説明

薬物徐放担体

本発明の目的は、タンパク質またはペプチドの生物活性を阻害せずに高封入率で封入でき、完全に生分解性で安全なタンパク質またはペプチドの徐放担体を提供することである。本発明により、タンパク質またはペプチド共存下の溶液中で、ヒアルロン酸に不飽和結合を導入したヒアルロン酸誘導体をメルカプト基含有化合物で、または、ヒアルロン酸にメルカプト基を導入したヒアルロン酸誘導体を不飽和結合含有化合物で化学架橋、ハイドロゲル化することを特徴とする徐放担体の製造方法が提供される。本発明の製造方法により、タンパク質、ペプチドの生物活性を維持したままこれらを効率よく封入することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、タンパク質またはペプチドを徐放するヒアルロン酸ハイドロゲル薬物徐放担体に関する。
【背景技術】
近年、薬効を持つタンパク質、ペプチドの製剤が盛んに実用化されているが、一般にこうした薬物は血中半減期が短く、またその大部分が頻回投与の注射剤であるため、薬剤投与における患者の負担は過大なものとなっている。したがって、できるだけ少量で薬効を発揮させ且つ投与回数も少なくできる、タンパク質またはペプチド薬剤の実用的な徐放型製剤が望まれている。
薬効を持つタンパク質またはペプチドの徐放製剤は、製剤調製時または徐放中の、タンパク質またはペプチドの変性あるいは凝集による回収率低下が、実用化への大きな障害となっている。ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(PLGA)等の生分解性高分子を基材にした徐放製剤が試みられているが、基材の疎水性、乾燥工程、pHの低下に起因するタンパク質の変性、凝集が報告されている(J.Pharm.Sci.第88巻、第166−173頁、1999年、およびJ.Microencapsulation 第15巻、第699−713頁、1998年を参照のこと)。一方、こうした問題が低減される親水性のハイドロゲルを基材に用いた徐放製剤も報告されているが、やはり実用化には至っていない。また、安全性の面からは、徐放基材として用いる素材は、非抗原性、非変異原性、無毒性、生分解性を併せ持つものでなければならず、タンパク質またはペプチドの封入率、回収率および安全性の全てにおいて、実用化レベルに達している徐放型製剤は現在のところ実現していない。
ヒアルロン酸(HA)は、1934年、K.Meyerによって牛の眼の硝子体から単離された生体材料(多糖)であり、細胞外マトリックスの主成分として古くから知られている。HAは、D−グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとがβ(1→3)グリコシド結合により連結された二糖単位から成るグルコサミドグリカンの一種である(式(VI)。

HAは、化学的、物理的構造に種差が無く、ヒトも代謝系を持っており、免疫性、毒性といった面でも最も安全な医用生体材料(Biomaterial)である。近年、微生物による高分子量HAの大量生産が可能となり、変形性軟骨治療薬、化粧品等の分野でも実用化されている。
ヒアルロン酸を基材に用いた架橋方法、ヒアルロン酸ゲルからのタンパク質やペプチド薬物の徐放も多数報告されている。HAを化学架橋でゲル化させる方法としては、カルボジイミド法(国際公開第94/02517号パンフレットを参照のこと)、ジビニルスルフォン法(特開昭61−138601号公報を参照のこと)、グリシジルエーテル法(特開平5−140201号公報を参照のこと)等が知られている。一般に、ゲル中にタンパク質またはペプチドを封入する際、架橋後にタンパク質またはペプチドを導入する方法では、ヒアルロン酸誘導体とタンパク質またはペプチドとの相溶性、静電反発等の問題でその導入率は低い。一方でタンパク質またはペプチド存在下で、in situ架橋を行うと、高封入率でタンパク質またはペプチドを担持させられる利点がある。こうしたin situ架橋により、ヒアルロン酸誘導体ゲル中にタンパク質またはペプチドを封入し、徐放させる製剤についての報告されている(例えば、米国特許第5827937号明細書を参照のこと)。しかし、こうした方法を用いてタンパク質またはペプチド存在下でヒアルロン酸をin situ架橋すると、回収率の点で問題がある。例えば、ヒドラジド基(HZ)を導入したヒアルロン酸誘導体(HA−HZ)をN−ハイドロキシスクシンイミド(NHS)からなる架橋剤で架橋する方法(国際公開95/15168号パンフレットを参照のこと)が報告されているが、生理条件下でのin situ架橋を目的としているため、pH7.4〜pH8.5で架橋形成反応を行っているが、本発明者らによる検討では、この方法で得られるヒアルロン酸誘導体ゲルからの、タンパク質またはペプチドの回収率は低い。この原因は、架橋反応中にタンパク質またはペプチドの一部(主にアミノ基)が架橋剤と反応し、タンパク質が架橋してしまう点にある。またゲル中に残った変性したタンパク質またはペプチドは、生物活性が低下しており、むしろ抗原性発現の原因になる等の問題がある。封入した薬物が高回収率で放出されることは、医薬品として必須の条件であり、タンパク質またはペプチドを反応させずにヒアルロン酸を化学架橋、ゲル化させる方法は知られていない。また、高回収率でタンパク質ペプチドを封入する方法として、ポリエチレングリコール(PEG)を基材に不飽和官能基を求核付加反応で架橋する報告もあるが(国際公開第00/44808号パンフレットを参照のこと)、生分解性でないポリエチレングリコールの断片が残存する問題がある。
【発明の開示】
上述した如く、タンパク質またはペプチドの存在下でその生物活性を維持したままin situで化学架橋し、ハイドロゲル中にタンパク質ペプチドを封入することで、高封入率、高回収率、安全性を満たす生分解性ゲル調製方法、これを用いたタンパク質またはペプチド徐放製剤は知られていない。
本発明者は、かかる問題点を解決する為に鋭意研究を進めたところ、タンパク質またはペプチド共存下の溶液中でヒアルロン酸に不飽和結合を有する基を導入したヒアルロン酸誘導体をメルカプト基含有化合物で、または、ヒアルロン酸にメルカプト基を導入したヒアルロン酸誘導体を、不飽和結合を有する化合物で化学架橋、ハイドロゲル化することで、タンパク質またはペプチドの生物活性を維持したままこれらを効率よく封入でき、生分解性で安全なタンパク質またはペプチド徐放担体となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明の一つの側面によれば、タンパク質またはペプチド共存下の溶液中でヒアルロン酸に不飽和結合を導入したヒアルロン酸誘導体をメルカプト基含有化合物で、または、ヒアルロン酸にメルカプト基を導入したヒアルロン酸誘導体を不飽和結合を有する化合物で化学架橋、ハイドロゲル化することを特徴とした薬物徐放担体が提供される。
本発明の一つの側面によれば、
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジル基またはアミノ基を含む置換基を有する、N−置換アミド基またはエステル基に変換することにより、ヒドラジル基またはアミノ基を導入する工程、
(b)上記ヒドラジル基またはアミノ基が導入されたヒアルロン酸誘導体に、メルカプト基を導入する工程、
を含む、上記メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法が提供される。
当該製造方法において、工程(a)により生成するヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、式(I):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−1ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1ー6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、−Y−Q−Y−NH−R、または−NH−Rであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、−CON(−R)−、または−N(−R)−であり、
