説明

藻類脂質の製造方法および藻類脂質

【課題】作業効率、抽出効率の良い藻類脂質の製造方法および当該藻類脂質を提供する。
【解決手段】褐藻綱に属するマツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、ヒラネジモク、ヨレモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク、アカモク、ワカメ、マコンブ及びガゴメコンブ、緑藻綱に属するボウアオノリ並びに紅藻綱に属するスサビノリ、アサクサノリ及びオゴノリから選択される一種又は二種以上の藻類を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された藻類を分離する第1分離工程、第1分離工程により分離された藻類をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された藻類を分離する第2分離工程、第2分離工程により分離された藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出する工程を含む藻類脂質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類脂質の製造方法および藻類脂質に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類の中でも海藻に含まれる脂質成分は様々な機能性を有することが知られている。例えば、ヘキサデカテトラエン酸、オクタデカテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、などの脂肪酸類、フコキサンチン、βカロテン、などのカロテノイド類が含まれる。
【0003】
エイコサペンタエン酸、などの脂肪酸類に関しては、血中脂質低下作用、血圧降下作用、抗血栓作用、抗炎症作用、制ガン作用などの機能性(非特許文献1)が報告されており、フコキサンチン、などのカロテノイド類、特に、フコキサンチンに関しては、抗肥満作用(非特許文献2)、抗がん作用(非特許文献3)、抗糖尿病作用(非特許文献4)、抗炎症作用(非特許文献5)などの機能性を有することが報告されている。
【0004】
しかしながら、海藻に含まれる脂質含量は低く、機能性を発揮するには多くの海藻を摂取することが必要となる。そのため、海藻より抽出した脂質の形態で利用される場合がある。
藻類脂質の製造方法に関して、例えば、塩蔵コンブを塩抜きしたコンブを原料として、濃度55%以上70%以下のエタノール水溶液で抽出する方法(特許文献1)、乾燥粉砕した粉末状ワカメを原料として、アセトンを用いて抽出する方法(特許文献2)、生の海藻を原料として、濃度80〜100%のエタノールを用いて抽出する方法(特許文献3)、などが開示されている。
【0005】
これらの製造方法は、藻類に含まれる多糖類、タンパク質の影響、などによる、抽出時の粘度上昇、固液分離工程の効率低下、溶媒を減圧下に留去する際の発泡、などにより作業性が著しく低下するという問題点を有している。また、単に有機溶媒のみを用いて抽出する方法では、藻類脂質の抽出効率が低下する、即ち、原料として使用する藻体の単位重量で比較するとフコキサンチン、高度不飽和脂肪酸、などの藻類脂質の抽出量が少なく、経済的に劣るという問題点がある。例えば、エタノールなどの高極性溶媒(例えば50重量%以上の高濃度水溶液を含む)のみを用いて抽出すると、多糖類、タンパク質、無機ヒ素などの不純物が藻類脂質に混入して不純物が多いうえ、藻類脂質の純度を上げるためには、その後の複雑な処理が必要になるという問題がある。さらに、前記不純物が多量に含まれると、水洗などにより除去しようとした場合、その影響により、処理過程で乳化物が生成し、脂質成分の回収率が著しく低下する傾向にあるという問題がある。
【0006】
一方、藻類脂質を脂質の形態ではなく、藻体の状態で利用することを目的として、コンブなどの藻類の藻体内の脂質成分を濃縮する方法が提案されている(非特許文献6)。この方法は、乾燥コンブ等の藻類を0.1N塩酸で処理し、ついで、0.25%炭酸ナトリウム処理することで、藻体内の脂質成分の含量を高めるものである。従って、当該方法により処理され藻類から藻類脂質を製造することで、上記問題点を解決することが期待できる。しかし、本発明者らが確認したところ、当該方法を用いた場合、コンブなどの藻類を0.1N塩酸により処理すると、含有するフコキサンチンが分解するうえ、当該塩酸処理した後に、アルカリ処理すると、藻類がドロドロの状態となり藻体として回収することができないか、極めて困難であることが判明した。従って、非特許文献6に記載の方法では、濃縮されたフコキサンチンを含む脂質成分を高濃度に含有する藻類の藻体を得ることはできず、従来のような処理が必要となり、前述の問題は依然解決されないままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−173012号公報
【特許文献2】特開平10−158156号公報
【特許文献3】特開2004−75634号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「AA,EPA,DHA-高度不飽和脂肪酸」鹿山光編、恒星社厚生閣
【非特許文献2】H. Maeda et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, 332 (2005) 392-397.
【非特許文献3】M. Hosokawa et al.,Biochim. Biophys. Acta,1675(2004)113-119.
【非特許文献4】H. Maeda et al., J. Agric. Food Chem., 55 (2007) 7701-7706.
【非特許文献5】K.Shiratori et al., Experimental Eye Research, 81 (2005) 422-428.
