説明

薬理活性物質と粘膜粘着性高分子とが共有結合されたコンジュゲート及びこれを用いた薬理活性物質の経粘膜運搬方法

【課題】本発明は、薬理活性物質と粘膜粘着性高分子とが共有結合されたコンジュゲート及びこれを用いた薬理活性物質の経粘膜運搬方法に関するものである。
【解決手段】本発明は、薬理活性物質と粘膜粘着性高分子とが共有結合されたコンジュゲート及びこれを用いた薬理活性物質の経粘膜運搬方法に関するものである。より具体的に、本発明は、薬理活性物質及び粘膜粘着性高分子がリンカーを介して共有結合されたコンジュゲート、前記コンジュゲート及び薬学的に許容される担体を含む経粘膜投与用薬学的組成物、及び薬理活性物質に粘膜粘着性高分子をリンカーを介して共有結合させて、前記薬理活性物質を経粘膜を通じて生体内に伝達する方法に関するものである。
本発明のコンジュゲートは、生体粘膜、特に、消化管(特に胃腸管)にある粘膜において吸収率及び生体的合成に優れており、且つ体内で分解されて、また、経口投与時も生体利用率に優れ、薬剤の経口投与による疾病の治療を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理活性物質と粘膜粘着性高分子とが共有結合されたコンジュゲート及びこれを用いた薬理活性物質の経粘膜運搬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子操作と生物工程技術の発展により、今まで化学的合成が難しかった多様なペプチド及びたんぱく質医薬、即ち、バイオ医薬を大量生産することが可能になった。しかしながら、ほとんどのたんぱく質は、巨大な分子量と特異的な分子構造により、生体粘膜で吸収されない特性を示し、経口製剤として使用できない問題があった。従って、その投与方法が注射剤に制限され、これは、長期服用時、投薬の困難及び対象患者に注射に対する恐怖や拒否感を誘発するという問題がある。従って、バイオ医薬の腸内吸収率を高め、投与に対する負担のない経口製剤として開発できるようになれば、注射に対する恐怖及び拒否感を無くし、患者が服薬指示にしたがって薬物を服用しやすくなるため、短期あるいは長期的に患者の生活の質を高めることができる。
【0003】
かかる理由で、治療用たんぱく質の生体内安定性と吸収率を増進させるための様々な方法が試みられてきた。これらの中、最もよく知られた方法が“PEG化(PEGylation)”であって、これは、PEGをたんぱく質に化学的に付加させる方法である。この方法は、最初は、抗原性を減少させる目的で使用されたが、現在は、目的たんぱく質の生体内滞在期間を増やし、生体内安定性と吸収率を増進させる目的でよく利用されている。
【0004】
この他にもバイオ医薬と共に、脂肪酸あるいは胆汁酸などのような、腸上皮細胞膜の浸透性(permeability)を高める物質を使用する方法、腸上皮細胞膜の受容体と選択的結合ができる物質(例えば、Vitamin B12及びFc受容体)を利用した方法、脂質や胆汁酸のような脂溶性物質をインスリンに直接化学結合させたコンジュゲートを作って、腸内粘膜における吸収率を高める方法、生分解性高分子からなるマイクロサイズの粒子またはナノサイズの粒子にたんぱく質医薬を内包させて伝達する方法などが研究されている。
【0005】
しかしながら、このような方法は、経口投与時、依然として非常に低い生体吸収率及び生体利用率を示し、既存の経口剤形化方法は、長期的に服用時に毒性の虞がある添加物を使用するため、潜在的に安全性が懸念される短所を有している。
【0006】
水に溶解され難い抗癌剤、特に乳房癌及び卵巣癌を含む広い範囲の癌に対する抗-腫瘍剤であるパクリタキセルを運搬する方法の開発に対する関心が高まっている。一方、前記パクリタキセルは、水に対する溶解度が非常に低く、エタノール及びクレモホールEL(Cremophor EL)を含有する担体内に剤形化されている。このため、静脈注射により前記抗癌剤を投与する場合、過敏反応のような深刻な副作用が引き起こされる。このようなパクリタキセル治療の欠点を克服するために、 マイセルラー(micellular)剤形、水溶性巨大分子とのコンジュゲーション及び前駆薬物接近法を含む様々な試みがなされてきた。一方、このような研究が増加するにつれて、パクリタキセルの経口運搬システムの開発に焦点が合わせられている。なぜなら、前記剤形は、癌のような慢性疾患の治療に好ましく、静脈注射のために病院に訪問することなく容易に投与できるため、患者に便宜性を提供するからである。ところが、パクリタキセルの経口投与後、低い生体利用率が障害とされている。最近報告された何件の研究は、臨床的に有用なレベルまで生体利用率を高めることに関するものである。これらの一つの研究は、シクロスポリンA及びバルスポダー(Valspodar)のようなP−糖蛋白(P-glycoprotein、P-gp)抑制剤とパクリタキセルとを共に利用した結果、パクリタキセルの生体利用率が非常に増加した(〜50-60% vs. 〜4-10% with PTX only)と報告した。このような研究結果にもかかわらず、P−gpが生体毒素(xenotoxin)から胃腸管、脳及び排泄機関を保護すると知られているため、P−gp抑制剤の使用は、潜在的に副作用を示す可能性がある。また、界面活性剤と共にエマルジョンに製造する方法及び生分解性高分子ナノ粒子にカプセル化する方法などを含む他の研究が報告されている。しかしながら、過量の界面活性剤の使用は、毒性を示す虞があり、上記方法によると、生体利用率が低いという欠点がある。
【0007】
従って、パクリタキセルのような抗癌剤を、高い生体利用率を示す経口投与方法により投与できる製剤の開発が要望される。
【0008】
経粘膜運搬(Transmucosal delivery)は、薬理活性物質を投与する方法として多い利点を有している。全身性及び局所性薬物効能を達成できる経粘膜運搬の能力のため、特定処方に対する要求に合わせることができ、経粘膜運搬は、魅力的な薬物運搬システムとして脚光を浴びている。経粘膜運搬は、迅速に治療効能を奏するだけではなく、速い薬物清掃率(clearance)を示すため、結果として薬物の生体利用率を高める。また、経粘膜運搬システムは、他の投与方式より患者順応度(compliance)に優れている。、
【0009】
経粘膜運搬システムの上述の利点のため、より改善された経粘膜運搬システムを開発しようとする数多い試みがあった。WO 2005/032554、WO 2005/016321、米国特許第6896519号、第6564092号、及び第6506730号に、経粘膜運搬システムが開示されている。特に、米国特許第5194594号には、SPDPと化学的にコンジュゲートされた抗体が開示されており、米国特許第5554388号には、薬理活性物質とカチオン性高分子物質を含む粘膜投与用組成物が開示されている。また、米国特許第6913746号には、免疫グロブリンと多糖類を含む経口及び粘膜投与用組成物が開示されており、米国特許公開第2005/0175679号には、モルヒネと水溶性高分子を含む経粘膜投与用組成物が開示されている。