は、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である。
また式(I)中、ポリアルキレンオキサイド基とは、−(CH(−R)CHO)−OH(式中、Rは水素原子、またはC1−5アルキル基)で示される基であり、好ましくは、ポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基であり、また好ましくはnは、1〜20の整数である。またポリペプチド基は、特に限定されるものではないが、好ましくはアミノ酸1〜20個からなるものである。またポリエステル基は、特に限定されるものではないが、好ましくはポリグリコール酸基、ポリ乳酸基である。
さらに、式(I)において、好ましくはXは、−N(−R)−である。式(I)において、好ましくはRは、水素原子である。式(I)において、好ましくはXは、−Y−Q−Y−NH−Rである。式(I)において、好ましくはYは、単結合、または、−N(−R)−である。式(I)において、好ましくはYは、単結合である。式(I)において、好ましくはQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。式(I)において、好ましくはRおよびRは、水素原子である。
当該製造方法において、工程(b)により生成するヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、式(II):

(式中、Xは、−Y−Q−Y−N(−R)−Y−Q−SH、または−N(−R)−Y−Q−SHであり、
、R、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6、Y、Y、Q、R、RおよびRは、上記式(I)で定義したとおりであり、
は、単結合、−CO−、−C−、−CO−、−SO−、−CH−CH(OH)−、−C(=NH)−、−PO(OH)−O−、−CSNH−、または−CONH−であり、
は、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である。
さらに、式(II)において、好ましくはXは、−N(−R)−である。式(II)において、好ましくはRは、水素原子である。式(II)において、好ましくはXは、−Y−Q−Y−N(−R)−Y−Q−SHである。式(II)において、好ましくはYは、単結合、または、−N(−R)−である。式(II)において、好ましくはYは、単結合である。式(II)において、好ましくはQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。式(II)において、好ましくはRおよびRは、水素原子である。式(II)において、好ましくはYは、−CO−である。式(II)において、好ましくはQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。
本発明の別の側面によれば、有機溶媒中において、ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、メルカプト基を含む置換基を有するN−置換アミド基に変換するする工程を含む、上記メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法が提供される。
当該製造方法において、生成するメルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、式(IIa):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝1−1ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
2aは、−Y−Q−Y−Q−Y−Q−SH、または−N(−R)−Y−Q−SHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
、Yは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(−R)−、−COO−、−OCO−、−CON(−R)−、−N(−R)CO−、または−N(−R)CON(−R)−であり、
、QおよびQは、それぞれ独立して、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である。
また式(IIa)中、ポリアルキレンオキサイド基とは、−(CH(−R)CHO)−OH(式中、Rは水素原子、またはC1−5アルキル基)で示される基であり、好ましくは、ポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基であり、また好ましくはnは、1〜20の整数である。またポリペプチド基は、特に限定されるものではないが、好ましくはアミノ酸1〜20個からなるものである。またポリエステル基は、特に限定されるものではないが、好ましくはポリグリコール酸基、ポリ乳酸基である。
さらに、式(IIa)において、好ましくはXは、−N(−R)−である。式(IIa)において、好ましくはRは、水素原子である。式(IIa)において、好ましくはX2aは、−Y−Q−Y−Q−Y−Q−SHである。式(IIa)において、好ましくはYは、単結合、または、−N(−R)−である。式(IIa)において、好ましくはYは、単結合である。式(IIa)において、好ましくはYは、単結合である。式(IIa)において、好ましくはQ、QおよびQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。式(IIa)において、好ましくはRおよびRは、水素原子である。式(IIa)において、好ましくはYは、−CO−である。
本発明の別の側面によれば、上記方法により作製された、メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体が提供される。
さらに、該メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、式(III):

(式中、Ra1は、水酸基、直鎖または分枝C1−6アルキル基でモノ置換またはジ置換されていてもよいアミノ基、直鎖または分枝C1−6アルコキシ基であり、あるいはナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオンもしくは置換されていてもよいアンモニウムイオンからなる群から選ばれる陽イオンとカルボン酸塩を形成していてもよく、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHである。)
で示される繰り返し構造Aと、上記式(II)または(IIa)で示される繰り返し構造Bを含み、上記繰り返し構造AとBの存在比率は、好ましくは95:5〜10:90、より好ましくは、90:10〜10:90、更に好ましくは、80:20〜20:80である。
本発明のさらに別の側面によれば、
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジル基またはアミノ基を含む置換基を有するN−置換アミド基に変換することにより、ヒドラジル基またはアミノ基を導入する工程、
(b)上記ヒドラジル基またはアミノ基が導入されたヒアルロン酸誘導体に、不飽和結合を有する基を導入する工程、
の工程を含む、上記不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法が提供される。
当該製造方法において、工程(a)により生成するヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、上記式(I)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である。
