説明

藻類抑制方法および藻類抑制剤

【課題】煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制する。
【解決手段】アレロパシー効果を有する沈水植物3を、藻類の抑制対象となる水域1の水底2に植栽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類抑制方法および藻類抑制剤に関するものであり、具体的には、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
流域からの窒素、燐等の栄養塩類の供給により、徐々に富栄養化する湖沼や閉鎖性海域が増えている。また、そうした湖沼や閉鎖性海域では藻類の増殖繁茂が問題となっている。藻類が増殖繁茂することで、その水域の水質悪化が進み、貧酸素化、藻類由来の有害物質による水生生物死滅、透明度低下、悪臭発生といった現象が見られるようになる。そこで、こうした藻類(植物プランクトン)の抑制技術として、例えば、流域からの窒素、燐等の流入負荷低減、栄養塩等の溶出抑制を目的とした底泥における覆砂や浚渫、或いは水の直接浄化といった手法が存在した。
【0003】
また、三次元網目構造の多孔質材からなる植生基盤と、この植生基盤を水に浮かせた状態に支持する支持手段とからなる人工浮島であって、前記植生基盤に、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出するヒメガマ、クサヨシ、マコモ、カサスゲから選択される抽水植物を植栽したことを特徴とする人工浮島(特許文献1参照)なども提案されている。また、植生基盤と、この植生基盤を水に浮かせた状態に支持する支持手段とからなる人工浮島であって、前記植生基盤に、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物を植栽したことを特徴とする人工浮島(特許文献2参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4456654号公報
【特許文献1】特開2010−213578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の、流域からの窒素、燐等の流入負荷低減の手法を実施する為には、流域全体での水質浄化に取り組む必要があり、行政等の施策との関係もあって実現までに長期間を要するおそれがある。また、底泥における覆砂や浚渫を行う手法は即効性があるが、流域の環境が改善されない限り、時間経過と共にその効果がなくなってしまうという問題がある。また、水中に含まれる懸濁物質や栄養塩の除去を行う水の直接浄化手法も即効性があるが、運用を継続するためには莫大なコストを要する手法であり、幅広く適用することは困難であった。
【0006】
一方、特許文献らに例示されるような技術を採用する場合、対象水域の水位変動によって人工浮島の所在水位も変動し、人工浮島に植栽された抽水植物の生育が不順となる懸念もある。また、この懸念に対処するために人工浮島の所在位置を随時調整する場合、非常に煩雑な管理が必要となってしまう。
【0007】
そこで本発明は、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の藻類抑制方法は、アレロパシー効果を有する沈水植物を、藻類の抑制対象となる水域の水底に植栽することを特徴とする。これによれば、前記沈水植物から溶出したアレロパシー物質が、水域に存在する各種藻類に作用し、その発生を効果的に抑制することができる。しかも、水底に植栽された沈水植物は、そのまま定着し自然に生育を続ける為、特段の管理やコスト投下等をせずとも、水域へのアレロパシー物質の溶出は継続することになる。また、沈水植物から溶出するアレロパシー物質は植物由来の天然物であり、時間経過と共に自然に分解され、不必要に長期間残留し他に悪影響を及ぼす懸念も少ない。したがって、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できることとなる。
