説明

薬物徐放性粒子及びその製法

本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルをマトリックス基剤としたテオフィリン徐放性粒子であって、均質な核粒子構造を有し、効果的に薬物の不快な味をマスキングすることができ、優れた薬物の放出(溶出)制御性及び優れた保存安定性を有するテオフィリン徐放性粒子を提供する。具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却して平均粒子径250μm以下の球形の核粒子とし、該核粒子に微粉末を溶融コーティングすることを特徴とするテオフィリン徐放性粒子の製法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、薬物徐放性粒子、特にテオフィリン徐放性粒子及びその製法に関する。
【背景技術】
薬物の放出速度の制御や、保存安定性、味のマスキング効果を向上させるために、これまで、低融点物質(例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル)をマトリックス基剤として採用する製剤が種々報告されている。
例えば、日本国特許第2893191号公報には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックスを溶融し薬物を混合したものを、噴霧冷却造粒して球形の粒子を得る方法が記載されている。これによれば、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより安定な薬物放出制御性を有する製剤を製造でき、また、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB(親水性親油性バランス)を調整することにより、薬物の放出速度を調整することができるとしている。
また、日本国特表平8−505841号公報には、不快な味を有する薬物、低融点物質及び疎水性ポリマーからなる実質的に味の無い医薬デリバリーシステムが記載されている。
また、日本国特公平6−47531号公報には、低融点物質を核として加熱下その表面に塩酸プロカインアミドを付着させ、引き続き低融点物質の融点以上に温度を保持させながらタルクを付着して得られる塩酸プロカインアミドの徐放性粒状物が記載されている。この徐放性粒状物は、徐放性効果、外観、強度、安定性等に優れているとされる。
また、日本国特許第3124063号公報には、融点40〜80℃の粒状ポリグリセリン脂肪酸エステルと、粉体とを加熱流動させて得られる粒状物が記載されており、これにより粉体の有効成分の安定放出ができ、有効成分を長期にわたり安定化できるとある。
【発明の開示】
しかし、本発明者は、上記の従来技術に記載の製剤を検討した結果、次のような問題点を独自に見出すに至った。
(a)特許第2893191号公報には、ポリグリセリン脂肪酸を含むマトリックス基剤と薬理活性物質との加熱・撹拌により得られる溶融混合物を、噴霧冷却造粒してマトリックス製剤粒子を調製する方法が記載されている。ここで、薬理活性物質としてテオフィリンを用いた場合、該溶融混合物は異常に高い粘度を示し、均一な撹拌・混合が困難となってしまうことが明らかとなった。特に、マトリックス基剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルの配合割合が高い場合には、その傾向が顕著であった。そのため、マトリックス中にテオフィリンが均一に分散した核粒子を製造することができず、得られる核粒子も安定した薬物放出制御性は望めなかった。(例えば、試験例1を参照)。
(b)また、日本国特許第2893191号公報に記載のようにして、親水性親油性バランス(HLB)の低いポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンベヘン酸フルエステル)からなるマトリックス基剤と薬理活性物質とを含有する核粒子を製造した。該核粒子に、加熱下、攪拌しながらタルク等の微粉末の溶融コーティングを試みたところ、製品温度が融点付近に達する前に、即ち微粉末が核粒子にコーティングされる前に、攪拌造粒機の壁面に核粒子が静電付着しその付着層が厚く成長してしまうことが分かった。そのため、原料の撹拌効率が悪く核粒子への熱伝導性も低下し、添加した微粉末を完全に核粒子表面に溶融コーティングすることは困難であり、製品回収率も低下してしまうことが明らかとなった(例えば、試験例2を参照)。
従って、本発明の主な目的は、上記の課題(a)を解決すること、即ち、ポリグリセリン脂肪酸エステルにテオフィリンを配合した溶融混合物の粘度を低下させて攪拌効率の向上を図ると共に、安定した薬物放出(溶出)制御特性を有する均質なマトリックス製剤粒子を得ることにある。ここで、安定した薬物放出(溶出)制御特性とは、長期保存した場合でも経時的な薬物放出(溶出)速度の変化がほとんどなく、徐放性の放出(溶出)特性を維持していることを意味する。
また、本発明の他の主な目的は、上記の課題(b)を解決すること、即ち、マトリックス基剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを含む核粒子に微粉末を溶融コーティングする場合において、マトリックス基剤に起因する造粒機壁面への核粒子の静電付着を抑制し溶融コーティング工程を効率的に行うと共に、安定した薬物放出(溶出)制御特性を有するマトリックス製剤粒子を得ることにある。
本発明者は、上記の課題(a)を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定量のエチルセルロース(以下、「EC」とも表記する)を、ポリグリセリン脂肪酸エステルとテオフィリンの溶融混合物に添加することにより、該溶融混合物の粘度を劇的に低下できることを見出した。これらの知見に基づき、さらに研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のテオフィリン徐放性粒子及びその製法(以下、「第1発明」とも呼ぶ)を提供する。
項1.ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒することを特徴とするテオフィリン徐放性粒子の製法。
項2.ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒して球形の核粒子とし、該核粒子に微粉末を溶融コーティングすることを特徴とする項1に記載の製法。
項3.核粒子中のテオフィリンの含量が8〜50重量%程度、エチルセルロースの含量が0.01〜5重量%程度であり、微粉末のコーティング量が核粒子100重量部に対し5〜50重量部程度である項1又は2に記載の製法。
項4.核粒子の平均粒子径が250μm以下であり、溶融コーティングにより得られるテオフィリン徐放性粒子の平均粒子径が450μm以下である項2又は3に記載の製法。
項5.ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステルである項1〜4のいずれかに記載の製法。
項6.ポリグリセリン脂肪酸エステルが、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルである項1〜5のいずれかに記載の製法。
項7.マトリックス基剤が、さらにグリセリン脂肪酸エステルを含む項1又は2に記載の製法。
項8.グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンベヘン酸エステル及びグリセリンステアリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である項7に記載の製法。
項9.グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンベヘン酸エステルである項8に記載の製法。
項10.撹拌造粒法を用いて溶融コーティングする項2〜9のいずれかに記載の製法。
項11.マトリックス基剤の融点又は軟化点付近の温度で溶融コーティングする項2〜10のいずれかに記載の製法。
項12.マトリックス基剤の水酸基価が60程度以上である項1〜11のいずれかに記載の製法。
項13.微粉末が、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化チタン、エチルセルロース、ステアリン酸カルシウム及び酢酸セルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である項2〜12のいずれかに記載の製法。
項14.項2に記載の溶融コーティング後に、加熱処理工程をさらに含むテオフィリン徐放性粒子の製法。
項15.項2に記載の溶融コーティングの前に、核粒子の加熱処理工程をさらに含むテオフィリン徐放性粒子の製法。
項16.加熱処理の温度が40℃〜マトリックス基剤の融点又は軟化点程度である項14又は15に記載の製法。
項17.項1〜16のいずれかに記載の製法により得られるテオフィリン徐放性粒子。
項18.ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを含む粒子であって、該マトリックス基剤の中にエチルセルロース及びテオフィリンが均一に分散している粒子。
項19.項18に記載の粒子を核粒子として、その核粒子の周りに微粉末を含む被覆層を有するテオフィリン徐放性粒子。
項20.第14改正日本薬局方の溶出試験法(第2法 パドル法)にて、撹拌速度が75rpm、水又は0.5%ポリソルベート80水溶液を試験液とした場合において、テオフィリンの2時間溶出率が15〜55%程度、4時間溶出率が25〜70%程度、6時間溶出率が50〜95%程度である項17〜19のいずれかに記載のテオフィリン徐放性粒子。
また、本発明者は、上記の課題(b)を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の水酸基価を有するマトリックス基剤を採用することにより、溶融コーティング時における核粒子の静電付着の発生を抑制できることを見出した。これらの知見に基づき、さらに研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の薬物徐放性粒子及びその製法(以下、「第2発明」とも呼ぶ)を提供する。
項21.ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価60以上のマトリックス基剤と薬理活性物質とを含有する核粒子に、微粉末を溶融コーティングすることを特徴とする薬物徐放性粒子の製法。
項22.ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価60以上のマトリックス基剤と薬理活性物質とを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒して球形の核粒子とし、該核粒子に微粉末を溶融コーティングすることを特徴とする項21に記載の製法。
項23.マトリックス基剤の融点又は軟化点付近の温度で溶融コーティングする項21又は22に記載の製法。
項24.マトリックス基剤の水酸基価が80〜350程度である項21、22又は23に記載の製法。
項25.項21〜24のいずれかに記載の溶融コーティング後に、加熱処理工程をさらに含む薬物徐放性粒子の製法。
項26.項21〜24のいずれかに記載の溶融コーティングの前に、核粒子の加熱処理工程をさらに含む薬物徐放性粒子の製法。
項27.加熱処理の温度が40℃〜マトリックス基剤の融点又は軟化点程度である項25又は26に記載の製法。
項28.ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステルである項21〜27のいずれかに記載の製法。
項29.ポリグリセリン脂肪酸エステルが、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルである項21〜27のいずれかに記載の製法。
項30.項21〜29のいずれかに記載の方法により得られる薬物徐放性粒子。
項31.ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価60以上のマトリックス基剤と薬理活性物質とを含む粒子であって、該マトリックス基剤の中に薬理活性物質が均一に分散している粒子。
