説明

薬物超微粒子の製造法及び製造装置

本発明は、長期間分散性に優れたサブミクロンサイズの薬物微小粒子を提供する。詳しくは、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである薬物超微粒子の製造方法及びその製造装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、長期間分散性に優れた薬物超微粒子の製造方法及び製造装置を提供する。
【背景技術】
サブミクロンサイズの薬物超微粒子は、粒子サイズの減少に伴う表面積の増大により、難溶性薬物の溶解速度が著しく向上することが知られ、難溶性薬剤の吸収改善、生体内利用率の向上をもたらしたり、難溶性薬剤の静脈内投与を可能にしたり、様々な有害事象の原因となる可能性がある溶液製剤中の可溶化剤の使用量を減らせる等など、有用性が広く認められている。また、微粒子の粒径をコントロールしたり、あるいは微小粒子をさらに表面修飾すること等により、静脈内投与における投与後の体内動態を変えたり、特定の臓器への指向性を付与するなど、様々なメリットが考えられる。さらに局所投与における投与部位滞留性を改善できる可能性もある。経口剤においては、低含量製剤の含量均一性の改善にも応用可能である。
しかしながら、サブミクロンサイズの薬物超微粒子を製造するのは容易ではない。薬物以外では顔料やシリカなどの粉砕において、近年超微粒子を得るための技術が開発されているが、薬物は再凝集、分解、結晶化、ガラス転移、などの現象により固体状態での薬物超微粒子を得るのを困難にしている。即ち、超微粒子の製造時に粉砕のエネルギーを高めると、温度が上昇することによる薬物の分解、融解、分散媒への溶解、および再結晶化による結晶の成長等が生じがちである。また、一度得られた超微粒子においても、再凝集、結晶化等により粒子の成長が認められることが良く知られている。
超微粒子の製造法として、具体的には、以下に示すような技術が知られている。
固体状態(結晶)の薬物を粉砕する方法としては、本山らにより湿式粉砕機を用いる方法(米国特許4,540,602号)が開示されているが、これは、水溶性高分子の水溶液中で固体薬物を粉砕し、500nm〜5000nmの微粒子を得たものである。また、Liversidgeらは400nm未満の薬物超微粒子に関し、その微粒子重量の0.1〜90%の表面変性剤を表面に吸着させることにより、安定な分散体が得られることを開示している(米国特許5,145,684号)。
これらは比較的効率的にサブミクロンサイズの薬物超微粒子を得るのに適した方法であるが、先に示したように、薬物の分解、融解、分散媒への溶解や、製造時及び製造後の結晶成長が生じがちである上、湿式粉砕には数時間から数日間を要するため、製品への微生物汚染の懸念がある。また粉砕中発生する分散媒の磨耗と製品への混入は、医薬品の品質に少なからぬ影響を及ぼすこととなる。調製された製品にサイズの大きな薬物粒子が混入する可能性も指摘されている。
この為、高圧ホモジナイザー(高圧乳化機)を用いて、高い圧力を加えて固体状態の薬物を粉砕することにより、乳剤として薬物超微粒子を製する方法が開発され汎用されている。しかしながら、ホモジナイザーに直接固体の薬物を導入するとホモジナイザーが閉塞しがちであることから、ホモジナイザーの閉塞を防ぐために、前もって薬物の粒度を一定以下(通常は100μm以下、望ましくは25μm以下)に揃えておく前処理工程が必須であり、専用の装置の開発(出典の文献を記載してください)が行われたり、低圧から徐々に圧を挙げるなどの工夫(出典の文献を記載してください)が行われているが、ホモジナイザーの流路閉塞のリスクをゼロにするには至っていないのが現状である。また、高圧ホモジナイザーによる粉砕には、必要なエネルギーを得るため非常に大きな圧力を利用しており、加熱による品質の影響もある。例えばWilliamらにより400nm未満の薬物微粒子製法に関し、マイクロフルイダイザー(Microfluidics Inc.)(米国特許5,510,118号)を用いる方法が開示されているが、15000〜30000psiの圧力で100サイクル程度の工程を必要とし、しかも適用できる薬物はシクロスポリン等の油溶性薬物に限られている。
さらに、これ以外の薬物超微粒子の製造法として、Fessiらによる、良溶媒中に溶解した薬物と膜形成物質であるポリマーを貧溶媒中に添加する、沈殿法が知られている(特許公報2739896号)。しかし、この沈殿法により製造された懸濁液中の薬物超微粒子は、懸濁液中では短時間で粒径が大きくなりがちであり、一定の品質の確保が必ずしも容易ではない。
サブミクロンサイズの薬物超微粒子の製造法として、製造直後から生じがちである経時的な薬物超微粒子の粒径の変化がなく、また、薬物の平均粒子径を一定の大きさ以下(例えば、100μm以下)にそろえる前処理工程を経ることなく、薬物超微粒子を製造することができる、簡便な薬物超微粒子の製造法及び製造装置の開発が求められている。
さらに、分散媒等の磨耗や製品への混入がなく低エネルギーで薬物超微粒子を製造できる薬物超微粒子の製造法及び製造装置の開発が求められている。
【発明の開示】
本発明は、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである薬物超微粒子の製造方法である。
本発明においては、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和した後に、その混和溶液を、直接に高圧ホモジナイザー装置で乳化処理してもよいし、又は、あらかじめ、薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒を高圧ホモジナイザーの流路中に循環させておき、薬物含有溶液を前記の循環している混和可能な溶媒中に添加することによって混和しそのまま直接に高圧ホモジナイザー装置で乳化処理してもよい。尚、本発明においては、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和した後は、迅速に、直接に高圧ホモジナイザーを用いて乳化処理することが望ましく、前記薬物含有溶液と前記混和可能な溶媒とを混和した後、通常、5分以内、好ましくは3分以内、さらには好ましくは1分以内に高圧ホモジナイザー処理することが望ましい。
本発明においては、薬物と1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液、若しくは、2)前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって、前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒の、少なくとも一方の溶媒に、分散化剤を溶解させてもよく、特に、2)前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって、前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒にあらかじめ分散化剤を溶解させておくことが望ましい。
