説明

藻場造成装置、カートリッジ及びカートリッジ受け具

【課題】藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻を繁茂させることができ、取り扱いが容易で、底生生物の定着も期待できる藻場造成装置を提供する。
【解決手段】カートリッジ103の基部110の一方の面には、海藻SWが着生する着生基材111が配置される。カートリッジ受け具102は、台部と保持部105とを備える。台部は、海底BSに配置されるブロックの外面に設置され、底生生物が住み着くための空隙SPが設けられる。保持部105は、台部の第1の面107a側に設けられる。保持部105には、カートリッジ受け具102をスライドさせて導入するための導入部115が形成される。保持部105は、台部から離反する向きに着生基材111を向けて導入部115から導入されて自重で落とし込まれたカートリッジ103の基部110の縁領域114を、スライド自在に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磯焼けの対策として、ブロックや岩により藻場を新しく造成しようとする場合や、過去において海藻を繁茂させることを期待して既に海中に設置されていたが何らかの理由で藻場造成機能が失われたブロックや岩に対して、藻場造成機能を復活させることを目標に再び藻場を造成させる場合に適用され、海底に設置されたブロックや岩を対象に、藻場を造成しようとする海域の海底に設置され、藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻を繁茂させることができ、取り扱いが容易で、底生生物の定着も期待できる藻場造成装置、並びに、この藻場造成装置を構成するカートリッジ及びカートリッジ受け具に関する。
【背景技術】
【0002】
海底に広がる藻場は、コンブ、アラメ、カジメ、クロメ、ワカメ、アカモク、ヒジキ、ホンダワラ、テングサ等の海底に繁茂する海藻が群生することにより形成される。藻場は、魚介類にとって格好の餌場所、隠れ場、産卵場、仔稚の生育場所となる。また、藻場は、海中の栄養塩類(窒素やリン等)を吸収したり、光合成をして海中の二酸化炭素を酸素に変換したりして、海水を浄化する。さらに、藻場は、波浪を軽減する。加えて、藻場は、海中を泳ぐ魚等の生物のみならず、底生生物(ベントス)の格好の住処となる。
【0003】
ところが、近年、海藻を食べて育つ食害生物(例えば、ウニ、ブダイ、アイゴ、イスズミ、サザエ、小型巻貝、アメフラシ等)が、藻場を形成する海藻の葉状部を食べ尽くし、藻場が消滅したり縮小したりしていることが報告されている。この現象は、“磯焼け”と呼ばれる。磯焼けは、食害生物による食害のみならず、光不足、高水温、栄養塩不足又は栄養塩過多等によっても生じる。磯焼けが生じると、藻場に魚介類が集まりにくくなる。その結果、漁獲量が低下したり、藻場での魚介類の育成に不都合が生じたりする。
【0004】
磯焼けの対策には、食害生物を藻場から除去したり、藻場を網で囲う等により食害生物から藻場を防御したりすることが重要である。また、以前は自然の藻場であった箇所に何らかの理由で磯焼け現象が発生し、そのため藻場が喪失している箇所が数多くある。そのような箇所を再び藻場として回復することが極めて重要である。
【0005】
また、藻場による上記のような有利な効果に着目し、近年、そもそも藻場が形成されていない海域や、漁業関係者にとってアクセスの良い所望の海域に、新たな藻場を造成しようという動きもある。
【0006】
藻場の造成を実現する発明の一例は、特許文献1に記載の藻場造成方法及びこれに用いる海藻種苗取り付け器具である。特許文献1に記載の藻場造成方法は、一例として、以下の通りである。まず、陸上において、藻礁1に海藻種苗取り付け器具3を構成するベース部材9,16,16a,16bを取り付け、藻礁1を藻場造成区画の所定の位置に沈設する。また、あらかじめ培養施設にて海藻種苗4を着生させた種苗チップ5をホルダ部材13(20,20a,20b,20c)に取り付ける。この種苗チップ5は、厚さ3mmに形成された塩化ビニール板である。そして、このホルダ部材13(20,20a,20b,20c)を潜水作業にて藻礁1に固定した各ベース部材9(16,16a,16b)に取り付ける。