説明

藍藻由来界面活性物質とその合成法

【課題】生分解性を有して環境調和性があるが、比較的安定性も有している生物由来の界面活性物質の提供。
【解決手段】2-アシロキシエタンホスホン酸又はその塩は、藍藻から分離された天然物由来のもので、環境への問題も少ないと予想され、且つ、その化学構造もシンプルであることから、容易に合成することも可能で、界面活性を有しており、界面活性剤、洗浄剤、乳化剤、湿潤剤、分散剤、可溶化剤などとして、トイレタリー分野、化粧品分野、農薬分野、医薬品分野、洗剤、バイオサイエンス分野で有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然界から単離した界面活性を有する新規化合物、その製造方法、及びその用途、特には界面活性剤としての利用技術に関する。本発明の界面活性化合物は、食品工業を初めとする広範囲な分野での利用が期待される。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤は食品、化粧品、トイレタリー、医薬、農薬などの基材として広く用いられている機能性物質である。近年環境問題の高まりから、界面活性剤についても天然物もしくは天然物由来の界面活性剤が重視されるようになってきている。バイオサーファクタントは、広義には広く生物が産出する界面活性物質のことであり、古くから知られるサポニンやレシチン、石鹸などが代表的なものである。この界面活性物質についても、安全性と生分解性の大きい環境調和型の物質が好まれる状況にある。
バイオサーファクタントとしては、バクテリアなどの微生物が産出するものを利用する手法がとられている。例えば特許文献1には、微生物の産生物から得られる新規糖リン脂
質誘導体を提供することについての技術開示がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005-298408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境汚染などの問題を有しない、環境調和型の物質であって、安全性があり、安価であり、そして生分解性である新たな界面活性物質を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、天然物である藍藻類から単離された有用な界面活性作用のある新規な天然物および、その合成方法を提供する。
本発明者は長期に渡って自然界にある新規な物質の探索およびその工業的な合成方法についての研究を行ってきた結果、藍藻類から抽出した物質が界面活性作用を有する新規物質であることを見出し、さらに工業的な合成方法を考案した結果、本発明を完成するに至った。本発明は、以下の化合物、該化合物の界面活性剤としての使用、及び該化合物の製造方法を提供するものである。
【0006】
本発明の一つの態様では、次のものが提供される。
〔1〕一般式(1):
【0007】
【化1】

【0008】
(上式中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基であり、Ra及びRbは同一又は異なってよく、
互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3
である)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩。
〔2〕上記〔1〕記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩を含有することを特徴とする組成物。
〔3〕医薬、農薬及び化粧料からなる群から選択されたものの有効量と共に上記〔1〕
記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩を含有しており、且つ、当該組成物が、医薬組成物、農薬組成物及び化粧品組成物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項2記載の組成物。
〔4〕上記〔1〕記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の有効量を含有することを特徴とする界面活性組成物。
〔5〕上記〔1〕記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の有効量を含有することを特徴とする洗浄活性組成物。
〔6〕上記〔1〕記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の有効量を含有することを特徴とする乳化、分散又は可溶化活性組成物。
〔7〕一般式(2):
【0009】
【化2】

【0010】
(上式中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基であり、Yはハロゲン原子又は活性離脱基である)で表されるカルボン酸化合物と一般式(3):
【0011】
【化3】

【0012】
(上式中、Rc及びRdは同一又は異なってよく、互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3である)で表されるホスホン酸化合物又は