【非特許文献6】佐藤ら、北水試だより、72 (2006) 19-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点に鑑み、本発明は、作業効率が良く、さらに抽出効率の良い、藻類脂質の製造方法および当該藻類脂質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の藻類を有機酸及びアルカリにより処理した後、分離した藻類から有機溶媒を用いて抽出を行なうことにより、作業性の低下や抽出効率の低下がなく、かつ有機溶媒の使用量を少なくできるため経済的にも優れた藻類脂質の抽出が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第一は、褐藻綱に属するマツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、ヒラネジモク、ヨレモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク、アカモク、ワカメ、マコンブ及びガゴメコンブ、緑藻綱に属するボウアオノリ、並びに紅藻綱に属するスサビノリ、アサクサノリ及びオゴノリから選択される一種又は二種以上の藻類を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された藻類を分離する第1分離工程、第1分離工程により分離された藻類をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された藻類を分離する第2分離工程、第2分離工程により分離された藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出する工程を含むことを特徴とする藻類脂質の製造方法に関する。
【0012】
本発明では、前記有機溶媒がエタノール、アセトンおよびヘキサンから選択された一種又は二種以上であってよい。
【0013】
また、本発明では、有機酸がクエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸及びプロピオン酸から選択される一種又は二種以上であってよく、また、前記アルカリが炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択される一種又は二種以上であってよい。また、第2分離工程により分離された藻類の無機ヒ素の含有量が2ppm以下であるのが好ましい。
【0014】
本発明の第二は、上記製造方法により製造される藻類脂質に関する。
【0015】
本発明の第三は、前記藻類脂質を用いてなる組成物に関する。
【0016】
本発明の第四は、前記藻類脂質を用いてなる食品に関し、前記食品は病者用または高齢者用であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作業効率および抽出効率が良いため、経済的に優れた藻類脂質の製造方法を提供することができる。また、当該製造方法により得られる藻類脂質は、不純物の混入が低減されることから、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチンを高濃度に含有したものである。また、当該藻類脂質は、無機ヒ素が効果的に除去されたものであり得る。さらに、本発明の藻類脂質を原材料として用いてなる組成物は、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチン等により機能性が付与されることから、当該組成物を摂取することで、機能性成分を安全、かつ、簡便に摂取することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明の藻類脂質の製造方法は、褐藻綱に属するマツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、ヒラネジモク、ヨレモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク、アカモク、ワカメ、マコンブ及びガゴメコンブ、緑藻綱に属するボウアオノリ、並びに紅藻綱に属するスサビノリ、アサクサノリ及びオゴノリから選択される一種又は二種以上の藻類を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された藻類を分離する第1分離工程、第1分離工程により分離された藻類をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された藻類を分離する第2分離工程、第2分離工程により分離された藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出する工程を含むことを特徴とする。尚、本発明では、有機酸とアルカリにより処理することを必須の条件とするものである。
【0019】
このような工程を含む製造方法により、多糖類やタンパク質を除去した藻類の藻体を得たうえで、該藻体から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出することから、従来の有機溶媒のみを用いた場合と異なり、抽出時の粘度上昇、固液分離工程の効率低下、溶媒を減圧下に留去する際の発泡などによる作業性が低下することなく、効率よく藻類脂質を抽出することができる。特に、本発明では、藻類の藻体から多糖類やタンパク質を除去し、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチンなどの脂質成分が予め高濃度に含まれる藻類の藻体を用いることから、効率よく藻類脂質を得ることができる。特に褐藻綱に属する特定の藻類を用いる場合は、塩酸などの無機酸を用いて処理する場合と異なり、フコキサンチンが分解することがないため、特にフコキサンチンを高濃度に有する藻類脂質を得ることができる。
【0020】
