説明

薬物送達系および細胞療法

哺乳類における血中グルコースを低下させる方法は、哺乳類の血中グルコースを低下させるために哺乳類に治療有効量の結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを経口、注射、または吸入によって投与することを包含する。組成物は、より長い時間に亘るインスリンまたは他の治療薬の制御放出のための1相または構造化された多相の組成物であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は以下の、2003年3月4日出願の米国出願仮出願番号第60/451,245号;2003年5月5日出願の第60/467,601号;2003年5月9日出願の第60/469,017号;および2003年8月15日出願の第60/495,097号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の利益を請求する。
【0002】
本発明は、一般に、生体組織内または生体組織上への治療薬の直接的な全身および局所送達ならびに組織工学のための生体材料の開発に関する。特に、本発明は、細胞、生物活性物質、またはその組み合わせを含む生体適合性インプラントの製造ならびにタンパク質、ペプチド、および核酸の送達のための微粒子マトリクス材料(matrix materials)に関する。
【背景技術】
【0003】
用語「生体材料(biomaterial)」は、生物源由来の材料またはヒトの身体の治療のために使用される材料を説明するためにそれぞれ使用されている。本発明は、後者に関する。本明細書中で使用される、用語「生体適合性」は、材料自体または治療薬(生細胞が含まれる)と組み合わせて異物反応または線維形成を生じないことを意味する。
【0004】
デキストランは一部の微生物により、または、生化学的方法により合成される高分子量の多糖類である。約75kDaの平均分子量を有するデキストランは血漿と同様のコロイド浸透圧を有し、そのため、その水溶液は血漿増量剤として臨床的に使用されている。ビーズの形態の架橋デキストランは、タンパク質のGPCにおいて使用される「Sephadex」(商標)、およびマイクロキャリア細胞培養においける特殊な要求を満足するためにPharmaciaにより開発された「Cytodex」(商標)の基礎となるものである。例えば米国特許第6,395,302号および6,303,148号(Hennink et al.)は、種々の生物物質を架橋デキストラン粒子に結合させることを開示している。しかしながら、架橋デキストランを基礎としたビーズは、一般的には架橋剤の適用に起因するその潜在的毒性のためにインプラントの製造のためには使用できない(Blain J.F.,Maghni K.,Pelletier S.and Sirois P.Inflamm.Res.48(1999):386-392)。
【0005】
米国特許第4,713,249号(Schroder)は生物学的に活性な物質のためのデポマトリックス(depot matrix)の製造方法を記載している。この特許によれば、デポマトリックスは、(非共有結合を利用することが示唆される)結晶化により安定化された炭水化物微粒子からなるとされている。結晶化炭水化物微粒子と称されるものを製造するための以下の方法がSchroderにより記載されている。重合体炭水化物および生物学的に活性な物質の溶液が親水性溶媒1種以上中に形成される。次に炭水化物および生物学的に活性な物質の混合物を液体の疎水性媒体中に乳化し、球状の液滴を形成する。次にエマルジョンを、アセトン、エタノールまたはメタノールを含む結晶化媒体中に導入して非共有結合的に架橋された結晶性重合体炭水化物マトリックスであって、生物学的に活性な物質0.001〜50重量%を取り込んでいるマトリックスを有する球体を形成する。即ち、生物学的に活性な物質が溶液中に準備された後に、球体を結晶化させる。Schroderは多段階の方法により製造された微粒子の微小構造は記載していない。Schroderの多段階方法は複雑であり、細胞に対して潜在的に毒性であり、除去する必要がある有機溶媒を使用している。更にまた、Schroderの組成物は組成物を投与する不都合で痛みを伴う方法である注射のために設計されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
哺乳類における血中グルコースを低下させる方法は、治療有効量の結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを哺乳類に経口、注射または吸入によって投与することにより哺乳類の血中グルコースを低下させることを含む。組成物は、インスリンまたは他の治療薬の制御された放出のための1相または構造化された多相の組成物であってよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[A.微粒子の形成]
本発明者らは0.5〜3.5ミクロンの範囲の平均直径を有する結晶化デキストラン微粒子が20〜90℃の温度範囲において1.0〜200.0kDaの範囲の分子量を有するデキストランの濃水溶液(40〜65重量%)中で自発的に形成されることを実験的に発見した。室温で微粒子を形成することが望ましい場合は、2〜18kDaのデキストラン溶液を使用することができる。当然ながら、微粒子は所望により室温より高温で2〜18kDaの溶液から形成することができる。微粒子は約40〜約70℃のような室温より高温において20〜75kDa溶液のような高分子量デキストラン溶液から自発的に形成することができる。微粒子は如何なる適当な形状、例えば規則的または不規則な形状を有してもよいが、好ましくは球形であり、好ましくは直径が10ミクロン以下、例えば0.5〜5ミクロンである。
【0008】
透過型電子顕微鏡により、結晶化デキストラン微粒子の多孔性構造が明らかになっている(図2A、2Bを参照)。好ましくは、微粒子の多孔性は少なくとも10容量%、例えば約10〜約50容量%、より好ましくは約20〜約40容量%である。即ち、構造体は粒子の間に位置する細孔性の領域を有する多孔性粒子を含む。
【0009】
結晶化デキストラン微粒子の水性懸濁液の噴霧乾燥は10.0〜150.0ミクロンの範囲の直径を有する結晶化デキストラン微粒子の実質的に球形の凝集塊を生成できることを示している(図3を参照)。
【0010】
デキストラン微粒子を形成する方法の非限定的な例は以下に記載するとおりである。Amersham Biosciencesから入手したデキストランT40(分子量40kDa)50.0gを500mlの実験用ビーカー中滅菌蒸留水50.0gに添加し、層流下(under laminar flow)に50重量%溶液を得た。デキストランが完全に溶解し透明な溶液が得られるまで、混合物を50rpmでマグネティックスターラーを用いて60℃(水浴)で攪拌した。含まれる空気を全て除去するために溶液を真空に付すことができる。透明な溶液をTyvek(商標)蓋下60℃で実験用オーブン中に入れた。3.5時間後、結晶化デキストラン微粒子の形成の結果として、白濁した粘稠な懸濁液が発生する。
【0011】
非結晶化デキストランを排除するために、微粒子を例えば3,000gで30分間、3×250mlの蒸留滅菌水と共に遠心分離するか、または、希薄な微粒子懸濁液、例えば1部の微粒子と10部の水を濾過する(滅菌フィルターに蒸留滅菌水3×250mlを通す)ことにより、微粒子を洗浄する。遠心分離/洗浄は層流下において行う。微粒子をTyvek(商標)蓋下500mlの実験用ビーカーに入れ、8時間60℃で実験用オーブン中で乾燥し、約5%の水分量とする。得られた乾燥粉末は約2ミクロンの平均粒径を有する粉末からなる。
【0012】
[B.結晶化デキストラン微粒子に基づいたインプラント]
結晶化デキストラン微粒子およびその凝集体の濃縮懸濁液を、マウスを使用した実験でインプラントとして試験し、動物体内への注射後のその生体適合性を検査した。
【0013】
図4および5は、実験動物(マウス)における皮下(図4)および筋肉内(図5)注射後の組織中のインプラントを示す。180日を通して動物組織中に炎症反応は検出されなかった。
【0014】
図6A、6B、および6Cは、注射後それぞれ1日目、4日目、および28日目のマウスの筋肉組織中のインプラントを示す。図7Aおよび7Bは共に、注射後180日目のマウスの筋肉組織中のインプラントを示す。
【0015】
図8A、8B、および8Cは、皮下注射後それぞれ4日目、11日目、および28日目のインプラントを示す。図8Dおよび8Eは共に、皮下注射後180日目のインプラントを示す。図8Fおよび8Gは共に皮下注射後1年目のインプラントを示す。図8Gに示すように、移植部位で瘢痕組織よりもむしろ正常組織が形成される。
【0016】
インプラントからの巨大分子の緩徐な放出は、注射前に結晶化デキストラン微粒子またはその凝集物の水性懸濁液中に巨大分子を溶解する実験において明らかにされている。
【0017】
図9および10は蛍光標識巨大分子を含有するインプラント(FITC−デキストラン、MW500kDa)および筋肉内注射後14日のマウス筋肉組織中へのインプラントからの巨大分子の緩徐な放出(図9)およびインプラントからのプラスミドDNAの放出後のマウス筋肉組織中のレポーター遺伝子の発現(図10)を示す。したがって、標識(蛍光標識単独または治療薬との組み合わせなど)の持続放出に結晶化デキストラン微粒子を使用することができる。
【0018】
[C.二相系に基づいたインプラント]
結晶化デキストラン微粒子およびその凝集塊に基づいたインプラントの自己集合構造(self assembled structure)を2相系に基づいて形成してよい。
【0019】
オイル液滴、リポソーム、微粒子およびナノ粒子などのコロイド系は結晶化デキストラン微粒子の懸濁液中に分散することができ、哺乳類身体への投与の後に治療薬を放出するインプラントを形成するように注射することができる。
【0020】
例えば油状物の場合は、油状物のコアが水または多糖類(例えばデキストラン)のような有機重合体の水溶液中に分散した結晶化デキストラン微粒子またはその凝集塊からなるシェルに包囲されるという特殊なインプラント構造が形成される。記載した構造はカプセルと称することができる。シェルはカプセルが組織により包囲される場合に形成される概ね球状のシェルを含んでよいことに留意しなければならない。しかしながら、カプセルが障壁近傍、例えば基盤、骨または腸壁に位置する場合は、カプセルは片側が微粒子の壁部1箇所以上でありもう片側が障壁である間隙に位置するコアを含んでよい。更に、実施例のように油状物を使用する場合は、コアは他の物質、例えば重合体、細胞等を含んでよい。
【0021】
カプセル構造を形成するためには、2相の水性の系が適用される。種々の重合体の水溶液をある濃度を超えて混合する場合は、それらは非混和性液の2相溶液を形成する場合が多い。相の各々は通常は水90%超よりなり、緩衝性および等張性であることができる。細胞または粒子の懸濁液がこの系に添加されると、細胞または粒子は相の間に等しくなく分配されている場合が多い。この優先的な分配挙動は、これらの系における分配が細胞または粒子の表面特性により直接決定されることから、種々の細胞集団または粒子のための分離操作法の基礎として使用できる。同一の表面特性を有さない細胞または粒子は十分に異なる分配挙動を示す。
【0022】
2相重合体の競合的吸着は重合体の化学的性質に依存している。2相重合体法は細胞、タンパク質、核酸および無機質を分離または分配するために適用されている(「Partitioning in Aqueous Two-Phase Systems」,1985,eds.,H.Walter,D.Brooks and D.Fisher,publs,Academic Press)。
【0023】
例えばデキストラン/ポリエチレングリコール(PEG)混合物より誘導した相系における結晶化デキストラン微粒子の分布による実験によれば、図11および12に示すとおり、デキストラン微粒子はデキストラン相にある傾向が大きく、もう1つのPEG相はこのデキストラン相中に分散してW/Wエマルジョンを形成することができ、PEG相の容量がデキストラン相の容量より大きい場合はその逆となることがわかった。
【0024】
図11は結晶化デキストラン微粒子を含有するデキストランの水溶液中のPEGの水溶液のエマルジョンの写真である。図11の構造において、PEG相の容量はデキストラン相の容量より小さい。デキストラン相はデキストランおよび結晶化デキストラン微粒子を含有する。即ち、PEG相はデキストラン/デキストラン微粒子のシェル(即ち閉鎖細孔構造)により包囲される1つ以上の球形のコア内に形成される。
【0025】
図12はPEG相の容量がデキストラン相の容量より大きい場合の、PEGの水溶液中に結晶化デキストラン微粒子を含有するデキストランの水溶液のエマルジョンの写真である。この場合、デキストラン相はPEG相(即ち組織液体中にPEGが沈着する間にインビボで形成中の開放細孔構造)により包囲されるデキストラン微粒子を含有する1つ以上の球形のコア内に形成される。図12から明らかな通り、より小さい容量(液滴)のデキストラン相は大型の球状のデキストラン/デキストラン微粒子のコア内(図12の右下)に形成され、これに、デキストラン/デキストラン微粒子を含むより小さい球が連結され、融合する。
【0026】