その塩とを反応させることを特徴とする上記〔1〕記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の製造法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の界面活性を持つ新規物質は、極めて安全性が高いと考えられる。さらに、広い適用範囲を持ち、多様な製品への利用が期待される。また、天然物から抽出されたものであることから、生分解性が高く、環境にもやさしい界面活性剤となり得る。このことから、例えば、シャンプーや洗顔料などトイレタリー分野への利用が期待される。
この物質の用途としては、バクテリアを除去して活性のある原生動物が付着しやすいようにする目的として廃水処理の生物膜についたバクテリアのコロニーのクリーニング処理に用いる物質としても適している。アルキルベンゼンスルホン酸などの強い殺菌作用を持つ物質を用いると、原生動物まで殺してしまうため、それよりも緩い作用を及ぼす物質として、本発明による物質は適している。また、本発明の物質の合成方法は、工業的に見て経済的な合成方法といえる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において得られた物質(以下「本物質」と記載)は、英国のBalgavies湖から採
取された水の華(waterblooms)を形成する藍藻植物から分離されたものである。特には、
シアノバクテリア(cyanobacteria; blue-green algae)、例えば、藍藻アファニゾメノン
、特にはAphanizomenon flos-aquaeより単離することが出来る。藍藻類は各種の毒物を生産することでも知られているが、本物質は無毒であり、界面活性作用を持つ物質である。
【0015】
(単離方法)
以下に、採取された藍藻類から本物質を単離した手法を示す。本物質は採取された藍藻類から、DEAE-Sephadex(ジエチルアミノエタンを含むカラム)によって吸着させる。カ
ラムに吸着させた物質は、その後、酢酸アンモニウム塩を含む溶媒によってカラムから溶出し、目的となる本物質を含む溶液として得た。本物質を更に高純度化させるために、シリカゲルのカラムを用い、また薄層クロマトグラフィ(TLC)を用いた。上記の単離法に
よって、母材料10グラムの中から、本物質を64ミリグラム得ることができた。
【0016】
(性状)
本物質の性状は、無色で結晶化していない固体である。またクロロホルム95%とメタノール5%を用いた薄層クロマトグラフィによる分析で、Rf値として0.67を得た。Rf値はTLC分析で得られる情報であり、TLCの展開条件が同一であれば物質に固有の値で、物質の同
定に利用できる値である。また、呈色試薬を選ぶことにより、選択的な検出が可能となる。
【0017】
(同定)
本物質の同定のために、1H-NMR(核磁気共鳴)を測定した結果、次なる結果が得られた。
5.3 ppm (2.6H, multiplet), 2.80 ppm (2H, triplet, J= 5.8 Hz), 2.16 ppm (2H, triplet, J=7.3 Hz), 2.07 ppm (0.4H, multiplet), 1.58 ppm (2H, quartet, J=7.3 Hz), 1.32-1.28 ppm (22H, broad multiplet), 0.96 ppm (0.3H,triplet, J= 7.3 Hz), and 0.89 ppm (2.7H, trilet, J= 7.0 Hz)
2.80ppmの信号はCH2がリンのようなヘテロ原子と結合していることを示し、2.80ppmを
除く信号は、含まれる本物質は半分程度不飽和脂肪酸が含まれているものであることを示している。
【0018】
ガスクロマトグラフ−質量分析(CG-MS)
CG-MSによって、本物質の脂肪酸の分析を行うために、1モルの塩酸を含むメタノールによって、80℃の温度で20時間程度メチル化の処理を行った。得られた脂肪酸メチルエステルはn-ヘキサンで抽出し、CI(化学イオン化)-EI(電子衝突イオン化)を用いたCG-MSにより分析を行った。
その結果、テトラデカン酸由来断片、ヘキサデカトリエン酸由来断片、ヘキサデカン酸由来断片およびオクタデカトリエン酸由来断片のイオンを検出した。不飽和脂肪酸のフラグメントは、M+- m/z 29 (CH3-CH2), M+- m/z 55 (CH3-CH2-CH=CH), M+- m/z 81 (CH3-CH2-CH=CH-CH=CH), m/z 107 (CH3-CH2-CH=CH-CH=CH-CH=CH) and m/z 121 (CH3-CH2-CH=CH-CH=CH-CH=CH-CH2)が観察された。
これらの結果から、不飽和脂肪酸の二重結合の位置がオメガ−3,5,7の位置にあること
が見出された。得られた脂肪酸の組成については、表1に示した。
【0019】
【表1】

【0020】
最も多い脂肪酸はパルチミン酸(C15H31COOH)であり、全体の84%を占めた。そのほかに、ミリスチン酸(C13H29COOH)、オレイン酸(C17H33COOH)に相当する脂肪酸も観測されており、本物質内に含まれている脂肪酸として特定できる。
【0021】
液体クロマトグラフィー−質量分析(LC-MS)
脂肪酸メチルエステルの抽出後、リン酸を含む溶液をLC-MSによって分析を行った。そ
