説明

蘇生装置及び蘇生のための方法

【課題】ヒトの脳幹の呼吸領域の蘇生刺激によって吸引反射の誘発を引き起こすように設計された刺激装置提供する。
【解決手段】ヒトのパラメータ値を検出するための感知器と、あらかじめ決定された関数及び検出されたパラメータ値を格納するためのメモリと、無呼吸を発症しつつある状態にあるか否かを決定するための、感知器及びメモリと接続した処理ユニットと、無呼吸を発症しつつある状態にあることを決定した場合に、応答を提供するための、処理ユニットと接続した応答装置とを含む、ヒト用の蘇生装置。蘇生装置は、感知器、メモリ、少なくとも1つの処理ユニット及び応答装置の全てを含む器械であり、器械は、ヒトの鼻の下につながるように配置され、感知器は、呼吸活動を検知するように配置され、応答装置は、ヒトの鼻人中に刺激をもたらす。蘇生刺激は、耳管5の周囲の、A、B、C、Dによって囲まれた咽頭鼻腔部領域において施すことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の態様によれば、本発明は、ヒト対象において蘇生を誘発するための装置に関する。
【0002】
さらなる態様によれば、本発明は、これに限定されないが、生命を危うくする機能障害の回復を含めた蘇生治療を、それを必要とするヒト対象に提供するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
脳幹は、複数の生理学的な生命維持機能を調整する複数の中枢機構を含有する。心肺系の調整に障害が生じると、複数の病理学的状態に至る場合があり、これらのうちいくつかは、潜在的に生命を危うくすることがある。
【0004】
睡眠時無呼吸に罹患しているヒトは、不規則な呼吸と共に現われ、さらに頻繁な呼吸停止(無呼吸)さえ伴う心肺障害を有する。このことは、睡眠の間に顕著であるが、また、日中でも生じる。日中の無呼吸発作の危険性は、それほど高くない。これは、発作を意識的な行動によって自己管理することができるからである。夜の間の無呼吸の場合には、危険性が高まる。患者は、酸素欠乏のために、日常生活において気分が非常に優れない。無呼吸発作の間には、血圧が急に下がる場合があり、それに続いて、心臓が機能を停止することがあり、その結果、不適切な脳のかん流、意識の喪失、さらには突然死にさえ至る。先進国では、成人人口のうち、少なくとも4%が、睡眠時無呼吸に罹患している。
【0005】
いくつかの型の無呼吸がある。1つの型は、中枢性の無呼吸であり、これには、脳幹中の呼吸中枢からの指令を欠くことによる(横隔膜を含めた)呼吸筋の機能障害が関与する。これは、症例の約10パーセントに生じている型である。別の型は、閉塞性の無呼吸であり、これは、症例の80%に生じ、この場合、強力な負の吸気圧力によって上気道が虚脱しているために、呼吸運動にもかかわらず、空気が肺に供給されない。第3の型は、混合性の無呼吸であり、残りの患者に生じる。
【0006】
無呼吸は、種々の方法で患者を刺激することによって対抗することができることが知られている。乳児の場合、通常、揺さぶるだけで、乳児を睡眠から目覚めさせ、自動的な呼吸の過程を再開させ、さらには窒息から蘇生を誘発する、あえぎさえ引き起こすことができる。睡眠時無呼吸に罹患している成人は、現在のところ、顔の輪郭に密接に接続する、マスクを付けて睡眠をとり、それによって、装置から空気を若干高めの圧力で連続的に適用することができる(持続的気道陽圧法−CPAP,Continuous Positive Airway Pressure)。これによって、気道が開放状態に保たれ、自発的な呼吸による空気の供給が可能
となる。いずれにしても、これらの患者は、呼吸器械につながって睡眠をとる必要があり、睡眠の間の運動の自由度が制限される。睡眠時無呼吸を有する患者にとっては、旅行は、呼吸器械の携行を意味する。
【0007】
ネコにおける研究によって、無酸素混合物を1分超吸入させることによって呼吸を停止させると、それに続いて、血圧及び心拍数を大幅に低下させることができることが示されている。咽頭鼻腔部の機械的又は電気的な刺激によって、空気の吸い込み及びあえぎに近い(sniff- and gasp-like)「吸引反射」を誘発することができる(Z.Tomori and J.G.Widdicombe, Muscular, bronchomotor and cardiovascular reflexes elicited by mechanical stimulation of the respiratory tract, J.Physiol 200:25-49,1969;R.Benacka and Z.Tomori, The sniff-like aspiration reflex evoked by electrical stimulation of the nasopharynx, Respir.Physiol.102: 163-174, 1995;Z.Tomori, M.Kurpas, V.Donic and R.Benacka, Reflex reversal of apnoeic episodes by electrical stimulation of upper airway in cats,Respir.Physiol.102: 175-185, 1995;Z.Tomori, R.Benacka and V.Donic, Mechanisms and clinicophysiological implications of the sniff- and gasp-like aspiration reflex, Respir.Physiol.114: 83-98, 1998;Z.Tomori, R.Benacka,
V.Donic and J.Jakus, Contribution of upper airway reflexes to apnoea reversal, arousal, and resuscitation, Monaldi Arch.Chest Dis.55: 398-403, 2000)。蘇生効果によって、血圧が正常に戻り、心臓のリズムが正常化し、呼吸及び神経行動学的機能が正常に戻る。麻酔を施したネコは、適切な血圧、心拍数及び呼吸が伴わない状態が3分も続いた後でさえ、良好な状態にあるように見える。この実験を、同一のネコ上で、何らかの注目に値すべき負の結果を伴うことなく、10回超繰り返すことができる。
【0008】
そのように吸引反射を引き起こすことが、ネコにおける無呼吸を中断させるための可能な手段として示唆されている(Tomori et al., 1991;Z.Tomori, M.Kurpas, V.Donic and
