説明

藻類の増殖抑制方法

【課題】湖沼や海域等の水域の底質からの藻類の発生を抑制する方法を提供する。
【解決手段】湖沼や海域等の水域の底質にカルシウム成分を含む無機系資材を導入し、この導入された無機系資材から供給されるカルシウムイオンにより、前記無機系資材導入後の底質の表面に28日後の土壌硬度50kPa以上であって厚さ10cm以上の底質改質部を形成せしめ、この底質改質部により前記底質中に存在する藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽を抑制し、これによって水域における藻類の異常な増殖を抑制する藻類の増殖抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼や海域等の水域において、藻類が異常に増殖するのを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先ず、背景技術を説明する。
湖沼や海域での藻類の異常発生は、水中の窒素、リン等の栄養塩類濃度が増大(富栄養化)し、生ずるものであり、赤潮等とも呼ばれている。従来、都市下水や産業排水に含まれる窒素及びリンが、湖沼や海域の富栄養化原因物質とされ、環境保全の観点から、下水・排水からの窒素及びリン除去が精力的に進められて来た。長年に亘るこのような水質規制の強化により、湖沼や海域周辺からの窒素及びリンの海域への流入負荷量は減少してきているが、必ずしもかかる排水規制のような間接的手法によって、赤潮の発生が完全に抑制されている訳ではない。例えば、2000年の有明海でのノリの不作の原因は、赤潮発生が海域の栄養塩を枯渇させたためであると言われている(非特許文献1)。
【0003】
上述した水質規制のような間接的な藻類増殖の抑制手法に加えて、有害赤潮の原因となる藻類への直接的な増殖抑制方法として、以下のような手法が提案されている。
【0004】
(1)薬剤を用いた藻類増殖抑制方法(特許文献1、特許文献2)
特許文献1では、重金属捕集剤(キレート剤)を用いた藻類の増殖抑制方法が提案されている。これは、藻類の増殖に必須な微量金属成分をキレート化することにより、藻類による微量金属成分の摂取を妨害し、藻類の増殖を抑制しようとするものと考えられる。また、特許文献2のキチンや活性炭を用いる方法は、藻類を吸着除去し、藻類の増殖を抑制しようとするものと考えられる。この他にも、凝集剤そのものを添加する方法やオゾンや超音波で藻類を分解する方法等も提案されている。
【0005】
(2)光量、光種調整による藻類増殖抑制方法(特許文献3、特許文献4)
藻類が増殖するためには、光合成のための光を必要とする。この光を制御して藻類の異常発生を防止しようとする方法も多数報告されている。例えば、特許文献3は、水域の一部に遮光部分を設け、光合成を阻害し、藻類の増殖を抑制しようとする方法である。また、特許文献4は、波長域が550〜670nmのLED光源を用いて、渦鞭毛藻類の増殖を抑制しようとするものである。
【0006】
しかしながら、これまでに提案・実施されてきた上記の如き湖沼や海域での藻類の増殖抑制方法は、以下のような課題を有している。
先ず、薬剤を用いた藻類増殖抑制方法であるが、例えば、重金属捕集剤(キレート剤)を用いた藻類の増殖抑制方法の場合、藻類以外の生物への影響や残留性が懸念される。例えば、チオ尿素は、硝化細菌の活性を強く阻害することで広く知られている。また、薬剤添加を広大な湖沼や海域等の水域においてどのように制御するのか等、制御方法の視点も無視できない。例えば、底質から金属成分が徐々に溶出してくる場合等、どのように薬剤を添加し、また、添加量を制御していくか等、課題が極めて多いと考えられる。
【0007】
また、光を制御して藻類の異常発生を防止しようとする方法であるが、小規模な養殖池ではともかくも、大規模な湖沼や海域等の水域では、自然環境の制御が極めて難しく(波や風雨の影響大)、恒久的な遮光設備の設置等は現実的には困難と思われる。
【0008】
更に、長年に亘り汚染された湖沼や海域等の水域底質には窒素及びリンが蓄積しており、特に水温が上昇する夏季、嫌気化した底質から窒素及びリンが溶出し、湖沼や海域等の水域底質が藻類に対する栄養塩の供給源となる。従って、湖沼や海域等の水域において、このような藻類の異常発生を断ち切るには、排水規制の強化だけでは極めて困難であると思われる。
【0009】
ところで、湖沼や海域等の水域での藻類の異常増殖を根本的に抑制するためには、水域の汚濁の進んだ底質の改善が重要であることは明らかである。また、詳細は後述するが、底質には赤潮の原因となる藻類の休眠接合子(シスト)や休眠期細胞が多数存在している。休眠接合子(シスト)や休眠細胞は、水温が上昇する夏季に発芽し、水中に栄養塩が過剰に存在する条件下では、爆発的に増殖し、赤潮の発生に繋がるとされている(非特許文献2)。また、休眠接合子(シスト)や休眠細胞は外部の環境変化に対して強い抵抗力を持ち、休眠接合子(シスト)や休眠細胞の挙動は、赤潮が大発生する現象を解明する上で、極めて重要であると考えられている。従って、湖沼や海域等の水域底質に存在している休眠接合子(シスト)や休眠期細胞の活動を制御しないような方法では、湖沼や海域等の水域での藻類の異常増殖を根本的に抑制することは困難であると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-66,549号公報
