説明

薬物発見のための単一分子プラットホーム:抗癌剤および抗ウイルス剤の発見を含む薬物発見のための方法および装置

本出願は、単一分子薬物のスクリーニング、発見および確認のための方法および装置を開示する。これらの方法および装置により、ユーザーは、単一分子の観察を使用し、薬物候補が特定の疾患経路に関与する標的酵素に干渉するかどうか、およびどのように干渉するかを迅速に検出することが可能になる。本明細書に記載された方法および装置は、単一分子の操作および検出技術(例えば、光学的または磁気的ピンセット)を利用して、標的酵素-基質相互作用の特性動力学または「力学的特性」が薬物候補によって実質的に改変または調節されたかどうかを直接検出する。さらに、該方法および装置は、薬物候補の潜在的干渉機構を同定するために力学的特性の調節を分析するのに有用である。本発明の1つの局面において、本明細書に開示された方法および装置は、重合プロセスを阻害するか、さもなければ調節するかのいずれかである薬物候補の存在下での、ポリヌクレオチド基質に沿った個々のポリメラーゼ分子(例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および逆転写酵素)のリアルタイム動力学的力学的特性のモニタリングに関する。かかる薬物候補の同定および分析は、抗ウイルス剤、抗癌剤および抗生物質薬物の開発に重要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(継続出願データ)
本出願は、2006年4月21日に出願された米国特許仮出願第60/793,720号の恩典を主張する。上述の出願の全教示は参照により本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および逆転写酵素を含む酵素を標的化する薬物候補のスクリーニングおよび確認に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
臨床的使用における薬物のおよそ30パーセントは、疾患関連酵素的プロセスを阻害する(Copeland, R. A. Evaluation of enzyme inhibitors in drug discovery: a guide for medicinal chemists and pharmacologists. (Wiley-Interscience, 2005))。したがって、新規な酵素インヒビターの発見は、生化学および薬理学における研究の重要な分野である。
【0004】
ポリメラーゼインヒビターは、臨床環境および研究環境の両方において重要である。これらのインヒビターは、転写およびDNA複製の機構局面の解明、構造-機能の関係のマッピング、およびタンパク質活性の特徴付けを補助する。ポリメラーゼインヒビターはまた、中でも、最も魅力的な薬物標的である。これらのインヒビター、その構造およびその機構に関する知識により、抗癌剤、抗ウイルス剤および新規な病原体および公知の病原体の抗生物質耐性変異体に対して有効な抗生物質などの新規な薬物の設計が可能になる。これらのインヒビターのいくつかはアポトーシスを誘導および/または阻害することが報告されているため、これらはまた、アポトーシスの調査のための重要なツールを提供する。同様に、これらの薬剤のいくつかはDNA転写の特定の工程を遮断するため、ポリメラーゼインヒビターは、種々の健常および疾患状態での標的遺伝子の発現の調節における転写を制御する役割を解明するのを補助し得る。
【0005】
特定の疾患経路に関与するポリメラーゼタンパク質を標的化する薬物は当該技術分野において周知である。例えば、逆転写酵素インヒビター(RTI)は、逆転写酵素の活性を阻害することによりウイルスDNAの構築を標的化する抗レトロウイルス薬の部類である。RTIには、異なる作用機構を有する2つのサブタイプがあり、ヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログRTIは、ウイルスDNAに組み込まれ、連鎖終結をもたらすが、非ヌクレオシドアナログRTIは、逆転写酵素の競合的インヒビターとしての機能を果たす。HIV逆転写酵素を阻害することにより機能を果たす現行のAIDS治療剤は当該技術分野において記載されており(例えば、Bean et al., Appl Environ Microbiol 72:5670-5672 (2005)参照)、エファビレンツ(Efavirenz)(商標名SUSTIVA(登録商標)およびSTOCRIN(登録商標))ならびにネビラピン(Nevirapine)(商標名VIRAMUNE(登録商標)でも市販されている)が挙げられる。ポリメラーゼタンパク質を標的化する抗生物質(例えば、リファンピン)およびポリメラーゼタンパク質を標的化する癌薬物(例えば、シスプラチン)もまた、当該技術分野において公知である。
【0006】
多くの薬物が、癌の治療に有効であることがわかっている。これらとしては、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートおよびフルオロウラシル)、DNA傷害剤(例えば、シクロホスファミド、シスプラチン、およびドキソルビシン)、有糸分裂インヒビター(例えば、ビンクリスチン)、ヌクレオチドアナログ(例えば、6-メルカプトプリン)、DNA修復に関与するトポイソメラーゼのインヒビター(例えば、エトポシド)、DNAポリメラーゼのインヒビター(例えば、ブレオマイシン)、ならびにミトザントロンなどのインターカレート剤などの種々の化合物が挙げられる。
【0007】
哺乳動物のDNA複製の酵素を標的化するいくつかの薬物が、現在、癌化学療法の有望な候補として、または、DNA複製および修復における特異的酵素の役割の理解のための指標として調査されている。これらの潜在的薬物候補としては、コリリフォリン(corylifolin)、バクチオール(bakuchiol)、レスベラトロール(resveratrol)、ネオババイソフラボン(Neobavaisoflavone)およびダイドゼイン(daidzein)(Sun et al., J. Nat. Prod. 61, 362-366 (1998)参照)が挙げられる。
【0008】
DNAおよびRNAポリメラーゼインヒビターの他の例としては、アクチノマイシンD、ストレプトマイセス種;α-アマニチン、テングタケ種;アフィジコリン、HSV複製インヒビター、BP5;α-アマニチンオレイン酸メチル;ノボビオシン、ナトリウム塩;リファンピシン;RNAポリメラーゼIIIインヒビター;およびアクチノマイシンD、7-アミノが挙げられる。C型肝炎ウイルスに対する使用のための現在フェーズII臨床試験中の3つのポリメラーゼインヒビターは、Idenix/Novartisのバロピシタビン(valopicitabine)(NM283);ViroPharmaのHCV-796;およびRocheのR1626である。Roche/Idenixはまた、第1鎖ウイルスDNA合成インヒビターであるバルトルシタビン(valtorcitabine)(val-LdC)を、HBV治療剤として最初の成功後、フェーズII HCV臨床試験において調査している。
【0009】
DNA傷害剤は、最も成功した癌治療のいくつかを提供する。酵素ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(すなわち、PARP)は、癌を治療するために使用されるDNA傷害剤によって引き起こされるDNA損傷の修復を補助し得る。PARP活性は、しばしば癌細胞において増大するため、これらの細胞に生存機構を提供する。例えば、ABT-888 (Abott Oncology)は、癌細胞においてDNA修復を妨げるため、ならびに放射性剤およびアルキル化剤などの一般的な癌治療剤の有効性を増大させるための、Abbottによって開発された経口PARPインヒビターである。さらに、前臨床データは、ABT-888が、癌の動物モデルにおいて放射線および多くの型の化学療法の有効性を改善したことを示す。
【0010】
最近5年間のこれらの選択された刊行物は、ポリメラーゼインヒビターの活性、機構および生化学に関する当該技術分野の現状を示す。
Brown JA, Duym WW, Fowler JD, Suo, Z.. (2007)「Single-turnover Kinetic Analysis of the Mutagenic Potential of 8-Oxo-7,8-dihydro-2'-deoxyguanosine during Gap-filling Synthesis Catalyzed by Human DNA Polymerases lambda and beta.」J Mol Biol. [印刷前に電子公開]
Suo, Z., Abdullah MA. (2007) 「Unique Composite Active Site of the Hepatitis C Virus NS2-3 Protease: a New Opportunity for Antiviral Drug Design.」ChemMedChem. 2(3), 283-284.
Roettger MP, Fiala KA, Sompalli S, Dong Y, Suo Z. (2004) 「Pre-steady-state kinetic studies of the fidelity of human DNA polymerase mu」, Biochemistry 43(43), 13827-38.
Fiala KA, Abdel-Gawad W, Suo Z. (2004) 「Pre-steady-state kinetic studies of the fidelity and mechanism of polymerization catalyzed by truncated human DNA polymerase lambda.」, Biochemistry 43(21), 6751-62.
Fiala, K. A & Suo Z.* (2004) Pre-Steady State Kinetic Studies of the Fidelity of Sulfolobus solfataricus P2 DNA Polymerase IV.Biochemistry 43, 2106-2115
Fiala, K. A & Suo Z.* (2004) Mechanism of DNA Polymerization Catalyzed by Sulfolobus solfataricus P2 DNA Polymerase IV. Biochemistry 43, 2116-2125
Fiala, K. A, Abdel-Gawad, W. & Suo Z.* (2004) Pre-Steady-State Kinetic Studies of the Fidelity and Mechanism of Polymerization Catalyzed by Truncated Human DNA Polymerase Lambda.Biochemistry, 受理および印刷中.
Allison, A. J., Ray, A., Suo Z.., Colacino, J. M., Andeson, K. S., Johnson, K.A. (2001)「Toxicity of Antiviral Nucleoside Analogs and the Human Mitochondrial DNA Polymerase」, J. Biol. Chem. 276, 40847-40857.
