薬物溶出型ステント及びその製造方法
【課題】脂溶性又は水溶性の生理活性物質が高い封入率で封入され細胞移行性にも優れた生体適合性ナノ粒子をコーティングすることにより、生理活性物質が脂溶性であるか水溶性であるかに係わらず標的部位まで効率良く送達でき、即効性及び持続性を兼ね備えた薬剤溶出型ステント及びその製造方法を提供する。
【解決手段】生理活性物質が封入され表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子1を、ステント本体を構成する金属繊維10に電気的に付着させる。そして形成されたナノ粒子層11に生分解性高分子の溶液を含浸させて乾燥させ、生分解性高分子層12を形成する。個々のナノ粒子1は生分解性高分子層12により凝集することなく保持されるため、DESを生体内に留置した後、生分解性高分子層12の分解によりナノ粒子1が徐々に溶出して細胞内に効率良く取り込まれる。
【解決手段】生理活性物質が封入され表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子1を、ステント本体を構成する金属繊維10に電気的に付着させる。そして形成されたナノ粒子層11に生分解性高分子の溶液を含浸させて乾燥させ、生分解性高分子層12を形成する。個々のナノ粒子1は生分解性高分子層12により凝集することなく保持されるため、DESを生体内に留置した後、生分解性高分子層12の分解によりナノ粒子1が徐々に溶出して細胞内に効率良く取り込まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の管腔に生じた狭窄部若しくは閉塞部に留置して開放状態に維持するステントに関し、特に生体適合性の高分子に生理活性物質を封入した生体適合性ナノ粒子がコーティングされた薬剤溶出型ステント及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の欧米化並びに高齢化に伴い、我が国においても心筋梗塞、狭心症、脳卒中、末梢血管疾患等の動脈硬化性疾患が益々増加している。このような動脈硬化性疾患に対する確実な治療法として、例えば心臓の冠状動脈における経皮的冠動脈形成術(以下、PTCAという)に代表されるような、血管の狭窄部或いは閉塞部を外科的に開大させる経皮的インターベーションが普及している。
【0003】
PTCAとは、先端にバルーン(風船)が付いた細いチューブ(カテーテル)を、腕や大腿部の動脈から挿入して心臓冠動脈の狭窄部に通した後、先端のバルーンを膨らませ、狭窄した血管を押し拡げることで、血流を回復させる手技である。これにより、病変部の血管内腔は拡張され、それにより血管内腔を通る血流は増加する。
【0004】
しかし、カテーテルによって血管壁が傷つけられたりすると、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖が起こり、PTCAにより冠狭窄病変部の開大に成功したうちの約30〜40%に再狭窄が生じる。再狭窄が生じた場合は再びPTCAを行う必要があるため、その予防法、治療法の確立が急務となっている。
【0005】
この問題を解決するため、近年、血管、気管、食道、尿道等の管腔に生じた狭窄部に留置して開放状態を維持するステントと呼ばれる医療器具が使用されている。このステントには、小さく折り畳んだ収縮状態のステントを目的部位に挿入した後、収縮を維持する応力を除去し、ステント自体の復元力により半径方向に拡張して生体器官の内面に密着固定される自己拡張タイプと、ステント内に配置されたバルーンの拡張力によりステントを拡張させるバルーン拡張タイプとがある。しかし、狭窄部にステントを留置するのみでは再狭窄を十分に抑制できていないのが現状である。
【0006】
一般に、PTCAあるいはステント留置を行った血管部位は、内皮細胞の剥離あるいは弾性板損傷等の傷害を受けており、これらに対する生体治癒反応は比較的長期(ステント留置後、約2ヶ月間)に亘ると考えられている。より詳細には、ヒトにおける再狭窄の成因は、主としてPTCAあるいはステント留置後1〜3日間に生じる単球の接着・浸潤に見られる炎症過程と、約45日後に最も増殖性がピークとなる平滑筋細胞による内膜肥厚形成過程が考えられている。
【0007】
そこで、金属や高分子材料で形成されたステントの表面に、抗炎症剤や平滑筋細胞の増殖抑制剤を担持させた薬剤溶出型ステント(drug−eluting stent:以下、DESと略す)を用いることにより、管腔内の留置部位で長期にわたって局所的に薬剤を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに提案されている。例えば特許文献1には、ステント本体の表面に治療のための生理活性物質とポリマーの混合物をコーティングしたDESが、また特許文献2には、ステント本体の表面に薬剤層を設け、さらにこの薬剤層の表面に生分解性ポリマー層を設けたDESが、それぞれ提案されている。
【0008】
ここで、平滑筋細胞増殖は再狭窄の主因であるため、病理所見より内膜に平滑筋細胞の増殖が確認される30日から増殖ピークを迎える45日の間で平滑筋細胞の増殖抑制処理を行うのが最も効果的であると判断される。従って、少なくとも炎症過程を抑制する10日以内と平滑筋細胞増殖を抑制する30〜60日の両期間に薬剤の放出量のピークを持ち、それぞれに薬効を示すのに必要な量の薬剤が万遍なく放出されるよう設計するのが最も効果的であると考えられる。
【0009】
しかし、特許文献1、2の方法では、生体内でポリマー層が分解された後に薬剤が放出されるため、DESの留置初期における薬剤放出量が十分でなく、留置後1〜3日間に生じる炎症過程を効果的に抑制することができず、薬剤放出速度のコントロールも容易ではなかった。
【0010】
また、特許文献3には、ステント表面に生理活性物質層を設け、その上に水溶性物質を分散させた生分解性ポリマー層を設けることにより、水溶性物質の溶出により形成される細孔によって生理活性物質を初期放出させ、且つ生分解性ポリマー層の分解により生理活性物質を二次放出させるDESが開示されている。
【0011】
しかし、特許文献3の方法では、生理活性物質層と生分解性ポリマー層とをそれぞれ別々に被覆する必要があるため、製造された個々のステント間における生理活性物質層及び生分解性ポリマー層の層厚のばらつきが大きくなる。また、生分解性ポリマー層が分解されるまでは生理活性物質が少量溶出し、生分解性ポリマー層が分解した後は生理活性物質が一度に溶出してしまうため、生理活性物質の放出量の制御が十分に行えないという問題点もあった。
【0012】
一方、特許文献4には、ステント表面に形成されたポリマー層中に第1の生理活性物質を含有させ、さらに第2の生理活性物質が封入された生分解性ナノ又はマイクロカプセルを含有させることにより、第1の生理活性物質を初期放出させた後、カプセル内の第2の生理活性物質を徐放させることのできるDESが開示されている。さらに特許文献5には、生理活性物質が封入されたナノ粒子を液体媒体中に懸濁し、圧力をかけてe−PTFE(発泡テトラフルオロエチレン)ホイルの隙間内に押し込んで担持させた後、超臨界CO2下でアンカー処理を行うDESの製造方法が開示されている。
【0013】
ここで、従来のナノ粒子の構造を図11に示す。生体適合性ナノ粒子(以下、単にナノ粒子という)1の表面はポリビニルアルコール2で被覆され、内部には生理活性物質3が封入されており、一般的に表面は負に帯電している。しかし、生体内の細胞壁は負に帯電しているため、図11に示すようなナノ粒子では電気的反発力により細胞接着性が悪くなるという問題点があり、封入された生理活性物質を狭窄部等の病変部位へ局所的且つ効率的に取り込ませるためには、ナノ粒子の細胞内への移行性をより一層高める必要性があった。
【0014】
また、特許文献4の方法では、ステント本体にナノ粒子の懸濁液を噴霧或いは塗布したり、ステント本体をナノ粒子の懸濁液に浸漬したりすることにより、ステント本体にナノ粒子を付着させているが、これらの方法では十分な量のナノ粒子を均一に付着させることが困難であった。また、特許文献5の方法では、ナノ粒子をe−PTFEホイル内に押し込む工程、及びアンカー処理する工程が必要となるため製造工程が煩雑となり、さらに圧力チャンバー等が必要となるため設備コストも高くなる。
【0015】
さらに、一般に生体適合性ポリマーは疎水性(脂溶性)であり、ナノ粒子内に高い封入率で封入できる生理活性物質は脂溶性ものに限られるため、特許文献4、5の方法では核酸や遺伝子等の親水性(水溶性)の生理活性物質をステント表面に十分にコーティングすることが困難であった。
【0016】
また、特許文献6には、電気泳動法を用いて多孔性表面に生理活性物質をコーティングする医療用部材の製造方法が開示されており、中性又は電荷の弱い生理活性物質を荷電させて使用できる点についても記載されているが、具体的な荷電方法や電気泳動条件、及び荷電と細胞内への移行性との関係については何ら記載されていなかった。
【特許文献1】特開平8−33718号公報
【特許文献2】特開平9−56807号公報
【特許文献3】特開2004−41704号公報
【特許文献4】特開2004−357986号公報
【特許文献5】特表2004−509704号公報
【特許文献6】特表2002−519139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑み、脂溶性又は水溶性の生理活性物質が高い封入率で封入され細胞移行性にも優れた生体適合性ナノ粒子をコーティングすることにより、生理活性物質を細胞内へ効率良く到達させることができ、取り扱い性にも優れた薬剤溶出型ステント及びその簡便且つ安価な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、生理活性物質が封入され、且つ表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子をステント本体にコーティングした薬剤溶出型ステントである。
【0019】
また本発明の第2の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記生体適合性ナノ粒子は、表面にカチオン性高分子を付着させることにより正電荷修飾されていることを特徴としている。
【0020】
また本発明の第3の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴としている。
【0021】
また本発明の第4の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記生体適合性ナノ粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかで構成されることを特徴としている。
【0022】
また本発明の第5の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記生理活性物質が、核酸化合物であることを特徴としている。
【0023】
また本発明の第6の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴としている。
【0024】
また本発明の第7の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記ステント本体が生分解性材料で形成されることを特徴としている。
【0025】
また本発明の第8の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記ステント本体がマグネシウムで形成されることを特徴としている。
【0026】
また本発明の第9の構成は、少なくともカチオン性高分子を溶解させた水溶液に、少なくとも生理活性物質の溶液と生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液との混合液を加えて、前記生理活性物質が前記生体適合性高分子中に封入され、且つ粒子表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子の懸濁液を生成するナノ粒子形成工程と、前記生体適合性ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させてナノ粒子層を形成するナノ粒子付着工程と、前記ナノ粒子層に生分解性高分子の溶液を含浸させる含浸工程と、前記生分解性高分子の溶液を含浸させた前記ナノ粒子層を乾燥させる乾燥工程と、を有する薬剤溶出型ステントの製造方法である。
【0027】
また本発明の第10の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記ナノ粒子付着工程が、電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法のいずれかにより行われることを特徴としている。
【0028】
また本発明の第11の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記ナノ粒子付着工程は、前記ステント本体に形成された前記ナノ粒子層の上にさらにナノ粒子層を積層する第2付着工程を有することを特徴としている。
【0029】
また本発明の第12の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記生体適合性ナノ粒子の懸濁液に、さらにアニオン性薬物を添加することを特徴としている。
【0030】
また本発明の第13の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記ナノ粒子付着工程を複数回繰り返すことにより、異なる生理活性物質が封入された生体適合性ナノ粒子から成る前記ナノ粒子層を、積層状又はモザイク状に形成することを特徴としている。
【0031】
また本発明の第14の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記含浸工程において、前記生分解性高分子の溶液中にさらに生理活性物質を添加することを特徴としている。
【0032】
また本発明の第15の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記含浸工程においてナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子は、前記生体適合性ナノ粒子を形成する生体適合性高分子より生体内での分解速度が速いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
本発明の第1の構成によれば、ステント表面にコーティングされるナノ粒子の表面が正に帯電しているので、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の細胞接着性が高まり、内部に封入された生理活性物質の細胞内への到達効率を向上させた薬剤溶出型ステントとなる。また、例えば生体適合性ナノ粒子を構成するポリマー材料が脂溶性の場合、脂溶性の生理活性物質の封入率が高くなるが、これに加えて、ナノ粒子表面が正に帯電していて水溶性のアニオン性薬物(生理活性物質)を高い封入率で封入できるため、ステント表面へコーティングする生理活性物質の選択範囲も広くなる。
【0034】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、カチオン性高分子を用いてナノ粒子表面を正電荷修飾することにより、ナノ粒子表面を容易に正帯電させることができる。
【0035】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第2の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、カチオン性高分子として生分解性のキトサンを用いることにより、生体への悪影響がなく、安全性の高い薬剤溶出型ステントとなる。
【0036】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントにおいて、生体適合性ナノ粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかで構成されることにより、生体への刺激・毒性が低く、且つ生体適合性高分子の分解により薬物の徐放が可能な薬剤溶出型ステントとなる。
【0037】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントにおいて、ナノ粒子内へ封入する生理活性物質として核酸化合物を用いることにより、病変部位に安全且つ効率的に核酸化合物を導入して核酸レベルで治療することができ、例えば血管中の狭窄部に適用する場合に再狭窄の可能性の少ない薬剤溶出型ステントを容易に且つ低コストで製造できる。