【0009】
なお、前記藻類抑制方法において、前記水域の底泥について覆砂ないし浚渫を行った上で、前記沈水植物の植栽を行うとしてもよい。これによれば、水底が既に多量の栄養塩や有機物で覆われてしまっている場合であっても、それらが水中に舞い上がり拡散することを覆砂で抑止するか、或いは底泥自体を浚渫して栄養塩等を一旦除去した上で、沈水植物の植栽を行うことができる。従って、それまで堆積していた栄養塩等による悪影響を排除した上で、沈水植物のアレロパシー物質による藻類抑制を行うことが可能となり、対象水域の現状に柔軟に対応した効果的な藻類抑制が実現される。
【0010】
また、本発明の藻類抑制方法は、アレロパシー効果を有する沈水植物を所定期間浸漬させた液体を、藻類の抑制対象となる水域に投入することを特徴とする。これによれば、前記沈水植物から溶出し前記液体に含まれるアレロパシー物質が、水域に存在する各種藻類に作用し、その発生を効果的に抑制することができる。対象水域の環境(水深や水流、水質等)が沈水植物の定着には厳しい環境であってもそうした環境に左右されず、前記液体を投入するだけで藻類の発生を効果的に抑制することができる。しかも、前記液体は、前記沈水植物を浸漬するだけで簡単に生成することが出来、生成の為の手間やコストも低く抑えられる。また、前記液体が含む沈水植物由来のアレロパシー物質は植物由来の天然物であり、時間経過と共に自然に分解され、不必要に長期間残留し他に悪影響を及ぼす懸念も少ない。従って、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できることとなる。
【0011】
なお、前記藻類抑制方法において、前記水域の底泥について覆砂ないし浚渫を行った上で、前記液体の投入を行うとしてもよい。これによれば、水底が既に多量の栄養塩や有機物で覆われてしまっている場合であっても、それらが水中に舞い上がり拡散することを覆砂で抑止するか、或いは底泥自体を浚渫して栄養塩等を一旦除去した上で、前記液体を投入し藻類の発生を抑制することができる。従って、それまで堆積していた栄養塩等による悪影響を排除した上で、沈水植物由来のアレロパシー物質を含む液体での藻類抑制を行うことが可能となり、対象水域の現状に柔軟に対応した効果的な藻類抑制が実現される。
【0012】
また、本発明の藻類抑制剤は、アレロパシー効果を有する沈水植物を所定期間浸漬させてなる液体であることを特徴とする。こうした藻類抑制剤によれば、藻類の発生を抑制したい水域へのアレロパシー物質の投下を非常に簡単に実現することが可能となる。また、沈水植物の浸漬を適宜な施設にて集約的に行って当該藻類抑制剤を生成すれば、その生成コストや手間も更に低減され、低廉なコストと少ない手間で効果的な藻類抑制を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態における藻類抑制方法の適用例1を示す図である。
【図2】本実施形態における藻類抑制方法の適用例2を示す図である。
【図3】本実施形態における池水単独培養試験により得られた、培養期間と検液の濁度との関係を示すグラフである。
【図4】本実施形態における共培養試験および移植水培養試験により得られた、培養期間と検液の濁度との関係を示すグラフである。
【図5】本実施形態の流入水における共培養に及ぼすカワツルモ量の影響を示すグラフである。
【図6】本実施形態の流入水における移植水培養に及ぼすカワツルモ量の影響を示すグラフである。
【図7】本実施形態における経過日数と濁度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態における藻類抑制方法の適用例1を示す図である。本実施形態においては、藻類発生を抑制すべき水域1の水底2に、アレロパシー効果を有する沈水植物3として例えばカワツルモを植栽している。但し、前記沈水植物3は、水底2の地盤に直接植栽する場合のみならず、適宜な量の土壌を擁した容器に植栽し、これを水底2に沈下・固定する状況も想定できる。