【0010】
ところが、たんぱく質医薬や抗癌剤を経粘膜運搬方式で口腔投与する方法を開発しようとする試みは、ほとんど成功的な結果を得ることができず、特に、薬剤の治療学的効能は満足の行くものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、従来の薬理活性物質の医薬用運搬システムが有している副作用と短所を克服しながらも、薬剤を経粘膜運搬、特に、口腔投与できる運搬システムを開発するために努力した。本発明者らは、上記の目的を達成できる運搬システムとして、生体粘膜で吸収率が高く、安全で、且つ体内で分解される粘膜粘着性高分子を選択し、これを薬理活性物質と共有結合したコンジュゲートを口腔投与する場合、生体内で優れた薬理学的効能を奏することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、薬理活性物質及び粘膜粘着性高分子がリンカーを介して共有結合されたコンジュゲートを提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、前記コンジュゲート及び薬学的に許容される担体を含む経粘膜投与用薬学的組成物を提供することである。
【0014】
本発明のまた他の目的は、薬理活性物質に粘膜粘着性高分子をリンカーを介して共有結合させて、前記薬理活性物質を経粘膜を通じて生体内に伝達する方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明、請求の範囲、及び図面により、さらに明確にされる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記のような目的を達成するために、本発明は、薬理活性物質及び粘膜粘着性高分子がリンカーを介して共有結合されたコンジュゲートを提供する。
【0017】
また、本発明は、前記コンジュゲート及び薬学的に許容される担体を含む経粘膜投与用薬学的組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、薬理活性物質に粘膜粘着性高分子をリンカーを介して共有結合させて、前記薬理活性物質を経粘膜を通じて生体内に伝達する方法を提供する。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
薬理活性物質
本発明で使用された用語“薬理活性物質”は、薬物学的活性を有するたんぱく質、ペプチド及び化合物のことをいう。前記薬理活性物質は、組み換えまたは化学的に合成されたものや、天然から分離されたものを全て含む。
【0021】
本発明で使用された用語“たんぱく質”は、アミノ酸がペプチド結合により連結された重合体を意味し、“ペプチド”は、アミノ酸がペプチド結合により連結されたオリゴマーを意味する。
【0022】
本発明で薬理活性物質として使用されるたんぱく質またはペプチドは、これらに限定されるものではないが、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、信号伝達たんぱく質またはその一部、抗体またはその一部、単鎖抗体、結合たんぱく質またはその結合ドメイン、抗原、付着たんぱく質、構造たんぱく質、調節たんぱく質、毒素たんぱく質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子及び抗癌剤を含む。好ましくは、本発明の薬理活性物質としては、たんぱく質医薬に利用されるインスリン、IGF−1(insulin-like growth factor 1)、成長ホルモン、インターフェロン、エリスロポエチン、G−CSF(granulocyte-colony stimulating factors)、GM−CSF(granulocyte/macrophage-colony stimulating factors)、IL−2(interleukin-2)、またはEGF(epidermal growth factors)であって、より好ましくは、インスリンまたはIGF−1であり、最も好ましくは、インスリンである。
【0023】
また、本発明の薬理活性物質としては、癌の化学療法剤として利用されるいかなる抗癌剤もよく、好ましくは、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド、タモキシフェン、パクリタキセル、トランスプラチニウム(transplatinum)、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、またはメトトレキサートであり、最も好ましくは、パクリタキセルである。
【0024】
粘膜粘着性高分子
本発明で使用された用語“粘膜粘着性高分子”は、生体粘膜で吸収率がよく、安全で、体内で分解される高分子を意味する。本発明で使用される粘膜粘着性高分子は、合成されるか、天然から由来する。
【0025】
天然由来の粘膜粘着性高分子の例としては、これらに限定されないが、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、またはこれらの誘導体を含む。
【0026】
合成高分子の例としては、これらに限定されないが、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリシン、ポリエチレンイミン、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート、これらの誘導体、またはこれらの共重合体からなる高分子を含む。
【0027】
好ましくは、本発明の粘膜粘着性高分子は、キトサンである。キトサンは、自然界にセルロースの次に多く存在する天然有機高分子であって、毎年1,000億トン以上生産されるキチンから製造されるが、カニ、エビなどの甲殻類、バッタ、トンボなどの昆虫類、エノキ、シイタケなどのキノコ類、細菌の細胞膜などに分布しているキチンを脱アセチル化して得られる。化学的構造面からみると、N−アセチル−D−グルコサミン単量体がb−1,4結合の直鎖状に連結されたキチンから、アミン基に存在するアセチル基が除去され、キトサンが形成される(Errington N, et al., Hydrodynamic characterization of chitosan varying in molecular weight and degree of acetylation. Int J Biol Macromol. 15:1123-7 (1993))。キトサンは、キチンと比較し、アミン基に存在するアセチル基が除去されたため、酸性溶液でポリカチオンとして存在するようになる。従って、酸性水溶液において水に対する溶解性がよくなるため、加工性に優れ、乾燥後の機械的強度が比較的よいため、粉末、繊維、薄膜、ゲル、ビーズなどの形態に成形されて使用される(E. Guibal, et al., Ind. Eng. Chem. Res., 37:1454-1463 (1998))。キトサンは、連結されている単量体の数によって、単量体12個内外のオリゴマーと高分子に属するポリマーとに分かれて、ポリマーは、分子量15万未満の低分子キトサンと、分子量70万〜100万に達する高分子キトサンと、その間の範囲を有する中分子キトサンとに分かれる。