の結果、2-ヒドロキシエタンホスホン酸(2-hydroxyethanephosphonic acid, HO-CH2-CH2-PO3H2)であることが分った。
構造内のC-Pの結合の存在は、5M H2SO4水溶液と70%(v/v)過塩素酸水溶液で加水分解処
理を行い確認した。
次いで、完全な本物質の構造を明らかにするために、1H-1H COSYスペクトルを観察した。NMRで観測される信号は展開時間(t1)と観測時間(t2)の2つの時間変数の関数となるので、両方の時間軸でフーリエ変換するとスペクトルは2つの周波数軸ω1、ω2上のピークとして観測される。これを等高線プロットしたものが2次元NMRスペクトルで、COSYスペクトルと呼ばれる。その結果は図1に示してあり、各スペクトル信号を、次のように割り当て
た。
【0022】
5.3 ppm (2.6H, multiplet) and 2.80 ppm (2H, triplet, J= 5.8 Hz)は脂肪酸のカルボ
キシル基によるエステル化。
5.3 ppm と2.07 ppm (0.4H, multiplet)の間のピークは、他の不飽和脂肪酸の炭素に隣接したオレフィン(CH=CH-CH2-)上の水素。
その他のスペクトルの信号は次の通りに割り当てられた。
5.3 ppm (multiplet, olefin protons of fatty acid and -C(=O)-O-CH2-CH2-P); 2.80 ppm (O-CH2-CH2-P); 2.16 ppm (CH2-CH2-COO of fatty acid); 2.07 ppm (CH=CH-CH2- of fatty acid); 1.58 ppm (-CH2-CH2-COO of fatty acid); 1.32-1.28 ppm (-CH2-CH2-CH=CH- of unsaturated fatty acid and CH2 of saturated fatty acid), 0.96 ppm (CH3 of unsaturated fatty acid), and 0.89 ppm (CH3 of saturated fatty acid)
また、化学シフトとの比較で見た場合も、分離された本物質は上で解析した構造に完全に一致した。
【0023】
以上のことから、本物質は、2-アシロキシエタンホスホネート (2-acyloxyethanephosphonate)であって、2-ヘキサデカノイロキシエタンホスホネート又は2-パルミトイロキシ
エタンホスホネート(2-hexadecanoyloxyethanephosphonate又は2-palmitoyloxyethanephosphonate, C15H31CO-O-(CH2)2-PO-(OH)2又はCH3(CH2)14CO-O-(CH2)2-PO-(OH)2)を多く含む物質であることが分かる。
【0024】
本界面活性物質は、アルカリ性水溶液、メタノール、エタノール、クロロホルムなどの
溶媒に容易に溶解する。本物質は、酸ホスファターゼ類及びアルカリ性ホスファターゼ類によっては加水分解されなかった。つまり、本物質のC-P結合は、ホスファターゼ類に対
して抵抗性がある。
本物質の界面活性の効果は、水中でリン酸基の-OHの水素がイオン化することによって
親水性が生じることにより発現する。なお、本物質を科学技術論文に掲載された化学物質のデータベースの検索システムSciFinderを用いて検索した結果、類似の構造を持つ物質
群は検出されていない。
本物質は天然物からの抽出によって得られたものであるが、構造が簡単であるために合成が可能である。
かくして、本発明では一般式(1):
【0025】
【化4】

【0026】
(上式中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基であり、Ra及びRbは同一又は異なってよく、
互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3
である)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩が提供され、本物質は当該化合物(1)に包含される。
該化合物(1)において、基Rは飽和又は不飽和の炭化水素基であるが、当該炭化水素
は、分岐鎖のものであっても、直鎖のものであってもよく、また、当該不飽和の炭化水素基の不飽和結合は、二重結合あるいは三重結合のいずれであってもよく、それら不飽和結合は1個以上、例えば、1〜12個、ある場合には1〜10個、あるいは1〜8個、好適には1〜6
個又は1〜3個存在していてよく、さらにそれ以上の複数個存在したり、二重結合と三重結合が混在していてよい。例えば、基Rは飽和又は不飽和で、直鎖又は分岐鎖の、炭素数1〜31個を有する脂肪族炭化水素基であってよく、より具体的には、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜31個を有するアルキル基、直鎖又は分岐鎖の炭素数2〜31個を有するアルケニル基などが挙げられる。該炭化水素基は、非置換又は置換されていてよく、置換されている場合の置換基としては、水酸基又はアルコキシ基などが挙げられる。
【0027】
基Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基
