説明

薬物療法に関連する体重増加を予測するための方法

医薬品(例えば、オランザピン)での患者の治療に関連する体重増加の危険性についての生物マーカーとしてTRL V6を使用するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物療法に関連する体重増加を予測するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
文献は、現在いくつかの抗精神病薬、抗鬱薬、気分安定剤での治療、および他の精神的疾患の治療、ならびにPPAR−γアゴニストなどの血糖管理のための一部の治療を受けている患者の亜母集団において、治療下で出現する体重増加の観察を報告している。今までのところ、実際の体重増加を観察する前に、個々の患者が治療下で出現する体重増加にかかりやすいか否かを決定するための方法は存在しない。このような方法は、候補患者を事前チェックしてより良い治療判断を通知するのに大いに役立つであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、個々の患者が、例えば非定型抗精神病薬(例えばオランザピンなど)での治療などの薬物治療の所定の過程で、治療下で出現する体重増加にかかるか否かを予測するためのバイオマーカー、ならびに当該バイオマーカーを使用するための方法、システムおよびコンピュータプログラム製品を提供する。
【0004】
本発明の一つの態様において、V6サブクラスの大きなトリグリセリドリッチリポタンパク質粒子(TRL V6)の濃度の変化が、医薬品により誘発される哺乳動物におけるトリグリセリドおよび/またはリポタンパク質代謝の調節のためのバイオマーカーとして使用され得ることが見出されている。具体的には、患者の亜母集団において、治療下で出現する体重増加が観察される医薬品、例えば非定型抗精神病薬(例えば、2−メチル−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)−10H−チエノ[2,3−b][1,5]ベンゾジアゼピンまたはその塩(オランザピン))は、治療下で出現する体重増加にかかりやすい患者においてTRL V6濃度の増加を生じる。治療を開始する前または治療の過程の初期に患者ごとに患者に関するこの危険度を知ることは、潜在的な体重増加を軽減するためのより良い治療の選択肢を通知すること、および/または併用療法を示すことに使用できる。
【0005】
このように、本発明の一つの実施形態は、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、該医薬品の1回分以上の用量に応じてTRL V6濃度の増加があるか否かを患者において決定することを含み、TRL V6濃度の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法を提供する。
【0006】
本発明の別の態様において、ヒト患者において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性を決定するための方法であって、
(1)該患者に対して該医薬品の1回分の用量を投与する工程と、
(2)該用量に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
を含み、
有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0007】
本発明の別の実施形態において、ヒト患者において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性を決定するための方法であって、
(1)絶食状態である該患者に該医薬品の1回分の用量を投与する工程と、
(2)該用量に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
を含み、
有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0008】
本発明のこの態様の別の実施形態において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定するための方法であって、
(1)該患者に第1の脂肪負荷を投与する工程と、
(2)該第1の脂肪負荷に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
(3)該患者に第2の脂肪負荷を投与するとともに、該患者に該医薬品の1回分の用量を投与する工程と、
(4)該第2の脂肪負荷に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
(5)該第1の脂肪負荷に対するTRL V6反応と比較して、該第2の脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0009】
本発明のこの態様の更なる実施形態において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定するための方法であって、
(1)該患者に対して脂肪負荷を投与するとともに、該医薬品の1回分の用量を該患者に対して投与する工程と、
(2)該脂肪負荷に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
(3)該医薬品を含まない該脂肪負荷に対する標準的なTRL V6反応と比較して、該脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0010】
本発明の別の態様において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、該患者から単離された生体サンプルにおいて該医薬品の1回分以上の用量に応じてTRL V6濃度の増加があるか否かを決定することを含み、TRL V6濃度の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0011】
本発明のこの態様の別の実施形態において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、
該医薬品の1回分以上の用量が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該医薬品の1回分以上の用量に対するTRL V6反応を測定することを含み、
有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0012】
本発明のこの態様の別の実施形態において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、
(1)第1の脂肪負荷が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該第1の脂肪負荷に対するTRL V6反応を測定する工程と、
(2)第2の脂肪負荷の投与と併せて該医薬品の1回分の用量が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該第2の脂肪負荷に対するTRL V6反応を測定する工程と、
(3)該第1の脂肪負荷に対するTRL V6反応と比較して、該第2の脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法も提供される。
【0013】