このようにして、特許文献1に記載の海藻種苗取り付け器具は、海底に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−110245号公報(段落0048、図18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の海藻種苗取り付け器具では、種苗チップ5は、ベース部材9(16,16a,16b)の底面に対し概ね平行となるようにこのベース部材9(16,16a,16b)に取り付けられる。そして、この海藻種苗取り付け器具では、種苗チップ5をベース部材9(16,16a,16b)に強固に嵌め込むために、くさび係合したり圧入したりする構造が採用されている。
【0009】
ここで、所望の海域に藻場を造成とする場合、藻場を形成する海藻には、この海域の自然環境特性に適応したものを用いることが望ましい。この点、特許文献1に記載の海藻種苗取り付け器具には、あらかじめ培養施設にて培養された海藻種苗4が取り付けられる。しかしながら、この海藻種苗4は、藻場を造成とする海域の自然環境特性に適応し繁茂できるとは限らない。
【0010】
また、海底に設置した海藻種苗取り付け器具から海藻種苗4が食べ尽くされてしまう事態が生じることも考えられる。
【0011】
上記の二つの例をはじめとする様々な事情から、ホルダ部材13(20,20a,20b,20c)に取り付けられている種苗チップ5を新たなものに交換する作業が必要になる場合がある。この場合、ベース部材9(16,16a,16b)に対して強固に嵌め込まれた種苗チップ5は、海中に潜って作業を行う作業者には扱いづらい。
【0012】
さらに、特許文献1に記載の海藻種苗取り付け器具は、円柱形状や角丸角柱形状をなすベース部材9(16,16a,16b)の側面に開口が形成されていない。このため、特許文献1に記載の海藻種苗取り付け器具が藻場造成面2から立設するよう藻礁1に取り付けられても、底生生物が住み着くための空隙が形成されない。つまり、特許文献1に記載の海藻種苗取り付け器具では、底生生物の定着が期待できない。
【0013】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻を繁茂させることができ、取り扱いが容易で、底生生物の定着も期待できる藻場造成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の藻場造成装置は、カートリッジ受け具とカートリッジとを備え、前記カートリッジは、板状をなす基部と、前記基部の一方の面に配置され海藻が着生する着生基材と、を含み、前記カートリッジ受け具は、海底に配置される被取付物体の外面に設置され、底生生物が住み着くための空隙が形成されている台部と、前記台部の第1の面側に設けられ、前記カートリッジをスライドさせて導入するための導入部を形成し、前記台部から離反する向きに前記着生基材を向けて前記導入部から導入された前記カートリッジをその自重により落とし込ませて前記基部の縁領域をスライド自在に保持する保持部と、を含む。
【0015】
本発明は、上記の藻場造成装置を構成するカートリッジやカートリッジ受け具についても規定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、海藻が繁茂している藻場及びその近傍にカートリッジを放置してこのカートリッジの着生基材に海藻を着生させ、このカートリッジをカートリッジ受け具に装着することで、藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻を繁茂させることができる。また、カートリッジをスライドさせて保持部に保持させることができ、藻場造成装置の取り扱いが容易になる。さらに、カートリッジ受け具の台部には空隙が設けられていて、藻場造成装置を海底に設置すると底生生物が空隙の内部に定着することも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第一の実施の形態における、ブロックに固定された藻場造成装置の斜視図である。
【図2】第一の実施の形態における、藻場造成装置の斜視図である。
【図3】第一の実施の形態における、図2とは反対側から見た藻場造成装置の斜視図である。