、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1〜4個を有する低級アルキ
ル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの炭素数5〜8個を有するアルキル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などの炭素数9〜19個を有するアルキル基、エイコシル基(アラキル基, arachyl)、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基(カルナービル基)、ヘキサコシル基(セリル基, ceryl)、トリアコンチル基(ミリシル基, myricyl)、オレイル基などの炭素数20個以上を有するアルキル基などが挙げられる。基Rとしては
、好ましくは、飽和又は不飽和の炭素数11〜19個を有するアルキル基、例えば、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などが挙げられる。
【0028】
該化合物(1)において、R-CO-基はカルボン酸由来のアシル基であって、該カルボン
酸としては、例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、アラキン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、エルカ
酸、セラコレイン酸、リノール酸、ヒラゴン酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、セトレイン酸、ドコサヘキサエン酸、2-メチルドデカン酸、2-メチルテトラデカン酸、2-メチルヘキサデカン酸、2-メチルオクタデカン酸、2-エチルドデカン酸、2-ブチルドデカン酸、2-エチルオクタデカン酸などが挙げられる。該カルボン酸として、好ましいものとしては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。
【0029】
Ra及びRbにおける「陽イオン」としては、当該界面活性剤の分野で当業者に知られている陽イオンであればいずれであってもよく、それらから適切なものを選択でき、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛などのその他の金属からなる群から選択されたもの、アンモニウム、第一級、第二級、第三級あるいは第四級アンモニウム、ピリジニウムなどの複素環化合物などからなる群から選択されたものなどが挙げられる。当該陽イオンの好ましいものとしては、例えば、K+, Na+, Li+, NH4+, CH3NH3+, C2H5NH3+, HOCH2CH2NH3+, (HOCH2CH2)2NH2+, (HOCH2CH2)3NH+などが挙げられる。
該化合物(1)において、nは2又は3であるが、このましくは2のものが挙げられる。
【0030】
上記ホスホン酸酸誘導体又はその塩(1)は、一般式(2)のカルボン酸化合物と一般式(3)のホスホン酸化合物又はその塩とを反応させることにより製造することができる。
【0031】
【化5】

【0032】
(上式中、R、Ra及びRbは上記と同様の基であり、Yはハロゲン原子又は活性離脱基であり、Rc及びRdは同一又は異なってよく、互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3である)
「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。「活性離脱基」としては、アシルオキシ基、アルコキシ基などが挙げられる。Rc及びRdにおける「陽イオン」としては、上記Ra及びRbにおける陽イオンと同様のものが挙げられる。該カルボン酸化合物(2)の好ましい例としては、酸ハライドが挙げられ、例えば、酸クロライドなどを好適に使用できるが、酸無水物を使用してもよい。
【0033】
当該反応は、無溶媒(反応原料が溶媒を兼ねる場合を含んでよい)中又は反応に不活性な溶媒存在下にて行うのが有利である。該溶媒は、非水溶媒あるいは水性溶媒の区別なく、且つ、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素類、ソルベントナフサ、石油エーテル、リグロイン、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロヘキサン等のハロゲン化炭化水素類、例えば、2-メチルブタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2,2,3-トリメチルヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタリン等の飽和炭化水素類又は脂肪族炭化水素類、例えば、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、イソアミルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、テトラヒドロフルフリルアルコ
ール、ジエチレングリコール、シクロヘキシルメチルエーテル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルtert-ブタノール等のエーテル類、例えば、アセトン
