説明

藻類培養装置及び方法

【課題】微細藻類の培養コストを従来よりも低減する。
【解決手段】活性汚泥法を用いた下水処理装置1と、該下水処理装置1で発生する生汚泥及び余剰汚泥を消化処理する汚泥処理装置2と、該汚泥処理装置2から排出される消化汚泥脱離液X9あるいは濃縮汚泥分離液X5を電解パルスを用いて殺菌処理する殺菌装置3と、該殺菌装置3でした殺菌処理した栄養塩含有液を培養液として微細藻類を培養する微細藻類培養装置4とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類培養装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、微細藻類(植物性プランクトン)は、食品や燃料として注目されている。例えば下記非特許文献1には、微細藻類の一種であるクロレラの培養(製造)方法として、地表に設けられた複数の大型プールを培養槽としてクロレラを培養することが開示されている。すなわち、この培養方法は、河川や地下水を大型プールに導入し、クロレラの増殖に必要な各種の栄養塩を添加することにより、クロレラを大量培養するものである。微細藻類を食品や燃料等の原料として利用するためには、微細藻類を大量に培養する必要があるため、このような培養方法が採用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“クロレラ工業株式会社のホームページ”(平成23年5月17日検索,URL:http:/www.chlorella.co.jp)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、微細藻類を原料として大量培養する場合、培養コストの低減は必須の課題である。例えばボトリオコッカス・ブラウニー(学名:Botryococcus braunii)等の微細藻類を用いて燃料(バイオ燃料)を回収するためには、微細藻類から燃料(バイオ燃料)を抽出するために複数の工程を経る必要があるので、バイオ燃料の製造コストが嵩む。したがって、原料としての微細藻類の培養コストを極力低減する必要がある。
また、微細藻類を原料として大量培養する場合には、大量の培養液を必要とするが、培養液に雑菌が混入すると微細藻類の増殖が雑菌によって抑制されて培養効率が低下するという問題もある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、雑菌による培養効率の低下を抑えつつ微細藻類の培養コストを従来よりも低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、藻類培養方法に係る第1の解決手段として、活性汚泥法を用いた廃水処理で得られる栄養塩含有液を電界パルスを用いて殺菌処理したものを培養液として微細藻類を培養する、という手段を採用する。
【0007】
藻類培養方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、栄養塩含有液は生汚泥及び余剰汚泥を消化処理して得られる消化汚泥脱離液である、という手段を採用する。
【0008】
藻類培養方法に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、栄養塩含有液は最初沈殿池の上澄み液である、という手段を採用する。
【0009】
藻類培養方法に係る第4の解決手段として、上記第1の解決手段において、栄養塩含有液は最終沈殿池の上澄み液である、という手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、に係る第1の解決手段として、活性汚泥法を用いた下水処理装置と、該下水処理装置で発生する生汚泥及び余剰汚泥を消化処理する汚泥処理装置と、下水処理装置あるいは汚泥処理装置で得られる栄養塩含有液を電界パルスを用いて殺菌処理する殺菌装置と、該殺菌装置でした殺菌処理した栄養塩含有液を培養液として微細藻類を培養する培養装置とを具備する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、活性汚泥法を用いた下水処理で得られる栄養塩含有液を電界パルスを用いて殺菌処理したものを培養液として微細藻類を培養するので、微細藻類の増殖に必要な栄養塩を別途調達する必要がなく、また栄養塩含有液に含まれる雑菌を殺菌あるいは滅菌することができ、よって雑菌による培養効率の低下を抑えつつ微細藻類の培養コストを従来よりも低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る藻類培養システムの構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る藻類培養システムの構成を示すシステム構成図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る藻類培養システムの構成を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