本発明における良溶媒又は混合良溶媒とは、薬物を完全に溶解する溶媒であり、特に限定されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;アセトニトリル、ジオキサン、メチルエーテル、エチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロメタン又はその混合溶媒が挙げられる。
本発明における貧溶媒又は混合貧溶媒とは、薬物をほとんど溶解しない溶媒又は混合良溶媒であって、前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒であり、特に限定されないが、例えば、水、種々の酸を加えた酸性水、種々の塩基を加えた塩基性水が挙げられる。
貧溶媒又は混合貧溶媒中に、前記良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有液を混和する時の混合比は、薬物の析出をもたらすものであれば特に限定されないが、通常、混和する薬物含有良溶媒又は混合良溶媒の量は、貧溶媒又は混合貧溶媒量に対して、0.001〜50V/V%、望ましくは、0.01〜10V/V%、さらに望ましくは0.01〜5V/V%である。
溶媒中の分散化剤の濃度は、特に限定されないが、通常0.01〜5W/V%であり、望ましくは0.1〜4W/V%であり、さらに望ましくは0.5〜3W/V%である。分散化剤の種類は、特に限定されず、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、天然物由来の界面活性剤、親水性高分子などが使用できる。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンなどが、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、特に、ポリソルベート20、40、60、80などが、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルとしては、モノラウリン酸ポリエチレングリコールなどが、ショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸などが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、60などが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール共重合体(酸化エチレンと酸化プロピレンのブロック・コポリマー)としては、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(商品名:プルロニックF−68、BASF(株))、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(商品名:プルロニックF−127、BASF(株))、プルロニックL−121(BASF(株))などが、グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸グリセリル(MGSシリーズ、日光ケミカルズ(株))などが、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、テトラグリセリンモノステアリン酸などが挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えば、グリココール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられる。カチオン界面活性剤としては、例えば、アミン塩型カチオン界面活性剤、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤などが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤が、天然物由来の界面活性剤としては、例えばレシチン類(精製卵黄レシチン、水素添加大豆レシチン等)が挙げられる。親水性高分子などとしては、例えば、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
本発明においては、上記記載の分散化剤のいずれも使用できるが、望ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール,レシチン、ゼラチン及び/又はポリビニルピロリドンであり、さらに望ましくは、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(商品名:プルロニックF−68)である。
本発明に係る製造法により製造できる薬物微粒子の平均粒子径は、通常、10〜1000nmであり、望ましくは50〜800nmであり、さらに望ましくは100〜400nmである。本発明において使用する高圧ホモジナイザーは特に限定されず、例えば、マイクロフルイダイザー(MFI社、米国)、ナノマイザー(吉田機械興業株式会社)、ピストンギャップホモジナイザー、又は、マントンゴーリンホモジナイザー等を挙げることができるが、好ましくは、マイクロフルイダイザー又はナノマイザーである。
本発明に係る高圧ホモジナイザー処理時の処理圧力は通常、500〜40000psiであり、望ましくは1000〜30000psiであり、さらに望ましくは3000〜30000psiである。
特に、高圧ホモジナイザーがマイクロフルイダイザーである場合は、処理圧力は、通常1000〜20000psiであり、1000〜10000psiが望ましく、さらに望ましくは3000〜6000psiである。また、高圧ホモジナイザーがナノマイザーである場合には、処理圧力は、通常1000〜40000psiであり、望ましくは5000〜30000psiであり、さらに望ましくは6000〜20000psiである。
本発明に係る高圧ホモジナイザー処理時の溶媒温度は、低温で処理可能であり、溶媒が固化あるいは粘調化しない温度であれば特に限定されないが、通常40度C以下であることが望ましい。
本発明は、また、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理し、次に、4)前記高圧ホモジナイザー処理した薬物超微粒子の懸濁液から、溶媒の一部又は全てを除去してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである任意の濃度の薬物超微粒子の懸濁液又は薬物超微粒子の粉体の製造方法である。