【0038】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第5の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、核酸化合物として、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上を用いることにより、核酸化合物治療用ツールとして特に好適な薬剤溶出型ステントを提供可能となる。
【0039】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントにおいて、ステント本体を生分解性材料で形成することにより、ステントの構成要素を全て生分解性とすることができ、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ない薬剤溶出型ステントとなる。
【0040】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、ステント本体をマグネシウムで形成することにより、生体への負荷が少なく、且つ低コストな薬剤溶出型ステントとなる。
【0041】
また、本発明の第9の構成によれば、表面が正電荷修飾された細胞接着性の高い生体適合性ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させることにより、ステント本体に均一なナノ粒子層が強固に形成されるため、生理活性物質を細胞内へ効率良く送達可能で取り扱い性にも優れた薬剤溶出型ステントを簡便且つ低コストで製造することができる。また、ナノ粒子層に生分解性高分子を含浸させることにより、ステント表面からのナノ粒子の溶出速度を制御可能となり、さらにナノ粒子同士が凝集して不溶性の皮膜となるのを防止できる。
【0042】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第9の構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子付着工程を電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法のいずれかで行うことにより、簡便な方法で均一なナノ粒子層を効率良く形成することができる。特に電気泳動法を用いた場合、電圧や通電時間の調整により層厚の制御も容易となる上、ステント本体を負極とするため通電中における金属イオンの溶出がなく、ナノ粒子を付着させる金属材料の選択範囲も広くなる。
【0043】
また、本発明の第11の構成によれば、上記第9又は第10の構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ステント本体にナノ粒子層を形成した後、第2付着工程によりその上にさらにナノ粒子層を積層することにより、コーティングされるナノ粒子量を増大するとともに、ステント表面のナノ粒子層全体を均一にすることができる。
【0044】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第9乃至第11のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子形成工程で生体適合性ナノ粒子の懸濁液にさらにアニオン性薬物を添加することにより、ナノ粒子表面の正電荷によりアニオン性薬物が静電気的に担持された状態でステント本体へ引き付けられて付着するため、ステント本体へのコーティングが困難であった核酸、遺伝子等のアニオン性薬物を高濃度に付着させた薬剤溶出型ステントを製造することができる。
【0045】
また、本発明の第13の構成によれば、上記第9乃至第12のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子付着工程を複数回繰り返し行い、異なる生理活性物質が封入されたナノ粒子から成るナノ粒子層を、積層状又はモザイク状に形成することにより、生体内への留置後短時間で溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は外層に、長時間経過後に溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は内層に付着させておけば、2種類以上の生理活性物質のステントからの溶出時間を計画的に制御できる。
【0046】
また、本発明の第14の構成によれば、上記第9乃至第13のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子の溶液中にさらに生理活性物質を添加することにより、ナノ粒子外部の生分解性高分子層中に封入された生理活性物質を即効的に作用させるとともに、ナノ粒子内部に封入された生理活性物質を遅効的且つ持続的に作用させることができる。
【0047】
また、本発明の第15の構成によれば、上記第9乃至第14のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子より分解速度が速い生分解性高分子をナノ粒子層に含浸させることにより、生分解性高分子の分解によりステント表面からナノ粒子が溶出し、細胞内に移行した後にナノ粒子を形成する生体適合性高分子の分解により生理活性物質が徐放されるため、細胞内への生理活性物質の導入効率を高めるとともに、生理活性物質の導入タイミングの制御も容易な薬剤溶出型ステントを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本発明のDESの製造方法は、脂溶性、或いは親水性の生理活性物質を封入し、且つ表面を正に帯電させた(正電荷修飾した)生体適合性ナノ粒子を形成する工程と、ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させてナノ粒子層を形成するナノ粒子付着工程と、ナノ粒子層に生分解性高分子溶液を含浸させる含浸工程と、ナノ粒子層を乾燥させて生分解性高分子層を形成する乾燥工程とを含むものである。
【0049】
一般に、液体中に分散された粒子の多くは正又は負に帯電しており、逆の電荷を有するイオンが粒子表面に強く引き寄せられ固定された層(固定層)と、その外側に存在する層(拡散層)とで、いわゆる拡散電気二重層が形成されており、拡散層の内側の一部と固定層とが粒子と共に移動するものと推定される。
【0050】
ゼータ電位は、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0051】
従って、負帯電の細胞壁に対する接着性を増大させてナノ粒子を細胞内へ効率良く移行させるためには、ナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させることが好ましい。本発明においては、ナノ粒子形成工程(後述)においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加する。これにより、形成されたナノ粒子の表面がカチオン性高分子により修飾(被覆)され、粒子表面のゼータ電位が正となる。
【0052】
また、ナノ粒子表面を正に帯電させることにより、ステント本体を負に帯電させることで、ナノ粒子をステント本体に能動的に付着させることができ、ナノ粒子の付着効率を高めるとともに、一旦付着したナノ粒子はステント表面に強固に固着するため、製造工程中や生体内への挿入及び拡張時におけるナノ粒子の脱離を防止する。以下、ナノ粒子内部への生理活性物質の封入工程からステント本体への付着工程までを順を追って説明する。
【0053】
(ナノ粒子形成工程)
本発明に用いられる生体適合性ナノ粒子は、生理活性物質及び生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒径を有するナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)に加工することができる球形晶析法を用いて、ナノ粒子の内部に生理活性物質を封入することにより製造される。球形晶析法は高剪断力を発生しない粒子調製法であるため、特に、生理活性物質が外部応力に弱い核酸化合物等の場合にも好適に用いることができる。
【0054】
球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0055】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノスフェアを製造する技術である。本法には、生理活性物質を封入する基剤ポリマーとなるPLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)等を溶解できる良溶媒と、これとは逆にPLGAを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、PLGAを溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。
【0056】
操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGAが析出しないように、生理活性物質の溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAと生理活性物質の混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内のPLGA並びに生理活性物質の溶解度が低下し、最終的に、生理活性物質を包含した球形結晶粒子のPLGAナノスフェアが生成する。
【0057】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、容易に形成することができる。さらに、本発明においては貧溶媒中にカチオン性高分子を添加してナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することにより、粒子表面を正に帯電させる。このようなナノ粒子の構造を図1に示す。ナノ粒子1の表面はポリビニルアルコール2で被覆され、さらにその外側をカチオン性高分子4で被覆されており、カチオン性高分子4により正のゼータ電位を有している。
【0058】
カチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0059】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合したカチオン性の天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いナノ粒子を製造することができる。
【0060】
なお、カチオン性高分子の中でもカチオン性のより強いものを用いることにより、ゼータ電位がより大きな正の値となるため、後述するナノ粒子付着工程での電気的吸着力が増大するとともに、粒子間の反発力が強くなって懸濁液中での粒子の安定性も高くなる。例えば、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることが好ましい。
【0061】
なお、ナノ粒子内に封入される生理活性物質が、水溶液中で負の電荷を持つアニオン分子として存在するアニオン性薬物であるときは、貧溶媒にカチオン性高分子を添加すると、ナノ粒子内部への生理活性物質の封入率を高めることができる。通常、封入される生理活性物質が親水性(水溶性)の場合、良溶媒中に分散混合した生理活性物質が貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、ナノ粒子を形成する高分子だけが沈積するため、生理活性物質がほとんど封入されないが、カチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面に吸着したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制できるものと考えられる。
【0062】
また、良溶媒中でのアニオン性薬物の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、アニオン性薬物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0063】
上記球形晶析法で用いられる良溶媒および貧溶媒の種類は、ナノ粒子内に封入される生理活性物質の種類等に応じて決定されるものであり、特に限定されるものではないが、生体適合性ナノ粒子は、人体内へ留置されるDESの材料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。
【0064】
このような貧溶媒としては、水、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0065】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトン、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0066】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度、或いはアセトンとエタノールの混合比や、結晶析出時の条件も特に限定されるものではなく、目的となる生理活性物質の種類や、球形造粒結晶の粒径(本発明の場合ナノオーダー)等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となり、乾燥後の水への再分散性が向上する反面、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以上になると、貧溶媒の粘度が上昇して良溶媒の拡散性に悪影響を与える。
【0067】
そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、ナノ粒子形成後に有機溶媒を留去し、さらに凍結乾燥等により一旦粉末化する場合は、ポリビニルアルコール水溶液の濃度として0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2%程度がより好ましい。なお、ナノ粒子形成後の懸濁液から有機溶媒を留去し、そのままナノ粒子付着工程に用いる場合は0.5重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%程度が特に好ましい。
【0068】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する生理活性物質を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材としては、特にPLGAを好適に用いることができる。
【0069】
PLGAの分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。また、乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるPLGAは、非晶質であり、且つアセトン等の有機溶媒に可溶であるから、好適に使用される。
【0070】
生体内分解性の生体適合性高分子としては、ほかに、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。また、これらのコポリマーであるアスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)やアスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)を用いても良く、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0071】
なお、封入される生理活性物質が親水性(水溶性)の場合、PLGAの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾したもの(以下、PEG−PLGAという)を用いると、親水性の生理活性物質とPLGAとの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。
【0072】
上記以外の生体適合性高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルおよびポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸とメタクリル酸とのポリマー、セルロースおよび他の多糖類、ならびにペプチドまたはタンパク質、あるいはそれらのコポリマーまたは混合物が挙げられる。
【0073】
その後、得られたナノ粒子の懸濁液をそのまま、或いは必要に応じて良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、さらに必要に応じて凍結乾燥等によりナノ粒子を一旦粉末化させた後、再度水に分散させて次のナノ粒子付着工程に用いる。ナノ粒子を懸濁液のまま次工程に用いる場合は、凍結乾燥等を行う必要がなくなり、製造工程が簡略化できるとともに、貧溶媒中へのポリビニルアルコールの添加量も低減できるため好ましい。
【0074】