項32.項31に記載の粒子を核粒子として、その核粒子の周りに微粉末を含む被覆層を有する薬物徐放性粒子。
【図面の簡単な説明】
図1は、比較例17の溶融コーティング粒子を加熱処理した場合の溶出速度を示す図である。
図2は、実施例28の溶融コーティング粒子を加熱処理した場合の溶出速度を示す図である。
図3は、実施例25の溶融コーティング粒子を加熱処理しない場合の溶出速度を示す図である。
図4は、実施例28の溶融コーティング粒子を加熱処理しない場合の溶出速度を示す図である。
図5は、撹拌式溶融コーティング粒子と流動式溶融コーティング粒子との溶出速度を比較した図である。
発明の詳細な記述
本発明のテオフィリン徐放性粒子及びその製法(第1発明)、及び薬物徐放性粒子及びその製法(第2発明)について以下詳細に説明する。
A.テオフィリン徐放性粒子及びその製法(第1発明)
本発明のテオフィリン徐放性粒子は、テオフィリンを含有するマトリックス製剤であって、テオフィリンがマトリックス中に均一に分散しているため、安定したテオフィリンの溶出制御特性を有する粒子状の徐放性マトリックス製剤である。本発明のテオフィリン徐放性粒子は、マトリックス中にテオフィリンを含有する核粒子、該核粒子をタルク等の微粉末で溶融コーティングした溶融コーティング粒子、及び必要に応じさらに倍散工程に付した粒子のいずれも含むものである。
A−1.核粒子
テオフィリン
本発明の徐放性粒子の核粒子には、薬理活性物質としてテオフィリンを含有する。テオフィリンの形態は、結晶又はアモルファスのいずれであってもよい。核粒子中におけるテオフィリンの含量は、8〜50重量%程度、好ましくは15〜50重量%程度、より好ましくは20〜50重量%程度である。
マトリックス
本発明の核粒子のマトリックスは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤を主成分として含有し、その他エチルセルロース、必要に応じて添加剤を含有する。該マトリックス基剤には、ポリグリセリン脂肪酸エステルに加えグリセリン脂肪酸エステル等が配合されていてもよい。
ポリグリセリン脂肪酸エステル
マトリックス基剤として用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルである。
ポリグリセリンの具体例としては、重合度が2〜10、好ましくは3〜10のものが例示される。例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が用いられ、特に、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が用いられる。
脂肪酸としては、たとえば炭素数12〜22、好ましくは炭素数18〜22の飽和又は不飽和高級脂肪酸等を用いることができる。この様な脂肪酸としては、たとえばパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ベヘン酸等が用いられ、とりわけ、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、リシノール酸等の炭素数18〜22の飽和又は不飽和高級脂肪酸が繁用される。
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、上記のポリグリセリンに、水酸基を1個以上残した形で炭素数12〜22個の脂肪酸がエステル結合したものを使用することができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、トリグリセリンベヘン酸エステル、トリグリセリンステアリン酸エステル、テトラグリセリンベヘン酸エステル、テトラグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンベヘン酸エステル、ペンタグリセリンステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンベヘン酸エステル、ヘキサグリセリンステアリン酸エステル、ヘプタグリセリンベヘン酸エステル、ヘプタグリセリンステアリン酸エステル、オクタグリセリンベヘン酸エステル、オクタグリセリンステアリン酸エステル、ノナグリセリンベヘン酸エステル、ノナグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンベヘン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル等から選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示され、ポリグリセリンの水酸基の個数に応じて、脂肪酸のモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、ヘキサエステル、ハーフエステル等の形態を採用することができる。
これらのポリグリセリン脂肪酸エステル中でも、ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステルが好ましく、中でもトリグリセリンベヘン酸ハーフエステル、テトラグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ペンタグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ヘキサグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ヘプタグリセリンベヘン酸ハーフエステル、オクタグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ノナグリセリンベヘン酸ハーフエステル、デカグリセリンベヘン酸ハーフエステル等のポリグリセリンベヘン酸ハーフエステル、トリグリセリンステアリン酸ハーフエステル、テトラグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ペンタグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ヘキサグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ヘプタグリセリンステアリン酸ハーフエステル、オクタグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ノナグリセリンステアリン酸ハーフエステル、デカグリセリンステアリン酸ハーフエステル等のポリグリセリステアリン酸ハーフエステルが好適に用いられ、特に、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルが最も好適である。
ここで、本明細書及び請求の範囲において、ポリグリセリンの水酸基の全てが脂肪酸でエステル化されたものを「ポリグリセリン脂肪酸フルエステル」とし、ポリグリセリンの水酸基の約半分が脂肪酸でエステル化されたものを「ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステル」と呼ぶこととする。なお、「ポリグリセリン脂肪酸フルエステル」を除くポリグリセリン脂肪酸エステルでは、ポリグリセリンのいずれの水酸基がエステル化されていてもよく、特に限定はない。
「ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステル」とは、具体的には、ポリグリセリンのエステル化された水酸基数の平均値(N)が、エステル化されていないポリグリセリンそのものが有する全水酸基数(N)の約半分である化合物又はその混合物を意味し、例えば、0.3≦N/N≦0.7、好ましくは0.35≦N/N≦0.65の範囲のものが挙げられる。
例えば、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルは、グリセリン3分子が脱水縮合した水酸基を5個有するトリグリセリンに、ベヘン酸が2個又は3個エステル結合したもの或いはそれらの混合物、すなわち、トリグリセリンベヘン酸(ジ又はトリ)エステルを意味する。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの分子量は、通常、200〜5000、好ましくは300〜2000、より好ましくは500〜2000である。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、常温(約15℃)で固形のもので、融点が15〜90℃好ましくは45〜80℃のものが用いられる。本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、2種以上の混合物であってもよい。その場合、一部に液状ポリグリセリン脂肪酸エステルを含んでいても、混合物として常温で固形のものであればよい。核粒子中におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含量は、20〜90重量%程度、好ましくは25〜80重量%程度、より好ましくは30〜70重量%程度である。
グリセリン脂肪酸エステル
マトリックス基剤の任意成分として用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと炭素数12〜22の脂肪酸とのモノ、ジ又はトリエステルである。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンベヘン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンラウリン酸エステル、グリセリンパルミチン酸エステル等が好ましく、必要であれば2種以上がマトリックス基剤として使用される。中でも、グリセリンベヘン酸エステル又はグリセリンステアリン酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンステアリン酸モノエステル、グリセリンステアリン酸ジエステル、グリセリンステアリン酸トリエステル、グリセリンベヘン酸モノエステル、グリセリンベヘン酸ジエステル、グリセリンベヘン酸トリエステル等が挙げられる。中でも、グリセリンベヘン酸エステルが好ましく、特にグリセリンベヘン酸モノエステル、グリセリンベヘン酸ジエステル、又はそれらの混合物が好ましい。
核粒子中におけるグリセリン脂肪酸エステルの含量は、0〜60重量%程度、好ましくは1〜50重量%程度、より好ましくは2〜40重量%である。なお、本発明の好ましいマトリックス基剤としては、グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたものが好ましい。
マトリックス基剤の水酸基価
また、本発明で用いられるマトリックス基剤は、その水酸基価が60程度以上、好ましくは80〜350程度、より好ましくは100〜300程度に調整することができる。これにより、後述の溶融コーティング工程において、造粒機の壁面への核粒子の静電付着を抑制できるため、溶融コーティング工程を効率的に行うことができると共に、安定した薬物放出(溶出)制御性を有するマトリックス製剤粒子を得ることができる。ここで示す水酸基価とは、食品添加物公定書「油脂類試験法」(広川書店,1999年,p.B−195)中に示す「水酸基価」である。即ち、「水酸基価とは、試料1gの水酸基をアセチル化した場合、水酸基と結合したアセチル基と同等量の酢酸を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数」を意味する。
一般に、薬理活性物質の徐放化を目的とした製剤の場合には、日本国特許第2893191号公報にあるように、核粒子自身からの溶出速度を抑えるために、親水性親油性バランス(HLB)の低いポリグリセリン脂肪酸エステルをマトリックスに用いるのが好ましいと考えられる。しかし、HLBが低いマトリックスほど水酸基価が低い値を示し、溶融コーティング時において壁面への静電付着傾向がより顕著となる。この静電付着を防止するためには、静電気を帯び難い核粒子を用いることが必要であり、その解決手段として好ましくは60以上の水酸基価を有するマトリックス基剤が採用される。