また前記藻類の藻体において、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンについて高濃度とは、必ずしも前記藻体(後述する藻類加工品)の高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンの含有量の絶対値をもとにした高低により評価することをいうのではなく、原料となる特定の藻類の高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンの含有量に対する、上記工程において得られた藻類の含有量の増加率(濃縮率)を評価することを含む概念である。これは、藻類の種類、季節、生息場所によって高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンの含有量が異なることによるものである。従って、藻類の藻体において、藻類の藻体の乾燥重量当たりの高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンの含有量が、有機酸およびアルカリ処理前の原料段階での藻類の藻体の乾燥重量当たりの高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン含有量に対して、1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.8倍以上に濃縮されたものである場合、藻類の藻体における高度不飽和脂肪酸やフコキサンチンについて高濃度ということができるものとする。尚、前記乾燥重量とは、原料となる藻類の藻体、および、各分離工程後の藻類の藻体を40℃で、15−24時間乾燥させた時の重量をいうものとする。
【0021】
また、高度不飽和脂肪酸としては、藻類の種類等により異なる場合があるが、リノレン酸(18:3)、ステアリドン酸(18:4)、アラキドン酸(20:4)、エイコサペンタエン酸(20:5)などの二重結合を3個以上有する高度不飽和脂肪酸、および、二重結合を4個以上有する高度不飽和脂肪酸など含まれる。
更に、有機酸の作用により、藻類中の無機ヒ素の含有量を低減することが可能となることから、当該藻類を用いて得られる藻類脂質も無機ヒ素の含量が低減されたものとなし得る。
【0022】
本発明で用いる藻類は、褐藻綱に属するマツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、ヒラネジモク、ヨレモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク、アカモク、ワカメ、マコンブ及びガゴメコンブ、緑藻綱に属するボウアオノリ、並びに紅藻綱に属するスサビノリ、アサクサノリ及びオゴノリから選択される一種又は二種以上の藻類である。前記藻類の中でも、入手の容易さ、食経験の豊富さ、脂質成分含量の面において、ワカメ、コンブ、ヒジキ、モズク、アカモクおよびノリから選択される一種又は二種以上の藻類が好ましく、脂質成分、なかでも高度不飽和脂肪酸含量およびフコキサンチン含量が高いことから、アカモクがより好ましい。尚、本発明では上記の藻類を用いることを原則とするが、当該藻類に任意の藻類を適宜併用しても良い。
【0023】
具体的には、褐藻綱に属するシオミドロ、ヤハズグサ、ヘラヤハズ、シワヤハズ、アミジグサ、カズノアミジ、フクリンアミジ、フタエオオギ、サナダグサ、ウミウチワ、オキナウチワ、アツバコモングサ、コモングサ、ナガマツモ、オキナワモズク、イシモズク、クロモ、フトモズク、イシゲ、イロロ、ネバリモ、シワノカワ、モズク、ニセモズク、エゾフクロ、ホソエゾブクロ、ウイキョウモ、ハバモドキ、サメズグサ、ホソクビワタモ、ウスカワフクロノリ、フクロノリ、ガゴメノリ、ハバノリ、セイヨウハバノリ、ウスカヤモ、カヤモノリ、ムチモ、ヒラムチモ、ウルシグサ、タバコグサ、ケウルシグサ、ホソバワカメ、チガイソ、オニワカメ、アイヌワカメ、アオワカメ、ヒロメ、ツルモ、スジメ、カジメ、クロメ、アラメ、トロロコンブ、ガッガラコンブ、オニコンブ、ナガコンブ、ゴヘイコンブ、ヒバマタ、エゾイシゲ、ネブトモク、ジョロモク、フタエモク、シダモク、イソモク、ノコギリモク、アズマネジモク、トゲモク、ミヤベモク、タマハハキモク、ヤナギモク、ナラサモ、タマナシモク、マメタワラ、オオバモク、ヨレモクモドキ、ラッパモク、など;
【0024】
紅藻綱に属するオニアマノリ、ベンテンアマノリ、ソメワケアマノリ、ウップルイノリ、カタベニフクロノリ、ベニフクロノリ、フクロガラガラ、ナガガラガラ、フサノリ、ヒラフサノリ、ニセフサノリ、ガラガラ、ベニモズク、ヨゴレコナハダ、カニノテ、ヒメカニノテ、ウスカワカニノテ、ミヤヒバ、サンゴモ、ピリヒバ、ヒライボ、ノリマキ、カワライシモ、ヒメテングサ、シマテングサ、マクサ、オニクサ、オバクサ、ヒラクサ、イソダンツウ、ヒビロウド、イソウメモドキ、ハナフノリ、フクロフノリ、マフノリ、ススカケベニ、カイノリ、スギノリ、オオバツノマタ、コトジツノマタ、マルバツノマタ、ツノマタ、クロハギンナンソウ、アカバギンナンソウ、マツノリ、コメノリ、ニクムカデ、タンバノリ、ムカデノリ、フダラク、ヒラムカデ、キョウノヒモ、ツルツル、トサカマツ、ヒトツマツ、スジムカデ、イバラノリ、カズノイバラ、カギイバラノリ、サイダイバラ、ホソバノトサカモドキ、カイノカワ、サイミ、オオマタオキツノリ、オキツノリ、ホソユカリ、マキユカリ、ユカリ、ベニスナゴ、ナミノハナ、シラモ、ツルシラモ、オオオゴノリ、ミゾオゴノリ、カバノリ、カエルデグサ、ヒラワツナギソウ、ワツナギソウ、フシツナギ、コスジフシツナギ、マサゴシバリ、テングサモドキ、アナダルス、エゴノリ、アミクサ、ハネイギス、イギス、カザシグサ、エナシダジア、イソハギ、ベニヒバ、ランゲリア、カギウスバノリ、カラゴロモ、トゲノリ、ベンテンモ、コケモドキ、ユナ、ベニヤナギノリ、クロソゾ、ミツデソゾ、ハネソゾ、マギレソゾ、コブソゾ、キブリイトグサ、ショウジョウケノリ、アリュウシャンノコギリヒバ、ハケサキノコギリヒバ、など;
【0025】
緑藻綱に属するホソヒメアオノリ、ヒメアオノリ、ウスバアオノリ、スジアオノリ、ナガアオサ、ボタンアオサ、リボンアオサ、アナアオサ、ホソジュズモ、タマジュズモ、フトジュズモ、オオシオグサ、ワタシオグサ、ツヤナシシオグサ、アオモグサ、マガタマモ、キッコウグサ、タマゴバロニア、オオバロニア、フジノハズタ、フサイワズタ、タカツキズタ、タカノハズタ、イチイズタ、マルバハウチワ、イトゲノマユハキ、ウチワサボテングサ、サボテングサ、スズカケモ、ナガミル、ミル、ハイミルモドキ、ハイミル、クロミル、エゾミル、タマミル、ヒゲミル、オオハネモ、オバナハネモ、ハネモ、ミズタマ、フデノホ、リュウキュウガサ、カサノリ、イソスギナ、などが例示できる。