R.Benacka, Reflex reversal of apnoeic episodes by electrical stimulation of upper airway in cats, Respir.Physiol.102: 175-185, 1995;R.Benacka and Z.Tomori, The sniff-like aspiration reflex evoked by electrical stimulation of the nasopharynx, Respir.Physiol.102: 163-174, 1995;J.Jakus, Z.Tomori and A.Stransky, Neural determinants of breathing, coughing and related motor behaviours, Monograph, Wist, Martin, 2004)。或いは、ネコにおいては、(電気)鍼、(電気)指圧又は鼻人中の機械的刺激によって、類似の蘇生を誘発して、けいれん性の吸息を誘発することができる(Benacka & Tomori, 1997)。
【0009】
しかし、ネコにおける咽頭鼻腔部及び咽頭口腔部から引き起こした吸引反射の典型的なけいれん性の吸息は、ヒトにおいては注目に値せず、この後者の種の場合、強力な嘔吐反射が併発するというのが現況技術の今の見解である(R.Benacka, Disorders of central regulation of breathing and their influencing by upper airway reflexes (in Slovak).Orbis Medince S; No.: 53-63, 2004)。他の研究者らは、高周波で振動する空気圧を用いた上気道の刺激に応答する、吸引反射とは異なる反応をヒトにおいて見い出した(Henke & Sullivan, 1992)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Z.Tomori and J.G.Widdicombe, Muscular, bronchomotor and cardiovascular reflexes elicited by mechanical stimulation of the respiratory tract,J.Physiol 200:25-49,1969
【非特許文献2】R.Benacka and Z.Tomori, The sniff-like aspiration reflex evoked by electrical stimulation of the nasopharynx, Respir.Physiol.102: 163-174, 1995
【非特許文献3】Z.Tomori, M.Kurpas, V.Donic and R.Benacka, Reflex reversal of apnoeic episodes by electrical stimulation of upper airway in cats, Respir.Physiol.102: 175-185, 1995
【非特許文献4】Z.Tomori, R.Benacka and V.Donic, Mechanisms and clinicophysiological implications of the sniff- and gasp-like aspiration reflex, Respir.Physiol.114: 83-98, 1998
【非特許文献5】Z.Tomori, R.Benacka, V.Donic and J.Jakus, Contribution of upper airway reflexes to apnoea reversal, arousal, and resuscitation, Monaldi Arch.Chest Dis.55: 398-403, 2000
【非特許文献6】Tomori et al., 1991
【非特許文献7】J.Jakus, Z.Tomori and A.Stransky, Neural determinants of breathing, coughing and related motor behaviours, Monograph, Wist, Martin, 2004
【非特許文献8】Benacka & Tomori, 1997
【非特許文献9】R.Benacka, Disorders of central regulation of breathing and their influencing by upper airway reflexes (in Slovak).Orbis Medince S; No.: 53-63, 2004
【非特許文献10】Henke & Sullivan, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、先行技術においては、蘇生の生理学的効果を得るために、吸引反射の誘発を用いた、脳幹の蘇生刺激をもたらすものは、ヒトにおいては何も提案されていない。また、脳幹の呼吸中枢の活性化、それに続く、吸引反射の誘発を介して、ヒトにおける無呼吸及び関連する心呼吸系の症候群を治療するために設計された適切な装置も市販されていない。
【0012】
ここに、驚くべきことに、本発明の発明者らは、ヒトにおいて、吸引反射の誘発に続く、脳幹の呼吸領域の蘇生刺激が、中枢性の無呼吸及び/又は閉塞性の無呼吸等の無呼吸を含めた、機能的な特徴のいくつかの心呼吸障害若しくは神経行動学的障害に罹患している又はそれらの素因を有する対象に、有益な効果をもたらすことを発見するに至った。これには、いずれの注目に値すべき負の効果も伴わない。
【0013】
「吸引反射」は、呼吸中枢の強力な活性化を介して、脳幹の制御機能のリセットを引き起こし、これは、あえぎによって誘発される自動的な蘇生の間の脳幹中枢の活性化に類似すると考えられている。あえぎの間の急速且つ強力な吸息の作動力又は引き起こされた吸引反射の際には、脳幹中の吸息中枢の活性化によって、心臓の活動、血圧並びに種々の神経精神機能及び身体運動機能を制御する中枢を含めた、他の生命維持の機能の衰えつつある中枢がリセットされる。いずれの理論にも縛られる意図はないが、以下の5つの群の状態に関して、本発明は、説明する機構を介して作用すると考えられている。
【0014】
