説明

薬物高含有固形製剤

【課題】水溶性が極めて高く、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質について、製剤操作上簡便な方法により、溶出性が改善された固形製剤を提供すること
【解決手段】水に極めて溶けやすい生理活性物質を含有し、吸水性添加剤を含ませないことにより、溶出性が改善された固形製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性が極めて高く、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質を含有する製剤であって、その溶出速度が改善された固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水に極めて溶けやすい薬物は、溶解すると強い粘着性を示すことが多く、その特性が錠剤化した際の崩壊性に大きく影響することがある。たとえば、水に極めて溶けやすい性質を持つイマチニブ(日本医薬品一般名称)もしくは薬学的に許容されるその塩は、水と接触すると、粒子表面が溶解して強い粘着性を示し粒子同士の付着によるゲル膜を形成する。この性質から、錠剤化したものの溶出性を担保するために多量の崩壊剤を必要とする。
【0003】
従来技術の具体例として、特許文献1では流動性に富み、吸湿性が少なく、加工も容易で、140℃以下で熱力学的に安定なβ形結晶を用いて、乳糖、結晶セルロース、クロスポビドン等を配合して直接圧縮による錠剤の製造方法が開示されている。特許文献2では、崩壊性が高いクロスポビドンを錠剤総量に対して10〜35%配合し、さらに、吸水性の高い微結晶セルロースを配合し、湿式造粒法による高薬物充填錠剤の製造方法が開示されている。しかし、クロスポビドンや微結晶セルロース等の吸水性が高い添加剤を多量に配合した場合、無包装状態で長期に保存した際に、錠剤の表面が肌荒れを起こし、錠剤硬度が著しく低下する可能性があり、流通過程や調剤薬局での保管における保存安定性を保証するには不十分である。特許文献3では、摂食/絶食での吸収性の変動を解決するために、粒子径が2μm未満のナノ粒子メシル酸イマチニブを用い、HPMC、HPC、PVP等の表面安定化剤を含む組成物が開示されている。更に、特許文献4ではβ形と異なるV形、X形の結晶形を用いてα形、β形へ転移しない製剤処方が記載されている。しかしながら、これらの製造方法は長期保存時の錠剤特性の変化、安定性等について充分に満足できるものではなく、これらの課題を解決し、工業化に適した製造方法の確立が必要とされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3276359号公報
【特許文献2】特開2010−31019号公報
【特許文献3】特表2008−542397号公報
【特許文献4】特表2010−540465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、水溶性が極めて高く、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質について、製剤操作上簡便な方法により、生理活性物質の溶出性が改善された固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
たとえば、イマチニブメシル酸塩を含有する錠剤についてその硬度の低下を改善する目的で、崩壊剤等の配合量を減量して錠剤を製造した。得られた錠剤の溶出試験を行ったところ、錠剤は徐々に膨潤するものの、瞬時には崩壊せず、そのため薬物が溶出するのに大幅な時間を要した。これは、吸水した部分に存在するイマチニブメシル酸塩が溶解すると同時にその強い粘着性によってゲル状の膜を形成し、錠剤内部への水の浸透が阻害され薬物の放出が遅延しているものと考えられた。この知見を基に、発明者らは種々検討した結果、吸水性の添加剤を含まないイマチニブメシル酸塩もしくは薬学的に許容されるその塩の錠剤は、上述のような現象を生じることなく薬物の溶出性が担保されることを見出し、さらに改良を加え、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち、本発明によれば、下記(1)〜(5)の発明を提供することができる。
(1)水に極めて溶けやすい生理活性物質を含有し、吸水性添加剤を含まないことを特長とする、溶出性が改善された固形製剤。
(2)生理活性物質がイマチニブメシル酸塩である前記(1)に記載の固形製剤。
(3)イマチニブメシル酸塩が、錠剤の総重量に対して90重量%以上を含んでなる前記(1)又は(2)に記載の固形製剤。
(4)滑沢剤としてタルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油又はフマル酸ステアリルナトリウムのいずれかを含有する前記(1)〜(3)に記載の固形製剤。
(5)イマチニブメシル酸塩が、錠剤の総重量に対して90〜97重量%を含有し、滑沢剤が錠剤の総重量に対して1〜5重量%を含有する前記(1)〜(4)に記載の固形製剤。
(6)固形製剤がフイルムコーティング錠である(1)〜(5)に記載の固形製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水溶性が極めて高く、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質の製造において、吸水性添加剤を配合しないことにより、製剤操作上簡便な方法で、生理活性物質粒子表面のゲル化を抑制し、溶出性を改善することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における吸水性添加剤とは、例えば、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、低地感度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボシキメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、クロスカルメロースナトリウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。また、本発明において、造粒する目的で結合剤を使用することができ、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポビドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体又はポリビニルアルコールグラフトコポリマー等の一般的に固形製剤に用いられる結合剤が挙げられる。
また、本発明の錠剤は、通常の環境化において薬物の露出を保護する目的でフイルムコーティング膜を施すこともあり、コーティング剤としては、ヒプロメロース、酸化チタン、タルク、ポリエチレングリコール等の一般的に用いられるコーティング剤を使用することができ、識別性を目的として着色剤を使用することもある。
【実施例】
【0010】
実施例1
メシル酸イマチニブ239gを流動層造粒機(パウレック社製:MP−01型)に投入し、精製水150gをスプレーし造粒した。得られた造粒物239gに、ステアリン酸マグネシウムを2g配合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
メシル酸イマチニブ 119.5
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【0011】
実施例2
メシル酸イマチニブ239gを流動層造粒機(パウレック社製:MP−01型)に投入し、ヒプロメロース6gを精製水114gに溶解した液をスプレーし造粒した。得られた造粒物245gに、ステアリン酸マグネシウムを2g配合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
メシル酸イマチニブ 119.5
ヒプロメロース 3.0
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【0012】
比較例1
メシル酸イマチニブ239gを流動層造粒機(パウレック社製:MP−01型)に投入し、精製水150gをスプレーし造粒した。得られた造粒物239gに、クロスポビドン10g及びステアリン酸マグネシウムを2g配合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
メシル酸イマチニブ 119.5
クロスポビドン 5.0
ヒプロメロース 3.0
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【0013】
試験例1
実施例1、2及び比較例1で得た錠剤について溶出試験(試験液水、パドル回転数50rpm)によりメシル酸イマチニブの溶出率を測定し、表1の結果を得た。
【表1】