【0011】
新規な薬物は、その最初の工程が有望な活性を有する化合物の発見である長期の関与する薬物開発プロセスの製品である。新規な酵素インヒビターは、標的酵素に対する薬物候補化合物のライブラリーのスクリーニングによって発見され得る。従来の薬物スクリーニングおよび確認アプローチは、マイクロからミリ規模の生化学的または細胞性アッセイを利用し、下流の酵素的干渉(interference)の生化学的または細胞特性を検出する。従来の薬物スクリーニング方法の制限に鑑み、当該技術分野において、有望な薬物候補の検出のための改善された方法および装置の必要性がある。
【0012】
(発明の要旨)
本出願は、単一分子薬物のスクリーニング、発見および確認のための方法および装置を開示する。これらの方法および装置により、ユーザーは、単一分子の観察を使用し、薬物候補が特定の疾患経路に関与する標的酵素に干渉するかどうか、およびどのように干渉するかを迅速に検出することが可能になる。本明細書に記載された方法および装置は、単一分子の操作および検出技術(例えば、光学的または磁気的ピンセット)を利用して、標的酵素-基質相互作用の特性動力学または「力学的特性(mechanical signature)」が薬物候補によって実質的に改変または調節されたかどうかを直接検出する。さらに、該方法および装置は、薬物候補の潜在的干渉機構を同定するために力学的特性の調節を分析するのに有用である。
【0013】
本発明の1つの局面において、本明細書に開示された方法および装置は、重合プロセスを阻害するか、さもなければ調節するかのいずれかである薬物候補の存在下での、ポリヌクレオチド基質に沿った個々のポリメラーゼ分子(例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および逆転写酵素)のリアルタイム動力学的力学的特性のモニタリングに関する。かかる薬物候補の同定および分析は、抗ウイルス剤、抗癌剤および抗生物質薬物の開発に重要である。
【0014】
(発明の実施形態の詳細な説明)
DNAおよびRNAポリメラーゼならびに逆転写酵素(RT)インヒビターは、臨床環境および研究環境の両方において重要である。これらのインヒビターは、転写およびDNA複製の機構局面の解明、構造-機能の関係のマッピング、およびタンパク質活性の特徴付けを補助する。これらのポリメラーゼおよびRTインヒビターはまた、中でも、最も魅力的な薬物標的である。これらのインヒビター、その構造およびその機構に関する知識により、抗癌剤ならびに新規な病原体および公知の病原体の抗生物質耐性変異体に対して有効な抗生物質などの新規な薬物の設計が可能になる。これらのインヒビターのいくつかはアポトーシスを誘導および/または阻害することが報告されているため、これらはまた、アポトーシスの調査のための重要なツールを提供する。同様に、これらの薬剤のいくつかはDNA転写の特定の工程を遮断するため、ポリメラーゼインヒビターは、種々の健常および疾患状態での標的遺伝子の発現の調節における転写の制御の役割を解明するのを補助し得る。
【0015】
特定の疾患経路に関与するポリメラーゼタンパク質を標的化する薬物は当該技術分野において周知である。例えば、逆転写酵素インヒビター(RTI)は、逆転写酵素の活性を阻害することによりウイルスDNAの構築を標的化する抗レトロウイルス薬の部類である。RTIには、異なる作用機構を有する2つのサブタイプがあり、ヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログRTIは、ウイルスDNAに組み込まれ、連鎖終結をもたらすが、非ヌクレオシドアナログRTIは、逆転写酵素の競合的インヒビターとしての機能を果たす。HIV逆転写酵素を阻害することにより機能を果たす現行のAIDS治療剤は当該技術分野において記載されており(例えば、Bean et al., Appl Environ Microbiol 72:5670-5672 (2005)参照)、エファビレンツ(Efavirenz)(商標名SUSTIVA(登録商標)およびSTOCRIN(登録商標))ならびにネビラピン(Nevirapine)(商標名VIRAMUNE(登録商標)でも市販されている)が挙げられる。
【0016】
多くの薬物が、癌の治療に有効であることがわかっている。これらとしては、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートおよびフルオロウラシル)、DNA傷害剤(例えば、シクロホスファミド、シスプラチン、およびドキソルビシン)、有糸分裂インヒビター(例えば、ビンクリスチン)、ヌクレオチドアナログ(例えば、6-メルカプトプリン)、DNA修復に関与するトポイソメラーゼのインヒビター(例えば、エトポシド)、DNAポリメラーゼのインヒビター(例えば、ブレオマイシン)、ならびにミトザントロンなどのインターカレート剤などの種々の化合物が挙げられる。
【0017】
哺乳動物のDNA複製の酵素を標的化するいくつかの薬物が、現在、癌化学療法の有望な候補として、または、DNA複製および修復における特異的酵素の役割の理解のための指標として調査されている。これらの潜在的薬物候補としては、限定されないが、コリリフォリン、バクチオール、レスベラトロール、ネオババイソフラボンおよびダイドゼインが挙げられる。(Sun et al引用)
【0018】
DNAおよびRNAポリメラーゼインヒビターの他の例としては、アクチノマイシンD、ストレプトマイセス種;α-アマニチン、テングタケ種;アフィジコリン、HSV複製インヒビター、BP5;α-アマニチンオレイン酸メチル;ノボビオシン、ナトリウム塩;リファンピシン;RNAポリメラーゼIIIインヒビター;アクチノマイシンD、7-アミノが挙げられる。C型肝炎ウイルスに対する使用のための現在フェーズII臨床試験中の3つのポリメラーゼインヒビターは、Idenix/Novartisのバロピシタビン (NM283);ViroPharmaのHCV-796;およびRocheのR1626である。Roche/Idenixはまた、第1鎖ウイルスDNA合成インヒビターであるバルトルシタビン (val-LdC)を、HBV治療剤として最初の成功後、フェーズII HCV臨床試験において調査している。
【0019】
DNA傷害剤は、最も成功した癌治療のいくつかを提供する。酵素ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(すなわち、PARP)は、癌を治療するために使用されるDNA傷害剤によって引き起こされるDNA損傷の修復を補助し得る。PARP活性は、しばしば癌細胞において増大するため、これらの細胞に生存機構を提供する。例えば、ABT-888は、癌細胞においてDNA修復を妨げるため、ならびに放射性剤およびアルキル化剤などの一般的な癌治療剤の有効性を増大させるための、Abbott Oncologyによって開発された経口PARPインヒビターである。さらに、前臨床データは、ABT-888が、癌の動物モデルにおいて放射線および多くの型の化学療法の有効性を改善したことを示す。
【0020】
新規な薬物は、その最初の工程が有望な活性を有する化合物の発見である長期の関与する薬物開発プロセスの製品である。新規な酵素インヒビターは、標的酵素に対する薬物候補化合物のライブラリーのスクリーニングによって発見され得る。薬物候補としては、天然に見られる化合物、コンビナトリアルケミストリーアプローチによって合成された化合物、および合理的な薬物設計によって作製された化合物が挙げられる。従来の薬物スクリーニングおよび確認アプローチは、マイクロからミリ規模の生化学的または細胞性アッセイを利用し、下流の酵素的干渉の生化学的または細胞特性を検出する。例えば、アッセイでは、放射性標識により、その合成が標的酵素によって触媒される反応生成物の量における任意の変化が測定され得る。
【0021】
単一分子技術は、試薬の使用が少なく、標的に対する薬物作用機構においてずっと多くの詳細を提供するため、薬物スクリーニングのための従来のインビトロアッセイ方法よりも、いくつかの重要な利益を提供する。例えば、単一分子技術により、一過性の状態が観察されることが可能になり、それにより、これらの工程を分離する化合物を選択的にスクリーニングすることが可能になる。したがって、単一分子アプローチにより、生化学的プロセスの重要な相、例えば、転写または複製開始を標的化するポリメラーゼまたは酵素インヒビターの同定(identificiation)、試験および確認が可能になる。多くの生化学的プロセスは、プロモーター結合、開始、伸長、および転写終了などの多数の一過的工程からなる。潜在的薬物標的の総数は、極めて高い場合があるため、単一分子アプローチは、薬物候補に最も影響されるプロセス工程だけに早期の努力を集中することで、薬物スクリーニングおよび発見のプロセスを高速化する重要な利点を提供する。
【0022】
DNA/RNA複製、修復に関与する酵素の動力学的機構を解明することにより、抗ウイルス薬および抗癌薬候補は、合理的な薬物設計に基づいて同定され得る。動力学的研究は、迅速化学クエンチフロー(quench-flow)およびストップフロー(stop-flow)技術を含む種々の前定常状態動力学的方法を使用する。これらの方法は、反応が数ミリ秒でクエンチされるのを可能にし、従来の定常状態動力学的方法よりも多くの動力学的情報を提供する。単一分子技術は、酵素の活性部位で起こる反応の基本工程を解明し、合理的な薬物設計を有意に増強し得る。
【0023】