1)脳幹中の吸息神経細胞の一過性の不活性によって引き起こされる無呼吸及び低呼吸を有する患者においては、吸引反射の誘発によって、無呼吸及び低呼吸から回復させ、自発的な呼吸を修復させることができる。閉塞性の無呼吸を有する患者においては、脳幹中の吸息中枢の刺激によって、気道の閉鎖を回復させ、正常な呼吸を修復することができる。
【0015】
2)一過性の虚血性発作(TIA,Transient Ischemic Attack)、失神、低血圧、片
頭痛及び出血性ショックを有する患者においては、吸引反射は、呼吸中枢を介して脳幹の血管運動中枢を活性化して、血管収縮を誘起し、血圧の上昇を生じさせ、その結果として、脳のかん流を増加させたり、病理学的状態を中断させたり、終結させたり又は少なくとも緩和したりする。
【0016】
3)気管支けいれん、喉頭けいれん、しゃっくり、てんかん発作及びパーキンソン病における振戦は、吸息中枢から網様体を介するインパルスによって阻害することができる。このインパルスは、介在神経細胞を通して伝達されて、脳幹及び他所の関連する制御中枢に阻害性の影響をもたらす。
【0017】
4)交代性片麻痺、睡眠麻痺及び欠神型てんかんの場合:吸息中枢及び介在神経細胞を介する刺激によって、網様体の下行部が活性化され、これが、運動神経細胞を活性化して、発作を終結させたり又は少なくとも緩和したりする。
【0018】
5)昏睡状態、うつ病、不眠症、アルツハイマー病、神経性食欲不振症、過食症及び自閉症においては、吸息中枢及び介在神経細胞を介する刺激によって、網様体の上行部が影響を受ける。これによって、うつ病、過食症、神経性食欲不振症を阻害又は軽減し、集中力及び他の認知機能を向上させる。これによって、一部の昏睡状態が改善され、アルツハイマー病及び自閉症の発症が阻害される場合があり、不眠症及び精神障害が正の影響を受ける。
【0019】
これらの状態に関する、吸引反射の誘発を用いた脳幹の呼吸中枢の刺激による蘇生の利益は、先行技術において以前には同定されなかった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、先行技術の上記の欠点に対する解決法の提供を目指す。
【0021】
本発明のために、1つの態様では、蘇生装置を提供し、この装置は、
いくつかのパラメータ値を検出するための複数の感知手段と、
いくつかのあらかじめ決定された関数及び場合によりいくつかの検出されたパラメータ値を格納するための少なくとも1つの記憶手段と、
前記あらかじめ決定された関数における当該いくつかの検出されたパラメータ値を処理するための、当該感知手段及び当該記憶手段と接続した少なくとも1つの処理手段と、
当該複数の処理されたパラメータ値の関数として応答を提供するための、当該処理手段と接続したいくつかの応答手段と
を含む。本発明による装置は、いくつかの応答手段が、脳幹の呼吸領域の蘇生刺激をもたらすように設計されたいくつかの刺激手段を含むことを特徴とする。脳幹の吸息神経細胞の蘇生刺激は、吸引反射又はその代替のものが誘発され、これによって、種々の脳幹の中枢が影響を受けるようになるヒトの身体の刺激を意味することを理解されたい。そのような刺激を通して、この装置を用いて治療可能な状態に関して関連する脳の他の部分が影響を受ける。吸引反射及びその代替のものは、共通の特色として、あえぎ、空気の吸い込み、ため息又は増大した呼吸のうち1又は複数の前又は間に生じる作動力に匹敵する強力で且つ短い吸息の作動力を有する。脳幹の吸息領域の刺激は、前記脳幹から遠く離れた場所からであることが好ましい。
【0022】
本発明による装置は、自動的な蘇生を、それを必要とする対象において誘発するのに適している。自動的な蘇生という用語は、空気の吸い込み及びあえぎに近い吸引反射の誘発を介する、ヒトの生物体の代償性の自然の機構の活性化による蘇生、又は非ヒト動物及びヒト乳児において観察される自発的なあえぎによる自動的な蘇生によってもたらされる形態に類似の、種々の種におけるその代替形態を含むことを理解されたい(Sridhar R., Thach B.T.et al.: Characterization of successful and failed autoresuscitation in human infants including those dying of SIDS. Pediatr. Pulmon. 36: 113-122, 2003; Xie J., Weil M.H., Sun S., Yu T., Yang W.: Spontaneous gasping generates cardiac
output during cardiac arrest.Crit.Care Med.32:238- 240,2004)。本明細書において自動的な蘇生の誘発を指す場合には、蘇生という用語を使用することができる。自動的な蘇生の誘発から利益を得ることができる対象は、上記で論じたように、a)呼吸系、b)心血管系、c)神経行動学的変化、及びd)精神障害の機能亢進及び機能低下等の機能障害に罹患している又はそれらの素因を有する対象である。これらは、無呼吸、一過性虚血性発作(TIA)、喘息において併発する気管支けいれん、喉頭けいれん、しゃっくり、パーキンソン病に伴う振戦、てんかん発作、欠神型てんかん、片頭痛、低血圧、失神、出血性ショック(血液の喪失)、交代性片麻痺、アルツハイマー病、うつ病、神経性食欲不振症、過食症、自閉症、精神障害、睡眠麻痺、不眠症、昏睡状態のうち1又は複数を包含する。
【0023】
感知手段は、いくつかのパラメータ値を検出するための任意の適切な手段であってよい。本明細書においては、別途明確に記載しない限り、いくつかは、1又は2以上を意味するものとする。感知手段は、決定されたパラメータ値に応答して決定されたパラメータ値を示す電気出力を提供することができる。決定されたパラメータ値は、特定の時間枠内に感知器によって測定/決定されたパラメータの値である。パラメータは、対象がそれに基づいて自動的な蘇生の誘発を必要としているか否かを決定することができる任意のパラメータであってよい。
【0024】
対象が蘇生を必要としているか否かを決定するのに適切なパラメータは、これらに限定されないが、筋肉の活動に対応するパラメータ、呼吸に対応するパラメータ、又は脳細胞を含めた神経細胞の電気的活動若しくは咽頭から記録する電気的活動等の脳の活動に対応するパラメータを包含する。
【0025】
筋肉の活動に対応するパラメータは、これらに限定されないが、筋肉の動き及び電気的な活動を包含する。筋肉の動きは、複数の加速度計等の動きを検出するのに適切な任意の感知手段によって検出することができる。筋肉の電気的な活動は、心電図(ECG,electrocardiogram)、神経電図(ENG,electroneurogram)、収縮を示すアクトグラム等