【0016】
水底2に植栽されたカワツルモ3は、水底2に根を張って活着し、その場で生育を続けることになる。また、カワツルモ3からはアレロパシー効果を有する物質、すなわちアレロパシー物質(アレロケミカル)が水中に溶出する。このアレロパシー物質は、他の植物の生長を抑制する物質であり、恐らくは有機物の一種と思われる。カワツルモ3から溶出したアレロパシー物質は、カワツルモ周囲の水域1に拡散し、該当水域1の水中に漂う藻類に作用することになる。アレロパシー物質が作用した各種藻類は活動を低下させ、増殖が抑えられてしまう。
【0017】
一方、カワツルモ3は前記水底2にあって、水中を通って届く太陽光を受け光合成を行って生育し、アレロパシー物質を周囲に放出し続ける。つまり、特段の管理やコスト投下等をせずとも、水域1へのアレロパシー物質の溶出は継続することになる。また、沈水植物たるカワツルモ3から溶出するアレロパシー物質は植物由来の天然物であり、時間経過と共に自然に分解され、不必要に長期間残留し他に悪影響を及ぼす懸念も少ない。したがって、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できることとなる。
【0018】
なお、アレロパシー効果を有する植物の植栽密度に関して、後述する検証試験によれば、沈水植物3たるカワツルモを水域1の水底2に植栽する密度(1リットルの水に存在するカワツルモ3の重量)は、好ましくは、1g/L以上10g/L未満、より好ましくは2g/L以上5g/L未満となった。但し、その検証試験においては、ごく限られた容積の閉鎖系(フラスコ内)で実験を行っており、新たな流入等が存在する実際の湖沼や閉鎖海域等であれば、10g/L以上の高密度植栽が好適な条件となる可能性もある。また、採用する沈水植物3がカワツルモ以外の植物である場合、上述した好ましい植栽密度の値も異なることが予想される。いずれにしても、実際の水域1の環境と植栽する沈水植物3の性質とに応じて、好ましい植栽密度は異なることになる。
【0019】
また、沈水植物3としてはカワツルモを例に挙げたが、その他のアレロパシー効果を有する沈水植物も当然ながら採用できる。例えば、
・フサジュンサイ
・ホザキノフサモ
・コークスクリュー・ヴァリスネリア
・マツモ(金魚藻の一種)
・アメリカヒルムシロ
・金魚藻
・セキショウモ
・シャジクモ
・リュウノヒゲモ
・コカナダモ
といった沈水植物も採用できる。また更に、植栽を行う水域1の水深等にもよるが、アレロパシー効果を有するその他の水生植物を沈水植物3に代えて用いることも可能である。この場合、例えば、
・石菖蒲
・寛叶ガマ[学名:Typha latifolium]
・ホテイアオイ
・オオサンショウモ
・サンショウモ
・コウキクサ
といったものが採用できる。
【0020】
この場合、水域1のうち水深のごく浅い場所の水底2には、上述したその他の水生植物等を植栽し、これら水生植物らが生育困難だが沈水植物3であれば生育できる水深の水底2には沈水植物3を植栽するといった、アレロパシー効果を有する植物の水深による植え分けを行ってもよい。
【0021】
また、本実施形態によって発生抑制が期待できる藻類(植物プランクトン)としては、クリプト藻、渦鞭毛藻、珪藻、ミドリムシ藻、プラシノ藻、および藍藻であり、後述する検証試験に用いた検液にも実際に含まれていた。
【0022】
なお、藻類抑制対策を施すような水域1は、既に富栄養化が進んで汚濁の程度もひどい場合が想定される。そのような状況下では、底泥10から絶え間なく栄養塩らが水中に溶出し藻類に供給されている為、そのまま沈水植物3の植栽を行ったとしても、多くの栄養塩等を得て活発に増殖する藻類を効率的に抑え込むことが難しい。
【0023】
そこで、図2に示すように、底泥10の表面を砂11で被覆、すなわち覆砂を行うことで、底泥10からの栄養塩等の溶出を止め、その上で沈水植物3の植栽を行うとすれば好適である。或いは、底泥自体を除去すべく浚渫を行うことで、水域1からの栄養塩等の除去を図り、その上で沈水植物3の植栽を行うとしても好適である。