ヒト身体の細胞ごとのDNAは、自然発生的に毎日10,000回を超えて損傷される。DNA修復は、細胞においてゲノム完全性を維持するための主な役割を果たす。
【0024】
バイオテロリストによる天然痘の放出の可能性に関する脅威により、まだ存在しないウイルス感染を阻害する有効な分子を見出すための徹底的な試行錯誤がもたらされた。天然痘ウイルス(痘瘡ウイルス)および天然痘ワクチン(ワクシニアウイルス)は高度に相同であるため、後者は非常に良好な代理(surrogate)モデルとして使用されている。例えば、ワクシニアウイルスDNAポリメラーゼは、天然痘ウイルスポリメラーゼと約99%同一である。
【0025】
ヒト集団の少なくとも2〜3%をC型肝炎ウイルスに感染させた。ウイルスゲノム複製を徹底的に研究した。RNA依存性RNAポリメラーゼNS5Bは、ウイルス複製の中心であり、主な抗ウイルス薬標的である。このポリメラーゼに関する徹底的な生化学的および定常状態動力学的研究は存在するが、NS5Bによって触媒されるヌクレオチド組込みの基本工程はなお不明である。これらの研究調査は、ヌクレオシドインヒビターの合理的な設計を可能にする。
【0026】
ここ10年間において、小物体を操作するため、また、研究する系に関与する力を調査するために、新規なツール(例えば、光学的ピンセット、原子間力顕微鏡検査、および小ガラスファイバー)が開発されている(例えば、Smith et al., Science 271:795 (1996)およびCluzel, et al.、Science 271、795 (1996)を参照のこと)。特に、光学的または磁気的「ピンセット(tweezer)」または「トラップ(trap)」は、光学的強度勾配によって生成する力で粒子を捕捉し、微視的分子を単一分子レベルで操作および研究するために使用され得る。3次元トラップを形成するのに充分強力な光学的に生成した力は、適切な形状の波面を有するレーザー光線を、高い数値の開口レンズを用いて厳密な焦点にもたらすことにより得られ得る。光学的トラップの原理は当該技術分野において周知であり、例えば、NeumanおよびBlock、Rev. Sci. Instr. 75:2787-2809 (2004) に要約されている。
【0027】
生物科学において、10nmから100mmを超える範囲の大きさのnm範囲の分子の移動を測定するために、光学的ピンセットが使用されている。ほとんどの光学的ピンセット生物物理学的実験に共通することは、生物学的分子(例えば、基質および/または酵素)への誘電性ビーズの結合であり、そのため、生物学的分子は、光学的トラップによって操作され得、力学測定(mechanical measurement)値が得られ得る。機能化表面およびビーズに核酸、他の基質、酵素および他の生体高分子を結合させるための種々の生化学的および分子生物学的方法が、当該技術分野において公知である。例えば、DNAは、市販のストレプトアビジンコーティングされたミクロンコーティングされた誘電性球体(例えば、Bangs' Laboratories製)に結合するビオチン部分で標識され得る。
【0028】
生物学における光学的トラップの主な使用の2つは、DNAの物性の研究ならびにDNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼなどの分子モーターの研究であった((例えば、Davenport et al., Science 287:2497-2500 (2000);Maier et al., PNAS 97:12002-12007 (2000);Wang et al., Science 283:902-907 (1998);Wuite et al., Nature 404:103-106 (2000);およびYin et al., Science 270:1653-1656 (1995)を参照のこと)。例えば、研究者は、二本鎖DNAを「アンジップ(unzip)」に必要な力の配列依存性を測定することができた(Voulgarakis, et al.、Nano Letters 6、1483-1486 (2006))。また、キネシンが微小管に沿って移動する機構を解明するために光学的ピンセットが使用された(Kuo & Sheetz、Science 260、232 (1993)およびBlock, et al.、Nature 348、348-352 (1990))。ごく最近、研究者は、単一塩基対解像度で、DNA分子に沿ったRNAポリメラーゼのステッピング作用を検出した(Abbondanzieri, et al.、Nature 438、460-465 (2005))。Nanobiosymでは、ポリメラーゼの動力学に対する種々の環境因子の役割を実験的に示すために高解像光学的ピンセットが使用された(Goel et al、Nature Nanotechnology総論印刷中)。
【0029】
かかるすべての研究において、基質-酵素相互作用の機構動力学を直接測定するために光学的ピンセットが利用された。これらの研究において、実験設備および得られた測定値の詳細は、関与する酵素および/または基質の生物学的機能に依存性である。例えば、目的の力学測定としては、伸長および緩和動力学を含む基質ポリマーの弾性;核酸に結合したポリメラーゼなどの線形基質の「プロセッシング」酵素の時間依存性速度;酵素的結合によって引き起こされる基質の変形;および/または基質結合とプロセッシングの効率もしくは精度が挙げられ得る。位置-および/または力-検知サブシステムを光学的ピンセット装置に一体化することにより、すべてのかかる測定が可能である。
【0030】
単一分子薬物スクリーニング発見および確認のための新規な方法および装置が本明細書に開示される。これらの方法および装置により、ユーザーが、単一分子レベルで、薬物候補が特定の疾患経路に関与する酵素-基質相互作用に干渉するかどうか、およびどのようにして干渉するのかを迅速に検出することが可能になる。特に、候補薬物と単一標的酵素分子間の相互作用が観察され得る。本明細書に記載された方法および装置は、単一分子レベルで、薬物候補が機構的または化学的に酵素-基質相互作用を改変し得るかどうかを直接検出するために、単一分子操作技術(例えば、光学的または磁気的ピンセットまたはトラップ)を利用する。
【0031】
好ましい態様において、本発明の方法および装置は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、およびRNA逆転写酵素などのポリメラーゼ酵素を修飾、阻害、またはさもなければ干渉する新規な薬物候補を、迅速にスクリーニング、試験および確認するため、ならびにポリメラーゼ/基質相互作用が阻害される機構をより良好に解明するために利用され得る。
【0032】
基質に対する正常な酵素的活性は、動力学的「力学的特性」を生じる。用語「力学的特性」は、本明細書で使用されるように、その基質と相互作用するときの単一分子の酵素の生体力学的極微量をいう。生体力学的極微量は、光学的ピンセットなどのnm範囲の移動を検出し得る機器を用いて測定され得る。上記のように、この動力学的力学的特性は、「力学測定」を行なうことにより、例えば、伸長および緩和動力学を含む基質ポリマーの弾性;核酸に結合したポリメラーゼなどの線形基質の「プロセッシング」酵素の時間依存性速度;酵素的結合によって引き起こされる基質の変形;および/または基質結合とプロセッシングの効率もしくは精度の変化を測定することにより測定され得る。
【0033】
用語「力学測定」は、本明細書で使用されるように、基質-酵素相互作用の機構動力学の測定を意味し、ここで、力学測定により、標的酵素の単一分子および/または標的酵素の基質の単一分子の力学的特性が検出される。「力学測定」を行なうことには、例えば、伸長および緩和動力学を含む基質ポリマーの弾性;核酸に結合したポリメラーゼなどの線形基質の「プロセッシング」酵素の時間依存性速度;酵素的結合によって引き起こされる基質の変形;および/または基質結合とプロセッシングの効率もしくは精度の変化を測定することが含まれる。
【0034】
好ましい「力学測定」は、ポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)基質に沿った逆転写酵素、DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼ酵素の移動の測定である。したがって、以下により詳細に記載する方法の特別態様において、核酸配列に沿ったポリメラーゼのリアルタイム単一分子動力学は、光学的トラッピング(trapping)技術によって、薬物候補の存在下および非存在下でモニターされる。本明細書に明白に記載していないが、単一分子検出技術 (例えば、光学的ピンセット)によって同様に測定可能であるポリメラーゼ/基質相互作用の他の力学測定もまた可能である。
【0035】
力学測定は、薬物候補の存在下または非存在下で行なわれ得る。「ベースライン力学的特性」は、薬物候補の非存在下で行なわれた力学測定によって測定された力学的特性である。
【0036】
用語「標的」または「薬物標的」は、本明細書で使用されるように、疾患経路に関与する生体分子をいう。標的の活性の阻害またはさもなければ干渉は、疾患の治療および/または予防に有益であり得る。用語「標的酵素」は、本明細書で使用されるように、疾患経路に関与する酵素をいう。典型的に、標的酵素は、疾患状態もしくは病理学、または微生物病原体の感染性もしくは生存に特異的な特定の代謝経路またはシグナル伝達経路に関与する重要な酵素である。「標的酵素の活性」は、標的酵素と該標的酵素の基質との相互作用を意味する。