なお、ナノ粒子を一旦粉末化する場合、結合剤(例えばトレハロース等)と共に再分散可能な凝集粒子に複合化して複合粒子としておけば、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることで結合剤が溶解して再分散可能なナノ粒子に復元できるため好ましい。
【0075】
本発明に用いられる生体適合性ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、ステントが留置される狭窄部に生理活性物質を導入するためナノ粒子を細胞内に取り込ませる必要がある。標的細胞内への浸透効果を高めるためには、平均粒子径を500nm以下とすることが好ましく、特に、核酸化合物を封入し、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞膜のエンドサイトーシスを受けて細胞内に取り込まれることにより、高い遺伝子発現率を実現するためには100nm以下がより好ましい。
【0076】
生体適合性ナノ粒子に封入される生理活性物質としては、アスピリン、ジピリミダモール、ヘパリン、抗トロンビン製剤、魚油等の抗血小板薬、低分子ヘパリン、アンギオテンシン変換酵素阻害薬等の平滑筋増殖抑制薬、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンデシン、塩酸イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、メトトレキサート、シクロフォスファミド等の抗がん剤、マイトマイシンC等の抗生物質、シロリムス、タクロリムス水和物等の免疫抑制剤、ステロイド等の抗炎症薬、セリバスタチンナトリウム、ロバスタチン等の脂質改善薬、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、囮型核酸医薬(デコイ)、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセター、インターロイキン、細胞間情報伝達物質(サイトカイン)等の核酸化合物、グリペックやPTK787等の受容体チロシンキナーゼ阻害薬等が挙げられるが、これらの物質に限定されるものではない。なお、上記生理活性物質のうち何れか1種のみを封入しても良いが、効能や作用機序の異なる成分を複数種封入しておけば、各成分の相乗効果により薬効の促進が期待できる。
【0077】
特に、核酸化合物が封入されたナノ粒子をステント本体に付着させた場合、ステントを利用して狭窄部に安全且つ効率的に核酸化合物を導入可能となるため、狭窄部を核酸レベルで治療する再発可能性の少ない有効な治療法となる。核酸化合物としては、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセターが特に好ましい。ナノ粒子内部への生理活性物質の封入量は、ナノ粒子形成時に添加する生理活性物質の量やカチオン性高分子の種類及び添加量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類により調整可能である。
【0078】
(ナノ粒子付着工程)
次に、生理活性物質が封入された生体適合性ナノ粒子をステント本体に付着させてナノ粒子層を形成する方法について説明する。ナノ粒子を付着させる方法としては、ナノ粒子懸濁液への浸漬やミストコート等によりナノ粒子をステント本体に物理的に付着させる方法を用いても良いが、上述したように本発明で用いられるナノ粒子表面は正に帯電しているため、ナノ粒子を電気的に付着させることによりステント本体に強固且つ均一にコーティング可能となる。ここでは、生体適合性ナノ粒子の懸濁液中でステント本体を負極として通電する電気泳動法と、負に帯電させたステント表面に生体適合性ナノ粒子含有液滴を付着させる噴霧法を例に挙げて説明する。
【0079】
図2は、本発明のDESの製造に用いられる電気泳動装置の構成を示す概略図である。電気泳動装置5は、浴槽6中にナノ粒子1の懸濁液7を満たし、電気回路の負極側に接続されて負極となるステント本体8と、電気回路の正極側に接続された正極9とを浸漬して構成される。なお、ここでは金属繊維を用いて円筒形の網状に成形されたステント本体8を用いている。
【0080】
上述したように、ナノ粒子形成工程で得られたナノ粒子1は、カチオン性高分子で修飾(被覆)されることにより粒子表面のゼータ電位が正となっている。従って、図2の状態で電気回路に通電することにより、ステント本体8表面に負の電位が発生するため、正に帯電したナノ粒子1が引き寄せられて能動的に付着する。なお、懸濁液7中の水分子も電気分解され、水素イオン(H+)もステント本体8側に引き寄せられ、ステント本体8の表面から電子を受け取って水素が生成する。一方、水酸イオン(OH-)は正極9側に引き寄せられ、正極9に電子を放出して酸素と水とが生成する。
【0081】
化学反応が進行することで、陰極(ステント本体)付近のナノ粒子は凝集し、ステント本体8表面に被膜(ナノ粒子層)を形成する。そして、ナノ粒子層が完成した部分は導電性がなくなり、それ以上の膜形成は行なわれないため、均一なナノ粒子層を形成することができる。また、ナノ粒子付着工程の自動化も容易で、層厚の制御も電圧や通電時間の調整により容易に行うことができるため、工業化にも適している。さらに、被塗物(ステント本体)を陰極とするため金属イオンの溶出がなく、鉄、マグネシウム等にもナノ粒子を付着させることができる。
【0082】
図3は、ステント本体を構成する金属繊維に電気泳動法によりナノ粒子が付着した状態を示す断面拡大図である。負に帯電した金属繊維10の表面は正に帯電したナノ粒子1により完全に被覆され、ナノ粒子層11が形成されている。この電気泳動により形成されるナノ粒子層11は、例えばステント本体に通電を行わずにナノ粒子の懸濁液中に浸漬して引き上げることにより形成したナノ粒子層に比べ著しく強固に付着しており、密着性が良く耐蝕性にも優れている。
【0083】
そのため、後の製造工程や生体器官内への挿入時及びステント拡張時における、ステント本体からのナノ粒子層11の剥離を防止することができる。電気泳動法によりナノ粒子層11のステント本体への付着力が増大する原因としては、ナノ粒子1間に作用するファンデルワールス力等によるものと考えられる。
【0084】
ステント本体の形状としては、図2に示したような繊維材料を用いて編み上げて成形したものの他、レーザ等により金属製のパイプを網目状に切削したものを用いても良く、冠状、筒状等、従来公知の種々の形状を用いることができる。また、ステント本体は、バルーン拡張タイプ、自己拡張タイプのいずれであっても良く、ステント本体の大きさも適用箇所に応じて適宜選択すれば良い。例えば心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常、拡張前における外径は1.0〜3.0mm、長さは5.0〜50mm程度が好ましい。
【0085】
また、電気泳動法によりナノ粒子を付着させる場合、ステント本体は金属等の導電性材料を用いる必要がある。ステント本体に用いられる金属としては、ステンレス、マグネシウム、タンタル、チタン、ニッケル−チタン合金、インコネル、金、プラチナ、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。ステントが自己拡張タイプの場合、元の形状への復元性が必要なことからニッケルチタン等の超弾性合金等が好ましい。一方、バルーン拡張タイプの場合、拡張後の形状復帰の起こりにくいステンレス等が好ましく、中でも最も耐腐食性に優れたSUS316Lが好適に用いられる。
【0086】
金属以外の導電性材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン等の導電性ポリマーや、導電性セラミックス等が挙げられる。また、導電性フィラーを添加するか、或いはコーティング等により表面を導電性処理して非導電性樹脂に導電性を付与したものを用いても良い。
【0087】
なお、ステント本体の材料として、ステンレス等の生体内で分解されない材料を用いた場合、長期間のステント留置により血管内壁に炎症が発生して再狭窄の原因となる場合があるため、数ヶ月毎にPTCAを行い、再度ステントを留置する必要があり、患者の負担が大きかった。そこで、ステント本体を生分解性の金属であるマグネシウムで形成しておけば、ステント本体は生体内で徐々に分解されて留置後数ヶ月で消失するため、ステント留置による炎症の発生を抑制することができる。
【0088】
特に、マグネシウム製のステント本体に、生体適合性高分子としてPGA、PLA、PLGA、PAL等の生分解性高分子で形成されたナノ粒子を付着することにより、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ないDESとなる。このとき、ナノ粒子を形成する生分解性高分子は、後述する含浸工程でナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子よりも生体内での分解速度の遅いものを用いることが好ましい。
【0089】
また、ナノ粒子内に封入される生理活性物質がアニオン性薬物の場合、ナノ粒子を電気泳動法によりステント本体に付着させる際に、ナノ粒子の懸濁液中にアニオン性薬物をさらに添加すれば、ナノ粒子表面の正電荷によりアニオン性薬物が静電気的に担持された状態でステント本体へ引き付けられて付着する。従って、ステント本体への高濃度のコーティングが極めて困難であった核酸、遺伝子等のアニオン性薬物を一層効率良く付着させることができる。
【0090】
ここで、電気泳動時に正極及び負極間に印加される電圧が高いほど、単位時間当たりにステント表面に引き付けられるナノ粒子量も多くなるため、ステント表面へのナノ粒子層の形成を短時間で行うことができる反面、一度に多量のナノ粒子が付着するため、均一なナノ粒子層の形成が困難となる。そのため、電気泳動時に印加する電圧は、要求されるナノ粒子層の均一性やナノ粒子層の形成効率に応じて適宜設定すれば良い。
【0091】
次に、噴霧法について説明する。噴霧法は、通電により負に帯電させたステント本体表面に、正電荷付与された生体適合性ナノ粒子の微小な懸濁液滴を電気的に付着させる方法であり、ナノ粒子懸濁液を超音波によりミスト化する超音波ミスト法、スプレー装置或いはエアーブラシを用いてナノ粒子懸濁液をステント表面に吹き付けるスプレー法、エアーブラシ法等が挙げられる。
【0092】
この噴霧法においてもステント本体に通電して負に帯電させておくため、電気泳動法の場合と同様に、ステント本体を帯電させずに噴霧処理した場合に比べて正電荷修飾されたナノ粒子層が著しく強固に付着し、ステント本体とナノ粒子との密着性が良く耐蝕性にも優れたDESを製造することができる。さらに、液滴中のナノ粒子がステント本体に能動的に付着するため、ミスト化又は噴霧された液滴が直接付着し難いステントの側面や裏面へのナノ粒子の付着効率を高めることもできる。なお、噴霧法において使用するステント本体の形状や材質については電気泳動法の場合と同様であるため説明を省略する。
【0093】
また、電気泳動法或いは噴霧法によりステント表面にナノ粒子層を形成する工程に加えて、さらにその上にナノ粒子層を積層する工程(以下、第2付着工程という)を設けることもできる。第2付着工程では、ステント表面に形成された均一なナノ粒子層に沿って新たなナノ粒子層が積層されるため、単位時間当たりのナノ粒子付着量を多くしても所望の層厚を有するナノ粒子層を均一に且つ効率的に形成することができる。第2付着工程には、上述したような電気泳動法や超音波ミスト法、スプレー法、エアーブラシ法等が用いられる。第2付着工程に超音波ミスト法、スプレー法、エアーブラシ法等を用いる場合、ナノ粒子層をより効率的且つ強固に積層するため、ステント本体を負に帯電させておくことが好ましい。
【0094】
なお、ステント表面に形成されたナノ粒子層は、そのままでは生体内に留置された後、短時間で一度に溶出してしまい、薬効の持続性のコントロールが困難となる。また、ナノ粒子層を完全に乾燥させると、ナノ粒子同士がますます強固に凝集してナノ粒子層が不溶性の皮膜となり、ナノ粒子がステント表面から溶出せず細胞内に取り込まれなくなるおそれもある。そこで、上記ナノ粒子付着工程によりナノ粒子層を形成した後、ナノ粒子層が完全に乾燥する前に生分解性高分子の溶液を含浸させ(含浸工程)、その後ナノ粒子層を乾燥させて(乾燥工程)生分解性高分子を固化する。
【0095】
ナノ粒子層が形成されたステント(図3)に含浸工程及び乾燥工程により生分解性高分子層を形成した状態を図4に示す。金属繊維10の表面に形成されたナノ粒子層11が完全に乾燥する前に生分解性高分子の溶液を含浸させると、ナノ粒子層11を形成する各ナノ粒子1の隙間に生分解性高分子の溶液が浸透する。そして、生分解性高分子の溶解に用いた溶媒及びナノ粒子層11に残存していた水分を乾燥させると、生分解性高分子層12が形成される。これにより、個々のナノ粒子1は生分解性高分子によって凝集することなく保持されることとなり、DESを生体内に留置した後、生分解性高分子層12の分解によりナノ粒子が徐々に溶出し、例えば血管壁細胞内へ取り込まれる。
【0096】
生分解性高分子としては、例えばポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート等の微生物産生系の高分子や、コラーゲン、酢酸セルロース、バクテリアセルロース、ハイアミロースコーンスターチ、澱粉、キトサン等の天然高分子等が挙げられる。中でも、ナノ粒子の形成に用いられるPLGA等の生体適合性高分子よりも生体内分解速度が速いコラーゲン等を用いることが好ましい。これらの生分解性高分子の種類や分子量等を適宜選択することにより、ステント表面に付着させたナノ粒子の溶出速度を制御可能となる。なお、生分解性高分子としてPGA、PLA、PLGA、PAL等を用いることも可能であるが、その場合はナノ粒子の分解速度よりも速くなるように分子量の小さいものを使用すれば良い。
【0097】
以上のようにして得られたDESは、ステント本体に付着しているナノ粒子の表面が正に帯電しているため、ステント表面から溶出されたナノ粒子の細胞接着性が増大する。これにより、従来のDESに比べてステントが留置される狭窄部位細胞へのナノ粒子の導入効率を高めることができる。
【0098】
また、封入される生理活性物質の種類が異なる複数種のナノ粒子を作製し、それぞれのナノ粒子を層状に或いはモザイク状に付着させても良い。このとき、DES留置後短時間で溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は外層に、長時間経過後に溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は内層に付着させておけば、2種類以上の生理活性物質のDESからの溶出時間を計画的に制御できる。また、2種類以上の生理活性物質を、生体適合性高分子の種類や分子量の異なるナノ粒子中に封入して溶出時間を制御しても良い。
【0099】
さらに、ナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子の溶液中にも生理活性物質を添加することにより、ナノ粒子外部の生分解性高分子層中に封入された生理活性物質を即効的に作用させるとともに、ナノ粒子内部に封入された生理活性物質を遅効的且つ持続的に作用させることができる。生理活性物質の種類及び封入量は、生理活性物質の作用機序や、要求される即効性、持続性の程度等により適宜設定することができる。
【0100】
即ち、投与後長期間に亘る効果の持続性が要求される生理活性物質の場合はナノ粒子内部へ封入すれば良く、投与直後より効果の発現が要求される生理活性物質の場合はナノ粒子外部の生分解性高分子層中へ封入すれば良い。生分解性高分子層中へ封入される生理活性物質としては、ナノ粒子内部に封入される生理活性物質として例示した種々の生理活性物質を用いることができる。
【0101】
その他、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、蛍光標識クマリンを封入し表面を正電荷修飾したPLGAナノスフェアの調製及びそれをコーティングしたDESの作製、並びに細胞内への薬物浸透効果について、実施例に沿って具体的に説明する。
[PLGAナノスフェアの調製]
【実施例1】
【0102】
0.5重量%のポリビニルアルコール(PVA403、クラレ社製)水溶液と、0.02重量%のキトサン(モイスコートPX、片倉チッカリン製)水溶液を混合し、貧溶媒とした。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA7520、和光純薬製)2gをアセトン40mLに溶解した後、エタノール20mLで溶解したクマリン6(MP Biomedical社製)1mgを添加、混合し良溶媒とした。この良溶媒を先の貧溶媒中に40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によって、クマリン封入PLGAナノスフェア懸濁液を得た。