【0026】
本発明で用いる藻類は、生の藻類、冷凍された藻類、塩蔵された藻類あるいは乾燥された藻類、などの各種状態のいずれでも使用できる。経済性の面からは、生の藻類が好ましいが、藻類の保存、藻類組織が壊れ、酸やアルカリなどの処理液の浸透性向上による多糖類などの除去効率の向上の面から冷凍された藻類あるいは乾燥された藻類が好ましい。前記藻類はそのまま、あるいは細断された状態、いずれの状態でも使用できるが、多糖類などの除去効率の向上、取り扱いの容易さ、などの面から、0.5〜50mm程度の大きさに細断された状態が好ましい。
【0027】
本発明では、上記のように、特定の藻類を有機酸およびアルカリにより処理し、これらの処理がなされた藻類を分離し、当該分離した藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出し、藻類脂質を製造するものであり、有機酸処理を行った後に、アルカリ処理を行ってもよいし、アルカリ処理を行った後に、有機酸処理を行っても、所望の藻類脂質を得ることができる。そこで、以下では、前者の場合、即ち、有機酸処理を行った後に、アルカリ処理を行う場合を例として説明し、後者の説明を省略するが、後者の場合についても、前者の場合と同様にして藻類脂質を得ることができることは言うまでもない。
【0028】
本発明では、上記のような各種状態の藻類を必要により水洗、脱塩等適宜前処理を行った後、当該藻類を有機酸により処理する。尚、乾燥された藻類を用いる場合は、水道水などで湿潤状態に戻したものを用いても良い。このように有機酸処理を施すことにより、塩酸や硫酸のような無機酸とアルカリとを用いて処理する場合と異なり、藻類の藻体を回収することが容易であるとともに、多糖類やタンパク質等が藻体外に溶出され、高度不飽和脂肪酸やフコキサンチン等の脂質成分が藻体内に保持される。特に褐藻綱に属する特定の藻類を用いる場合は、塩酸や硫酸のような無機酸を用いる場合と異なり、フコキサンチンの分解が抑制されるため、フコキサンチンが高濃度に藻体内に保持される。さらに、藻体から無機ヒ素が効果的に溶出し、除去される。
【0029】
有機酸による処理方法としては、特に限定はなく、公知の方法を適宜選択すれば良いが、例えば、所定濃度の有機酸を含む溶液(例えば、有機酸水溶液など。)に前記藻類を浸漬し、静置する方法や、同じく浸漬して、撹拌、振とう等を行う方法などが例示できる。この際、藻類と有機酸溶液の混合比は、特に限定されるものではないが、単位時間当たりの多糖類等の除去効率および経済性の観点から、概ね藻類100重量部(乾燥重量)に対して3〜100000重量部であるのが好ましく、有機酸の濃度は、各種酸の強度等により適宜決定することができるが、概ね0.1〜10重量%である。また、処理温度は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率、フコキサンチン等の脂質成分の安定性および経済性の観点から、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。また処理時間は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率および経済性の観点から、5〜180分が好ましく、5〜90分がより好ましい。
【0030】
前記有機酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、ケイ皮酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、乳酸、酪酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、安息香酸、吉草酸、グルタル酸、グリコール酸およびソルビン酸、などから選択された一種または二種以上を使用することができる。また、本発明のように有機酸を用いることにより、後述のアルカリ処理後に藻体表面にヌメリが発生するのを防止することも可能となる。尚、多糖類等の溶出、アルカリ処理後の藻体表面のヌメリ発生防止、フコキサンチン分解防止の観点から、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸、プロピオン酸が好ましい。
【0031】
本発明では、上記のように藻類の有機酸処理を行った後、前記有機酸により処理された藻類を分離して、多糖類等が除去されて脂質成分等が濃縮された藻類を、その形状を保持した状態で得ることができる(第1分離工程)。この際の分離方法としては、特に限定はなく、ろ過(吸引ろ過、フィルタープレスなど)、遠心分離など公知の方法を用いることができる。分離された固形部(藻類)は、必要により、水洗等をおこなって、有機酸を除去すると良い。水洗方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いて行えばよく、固形部として得られた藻類のかたまりを、ほぐすために、流水中で、ゆっくり撹拌等を行っても良い。
【0032】
本発明では、上記の第1分離工程において分離された藻類をアルカリにより処理する。このようにアルカリ処理を施すことにより、有機酸では抽出されなかった多糖類等がさらに抽出される一方、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチン等の脂質成分等は藻体内に保持されるため、これらの脂質成分を高濃度に含有する藻類藻体が得られることとなる。また、無機酸処理ではなく有機酸処理とアルカリ処理を行うことにより、藻類の藻体が回収できないか、その回収が困難になることもない。
【0033】