【図4】第一の実施の形態における、カートリッジを装着する途中の状態の藻場造成装置の斜視図である。
【図5】第一の実施の形態における、カートリッジ受け具の斜視図である。
【図6】第一の実施の形態における、カートリッジ受け具の側面図である。
【図7】第一の実施の形態における、図6のA矢視図である。
【図8】第一の実施の形態における、カートリッジの斜視図である。
【図9】第一の実施の形態における、着生基材の斜視図である。
【図10】第二の実施の形態における、藻場造成装置の斜視図である。
【図11】第三の実施の形態における、カートリッジ受け具の斜視図である。
【図12】第四の実施の形態における、藻場造成装置の斜視図である。
【図13】藻場造成装置の別の取り付け方を示す説明図である。
【図14】藻場造成装置の別の取り付け方を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の一形態を、図1ないし図9に基づいて説明する。説明の便宜上、本実施の形態を第一の実施の形態と呼ぶ。図1は、ブロック301に固定された藻場造成装置101の斜視図である。ブロック(被取付物体)301は、消波等を目的として、海底BSに配置されるものである。ブロック301は、直方体形状の基礎部302を有する。基礎部302の中央には、上下方向に貫通する貫通部303が設けられる。基礎部302の四隅のそれぞれから、上下に延びる八角柱状の脚部304が延びる。脚部304は、基礎部302の上面302a及び下面(図示せず)よりも上下方向に突出する。ブロック301は、例えば、ポーラスコンクリートを用いて形成される。そして、ブロック301は、藻場を造成しようとする所望の海域に、各脚部304の下方の端面を海底BSに接しさせて、上面302aが略水平に向くよう配置される。ブロック301は、その自重によって、海流に押されても動かない。
【0019】
藻場造成装置101は、所望の海域に藻場を造成するためのものである。本実施の形態の藻場造成装置101は、平面視で略矩形形状に見える扁平形状をなしている。この藻場造成装置101は、ブロック301の上面302aに平置きされて、固定取付された状態で用いられる。さらに、波あたりの強い海域にブロック301が設置される場合、藻場造成装置101は、ブロック301における波あたりの弱い側面に取り付けられてもよい。藻場造成装置101からは、藻場を構成する海藻SWが生育する。海藻SWは、海中ではためいて、魚介類にとって格好の餌場所、隠れ場、産卵場、仔稚の生育場所となる。海藻SWは、その生育によって、海中の栄養塩類(窒素やリン等)を吸収する。さらに、海藻SWは、海面から降り注ぐ太陽光を受けて光合成をし、海中の二酸化炭素を酸素に変換して、海水の浄化に寄与する。また、海藻SWは、ブロック301とともに、波浪の軽減に寄与する。
【0020】
図2は、藻場造成装置101の斜視図である。図3は、図2とは反対側から見た藻場造成装置101の斜視図である。藻場造成装置101は、カートリッジ受け具102と、カートリッジ受け具102に着脱自在に取り付けられるカートリッジ103とを備える。
【0021】
カートリッジ受け具102は、台部104と、保持部105とを備える。保持部105については、図4ないし図7に基づいて後述する。台部104は、矩形形状の金属の基礎板106を土台とする。一例として、基礎板106は、40cm四方の鉄板である。基礎板106には、金属板を鋭角に折り曲げて形成された傾斜部材106aが立設する。ここで、傾斜部材106aは、基礎板106に直交する直交部106aaと、基礎板106に対し傾斜する傾斜部106abとを有する。傾斜部106abからは、金属板を断面コ字形状に折曲加工して形成された複数のフレーム106bが立設する。フレーム106bにおける傾斜部材106aとは反対側の部分には、コ字形状の金属のコ字板106cが取り付けられる。基礎板106と傾斜部材106aとフレーム106bとコ字板106cとは、溶接等によって連結される。傾斜部材106aとフレーム106bとコ字板106cとの平面視における外形は、一致する。また、傾斜部材106aとフレーム106bとコ字板106cとは、平面視において、基礎板106の内側に収まる。
【0022】