【特許文献2】特開2002-212,015号公報
【特許文献3】特開2005-66,467号公報
【特許文献4】特開2007-68,419号公報
【特許文献5】特開2005-47,789号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「有明海の栄養塩環境とノリ養殖-ノリの不作は何故起こったか?」水環境学会誌、Vol.27、No.5、p293-p300、2004
【非特許文献2】赤潮の科学(第二版、岡市友利編)p74、1997
【非特許文献3】海洋プランクトン生態学(谷口旭監修)p15-44、2008
【非特許文献4】土壌環境分析法(日本土壌肥料学会監修)p33-35、1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、カルシウム成分を含む無機系資材を活用し、湖沼や海域等の水域の汚濁の進んだ底質をその所定の深さ以上まで所定の土壌硬度以上に固化させて水域底質からの休眠接合子(シスト)や休眠期細胞の発芽を抑制することにより、湖沼や海域等の水域での藻類の爆発的な増殖を抑制する方法を知見し、本発明を完成したものである。
【0013】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決し、水域の自然環境の変化にも対応し得る効果的な藻類の増殖を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(8)である。
(1) 水域の底質にカルシウム成分を含む無機系資材を導入し、この導入された無機系資材から供給されるカルシウムイオンにより、前記無機系資材導入後の底質の表面に28日後の土壌硬度50kPa以上であって厚さ10cm以上の底質改質部を形成せしめ、この底質改質部により前記底質中に存在する藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽を抑制し、水域における藻類の増殖を抑制することを特徴とする藻類の増殖抑制方法。
【0015】
(2) 前記底質改質部の形成は、水域の底質をその表面から10cm以上の深さで浚渫し、この浚渫された底質浚渫土に無機系資材を混合して28日後の土壌硬度50kPa以上に改質された硬度改質土を調製し、得られた硬度改質土を浚渫された水域の底質上に10cm以上の厚さとなるように敷き詰めて行うことを特徴とする前記(1)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0016】
(3) 前記硬度改質土は、水域の底質から底質浚渫土をサンプリングし、このサンプリングされた底質浚渫土を用いて無機系資材の混合割合に対する28日後の土壌硬度を求める土壌硬度改質試験を行い、この土壌硬度改質試験の結果から底質浚渫土に添加する無機系資材の添加量を求め、この求められた添加量に従って底質浚渫土に無機系資材を添加し混合して調製することを特徴とする前記(2)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0017】
(4) 前記底質に導入される無機系資材が、製鉄所から発生する製鋼スラグ又はこの製鋼スラグに炭酸化処理を施して得られた炭酸化製鋼スラグであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の藻類の増殖抑制方法。
【0018】
(5) 前記製鋼スラグ又は炭酸化製鋼スラグが、底質浚渫土に対して10〜50質量%の割合で導入される前記(4)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0019】
(6) 前記製鋼スラグ又は炭酸化製鋼スラグに、シリカ供給資材を混合することを特徴とする前記(4)又は(5)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0020】
(7) 前記シリカ供給資材が、シリカ成分を含む浚渫土砂であることを特徴とする前記(6)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0021】
(8) 前記底質改質部の形成は、無機系資材を用いて予め28日後の土壌硬度50kPa以上の覆土資材を調製し、この覆土資材を水域の底質上に10cm以上の厚さとなるように敷き詰めて行うことを特徴とする前記(1)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0022】
(9) 前記覆土資材が、無機系資材そのものであって、製鉄所から発生する製鋼スラグ又はこの製鋼スラグに炭酸化処理を施して得られた炭酸化製鋼スラグであることを特徴とする前記(8)に記載の藻類の増殖抑制方法。
【0023】