当該製造方法において、工程(b)により生成するヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、式(IV):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、−Y−Q−Y−N(−R)−Y−Q、または−N(−R)−Y−Qであり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−1ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または、−CHCO−であり、
は、単結合、−CON(−R)−、または−N(−R)−であり、
は、単結合、−CO−、−N(−R)CO−、−N(−R)−、または、−CHCO−であり、
は、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
は、直鎖もしくは分枝C2−10アルケニル基、または、直鎖もしくは分枝C2−10アルキニル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である。
また式(IV)中、ポリアルキレンオキサイド基とは、−(CH(−R)CHO)−OH(式中、Rは水素原子、またはC1−5アルキル基)で示される基であり、好ましくは、ポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基であり、また好ましくはnは、1〜20の整数である。またポリペプチド基は、特に限定されるものではないが、好ましくはアミノ酸1〜20個からなるものである。またポリエステル基は、特に限定されるものではないが、好ましくはポリグリコール酸基、ポリ乳酸基である。
さらに、式(IV)において、好ましくはXは、−N(−R)−である。式(IV)において、好ましくはRは、水素原子である。式(IV)において、好ましくはXは、−Y−Q−Y−N(−R)−Y−Qである。式(IV)において、好ましくはYは、単結合、−N(−R)CO−、または、−N(−R)−であり、さらに好ましくは、−N(−R)CO−である。式(IV)において、好ましくはYは、単結合、−CON(−R)−であり、さらに好ましくは−CON(−R)−である。式(IV)において、好ましくはYは単結合、−CO−、または、−N(−R)−であり、さらに好ましくは、−CO−である。式(IV)において、好ましくはQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。式(IV)において、好ましくはRおよびRは、水素原子である。式(IV)において、好ましくはQは、直鎖または分枝C2−10アルケニル基である。
本発明のさらに別の側面によれば、上記方法により作製された、不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体が提供される。
さらに、該不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体は、好ましくは上記式(III)で示される繰り返し構造Aと上記式(IV)で示される繰り返し構造Cを含み、上記繰り返し構造AとCの存在比率は、95:5〜10:90、好ましくは、90:10〜10:90、更に好ましくは、80:20〜20:80である。
本発明のさらに別の側面によれば、上記不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体を、不飽和結合含有化合物で化学架橋して得られる、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体が提供され、また、上記メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体を、不飽和結合含有化合物で化学架橋して得られる、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体が提供される。
該化学架橋されたヒアルロン酸誘導体は、好ましくは、式(V):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、−Y−Q−Y−X−Y−Q−S−L、または−N(−R)−Y−Q−S−Lであり、
は、−Q−または−N(−R)−であり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(−R)−、−COO−、−OCO−、−CON(−R)−、−N(−R)CO−、または−N(−R)CON(−R)−であり、
は、単結合、−CO−、−C−、−CO−、−SO−、−CH−CH(OH)−、−C(=NH)−、−PO(OH)−O−、−CSNH−、または−CONH−であり、
、QおよびQは、それぞれ独立して、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
Lは、他の繰り返し構造のLと一緒になって分子内または分子間架橋を形成する、場合によっては主鎖の末端または途中にZ、Z、Z、ZおよびZを含んでいてもよい、直鎖または分枝C1ー10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10アルケニレン基、またはポリエチレンオキサイド基であり、
、Z、Z、ZおよびZは、それぞれ独立して、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(−R)−、−CH(−R)−、−C(−R)(−R)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CON(−R)−、−N(−R)CO−、または−N(−R)CON(−R)−であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水酸基、直鎖または分枝C1−4アルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミド基、またはエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有する、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体である。
また式(V)中、ポリアルキレンオキサイド基とは、−(CH(−R)CHO)−OH(式中、Rは水素原子、またはC1−5アルキル基)で示される基であり、好ましくは、ポリエチレンオキサイド基、またはポリプロピレンオキサイド基であり、また好ましくはnは、1〜20の整数である。またポリペプチド基は、特に限定されるものではないが、好ましくはアミノ酸1〜20個からなるものである。またポリエステル基は、特に限定されるものではないが、好ましくはポリグリコール酸基、ポリ乳酸基である。
さらに、式(V)において、好ましくはXは、−N(−R)−である。式(V)において、好ましくはRは、水素原子である。式(V)において、好ましくはXは、−Y−Q−Y−X−Y−Q−S−Lである。式(V)において、好ましくはXは、−N(−R)−である。式(V)において、好ましくはYは、単結合、−N(−R)CO−、または、−N(−R)−であり、さらに好ましくは、−N(−R)CO−である。式(V)において、好ましくはYは、単結合、−CON(−R)−であり、さらに好ましくは−CON(−R)−である。式(V)において、好ましくはYは単結合、−CO−、または、−N(−R)−であり、さらに好ましくは、−CO−である。式(V)において、好ましくはQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。式(V)において、好ましくはRおよびRは、水素原子である。式(V)において、好ましくはQおよびQは、直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。式(V)において、好ましくはLは、一つまたはそれ以上の水酸基、カルボキシル基、直鎖または分枝C1−4アルキル基で置換されていてもよい、直鎖または分枝C1−4アルキレン基であり、さらに好ましくは直鎖または分枝C1−4アルキレン基である。