本発明のこの態様の更に別の実施形態において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定するための方法であって、
(1)脂肪負荷の投与と併せて該医薬品の1回分の用量が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該脂肪負荷に対するTRL V6反応を測定する工程と、
(2)該医薬品を含まない該脂肪負荷に対する標準的なTRL V6反応と比較して、該脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法が提供される。
【0014】
本発明の上述の方法の特定の実施形態において、該医薬品は、非定型抗精神病薬である。本発明の上述の方法の特定の実施形態において、該医薬品は、オランザピンである。
【0015】
本発明の上述の方法の更に特定の実施形態において、該医薬品は、PPARγアゴニスト(例えば、チアゾリジンジオン)である。本発明の上述の方法の特定の実施形態において、該医薬品は、ピオグリダゾン、ロシグリタゾン、またはトログリタゾンである。
【0016】
本発明の別の態様において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の患者の危険性を評価するためのシステムであって、
NMR分光器、および、
該NMR分光器と通信する少なくとも1つのプロセッサ、
を備え、
該少なくとも1つのプロセッサは、該NMR分光器により生成されたNMRシグナルを評価して、該患者から1つ以上のインビトロでの生体サンプルのTRL V6濃度または等価物を決定し、該医薬品に対するTRL V6反応があるか否かを決定するように構成され、有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、例示的なトリグリセリドリッチリポタンパク質粒子亜画分(サブクラス)についての脂質メチル基NMRシグナルのグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施形態によるNMRシステムの概略図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態による例示的なデータ処理システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面において、類似の番号は全体にわたって類似の要素を示し、一部の構成要素、線、または特徴の厚み、大きさ、および寸法は、明確にするために誇張され得る。図中に示されるか、または特許請求の範囲において列挙される操作および/または工程の順序は、そうでないことが示されない限り表示された順序に限定されることを意図しない。図中の破線は、使用される場合、そのような示された特徴、操作、または工程がそうでないことが具体的に示されない限り任意選択的であることを示す。
【0019】
本出願の目的のために、以下の用語は、そうでないことが具体的に示されない限り、以下の意味を有する。
【0020】
用語「絶食状態」は、食物またはカロリーを含有する飲料無しの期間の後の個体の生理学的状態を意味する。この状態において、個体の胃内容排出は達成され、そしてトリグリセリドは基礎レベルである。絶食状態を達成するのに必要とされる時間は、個体間、およびその個体の以前のカロリー摂取量の性質により変化する。典型的に、絶食状態は、約5〜10時間、好ましくは約6〜9時間の間、例えば約8時間の絶食後に達成される。
【0021】
用語「脂肪負荷」は、試験被験体において高脂質血症を誘導するのに十分な脂質の用量を意味し、経口脂肪負荷、脂肪含有静脈内注入、高脂肪食品、食事、高脂肪飲料などの形態をとることができる。医薬品が、脂肪負荷または疑似脂肪負荷を送達するために開発され、使用され得ることもまた企図される。
【0022】
用語「TRL V6」は、約90nm〜最大約170nmまでの直径を有し、より典型的には約100〜140nmの直径を有するTRL(トリグリセリドリッチリポタンパク質)の粒子または亜画分を示す。用語「TRL V6」はまた、以下の表1において提供されるような推定直径に対応する、脂質メチル基NMRシグナル化学シフト(ppm)に関しても定義されることができる。
【0023】
用語「TRL V5」は、約60nm〜約80nmの直径を有する大きなTRL粒子を示す(関連するNMR化学シフトについて以下の表1を参照のこと)。
【0024】
用語「カイロミクロン」は、TRL V6より大きな直径を有する極めて大きなTRL粒子を示す。そのようなカイロミクロンとしては、約170nm〜約260nmまでの直径を有するTRL粒子または亜画分を示す(それらの関連するNMR化学シフトについて以下の表1を参照のこと)。TRL V5とTRL V6との間、またはTRL V6とカイロミクロンとの間のいずれも明確な区分が存在せず、その結果、TRL V5〜6については約80〜90nm、TRL V6およびカイロミクロンについては約140〜170nmの範囲で重複する、各サブグループに対する粒径の分布が存在することに注意することが重要である。
【0025】
用語「TRL V6反応」は、ベースライン濃度および/または粒子数と比べた、患者または試験哺乳動物におけるTRL V6トリグリセリド濃度および/または粒子数の増加を意味する。ある状況下では、「L TRL」(本出願の目的のために、TRL V6およびTRL V5粒子サブタイプの両方を含有する極めて大きいTRLのサブグループを意味するために用いられる)を、TRL V5濃度が医薬品または脂肪負荷に対する実質的な反応を示さないある状況下において、TRL V6濃度単独を測定することに代わるものとして測定することは有利であり得、その結果「L TRL」における反応は、特定の状況においてTRL V6反応それ自体を追跡することができ、次いでその等価物とみなされ得ることが理解されるべきである。しかしながらこれは、グループ全体(例えば、全VLDLとして)の全TRLまたはトリグリセリド濃度(または粒子数)を測定することには当てはまらない。種々のTRLの測定は、最終的にはサンプル中のトリグリセリドもしくは指定されたTRLの濃度を意味する濃度、または、最終的にはサンプル中のTRL粒子の濃度を意味する粒子数のいずれかとして報告され得ることに注意されるべきである。その両方が、TRL V6反応またはその増加に関して同じ結果を与える。
【0026】
用語「VLDLサイズ反応」は、医薬品または脂肪負荷もしくは高脂肪食の投与に反応する、患者または試験動物におけるグループとしてのTRLサブクラスV1〜6の粒径の増加を意味し、その増加は、クラスとしてのVLDL粒径のサイズ分布上のTRL V6濃度(または粒子数)の増加によって引き起こされた効果(すなわち、TRL亜母集団であるV1〜V6の平均サイズの変化)である。L TRLと同様に、VLDLサイズを測定することは、特定の状況下において、TRL V6を直接測定することに代わるものとして使用されてもよく、その結果、次いでVLDLサイズ反応は、TRL V6反応の等価物とみなされ得る。
【0027】