(10) 前記水域の底質に無機系資材を導入して、無機系資材導入後の底質の表面に28日後の土壌硬度50kPa以上であって厚さ10cm以上の底質改質部を形成せしめた後、水域中のクロロフィルaの経時変化を多波長励起蛍光光度計で連続モニタリングし、水域中の藻類の増殖抑制状況を監視することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の藻類の増殖抑制方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、湖沼や海域等の水域底質から休眠接合子(シスト)や休眠期細胞の発芽を抑制することができる。また、底質からのリンやシリカの溶出も防止できるため、発芽した藻類の増殖も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、製鋼スラグを浚渫土砂(底質浚渫土)に混合し固化することにより、藻類の発生を抑制することを示すグラフ図である。
【0026】
【図2】図2は、浚渫土砂(底質浚渫土)と、この浚渫土砂に製鋼スラグを混合し固化させたスラグ混合土砂(硬度改質土)からの藻類の発生を比較した結果を示すグラフ図である。
【0027】
【図3】図3は、底質浚渫土と硬度改質土の海水中でのPO4−P濃度の経日変化を示すグラフ図である。
【0028】
【図4】図4は、底質浚渫土と硬度改質土の海水中でのPO4−P濃度の経日変化を示すグラフ図である。
【0029】
【図5】図5は、底質浚渫土と硬度改質土の海水中でのカルシウム濃度の経日変化を示すグラフ図である。
【0030】
【図6】図6は、底質浚渫土と硬度改質土の海水中でのシリコン濃度の経日変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、水域の底質にカルシウムイオンを供給できる無機系資材を導入して底質を固化せしめることにより、藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽を抑制して、湖沼や海域における藻類の増殖を抑制することを特徴とする。更に、藻類の休眠接合子(シスト)や休眠期細胞の発芽を抑制すると共に、底質からのリン及びシリカの溶出を防止することによって、藻類の異常な増殖を抑制することを特徴とする。
【0032】
最初に、異常な増殖をして赤潮等の起因となる藻類としては、渦鞭毛藻類(Gymnodinium属等)、ラフィド藻類(Chattonella属等)、あるいは珪藻類(Skeletonema属等)等が広く知られているが、これらの藻類の生活史について説明する。
【0033】
先ず、渦鞭毛藻類やラフィド藻類には、生活史の一時期に海底で過ごす休眠接合子(シスト)を形成する多くの種があることが知られている。通常の栄養細胞は、2分(無性生殖)で増殖する。しかし、窒素やリンが欠乏した環境や水温や日照が低下した環境になると、配偶子を形成し、有性生殖を行い、運動性接合子を形成する。運動性接合子は、しばらくの間水中を浮遊しているが、次第に運動性を失い、最終的には休眠接合子(シスト)となって海底へ沈殿する。有性生殖の結果として形成された休眠接合子であるシストは、数か月から半年の自発的休眠期間の後、外的環境条件(水温、光、酸素等)が整えば、発芽する。窒素やリン等の栄養塩は、休眠接合子(シスト)の発芽自体には影響を及ぼさないとされているが、一部の種類では栄養塩の不足が発芽に影響するとの報告もある。
【0034】
次に、珪藻類であるが、この珪藻類も生活史の中で、休眠期細胞を有する種類が存在する。珪藻の休眠期細胞は、渦鞭毛藻類の休眠接合子(シスト)とは異なり、無性的に形成される。珪藻類の休眠期細胞は、渦鞭毛藻類の休眠接合子(シスト)と比較すると、自発的休眠期間は短く、一定の光条件と水温が整えば数日で発芽できるようになる(非特許文献2、非特許文献3)。
【0035】
従って、底質に存在するこれら藻類の休眠接合子(シスト)や休眠期細胞の発芽を抑制できれば、その後の水中での藻類の爆発的な増殖を抑制できると考えられる。しかし、薬剤を底質に用いて藻類の休眠接合子(シスト)や休眠期細胞の発芽を抑制する方法や環境水の光条件、水温を制御する方法は容易ではなく、現実にはかなり困難である。そこで、発明者らは、湖沼や海域等の水域の底質に安価で安全な無機系資材を導入して、この底質を固化せしめることにより、藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽を抑制する方法を発案したものである。
【0036】
本目的で使用する無機系資材としては、カルシウム成分を含んでいて水域の底質に導入された際にカルシウムイオンを供給し、底質土中のシリカと下記反応式(1)に示す水和反応を進行させ、CaO−SiO2−H2O(以下、C-S-Hと表示)の水和化合物を形成し、これによって底質の固化を進行させる資材であることが好適である。
Ca(OH)2+SiO2+nH2O → C-S-H …………(1)
【0037】