、メチルエチルケトン、フルフラール、メチルイソブチルケトン、メシチルオキシド、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン類、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等のスルホキシド類、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセ
トアミド等のアミド類、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、炭酸ジエチル、炭酸グリコール等のエステル類、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸等の有機酸類、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、キノリン等の複素環化合物、アニリン、N-メチルアニリン等の芳香族アミン類、ニトロ化合物等が挙げられ、適切なものを選択して使用される。これらの溶媒は単独で用いることもできるし、また必要に応じて二種又はそれ以上の多種類を適当な割合、例えば、1:1〜1:10の割合で混合して用いてもよい。該反応は、酸又はアルカリ触媒の
存在下におこなってもよい。
【0034】
当該反応の反応温度は、通常、−100℃〜200℃、好ましくは−80℃〜150℃、より好ま
しくは−10℃〜100℃、さらに好ましくは0℃〜50℃で、0℃〜室温でも良好に行うことが
でき、また、好ましい。反応時間は、通常、1分〜2週間、好ましくは5分〜50時間、より好ましくは10分〜35時間、さらに好ましくは15分〜20時間の範囲である。生成物は反応液のまま、あるいは粗製物として用いることもできるが、常法に従って反応混合物から単離することもでき、濃縮、減圧濃縮、蒸留、分留、溶媒抽出、液性変換、転溶、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、カラムクロマトグラ
フィーなどのクロマトグラフィー、結晶化、再結晶等により、単離精製することができる。
【0035】
上記のホスホン酸化合物又はその塩(3)は、ハロゲノヒドリン(5)とリン酸又はその塩(4)とを反応させるか、あるいは、アルキレンオキシド(6)とリン酸又はその塩(4)とを反応させることにより得られる。
【0036】
【化6】

【0037】
(上式中、Rc及びRdはは上記と同様の基であり、Xはハロゲン原子であり、Re及びRfは同
一又は異なってよく、互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3である)
ここでハロゲン原子は、上記と同様のものであってよく、例えば、塩素原子が好適に使用できる。
ハロゲノヒドリン(5)とリン酸(4)の反応では、ハロゲノヒドリン(5)を塩基存在下に処理してアルキレンオキシドを形成せしめ、当該生成したアルキレンオキシドを単離することなくリン酸(4)と縮合せしめることによってもよい。
当該反応は、無溶媒(反応原料が溶媒を兼ねる場合を含んでよい)中又は反応に不活性な溶媒存在下にて行うのが有利である。該溶媒は、非水溶媒あるいは水性溶媒の区別なく、且つ、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、上記したような溶媒又はそれらの混合物中で行うことができる。好適には、アルカリ性で反応を行うことができる。
【0038】
当該反応の反応温度は、通常、−100℃〜200℃、好ましくは0℃〜150℃、より好ましくは0℃〜100℃、さらに好ましくは0℃〜50℃で、0℃〜室温でも良好に行うことができ、ま
た、好ましい。反応時間は、通常、1分〜2週間、好ましくは5分〜50時間、より好ましくは10分〜35時間、さらに好ましくは15分〜20時間の範囲である。生成物は反応液のまま、あるいは粗製物として用いることもできるが、常法に従って反応混合物から単離することもでき、単離精製法としては上記した手法を適用できる。
上記ハロゲノヒドリン(5)としては、クロロヒドリン、例えば、エチレンクロロヒドリン、プロピレンクロロヒドリンなどを好適に使用できる。
アルキレンオキシド(6)を使用する場合には、リン酸溶液中にそれを吹き込んだり、あるいは、両者を混合し加熱することで反応が進行するので便利であるし、工業的に優れている。溶媒、反応条件などは上記に準じて行うことでよい。アルキレンオキシド(6)としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどを好適に使用できる。
【0039】
(生物・環境への影響)
本物質は自然界から抽出した天然物である。藍藻類が個体形成のために多量に産生し、藍藻類の死滅によって水中に拡散してきた。人を含む動物は、多かれ少なかれ本物質を経口摂取してきているが、これまでに藍藻類の組織を形成する物質中に生物に対して毒性を持つものは見つかっていない。またその構造などから推定しても、人を含む動物の代謝阻害を誘発したり、肺組織や消化管組織との結合による害毒をもたらすとは考え難いものである。実際に、毒性のテストとして抽出し得られた本物質をヌカエビに与える実験を行い、毒性は全くないことを確認している。なお、特定の藍藻類が生産するミクロシスチンなどの毒性を有する物質は、藍藻類が固体形成のために生産している本物質などとは全く別のものである。