TRL V6反応の増加は、測定されたTRL V6濃度(あるいは粒子数またはVLDL粒径)の統計的に有意な増加を意味する。1つの非限定的な実施形態において、増加は、用量前濃度からの約3.6倍の増加または20〜360%の増加のTRL V6反応の変化として絶食評価について定義される。増加は、TRL V6反応の変化として脂肪負荷に関する評価について定義され、それは、医薬品の非存在下での患者の母集団において測定された時期間(inter−occasion)変位の分布の上限の少なくとも80パーセンタイル値の信頼区間を上回る。いかなる所定のアッセイプロトコルについても、医薬品に対する統計的に有意な反応を決定するために選択された実際の信頼区間は、アッセイプロトコルの所望の予測値に依存するだろう。例えば、TRL V6反応のより少ない偽陽性またはTRL V6反応の増加を提供することを望むアッセイプロトコルは、より高いパーセンタイル信頼区間、例えば90パーセンタイル値、または例えば95パーセンタイル値を選択するだろう。より少ない偽陰性を望むアッセイプロトコルについては、より低い信頼区間が適切であり得、例えば、80パーセンタイル値のような信頼区間が適切である。
【0028】
用語「医薬品」は、治療下で出現する体重増加が観察されている薬学的に活性な薬剤を意味する。一実施形態において、医薬品は、非定型抗精神病薬、例えばオランザピン、クロザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アムスルピリド、アリピプラゾール、アセナピン、イロペリドン、メルペロン、パリペリドン、ペロスピロン、リスペリドン、セルチンドール、スルピリドなどであるとみなされる。別の実施形態において、医薬品は、治療下で出現する体重増加が観察されている抗欝剤または気分安定剤、例えばアミトリプチリン、ミルタザピン、リチウム、バルプロ酸およびカルバマゼピンである。別の実施形態において、医薬品は、チアゾリジンジオン化合物のクラス、例えばピオグリタゾン、ロシグリタゾン、またはトログリタゾンなどのPPARγアゴニストである。さらに別の実施形態において、医薬品は、治療下で出現する体重増加が観察されている抗てんかん薬(AED)、例えばバルプロエート、カルバマゼピンおよびガバペンチンである。
【0029】
用語「生体サンプル」は、未加工の形態および/または調製物中の、全血、血漿、血清、尿、脳脊髄液(CSF)、リンパサンプル、便サンプル、組織、および/または体液を含む。しかしながら、全血または血漿の生体サンプルは、本発明の実施形態に特に適切であり得る。
【0030】
用語「実質的な体重増加」は、治療の1ヶ月以内で体重の約5lb(2.3Kg)以上の体重増加、または治療の6週間以内で体重の約6lb(2.8Kg)以上の体重増加を意味する。
【0031】
リポタンパク質は、血漿、血清、全血、およびリンパにおいて見出される様々な粒子を含み、種々のタイプおよび量のトリグリセリド、コレステロール、リン脂質、スフィンゴ脂質、およびタンパク質を含む。これらの種々の粒子は、血中の他の疎水性脂質分子の可溶化を可能にし、かつ、脂肪分解、脂肪生成、および腸と、肝臓と、筋肉組織と、脂肪組織との間の脂質輸送に関する様々な機能を果たす。血液および/または血漿において、リポタンパク質は、一般的に、密度または電気泳動移動度のような物理的性質に基づいて多くの方法で分類されている。核磁気共鳴による決定された粒径に基づく分類は、少なくとも16種の異なるトリグリセリドリッチリポタンパク質粒子のサブタイプ(高密度リポタンパク質の5種のサブタイプ、低密度リポタンパク質の4種のサブタイプ、および極めて低密度リポタンパク質の6種のサブタイプを含む)、指定されたTRL V1〜V6、およびカイロミクロンを区別する。これらのリポタンパク質サブタイプの中から、かつ他のサブタイプとは対照的に、本発明は最も大きいTRL粒子サブタイプであるTRL V6が、トリグリセリドおよび/またはリポタンパク質代謝のバイオマーカーとして使用されることができることを決定し、ここで、TRL V6の濃度が、脂肪含有食の消費後に予測的に上昇され、次いで、試験被験体が絶食状態に近づくにつれて、食後のある時点で基礎レベルに戻る。
【0032】
TRL粒子のNMR特徴を推定直径と関連付けるために、以下の表1は、TRL V6範囲ならびにTRL V5およびカイロミクロンについての化学シフトを規定する。
【0033】
【表1】

【0034】
表1は、Ca EDTAの内部基準シグナル(2.519ppm)に対して測定された、単離されたトリグリセリドリッチリポタンパク質(TRL)サブクラス(亜画分)のプロトンNMR化学シフトを示す。図1は、例示的なTRLサブクラスのNMR特性シグナルを示す。NMR測定は、47℃で、400MHz分光器で行った。カイロミクロンとして特定されたTRLサブクラスを、脂肪含有食を摂取した後のヒト被験体から得られた食後の血漿検体から単離した。TRL V6またはTRL V5として特定されたTRLサブクラスを、高トリグリセリド血症のヒト被験体から得られた空腹時血漿検体から得た。TRLサブクラスを、連続的超遠心分離法(カイロミクロンについては密度<0.94g/mL、TRL V5〜V6については<1.006g/mL)によって最初は単離し、120mM KCl、5mM EDTA、1mM CaCl、50mM NaHPO、および0.2g/L NaNを含有する緩衝液(pH7.4)において1%または2%アガロースビーズ(Bio−Rad,Hercules,CA)を使用する、ゲル濾過クロマトグラフィーによってさらに精製した。リポタンパク質直径の推定を、単離されたTRLサブクラスの電子顕微鏡法測定から得た。
【0035】
したがって、TRL V6は上記で直径によって規定されていたが、表1中のNMR化学シフトは、規定された直径範囲と等価なものを表す。したがって、NMR評価を使用すると、TRL V6はまた、約0.8374〜約0.8402の化学シフトを有するとも規定されることができ、隣接するTRL亜画分(例えば、TRL V5およびカイロミクロン)は表1にも記される化学シフトを有する。それにより、「TRL V6」の定義はまた、記載されるように測定された場合、たとえ論争中の実際の試験が非NMR評価法を利用するか、あるいは密度に関するパラメータを規定するかまたは直径よりも別の様式でパラメータを規定するにしても、上記のNMR化学シフト(+/−合理的な測定範囲)を有するいかなるTRL亜画分も示す。
【0036】
例えば、極めて大きなTRL粒子を測定する1つの公知の技術は、密度ベースの分離を利用する浮遊超遠心分離法である。Redgraveらは、粒子の推定直径に対する粒子の浮遊率(S、Svedberg単位)によって粒子を特徴づけている:S>400の場合、>75nmの粒子を含み;S175〜400の場合、50〜75nmの粒子を含み;S100〜175の場合、37〜50nmの粒子を含み;そしてS20〜100の場合、20〜37nmの粒子を含む。Redgraveら、Changes in plasma in very low density and low density lipoprotein content,composition,and size after a fatty meal in normo−and hypertriglyceridemic man,Journal of Lipid Research,Vol.20,pp.217−229(1979)を参照のこと。また、Karpeら、Differences in Postprandial Concentrations of Very−Low−Density Lipoprotein and Chylomicron Remnants Between Normotryglicyeridemic and Hypertriglyceridemic Men With and Without Coronary Heart Disease,Metabolism,Vol.48,No.3(March),1999,pp.301−307も参照のこと。したがって、たとえ試験方法それ自身によって大きさに基づいて特徴付けられなくても、もし密度によって分離された粒子がおよそ上記の化学シフトを有しているなら、そのTRL粒子はTRL V6粒子である。