このようなカルシウム成分を含む無機系資材としては、例えば、製鋼スラグ、水酸化カルシウム、廃コンクリート等が挙げられる。中でも、特に、製鐵所の副産物である製鋼スラグは、性状がダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO2)、トリカルシウムシリケート(3CaO・SiO2)等のカルシウムシリケート化合物を主体とし、長期に亘って徐々にカルシウムイオンを供給できる特性を有している(図5)。このため、洪水等により水系の底質に新たに土砂が流入、堆積した場合等でも、固化効果を期待できる。一方、水酸化カルシウム等の場合には、短期間でカルシウムイオンが水中に溶解してしまうため、継続的な固化効果は期待できないが、一時的にせよ、底質土の固化に要する時間を短縮できるという利点もある。更に、製鋼スラグは、性状がほぼ一定で、大量供給が可能であることから、用いる無機系資材として最も望ましいものである。製鋼スラグを始めとする無機系資材は、湖沼や海域等の水域の底質に混合して用いても、あるいは、そのまま水域の底質上に敷き詰めても構わない。
以下、無機系資材として製鋼スラグを用いた場合を例にして説明する。
【0038】
本発明においては、必要により、例えば、先ず、対象とする汚濁水域の底質から底質浚渫土をサンプリングし、本発明の藻類増殖抑制を実施すべき底質の範囲を設定する。対象とする汚濁水域が運河、お堀、養殖場、港湾等の比較的小規模の場合は底質全面が固化対象となる。対象とする水域が湖沼や内湾等のように大規模な場合は、費用対効果を検討し、固化対象とする底質の範囲を決定すればよい。また、通常、水域の底質中に存在する間隙水中の溶存酸素(DO)は、表層から数cm止まりであり、それよりも下部にDOは存在し得ないので、底質中に存在する藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽も、表層から10cm内の底質部分に限られると考えられる。そこで、底質から底質浚渫土をサンプリングする深さについては、通常、底質の表層から10cm程度まで行えばよい。
【0039】
本発明においては、湖沼や海域等の水域の底質に製鋼スラグを導入し、この製鋼スラグから供給されるカルシウムイオンにより、底質の表面に28日後の土壌硬度50kPa以上であって厚さ10cm以上の底質改質部を形成せしめるが、水域の底質に製鋼スラグを導入する具体的な方法としては、例えば、水域から少なくとも10cm厚み以上の底質(湿潤状態)を浚渫し、底質に対して、製鋼スラグ導入後の底質改質部の土壌硬度が50kPa以上となるように、製鋼スラグを添加し、混合・固化させて底質改質土を調製し、この底質改質土を再び厚さ10cm以上の同じ程度の厚みとなるように水域に埋め戻す「埋戻し方法」や、水域の底質上に製鋼スラグを少なくとも10cm以上の厚みとなるように敷き詰め、この製鋼スラグを固化させて底質の表面に底質改質部を形成させる「被覆方法」等を例示することができる。製鋼スラグを導入して形成された底質改質部の下部の底質部分には、海水に溶存している酸素(DO)は供給されず、底質中に存在する藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽は困難となる。また、仮に発芽できたとしても、固化した10cm厚み以上の底質改質部が上部に存在するため、増殖は困難である。
【0040】
また、元々の湖沼や海域等の水域の底質からのシリカの供給量が小さく、固化反応が進行し難い、あるいは、固化に時間を要する場合には、製鋼スラグに対するシリカの供給量が不足していると考えられる。このような場合には、別途、シリカ源として、別個に入手したシリカ成分を含む浚渫土砂、火山灰、高炉スラグ等を、製鋼スラグと混合して用いてもかまわない。また、製鋼スラグを単独で前記被覆方法等に用いた際に、周辺水のpHが上昇し過ぎる可能性があるような場合には、後述するように、製鋼スラグを炭酸化処理した製鋼スラグを用いることが望ましい。
【0041】
藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽を抑制するのに必要な底質改質部の固化の程度は、土壌硬度50kPa以上であるが、この土壌硬度は浚渫土とスラグを混合して作成した供試体を用い、広く市販されている山中式土壌硬度計を用いて判断することができる。山中式土壌硬度計は、土壌硬度を単位断面積当りの抵抗値(圧入抵抗:kgf/cm2)で表示する。SI単位への換算は、1kgf/cm2=98kPa(約100kPa)である(非特許文献4)。例えば、海域から採取した浚渫土砂は、山中式土壌硬度計で測定すると圧入抵抗が殆どないことが大半である。一方、製鋼スラグを浚渫土砂の土壌硬度の改善剤として添加すると、その土壌硬度は飛躍的に上昇する。一例として、製鋼スラグを内湾から採取した海域浚渫土砂に50質量%混入した系では、混入28日後の底質の土壌硬度は、0kPaから3000kPaに上昇し、親指の貫入が困難となる程度まで上昇した。
【0042】
本発明において、前記埋戻し方法を実施するに際しては、必要により、対象とする汚濁水域の底質から底質浚渫土をサンプリングし、このサンプリングされた底質浚渫土を用いて無機系資材の混合割合に対する28日後の土壌硬度を求める土壌硬度改質試験を行い、この土壌硬度改質試験の結果から底質浚渫土に添加する無機系資材の添加量を求め、この求められた添加量に従って底質浚渫土に無機系資材を添加し混合して28日後の土壌硬度50kPa以上に改質された硬度改質土を調製し、得られた硬度改質土を浚渫された水域の底質上に10cm以上の厚さとなるように敷き詰めて行うのがよい。