即ち、第1の相(例えばPEG相およびその内包物、例えば治療薬)の容量の第2の相(例えばデキストラン相およびその内包物、例えばデキストラン微粒子)の容量に対する比が1未満である場合、第2の相のシェルで包囲された第1の相のコアを用いた自己集合によりカプセルが形成される。PEG相に優先的に分配されるインスリンのような治療薬およびデキストラン相に優先的に分配されるデキストラン微粒子を組成物が含有する場合、治療薬はPEGコアに選択的に分配され、一方、微粒子は自己集合によりPEGコアの周囲に分配されてシェルを形成する。
【0027】
エマルジョンは個別に調製されたデキストランおよびPEGの相を混合することにより製造でき、両方はそれぞれPEG相またはデキストラン相にあることを好む異なる種類の粒子の懸濁液とすることができる。原理は、分子(高分子、DNA、プラスミドなど)または分子凝集体(微粒子、細胞、リポソーム、タンパク質など)の異なる重合体相内への分配が、その表面構造および重合体溶液中の粒子の界面エネルギーに依存しているという点である。
【0028】
実験動物の組織中への結晶化デキストラン微粒子を含有する水性2相系の注射により、図13および14に示すとおり、カプセル構造を有するインプラントの形成が明らかになった。デキストラン相の容量は2相系内のPEG相の容量より高値である。図13および14の両方はPEGコアおよびデキストラン/デキストラン微粒子のシェルを有するカプセルがインビボの自己集合により(即ち哺乳類組織への注射後に)形成されることを示している。シェルは隣接する微粒子間の大型孔部領域並びに微粒子自体内の細孔領域を含む。
【0029】
2相系からカプセル構造を形成する方法の非限定的な例は以下に記載するとおりである。デキストランT40(分子量40kDa)10gおよびPEG2gを、1,000UIを含有する(Actrapid(商標))インスリン溶液88mlに溶解し、これに結晶化デキストラン微粒子25gを添加する。これらの工程は層流条件下で行う。混合物を30分間室温で100rpmでマグネティックスターラーで攪拌し、均質な混合物(即ち懸濁液)を形成する。懸濁液1.0gはインスリン8UIを含有する。
【0030】
デキストラン微粒子は、2相系内に与えられるデキストラン溶液ではなく異なる分子量のデキストランの溶液から調製することができることに留意しなければならない。即ち、結晶化デキストラン微粒子は、40〜500kDaのデキストランの溶液(例えば40〜75kDaの溶液)であってよい2相系に与えられるデキストラン溶液よりも、小さい分子量のデキストラン溶液(例えば2〜20kDaの溶液)中に形成することができる。これは、より高い分子量のデキストランの溶液、例えば40〜70kDaの溶液は広範な当局の認可を得ており、より低濃度でカプセルのシェルを形成するために使用できることから、好都合である。インビボで実際提供されるより低分子量のデキストランの溶液を用いることなく、より低分子量の溶液を用いて結晶化時間を低減することができる。更にまた、より低分子量の微粒子はインビボでの溶解がより容易である。
【0031】
2相系から形成されるカプセル構造は、それが微粒子を含有する単相を含む組成物からよりも、コアからの治療薬の放出をより均一で長時間持続するものとするため、好都合である。更にまた、カプセル構造を使用することにより、単相の系を使用する場合よりも治療薬の時間指定放出が同等以上に良好となるために必要な微粒子がより少量ですむと考えられる。更にまた、2相系内の微粒子の量を制御することにより、微粒子シェルの厚みを制御できると考えられる。2相系の微粒子の量が多いほど、より厚いシェルが形成される。即ち、カプセルコアからの治療薬の放出の量、持続時間および/または時間指定はシェルの厚みを制御することにより制御することができる。従って、治療薬の放出特性は各患者または患者群に対して専用のものとすることができる。
【0032】
PEGおよびデキストランを2相の材料の例として使用したが、以下の分配挙動を示す如何なる他の適当な材料も代替として使用してよいことに留意しなければならない。図15Aは水性の2相系における種々の粒子分配挙動を模式的に示すものである。例えば、好ましくは粒子10、12および14である3種の分子または分子凝集塊および2相16および18を図15Aに示す。しかしながら、これらは2種または3種を超える粒子であってよい。粒子は有機および/または無機の材料、リポソーム、生細胞、ウィルスおよび巨大分子から調製された微小球体またはナノ球体のような微粒子であってよい。第1の種類の粒子10は優先的に第1の相16内に隔離される。第2の種類の粒子12は優先的に第1の相16および第2の相18の境界線に隔離される。第3の種類の粒子14は優先的に第2の相18に隔離される。即ち、前記した非限定的な実施例と同様、第1の粒子10は治療薬を含み、第2の粒子12および/または第3の粒子14は結晶化デキストラン微粒子を含み、第1の相16はPEG相を含み、第2の相18はデキストラン相を含んでよい。
【0033】
図15Aの領域20に示すように、より少量の第1の相16をより大量の第2の相18の内部に入れる場合は、第2の相18内に位置する、ある濃度の第1の種類の粒子10を含有する第1の相16の個別の球体を含むカプセル型の構造体が形成される。第2の種類の粒子12は相16および18の界面に位置することができ、カプセルのシェルとして機能する。粒子14は第2の相18内に分散および/またはカプセルのシェルを形成する。
【0034】
逆に、図15Aの領域22に示すように、より少量の第2の相18をより大量の第1の相16内に入れる場合は、第1の相16内に位置する、第3の種類の粒子14のある濃度を含有する第2の相18の個別の球体を含むカプセル型の構造体が形成される。第2の種類の粒子12は相16および18の界面に位置することができ、カプセルのシェルとして機能する。粒子10は第1の相16内に分散および/またはカプセルのシェルを形成する。2相系20および22は例えば動物またはヒトのような哺乳類内に注射、外科的移植、または経口送達するなどして、インプラントとして使用してよい。即ち、カプセルは構造化された3次元のインプラントを形成し、そのコアはシェルを経由する治療薬の制御放出のためのリザーバーまたはデポーとして機能する。一方、微粒子の均一な分布を有するインプラントは非構造化インプラントである。経口送達される2相系のために形成された構造体は、一般的には、分散したPEG相および連続したデキストラン相を含む構造化された懸濁液と称されることに留意しなければならない。
【0035】
更にまた、粒子(すなわち、分子凝集体)10、12および14は相の1つの内部に選択的に分配される液体物質(例えば油状物)または巨大分子により置き換えられてよい。例えばインスリンのような治療薬はPEG/デキストラン2相系のPEG相に分配されることができる。インスリンはPEG相に選択的に分配されるため、PEG相はカプセル構造のインスリン含有コアを形成する。特定の粒子および治療薬は選択的に分配されるが、「選択的に分配される」という用語は粒子または治療薬の100%が相の一方に分配されることを必ずしも意味しないものとすることに留意しなければならない。しかしながら、選択的に分配された物質種の大部分、好ましくは分配された物質種の80%は相の一方に分配される。例えば、インスリンの大部分はPEG相に分配されるがインスリンの一部はデキストラン相に残存してよい。
【0036】
図15Bは図15Aに模式的に示した2相系に基づくインプラントの構造の断面図の走査電子顕微鏡写真である。第1のデキストラン相、第2のPEG相および結晶化デキストラン微粒子を含む2相の水性組成物をセファロースゲル中に注射した。このゲルの組成は、注射部からの結晶化デキストラン微粒子の拡散を停止させることにより哺乳類の組織を模倣している。図15Bの画像はコア−シェルインプラント構造の形成を示している。コアはシェル34により包囲された領域30および32を含む。領域30は断面SEM撮影のためにゲルの切断よりも前にPEG相領域で充填された空隙である。PEG相領域は断面作成中にゲルが切断された場合にはゲルから漏出する。領域32は結晶化デキストラン微粒子中に位置するPEG液滴を含むコアの外側部分である。領域34はコアを含有するPEGを包囲して定置保持している結晶化デキストラン微粒子を含むシェルである。
【0037】
特定の理論に制約されないが、本発明者らは図15Cに模式的に示すように自己集合により図15Bに示すコア−シェル構造が形成されると考える。第1の相16および第2の相18、例えば種々の非混和性重合体の水溶液を適当な保存容器19、例えばガラスビーカーまたはバイアルに入れ、一方の相16はもう一方の相18の上方に上昇する。2相組成物を相16および18の自由流動を制限する材料、例えば哺乳類組織または基盤材料、例えば組織を模倣したゲルの内部に注射した場合、組成物は自己集合によりコア−シェル構造となる。第1に、より少ない容量で存在する相は図15Cの中央部分に示すとおり、概ね球形に形成される。次に図15Cの下部に示すように、球形同士が組み合わさって一方の相の概ね球形のコアが他方の相のシェルにより包囲されたもの形成する。多相系のうち2相系の例を説明したが、多相系は所望により2相より多くの相を有していてよい。
【0038】
[D.細胞療法]
哺乳動物細胞を用いて実施した実験により、結晶化デキストラン微粒子凝集体の表面(図3および12を参照のこと)に吸着するか、マクロ多孔質構造内部の同一表面(図11を参照のこと)またはカプセル(図13および14を参照のこと)に吸着した細胞を身体に送達するために、上記した技術を使用することができることが示された。
【0039】
一般に、コロイド系における自発的組織化に基づく治療のための自己組織化材料は、結晶化デキストラン微粒子またはPLA、PLGA、PMMA、アルギン酸塩、細胞などの他の移植用粒子を含み得る。例えば、図16A〜16Dは、デキストラン−PEG二相系中のHeLa細胞および結晶化デキストラン微粒子の分配を例示する。図16Aでは、二相系を例示する。細胞を含有するPEG相を含むコアを写真の上部に示し、デキストラン/デキストラン微粒子(「CDM」)シェルを下部に示す。シェルからコアに凝集したPEG相の液滴を、コア領域とシェル領域との間の境界に示す。図16Bは、PEG/デキストラン二相系中のデキストラン微粒子の分配を示す。PEG16相は上部に存在し、デキストラン微粒子を含むデキストラン相18は下部に存在する。図16Cおよび16Dは、結晶化デキストラン微粒子表面を含むデキストラン相上のHeLa細胞を示す。
【0040】
インプラントは、「リザーバ」型インプラントであってよく、細胞置換療法に使用することができる。「リザーバ」型インプラントは、薬物動態学を改良して(「バースト効果」がない)生物活性物質の徐放を確実にすることができる。「リザーバ」型インプラントの「コア」は、細胞と共に「負荷した」インプラントの構造に加えて、任意のタイプの活性物質を含み得る。コアは、治療用ペプチドおよびタンパク質、核酸、ワクチン、ウイルス、および細胞を含み得る。
【0041】
図17は、自己組織化材料に基づいた細胞置換療法の例を治療の指針のために概略的に示す。例えば、結晶化デキストラン微粒子に基づく密閉気孔インプラントを、I型糖尿病治療、癌治療、パーキンソン病治療、および治療用タンパク質およびペプチドの使用に基づく他の適切な治療に使用することができる。図17では、インプラント40は、移植細胞42をカプセル化した結晶化デキストラン微粒子12、14のカプセルまたはシェルを含む。インスリン産生β細胞、K細胞、膵臓細胞、または幹細胞などの任意の適切な細胞を使用することができる。図17に示すように、結晶化デキストラン微粒子カプセルは、血中グルコース44(ならびに酸素、栄養素、および他の刺激)に対して多孔質であるが、免疫系細胞(大きすぎて、カプセルに侵入し、インスリン産生細胞を攻撃できない)に対しては不浸透性を示す。血中グルコース44は、結晶化デキストラン微粒子カプセルを介して浸透し、インスリン産生細胞からのインスリン46の産生を刺激する。次いで、インスリンが結晶化デキストラン微粒子カプセルを介して血液48に拡散する。
【0042】
したがって、糖尿病を治療するために、結晶化デキストラン微粒子カプセル化インスリン産生細胞を、ヒトなどの哺乳動物に移植することができる。結晶化デキストラン微粒子カプセルをインビボで形成することができ、外科手術は必要でない。このような技術は、当分野で「注射式再生医療工学(Injectable Tissue Engineering)」として公知である。さらに、結晶化デキストラン微粒子カプセルは有毒な架橋化学物質を使用する必要がない。好ましくは、インプラントを使用して、肝臓グルコース産生を抑制し、且つピークのない時間−作用プロフィールを用いて絶食状態において正常血中グルコース付近を維持するための長時間作用インスリン調製物を提供することができる。
【0043】
細胞療法を使用して他の疾患を治療することができることに留意すべきである。例えば、図18に概略的に例示するように、結晶化デキストラン微粒子カプセル化ドーパミン産生細胞を使用してパーキンソン病を治療することができる。さらに、図18に示すように、哺乳動物組織50中で細胞42が微粒子12、14をカプセル化するシェルを形成するように結晶化デキストラン微粒子カプセルの構造を逆にすることができる。例えば、患者自身の細胞または幹細胞を、微粒子の外側に位置づけることができる。対照的に、図17に示すように、患者の自己免疫反応から細胞を保護するためにドナーなどの患者以外の供給源由来の細胞を、微粒子シェルの内側に位置づけることができる。これにより、糖尿病およびその他の疾患などの病態の治療のためのインビボ組織工学の可能性が開かれる。