【0028】
キトサンは、安定性と環境親和性、生分解性及び生体的合成に優れており、様々な産業と医療分野によく活用されている。また、キトサンは、安全で、免疫促進副作用もないことが知られている。生体内では、リゾチームによりN−アセチルグルコサミンに分解されて、これは、糖たんぱく質合成に使用された後、二酸化炭素の形態で排出される(Chandy T, Sharma CP. Chitosan as a biomaterial. Biomat Art Cells Art Org. 18:1-24 (1990))。
【0029】
本発明で利用されるキトサンとしては、通常のいかなるキトサンも利用可能であるが、好ましくは、分子量500〜20000Da、より好ましくは、分子量500〜15000Da、さらに好ましくは、分子量1000〜10000Da、最も好ましくは、分子量3000〜9000Daのキトサンである。本発明で利用されるキトサンの分子量が500未満である場合は、キトサンの伝達体としての機能が微弱な問題点があり、キトサンの分子量が20000を超過する場合は、水溶液上で自己集合体を形成する問題点がある。本発明で利用される好ましいキトサンは、オリゴマー水準のキトサンである。
【0030】
薬理活性物質−粘膜粘着性高分子コンジュゲート
本発明のコンジュゲートは、薬理活性物質及び粘膜粘着性高分子が、リンカーを介して共有結合されていることを特徴とする。
【0031】
本発明の薬理活性物質と粘膜粘着性高分子との共有結合は、多様な結合種類によって形成できる。例えば、二硫化結合、ペプチド結合、イミン結合、エステル結合、またはアミド結合が挙げられる。
【0032】
また、前記共有結合方式は、直接結合と間接結合とに大別される。
【0033】
直接結合方式によると、薬理活性物質にある作用基(例えば、−SH、−OH、−COOH、NH2)と、粘膜粘着性高分子にある作用基(例えば、−OH及び−NH2)とが直接的に反応し、共有結合を形成することができる。間接結合方式によると、当業界でリンカーとして通常的に利用される化合物を介して、薬理活性物質−粘膜粘着性高分子複合体を形成することができる。
【0034】
本発明の好ましい具現例によると、本発明のコンジュゲートは、リンカーを介して共有結合されている。
【0035】
本発明で利用されるリンカーは、当業界でリンカーとして利用されるものならいかなる化合物でもよく、薬理活性物質にある作用基種類によって、適合するリンカーを選択することができる。
【0036】
例えばリンカーは、N−スクシンイミジルヨードアセテート(N-succinimidyl iodoacetate)、N−ヒドロキシスクシンイミジルブロモアセテート(N-hydroxysuccinimidyl bromoacetate)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、m−マレイミドベンゾイル−N− ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysulfosuccinimide ester)、N−マレイミドブチリルオキシスクシンアミドエステル(N-maleimidobutyryloxysuccinamide ester)、N−マレイミドブチリルオキシスルホスクシンアミドエステル(N-maleimidobutyryloxy sulfosuccinamide ester)、E−マレイミドカプロン酸ヒドラジド・HCl(E-maleimidocaproic acid hydrazide・HCl)、[N−(E−マレイミドカプロイルオキシ)−スクシンアミド]([N-(E-maleimidocaproyloxy)-succinamide])、[N−(E−マレイミドカプロイルオキシ)−スルホスクシンアミド] ([N-(E-maleimidocaproyloxy)-sulfosuccinamide])、マレイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(maleimidopropionic acid N-hydroxysuccinimide ester)、マレイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(maleimidopropionic acid N-hydroxysulfosuccinimide ester)、マレイミドプロピオン酸ヒドラジド・HCl( maleimidopropionic acid hydrazide・HCl)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)ピロピオネート(N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate)、N−スクシンイミジル−(4−ヨードアセチル)アミノベンゾアート(N-succinimidyl-(4-iodoacetyl) aminobenzoate)、スクシンイミジル−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(succinimidyl-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-l-carboxylate)、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(succinimidyl-4-(p-maleimidophenyl)butyrate)、スルホスクシンイミジル−(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート(sulfosuccinimidyl-(4-iodoacetyl)aminobenzoate)、スルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(sulfosuccinimidyl-4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、スルホスクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(sulfosuccinimidyl-4-(p-maleimidophenyl)butyrate)、m−マレイミド安息香酸ヒドラジド・HCl(m-maleimidobenzoic acid hydrazide・HCl)、4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシル酸ヒドラジド・HCl(4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-l-carboxylic acid