を含めた、筋電図(EMG,electoromyogram)を検出するために従来から使用されてい
る手段等の当技術分野で既知の任意の適切な手段の使用によって検出することができる。
【0026】
呼吸に対応するパラメータは、これらに限定されないが、横隔膜、肋間筋、大胸筋、腹筋、上気道及び下気道の筋肉等の呼吸活動に関与する筋肉並びに関与する他の筋肉の活動に対応するパラメータを包含する。上記で論じた、筋肉の活動に対応するパラメータが、適している。本発明による装置の代替の実施形態では、呼吸活動に対応するパラメータは、気道中のガスの流れ及び/又は対象の気道の入口/出口の付近のガスの流れを含むことができる。対象の気道の入口/出口は、通常、鼻孔及び/若しくは口、又は一部の患者の場合には、気道を含むことを理解されたい。当業者であれば、ガスの流れを決定するための適切な手段、例えば、呼吸気流計、又はサーミスタ、Pt100、Pt1000及びその他等の温度計に精通している。
【0027】
この装置のさらなる代替の実施形態では、呼吸活動に対応するパラメータは、音を含むことができる。呼吸の間には、音が生み出される。呼吸の音には、これらに限定されないが、いびき、吸息及び呼息のきしり、うめき等がある。これらの音を使用して、呼吸活動を検出することができる。音を検出するための適切な感知手段は、マイクロホン、コイル/磁石のシステムに接続している膜、又は膜を含み、この膜の動き若しくは変位を記録することが可能である任意の他の装置である。
【0028】
神経活動に対応するパラメータには、これらに限定されないが、脳細胞を含めた、神経の細胞又は線維の電気的活動(神経電図−ENG)がある。神経細胞の電気的活動は、頭皮上の異なる位置間の電位差を測定する等の脳波(EEG,electroencephalogram)を検出するために従来から使用されている手段等、当技術分野で既知の任意の適切な手段の使用によって検出することができる。電気的活動の結果生じる磁場の変化を、これらの磁場中に置かれたコイルを通して電流を記録することによって測定することも可能である。一般に、頭蓋骨の頂点の種々の位置が使用されるが、この適用の位置としてはまた、脳の基部の下の位置、口腔鼻腔中の位置も使用してよい。EEGの活動はまた、咽頭から、より具体的には咽頭鼻腔部から記録することもできる。
【0029】
さらなる方法は、眼球運動をもたらす筋肉の活動を測定することによる(眼電図−EOG,electrooculography)。これは、一般に、例えば、急速眼球運動(REM,rapid eye movement)睡眠を決定するために使用される。
【0030】
本発明による装置は、あらかじめ決定された関数及び場合によりいくつかの検出されたパラメータ値を格納するための少なくとも1つの記憶手段をさらに含む。記憶手段は、コンピュータが読取り可能なメモリ等の、あらかじめ決定された関数を格納するための任意の適切な記憶手段であってよい。あらかじめ決定された関数は、数学的な関数又は相関関係であってよい。適切な関数は、決定されたパラメータ値が、あらかじめ決定された閾値と等しいか、それより大きいか、又はそれより小さいかを決定するのに適した関数であってよい。当業者であれば、自らの知識に基づいて、適切な関数を決定することができる。その適切な関数を基に、応答が、当該決定されたパラメータ値の関数として要求される。例えば、関数は、特定の時間枠に対する特定の閾値未満の特定のパラメータ値が存在しないことに関連する場合がある。そのような関数を決定して、特定の期間、例えば、5秒以上又は10秒以上の間、呼吸が存在しないことを検出することができる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、当該複数の記憶手段は、いくつかの検出されたパラメータ値を格納するのに適している。当業者であれば、検出されたパラメータ値を格納するための適切な記憶手段を選択することができる。コンピュータが読取り可能な記憶手段が、適している場合がある。
【0032】
本発明による装置は、前記あらかじめ決定された関数における当該いくつかの検出されたパラメータ値を処理するための、当該感知手段及び当該記憶手段と接続した少なくとも1つの処理手段をさらに含む。処理手段は、マイクロプロセッサであってよい。処理手段においては、当該感知手段によって検出されたパラメータ値は、あらかじめ決定された関数において処理される。このために、検出されたパラメータ値は、処理手段中に、当該感知手段から直接的に読み込まれるか、又は検出されたパラメータ値が以前に読み込まれた当該記憶手段から代替的に読み込まれるかのいずれかである。あらかじめ決定された関数は、当該記憶手段から処理手段中に読み込まれるか、又は代替の実施形態では、あらかじめ決定された関数を、前記処理手段中に埋め込むこともできる。後者の実施形態では、少なくとも1つの記憶手段は、処理手段中に(部分的に)一体化することができる。
【0033】
この装置は、当該いくつかの処理されたパラメータ値の関数として応答を提供するための、当該処理手段と接続したいくつかの応答手段をさらに含む。当該いくつかの応答手段は、脳幹の吸息中枢を刺激及び/又は再活性化するために、蘇生刺激をもたらすように設計された複数の刺激手段を含む。非ヒト動物においては、脳幹の吸息中枢を、髄質の外側被蓋野中に挿入された微小電極を使用して直接的に刺激して、空気の吸い込み、あえぎ及びしゃっくりに近いけいれん性の吸息を引き起こすことができる(Batsel H.L., Lines A.J.: Bulbar respiratory neurons participating in the sniff reflex in the cat, J.Exper.Neurol 39: 469-481, 1973; St John W.M., Bledsoe T.A., Sokol H.W: Identification of medullary loci critical for neurogenesis of gasping J.Appl.Physiol.56: 1008-1019, 1984; St John et al., 1996; Arita H., Oshima T., Kita I., Sakamoto M.: Generation of hiccup by electrical stimulation in medulla of cats.Neurosci.Lett.175: 67-70,1994)。或いは、吸息中枢は、脳幹から遠く離れた場所の刺激によって間