【0037】
本発明に適した標的酵素としては、DNAおよび/またはRNAに結合して相互作用する酵素が挙げられる。例としては、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素などのポリメラーゼ;トポイソメラーゼ;ジャイレース;エキソヌクレアーゼ(exoncuclease);ならびにヘリカーゼが挙げられる。標的酵素は、ヒト酵素、例えば、癌などの疾患経路に関与するヒト酵素であり得る。別の態様において、標的酵素は、ウイルス-および/または細菌媒介疾患に関与するウイルスまたは細菌の酵素などのウイルスまたは細菌の酵素であり得る。他の微生物酵素もまた、本発明に適した標的酵素として予想される。
【0038】
好ましい標的酵素は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼまたは逆転写酵素などのポリメラーゼ酵素である。癌経路に関与するポリメラーゼ、特に、ヒト癌経路に関与するヒトDNAポリメラーゼが特に好ましい。ウイルス媒介性疾患経路に関与するポリメラーゼ、特に、ヒトのウイルス媒介性疾患経路に関与するウイルス逆転写酵素(例えば、B型肝炎逆転写酵素などのヘパドナウイルス逆転写酵素、およびHIV-1逆転写酵素などのレトロウイルス逆転写酵素)もまた特に好ましい。
【0039】
本発明はまた、疾患経路に関与する非酵素標的と相互作用し得る薬物候補のスクリーニングに適している。非酵素標的の代表例は、微小管およびリボザイム(リボソームなど)である。リボソームは、特に、ポリペプチド鎖を構築するためにRNAを鋳型として使用し、したがって、巨大酵素とみなされ得る。
【0040】
用語「標的酵素の基質」(または「酵素基質」もしくは「基質」)は、本明細書で使用されるように、標的酵素が作用する分子をいう。酵素は、1種類以上の基質を伴う化学反応を触媒する。酵素基質は、当該技術分野において周知である。
【0041】
好ましい基質としては、ポリヌクレオチド(例えば、DNAおよびRNA)などのポリメラーゼ基質が挙げられる。ポリヌクレオチド基質は、本明細書において、ポリヌクレオチドまたは核酸「鋳型」とも称される。ポリヌクレオチド基質は、二本鎖または一本鎖のDNA配列またはRNA配列であり得る。
【0042】
用語「薬物候補」または「候補」は、本明細書で使用されるように、標的、特に標的酵素の活性を阻害し得る、またはさもなければ干渉し得る化合物をいう。薬物候補としては、天然に見られる化合物、コンビナトリアルケミストリーアプローチによって合成された化合物、および合理的な薬物設計によって作製された化合物が挙げられる。薬物候補の例としては、ポリヌクレオチド(例えば、DNAおよび/またはRNA)と相互作用するか、もしくは相互作用し得る化合物、および/またはポリヌクレオチドと相互作用する酵素の活性に干渉する、または干渉し得る化合物が挙げられる。かかる化合物は、DNA傷害剤(例えば、核酸の構造に干渉するインターカレート剤);DNA結合剤;ミスマッチ結合タンパク質;および/またはアルキル化剤を含む、公知または潜在的DNA修飾剤であり得る。
【0043】
別の態様において、薬物候補は、疾患経路に関与する非酵素標的と相互作用するか、または相互作用し得る化合物であり得る。例としては、微小管および/またはリボソームと相互作用するか、もしくは相互作用し得る化合物が挙げられる。
【0044】
本発明の方法によってプロービングされ得る薬物候補のいくつかの例示的なクラスを次に記載する。第1に、細菌DNAポリメラーゼ、細菌RNAポリメラーゼなどの細菌のポリメラーゼ(例えば、リファンピン)および/または細菌の逆転写酵素の活性を阻害またはさもなければ干渉する薬物を含む抗生物質薬物のいくつかのクラスは、本発明の方法によるインテロゲーション(interrogation)に適している。第2に、本発明の方法はまた、ウイルスポリメラーゼ、特にウイルス逆転写酵素を阻害またはいくぶん干渉する新規な抗ウイルス薬候補(例えば、エファビレンツ(efavirenz)およびネビラピン(nevirapine))を迅速にスクリーニング、試験および確認するため、RNA逆転写酵素相互作用が阻害される機構をより良好に解明するために利用され得る。第3に、抗癌薬のいくつかのクラスもまた、本発明者らの方法によるインテロゲーションに適している。これらとしては、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、トポイソメラーゼ、リボソームおよび/または微小管の活性を阻害またはさもなければ干渉する薬物 (例えば、ビンクリスチンおよびタキソールなどの微小管拮抗薬)が挙げられる。さらに、本明細書に記載の本発明者らのアプローチによって、これまでに知られていない全く新規な薬物機構が発見され得、解明され得る。
【0045】
用語「単一分子検出装置」(または「単一分子検出デバイス」)は、本明細書で使用されるように、単一分子レベルで酵素-基質相互作用の力学測定を行なうために使用され得る装置をいう。本発明に適した単一分子検出装置としては、磁気的または光学的トラッピングに使用される装置(例えば、光学的ピンセット)、量子ドット標識と対にした(coupled with)高解像蛍光画像形成、原子間力顕微鏡検査に使用される装置が挙げられる。他の装置および本明細書に開示した装置の変形体は容
易に構想され得る。
【0046】
好ましい単一分子検出装置は、光学的トラップまたはピンセットを備える装置である。
【0047】
酵素的干渉の下流の効果をスクリーニングする代わりに、NANO-VALIDTMと呼ばれる本明細書に記載の方法は、直接の単一分子観察によって、薬物候補が標的酵素の正常な「力学的特性」を改変するかどうかを決定する。さらに、本明細書に記載の方法は、酵素的動力学が影響される機構(1つまたは複数)の分析および測定を可能にする。該方法は、単一分子操作、検出および分析装置を用いて、薬物候補が、この「力学的特性」を酵素的阻害を示す様式で調整するかどうか、およびどのようにして調整するかを決定する。
【0048】
NANO-VALIDTMスクリーニング法の第1工程は、標的酵素の機能性を捕捉し、単一分子レベルで信頼性のある測定が可能である力学的特性を選択することである。本発明者らは、以下に、単一分子検出および操作技術で抽出され得る酵素の特定のクラスに適切な例示的な特性をより詳細に記載する。NANO-VALIDTM法の第2工程は、薬物候補を含む任意のインヒビターの非存在下で、標的酵素の正常なベースライン力学的特性を実験的に測定することである。上記のように、ベースライン力学的特性は、単一分子検出装置を用いて力学測定を行なうことにより測定される。アプローチの単一分子性により、これは、いくつかの実験の集合平均をとることを伴い得る。本発明者らは、以下に、酵素のいくつかのクラスの動力学の単一分子力学測定を可能にする例示的な技術および装置を記載する。
【0049】
各薬物候補をスクリーニングするため、標的酵素の選択された力学測定を、単一分子アッセイにおいて薬物候補が存在する以外は、ベースライン力学的特性の測定に使用されたものと同じ実験技術および装置ならびに同じ条件下で行なう。標的酵素の性質に応じて、最初に、この測定を実施する前、ある程度の制御された期間、標的、標的の基質(1種もしくは複数)または両方を、薬物候補とともにインキュベートすることが望ましくあり得る。
【0050】
次に、候補特異的力学的特性をベースライン力学的特性と比較するために、徹底的なシグナルプロセッシングを実施する。本発明者らは、以下に、酵素の種々のクラスに適切なこの分析の例示的な変形型を詳細に記載する。特性の有意な偏差が検出されない場合、候補は却下され、さらなるスクリーニングに供されない。この特徴は、失敗の薬物候補がプロセスにおいてずっと速くに、高価な臨床試験の開始のずっと前に試験から排除され得るため、薬物候補スクリーニング、試験および確認に伴う時間およびコストを劇的に減少させる。これにより、ずっとより特異的な薬物候補がより早期に選択されるようになり、そのため、成功裡の可能性が高い候補のみに臨床試験が行なわれる。薬物発見プロセスの早期の選択性基準の増大は、従来の薬物確認および発見アプローチと比較すると、単一分子薬物発見プロセスのコストおよび時間を有意に減少させる。
【0051】
しかし、ベースライン力学的特性の有意な偏差が検出される場合、さらなる分析および処理が干渉の潜在機構を同定するために行われる。本発明者らは、様々な種類の酵素に適切なこの二次分析の特定の態様を以下で詳細に議論する。同定される機構が疾患経路に望ましくない場合、候補は却下され、さらなるスクリーニグに供されない。他の場合、候補はさらなるスクリーニングおよび確認について考慮される。
【0052】
このNANO-VALIDTM法が図1に要約される。
【0053】
ポリメラーゼ標的のためのNANO-VALIDTM
本発明者らは、ポリメラーゼ酵素を標的とする薬物候補をスクリーニングするために適切であるNANO-VALIDTM法の好ましい態様をここに記載する。その態様を図3に要約する。本方法の態様において、核酸鋳型に沿ったポリメラーゼ酵素の時間依存的位置が、工程1で常に選択され、続いて工程2および3aで測定される。
【0054】
ポリメラーゼは主に線形の様式で核酸鋳型を処理する。この理由で、全てのポリメラーゼに共通する力学的特性は、この基質によるポリメラーゼの線形進行である。核酸鋳型が固定線に整列され、一定の張力で保持される場合、ポリメラーゼの進行は、時間の関数としてこの固定線に沿ったポリメラーゼの位置に単純に関連する。