ここで、コ字板106c側におけるフレーム106bとは反対側の面を、第1の面107aと呼ぶ。また、基礎板106における傾斜部材106aとは反対側の面を、第2の面107b(図6参照)と呼ぶ。また、第1の面107aにおける直交部106aa側の端部を、第1の端部107cと呼ぶ。また、第1の面107aにおける第1の端部107cとは反対側に位置する端部を、第2の端部107dと呼ぶ。そして、傾斜部材106aによって、第1の面107aは、第2の端部107dが第1の端部107cよりも第2の面107bに対し近づくよう、第2の面107bに対し傾斜する。
【0023】
台部104には、基礎板106と傾斜部材106aとフレーム106bとコ字板106cの組合せによって、底生生物が住み着くための空隙SPが形成される。空隙SPは、台部104の側部に向けて開口する。
【0024】
基礎板106の四隅には、ボルト取付孔108が設けられる。そして、ボルト(図示せず)をボルト取付孔108に貫通し、ブロック301(図1参照)の上面302a(図1参照)に開口するボルト雌孔(図示せず)にこのボルトを螺合することで、台部104はブロック301の上面302aに固定される。なお、台部104の底面に接着剤を塗布して、台部104をブロック301の上面302aに接着して取り付けるようにしてもよい。
【0025】
図4は、カートリッジ103を装着する途中の状態の藻場造成装置101の斜視図である。カートリッジ103は、板状をなす基部110と、着生基材111と、固定部材112と、把手部113とを備える。
【0026】
基部110は、略正方形形状の金属板である。一例として、基部110は、25cm四方の鉄板である。着生基材111は、基部110の一方の面に配置される。より詳細には、着生基材111は、基部110よりも若干小さい矩形形状をなしている。そして、着生基材111は、基部110の一方の面に、基部110の一辺側に寄せて、コ字形状の縁領域114を残すように配置される。着生基材111には、海藻SWが着生する素材が用いられる。着生基材111の一例は、モルタルである。また、モルタルに数cm程度の大きさの自然石を接着させてもよい。ここで、以下に、カートリッジ103の作成方法の一例を示す(図8、図9も参照)。
[1] 基部110の中央部に、着生基材111の厚さを超えた長さのボルト151を溶接し、ボルト151の軸部を基部110から突出させておく。
[2] 着生基材111の作成時に、あらかじめ、着生基材111の中央部にボルト151の貫徹用の穴152を作成しておく。
[3] そのようにして作成した着生基材111の穴152を、ボルト151の軸部に嵌め込む。
[4] その後、ナット153を、着生基材111の上方よりボルト151の軸部に取り付け、ナット153を締めつけることにより、着生基材111と基部110を緊結させる。
このような作成方法で極めて簡単にカートリッジ103が作成できる。
【0027】
固定部材112は、着生基材111を基部110に対して固定する。ここで、固定部材112には、着生基材111に着生した海藻SWの生育を妨げないよう、着生基材111の少なくとも一部、望ましくは全部を露出させる形状を有する。固定部材112の一例は、図4に示すような、平面視25cm四方で着生基材111に覆いかぶさる鉄製の網状の金属構造物である。また、別の一例として、固定部材112は、基部110から延び着生基材111の端部に引っ掛かる爪体(図示せず)であってもよい。
【0028】
把手部113は、基部110の側面から延びる。より詳細には、把手部113は、基部110における縁領域114が設けられていない一辺の側面から延びる。なお、把手部113は、着生基材111の側面から延びていてもよい。
【0029】
図5は、カートリッジ受け具102の斜視図である。図6は、カートリッジ受け具102の側面図である。図7は、図6のA矢視図である。なお、図6及び図7では、カートリッジ103を二点鎖線で示している。また、説明の便宜上、図7では、基礎板106と、傾斜部材106aの直交部106aaとが省略されている。ここで、図6は、導入部115側を正面とするカートリッジ受け具102の右側の側面を示していて、カートリッジ受け具102の左側の側面は図6と対称にあらわれる。
【0030】