【0037】
さらに、本発明は、食後のトリグリセリドレベルがTRL V6濃度の上昇と相関することを決定した。これらのトリグリセリドレベルは、加水分解される内腔内部のトリグリセリド、腸から吸収される脂肪酸に起因し、次いで、トリグリセリドとして再エステル化され、そしてカイロミクロンとしてリンパ循環または門脈循環中に輸送されるか、あるいは、肝臓によって分泌されたVLDLに起因することができる。例えば、正のエネルギーバランスの状態において、過剰な食物摂取の後、トリグリセリドは、筋肉のような脂肪酸酸化によりエネルギーを使用する他の組織とは対照的に、または他の組織に加えて、VLDLの構成要素として脂肪組織に貯蔵のために輸送される。したがって、食後のトリグリセリドレベルの増加は、いずれの場合も脂肪貯蔵の増加と相関する、脂肪酸酸化の減少および/または脂肪吸収の増加を示し得る。いくつかの実施形態において、本発明は、具体的には、TRL V6濃度の増加がこの脂肪貯蔵の増加と相関し、その結果、医薬品での治療によるTRL V6濃度の変化が、トリグリセリドおよび/またはリポタンパク質代謝に対する効果についてのバイオマーカーとして、特に所定の個々の患者が医薬品で治療される場合、実質的に体重を増加させるか否かを予測することを含む、脂肪貯蔵の増加についてのマーカーとして使用されることができることを実証する。
【0038】
TRL V6濃度(または粒子数)の上昇が、いくつかの場合において、平均VLDL粒径の増大(VLDLリポタンパク質粒子、TRL V1〜V6の群の全てのリポタンパク質粒子についての中間もしくは平均の大きさ、または大きなTRL=TRL V5+TRL V6のみでも)によっても追跡され得ることが理解されるだろう。なぜなら、このグループにおいて医薬品に対して変化する濃度を示す主成分が、上記のようにTRL V6成分であるからである。そのようなシグナルは、他のサブタイプからのシグナルによって弱められるが、VLDLサイズ反応(平均サイズの変化)を識別すること、それにより、VLDLサイズ反応の増加をTRL V6反応を直接的に測定することに代わるものとして識別することは可能であり得る。グループとしてのVLDL V1〜V5の濃度全体は、はっきりとは変化せず、かつ、TRL V6反応は、クラスとして(平均サイズで区別される)VLDL濃度を測定することからは一般的には検出可能ではないことに注意されたい。
【0039】
試験治療剤での治験研究を含む、ヒトでの研究のために、および所定の治療剤での治療の間、実質的な治療下で出現する体重増加についての個体の危険性を試験するために、ヒト患者を典型的に、目覚めた後、および何か消費する前、例えば約5〜10時間、好ましくは約6〜9時間、例えば約8時間の絶食の後に試験する。患者は、試験期間の前または間、いつでも水を飲んでもよい。次いで患者が絶食状態である場合、血液サンプルを取り、その患者についてのTRL V6濃度または粒子数の基礎レベルの測定を得る。次いでヒト患者に薬剤を投与し、第2の血液サンプルを取る。この血液サンプルのタイミングは、医薬分子の薬物動態次第である。その分子に応じて、血液サンプルを、投与後1時間から治療後数日間でできる限り早く採取してもよい。短時間、例えば数時間内の評価のために、評価が完了するまで、患者を絶食させたままにする必要がある。典型的に、投与後1時間で、採血は、患者が医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があるか否かを決定する慣用の試験に関して十分である。代替として、複数回投与後、完全なTRL V6反応経時変化を得るために採血を行ってもよい。TRL V6反応が、約20%〜約360%、またはベースラインから約3.6倍増加することは共通して見える。典型的な将来の治療下で出現する体重増加の反応の指標の反応の指標は約50%またはそれ以上増加し得る。
【0040】
絶食状態下での試験の代替として、試験の間のTRL V6濃度を標準化するために適切な脂肪負荷が投与されてもよい。この代替において、ヒト患者を典型的に、目覚めた後、および何かを消費する前に、例えば約5〜10時間、好ましくは約6〜9時間、例えば約8時間の絶食の後に試験する。患者は、試験期間の前または間、いつでも水を飲んでもよい。各々の試験時間前の食事内容およびタイミングに関する一貫性を容易にするために予備試験期間が行われてもよい。次いで患者が絶食状態である場合、血液サンプルを取り、その患者についてのTRL V6濃度または粒子数の基礎レベルの測定を得る。次いで患者に、比較的短時間、例えば約40分以下、好ましくは20分以下の時間にわたって適切な脂肪負荷を投与する。実施される研究、または所望の好ましい慣用の試験条件に応じて、次いで1つ以上の血液サンプルを取り、脂肪負荷に反応するTRL V6濃度の増加を定量する。典型的に、脂肪負荷後1時間で、採血は、患者が医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があるか否かを決定する慣用の試験に十分である。代替として、複数回の脂肪負荷後、完全なTRL V6反応経時変化を得るために採血を行ってもよい。脂肪負荷に対するヒトTRL V6反応(すなわち、TRL V6濃度の増加)は典型的に、脂肪負荷を投与してから約2時間後に開始し、脂肪負荷を投与してから約4時間から約7時間でピークに達し、脂肪負荷を投与してから約9時間から約12時間で基礎濃度に戻る。非常に高い脂肪濃度が投与される場合、遅く開始し/基礎レベルに遅く戻る経時変化に変わり得ることに注意されたい。このような変化は典型的に、約4〜6時間で開始し、約10時間でピークに達し、約12〜15時間で基礎レベルに戻ることが見られる。脂肪負荷に対する典型的なヒトTRL V6反応は、絶食状態における約0mg/dL〜約35mg/dlの基礎レベルから約80から約250mg/dLまでの血漿濃度の増加である。
【0041】
次いで患者を医薬品の投与と併せて再試験する。医薬品と併せた試験は、その患者の通常のTRL V6反応を決定する試験の前か後のいずれかに行われ得、ただし、それが好ましくないとしても、その医薬品を再試験する前に患者の系をクリアすることが理解されるべきである。試験医薬品に対する治療下で出現する体重増加の反応予測の指標であるヒトTRL V6反応の典型的な増加は、TRL V6反応の統計学的に有意な増加である。TRL V6反応が約3.6倍または約20%〜約80%増加することが共通して見える。好ましい予測反応の指標である典型的な反応は、約50%の増加またはそれ以上であり得る。
【0042】
1つの最適化された実施形態において、例えば、所定の医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の所定の患者の危険性を決定すること(すなわち、その医薬品での治療の間に患者が実質的に体重を増加するか否かを予測すること)における慣用の使用において、医薬品の1回分と併せた脂肪負荷の単回投与が適切であり得、その結果、TRL V6反応の増加は、所定の脂肪負荷に対する予め決められた患者母集団の平均TRL V6反応から決定され得る。そのような最適化された実施形態において、脂肪負荷および医薬品の投与の前の1回の採血、ならびに脂肪負荷投与後の予め決められた時点での1回の採血は、医薬品が、脂肪負荷に対する患者のTRL V6反応を増加させたか否かを決定するのに十分であり得、したがって、その薬剤が個々の患者のトリグリセリドおよび/またはリポタンパク質代謝を反対に調節するか否かを決定し、患者が、その医薬品で治療される場合、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す。