アルカリによる処理方法としては、特に限定はなく、公知の方法を適宜選択すれば良いが、例えば、所定濃度のアルカリを含む溶液(例えば、アルカリ水溶液など。)に前記藻類を浸漬し、静置する方法や、同じく浸漬して、撹拌、振とう等を行う方法などが例示できる。この際、藻類とアルカリ溶液の混合比は、特に限定されるものではないが、単位時間当たりの多糖類等の除去効率および経済性の観点から、概ね藻類100重量部(乾燥重量)に対して3〜100000重量部であるのが好ましく、アルカリの濃度は、各種アルカリの強度等により適宜決定することができるが、概ね0.1〜10重量%である。また、処理温度は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率、フコキサンチン等の脂質成分の安定性および経済性の観点から、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。また処理時間は、特に限定されるものではないが、多糖類等の除去効率および経済性の観点から、5〜180分が好ましく、5〜90分がより好ましい。
【0034】
本発明で用いるアルカリは、特に限定されるものではなく、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸一ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびリンゴ酸ナトリウム、などから選択される一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。経済性、多糖類などの除去の面より、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択される一種または二種以上が好ましい。
【0035】
上記のようにしてアルカリによる処理を行った後、前記アルカリにより処理された藻類を分離して(第2分離工程)、多糖類等が除去されて脂質成分等がさらに濃縮された藻類を、その形状を保持した状態で得ることができる。第2分離工程における分離方法としては、第1分離工程の場合と同様である。分離された固形部(藻類)は、必要により、有機酸処理の場合と同様の水洗等を行って、アルカリを除去すると良い。
【0036】
上記のようにしてアルカリ処理、必要により水洗して、藻類の藻体の形状を保持した、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチンを高濃度に含有する藻類が得られる。また、当該藻類(藻体)は、無機ヒ素の含有量が低減されたものであり、その含量としては、2ppm以下であることが好ましい。
【0037】
本発明では、第2分離工程により分離された(必要によりさらに水洗された)藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出するが、第2分離工程により分離された(必要によりさらに水洗された)後、そのまま(水分を含んだ状態で)有機溶媒を用いて藻類から脂質成分を抽出しても良いし、分離された後、種々の加工を施したり、種々の態様で保存したりした後、藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出しても良い。
【0038】
前記の脂質成分抽出前に行う加工としては、抽出や保存に適した加工であれば特に制限はなく、乾燥処理、粉砕処理、冷凍処理などの他、公知の処理を行うことができる。また、保存態様としては、乾燥状態での常温保存、水分を含んだ状態または乾燥状態での冷凍/冷蔵保存、水分を含んだ状態での塩蔵などの他、公知の方法を用いることができる。
【0039】
前記乾燥処理としては、特に限定されるものではなく、天日干し等の自然の力で乾燥させる方法、凍結乾燥、送風乾燥、温風乾燥、真空乾燥あるいはマイクロ波照射による乾燥、などの方法が挙げられる。
【0040】
前記粉砕処理としては、第2分離工程後(必要により水洗後)、得られた藻類の藻体を湿潤状態で公知の方法で微細化してペースト状ないしジュース状にしても良いし、同様にして微細化した後、乾燥処理を行い粉末状にしても良い。また、第2分離工程後(必要により水洗後)、得られた藻類の藻体を乾燥処理した後、公知の方法で微細化し、粉末状にしても良い。微細化する方法としては、藻類が微細化されるならば、特に限定されるものではなく、粉砕機、磨砕機、ホモジナイザー、超音波発生機、などを用いて行うことができ、これらを二種以上組み合わせて用いてもよい。また、粉末状にした場合の微細化の程度は特に制限はないが、有機溶媒による抽出を効率的に行う観点から、粉末粒子の大きさが、概ね、2mm(10メッシュ)以下であるのが好ましい。
【0041】
第2分離工程により分離された藻類(必要により上記各種処理を行った藻類を含む。また、所定の処理工程を経て当該抽出操作に供する藻類を藻類加工品と称する場合がある。)から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出する方法としては、特に限定はなく、前記藻類を有機溶媒に浸漬し、静置する方法、同様にして浸漬し、撹拌、振とうする方法、前記藻類に有機溶媒を噴霧する方法、または、その他の公知の方法を用いることができる。
【0042】
本発明で用いる有機溶媒としては、第2分離工程により分離された藻類(藻類加工品)から脂質成分を抽出できるものであれば特に限定はなく、アルコール類、エーテル類、ケトン類、脂肪族炭化水素のハロゲン化合物、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などを用いることができ、これらのうちから選択した1種、または2種以上を用いることができる。これらの中でも、効率的に脂質成分を抽出する観点からは、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサンから選択された一種または二種以上を使用することが好ましい。
また、水溶性の有機溶媒を用いる場合は、有機溶媒と水の混合液も使用することができ、当該混合液も有機溶媒に含まれる。この際の有機溶媒の濃度としては、藻類脂質の抽出が効率的に行える限り、特に限定はないが、有機溶媒の実質濃度が30〜80容量%であるのが好ましい。
【0043】
本発明では、第2分離工程により分離された藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出する際に、例えば、前記藻類を有機溶媒に浸漬した場合には、抽出液と固形部(藻類)を分離する。分離方法としては、特に制限はなく、ろ過(吸引ろ過、フィルタープレスなど)、遠心分離など公知の方法を用いることができる。
【0044】