【0055】
インヒビターの非存在下で、ポリメラーゼは、通常、開始点に結合し、相対的に一定の速度で進み、重合を終了する。いくつかのまれな確率論的挙動は典型的に、通常の重合中に生じる。これらの異常としては、ミリ秒以下のオーダーの短い停止、100塩基未満のオーダーの短い方向反転(実験条件に依存して、20〜55ナノメーター)、および秒あたり数百塩基対のオーダーの重合速度の変化が挙げられる。
【0056】
DNAポリメラーゼがDNA鋳型に沿って前(重合)および後(エキソヌクレアーゼ活性)に移動する場合に、光学ピンセット装置を用いたDNAポリメラーゼ運動の力学を観察する能力を示すデータを図6に示す。約0.5ミクロン/分の速度は、約25塩基対重合/秒に相当する。理論に拘束されたくはないが、ポリメラーゼインヒビターはいくつかの機構の1つによってDNAポリメラーゼ(DNAp)に影響を及ぼし、それぞれは鋳型長対時間のプロット、および/または重合速度対時間において別々の「力学的特性」を有することがまとめられる。プロットは機構を同定するために分析することができる。さらに、予見されておらず、本明細書に記載した本発明者らの方法から発見することができた、他の全く新規な機構があってもよい。
【0057】
図2は、重合が薬物候補の存在または非存在でどのようなものであるかを示す。示した図について、開始点はy=200μmであり、ポリメラーゼは約200分で右(y=200μm)から左(y=0μm)に移動すると推定されることに注目されたい。薬物候補がポリメラーゼ標的に干渉する場合、核酸鋳型に沿ったポリメラーゼの力学はいくつかの方法の1つで明らかに影響を受け、これは重合速度の調整、結合もしくは重合化での酵素の不活性化、酵素の進化性の改変、酵素の鋳型に対する結合親和性の改変、または酵素の配列依存的忠実度の改変を含んでいてもよい。これらのシナリオのそれぞれは、正常の重合と区別できる力学的特性を生ずる。従って、ポリメラーゼ標的のためのNANO-VALIDTM法のこの好ましい態様は、工程2および3aの力学的特性のような酵素の時間依存的位置を使用する(図3、NANO-VALIDTM薬物スクリーニングおよび確認プロセスマップを参照)。図2bは薬物候補が重合プロセスを遅らせたことを示す例示的な力学的特性を示す。平均重合速度に相当するプロットの平均傾きは緩やかになっていることに注目されたい。いくつかのDNAポリメラーゼインヒビターは例えば、DNA複製の全体速度を遅くすることに作用し得る。このトレースは、この機構によって作用するポリメラーゼインヒビター薬物候補を示す。図2cは、薬物候補が未成熟終結を誘導し、薬物候補がその天然完了点の前で重合プロセスを変速または失速させたことを示す例示的な力学的特性を示す。いくつかのDNAポリメラーゼインヒビター候補は、かかる機構によって作用してもよい。このトレースは、この機構によって作用するポリメラーゼインヒビター薬物候補を示す。図2dは、ポリメラーゼの開始が薬物候補によって阻害されることを示す例示的な力学的特性を示す。このトレースは、この機構によって作用するポリメラーゼインヒビター薬物候補を示す。図2eは、薬物候補がエキソヌクレアーゼ分解様式で作動するポリメラーゼ酵素を誘導し、これは塩基対の重合よりも塩基を切除することを示す例示的な力学的特性を示す。この特性は活性エキソヌクレアーゼ分解または「プルーフリーディング」部位を有するポリメラーゼだけで生じるようである。このトレースは、この機構によって作用するポリメラーゼインヒビター薬物候補を示す。
【0058】
偽スクリーニング結果を回避するために、NANO-VALIDTM法のこの態様に使用される力学的特性は、正常の重合の確率論的事象の割合をはるかに超える長さ割合および時間割合であるべきである。典型的に、ほとんどのポリメラーゼについて、力学的特性は、選択された実験条件下で標的が核酸鋳型の少なくとも5000塩基または塩基対を移動できる時間ウィンドウに対して得られるべきである。
【0059】
好ましい態様において、本発明者らは、工程3bを実施するソフトウェアアルゴリズムを利用して、薬物候補が除外されるかどうかを工程3cの高い精度で決定してもよい。
【0060】
正常の重合の確率論的性質は、未処理のデータトレースを用いるまたは比較するよりも、工程2および3aのポリメラーゼ力学の顕著な特徴を抽出することを要する。標的酵素の性質、および所望の干渉機構は、どの顕著な特徴が抽出され、分析されるかを示す。これらの特徴としては、移動が停止する全体時間、終了重合速度、終了効率、平均速度が挙げられてもよい。また、典型的に、全てのポリメラーゼについて、100〜1000Hzのカットオフ振動数を有する低域濾波フィルターが未処理のシグナルに適用され、酵素の力学における確率論的変動の影響を除外する。
【0061】
鋳型長測定を用いたDNAポリメラーゼ標的のためのNANO-VALIDTM
ここで、本発明者らは、単鎖DNA鋳型に作用するDNAポリメラーゼ標的に適切であり、以前に記載されたNANO-VALIDTM法の変形態様を記載する。単鎖DNA鋳型の各塩基は、標準環境条件下でおよそ0.7nmの長さおよびおよそ0〜1pNの一定鋳型張力を有する。鋳型で対形成していないそれぞれの塩基は、DNAポリメラーゼによって同じ環境および一定張力条件下でおよそ0.34nmの長さを有する塩基対に変換される。つまり、DNAポリメラーゼは等張条件下で線形鋳型を複製し、単鎖DNAを二重鎖DNAに変換する場合、2つの状態の弾性の違いが所定の力で重合される塩基対あたりおよそ0.36nmのDNA鎖の短小化を生じる。従って、一定のDNA鋳型張力下での重合中のDNA鎖長の追跡は、固定鋳型に沿ったポリメラーゼの位置の追跡と類似する。従って、本方法の変形の工程2および工程3aにおいて、単一分子測定装置によって直接得られた力学的特性は時間に対するDNA鋳型の長さである。工程3bおよび3dにおいてポリメラーゼの位置および速度を分析するために以前に記載されたシグナル処理方法は、再度この変形方法に利用することができる。
【0062】
薬物候補のNANO-VALIDTMスクリーニングを実施するための装置
本発明者らは、ここで、ほぼリアルタイムのデータ獲得および単一分子装置系の制御を可能にする、急速ポート(例えば、USBポート)を介したパーソナルコンピュータに接続された単一分子測定系を含むNANO-VALIDTM法を実施するための本発明の装置の局面を記載する。図9aおよび9bを参照。ソフトウェアドライバーを介して、本装置は、グラフィックユーザーインターフェイス(GUI)を有するカスタムソフトウェアプログラムによって制御され、呼びかけ信号が送られる。この態様において、単一分子測定系は、単一プレート、例えば96ウェルマイクロプレートにいくつかの個々の試料を負荷およびアドレスするための容器を有する。測定系は信頼性があり、かつ再現可能な環境条件を確実にするために温度調節を内蔵する。測定系は、以下の原子間力顕微鏡、走査電子顕微鏡などの一つ以上を備えることができる。
【0063】
装置を利用するために、ユーザーは、単一分子測定器にプレートを負荷する。GUIを介して、装置は任意の必要な較正を含む単一分子測定系を開始する。次にユーザーは力学的特性、および特性に関する任意の制御パラメーター(例えば、特性が測定される時間の長さ)を選択する。次に、GUIを介して、装置は単一分子測定系に指示し、標的酵素のベースライン力学的特性を得るための対照試料に呼びかけ信号を送る。この測定の正確な遂行には、キーボード、手動式操作装置または他のコンピューター入力デバイスを介してヒトユーザーからのいくつかの手動制御および入力を要するかもしれない。カスタムソフトウェアプログラムは次にこの特性を獲得し、シグナル処理ルーチンを介してシグナルの顕著な特徴を抽出および保存する。GUIはおそらく未処理の力学的特性トレースを含む顕著な特徴を示す。
【0064】
次に、GUIによって、ユーザーはプレートの残りを移動して、各候補からの力学的シグナルを獲得できる;これにはいくつかの個々の測定を必然的に伴い得る。以前のように、この特性獲得過程には直接のユーザー入力を要するかもしれない。各工程で、未処理の力学的特性が獲得され、顕著な特徴の力学的特性がシグナル処理を介して抽出され、コンピューターメモリーに保存され、ユーザーに示され、参照ベースラインシグナルと比較される。
【0065】
ポリメラーゼを標的とする薬物候補のNANO-VALIDTMスクリーニングを実施するための装置
ポリメラーゼ標的のためのNANO-VALIDTM法を実施するために、単一分子測定装置が核酸鋳型に沿ったポリメラーゼのリアルタイム力学を正確に捕捉することが必要である。いくつかの技術はこの機能を達成するために利用することができる。例えば、ポリメラーゼの量子ドット標識と共役した高解像度蛍光画像を利用することができる。あるいは、原子間力顕微鏡を(真の)これらのポリメラーゼ力学を測定するために利用することができる。磁気または光学「ピンセット」または「トラップ」はまた、鋳型張力のピコニュートン制御およびDNA鋳型に沿ったポリメラーゼのナノスケール置換の測定に利用することができる。他の変形が容易に企図することができる。
【0066】
ポリメラーゼを標的とする薬物候補のNANO-VALIDTMスクリーニングを実施するための光学ピンセットベース装置