【0043】
さらに最適化された実施形態において、最初の採血をせずに(すなわち、個々に患者について基礎TRL V6濃度/粒子数の定量をせずに)、医薬品に対する関連するTRL V6反応または、医薬品に応じて脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加を決定することもまた可能であり得る。このような一実施形態において、測定されたTRL V6濃度または等価物は、医薬品の投与と併せた脂肪負荷の投薬後または投与後の予め決められた時間範囲内に取られた単一の生体サンプルから測定され、次いで標準的なベースラインもしくは試験されている関連する母集団について決定された基礎レベルと比較されるか、または任意の医薬品の非存在下での脂肪負荷に対する反応の標準的な分布と比較される。
【0044】
投与された脂肪負荷が、食物ベースの脂肪負荷よりもむしろ化学的および/または薬学的に誘導または刺激された脂肪負荷であり得ることもまた企図される。
【0045】
使用される特定の臨床アッセイプロトコルが、治療のために検討されている医薬品に依存するであろうこと、およびそのようなプロトコルの決定が当業者の範囲内であることは理解されるだろう。例えば、薬剤および第二脂肪負荷の投与の具体的なタイミングは、その薬剤の薬物動態に依存して変わるだろう。考慮すべき1つの要因は、その薬剤の血中レベルが脂肪負荷の投与の前に有効なレベルであることである。したがって、医薬品と「併せて」とは、薬剤および脂肪負荷の投与が、その薬剤が、それが投与されたときに脂肪負荷の吸収/分配/代謝/排出に作用するように患者において有効なレベルであることを可能にするように調整されることを意味すると理解される。これは、薬剤の仕様に依存して、その薬剤が脂肪負荷と同時、あるいはそのすぐ後、脂肪負荷投与後の約30分間までに投与されること、またはその薬剤がその薬剤の有効な血漿レベルを達成するのに必要な期間だけ脂肪負荷の前に、例えば、脂肪負荷の投与の約0時間〜約3時間前、例えば、脂肪負荷の投与の15分〜30分前に投与されることを意味することができる。医薬品がプロドラッグとして投与される場合、または活性代謝物がその医薬品の薬物動態において重要である場合、より長い時間が、活性部分の適切な血漿濃度を蓄積させるのに必要であり得る。そのような投薬養生法の決定は慣用であり、十分に当業者の範囲内である。
【0046】
同様に、医薬品、または医薬品の投与と併せた脂肪負荷の投与後の採血のタイミングおよび回数は、脂肪負荷後の採血の後まで薬剤の血中レベルが有効レベルのままであることの重要な要因である薬剤のクリアランス率に依存して変わり得、投与された医薬品および/または脂肪負荷に基づくピークTRL V6反応に対応して最適にタイミングを合わせられるべきである。
【0047】
脂肪負荷が使用される実施形態において、適切な脂肪負荷は、約30g以上の脂肪、好ましくは約50g以上の脂肪、好ましくは約60〜70gの脂肪を含む。約80g以上の脂肪を含む脂肪負荷は、TRL V6反応の開始により長い時間を誘導し始め得る。
【0048】
脂肪負荷の正確な組成は重要ではなく、多くの適切な組成物が当業者の栄養学者によって容易に配合され得ることは理解されるだろう。適切な脂肪負荷配合物は、所望の研究に適するようにおよび/または患者母集団の好みに従って合わせられ得る。重要な要因は、十分な脂肪含有量および過剰な全体のカロリー含有量が、短い期間内に提供されて、試験医薬品の非存在下でのTRL V6濃度の測定可能な上昇を生じさせることである。
【0049】
脂肪負荷は、多くの適切な形態、例えば、調理された食事、包装された食事、スナックバー(snack bar)のような1回分の食料品、包装された飲料または粉末の飲料ミックスのような1回分の液体組成物、あるいは経口の錠剤またはカプセル剤のいずれかをとり得る。脂肪負荷として機能し得る適切な組成物の例は以下の通りである。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
脂肪負荷の例3:飲料:所望される量の脂肪を提供するための、全乳またはクリームあるいはそれらの混合物の容量。例えば、約150mL〜約180mLのホイッピングクリーム。美味しさを改善するための香味剤が加えられ得る。
【0053】
TRL V6濃度または粒子数の測定
TRL V6反応は、任意の適切な様式で測定されることができる。TRL V6濃度または粒子数を選択的に測定するための1つの現在知られている方法は、血漿サンプルをNMR分光法によって、その後デコンボリューション分析によって、全NMRシグナルに対する種々のリポタンパク質サブタイプの相対的な寄与を分離する。1つのそのようなデコンボリューション方法は、NMR LipoProfile(登録商標)、NMR LipoProfile(登録商標)−II、および/またはNMR LipoProfile(登録商標)IIIの、LipoScience,Inc.,Raleigh,North Carolinaによって提供されるサブクラス粒子分析である。同様に、平均VLDL粒径も、NMR LipoProfile(登録商標)サブクラス粒子分析で同じように測定され得る。この分析技術の説明については、Otvosに対する米国特許第5343389号、米国特許第6617167号、米国特許第4933844号、および米国特許第7243030号を参照のこと。また、NMRの臨床分析機器の説明については、米国特許出願第2005−0222504号も参照のこと。また、Handbook of Lipoprotein Testing,Chapter 31:「Measurement of lipoprotein subclass profiles by nuclear magnetic resonance spectroscopy」,J.D.Otvos,AACC Press,Washington DC,2000,第2版,pp609−623、およびJeyarajah EJ,Cromwell WC,Otvos JD.Lipoprotein particle analysis by nuclear magnetic resonance spectroscopy.Clin Lab Med.2006;26:847−70も参照のこと。これらの参考文献の内容は、その全文が本明細書中に引用されるように、参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0054】
典型的な例として、全血サンプルを、2mlのEDTA採血管中に採取し、よく混合するために数回転倒させ、氷上に置く。サンプルを、次いでおよそ3000rpmで10〜15分間4℃で遠心分離する。遠心分離が完了すると、管を氷上に置き、血漿を取り出す。血漿を、ポリプロピレン管中に入れ、分析まで4℃で保つ。サンプルは、採取の後約4日までいつでも分析され得る。サンプルを、TRL V6反応について、例えば、NMR血漿リポタンパク質分析によって、例えば、LipoScience,Inc.(Raleigh,North Carolina)によって提供されるNMR LipoProfile(登録商標)、NMR LipoProfile(登録商標)−II、またはNMR LipoProfile(登録商標)−IIIリポタンパク質試験によって分析する。