【0043】
ここで、湖沼や海域等の水域の底質に製鋼スラグを導入して水域の底質を固化せしめることにより、藻類の休眠接合子(シスト)あるいは休眠期細胞の発芽を抑制するのに必要な底質土壌硬度と発芽抑制率の関係については、本発明者らの研究により、以下のような結果が得られている。即ち、混入28日後の底質の土壌硬度が20kPa以上になると、50%程度の割合で発芽率を抑制でき、また、混入28日後の底質の土壌硬度が50kPa以上になると、90%以上の割合で発芽率を抑制することができる。このように、底質の土壌硬度が上昇するにつれ、発芽率抑制効果は飛躍的に向上し、混入28日後の底質の土壌硬度が3000kPa以上になると、発芽率をほぼ完全に100%の割合で抑制することができる。
【0044】
従って、本発明においては、発芽抑制率の目標を90%以上とすると、湖沼や海域等の水域の底質の土壌硬度が少なくとも50kPaとなるように、更に好ましくは、50kPa以上3000kPa以下になるように、製鋼スラグを水域の底質に導入し、この底質を固化させることが望ましい。なお、水域底質の土壌硬度が3000kPaを超えると、水域のpHがアルカリ性(pH>9)を示すことがあるので、注意が必要である。
【0045】
本発明においては、湖沼や海域等の水域の底質に製鋼スラグを導入して底質を固化せしめることにより、藻類の休眠接合子(シスト)あるいは休眠期細胞の発芽を抑制するばかりでなく、更に、藻類の増殖に不可欠なリン、無機炭素(重炭酸塩等)、シリカ等の溶出も抑制することができる。一般に、有機成分の多い湖沼や海域の底質内部は、嫌気的条件、溶存酸素(DO:Disolved Oxygen)の無い状態にある。このような環境下では、嫌気性微生物が、有機物と「酸素以外の酸化剤」の酸化還元反応系を支配している。酸化力の最も強い成分であるDOが消失すると、硝酸イオン(NO3-)、二酸化マンガン(MnO2)、水酸化第二鉄(Fe(OH)3)、硫酸イオン(SO42-)等の酸化剤が順次消費され、酸化還元反応が進行する。そして、極端な条件では二酸化炭素(CO2)が酸化剤となる。より高次の酸化剤の枯渇に伴い、系全体の酸化還元電位(ORP)は段階を追って低下していく。底質内のリンは、上記のFe(III)→Fe(II)の還元反応段階でFe(III)に吸着していたリン酸イオン(PO4-P)が溶解し、底質から溶出する。リン酸イオン(PO4-P)は、藻類の増殖を促進する。また、底質内の窒素を含む有機化合物が生物分解されると、以下のような嫌気反応(2)及び(3)により、有機酸、アンモニアばかりでなく、重炭酸塩濃度が上昇する。底質から溶出したアンモニアや重炭酸塩(HCO3-)も藻類の増殖を促進する。
RCHNH2COOH+2H2O→RCOOH+NH3+CO2+2H2 …(2)
NH3+CO2+H2O→NH4++HCO3- ………(3)
【0046】
このような底質に製鋼スラグを導入して底質を固化せしめると、以下のような反応(4)及び(5)が進行し、藻類の増殖に必要なリンや重炭酸塩等の溶出を防止する。特に、無機系資材の中でも製鐵所の副産物である製鋼スラグは、前述したように長期に亘って徐々にカルシウムイオンを供給できる特性を有している(図5)ので、長期に亘って、継続的にリンや重炭酸塩等の溶出を防止できる。
5Ca2++3PO43-+OH-→Ca5(OH)(PO4)3↓………(4)
Ca2++HCO3-→CaCO3↓+H+………(5)
【0047】
また、底質から溶出するシリカは、(1)式に従いカルシウムと反応し、減少することとなる。シリカも、藻類、特に珪藻の増殖には必須の物質である。無機系資材の中でも、製鋼スラグは、長期に亘って徐々にカルシウムイオンを供給できる特性を有しているため、長期に亘って継続的にシリカの溶出を防止することができる。
【0048】
次に、湖沼や海域等の水域の底質を製鋼スラグ等の無機系資材で固化せしめた後、表層水の藻類増殖の状況をモニタリングする方法について説明する。水中の藻類の増殖量は、藻類が含有しているクロロフィルaの経時変化を測定することによって推定することが可能である。例えば、多波長励起蛍光光度計を用いて、励起波長460nmの励起光を照射した際に発生するクロロフィルaの蛍光波長680nmの強度を測定することにより、水中の藻類の濃度を推定することができる。また、この励起−蛍光パターンを変化させることにより、藻類の種類をある程度推定することも可能である。このような多波長励起蛍光光度計を用いたクロロフィルaの経時変化の測定は、例えば、1回/日程度、湖沼や海水等の一部を吸水ポンプでサンプリングし、蛍光強度を測定することにより行うことができ、これによって湖沼水や海水等の中の藻類の増殖抑制状況を監視することが可能である。
【0049】
更に、製鋼スラグを炭酸化する方法について、以下に具体的に説明する。
