでなく、本発明の範囲内に含まれる機能的に同等な方法および装置も上述の記載より当業者には明らかであろう。このような修正および変更は、添付の請求項の範囲内であることが意図される。本発明は、添付の請求項の用語によってのみ限定されるものであり、添付の請求項の権利範囲に属する等価物の全範囲も本発明に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、構造式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素;炭素原子数1〜8の低級アルキル;F、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン;炭素原子数1〜3のアルコキシ;ニトロ基;ヒドロキシ;トリフルオロメチル;ならびに炭素原子数1〜3のチオアルコキシからなる群から選択され;
xは、1〜3の整数であるが、xが2または3の場合、Rは同一でも異なっていてもよく;
とRは、同一でも異なっていてもよく、水素、炭素原子数1〜8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素原子数3〜7のシクロアルキルからなる群からそれぞれ選択され;
とRは結合して、水素、アルキル基、およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換された5〜7員複素環を形成してもよく、該複素環化合物は、1〜2個の窒素原子と0〜1個の酸素原子とを含み、該窒素原子は互いにまたは該酸素原子と直接結合していない)
を有する化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルを治療有効量含む、薬物嗜癖を治療するための組成物。
【請求項2】
前記化合物が、
【化2】




で表されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Rが水素であり、x=1であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
R、R、およびRが水素であり、x=1であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
構造式(I)を有する前記化合物が、他のエナンチオマーを実質的に含まないエナンチオマー、または構造式(I)を有する前記化合物の1種のエナンチオマーが大部分を占めるエナンチオマー混合物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
1種のエナンチオマーが、約90%以上を占めることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
1種のエナンチオマーが、約98%以上を占めることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記エナンチオマーが、構造式(Ia):
【化3】

(式中、Rは、水素;炭素原子数1〜8の低級アルキル;F、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン;炭素原子数1〜3のアルコキシ;ニトロ基;ヒドロキシ;トリフルオロメチル;ならびに炭素原子数1〜3のチオアルコキシからなる群から選択され;
xは、1〜3の整数であるが、xが2または3の場合、Rは同一でも異なっていてもよく;
とRは、同一でも異なっていてもよく、水素、炭素原子数1〜8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素原子数3〜7のシクロアルキルからなる群からそれぞれ選択され;
とRは結合して、水素、アルキル基、およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換された5〜7員複素環を形成してもよく、該複素環化合物は、1〜2個の窒素原子と0〜1個の酸素原子とを含み、該窒素原子は互いにまたは該酸素原子と直接結合していない)
で表される(S)または(L)−エナンチオマーであることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
1種のエナンチオマーが、約90%以上を占めることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
1種のエナンチオマーが、約98%以上を占めることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
Rx、R、およびRが水素であり、xが1であることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記エナンチオマーが、構造式(Ib):
【化4】

(式中、Rは、水素;炭素原子数1〜8の低級アルキル;F、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン;炭素原子数1〜3のアルコキシ;ニトロ基;ヒドロキシ;トリフルオロメチル;ならびに炭素原子数1〜3のチオアルコキシからなる群から選択され;
xは、1〜3の整数であるが、xが2または3の場合、Rは同一でも異なっていてもよく;
とRは、同一でも異なっていてもよく、水素、炭素原子数1〜8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素原子数3〜7のシクロアルキルからなる群からそれぞれ選択され;
とRは結合して、水素、アルキル基、およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換された5〜7員複素環を形成してもよく、該複素環化合物は、1〜2個の窒素原子と0〜1個の酸素原子とを含み、該窒素原子は互いにまたは該酸素原子と直接結合していない)
で表される(R)または(D)−エナンチオマーであることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項13】
1種のエナンチオマーが、約90%以上を占めることを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
1種のエナンチオマーが、約98%以上を占めることを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項15】
前記エナンチオマーが、(R)−(β−アミノ−ベンゼンプロピル)カルバマートであることを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
(R)−(β−アミノ−ベンゼンプロピル)カルバマートである前記エナンチオマーが、約90%以上を占めることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
(R)−(β−アミノ−ベンゼンプロピル)カルバマートである前記エナンチオマーが、約98%以上を占めることを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
嗜癖性薬物が、ニコチン、オピオイド、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、エタノール、ヘロイン、モルヒネ、フェンシクリジン(PCP)、およびメチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜17に記載の組成物。
【請求項19】
前記薬物がコカインであることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記化合物の治療有効量が、約0.01〜300mg/kg/投与量であることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
薬物嗜癖を治療するための、構造式(I):
【化5】

(式中、Rは、水素;炭素原子数1〜8の低級アルキル;F、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン;炭素原子数1〜3のアルコキシ;ニトロ基;ヒドロキシ;トリフルオロメチル;ならびに炭素原子数1〜3のチオアルコキシからなる群から選択され;
xは、1〜3の整数であるが、xが2または3の場合、Rは同一でも異なっていてもよく;
とRは、同一でも異なっていてもよく、水素、炭素原子数1〜8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素原子数3〜7のシクロアルキルからなる群からそれぞれ選択され;
とRは結合して、水素、アルキル基、およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換された5〜7員複素環を形成してもよく、該複素環化合物は、1〜2個の窒素原子と0〜1個の酸素原子とを含み、該窒素原子は互いにまたは該酸素原子と直接結合していない)
を有する化合物または薬学的に許容されるその塩もしくはエステルの使用。

【公表番号】特表2012−531405(P2012−531405A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517372(P2012−517372)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003742
【国際公開番号】WO2010/150995
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511245972)エスケー バイオファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】