図4ないし図7を参照する。保持部105は、カートリッジ受け具102を構成する台部104の第1の面107a側に設けられる。保持部105は、傾斜部材106aの傾斜部106abに対面させて位置付けられたカートリッジ103の基部110の縁領域114を、スライド自在に保持する。保持部105は、カートリッジ103を導入するための導入部115を、第1の端部107cに向けて形成する。そして、保持部105は、カートリッジ103の基部110の縁領域114を収納する平面視コ字形状の空間を形成する。この空間は、ガイド空間116と、奥側空間117とを含むもので、傾斜部材106aの傾斜部106abとフレーム106bとコ字板106cとに囲われて形成される。
【0031】
ガイド空間116は、導入部115から第2の端部107dに向けて延びる。ガイド空間116は、導入部115から導入されたカートリッジ103の基部110の縁領域114の両側部分をガイドする。
【0032】
奥側空間117は、ガイド空間116における第2の端部107d側に隣接する。奥側空間117には、ガイド空間116によってガイドされたカートリッジ103の、基部110の縁領域114の把手部113とは反対側の部分が入り込む。
【0033】
カートリッジ103は、図4に示すように、台部104から離反する向きに着生基材111を向けた状態で導入部115から導入され、基部110の縁領域114を保持部105に規制されて傾斜部材106aに沿って自重で落ち込む。その結果、基部110の縁領域114が奥側空間117まで入り込み、奥側空間117を規定するフレーム106b(図4、図5及び図7において符号「P」で示す)によって基部110が阻止される。これにより、カートリッジ103は、基部110を台部104に対面させた状態で、保持部105に保持される。保持されたカートリッジ103は、ガイド空間116に沿ってスライド自在となっている。
【0034】
以下、藻場造成装置101の使用方法について説明する。図8は、カートリッジ103の斜視図である。図9は、着生基材111の斜視図である。なお、図8では、固定部材112の一部が破断されて示されている。まず、カートリッジ103の着生基材111に海藻SWを着生させる。これは、これから藻場を造成しようとする海域の近傍に形成されている藻場内に、まだ海藻SWが着生していない状態のカートリッジ103(図8)を配置し、数カ月間、あるいは、それ以上の期間放置しておくことにより実現される。このとき、カートリッジ103は、藻場内のみならず、この藻場の近傍に配置されてもよい。これは、藻場を構成する海藻より発生する胞子が、海流により藻場の近傍まで広がることが考えられるからである。一例として、カートリッジ103は、海藻SWの生育時期にあたる冬から初夏にかけて、藻場及びその近傍に放置される。着生基材111に着生した海藻SWは、時間の経過とともに生育し、固定部材112を通して延びる。放置する期間が短ければ、カートリッジ103から延びる海藻SWの背丈は短く、放置する期間が長くなるにつれて海藻SWの背丈は長くなって海藻SWそれ自身が新たな胞子を出す、いわゆる「母藻」となる。
【0035】
ここで、カートリッジ103に設けられる着生基材111は、スリット118が形成されていることが望ましい。これは、着生基材111に形成されている角部119に海藻SWやその胞子(図示せず)が着生しやすいという知見を、発明者が経験的に得ていることによる。なお、角部119に海藻SWやその胞子(図示せず)が着生しやすい要因の一つとして、角部119が海中で水流や衝突物によって削れ、角部119の形状が複雑になり、海藻SWやその胞子(図示せず)が角部119に捕捉されやすくなることが考えられる。
【0036】
図1、図4、図6及び図7を参照する。カートリッジ受け具102は、ブロック301の上面302aに取り付けられる。そして、ブロック301は、これから藻場を造成しようとする海域に沈められ、海底BSに配置される。そして、作業者は、この海域に潜って、着生基材111に海藻SWやその胞子が着生した状態のカートリッジ103を、導入部115からスライドさせて保持部105に保持させて、カートリッジ受け具102に装着する。このとき、カートリッジ受け具102では、傾斜部材106aの直交部106aaによって、基礎板106と導入部115との間に、作業用領域120が確保されている。作業用領域120には、導入部115からカートリッジ103を導入するためにカートリッジ103の把手部113を把持する作業者の手121が入り込むことができる。このため、作業者は、海中に潜った状態で、空間的な余裕を持ってカートリッジ103の装着作業を行うことができる。ここで、カートリッジ103から育つ海藻SWを食害生物による食害から守るために、作業者は、カートリッジ103をカートリッジ受け具102に装着した後に藻場造成装置101を網で囲ってもよい。