高圧ホモジナイザー処理した薬物超微粒子の懸濁液から、溶媒の一部又は全てを除去する工程とは、特に限定されず、例えば、凍結乾燥法、温風棚式乾燥法、真空乾燥法、減圧乾燥法等が挙げられる。超微粒子の懸濁液の薬物濃度を上げたり、固体又は粉体状の薬物超微粒子を取り出すことを目的とする工程であり、注射剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、軟膏剤、経皮吸収剤、坐剤、ドリンク剤、シロップ剤、液剤等の剤型への2次加工に使用可能である。
本発明に係る薬物の種類は、特に限定されないが、例えば、抗腫瘍薬、抗生物質、抗炎症薬、鎮痛薬、骨粗しょう症薬、抗高脂血症薬、抗菌薬、鎮静薬、精神安定薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、消化器系疾患治療薬、アレルギー性疾患治療薬、高血圧治療薬、動脈硬化治療薬、糖尿病治療薬、ホルモン薬、脂溶性ビタミン薬などが挙げられる。抗腫瘍薬としては、例えば、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド、ダナゾール、ピポスルファム、カンプトテシン、トリヨードベンゾエート、タキソール、塩酸ドキソルビシン、メソトレキセート、エトポシド、5−フルオロウラシル、ミトキサントロン、メスナ、ジメスナ、アミノグルテチミド、タモキシフェン、アクロライン、シスプラチン、カルボプラチン、シクロフォスファミド等があげられる。抗生物質としては、例えば、アミカシン、ゲンタマイシン、等が挙げられる。抗炎症薬としては、例えば、アスピリン、フェナセチン、アセトアミノフェノン、フェニルブタゾン、ケトフェニルブタゾン、メフェナム酸、ブコローム、ベンジダミン、メピリゾール、チアラミド、チノリジン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、デキサベタメタゾン、ベタメタゾン等の抗炎症ステロイド剤、インドメタシン、ジクロフェナク、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ピロキシカム等が挙げられる。鎮痛剤としては、キシロカイン、ペンタゾシン、アスピリン等が挙げられる。骨粗しょう症剤としては、例えば、ビタミンK2,プロスタグランジンA1、ビタミンD、性ホルモン誘導体、フェノールスルフォフタレイン、ベンゾチオピラン、チエノインダゾール等が挙げられる。抗高脂血症剤としては、例えば、クリノフィブラート、クロフィブラート、コレスチラミン、ソイステロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコモール、ニセリトロール、プロブコール、エラスターゼ等が挙げられる。精神安定薬としては、例えば、ジアゼパム、ロラゼパム、オキサゾラム等のベンゾジアゼピン類が挙げられる。抗てんかん薬としては、例えば、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、プリミドン等が挙げられる。抗うつ薬としては、例えば、イミプラニン、ノキシプチリン、フェネルジン等が挙げられる。消化器系疾患治療薬としては、例えば、メトクロプラミド、ファモチジン、オメプラゾール、スルピリド、トレピブトン等が挙げられる。アレルギー性疾患治療薬としては、例えば、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、ジフェンヒドラミン、メトジラミン、クレミゾール、メトキシフェナミン等が挙げられる。高血圧治療薬としては、塩酸ニカルジピン、塩酸デラプリル、カプトプリル、塩酸プラゾシン、レセルピン等が挙げられる。動脈硬化治療薬としては、コレステロールエステル転送蛋白阻害薬等が挙げられる。糖尿病治療薬としては、例えば、グリミジン、グリプジド、グリベンクラミド、ブフォルミン、メトフォルミン等が挙げられる。ホルモン薬としては、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、ヘキセストロール、メチマゾール、エストリオール等が挙げられる。脂溶性ビタミン薬としては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸等が挙げられる。本発明における薬物微粒子の製造において、特に望ましい薬物は、水に対する溶解度1mg/ml以下の難溶性薬物であり、特に限定されないが、例えば、癌細胞の増殖を抑制する抗腫瘍薬として知られる、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドが挙げられる。N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドは、生理的条件に近いpH5〜7では単独では水に不溶である特性を有している。
本発明は、さらに、下記図4に示す、リザーバー、加圧ポンプ及び乳化機を細管を配して連結して成る高圧ホモジナイザーにおいて、リザーバーから乳化機までの循環液が流れる細管の流路のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための注入機が組み込まれてなる、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーである。注入機は、図5に示すように、リザーバーと加圧ポンプとを連結する細管の流路の間に組み込まれていてもよく、また、図6に示すように加圧ポンプと乳化機とを連結する細管の流路の間に組み込まれていてもよい。尚、注入機は、ジョイント及び/又はミキシング装置を介して、細管の流路の間のいずれかの部位に、組み込まれていてもよい。高圧ホモジナイザー中で乳化される直前に、注入機を通じて、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加できるオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーを提供する。
また本発明に係るオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーにおいて、(1)乳化機、及び/又は、(2)リザーバー、加圧ポンプ及び乳化機を連結して成る細管の全部又は1部に、循環液及び/又は薬物含有溶液の液温調節装置を組み込んでもよい。液温調節装置とは、循環液及び/又は薬物含有溶液の温度を調節できる装置であれば特に限定されないが、乳化機等から生じる熱を冷却する機能を持つものが望ましい。例えば、乳化機の周囲を冷却水で還流させる装置等を組み込んでもよい。
これらのオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーは、本発明に係る上述した薬物超微粒子の製造法、即ち、〔1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである薬物超微粒子の製造方法、及び/又は、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理し、次に、4)前記高圧ホモジナイザー処理した薬物超微粒子の懸濁液から、溶媒の一部又は全てを除去してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである任意の濃度の薬物超微粒子の懸濁液又は薬物超微粒子の粉体の製造方法〕において使用する高圧ホモジナイザーとしても使用することができる。即ち、あらかじめ、薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒を上記のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの流路中に循環させておき、薬物含有溶液を注入機から添加して、循環中の前記混和可能な溶媒中と混和し、オンラインで直接に当該高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理してもよい。本発明にかかるオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーにより、平均粒子径が10nm〜1000nmである任意の濃度の薬物超微粒子を製造することができる。
本発明に係る薬物超微粒子の製造法は、1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって、前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒を、薬物溶液と混和し、3)高圧ホモジナイザー処理することにより、沈殿を生じさせることなく、薬物粒子の凝集を妨げることにより、長期間分散性に優れた薬物超微粒子が製造できるという驚くべき特徴を有している。即ち、薬剤微粒子の製造法は従来技術においても知られているが、本発明に係る製造法により製造された溶媒中の薬物微粒子の粒径は、従来技術と異なり、経時的にほとんど変化が認められず、安定に維持されるのである。このことは、薬物微粒子の保存、製造後の二次加工において極めて有利な特徴であり際立った特徴である。
本発明における製造法のもう一つの特徴は、高圧ホモジナイザー(高圧乳化機)を用いて薬物超微粒子を製する際に、前もって薬物の平均粒子径を一定の大きさ以下(通常は100μm以下、望ましくは25μm以下)に揃えておく前処理工程が必要なく、簡便に高圧ホモジナイザー処理ができることである。即ち、高圧ホモジナイザー(高圧乳化機)を用いて直接薬物粒子を処理する、従来から知られている薬物超微粒子の製造法においては、固体薬物を直接に導入すると高圧ホモジナイザー内の流路が閉塞しがちであることから、ホモジナイザー内の流路閉塞を防ぐために、予め前記薬物粒子の径を高圧ホモジナイザー内の乳化機を閉塞しない程度まで粉砕しておく前処理工程が必須であった。より具体的には平均粒子径をしばしば90%粒子径として100μm以下とする前処理工程の必要があり、薬物超微粒子を製する上で少なからぬ制約となっていた。しかしながら本発明においては、このような前処理は全く必要なく、直接に一定圧力で高圧ホモジナイザー処理することにより、極めて簡便に薬物超微粒子の製造ができるのである。
さらに、本発明における製造法は、驚くべきことに低エネルギー出力で高圧ホモジナイザーを使用することにより、薬物超微粒子を製造できるという特徴を有している。すなわち、高圧ホモジナイザーを構成する乳化機におけるエネルギー出力において、従来法と比較して、高圧ホモジナイザー処理時の処理圧力は一定の低圧(本発明においては、通常、500〜40000psiであり、望ましくは1000〜30000psiであり、さらに望ましくは3000〜30000psiである)で使用できるのである(従来法における高圧ホモジナイザー処理時の処理圧力は、通常、14000psi〜60000psiで使用されていた)。また、高圧ホモジナイザー処理時の溶媒温度は低温で処理できる。これらは、従来法と比較して驚くべき特徴である。
また、本発明にかかるオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーは、前述した本発明にかかる薬物超微粒子の製造法において使用することにより、長期間分散性に優れた薬物超微粒子を、効率的に且つ安定的に製造できるという際立った特徴を有している。本装置により、溶媒中の薬物微粒子の平均粒子径は、経時的にほとんど変化が認められず、安定な状態の薬物微粒子が簡便に得られるのである。また、本発明にかかるオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーは、前述した本発明にかかる薬物超微粒子の製造法において使用することにより、前記薬物の平均粒子径を予め一定以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に一定の処理圧力で乳化処理ができる特徴も有している。また、本装置においては、低エネルギー出力、即ち、低圧力、低温での高圧ホモジナイザー処理により、薬物超微粒子を製造できる特徴を有している。さらに、本特許発明に係るオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーを用いることにより、2種類の溶液を乳化直前に混合できるため、本来混合しづらい2種以上の溶液を混合して乳化することも可能である。
本発明はまた、前記オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの薬物含有溶液の乳化処理に用いる用途である。
本発明に係る薬物超微粒子は、例えば、次の方法により製造することができる。
例えば、1gのPluronic F68を精製水に溶解させて100gの水溶液(1% Pluronic F68含有水溶液)を調整し、その水溶液1.7mLを高圧ホモジナイザーであるMicrofluidizer中で循環させる。別に、5gの難溶性薬物(例えば、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド)をアセトンに溶解させて50mg/mL濃度のN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド)のアセトン溶液100gを調製する。前記の循環中の1%Pluronic F68含有水溶液中に、前記50mg/mL濃度のN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド)のアセトン溶液100μLを添加し、高圧ホモジナイザー処理(例えば、Microfluidizerで3000psiで10分間の加圧処理をする)して、薬物超微粒子を調製することができる。また、この薬物超微粒子の懸濁液を凍結乾燥、噴霧乾燥等の溶媒留去法により粉体の薬物微粒子を得ることができる。