【0024】
これによれば、水底2が既に多量の栄養塩や有機物で覆われてしまっている場合であっても、それらが水中に舞い上がり拡散することを抑止するか、或いは底泥自体を浚渫して栄養塩等を一旦除去した上で、沈水植物3の植栽を行うことができる。従って、それまで堆積していた栄養塩等による悪影響を排除した上で、沈水植物3のアレロパシー物質による藻類抑制を行うことが可能となり、対象水域1の現状に柔軟に対応した効果的な藻類抑制が実現される。
【0025】
なお、上述までの例では、沈水植物3を水底2に植栽する状況を前提としていた。だが、こうした前提とは異なり、沈水植物由来のアレロパシー物質を含んだ液体20を水域1に投入することで藻類抑制を図ることも出来る。この場合、アレロパシー効果を有する沈水植物3、例えばカワツルモを所定期間浸漬させ、そのカワツルモを取り除いた後の液体20を、例えば所定のタンク15から藻類の抑制対象となる水域1に投入することとなる。これによれば、前記沈水植物3から溶出し前記液体20に含まれるアレロパシー物質が、水域1に存在する各種藻類に作用し、その発生を効果的に抑制することができる。対象水域1の環境(水深や水流、水質等)が沈水植物3の定着には厳しい環境であってもそうした環境に左右されず、前記液体20を投入するだけで藻類の発生を効果的に抑制することができる。
【0026】
しかも、前記液体20は、前記沈水植物3を浸漬するだけで簡単に生成することが出来、生成の為の手間やコストも低く抑えられる。また、前記液体20が含む沈水植物由来のアレロパシー物質は植物由来の天然物であり、時間経過と共に自然に分解され、不必要に長期間残留し他に悪影響を及ぼす懸念も少ない。従って、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できることとなる。なお、上述と同様に、前記水域1の底泥10について覆砂ないし浚渫を行った上で、前記液体20の投入を行うとしてもよい。
【0027】
前記液体20は、アレロパシー効果を有する沈水植物3を所定期間浸漬させてなる藻類抑制剤とも言える。こうした藻類抑制剤によれば、藻類の発生を抑制したい水域1へのアレロパシー物質の投下を非常に簡単に実現することが可能となる。また、沈水植物3の浸漬を適宜な施設(大規模に浸漬作業を行う工場施設等)にて集約的に行って当該藻類抑制剤を生成すれば、単位量当たりの生成コストや手間も更に低減され、低廉なコストと少ない手間で効果的な藻類抑制を実現できる。前記液体20すなわち藻類抑制剤は、単独で用いる場合のみならず、水底2への沈水植物3の植栽だけでは藻類抑制効果が不十分である場合に、追加的に水域1へ投入するといった状況で用いるとしてもよい。
【0028】
−−−沈水植物によるアレロパシー効果の検証試験概要−−−
続いて、沈水植物3が有するアレロパシー効果について検証試験を行ったので、その検証結果について説明する。当該検証試験に際しては、実際に窒素や燐等の物質が多く含まれた水が流入している池(以下、A池)と、このA池からの流入がある池(以下、B池)の池水を採取し、これらの池水中に沈水植物3の1種であるカワツルモを配置し種々の条件での培養試験を行った。
【0029】
培養試験としては、共培養試験と移植水培養試験を行った。共培養試験は、池水にカワツルモを共存させて培養し、その結果を池水の単独培養と比較して、池水中の植物プランクトンの増殖に及ぼすカワツルモの影響を把握するものである。一方、移植水培養試験は、上記の共培養試験の所定日数後に培養液をろ過し、得られたろ過水(これを移植水と呼ぶ)について、植物プランクトンの種菌を接種し(今回はろ過水と同量の前記A池への流入水を添加)、培養する試験である。なお、植物プランクトンの増殖抑制には、カワツルモのアレロパシー効果に加えて、光量阻害、窒素や燐の吸収争奪、動物プランクトンによる摂取害なども影響する。そこでこれらの因子を除き、アレロパシー効果を明確にするため、上述の移植水培養試験を実施することとした。
【0030】
−−−供試試料−−−