【0044】
[E.骨インプラント代替物(bone graft substitute)]
骨インプラントの手順は、患者から採取した自家インプラント組織またはドナーまたは死体から採取した同種インプラント組織の使用を含む。2つの基準を使用して、首尾の良いインプラント−骨伝導(osteoconduction)および骨誘導(osteoinduction)を判断する。
【0045】
自家インプラント組織の採取には、炎症、感染症、および慢性疼痛などの合併症を引き起こし得るドナー部位の手術が必要である。採取することができる骨組織量も限定され、提供における問題も生じる。
【0046】
同種インプラントは、ドナー部位の病的状態および制限された供給における問題を排除することによって、いくつかの自家インプラントの欠点を回避する。しかし、同種インプラントにもリスクが存在する。多数の方法により疾患伝播のリスクを軽減することができるにもかかわらず、組織を滅菌するために使用する処置によって組織の骨誘導を軽減または排除するタンパク質および因子を除去される。
【0047】
さらに、自家インプラントおよび同種インプラントに対するいくつかの代替物が開発されている。多数のこれらの代替物は、種々の材料(天然および合成ポリマー、セラミック、および複合材料が含まれる)を使用する。他の代替法は、単独または他の材料と組み合わせて使用される因子および細胞ベースのストラテジーを組み込む。
【0048】
多数の骨インプラント代替物は天然または合成であり、単独または形質転換成長因子(TGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、および骨形成タンパク質(BMP)などの組換え成長因子と組み合わせて使用することができる。細胞ベースの骨インプラント代替物は、新規の組織のみを生成するための細胞を使用するか、支持マトリクス(例えば、間葉幹細胞)上に播種する。
【0049】
ポリマーベースの骨インプラント代替物を使用して、分解性および非分解性ポリマーの両方を、単独またはOrthovita,Inc.のCortoss(商標)通気孔ポリ乳酸ポリマー(OPLA)などの他の材料と組み合わせて使用する。天然ポリマーのような分解性合成ポリマーが身体に再吸収される。身体に吸収されるインプラントを有することの利点は、異物が残存することなく身体自身で身体を完全に治癒することができるということである。この目的を達成するために、企業は、単独デバイスとしておよび自家インプラントおよび増量剤として同種インプラントにポリ乳酸およびポリ乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)などの分解性ポリマーを使用している。例えば、Bone Tec,Incは、多孔性を誘導するための粒子浸出プロセスの使用によって多孔質PLGAフォームマトリクスを開発した。OsteoBiologics,Incは、インプラント増量剤として使用されるImmix Extender(粒子PLGA生成物)を有する。
【0050】
この実施形態の1つの好ましい態様では、前の実施形態に記載の多孔質結晶化デキストラン微粒子を、身体の特定の部位に骨を形成する治療薬と組み合わせた骨インプラント代替物として使用する。ペプチド、幹細胞、またはタンパク質(上記の間葉幹細胞、TGF、PDGF、FGF、およびBMPが含まれるが、これらに限定されない)などの骨形成のための任意の適切な治療薬を使用することができる。治療薬を、多孔質微粒子の孔に位置づけることができる。例えば、治療薬を、結晶化後に結晶化デキストラン微粒子の孔に供することができる。
【0051】
この実施形態の別の好ましい態様では、インビボでのインプラント形成方法は、第1の液相中に微粒子の懸濁液を調製する工程と、第1の液相に対して非混和性である第2の液相中に微粒子の懸濁液を調製する工程と、第1の液相が連続相であり、第2の液相が分散相であるエマルジョンを調製する工程と、エマルジョンを哺乳動物の体内に注射する工程とを含む。好ましくは、骨インプラント代替物としてエマルジョンを使用する。
【0052】
好ましくは、第1および第2の液相中の微粒子は異なる。例えば、第1の相中の微粒子は、多孔質セラミック微粒子などの非ポリマー微粒子であり得る一方で、第2の相中の微粒子は、上記の多孔質結晶化デキストラン微粒子などのポリマー微粒子であり得る。所望ならば、第2の液相は、身体の特定の部位に骨を形成する治療薬を含み得る。多孔質微粒子の孔中に治療薬を位置づけることができる。
【0053】
[F.経口インスリン送達デバイス]
本発明の別の好ましい実施形態では、本発明者らは、多孔質(すなわち、ミクロ多孔質)微粒子の組成物をインスリンなどのタンパク質の経口送達のための賦形剤として使用することができることを発見した。多孔質微粒子は、経口投与から60分以内に血中グルコースを有意に減少させる(例えば、30%減少)インスリンの経口投与が可能な任意の適切な多孔質微粒子であり得る。好ましくは、微粒子は、腸壁を介してインスリンを送達させる生体接着性粒子(少なくとも一過性に哺乳動物腸壁に接着する粒子など)である。最も好ましくは、多孔質微粒子は、上記の結晶化デキストラン微粒子を含む。
【0054】
図19に示す本発明の1つの好ましい実施形態において、本発明者らは、ウサギのような哺乳類53に経口投与された結晶化デキストラン微粒子12、14およびインスリン46の水性懸濁液は、血中グルコース値低下において、インスリン単独の筋肉内注射と概ね同等に効果的であったことを発見した。図19は微粒子を含む経口投与組成物54からの哺乳類53の腸52の壁面を透過するインスリン46を示している。薬剤試験においてはウサギはヒトの一般的なモデルであるため、本発明者らは、結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含む液体または固体の組成物54、例えば水性懸濁液、溶液、錠剤またはカプセルもまた、経口投与された場合には人間における血中グルコース値の低下においても有効であると考える。
【0055】
以下の実験例は結晶化デキストラン微粒子を使用した経口インスリン送達を説明するものである。試験ではチンチラウサギ(2.3±0.2kg)を用い、本明細書に記載の方法に従って調製した結晶化デキストラン微粒子およびヒト組み換えインスリンからなる水性懸濁液の経口投与に対するその応答の観察を行った。
【0056】
デキストランT20(Pharmacia,Uppsala,Sweden)3.0gを水2.0gに溶解し、60℃の温度の箱内に入れた。3時間後、水3×5.0mlを用いて3,000gで遠心分離することにより結晶化デキストラン微粒子を洗浄した。次に結晶化デキストラン微粒子を水2.0mlに懸濁し、室温で乾燥させた。得られた乾燥粉末を用いて経口インスリン送達実験のためのインスリン含有懸濁液を調製した。インスリン含有懸濁液は微粒子250mg;インスリン(NovoNordisk Actrapid HM Penfill,40UI/ml)0.3ml(12UI)または0.6ml(24UI);および容量を2.0mlとするための蒸留水を混合することにより調製した。
【0057】
懸濁液の試料(2.0ml)をカテーテルを用いてウサギの喉部に導入し、その後、飲料水10.0mlを導入した。懸濁液の導入より前3時間は動物には給餌しなかった。血液試料をウサギの耳介静脈より採取し、グルコース濃度について検査した。血中グルコースは「One-touch System Glucose Analyzer」(Lifescan Johnson&Johnson,Milpitas,CA,USA)において適当な検定後にグルコースオキシダーゼ法を用いて測定した。
【0058】
実験例1〜8はウサギ8匹を用いた比較例を示す。実験例9〜14はウサギ5匹を用いた本発明の実施例である。
【0059】
比較例1および2(表Iにまとめた対照実験#1)においては、ヒト組み換えインスリンの水溶液を動物当たり12UIの用量でウサギ2匹に筋肉内導入した。比較例3および4(表IIにまとめた対照実験#2)においては、ウサギはそのまま保持した(即ちインスリンまたは他の注射はウサギ2匹に対して行わなかった)。比較例5および6(表IIIにまとめた対照実験#3)においては、インスリンを含有しない結晶化デキストラン微粒子の懸濁液をウサギ2匹に経口投与した。比較例7および8(表IVにまとめた対照実験#4)においては、インスリン(24UI)と共に市販のSephadex G-150微粒子の懸濁液をウサギ2匹に経口投与した。Amersham Biosciencesのウェブサイトによれば、Sephadex(商標)G-150微粒子は、デキストランとエピクロロヒドリンを架橋することにより調製した20〜150ミクロンの粒径を有するビーズ化ゲル微粒子である。本発明の好ましい実施形態による実施例9〜14(表Vにまとめる)においては、インスリン(24UI)を含有する結晶化デキストラン微粒子の懸濁液をウサギ5匹に経口投与した。結果を以下の表I〜Vに示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
表I〜Vのデータはインスリン12UIを筋肉内注射により投与した場合(実験例1〜2)およびインスリン24UIを結晶化デキストラン微粒子と共に経口投与(すなわち経口)した場合(実験例9〜14)に、哺乳類の血中の糖(すなわちグルコース)の平均の低下が同等であることを示している。最大グルコース低下は経口投与後60分で約35〜約60%であった。グルコースの濃度の特徴は注射および経口送達様式の両方で実質的に同様である。ここではインスリンの他の量も投与している。例えば、インスリン30UIも投与している。一般的に、注射インスリンの量と比較してインスリンが2〜3倍となる経口投与は3時間まで血中グルコースの同様の低下をもたらしている。
【0066】
インスリンはそれ自体は腸内の酵素により分解され、未損傷のまま胃腸粘膜より吸収されることはないということは周知の事実である(Amidon GL,Lee HJ,Absorption of peptide and peptidomimetic drugs,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.1994;34:321-41)。しかしながら実験例9〜14は、結晶化デキストラン微粒子は、得られた血中グルコース降下作用が顕著であったことから、タンパク質、例えばインスリンの経口送達のための溶剤として使用できることを示している。特定の理論または作用様式に制約されないが、本発明者らは多孔性の結晶化デキストラン微粒子を水性懸濁液中のインスリン送達マトリックスとして使用することで、腸内酵素による多大な分解からインスリンが保護され、インスリンが未損傷のまま胃腸粘膜を通過して吸収され得るようにすると考える。インスリンは微孔性の微粒子および/または微粒子間の大型孔内に位置してよい。一方、インスリンを有する架橋Sephadex G-150デキストラン微粒子の使用(表IV、実験例7〜8)は血中グルコース濃度の有意な低下をもたらさなかった。
【0067】
実験例9〜14に示すとおり、哺乳類の血中グルコース濃度は、哺乳類への結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含有する組成物の投与後60分には少なくとも5%、好ましくは少なくとも30%低下する(即ち懸濁液の投与後60分の哺乳類の血中グルコース値が懸濁液の投与直前に測定したものよりも少なくとも5%、好ましくは少なくとも30%低い)。好ましくは、哺乳類の血中グルコース濃度は哺乳類への組成物の投与後30分には少なくとも5%、例えば少なくとも30%、好ましくは約35〜約40%低下する。好ましくは、哺乳類の血中グルコース濃度は哺乳類への懸濁液の投与後60分には約35〜約60%、例えば35〜45%低下する。より好ましくは哺乳類の血中グルコース濃度は投与直前の血中グルコース濃度と比較して哺乳類への組成物の投与後30〜240分、例えば30〜120分の範囲に渡る全期間中低下する。例えば、哺乳類の血中グルコース濃度は哺乳類への組成物の投与後30〜240分、好ましくは30〜120分の範囲に渡る期間中、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%、例えば35〜45%低下する。
【0068】
即ち、本発明の好ましい実施形態は、結晶化デキストラン微粒子およびインスリンからなる組成物の治療有効量を経口投与することによる哺乳類における血中グルコースを低下させる方法を提供する。組成物の「治療有効」量は副作用の防止または回復、もしくは治療すべき疾患、傷害または障害により決定できる。好ましくは、組成物は約0.5〜約5ミクロンの平均粒径を有する結晶化デキストラン微粒子およびインスリンの水性懸濁液を含む。更にまた、微粒子は好ましくは懸濁液へのインスリンの添加よりも前に結晶化された多孔性の微粒子であり、これにより、インスリンは微粒子の表面に接触および/または微粒子細孔内に位置するようになる。
【0069】
結晶化微粒子は好ましくは、複数の水素結合、ファンデルワールス力および/またはイオン結合により相互保持され、デキストラン分子間に実質的に共有結合を有さないデキストラン分子(即ち重合体分子)からなる。即ち、微粒子内の分子は好ましくは相互に架橋しておらず(即ち架橋工程が行われない)、微粒子は分子間に共有結合を有さないか、または、分子間に10%未満の共有結合を有する。
