説明

藻場礁

【課題】アワビやサザエなどの水産資源の増養殖と、藻場の造成に大きく寄与し、沿岸環境の改善に効果のある藻場礁を提供する。
【解決手段】藻場礁1は、中央部に上下方向に貫通する通水孔21を備える方形板状の基盤2に対して、その下面側に複数の支脚3を設けるとともに、上面側には複数本の柱体4を立設し、さらに基盤2の上面と側面に円盤体23a,23bを設け、上面には複数のトラフ体22を伏せた状態で、それらの開口部が通水孔21の軸心に向くようにほぼ放射状に配置された構造である。そして、柱体4と上面の円盤体23aには同じ種類の海藻種苗5aを取り付け、側面の円盤体23bには異なる種類の海藻種苗5bを取り付ける。海水は、基盤2の下面側から通水孔21を上昇して柱体4で生育している海藻種苗5aに揺動作用を与え、良好な光環境を確保するとともに、新鮮な海水を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻場形成に伴うアワビやサザエなどの磯根資源の増殖、さらには魚類の増殖機能があり、沿岸環境の改善にも寄与する藻場礁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、沿岸での各種魚介類の増養殖においては、一般にそれぞれの生態を考慮した形状の人工魚礁が使用されている。これら人工魚礁は、魚介類の住処としての機能に主眼が置かれているが、特にアワビ、サザエ、ウニのような有用磯根資源である藻食性動物を対象とする場合には、当該増養殖区域において、コンブ科海藻等の餌料海藻類を確保することが不可欠である。このため、人工魚礁の沈設場所は、一定規模以上の海藻群落が近くに存在するような区域が原則として選択されている。これら人工魚礁の素材としては、コンクリート、金属、合成樹脂等が使用されているが、沈設した後も表面がそのまま剥き出した状態が続くよりは、海藻類が着生している状態のほうが魚介類の生育環境として好ましく、多くの生物を蝟集する上で有利である。さらに、人工魚礁には藻場礁としての役割も望まれることが多く、藻場造成の中核となることも期待されている。この場合、魚礁表面への海藻の着生は、周囲に自生している海藻から放出された胞子を介して行われる。そこで、海中に浮遊している海藻胞子を魚礁表面で積極的に捕捉する手段が検討され、これまでに幾つかの提案がなされている。例えば、平面視略十字状のコンクリート製ブロックの上面部分を凹凸状に形成し、この凹凸部分において海藻胞子を捕捉することが開示されている(特許文献1)。また、偏平で横断面が略U字状のブロック本体の上部に、それら開口部を跨ぐように表面が微細な凹凸状に形成されている着生板を設置するものもある(特許文献2)。これらの従来技術は、いずれも浮遊する海藻胞子をブロック表面の凹凸部を利用して付着させるものである。また、これら従来技術の問題点を解決するものとして、本出願人は海藻種苗を所々に取り付けた複数本の柱体をコンクリート基盤上に立設することにより、海中を立体的に利用する藻場造成用の骨格構造物を提案している(特許文献3)。
【特許文献1】実開昭63−50929号公報
【特許文献2】実用新案登録第2516827号公報
【特許文献3】特許第2905432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
すなわち、上記特許文献1,2に記載の人工魚礁においては、いずれも魚礁本体が平面的でその高さが低い形状のものであるから、魚礁表面に着生した海藻が、海底から舞い上がった砂泥に洗われて流されやすく、藻場礁としての機能面では永続性に欠けるという本質的な問題があった。さらに、この種の骨格構造物は比較的平坦な海底を選んで設置されるのが通例であるから、海藻胞子の捕捉面となる魚礁の上面が、必然的に流れに対してほぼ平行に近い形で配置されることが多い。斯かる状況下では、それら凹凸部が流れの抵抗になりにくいことから、必ずしも有効に機能しない。すなわち、海藻胞子の多くは魚礁の上面で捕捉されることなくそのまま素通りしてしまい、藻場造成の中核となるどころか、人工魚礁全体に海藻が繁茂した状態までにはなかなか至らないのが実情である。
【0004】
このように、人工魚礁表面への海藻の着生は、流れを利用した胞子の付着という偶然性の高い自然現象に依存することから、その捕捉面が流れに対してほぼ平行に配置される上記従来例は、いずれも海藻胞子を捕捉する上では効率的な構造とは言い難く、確実性に欠けるものである。特に、周囲に胞子の供給源となる母藻が少ない区域で実施した場合には、その傾向が顕著に現れることから、増養殖場所の選択に大きな制約があり、しかも着生した海藻が短期間で消滅しやすく藻場としての永続性の点で問題があるなど、いずれも改善すべき余地を多く残すものであった。