また、リザーバー、加圧ポンプ及び乳化機を細管を配して連結して成る高圧ホモジナイザーにおいて、リザーバーから乳化機までの循環液が流れる細管中のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための試料注入機を組み込んで、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーとすることにより、効率的に長期間安定な薬物微粒子を製造することができる。
本発明によると、粒子径の経時的変化がほとんどなく、長期間分散性に優れた薬物超微粒子を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、リザーバー、加圧ポンプ及び乳化機を細管を配して連結して成る高圧ホモジナイザーの模式図である。
図2は、加圧ポンプと乳化機とを連結する細管の流路の間のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための注入機が組み込まれてなる、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの模式図である。
図3は、リザーバーと加圧ポンプとを連結する細管の流路の間のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための注入機が組み込まれてなる、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの模式図である。
図4は、リザーバー、加圧ポンプ及び乳化機を細管を配して連結して成る高圧ホモジナイザーの模式図である。
図5は、加圧ポンプと乳化機とを連結する細管の流路の間のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための注入機が組み込まれてなる、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの模式図である。
図6は、リザーバーと加圧ポンプとを連結する細管の流路の間のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための注入機が組み込まれてなる、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの模式図である。
図7は、実施例1により得られたN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド微粒子の懸濁注射剤と比較例としての水性注射剤を、ラット(n=4)に各々0.5mg/kgを静脈内投与した時の投与後24時間までの血中濃度曲線である。
1)本発明に係る「薬物微粒子の製造法」の薬物微粒子の平均粒子径及びその安定性に及ぼす効果
(A)種々乳化・粉砕装置との比較
下記実施例1に示すように、7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をマイクロフルイダイザーに循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、20分間3000psiで加圧して、薬物微粒子の懸濁液を調製した。
また、比較例として、高圧乳化法を用いた直接乳化法(比較例1:マイクロフルイダイザー処理、比較例2:ピストンギャップホモジナイザー処理、比較例3:ナノマイザー処理)、湿式粉砕法(比較例4:ダイノミル処理)、超音波法(比較例5:sonicator処理)を用いて、下記に示す方法により薬物微粒子を調製した。尚、比較例1:マイクロフルイダイザー処理、比較例2:ピストンギャップホモジナイザー処理、比較例3:ナノマイザー処理)においては、予め平均粒子径を100μm以下にする前処理工程を行ったN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドを使用したが、これは、ジェットミルを用いて、1回処理することにより製造した。
(比較例1〜5)
比較例1:マイクロフルイダイザー処理
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液に予め平均粒子径を100μm以下にしたN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドを50mg/mLの濃度で分散、懸濁して、マイクロフルイダイザー中に循環させ、この循環懸濁液を10分間6000psiで加圧して、薬物微粒子の懸濁液を調製した。
比較例2:ピストンギャップホモジナイザー処理
50mLの0.5%メチルセルロースを含有する水溶液に予め平均粒子径を100μm以下にしたN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドを50mg/mLの濃度で分散、懸濁し、ピストンギャップホモジナイザーに循環させ、この循環懸濁液を10分間14500psiで加圧して、薬物微粒子の懸濁液を調製した。
比較例3:ナノマイザー処理
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液に予め平均粒子径を100μm以下にしたN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドを50mg/mLの濃度で分散、懸濁し、ナノマイザーに循環させ、この循環懸濁液を10分間15000psiで加圧して、薬物微粒子の懸濁液を調製した。
比較例4:ダイノミル処理
500mLの0.5%メチルセルロースを含有する水溶液に、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドを50mg/mLの濃度で分散、懸濁し、この懸濁液を10分間、ダイノミルで処理し、薬物微粒子の懸濁液を調製した。
比較例5:sonicator処理
500mLの0.5%メチルセルロースを含有する水溶液に、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドを50mg/mLの濃度で分散、懸濁し、超音波分散機で処理し、薬物微粒子の懸濁液を調製した。
実施例1で得られた薬物微粒子について、比較例1〜5で得られた薬物微粒子と比較して、光散乱光度計DLS−7000DL型(大塚電子(株)製)を用いて平均粒子径の評価を行った(測定条件:測定温度:25℃、積算回数200回)。キュムラント法により求めた値を平均粒子径とした。
平均粒径の評価結果を表1に示した。

(B)貧溶媒中に、薬物を溶解させた薬物含有良溶媒溶液を添加する方法において、攪拌法との比較
下記実施例2に示すように、7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をマイクロフルイダイザーに循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、20分間、3000psiで加圧して、薬物微粒子の懸濁液を調製した。この懸濁液中における薬物微粒子の平均粒径を経時的に測定した(1,2,4,6,8,24及び48時間後)。