製鋼スラグは、一般に、f-CaO(可溶性石灰)を1〜2質量%前後の割合で含んでいる。このため、水中のpHを一時的に上昇させ易い特性がある。このため、「炭酸化処置」を施し、f-CaOをCaCO3とした「炭酸化製鋼スラグ」とし、溶出水のpHを低下させることが必要になる場合もある。この製鋼スラグの炭酸化処理は、製鋼スラグを二酸化炭素又は炭酸含有水と接触させることにより実施することができる。例えば、特許文献5では、大気雰囲気下、加圧雰囲気下、又は水蒸気雰囲気下で、製鋼スラグに自由水が存在し始める水分値未満で、かつ、該水分値よりも10質量%少ない値以上になるように水分量又は炭酸水量を調整した後に、炭酸ガスを含有する相対湿度が75〜100%のガスを流して、製鋼スラグを炭酸化する方法が記載されている。この炭酸化の操作により、f-CaOはCaCO3となり、f-CaO及びCa(OH)2の割合を0.9質量%以下にすることができ、また、生成したCaCO3は、製鋼スラグ表面上に形成されるため、残存するf-CaOやCa(OH)2の急激な溶出を抑制にすることができる。このような炭酸化処理を製鋼スラグに施すことにより、水域での一時的なpHの上昇を効果的に防止することができる。なお、製鋼スラグを炭酸化処理する方法については、上記方法に限定されるものではなく、f-CaOをCaCO3とし安定化できる方法であれば、どのような炭酸化処理方法でも構わない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)浚渫土砂の固化による藻類増殖抑制効果の確認試験
海域の航路の底質を定期的に浚渫することにより発生する浚渫土砂(底質浚渫土)の中には、微細藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞が潜んでいる場合がある。これらは、光や海水温等が藻類の生育に適した環境になると、容易に発芽する。そこで、この浚渫土砂(底質浚渫土)に製鋼スラグを混合し、固化せしめることにより、藻類の発生状況がどのように変化するかを検証した。
【0051】
海域から採取した底質浚渫土(浚渫土砂;30g:湿重)に、カルシウム成分を含む無機系資材として製鋼スラグの一定量を添加し混合して、製鋼スラグ含有率がそれぞれ0質量%、10質量%、25質量%、50質量%、及び75質量%の硬度改質土を調製した。この調製した硬度改質土を500mLビーカーの底部に敷き詰め、更に、ビーカー中には培養液として栄養塩(N、P)を十分に添加した人工海水400mL(N:585mg/L、P:4.5 mg/L、pH:7.95)を入れ、20℃の恒温室内にて、藻類の発生を促した。また、実験開始より28日後に、山中式土壌硬度計により、硬度改質土(底質改質部)の土壌硬度を測定した。下記の表1に示す結果から明らかなように、製鋼スラグの混合割合の増加に伴い、固化が進行して土壌硬度が上昇していた。
【0052】
【表1】

【0053】
また、藻類の発生状況を目視にて観察した結果、実験開始より17日目には、0質量%、10質量%、及び25質量%の割合で製鋼スラグを添加した実験系において藻類の発生が確認された。そこで、これらの実験系について、培養液(人工海水)中のクロロフィルa量を多波長励起蛍光光度計により測定し、藻類の発生抑制率を算出した。結果を図1に示す。
【0054】
上記の表1と図1に示す結果から明らかなように、製鋼スラグを10質量%の割合で含んだ製鋼スラグ含有率10質量%の硬度改質土(土壌硬度:20kPa)において約50%の藻類発生抑制効果が認められ、また、製鋼スラグ含有率25質量%の硬度改質土(土壌硬度:50kPa)において94%の藻類発生抑制効果が認められ、製鋼スラグ含有率が25質量%以上になると土壌硬度が50kPa以上になり、90〜100%の藻類発生抑制効果を示すことが明らかになった。藻類の発生は、浚渫土砂の僅かの土壌硬度の上昇によって大きく抑制された。
【0055】
また、pHの藻類への影響を調べるため、培養液(人工海水)のpHについても測定した。結果は、製鋼スラグ含有率が10〜50質量%の実験系において、培養液のpHはいずれも8.6〜8.9程度であり、人工海水のpHよりも固化の程度が底質浚渫土からの藻類の発生抑制に影響していると考えられた。なお、製鋼スラグ含有率が75質量%の底質改質土は、100%の藻類発生抑制効果が得られたが、培養液(人工海水)のpHが9を超えて上昇したため、製鋼スラグ含有率は50質量%以下であることが望ましい。
【0056】
(実施例2)パイロットプラント実験水槽を用いた藻類増殖抑制効果の検証試験
海域の底質から採取した底質浚渫土、又は、この底質浚渫土に製鋼スラグを50質量%の割合で混合し固化せしめた硬度改質土(土壌硬度:3000kPa)を、それぞれ5箱の10Lコンテナー(336mm×194mm×156mm;合計50L)中に底質改質部として充填し、また、下記の表2に示す仕様のパイロットプラント実験水槽の2系列を用意し、前記各系列の実験水槽には、底質として、底質浚渫土又は硬度改質土が充填された5箱のコンテナーを敷設した。
【0057】
【表2】

【0058】