【0070】
インスリンおよび微粒子を含む1相組成物54を図19に示すが、上記し、図13、14、15A、15Bおよび16Bに示した2相組成物も使用してよい。例えばデキストラン相、PEG相、結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含む2相組成物も使用してよい。インビボでは組成物は結晶化デキストラン微粒子含有の壁部またはシェル、および、PEGおよびインスリンを含有するコアを含む自己集合カプセル構造を有する。
【0071】
好ましくはインスリンの経口投与を受ける哺乳類は血中グルコース低下の必要なヒト、例えば糖尿病患者を含む。即ち、本発明の好ましい実施形態は上記したインスリンおよび結晶化デキストラン微粒子の懸濁液を経口投与することによる糖尿病の治療の必要なヒトにおける該治療の方法を提供する。
【0072】
いずれかの治療有効量のインスリンを哺乳類に投与してよい。インスリンの量は哺乳類の種類(即ちヒトまたはウサギ)、哺乳類の体重、懸濁液の組成、所望の血中グルコース値低下量、および他の要因に基づいて変動する。懸濁液中のインスリン含量の1つの非限定的な例は懸濁液グラム当たりヒト組み換えインスリン約10UI〜約2,500UI、例えばヒト組み換えインスリン約12UI〜約30UI、例えば24UIである。しかしながらこの量は所望により変動してよい。
【0073】
本発明は上記した好ましい実施形態に限定されるわけではない。他のマトリックス材料、例えば有機または無機の多孔性粒子を経口インスリン送達のために使用してよい。好ましくは、粒子は胃腸粘膜を通過するインスリンの浸透の増強および/または組成物の安定化が行える微粒子である。更にまた、懸濁液は好ましくは水溶媒;マトリックスおよびインスリンの溶液または懸濁液のみを含有するが;送達系はまた別の物質も含有してよい。例えば組成物は2相系のPEG相のような第2の相を含有してよい。即ち、本発明の別の好ましい態様は、哺乳類における血中グルコースを低下させる方法であって、哺乳類への懸濁液の投与後60分に少なくとも30%哺乳類の血中グルコースを低下させるように哺乳類にインスリンの治療有効量およびマトリックスを含む組成物を経口投与するステップを含む、方法を含む。本発明の別の好ましい態様において、哺乳類への懸濁液の投与方法は結晶化デキストラン微粒子および治療有効量のインスリンの水性懸濁液を哺乳類に経口投与することを含む。
【0074】
上記した通り、インスリンまたは他のタンパク質系の薬剤の経口投与のためのマトリックス材料として使用される結晶化デキストラン微粒子はいずれかの適当な方法で製造してよい(例えば図1参照)。好ましくは、微粒子は本明細書に記載の好ましい実施形態のいずれかの方法により製造する。必須ではないが、好ましくは、微粒子は有機溶媒を使用することなく水溶液中に形成する。即ち、本発明の好ましい態様において、インスリン治療有効量および結晶化デキストラン微粒子は、微粒子が結晶化した後に水中であわせ、これによりインスリンと結晶化デキストラン微粒子の水性懸濁液を形成する。微粒子は水にインスリンの添加の前、同時、および/または後に添加してよい。更にまた、微粒子はそれらを形成した溶媒中で哺乳類に経口投与してよい。あるいは、それらはそれらを形成した溶媒から取り出し、水または経口投与用の別の水溶液中に入れるか、乾燥して経口投与用の錠剤またはカプセルのような固体形態で提供される。
【0075】
結晶化デキストラン微粒子および治療有効量のインスリンの水性懸濁液(またはインスリンおよびマトリックス材料の他の適当な懸濁液、例えばインスリンと多孔性微粒子の懸濁液)は好ましくはヒトへの経口投与のために用量設定される用量設定医薬組成物として提供される。本発明の1つの好ましい態様において、組成物はヒトへの単回経口投与のために用量設定された量において容器内に入れられる。容器は懸濁液を保持できる何れかの容器、例えばプラスチックまたはガラスのビン、試験管、滴下器、噴霧ノズル、パウチおよび/または他の適当な容器を含んでよい。この容器は組成物の単回経口用量に十分な懸濁液の量を含有する。
【0076】
本発明の別の好ましい態様において、組成物は複数回の経口投与の用量に適する量で何れかの適当な容器に入れられる。この容器はヒトへの経口投与の用量に関わる使用上の注意を含む。使用上の注意は容器に印刷、例えば容器に直接または容器のラベルに印刷されるか、または容器と同梱、例えばダンボール容器中または薬品用封筒中に容器と共に封入された用紙に印刷されたものであってよい。使用上の注意は各用量設定で服用すべき組成物の量、用量設定の頻度、経口投与のための組成物の用量の計量方法、および/または、担当の健康管理者および/または薬剤を必要とする患者のための他の適当な経口薬剤の使用上の注意を記載したものである。あるいは、使用上の注意は、使用上の注意を示したウェブサイトへのリンク、電話番号または使用上の注意を聴覚的に提供する録音物のような、用量設定および投与の使用上の注意を電子的または聴覚的に入手するための指示書を含んでよい。
【0077】
本発明の別の好ましい態様において、容器内に入れられた結晶化デキストラン微粒子および治療有効量のインスリンの水性懸濁液はこれを必要とするヒトへの組成物の経口投与に関する使用上の注意と共に医薬組成物キットにおいて提供される。キットは容器または容器のラベル上、または、ダンボール箱または薬品用封筒のような容器と共に封入された用紙に印刷された使用上の注意を含んでいてよく、例えばビン(即ち容器)および使用上の注意の用紙であってよい。
【0078】
経口投与のための組成物は水性懸濁液の形態であってよいが、他の送達形態も哺乳類の血中グルコースを低下させるために使用してよいことに留意しなければならない。例えば多孔性結晶化デキストラン微粒子およびインスリンは錠剤またはカプセルの形態で経口投与してよい。
【0079】
ヒトのような哺乳類に固体形態の組成物を経口投与するためには、結晶化デキストラン微粒子およびインスリンの溶液をまず乾燥、例えば凍結乾燥して粉末とする。次に粉末を任意の薬学的に許容される賦形剤と共に圧縮成型して錠剤とするか、または、薬学的に許容されるカプセルに充填してよい。
【0080】
本発明の別の好ましい態様では、結晶化デキストラン微粒子および治療有効量のインスリンを含む組成物を、吸入によってヒトなどの哺乳動物に投与することができる。この場合、組成物を、圧迫または加圧した場合に定量の組成物を提供する吸入器などの、吸入による哺乳動物への薬学的組成物の投与に適合させた容器に入れる。好ましくは、吸入器からの溶液または懸濁液形態の組成物の噴霧によって口腔を介して組成物を哺乳動物に提供する。好ましくは、組成物を哺乳動物の肺に送達させる(すなわち、肺送達)。
【0081】
[G.注射用インスリン送達溶剤]
本発明はラットおよびウサギのような哺乳類に注射された結晶化デキストラン微粒子およびインスリンの組成物が意外にも同じインスリン単独の同じ用量の注射と比較してインスリンの薬効の持続時間が延長されていることを発見した。図20はシリンジ56を用いた微粒子12、14およびインスリン46を含む1相組成物の注射による哺乳類53におけるインプラント40の形成を模式的に示している。図21は選択的に分配される結晶化デキストラン微粒子12、14を含有するデキストラン相18、およびインスリンを含む選択的に分配される治療薬10を含有するPEG相16を含む2相組成物の注射による哺乳類53における構造化インプラント40の形成を模式的に示している。デキストラン相18はPEG相16のコアの周囲にシェルを形成する。ラットおよびウサギは薬剤試験におけるヒトの一般的なモデルであるため、本発明者らは結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含む組成物がヒトの成人および小児に注射された場合にインスリンの薬効の持続時間の延長においてやはり効果的であると考える。
【0082】
例15〜22は注射されたインスリン単独と比較した場合の注射用インスリン送達溶剤として結晶化デキストラン微粒子を使用することの利点を説明している。実験ではマウスを用いて、結晶化デキストラン微粒子およびヒト組み換えインスリン(NovoNordisk Actrapid HM Penfill(商標)、40UI/ml)からなる皮下注射された水性懸濁液へのその応答を観察した。
【0083】
懸濁液は以下の通り調製した。デキストランT10(Pharmacia,Uppsala,Sweden)5.0gを水20.0gに溶解した。溶液を0.22μmフィルター(Millipore,Bedford,MA)を通して濾過し、凍結乾燥した。得られた粉末3.0gを滅菌水3.0gに溶解し、60℃の温度の箱内に入れた。6時間後、結晶化デキストラン微粒子を滅菌水3×5.0mlを用いた3,000gの遠心分離により洗浄した。最後に、生成した結晶化デキストラン微粒子の懸濁液をインスリン水溶液と混合し、マウスを用いた実験において使用した。懸濁液の試料をマウスの脚部に導入し、動物の血液の試料を各マウスの尾部より採取し、グルコース濃度を調べた。血中グルコースは適切な検定の後、One-touchシステムグルコースアナライザー(Lifescan,Johnson&Johnson,Milpitas,CA,USA)上でグルコースオキシダーゼ法を用いて測定した。
【0084】
比較例15において、インスリンはマウスに注射しなかった。比較例16、17および21においては、インスリン単独(0.5UI)をマウス3匹に注射した。実施例18〜20および22においては、インスリン(0.5UI)および結晶化デキストラン微粒子インプラントをマウス4匹に注射した。結果を表VIに示す。
【0085】
【表6】

【0086】
動物の血中の糖(即ち血中グルコース)の平均の低下は、結晶化デキストラン微粒子の存在下および非存在下で0.5UI i.m.を投与した場合において極めて異なっている。表VIに示す通り、比較例16、17および21のマウスにおけるグルコース値は注射後最初の45分の間は実施例18〜20および22のマウスのグルコース値と概ね同等以下である。比較例16、17および21および実施例18〜20および22の両方のマウスにおいて注射後120分のグルコース値はほぼ同様であった。しかしながら比較例16、17および21のマウスのグルコース値は注射後210〜390分では実施例18〜20および22のマウスのグルコース値より約3倍高値である。実際、実施例4〜6および8における血中グルコース値は注射後120分〜390分では実質的に上昇していなかった(即ち、10%より大きく増大しないか、同様のままであるか、または、減少していた)。一方、同じ量のインスリンを注射された比較例16、17および21のマウスの血中グルコース値は注射後120〜390分かなり上昇していた。結晶化デキストラン微粒子/インスリンの注射は同じ用量のインスリン単独の注射よりも長時間にわたり血中グルコースを低下させている。即ち、結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含有する組成物を注射用に用量設定してよい。
【0087】
ウサギにおける以下の実験もまた、どのように結晶化デキストラン微粒子/インスリンの注射が血中グルコースを低下させ、同じ用量の同じインスリン単独の注射よりも長時間にわたり血中インスリンの基礎水準を維持するかを示している。Actrapid HM(商標)短時間作用性インスリンおよび結晶化デキストラン微粒子を含む皮下注射組成物は意外にも、この短時間作用性のインスリンの薬効の持続時間を、皮下注射長時間作用性インスリンMonotard HM(商標)単独の場合を超えるほど延長した。
【0088】
薬効の持続時間という用語は、食餌摂取のような血中グルコースの急上昇をもたらす外的事象とは独立して、血中グルコース濃度を低下させること、および/または、所望の濃度に血中インスリン濃度の基礎水準を維持することを意味する。即ち、薬効の持続時間という用語はインスリンおよび微粒子の組成物の薬効を同じ用量の同じインスリン単独のものと比較する相対的な用語である。換言すれば、薬効の持続時間とは、インスリンおよび微粒子の組成物の薬効を同じインスリン単独の同じ用量のものと比較するための、絶食状態の患者において測定した活性の持続時間または薬理学的作用の持続時間である。
【0089】
図22Aおよび22Bに示す通り、Actrapid HM(商標)短時間作用性インスリンおよび結晶化デキストラン微粒子を含む組成物はインスリンの吸収を長期化し、そして血糖降下作用(即ちインスリンの薬効の持続時間)を、Actrapid HM(商標)インスリン単独の約2〜約8時間(図22B)および長時間作用性Monotard HM(商標)インスリン単独の約17〜約24時間(図22A)と比較して少なくとも24時間、例えば約28時間〜約31時間延長した。Actrapid HM(商標)およびMonotard HM(商標)インスリンは共にNovo Nordiskの製品であり、会社の情報から得たヒトにおけるこれらのインスリン組成物の薬効の宣伝上の持続時間はそれぞれ8および24時間とされている。
【0090】
図22Aおよび22Bにおいて上側の線はインスリンを投与していない未処理ウサギの対照例の線である。図22Aおよび22Bのy軸はインスリンの同じ8UI用量に対して血中グルコース濃度を相対的に規格化した尺度である。図中のデータは各数値につき1プロットとなるように調節して示してあり、インスリン注射後の動物の血液中の血中グルコース値を示している。