好ましい態様において、ポリメラーゼ標的のためのNANO-VALIDTM装置は光学ピンセットベース単一分子測定サブシステムを利用する。光学ピンセットは、光学強度勾配によって生じた力で粒子を捕捉する。3次元トラップを形成するほど十分に強力な光学的に生じた力は、適切な形状の波面を有するレーザー光を高い開口数のレンズを用いた厳密な焦点にもたらすことで得ることができる。光学ピンセット技術は、DNAのポリマー特性およびポリメラーゼ酵素を含む生物分子運動の力依存的動力学の単一分子研究に広範囲に使用されている。これらの広範な生物物理研究の結果として、等張力核酸鋳型に沿ったポリメラーゼ酵素を追跡する光学ピンセットを用いるための実験プロトコールがかなり完成されており、当該技術分野で周知である(Block, et al., Nature 348, 348-352(1990))。
【0067】
鋳型に沿ったポリメラーゼを追跡するために、核酸鋳型の一端が有効に固定され、同時にポリメラーゼ分子が電気操作可能な(steerable)光学ピンセット装置において捕捉されるビーズに結合される。重合が進む場合、光学トラップはポリメラーゼビーズでの一定の力を維持するために自動的に動くように設計される。これらの等張力条件下でのトラップの力学位置が、重合中の鋳型に沿ったポリメラーゼの力学と関連する。この「力-フィードバック光学トラップサブシステム(Force-Feedback Optical Trapping Subsystem)」の好ましい態様は、以下で広く詳細に記載されている。いくつかの他の変形が容易に創造することができる。
【0068】
図4はこの態様の実験変形を示す;これらは核酸固定の方法において変化する。図4-Cにおいて、核酸鋳型は、核酸鋳型上のポリメラーゼによって示される力よりもかなり大きな強力トラップ力を示し、かつ左に示される第二固定光学トラップによって捕捉される誘電性ビーズに結合される。図4-Dは、核酸が核酸鋳型および強固な表面の相補機能性を介してカバーガラスまたはマイクロウェルプレート等の強固な表面にどのように固定することができるかを示す。
【0069】
核酸およびポリメラーゼをビーズまたは他の表面に結合する方法は、当該技術分野で周知である;以下に示されるいくつかの実施例は、この課題を達成するための例示方法を示す。かかる方法の1つは、標準方法を介して核酸またはポリメラーゼをビオチン化して、ストレプトアビジンコートマイクロビーズ(例えば、Bang's Laboratories)またはストレプトアビジンコートカバーガラス(例えば、Xenopore Corporation)に結合されてもよい。
【0070】
核酸鋳型長の単一分子測定を介したNANO-VALIDTMスクリーニングを実施するための光学ピンセットベース装置
以前に記載された好ましい装置態様は、単鎖DNA鋳型に沿ったDNAポリメラーゼに使用される変形NANO-VALIDTM法を実施するために使用することができる。以前に議論されたように、この変形方法は、ポリメラーゼ移動を直接追跡する代わりに、DNA鋳型の長さを測定する。この変形方法を行うために、DNAの一端は前記のように固定されなければならない;しかしDNA鋳型の他端は操作可能な一定力光学トラップによって呼びかけ信号が送られる誘電性ビーズに結合される。酵素は溶液中で遊離したままである。
【0071】
この変形方法において、鋳型に沿って移動するポリメラーゼ酵素の力に応答して移動するトラップの代わりに、これは、重合の結果として鋳型分子が短くなる時も、DNA鋳型上で一定力を維持するように移動する。以前に議論したように、これはほとんど類似の測定である。変形方法は試料調製における少しの違いを要するが、この変形方法は装置における違いも制御ソフトウェアも要しない。図4a〜bはこの変形方法を実施するための変形実験をまとめる。
【0072】
力-フィードバック光学トラップサブシステム
図5Aは、ビーズがポリメラーゼの酵素活性による他の力を受ける時も、捕捉ビーズ上で一定の力を維持する光学トラップシステムの例示的な設計を示す。IRレーザー供給源(A)は、一連のレンズおよび鏡(B)を介して試料面の位置(x0、y0)に集束される。このフォーカス位置(x0、y0)は2つの軸の音響光学偏向器(AOD)(L)の屈折角度によって確立される。試料スライドのガウシアンビームプロフィール(c)はポリメラーゼ(示さない)または核酸鋳型(示す)のいずれかに結合するビーズを捕捉する。
【0073】
四分割(quadrant)フォトダイオードまたはQPD(D)は、ビーズから散乱されるIRシグナルの干渉パターンを検出し、このシグナルのxおよびyの揺れを出力する。これらのシグナルは増幅され(E)、データ獲得カード(DAQ)によって得られ、パーソナルコンピュータに接続される(G)。このデータは続いてデータ獲得および分析プログラム(例えば、National InstrumentsのLabview(登録商標)にプログラムされる)で処理され、ナノメートルに近い解像度で光学トラップの中心に対するビーズの位置を決定し、ピコニュートンでビーズ上のトラップ力を測定する(図5Bも参照)。
【0074】
ビーズの直接画像は光学顕微鏡(F)に連結された感度のあるCCDカメラ(例えば、Cooke's PixelFly)によって捕捉される。カスタムデータ分析コンピュータプログラムはビーズのnmスケールの位置検出を提供する;画像分析プログラムは捕捉ビーズを含む試料面の画像を提供する。
【0075】
力フィードバックシステム操作(L、K)によって、ビーズ上のレーザーによって示される力はビーズに作用する酵素力の存在下でも一定のままであり、トラップでその位置をシフトする。これは、レーザートラップの中心に関するビーズの一時的位置を決定し、かつこれを参照位置(捕捉ビーズ上の所定の力に相当する)と比較するソフトウェアプログラムを介して達成される。この現在の位置と所望のビーズ位置との間の違いが、電波振動数(RF)ドライバー(K)が2軸AOD水晶に入力されるという2チャネル振動数シグナル(Δfx、Δfy)に変換される。この電波振動数は、次に付随のレーザー光を回折する水晶で顕著な波を作る。最初の秩序立った回折光の位置は電波振動数で変化する。
【0076】
従って、レーザー光はRF入力をAOD水晶で調節することによって正確にかつ、迅速に操作することができる。データ獲得プログラムは、ビーズ位置における酵素移動シフトを補正するほど十分に光を偏向するRFドライバー(K)によって生じるはずである新しいフィードバック振動数を計算する。この出力振動数の記録は、重合時間に対するトラップ位置の漸進的変化時間を出力するように後処理できる。
【0077】
従来のアプローチと比較してNANO-VALIDTM薬物確認法の特有の特徴は、NANO-VALIDTMシステムがどのように薬物候補が核酸鋳型に沿ったポリメラーゼ移動を修飾または干渉するかについての高解像度リアルタイム追跡を可能にするということである。このシステムはさらに、非常に統合および自動化され、高出力薬物スクリーニング適用を容易に規模拡大可能にする。
【0078】
また、本明細書に記載される方法および装置は、従来の薬物スクリーニングおよび確認技術に対して多くの費用関連利点を提供する。図8〜10に示すように、本方法および装置は迅速スクリーニングを可能にし、およそ115倍の労働時間の減少を提供する。また、本発明の単一分子アプローチはおよそ130倍の試薬容積の減少を可能にし、装置サイクル時間の減少はおよそ10〜50倍の機械時間の減少をもたらす。従って、全体的に、本発明は、およそ20〜100倍の全費用の改善を提供する。
【実施例】
【0079】
鋳型長の力学を用いたDNA複製の阻害を検出するための方法および装置
この実施例において、本発明者らは、DNA鋳型長の単一分子測定を介したDNA複製の阻害を検出するための方法および装置を示す。この実施例において、本発明者らは、2つの機構:ポリメラーゼ結合の干渉または超低進化性のうちの1つによってDNA重合を阻害する薬物をスクリーニングしようとする。図2-Aは予測される正常特性を示すが、2-Bは有効薬物候補から予測される結果を示す。単一分子測定に使用される装置は、以前に記載されるように、力-フィードバック光学トラップサブシステムを備える。この力学的特性測定の実験設定は図5aおよび5bに示される。
【0080】
光学的に透明なマルチウェルマイクロプレートの内部表面は標準方法によってストレプトアビジンでコートされる。5kbを超える長さを有するビオチン化ssDNA鋳型の試料が、調製され(ローゼンバーグ付加完全部位)、緩衝溶液中に懸濁される。重合を開始できるDNAプライマーも設計される。ストレプトアビジンコート0.5〜1ミクロンビーズ(Bang's Laboratoriesから入手可能)の懸濁液が調製され、ウェルに分配される;次にssDNA鋳型の溶液がウェルに分配される。プレートは、マイクロプレートに結合される核酸の一端を有し、かつストレプトアビジンコートビーズに他端を有する十分な集団のDNA鎖が形成されるように、生じるストレプトアビジン-ビオチン結合のためにおよそ30分間インキュベートされる。薬物候補が以下のようにウェルに分配される:各ウェルは最大で1つの候補を含む;各候補は重複性を提供するためにN個ウェルに添加される。C個ウェルセットには、任意の候補が添加されず、これらは対照試料として使用されてもよい。
【0081】
光学ピンセット装置はグラフィックユーザーインターフェイスから開始され、較正される。マイクロウェルプレートは、その底面が光学トラップの焦点面と接触するように、光学ピンセット装置に負荷される。GUIは、呼掛け時間および0〜35pNの所望の値までのトラップ力を設定するために使用される。GUIはまた、どの候補(存在する場合)が各マイクロウェルに存在するかを同定するために使用される。