なお、グリセリン脂肪酸エステル、特にモノグリセリド(モノエステル)の場合には水酸基価は高く、それ自身では造粒機へは静電付着し難いが、グリセリン脂肪酸エステル等の脂質は結晶転移するために安定な製剤を調製することは困難となる。この結晶転移を抑制するには、マトリックス基剤中にポリグリセリン脂肪酸エステルを50%重量以上配合することが好ましく、それゆえ、マトリックス基剤中のポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が特に重要となる。従って、ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価も、60程度以上に調整するのが好ましく、より好ましくは80〜350程度、特に好ましくは100〜300程度である。
エチルセルロース
本発明の核粒子のマトリックスには、エチルセルロースを含有する。発明の開示(a)の項でも述べたように、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤を加熱した溶融混合物にテオフィリンを配合すると、溶融混合物の粘度が著しく上昇し均一な撹拌が困難となる。これは薬物としてテオフィリンを用いた場合に限って見られる現象である。しかし、そのテオフィリン含有溶融混合物にエチルセルロースを少量添加すると、粘度が急激に低下して攪拌、混合、送液などの作業性が劇的に改善され、均一な撹拌溶融混合物を得ることができる。これを噴霧冷却することにより安定した薬物放出(溶出)制御性を有する均質なマトリックス製剤粒子を得ることができる。
エチルセルロースの粘度は、トルエン80%とエタノール20%のエチルセルロース5%溶液(25℃)として、通常、1〜100cps程度が好ましく、特に2〜50cps程度が好ましい。
核粒子中のエチルセルロースの含量は、通常、0.01〜5重量%程度、好ましくは0.1〜3重量%程度になるように調整することができる。エチルセルロースの含量がこの範囲であると、溶融混合物の粘度の好ましい低下効果が認められる。
添加剤
本発明の核粒子のマトリックスには、本発明の作用効果に悪影響を与えない範囲で、上記に加えて徐放性製剤の分野で用いられている添加剤を加えてもよい。例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、硬化油、木ロウ、カカオ脂、カルナバロウ、ミツロウ、レシチン、セタノール、ステアリルアルコール、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸チタニウム、オレイン酸カルシウム等を挙げることができる。核粒子中における、これらの添加剤の含量は、通常、50重量%以下、好ましくは40重量%以下であることが好ましい。
好ましい核粒子の形態
本発明のテオフィリン徐放性製剤における好ましい核粒子の形態として、次のようなものが挙げられる。
マトリックス基剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル単独のものでもよいが、これにグリセリン脂肪酸エステルを添加するのが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンベヘン酸ハーフエステルが好ましく、特にトリグリセリンベヘン酸ハーフエステルが好ましい。また、グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンベヘン酸エステル又はグリセリンステアリン酸エステルが好ましく、特にグリセリンベヘン酸モノエステル、グリセリンベヘン酸ジエステル、又はそれらの混合物が好ましい。
これらのマトリックス基剤を配合する場合においても、核粒子中のマトリックス基剤全重量のうち、ポリグリセリン脂肪酸エステルは50重量%以上を確保することが好ましい。マトリックス基剤における、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの重量比率は、50/50〜95/5程度、好ましくは50/50〜90/10程度であればよい。
核粒子中におけるテオフィリンの含量は、15〜50重量%程度、好ましくは20〜50重量%程度、より好ましくは25〜45重量%程度である。核粒子中におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含量は、25〜80重量%程度、好ましくは30〜70重量%程度である。核粒子中におけるグリセリン脂肪酸エステルの含量は、1〜50重量%程度、好ましくは2〜40重量%程度、より好ましくは5〜35重量%程度である。核粒子中のエチルセルロースの含量は、0.01〜5重量%程度、好ましくは0.1〜3重量%程度である。
A−2.核粒子の製法
上記の核粒子は、例えば、次のようにして製造される。
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを加熱して液状混合物(或いは、溶融混合物)とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒して球形の核粒子が製造される。該液状混合物は、懸濁混合物を含む。
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤を溶融する際の温度は、マトリックス基剤の融点(以下、「T」とも表記する)以上、好ましくは(T+10)℃以上の高い温度であって、テオフィリンの安定性に問題が生じない温度であればよい。なお、マトリックス基剤が混合物の場合、明りょうな融点を示さないことがあるが、その場合は、混合物が示す軟化温度(軟化点)(以下、「T」とも表記する)が上記Tに代えて用いられる。
なお、以下、マトリックス基剤の融点(T)又は軟化点(T)を、あわせて「T」と表記する場合がある。即ち、T=T又はTで表される。
エチルセルロースは、マトリックス基剤中に均一に溶解(融解)又は分散できるようにするため、通常平均粒子径0.1〜200μm程度、好ましくは0.5〜150μm程度の粉末のものが使用される。
テオフィリンは、マトリックス基剤中に均一に分散するようにするため、平均粒子径が通常0.1〜100μm程度、好ましくは0.5〜50μm程度の粉末のものが使用される。
なお、上記の平均粒子径は、公知の方法、例えば、レーザー光散乱法などを用いて測定できる。
液状混合物の調製において、マトリックス基剤の溶融物に、テオフィリン及びエチルセルロースを添加する順序は特に限定されない。溶融物にテオフィリンを溶解又は分散した後にエチルセルロースを溶解(溶融)又は分散してもよいし、溶融物にエチルセルロースを溶解(溶融)又は分散した後にテオフィリンを溶解又は分散してもよい。或いは、溶融物へのテオフィリンの溶解又は分散及びエチルセルロースの溶解(溶融)又は分散を同時に行ってもよい。
本発明のテオフィリン徐放性粒子が、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ等の形態となる場合、液状混合物の調製は、マトリックス基剤を加熱溶融し、次いで該溶融物にエチルセルロースとテオフィリンを加えて溶解又は分散させて液状混合物とする方法が好ましく採用される。好ましくは、マトリックス基剤の溶融物に、エチルセルロースとテオフィリンを予め混合したものを同時に加えて溶解又は分散させて液状混合物とする方法が挙げられる。
核粒子を構成する各成分の配合量は、上記「A−1.核粒子」で示した配合量を用いることができる。本製法によれば、上述のように、エチルセルロースを少量添加することにより、溶融混合物の粘度が顕著に低下して撹拌、混合が容易になる。これにより、マトリックス基剤中にテオフィリンを均一に分散させることができ、安定した薬物放出(溶出)制御特性を有する均質なマトリックス製剤粒子を得ることができる。
上記で得られる液状混合物を、噴霧冷却することにより核粒子が製造される。該液状混合物の噴霧冷却は、回転ディスク或いは加圧ノズル、二流体ノズルを用いた噴霧冷却装置(スプレークーラー)等の公知の手段を用いて行うことができる。冷却は、通常、室温程度で行えばよい。噴霧条件を適宜選択することにより、粒子を所望の粒径に調節することができる。
この噴霧冷却造粒で得られる核粒子は球形であり、その平均粒子径は、通常250μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは30〜200μm程度、特に50〜180μm程度である。該核粒子の平均粒子径は、公知の方法、例えば篩分け法に従って求めることができる。
上記で得られる核粒子は、そのまま次の溶融コーティング工程に供してもよいが、溶融コーティング前に該核粒子を加熱処理してもよい。加熱処理の条件は、40℃〜T℃程度の温度で、核粒子が溶融、固着しない温度で、2〜48時間(特に、3〜24時間程度)処理すればよい。この加熱処理により、マトリックス基剤の結晶転移を促進して完了させることにより、製品としてテオフィリンの放出性を安定化させることができ、保存安定性にも優れた徐放性粒子が得られる。
上述のようにして得られる本発明の核粒子は、マトリックス基剤中に、テオフィリン及びエチルセルロースが均一に分散した構造を有している。具体的には、エチルセルロース及びテオフィリンが、マトリックス基剤粒子の表面或いは表面近傍に局在した層構造ではなく、マトリックス基剤粒子表面及び粒子内部の全体にエチルセルロース及びテオフィリンのそれぞれが、分子状又は微粒子状で均一に分散しているものである。
ここで、「分子状で均一に分散」とは、テオフィリンとエチルセルロースがマトリックスと共に均一な混合物の固体(固溶体)を形成していることをいい、「微粒子状で均一に分散」とは、テオフィリンとエチルセルロースが実質的にマトリックス全体に濃淡なく微粒子として散在していることをいう。
このように、本発明の核粒子は、マトリックス中にテオフィリンが均一に分散していることから、平均粒子径30〜200μm程度(好ましくは、50〜180μm程度)と非常に小さな核粒子ではあるが、薬物の苦味をマスクすることができると共に、薬物の安定した放出制御が可能となる。また、マトリックス基剤が核粒子表面にも存在しているため、後述の溶融コーティングにも適した構造を有している。
A−3.溶融コーティング
溶融コーティング
本発明のテオフィリン徐放性粒子は、上記で得られた核粒子に微粉末を溶融コーティングすることにより製造される。微粉末としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化チタン、エチルセルロース、ステアリン酸カルシウム及び酢酸セルロースからなる群から選ばれた少なくとも1種が例示される。好ましくは、タルク、エチルセルロースであり、より好ましくはタルクである。さらに、必要に応じて、溶融コーティング粒子の静電除去のために、軽質無水ケイ酸等を添加してもよい。なお、溶融コーティングにおいては、噴霧コーティングのように有機溶媒を使用しない。
上記「A−2.核粒子の製法」で得られる核粒子は、再び加熱溶融を行うと、マトリックス基剤が溶融し核粒子表面へ向けて融解液として浸出してくる。この時の融解液の付着力によりその周囲に存在する微粉末が該融解液に付着する。本発明の溶融コーティングは、この溶融したマトリックス基剤の粘着性を利用して、核粒子表面に微粉末を含むコーティング(被覆)層を形成する技術である。
微粉末の平均粒子径は、溶融コーティングされる核粒子の粒子径により異なり、核粒子の粒子径より小さいのが通常である。通常、20μm程度以下、好ましくは1〜15μm程度、より好ましくは1〜10μm程度の範囲から選択される。
また、核粒子と微粉末との混合割合は、目的とするテオフィリンの溶出速度、核粒子の粒子径及び目的とするテオフィリン徐放性粒子の粒子径等に応じて決定すればよく、微粉末の使用量は、通常、核粒子100重量部に対して5〜50重量部程度、好ましくは10〜50重量部程度、より好ましくは10〜45重量部程度であればよい。
溶融コーティングは、公知の方法に従い実施できる。例えば、上記で得られた核粒子に微粉末を混合し、撹拌下で加熱すればよい。加熱温度は、マトリックス基剤の融点(T)又は軟化点(T)付近、即ち、T付近まで加熱する。T付近とは、(T−15)℃〜T℃、好ましくは(T−10)℃〜T℃の範囲の温度であればよい。例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルとからなるマトリックス基剤の場合、40〜90℃程度、好ましくは45〜80℃程度の範囲である。なお、溶融コーティング時間は、製造スケールによっても異なるが、通常5分〜5時間程度であればよい。