本第1実施形態に係る藻類培養システムは、図1に示すように、下水処理装置1、汚泥処理装置2、高電界パルス殺菌装置3及び微細藻類培養装置4によって構成されている。下水処理装置1は、廃水の一種である下水X1を活性汚泥法に基づいて処理する装置である。また、本第1実施形態に係る藻類培養方法は、このような藻類培養システムにおける処理プロセスである。
【0014】
図1では省略しているが、下水処理装置1は、図2に詳細を示す下水処理装置1と全く同様なものである。この下水処理装置1は、地域から回収した下水X1を活性汚泥法に基づいて清浄化処理することにより、当該清浄化処理によって得られた放流水X2を河川や湖に排出する。また、このような下水処理装置1は、活性汚泥法を用いたものなので、副産物として汚泥X3が発生する。
【0015】
汚泥処理装置2は、上記汚泥X3を受け入れて消化及び焼却処理するものであり、図示するように濃縮装置2a、消化槽2b、脱水機2c及び焼却炉2dから構成されている。上記汚泥X3は大量の水分を含んだものであり、濃縮装置2aは、汚泥X3を一定時間静置することにより濃縮する濃縮槽である。このような濃縮装置2aは、濃縮処理によって得られる濃縮汚泥X4を消化槽2bに供給すると共に、当該濃縮処理によって汚泥X3から分離された濃縮汚泥分離液X5を外部に排出する。なお、濃縮装置2aとしては、上記濃縮槽に代えて機械式濃縮機、例えばベルト型ろ過濃縮機を用いてもよい。
【0016】
消化槽2bは、濃縮汚泥X4を消化処理することにより当該濃縮汚泥X4に含まれる有機成分を無機化するものである。すなわち、この消化槽2bは、有機物を含む濃縮汚泥X4を所定時間に亘って嫌気性消化処理(メタン発酵処理)する装置であり、当該嫌気性消化処理後の消化汚泥X6(固形分)を脱水機2cに供給する一方、嫌気性消化処理によって発生した消化ガスX7(メタンガスを主成分とする混合ガス)を外部に排出する。
【0017】
脱水機2cは、上記消化汚泥X6に脱水処理を施すものであり、例えばベルトプレス型脱水機である。この脱水機2cは、消化汚泥X6を脱水処理して得られた脱水ケーキX8を焼却炉2dに供給する一方、脱水処理によって消化汚泥X6から分離された消化汚泥分離液X9を高電界パルス殺菌装置3に供給する。なお、このような脱水機2cによる脱水処理に先行して、消化汚泥X6に高分子凝集剤を添加して消化汚泥X6中の固形分を凝集させることにより、脱水性能を向上させることができる。焼却炉2dは、脱水ケーキX8を焼却処理する装置であり、例えば流動床式焼却炉である。
【0018】
高電界パルス殺菌装置3は、平行対峙する一対の電極間に消化汚泥分離液X9を流通させると共に上記両電極間に高電圧パルスを印加することによって消化汚泥分離液X9に含まれる雑菌を殺菌あるいは滅菌する装置である。すなわち、上記両電極間に高電圧パルスを印加すると、消化汚泥分離液X9に高電界パルス(数十〜数百kV/cm程度の電界強度)が作用し、この結果として消化汚泥分離液X9中に含まれる雑菌(例えば汚泥X3中に含まれる細菌や消化槽2bの硝化細菌等)は、生体的なダメージを受けて死滅する。この高電界パルス殺菌装置3は、このような殺菌処理を施した消化汚泥分離液X9を微細藻類培養装置4に供給する。なお、このような高電界パルス殺菌装置3については、特許4106800号公報や特開2009−018008号公報等に詳細が記載されている。
【0019】
微細藻類培養装置4は、上記高電界パルス殺菌装置3から供給される殺菌処理後の消化汚泥分離液X9を培養液として、食品や燃料等の原料になる微細藻類(植物性プランクトン)、つまり産業上有用な微細藻類を培養する装置である。このような微細藻類は、例えば体内で炭化水素(燃料)を生成する微細藻類(例えば、ボトリオコッカス・ブラウニー(学名:Botryococcus braunii)やアオコ)、また食品原料として有用な微細藻類(例えばクロレラ)である。
【0020】
ここで、微細藻類は、植物の一種なので光合成を繰り返して増殖するが、このような増殖には光の他に栄養塩が必要である。この栄養塩は、窒素源としてのアンモニウム塩や硝酸塩、リン源としてのリン酸塩、また硫黄源としての硫酸塩を主とするものである。上記下水X1は、このような微細藻類の培養に必要な栄養塩を豊富に含んでいる。