【0082】
入力がマイクロウェルプレートを動かすGUIに提供され、光学ピンセット光が第一対照マイクロウェルに呼びかけ信号を送る。手動式操作装置および試料面のCCD画像を用いて、適切なビーズが手動で捕捉される。力-フィードバックシステムが働き、その直後にDNAプライマー、dNTP混合物および標的DNAポリメラーゼの緩衝懸濁液がこの単一マイクロウェルに添加される。これは、RNAポリメラーゼおよび逆転写酵素に同様に適用できる。力-フィードバックシステムは選ばれた時間中のトラップ位置を追跡するように動くことが可能である;これらの結果はメモリーに保存され、これらはウェルアドレスによっておよび対照結果としての両方でアドレス可能であり、かつ同定可能である。このプロセスは対照ウェルの残りについて繰り返される。GUIによって、プログラムは、ポリメラーゼ標的に共通ないくつかの顕著な特徴を抽出するために複数の対照試料を分析するように進行する。第一に、100〜1000Hzの範囲のカットオフ振動数を有する種々の低域濾波フィルターの選択がこれらの対照に適用され、ユーザーは標的ポリメラーゼの全体力学の完全性を維持しながら最高レベルのシグナル平滑化を生じるカットオフ振動数ωcを有するフィルターを選択できるように結果が示される。
【0083】
フィルターにかけられると、多くの異なるスキームによって各点の瞬間速度が決定される。次に、最近接平均の速度は、全獲得ウィンドウ(即ち、t=[0:T])から100塩基対にだいたい相当するウィンドウ(ポリメラーゼの速度に依存して、およそ1秒長のウィンドウ)の範囲での種々のウィンドウサイズで決定される。
【0084】
入力がマイクロウェルプレートを動かすGUIに提供され、光学ピンセット光は最初の非対照マイクロウェルに呼びかけ信号を送る。手動式操作装置および試料面のCCD画像を用いて、適切なビーズが手動で捕捉される。力-フィードバックシステムが使用され、その直後に、DNAプライマー、dNTP混合物および標的DNAポリメラーゼの緩衝懸濁液がこの単一マイクロウェルに添加される。力-フィードバックシステムは選ばれた時間中にトラップの位置を追跡し続ける;これらの結果はメモリーに保存され、これらはウェルアドレスおよび存在する薬物候補の両方によってアドレス可能であり、かつ同定可能である。このプロセスは対照ウェルの残りについて繰り返される。
【0085】
全ての得られた結果は、カットオフ振動数ωcを有する低域濾波フィルターでフィルターにかけられる。GUIを用いて、結果は複数で異なっており、最近接速度プロットが対照と同じ時間スケールで計算される。各候補薬物が次に考慮される。N個試料のいずれかについて任意の時間スケールに対して実質的に0でない速度は、薬物候補がDNA複製プロセスに確かにまたは効率的に干渉しないことを示す。その理由で、N個試料のいずれかについて任意の時間スケールに対して実質的に0でない速度(例えば、全ての対照の平均速度の1%)を示す候補が却下される。
【0086】
DNA鎖に沿ったポリメラーゼの力学を用いたRNAポリメラーゼ標的の早期終了を検出するための方法およびデバイス
この実施例で、本発明者らはRNAポリメラーゼによるRNA転写の早期終了を検出するための方法および装置を示す。この実施例において、特異的部位での開始後にRNA重合の早期終了を誘導する薬物候補をスクリーニングしている。図2-Aは予測される正常特性を示し、2-Bは有効な薬物候補から予測される結果を示す。単一分子測定に使用される装置は、力-フィードバック光学トラップサブシステムと高出力操作可能光学トラップの両方を含む二重光の光学ピンセット装置である。
【0087】
二重鎖(ds)DNAの試料が、ビオチンタグを含む失速した転写複合体およびDNAの下流端のビオチンタグの両方を含むように標準方法で調製される(Neuman, K.C., et. Al, Cell, 115:437-447, 2003)。転写因子タグは、次にストレプトアビジンコート1ミクロン直径の誘電性ビーズ(例えば、Bang's Laboratories)に結合され、DNAタグはストレプトアビジンコート5ミクロン直径の誘電性ビーズ(例えば、Bang's Laboratories)に結合される。これは各端にビーズ「ハンドル」を有するDNA「ダンベル」の試料を形成する:1つはDNAの端に結合され、他はRNAポリメラーゼに結合される。薬物候補は以下のように光学的に透明なマイクロウェルプレートのウェルの中に分配される:各ウェルは最大で1つの候補を含む;各候補は重複性を提供するためにN個ウェルに添加される。C個ウェルセットには任意の候補が添加されず、これらは対照試料として使用されてもよい。
【0088】
光学ピンセット装置は、グラフィックユーザーインターフェイスから開始され、較正される。マイクロウェルプレートは、その底面が光学トラップの焦点面と接触するように、光学ピンセット装置に負荷される。GUIは、呼掛け時間T、および0〜35pNの所望の値までの力-フィードバック光のトラップ力を設定するために使用される。GUIはまた、どの候補(存在する場合)が各マイクロウェルに存在するかを同定するために使用され、マイクロウェルは次にその位置と内容物の両方によってアドレスされてもよい。
【0089】
入力がマイクロウェルプレートを動かすGUIに提供され、光学ピンセット光は最初の対照マイクロウェルに呼びかけ信号を送る。手動式操作装置および試料面のCCD画像を用いて、ダンベルは力-フィードバック光学トラップでより大きなビーズを、強力な二次トラップでより小さいビーズを捕捉することによって手動で捕捉される。力-フィードバックシステムが使用され、その直後にRNA dNTP混合物の緩衝懸濁液がこの単一マイクロウェルに添加される。力-フィードバックシステムは選ばれた時間中のトラップの位置を追跡し続ける;これらの結果はメモリーに保存され、これらはウェルアドレスによっておよび対照結果としての両方でアドレス可能であり、かつ同定可能である。このプロセスは対照ウェルの残りのものについて繰り返される。GUIから、ポリメラーゼ標的に共通するいくつかの顕著な特徴を抽出するために複数の対照試料を分析するプログラムが進行する。最初に、100〜1000Hzの範囲のカットオフ振動数を有する種々の低域濾波フィルターの選択がこれらの対照に適用され、ユーザーが標的ポリメラーゼの全体力学の完全性を維持しながら最高レベルのシグナル補整を与えるカットオフ振動数ωcを有するフィルターを選択できるように結果が示される。
【0090】
フィルターにかけられると、多くの異なるスキームによって各点の瞬間速度が決定される。次に、最近接平均速度は、全獲得ウィンドウ(即ち、t=[0:T])からおよそ100塩基対に相当するウィンドウ(ポリメラーゼの平均速度に依存して、およそ1秒長のウィンドウ)を範囲とする種々のウィンドウサイズで決定される。ユーザーは次に、GUIを介して、重合がなお生じる最大時間に対応するTo<Tの時点(即ち、重合が有効薬物候補によって終了される時間を越える時間)を選択する。
【0091】
入力がマイクロウェルプレートを動かすGUIに提供され、光学ピンセット光が最初の非対照マイクロウェルに呼びかけ信号を送る。手動式操作装置および試料面のCCD画像を用いて、適切なビーズが手動で捕捉される。力-フィードバックシステムが使用され、その直後にRNA dNTP混合物の緩衝懸濁液がこの単一マイクロウェルに添加される。力-フィードバックシステムは選ばれた時間中のトラップの位置を追跡するように動くことが可能である;これらの結果はメモリーに保存され、これらはウェルアドレスおよび存在する薬物候補の両方によってアドレス可能であり、かつ同定可能である。このプロセスは対照ウェルの残りのものについて繰り返される。
【0092】
全ての得られた結果はカットオフ振動数ωcを有する低域濾波フィルターでフィルターにかけられる。GUIを用いて、結果は多数に異なり、最近接速度プロットが対照と同じ時間スケールで計算される。各薬物候補が次に考慮される。薬物候補が所望の様式で転写に確かに干渉している場合、全ての関連するN個試料は時間To後の実質的に0でない速度を示すべきである。その理由で、To後の任意の時間ウィンドウのN個試料のいずれかについての実質的に0でない速度を示す候補(例えば、全ての対照の平均速度の1%)は却下される。
【0093】
本発明はその特定の態様を参照して詳細に記載されるが、本発明の範囲を逸脱することなく様々な変化が行うことができ、等価物が使用できることが当業者に明白である。
【0094】
本明細書で議論される公開物は、本出願の出願日前の単なる開示のために提供する。本明細書には、本発明が先の発明によってかかる公開物に先立つ資格はないという容認を構成するものはない。さらに、提供された公開日は、実際の公開日と異なってもよく、独立して確かめる必要があってもよい。
【0095】
本明細書に引用される全ての公開物は、その全体を参照によって本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、特定の酵素を標的化する多数の薬物候補をスクリーニングするための本発明の1つの局面の方法の例示的なフローチャートを示す。