本発明における核粒子への微粉末の溶融コーティングは、撹拌下、すなわち撹拌造粒法により行われることが推奨される。ところで、日本国特許第3124063号公報には、流動層中においてポリグリセリン脂肪酸エステル粒子に粉体を溶融付着させる方法が開示されている。しかし、流動式において核粒子を融点付近にまで加熱するためには融点以上の熱風を必要とし、流動層装置(壁面、下部メッシュ等)の温度が高いために核粒子が装置に付着溶融して凝集するため、収率が悪く、さらに徐放化を目的として粉体を核粒子に緻密に完全に付着することは実際困難である。これに対し、撹拌造粒法を採用すると、撹拌装置の容器温度(ジャケット温度)を、目的とする核粒子の温度とほぼ同じ温度で制御することができ、また、ジャケット内に冷水を導入することにより装置全体を急速に冷却することも可能である。そのため、核粒子の異常な加熱は発生し難く、壁面への溶融付着による凝集を完全に防ぐことが可能となる。
溶融コーティングで得られる粒子は球形であり、その平均粒子径は、通常、450μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは30〜400μm程度、特に50〜350μm程度である。
かくして得られる溶融コーティング粒子は、核粒子の周りに微粉末を含む被覆層を有するテオフィリンの徐放性粒子である。
後加熱処理
上記で得られる溶融コーティング粒子は、そのまま次の工程に供してもよいが、さらに該溶融コーティング粒子を加熱処理することが好ましい。加熱処理の条件は、40℃〜T℃程度の温度で、溶融コーティング粒子が溶融、固着しない温度で、2時間〜48時間(好ましくは、3〜24時間程度)処理すればよい。この加熱処理により、マトリックス基剤の結晶転移を促進して完了させることにより、製品としてテオフィリンの放出制御性を安定化させることができ、かつ長期保存後でも安定したテオフィリンの放出制御性が保持される。
具体的には、溶融コーティング後において、棚式乾燥機、ジャケット付きタンク、ジャケット付き混合機、ジャケット付き攪拌混合機、或いは流動層中で上記加熱処理を行う。加熱する方法は特には限定されない。加熱温度はマトリックス基剤の成分に依存するが、例えば、ポリグリセリンステアリン酸エステルとグリセリンステアリン酸エステルを含む系では、40〜50℃程度であればよい。ポリグリセリンベヘン酸エステルとグリセリン脂肪酸ベヘン酸エステルを含む系では、40〜60℃程度で加熱処理することができ、場合によっては45〜55℃程度で加熱処理することが効率的であることがある。
ここで、日本国特許第2893191号公報に記載されている製剤、即ち、ポリグリセリン脂肪酸エステルと脂質との混合物及び薬理活性物質を含有した溶融混合物を噴霧冷却造粒して得た核粒子を用いた製剤では、40℃或いは50℃で一定時間保存した場合に、薬理活性物質の溶出速度が経時的に低下することが分かった。この現象は、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの配合比が、50/50〜90/10(重量比)のいずれにおいても認められる。つまり、ポリグリセリン脂肪酸エステルにグリセリン脂肪酸エステル或いはその他の脂質が少量でも配合された場合には、高温保存において結晶転移が進行し薬理活性物質の放出速度が変化してしまうことが分かった。
これに対し、本発明のテオフィリン徐放性粒子では、溶融コーティング粒子を積極的に加熱処理に付することにより、結晶転移を促進させ完了させているため、長期保存した後でも安定したテオフィリンの放出制御特性を有している(例えば、試験例4を参照)。
A−4.倍散工程
上記「A−3.溶融コーティング」で得られるテオフィリン徐放性粒子は、賦形剤、場合によっては更に結合剤を添加し公知の方法に従って混合し、造粒し、場合によっては圧縮することにより、散剤、細粒剤、顆粒剤、ドライシロップ、錠剤、カプセル剤等の各種形態に加工することができる。
賦形剤としては、この分野で通常使用されている賦形剤を広く使用でき、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ブドウ糖、白糖、乳糖等の糖類、コーンスターチ、ポテトスターチ等の澱粉類、無水リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム等の無機塩類、結晶セルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、デキストリン、マクロゴール(例えば、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール4000等)等が挙げられる。
結合剤としては、この分野で通常使用されている結合剤を広く使用でき、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、プルラン、マクロゴール(例えば、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール4000等)、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン等が挙げられる。
上記の方法により本発明のテオフィリン徐放性製剤を製造するに当たり、賦形剤等と共に崩壊剤、界面活性剤,滑沢剤、流動化剤、甘味剤、着色剤等の各種製剤担体を使用することができる。
崩壊剤としては、この分野で通常使用されている崩壊剤を広く使用でき、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、クロスポピドン等が挙げられる。
界面活性剤としては、この分野で通常使用されている界面活性剤を広く使用でき、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
滑沢剤としては、この分野で通常使用されている滑沢剤を広く使用でき、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ポリオキシル、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
流動化剤としては、この分野で通常使用されている流動化剤を広く使用でき、例えば、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
甘味剤としては、この分野で通常使用されている甘味剤を広く使用でき、例えば、アスパルテーム、果糖、キシリトール、サッカリン、サッカリンナトリウム、白糖、精製白糖、ソルビトール、乳糖、ブドウ糖、マンニトール、ソーマチン、エリスリトール等が挙げられる。
着色剤としては、この分野で通常使用されている着色剤を広く使用でき、例えば、タール系色素等が挙げられる。
更に、上記方法で得られる本発明徐放製剤にメントール、オレンジフレーバー等の香料を担持させてもよい。
上記の、賦形剤、結着剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、甘味剤、着色剤、香料等の使用量は、使用する薬剤、目的とする製剤に応じて適宜選択することができる。
倍散工程後のテオフィリン徐放性粒子は、通常、平均粒子径500μm以下、好ましくは410μm以下、より好ましくは、30〜400μm程度、特に50〜400μm程度である。
また、本発明のテオフィリン徐放性粒子は、安定したテオフィリンの溶出(放出)制御性を有している。例えば、第14改正日本薬局方解説書に記載の溶出試験法(第2法 パドル法)にて、撹拌速度75rpm、水又は0.5%ポリソルベート80 900mlを試験液とし、テオフィリン100mg相当量の徐放性粒子についてテオフィリンの溶出試験を行った場合、2時間溶出率が15〜55%程度、4時間溶出率が25〜70%程度、6時間溶出率が50〜95%程度となる。好ましくは、2時間溶出率が20〜50%程度、4時間溶出率が30〜65%程度、6時間溶出率が55〜90%程度となる。
本発明のテオフィリン徐放性粒子は、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、ドライシロップ、錠剤、カプセル剤等の形態を有する製剤として用いることができる。
B.薬物徐放性粒子及びその製法(第2発明)
本発明の薬物徐放性製剤は、薬理活性物質を含有するマトリックス製剤であって、水酸基価が60以上のマトリックス基剤を用いることを特徴とする。このようなマトリックス基剤を用いることにより、核粒子への溶融コーティングを効率的に行うことができ、かつ安定した薬理活性物質の溶出制御性を有する粒子状の徐放性マトリックス製剤を製造できる。本発明の薬物徐放性製剤は、マトリックス中に薬理活性物質を含有する核粒子、タルク、薬理活性物質等の微粉末で溶融コーティングした溶融コーティング粒子、及び必要に応じさらに倍散工程に付した粒子のいずれも含むものである。
B−1.核粒子
マトリックス
本発明の核粒子のマトリックスは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価が60以上のマトリックス基剤を主成分とし、必要に応じて、エチルセルロース、添加剤等を含有する。該マトリックス基剤にはポリグリセリン脂肪酸エステルに加えて、グリセリン脂肪酸エステル等が配合されていてもよく、この場合も両者をあわせたマトリックス基剤の水酸基価が60以上である。
また、薬理活性物質としてテオフィリンを用いた場合は、核粒子にはエチルセルロースが配合されているのが好ましい。エチルセルロースの配合により、核粒子製造過程において、マトリックス基剤とテオフィリンの溶融混合物の撹拌効率が顕著に向上するからである。
ポリグリセリン脂肪酸エステル
マトリックス基剤として用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであり、その水酸基価が60程度以上であるものが好適である。
ポリグリセリンの具体例としては、重合度が2〜10,好ましくは3〜10のものが例示される。例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が用いられ、特に、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が用いられる。
脂肪酸としては、たとえば炭素数12〜22、好ましくは炭素数18〜22の飽和又は不飽和高級脂肪酸等を用いることができる。この様な脂肪酸としては、たとえばパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ベヘン酸等が用いられ、とりわけ、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、リシノール酸等の炭素数18〜22の飽和又は不飽和高級脂肪酸が繁用される。
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、上記のポリグリセリンに、水酸基を1個以上残した形で炭素数12〜22個の脂肪酸がエステル結合したものを使用することができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、トリグリセリンベヘン酸エステル、トリグリセリンステアリン酸エステル、テトラグリセリンベヘン酸エステル、テトラグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンベヘン酸エステル、ペンタグリセリンステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンベヘン酸エステル、ヘキサグリセリンステアリン酸エステル、ヘプタグリセリンベヘン酸エステル、ヘプタグリセリンステアリン酸エステル、オクタグリセリンベヘン酸エステル、オクタグリセリンステアリン酸エステル、ノナグリセリンベヘン酸エステル、ノナグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンベヘン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル等から選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示され、ポリグリセリンの水酸基の個数に応じて、脂肪酸のモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、ヘキサエステル、ハーフエステル等の形態を採用することができる。