以上のようにして得られた抽出液から、有機溶媒を除去することで、本発明の藻類脂質を得ることができる。溶媒を除去する方法としては、藻類脂質に悪影響がない方法であれば、特に限定はなく、減圧して有機溶媒を留去する方法などの公知の方法を適宜採用することができる。
またその際、抽出液に若干量含まれる不純物を除去して、より高純度の藻類脂質を得るため、例えば、上記のようにして抽出液から有機溶媒を一旦除去して得られた藻類脂質に、再度有機溶媒を添加した後、ろ過を行い、得られたろ液から、同様にして有機溶媒を除去しても良く、当該操作を複数回繰り返しても良い。さらに、完全に溶媒を除去するため、かつ、藻類脂質の酸化を考慮して、藻類脂質に窒素ガス等の不活性ガスを吹き付けても良い。
【0045】
また、さらに高純度の藻類脂質を得る場合は、前記抽出液又は抽出液から不純物を除去する過程で得られたろ液もしくは該ろ液に有機溶媒を添加した液を、シリカゲル等を担持したカラムに通して所定の画分を得る方法、その他の公知の手段を用いて精製してもよい。
尚、上記の各高純度化の処理は、製造コスト等を考慮して、必要に応じて適宜行えばよい。
【0046】
本発明では、以上のように、一旦、有機酸処理とアルカリ処理を行って、予め多糖類やタンパク質等が除去された藻体(藻類加工品)を得て、該藻類加工品を用いて藻類脂質の抽出を行うことから、従来のように、原料となる海藻などの藻類をそのまま用いて抽出する場合と異なり、抽出時の粘度上昇、固液分離工程の効率低下、溶媒を減圧下に留去する際の発泡、などによる作業性の低下や、藻類脂質の抽出効率の低下を効果的に抑制することができる。また、より高純度の藻類脂質を得るための高純度化の処理をさらに行った場合でも、既に藻類脂質からタンパク質、多糖類等の不純物が大幅に除去されていることから、不純物による乳化物生成等による影響が殆どなく、回収率の低下を効果的に抑制し、純度のより高い藻類脂質を効率よく得ることができる。
【0047】
また以上のようにして得られた藻類脂質は、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチン等の脂質成分を高濃度で含有する一方で、予め無機ヒ素が極めて低減された藻体から抽出されたものであることから、藻類脂質中の無機ヒ素の含有量が極めて低濃度にされ得るものである。そのため、本発明の藻類脂質は、種々の用途、例えば、食品、飲料、飼料、医薬品等の原材料として好適に使用することができ、食品の原材料として用いるのがより好適である。そして、当該藻類脂質を原材料として用いてなる組成物は、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチン等により機能性が付与されることから、当該組成物を摂取することで、機能性成分を安全、かつ、簡便に摂取することができる。
【0048】
藻類脂質を食品用途で用いた場合の組成物としては、例えば、食パン、バターロールおよびベーグルなどのパン類;焼き菓子、ショートブレッドおよびケーキなどの菓子類;スパゲティ、フェットチーネ、ペンネ、エリケ、ラビオリおよびラザニアなどのパスタ類;マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシングおよび分離液状ドレッシンなどのドレッシング類;ムース、ゼリーおよびスープなどの病者用あるいは高齢者用食品などを挙げることができる。前記病者用あるいは高齢者用食品には、嚥下食あるいは咀嚼困難者食などの半固形食や流動食が含まれる。
【0049】
食品の形態としては、特に限定はないが、例えばバータイプ食品、ブロックタイプ食品あるいはチアーバックタイプ食品などの場合、経口摂取が容易となる。バータイプ食品とは、例えば「SOYJOY(登録商標)(大塚製薬株式会社)」のような形態の食品のことを意味する。
【0050】
藻類脂質を飼料用途で用いた場合の組成物としては、例えばペット用飼料、家畜用飼料あるいは魚介類用飼料が挙げられる。ペット用飼料としては、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ハムスターおよびリスなどの哺乳類用飼料;セキセイインコ、ハト、ブンチョウおよびジュウシマツなどの鳥類用飼料などが挙げられる。また、家畜用飼料としては、例えばウシ、ブタ、ヒツジおよびヤギなどの哺乳類用飼料;ニワトリ、チャボ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウおよびダチョウなどの鳥類用飼料などが挙げられる。さらに、魚介類用飼料としては、例えばマダイ、ハマチ、ウナギおよびエビなどの養殖魚用飼料;コイ、キンギョ、ディスカス、アロワナおよびネオンテトラなどの観賞魚用飼料などが挙げられる。
【0051】
藻類脂質を医薬品用途で用いた場合の組成物としては、例えば抗肥満剤、血糖値上昇抑制剤、ガン細胞増殖抑制剤、抗炎症剤、などを挙げることができ、その形態としては、錠剤、粉剤、カプセル剤等、必要に応じ種々選択することができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(藻類の冷凍保存)
収穫した各種藻類を−20℃で冷凍し、使用するまで−20℃で保存した。
(冷凍藻類の解凍および脱塩)
冷凍保存した各種藻類を、水道水で解凍および脱塩を行なった。解凍および脱塩後、30メッシュ(目開き600μm)のふるいを用いて水を切り、各種藻類加工品の調製に供した。
【0053】
(無機ヒ素の定量)
無機ヒ素の定量は、HPLC−誘導結合プラズマ質量分析法(アジレント・テクノロジー株式会社製、7500cx)で実施した。検出限界は0.5ppmであった。
【0054】
(藻類加工品の調製)
前記各種藻類100gを0.5〜3cm程度の大きさに細断し、これを2重量%プロピオン酸水溶液400ml中に浸漬して、30℃で15分間静置し、有機酸処理を行なった。有機酸処理後、吸引ろ過を行ない、液体部を取り除き、固形部(藻類)を回収した。回収した固形部(藻類)を、50メッシュ(目開き300μm)のふるいの中で緩やかに撹拌し、水を換えながら、プロピオン酸の臭いが無くなるまで水洗を行なった。次に、水洗後の藻類を2重量%炭酸ナトリウム水溶液400ml中に浸漬して、30℃で15分間静置し、アルカリ処理を行なった。アルカリ処理後、吸引ろ過を行ない、液体部を取り除き、固形部(藻類)を回収した。回収した固形部(藻類)を、50メッシュのふるいの中で緩やかに撹拌し、水を換えながら、ヌメリが取れ、かつ、炭酸ナトリウムの臭気が無くなるまで水洗を行なった。水洗後、得られた藻類を50メッシュのふるいで藻類を回収し、藻類加工品を得た。