接的に活性化することができる。好ましい一次刺激は、上気道、好ましくは咽頭から、脳幹中の吸息中枢へ移動する。脳幹においては、血管運動中枢等の他の制御中枢及び心臓の活動を制御する神経細胞があり、これらもまた、吸息中枢の刺激の結果、二次的に影響を受ける。さらに、吸息中枢は、介在神経細胞によって、網様体(RF,reticular formation)に接続している。RFの下行部は、種々の運動神経細胞及び感覚神経細胞等の抹消
神経系に接続し;上行部は、例えば、感覚、知覚及び認知の機能を制御する、より高度の中枢に接続している。
【0034】
脳幹から遠く離れた特定の場所の刺激によって、蘇生が誘発される。これは、哺乳動物の身体の特定の場所においては、脳幹の吸息中枢に接続している求心性神経が存在するからである。そのような求心性神経又はそれらの受容帯を刺激すると、脳幹の吸息中枢が活性化され、これを通して、脳幹中の他の中枢及び脳の他の部分が影響を受け、その結果、蘇生及び/又は自動的な蘇生を誘発することができる。
【0035】
脳幹の吸息中枢の蘇生刺激は、前記吸息中枢から遠く離れた場所において行うことが好ましい。そのような領域の例には、上気道、好ましくは、咽頭、鼻人中上の咽頭の経穴GV26及び耳の耳介上の経穴がある。咽頭鼻腔部、より好ましくは、耳管の付近の咽頭鼻腔部の部分の刺激が好ましい。これは、吸引反射の誘発を用いると、最も強力な蘇生効果をもたらすからである。
【0036】
刺激手段は、電気的な刺激手段であってよい。電気的な刺激手段は、電源及び/又は波発生器を含み得る。適切な電源と組み合わせると、波発生器は、異なる長さ、周波数及び振幅のブロック波、正弦波及びスパイクを発生させることができる。
【0037】
電気的な刺激手段は、電気的な刺激を対象の身体に送達するための電極をさらに含んでよい。電極は、単極型、若しくは双極型電極を含めた多極型であってもよく、又は身体の表面上に置いても若しくは対象の身体の種々の組織中にしっかりと固定してもよい。鼻人中上の経穴GV26及び耳の耳介上の経穴を刺激するためには、電極を皮膚上に置くことができる。或いは、電極は、対象の皮膚を少なくとも部分的に貫通する針の形態を有する場合がある。咽頭を刺激するためには、電極を対象の咽頭にしっかりと固定することができる。
【0038】
好ましい実施形態では、複数の刺激用電極及びいくつかの収集用電極を使用する。いくつかの刺激用電極を使用することによって、より複雑な刺激用電流を提供することができる。これによって、また、刺激すべき領域をより正確に画定することができるようにもなる。いくつかの電極を使用する場合には、前記電極間に何らかの距離があることが好ましい。この距離が故に、電流が、対象の身体を通って、その距離にわたって移動する。これによって、刺激効果が増強される。心臓ペースメーカーにおいては、スパイク刺激が使用される(例えば、1.2V、20ミリ秒)。長期(数秒)にわたる一連のスパイクとは別に、スパイクの振幅及び持続時間、すなわち、エネルギーの量を、変化させることができる(R.Benacka and Z.Tomori, The sniff-like aspiration reflex evoked by electrical stimulation of the nasopharynx, Respir.Physiol.102: 163-174, 1995)。種々の周
波数及び持続時間の正弦波、ブロック波、スパイク、スパイク列及びこれらのいずれかの組合せを使用することができる。単にエネルギーを移動させるだけではなく、標的の応答中枢をより複雑に刺激して、所望の生理学的応答を惹起することが好ましい。
【0039】
電気刺激用のリード線を、対象の身体の選択した領域に、固定手段によってしっかりと固定する。ヒトの身体を含めた、哺乳動物の身体に電気刺激用のリード線をしっかりと固定するための、当技術分野で既知の任意の適切な固定手段が適している。適切な例は、ねじのトレッドであり、これを使用して、電気刺激用リード線を、筋肉等の選択した組織中にねじ止めすることができる。代替の固定手段は、筋肉中に成長するフラッブ(例えば、電極の端部における十字の形態をとる4つの部品)、又は縫うこと等である。
【0040】
耳の耳介の経穴の刺激のためには、電気的な刺激手段を、E.Siegler GmbH(オーストリア)社製のP−stim(登録商標)装置中のもの等に設計することができる。
【0041】
代替の実施形態では、刺激手段は、機械的な刺激手段である。機械的な刺激手段は、咽頭鼻腔部の背側外側領域中の機械受容器、鼻人中の経穴GV26及び耳の耳介上の経穴を刺激するのに適している。機械的な刺激手段は、伸縮性のナイロン繊維及び薄いポリビニル製のカテーテルを用いて触れる又は対象の身体のこれらの部分に圧力をもたらすのに適した手段である。機械的な刺激はまた、ガスの圧力パルスの手段によってもたらすこともできる。機械的な圧力をもたらす他の適切な手段は、鍼、指圧、電気鍼電気指圧(機械的刺激及び電気的刺激の組合せ)を含む。
【0042】
代替の実施形態では、刺激手段は、化学的な刺激手段である。化学的な刺激手段は、三叉神経、嗅覚神経及び舌咽神経によって神経支配される上気道を刺激するのに適している。複数の化学的な刺激が、上気道中の化学受容体を刺激することによって、覚醒反応及びある程度の蘇生を誘発することが見い出されている。これらの受容体は、とりわけ、嗅覚検知に関与し、短期の増加した吸息の作動力(空気の吸い込み)を引き起こして、臭気物質を有する空気の流れの方向を上気道の嗅覚領域に変え、臭気物質を検出及び同定させる。化学的な刺激は、上気道に、蘇生を誘発する化学的な組成物を接触させることによって誘発することができる。化学的な組成物は、咽頭に接触する際には、ガス又はエアロゾルの形態であることが好ましい。多くの臭気は、化合物の混合の結果生じる。
【0043】
蘇生の化学的な誘発は、例えば、バニリン、酢酸アミル、プロピオン酸又はフェニルエチルアルコールのうち1又は複数を含む三叉神経−嗅覚の刺激物質によってもたらすことができる。しかし、本発明は、これらの臭気/化合物を用いた化学的な刺激に制限されないことを明確に記載する。
【0044】
化学的な組成物を分配させるために、化学的な刺激手段は、噴霧手段を含むことができる。噴霧手段は、(加圧された)ガスを噴霧する場合及び/又は液体を(霧状にすることを含めた)噴霧する場合に適切であり得る。適切な噴霧手段は、当業者には既知である。噴霧手段は、化学的な組成物を、対象の鼻及び/又は口の付近で噴霧するのに適している。こうすると、対象は、鼻を通して臭気組成物を吸入することができ、その結果、咽頭粘膜を化学的な組成物の構成要素によって化学的に刺激することができる。