【0103】
続いて、減圧下40℃、400rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒を留去した。約2時間溶媒留去を行った後、懸濁液をフィルターろ過し、ろ液を一晩凍結乾燥した。一日後、平均粒子径が260nmの水への再分散性が良好で、ゼータ電位が+17.3mVと正電荷のPLGA複合ナノ粒子乾燥粉末を得た。
【比較例1】
【0104】
貧溶媒中にキトサン水溶液を添加しない以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、平均粒子径が250nmの水への再分散性が良好で、ゼータ電位が−33mVのクマリン封入PLGA複合ナノ粒子乾燥粉末を得た。
[ステント本体へのPLGAナノスフェアのコーティング]
【実施例2】
【0105】
実施例1で調製したクマリン封入PLGA複合ナノ粒子を精製水で希釈して0.75%懸濁液とした。一方、内径1.1mm、外径1.3mm、長さ18mm、肉厚0.1mmのステンレス(SUS316L)製パイプをレーザーカッターで網目状に削り、ステント本体を作製した。このステント本体の内径を若干拡張させて、内径1.1mm、外径1.3mm、肉厚0.1mmのステンレス(SUS316L)製パイプに外挿した。
【0106】
図5は、本実施例で用いた電気泳動法によるナノ粒子コーティング装置の概略構成図である。上記ナノ粒子懸濁液13を、上面が開口した内径8.5mm、外径9.5mm、肉厚0.5mm、高さ23mmのステンレス(SUS304)製の円筒容器14(電解浴)に満たし、ステント本体8が装着されたステンレス製パイプ15をステント本体8部分がナノ粒子懸濁液13に完全に浸漬し、且つステンレス製パイプ15の一部が液面から突出するように円筒容器14内に起立させた。なお、ステンレス製パイプ15の先端にはシリコンチューブ16を装着し、円筒容器14との絶縁性を確保した。
【0107】
そして、円筒容器14が正極、ステンレス製パイプ15が負極となるように外部電源17及び電流計18を接続し、電圧2V、電流5mAで60分間通電した。ステント本体8とステンレス製パイプ15(負極)は同一の材質で形成されており、導電性が等しいため、ステント本体8に均一に通電することができた。通電終了後、ステント本体8をステンレス製パイプ15から取り外して乾燥し、DESを作製した。得られたDESの表面を走査型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察したところ、図6に示すように、ステント本体表面にクマリン封入PLGAナノ粒子が均一に付着していることが確認された。
【比較例2】
【0108】
クマリンを0.1%ポリビニルアルコール水溶液に溶解して濃度1μg/mLに調製し、噴霧液とした。この噴霧液8mLを超音波式吸入器(ネブライザーNE−U17、オムロンヘルスケア社製)に仕込み、周波数1.7MHzで粒子径1〜8μmのミストを発生させた。このミストを実施例2と同一のステント本体にコーティングし、乾燥した。走査型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察したところ、ステント本体表面にはクマリンがほとんど付着していないことが確認された。
【0109】
実施例2及び比較例2の結果より、クマリンをナノ粒子内に封入した場合、未封入のクマリンに比べてステント表面に容易にコーティングされることが確認された。これは、ナノ粒子が十分に小さいため、一旦ステント表面に付着するとナノ粒子とステント表面との力学的な相互作用により剥がれにくくなるためであると推認される。
【比較例3】
【0110】
比較例1で調製したクマリン封入PLGA複合ナノ粒子を精製水で希釈して0.75%懸濁液とした。このナノ粒子懸濁液を実施例2で用いた円筒容器14に満たし、円筒容器14が負極、ステンレス製パイプ15が正極となるように外部電源17及び電流計18を接続し、ナノ粒子コーティング装置を組み立てた。電圧6V、電流5mAで60分間通電した。通電終了後、ステント本体8をステンレス製パイプ15から取り外して乾燥し、DESを作製した。得られたDESの表面を走査型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察したところ、実施例2の場合と同様に、ステント本体表面にクマリン封入PLGAナノ粒子が均一に付着していることが確認された。
【実施例3】
【0111】
[DESを用いたラット平滑筋培養細胞への薬物取り込み試験]
DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium, high glucose、SIGMA社製;D5796)に1%ペニシリンストレプトマイシンを添加し、さらにリン酸緩衝液を最終濃度10%となるように添加して培養液とした。この培養液に、ラット胸部大動脈平滑筋細胞を、4×104cells/mLの濃度(細胞数)となるように懸濁し、500μL(2×104cells/well)ずつ48穴の細胞培養プレート(OAAS−48、コスモ・バイオ社製)に播種した。37℃、5%CO2雰囲気のインキュベータ内で培養し、48時間後に培養液を250μL/wellずつ、同一培養プレート上の3つのwellに入れ替えた。
【0112】
実施例2で作製した、クマリン封入PLGAナノ粒子をコーティングした本発明のDESを長手方向に3分割し、一つのwellに入れた。また、比較対照例として、比較例3で作製したDES、及びクマリン(2.5μg/mL;ナノスフェアに封入されたクマリン量の10倍量に相当)の0.1%ポリビニルアルコール水溶液を、それぞれ他のwellに入れた。その後、培養プレートを37℃、5%CO2雰囲気のインキュベータ内で2時間保存した後、倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)により励起波長474nm、蛍光波長509nmで培養プレートの裏面から観察した。
【0113】
また、取り込みの対照として、細胞マーカー Lyso Tracker Red DND-99 (Molecular Probes 社製:L−7528)を使用した。Lyso Tracker 1mM溶液を最終濃度75nMになるように培養液に溶解し、これを48時間培養した細胞の培養液と交換(500μL/well)し、37℃、5%CO2雰囲気下で3時間培養を行った。なお、クマリン取り込みは励起波長474nm、蛍光波長509nmで、細胞マーカーの取り込みは励起波長577nm、蛍光波長590nmで観察した。結果を図7〜図10に示す。
【0114】
図7は、細胞マーカーLyso Trackerを加えたラット平滑筋培養液の3時間後の蛍光顕微鏡写真であり、図8〜図10は、実施例2、比較例3で作製したDES、及びクマリンの0.1%ポリビニルアルコール水溶液を、ラット平滑筋培養液中に浸漬した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。なお、図8の右上方に観察されるのはDESである。図7から明らかなように、細胞マーカーLyso Trackerは、ラット平滑筋培養細胞の99%以上に取り込まれることが確認された。
【0115】
また、図8から明らかなように、実施例2のDESを浸漬したwellでは、細胞マーカーを加えた図7と同様に、細胞表面から核周囲に向かうにつれて濃い蛍光が観察された。また、比較例3のDESを浸漬したwellでは、図9に示すように蛍光は見られたものの、図8に比べて蛍光強度は弱かった。一方、クマリン溶液を添加したwellでは、図10に示すように蛍光はほとんど見られなかった。
【0116】
以上から、正電荷修飾されたクマリン封入PLGAナノ粒子をステント本体にコーティングすることにより、ナノ粒子と負に帯電した細胞壁との接着性及び細胞内部への取り込み性が向上し、表面が正電荷修飾されていないクマリン封入ナノ粒子、及び未封入のクマリンに比べて細胞内部まで確実に且つ高濃度に浸透することが確認された。
【0117】
なお、本実施例では短期間で効果を発現させるため、生分解性高分子の溶液を含浸させる含浸工程を設けず、ステント本体にナノ粒子を付着後そのまま乾燥させたDESを用いて試験を行ったが、含浸工程によりナノ粒子層の上に生分解性高分子層を設けたDESを用いた場合についても同様の結果が得られるものと推認される。また、ここではナノ粒子内部に蛍光物質であるクマリンを封入し、細胞内への浸透効果について調査したが、クマリン以外の種々の生理活性物質を封入した場合についても同様に優れた浸透効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のDESは、カチオン性高分子により表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子がコーティングされているので、生体内で溶出されるナノ粒子の細胞接着性が高まり、細胞内への移行性も向上する。また、カチオン性高分子としてキトサンを用い、さらに、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGA、若しくはPALのいずれかを用いることにより、安全性が高く、安定性、徐放性にも優れたDESを提供することができる。
【0119】
また、ナノ粒子内部に核酸化合物を封入することにより、病変部に安全且つ効率的に遺伝子を導入して遺伝子レベルで治療するためのDESとなる。核酸化合物としてプラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー等を用いた場合、特に好適な遺伝子治療用ツールとなる。さらに、ステント本体をマグネシウム等の生分解性材料で形成しておけば、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ないDESとなる。
【0120】
また、本発明のDESの製造方法によれば、脂溶性の薬物はもちろん、従来のDESに付着させることが困難であった水溶性薬物を効率良く付着させたDESを簡便且つ低コストで製造することができる。さらに、ナノ粒子を電気的に付着させることにより、ステント本体の表面に均一に且つ強固にナノ粒子層を形成することができ、ナノ粒子層に生分解性高分子を含浸して乾燥させることにより、ナノ粒子層が不溶性の皮膜となるのを防止するとともに、生分解性高分子の分解に伴いステント表面からナノ粒子が徐放されるため、取り扱いが容易で薬物の放出速度も制御できるDESの簡便且つ安価な製造方法となる。ナノ粒子付着工程としては、電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法が好適に用いられる。
【0121】
また、ステント本体にナノ粒子を電気的に付着させてナノ粒子層を形成した後、さらにナノ粒子層を積層する第2付着工程を設けた場合、所望の層厚のナノ粒子層を均一に且つ効率良く形成することができる。
【0122】
また、異なる生理活性物質が封入されたナノ粒子層を層状又はモザイク状に形成したり、ナノ粒子層に含浸される生分解性高分子層に生理活性物質を封入したり、或いは要求されるナノ粒子の放出速度に応じて生分解性高分子の種類を選択することにより、生理活性物質の計画的な放出が可能なDESを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】は、本発明のDESに用いられる粒子表面が正電荷修飾されたナノ粒子の構造を示す模式図である。
【図2】は、本発明のDESの製造に用いられる電気泳動装置の一例を示す概略図である。
【図3】は、ステント本体を構成する金属繊維にナノ粒子層が形成された状態を示す断面模式図である。
【図4】は、ステント本体を構成する金属繊維にナノ粒子を含む生分解性高分子層が形成された状態を示す断面模式図である。
【図5】は、実施例2で用いたナノ粒子コーティング装置の概略構成図である。
【図6】は、実施例2で作製されたDES表面の蛍光顕微鏡写真である。
【図7】は、細胞マーカーを加えたラット平滑筋培養液の3時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図8】は、実施例2で作製された本発明のDESをラット平滑筋培養液中に浸漬した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図9】は、比較例3で作製されたDESをラット平滑筋培養液中に浸漬した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】は、クマリン溶液をラット平滑筋培養液中に添加した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図11】は、従来のナノ粒子の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0124】
1 生体適合性ナノ粒子(ナノスフェア)
2 ポリビニルアルコール
3 生理活性物質
4 カチオン性高分子
5 電気泳動装置
6 浴槽
7 懸濁液
8 ステント本体
9 正極
10 金属繊維
11 ナノ粒子層
12 生分解性高分子層
13 ナノ粒子懸濁液
14 円筒容器
15 ステンレス製パイプ
16 シリコンチューブ
17 外部電源
18 電流計
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の管腔に生じた狭窄部若しくは閉塞部に留置して開放状態に維持するステントに関し、特に生体適合性の高分子に生理活性物質を封入した生体適合性ナノ粒子がコーティングされた薬剤溶出型ステント及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の欧米化並びに高齢化に伴い、我が国においても心筋梗塞、狭心症、脳卒中、末梢血管疾患等の動脈硬化性疾患が益々増加している。このような動脈硬化性疾患に対する確実な治療法として、例えば心臓の冠状動脈における経皮的冠動脈形成術(以下、PTCAという)に代表されるような、血管の狭窄部或いは閉塞部を外科的に開大させる経皮的インターベーションが普及している。
【0003】
PTCAとは、先端にバルーン(風船)が付いた細いチューブ(カテーテル)を、腕や大腿部の動脈から挿入して心臓冠動脈の狭窄部に通した後、先端のバルーンを膨らませ、狭窄した血管を押し拡げることで、血流を回復させる手技である。これにより、病変部の血管内腔は拡張され、それにより血管内腔を通る血流は増加する。
【0004】
しかし、カテーテルによって血管壁が傷つけられたりすると、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖が起こり、PTCAにより冠狭窄病変部の開大に成功したうちの約30〜40%に再狭窄が生じる。再狭窄が生じた場合は再びPTCAを行う必要があるため、その予防法、治療法の確立が急務となっている。
【0005】
この問題を解決するため、近年、血管、気管、食道、尿道等の管腔に生じた狭窄部に留置して開放状態を維持するステントと呼ばれる医療器具が使用されている。このステントには、小さく折り畳んだ収縮状態のステントを目的部位に挿入した後、収縮を維持する応力を除去し、ステント自体の復元力により半径方向に拡張して生体器官の内面に密着固定される自己拡張タイプと、ステント内に配置されたバルーンの拡張力によりステントを拡張させるバルーン拡張タイプとがある。しかし、狭窄部にステントを留置するのみでは再狭窄を十分に抑制できていないのが現状である。
【0006】
一般に、PTCAあるいはステント留置を行った血管部位は、内皮細胞の剥離あるいは弾性板損傷等の傷害を受けており、これらに対する生体治癒反応は比較的長期(ステント留置後、約2ヶ月間)に亘ると考えられている。より詳細には、ヒトにおける再狭窄の成因は、主としてPTCAあるいはステント留置後1〜3日間に生じる単球の接着・浸潤に見られる炎症過程と、約45日後に最も増殖性がピークとなる平滑筋細胞による内膜肥厚形成過程が考えられている。
【0007】
そこで、金属や高分子材料で形成されたステントの表面に、抗炎症剤や平滑筋細胞の増殖抑制剤を担持させた薬剤溶出型ステント(drug−eluting stent:以下、DESと略す)を用いることにより、管腔内の留置部位で長期にわたって局所的に薬剤を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに提案されている。例えば特許文献1には、ステント本体の表面に治療のための生理活性物質とポリマーの混合物をコーティングしたDESが、また特許文献2には、ステント本体の表面に薬剤層を設け、さらにこの薬剤層の表面に生分解性ポリマー層を設けたDESが、それぞれ提案されている。
【0008】
ここで、平滑筋細胞増殖は再狭窄の主因であるため、病理所見より内膜に平滑筋細胞の増殖が確認される30日から増殖ピークを迎える45日の間で平滑筋細胞の増殖抑制処理を行うのが最も効果的であると判断される。従って、少なくとも炎症過程を抑制する10日以内と平滑筋細胞増殖を抑制する30〜60日の両期間に薬剤の放出量のピークを持ち、それぞれに薬効を示すのに必要な量の薬剤が万遍なく放出されるよう設計するのが最も効果的であると考えられる。