hydrazide・HCl)、4−(4−N−マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド・HCl(4-(4-N-maleimidophenyl)butyric acid hydrazide・HCl)、N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(bis(sulfosuccinimidyl)suberate)、1,2−ジ[3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ブタン(1,2-di[3'-(2'-pyridyldithio)propionamido]butane)、ジスクシンイミジルスベレート(disuccinimidyl suberate)、ジスクシンイミジルタルトレート(disuccinimidyl tartrate)、ジスルホスクシンイミジルタルトレート(disulfosuccinimidyl tartrate)、ジチオ−ビス−(スクシンイミジルプロピオネート)(dithio-bis-(succinimidylpropionate))、3,3’−ジチオ−ビス−(スルホスクシンイミジル−プロピオネート)(3,3'-dithio-bis-(sulfosuccinimidyl-propionate))、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(ethylene glycol bis(succinimidylsuccinate))、及びエチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(ethylene glycol bis(sulfosuccinimidylsuccinate))を含むが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明の好ましい具現例によると、たんぱく質またはペプチドとキトサンとの共有結合には、リンカー−CO−(CH2)n−S−S−(CH2)n−CO−が中間に介入されており、キトサンの−NH2及びたんぱく質の−NH2は、それぞれ前記リンカーとアミド結合されている。前記リンカーの化学式において、nは1〜5の整数である。
【0038】
本発明の具体的な一実施例によると、たんぱく質またはペプチド(例えば、インスリン)とキトサンは、−CO−(CH2)2−S−S−(CH2)2−CO−が中間に介入されている形態を有して、キトサンの−NH2及びたんぱく質の−NH2は、それぞれ前記リンカーにアミド結合により共有結合されている、。
【0039】
また、本発明の好ましい具現例によると、抗癌剤とキトサンの共有結合には、スクシニル基が中間に介入されており、スクシニル基とキトサンは、アミド結合を形成して、スクシニル基と抗癌剤は、エステル結合を形成する。
【0040】
本発明の具体的な一実施例によると、抗癌剤(例えば、パクリタキセル)とキトサンは、スクシニル基(−CO−CH2−CH2−CO−)が中間に介入されている形態を有して、スクシニル基とキトサンは、アミド結合により共有結合されている。
【0041】
前記本発明のコンジュゲートは、薬理活性物質を経粘膜にて伝達できることを特徴とする。例えば、前記経粘膜としては、これらに限定されないが、口腔、鼻腔、直腸、膣、尿道、咽喉、消化管、腹膜、または目の粘膜が挙げられる。本発明のコンジュゲートは、消化管の粘膜を通じて薬理活性物質を運搬することにより、薬剤の経口投与を可能にする。
【0042】
薬学的組成物
また、本発明は、薬学的有効量の本発明のコンジュゲート及び薬学的に許容される担体を含む経粘膜投与用薬学組成物に関するものである。
【0043】
本発明で使用された用語“薬学的有効量”は、薬理活性物質が有する固有の治療学的効能を達成するに十分な量を意味する。
【0044】
本発明で使用された用語“薬学的に許容される”とは、生理学的に許容されて、人間に投与した場合、通常的に胃腸障害、眩暈のようなアレルギー反応、またはこれに類似した反応を起こさない組成物をいう。
【0045】
上記薬学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。適した薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences(19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0046】
また、本発明の薬学的組成物は、経粘膜を通じて投与されることを特徴とする。例えば、これらに限定されないが、口腔、鼻腔、直腸、膣、尿道、咽喉、消化管、腹膜、または目の粘膜を通じて投与できる。最も好ましくは、本発明の薬学的組成物は、消化管の粘膜を通じて薬理活性物質を運搬することにより、薬剤の経口投与を可能にする。
【0047】
本発明の薬剤学的組成物の適した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により、適宜処方することができる。一方、本発明の薬剤学的組成物の経口投与量は、好ましくは、一日当たり、0.001〜100mg/kg(体重)である。
【0048】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態で製造するか、または多用量容器内に入れて製造することができる。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エリキシル剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むこともできる。
【0049】
本発明の最も好ましい具現例によると、本発明の薬剤学的組成物は、(a)薬剤学的有効量のインスリン及び前記インスリンに共有結合されたキトサンを含むコンジュゲート、及び(b)薬剤学的に許容される担体を含むインスリンの経口投与用薬剤学的組成物を提供する。
【0050】
本発明の糖尿治療用途の薬剤学的組成物は、インスリンの経口投与を可能にする。一般に糖尿患者は、注射剤インスリンを投与されて、このような投与方式は、患者に不便を与える。しかしながら、本発明の糖尿治療用途の薬剤学的組成物は、経口投与が可能であるため、糖尿治療を画期的に改善することができる。
【0051】
本発明の一実験例からは、本発明の方法により製造されたインスリン−キトサンコンジュゲートのインビボ血糖降下効能を、キトサンが結合されていないフリーインスリンと比較した結果、非常に著しい血糖降下効能を発揮することを確認することができる。
【0052】
また、本発明のインスリン−キトサンコンジュゲートが粘膜(特に、胃腸管粘膜)に対して、優れた吸収率を示すことを確認することができた。
【0053】
本発明のまた他の最も好ましい具現例によると、本発明の薬剤学的組成物は、(a)薬剤学的有効量のパクリタキセルと前記パクリタキセルに共有結合されたキトサンを含むコンジュゲート、及び(b)薬剤学的に許容される担体を含むパクリタキセルの経口投与用薬剤学的組成物を提供する。