さらに、該化学架橋されたヒアルロン酸誘導体は、好ましくは上記式(III)で示される繰り返し構造Aと上記式(V)で示される繰り返し構造Dを含み、上記繰り返し構造AとDの存在比率は、好ましくは95:5〜10:90、より好ましくは、90:10〜10:90、更に好ましくは、80:20〜20:80である。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例2のゲルを2mLのPBS中、37℃でインキュベートし、経時的に200μLサンプリングし、RP−HPLCでバッファー中に放出されたEPOを定量した結果の1例を示す図である。
図2は、本発明のヒアルロン酸誘導体を含む溶液をラットの皮下へ注入した状態および回収されたゲルの1例を示す写真である。
発明を実施するための好ましい形態
以下、本発明を更に具体的に説明する。
本発明の薬物徐放担体は、タンパク質またはペプチド共存下の溶液中でヒアルロン酸に不飽和結合を導入したヒアルロン酸誘導体をメルカプト基含有化合物で、または、ヒアルロン酸にメルカプト基を導入したヒアルロン酸誘導体を不飽和結合含有化合物で化学架橋、ハイドロゲル化することを特徴とする。
本発明の薬物徐放担体は、以下のような優れた特徴を有している。
1.完全生分解性、生体に対する安全性を付与できる。
2.HAに架橋可能な官能基をグラフトすることで、架橋点間距離を非常に小さく(グルクロン酸当たり33モル%グラフトで約3nm)することが可能であり、長期徐放を実現する上で有利である。
3.高架橋密度である。
4.タンパク質の変性を防ぐことができる。
化学架橋とは、共有結合による、分子間または分子内架橋を含むものであり、同時に分子間および分子内架橋を有する場合もある。
架橋時のpHは特に限定されないが、タンパク質またはペプチドを変性させずに不飽和結合とメルカプト基の選択的反応を優先させ、タンパク質またはペプチド含有アミノ基との反応を防ぐpHが好ましい。そのようなpHは当業者が適宜選択することが可能であるが、例えばpH3.0〜9.0、好ましくはpH6.0〜8.5である。
ヒアルロン酸に導入、あるいは架橋剤に含まれる不飽和結合は、C−C2重結合またはC−C3重結合のほか、C=O結合、−C=N−結合であってもよい。不飽和結合を有する基としては、特に限定されないが、例えば、メタクリル基、アクリル基、マレイミド基、ビニルスルフォン基、アセチレンカルボニル基等が挙げられる。
ヒアルロン酸に不飽和結合を有する基を導入した場合に用いられる架橋剤としては、不飽和結合と求核付加反応で反応するメルカプト基を2つ以上同一分子に含む化合物が用いられる。例えば、ジチオトレイトール(DTT)、ブタンジチオール、ポリエチレングリコールジチオール、システインを2つ以上含むペプチド等が挙げられる。
ヒアルロン酸にメルカプト基を導入した場合に用いられる架橋剤としては、メルカプト基と求核付加反応で反応する不飽和結合を有する基を2つ以上同一分子に含む化合物が用いられる。例えば、エチレングリコールジメタクリレート、エチレンビスアクリルアミド、トリス−2−マレイミドエチルアミン、1,8−ビスマレイミドトリエチレングリコール、1,4−ビスマレイミジル−2,3−ジヒドロキシブタンなどを挙げることができる。
また、架橋反応時のタンパク質またはペプチドの安定性向上、反応速度の向上の為に塩基性化合物を添加することが好ましい。用いる塩基性化合物としては特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、アンモニア水、ピリジン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類が挙げられ、好ましくはアミン類が用いられ、さらに好ましくは、トリエタノールアミンが用いられる。
この際好ましい濃度としては、10〜20μL/mLである。
また、架橋反応終了後、未反応のメルカプト基が長時間残存しているとタンパク質の変性を促すため、ゲル調製後は速やかに未反応のメルカプト基を洗い流したり、ヨード酢酸等のメルカプト基と選択的に反応する化合物を添加する等して、未反応のメルカプト基を除去することが好ましい。また、架橋剤の片末端のみがヒアルロン酸誘導体にグラフトされ、反応性を有するメルカプト基が残存し、これがタンパク質の変性に繋がる可能性があるため、このフリーなメルカプト基を除去する意味でもメルカプト基と選択的に反応する化合物を添加することが好ましい。
不飽和結合を有する基を導入したヒアルロン酸誘導体の調製方法は、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸グリシジルエーテルや、無水メタクリル酸等をHAの水酸基に直接反応させる方法(J.Biomed.Mat.Res.54、115−121、2001)では高い導入率は得難い。これは、ヒアルロン酸が水溶液中で水素結合、疎水性相互作用による高次構造を形成し、ヒドロキシル基、カルボン酸基等の官能基の反応性が低いためと考えられる。タンパク質やペプチドの徐放期間を延ばすには、高い架橋密度が望ましい。このためには、グルクロン酸部分のカルボキシル基に置換基を導入するのが望ましい。例えば、ヒアルロン酸を3級アンモニウム塩にして、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性有機溶媒に溶解し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のカップリング剤存在下、不飽和結合を有するアミンまたはヒドラジドと反応させる方法などにより、調製することができる。
不飽和結合を有するアミンは、特に限定されないが、例えば、アリルアミン、ジアリルアミン、4−アミノ−1−ブテン、アクリルヒドラジド、メタクリルヒドラジド等を挙げることができる。
また上述の高い架橋密度を実現できるという点において、アミノ基やヒドラジド基を導入し、その後、このアミノ基やヒドラジド基に不飽和結合を有する基を導入する方法が好ましい。
例えば、ヒアルロン酸のカルボン酸とアジピン酸ジヒドラジド(ADH)、あるいはエチレンジアミン等の2価のヒドラジドまたはアミノ基含有化合物とを、EDC等の縮合剤で縮合させ、ヒドラジド基修飾されたヒアルロン酸誘導体(HA−HZ)、またはアミノ基修飾されたヒアルロン酸誘導体(HA−アミノ基)を合成し、これに無水メタクリル酸を反応させる方法などが挙げられる。
メルカプト基導入ヒアルロン酸誘導体の調製方法は、特に限定されないが、例えば、ヒアルロン酸を3級アンモニウム塩にして、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性有機溶媒に溶解し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のカップリング剤存在下、メルカプト基を有するアミンまたはヒドラジドと反応させる方法などにより、調製することができる。
メルカプト基を有するアミンは、特に限定されないが、例えば、2−アミノエタン−1−チオール、3−アミノプロパン−1−チオール、チオグリコール酸ヒドラジド、などを挙げることができる。
また高い架橋密度を実現できるというの理由で、まずアミノ基やヒドラジド基を導入し、その後このアミノ基やヒドラジド基にメルカプト基を導入する方法が好ましい。例えば、ヒアルロン酸のカルボン酸とアジピン酸ジヒドラジド(ADH)、あるいはエチレンジアミン等の2価のヒドラジドまたはアミノ基含有化合物とを1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等の縮合剤で縮合させ、ヒドラジド基修飾されたヒアルロン酸誘導体(HA−HZ)、またはアミノ基修飾されたヒアルロン酸誘導体(HA−アミノ基)を合成し、これに例えばN−スクシニミジル−3−[2−ピリジルジチオ]プルピオネイト(SPDP)を反応させ、DTT等の還元剤で還元、メルカプト基とする方法などが挙げられる。