【0009】
しかし、特許文献1、2の方法では、生体内でポリマー層が分解された後に薬剤が放出されるため、DESの留置初期における薬剤放出量が十分でなく、留置後1〜3日間に生じる炎症過程を効果的に抑制することができず、薬剤放出速度のコントロールも容易ではなかった。
【0010】
また、特許文献3には、ステント表面に生理活性物質層を設け、その上に水溶性物質を分散させた生分解性ポリマー層を設けることにより、水溶性物質の溶出により形成される細孔によって生理活性物質を初期放出させ、且つ生分解性ポリマー層の分解により生理活性物質を二次放出させるDESが開示されている。
【0011】
しかし、特許文献3の方法では、生理活性物質層と生分解性ポリマー層とをそれぞれ別々に被覆する必要があるため、製造された個々のステント間における生理活性物質層及び生分解性ポリマー層の層厚のばらつきが大きくなる。また、生分解性ポリマー層が分解されるまでは生理活性物質が少量溶出し、生分解性ポリマー層が分解した後は生理活性物質が一度に溶出してしまうため、生理活性物質の放出量の制御が十分に行えないという問題点もあった。
【0012】
一方、特許文献4には、ステント表面に形成されたポリマー層中に第1の生理活性物質を含有させ、さらに第2の生理活性物質が封入された生分解性ナノ又はマイクロカプセルを含有させることにより、第1の生理活性物質を初期放出させた後、カプセル内の第2の生理活性物質を徐放させることのできるDESが開示されている。さらに特許文献5には、生理活性物質が封入されたナノ粒子を液体媒体中に懸濁し、圧力をかけてe−PTFE(発泡テトラフルオロエチレン)ホイルの隙間内に押し込んで担持させた後、超臨界CO2下でアンカー処理を行うDESの製造方法が開示されている。
【0013】
ここで、従来のナノ粒子の構造を図11に示す。生体適合性ナノ粒子(以下、単にナノ粒子という)1の表面はポリビニルアルコール2で被覆され、内部には生理活性物質3が封入されており、一般的に表面は負に帯電している。しかし、生体内の細胞壁は負に帯電しているため、図11に示すようなナノ粒子では電気的反発力により細胞接着性が悪くなるという問題点があり、封入された生理活性物質を狭窄部等の病変部位へ局所的且つ効率的に取り込ませるためには、ナノ粒子の細胞内への移行性をより一層高める必要性があった。
【0014】
また、特許文献4の方法では、ステント本体にナノ粒子の懸濁液を噴霧或いは塗布したり、ステント本体をナノ粒子の懸濁液に浸漬したりすることにより、ステント本体にナノ粒子を付着させているが、これらの方法では十分な量のナノ粒子を均一に付着させることが困難であった。また、特許文献5の方法では、ナノ粒子をe−PTFEホイル内に押し込む工程、及びアンカー処理する工程が必要となるため製造工程が煩雑となり、さらに圧力チャンバー等が必要となるため設備コストも高くなる。
【0015】
さらに、一般に生体適合性ポリマーは疎水性(脂溶性)であり、ナノ粒子内に高い封入率で封入できる生理活性物質は脂溶性ものに限られるため、特許文献4、5の方法では核酸や遺伝子等の親水性(水溶性)の生理活性物質をステント表面に十分にコーティングすることが困難であった。
【0016】
また、特許文献6には、電気泳動法を用いて多孔性表面に生理活性物質をコーティングする医療用部材の製造方法が開示されており、中性又は電荷の弱い生理活性物質を荷電させて使用できる点についても記載されているが、具体的な荷電方法や電気泳動条件、及び荷電と細胞内への移行性との関係については何ら記載されていなかった。
【特許文献1】特開平8−33718号公報
【特許文献2】特開平9−56807号公報
【特許文献3】特開2004−41704号公報
【特許文献4】特開2004−357986号公報
【特許文献5】特表2004−509704号公報
【特許文献6】特表2002−519139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑み、脂溶性又は水溶性の生理活性物質が高い封入率で封入され細胞移行性にも優れた生体適合性ナノ粒子をコーティングすることにより、生理活性物質を細胞内へ効率良く到達させることができ、取り扱い性にも優れた薬剤溶出型ステント及びその簡便且つ安価な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、生理活性物質が封入され、且つ表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子をステント本体にコーティングした薬剤溶出型ステントである。
【0019】
また本発明の第2の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記生体適合性ナノ粒子は、表面にカチオン性高分子を付着させることにより正電荷修飾されていることを特徴としている。
【0020】
また本発明の第3の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴としている。
【0021】
また本発明の第4の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記生体適合性ナノ粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかで構成されることを特徴としている。
【0022】
また本発明の第5の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記生理活性物質が、核酸化合物であることを特徴としている。
【0023】
また本発明の第6の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴としている。
【0024】
また本発明の第7の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記ステント本体が生分解性材料で形成されることを特徴としている。
【0025】
また本発明の第8の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントにおいて、前記ステント本体がマグネシウムで形成されることを特徴としている。
【0026】
また本発明の第9の構成は、少なくともカチオン性高分子を溶解させた水溶液に、少なくとも生理活性物質の溶液と生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液との混合液を加えて、前記生理活性物質が前記生体適合性高分子中に封入され、且つ粒子表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子の懸濁液を生成するナノ粒子形成工程と、前記生体適合性ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させてナノ粒子層を形成するナノ粒子付着工程と、前記ナノ粒子層に生分解性高分子の溶液を含浸させる含浸工程と、前記生分解性高分子の溶液を含浸させた前記ナノ粒子層を乾燥させる乾燥工程と、を有する薬剤溶出型ステントの製造方法である。
【0027】
また本発明の第10の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記ナノ粒子付着工程が、電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法のいずれかにより行われることを特徴としている。
【0028】
また本発明の第11の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記ナノ粒子付着工程は、前記ステント本体に形成された前記ナノ粒子層の上にさらにナノ粒子層を積層する第2付着工程を有することを特徴としている。
【0029】
また本発明の第12の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記生体適合性ナノ粒子の懸濁液に、さらにアニオン性薬物を添加することを特徴としている。
【0030】
また本発明の第13の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記ナノ粒子付着工程を複数回繰り返すことにより、異なる生理活性物質が封入された生体適合性ナノ粒子から成る前記ナノ粒子層を、積層状又はモザイク状に形成することを特徴としている。
【0031】
また本発明の第14の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記含浸工程において、前記生分解性高分子の溶液中にさらに生理活性物質を添加することを特徴としている。
【0032】
また本発明の第15の構成は、上記構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、前記含浸工程においてナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子は、前記生体適合性ナノ粒子を形成する生体適合性高分子より生体内での分解速度が速いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
本発明の第1の構成によれば、ステント表面にコーティングされるナノ粒子の表面が正に帯電しているので、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の細胞接着性が高まり、内部に封入された生理活性物質の細胞内への到達効率を向上させた薬剤溶出型ステントとなる。また、例えば生体適合性ナノ粒子を構成するポリマー材料が脂溶性の場合、脂溶性の生理活性物質の封入率が高くなるが、これに加えて、ナノ粒子表面が正に帯電していて水溶性のアニオン性薬物(生理活性物質)を高い封入率で封入できるため、ステント表面へコーティングする生理活性物質の選択範囲も広くなる。
【0034】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、カチオン性高分子を用いてナノ粒子表面を正電荷修飾することにより、ナノ粒子表面を容易に正帯電させることができる。
【0035】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第2の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、カチオン性高分子として生分解性のキトサンを用いることにより、生体への悪影響がなく、安全性の高い薬剤溶出型ステントとなる。
【0036】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントにおいて、生体適合性ナノ粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかで構成されることにより、生体への刺激・毒性が低く、且つ生体適合性高分子の分解により薬物の徐放が可能な薬剤溶出型ステントとなる。
【0037】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントにおいて、ナノ粒子内へ封入する生理活性物質として核酸化合物を用いることにより、病変部位に安全且つ効率的に核酸化合物を導入して核酸レベルで治療することができ、例えば血管中の狭窄部に適用する場合に再狭窄の可能性の少ない薬剤溶出型ステントを容易に且つ低コストで製造できる。
【0038】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第5の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、核酸化合物として、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上を用いることにより、核酸化合物治療用ツールとして特に好適な薬剤溶出型ステントを提供可能となる。
【0039】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントにおいて、ステント本体を生分解性材料で形成することにより、ステントの構成要素を全て生分解性とすることができ、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ない薬剤溶出型ステントとなる。
【0040】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の薬剤溶出型ステントにおいて、ステント本体をマグネシウムで形成することにより、生体への負荷が少なく、且つ低コストな薬剤溶出型ステントとなる。
【0041】
また、本発明の第9の構成によれば、表面が正電荷修飾された細胞接着性の高い生体適合性ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させることにより、ステント本体に均一なナノ粒子層が強固に形成されるため、生理活性物質を細胞内へ効率良く送達可能で取り扱い性にも優れた薬剤溶出型ステントを簡便且つ低コストで製造することができる。また、ナノ粒子層に生分解性高分子を含浸させることにより、ステント表面からのナノ粒子の溶出速度を制御可能となり、さらにナノ粒子同士が凝集して不溶性の皮膜となるのを防止できる。
【0042】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第9の構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子付着工程を電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法のいずれかで行うことにより、簡便な方法で均一なナノ粒子層を効率良く形成することができる。特に電気泳動法を用いた場合、電圧や通電時間の調整により層厚の制御も容易となる上、ステント本体を負極とするため通電中における金属イオンの溶出がなく、ナノ粒子を付着させる金属材料の選択範囲も広くなる。
【0043】
また、本発明の第11の構成によれば、上記第9又は第10の構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ステント本体にナノ粒子層を形成した後、第2付着工程によりその上にさらにナノ粒子層を積層することにより、コーティングされるナノ粒子量を増大するとともに、ステント表面のナノ粒子層全体を均一にすることができる。
【0044】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第9乃至第11のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子形成工程で生体適合性ナノ粒子の懸濁液にさらにアニオン性薬物を添加することにより、ナノ粒子表面の正電荷によりアニオン性薬物が静電気的に担持された状態でステント本体へ引き付けられて付着するため、ステント本体へのコーティングが困難であった核酸、遺伝子等のアニオン性薬物を高濃度に付着させた薬剤溶出型ステントを製造することができる。
【0045】
また、本発明の第13の構成によれば、上記第9乃至第12のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子付着工程を複数回繰り返し行い、異なる生理活性物質が封入されたナノ粒子から成るナノ粒子層を、積層状又はモザイク状に形成することにより、生体内への留置後短時間で溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は外層に、長時間経過後に溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は内層に付着させておけば、2種類以上の生理活性物質のステントからの溶出時間を計画的に制御できる。
【0046】
また、本発明の第14の構成によれば、上記第9乃至第13のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子の溶液中にさらに生理活性物質を添加することにより、ナノ粒子外部の生分解性高分子層中に封入された生理活性物質を即効的に作用させるとともに、ナノ粒子内部に封入された生理活性物質を遅効的且つ持続的に作用させることができる。
【0047】