上記の検証試験に際し供試した水すなわち池水試料は、次の3試料とした。
(1)流入水(A池の流入水)
(2)流出水(A池の流出側池水)
(3)B池の池水
これらの各池水試料は4℃の冷蔵室で保存し、使用に際してその都度、目開き2mmのフルイに通すことでゴミ等の不要物を除いたものを検液として用いた。なお、前記A池は湾奥に位置し、付近から取水された汽水にて池水をなしている池である。A池への流入水の水質は塩分が約20‰、窒素分が約1ppm、燐分が約0.2ppm、COD(Chemical Oxygen Demand)が約5ppm程度であった。なお、前記流入水に含まれており、沈水植物由来のアレロパシー物質により発生抑制が期待できる植物プランクトンとしては、クリプト藻、渦鞭毛藻、珪藻、ミドリムシ藻、プラシノ藻、および藍藻であった。
【0031】
また、上記池水試料に投入する沈水植物3としては、一例としてカワツルモを採用している。このカワツルモは前記A池にて採取されたものである。使用に際しては、付着物(落ち葉やシオグサ等)を洗い落とし、湿潤重量を測定した後で実験に供した。
【0032】
−−−試験方法(池水単独培養試験、カワツルモ共培養試験)−−−
続いて、池水単独培養試験、カワツルモ共培養試験の試験方法について説明する。この場合、検液(1000mL)を三角フラスコ(1L容)に入れた後、カワツルモを所定量(0、2、5、10g)添加して培養する。このうち、カワツルモが0gの場合を池水単独培養試験、カワツルモを2、5、10g、各添加する場合をカワツルモ共培養試験と呼ぶ。また、培養は既存の照明付培養施設にて行う。
【0033】
また、培養期間が16日経過した後、培養液残量に対して、D・T−N(溶存体の窒素)を1ppm、D・PO4−P(溶存した燐酸体の燐)を0.5ppm添加して、さらに7日間の培養を行った。最終的な全培養期間は21日間である。培養条件を以下に示す。
・培養温度:25℃
・照 度:4000lx
・明暗周期:14時間明条件、10時間暗条件
・培養法 :静置培養
・試料攪拌:1日1回の頻度で、手で攪拌
【0034】
−−−試験方法(移植水培養試験)−−−
この場合、上述の共培養試験において共培養を開始して6日後の培養液を移植水として用いる。この移植水は、前記共培養試験で6日後に得た培養液からカワツルモを取り出し、さらにろ紙(5C)でろ過した濾液である。この移植水に対し、同量の流入水(A池に流れ込む流入水)を添加した後、上述の共培養試験と同じ条件で10日間の培養を行う。
【0035】
また、この培養を開始し通算培養日数が16日経過後には、培養液残量に対して、D・T−Nを1ppm、D・PO4−Pを0.5ppm添加し、更に7日間の培養を実施した。
【0036】
この時の培養条件は、上述の池水単独培養試験、カワツルモ共培養試験のものと同条件としている。なお、共培養試験を開始して6日間を第1ステップ、この共培養試験を開始して6日目の培養液を移植水として用いて行う上記移植水培養試験の期間(10日間)を第2ステップ、通算培養日数が16日経過後に培養液残量に対して、D・T−Nを1ppm、D・PO4−Pを0.5ppm添加し、更に培養試験を行う期間(7日間)を第3ステップと称する。
【0037】
−−−検液と試験の組み合わせ−−−
先に述べたように、試験に供試した水すなわち検液は、A池に流入する流入水、A池から流出する流出水、B池の池水、であり、以下の表1に示す、(1)〜(12)の各条件で各培養試験を実施した。
【0038】

【0039】
また、検液たる、A池の流入水および流出水、ならびにB池の池水の各池水の水質の分析結果について、表2に示しておく。
【0040】

【0041】
表2にて示すように、濁度については、A池の流入水が「7.3」度、流出水が「6.4」度、B池の池水が「4.5」度であった。また、CODについては、A池の流入水が「5.0」mg/L、流出水が「8.9」mg/L、B池の池水が「24」mg/Lであった。また、溶存体の窒素分については、A池の流入水が「0.95」mg/L、流出水が「0.59」mg/L、B池の池水が「1.0」mg/Lであった。また、溶存した燐酸体の燐分については、A池の流入水が「0.17」mg/L、流出水が「0.24」mg/L、B池の池水が「0.77」mg/Lであった。