ヒドラジド基のヒアルロン酸誘導体における導入率は特に制限されないが、通常、流動性のないゲルを得るためにヒアルロン酸誘導体のグルクロン酸当たり5モル%以上が好ましく、10モル%以上が特に好ましい。
アミノ基のヒアルロン酸誘導体における導入率は、流動性のないゲルを得るためにHAのグルクロン酸当たり5モル%以上、好ましくは10モル%以上である。
不飽和結合を有する基のヒアルロン酸誘導体への導入率は、特に限定されないが、流動性のないゲルを得るためにヒアルロン酸誘導体のグルクロン酸当たり5モル%以上が好ましく、10モル%以上が特に好ましい。
メルカプト基のヒアルロン酸誘導体における導入率は、特に限定されないが、流動性のないゲルを得るためにヒアルロン酸のグルクロン酸当たり5モル%以上、好ましくは10モル%以上である。
ヒアルロン酸に不飽和結合を有する基を導入後、メルカプト基で架橋する場合、メルカプト基の、不飽和結合を有する基に対する比率は特に限定されず、当業者が適宜選択することが可能であるが、タンパク質およびペプチドとの反応を最小にし、且つ、不飽和結合を有する基のゲル中の残存を防ぎ、且つ、速やかに反応させるため、メルカプト基:不飽和結合=3:1〜1:1が好ましい。更に好ましくは、2:1〜1.5:1である。
ヒアルロン酸にメルカプト基を導入後、不飽和結合を有する基で架橋する場合、不飽和結合を有する基のメルカプト基に対する比率は特に限定されず、当業者が適宜選択することが可能であるが、タンパク質、ペプチドとの反応を最小にし、且つ、不飽和結合を有する基のゲル中の残存を防ぎ、且つ、速やかに反応させるため、不飽和結合:メルカプト基=3:1〜1:1が好ましい。更に好ましくは、2:1〜1.5:1である。
HA誘導体と薬理作用を持つタンパク質、ペプチドとからなるハイドロゲルの調製方法としては、例えば、HA誘導体とタンパク質またはペプチドをリン酸緩衝生理食塩水に溶解した後、ここに架橋剤を加えて均一分散させ室温、または4℃で反応させればよい。本架橋方法は比較的反応速度が遅いため、より均一にHAを架橋、均一なゲルを調製できる利点がある。これは徐放性能の安定化、長期化に有効である。
本発明に用いられるヒアルロン酸は、どのようにして得られたヒアルロン酸でもよく、動物組織から抽出されたヒアルロン酸、発酵法で得られたヒアルロン酸、化学合成で得られたヒアルロン酸など、その由来は限定されない。さらに、加水分解処理など、ヒアルロン酸にさらなる処理を行ってもよい。
本発明のHAには、様々な方法で修飾された修飾HAや、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩なども含有される。HAはカルボキシル基とハイドロキシル基が修飾されることが多いが、本発明において修飾HAはどの部分が修飾されていてもよい。修飾HAは特に限定されず、どのような修飾がされていてもよいが、例えば、硫酸化されたHA(国際公開第95/25751号パンフレット)、N−硫酸化されたHA(国際公開第98/45335号パンフレット)、エステル化されたHA(欧州特許出願公開第0216453号明細書、国際公開第98/08876号パンフレット、欧州特許出願公開第0341745号明細書)、過沃素酸酸化されたHA、アミド修飾されたHAなどを挙げることができる。
本発明に用いられるヒアルロン酸の分子量は特に限定されず、いかなる分子量のヒアルロン酸でも使用することが可能であるが、通常5000〜350万ダルトン、好ましくは1万〜200万ダルトンのヒアルロン酸を用いることができる。
薬効を持つタンパク質、ペプチドとしては特に限定されないが、例えば、エリスロポエチン(EPO)、グラニュロサイトコロニー刺激因子(G−CSF)、インターフェロン−α、β、γ、(INF−α、β、γ)、トロンボポエチン(TPO)、シリアリーニューロトロフィクファクター(CNTF)、チューマーネクローシスファクター結合タンパク質(TNFbp)、インターロイキン−10(IL−10)、FMS類似チロシンカイネース(Flt−3)、成長ホルモン(GH)、インシュリン、インシュリン類似成長因子−1(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDFG)、インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)、ブレイン由来ニューロトロフィクファクター(BDNF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、幹細胞因子(SCF)、メガカリオサイト成長分化因子(MGDF)、オステオプロテゲリン(OPG)、レプチン、副甲状腺ホルモン(PTH)、塩基性フィブロブラスト成長因子(b−FGF)、骨形成タンパク質(BMP)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、抗体、ダイアボディー等が挙げられる。
本発明のヒアルロン酸誘導体ゲルは、特に限定されないが、例えば、ハイドロゾルまたはオルガノゾルであってもよく、好ましくはハイドロゾルである。
本発明の徐放担体は、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容し得る希釈剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤等を含む薬学的組成物として、目的とする投与経路に応じ、適当な任意の形態にして投与することができる。投与経路は非経口的経路であっても経口的経路であってもよい。
インジェクション可能な微粒子状にするためには、例えば、ゲル化後に乾燥、凍結粉砕する方法、エマルジョン法で微粒子状のゲルを調製した後、乾燥させる方法、スプレードライ法や、超臨界溶液法などの乾燥微粒子調製法、また、本組成物を架橋反応終了前に溶液状態で投与、体内で架橋させる方法など、既知の方法を採用することができる。
【実施例】
EPO封入ヒアルロン酸(HA)誘導体ハイドロゲルの調製
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
NMR測定は、核磁気共鳴装置 JNM−ECA500(日本電子株式会社製)を用いて重水を溶媒に用いて測定した。また置換基の導入率の決定は、導入した置換基特有のピークとヒアルロン酸由来のピークの積分比より決定した。
逆相カラムによる高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析は、Waters600Sコントローラ、717plusオートサンプラー、486紫外光吸収測定器(Waters社製)を用い、以下の測定条件より行った。
カラム:C4(粒子径 5μm、サイズ 4.6×250mm)
移動相:A:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=400/100/1、B:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=100/400/1
流速:1mL/分、移動相A/B=65/35〜0/100のグラジエント溶出
カラム温度:室温付近
サンプル温度:4℃
検出波長:UV 280nm
解析ソフト:Millenium32ver.3.21
【実施例1】
〔実施例1−1〕 ヒドラジド基(HZ)が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)の合成
分子量1.9×10ダルトンのヒアルロン酸(HA)(電気化学工業株式会社製)200mgを0.5%濃度で蒸留水に溶解し、5N塩酸でpHを4.7〜4.8に調製した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を、HA:EDC:ADH=1:0.3:40(バッチ1−1)、1:1:40(バッチ1−2)、1:5:40(バッチ1−3)モル比になるよう添加し、5N塩酸でpHを4.7〜4.8に保ちながら室温で攪拌下2時間反応させた。100mM塩化ナトリウム溶液、25%エタノール溶液で透析(スペクトラポア7、分画分子量(MWCO):12k−14kダルトン)し、凍結乾燥して標題のHA−HZを得た。