【0091】
s 図22Aおよび22Bに示すデータは以下に記載する通りにして得た。チンチラウサギ(2.3±0.3kg)の結晶化デキストラン微粒子および短時間作用性インスリンActrapid HM(商標)からなる製剤の注射に対する応答をモニタリングした。製剤の試料をウサギに皮下注射した。長時間作用性インスリンMonotard HM(商標)(40UI/ml)および短時間作用性インスリンActrapid HM(商標)を微粒子を用いることなく別のウサギに皮下注射し、対照として使用した。動物の血液の試料をウサギの耳介静脈から採取し、グルコース濃度を調べた。血中グルコース濃度は適切な検定の後にグルコースアナライザー(One-Touch(商標)Lifescan,Johnson&Johnson,Milpitas,CA,USA)を用いて測定した。
【0092】
比較例23および24において、2匹の未処理のウサギにはインスリンをどれも与えなかった。比較例25および26においては、長時間作用性インスリンMonotard HM(商標)の水溶液を8UIの用量で二匹のウサギに皮下投与した。実施例27〜29において、短時間作用性インスリンActrapid HM(商標)と共に結晶化デキストラン微粒子の懸濁液を8UIの用量で3匹のウサギに皮下投与した。実験の結果を表VIIに示す。
【0093】
【表7】

【0094】
上記した実施例27〜29によれば、短時間作用性インスリンActrapid HM(商標)との結晶化デキストラン微粒子の組成物は長時間作用性インスリンMonotard HM(商標)の作用を超過する長時間化した作用をもたらし、Aventisの長時間作用性(1日1回投与)のインスリングラルジンLantus(商標)(www.aventis-us.com/Pls/lantus#TXT.html参照)の作用に匹敵するものと考えられた。更にまた、Lantus(商標)インスリンは希釈したり他のインスリンまたは溶液と混合してはならない。Lantus(商標)インスリンを希釈または混合した場合、Lantus(商標)および/または混合インスリンの薬物動態/薬力学的特徴(例えば作用の開始、最大作用までに要する時間)は予測できない様式で変化する。一方、結晶化デキストラン微粒子とインスリンの組成物は何れの適当なインスリン、例えばヒトインスリンを使用してよいため、そのような制約を受けない。結晶化デキストラン微粒子とインスリンの組成物において、インスリンと微粒子の比は所望により変化させることができる。更にまた、個々の患者に対してインスリン療法を個別適応させるために如何なる適当なインスリンも使用してよい。即ち、Actrapid HM(商標)は典型的なインスリンの代表例として組成物中に使用したが、組成物はこの商品名のインスリンに限定されない。
【0095】
例23〜29に示す通り、結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含有する組成物は微粒子を使用しない同じインスリンの同じ用量よりも、少なくとも30%長時間、例えば少なくとも100%長時間、好ましくは100〜400%長時間、インスリンの薬効の持続時間を維持する点において効果的である。微粒子含有インスリン組成物は微粒子を使用しない同じインスリンの同じ用量よりも少なくとも30%長時間、例えば100%〜400%長時間、所望の基礎水準の血中インスリンおよび血中グルコース濃度を維持する点において効果的である。即ち、微粒子含有組成物の薬効の持続時間は少なくとも24時間であり、これによりそれを必要とするヒトのような動物に1日1回の注射するのみとなる。
【0096】
長時間作用性のインスリン結晶化デキストラン微粒子組成物は、それが従来技術の組成物ほど高用量のインスリンを使用することなく長時間の薬効を達成できるため、従来の長時間作用性のインスリン組成物よりも安全である。例えば、短時間作用性のインスリンの8UIの用量が過剰用量の顕著な危険性を伴うことなくある患者に対して医学的に安全であると判断されている場合、同じ短時間作用性のインスリンと結晶化デキストラン微粒子を含む組成物は、全てのインスリンが一度に患者内に放出されるとしても、過剰用量の顕著な危険性を伴うことなく短時間作用性のインスリンの同じ8UIの溶液で、より長時間にわたり薬効が持続する。更にまたこの組成物は、インスリンの量を増大させることなく薬効を延長する為、従来技術の組成物と比較して経費を節約できる。現在存在する従来品としての長時間作用性の糖尿病療法剤はインスリンの類縁体、例えばAventisのLantus(商標)インスリンを用いて製造されている。一方、結晶化デキストラン微粒子含有組成物は好ましくは安全性の特徴が確立されているヒト組み換えインスリンを含有する。即ち、この組成物は糖尿病患者に対する副作用の危険性と注射回数を低減し、これにより糖尿病患者のクオリティーオブライフを向上させるのである。
【0097】
注射用組成物はインスリンと微粒子を含む1相系、または、より長時間持続する薬効のための、PEGとインスリンのコアおよびデキストランとデキストラン微粒子のシェルを形成する2相系を含んでよい。更にまた、組成物は比較的容易に哺乳類に注射される流動性1相または多相のコロイド状の系(即ち懸濁液またはエマルジョン)を包含する。
【0098】
以下の実施例はデキストラン相、PEG相、インスリンおよび結晶化デキストラン微粒子を含む注射用2相組成物の使用を説明するものである。哺乳類に注射された場合に、この組成物は3次元のカプセル構造を有する構造化リザーバ型インプラントを形成すると考えられる。カプセル構造においては、微粒子は選択的にデキストラン相に分配され、そしてインスリンは選択的にPEG相に分配される。微粒子を含有するデキストラン相はインスリンを含有するPEG相を含むコアの周囲にシェルを形成する。この構造化インプラントによりシェルを通過するコアからの制御された放出が可能となるのである。
【0099】
比較例30においては、Actrapid HM(商標)インスリン(100IU/ml)0.5UIをマウスに皮下注射する。実施例31においては、結晶化デキストラン微粒子0.4gを分子量70kDaを有するデキストラン(Pharmacia,Sweden)の20%(w/w)水溶液0.6ml中に分散させて懸濁液を形成する。分子量6kDaを有するPEG(Fluka)10mgをActrapid HM(商標)インスリン(100UI/ml)0.1mlに溶解して溶液を形成する。PEGとインスリンの溶液0.05mlを微粒子とデキストランの懸濁液0.15mlと混合して2相の組成物または混合物を形成する。インスリン0.5UIを含有する2相混合物0.02mlをマウスに皮下注射する。結果を表VIIIに示す。
【0100】
【表8】

【0101】
表VIIIから明らかな通り、2相組成物の薬効持続時間はインスリン単独より長時間であった。更にまた、2相組成物はインスリン単独よりもより緩徐に血中グルコース濃度を低下させた。特定の理論に制約されないが、これらの作用はカプセル構造のコアからの制御されたインスリンの放出によるものと考えられる。
【0102】
更にまた、微粒子含有組成物は、インスリンおよび/または微粒子の量を調節することにより各患者に対して個別に適合させることができ、これにより、患者は組成物を毎日同じ時間に注射できるようになる(即ち24時間に1回、48時間に1回等)。即ち、組成物の薬効の持続時間は各患者に対して調節可能となる。2相系においては、カプセルのコアからのインスリン放出の特徴は微粒子の量を制御してカプセルのシェルの厚みを制御することにより調節することができる。
【0103】
本発明者は特定の理論に制約されないが、結晶化デキストラン微粒子を用いた場合のマウスおよびウサギにおけるインスリンの同じ用量の長時間持続する作用は結晶化デキストラン微粒子系インプラントからのインスリン分子の拡散(即ちインスリンの自己制御放出)により説明できると考えられる。マウスおよびウサギは薬剤試験におけるヒトの一般的なモデルであるため、上記表VI〜VIIIに示したデータは、結晶化デキストラン微粒子系のインプラントの使用により、進歩した薬物動態および力学的な特性を有する制御放出送達系を開発することが可能となること、および、ヒトのような基礎インスリン患者の必要性をより満足できることを示唆している。
【0104】
[H.材料]
「インスリン」という用語はインスリン類縁体、天然抽出ヒトインスリン、組み換え製造ヒトインスリン、ウシおよび/またはブタの原料から抽出されたインスリン、組み換え製造されたブタまたはウシのインスリン、および、これらのインスリン製品の何れかの混合物を包含するものと解釈する。用語は実質的に精製された形態で糖尿病の治療に通常使用されているポリペプチドを包含するが、別の賦形剤を含むその市販の医薬品形態の使用も包含する。インスリンは好ましくは組み換え製造され、脱水(完全乾燥)されるか、または溶液中のものとする。
【0105】
「インスリン類縁体」、「単量体インスリン」等という用語は、本明細書においては互換的に使用され、上記した「インスリン」の何れかの形態であって、ポリペプチド鎖内のアミノ酸1つ以上は別のアミノ酸と置き換えられている場合、および/または、アミノ酸1つ以上が欠失している場合または別のアミノ酸1つ以上がポリペプチド鎖またはアミノ酸配列に付加されており、血中グルコース濃度の低下においてインスリンのように機能するものを包含するものと意図される。一般的に本発明の好ましい実施形態の「インスリン類縁体」という用語は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,547,929号に開示されている「インスリンリスプロ類縁体」;LysProインスリンおよびヒューマログインスリンを含むインスリン類縁体、および、従来のインスリンと比較して血清グルコース濃度に影響するインスリン類縁体の能力が実質的に増強されている他の「スーパーインスリン類縁体」、並びに、脂肪組織よりも肝臓においてより活性の高い肝選択性インスリン類縁体を包含する。好ましい類縁体は単量体のインスリン類縁体であり、これはインスリンと同じ一般的目的のために使用されるインスリン様化合物、例えばインスリンリスプロ、即ち血中グルコース濃度を低下させるために投与される化合物である。
【0106】
「類縁体」という用語はそれが同等とみなされる分子と共通の機能的活性を共有しており、典型的には共通の構造的特徴も共有する分子を指す。
【0107】
「組み換え」という用語は原核細胞において発現されるクローニングされた治療薬または遺伝子工学により作成された分子の何れかの型、または、分子のコンビナトリアルライブラリであって更に操作して別の状態とすることにより第2のコンビナトリアルライブラリを形成するもの、特に、治療薬の生理化学的、薬理学的および臨床的な安全性を増強する保護基を含む分子を指す。
【0108】
さらに、本明細書中に記載の治療薬はインスリンに限定されない。経口送達、吸入送達、注射送達、および外科的インプラント送達のための微粒子と組み合わせた任意の他の適切な治療薬を使用することができる。
【0109】
例えば、適切な治療薬は、分子サイズが0.5Kダルトン〜150Kダルトンの範囲のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を含み得る。特に、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質治療薬には、上記インスリンおよびインスリンアナログ;アミリン;グルカゴン;界面活性剤;サイトカイン、ケモカイン、リンホカインなどの免疫調節ペプチドおよびタンパク質;タキソール;インターロイキン−1、インターロイキン−2、およびインターフェロンなどのインターロイキン;エリスロポエチン;血栓溶解剤およびヘパリン;抗プロテアーゼ、抗トリプシン、およびアミロリド;rhDNアーゼ;抗生物質および他の抗感染薬;副甲状腺ホルモン、LH−RH、およびGnRHアナログなどのホルモンおよび成長因子;核酸;DDAVP;カルシトニン;シクロスポリン;リバビリン;酵素;ヘパリン;造血因子;シクロスポリン;ワクチン;免疫グロブリン;血管作用性ペプチド;アンチセンス薬;オリゴヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログなどの糖尿病助剤(aids)が含まれる。他の適切な治療薬には、ウイルス、細胞、遺伝子、ならびに他の適切なワクチンおよび分子治療薬などの治療特性を有する他の因子が含まれる。
【0110】
用語「アミリン」には、天然のヒトアミリン、ウシ、ブタ、ラット、ウサギアミリン、ならびに合成、半合成、または組換えアミリンまたはアミリンアナログ(プラムリンチドが含まれる)、および他のアミリンアナログが含まれる。
【0111】