【0045】
本発明による装置は、好ましい実施形態では、ヒトの身体に、少なくとも部分的に埋込み可能である。この装置は、ヒトの身体に、完全に埋込み可能であることが好ましい。埋込みは、電気的及び/又は機械的な刺激手段を使用する場合に、とりわけ適している。
【0046】
この装置の完全な埋込みによって、対象の身体の表面上には部品が全く存在しなくなるので、対象が装置を使用するのが容易になる。埋め込んだ装置は、気道の閉塞を阻止する陽圧供給装置の代替として役立つことができる。心臓ペースメーカーから、電池の寿命は、10年と長いことが知られている。提示する装置の場合には、電池寿命がはるかにより長くなることを期待することができる。又は装置をはるかにより小型に作製してもよい。これは、この装置は、心臓ペースメーカーほどには頻繁に刺激する必要がないからである。心臓ペースメーカーにおいては、ペースメーカーの体積の約70%が、電池及びコネクタによって占められる。
【0047】
本発明による埋込み型の装置は、装置がいずれの検出リード線も、刺激リード線も外部に含まないように設計することができる。そのような装置は、ヒトの身体の電気的な活動を検出する、例えば、EEGを検出するために、導電性のハウジングをアンテナとして使用することができる。導電性のハウジングを、同様に使用して、電流をヒトの身体の部分まで、その直近において導くこともできる。そのような装置は、電気的刺激を適切に適用することができる、ヒトの身体の部分に埋め込んで、例えば、咽頭鼻腔部領域における吸引反射の誘発を用いて、脳幹の呼吸領域の蘇生刺激を得ることができる。
【0048】
異なる実施形態では、本発明による装置は、哺乳動物の耳、好ましくは、ヒトの耳の上又は後ろに装着するのに適している。ヒトの耳の上に装着するための複数の装置が、(携帯)電話機用の(無線)オーディオヘッドセット及び種々の音楽プレーヤー等、現代の生活において知られている。耳の後ろに装着する装置のさらなる例が、E.Biegler GmbH(オーストリア)社製のP−stim(登録商標)装置である。当業者であれば、これらのヘッドセット及びP−stim(登録商標)装置において使用されているように、電池及び(超小型)電子機器を含む装置をヒトの耳の上に装着する概念を、本発明による装置においていかに使用すべきかを理解するであろう。
【0049】
さらなる態様によれば、本発明は、生命を危うくする機能障害の回復及び関連する生命維持機能の正常化を含めた蘇生治療を、それを必要とする対象に提供するための方法に関する。本発明による方法は、
対象が、蘇生又は機能障害の排除若しくは緩和を必要とするか否かをモニターするステップと、
対象の脳幹の呼吸領域の蘇生刺激を、好ましくは、前記呼吸領域から遠く離れた場所においてもたらすステップと、
他の生命維持機能の、その正常化を支持する調整機構に二次的に影響を与えるステップと
を含む。
【0050】
対象のモニタリングは、当業者に既知の種々の形のものでよい。対象が蘇生を必要とすることをモニターするためのいくつかの考えられる方法を、上記ですでに論じてきた。
【0051】
本発明の方法の好ましい実施形態は、対象の脳幹の呼吸領域を刺激する方法に関する。刺激は、対象の呼吸領域から遠く離れた場所において行うことが好ましい(又はその方がより優れている)。本発明によれば、蘇生刺激に適切な場所は、咽頭、好ましくは咽頭口腔部、より好ましくは咽頭鼻腔部、最も好ましくは、耳管の周囲の咽頭鼻腔部領域である。
【0052】
或いは、蘇生刺激は、鼻人中の刺激、好ましくは、経穴GV26の刺激によってもたらすこともできる。
【0053】
本発明のさらなる代替の実施形態では、蘇生刺激を、耳の耳介上の経穴の刺激によってもたらす。
【0054】
蘇生又は正常化の刺激は、ヒトの脳幹の呼吸中枢の蘇生刺激をもたらすのに適切な任意の手段を用いてもたらすことができる。本発明による方法の好ましい実施形態によれば、電気的な刺激、機械的な刺激又は化学的な刺激を使用する。電気的な刺激の使用が、最も好ましい。蘇生刺激をもたらす適切な手段を、上記で論じてきた。
【0055】
本発明による方法は、これらに限定されないが、中枢性の無呼吸又は閉塞性の無呼吸等の無呼吸、一過性の虚血性発作(TIA)、低血圧、失神、出血性ショック(血液の喪失)、気管支けいれん、喉頭けいれん、しゃっくり、パーキンソン病に伴う振戦、てんかん発作、欠神型てんかん、片頭痛、交代性片麻痺、アルツハイマー病、うつ病、神経性食欲不振症、過食症、自閉症、精神障害、不眠症、睡眠麻痺、昏睡状態のうち1又は複数の治療に適している。本明細書において使用する場合、治療という用語は、生命を危うくする機能障害の不快の緩和を包含し、又はその回復を提供すると解釈されたい。
【0056】
ここで、本発明を、以下の実施例及び添付する図を参照して、さらに例証する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ヒトの頭部及び首部の一部の概略横断面図である。
【図2】図1からの詳細を示す図である。
【図3A】図3〜5は、睡眠時無呼吸に罹患しているヒト成人の睡眠ポリグラフのデータを示す図である。
【図3B】図3〜5は、睡眠時無呼吸に罹患しているヒト成人の睡眠ポリグラフのデータを示す図である。
【図4A】図3〜5は、睡眠時無呼吸に罹患しているヒト成人の睡眠ポリグラフのデータを示す図である。
【図4B】図3〜5は、睡眠時無呼吸に罹患しているヒト成人の睡眠ポリグラフのデータを示す図である。
【図5A】図3〜5は、睡眠時無呼吸に罹患しているヒト成人の睡眠ポリグラフのデータを示す図である。
【図5B】図3〜5は、睡眠時無呼吸に罹患しているヒト成人の睡眠ポリグラフのデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1に示すように、咽頭は、頭蓋骨の下側から頚椎C6のレベルまでに位置付けられる。咽頭は、3つの区画、すなわち、咽頭鼻腔部(鼻腔の後ろにほぼ位置付けられる、矢印1と2の間)、咽頭口腔部(口腔の後ろにほぼ位置付けられる、矢印2と3の間)、及び咽頭喉頭部(喉頭の後ろにほぼ位置付けられる、矢印3と4の間)に分けることができる。図2は、咽頭の蘇生刺激の好ましい場所を示す。蘇生刺激は、耳管5の周囲の、参照記号A、B、C、Dによって囲まれた咽頭鼻腔部領域において施すことが好ましい。蘇生刺激は、図2の斜線によって示される耳管5の直近において施すのがより好ましい。