【0005】
これに対して、特許文献3に記載の柱状構造物は垂直面が多く、当該柱状部においては浮泥などが堆積しにくく、特にコンブ類の着生、生育に好ましい環境を実現できるものである。しかしながら、基盤の上面は基本的に平坦状であり、浮泥や砂の影響を受けやすいという点においては、上記特許文献1,2に記載のものと同様である。さらに、複数の柱体を直立させることにより、高い密度で海藻を着生させることができるものの、その生長に伴って海藻同士が互いに重なり合い、十分な光量を確保できないことなどもあり、互いに競合する結果、その立体構造が海藻密度の増加にあまり寄与しない事例も見られた。
【0006】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みなされたもので、海中での受光環境および浮泥の堆積を改善することにより、短期間で海藻を高密度で繁茂させることができ、しかもその状態が長期間にわたり維持され、これを餌料とするアワビ等の水産資源の増養殖に大きく寄与するとともに、自らが藻場造成の中核となって沿岸環境の改善にも役立つ藻場礁の提供をその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の問題点を解決するため、本願の請求項1に係る藻場礁では、上下方向に貫通する通水孔が中心部に形成された板状の基盤、この基盤の下面にあって前記通水孔と海底との間に間隔を保持する複数の支脚、前記基盤の上面側で通水孔の周囲に立設される複数の柱体、及びこれら柱体に取り付けられる海藻種苗を備える構成を採用した点に特徴がある。
【0008】
さらに、上記請求項1に係る藻場礁において、複数のトラフ体を前記柱体間に伏せた状態で前記通水孔に対して放射状に配置した構成(請求項2)、あるいは前記基盤の上面と側面に複数の円盤体を設置し、少なくとも側面の円盤体と柱体との間では異なる種類の海藻種苗を取り付けた構成(請求項3)とすることも可能である。これらトラフ体や円盤体の基盤への付加は、藻場礁としての機能向上、多機能化(増殖礁、魚礁としての効果)を促進する上で有効な手段である。なお、請求項3の構成において、柱体にはコンブ類、側面の円盤体にはホンダワラ類を選択した場合には、海藻の着生床として基盤の上面側のみならず側面も利用することができ、基盤の表面全体を有効に活用することができる(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る藻場礁では、上記のような構成を採用したことにより、次の効果を得ることができる。
(1)板状の基盤の下面に複数の支脚を設けるとともに、基盤の中心部には上下方向に貫通する通水孔を形成したので、基盤の通水孔の下面側と海底との間に間隔を保持することができる。このため、通水孔を介して基盤の上面側と下面側とで海水の流動が生じ、柱体等の表面で生育する海藻種苗に適度な揺動を与える。この揺動作用は、海藻種苗に対して新鮮な海水を安定的に供給すると同時に、海藻種苗が柱体上で互いに重なり合うほど密に繁茂している状態であっても、その着生位置にかかわらず各海藻種苗に満遍なく光を与え、受光環境を向上させることから、その生育に好影響を与え、海藻種苗の生育を均一化させる。
(2)上記のような海水流動は、基盤上面において掃流効果を生じさせるので、基盤上面での浮泥等の堆積が大幅に減少する。その結果、柱体等に取り付けた海藻種苗から放出される胞子等が基盤上面で着生しやすくなり、そこで繁茂した海藻により水産生物の棲息空間が形成される。さらに、基盤は複数の支脚により海底面から所定の間隔だけ離されるので、基盤の下面側の稜角部にも海藻が着生するようになり、限られた面積の基盤表面を有効に活用することができる。
(3)基盤の中央部に設けた通水孔が水産生物の移動通路として利用されるとともに、基盤の下面側に存在する空間は陰となって魚類等の住処となる他、基盤の下面がサザエやアワビなどの貝類の付着場所、あるいはヤリイカなどの産卵場所として利用されるなど、本発明に係る藻場礁は、いろいろな生物を多種多様に収容することができる。