【0055】
NMRスペクトルデータを、Jeyarajahら(上述)に記載されるように分析する。リポタンパク質サブクラス濃度を、脂質質量濃度単位(mg/dLのトリグリセリド単位のTRLサブクラス)で、あるいは、nmol/Lの粒子濃度単位(1リットルあたりの粒子のナノモル)で報告する。元の情報(各サブクラスのNMRシグナル振幅)を、正常な脂質組成の単離したカイロミクロン、VLDL、LDL、およびHDLサブクラス基準の化学的脂質分析およびNMR分析から得られた変換計数のセットを使用する、分析ソフトウェアによってこれらの質量濃度単位または粒子濃度単位に変換する。
【0056】
図2は、例示的なNMR分析システム7を示し、それは、TRL V6評価モジュール100を使用してTRL V6分析および/またはTRL V6測定を実行するために使用されることができる。TRL V6評価モジュール100は、シグナルプロセッサおよび/またはコントローラ11中にシステムを搭載することができ、またはサーバー、クライアント、および/または他のコンピュータ上のような異なるローカルプロセッサまたは遠隔プロセッサに部分的または全体的に存在し得る。ここで図2を参照すると、システム7は、生体サンプルのNMR測定を行うためのNMR分光器10を含む。いくつかの実施形態において、分光器10は、NMR測定がプロトンシグナルについて400MHzで行われるように構成され;他の実施形態において、測定は、360MHzまたは別の所望の周波数で実行され得る。すなわち、所望の操作磁場強度に対応する他の周波数もまた利用され得る。典型的には、プロトンフロープローブが、サンプル温度を47+/−0.2℃に維持する温度コントローラとして設置される。分光器10の磁場均一性は、99.8%のDOのサンプル上で、HDO MNRシグナルのスペクトル線幅が0.6Hz未満になるまで粗調製する(shimming)ことによって最適化されることができる。DO測定のために使用される90°RF励起パルス幅は、典型的には、約6〜7マイクロ秒である。
【0057】
図2を再度参照すると、分光器10は、デジタルシグナルプロセッサおよび/もしくはコントローラ11、または他のシグナル処理ユニットによって制御される。プロセッサ/コントローラ11は、迅速なフーリエ変換を実施することが可能であるべきであり、この目的のために、配線で接続されたサインテーブル、ならびに配線で接続された乗算回路および除算回路を含み得る。それはまた、外部または遠隔コンピュータ13へのデータリンク12、および電子記憶ユニット15に接続する直接メモリアクセスチャンネル14も含み得る。
【0058】
プロセッサ/コントローラ11はまた、アナログからデジタルへの変換器、デジタルからアナログへの変換器、ならびにパルスコントロールおよびインターフェース回路16を介して、分光器の操作要素に接続するスローデバイスI/Oポートのセットも含み得る。これらの要素は、デジタルコンピュータ11によって指示されるRF励起パルスの継続時間、周波数、および大きさを生成するRF送信器17、ならびにパルスを増幅し、かつそれをサンプルセル20を囲むRF送信コイル19に連結するRF電力増幅器18を含む。超電動磁石21によって生成された9.4 Tesla偏光磁場の存在下で励起されたサンプルによって生成されたNMRシグナルは、コイル22によって受信され、RF受信器23に適用される。増幅およびフィルター処理されたNMRシグナルは、24で復調され、生じた直交シグナルはインターフェース回路16に適用され、そこではそれらはデジタル化されデジタルコンピュータ11を介してディスク記憶装置15中のファイルに入力される。システム7は、シグナルプロセッサ/コントローラ11および/または全体的にもしくは部分的に、オンサイトまたは遠隔であり得る異なるコンピュータ、サーバー、またはクライアント上の別のプロセッサに配置されたデコンボリューションモジュール含むことができる。適切な臨床NMR分析機器のさらなる説明についてはUS2005/0222504を参照のこと(その内容は、その全文が本明細書中に引用されるように、参照によって本明細書中に組み込まれる。)。
【0059】
NMRデータが測定セル20においてサンプルから獲得された後、シグナル処理は、化学シフトスペクトルのデジタル表示であるデータファイルを生成し、それは、電子的アーカイバルメディア記録記憶装置25中に記憶され得る。パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、または他のコンピュータであり得るコンピュータ13は、化学シフトスペクトルを処理し、プリンター26に出力されるか、または電子的に記憶され、そして所望の電子メールアドレスまたはURLに送られる患者報告書を提供することができる。当業者は、表示装置のような他の出力デバイスもまた、結果を提供するために利用され得ることを認識するだろう。
【0060】
当業者には、コンピュータ13およびその記憶装置25によって実施される機能はまた、分光器のデジタルシグナルプロセッサ/コントローラ11によって実施される機能中に、またはNMR分光器10および/またはプロセッサ11と通信するさらなる回路に組み込まれ得ることは明らかだろう。当業者に周知であるように、他のインターフェースおよび出力デバイスもまた利用され得る。
【0061】
図3は、TRL V6評価モジュール100aの例を示し、それらは、システム7と通信し、システム7を搭載し、および/またはシステム7もしくはTRL V6データを提供できる他の測定システムによって測定されたTRL V6データを分析することができる。示されるように、図3は、本発明の実施形態に従うシステム、方法、および/またはコンピュータプログラム製品として包含されるかまたは提供されることができる、データ処理システムの例示的実施形態を示す。プロセッサ410(任意選択的に、図2のプロセッサ11および/またはコンピュータ13であるか、またはそれらと通信することができる)は、アドレス/データバス448を介してメモリ414と通信する。プロセッサ410は、いかなる市販マイクロプロセッサまたはカスタムマイクロプロセッサでもあることができる。メモリ414は、データ処理システム405の機能を実行するために使用されるソフトウェアおよびデータを含有するメモリデバイスの階層の代表である。メモリ414は、限定されないが、以下のタイプのデバイスを含むことができる:キャッシュメモリ、ROM、PROM、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、SRAM、およびDRAM。
【0062】
図3に示されるように、メモリ414は、データ処理システム405において使用されるいくつかのカテゴリーのソフトウェアおよびデータ含み得る:操作システム452;アプリケーションプログラム454;入力/出力(I/O)デバイスドライバ458;TRL V6体重増加危険性予測モジュール100a(図3);およびデータ456。
【0063】