【0059】
実験例1
中等度の混合型睡眠時無呼吸(呼吸障害指数(RDI,Respiratory Disturbance Index)=35/時間)及び過度の日中の眠気(Epwordの眠気スケール(ESS,Epword Sleepiness Scale)スコア、15から24)を有する患者J.M、55歳、男性を検査し(終夜睡眠ポリグラフ及び持続的気道陽圧法−CPAPの最適値の試験)、以下のパラメータを連続的に記録した。
LEOG及びREOG−左右の眼電図(眼球運動)
C4A1及びC3A2−脳波−EEG(脳の活動電位)
EMG−筋電図−筋肉の活動電位
MICRO−呼吸音(いびき)のマイクロホンによる記録
NAF−サーミスタによる鼻を通る空気の流れ
THO−張力計による胸の動き
ECG=心電図、2.リード線
RR−ECGからの心拍数[/分]。
SAO2−動脈血中の酸素飽和度[%]
LITE−周囲の光の強度[%]
Time−実験における経時変化
STAGE−ノンレム睡眠段階2:S2
この実験の結果を、図3A〜3Bに示し、以下に論じる。
【0060】
図3A.約23秒間続く中枢性の睡眠時無呼吸(胸の動き及び空気の流れの両方が停止する)に、徐脈(心拍数が51〜53/分から48〜50/分まで減少し、約15秒遅れてO飽和度が93%から88%まで減少した)が伴った。後に、自発的な呼吸が徐々に再開し、いびき、過剰換気及び頻脈(65/分)が伴った。
【0061】
図3B.ノンレム睡眠段階2において、中枢性の睡眠時無呼吸の8秒間及び9秒間続いた2つの短い発作の発生を、GV26点の電気鍼刺激によって中断して、胸の動き及び短い空気の吸い込みに近い音を伴う吸息の空気の流れを迅速に引き起こすと、これに続いて、自発的な呼吸が生じたが、過剰換気、いびき並びに心拍数及びO飽和度の顕著な変化は伴わなかった。約37秒から40秒までのECG及びRRの値は、対象の生理学的な値には対応しないことに注目されたい。代わりに、この間、ECG及びRRの測定は、電気刺激によって撹乱されている。経穴GV26を介する脳幹の吸息神経細胞の反射の活性化は、中枢性の睡眠時無呼吸からの回復に適していた。
【0062】
実験例2
重度の混合型睡眠時無呼吸(RDI=48/時間)を有する患者Z.S、51歳、男性を検査し(終夜睡眠ポリグラフ)、以下のパラメータを連続的に記録した。
LEOG及びREOG−左右の眼電図(眼球運動)
C4A1及びC3A2−脳波−EEG(脳の活動電位)
EMG−筋電図−筋肉の活動電位
MICRO−呼吸音(いびき)のマイクロホンによる記録
NAF−サーミスタによる鼻を通る空気の流れ
THO−張力計による胸の動き
ECG−心電図、2.リード線
RR−ECGからの心拍数[/分]。
SAO2−動脈血中の酸素飽和度[%]
LITE−周囲の光の強度[%]
Time−実験における経時変化
STAGE−ノンレム睡眠段階1:S1;段階2:S2
この実験の結果を、図4A〜4Bに示し、以下に論じる。
【0063】
図4A.約46秒間続く閉塞性の睡眠時無呼吸(強力な持続性の胸の動きにもかかわらず、空気の流れが停止する)に、徐脈(心拍数が53/分から44/分まで減少し、若干遅れてO飽和度が93%から81%まで減少した)が伴った。後に、自発的な呼吸が徐々に再開し、いびき、過剰換気及び心拍数の増加(70/分)が伴った。約60秒から78秒までのECG、RR、C4A1及びC3A2の値は、対象の生理学的な値には対応しないことに注目されたい。代わりに、この間、ECG、RR、C4A1及びC3A2の測定は、過剰な胸の動き及び強力なEMGによって撹乱されている。
【0064】
図4B.ノンレム睡眠段階1において、閉塞性の睡眠時無呼吸発作の発生を、7秒持続した後に、伸縮性のナイロン繊維を用いて咽頭鼻腔部粘膜に穏やかに機械的に触れることによって中断して、胸の動き及び短い空気の吸い込みに近い音を伴う吸息の空気の流れを迅速に引き起こすと、これに続いて、自発的な呼吸が生じたが、心拍数及びO飽和度の顕著な変化は伴わなかった。接触による咽頭鼻腔部の刺激を用いた脳幹の吸息神経細胞の反射の活性化は、閉塞性の睡眠時無呼吸からの回復に適していた。
【0065】
実験例3
中等度の中枢型睡眠時無呼吸(RDI=32/時間)を有する患者M.H、56歳、男性を検査し(終夜睡眠ポリグラフ)、以下のパラメータを連続的に記録した。
LEOG及びREOG−左右の眼電図(眼球運動)
C4A1及びC3A2−脳波−EEG(脳の活動電位)
EMG−筋電図−筋肉の活動電位
MICRO−呼吸音(いびき)のマイクロホンによる記録
NAF−サーミスタによる鼻を通る空気の流れ
THO−張力計による胸の動き
ECG−心電図
RR−ECGからの心拍数[/分]は、技術的な理由によって示されていない。
SAO2−動脈血中の酸素飽和度[%]
LITE−周囲の光の強度[%]
Time−実験における経時変化
STAGE−ノンレム睡眠段階1:S1;段階2:S2
この実験の結果を、図5A〜5Bに示し、以下に論じる。
【0066】
図5A.ノンレム睡眠段階1において、約25秒間続く過呼吸の時期(図の中央)が先行し、それに、低呼吸の2つの発作が続き、このことから、仰臥位における不安定な睡眠が示唆される。呼吸パターンの変化は、15〜20秒遅れる91%、87%及び94%の間での動脈のO飽和度の定期的な変化を反映する。技術的な問題に起因して、図5A及び5BのECG及び心拍数(RR)の記録は、対象の生理学的な実際の値を示していない。
【0067】
図5B.ノンレム睡眠段階2において、中枢性の睡眠時無呼吸発作の発生を、8秒持続した後に、伸縮性のナイロン繊維を用いて咽頭鼻腔部粘膜に穏やかに機械的に触れることによって中断して(矢印で示す)、胸の動き及び短い空気の吸い込みに近い音を伴う吸息の空気の流れを迅速に引き起こした。これに続いて、自発的な呼吸が生じたが、O飽和度の顕著な変化は伴わなかった(90%から88%を経て91%)。接触による咽頭鼻腔部の刺激を用いた脳幹の吸息神経細胞の反射の活性化は、中枢性の睡眠時無呼吸発作からの回復に適していた。
【0068】
提示した結果から、GV26点の電気鍼(図3A〜3B)及び咽頭鼻腔部粘膜の穏やかな機械的刺激(図4A〜4B及び図5A〜5B)の両方が、ヒト成人において、中枢性及び閉塞性の睡眠時無呼吸の発作を中断し、心拍数及びO飽和度の顕著な変化の発生を阻止し、自発的な呼吸を再開させることができることが実証されている。
【実施例1】
【0069】