尚、比較例6として、7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をビーカーにとり磁気攪拌子(スターラーバー)で攪拌しながら、アセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、さらに攪拌を5分行い薬物微粒子の懸濁液を調製した。この懸濁液中における薬物粒子の平均粒径の経時的変化も測定した(3,7,10,13,16,27,36,59,94及び122時間後)。
平均粒径の経時変化の評価結果を表2に示した。

表1に示すように、本発明(実施例1)及び比較例1〜5(高圧乳化法を用いた直接乳化法、湿式粉砕法、超音波法)のいずれの方法においても、N−(3−クロロ−7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドの薬物微粒子を製造することができたが、本発明に係る「高圧ホモジナイザー中を循環させた貧溶媒中に、薬物を溶解させた薬物含有良溶媒溶液を添加し、加圧、乳化処理してなる薬物微粒子の製造法」を用いた場合において、平均粒径が最も小さい薬物超微粒子が得られた。また、前もって薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を行った比較例1〜3と比較して、前処理工程を行っていない本発明において、平均粒径がより小さい薬物超微粒子が調製できた。
さらに、「貧溶媒中に、薬物を溶解させた薬物含有良溶媒溶液を添加する方法」において、調製されたN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドの薬物微粒子(実施例2)の製造時の平均粒径は、表2に示すように、高圧ホモジナイザー処理の場合は254.5nmであり、比較例6の攪拌処理の場合(5.204μm)と比較して、著しく細かい超微粒子を得ることができた。また、経時的な安定性に関しては、高圧ホモジナイザー処理の場合は48時間後においても平均粒子径の顕著な変化は認めなかった(48時間後:271.5nm)が、攪拌処理時には、経時的に粒子径の大きな増加が認められた(36時間後の平均粒径は11.66μmであり、製造時の平均粒径の2倍強であった)。
以上から、本発明により、長期間分散性に優れ、粒子径の変化がほとんどない安定な薬物微粒子が得られることは明らかである。また、本発明においては、前もって薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程は必要なく、本発明は、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で薬物超微粒子を製造することができる簡便な製造法であることは明らかである。
2)本発明に係る「薬物微粒子の製造法」における高圧ホモジナイザー処理圧力の効果
下記実施例3〜5に示すように、7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、得られた懸濁液をナノマイザーに循環させ、8700psi(実施例3)、15600psi(実施例4)、20900psi(実施例5)で各々20分間加圧した。その結果、表3に示すように、いずれの低圧力の処理品においても、200nm前後の平均粒径を有する薬物微粒子が得られた。
以上から、本発明において、低圧力の高圧ホモジナイザー処理により、安定な薬物微粒子が得られることは明らかである。

3)本発明に係る「薬物微粒子の製造法」における高圧ホモジナイザー処理時の溶媒温度の効果
下記実施例6〜7に示すように、7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液を、乳化機部分の温度を恒温水槽により各々5℃(実施例6)又は20℃(実施例7)にコントロールしたナノマイザー中に循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、約19000psiで各々加圧した。ナノマイザーで1〜50回処理した時の試料の品温の変化及び試料の溶状・平均粒子径の変化(50回処理した製造時と1時間の放冷後の変化)を評価した。その結果を表4に示した。尚、50回処理とは、サンプルをナノマイザーで処理し、回収した液を直ちにナノマイザーで再処理し、合計50回ナノマイザー処理することを意味する。

実施例6,7に示す乳化機部分の温度をコントロールしてナノマイザー処理をした場合においては試料の品温(薬物含有溶媒の温度)は30〜50℃前後まで経時的に上昇したが、製造された薬物微粒子の溶状は、1時間の放冷後においても変化がなく安定であった。
一方、比較例7に示す乳化機部分の温度の未コントロールでのナノマイザー処理の場合には、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドは溶解し、放冷後には、結晶析出と平均粒子径の増大が認められた。
以上から、本発明において、薬物が溶解しない低温での高圧ホモジナイザー処理により、安定な薬物微粒子が得られることは明らかである。
4)本発明に係る「薬物微粒子の製造法」により調製された薬物微粒子の生体吸収性に及ぼす効果
実施例1により得られたN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド微粒子を、ラット(n=4)に以下の条件で0.5mg/kgを静脈内投与し投与後24時間まで血中濃度の評価を行った。また、対称実験として、以下の方法により製造したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド水性注射剤を同様の方法によりラットに投与して評価を行った。結果を図7に示した。
A)(N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド水性注射剤の製造法)
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をビーカーにとり、スターラーで撹拌しながらアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、さらに撹拌を15秒行い、この懸濁液を乳化機部分を5℃にコントロールしたナノマイザーに循環させ、約30分間10600psiで加圧して薬物超微粒子の懸濁液を調製した。これを0.5mg/mLの濃度に注射用蒸留水で希釈し、マンニトールで等張化して、水性注射剤を得た。
B)ラット投与の方法と実験条件
23週齢のSD系雄性ラットに、1mg/kg(0.5mg/mL)の投与量で尾静脈内に上記水性注射剤を投与した後、5,15,30分、1,2,4,8,24時間経過後頸静脈より採血し、血漿を分離した。
C)血中濃度の評価法、抽出法、前処理法とHPLC条件