データ456は、(図2に示されるシステム7のような)データまたはシグナル獲得システム420から得られ得る、TRL NMRサブクラスシグナル(構成および/または複合スペクトル線形)データ462を含み得る。各患者の生体サンプルについて、データは、TRL V6の固有データ値、またはTRL V6と他の亜画分(例えば、カイロミクロンおよび/またはTRL V5)のデータを含むことができる。当業者によって理解されるように、操作システム452は、例えば、内蔵されたデータ処理システムのための、International Business Machines Corporation(Armonk,NY)製のOS/2、AIX、またはOS/390、Microsoft Corporation(Redmond,WA)製のWindows(登録商標)CE、Windows(登録商標)NT、Windows(登録商標)95、Windows(登録商標)98、Windows(登録商標)2000、またはWindows(登録商標)XP、PalmSource,Inc.(Sunnyvale,CA)製のPalm OS、Apple Computer,Inc製のMac OS、UNIX(登録商標)、FreeBSD、またはLinux、私有の操作システムまたは専用の操作システムのようなデータ処理システムでの使用に適切ないかなる操作システムであっても良い。
【0064】
I/Oデバイスドライバ458は、典型的には、アプリケーションプログラム454によって操作システム452を介してアクセスされるソフトウェアルーチンを含んで、I/Oデータポート、データ記憶装置456、および特定のメモリ414コンポーネントおよび/またはデータ獲得システム420のようなデバイスと通信する。アプリケーションプログラム454は、データ処理システム405の種々の特徴を実施するプログラムの実例であり、好ましくは、本発明の実施形態による操作を支持する少なくとも1つのアプリケーションを含む。最終的には、データ454は、アプリケーションプログラム454、操作システム452、I/Oデバイスドライバ458、およびメモリ414中に存在し得る他のソフトウェアプログラムによって使用される静的および動的データを表す。
【0065】
本発明の実施形態は、例えば、図3のアプリケーションプログラムであるモジュール100aに関して例示的であるが、当業者によって理解されるように、本発明の実施形態の教示から利益を受ける限りは、他の構成もまた利用可能であり得る。例えば、モジュール100aはまた、操作システム452、I/Oデバイスドライバ458、またはデータ処理システム405の他のそのような論理部中に内蔵され得る。したがって、本発明の実施形態は、図3の構成に限定されるとみなされるべきではなく、それらは、本明細書中に記載される操作を実行することができるいかなる構成も包含することが意図される。特定の実施形態において、モジュール100aは、遠隔コントロールシステム(ローカルまたはオフサイト)と通信するためのコンピュータプログラムコードを含み得る。
【0066】
本発明の方法、システム、およびコンピュータプログラム製品が、TRL V6反応またはVLDLサイズ反応を測定する手段によって限定されないことは理解されるだろう。そのようなサブタイプを区別する測定の新規方法は将来発見されるだろうし、また、従来の方法がそのような測定を可能にするために変更され得るからである。例えば、もしTRL V6特異的抗原が公知になり、かつそのような抗原に対して特異的抗体が開発されたときは、TRL V6反応を免疫アッセイ技術によって測定することが可能になり得る。また、TRL V6特異的タンパク質または他のTRL V6特異的成分を識別および定量化することも可能になり得、それによってTRL V6反応を測定するための新しい方法が可能になり得るか、あるいは超遠心分離および浮遊評価、または他の従来の方法が、好適なTRL V6情報を提供するために変更され得る。そのような方法は、本明細書中に記載されるNMR技術を使用する方法と等価であると当業者によって理解されるだろう。
【0067】
本発明の実施形態は以下の非限定的な実施例においてより詳細に説明される。
【0068】
上述は本発明の例であり、開示される特定の実施形態に対する限定とみなされるべきではない。少数の本発明の例示的な実施形態が記載されるが、当業者は、その方法が、種々の代替のプロトコルのために使用されてもよく、治療下で出現する体重増加が観察される他の医薬品で使用されてもよいことを容易に理解するだろう。
【実施例】
【0069】
実施例1:非定型抗精神病薬−オランザピン(Zyperxa(登録商標))でのヒト研究
文献は、いくつかの非定型抗精神病薬での治療が、患者の亜母集団において治療の間、治療下で出現する体重増加が観察されると報告している(例えばオランザピン、クロザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アミスルプリド、アリピプラゾール、アセナピン、イロペリドン、メルペロン、パリペリドン、ペロスピロン、リスペリドン、セルチンドール、およびスルピリドなど)。治療下で出現する体重増加の危険性があるこれらの患者を識別するためのTRL V6反応の使用を実証するために、試験的バイオマーカー研究を、単一中心、ランダム化された、非盲検、並列設計を利用して実施し、健常ボランティアにおいてオランザピン(Zyprexa(登録商標))投与時に観察される代謝変化を比較する。
【0070】
被験者にオランザピンを投与する前に、絶食状態の投与前の血漿サンプルを採取する。次いで被験者に5mgのオランザピンを2日間毎日与え、続いて10mgの経口オランザピンを研究の残りの間毎日与える。被験者は治療後4日の診療を認められ、空腹時血液サンプルをV6反応の評価のために採取する。その後の訪問は同じ手順を繰り返し、治療の8〜11日ごとに予定を決める。被験者は、少なくとも3週間、最大26日まで治療状態である。各々のV6評価期間の間、被験者の体重を記録する。血液サンプルを2mlのEDTA採血管中に採取し、よく混合するために数回転倒させ、氷上に置く。サンプルを、次いでおよそ3000rpmで10〜15分間4℃で遠心分離する。遠心分離が完了すると、管を氷上に置き、血漿を取り出す。血漿を、ポリプロピレン管中に入れ、分析まで4℃で保つ。サンプルは、採取の後約4日までいつでも分析され得る。サンプルを、TRL V6反応について、例えば、NMR血漿リポタンパク質分析によって、例えば、LipoScience,Inc.(Raleigh,North Carolina)によって提供されるNMR LipoProfile(登録商標)、NMR LipoProfile(登録商標)−II、またはNMR LipoProfile(登録商標)−IIIリポタンパク質試験によって分析する。
【0071】
TRL V1、V2、V3、V4、V5およびV6反応ならびにVLDLサイズ反応を、体重の増加と一緒に各訪問の間に測定する。平均でオランザピン治療は、約63%のTRL V6反応の統計的に有意な増加を示す。TRL V6の変化と体重の変化との関係を、混合効果モデル分析を使用して分析する。統計的に有意な関係は、TRL V6の個々の変化と体重の変化との間に見出される。TRL:V1、V2、V3、V4、またはV5サブタイプのいずれかの濃度の変化と体重との関係は、有意であると見出されない。VLDLサイズもまた、有意であるが、この関係の勾配は、TRL V6反応の変化より少ないと見出される。ほとんどの被験者において、オランザピンの投与は、投与前の濃度と比較してTRL V6反応およびVLDLサイズ反応の大きさを増加させる。この研究における治療下で出現する体重増加の反応予測は、(3.77,9.13)の90%CIを有するベースラインから6.5mg/dlの変化で約360%の増加すなわち3.6倍の増加であるのに対し、危険性の少ない被験者は、90%CIすなわち(−0.24,2.0)を有するベースラインから0.38mg/dlの変化で1.1倍の増加を有する。従って、オランザピンによって誘導されるTRL V6反応およびVLDLサイズ反応の増加は、ヒトにおいて観察される非定型抗精神病薬の治療下で出現する体重増加と関連する。