埋込み型の装置は、ステンレス鋼製又はチタン製のケーシングを含む。ケーシング内には、電池(一般に、心臓ペースメーカーにおいて使用されるようなナノ結晶の正極構成成分を有するヨウ化リチウム)及び超小型電子機器が取り囲まれている。超小型電子機器は、装置に接続している検出用電極によって検出された筋電図(EMG)を記録するためのシステムを含む。検出用電極は、横隔膜に取り付けるのに適している。EMGのデータ(強度、周波数、位相性活動の繰り返し)が、マイクロプロセッサ中で処理される。マイクロプロセッサは、正常なEMG活動が>10秒間存在しない場合(中枢性の無呼吸)又は空気の流れの停止が伴う極度に強力なEMG活動の場合(閉塞性の無呼吸)等、EMGが、あらかじめ決定された判定基準を満たさない場合には、波動関数発生器を活性化するように設計されている。波動関数発生器が、活性化されると、適切な周波数、持続時間及び振幅の正弦波、ブロック波、スパイク列又はいずれかの組合せ等のあらかじめ決定された波を発生させ、この波は、電気的刺激用リードの電線を通って、その刺激用電極に導かれる。電気刺激用リードは、咽頭鼻腔部の背側外側領域中にしっかりと固定されるのに適している。
【実施例2】
【0070】
本発明の別の装置は、化学的な刺激による上気道の刺激に基づく。電子装置を、睡眠中の対象の頭部付近に取り付けることができる。装置が、患者の呼吸を、マイクロホンを使用して音をモニターするか、或いは流量計を用いて空気の流れをモニターするかによってモニターする。無呼吸発作が生じると、装置が、リザーバから噴霧手段によって、上気道の粘膜を刺激するのに適切な化学的な組成物を放出する。これによって、対象において空気の吸い込み及び蘇生が誘発される。蘇生によって、呼吸、血圧及び心拍数が正常化される。リザーバ中の化学的な組成物は、交換することができる。このことは、再充填を促進し、当該化学的な組成物を他の組成物と交換することを可能にする。異なる化学的な組成物による交換によって、順応に起因する応答の喪失が阻止される。装置はまた、異なる化学物質を有するいくつかのリザーバを含むこともでき、無作為化が可能となる。また、このような装置を使用して、乳幼児突然死(SID,sudden infant death)の予防を支援
することもできる。この方法の利点は、無呼吸発作がなければ、治療が生じないことである。
【実施例3】
【0071】
また、衰えつつある、生命維持機能を制御する脳幹中枢を再活性化し、蘇生を引き起こすための他の方法もある。1つの例が鼻人中の経穴GV26の電気的又は機械的な刺激である。これは、患者の鼻の下に取り付けられた、流量計により空気の流れを検出することによって呼吸をモニターし、無呼吸発作の間に鼻の下の経穴GV26を刺激するための器械によってもたらすことができる。
【実施例4】
【0072】
別の実施例が、耳の耳介上の経穴の刺激である。これらの点の場所を正確に探し出すことは困難であるが、いったん探し出したら、これらの点を刺激して、咽頭鼻腔部又は鼻フィルターの刺激に類似する反射効果を得ることができる。患者の呼吸を、例えば、呼吸音によってモニターし、無呼吸発作の間に刺激をもたらす電子的な「耳キャップ」は、患者の助けとなるであろう。
【0073】
上記の実施例において提示した実施形態は、本発明を例証するに過ぎないものとし、これによって、本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。
【0074】
(参考文献)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおいていくつかのパラメータ値を検出するための感知器と、
あらかじめ決定された関数及びいくつかの検出されたパラメータ値を格納するための少なくとも1つのメモリと、
前記あらかじめ決定された関数における前記いくつかの検出されたパラメータ値を処理して、前記ヒトが無呼吸を発症しつつある状態にあるか否かを決定するための、前記感知器及び前記メモリと接続した少なくとも1つの処理ユニットと、
前記少なくとも1つの処理ユニットが、前記ヒトが前記無呼吸を発症しつつある状態にあることを決定した場合に、前記少なくとも1つの処理ユニットによって処理された前記いくつかのパラメータ値の関数として応答を提供するための、前記処理ユニットと接続した応答装置と
を含む、ヒト用の蘇生装置であって、
前記蘇生装置が、前記感知器、前記メモリ、前記少なくとも1つの処理ユニット及び前記応答装置の全てを含む器械であり、前記器械が、ヒトの鼻の下につながるように配置され、前記感知器が、呼吸活動を検知するように配置され、前記応答装置が、ヒトの鼻人中に刺激をもたらすことによるヒトの脳幹の呼吸領域の蘇生刺激によって吸引反射の誘発を引き起こすように設計された刺激装置を含むこと
を特徴とする装置。
【請求項2】
刺激装置が、ヒトの鼻人中上の経穴GV26に刺激をもたらすことによって吸引反射の誘発を引き起こすように設計されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
感知器が、ガスの流れ、ガスの組成、ガスの圧力、ガスの温度、体温及び音のうち少なくとも1つを検知するように配置される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
応答装置が、電気的な応答装置及び機械的な応答装置のうち少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
刺激装置が、電気的な刺激、ガスの圧力パルス、鍼、指圧、電気鍼及び電気指圧のうち少なくとも1つを提供するためのユニットを含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
刺激装置が、ヒトの皮膚上に置かれるように配置された電極を含む、請求項5に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2012−196483(P2012−196483A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126332(P2012−126332)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【分割の表示】特願2009−541241(P2009−541241)の分割
【原出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(509168483)ナソフレックス ビー.ブイ. (5)
【氏名又は名称原語表記】NASOPHLEX B.V.
【Fターム(参考)】