採集した血漿50μLに、内部標準物質、メタノールをそれぞれ添加し混和する。この溶液に水およびエーテルを加えて激しく撹拌・遠心し、上清を採集する。残った水層再度エーテルを加え同様の操作を行う。上清を集め窒素気流下蒸発乾固させ、HPLC移動層で最溶解した溶液をHPLCに注入して、定量を行った。
HPLC条件
移動相:アセトニトリル/水/リン酸=250/750/1
流速:0.5mL/min
カラム:CAPCELL PAK MF 4.0x10mm
カラム温度:40℃
検出:UV280nm


図7及び表5に示すように、N−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドの微粒子懸濁注射剤は、水性注射剤と同等の吸収特性を示した。以上から、本発明において、静脈内投与における吸収性において、水溶液と同等の極めて優れた薬物微粒子が得られることは明らかである。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
[実施例1]
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をマイクロフルイダイザー(Micorofluidics Inc.)に循環させた。この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、20分間3000psiで加圧、乳化した結果、218nmの平均粒子径を有するN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドの微小粒子を得た。
[実施例2]
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をマイクロフルイダイザーに循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、20分間、3000psiで加圧して、218nmの平均粒子径を有するN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミドの微小粒子の懸濁液を調製した。この懸濁液中における薬物微粒子の平均粒径を、製造後48時間まで経時的に測定したが、大きな変化はなかった。
[実施例3〜5]
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をナノマイザーに循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、8700psi(実施例3)、15600psi(実施例4)、20900psi(実施例5)で各々20分間加圧、乳化して、各々、172.7nm、178.8nm、211.3nmの平均粒径を有する薬物微粒子が得られた。
[実施例6〜7]
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液を、乳化機部分の温度を恒温水槽により各々5℃(実施例6)又は20℃(実施例7)にコントロールしたナノマイザー中に循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、18720psiでの加圧、乳化して、50pass(50回のオンライン高圧ホモジナイザー処理)を行い、N−(3−クロロ−7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンア薬物微粒子が得られた。製造された薬物微粒子の平均粒径及び溶状は、1時間の放冷後においても安定であった。
[実施例8]
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液をマイクロフルイダイザー(Micorofluidics Inc.)に循環させた。この溶液中に50mg/mLの濃度でアセトンに溶解したDanazol(17β−Hydroxy−2,4,17α−pregnadien−20−yno[2,3−d]isoxazole、シグマ)溶液100μLを添加し、20分間3000psiで加圧、乳化し、272.2nmの平均粒子径を有するDanazolの微小粒子を得た。
この薬物微小粒子の平均粒子径の経時的な安定性を72時間後(3日後)まで評価した結果、表6に示すように平均粒径はほとんど変化せず、安定であった。

[実施例9]
7mLの1%Pluronic F68を含有する水溶液を、乳化機部分の温度を恒温水槽により5℃にコントロールしたナノマイザー中に循環させ、この循環溶液中にアセトンに溶解したN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンアミド(50mg/mL)100μLを添加し、20350psiで加圧、乳化して、1,3,5,7,10,20,50,100pass(1,3,5,7,10,20,50,100回)のオンラインナノマイザー処理)と0.45umフィルターろ過を行い、187.4〜324.0nmの平均粒径を有するN−(3−クロロー7−インドリル)−1,4−ベンゼンジスルフォンア薬物微粒子を得た。製造された薬物微粒子の平均粒径は、表7に示すように、製造直後、1日後、7日後ともほとんど変化がなく、安定であった。

尚、表中の処理回数とは、サンプルをナノマイザーで処理し、回収した液を直ちにナノマイザーで再処理することを繰り返すことにより、ナノマイザー処理した回数を意味するものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである薬物超微粒子の製造方法。
【請求項2】
薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒が、高圧ホモジナイザーの流路中に循環しており、薬物含有溶液を、前記の循環している混和可能な溶媒中に添加することによって混和することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
薬物が、水に対する溶解度1mg/ml以下の難溶性薬物である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液、若しくは、2)前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって、前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒の、少なくとも一方の溶媒に、分散化剤を溶解させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
分散化剤を溶解させた溶媒中の分散化剤の濃度が、0.01〜50W/V%である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