得られたHA−HZ中のHZ導入率をプロトンNMR法で定量したところ、それぞれ、HAのカルボン酸の26%(バッチ1−1)、46%(バッチ1−2)、69%(バッチ1−3)がHZ化されていた(HAおよびHA−HZのN−アセチル基、2.1ppm(3H)、HA−HZのアジピン酸由来部分のメチレン基、1.7ppm、2.4ppm(各2H)を比較)。
〔実施例1−2〕 メタクリル基(MA)が導入されたヒアルロン酸(HA−MA)の合成
実施例1−1のバッチ1〜3のHA−HZ、各々90mgを0.45mLの100mMリン酸バッファーpH8に溶かし(HA−HZ2%w/v)、0.54mLの無水メタクリル酸を加え、室温で攪拌下1日反応させた。エタノールで沈殿、洗浄し、乾燥させた。また、得られたHA−MA中のMA導入率をプロトンNMR法で定量した結果を表1に示す。(HAおよびHA−MAのN−アセチル基、2.1ppm(3H)、HA−MAのメタクリル基のビニルプロトン、5.5−6.0ppm(2H)を比較)。

〔実施例1−3〕 EPO封入HAハイドロゲル調製
実施例1−2のバッチ3の、MAの導入率が29%であるHA−MA11mgと、EPO100μgを0.25mLのリン酸食塩水バッファーpH7.4(PBS)に溶かした(室温、1時間攪拌)。これに、3.5μLのトリエタノールアミン(TEA)、10μLのジチオトレイトール(DTT)溶液(92.55mg/mL PBS)を加えた。室温で3時間反応させるとゲルになった。このゲルを400mLのPBSに対して3時間透析し、未反応のDTTを洗浄した。
【実施例2】
実施例1−3でゲル調製後透析せずに10μLのヨード酢酸溶液(223.2mg/mL PBS、DTTの2倍モル)を加えたこと以外は実施例1−3と同様の方法でEPO封入HAハイドロゲルを調製した。
実施例3:in situ架橋EPO封入HAハイドロゲル
実施例1−2のバッチ2の、MAの導入率が29%であるHA−MA22mgと、EPO400μgを0.48mLのリン酸食塩水バッファーpH7.4(PBS)に溶かした(室温、1時間攪拌)。これに、3.5μLのトリエタノールアミン(TEA)、20μLのジチオトレイトール(DTT)(92.55mg/mL)を加えた。室温で10分間攪拌した後、1mLシリンジに詰め、DTT添加120分後、ラット皮下に100μL投与(22ゲージ針使用)した。4時間後に皮下からゲルを回収した。図2にラットの皮下へ注入した状態および回収されたゲルの写真を示す。皮下で本組成の溶液は架橋、ゲル化することがわかる。
比較例1
実施例1のEPO封入HAハイドロゲル調製において、20μLのジチオトレイトール(DTT)(92.55mg/mL)を加え、pH8.0のPBS中で反応させ、TEAを加えなかったこと以外は実施例1−3と同様の方法でEPO封入HAハイドロゲルを調製した。
比較例2
実施例1のEPO封入HAハイドロゲル調製において、5μLのジチオトレイトール(DTT)(92.55mg/mL)を加え、pH8.0のPBS中で反応させ、TEAを加えなかったこと以外は実施例1と同様の方法でEPO封入HAハイドロゲルを調製した。
比較例3
実施例1のEPO封入HAハイドロゲル調製において、10μLのジチオトレイトール(DTT)(92.55mg/mL)を加え、pH8.0のPBS中で反応させ、TEAを加えなかったこと以外は実施例1と同様の方法でEPO封入HAハイドロゲルを調製した。
試験例1:EPO封入HAハイドロゲルのEPO回収率測定
実施例1、2、および比較例1〜3のゲル(100μg/mL EPO含有0.25mLゲル)にHyaluronidase SD(生化学工業製)0.5ユニットを含むPBSpH7.4を0.75mL加え、25℃で3時間、酵素処理を行い、ゲルを完全に分解させた。酵素処理後の溶液0.15mLを、試料溶液とした。試料溶液は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)測定を行い、0.1mg/mLのEPO水溶液を標準溶液として、標準溶液と試料溶液のピークエリア比から試料溶液中EPO濃度を算出した。添加したEPO量(0.1mg/ゲル1個)に対してRP−HPLCより求めたEPO量を回収率として算出した。
ゲル化に要する時間、仕込みのEPOに対するゲルから回収されたEPOの回収率を表2に示す。


試験例2:EPO封入HAヒドロゲル調製からのEPO徐放
実施例2のゲルを2mLのPBS中、37℃でインキュベートし、経時的に200μLサンプリングした。RP−HPLCでバッファー中に放出されたEPOを定量した。
ゲル調製直後にヒアルロニダーゼで分解、回収されたEPOを100%とした時のゲルからのEPO放出性を図1に示す。尚、12日後にヒアルロニダーゼを添加した。ゲル内のEPOは変性せず、90%以上が徐放されることが分かる。
上記実施例に例示された、ヒアルロン酸架橋方法を用いることで、タンパク質またはペプチドの生物活性を維持したままこれらをin situ架橋し、ハイドロゲルの中に封入したタンパク質またはペプチド徐放製剤を調製することが可能である。
試験例3:in situ架橋EPO封入HAハイドロゲルからのEPO徐放性能
実施例3の調製液をDTT添加後、室温で150分間放置した後、120μLをラット皮下に投与した。血清中のEPO濃度をELISAキット(Roche Diagnistics GmbH,Mannheim,Germany)で測定した。表3にWinNonlin ver.2.1(Pharsight社)を用いてノンコンパートメントモデルで解析した平均滞留時間(MRT)を示す。対象として、EPO溶液、EPO+HA(分子量200万ダルトン、1%濃度)溶液のMRTを示す。EPO溶液の解析データは、文献値(加藤基浩,遺伝子組換えヒト型エリスロポエチン(EPOCH)皮下投与後の体内動態(1):非標識EPOCH単回投与時のラット、イヌにおける動態;薬物動態,8[4],471−479,1933)を基に投与量を補正したシミュレーションデータより算出した値を表3に示す。本架橋ゲルからのEPO放出期間が延長された。

【産業上の利用の可能性】
本発明の薬物徐放担体は、タンパク質またはペプチドの生物活性を維持したままこれらをin Situ化学架橋、HAハイドロゲル中に封入でき、優れた回収率でタンパク質、ペプチドの徐放を可能にする。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質またはペプチド共存下の溶液中でヒアルロン酸に不飽和結合を導入したヒアルロン酸誘導体をメルカプト基含有化合物で、または、ヒアルロン酸にメルカプト基を導入したヒアルロン酸誘導体を不飽和結合を有する化合物で化学架橋、ハイドロゲル化することを特徴とした薬物徐放担体。
【請求項2】
以下の工程を含む、上記メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジル基またはアミノ基を含む置換基を有する、N−置換アミド基またはエステル基に変換することにより、ヒドラジル基またはアミノ基を導入する工程、
(b)上記ヒドラジル基またはアミノ基が導入されたヒアルロン酸誘導体に、メルカプト基を導入する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む、請求項2記載の、メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジル基またはアミノ基を含む置換基を有するN−置換アミド基またはエステル基に変換することにより、式(I):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝1−10アルキル基、直鎖または分枝1−1ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、−Y−Q−Y−NH−R、または−NH−Rであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、−CON(−R)−、または−N(−R)−であり、