これらのポリグリセリン脂肪酸エステル中でも、ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステルが好ましく、中でもトリグリセリンベヘン酸ハーフエステル、テトラグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ペンタグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ヘキサグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ヘプタグリセリンベヘン酸ハーフエステル、オクタグリセリンベヘン酸ハーフエステル、ノナグリセリンベヘン酸ハーフエステル、デカグリセリンベヘン酸ハーフエステル等のポリグリセリンベヘン酸ハーフエステル、トリグリセリンステアリン酸ハーフエステル、テトラグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ペンタグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ヘキサグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ヘプタグリセリンステアリン酸ハーフエステル、オクタグリセリンステアリン酸ハーフエステル、ノナグリセリンステアリン酸ハーフエステル、デカグリセリンステアリン酸ハーフエステル等のポリグリセリステアリン酸ハーフエステルが好適に用いられ、特に、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルが最も好適である。
ここで、ポリグリセリンの水酸基の全てに脂肪酸がエステル結合したものを「ポリグリセリン脂肪酸フルエステル」とし、ポリグリセリンの水酸基の約半分にエステル結合したものを「ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステル」と呼ぶこととする。なお、「ポリグリセリン脂肪酸フルエステル」を除くポリグリセリン脂肪酸エステルでは、ポリグリセリンのどの水酸基がエステル化されていてもよく、特に限定はない。
「ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステル」とは、具体的には、ポリグリセリンのエステル化された水酸基数の平均値(N)が、エステル化されていないポリグリセリンそのものが有する全水酸基数(N)の約半分である化合物又はその混合物を意味し、例えば、0.3≦N/N≦0.7、好ましくは0.35≦N/N≦0.65の範囲のものが挙げられる。
例えば、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルは、グリセリン3分子が脱水縮合した水酸基を5個有するトリグリセリンに、ベヘン酸が2個又は3個エステル結合したもの或いはそれらの混合物、すなわち、トリグリセリンベヘン酸(ジ又はトリ)エステルを意味する。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの分子量は、通常、200〜5000、好ましくは300〜2000、より好ましくは500〜2000である。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、常温(約15℃)で固形のもので、融点が15〜90℃好ましくは45〜80℃のものが用いられる。本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、2種以上の混合物であってもよい。その場合、一部に液状ポリグリセリン脂肪酸エステルを含んでいても、混合物として常温で固形のものであればよい。核粒子中におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含量は、20〜99.999重量%程度、好ましくは25〜95重量%程度、より好ましくは30〜90重量%程度である。
グリセリン脂肪酸エステル
マトリックス基剤の任意成分として用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと炭素数12〜22の脂肪酸のエステルである。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンベヘン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンラウリン酸エステル、グリセリンパルミチン酸エステル等が好ましく、必要であれば2種以上がマトリックス基剤として使用される。中でも、グリセリンベヘン酸エステル及び/又はグリセリンステアリン酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンステアリン酸モノエステル、グリセリンステアリン酸ジエステル、グリセリンステアリン酸トリエステル、グリセリンベヘン酸モノエステル、グリセリンベヘン酸ジエステル、グリセリンベヘン酸トリエステル等が挙げられる。中でも、グリセリンベヘン酸エステルが好ましく、特にグリセリンベヘン酸モノエステル、グリセリンベヘン酸ジエステル、又はそれらの混合物が好ましい。
核粒子中におけるグリセリン脂肪酸エステルの含量は、0〜60重量%程度、好ましくは1〜50重量%程度、より好ましくは2〜40%である。なお、本発明の好ましいマトリックス基剤としては、グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたものが好ましい。
マトリックス基剤の水酸基価
本発明で用いられるマトリックス基剤は、その水酸基価が60程度以上、好ましくは80〜350程度、より好ましくは100〜300程度であることを特徴とする。これにより、後述の溶融コーティング工程において、造粒機の壁面への核粒子の静電付着を抑制できるため、溶融コーティング工程を効率的に行うことができると共に、安定した薬物放出(溶出)制御性を有するマトリックス製剤粒子を得ることができる。ここで示す水酸基価とは、食品添加物公定書「油脂類試験法」(広川書店,1999年,p.B−195)中に示す「水酸基価」である。即ち、「水酸基価とは、試料1gの水酸基をアセチル化した場合、水酸基と結合したアセチル基と同等量の酢酸を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数」を意味する。
一般に、薬理活性物質の徐放化を目的とした製剤の場合には、日本国特許第2893191号公報にあるように、核粒子自身からの溶出速度を抑えるために、親水性親油性バランス(HLB)の低いポリグリセリン脂肪酸エステルをマトリックスに用いるのが好ましいと考えられる。しかし、HLBが低いマトリックスほど水酸基価が低い値を示し、溶融コーティング時において壁面への静電付着傾向がより顕著となる。この静電付着を防止するためには、静電気を帯び難い核粒子を用いることが必要であり、その解決手段として60以上の水酸基価を有するマトリックス基剤が採用されるのである。
なお、グリセリン脂肪酸エステル、特にモノグリセリド(モノエステル)の場合には水酸基価は高く、それ自身では造粒機へは静電付着し難いが、グリセリン脂肪酸エステル等の脂質は結晶転移するために安定な製剤を調製することは困難となる。この結晶転移を抑制するには、マトリックス基剤中にポリグリセリン脂肪酸エステルを50%重量以上配合することが好ましく、それゆえ、マトリックス基剤中のポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が特に重要となる。従って、ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価も、60程度以上、好ましくは80〜350程度、より好ましくは100〜300程度に調整される。
薬理活性物質
本発明の薬物徐放性粒子に配合される薬理活性物質としては、特に限定がなく、公知のものを広く使用できる。このような薬理活性物質としては、例えば、抗生物質、抗真菌剤、抗高脂血症剤、循環器官用剤、抗血小板薬(血小板凝集抑制剤)、抗腫瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、鎮咳去痰剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗てんかん剤、抗潰瘍剤、抗うつ剤、抗アレルギー剤、強心剤、抗不整脈治療剤、血管拡張剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、抗凝血剤、止血剤、抗結核剤、ホルモン剤、麻薬拮抗剤、骨吸収抑制剤、血管新生阻害剤、痛風治療剤等の各種製剤に配合される通常の薬理活性物質を挙げることができる。
具体的には、例えば、テオフィリン、シロスタゾール、グレパフロキサシン、カルテオロール、プロカテロール、レバミピド、アリピプラゾール等が挙げられる。
薬理活性物質は、これらからなる群から選ばれる1種、又は2種以上を用いてもよい。核粒子中における薬理活性物質の含量は、0.001〜60重量%程度、好ましくは0.01〜55重量%程度、より好ましくは0.1〜50重量%程度である。
エチルセルロース
本発明の核粒子のマトリックスには、エチルセルロースを含有していてもよい。特に、薬理活性物質としてテオフィリンを用いた場合は、エチルセルロースを用いる。発明の開示(a)の項でも述べたように、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤を加熱した溶融混合物にテオフィリンを配合すると、溶融混合物の粘度が著しく上昇し均一な撹拌が困難となる。これは薬物としてテオフィリンを用いた場合に限って見られる現象である。しかし、そのテオフィリン含有溶融混合物にエチルセルロースを少量添加すると、粘度が急激に低下して攪拌、混合、送液などの作業性が劇的に改善され、均一な撹拌溶融混合物を得ることができる。これを噴霧冷却することにより安定した薬物放出(溶出)制御性を有する均質なマトリックス製剤粒子を得ることができる。
エチルセルロースの粘度は、トルエン80%とエタノール20%のエチルセルロース5%溶液(25℃)として、通常、1〜100cps程度が好ましく、特に2〜50cps程度が好ましい。
薬理活性物質としてテオフィリンを用いた場合、核粒子中のエチルセルロースの含量は、通常、0.01〜5重量%程度、好ましくは0.1〜3重量%程度になるように調整される。エチルセルロースの含量がこの範囲であると、溶融混合物の粘度の好ましい低下効果が認められる。
添加剤
本発明の核粒子のマトリックスには、本発明の作用効果に悪影響を与えない範囲で、上記に加えて徐放性製剤の分野で用いられている添加剤を加えてもよい。例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、硬化油、木ロウ、カカオ脂、カルナバロウ、ミツロウ、レシチン、セタノール、ステアリルアルコール、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸チタニウム、オレイン酸カルシウム等を挙げることができる。核粒子中における、これらの添加剤の含量は、通常、50重量%以下、好ましくは40重量%以下であることが好ましい。
好ましい核粒子の形態
本発明の薬物徐放性製剤における好ましい核粒子の形態として、次のようなものが挙げられる。
薬理活性物質としては、テオフィリン、シロスタゾール、グレパフロキサシン、カルテオロール、プロカテロール、レバミピド、アリピプラゾール等が挙げられ、特にテオフィリンが好適である。マトリックス基剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル単独のものでもよいが、これにグリセリン脂肪酸エステルを添加するのが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンベヘン酸ハーフエステルが好ましく、特にトリグリセリンベヘン酸ハーフエステルが好ましい。また、グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンベヘン酸エステル又はグリセリンステアリン酸エステルが好ましく、特にグリセリンベヘン酸モノエステル、グリセリンベヘン酸ジエステル、又はそれらの混合物が好ましい。