更に、上記実験水槽には、下記の表3に示す組成(20L当りの成分量g)の人工海水600Lを添加し、滞留時間が1時間となるような条件でこの人工海水を循環させた。実験水槽の水深は375mmであって、また、コンテナー表面までの水深は150mmであった。
【0059】
【表3】

【0060】
実験は2009年7月23日から9月25日までの約2ヵ月間実施した。各水槽の水温、pH、DO(溶存酸素)を連続的に測定した。実験期間中、海水温は、藻類の発芽に適した25〜35℃にほぼ保たれていた。また、水槽表面では、光量子計を用い、波長400〜700nmの光量子数(μmol/m2/s)を1回/日、午後1時に測定した。2週間目までの実験初期には毎日、また、2週間目以降は1回/週の割合で、各系列の海水を採取し、水質(窒素、リン、シリカ、カルシウム)を分析した。更に、多波長励起−蛍光光度計を用い、水中のクロロフィルa濃度を1回/日の割合で測定し、藻類の発生状況や種類を経時的に検証した。
【0061】
底質浚渫土を用いた実験水槽と硬度改質土を用いた実験水槽での人工海水中での藻類の発生状況を経日的に測定し、また、実験水槽全体に発生した藻類量を測定し、底質浚渫土を用いた実験水槽の場合と硬度改質土を用いた実験水槽の場合とを比較した。結果を図2及び表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
底質浚渫土を用いた実験系では、実験開始1週間で、藻類の大増殖(珪藻)が観察され、また、4週間後には、珪藻ばかりでなく緑藻類の増殖も観察された。また、この実験系では炭酸同化作用の進行に伴い、pHやDOの上昇も確認された。更に、表4に示すように、藻類は海水中よりも壁面や水底に多く付着しており、藻類の発生総量を確認するためには、このような付着性の藻類量を測定する必要性が認識された。
【0064】
一方、硬度改質土を用いた実験系では、実験期間中、藻類の増殖が底質浚渫土を用いた実験系よりも抑制され、pHやDOも底質浚渫土を用いた実験系よりも低く推移することが確認された。特に、底質浚渫土を用いた実験系で大発生した珪藻の増殖抑制効果が顕著であり、底質浚渫土の固化によってこの底質浚渫土からの藻類発生が抑制されることが確認された。また、製鋼スラグを浚渫土砂に混合し、固化せしめることにより、クロロフィルaで示される藻類の発生総量を約97%削減できた。このように大型装置によっても、図2の基礎実験の場合と類似の結果が得られた。
【0065】
なお、実際の湖沼や海域等の水域においては、パイロットプラントのような壁面効果は小さく、無視できるので、水中のクロロフィルa量をモニタリングすることにより、藻類総量の増殖抑制効果を検証できると思われる。
【0066】
更に、図3に、底質浚渫土を用いた実験系及び硬度改質土を用いた実験系における人工海水中でのPO4−Pの経日変化を示す。
実験当初、PO4−Pの値は、底質浚渫土を用いた実験系で溶出によって上昇したが、藻類の増殖に伴い減少し、約1週間で検出限界値(0.005mg/L)以下となった。一方、硬度改質土を用いた実験系では、実験開始直後から検出限界値以下であった。これは、後述(バッチ実験)するように、製鋼スラグの投入により、PO4−Pの溶出がほぼ抑制されたためと考えられる。このように、リンの溶出抑制も藻類の増殖抑制に大きく寄与すると考えられる。
【0067】
(実施例3)バッチ実験によるリン、シリカ溶出抑制効果の検証試験
海域の底質から採取した底質浚渫土、又は、この底質浚渫土に製鋼スラグを50質量%の割合で混合し固化せしめた硬度改質土(土壌硬度:3000kPa)を、それぞれ底質として、2系列のフラスコ(容量:5L;内径200mm)中に別々に0.5L(wet)ずつ充填した。その後、底質を掻き混ぜないように、上記表3に示す組成の人工海水4.5Lを各フラスコにゆっくりと添加し、各フラスコの光を遮断しながら、室温(22〜25℃)、好気条件下(DOのある状態)で約2ヶ月放置した。
【0068】
底質浚渫土あるいは硬度改質土の直上に位置する水(以下、「直上水」という。)中のpH、DO、ORP、及び水温を連続的にモニタリングし、記録(10秒毎)した。定期的に直上水の300mLを、底質を乱さないように採取し、0.45μmミリポアフィルターを用いてろ過した後、PO4−P(リン酸態リン)、Si、及びCaの濃度を測定した。
【0069】
図4に、好気条件下でのPO4−Pの経日変化を示す。底質浚渫土を用いた実験系ではリンの溶出が観測された。底質浚渫土からのリンの初期溶出速度(0日〜5日間)は、好気条件で約13mg-P/m2/day程度であり、過去の海域でのリンの溶出速度に関する報告とも類似していた。一方、硬度改質土を用いた実験系では、リンの溶出はほぼ完全に抑制されていた。
【0070】
図5に、好気条件下のカルシウム溶出量(カルシウム濃度−海水含有のカルシウム濃度)の経日変化を示す。底質浚渫土を用いた実験系では、カルシウムの溶出は全く認められないが、硬度改質土を用いた実験系では、カルシウムが溶出し、その初期溶出速度(0〜5日)は17g-Ca/m2/day程度であった。硬度改質土中の製鋼スラグから溶出する高濃度のカルシウムは、硬度改質土を形成する底質浚渫土中のシリカと反応してその固化が促進され、また、リンと反応し、カルシウムアパタイトを形成し、リンの不溶化に繋がっていることを示している。