【0055】
(乾燥藻類加工品の調製)
上記のようにして得られた藻類加工品を50メッシュのスクリーンに広げ、40℃で20−24時間乾燥を行ない、乾燥藻類加工品を得た。
【0056】
(水分含量の測定)
試料の一部を40℃のエアーバス中で、15−20時間乾燥し、重量変化を基に水分含量を算出した。尚、乾燥後の重量を試料の乾燥重量とした。
【0057】
(組成物の総脂質含量の測定)
後述の実施例4で得られた組成物50gに、クロロホルム/メタノール(1:2、v/v)500mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置し、混合物を得た。
一方、後述の実施例5で得られた組成物50gに蒸留水100mLを加え、オスターブレンダー(オスター社製、ST−1形)で混合・粉砕した。混合・粉砕後、15分間、室温、暗所に静置した。静置後、クロロホルム/メタノール(1:2、v/v)500mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置し、混合物を得た。
次に、上記の静置後の各混合物について、吸引濾過を行なった。残渣にクロロホルム/メタノール(1:2、v/v)300mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、吸引濾過を行なった。残渣にクロロホルム/メタノール(1:2、v/v)300mLを加え、混合し、1時間、室温、暗所に静置した。静置後、吸引濾過を行なった。それぞれの濾過で得られたろ液を分液ロートに移し、下層部を回収した。回収した下層部に無水炭硫酸ナトリウムを加えることにより下層部の脱水を行なった。脱水後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、さらに窒素ガスを吹き付け、濃縮物を得た。得られた濃縮物の重量を総脂質重量とした。
【0058】
(フコキサンチン含量の測定)
検量線を基に総脂質中のフコキサンチン含量を下記HPLC条件で定量し、総脂質含量から乾燥藻体中のフコキサンチン含量を算出した。
HPLC条件
ポンプ:L−7100(株式会社日立製作所製)
検出器:フォトダイオードアレイ分光光度計 L−7455(株式会社日立製作所製)
カラム:TOSOH TSKgel ODS−80Ts(250×4.6 mm i.d.)
移動相:30%アセトニトリル/メタノール
流速:1mL/min
カラム温度:28℃
検出波長:450nm
【0059】
(実施例1)
藻類としてアカモクを使用し、前記藻類加工品の調製に従い、アカモク加工品を得た。アカモク加工品の無機ヒ素濃度は検出限界(0.5ppm)以下であった。
該アカモク加工品(水分含量85.4%)57.5gを0.5〜3cm程度の大きさに細断し、エタノール100mlおよび蒸留水50.9mlを混合し加え、室温、暗所に2時間静置した。静置後、吸引ろ過を行なった。得られたろ液の溶媒をロータリーエバポレーターで留去し、濃縮物を得た。得られた濃縮物に70%エタノール50mlを加え、超音波処理を行ない溶解した。ろ紙ろ過を行い、得られたろ液の溶媒をロータリーエバポレーターで留去し、濃縮物を得た。得られた濃縮物に70%エタノール30mlを加え、超音波処理を行ない溶解した。ろ紙ろ過を行い、得られたろ液の溶媒をロータリーエバポレーターで留去し、さらに窒素ガスを吹き付け、濃縮物を得た。得られた濃縮物をアカモク脂質とした。得られたアカモク脂質の量およびフコキサンチンの量を表1に示した。
【0060】
(比較例1)
実施例1のアカモク加工品の調製に供したアカモク(水分含量83.2%。未処理アカモクという。)50gを0.5〜3cm程度の大きさに細断し、エタノール100mlおよび蒸留水58.1mlを混合し加え、室温、暗所に2時間静置した。静置後、実施例1と同様にして濃縮物を得た。得られた濃縮物をアカモク脂質とした。得られたアカモク脂質の重量およびフコキサンチンの重量を表1に示した。ロータリーエバポレーターによる溶媒の留去の際、発泡減少が著しく、真空度を上げることができず、溶媒を留去するのに実施例1と比較して長時間を要した。存在する多糖類および/またはタンパク質の影響と考えられた。
【0061】
(実施例2)
藻類としてヒジキを使用し、前記藻類加工品の調製に従い、ヒジキ加工品を得た。ヒジキ加工品の無機ヒ素濃度は検出限界(0.5ppm)以下であった。
該ヒジキ加工品(水分含量86.0%)57.1gを0.5〜3cm程度の大きさに細断し、エタノール100mlおよび蒸留水50.9mlを混合し加え、室温、暗所に2時間静置した。静置後、実施例1と同様にして濃縮物を得た。得られた濃縮物をヒジキ脂質とした。得られたヒジキ脂質の重量およびフコキサンチンの重量を表1に示した。
【0062】
(比較例2)
実施例2のヒジキ加工品の調製に供したヒジキ(水分含量84.0%。未処理ヒジキという。)50gを0.5〜3cm程度の大きさに細断し、エタノール100mlおよび蒸留水58.0mlを混合し加え、室温、暗所に2時間静置した。静置後、実施例1と同様にして濃縮物を得た。得られた濃縮物をヒジキ脂質とした。得られたヒジキ脂質の重量およびフコキサンチンの重量を表1に示した。比較例1と同様に溶媒を留去するのに実施例2と比較して長時間を要した。
【0063】
(実施例3)
藻類としてアカモクを使用し、前記藻類加工品の調製に従い、アカモク加工品を得た後、前記乾燥藻類加工品の調整に従い乾燥アカモク加工品を得た。
該乾燥アカモク加工品5gにアセトン100mlを加え、室温、暗所で2時間撹拌した。撹拌後、吸引ろ過を行なった。得られたろ液の溶媒をロータリーエバポレーターで留去し、さらに窒素ガスを吹き付け、濃縮物を得た。得られた濃縮物をアカモク脂質とした。得られたアカモク脂質の重量およびフコキサンチンの重量を表1に示した。
【0064】
(比較例3)