これらのマトリックス基剤を配合する場合においても、核粒子中のマトリックス基剤全重量のうち、ポリグリセリン脂肪酸エステルは50重量%以上を確保することが好ましい。マトリックス基剤のうち、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの重量比率は、50/50〜99/1程度、好ましくは50/50〜90/10程度であればよい。
核粒子中における薬理活性物質(特に、テオフィリン)の含量は、15〜50重量%程度、好ましくは20〜50重量%程度、より好ましくは25〜45重量%程度である。核粒子中におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含量は、25〜80重量%程度、好ましくは30〜70重量%程度である。核粒子中におけるグリセリン脂肪酸エステルの含量は、1〜50重量%程度、好ましくは2〜40重量%程度、より好ましくは5〜35重量%程度である。特に、テオフィリンを用いた場合、核粒子中のエチルセルロースの含量は、0.01〜5重量%程度、好ましくは0.1〜3重量%程度である。
なお、核粒子中の主薬含量が低い場合には、各成分の含量を次のような範囲に設定してもよい。例えば、核粒子中の主薬含量が0.001〜10重量%程度の場合、核粒子中におけるマトリックス基剤は90〜99.999重量%程度、核粒子中の主薬含量が0.01〜10重量%程度の場合、核粒子中におけるマトリックス基剤は90〜99.99重量%程度程度である。マトリックス基剤における、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの重量比率は、50/50〜99/1、好ましくは50/50〜90/10であればよい。
B−2.核粒子の製法
上記の核粒子は、例えば、次のようにして製造される。
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤及び薬理活性物質を加熱して液状混合物(或いは、溶融混合物)とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒して球形の核粒子が製造される。該液状混合物は、懸濁混合物を含む。
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤を溶融する際の温度は、マトリックス基剤の融点(以下、「T」とも表記する)以上、好ましくは(T+10)℃以上の高い温度であって、薬理活性物質の安定性に問題が生じない温度であればよい。なお、マトリックス基剤が混合物の場合、明りょうな融点を示さないことがあるが、その場合は、混合物が示す軟化温度(軟化点)(以下、「T」とも表記する)が上記Tに代えて用いられる。
なお、以下、マトリックス基剤の融点(T)又は軟化点(T)を、あわせて「T」と表記する場合がある。即ち、T=T又はTで表される。
薬理活性物質は、マトリックス基剤中に均一に分散するようにするため、平均粒子径が通常0.1〜100μm程度、好ましくは0.5〜50μm程度の粉末のものが使用される。
なお、上記の平均粒子径は、公知の方法、例えば、レーザー光散乱法などを用いて測定できる。
マトリックス基剤と薬理活性物質とを加熱して液状混合物とする方法は、特に限定されない。例えば、マトリックス基剤を加熱溶融し、次いで該溶融物に薬理活性物質及び必要に応じて他の成分を加えて溶解又は分散させて液状混合物とする方法が採用される。
核粒子を構成する各成分の配合量は、上記「B−1.核粒子」で示した配合量を用いることができる。なお、薬理活性物質としてテオフィリンを用いた場合は、エチルセルロースが添加されているのが好ましく、核粒子中のエチルセルロースの含量は、通常、0.01〜5重量%程度、好ましくは0.1〜3重量%程度になるように調製される。エチルセルロースを少量添加することにより、溶融混合物の粘度が顕著に低下して撹拌、混合が容易になる。これにより、マトリックス基剤中にテオフィリンを均一に分散させることができ、安定した薬物放出(溶出)制御性を有する均質なマトリックス製剤粒子を得ることができる。
上記で得られる液状混合物を、噴霧冷却することにより核粒子が製造される。該液状混合物の噴霧冷却は、回転ディスク或いは加圧ノズル、二流体ノズルを用いた噴霧冷却装置(スプレークーラー)等の公知の手段を用いて行うことができる。冷却は、通常、室温程度で行えばよい。噴霧条件を適宜選択することにより、粒子を所望の粒径に調節することができる。
この噴霧冷却造粒で得られる核粒子は球形であり、その平均粒子径は、通常250μm以下、好ましくは200μm以下、好ましくは30〜200μm程度,より好ましくは50〜180μm程である。該核粒子の平均粒子径は、公知の方法、例えば篩分け法に従って求めることができる。
上記で得られる核粒子は、そのまま次の溶融コーティング工程に供してもよいが、溶融コーティング前に該核粒子を加熱処理してもよい。加熱処理の条件は、40℃〜T℃程度の温度で、核粒子が溶融、固着しない温度で、2〜48時間(特に、3〜24時間程度)処理すればよい。この加熱処理により、マトリックス基剤の結晶転移を促進して完了させることにより、製品として薬理活性物質の放出性を安定化させることができ、保存安定性にも優れた徐放性粒子が得られる。
上述のようにして得られる本発明の核粒子の構造は、マトリックス中に、薬理活性物質が均一に分散した構造を有している。具体的には、薬理活性物質が、マトリックス基剤粒子の表面或いは表面近傍に局在した層構造ではなく、マトリックス基剤の粒子表面及び粒子内部全体に薬理活性物質が、分子状又は微粒子状で均一に分散しているものである。
ここで、「分子状で均一に分散」とは、薬理活性物質がマトリックスと共に均一な混合物の固体(固溶体)を形成していることいい、「微粒子状で均一に分散」とは、薬理活性物質が実質的にマトリックス全体に濃淡なく微粒子として散在していることをいう。
このように、本発明の核粒子は、マトリックス中に薬理活性物質が均一に分散していることから、平均粒子径30〜200μm程度(好ましくは、50〜180μm程度)と非常に小さな核粒子ではあるが、薬物の苦味をマスクすることができると共に、薬物の安定した放出制御が可能となる。また、マトリックス基剤が核粒子表面にも存在しているため、後述の溶融コーティングにも適した構造を有している。
B−3.溶融コーティング
溶融コーティング
本発明の薬物徐放性製剤は、上記で得られた核粒子に微粉末を溶融コーティングすることにより製造される。微粉末としては、(a)タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化チタン、エチルセルロース、ステアリン酸カルシウム及び酢酸セルロースからなる群から選ばれた少なくとも1種、或いは(b)薬理活性物質が例示される。(b)の薬理活性物質としては、上記「B−1.核粒子」で用いたものが例示される。さらに、必要に応じて、溶融コーティング粒子の静電除去のために、軽質無水ケイ酸等を添加してもよい。なお、溶融コーティングにおいては、噴霧コーティングのように有機溶媒を使用しない。
上記「B−2.核粒子の製法」で得られる核粒子は、再び加熱溶融を行うと、マトリックス基剤が溶融し核粒子表面へ向けて融解液として浸出してくる。この時の融解液の付着力によりその周囲に存在する微粉末が該融解液に付着する。本発明の溶融コーティングは、この溶融したマトリックス基剤の粘着性を利用して、核粒子表面に微粉末を含むコーティング(被覆)層を形成する技術である。
微粉末の平均粒子径は、溶融コーティングされる核粒子の粒子径によりことなり、核粒子の粒子径より小さいのが通常である。通常、20μm程度以下、好ましくは1〜15μm程度、より好ましくは1〜10μm程度の範囲から選択される。
また、核粒子と微粉末との混合割合は、目的とする薬物の溶出速度、核粒子の粒子径及び目的とする徐放性製剤の粒子径等に応じて決定すればよく、微粉末の使用量は、通常、核粒子100重量部に対して5〜50重量部程度、好ましくは10〜50重量部程度,より好ましくは10〜45重量部程度であればよい。
溶融コーティングは、公知の方法に従い実施できる。例えば、上記で得られた核粒子に微粉末を混合し、撹拌下で加熱すればよい。加熱温度は、マトリックス基剤の融点(T)又は軟化点(T)付近、即ち、T付近まで加熱する。T付近とは、(T−15)℃〜T℃、好ましくは(T−10)℃〜T℃の範囲の温度であればよい。例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルとからなるマトリックス基剤の場合、40〜90℃程度、好ましくは45〜80℃程度の範囲である。なお、溶融コーティング時間は、製造スケールによっても異なるが、通常5分〜5時間程度であればよい。
本発明における核粒子への微粉末の溶融コーティングは、撹拌下(撹拌造粒法)、又は流動下(流動層造粒法)のいずれでもよい。撹拌下で行う場合は通常、公知の撹拌造粒装置を用い、流動下で行う場合は通常、公知の流動層造粒装置が用いられる。特に、撹拌下で溶融コーティングするのが好ましい。
ところで、流動式において核粒子を融点付近にまで加熱するためには融点以上の熱風を必要とし、流動層装置(壁面、下部メッシュ等)の温度が高いために核粒子が装置に付着溶融して凝集するため、収率が悪く,さらに徐放化を目的として粉体を核粒子に緻密に完全に付着することは実際困難となる場合がある。これに対し、撹拌式を採用すると、撹拌装置の容器温度(ジャケット温度)を目的とする核粒子の製品温度とほぼ同じ温度で制御することができ、また、ジャケット内に冷水を導入することにより装置全体を急速に冷却することも可能である。そのため核粒子の異常な加熱は発生し難く、壁面への溶融付着による凝集を完全に防ぐことが可能となる。
溶融コーティングで得られる粒子は球形であり、その平均粒子径は、通常、450μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは30〜400μm程度、特に好ましくは、50〜350μm程度である。
かくして得られる、溶融コーティング粒子は、核粒子の周りに微粉末を含む被覆層を有する薬物徐放性粒子である。
後加熱処理
上記で得られる溶融コーティング粒子は、そのまま次の工程に供してもよいが、さらに該溶融コーティング粒子を加熱処理することが好ましい。加熱処理の条件は、40℃〜マトリックス基剤の融点(軟化点)程度の温度で、溶融コーティング粒子が溶融、固着しない温度で、2〜48時間(好ましくは、3〜24時間程度)処理すればよい。この加熱処理により、マトリックス基剤の結晶転移を促進して完了させることにより、製品として薬理活性物質の放出制御性を安定化させることができ、かつ長期保存後でも安定した薬理活性物質の放出制御性が保持される。
具体的には、溶融コーティング後において、ジャケット付き混合機、攪拌混合機、或いは流動層中で上記加熱処理を行う。加熱する方法は特には限定されない。加熱温度はマトリックス基剤の成分に依存するが、例えば、ポリグリセリンステアリン酸エステルとグリセリンステアリン酸エステルを含む系では、40〜50℃程度であればよい。ポリグリセリンベヘン酸エステルとグリセリン脂肪酸ベヘン酸エステルを含む系では、40〜60℃程度で加熱処理することができ、場合によっては45〜55℃程度で加熱処理することが効率的であることがある。
ここで、日本国特許第2893191号公報に記載されている製剤、即ち、ポリグリセリン脂肪酸エステルと脂質との混合物及び薬理活性物質を含有した溶融混合物を、噴霧冷却造粒して得た核粒子を用いた製剤では、40℃或いは50℃で一定時間保存した場合に、薬理活性物質の溶出速度が経時的に低下することが分かった。この現象は、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの配合比が、50/50〜90/10(重量比)のいずれにおいても認められる。つまり、ポリグリセリン脂肪酸エステルにグリセリン脂肪酸エステル或いはその他の脂質が少量でも配合された場合には、高温保存において結晶転移が進行し薬理活性物質の放出速度が変化してしまうことが分かった。
これに対し、本発明の薬物徐放性粒子では、溶融コーティング粒子を積極的に加熱処理に付することにより、結晶転移を促進させ完了させているため、長期保存した後でも安定した薬物放出制御性を有している(例えば、試験例4を参照)。
B−4.倍散工程