【図2】図2は、種々の薬物候補(ポリメラーゼインヒビターなど)の存在下でのDNAポリメラーゼからの例示的な力学的特性を示す。図2のパネルAは、ポリメラーゼインヒビターが存在しない対照試料から予測される代表的なシグナルを示す。このシナリオでは、ポリメラーゼは単鎖(ss)DNAに結合し、この鋳型を二本鎖(ds)DNAに変換し、時間とともに全体の鋳型の長さが着実に短縮される。パネルBは、薬物候補が複製プロセスを遅らせることを示し得る光学的ピンセット装置から予測される例示的な力学的特性を示す。重合速度に対応する鋳型の長さのプロットの全体的な傾きは小さくなることに注目されたい。パネルCは、薬物候補が不成功の転写/早期終了を誘導し、その自然な終了点前に複製プロセスを狂わせたか、または失速(stall)させたことを示す光学的ピンセット装置からの例示的な力学的特性を示す。パネルDは、DNA複製の開始が薬物候補によって阻害されることを示す光学的ピンセット装置からの例示的な力学的特性を示す。パネルEは、薬物候補がポリメラーゼ酵素にエキソヌクレオリシス(exonucleolysis)様式で作動するように誘導し、塩基対を重合するよりもむしろ塩基を切断することを示す光学的ピンセット装置からの例示的な力学的特性を示す。この特性は、活性なエキソヌクレオリシスまたは「プルーフリーディング」部位を有するポリメラーゼにおいてのみ生じる可能性が高い。
【図3】図3は、DNAおよびRNAポリメラーゼインヒビターならびに逆転写酵素インヒビターを含む特定のポリメラーゼ酵素を標的化する多数の薬物候補のスクリーニングのための本発明の1つの局面の方法の例示的なフローチャートを示す。
【図4】図4aは、光学的ピンセット系単一分子測定系によって核酸鋳型に沿ったポリメラーゼ位置の測定値を得るための例示的な実験的幾何学的配置を示す。ここで、ポリメラーゼがDNA鋳型に沿って移動するにつれて、DNA分子は、2つのプラスチックラテックスビーズ間に保持され、固定化され、広がる。DNA複製の場合、鋳型DNAが単鎖から二本鎖DNAに変換されるにつれて、2つのビーズ間の間隔は所定の力で小さくなる。ビーズへの核酸の結合方法は、ストレプトアビジン-ビオチン、またはdig-抗dig、または他の共有結合によるものであり得る。図4bは、光学的ピンセット-系単一分子測定系によって、ポリメラーゼ酵素によってプロセッシングされる核酸の長さを得るためのさらなる例示的な実験的幾何学的配置を示す。ここで、DNA分子は、プラスチックラテックスビーズとストレプトアビジンコーティング(三角のもの)されたガラス表面間に保持され、固定化され、広がる。DNA複製においてポリメラーゼがDNA鋳型に沿って移動するにつれて、固定化された鋳型DNAが単鎖から二本鎖DNAに変換されるにつれて、DNA係留(tether)の長さは所定の力で小さくなる。図4cは、核酸鋳型が、核酸鋳型上のポリメラーゼによって発揮される力よりもずっと大きい強いトラッピング力を発揮する左側に示した第2の固定化光学的トラップに保持された誘電性ビーズに結合された本発明の態様を示す。ここで、ポリメラーゼは、関連する親和性化学によって他方のビーズに結合される。図4dは、どのようにして核酸がカバーガラスまたはマイクロウェルプレートなどの剛性表面に、核酸鋳型と剛性表面の相補的官能化によって固定化され得るのかを示し、この間、ポリメラーゼは同様に第2のビーズに結合されている。
【図5A】図5aは、トラッピング能、力検出能、ビーム・ステアリング能および等張(isotension)能を含む代表的な光学的ピンセット装置、ならびにトラップされたビーズに対して、ビーズがポリメラーゼの酵素的活性による他の力を受けているときであっても一定の力を維持する力フィードバック光学的トラッピングサブシステムを含む単一分子検出系を概略的に示す。
【図5B】図5bは、四分円形光ダイオードを利用して光学的トラップの中心からの誘電性球体の移動を検出する単一分子追跡系における検出系を示す。光学的トラップに対するビーズの位置が、この四分円形光検出器に記録される。光学ウェルのこの中心からの偏差を用いて、ビーズに作用するピコニュートンサイズの力を定量する。
【図6】図6aおよびbは、光学的ピンセット装置を用い、DNAポリメラーゼモーターがDNA鋳型に沿って前方(重合、図6a)および後方(エキソヌクレアーゼ活性、図6b)に移動するときの動力学を、観察する能力を示すデータを示す。約0.5ミクロン/分の速度は約25塩基対重合/秒に相当する。図において、DNAに沿ったポリメラーゼの位置を時間の関数として示す。傾きは、複製中の所定の力におけるDNA鋳型の長さの変化の割合を示す。これは、まさにポリメラーゼモーターの単一分子速度である。
【図7】図7は、DNA重合の均一な微細構造動力学のプロービング能力を示す。このレベルの解像度を達成するため、好ましくは、重合中、DNA鎖に沿って等張条件を達成するために聴覚光学検出器系が利用される。図において、DNAの伸長(μm)を時間(分)に対して示す。左のプロットにおいて、黒い直線は完全なデータセットを示し、収縮(右の四角で囲まれた領域)が始まる前のフロー(左の四角で囲まれた領域)による緩和が含まれる。右側に、収縮領域に関する伸長対時間を示す。生データ線は、オリジナルの長さ対時間データを示すが、平滑化した直線は、このデータの100-pt隣接平均を示す。直線は、この収縮領域全体の平均傾きの約300bp/秒を示す。
【図8】図8は、薬物スクリーニングおよび発見に対する従来のアプローチの重要な特徴を示す。
【図9】図9は、本明細書に記載された新規薬物スクリーニングおよび発見技術の重要な特徴を示す。
【図10】図10は、薬物スクリーニングおよび発見に対する従来のアプローチと比べた本明細書に記載された新規薬物スクリーニングおよび発見技術の利点のいくつかを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物候補のスクリーニング方法であって、
(a)標的酵素と、標的酵素の基質とを接触させる工程、
(b)単一分子検出装置を用いて力学測定を行うことによって、標的酵素の基質の存在下での標的酵素のベースライン力学的特性を測定する工程、
(c)標的酵素および標的酵素の基質と、1つ以上の薬物候補とを接触させる工程、
(d)単一分子検出装置を用いて力学測定を行うことによって、標的酵素の基質および1つ以上の薬物候補の存在下での標的酵素の力学的特性を測定する工程、ならびに
(e)工程(b)のベースライン力学的特性と、工程(d)の力学的特性とを比較する工程
を含み、
工程(b)のベースライン力学的特性および工程(d)の力学的特性が同じ単一分子検出装置および同じ力学測定を用いて測定される、方法。
【請求項2】
力学測定が、標的酵素の基質に沿った標的酵素の時間依存的速度の測定、標的酵素の基質の長さにおける時間依存的変化の測定、標的酵素の基質の弾性における変化の測定、ならびに標的酵素による基質の結合および処理の効率または精度の測定からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
単一分子検出装置が、磁気トラップまたは光学トラップを利用する装置、量子ドット標識と対にした高解像度蛍光画像を利用する装置、および原子間力顕微鏡使用を利用する装置からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
標的酵素がポリメラーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および逆転写酵素からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ポリメラーゼがヒトポリメラーゼである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
ポリメラーゼがウイルスポリメラーゼである、請求項4記載の方法。
【請求項8】
ウイルスポリメラーゼがウイルス逆転写酵素である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ウイルス逆転写酵素がHIV-1逆転写酵素である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ポリメラーゼが細菌ポリメラーゼである、請求項4記載の方法。
【請求項11】
標的酵素がポリメラーゼであり、標的酵素の基質がポリヌクレオチドであり、分子測定がポリヌクレオチド基質に沿ったポリメラーゼの移動の測定、または重合中のポリヌクレオチド基質の長さにおける時間依存的変化の測定である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
分子測定が磁気トラップまたは光学トラップを利用する単一分子検出装置を用いて行われる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
試験される薬物候補の阻害機構および/または干渉機構を正確に特徴付ける詳細な酵素力学データを提供する、請求項1記載の方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−534033(P2009−534033A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506619(P2009−506619)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/009747
【国際公開番号】WO2007/124105
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(508311329)ナノバイオシン,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】