表1の結果から、本発明に係る実施例1及び2の錠剤は、比較例1の錠剤と比べ、メシル酸イマチニブの溶出率を極めて効果的に改善し得ることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0014】
水溶性が極めて高く、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質の製造において、吸水性添加剤を配合しないことにより、製剤操作上簡便な方法で、生理活性物質粒子表面のゲル化を抑制し、溶出性が改善された固形製剤を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に極めて溶けやすい生理活性物質を含有し、吸水性添加剤を含まないことを特長とする、溶出性が改善された固形製剤。
【請求項2】
生理活性物質がイマチニブメシル酸塩である請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
イマチニブメシル酸塩が、錠剤の総重量に対して90重量%以上を含んでなる請求項1又は請求項2に記載の固形製剤。
【請求項4】
滑沢剤としてタルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油又はフマル酸ステアリルナトリウムのいずれかを含有する請求項1〜請求項3に記載の固形製剤。
【請求項5】
イマチニブメシル酸塩が、錠剤の総重量に対して90〜97重量%を含有し、滑沢剤が錠剤の総重量に対して1〜5重量%を含有する請求項1〜4に記載の固形製剤。
【請求項6】
固形製剤がフイルムコーティング錠である請求項1〜請求項5に記載の固形製剤。


【公開番号】特開2013−43833(P2013−43833A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180476(P2011−180476)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】