用語「免疫調節タンパク質」には、サイトカイン、ケモカイン、リンホカインの補体成分、成長ホルモン、免疫系の補助分子および接着分子、ならびヒトまたは非ヒト動物特異性のその受容体が含まれる。有用な例には、GM−CSF、G−CSF、IL−2、IL−12、OX40、OX40L(gp34)、リンホタクチン、CD40、CD40Lが含まれる。有用な例には、インターロイキン(例えば、インターロイキン1〜15);インターフェロンα、β、またはγ;腫瘍壊死因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、好中球活性化タンパク質(NAP)などのケモカイン;マクロファージ化学誘因物質および活性化因子(MCAF)、RANTES、マクロファージ炎症ペプチドMIP−1aおよびMIP−1b、補体成分およびその受容体または補助分子(B7.1、B7.2、ICAM−1、2、または3、並びにサイトカイン受容体)が含まれる。OX40およびOPX40−リガンド(gp34)は、免疫調節タンパク質のさらに有用な例である。免疫調節タンパク質は、種々の目的のためのヒトまたは非ヒト動物特異性を有するものであり、本目的のために、場合および都合によっては天然のタンパク質およびそのムテインならびに他のポリペプチド配列(例えば、免疫グロブリン重鎖定量ドメイン)とのその融合タンパク質の結合活性を有する細胞外ドメインおよび他のフラグメントを代表とすることができる。1つを超える免疫調節タンパク質をエンコードするヌクレオチド配列を挿入する場合、例えば、これらは、1つを超えるサイトカインまたはサイトカインの組み合わせおよび補助分子/接着分子を含み得る。
【0112】
本明細書中で使用される、用語「インターフェロン」または「IFN」は、ウイルスの複製および細胞増殖を阻害して免疫応答を調整する高相同性種特異的タンパク質ファミリーを意味する。インターフェロンは、その細胞起源および抗原性に基づいて3つのクラス(すなわち、α−インターフェロン(白血球)、β−インターフェロン(線維芽細胞)、およびγ−インターフェロン(免疫担当細胞))に分類される。各群の組換え形態およびアナログが開発され、市販されている。各群のサブタイプは、抗原性/構造の特徴に基づく。異なるアミノ酸配列を有する少なくとも24個のインターフェロンα(サブタイプA〜Hに分類される)がこれらのペプチドをエンコードするDNAの単離および配列決定によって同定されている。用語「α−インターフェロン」、「αインターフェロン」、「インターフェロンα」、「ヒト白血球インターフェロン」および「IFN」を、この群のメンバーを説明するために本明細書中で交換可能に使用する。この様式で調製されたヒト白血球インターフェロンは、異なるアミノ酸配列を有するヒト白血球インターフェロンの混合物を含む。
【0113】
用語「エリスロポエチン」を、天然に存在するエリスロポエチンの一次構造の一部または全部(すなわち、アミノ酸残基の連続的な配列)ならびに1つまたは複数の生物学的性質(例えば、免疫学的性質ならびにインビボおよびインビトロ生物活性)を有する合成、半合成、組換え、天然、ヒト、サル、もしくは他の動物または微生物学的に単離されたポリペプチド生成物(その対立遺伝子変異型が含まれる)に適用する。これらのポリペプチドは、ゲノムもしくはcDNAクローニングまたは遺伝子合成によって得られた外因性DNA配列の原核生物もしくは真核生物宿主発現産物とすること(例えば、培養における細菌、酵母、および哺乳動物細胞)によって独特に特徴づけられる。脊椎動物(哺乳動物および鳥類)細胞における微生物の発現産物は、その天然の哺乳動物細胞環境下または血漿もしくは尿などの細胞外流動物においてエリスロポエチンと会合する可能性のあるヒトタンパク質もしくは他の夾雑物と会合していないという点でさらに特徴づけることができる。典型的な酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシエ)または原核生物(例えば、E.コリ)宿主細胞の産物は、いかなる哺乳動物タンパク質とも会合しない。使用した宿主に依存して、本発明のポリペプチドを、哺乳動物または他の真核生物の炭水化物でグリコシル化してもグリコシル化していなくても良い。ポリペプチドには、最初のメチオニンアミノ酸残基(−1位)も含まれ得る。本発明の新規の糖タンパク質産物には、天然に存在する(例えば、ヒト)エリスロポエチンと1つまたは複数のその生物学的性質を有するのに十分に重複する一次構造を有し、且つ天然に存在する(例えば、ヒト)エリスロポエチンと異なる平均炭水化物組成を有する糖タンパク質産物が含まれる。
【0114】
用語「ヘパリン」および「血栓溶解剤」には、ヘパリン、低分子量ヘパリン、組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)、ウロキナーゼ(アボキナーゼ)、および血餅制御に使用される他の因子などの抗凝固薬が含まれる。
【0115】
用語「抗プロテアーゼ」および「プロテアーゼインヒビター」は交換可能に使用され、受容体と反応するか、抗体、酵素、または核酸として作用する合成、半合成、組換え、天然または非天然に存在する、可溶性または固定作用因子に適用する。これらには、ヒト免疫応答を調整する受容体、細胞性免疫応答を調整する受容体(例えば、T細胞受容体)、および神経学的応答を調整する受容体(例えば、グルタミン酸受容体、グリシン受容体、γ−アミノ酪酸(GABA)受容体)が含まれる。これらには、サイトカイン受容体(関節炎、敗血症性ショック、インプラント拒絶反応、自己免疫疾患、および炎症性疾患に関与する)、細胞傷害性T細胞受容体および/またはTヘルパー細胞受容体への抗原提示に関連する主要組織適合(MHC)クラスIおよびII受容体(自己免疫疾患に関与する)、およびトロンビン受容体(凝固、心血管疾患に関与する)が含まれる。自己抗原を認識する抗体(自己免疫障害に関与する抗体など)ならびにウイルス(例えば、HIV、単純ヘルペスウイルス)および/または微生物抗原を認識する抗体も含まれる。
【0116】
用語「ホルモン」および「成長因子」には、天然、ヒト、ブタ、ウシ、ヒツジ、合成、半合成、または組換え供給源由来の成長ホルモン、甲状腺ホルモン、甲状腺放出ホルモン(TRH)、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)(ロイプロリド、デルチレリックス(deltirelix)、ゴソレリン(gosorelin)、ナファレリン、ダナゾールなどのスーパーアゴニストおよびアンタゴニストが含まれる)などのホルモン放出ホルモンが含まれる。これらには、オクトレオチド(Sandostatin)などのソマトスタチンアナログも含まれる。生物治療薬のこのカテゴリーの他の薬剤には、子宮収縮(例えば、オキシトシン)、利尿(例えば、バソプレシン)、好中球減少症(例えば、GCSF)用薬物、呼吸器障害(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ)、RDS(例えば、任意選択的にアポタンパク質が含まれるサーファクタント)用の薬物などが含まれる。
【0117】
用語「酵素」には、DNアーゼ(Genentech)、プロテアーゼ(例えば、トリプシンおよびトロンビンなどのセリンプロテアーゼ)、ポリメラーゼ(例えば、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ)、逆転写酵素、キナーゼ、関節炎、骨粗鬆症、炎症性疾患、糖尿病、アレルギー、移植臓器拒絶、癌遺伝子活性化(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素)、シグナル伝達、自己周期調節(self-cycle regulation)、転写、DNA複製および修復に関与する酵素などの組換えデオキシリボヌクレアーゼが含まれる。
【0118】
用語「核酸」には、天然もしくは非天然に存在するヌクレオシドを含むDNAまたはRNAの任意のセグメントまたは相補的水素結合を介して他の核酸もしくはオリゴヌクレオチドと特異的に結合することができ、且つ非核酸リガンドとも結合することができるプロテイノイド薬が含まれる。
【0119】
用語「ワクチン」は、単離されているか、T細胞を活性化して選択抗原に対する多価細胞性免疫応答を生じることができる活性化樹状細胞などの抗原提示細胞を介して体液性および細胞性免疫応答を刺激するための治療組成物をいう。強力な抗原提示細胞は、インビトロでのポリペプチド複合体への細胞の曝露によって刺激される。ポリペプチド複合体は、樹状細胞結合タンパク質およびポリペプチド抗原を含み得るが、好ましくは、ポリペプチド抗原は、組織特異的腫瘍抗原または癌遺伝子産物のいずれかである。しかし、ウイルス抗原などの他の抗原を、免疫刺激応答が得られるような組み合わせで使用することができることが認識される。別の好ましい実施形態では、免疫刺激ポリペプチド複合体の一部を形成する樹状細胞結合タンパク質は、GM−CSFである。さらに好ましい実施形態では、複合体の一部を形成するポリペプチド抗原は、腫瘍特異的抗原である前立腺酸性ホスファターゼである。さらに他の好ましい実施形態では、ポリペプチド抗原は、癌遺伝子産物ペプチド抗原の任意の1つのであり得る。ポリペプチド複合体はまた、樹状細胞結合タンパク質とポリペプチド抗原との間にリンカーペプチドを含み得る。ポリペプチド複合体は、ポリペプチド抗原と共有結合した樹状細胞結合タンパク質を含むことができ、このようなポリペプチド複合体は、好ましくは、樹状細胞結合タンパク質(好ましくは、GM−CSF)およびポリペプチド抗原から形成される。ポリペプチド抗原は、好ましくは、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)などの組織特異的腫瘍抗原またはHer2、p21RAS、およびp53などの癌遺伝子産物であるが、ウイルス抗原などの他の実施形態も本発明の範囲内である。
【0120】
用語「免疫グロブリン」は、1つまたは複数の遺伝子ベクターによってコードまたはエンコード(encoding)され、宿主防御細胞において核酸の種々の結合部分を抱合するか、ヒトもしくは動物被験体の治療を補助するための発現ベクターのカップリングなどの宿主防御機構に関与するポロペプチドオリゴヌクレオチドを含む。このポリペプチドクラスに含まれる薬物には、個別または互いに組み合わせたIgG、IgE、IgM、IgDが含まれる。
【0121】
他の適切な治療薬には、副腎皮質刺激ホルモン、上皮成長因子、血小板由来成長因子(PDGF)、プロラクチン、ルリベリン、黄体刺激ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニスト、LHRHアンタゴニスト、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、エンケファリン、エンドロフィン、アンギオテンシン、腫瘍壊死因子(TNF)、神経成長因子(NGF)、ヘパリナーゼ、骨形成タンパク質(BMP)、hANP、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、インターロイキン−11(IL−11)、VEG−F、組換えB型肝炎表面抗原(rHBsAg)、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、ならびにその合成アナログ、修飾物、および薬学的に活性なフラグメント、酵素、サイトカイン、抗体、およびワクチンが含まれる。
【0122】
デキストラン微粒子という用語は、未置換のデキストラン微粒子および置換されたデキストラン微粒子を包含する。例えば置換されたデキストラン微粒子は、デキストラン微粒子の結晶化を妨害しない程度にまで、例えば3.5%以下の分枝鎖程度にまで、適当な基、例えばメチル基で置換されたデキストランを包含する。平均の微粒子の直径は好ましくは約0.5〜5ミクロン、より好ましくは約1〜約2ミクロンである。
【0123】
更にまた、多孔性の非架橋デキストラン微粒子、例えば結晶化微粒子は治療薬と共に好ましく使用されるが、他の適当な有機または無機の微粒子、例えば、他の重合体微粒子、例えば多糖類、PLA、PLGA、PMMA、ポリイミド、ポリエステル、アクリレート、アクリルアミド、酢酸ビニルまたは他の重合体材料、生体物質粒子、例えばアルギネートおよび細胞、または無機の粒子、例えばシリカ、ガラスまたはリン酸カルシウムも代替として使用してよい。好ましくは微粒子は生態分解性である。好ましくは多孔性微粒子を用いる。最も好ましくは微粒子は細孔内に治療薬を含有し、細孔からの治療薬の時間指定放出をもたらすのに十分な多孔性を有する。換言すれば、治療薬は細孔から同時に1回で放出されるのではなく、長時間にわたり、例えば5分間以上、好ましくは30分間以上、最も好ましくは1時間以上、例えば数時間〜数日間、放出される。即ち、粒子の材料、孔径および細孔の容量を使用する治療薬の種類、送達に必要な治療薬の容量、治療薬の送達の持続時間、治療薬を送達する環境、および、他の要因に基づいて選択できる。
【0124】
即ち、本発明の好ましい態様において、治療薬は多孔性微粒子の細孔に少なくとも部分的に位置する。好ましくは、治療薬は微粒子内にカプセル化されているのではなく(即ち、微粒子はシェル内の治療薬コアを有するシェルとして作用するのではない)、微粒子の表面に結合していない。しかしながら、所望により、微粒子の細孔内に位置する以外に、治療薬の一部を微粒子のシェルにカプセル化および/または微粒子の表面に結合させてよい。細孔内に治療薬が位置することは治療薬の至適な時間指定の放出をもたらす。一方、微粒子の表面に結合した治療薬の放出は急速すぎる場合が多く、微粒子にカプセル化された治療薬の放出は十分早期に行われない場合が多く、微粒子のシェルが崩壊した時点で全て同時に放出される。2相系において、治療薬の少なくとも80%が好ましくは微粒子を含む壁部またはシェルにより包囲されたコア内に位置する。
【0125】
[I.製造方法]
微粒子は任意の適当な方法で形成することができる。好ましくは、微粒子は微粒子が形成された後に治療薬と組み合わせる。即ち、結晶化デキストラン微粒子のような微粒子を何れかの適当な方法で形成し、後に、治療薬および微粒子を何れかの適当な方法により合わせる。一方、一部の従来技術による方法においては、粒子の前駆物質と治療薬を溶液中に準備し、次に前駆物質、例えば単量体またはオリゴマー物質を結晶化または架橋することにより治療薬のコアを微粒子シェル内にカプセル化することにより、微粒子のシェル内に治療薬をカプセル化している。