また、本発明の第15の構成によれば、上記第9乃至第14のいずれかの構成の薬剤溶出型ステントの製造方法において、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子より分解速度が速い生分解性高分子をナノ粒子層に含浸させることにより、生分解性高分子の分解によりステント表面からナノ粒子が溶出し、細胞内に移行した後にナノ粒子を形成する生体適合性高分子の分解により生理活性物質が徐放されるため、細胞内への生理活性物質の導入効率を高めるとともに、生理活性物質の導入タイミングの制御も容易な薬剤溶出型ステントを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本発明のDESの製造方法は、脂溶性、或いは親水性の生理活性物質を封入し、且つ表面を正に帯電させた(正電荷修飾した)生体適合性ナノ粒子を形成する工程と、ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させてナノ粒子層を形成するナノ粒子付着工程と、ナノ粒子層に生分解性高分子溶液を含浸させる含浸工程と、ナノ粒子層を乾燥させて生分解性高分子層を形成する乾燥工程とを含むものである。
【0049】
一般に、液体中に分散された粒子の多くは正又は負に帯電しており、逆の電荷を有するイオンが粒子表面に強く引き寄せられ固定された層(固定層)と、その外側に存在する層(拡散層)とで、いわゆる拡散電気二重層が形成されており、拡散層の内側の一部と固定層とが粒子と共に移動するものと推定される。
【0050】
ゼータ電位は、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0051】
従って、負帯電の細胞壁に対する接着性を増大させてナノ粒子を細胞内へ効率良く移行させるためには、ナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させることが好ましい。本発明においては、ナノ粒子形成工程(後述)においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加する。これにより、形成されたナノ粒子の表面がカチオン性高分子により修飾(被覆)され、粒子表面のゼータ電位が正となる。
【0052】
また、ナノ粒子表面を正に帯電させることにより、ステント本体を負に帯電させることで、ナノ粒子をステント本体に能動的に付着させることができ、ナノ粒子の付着効率を高めるとともに、一旦付着したナノ粒子はステント表面に強固に固着するため、製造工程中や生体内への挿入及び拡張時におけるナノ粒子の脱離を防止する。以下、ナノ粒子内部への生理活性物質の封入工程からステント本体への付着工程までを順を追って説明する。
【0053】
(ナノ粒子形成工程)
本発明に用いられる生体適合性ナノ粒子は、生理活性物質及び生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒径を有するナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)に加工することができる球形晶析法を用いて、ナノ粒子の内部に生理活性物質を封入することにより製造される。球形晶析法は高剪断力を発生しない粒子調製法であるため、特に、生理活性物質が外部応力に弱い核酸化合物等の場合にも好適に用いることができる。
【0054】
球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0055】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノスフェアを製造する技術である。本法には、生理活性物質を封入する基剤ポリマーとなるPLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)等を溶解できる良溶媒と、これとは逆にPLGAを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、PLGAを溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。
【0056】
操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGAが析出しないように、生理活性物質の溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAと生理活性物質の混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内のPLGA並びに生理活性物質の溶解度が低下し、最終的に、生理活性物質を包含した球形結晶粒子のPLGAナノスフェアが生成する。
【0057】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、容易に形成することができる。さらに、本発明においては貧溶媒中にカチオン性高分子を添加してナノ粒子表面をカチオン性高分子で被覆することにより、粒子表面を正に帯電させる。このようなナノ粒子の構造を図1に示す。ナノ粒子1の表面はポリビニルアルコール2で被覆され、さらにその外側をカチオン性高分子4で被覆されており、カチオン性高分子4により正のゼータ電位を有している。
【0058】
カチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0059】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合したカチオン性の天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いナノ粒子を製造することができる。
【0060】
なお、カチオン性高分子の中でもカチオン性のより強いものを用いることにより、ゼータ電位がより大きな正の値となるため、後述するナノ粒子付着工程での電気的吸着力が増大するとともに、粒子間の反発力が強くなって懸濁液中での粒子の安定性も高くなる。例えば、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることが好ましい。
【0061】
なお、ナノ粒子内に封入される生理活性物質が、水溶液中で負の電荷を持つアニオン分子として存在するアニオン性薬物であるときは、貧溶媒にカチオン性高分子を添加すると、ナノ粒子内部への生理活性物質の封入率を高めることができる。通常、封入される生理活性物質が親水性(水溶性)の場合、良溶媒中に分散混合した生理活性物質が貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、ナノ粒子を形成する高分子だけが沈積するため、生理活性物質がほとんど封入されないが、カチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面に吸着したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制できるものと考えられる。
【0062】
また、良溶媒中でのアニオン性薬物の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、アニオン性薬物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0063】
上記球形晶析法で用いられる良溶媒および貧溶媒の種類は、ナノ粒子内に封入される生理活性物質の種類等に応じて決定されるものであり、特に限定されるものではないが、生体適合性ナノ粒子は、人体内へ留置されるDESの材料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。
【0064】
このような貧溶媒としては、水、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0065】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトン、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0066】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度、或いはアセトンとエタノールの混合比や、結晶析出時の条件も特に限定されるものではなく、目的となる生理活性物質の種類や、球形造粒結晶の粒径(本発明の場合ナノオーダー)等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となり、乾燥後の水への再分散性が向上する反面、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以上になると、貧溶媒の粘度が上昇して良溶媒の拡散性に悪影響を与える。
【0067】
そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、ナノ粒子形成後に有機溶媒を留去し、さらに凍結乾燥等により一旦粉末化する場合は、ポリビニルアルコール水溶液の濃度として0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2%程度がより好ましい。なお、ナノ粒子形成後の懸濁液から有機溶媒を留去し、そのままナノ粒子付着工程に用いる場合は0.5重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%程度が特に好ましい。
【0068】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する生理活性物質を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材としては、特にPLGAを好適に用いることができる。
【0069】
PLGAの分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。また、乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるPLGAは、非晶質であり、且つアセトン等の有機溶媒に可溶であるから、好適に使用される。
【0070】
生体内分解性の生体適合性高分子としては、ほかに、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。また、これらのコポリマーであるアスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)やアスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)を用いても良く、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0071】
なお、封入される生理活性物質が親水性(水溶性)の場合、PLGAの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾したもの(以下、PEG−PLGAという)を用いると、親水性の生理活性物質とPLGAとの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。
【0072】
上記以外の生体適合性高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルおよびポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸とメタクリル酸とのポリマー、セルロースおよび他の多糖類、ならびにペプチドまたはタンパク質、あるいはそれらのコポリマーまたは混合物が挙げられる。
【0073】
その後、得られたナノ粒子の懸濁液をそのまま、或いは必要に応じて良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、さらに必要に応じて凍結乾燥等によりナノ粒子を一旦粉末化させた後、再度水に分散させて次のナノ粒子付着工程に用いる。ナノ粒子を懸濁液のまま次工程に用いる場合は、凍結乾燥等を行う必要がなくなり、製造工程が簡略化できるとともに、貧溶媒中へのポリビニルアルコールの添加量も低減できるため好ましい。
【0074】
なお、ナノ粒子を一旦粉末化する場合、結合剤(例えばトレハロース等)と共に再分散可能な凝集粒子に複合化して複合粒子としておけば、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることで結合剤が溶解して再分散可能なナノ粒子に復元できるため好ましい。
【0075】
本発明に用いられる生体適合性ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、ステントが留置される狭窄部に生理活性物質を導入するためナノ粒子を細胞内に取り込ませる必要がある。標的細胞内への浸透効果を高めるためには、平均粒子径を500nm以下とすることが好ましく、特に、核酸化合物を封入し、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞膜のエンドサイトーシスを受けて細胞内に取り込まれることにより、高い遺伝子発現率を実現するためには100nm以下がより好ましい。
【0076】
生体適合性ナノ粒子に封入される生理活性物質としては、アスピリン、ジピリミダモール、ヘパリン、抗トロンビン製剤、魚油等の抗血小板薬、低分子ヘパリン、アンギオテンシン変換酵素阻害薬等の平滑筋増殖抑制薬、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンデシン、塩酸イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、メトトレキサート、シクロフォスファミド等の抗がん剤、マイトマイシンC等の抗生物質、シロリムス、タクロリムス水和物等の免疫抑制剤、ステロイド等の抗炎症薬、セリバスタチンナトリウム、ロバスタチン等の脂質改善薬、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、囮型核酸医薬(デコイ)、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセター、インターロイキン、細胞間情報伝達物質(サイトカイン)等の核酸化合物、グリペックやPTK787等の受容体チロシンキナーゼ阻害薬等が挙げられるが、これらの物質に限定されるものではない。なお、上記生理活性物質のうち何れか1種のみを封入しても良いが、効能や作用機序の異なる成分を複数種封入しておけば、各成分の相乗効果により薬効の促進が期待できる。
【0077】
特に、核酸化合物が封入されたナノ粒子をステント本体に付着させた場合、ステントを利用して狭窄部に安全且つ効率的に核酸化合物を導入可能となるため、狭窄部を核酸レベルで治療する再発可能性の少ない有効な治療法となる。核酸化合物としては、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセターが特に好ましい。ナノ粒子内部への生理活性物質の封入量は、ナノ粒子形成時に添加する生理活性物質の量やカチオン性高分子の種類及び添加量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類により調整可能である。
【0078】
(ナノ粒子付着工程)
次に、生理活性物質が封入された生体適合性ナノ粒子をステント本体に付着させてナノ粒子層を形成する方法について説明する。ナノ粒子を付着させる方法としては、ナノ粒子懸濁液への浸漬やミストコート等によりナノ粒子をステント本体に物理的に付着させる方法を用いても良いが、上述したように本発明で用いられるナノ粒子表面は正に帯電しているため、ナノ粒子を電気的に付着させることによりステント本体に強固且つ均一にコーティング可能となる。ここでは、生体適合性ナノ粒子の懸濁液中でステント本体を負極として通電する電気泳動法と、負に帯電させたステント表面に生体適合性ナノ粒子含有液滴を付着させる噴霧法を例に挙げて説明する。
【0079】
図2は、本発明のDESの製造に用いられる電気泳動装置の構成を示す概略図である。電気泳動装置5は、浴槽6中にナノ粒子1の懸濁液7を満たし、電気回路の負極側に接続されて負極となるステント本体8と、電気回路の正極側に接続された正極9とを浸漬して構成される。なお、ここでは金属繊維を用いて円筒形の網状に成形されたステント本体8を用いている。
【0080】
上述したように、ナノ粒子形成工程で得られたナノ粒子1は、カチオン性高分子で修飾(被覆)されることにより粒子表面のゼータ電位が正となっている。従って、図2の状態で電気回路に通電することにより、ステント本体8表面に負の電位が発生するため、正に帯電したナノ粒子1が引き寄せられて能動的に付着する。なお、懸濁液7中の水分子も電気分解され、水素イオン(H+)もステント本体8側に引き寄せられ、ステント本体8の表面から電子を受け取って水素が生成する。一方、水酸イオン(OH-)は正極9側に引き寄せられ、正極9に電子を放出して酸素と水とが生成する。
【0081】
化学反応が進行することで、陰極(ステント本体)付近のナノ粒子は凝集し、ステント本体8表面に被膜(ナノ粒子層)を形成する。そして、ナノ粒子層が完成した部分は導電性がなくなり、それ以上の膜形成は行なわれないため、均一なナノ粒子層を形成することができる。また、ナノ粒子付着工程の自動化も容易で、層厚の制御も電圧や通電時間の調整により容易に行うことができるため、工業化にも適している。さらに、被塗物(ステント本体)を陰極とするため金属イオンの溶出がなく、鉄、マグネシウム等にもナノ粒子を付着させることができる。