また、環境中においても藍藻類の固体形成に用いられる本物質は自然環境中で分解するものであり、生分解性に優れていると予想される。特に直鎖のアルキル基にC-P結合によ
って結合されたリン酸基を有するものにおいては、リン酸活性酵素によりリン酸基が優先的に解離するということもなく、他の結合と同様に緩やかな分解が行われる。結果として、湖沼の富栄養化の原因となるようなリン成分が優先的に溶出することもない。
【0040】
本発明の化合物(1)は、界面活性を示す。界面活性は当該化合物の水溶液などの表面張力(特定の濃度の)を測定したりして確認できる。該化合物(1)はミセル形成活性を示す場合がある。また、該化合物(1)は水に難溶性又は不溶性の物質を可溶化する活性を示す場合がある。該化合物(1)は起泡性又は泡安定化作用を示す場合がある。また、一方では、該化合物(1)はその有する破泡作用及び/又は抑泡作用といった消泡作用を利用できる。さらに、該化合物(1)はぬれ現象に活性を示し、例えば、付着(接着)ぬれ、浸透(浸漬)ぬれ、拡張ぬれなどの性状を変化させる。該化合物(1)は乳化作用、分散化作用及び/又は可溶化作用を示し、乳化剤、分散剤、分散安定化剤、湿潤剤及び/又は可溶化剤などとして有用である。該化合物(1)のHLB値を検討するなどしてこれらの活
性を評価してもよい。
本発明の化合物(1)は、洗浄活性を示し、洗浄剤として有用である。該化合物(1)は金属材料などの寿命を延ばすための腐食抑制剤、防錆油添加剤、さらには、潤滑油又は潤滑油添加剤、さらには摩擦緩和剤、清浄分散剤、酸化・腐食防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、グリース添加剤、切削油剤などとしても有望である。合成樹脂や合成繊維などの高分子化合物の分野では、本発明の化合物(1)は、帯電防止剤又はその添加物として期待される。
【0041】
農薬(防カビ剤、殺虫剤、殺鼠剤、除草剤、殺菌剤、植物成長調整剤など)の乳化、湿潤、固結防止、展着、可溶化などのため、さらには肥料の固結防止、消泡などに、本発明の化合物(1)を配合することができる。
本発明の化合物(1)は、トイレタリー・化粧品の分野では、洗浄活性を利用して、洗剤、シャンプー、洗顔剤、歯みがき、ボディシャンプーなどに配合できる。また、クリーム状の化粧品、例えば、コールドクリーム、バニシングクリームなど、乳液、化粧水など
の基礎化粧品、さらには仕上げ用化粧品、ヘアークリーム、ヘアーリッキド、ヘアーリンスなどの頭髪用化粧品などに使用できる。さらには、石鹸、柔軟仕上げ剤、入浴剤、保湿剤、芳香剤などにも配合できる。
該化合物(1)は、食品工業の分野では、油脂類と親水性物質との混合を均一化せしめたり、製品のレオロジー的性質を良好にしたり、外観、風味、口あたり、保存性、形状保持などのために使用されてよく、また製造時の作業性の向上に役立てるために使用されるものであってもよい。
【0042】
医薬品工業の分野では、乳化、可溶化、あるいは分散化のために使用したり、乳剤、懸濁剤、液剤などに添加物として配合したりできるし、粉末剤、固型製剤などでは製造を効率よく行うためとか、製品の品質向上などのために使用できる。特に、本発明の化合物(1)は天然物に由来するものであるので、医薬品配合成分として有用で、例えば、乳化剤、分散剤、可溶化剤、医薬活性物質の助剤などとして有用である。特には、脂溶性薬剤及び/又は医薬品を水に可溶にする際に用いると均一に分散し、生体に吸収され易くなる。
醗酵工業、バイオサイエンスなどの分野、さらにはセラミック、半導体加工及び/又は製造などを含めたファインケミカル分野でもその性質を利用して様々な用途に使用できる。
建設土木の分野でも、該化合物(1)は、コンクリートあるいはモルタル用混和剤、沈降凝集剤、土壌改良剤、粉塵抑制剤などとして有用である。
本発明の化合物(1)は、簡単な工程で合成でき、且つ、安価に合成できる。本発明の化合物(1)は、難溶性物質の可溶化に有用である。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0043】
(a) シアノバクテリア由来の水の華(藍藻)試料の調製
英国スコットランド、フォーファ、バルガビース ロック(Balgavies Loch, Forfa, Scotland, England)の水面より水の華という藻、すなわち、アファニゾメノン藍藻(Aphanizomenon flos-aquae)を採集した。集められた試料は直ちに−20℃で凍結された。試料は凍結乾燥処理されて、得られた細胞粉末は−20℃で保存された。
【0044】
(b) 抽出単離処理
A. flos-aquaeの凍結乾燥された細胞(乾燥重量で10g)をメタノールで抽出処理した。得られた抽出物を減圧下にエバポレーション処理した。こうして得られた残留物をクロロホルム:メタノール:水(3:7:1, v/v)の混合物に懸濁し、DEAE-Sephadexカラム(内径20mm×長さ300mm)にかけた。該カラムをクロロホルム:メタノール:0.05M酢酸アンモニウ
ム水溶液(3:7:1, v/v)の混合物(200ml)で洗った後、クロロホルム:メタノール:0.2M酢