【0037】
本実施の形態では、カートリッジ103をこのようにカートリッジ受け具102に容易に装着でき、藻場造成装置101の取り扱いが容易である。そして、藻場を造成しようとする海域の近傍に生息している海藻SWやその胞子をカートリッジ103に着生させてカートリッジ受け具102に装着でき、この海域の自然環境特性に適した海藻SWを繁茂させることができる。さらに、カートリッジ103はカートリッジ受け具102に落としこんで装着されるため、カートリッジ103で生育した海藻SWが枯れたり食害生物に食べ尽くされたりした場合に、容易に交換できる。加えて、カートリッジ受け具102の台部104には空隙SPが設けられているため、藻場造成装置101を海底BSに設置すると、この海域に生息する底生生物が空隙の内部に定着することも期待できる。
【0038】
なお、本実施の形態では、カートリッジ受け具102を構成する基礎板106、傾斜部材106a、フレーム106b及びコ字板106c、並びに、カートリッジ103を構成する基部110、固定部材112及び把手部113が金属で形成される。これらの部材は、サビの進行を遅くする対策を特段行わなくても良い。というのは、藻場造成装置101は海中に設置されて大気中の酸素に触れる機会が極度に少なく、サビの進行が極度に遅いからである。ここで、さらなるサビ止めをするために、カートリッジ受け具102やカートリッジ103の金属部分にメッキ加工を施してもよい。
【0039】
実施の別の一形態を、図10に基づいて説明する。説明の便宜上、本実施の形態を第二の実施の形態と呼ぶ。以下、第一の実施の形態と同じ部分には同一の符号を用い、説明も省略する。
【0040】
図10は、カートリッジ103の斜視図である。本実施の形態では、カートリッジ103に固定部材112が設けられていない。また、カートリッジ103を構成する基部110は、着生基材111と同じ素材で形成されている。そして、カートリッジ103を構成する着生基材111に設けられるスリット118は、縦横に延びている。
【0041】
本実施の形態でも、作業者は、カートリッジ103の把手部113を持って、このカートリッジ103をカートリッジ受け具102に装着する。本実施の形態の藻場造成装置101でも、第一の実施の形態と同様、藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻SWを繁茂させることができ、取り扱いが容易で、底生生物の定着も期待できる。
【0042】
実施の別の一形態を、図11に基づいて説明する。説明の便宜上、本実施の形態を第三の実施の形態と呼ぶ。以下、第一の実施の形態や第二の実施の形態と同じ部分には同一の符号を用い、説明も省略する。
【0043】
図11は、カートリッジ受け具102の斜視図である。本実施の形態では、保持部105が、台部104に対する距離を違えて複数設けられている。詳細に述べると、本実施の形態では、台部104が、基礎板106を土台とし、この基礎板106に傾斜部材106aを立設させ、傾斜部106abから、複数のフレーム106bとコ字形状の金属のコ字板106cとからなる組を、複数組積層させて構成される。図11は、複数のフレーム106bとコ字形状の金属のコ字板106cとからなる組が三組積層されている例を示しているが、この例に限られることはない。なお、本実施の形態では、基礎板106から最も離れて位置するコ字板106c側に形成されフレーム106bとは反対側を向く面が、第1の面107aとなる。
【0044】