は、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程、
(b)上記ヒアルロン酸誘導体に、メルカプト基を導入し、式(II):

(式中、Xは、−Y−Q−Y−N(−R)−Y−Q−SH、または−N(−R)−Y−Q−SHであり、
、R、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6、Y、Y、Q、R、RおよびRは、上記式(I)で定義したとおりであり、
は、単結合、−CO−、−C−、−CO−、−SO−、−CH−CH(OH)−、−C(=NH)−、−PO(OH)−O−、−CSNH−、または−CONH−であり、
は、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程。
【請求項4】
有機溶媒中において、ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、メルカプト基を含む置換基を有するN−置換アミド基またはエステル基に変換するする工程を含む、上記メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒中において、ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、メルカプト基を含む置換基を有するN−置換アミド基またはエステル基に変換することにより、式(IIa):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1ー1ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1ー6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
2aは、−Y−Q−Y−Q−Y−Q−SH、または−N(−R)−Y−Q−SHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
、Yは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(−R)−、−COO−、−OCO−、−CON(−R)−、−N(−R)CO−、または−N(−R)CON(−R)−であり、
、QおよびQは、それぞれ独立して、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程を含む、上記メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項2、3、4または5に記載の方法により作製された、メルカプト基が導入されたヒアルロン酸誘導体。
【請求項7】
上記式(II)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項3で定義したとおりである。)、または式(IIa)(式中、X、X2a、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項5で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有する、請求項6に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項8】
ヒアルロン酸誘導体中のグルクロン酸当たりの、メルカプト基の導入率が5モル%以上であることを特徴とする請求項6または7に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項9】
式(III):

(式中、Ra1は、水酸基、直鎖または分枝C1−6アルキル基でモノ置換またはジ置換されていてもよいアミノ基、または直鎖または分枝C1−6アルコキシ基であり、あるいはナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオンもしくは置換されていてもよいアンモニウムイオンからなる群から選ばれる陽イオンとカルボン酸塩を形成していてもよく、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHである。)
で示される繰り返し構造Aと上記式(II)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項3で定義したとおりである。)または(IIa)(式中、X、X2a、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項5で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造Bを含み、
上記繰り返し構造AとBの存在比率が、95:5〜10:90であることを特徴とする、請求項6、7または8に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項10】
請求項6、7、8または9に記載のヒアルロン酸誘導体を、不飽和結合含有化合物で化学架橋して得られる、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体。
【請求項11】
以下の工程を含む、不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジル基またはアミノ基を含む置換基を有するN−置換アミド基またはエステル基に変換することにより、ヒドラジル基またはアミノ基を導入する工程、
(b)上記ヒドラジル基またはアミノ基が導入されたヒアルロン酸誘導体に、不飽和結合を有する基を導入する工程。
【請求項12】
以下の工程を含む、請求項11に記載の、不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体の製造方法:
(a)上記ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジル基またはアミノ基を含む置換基を有するN−置換アミド基またはエステル基に変換することにより、上記式(I)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項3で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程、
(b)上記ヒアルロン酸誘導体に、不飽和結合を有する基を導入し、式(IV):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、−Y−Q−Y−N(−R)−Y−Q、または−N(−R)−Y−Qであり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−1ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または、−CHCO−であり、
は、単結合、−CON(−R)−、または−N(−R)−であり、
は、単結合、−CO−、−N(−R)CO−、−N(−R)−、または、−CHCO−であり、
は、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
は、直鎖もしくは分枝C2−10アルケニル基、または、直鎖もしくは分枝C2−10アルキニル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法により作製された、不飽和結合を有する基が導入されたヒアルロン酸誘導体。
【請求項14】
上記式(IV)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項12で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有する、請求項13に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項15】