【0021】
また、上記消化汚泥分離液X9は、濃縮汚泥X4がメタン発酵して得られた消化液なので、微生物が栄養とする有機成分が極めて少ない一方、アンモニア(NH)を多く含む。また、上記下水X1に豊富に含まれる栄養塩は、濃縮汚泥X4にも豊富に含まれているので、消化汚泥分離液X9は、上記下水X1由来の栄養塩を豊富に含むものである。このような消化汚泥分離液X9を培養液として微細藻類を培養すると、微細藻類が光合成により生成した酸素(O)と上記アンモニア(NH)とが硝化細菌の作用によって硝化反応を起こし、硝酸が生成される。なお、上記硝化細菌は、上記下水X1中に含まれる主な雑菌である。
【0022】
すなわち、本第1実施形態によれば、上記消化汚泥分離液X9を電界パルスを用いて殺菌処理したものを培養液として微細藻類培養装置4で微細藻類を培養するので、栄養塩を別途用意する必要がないと共に消化汚泥分離液X9に含まれる雑菌を殺菌あるいは滅菌することができる。したがって、本第1実施形態によれば、下水X1由来の消化汚泥分離液X9を殺菌処理したものを培養液とするので、栄養塩の調達コストが不要となり、よって雑菌による培養効率の低下を抑えつつ微細藻類の培養コストを従来よりも大幅に低減することが可能である。
【0023】
また、消化汚泥分離液X9に含まれる主な雑菌である硝化細菌は、消化槽2bにおけるメタン発酵処理で生成されたアンモニア(NH)を専ら原料として消費するので、微細藻類が増殖に必要とする栄養塩が硝化細菌によって消費され、これによって微細藻類の増殖が阻害されることがない。したがって、本第1実施形態によれば、消化汚泥分離液X9を培養液とすることによって、下水X1由来の雑菌によって微細藻類の増殖が阻害されることを抑制することができる。
【0024】
さらに、微細藻類の光合成により生成された酸素(O)が硝化細菌による硝化反応によって消化されるので、微細藻類の増殖を活発化することが可能である。したがって、本第1実施形態によれば、消化汚泥分離液X9を培養液とすることによって微細藻類の増殖速度を速くすることができるので、微細藻類の培養時間を短時間化することが可能である。
【0025】
〔第2実施形態〕
本第2実施形態に係る藻類培養システムは、図2に示すように、下水処理装置1、汚泥処理装置2、高電界パルス殺菌装置3及び微細藻類培養装置4によって構成されている。また、下水処理装置1は、最初沈殿池1a、曝気槽1b、最終沈殿池1c及び消毒設備1dから構成されている。すなわち、この藻類培養システムは、下水処理装置1における最初沈殿池1aの処理水を高電界パルス殺菌装置3で殺菌処理したものを微細藻類培養装置4の培養液とするものである。なお、この図2では、第1実施形態に係る藻類培養システムと同一な構成要素には同一符号を付している。
【0026】
最初沈殿池1aは、下水処理装置1の最上流に位置するものであり、下水X1を受け入れて緩やかに下流に流すことにより下水X1中の固形成分を沈降させ、上澄み水X11を曝気槽1b及び高電界パルス殺菌装置3に排出する一方、上記固形成分を生汚泥X12として汚泥処理装置2に供給する。曝気槽1bは、活性汚泥が予め所定量収容されると共に上記最初沈殿池1aから上澄み水X11を受け入れる。この曝気槽1bは、これら活性汚泥と上澄み水X11を曝気して攪拌・混合することにより、上澄み水X11中の有機成分を分解処理し、処理水と活性汚泥との混合水X13を最終沈殿池1cに排出する。
【0027】
最終沈殿池1cは、上記混合水X13を受け入れて緩やかに下流側に流すことにより混合水X13中の固形成分(活性汚泥)を沈降させ、上澄み水を14を消毒設備1dに排出する。また、この最終沈殿池1cは、上記固形成分(活性汚泥)の一部を循環汚泥X15として曝気槽1bに供給する一方、上記固形成分(活性汚泥)の残りを余剰汚泥X16として汚泥処理装置2に供給する。消毒設備1dは、最終沈殿池1cの上記上澄み水を14を消毒処理して放流水X2とするものです。
【0028】
高電界パルス殺菌装置3は、最初沈殿池1aから供給される上澄み水X11中に含まれる雑菌を電界パルスを用いて殺菌するものである。この高電界パルス殺菌装置3は、殺菌処理した上澄み水X11を微細藻類培養装置4に供給する。
【0029】
本第2実施形態では、微細藻類培養装置4は、高電界パルス殺菌装置3から供給される殺菌処理した上澄み水X11を培養液として微細藻類を培養する。上記最初沈殿池1aで得られる上澄み水X11は、上述したように栄養塩を豊富に含む下水X1由来のものなので、微細藻類の培養に必要な栄養塩を豊富に含んでいる。したがって、本第2実施形態によれば、栄養塩の調達コストが不要となり、よって雑菌による培養効率の低下を抑えつつ微細藻類の培養コストを従来よりも大幅に低減することが可能である。