【0042】
−−−試験結果(池水単独培養試験)−−−−
上述の条件により行った池水単独培養の試験結果について以下に示す。図3は、池水単独培養試験により得られた、培養期間と検液の濁度との関係を示すグラフである。このグラフが示すように、条件(1):流入水では、2日後から濁度が上昇して4日後には最大28度になり、その後、11日目まで徐々に濁度は減少した。これに対して、条件(4):流出水では濁度にほぼ変化が無く、また、条件(5):N添加したものでは、培養16日後でも濁度は上昇しなかった。また、条件(6):B池では、濁度はほとんど上昇しなかった。
【0043】
上述のように、流入水のAGP(AlgalGrowthPotential)は、濁度表示で28度と算定されたが、この水がA池を流下した後の現地の流出水の濁度は6.4度と低く、A池では懸濁態の植物プランクトンの増殖を抑制する何かの作用が働いていると考えられる。
【0044】
また、窒素分を添加した流出水とB池の窒素や燐の濃度は前記流入水と比較して同等か超えているにもかかわらず、そのAGPは濁度で5〜6度にしかなっていない。このことからも、A池とB池では、植物プランクトンの増殖を抑制する何らかの作用が働いていると考えられる。
【0045】
A池には水草のカワツルモが、B池には藻類のシャジクモ類が繁茂しており、この両者の水生生物が植物プランクトンの増殖抑制に関与し、何らかのつまりアレロパシー物質を分泌し、そのアレロパシー活性によって植物プランクトンの増殖が抑制されている、ことが予想される。
【0046】
−−−試験結果(共培養・移植水培養試験)−−−−
続いて、共培養試験および移植水培養試験の結果について説明する。図4は、共培養試験および移植水培養試験により得られた、培養期間と検液の濁度との関係を示すグラフである。このグラフには、カワツルモ由来のアレロパシー物質が検液に含まれる場合との比較の意味で、条件(1)〜(3)についても併せて試験結果を示している。
【0047】
a.共培養における経時変化
条件(1):流入水単独では、培養開始2日後から検液の濁度が上昇し、4日後に最大28度になっている。これに対して、条件(8):カワツルモ5g/Lでは、濁度は培養開始4〜5日後でも4〜5度どまりであった。また、条件(7):カワツルモ2g/Lでも、窒素、燐は共に減少したが、濁度は、条件(1):流入水単独と条件(8):5g/Lとの中間で、11〜15度であった。このように、カワツルモ2g/Lと5g/Lの共培養では、濁度の上昇が抑えられていた。
一方、条件(9):カワツルモ10g/Lでは、培養開始から濁度がゆっくり上昇し、7日後には29度になり、13日後にはシオグサが多く発生し濁度も50度になった(燐は明確に減少したが、窒素の減少量は6日後で少なく、逆に13日以降上昇した)。
【0048】
b.移植水培養における経時変化
第二ステップにおいて、条件(3)流入水単独では培養開始13日後に最大濁度13度に、条件(12):カワツルモ10g/Lでは培養開始11日後に最大濁度34度になった。さらに、窒素、燐を添加した第三ステップにおいては、再度濁度が上昇し、条件(3):流入水単独では培養開始21日後に11度、条件(12):カワツルモ10g/Lは培養開始20日後に8度となった。
一方、上記2つの条件に対して、条件(10):カワツルモ2g/Lと、条件(11):5g/Lでは、培養試験の全期間にわたって濁度の上昇はほとんど見られない。第二ステップにおける移植水培養にて、条件(10):カワツルモ2g/Lでは培養開始9日後に最大濁度4.5度に、条件(11):カワツルモ5g/Lでは培養開始5日後に最大濁度2.4度になったに過ぎない。つまり、窒素、燐を添加しても、再度種菌を添加することを目的に流入水を添加しても、濁度はほとんど上昇していない。
【0049】