【0082】
図3は、ステント本体を構成する金属繊維に電気泳動法によりナノ粒子が付着した状態を示す断面拡大図である。負に帯電した金属繊維10の表面は正に帯電したナノ粒子1により完全に被覆され、ナノ粒子層11が形成されている。この電気泳動により形成されるナノ粒子層11は、例えばステント本体に通電を行わずにナノ粒子の懸濁液中に浸漬して引き上げることにより形成したナノ粒子層に比べ著しく強固に付着しており、密着性が良く耐蝕性にも優れている。
【0083】
そのため、後の製造工程や生体器官内への挿入時及びステント拡張時における、ステント本体からのナノ粒子層11の剥離を防止することができる。電気泳動法によりナノ粒子層11のステント本体への付着力が増大する原因としては、ナノ粒子1間に作用するファンデルワールス力等によるものと考えられる。
【0084】
ステント本体の形状としては、図2に示したような繊維材料を用いて編み上げて成形したものの他、レーザ等により金属製のパイプを網目状に切削したものを用いても良く、冠状、筒状等、従来公知の種々の形状を用いることができる。また、ステント本体は、バルーン拡張タイプ、自己拡張タイプのいずれであっても良く、ステント本体の大きさも適用箇所に応じて適宜選択すれば良い。例えば心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常、拡張前における外径は1.0〜3.0mm、長さは5.0〜50mm程度が好ましい。
【0085】
また、電気泳動法によりナノ粒子を付着させる場合、ステント本体は金属等の導電性材料を用いる必要がある。ステント本体に用いられる金属としては、ステンレス、マグネシウム、タンタル、チタン、ニッケル−チタン合金、インコネル、金、プラチナ、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。ステントが自己拡張タイプの場合、元の形状への復元性が必要なことからニッケルチタン等の超弾性合金等が好ましい。一方、バルーン拡張タイプの場合、拡張後の形状復帰の起こりにくいステンレス等が好ましく、中でも最も耐腐食性に優れたSUS316Lが好適に用いられる。
【0086】
金属以外の導電性材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン等の導電性ポリマーや、導電性セラミックス等が挙げられる。また、導電性フィラーを添加するか、或いはコーティング等により表面を導電性処理して非導電性樹脂に導電性を付与したものを用いても良い。
【0087】
なお、ステント本体の材料として、ステンレス等の生体内で分解されない材料を用いた場合、長期間のステント留置により血管内壁に炎症が発生して再狭窄の原因となる場合があるため、数ヶ月毎にPTCAを行い、再度ステントを留置する必要があり、患者の負担が大きかった。そこで、ステント本体を生分解性の金属であるマグネシウムで形成しておけば、ステント本体は生体内で徐々に分解されて留置後数ヶ月で消失するため、ステント留置による炎症の発生を抑制することができる。
【0088】
特に、マグネシウム製のステント本体に、生体適合性高分子としてPGA、PLA、PLGA、PAL等の生分解性高分子で形成されたナノ粒子を付着することにより、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ないDESとなる。このとき、ナノ粒子を形成する生分解性高分子は、後述する含浸工程でナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子よりも生体内での分解速度の遅いものを用いることが好ましい。
【0089】
また、ナノ粒子内に封入される生理活性物質がアニオン性薬物の場合、ナノ粒子を電気泳動法によりステント本体に付着させる際に、ナノ粒子の懸濁液中にアニオン性薬物をさらに添加すれば、ナノ粒子表面の正電荷によりアニオン性薬物が静電気的に担持された状態でステント本体へ引き付けられて付着する。従って、ステント本体への高濃度のコーティングが極めて困難であった核酸、遺伝子等のアニオン性薬物を一層効率良く付着させることができる。
【0090】
ここで、電気泳動時に正極及び負極間に印加される電圧が高いほど、単位時間当たりにステント表面に引き付けられるナノ粒子量も多くなるため、ステント表面へのナノ粒子層の形成を短時間で行うことができる反面、一度に多量のナノ粒子が付着するため、均一なナノ粒子層の形成が困難となる。そのため、電気泳動時に印加する電圧は、要求されるナノ粒子層の均一性やナノ粒子層の形成効率に応じて適宜設定すれば良い。
【0091】
次に、噴霧法について説明する。噴霧法は、通電により負に帯電させたステント本体表面に、正電荷付与された生体適合性ナノ粒子の微小な懸濁液滴を電気的に付着させる方法であり、ナノ粒子懸濁液を超音波によりミスト化する超音波ミスト法、スプレー装置或いはエアーブラシを用いてナノ粒子懸濁液をステント表面に吹き付けるスプレー法、エアーブラシ法等が挙げられる。
【0092】
この噴霧法においてもステント本体に通電して負に帯電させておくため、電気泳動法の場合と同様に、ステント本体を帯電させずに噴霧処理した場合に比べて正電荷修飾されたナノ粒子層が著しく強固に付着し、ステント本体とナノ粒子との密着性が良く耐蝕性にも優れたDESを製造することができる。さらに、液滴中のナノ粒子がステント本体に能動的に付着するため、ミスト化又は噴霧された液滴が直接付着し難いステントの側面や裏面へのナノ粒子の付着効率を高めることもできる。なお、噴霧法において使用するステント本体の形状や材質については電気泳動法の場合と同様であるため説明を省略する。
【0093】
また、電気泳動法或いは噴霧法によりステント表面にナノ粒子層を形成する工程に加えて、さらにその上にナノ粒子層を積層する工程(以下、第2付着工程という)を設けることもできる。第2付着工程では、ステント表面に形成された均一なナノ粒子層に沿って新たなナノ粒子層が積層されるため、単位時間当たりのナノ粒子付着量を多くしても所望の層厚を有するナノ粒子層を均一に且つ効率的に形成することができる。第2付着工程には、上述したような電気泳動法や超音波ミスト法、スプレー法、エアーブラシ法等が用いられる。第2付着工程に超音波ミスト法、スプレー法、エアーブラシ法等を用いる場合、ナノ粒子層をより効率的且つ強固に積層するため、ステント本体を負に帯電させておくことが好ましい。
【0094】
なお、ステント表面に形成されたナノ粒子層は、そのままでは生体内に留置された後、短時間で一度に溶出してしまい、薬効の持続性のコントロールが困難となる。また、ナノ粒子層を完全に乾燥させると、ナノ粒子同士がますます強固に凝集してナノ粒子層が不溶性の皮膜となり、ナノ粒子がステント表面から溶出せず細胞内に取り込まれなくなるおそれもある。そこで、上記ナノ粒子付着工程によりナノ粒子層を形成した後、ナノ粒子層が完全に乾燥する前に生分解性高分子の溶液を含浸させ(含浸工程)、その後ナノ粒子層を乾燥させて(乾燥工程)生分解性高分子を固化する。
【0095】
ナノ粒子層が形成されたステント(図3)に含浸工程及び乾燥工程により生分解性高分子層を形成した状態を図4に示す。金属繊維10の表面に形成されたナノ粒子層11が完全に乾燥する前に生分解性高分子の溶液を含浸させると、ナノ粒子層11を形成する各ナノ粒子1の隙間に生分解性高分子の溶液が浸透する。そして、生分解性高分子の溶解に用いた溶媒及びナノ粒子層11に残存していた水分を乾燥させると、生分解性高分子層12が形成される。これにより、個々のナノ粒子1は生分解性高分子によって凝集することなく保持されることとなり、DESを生体内に留置した後、生分解性高分子層12の分解によりナノ粒子が徐々に溶出し、例えば血管壁細胞内へ取り込まれる。
【0096】
生分解性高分子としては、例えばポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート等の微生物産生系の高分子や、コラーゲン、酢酸セルロース、バクテリアセルロース、ハイアミロースコーンスターチ、澱粉、キトサン等の天然高分子等が挙げられる。中でも、ナノ粒子の形成に用いられるPLGA等の生体適合性高分子よりも生体内分解速度が速いコラーゲン等を用いることが好ましい。これらの生分解性高分子の種類や分子量等を適宜選択することにより、ステント表面に付着させたナノ粒子の溶出速度を制御可能となる。なお、生分解性高分子としてPGA、PLA、PLGA、PAL等を用いることも可能であるが、その場合はナノ粒子の分解速度よりも速くなるように分子量の小さいものを使用すれば良い。
【0097】
以上のようにして得られたDESは、ステント本体に付着しているナノ粒子の表面が正に帯電しているため、ステント表面から溶出されたナノ粒子の細胞接着性が増大する。これにより、従来のDESに比べてステントが留置される狭窄部位細胞へのナノ粒子の導入効率を高めることができる。
【0098】
また、封入される生理活性物質の種類が異なる複数種のナノ粒子を作製し、それぞれのナノ粒子を層状に或いはモザイク状に付着させても良い。このとき、DES留置後短時間で溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は外層に、長時間経過後に溶出させたい生理活性物質が封入されたナノ粒子は内層に付着させておけば、2種類以上の生理活性物質のDESからの溶出時間を計画的に制御できる。また、2種類以上の生理活性物質を、生体適合性高分子の種類や分子量の異なるナノ粒子中に封入して溶出時間を制御しても良い。
【0099】
さらに、ナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子の溶液中にも生理活性物質を添加することにより、ナノ粒子外部の生分解性高分子層中に封入された生理活性物質を即効的に作用させるとともに、ナノ粒子内部に封入された生理活性物質を遅効的且つ持続的に作用させることができる。生理活性物質の種類及び封入量は、生理活性物質の作用機序や、要求される即効性、持続性の程度等により適宜設定することができる。
【0100】
即ち、投与後長期間に亘る効果の持続性が要求される生理活性物質の場合はナノ粒子内部へ封入すれば良く、投与直後より効果の発現が要求される生理活性物質の場合はナノ粒子外部の生分解性高分子層中へ封入すれば良い。生分解性高分子層中へ封入される生理活性物質としては、ナノ粒子内部に封入される生理活性物質として例示した種々の生理活性物質を用いることができる。
【0101】
その他、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、蛍光標識クマリンを封入し表面を正電荷修飾したPLGAナノスフェアの調製及びそれをコーティングしたDESの作製、並びに細胞内への薬物浸透効果について、実施例に沿って具体的に説明する。
[PLGAナノスフェアの調製]
【実施例1】
【0102】
0.5重量%のポリビニルアルコール(PVA403、クラレ社製)水溶液と、0.02重量%のキトサン(モイスコートPX、片倉チッカリン製)水溶液を混合し、貧溶媒とした。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA7520、和光純薬製)2gをアセトン40mLに溶解した後、エタノール20mLで溶解したクマリン6(MP Biomedical社製)1mgを添加、混合し良溶媒とした。この良溶媒を先の貧溶媒中に40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によって、クマリン封入PLGAナノスフェア懸濁液を得た。
【0103】
続いて、減圧下40℃、400rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒を留去した。約2時間溶媒留去を行った後、懸濁液をフィルターろ過し、ろ液を一晩凍結乾燥した。一日後、平均粒子径が260nmの水への再分散性が良好で、ゼータ電位が+17.3mVと正電荷のPLGA複合ナノ粒子乾燥粉末を得た。
【比較例1】
【0104】
貧溶媒中にキトサン水溶液を添加しない以外は実施例1の製造方法と同一条件にて、平均粒子径が250nmの水への再分散性が良好で、ゼータ電位が−33mVのクマリン封入PLGA複合ナノ粒子乾燥粉末を得た。
[ステント本体へのPLGAナノスフェアのコーティング]
【実施例2】
【0105】
実施例1で調製したクマリン封入PLGA複合ナノ粒子を精製水で希釈して0.75%懸濁液とした。一方、内径1.1mm、外径1.3mm、長さ18mm、肉厚0.1mmのステンレス(SUS316L)製パイプをレーザーカッターで網目状に削り、ステント本体を作製した。このステント本体の内径を若干拡張させて、内径1.1mm、外径1.3mm、肉厚0.1mmのステンレス(SUS316L)製パイプに外挿した。
【0106】
図5は、本実施例で用いた電気泳動法によるナノ粒子コーティング装置の概略構成図である。上記ナノ粒子懸濁液13を、上面が開口した内径8.5mm、外径9.5mm、肉厚0.5mm、高さ23mmのステンレス(SUS304)製の円筒容器14(電解浴)に満たし、ステント本体8が装着されたステンレス製パイプ15をステント本体8部分がナノ粒子懸濁液13に完全に浸漬し、且つステンレス製パイプ15の一部が液面から突出するように円筒容器14内に起立させた。なお、ステンレス製パイプ15の先端にはシリコンチューブ16を装着し、円筒容器14との絶縁性を確保した。
【0107】
そして、円筒容器14が正極、ステンレス製パイプ15が負極となるように外部電源17及び電流計18を接続し、電圧2V、電流5mAで60分間通電した。ステント本体8とステンレス製パイプ15(負極)は同一の材質で形成されており、導電性が等しいため、ステント本体8に均一に通電することができた。通電終了後、ステント本体8をステンレス製パイプ15から取り外して乾燥し、DESを作製した。得られたDESの表面を走査型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察したところ、図6に示すように、ステント本体表面にクマリン封入PLGAナノ粒子が均一に付着していることが確認された。
【比較例2】
【0108】
クマリンを0.1%ポリビニルアルコール水溶液に溶解して濃度1μg/mLに調製し、噴霧液とした。この噴霧液8mLを超音波式吸入器(ネブライザーNE−U17、オムロンヘルスケア社製)に仕込み、周波数1.7MHzで粒子径1〜8μmのミストを発生させた。このミストを実施例2と同一のステント本体にコーティングし、乾燥した。走査型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察したところ、ステント本体表面にはクマリンがほとんど付着していないことが確認された。
【0109】
実施例2及び比較例2の結果より、クマリンをナノ粒子内に封入した場合、未封入のクマリンに比べてステント表面に容易にコーティングされることが確認された。これは、ナノ粒子が十分に小さいため、一旦ステント表面に付着するとナノ粒子とステント表面との力学的な相互作用により剥がれにくくなるためであると推認される。
【比較例3】
【0110】
比較例1で調製したクマリン封入PLGA複合ナノ粒子を精製水で希釈して0.75%懸濁液とした。このナノ粒子懸濁液を実施例2で用いた円筒容器14に満たし、円筒容器14が負極、ステンレス製パイプ15が正極となるように外部電源17及び電流計18を接続し、ナノ粒子コーティング装置を組み立てた。電圧6V、電流5mAで60分間通電した。通電終了後、ステント本体8をステンレス製パイプ15から取り外して乾燥し、DESを作製した。得られたDESの表面を走査型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察したところ、実施例2の場合と同様に、ステント本体表面にクマリン封入PLGAナノ粒子が均一に付着していることが確認された。
【実施例3】
【0111】
[DESを用いたラット平滑筋培養細胞への薬物取り込み試験]
DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium, high glucose、SIGMA社製;D5796)に1%ペニシリンストレプトマイシンを添加し、さらにリン酸緩衝液を最終濃度10%となるように添加して培養液とした。この培養液に、ラット胸部大動脈平滑筋細胞を、4×104cells/mLの濃度(細胞数)となるように懸濁し、500μL(2×104cells/well)ずつ48穴の細胞培養プレート(OAAS−48、コスモ・バイオ社製)に播種した。37℃、5%CO2雰囲気のインキュベータ内で培養し、48時間後に培養液を250μL/wellずつ、同一培養プレート上の3つのwellに入れ替えた。
【0112】