【0126】
好ましくは、治療薬は微粒子が形成された後に多孔性の微粒子の細孔内に導入する。即ち、多孔性の微粒子をまず形成し、次に治療薬を微粒子含有溶液中に導入し、治療薬が微粒子の細孔内部に浸透できるようにする。当然ながら、この方法においては一部の治療薬は微粒子の表面に結合してもよい。
【0127】
即ち、非架橋多孔性結晶化デキストラン微粒子の製造方法は、デキストラン溶液、例えばデキストランの水溶液の調製、結晶化多孔性デキストラン微粒子を形成するための結晶化工程の実施、および、所望により、溶液からの結晶化多孔性デキストラン微粒子の単離を包含する。次に微粒子を含有する結晶化溶液中に治療薬を導入するか、または、単離された微粒子および治療薬を第2の溶液、例えば第2の水溶液内に導入することにより、微粒子の細孔内に治療薬を浸透させる。例えば、結晶化デキストラン微粒子を第1の低分子量デキストラン水溶液、例えば2〜20kDaのデキストラン溶液として形成してよい。次に微粒子を第1の溶液から取り出し、次に、より高い分子量のデキストランを有する第2のデキストラン水溶液、例えば40〜500kDaの溶液、例えば40〜75kDaの溶液内に入れる。第2の溶液は2相系の第1の系を含んでよく、これを次に、治療薬を含有するPEG相のような第2の相と組み合わせる。他の多孔性微粒子を用いて同様の方法を使用してよく、その場合、治療薬は、結晶化を含むがこれに限定されない何れかの適当な微粒子形成方法により多孔性微粒子が形成された後に微粒子の細孔に浸透させる。インスリン、微粒子および1つ以上の水相のような組成物の成分は、何れかの適当な順序で逐次的に、または同時に混合してよい。
【0128】
好ましくは微粒子は有機溶媒および微粒子内に有機残留物を残存させる有機反応促進剤を含有しない溶液から自己集合により形成される。即ち、例えば、デキストラン微粒子は好ましくはデキストラン水溶液から自己集合により形成される。しかしながら、所望により有機溶媒および/または有機反応促進剤もまた使用してよい。このような場合、有害な有機残留物を除去するために後の使用の前に微粒子を精製することができる。
【0129】
上記した通り、第1の相のコアおよび第2の相の壁部またはシェルを有するカプセル構造をインビボまたはインビトロで2相組成物から形成することができる。組成物は乾燥粉末であってよく、例えば凍結乾燥して粉末または多孔性ケーキとして保存してよい。組成物は、哺乳類に投与する準備ができた時点で、水和させ哺乳類に経口または注射にて投与する。
【0130】
好ましくは、微粒子および治療薬を含む組成物は、注射用に用量設定される場合に、流動性のコロイド系である。流動性コロイド系の例はエマルジョンおよび懸濁液を包含し、これらは、予定外の困難を伴うことなく一般的なゲージのシリンジまたは針を用いて哺乳類に注射することができる。一方、一部の従来技術の組成物はデキストランのヒドロゲル中、または、架橋デキストランマトリックス中に治療薬を含む。デキストランヒドロゲルおよび架橋デキストランマトリックスは、特殊な調製を行わない限り、流動性の組成物ではない。
【0131】
本発明の別の好ましい態様において、微粒子は哺乳類粘膜に接着性である微粒子を含む。好ましくは接着性微粒子は上記した多孔性の微粒子である。これにより更に治療薬の効果的な送達が向上する。
【0132】
本発明の別の好ましい態様において、微粒子は、治療薬の微粒子表面への接着を増強するため、および、治療薬の送達を至適化するために特に表面が修飾されている微粒子を含む。微粒子の表面は治療薬の接着を増大させる何れかの適当な修飾を含んでよい。
【0133】
上記した本発明の説明は例示および説明を目的としている。これは網羅的ではなく、また本発明を開示した厳密な形態に限定するものでもなく、改変および変更は上記の教示を鑑みて可能なものであり、あるいは、本発明の実施により獲得されるものである。図面および説明は本発明の原理およびその実際の応用を説明するために選択されている。本発明の範囲は添付する請求項およびその等価物により定義されるものである。
【0134】
本明細書において引用した全ての出版物および特許出願および特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】MW70.0kDaのデキストランの55.0%(W/W)水溶液中に自発的に形成された結晶化デキストラン微粒子の写真である。
【図2A】図1に示した結晶化デキストラン微粒子の断面の写真である。
【図2B】図2Aに示した微粒子の断面の写真である。微粒子の細孔構造が観察できる。
【図3】結晶化デキストラン微粒子の凝集体の写真である。
【図4】図3に示す結晶化デキストラン微粒子からなる皮下注射インプラントの写真である。
【図5】図3に示す結晶化デキストラン微粒子からなる筋肉内注射インプラントの写真である。
【図6】図6A、6B、および6Cは、結晶化デキストラン微粒子からなる注射インプラントを含むマウス筋肉の断面写真である(それぞれ、注射後1日目、4日目、および28日目)。
【図7】図7Aおよび7Bは、結晶化デキストラン微粒子からなる注射インプラントを含むマウス筋肉の断面写真である(それぞれ、注射後180日目)。
【図8】図8A、8B、8C、8D、8E、8F、および8Gは、結晶化デキストラン微粒子からなる注射インプラントを含むマウス皮膚の断面写真である(それぞれ、注射後1日目、4日目、28日目、180日目、180日目、1年目、および1年目)。
【図9】筋肉間注射後14日目のマウス筋肉組織に結晶化デキストラン微粒子を含むインプラントからの蛍光標識高分子の遅効性放出の写真である。
【図10】インプラントからのプラスミドDNA放出後のマウス筋肉組織中でのレポーター遺伝子発現の写真である。
【図11】図1に示す結晶化デキストラン微粒子を含むデキストラン水溶液(分子量500kDa)中にPEG水溶液のエマルジョンの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的流動性組成物であって、哺乳動物の体内または体表に供され、生分解性、生体適合性、三次元構造化物の形成に適合させた生分解性および生体適合性成分を含み、前記体内または体表に局所的または全身的な治療効果を得るための多相流動性コロイド系および治療薬を含む、組成物。
【請求項2】
哺乳動物の体内または体表に供するための薬学的組成物であって、
第1の相と、
第2の相と、
前記第1の相に優先的に分配されるように適合させた第1の分子または分子凝集体と、
前記第2の相に優先的に分配されるように適合させた第2の分子または分子凝集体と
を含み、
前記組成物が前記哺乳動物の体内に供された場合に、前記第2の分子または分子凝集体が、前記第1の分子または分子凝集体に隣接した壁を自己集合する、組成物。
【請求項3】
前記コロイド系が、微粒子を含む液体懸濁液またはエマルジョンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記第1の分子または分子凝集体が、治療薬を含み、
前記第2の分子または分子凝集体が、微粒子を含み、
前記壁が、治療薬含有コアの周辺に微粒子シェルを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記微粒子が多孔質微粒子であり、前記組成物が注射によって前記哺乳動物の体内に供される、請求項3また4に記載の組成物。
【請求項6】
前記多孔質微粒子がポリマー微粒子である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記多孔質微粒子が、0.5ミクロンから5.0ミクロンの平均直径を有する結晶化デキストラン微粒子である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、微粒子の混合物を含む液体二相系である、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記二相系が、インビボに供された場合にカプセル構造を形成し、前記カプセル構造が、第1の相のコアおよび前記コアの周囲の第2の相のシェルを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記治療薬が前記コアの液相に選択的に分配され、前記微粒子が前記シェルの液相に選択的に分配される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記治療薬が、ペプチド、タンパク質、核酸、ウイルス、細胞、およびそれらの組み合せからなる群から選択される、請求項8〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記コアが、PEG水相および選択的に分配されたインスリンを含み、前記シェルが、デキストラン水相および選択的に分配された結晶化デキストラン微粒子を含む、請求項9〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、流動性組成物、または水和によって流動性にさせることができる乾燥組成物を含み、
前記第1の分子または分子凝集体が、微粒子、高分子、細胞、リポソーム、DNA、プラスミド、およびタンパク質からなる群から選択され、
前記第2の分子または分子凝集体が、微粒子、高分子、細胞、リポソーム、DNA、プラスミド、およびタンパク質からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
インビボで生体適合性インプラントを形成する方法であって、
多相コロイド系および治療薬を含む薬学的流動性組成物を形成するステップと、
前記薬学的流動性組成物を哺乳動物の体内に注射するステップと、
前記哺乳動物の体内での自己集合によって生分解性および生体適合性の構造化インプラントを形成するステップと
を含む方法。
【請求項15】
哺乳動物の体内または体表に薬学的組成物を供する方法であって、
第1の相と、
第2の相と、
前記第1の相に優先的に分配されるように適合させた第1の分子または分子凝集体と、
前記第2の相に優先的に分配されるように適合させた第2の分子または分子凝集体と
を含む薬学的組成物を供するステップと;
前記薬学的組成物を前記哺乳動物の体内または体表に供するステップであって、前記組成物を前記哺乳動物の体内または体表に供した場合に、前記第2の分子または分子凝集体が、前記第1の分子または分子凝集体に隣接した壁を自己集合させるステップと
を含む方法。
【請求項16】
前記コロイド系が、微粒子を含む液体懸濁液またはエマルジョンである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の分子または分子凝集体が、治療薬を含み、
前記第2の分子または分子凝集体が、微粒子を含み、
前記壁が、治療薬含有コアの周辺に微粒子シェルを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記微粒子がポリマー微粒子であり、前記哺乳動物の身体がヒトまたは動物の身体を含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマー微粒子が多孔質微粒子である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質微粒子が、0.5ミクロンから5.0ミクロンの平均直径を有する結晶化デキストラン微粒子である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、微粒子を含む二相系である、請求項14〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記二相系が、インビボに供された場合にカプセル構造を形成し、前記カプセル構造が、第1の相のコアおよび前記コアの周囲の第2の相のシェルを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記治療薬が前記コアに選択的に分配され、前記微粒子が前記シェルに選択的に分配される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記治療薬が、ペプチド、タンパク質、核酸、ウイルス、および細胞からなる群から選択される、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記コアが、PEG水相および選択的に分配されたインスリンを含み、前記シェルが、デキストラン水相および選択的に分配された結晶化デキストラン微粒子を含む、請求項22〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が、流動性組成物、または哺乳動物体内へ供する前に水和によって流動性にさせることができる乾燥組成物を含み、
前記第1の分子または分子凝集体が、微粒子、高分子、細胞、リポソーム、DNA、プラスミド、およびタンパク質からなる群から選択され、
前記第2の分子または分子凝集体が、微粒子、高分子、細胞、リポソーム、DNA、プラスミド、およびタンパク質からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