【0054】
本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートを含む薬剤学的組成物は、経粘膜投与、特に口腔投与する場合においても、優れた抗癌効能を奏する。
【0055】
本発明の一実験例からは、本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートのインビボ抗癌効能を、キトサンが結合されていないフリー抗癌剤と比較した結果、非常に著しい抗癌効能を発揮することを確認することができる。
【0056】
また、本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートが粘膜(特に、胃腸管粘膜)に対して、優れた吸収率を示すことを確認することができた。
【0057】
薬理活性物質の経粘膜運搬方法
また、本発明は、薬理活性物質に粘膜粘着性高分子をリンカーを介して共有結合して、前記薬理活性物質を経粘膜を通じて生体内に伝達する方法に関するものである。
【0058】
好ましくは、本発明の方法は、(a)薬理活性物質にリンカーを結合させる段階と、(b)前記リンカーを介して、(a)段階の薬理活性物質と粘膜粘着性高分子とをコンジュゲーションさせる段階とを含む。
【0059】
また、好ましくは、本発明の方法は、(a)薬理活性物質にリンカーを結合させる段階と、(b)粘膜粘着性高分子にリンカーを結合させる段階と、(c)前記リンカーを介して、(a)段階の薬理活性物質と前記(b)段階の粘膜粘着性高分子とをコンジュゲーションさせる段階とを含む。
【0060】
本発明のコンジュゲート及びこれを用いた薬理活性物質の経粘膜運搬方法の技術的達成及び長所を要約すると、次のようである:
(i)本発明のコンジュゲートは、生体粘膜、特に、消化管(特に、胃腸管)にある粘膜で優れた吸収率を示す。
(ii)運搬体として利用した粘膜粘着性高分子は、生体的合成に優れて、且つ体内で分解されるため、本発明のコンジュゲートは、人体に安全で、長期服用時も優れた安全性を示す。
(iii)従って、本発明の薬学的組成物は、経口投与時も優れた生体利用率を示し、経口投与を通じての疾病の治療を可能にする。
(iv)本発明の薬剤学的組成物を経口投与する場合、従来の注射剤と比較し、患者順応度が大きく改善される。
【0061】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のインスリン−キトサンコンジュゲートを、糖尿が誘導された雄性ラットの尾静脈に注射した後、相対的血糖値を測定して示したグラフである。
【図2】本発明のインスリン−キトサンコンジュゲート溶液を、糖尿が誘導された雄性ラットに経口投与した後、相対的血糖値を測定して示したグラフである。
【図3】本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートの腫瘍細胞に対する細胞毒性効果を分析したMTT試験結果を示したグラフである。−黒色:パクリタキセル−灰色:本発明のパクリタキセル−キトサン(分子量3000)コンジュゲート−濃灰色:本発明のパクリタキセル−キトサン(分子量6000)コンジュゲート−白色:本発明のパクリタキセル−キトサン(分子量9000)コンジュゲート
【図4】本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートのインビボにおける抗癌効果を分析したアログラフト(allograft)実験結果を示したグラフである。
【図5】パクリタキセル−キトサンコンジュゲートの経口投与によるマウスの生存率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
I.インスリン−キトサンコンジュゲート
実施例1:インスリンとリンカーとが結合されたインスリン中間体の製造
インスリン0.1g(17.22× 10-6 mol)(Serologicals Corp.)を10mlの塩酸溶液に溶解して、SPDP[N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio) propionate, Pierce]0.008g(25.83× 10-6 mol)を0.2×10-3mlのDMF(Sigma)に溶解して、前記インスリン溶液に添加した。 インスリンB鎖の29番リシンに位置選択的にSPDPをコンジュゲーションするために、NaOH溶液でpHを9〜10に調節し、室温で30分間攪拌した。前記攪拌溶液を逆相HPLC(Shimadzu)を利用して分離し、凍結乾燥してインスリン中間体を製造した(反応式1)。
【0064】
実施例2:キトサンとリンカーとが結合されたキトサン中間体の製造
分子量3000、6000、及び9000のキトサンを、それぞれ0.1g(16.67× 10-6 mol, 単量体モル数 = 0.67×10-3 mol)(KITTOLIFE, Korea)をリン酸緩衝液2mlに溶解して、SPDP 0.016g(50.01× 10-6 mol)を0.2×10-3mlのDMFに溶解して、前記キトサン溶液に添加した後、室温で2時間攪拌した。前記攪拌溶液にアセトンを加え、ペレットを沈殿させた後、これを蒸留水に溶かし、凍結乾燥してキトサン中間体を製造した(反応式1)。
【0065】
【化1】

【0066】
実施例3:インスリン−キトサンコンジュゲート製造
キトサン中間体を還元させるために、実施例2のキトサン中間体0.008g(1.24× 10-6 mol)とDTT(24.9× 10-6 mol)(Pierce) とを0.3mlのリン酸緩衝液に溶解して、室温で4時間攪拌した。実施例1のインスリン中間体0.005g(0.83× 10-6 mol)をクエン酸緩衝液(500μl)に溶解した後、前記還元されたキトサン中間体溶液(100μl)を添加し、室温で12〜24時間攪拌した。これを、逆相HPLCを利用して分離し、凍結乾燥して、インスリン及びキトサンが連結されたコンジュゲート分子、インスリン−キトサンコンジュゲートを製造した(反応式2)。
【0067】
【化2】

【0068】
実験例1:キトサン中間体においてリンカーの置換度測定
本発明のキトサン中間体にSPDPが置換された程度を調べるために、1H NMRを利用して測定した。リンカーの置換度は、D2O溶媒において、積分比により計算した。測定された置換分子数は、表1に示した。
【0069】
【表1】

表1に示したように、分子量が増加するにつれて、リンカーの置換度が比例的に減少するため、低分子量のキトサンに、より容易に置換されることが分かる。
【0070】
実験例2:インスリン−キトサンコンジュゲートに存在するインスリン量の測定