酸アンモニウム水溶液(3:7:1, v/v)の混合物で溶出処理し、界面活性を有する物質を溶出した。
界面活性を有する画分を減圧下にエバポレーション処理し、次にクロロホルムに懸濁した。得られた懸濁物をシリカゲルカラム(内径20mm×長さ300mm, Iatrobeads: Iatron Laboratories、東京、日本)にかけた。該カラムはクロロホルム、そしたメタノール−クロロホルム混液(40:60, v/v; 200ml)で溶出して、界面活性を有する物質を集めた。溶出さ
れた界面活性を有する物質はさらにHPTLC(E. Merck, 螢光インジケーターを含有するシリ
カゲル60)によりクロロホルム:メタノール混液(95:5, v/v)を溶媒として用いて精製し
た。結果、界面活性物質(下記で2−アシロキシエタンホスホネートであることが確認された)を64mg(収率0.64%)、無色のアモルファス状固体として得た。
当該物質の1H-NMRスペクトル(CD3OD中)は、表2に示し、1H-1H COSYスペクトル(CD3OD
中)の結果は、図1に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
(c) 界面活性物質のメタノリシス
上記(b)で単離精製された界面活性を有する物質(100μg)を1.0M HClを含有するメタノ
ールでもって80℃で20時間処理してメタノリシス処理した。メタノリシス処理生成物液に水(2ml)を加え、n-ヘキサンで脂肪酸メチルエステル類を抽出し、CI及びEIを使用してのGC-MSにより分析した。その残りの水性溶液は、減圧下に濃縮処理し、LC-MS分析に付して
ホスホネート化合物を調べた。
脂肪酸メチルエステル類のCG-MS分析の結果は次の通りであった。
テトラデカン酸メチルエステル: Rt, 8.30 min; CI, m/z 243 (M+1)+ ; EI, m/z 232 (M+), 199, 143, 87 及び74 (base peak)
ヘキサデカン酸メチルエステル: Rt, 9.34 min; CI, m/z 271 (M+1)+ ; EI, m/z 227 (M+), 171, 87及び74 (base peak)
ヘキサデカトリエン酸メチルエステル: Rt, 9.20 min; CI, m/z 265 (M+1)+ ; EI, m/z
264 (M+), 235, 163, 149, 135, 121, 107, 95及び79 (base peak)
オクタデカトリエン酸メチルエステル: Rt, 10.22 min; CI, m/z 293 (M+1)+ ; EI, m/z 292 (M+), 263, 163, 149, 135, 121, 95 (base peak)及び79
2-ヒドロキシエタンホスホン酸のLC-MS分析の結果は次の通りであった。
Rt, 9.74 min; ESI (oisitive), m/z 126 (M)+ 及び125 (base peak)
【0047】
構造内のリンの結合の解析は次のようにして行った。
エステル形態のリン結合を加水分解する5M H2SO4水溶液で加水分解処理した場合と、ホスホネート形態のリン結合を加水分解する70%(v/v)過塩素酸(perchloric acid)水溶液で
加水分解処理した場合とを比較したところ、メタノリシス処理で得られたもののうちの水に可溶性の物質中のリンの結合は、70%過塩素酸水溶液で加水分解されたが、5M H2SO4
溶液では加水分解されないことから、ホスホネート形態(C-P)のものであることが確認さ
れた。
かくして、英国スコットランドの湖の水面の水の華という藻(アファニゾメノン藍藻;
Aphanizomenon flos-aquae)より単離精製せしめられた界面活性物質は、2-アシロキシエ
タンホスホン酸(2-acyloxyethanephosphonic acid, HO-CH2-CH2-PO3H2)であることが同定された。アシル部は、脂肪酸に由来する残基で、その組成は表1に示した。
【実施例2】
【0048】
(化学合成方法)
本物質は天然物からの抽出によって得られたものであるが、構造が簡単であるために化学合成が可能である。そこで、物質の同定のために以下の合成を行った。
(1)2-オレイロキシエタンホスホネート(2-oleoyloxyethanephosphonate)の合成
(オレイン酸クロライドからの合成)
1M水酸化ナトリウム水溶液中、4℃でエチレンクロロヒドリンを反応させ、続いて12.5℃で蒸留することによりエチレンオキシドを合成した。次に10%エチレンオキシド水溶液(0.1mol)中に0℃でリン酸(0.1mol)を滴下して反応させることで2-ヒドロキシエタンホスホン酸(2-hydroxyethanephosphonic acid)を得た(収率30%)。続いて、2-ヒドロキシエタン
ホスホン酸 (0.01mol)を含む乾燥ピリジン溶液に、オレイン酸クロライド(0.01mol)を添
加し、−20℃で反応させることにより、2-オレイロキシエタンホスホネートを得た(収率56%)。
2-オレイロキシエタンホスホネーの1H-NMR:
5.3 ppm (4H, multiplet), 2.80 ppm (2H, triplet, J= 5.8 Hz), 2.16 ppm (2H, triplet, J=7.3 Hz), 2.07 ppm (4H, multiplet), 1.58 ppm (2H, quartet, J=7.3 Hz), 1.32-1.28 ppm (20H, broad multipet), and 0.89 ppm (3H, triplet, J= 7.0 Hz)