ヒアルロン酸中のグルクロン酸当たりの、不飽和結合を有する基の導入率が5モル%以上であることを特徴とする請求項13または14に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項16】
上記式(III)(式中、Ra1、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項9で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造Aと上記式(IV)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項3で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造Cを含み、
上記繰り返し構造AとCの存在比率が、95:5〜10:90であることを特徴とする、請求項13、14または15に記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項17】
請求項13、14,15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を、メルカプト基を有する化合物で化学架橋して得られる、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体。
【請求項18】
式(V):

(式中、Xは、−O−、または−N(−R)−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、−Y−Q−Y−X−Y−Q−S−L、または−N(−R)−Y−Q−S−Lであり、
は、−Q−または−N(−R)−であり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(−R)−、−COO−、−OCO−、−CON(−R)−、−N(−R)CO−、または−N(−R)CON(−R)−であり、
は、単結合、−CO−、−C−、−CO−、−SO−、−CH−CH(OH)−、−C(=NH)−、−PO(OH)−O−、−CSNH−、または−CONH−であり、
、QおよびQは、それぞれ独立して、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
Lは、他の繰り返し構造のLと一緒になって分子内または分子間架橋を形成する、場合によっては主鎖の末端または途中にZ、Z、Z、ZおよびZを含んでいてもよい、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−10アルケニレン基、またはポリエチレンオキサイド基であり、
、Z、Z、ZおよびZは、それぞれ独立して、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(−R)−、−CH(−R)−、−C(−R)(−R)−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CON(−R)−、−N(−R)CO−、または−N(−R)CON(−R)−であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、またはポリエステル基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水酸基、直鎖または分枝C1−4アルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミド基、またはエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有する、請求項10または17に記載の化学架橋されたヒアルロン酸誘導体。
【請求項19】
上記式(III)(式中、Ra1、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項9で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造Aと上記式(V)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項18で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造Dを含んで成り、
上記繰り返し構造AとDの存在比率が、95:5〜10:90であることを特徴とする、請求項10、17または18に記載の化学架橋されたヒアルロン酸誘導体。
【請求項20】
請求項6、7、8または9に記載のヒアルロン酸誘導体を、不飽和結合含有化合物で化学架橋することを特徴とする、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項21】
タンパク質またはペプチド共存下の溶液中で、請求項6、7、8または9に記載のヒアルロン酸誘導体を、不飽和結合を有する化合物で化学架橋することを特徴とする、請求項20に記載の化学架橋されたヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項22】
上記化学架橋されたヒアルロン酸誘導体が、上記式(V)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項18で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である、請求項20または21に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項13、14,15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を、メルカプト基を有する化合物で化学架橋することを特徴とする、化学架橋されたヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項24】
タンパク質またはペプチド共存下の溶液中で、請求項13、14,15または16に記載のヒアルロン酸誘導体を、メルカプト基を有する化合物で化学架橋することを特徴とする、請求項23に記載の化学架橋されたヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項25】
上記化学架橋されたヒアルロン酸誘導体が、上記式(V)(式中、X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、Ra6は、請求項18で定義したとおりである。)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である、請求項23または24に記載の製造方法。
【請求項26】
請求項10、17、18または19に記載の化学架橋されたヒアルロン酸誘導体を含む、ヒアルロン酸誘導体ゲル。
【請求項27】
上記ヒアルロン酸誘導体ゲルがハイドロゲルである、請求項26に記載のヒアルロン酸誘導体ゲル。
【請求項28】
タンパク質またはペプチドを含有することを特徴とする、請求項26または27に記載のヒアルロン酸誘導体ゲル。
【請求項29】
請求項10、17、18または19に記載の化学架橋されたヒアルロン酸誘導体を含む、薬物徐放担体。
【請求項30】
請求項26、27または28に記載のヒアルロン酸誘導体ゲルを含む、薬物徐放担体。
【請求項31】
請求項26、27または28に記載のヒアルロン酸誘導体ゲルを含む、薬剤組成物。
【請求項32】
請求項1、29または30に記載の薬物徐放担体を含む、薬剤組成物。

【国際公開番号】WO2004/046200
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553228(P2004−553228)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014906
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】