本実施の形態の藻場造成装置101でも、これまでに述べた実施の形態と同様、藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻SWを繁茂させることができ、取り扱いが容易である。さらに、本実施の形態では、カートリッジ受け具102に対して複数組積層される保持部105のうち、任意の所望する保持部105にカートリッジ103を装着することができ、カートリッジ103と台部104との間に空隙を、より大きく確保し、この空隙に様々な大きさの多種多様の生物が住み着くことが期待できる。
【0045】
実施の別の一形態を、図12に基づいて説明する。説明の便宜上、本実施の形態を第四の実施の形態と呼ぶ。以下、これまでに述べた実施の形態と同じ部分には同一の符号を用い、説明も省略する。
【0046】
図12は、藻場造成装置101の斜視図である。本実施の形態では、カートリッジ受け具102と保持部105に保持されたカートリッジ103とが、離反しないよう連結される。詳細に述べると、本実施の形態では、カートリッジ受け具102の台部104の第1の面107aから、第1のピン体122が突出する。また、カートリッジ103の着生基材111から、第2のピン体123が突出する。そして、第1のピン体122からは、スプリング124が延びる。スプリング124の先端には、フック部125が設けられる。
【0047】
本実施の形態では、導入部115からカートリッジ103を導入して保持部105に保持させた後に、フック部125を第2のピン体123に引っ掛けて、スプリング124によりカートリッジ受け具102とカートリッジ103とを連結する。
【0048】
本実施の形態の藻場造成装置101でも、これまでに述べた実施の形態と同様、藻場を造成しようとする海域の自然環境特性に適した海藻SWを繁茂させることができ、取り扱いが容易で、底生生物の定着も期待できる。さらに、本実施の形態では、台風等による強烈な波浪・流れが藻場造成装置101を襲っても、スプリング124によってカートリッジ受け具102とカートリッジ103とが離反しなくなる。
【0049】
無論、スプリング124を第2のピン体123から延ばし、フック部125を第1のピン体122に引っ掛けるようにしてもよい。
【0050】
また、各実施の形態で具体的に説明している部分を、他の実施の形態と適宜組み合わせることができるのは、言うまでもない。
【0051】
図13及び図14は、いずれも、藻場造成装置101の別の取り付け方を示す説明図である。これまでに述べた各実施の形態の藻場造成装置101は、いずれも、ブロック301の外面における略水平な平坦な領域(例えば、上面302a)のみならず、曲面を有するブロックや表面に複雑な凹凸がある岩盤にも取り付けることができる。その一例として、図13には、曲面302bを有するブロック310の外面における曲面302bに取り付けられた藻場造成装置101が示されている。この場合、ハンマードリル等で曲面302bに孔部305を形成し、チェーン306を取り付けた打ち込みアンカー307を孔部305に打ち込んで、チェーン306を台部104に取り付ける。チェーン306は、ボルト取付孔108を通しても良いし、台部104に溶接して取り付けても良い。なお、チェーン306は、台部104が動かないように、張力を生じさせる程度に短いことが望ましい。ここで、曲面302bに藻場造成装置101を取り付ける場合に重要なことは、導入部115を上方に向けることである。こうすることにより、導入部115から導入されたカートリッジ103を、その自重で落ち込ませて、保持部105に保持させることができる。このような打ち込みアンカーによる取り付け方法によれば、藻場の造成を期待して既に設置されているブロックにおいて、なんらかの理由で藻場造成機能が失われた既設のブロックや、図14に示すように、被取付物体としての岩320の表面に形成された複雑な凹凸面320aに対しても、藻場造成装置101を取り付けることができる。なお、このようなことは何らかの理由で藻場造成機能が失われた既設のブロック301においても同じようなことが言える。
【0052】
また、これまでに述べた各実施の形態の藻場造成装置101を、ブロック301,310や岩320の外面における傾斜する領域や略鉛直方向に向く領域にも取り付けることができる。この場合は、ボルト締結であっても、打ち込みアンカーによる取り付けであってもよい。
【0053】