(4)複数のトラフ体を前記柱体間に伏せた状態で前記通水孔に対して放射状に配置すれば、陰となる場所が基盤の下面以外にも形成されるので、水産生物の住処が増加する。この場合、基盤の下面側から通水孔を上昇して上面側に流れ出る海水は、各トラフ体が通水孔に向けて開口するように設置されていることにより、各トラフ体の内空部にも円滑に流通する。このため、トラフ体内部での浮泥等の滞留を回避することができ、しかも新鮮な海水が内部に流通するので、水産生物の住処として良好な環境が得られ、トラフ体のすぐ近くに形成される藻場空間の存在により生物生産性が向上する。さらに、トラフ体の外周面の稜角部には、コンブ類等の海藻が着生しやすく、その表面を効果的に活用することができる。
(5)基盤の上面と側面に複数の円盤体を設置し、少なくとも側面の円盤体と柱体のそれぞれに取り付ける海藻種苗として異なる種類のものを選択すれば、複合藻場の形成をより確実に実現することができる。この場合、柱体にコンブ類、側面の円盤体にホンダワラ類とすれば、ヤリイカ、ハタハタなどの特定の水産資源の増大を図ることができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による藻場礁は、基盤上面に存在する柱状構造と、基盤の中央部において下面側から上面側に向けて生じる海水の流動作用により、移植用として導入した海藻類が柱状部分と基盤表面でよく繁茂し、この骨格構造物を核として立体的な藻場が造成される。このような藻場礁は、海中空間での海藻類の生育密度が従来のものに比べて高く、増殖礁と魚礁との両方の機能を兼備するから、水産業にとっても、また沿岸環境の改善においてもきわめて有用な藻場礁となる。特に、骨格構造物の特定の部位すなわち立設状態に設置される柱体に予め海藻種苗を取り付けることにより、砂浜域においても短期間に且つ高い確率で海藻を繁茂させることが可能になり、しかも海水の流動作用により、骨格構造物に着生した海藻が消失しにくく、その機能が長期に渡り維持される。
【0011】
施工時に導入する移植用海藻種苗の骨格構造物に対する取付手段としては、例えば本出願人の提案に係る特開平10−136813号公報に記載の方法が、この種の柱体および円盤体のいずれにも適用でき、作業性等の点から好適である。すなわち、海藻種苗はポリプロピレン等の適度な弾性と硬さを備えた合成樹脂からなる略C字状のリング状担持基体に適宜手段で固定した形態で骨格構造物に適用される。このような形態を採用することにより、傷みやすい海藻種苗を良好な状態で柱体や円盤体に対して簡単に装着することができるようになっている。さらに、柱体等の表面には公知の養藻塗料を予め塗布したほうが、海藻の繁茂状態を促進する上で効果的である。養藻塗料としては、一般の化成肥料を含む塗料でもよいが、本出願人の提案になる光合成細菌、多孔質粒子を用いた担体および当該光合成細菌の栄養成分からなる水域環境改善用塗料(特許第3175964号公報参照)が特に好適である。この塗料を塗布した場合には、海藻遊走子の着生率が向上することに加え、海藻の生育に必要な栄養分を長期間にわたり放出し続けるので、そこで生育する海藻にとっては好適な場所となり、海藻の繁茂状態が長く維持される。
【0012】
本発明による藻場礁では、その目的等に応じ適宜種類の海藻種苗を単独で、あるいは複数種を組み合わせて使用することができる。すなわち、魚介類の増養殖、沿岸環境を改善するための藻場造成など、その目的と沈設場所の海中環境等を考慮し、最適な海藻種を選択すればよい。海藻の種類に格別の限定はないが、水産資源として価値が高いアワビやサザエ等の餌料に最適であって、しかも藻場造成においても海中林と称するにふさわしい大型海藻の群落となるアラメ、カジメ、クロメ等のコンブ科海藻の適用が好適である。その中でもツルアラメは、繁殖力が旺盛で水深に対する適応性に優れることから、かかる鉛直方向に長い柱状構造の骨格構造物に適している。特に、ハタハタの産卵場所としての活用を考えた場合には、ヨレモク、フジスギモク、マメダワラ、アカモク等のホンダワラ類が好適である。以下、図面に基づき本発明の実施例について説明するが、もちろんこれらの実施例に限定されるものではなく、各構成部材の材質、形状、数量、位置の変更など、本発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図4は、本発明による藻場礁の第一実施例を示している。図1および図2は、藻場礁1の主体をなす骨格構造物10のそれぞれ部分縦断正面図と平面図であり、いずれも海藻種苗を取り付ける前のものである。図示の骨格構造物10は、方形板状の基盤2と、その下面側に設けられる複数の支脚3と、上面側に立設される複数の柱体4を基本構成部材とし、このうち基盤2には、以下に詳述する部材が一体となって付加されている。