乾燥アカモク加工品に替えて、乾燥アカモク加工品の調製に供したアカモク(未処理アカモクという)を40℃で15−20時間乾燥して得られた乾燥品(乾燥未処理アカモクという。)5gを使用した以外は実施例3と同様にしてアカモク脂質を得た。得られた脂質の重量およびフコキサンチン含量を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1より明らかなように、本発明による藻類脂質の製造方法は、表1に示す各重量を藻類加工品の水分を除いた重量(乾燥重量;例えば、実施例1、比較例1では8.4g、実施例2、比較例2では8.0gである。)で除して得られる単位藻類当たりのフコキサンチン重量および藻類脂質重量が高く、抽出効率がよいことが分かる。更に、従来の製造方法のように抽出時の粘度上昇、固液分離工程の効率低下、溶媒を減圧下に留去する際の発泡、などがなく、作業性および効率が良いものである。尚、比較例3において、得られた藻類脂質重量およびフコキサンチン重量が低い原因として、藻体に存在する、多糖類およびタンパク質が乾燥の際に、凝固したため、溶媒の浸透性を妨げたものと考えられた。
【0067】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られたアカモク脂質2g、コーン油18g、カゼインナトリウム20g、デキストリン145g、難消化性デキストリン10g、ビタミンミックス2g、グリセリン脂肪酸エステル3g、ジェランガム4gおよび蒸留水796gを、乳化機で乳化を行ない、栄養調整流動食を得た。得られた栄養調整流動食に含まれるフコキサンチン含量は25.8mg/100g栄養調整流動食であった。
【0068】
(実施例5)
実施例1と同様にして得られたアカモク脂質5g、コーン油15g、硬化ヤシ油250g、硬化パーム油30g、硬化パーム油50gからなる油脂部にレシチン1.5g、グリセリン脂肪酸エステル.1.5gを添加し、65℃で溶解して油相部を作製した。
一方、水577.5gにバターミルクパウダー60g、乳清ミネラル2g、結晶セルロース5g、ビタミンミックス2g、ショ糖脂肪酸エステル1.5gを60℃にて溶解した水相部を作製した。この油相部と水相部を、乳化機で乳化を行い、アカモク脂質含有乳化物を得た。
次に、ホーロー鍋に牛乳200gと砂糖35gを入れ、砂糖が溶けるまで混ぜながら火にかけ、火を止め、予め水道水40mlに浸しておいたゼラチン10gを加え、溶かした。次に、80℃の水道水60mlに抹茶10gを分散させた物を加え、よく混ぜた。底を氷水で冷やし、混ぜながら生地にトロミをつけたら、6、7分立ての前記アカモク脂質含有乳化物のホイップドクリーム150g、卵白20gと砂糖5gで調製したメレンゲを泡立て器で混ぜ合わせ、カップに分注し、冷蔵庫で3時間冷やし、ムースを得た。得られたムースは美味しく食することができた。
得られたムースに含まれるフコキサンチン含量は21.1mg/100gムースであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、藻類脂質の製造方法および藻類脂質に関するものであり、作業効率および抽出効率が良いため、経済的に優れた藻類脂質の製造方法を提供することができる。また、当該製造方法により得られる藻類脂質は、多糖類などの不純物が従来の製法のもより低減されており、高度不飽和脂肪酸及び/又はフコキサンチンを高濃度に含有したものである。また、当該藻類脂質は、無機ヒ素が効果的に除去されたものであり得る。従って、本発明の藻類脂質を食品などに添加することにより食品に機能性を付与することが可能となり、機能性成分を安全に、かつ、簡便に摂取できることとなる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐藻綱に属するマツモ、ワタモ、キタイワヒゲ、エゾヤハズ、ヒジキ、ウガノモク、ネジモク、エゾノネジモク、ヒラネジモク、ヨレモク、フシスジモク、ウミトラノオ、ヤツマタモク、スギモク、エンドウモク、アカモク、ワカメ、マコンブ及びガゴメコンブ、緑藻綱に属するボウアオノリ、並びに紅藻綱に属するスサビノリ、アサクサノリ及びオゴノリから選択される一種又は二種以上の藻類を有機酸又はアルカリにより処理する工程、前記有機酸又はアルカリにより処理された藻類を分離する第1分離工程、第1分離工程により分離された藻類をアルカリ又は有機酸により処理する工程、前記アルカリ又は有機酸により処理された藻類を分離する第2分離工程、第2分離工程により分離された藻類から有機溶媒を用いて脂質成分を抽出する工程を含むことを特徴とする藻類脂質の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒がエタノール、アセトンおよびヘキサンから選択された一種又は二種以上である請求項1記載の藻類脂質の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸及びプロピオン酸から選択される一種又は二種以上である請求項1又は2記載の藻類脂質の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリが炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択される一種又は二種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の藻類脂質の製造方法。
【請求項5】
第2分離工程により分離された藻類の無機ヒ素の含有量が2ppm以下である請求項1〜4の何れかに記載の藻類脂質の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造される藻類脂質。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の藻類脂質を用いてなる組成物。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の藻類脂質を用いてなる食品。
【請求項9】
前記食品が病者用または高齢者用である請求項8記載の食品。



【公開番号】特開2013−32292(P2013−32292A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270617(P2009−270617)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】