c.移植水培養試験におけるカワツルモ量の影響
図5は、流入水における共培養に及ぼすカワツルモ量の影響を示すグラフ、図6は、流入水における移植水培養に及ぼすカワツルモ量の影響を示すグラフである。いずれのグラフも、培養経過日数をパラメーターとしてカワツルモ量と濁度との関係を示している。
【0050】
図5のグラフが示すように、条件(8)カワツルモ5g/Lでは、経過日数に関わらず濁度の上昇がほとんど無いことが分かる。また、条件(7)カワツルモ2g/Lでも、条件(1)カワツルモ0g/Lに比べ、経過日数に関わらず濁度の上昇が少ないことがわかる。
【0051】
また、図6のグラフが示すように、移植水培養では、条件(10)カワツルモ2g/L、と条件(11)カワツルモ5g/Lで、経過日数に関わらず濁度が殆ど上昇しなかった。このことから、共培養した6日間中にカワツルモから何らかの物質が分泌され、この分泌物質によるアレロパシー活性によって、懸濁態の植物プランクトンの増殖能力が低くなったことが考えられる。前述したように、この状態が少なくとも10日間(第二ステップの期間)は持続したことから、移植水培養でも、濁度の上昇が10日間抑制できると推察される。
【0052】
現地で採取した流出水は、A池への流入水がカワツルモの繁茂した所を流下してきた水である。この流出水をそのまま、さらには窒素添加したものを、培養した結果は、先の単独培養の図3に示した通りであり、濁度は上昇しなかった。この状況は、培養16日後でも同様であった。
【0053】
d.カワツルモによるアレロパシー活性の寿命
条件(10)カワツルモ2g/Lと、条件(11)カワツルモ5g/Lにおける移植水培養で、培養開始から10日後までは濁度の上昇がない。加えて、流出水単独の培養で、16日後まで濁度の上昇がない。このことから、共培養において分泌した何らかの物質のアレロパシー活性によって懸濁態の植物プランクトンが増殖能力を失い、この状態は少なくとも、10日間程度は持続することが判明した。
【0054】
e.カワツルモによるアレロパシー活性の持続日数
一連の試験では、アレロパシー活性の持続日数について確認していない。このため、上記の試験とは別に、アレロパシー活性の持続日数を把握するため、新たに確認試験を実施した。供試した流入水の水質は表3に示す。
【0055】

【0056】
上記の条件(8):カワツルモ5g/Lの共培養液を移植水として用いて、b)ろ過後直ちに移植水として培養、c)ろ過後25℃暗所1日静置養生後培養、d)ろ過後25℃暗所7日間静置養生後培養、の各培養を行って濁度試験を実施し、アレロパシー活性の持続期間について評価した。なお、移植水培養を行う際、溶液中の栄養塩がD・T−Nとして1mg/L、D・PO4−Pとして0.5mg/Lになるよう調整した。試験結果である図7の経過日数と濁度の関係を示すグラフより、条件(8):カワツルモ5g/Lで共培養した溶液を移植水とし、b)ろ過後直ちに移植水として培養した場合、c)ろ過後25℃暗所1日静置養生後培養の場合、の間には殆ど差がなく、植物プランクトンの抑制効果が見られた。d)ろ過後25℃暗所7日間静置養生後移植水とした場合は、a)流入水単独培養の試験結果と、b)ろ過後直ちに移植水として培養およびc)ろ過後25℃暗所1日静置養生後培養の試験結果との中間の値であった。
【0057】
−−−まとめ−−−
上述の各試験では、沈水植物のカワツルモによるアレロパシー効果を明らかにするため、A池への流入水とA池からの流出水及びB池の池水、の三種類の池水を供試し、池水の単独培養、カワツルモと池水の共培養、カワツルモと池水の移植水培養の各試験を実施した。流入水、流出水に関する主な結果は下記の通り。
【0058】
1)流入水の単独培養では(条件(1))、培養開始2日後から濁度が上昇し4日後に最大28度になり、その際、窒素、燐は共に減少した。これに対して、流出水をそのまま(条件(2))、さらには窒素添加したもの(条件(3))の単独培養では、培養開始16日後でも濁度は上昇せず、その際、窒素、燐は変化しなかった。
【0059】