【0014】
基盤2はコンクリートからなり、その中央部分に上下方向に貫通する円形の通水孔21が形成されるとともに、この通水孔21に対して8個のコンクリート製のトラフ体22が基盤2の上面側に伏せた状態で設けられている。この場合、方形状の基盤2の各辺部において、対向する2辺ではそれぞれ2個のトラフ体22が隣接状態で配置され、残りの2辺ではそれぞれ2個のトラフ体22が間隔を明けて配置されている。これらのトラフ体22は、その開口部が通水孔21の軸心に向くようにほぼ放射状に設けられている。さらに、基盤2の上面と側面の4面には、柱体4と同じ外径の円盤体23a,23bが設けられ、隣り合う側面の円盤体23b間には円形状の凹部24が形成されている。
【0015】
支脚3は円形鋼管からなり、その中間には方形板からなる鍔部31を備え、基盤2の下面側の四隅において、その上端部分が埋設する形で基盤2と一体化されている。
【0016】
柱体4は中空のコンクリート体からなり、基盤2の四隅と、離間状態に設置されたトラフ体22の間に配置され、実施例ではその下端部分が基盤2に埋設する形で6本が立設されている。
【0017】
図3は、上記骨格構造物10に海藻種苗5a,5bを取り付けることにより形成される藻場礁1の斜視図である。ここで使用される海藻種苗5a,5bは、前記略C字状のリング状担持基体(図示せず)に対して、ロープ養殖法により海藻種苗を着生させたロープ(図示せず)を、その外周面に沿って添設一体化した形態のものである。この場合、海藻種苗5a,5bはそれぞれ異なる種類の海藻が使用される。すなわち、柱体4と基盤2の上面にある円盤体23aに取り付けられる海藻種苗5aには、ツルアラメ等のコンブ類が適用され、基盤2の側面にある円盤体23bに取り付けられる海藻種苗5bには、ヨレモク等のホンダワラ類が適用される。斯かる形態の海藻種苗5a,5bは、いずれも端部間の開口部分が開閉自在となっている当該リング状担持基体を開いて柱体4等に装着される。なお、各柱体4にはそれぞれ5個の海藻種苗5aが間隔をおいて装着されている。このリング状担持基体と一体になった海藻種苗5a,5bの取付作業は、骨格構造物の沈設直前に台船上で取り付けるか、あるいは沈設後にダイバーが潜って海中において行うなど、その時期は特に限定されない。なお、リング状担持基体を使用せずに、市販されている結束バンド等で柱体4等の周面に縛り付けることも何ら問題はない。
【0018】
図4は、藻場礁1の機能を模式的に示す説明図であり、砂浜域に設置した場合を示すものでる。このようにして海底に設置された藻場礁1では、基盤2の支脚3の下端側が海底の砂地盤に突き刺さった状態であるが、支脚3の外周側に張り出している鍔部31の存在により、これ以上の沈み込みが生じ難くなっている。したがって、基盤2の下面側には水平方向に広がった空間が形成され、この空間は魚介類の隠れ場所、産卵場所として活用できる。具体的には、基盤2の下面にサザエやアワビが付着し、ヤリイカの産卵場所となる。さらに、基盤2の下面を水平方向に流れる海水が、基盤2の中央部分に設けられた通水孔21を下から上に向けて流動する。そして、通水孔21を通過した海水は、柱体4に沿って上昇する。このような海水の流動現象は、柱体4に取り付けられた海藻種苗5aが高密度に繁茂した状態であっても、適度な揺動作用を藻体に与えることにより、その位置にあまり影響されることなく、海藻種苗5aに対して十分な光環境を確保することができる。しかも、柱体4で囲まれた空間内での海水の滞留がなくなり、新鮮な海水を供給し続けるので、基盤2の上面にある海藻種苗5aの生育状態が均一化され、高密度な繁茂状態を長く維持することができる。一方、通水孔21を通過した海水は、トラフ体22の内方に向いた開口部から内部に進入し、外側に流れ出る。このため、トラフ体22の内部に浮泥等の堆積がなく、新鮮な海水が流通するので、トラフ体22の内部も水産生物の棲息場所や産卵場所として利用される。さらに、基盤2の上面に生じる海水の流動は、基盤2の上面全体での浮泥等の堆積を少なくする結果、円盤体23aに取り付けられた海藻種苗5aの生育を助けるとともに、柱体4等から放出された胞子の付着を容易にし、基盤2の表面全体を有効に利用することができる。このように性質の異なる海藻種苗5a,5bを組み合わせて取り付けた場合には、時間の経過とともに、トラフ体22の外周面の稜角部にコンブ類5a、基盤2の上面の平面部分にはホンダワラ類5bが着生する傾向にある。