【0030】
また、上澄み水X11は、硝化細菌等の雑菌を多く含んでいる。したがって、このような上澄み水X11を培養液とした場合には、栄養塩が雑菌によって消費されることにより微細藻類の増殖が阻害される虞がある。これに対して、本第2実施形態によれば、最初沈殿池1aの上澄み水X11を高電界パルス殺菌装置3で殺菌処理すたものを培養液とするので、上述した微細藻類の増殖の阻害が発生しない。
【0031】
〔第3実施形態〕
本第3実施形態に係る藻類培養システムは、図3に示すように、最終沈殿池1cから排出される上澄み水をX14を高電界パルス殺菌装置3で殺菌処理したものを培養液として微細藻類培養装置4に供給するものである。最終沈殿池1cの上澄み水をX14は、上述した最初沈殿池1aが排出する上澄み水X11とは異なり、曝気槽1bにおける有機成分の分解処理を経た処理水なので、雑菌を殆ど含んでいないが多少の雑菌が含まれており、また栄養塩を十分に含んでいる。
【0032】
したがって、本第3実施形態によれば、上述した第2実施形態と同様に、雑菌が殺菌されると共に栄養塩の調達コストが不要なので、雑菌による培養効率の低下を抑えつつ微細藻類の培養コストを従来よりも大幅に低減することが可能である。
【0033】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記各実施形態では、微細藻類培養装置4で培養する微細藻類(植物性プランクトン)として、ボトリオコッカス・ブラウニーやアオコ)、またクロレラを例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明はこれ以外の微細藻類についても有用である。
【0034】
(2)上記第1実施形態では、消化汚泥分離液X9を培養液としたが、この消化汚泥分離液X9に代えて濃縮汚泥分離液X5を用いてもよい。すなわち、この濃縮汚泥分離液X5は、消化処理の前段階のものなのでアンモニアを含んでいないが、微細藻類の培養に必要な栄養塩を豊富に含んでいるので培養液として十分に利用できる。
【0035】
(3)上記第2実施形態では、上記高電界パルス殺菌装置3を採用したが、本発明はこれに限定されない。高電界パルス殺菌装置3に代えて、例えば紫外線を用いる殺菌装置あるいはオゾンを用いた殺菌装置を採用してもよい。また、高電界パルスと紫外線とオゾンとを併用した殺菌装置を採用してもよい。
(4)上記第1〜第3実施形態では、活性汚泥法を用いた廃水処理の一例として下水処理について説明したが、本発明は下水処理に限定されるものではなく、下水処理以外の様々な廃水処理で得られた栄養塩含有液に適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…下水処理装置、1a…最初沈殿池、1b…曝気槽、1c…最終沈殿池、1d…消毒設備、2…汚泥処理装置、2a…濃縮装置、2b…消化槽、2c…脱水機、2d…焼却炉、3…高電界パルス殺菌装置、4…微細藻類培養装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥法を用いた廃水処理で得られる栄養塩含有液を電解パルスを用いて殺菌処理したものを培養液として微細藻類を培養することを特徴とする藻類培養方法。
【請求項2】
栄養塩含有液は、生汚泥及び余剰汚泥を消化処理して得られる消化汚泥脱離液であることを特徴とする請求項1記載の藻類培養方法。
【請求項3】
栄養塩含有液は、最初沈殿池の上澄み液であることを特徴とする請求項1記載の藻類培養方法。
【請求項4】
栄養塩含有液は、最終沈殿池の上澄み液であることを特徴とする請求項1記載の藻類培養方法。
【請求項5】
活性汚泥法を用いた廃水処理装置と、
該廃水処理装置で発生する生汚泥及び余剰汚泥を消化処理する汚泥処理装置と、
廃水処理装置あるいは汚泥処理装置で得られる栄養塩含有液を電解パルスを用いて殺菌処理する殺菌装置と、
該殺菌装置でした殺菌処理した栄養塩含有液を培養液として微細藻類を培養する培養装置と
を具備することを特徴とする藻類培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239423(P2012−239423A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112389(P2011−112389)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】