【0071】
図6に、好気条件下でのシリカの経日変化を示す。底質浚渫土を用いた実験系からはシリカの溶出が観測された。この実験系でのシリカの初期溶出速度(0〜5日)は、好気条件で120mg-Si/m2/day程度であった。一方、硬度改質土を用いた実験系の場合には、シリカの溶出量は大幅に低下し、殆ど観測されなかった。これは、底質浚渫土から溶出するシリカと製鋼スラグから溶出するカルシウムイオンとが反応し、C-S-Hを形成したためと考えられる。
【0072】
このように、製鋼スラグを底質浚渫土に混合すると、底質浚渫土単独の場合と比較してリン、シリカの溶出がほぼ抑制された。底質浚渫土に製鋼スラグを混合することにより、カルシウムの溶出が顕著に生じ、上記反応により、底質浚渫土からのリン、シリカの溶出が顕著に抑制ることが判明した。リンはすべての藻類に、また、シリカは、特に珪藻類の増殖に必須の成分であり、このことも藻類増殖の抑制に寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域の底質にカルシウム成分を含む無機系資材を導入し、この導入された無機系資材から供給されるカルシウムイオンにより、前記無機系資材導入後の底質の表面に28日後の土壌硬度50kPa以上であって厚さ10cm以上の底質改質部を形成せしめ、この底質改質部により前記底質中に存在する藻類の休眠接合子(シスト)及び/又は休眠期細胞の発芽を抑制し、水域における藻類の増殖を抑制することを特徴とする藻類の増殖抑制方法。
【請求項2】
前記底質改質部の形成は、水域の底質をその表面から10cm以上の深さで浚渫し、この浚渫された底質浚渫土に無機系資材を混合して28日後の土壌硬度50kPa以上に改質された硬度改質土を調製し、得られた硬度改質土を浚渫された水域の底質上に10cm以上の厚さとなるように敷き詰めて行うことを特徴とする請求項1に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項3】
前記硬度改質土は、水域の底質から底質浚渫土をサンプリングし、このサンプリングされた底質浚渫土を用いて無機系資材の混合割合に対する28日後の土壌硬度を求める土壌硬度改質試験を行い、この土壌硬度改質試験の結果から底質浚渫土に添加する無機系資材の添加量を求め、この求められた添加量に従って底質浚渫土に無機系資材を添加し混合して調製することを特徴とする請求項2に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項4】
前記底質に導入される無機系資材が、製鉄所から発生する製鋼スラグ又はこの製鋼スラグに炭酸化処理を施して得られた炭酸化製鋼スラグであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項5】
前記製鋼スラグ又は炭酸化製鋼スラグが、底質浚渫土に対して10〜50質量%の割合で導入される請求項4に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項6】
前記製鋼スラグ又は炭酸化製鋼スラグに、シリカ供給資材を混合することを特徴とする請求項4又は5に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項7】
前記シリカ供給資材が、シリカ成分を含む浚渫土砂であることを特徴とする請求項6に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項8】
前記底質改質部の形成は、無機系資材を用いて予め28日後の土壌硬度50kPa以上の覆土資材を調製し、この覆土資材を水域の底質上に10cm以上の厚さとなるように敷き詰めて行うことを特徴とする請求項1に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項9】
前記覆土資材が、無機系資材そのものであって、製鉄所から発生する製鋼スラグ又はこの製鋼スラグに炭酸化処理を施して得られた炭酸化製鋼スラグであることを特徴とする請求項8に記載の藻類の増殖抑制方法。
【請求項10】
前記水域の底質に無機系資材を導入して、無機系資材導入後の底質の表面に28日後の土壌硬度50kPa以上であって厚さ10cm以上の底質改質部を形成せしめた後、水域中のクロロフィルaの経時変化を多波長励起蛍光光度計で連続モニタリングし、水域中の藻類の増殖抑制状況を監視することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の藻類の増殖抑制方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−23986(P2012−23986A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163591(P2010−163591)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】