本発明のインスリン−キトサンコンジュゲート(分子量6000のキトサンを利用したコンジュゲート)に含まれたインスリンの量を測定するために、1mgインスリン−キトサンコンジュゲートを1mlのクエン酸緩衝液に溶解した後、UV 275nmで吸光度を測定した。基準曲線として、インスリン(0.1、0.5、1、及び2mg)をクエン酸緩衝溶液1mlに溶解した後、吸光度を測定して示し、これを利用してインスリン−キトサンコンジュゲートに含まれたインスリン量を計算した。測定結果、インスリン−キトサンコンジュゲートが含有したインスリン量は、44%であった。
【0071】
実験例3:インスリン−キトサンコンジュゲートを利用した生体内(in vivo)インスリン活性の測定
本発明のインスリン−キトサンコンジュゲート(分子量6000のキトサンを利用したコンジュゲート)をクエン酸緩衝溶液に溶解した後、生理食塩水で希釈し、インスリン濃度1U/mlのインスリン−キトサンコンジュゲート溶液を製造した。インスリン投与前、糖尿の誘導された雄性ラット(Wistar rats、6〜7週齢)を6時間絶食させた後、尾静脈から血液を採取し血糖値を測定して、この値を初期値に使用した。測定直後、0.5 IU/kgインスリンまたは1IU/kgインスリン−キトサンコンジュゲート(Insulin-6K LMWC)を尾静脈に注射した。0.5 IUは、17.4μgに該当する。また、0.5 IU/kgインスリンをs.c.(subcutaneous)注入した。
【0072】
その結果、図1に示したように、本発明のインスリン−キトサンコンジュゲート溶液(−▽−)に含まれたインスリンの生理活性は、対照群のインスリン溶液に対して約40%を示し、正常的な生理活性を有することが分かった。
【0073】
実験例4:インスリン−キトサンコンジュゲートを利用した生体内経口投与実験
インスリン−キトサンコンジュゲート(分子量3000、6000、または9000Daのキトサンを利用したコンジュゲート)をクエン酸緩衝溶液に溶解した後、生理食塩水で希釈し、インスリン濃度100U/mlのインスリン−キトサンコンジュゲート溶液を製造した。糖尿の誘導されたラットを6時間絶食させた後、尾静脈から血液を採取し血糖値を測定して、この値を薬物投与前の初期値に使用した。前記実験動物に、実施例で製造されたインスリン−キトサンコンジュゲート溶液を、インスリン濃度が50 IU/kgになるように胃ゾンデ(gastric sonde)を使用して経口投与した(50 IUは、1.77mgに該当する)。対照群として、50 IU/kgインスリン及び分子量9000Daのキトサンを、同様な方法により経口投与した。薬物投与後、1、2、3、及び4時間後に尾静脈から血液を採取し、血糖値を測定した。投与前の初期値を100%として、各時間帯の血糖値を換算した。
【0074】
その結果、図2に示したように、本発明のインスリン−キトサンコンジュゲート溶液により、インスリンが50IU/kg濃度で投与されたラット実験群では、初期血糖値に比べ、2時間経過後、40%以上血糖値が減少された反面、インスリンを含有していない塩水、インスリン自体、及びキトサン自体は、経口投与した場合、血糖値が低下しないことを確認した。
【0075】
それぞれのインスリン−キトサンコンジュゲートの経口投与後、図2から得られた血糖調節程度(area under curve, AUC)値から生体利用率を求めて、次の表2に要約した。インスリンを同質ラットに静脈注射及び皮下注射して得られた各血糖調節程度を、100%生体利用率を基準として分析した。また、比較群として、インスリン、たんぱく質分解酵素−キトサンコンジュゲート及びグルタチオン(還元剤)を含むチオール化(thiolated)キトサン−インスリンタブレット(Krauland AH, et al., J. Control Release, 24;95(3):547-555 (2004))製剤の知られた生体利用率と比較した。
【0076】
【表2】

その他*:チオール化(thiolated)キトサン−インスリンタブレットを投与した群
【0077】
上記表2から確認できるように、本発明のインスリン−キトサンコンジュゲートは、生体利用率も非常に優れていることが分かる。
【0078】
II.パクリタキセル−キトサンコンジュゲート
実施例4:パクリタキセルとリンカーとが結合されたパクリタキセル中間体の製造
パクリタキセル0.1g(0.117× 10-3 mol)(Samyang Genex Corp., Daejeon, Korea)を5mlのジクロロメタン溶液に溶解して、コハク酸無水物0.015g(0.152× 10-3 mol)(Sigma, St. Louis, MO)とピリジン12.9×10-3mL(0.160×10-3 mol)(Sigma)とを前記パクリタキセル溶液に添加して、室温で3日間攪拌した。前記攪拌溶液をシリカで充填されたカラムクロマトグラフィを利用して分離した後、乾燥して、パクリタキセルコハク酸誘導体を製造した。
【0079】
実施例5:パクリタキセル−キトサンコンジュゲートの製造
パクリタキセルコハク酸誘導体0.1g(0.105×10-3 mol)、EDC[1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride、Sigma]及びNHS(N-hydroxysuccinimide、Sigma)を、3mlのDMFに溶解した後、室温で4時間攪拌した(反応式3)。分子量3000、6000のキトサン0.2g(66.67× 10-6 mol)(KITTOLIFE, Co., Ltd., Seoul, Korea)をホウ酸緩衝液(3ml)とDMF(9ml)に溶解して、前記攪拌溶液に添加した後、室温で4時間攪拌した(反応式4)。反応溶液を蒸留水で透析して、凍結乾燥し、パクリタキセル−キトサンコンジュゲートを収得した。
【0080】
【化3】

【0081】
【化4】

【0082】
実験例6:パクリタキセル−キトサンコンジュゲートに存在するパクリタキセル量の測定
本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートに含まれたパクリタキセルの量を測定するために、実施例5で得られたパクリタキセル−キトサンコンジュゲート0.1mgを1mlのアセトニトリル/水に溶解した後、UV 227nmで吸光度を測定した。標準曲線を得るために、パクリタキセル(5、10、12.5、20、25)をアセトニトリル/水1mlに溶解した後、吸光度を測定して示した。標準曲線を利用してパクリタキセル−キトサンコンジュゲートに含まれたパクリタキセル量を計算した。測定結果、パクリタキセル−キトサンコンジュゲートが含有したパクリタキセル量は、キトサン分子量3000、6000に対して、それぞれ15〜20%、10〜15%であった。
【0083】
実験例7:パクリタキセル−キトサンコンジュゲートを利用した細胞毒性実験(in vitro)