【0072】
Zyprexaを受容している健常ボランティアにおけるベースラインからの体重の変化と可変物の変化との間の関係の統計的分析
【0073】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、該医薬品の1回分以上の用量に応じてTRL V6濃度の増加があるか否かを該患者において決定することを含み、TRL V6濃度の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項2】
ヒト患者において、医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性を決定するための方法であって、
(1)該患者に対して該医薬品の1回分の用量を投与する工程と、
(2)該用量に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
を含み、
有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項3】
医薬品での治療に関連する体重増加のヒト患者の危険性を決定するための方法であって、
(1)該患者に第1の脂肪負荷を投与する工程と、
(2)該第1の脂肪負荷に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
(3)該患者に第2の脂肪負荷を投与するとともに、該患者に該医薬品の1回分の用量を投与する工程と、
(4)該第2の脂肪負荷に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
(5)該第1の脂肪負荷に対するTRL V6反応と比較して、該第2の脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項4】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定するための方法であって、
(1)該患者に対して脂肪負荷を投与するとともに、該医薬品の1回分の用量を該患者に対して投与する工程と、
(2)該脂肪負荷に対する該患者のTRL V6反応を測定する工程と、
(3)該医薬品を含まない該脂肪負荷に対する標準的なTRL V6反応と比較して、該脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項5】
該医薬品は、非定型抗精神病薬である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
該医薬品は、オランザピンまたはその塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
TRL V6反応は、NMR分光器により測定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の患者の危険性を評価するためのシステムであって、
NMR分光器、および、
該NMR分光器と通信する少なくとも1つのプロセッサ、
を備え、
該少なくとも1つのプロセッサは、該NMR分光器により生成されたNMRシグナルを評価して、該患者から1つ以上のインビトロでの生体サンプルのTRL V6濃度または等価物を決定し、該医薬品に対するTRL V6反応があるか否かを決定するように構成され、有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、システム。
【請求項9】
該医薬品は、非定型抗精神病薬である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
該医薬品は、オランザピンまたはその塩である、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、該患者から単離された生体サンプルにおいて、該医薬品の1回分以上の用量に応じてTRL V6濃度の増加があるか否かを決定することを含み、TRL V6濃度の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項12】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、
該医薬品の1回分以上の用量が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて、該医薬品の1回分以上の用量に対するTRL V6反応を測定することを含み、有意なTRL V6反応は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項13】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定する方法であって、
(1)第1の脂肪負荷が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該第1の脂肪負荷に対するTRL V6反応を測定する工程と、
(2)第2の脂肪負荷の投与と併せて該医薬品の1回分の用量が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該第2の脂肪負荷に対するTRL V6反応を測定する工程と、
(3)該第1の脂肪負荷に対するTRL V6反応と比較して、該第2の脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項14】
医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加のヒト患者の危険性を決定するための方法であって、
(1)脂肪負荷の投与と併せて該医薬品の1回分の用量が投与された該患者から単離された生体サンプルにおいて該脂肪負荷に対するTRL V6反応を測定する工程と、
(2)該医薬品を含まない該脂肪負荷に対する標準的なTRL V6反応と比較して、該脂肪負荷に対するTRL V6反応の増加があるか否かを決定する工程と、
を含み、
TRL V6反応の有意な増加は、該患者が該医薬品での治療の間、治療下で出現する体重増加の危険性があることを示す、方法。
【請求項15】
該医薬品は、非定型抗精神病薬である、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
該医薬品は、オランザピンまたはその塩である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
TRL V6反応は、NMR分光器により測定される、請求項11から16のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533754(P2012−533754A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521689(P2012−521689)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/042208
【国際公開番号】WO2011/011267
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】