上記「B−3.溶融コーティング」で得られる薬物徐放性製剤は、倍散工程に供してもよい。倍散工程は、前述の「A−4.倍散工程」で記載したものを採用することができる。y
倍散工程後の薬物徐放性粒子は、通常、平均粒子径500μm以下、好ましくは410μm以下、より好ましくは、30〜350μm程度、特に50〜350μm程度である。
また、本発明の薬物徐放性粒子は、安定した薬理活性物質の溶出(放出)制御性を有している。例えば、第14改正日本薬局方解説書に記載の溶出試験法(第2法 パドル法)にて、撹拌速度75rpm、水又は0.5%ポリソルベート80 900mlを試験液とし、薬理活性物質100mg相当量の製剤について薬理活性物質の溶出試験を行った場合、2時間溶出率が15〜55%程度、4時間溶出率が25〜70%程度、6時間溶出率が50〜95%程度となる。好ましくは、2時間溶出率が20〜50%程度、4時間溶出率が30〜65%程度、6時間溶出率が55〜90%程度となる。
本発明のテオフィリン徐放性粒子は、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、ドライシロップ、錠剤、カプセル剤等の形態を有する製剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表中の「%」は、特に断りのないかぎり「重量%」を意味する。
<本実施例に用いた原料>
・テオフィリン
・ポエムB−100 理研ビタミン グリセリンモノベヘン酸エステル
・ポエムB−200 理研ビタミン グリセリンベヘン酸エステル(モノエステル及びジエステルを含む)
・モノステアリン酸グリセリンP−100 理研ビタミン グリセリンモノステアリン酸エステル
・J−46B 理研ビタミン テトラグリセリンヘキサベヘン酸エステル
・TR−HB 理研ビタミン トリグリセリンベヘン酸ハーフエステル
・TR−FB 理研ビタミン トリグリセリンベヘン酸フルエステル
・TR−2B 理研ビタミン トリグリセリンモノベヘン酸エステル
・DI−FB 理研ビタミン ジグリセリンベヘン酸フルエステル
・DDB−750 坂本薬品 デカグリセリンヘプタベヘン酸エステル
・HB−750 坂本薬品 デカグリセリンドデカベヘン酸エステル
・エチルセルロース(EC)(7cps) ダウ社 エチルセルロース 7cps
・エチルセルロース(EC)(10cps)−FP ダウ社 エチルセルロース 10cps−FP
・タルク
・軽質無水ケイ酸
・精製白糖(粉砕品)
・D−マンニトール
・ポリソルベート80
・ラウリル硫酸ナトリウム
試験例1(EC添加による溶融混合物の粘度低下効果)
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び必要に応じグリセリン脂肪酸エステルを加熱溶融し、ホモジナイザーを用いて薬物(テオフィリン、レバミピド又はシロスタゾール)を分散させた時の、溶融混合物の粘度を、C型粘度計を用いて測定した。また、EC(7cps)又は酢酸セルロースを添加する以外は、同様にして溶融混合物を調製し、その粘度も測定した。実施例1〜12、比較例1〜9及び参考例1〜7の結果を、下記表1〜6に示す。






表1の比較例1と実施例1、或いは表2の比較例3と実施例5を見ると、エチルセルロースによる粘度低下作用が明らかである。即ち、マトリックス基剤がポリグリセリン脂肪酸エステル(TR−HB又はHB−750)のみの時、溶融混合物は高い粘度を示していた(比較例1では4000及び比較例3では3800)。このため、薬剤をマトリックス中に均一に分散することは困難であった。ところが、これにECを少量添加することにより溶融混合物の粘度は大きく低下することが分かった(実施例1では2000及び実施例5では1600)。
また、表1の比較例2と実施例2〜4、或いは表2の比較例4と実施例6〜8を見ると、マトリックス基剤がポリグリセリン脂肪酸エステル(TR−HB又はHB−750)及びグリセリンベヘン酸エステル(B−100)の時、溶融混合物は高い粘度を示していたが、これにECを少量添加することにより溶融混合物の粘度は大きく低下することが分かった。
また、表1〜3を見ると、ECの添加量も、溶融混合物全体に対し一定量の範囲で添加することが好ましく、それを越えると粘度が上昇することが観測された。つまり、溶融混合物中、テオフィリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び必要に応じてグリセリン脂肪酸エステルの含量が一定の場合は、ECの添加量が一定の範囲において、顕著な溶融混合物の粘度低下効果が観測されることが分かる。
また、表4で示されるように、ECに代えて酢酸セルロースを用いた場合は、溶融混合物の粘度低下効果は見られなかった。
また、表5〜6で示されるように、テオフィリンに変えて他の薬理活性物質(レバミピド、シロスタゾール)を用いた場合も、溶融混合物の粘度低下効果は見られなかった。すなわち、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びテオフィリンを含む溶融混合物にECを添加する場合に限り、溶融混合物の粘度が低下することが分かる。
つまり、テオフィリン以外の薬物を含む溶融混合物に、エチルセルロースを添加した場合や、テオフィリンを含む溶融混合物にエチルセルロース以外の高分子を添加した場合においては、粘度の低下は観測されなかった。
実施例13〜18(核粒子の製造)
上記の試験例1の結果を踏まえて、実施例13において次のようにして核粒子を製造した。トリグリセリンベヘン酸ハーフエステル(水酸基価130、商品名TR−HB)6750g、グリセリンモノベヘン酸エステル1800g(水酸基価280、商品名ポエムB−100)を加熱溶融し、テオフィリン6000g及びエチルセルロース(7cps、ダウ社製)450gを添加して合計15kgの溶融混合物とした。これを、直径2.5mの回転ディスクを有するスプレークーラー(ODT−25,大川原化工機製)を用いてアトマイザー回転数15000rpmにて噴霧冷却し、目開き355μmの篩で整粒して平均粒子径約130μmのテオフィリン含有核粒子を得た。
表7に示す実施例14〜18についても、上記実施例13と同様の操作で核粒子を製造した。
いずれの場合も、溶融混合物の撹拌は効率的に行うことができ、均一な組成のテオフィリン含有核粒子が得られた。

試験例2(水酸基価と静電付着の関係)
核粒子として薬理活性物質を含まない低融点物質粒子を用いて、水酸基価と溶融コーティングにおける核粒子の静電付着の関係を明らかにする。
低融点物質粒子750g及びタルク105gを、ジャケット付き高速撹拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、FM−VG−05、パウレック社製)に投入し、ジャケット温度約68℃で加熱しながら攪拌して溶融コーティングを行った。タルクの微粉がなくなったところでジャケットに水を導入して冷却し、参考例8の溶融コーティング粒子を取得した。
参考例9〜11及び比較参考例1〜2についても同様にして溶融コーティングを行った。参考例及び比較参考例における、造粒機内の壁面への核粒子の静電付着の結果を、表8に示す。
表8より、水酸基価が低い比較参考例1〜2の溶融コーティングでは、造粒機内の壁面への核粒子の静電付着が極めて大きくなり、製品回収率が低く、所望の粒子を得ることができなかった。

実施例19〜21(溶融コーティング:タルク+EC)
上記の試験例2の結果を踏まえて、実施例17で得られた核粒子750g及びエチルセルロース(10cps−FP、ダウ社製)18g及びタルク162gをジャケット付き高速撹拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、FM−VG−05、パウレック社製)に投入して、ジャケット温度を約70℃に加熱しながら攪拌し溶融コーティングを行った。タルク及びECが核粒子に付着した時点でジャケット温度を下げて冷却し、溶融コーティング粒子を得た。軽質無水ケイ酸を添加して混合した後に、目開き355μmの篩で整粒して実施例19の徐放性粒子を得た。
実施例20〜21についても同様にして溶融コーティングを行った。
実施例19〜21では、溶融コーティング時においては、造粒機内の壁面への核粒子の静電付着は全く起こらず、いずれも製品回収率は約99%であった。

実施例22〜32(溶融コーティング:タルク)
表10及び表11に記載の処方で、核粒子750g及びタルクをジャケット付き高速撹拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、FM−VG−05、パウレック社製)に投入し、ジャケット温度を約70℃に加熱しながら撹拌して溶融コーティングを行った。タルクが核粒子に付着した時点でジャケット温度を下げて冷却し、溶融コーティング粒子を得た。軽質無水ケイ酸を添加して混合した後に、目開き355μmの篩で整粒して徐放性粒子を得た。
実施例22〜32では、溶融コーティング時においては、造粒機内の壁面への核粒子の静電付着は全く起こらず、いずれも製品回収率は約99%であった。
なお、表10及び表11中、タルク(%)は、核粒子重量に対するコーティングしているタルクの重量%を表す。


実施例33〜36(溶融コーティング:タルク)
表12に記載の処方で、核粒子750g及びタルクをジャケット付き高速撹拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、FM−VG−05、パウレック社製)に投入し、ジャケット温度を約70℃に加熱しながら撹拌して溶融コーティングを行った。タルクが核粒子に付着した時点でジャケット温度を下げて冷却し、溶融コーティング粒子を得た。軽質無水ケイ酸を添加して混合した後に、目開き355μmの篩で整粒して徐放性粒子を得た。実施例33〜36では、溶融コーティング時においては、造粒機内の壁面への微粉末及び核粒子の静電付着は全く起こらず、いずれも製品回収率は約99%であった。
なお、表12中、タルク(%)は、核粒子重量に対するコーティングしているタルクの重量%を表す。

比較例17(低水酸基価のマトリックス基剤)
トリグリセリンベヘン酸フルエステルTR−FB(水酸基価15)8400gを加熱溶融し、EC1200g及びテオフィリン6400gを混合して噴霧冷却造粒して平均粒子径約130μmの核粒子を得た。この核粒子700g及びタルク350gを混合してジャケット付き高速攪拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、FM−VG−05、パウレック社製)に投入し、ジャケット温度を約70℃に加熱しながら攪拌して溶融コーティングを試みた。
加熱途中にタルクが核粒子に完全に付着する前に造粒機内の壁面に核粒子が静電付着した。加温、攪拌を継続すると、壁面で核粒子が溶融固着し、結局不完全な溶融コーティング粒子しか得られなかった。
試験例3
比較例17で得られた溶融コーティング粒子について溶出試験を行った。
溶出試験は、第14改正日本薬局方解説書に記載の溶出試験法(第2法 パドル法)に準拠して行った。条件は、パドル撹拌速度75rpm、試験液0.5%ポリソルベート80水溶液900mL、試料テオフィリンとして100mg相当量の製剤を用いた。その結果を図1に示す。
図1から明らかなように、比較例17の溶融コーティング粒子は、テオフィリンの溶出(徐放)制御はできないことが分かった。
試験例4(加熱処理)
実施例28で得られた溶融コーティング粒子を、50℃で12時間加熱処理して室温まで冷却した。これをガラス瓶に充填して、50℃で2ヶ月間保存した。加熱処理後(保存前)、保存1ヶ月後、2ヶ月後の粒子について溶出試験を行った結果、加熱処理後(保存前)の粒子と保存後の粒子とでは、溶出速度の変化は殆どなかった(図2を参照)。
なお、溶出試験は、試験例3と同様の条件で、第14改正日本薬局方解説書に記載の溶出試験法(第2法 パドル法)に準拠して行った。
一方、実施例25で得られた溶融コーティング粒子を、加熱処理することなくガラス瓶に充填して、40℃或いは50℃で保存した。溶融コーティング後(保存前)、保存2週間後、1ヶ月後の粒子について上記と同じ溶出試験を行った結果、図3のように、保存後の粒子は、保存前に比べて溶出速度の低下が認められた。これは、保存により、溶融コーティング粒子のマトリックス基剤が結晶転移したためと考えられる。