本発明のパクリタキセル−キトサン(3000、6000Da)コンジュゲートをDMSOに溶解した後、細胞培養液で希釈し、パクリタキセル濃度0.01、0.05、0.1、0.25、0.5及び1μg/mlのパクリタキセル−キトサンコンジュゲート溶液を製造した。B16F10(黒色腫細胞、KTCC)を96ウェルに5×103cells/wellの密度で24時間培養した後、上記用意したパクリタキセル溶液を48時間処理した。処理後、MTT細胞生存率キット(Molecular Probe, Netherlands)を利用して、細胞の生存率を測定した。MTT 50μlを添加した後、37℃で4時間培養した。次いで、上清液を全て除去し、DMSO 100μlずつを96ウェルに入れて、マイクロプレートリーダー(microplate reader)で測定した。細胞の生存率は、次の数学式(1)によって計算した。
[数学式1]
細胞生存率(%)=(OD570(試料)/OD570(対照群))×100
コンジュゲーションされなかったパクリタキセル溶液を対照群として使用した。
【0084】
その結果、図3に示されたように、本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲート溶液に含まれたパクリタキセルの細胞毒性が、コンジュゲーションされなかったパクリタキセルと類似した細胞毒性を有していることを確認した。
【0085】
実験例8:パクリタキセル−キトサンコンジュゲートの経口投与による腫瘍抑制実験
B16F10(5×106 cells/mice)をC57BL6マウス(雄性、平均体重25g)の背中にある皮下に移植した。腫瘍の大きさが略50〜100mm3に達した時、治療群と対照群とに分けた。腫瘍を有した5〜6匹のマウスから構成された各群に対して実験を行い、変化を観察した。薬物または生理食塩水は、腫瘍移植後10日目から約30日間経口投与した。パクリタキセルとパクリタキセル−キトサンコンジュゲートは、kg当たり25mgを5日間投与して、その後2日間は投与しなかった。対照群には、生理食塩水、パクリタキセル、キトサンを投与した。腫瘍の成長程度を確認するために、口径測定装置で腫瘍の大きさを毎日測定した。腫瘍の大きさは、次の数学式2により計算した。
[数学式2]
腫瘍容積(Tumor volume:mm3)=(長さ×幅2)/2
【0086】
図4は、パクリタキセルとパクリタキセル−キトサンコンジュゲートがそれぞれ投与されたマウスにおける抗癌活性を示したグラフである。パクリタキセルを投与した群は、腫瘍の大きさにおいて、対照群に比べ大きな差を示さなかった。その反面、本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲート投与群は、対照群に比べ、腫瘍の大きさが著しく減少したことが分かる。
【0087】
腫瘍の大きさを測定すると同時に、マウスの生存率もモニタリングした。この際、腫瘍の大きさが8000mm3以上になると、安楽死させた。
【0088】
その結果、図5に示されたように、本発明のパクリタキセル−キトサンコンジュゲートの場合、100%のマウスが約30日間生存した反面、対照群の場合、30日以前に生存率が0%となることを確認した。
【0089】
以上、本発明の望ましい具現例を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述はただ望ましい具現例に過ぎなく、これに本発明の範囲が限定されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物により定義されると言える。
【0090】
[発明の効果]
本発明のコンジュゲートは、生体粘膜、特に、消化管(特に、胃腸管)にある粘膜で優れた吸収率及び生体的合成を示し、体内で分解されて、且つ経口投与時も優れた生体利用率を示すため、薬剤の経口投与による疾病の治療を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬理活性物質及び粘膜粘着性高分子がリンカーを介して共有結合されたコンジュゲート。
【請求項2】
前記薬理活性物質が経粘膜にて伝達されることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記薬理活性物質がたんぱく質、ペプチド、及び化合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記薬理活性物質がインスリンまたはパクリタキセルであることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記粘膜粘着性高分子が、500〜20000Daの分子量を有する合成または天然高分子であることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記天然高分子は、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
前記天然高分子は、キトサンであることを特徴とする、請求項6に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
前記合成高分子は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリシン、ポリエチレンイミン、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート、これらの誘導体、及びこれらの共重合体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
前記リンカーは、N−スクシンイミジルヨードアセテート(N-succinimidyl iodoacetate)、N−ヒドロキシスクシンイミジルブロモアセテート(N-hydroxysuccinimidyl bromoacetate)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、m−マレイミドベンゾイル−N− ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysulfosuccinimide ester)、N−マレイミドブチリルオキシスクシンアミドエステル(N-maleimidobutyryloxysuccinamide ester)、N−マレイミドブチリルオキシスルホスクシンアミドエステル(N-maleimidobutyryloxy sulfosuccinamide ester)、E−マレイミドカプロン酸ヒドラジド・HCl(E-maleimidocaproic acid hydrazide・HCl)、[N−(E−マレイミドカプロイルオキシ)−スクシンアミド]([N-(E-maleimidocaproyloxy)-succinamide])、[N−(E−マレイミドカプロイルオキシ)−スルホスクシンアミド] ([N-(E-maleimidocaproyloxy)-sulfosuccinamide])、マレイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(maleimidopropionic acid N-hydroxysuccinimide ester)、マレイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(maleimidopropionic