分散化剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール,レシチン、ゼラチン及び/又はポリビニルピロリドンである請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和する工程において、薬物含有溶液の混和量が、薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって薬物含有溶液と混和可能な溶媒の量に対して、0.01〜50V/V%である請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
平均粒子径が100nm〜400nmである請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
高圧ホモジナイザーが、マイクロフルイダイザー、ピストンギャップホモジナイザー、マントンゴーリンホモジナイザー又はナノマイザーである請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
高圧ホモジナイザーが、マイクロフルイダイザー又はナノマイザーである請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
薬物が、抗腫瘍薬、抗生物質、抗炎症薬、鎮痛薬、骨粗しょう症薬、抗高脂血症薬、抗菌薬、鎮静薬、精神安定薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、消化器系疾患治療薬、アレルギー性疾患治療薬、高血圧治療薬、動脈硬化治療薬、糖尿病治療薬、ホルモン薬又は脂溶性ビタミン薬である請求項1〜10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
高圧ホモジナイザーで用いる処理圧力が、500〜40000psiの一定の処理圧力である請求項1〜11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
高圧ホモジナイザーが、マイクロフルイダイザーであり、処理圧力が1000〜6000psiの一定の処理圧力である請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
高圧ホモジナイザーがナノマイザーであり、処理圧力が6000〜20000psiの一定の処理圧力である請求項12記載の製造方法。
【請求項15】
1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物含有溶液を、前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒と混和し、3)前記の調製した混和溶液を、前記薬物の平均粒子径を100μm以下に揃える前処理工程を経ることなく、直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理し、次に、4)前記高圧ホモジナイザー処理した薬物超微粒子の懸濁液から、溶媒の一部又は全てを除去してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである任意の濃度の薬物超微粒子の懸濁液又は薬物超微粒子の粉体の製造方法。
【請求項16】
薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒が、高圧ホモジナイザーの流路中に循環しており、薬物含有溶液を、前記の循環している混和可能な溶媒中に添加することによって混和することを特徴とする請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
高圧ホモジナイザー処理した薬物超微粒子の懸濁液から、溶媒の一部又は全てを除去する工程が、凍結乾燥法によるものである請求項15又は16記載の製造方法。
【請求項18】
下記図1に示す、リザーバー、加圧ポンプ及び乳化機を細管を配して連結して成る高圧ホモジナイザーにおいて、リザーバーから乳化機までの循環液が流れる細管の流路のいずれかの部位に、薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液を添加するための注入機が組み込まれてなる、オンライン注入装置付の高圧ホモジナイザー。
【請求項19】
注入機が下記図2に示すリザーバーと加圧ポンプとを連結する細管の流路の間のいずれかの部位に組み込まれてなる、請求項18記載のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザー。
【請求項20】
注入機が、下記図3に示す加圧ポンプと乳化機とを連結する細管の流路の間のいずれかの部位に組み込まれてなる、請求項18記載のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザー。
【請求項21】
注入機が、ジョイント及び/又はミキシング装置を介して、細管の流路の間のいずれかの部位に組み込まれてなる、請求項18〜20のいずれか1項記載のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザー。
【請求項22】
乳化機及び/又は細管の全部又は1部に、前記循環液及び/又は薬物含有溶液の液温調節装置を組み込んでなる請求項18〜21のいずれか1項記載のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザー。
【請求項23】
高圧ホモジナイザーが、請求項18〜22のいずれか1項記載のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーである請求項2又は15記載の製造方法。
【請求項24】
1)薬物を1種類以上の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させて薬物含有溶液を調製し、2)前記薬物に対する貧溶媒又は混合貧溶媒であって前記の良溶媒又は混合良溶媒に溶解させた薬物含有溶液と混和可能な溶媒を、請求項18〜22のいずれか1項記載のオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの細管の流路中に循環させ、3)前記薬物含有溶液を、前記オンライン注入装置から添加して、循環中の前記混和可能な溶媒と混和し、4)オンラインで直接に高圧ホモジナイザーを用いて一定の処理圧力で乳化処理してなる、平均粒子径が10nm〜1000nmである薬物超微粒子の製造方法。
【請求項25】
請求項18に記載したオンライン注入装置付の高圧ホモジナイザーの薬物含有溶液の乳化処理に用いる用途。

【国際公開番号】WO2005/013938
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513002(P2005−513002)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011518
【国際出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】