また、実施例28で得られた溶融コーティング粒子を、加熱処理することなくガラス瓶に充填して、40℃或いは50℃で保存した。溶融コーティング後(保存前)、保存2週間後、2ヶ月後の粒子について上記と同じ溶出試験を行った結果、図4のように、保存後の粒子は、保存前に比べて溶出速度の低下が認められた。これは、保存により、溶融コーティング粒子のマトリックス基剤が結晶転移したためと考えられる。
試験例5(撹拌式又は流動式溶融コーティング)
実施例16で得られた核粒子800g及びタルク160gを、流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し溶融コーティングを行った。給気温度75℃〜90℃で加熱流動し、製品温度67℃まで加熱した後に給気ヒーターをOFFとして、徐々に冷却して溶融コーティング粒子を得た。該粒子を取り出したところ、造粒機下部のメッシュ部への溶融付着が見られ、粗大粒子が多かった。回収した粒子を355μmの篩で整粒した後に軽質無水ケイ酸1.5gを添加することにより流動式溶融コーティング粒子を得た。
実施例28の撹拌式溶融コーティング粒子と、上記流動式溶融コーティング粒子について、溶出試験を行った。なお、溶出試験は、試験例3と同様の条件で、第14改正日本薬局方解説書に記載の溶出試験法(第2法 パドル法)に準拠して行った。その結果を、図5に示す。
図5で示されるように、撹拌式溶融コーティング粒子は、流動式溶融コーティング粒子に比較して、テオフィリンの溶出制御が著しく向上していることが分かった。
実施例37(倍散工程)
実施例27で得られた溶融コーティング粒子290.5g、精製白糖100.5g、D−マンニトール70gを流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し、精製白糖の水溶液を結合液として流動造粒し、乾燥した後に目開き850μmの篩で整粒した後に軽質無水ケイ酸0.5gを添加、混合することにより、本発明のテオフィリン徐放性粒子を得た。
実施例38(倍散工程)
実施例32で得られた溶融コーティング粒子313g、精製白糖90g、D−マンニトール55gを流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し、精製白糖80g及びポリソルベート80 2gの水溶液を結合液として流動造粒し、乾燥した後に目開き850μmの篩で整粒した後に軽質無水ケイ酸0.5gを添加、混合することにより、本発明のテオフィリン徐放性粒子を得た。
実施例39(倍散工程)
実施例28で得られた溶融コーティング粒子300.5g、精製白糖95g、D−マンニトール63.5gを流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し、精製白糖120g及びポリソルベート80 1.5gの水溶液を結合液として流動造粒し、乾燥した後に目開き850μmの篩で整粒した後に軽質無水ケイ酸0.5gを添加、混合することにより、本発明のテオフィリン徐放性粒子を得た。
実施例40(倍散工程)
実施例29で得られた溶融コーティング粒子300.5g、精製白糖105g、D−マンニトール73.5gを流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し、精製白糖40g及びポリソルベート80 1gの水溶液を結合液として流動造粒し、乾燥した後に目開き850μmの篩で整粒した後に軽質無水ケイ酸0.5gを添加、混合することにより、本発明のテオフィリン徐放性粒子を得た。
実施例41(倍散工程)
実施例31で得られた溶融コーティング粒子288g、精製白糖101.5g、D−マンニトール80gを流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し、精製白糖30g及びラウリル硫酸ナトリウム0.5gの水溶液を結合液として流動造粒し、乾燥した後に目開き850μmの篩で整粒した後に軽質無水ケイ酸0.5gを添加、混合することにより、本発明のテオフィリン徐放性粒子を得た。
実施例42(倍散工程)
実施例33で得られた溶融コーティング粒子313g,精製白糖100g、D−マンニトール81.5gを流動造粒機(MP−01、パウレック社製)に投入し、4%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を結合液として流動造粒し、乾燥した後に目開き850μmの篩で整粒し、軽質無水ケイ酸0.5gを添加、混合することにより、本発明のテオフィリン徐放性粒子を得た。
なお、本明細書に記載された公知文献は、参考として援用される。
本発明の効果
本発明のテオフィリン徐放性粒子の製法によれば、ポリグリセリン脂肪酸エステルとテオフィリンからなる溶融混合物にエチルセルロースを添加することにより、溶融混合物の粘度を低下させて撹拌効率の向上を図ることができる。
また、本発明の製法によれば、撹拌式の溶融コーティングを採用した場合、流動式に比べ機械壁面への溶融付着を発生させることなく高収率で目的とする溶融コーティング粒子を得ることができる。
また、本発明の製法によれば、溶融コーティング粒子を加熱処理することにより結晶転移を促進完了させて、経時的に溶出速度が変化しない安定な製剤を得ることができる。
上記の製法により得られる本発明のテオフィリン徐放性粒子は、テオフィリンが均一に分散した均質なマトリックス製剤となり、優れた薬物の放出(溶出)制御性及び優れた保存安定性を有している。また、薬物の不快な味を効果的にマスキングできる。
さらに、本発明は、一定の水酸基価を有するマトリックス基剤を採用することにより、核粒子への微粉末の溶融コーティング時において、マトリックス基剤に起因する撹拌機壁面への静電付着発生を効果的に抑制することができ、溶出制御された粒状製剤を効率的に得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒することを特徴とするテオフィリン徐放性粒子の製法。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒して球形の核粒子とし、該核粒子に微粉末を溶融コーティングすることを特徴とする請求項1に記載の製法。
【請求項3】
核粒子中のテオフィリンの含量が8〜50重量%程度、エチルセルロースの含量が0.01〜5重量%程度であり、微粉末のコーティング量が核粒子100重量部に対し5〜50重量部程度である請求項2に記載の製法。
【請求項4】
核粒子の平均粒子径が250μm以下であり、溶融コーティングにより得られるテオフィリン徐放性粒子の平均粒子径が450μm以下である請求項2又は3に記載の製法。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の製法。
【請求項6】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルである請求項1〜5のいずれかに記載の製法。
【請求項7】
マトリックス基剤が、さらにグリセリン脂肪酸エステルを含む請求項1又は2に記載の製法。
【請求項8】
グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンベヘン酸エステル及びグリセリンステアリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載の製法。
【請求項9】
グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンベヘン酸エステルである請求項8に記載の製法。
【請求項10】
撹拌造粒法を用いて溶融コーティングする請求項2〜9のいずれかに記載の製法。
【請求項11】
マトリックス基剤の融点又は軟化点付近の温度で溶融コーティングする請求項2〜10のいずれかに記載の製法。
【請求項12】
マトリックス基剤の水酸基価が60程度以上である請求項1〜11のいずれかに記載の製法。
【請求項13】
微粉末が、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化チタン、エチルセルロース、ステアリン酸カルシウム及び酢酸セルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2〜12のいずれかに記載の製法。
【請求項14】
請求項2に記載の溶融コーティング後に、加熱処理工程をさらに含むテオフィリン徐放性粒子の製法。
【請求項15】
請求項2に記載の溶融コーティングの前に、核粒子の加熱処理工程をさらに含むテオフィリン徐放性粒子の製法。
【請求項16】
加熱処理の温度が40℃〜マトリックス基剤の融点又は軟化点程度である請求項14又は15に記載の製法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の製法により得られるテオフィリン徐放性粒子。
【請求項18】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むマトリックス基剤、テオフィリン及びエチルセルロースを含む粒子であって、該マトリックス基剤の中にエチルセルロース及びテオフィリンが均一に分散している粒子。
【請求項19】
請求項18に記載の粒子を核粒子として、その核粒子の周りに微粉末を含む被覆層を有するテオフィリン徐放性粒子。
【請求項20】
第14改正日本薬局方の溶出試験法(第2法 パドル法)にて、撹拌速度が75rpm、水又は0.5%ポリソルベート80水溶液を試験液とした場合において、テオフィリンの2時間溶出率が15〜55%程度、4時間溶出率が25〜70%程度、6時間溶出率が50〜95%程度である請求項17〜19のいずれかに記載のテオフィリン徐放性粒子。
【請求項21】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価60以上のマトリックス基剤と薬理活性物質とを含有する核粒子に、微粉末を溶融コーティングすることを特徴とする薬物徐放性粒子の製法。
【請求項22】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価60以上のマトリックス基剤と薬理活性物質とを加熱して液状混合物とし、該液状混合物を噴霧冷却造粒して球形の核粒子とし、該核粒子に微粉末を溶融コーティングすることを特徴とする請求項21に記載の製法。
【請求項23】
マトリックス基剤の融点又は軟化点付近の温度で溶融コーティングする請求項21又は22に記載の製法。
【請求項24】
マトリックス基剤の水酸基価が80〜350程度である請求項21〜23のいずれかに記載の製法。
【請求項25】
請求項21〜24のいずれかに記載の溶融コーティング後に、加熱処理工程をさらに含む薬物徐放性粒子の製法。
【請求項26】
請求項21〜24のいずれかに記載の溶融コーティングの前に、核粒子の加熱処理工程をさらに含む薬物徐放性粒子の製法。
【請求項27】
加熱処理の温度が、40℃〜マトリックス基剤の融点又は軟化点程度である請求項25又は26に記載の製法。
【請求項28】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン脂肪酸ハーフエステルである請求項21〜27のいずれかに記載の製法。
【請求項29】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、トリグリセリンベヘン酸ハーフエステルである請求項21〜27のいずれかに記載の製法。
【請求項30】
請求項21〜29のいずれかに記載の方法により得られる薬物徐放性粒子。
【請求項31】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水酸基価60以上のマトリックス基剤と薬理活性物質とを含む粒子であって、該マトリックス基剤の中に薬理活性物質が均一に分散している粒子。
【請求項32】
請求項31に記載の粒子を核粒子として、その核粒子の周りに微粉末を含む被覆層を有する薬物徐放性粒子。

【国際公開番号】WO2005/000312
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511026(P2005−511026)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008824
【国際出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】