acid N-hydroxysulfosuccinimide ester)、マレイミドプロピオン酸ヒドラジド・HCl( maleimidopropionic acid hydrazide・HCl)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)ピロピオネート(N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate)、N−スクシンイミジル−(4−ヨードアセチル)アミノベンゾアート(N-succinimidyl-(4-iodoacetyl) aminobenzoate)、スクシンイミジル−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(succinimidyl-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-l-carboxylate)、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(succinimidyl-4-(p-maleimidophenyl)butyrate)、スルホスクシンイミジル−(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート(sulfosuccinimidyl-(4-iodoacetyl)aminobenzoate)、スルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(sulfosuccinimidyl-4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、スルホスクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(sulfosuccinimidyl-4-(p-maleimidophenyl)butyrate)、m−マレイミド安息香酸ヒドラジド・HCl(m-maleimidobenzoic acid hydrazide・HCl)、4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシル酸ヒドラジド・HCl(4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-l-carboxylic acid hydrazide・HCl)、4−(4−N−マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド・HCl(4-(4-N-maleimidophenyl)butyric acid hydrazide・HCl)、N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(bis(sulfosuccinimidyl)suberate)、1,2−ジ[3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ブタン(1,2-di[3'-(2'-pyridyldithio)propionamido]butane)、ジスクシンイミジルスベレート(disuccinimidyl suberate)、ジスクシンイミジルタルトレート(disuccinimidyl tartrate)、ジスルホスクシンイミジルタルトレート(disulfosuccinimidyl tartrate)、ジチオ−ビス−(スクシンイミジルプロピオネート)(dithio-bis-(succinimidylpropionate))、3,3’−ジチオ−ビス−(スルホスクシンイミジル−プロピオネート)(3,3'-dithio-bis-(sulfosuccinimidyl-propionate))、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(ethylene glycol bis(succinimidylsuccinate))、及びエチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(ethylene glycol bis(sulfosuccinimidylsuccinate))からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
前記薬理活性物質がインスリンであり、前記粘膜粘着性高分子がキトサンであることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
前記インスリンとキトサンとは、−CO−(CH2)n−S−S−(CH2)n−CO−をリンカーとして共有結合されており、前記インスリンとキトサンのそれぞれの−NH2基が前記リンカーとアミド結合されており、前記リンカーの化学式において、nは1乃至5の整数であることを特徴とする、請求項10に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
前記薬理活性物質がパクリタキセルであり、前記粘膜粘着性高分子がキトサンであることを特徴とする、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
前記パクリタキセルとキトサンとは、スクシニル基(−CO−CH2−CH2−CO−)をリンカーとして共有結合されており、前記キトサンは、スクシニル基とアミド結合により結合されており、前記パクリタキセルは、スクシニル基とエステル結合により結合されていることを特徴とする、請求項12に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一つの項に記載のコンジュゲート及び薬学的に許容される担体を含む経粘膜投与用薬学的組成物。
【請求項15】
前記経粘膜は、口腔、鼻腔、直腸、膣、尿道、咽喉、消化管、腹膜、及び目の粘膜からなる群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記経粘膜が消化管粘膜であることを特徴とする、請求項15に記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51946(P2012−51946A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268031(P2011−268031)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【分割の表示】特願2008−531031(P2008−531031)の分割
【原出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(508032745)クワンジュ インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】