【0049】
(2)上記反応(1)のオレイン酸クロライドの代わりにラウリン酸クロライドを原料として合成を行った。反応条件は上記(1)と同様であり、2-ヒドロキシエタンホスホン酸とラウリン酸クロライドとを反応させて、2-ラウロイロキシエタンホスホネート(2-lauroyloxyethanephosphonate, CH3(CH2)10CO-O-(CH2)2-PO(OH)2)を得た。
【0050】
(3)上記反応(1)のオレイン酸クロライドの代わりにパルミチン酸クロライドを原料として合成を行った。反応条件は上記(1)と同様であり、2-ヒドロキシエタンホスホン酸とパルミチン酸クロライドとを反応させて、2-パルミトイルオキシエタンホスホネート(2-palmitoyloxyethanephosphonate, CH3(CH2)14CO-O-(CH2)2-PO(OH)2)を得た。
【0051】
上記と同様にし、2-ヒドロキシエタンホスホン酸と下記の酸クロライドとを反応せて、対応する界面活性物質を得る。
カプリン酸クロライド
ミリスチン酸クロライド
ステアリン酸クロライド
パルミトレイン酸クロライド
リノール酸クロライド
リノレン酸クロライド
エイコサペンタエン酸クロライド
ドコサヘキサエン酸クロライド
ヘキサデカトリエン酸クロライド
オクタデカトリエン酸クロライド
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明では、生分解性を有していて環境調和性があるが、比較的安定性も有している生物由来の界面活性物質が提供される。該界面活性物質は、2-アシロキシエタンホスホン酸又はその塩であって、藍藻から分離された天然物由来のもので、環境への問題も少ないと予想され、且つ、その化学構造もシンプルであることから、容易に合成することも可能で
、化合物(1)に包含され、その界面活性を利用して、界面活性剤、洗浄剤、乳化剤、湿潤剤、分散剤、可溶化剤などとして、化粧品分野、農薬分野、医薬品分野、洗剤、トイレタリー分野、バイオサイエンス分野で有用である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】水の華を構成するシアノバクテリアより単離精製された界面活性物質(すなわち、2-アシロキシエタンホスホネートの1H-1H COSYスペクトル(CD3OD中)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(上式中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基であり、Ra及びRbは同一又は異なってよく、
互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3
である)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩。
【請求項2】
請求項1記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩を含有することを特徴とする組成物。
【請求項3】
医薬、農薬及び化粧料からなる群から選択されたものの有効量と共に請求項1記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩を含有しており、且つ、当該組成物が、医薬組成物、農薬組成物及び化粧品組成物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の有効量を含有することを特徴とする界面活性組成物。
【請求項5】
請求項1記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の有効量を含有することを特徴とする洗浄活性組成物。
【請求項6】
請求項1記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の有効量を含有することを特徴とする乳化、分散又は可溶化活性組成物。
【請求項7】
一般式(2):
【化2】

(上式中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基であり、Yはハロゲン原子又は活性離脱基である)で表されるカルボン酸化合物と一般式(3):
【化3】

(上式中、Rc及びRdは同一又は異なってよく、互いに独立に、水素原子及び陽イオンからなる群から選択されたものであり、nは2又は3である)で表されるホスホン酸化合物又は
その塩とを反応させることを特徴とする請求項1記載の一般式(1)で表されるホスホン酸誘導体又はその塩の製造法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−24616(P2008−24616A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197273(P2006−197273)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】