【0019】
本実施例の藻場礁1は、柱体4と基盤2の上面にある円盤体23aにツルアラメ等のコンブ類5a、基盤2の側面にある円盤体23bにヨレモク等のホンダワラ類5bを取り付けたことにより、ハタハタとヤリイカの増殖に適した構成となっている。この場合、ホンダワラ類5bの取付位置は、砂地から1m以内の高さが好ましく、より好ましくは30〜60cm程度となるように、支脚3の鍔部31の位置が設定される。このように設定することにより、ハタハタがホンダワラ類5bに産卵し、ヤリイカは基盤2の下面に産卵することが期待できる。一方、基盤2の上面に生育するコンブ類5aには、他の魚類が産卵し、稚魚などの育成場となる。さらに、基盤2の側面に設けられた凹部24には、サザエやアワビが集まり、その他カレイ、ヒラメ、車エビなどもこの藻場礁1に蝟集する。斯かる藻場礁1では、支脚3により形成される基盤2の下方の棲息空間が隠れ場となり、基盤2の上面に形成される藻場空間が餌場となり、上記生物が通水孔21を利用してそれらの間を移動することができるので、生物にとってきわめて好適な生育環境が得られ、生物生産性の向上につながる。
【実施例2】
【0020】
図5は、本発明の第2実施例で使用する骨格構造物11の斜視図であり、海藻種苗を取り付ける前の状態を示している。ここで、第1実施例と同一部材については同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例では、複数のトラフ体22は一部が2段重ねとされ、基盤2の通水孔21の周囲においてそれぞれのトラフ体22がすべて同じ方向を向いて設置されている。このような構造によれば、陰となる部分が多く、複雑な形状の立体構造となるので、ここに棲息する生物の多様性が増す。
【0021】
なお、上記各実施例の骨格構造物では、いずれも基盤上にトラフ体および円盤体を設けているが、設置場所の状況等によっては省略することもできる。また、設置時に導入する移植用の海藻種苗の種類については、まずは海域の環境条件が重要であるが、育成すべき魚介類も合わせて考慮した上で1種類あるいは3種以上としてもよく、藻場礁の設置場所、目的などに応じて適宜選択すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施例で使用する骨格構造物の部分縦断正面図である。
【図2】図1に示す骨格構造物の平面図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る藻場礁の斜視図である。
【図4】図3に示す藻場礁の機能を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の第2実施例で使用する骨格構造物の斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1…藻場礁、2…基盤、3…支脚、4…柱体、5a,5b…海藻種苗、10,11…骨格構造物、21…通水孔、22…トラフ体、23a,23b…円盤体、24…凹部、31…鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に貫通する通水孔が中心部に形成された板状の基盤、この基盤の下面にあって前記通水孔と海底との間に間隔を保持する複数の支脚、前記基盤の上面側で通水孔の周囲に立設される複数の柱体、及びこれら柱体に取り付けられる海藻種苗を備える藻場礁。
【請求項2】
前記基盤が、その上面の柱体間に伏せた状態で通水孔に対して放射状に配置される複数のトラフ体を備えることを特徴とする請求項1に記載の藻場礁。
【請求項3】
前記基盤が、その上面と側面にそれぞれ複数の円盤体を備え、少なくとも側面に設置される円盤体と前記柱体との間では異なる種類の海藻種苗が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の藻場礁。
【請求項4】
前記柱体の海藻種苗がコンブ類であり、前記側面の円盤体の海藻種苗がホンダワラ類であることを特徴とする請求項3に記載の藻場礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72164(P2009−72164A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246563(P2007−246563)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】