2)流入水とカワツルモ2g/L(条件(7))、あるいはカワツルモ5g/L(条件(8))の共培養では、窒素、燐は共に減少したが、濁度はカワツルモ2g/L(条件(7)) で11〜15度、カワツルモ5g/L(条件(8))で4〜5度どまりであった。このように、カワツルモ2g/L(条件(7))とカワツルモ5g/L(条件(8))の共培養では、濁度の上昇が抑えられていた。
【0060】
3)植物プランクトンの増殖抑制においては、アレロパシー効果に加えて、光量阻害・NP吸収争奪・動物プランクトンによる摂取害なども影響する。これらの因子を除き、アレロパシー効果を明確にするため、共培養6日後にろ過液を採取し、再度流入水と同量混合して、移植水培養を実施した。
流入水とカワツルモ2g/L(条件(10))、あるいはカワツルモ5g/L(条件(11))の移植水培養で、培養開始から10日後まで濁度の上昇がほとんど無かった。こうした結果から、カワツルモの植栽密度は2g/L〜5g/Lが好ましいと言える。
【0061】
4)共培養と移植水培養の結果から、「カワツルモ2g/Lと5g/Lでは、共培養した6日間にカワツルモから何らかの物質が分泌され、この分泌物質によるアレロパシー活性によって、懸濁態の植物プランクトンの増殖能力が低くなり、その状態が少なくとも10日間は持続」し、その結果、「移植水培養で、濁度の上昇がほとんど見られなかった」と解釈した。先の流出水の単独培養で、濁度が上昇しなかったことも、この解釈を支持している。
【0062】
5)移植水培養試験では、培養試験を21日まで行ない、培養16日後にはD・T−Nを1ppm、D・PO4−Pを0.5ppm添加した。その際の特記すべき事項は以下の通りである。培養16日後までにカワツルモによる何らかのアレロパシー効果が認められたケースでは、濁度の上昇は認められない。
【0063】
6)流入水とカワツルモ10g/L(条件(9))の共培養では、カワツルモ2g/Lやカワツルモ5g/Lの場合とは結果が大きく異なった。この場合、濁度は約50度に達し、培養開始6日後での窒素の減少量が少なく、逆に培養開始13日以降上昇し、22日後には2ppmまで上昇した。
【0064】
以上、本実施形態によれば、煩雑な管理や多大なコストを必要とせずに、藻類の発生を効率的に抑制できる。
【0065】
本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 (藻類発生を抑制すべき)水域
2 水底
3 (アレロパシー効果を有する)沈水植物
10 底泥
15 タンク
11 砂(覆砂)
20 (沈水植物由来のアレロパシー物質を含んだ)液体、藻類抑制剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレロパシー効果を有する沈水植物を、藻類の抑制対象となる水域の水底に植栽することを特徴とする藻類抑制方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記水域の底泥について覆砂ないし浚渫を行った上で、前記沈水植物の植栽を行うことを特徴とする藻類抑制方法。
【請求項3】
アレロパシー効果を有する沈水植物を所定期間浸漬させた液体を、藻類の抑制対象となる水域に投入することを特徴とする藻類抑制方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記水域の底泥について覆砂ないし浚渫を行った上で、前記液体の投入を行うことを特徴とする藻類抑制方法。
【請求項5】
アレロパシー効果を有する沈水植物を所定期間浸漬させてなる液体であることを特徴とする藻類抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−147717(P2012−147717A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8259(P2011−8259)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】