流動物中に生体適合性および生分解性の微粒子ならびに標識のコロイド懸濁液またはエマルジョンを含む、流動性組成物。
【請求項28】
前記微粒子が、結晶化デキストラン微粒子を含み、
前記標識が、哺乳動物の体内に存在する場合に前記組成物から制御可能に放出される蛍光高分子を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記コロイド懸濁液が、選択的に分配された標識を含む第1の相のシェル、および選択に分配された微粒子を含む第2の相のコアを有するカプセルを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
インビボで生体適合性インプラントを形成する方法であって、
流動物中に生体適合性および生分解性の微粒子ならびに標識のコロイド懸濁液またはエマルジョンを含む組成物を供するステップと、
前記薬学的組成物を哺乳動物の体内に導入するステップと
を含む方法。
【請求項31】
前記微粒子が、結晶化デキストラン微粒子を含み、
前記結晶化デキストラン微粒子が、哺乳動物の身体に生体適合性であり、且つ前記哺乳動物の体内で生分解性であり、
前記標識が、蛍光高分子を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記懸濁液が前記哺乳動物の体内に導入された場合、前記コロイド懸濁液が、選択的に分配された標識を含む第1の相のコアおよび選択的に分配された微粒子を含む第2の相のシェルを有するカプセルに自己集合する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
結晶化デキストラン微粒子カプセル中に封入されている、またはその外面に接触した細胞を、治療を必要とする哺乳動物の体内に供するステップを含む、細胞治療方法。
【請求項34】
前記細胞が前記カプセルのコアを含み、前記微粒子が前記コアを封入したシェルを含むように、前記細胞がカプセル中に封入され、
前記シェルが、酸素および栄養素に対して多孔質であるが、免疫系細胞に対しては不浸透性である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞が、カプセルへの血中グルコース浸透に反応して、血中グルコースを低下させるために、インスリンを生成し、カプセルを介して哺乳動物の血液にインスリンを放出するインスリン産生細胞を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞が、前記組成物が投与される哺乳動物に由来しない細胞を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、カプセルの外面に接触し、
前記細胞が、前記組成物が投与される哺乳動物に由来する細胞を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
多孔質結晶化デキストラン微粒子を含む、骨インプラント代替物。
【請求項39】
身体の特定部位における骨形成をもたらす、微粒子の孔に存在する治療薬をさらに含む、請求項38に記載の骨インプラント代替物。
【請求項40】
骨インプラント代替物の形成方法であって、哺乳動物体内の骨インプラント部位に多孔質結晶化デキストラン微粒子を供するステップと、前多孔質結晶化デキストラン微粒子を含む骨インプラント代替物を形成するステップとを含む方法。
【請求項41】
第1の液相中に多孔質結晶化デキストラン微粒子の懸濁液を調製するステップと、
前記第1の液相に対して不混和性である第2の液相中に第2の微粒子の懸濁液を調製するステップと、
前記第2の液相が連続相であり、前記第1の液相が分散相であるエマルジョンを調製するステップと、
前記エマルジョンを哺乳動物の体内に注射するステップと
を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記第2の微粒子がセラミック微粒子を含み、
身体の特定の部位で骨形成をもたらす治療薬が、多孔質結晶化デキストラン微粒子の孔中に存在する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
結晶化デキストラン微粒子を供するステップと、
前記微粒子が結晶化された後に、溶液中で治療有効量のインスリンと結晶化デキストラン微粒子とを組み合わせて、インスリンと結晶化デキストラン微粒子との懸濁液を形成するステップと
を含む、方法。
【請求項44】
前記懸濁液を哺乳動物に投与するステップをさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記結晶化デキストラン微粒子が、0.5ミクロン〜5ミクロンの平均直径を有する微粒子を含み、
前記微粒子を供するステップが、非有機溶媒中で前記微粒子を形成するステップを含み、
前記溶液が水溶液を含み、
前記哺乳動物がヒトを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記懸濁液を乾燥させ、前記結晶化デキストラン微粒子および前記インスリンを含む組成物を供するステップをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
非架橋結晶化多孔質デキストラン微粒子の製造方法であって、
(a)有機溶媒を含まないデキストラン溶液を調製するステップと、
(b)室温を超える温度で結晶化プロセスを実施して、デキストラン微粒子を形成するステップと、
(c)前記溶液から非架橋結晶化多孔質結晶化デキストラン微粒子を単離するステップと
を含む方法。
【請求項48】
前記デキストラン溶液が、2〜200kDaの分子量を有するデキストランを含み、
前記結晶化プロセスが、40〜99℃の温度で実施される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記微粒子が溶液から自発的に形成され、
前記デキストラン溶液が、20〜75kDaの分子量を有するデキストランを含み、
前記結晶化プロセスが、40〜70℃の温度で実施される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記微粒子をインスリンと組合わせるステップをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
微粒子孔中に治療薬を含む多孔質結晶化デキストラン微粒子の作製方法であって、
形成された多孔質結晶化デキストラン微粒子を含む懸濁液を供するステップと、
治療薬が前記多孔質微粒子の孔に浸透するように懸濁液中に治療薬を供するステップと
を含む方法。
【請求項52】
前記懸濁液を提供するステップが、
デキストラン水溶液を調製するステップと、
結晶化プロセスを実施して、多孔質結晶化デキストラン微粒子を形成するステップと、
前記溶液から前記微粒子を単離するステップと、
前記治療薬を含むコロイド系に前記微粒子を供するステップと
を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記治療薬がインスリンを含み、
前記コロイド系が、インスリンおよび前記微粒子を含む懸濁液を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
組成物であって、
インスリンと、
多孔質結晶化デキストラン微粒子と
を含み、
前記微粒子が、前記インスリンと前記微粒子とを組み合わせる前に前記組成物中に形成される、組成物。
【請求項55】
前記組成物が、流動性コロイド組成物を含み、前記微粒子が、0.5〜5ミクロンの平均直径を有する微粒子を含む、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記インスリンが、前記結晶化デキストラン微粒子の孔中に存在するが、各微粒子の内部にカプセル化されていない、請求項54に記載の組成物。
【請求項57】
前記組成物が、哺乳動物の体内へ導入された場合に構造化インプラントを形成するように、前記インスリンが第1のポリマー相に選択的に分配され、前記微粒子が第2のポリマー相に選択的に分配される、請求項54に記載の組成物。
【請求項58】
インスリンと、
第1のポリマーと、
前記第1のポリマーに対して不混和性である第2のポリマーと、
微粒子と
を含む、組成物。
【請求項59】
前記組成物が、流動性コロイド組成物を含み、前記微粒子が、0.5〜5ミクロンの平均直径を有する結晶化デキストラン微粒子を含む、請求項58に記載の組成物。
【請求項60】
前記第1のポリマーがデキストランを含み、前記第2のポリマーがPEGを含む、請求項59に記載の組成物。
【請求項61】
前記組成物が、哺乳動物の体内へ導入された場合にPEG相のコアおよびデキストラン相のシェルを含む構造化インプラントを形成するように、前記インスリンがPEG相に選択的に分配され、前記微粒子がデキストラン相に選択的に分配される、請求項60に記載の組成物。
【請求項62】
哺乳動物の血中グルコースを低下させるであって、哺乳動物に治療有効量の結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含む組成物を供し、哺乳動物の血中グルコースを低下させるステップであって、前記微粒子が、前記インスリンと前記微粒子との組合わせ前に前記組成物中に形成される、ステップを含む方法。
【請求項63】
前記組成物が、流動性コロイド組成物を含み、前記微粒子が、0.5〜5ミクロンの平均直径を有する結晶化デキストラン微粒子を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記組成物が、デキストラン相およびPEG相を含む二相組成物を含み、
前記インスリンが前記PEG相に選択的に分配され、前記微粒子が前記デキストラン相に選択的に分配され、
前記組成物が、哺乳動物体内へ導入された後に、PEG相のコアおよびデキストラン相のシェルを含む構造化インプラントを形成する、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記組成物を投与される前記哺乳動物の身体に基づいて前記シェルの厚さを制御し、前記インプラントからのインスリンの放出を制御するステップをさらに含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記組成物が、ヒトの血中グルコース濃度を低下させるために糖尿病を罹患したヒトに提供される、請求項62に記載の方法。
【請求項67】
一定用量の薬学的組成物の吸入による哺乳動物への投与に適合させた容器と、
前記容器中に存在する結晶化デキストラン微粒子および治療有効量のインスリンを含む薬学的組成物と
を含む吸入器。
【請求項68】
哺乳動物の血中グルコースを低下させる方法であって、治療有効量の結晶化デキストラン微粒子およびインスリンを含む組成物を吸入によって哺乳動物に投与し、哺乳動物の血中グルコースを低下させるステップを含む方法。

【図11】図1に示した結晶化デキストラン微粒子を含有するデキストラン(MW500kDa)の水溶液中のPEGの水溶液のエマルジョンの写真である。
【図12】PEG水溶液中に図1に示した結晶化デキストラン微粒子を含有するデキストラン(MW500kDa)の水溶液のPEGの水溶液のエマルジョンの写真である。
【図13】図1に示した結晶化デキストラン微粒子を含有するデキストラン(MW500kDa)の水溶液中のPEGの水溶液のエマルジョンの筋肉内注射の写真である。
【図14】図1に示した結晶化デキストラン微粒子を含有するデキストラン(MW500kDa)の水溶液のPEGの水溶液のエマルジョンの皮下注射の写真である。
【図15A】水性の2相系における種々の粒子および相の分配挙動を模式的に示している。
【図15B】2相系に基づいたインプラント構造物の断面の写真である。
【図15C】水性の2相系における種々の粒子および相の分配挙動を模式的に示している。
【図16】図16A、16B、16C、および16Dは、二相系中でのHeLa細胞および結晶化デキストラン微粒子の分配の写真である。
【図17】本発明の実施形態の細胞治療方法を概略的に例示する図である。
【図18】本発明の実施形態の細胞治療方法を概略的に例示する図である。
【図19】本発明の実施形態による治療薬送達法を模式的に示している。
【図20】本発明の実施形態による治療薬送達法を模式的に示している。
【図21】本発明の実施形態による治療薬送達法を模式的に示している。
【図22】図22Aおよび22Bは、種々のインスリン含有組成物における血中グルコース濃度対時間の相対的に規格化されたグラフである。
【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【公表番号】特表2006−519252(P2006−519252A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506415(P2006−506415)
【出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際出願番号】PCT/IB2004/000961
【国際公開番号】WO2004/078197
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(505334983)ザ・テクノロジー・デヴェロップメント・カンパニー・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】