実施例2で作製した、クマリン封入PLGAナノ粒子をコーティングした本発明のDESを長手方向に3分割し、一つのwellに入れた。また、比較対照例として、比較例3で作製したDES、及びクマリン(2.5μg/mL;ナノスフェアに封入されたクマリン量の10倍量に相当)の0.1%ポリビニルアルコール水溶液を、それぞれ他のwellに入れた。その後、培養プレートを37℃、5%CO2雰囲気のインキュベータ内で2時間保存した後、倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)により励起波長474nm、蛍光波長509nmで培養プレートの裏面から観察した。
【0113】
また、取り込みの対照として、細胞マーカー Lyso Tracker Red DND-99 (Molecular Probes 社製:L−7528)を使用した。Lyso Tracker 1mM溶液を最終濃度75nMになるように培養液に溶解し、これを48時間培養した細胞の培養液と交換(500μL/well)し、37℃、5%CO2雰囲気下で3時間培養を行った。なお、クマリン取り込みは励起波長474nm、蛍光波長509nmで、細胞マーカーの取り込みは励起波長577nm、蛍光波長590nmで観察した。結果を図7〜図10に示す。
【0114】
図7は、細胞マーカーLyso Trackerを加えたラット平滑筋培養液の3時間後の蛍光顕微鏡写真であり、図8〜図10は、実施例2、比較例3で作製したDES、及びクマリンの0.1%ポリビニルアルコール水溶液を、ラット平滑筋培養液中に浸漬した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。なお、図8の右上方に観察されるのはDESである。図7から明らかなように、細胞マーカーLyso Trackerは、ラット平滑筋培養細胞の99%以上に取り込まれることが確認された。
【0115】
また、図8から明らかなように、実施例2のDESを浸漬したwellでは、細胞マーカーを加えた図7と同様に、細胞表面から核周囲に向かうにつれて濃い蛍光が観察された。また、比較例3のDESを浸漬したwellでは、図9に示すように蛍光は見られたものの、図8に比べて蛍光強度は弱かった。一方、クマリン溶液を添加したwellでは、図10に示すように蛍光はほとんど見られなかった。
【0116】
以上から、正電荷修飾されたクマリン封入PLGAナノ粒子をステント本体にコーティングすることにより、ナノ粒子と負に帯電した細胞壁との接着性及び細胞内部への取り込み性が向上し、表面が正電荷修飾されていないクマリン封入ナノ粒子、及び未封入のクマリンに比べて細胞内部まで確実に且つ高濃度に浸透することが確認された。
【0117】
なお、本実施例では短期間で効果を発現させるため、生分解性高分子の溶液を含浸させる含浸工程を設けず、ステント本体にナノ粒子を付着後そのまま乾燥させたDESを用いて試験を行ったが、含浸工程によりナノ粒子層の上に生分解性高分子層を設けたDESを用いた場合についても同様の結果が得られるものと推認される。また、ここではナノ粒子内部に蛍光物質であるクマリンを封入し、細胞内への浸透効果について調査したが、クマリン以外の種々の生理活性物質を封入した場合についても同様に優れた浸透効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のDESは、カチオン性高分子により表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子がコーティングされているので、生体内で溶出されるナノ粒子の細胞接着性が高まり、細胞内への移行性も向上する。また、カチオン性高分子としてキトサンを用い、さらに、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGA、若しくはPALのいずれかを用いることにより、安全性が高く、安定性、徐放性にも優れたDESを提供することができる。
【0119】
また、ナノ粒子内部に核酸化合物を封入することにより、病変部に安全且つ効率的に遺伝子を導入して遺伝子レベルで治療するためのDESとなる。核酸化合物としてプラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー等を用いた場合、特に好適な遺伝子治療用ツールとなる。さらに、ステント本体をマグネシウム等の生分解性材料で形成しておけば、生体内に留置後、所定期間で完全に消失する生体への負荷の少ないDESとなる。
【0120】
また、本発明のDESの製造方法によれば、脂溶性の薬物はもちろん、従来のDESに付着させることが困難であった水溶性薬物を効率良く付着させたDESを簡便且つ低コストで製造することができる。さらに、ナノ粒子を電気的に付着させることにより、ステント本体の表面に均一に且つ強固にナノ粒子層を形成することができ、ナノ粒子層に生分解性高分子を含浸して乾燥させることにより、ナノ粒子層が不溶性の皮膜となるのを防止するとともに、生分解性高分子の分解に伴いステント表面からナノ粒子が徐放されるため、取り扱いが容易で薬物の放出速度も制御できるDESの簡便且つ安価な製造方法となる。ナノ粒子付着工程としては、電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法が好適に用いられる。
【0121】
また、ステント本体にナノ粒子を電気的に付着させてナノ粒子層を形成した後、さらにナノ粒子層を積層する第2付着工程を設けた場合、所望の層厚のナノ粒子層を均一に且つ効率良く形成することができる。
【0122】
また、異なる生理活性物質が封入されたナノ粒子層を層状又はモザイク状に形成したり、ナノ粒子層に含浸される生分解性高分子層に生理活性物質を封入したり、或いは要求されるナノ粒子の放出速度に応じて生分解性高分子の種類を選択することにより、生理活性物質の計画的な放出が可能なDESを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】は、本発明のDESに用いられる粒子表面が正電荷修飾されたナノ粒子の構造を示す模式図である。
【図2】は、本発明のDESの製造に用いられる電気泳動装置の一例を示す概略図である。
【図3】は、ステント本体を構成する金属繊維にナノ粒子層が形成された状態を示す断面模式図である。
【図4】は、ステント本体を構成する金属繊維にナノ粒子を含む生分解性高分子層が形成された状態を示す断面模式図である。
【図5】は、実施例2で用いたナノ粒子コーティング装置の概略構成図である。
【図6】は、実施例2で作製されたDES表面の蛍光顕微鏡写真である。
【図7】は、細胞マーカーを加えたラット平滑筋培養液の3時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図8】は、実施例2で作製された本発明のDESをラット平滑筋培養液中に浸漬した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図9】は、比較例3で作製されたDESをラット平滑筋培養液中に浸漬した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】は、クマリン溶液をラット平滑筋培養液中に添加した2時間後の蛍光顕微鏡写真である。
【図11】は、従来のナノ粒子の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0124】
1 生体適合性ナノ粒子(ナノスフェア)
2 ポリビニルアルコール
3 生理活性物質
4 カチオン性高分子
5 電気泳動装置
6 浴槽
7 懸濁液
8 ステント本体
9 正極
10 金属繊維
11 ナノ粒子層
12 生分解性高分子層
13 ナノ粒子懸濁液
14 円筒容器
15 ステンレス製パイプ
16 シリコンチューブ
17 外部電源
18 電流計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質が封入され、且つ表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子をステント本体にコーティングしたことを特徴とする薬剤溶出型ステント。
【請求項2】
前記生体適合性ナノ粒子は、表面にカチオン性高分子を付着させることにより正電荷修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項3】
前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴とする請求項2に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項4】
前記生体適合性ナノ粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項5】
前記生理活性物質が、核酸化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項6】
前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の薬剤溶出型ステント
【請求項7】
前記ステント本体が生分解性材料で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項8】
前記ステント本体がマグネシウムで形成されることを特徴とする請求項7に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項9】
少なくともカチオン性高分子を溶解させた水溶液に、少なくとも生理活性物質の溶液と生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液との混合液を加えて、前記生理活性物質が前記生体適合性高分子中に封入され、且つ粒子表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子の懸濁液を生成するナノ粒子形成工程と、
前記生体適合性ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させてナノ粒子層を形成するナノ粒子付着工程と、
前記ナノ粒子層に生分解性高分子の溶液を含浸させる含浸工程と、
前記生分解性高分子の溶液を含浸させた前記ナノ粒子層を乾燥させる乾燥工程と、
を有することを特徴とする薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項10】
前記ナノ粒子付着工程が、電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法のいずれかにより行われることを特徴とする請求項9に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項11】
前記ナノ粒子付着工程は、前記ステント本体に形成された前記ナノ粒子層の上にさらにナノ粒子層を積層する第2付着工程を有することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項12】
前記生体適合性ナノ粒子の懸濁液に、さらにアニオン性薬物を添加することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子付着工程を複数回繰り返すことにより、異なる生理活性物質が封入された生体適合性ナノ粒子から成る前記ナノ粒子層を、積層状又はモザイク状に形成することを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項14】
前記含浸工程において、前記生分解性高分子の溶液中にさらに生理活性物質を添加することを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項15】
前記含浸工程においてナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子は、前記生体適合性ナノ粒子を形成する生体適合性高分子より生体内での分解速度が速いことを特徴とする請求項9乃至請求項14のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項1】
生理活性物質が封入され、且つ表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子をステント本体にコーティングしたことを特徴とする薬剤溶出型ステント。
【請求項2】
前記生体適合性ナノ粒子は、表面にカチオン性高分子を付着させることにより正電荷修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項3】
前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴とする請求項2に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項4】
前記生体適合性ナノ粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項5】
前記生理活性物質が、核酸化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項6】
前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、デコイ、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の薬剤溶出型ステント
【請求項7】
前記ステント本体が生分解性材料で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項8】
前記ステント本体がマグネシウムで形成されることを特徴とする請求項7に記載の薬剤溶出型ステント。
【請求項9】
少なくともカチオン性高分子を溶解させた水溶液に、少なくとも生理活性物質の溶液と生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液との混合液を加えて、前記生理活性物質が前記生体適合性高分子中に封入され、且つ粒子表面が正電荷修飾された生体適合性ナノ粒子の懸濁液を生成するナノ粒子形成工程と、
前記生体適合性ナノ粒子をステント本体に電気的に付着させてナノ粒子層を形成するナノ粒子付着工程と、
前記ナノ粒子層に生分解性高分子の溶液を含浸させる含浸工程と、
前記生分解性高分子の溶液を含浸させた前記ナノ粒子層を乾燥させる乾燥工程と、
を有することを特徴とする薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項10】
前記ナノ粒子付着工程が、電気泳動法、超音波ミスト法、スプレー法若しくはエアーブラシ法のいずれかにより行われることを特徴とする請求項9に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項11】
前記ナノ粒子付着工程は、前記ステント本体に形成された前記ナノ粒子層の上にさらにナノ粒子層を積層する第2付着工程を有することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項12】
前記生体適合性ナノ粒子の懸濁液に、さらにアニオン性薬物を添加することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子付着工程を複数回繰り返すことにより、異なる生理活性物質が封入された生体適合性ナノ粒子から成る前記ナノ粒子層を、積層状又はモザイク状に形成することを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項14】
前記含浸工程において、前記生分解性高分子の溶液中にさらに生理活性物質を添加することを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【請求項15】
前記含浸工程においてナノ粒子層に含浸させる生分解性高分子は、前記生体適合性ナノ粒子を形成する生体適合性高分子より生体内での分解速度が速いことを特徴とする請求項9乃至請求項14のいずれか1項に記載の薬剤溶出型ステントの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−215620(P2007−215620A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37389(P2006−37389)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(502360363)株式会社ホソカワ粉体技術研究所 (59)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(502360363)株式会社ホソカワ粉体技術研究所 (59)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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