また、打ち込みアンカーによる取り付け方法によれば、藻場造成装置101をブロック301,310や岩320のみならず、人工リーフの上面や傾斜面、護岸、防波堤の被覆ブロック等にも取り付けることができる。さらに、藻場造成装置101からチェーンを延出させ、表面に複雑な凹凸がある岩礁等にこのチェーンを巻きつけることで、藻場造成装置101を自然物にも取り付けることができる。
【符号の説明】
【0054】
101 藻場造成装置
102 カートリッジ受け具
103 カートリッジ
104 台部
105 保持部
107a 第1の面
107b 第2の面
107c 第1の端部
107d 第2の端部
110 基部
111 着生基材
113 把手部
114 縁領域
115 導入部
120 作業用領域
121 作業者の手
151 ボルト
153 ナット
301 ブロック(被取付物体)
302a 上面(被取付物体の外面)
302b 曲面(被取付物体の外面)
310 曲面を有するブロック(被取付物体)
320 岩(被取付物体)
320a 凹凸面(被取付物体の外面)
BS 海底
SP 空隙
SW 海藻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カートリッジ受け具とカートリッジとを備え、
前記カートリッジは、
板状をなす基部と、
前記基部の一方の面に配置され海藻が着生する着生基材と、
を含み、
前記カートリッジ受け具は、
海底に配置される被取付物体の外面に設置され、底生生物が住み着くための空隙が形成されている台部と、
前記台部の第1の面側に設けられ、前記カートリッジをスライドさせて導入するための導入部を形成し、前記台部から離反する向きに前記着生基材を向けて前記導入部から導入されて自重で落とし込まれた前記カートリッジの基部の縁領域をスライド自在に保持する保持部と、
を含む、藻場造成装置。
【請求項2】
前記第1の面における前記導入部側の第1の端部と、前記第1の面とは反対側に位置する前記台部の第2の面との間には、前記導入部に導入される前記カートリッジを把持する作業者の手が入り込む作業用領域が確保される、
請求項1記載の藻場造成装置。
【請求項3】
前記第1の面において前記第1の端部とは反対側に位置する第2の端部が前記第1の端部よりも前記第2の面に対し近づくよう、前記第1の面が前記第2の面に対し傾斜する、
請求項2記載の藻場造成装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記台部に対する距離を違えて複数設けられる、
請求項1から3のいずれか一に記載の藻場造成装置。
【請求項5】
前記カートリッジ受け具と前記保持部に保持された前記カートリッジとは、離反しないよう連結される、
請求項1から4のいずれか一に記載の藻場造成装置。
【請求項6】
前記カートリッジは、前記基部及び前記着生基材の少なくとも一方から延びる把手部を更に含む、
請求項1から5のいずれか一に記載の藻場造成装置。
【請求項7】
前記着生基材は、モルタルで形成される、
請求項1から6のいずれか一に記載の藻場造成装置。
【請求項8】
前記基部と前記着生基材とは、ボルトナット締結される、
請求項1から7のいずれか一に記載の藻場造成装置。
【請求項9】
板状をなす基部と、
前記基部の一方の面に配置され海藻が着生する着生基材と、
を備えるカートリッジ。
【請求項10】
海底に配置される被取付物体の外面に設置され、底生生物が住み着くための空隙が形成されている台部と、
前記台部の第1の面側に設けられ、板状をなす基部と前記基部の一方の面に配置され海藻が着生する着生基材とを含むカートリッジをスライドさせて導入するための導入部を形成し、前記台部から離反する向きに前記着生基材を向けて前記導入部から導入されて自重で落とし込まれた前記カートリッジの基部の縁領域をスライド自在に保持する保持部と、
を備えるカートリッジ受け具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−10655(P2012−10655A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151384(P2010−151384)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(390022013)三省水工株式会社 (4)
【Fターム(参考)】