虚血再灌流に関係する浮腫を治療する方法
移植された臓器又は組織をアミノアルキルグルコサミニドリン酸で治療することにより、虚血再灌流に関係する浮腫を予防又は減少させる方法が記述される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
この出願は2009年4月9日に出願された米国特許出願No. 61/168,089の利益を主張し、その開示は参照によりその全体が本書に援用される。
本書に開示される主題は、虚血再灌流に関連した浮腫を予防又は減少させるための方法及び組成物に関する。
【0002】
略記
℃=摂氏温度
AGP =アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩
AMs =肺胞マクロファージ
ARDS =成人呼吸窮迫症候群
BAL =気管支肺胞洗浄
BMT =骨髄移植
β-gal =β-ガラクトシダーゼ
CO2 =二酸化炭素
dpi =1インチあたりのドット数
EBD =エバンスブルー染料
EDTA =エチレンジアミン四酢酸
EGTA =エチレングリコール四酢酸
FBS =ウシ胎仔血清
FiO2 =吸気中酸素濃度
Fluc =ホタルルシフェラーゼ
g =相対遠心力
Gy =グレイ
HCl =塩酸
HEPES = N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸
HMVECs =ヒト肺微小血管内皮細胞
hr =時間
ICAM-1 =細胞間接着分子-1
IRI =虚血再灌流障害
LDH =乳酸脱水素酵素
LPS =リポ多糖類
MAPKs =マイトジェン活性化プロテインキナーゼ
μg =マイクログラム
μL =マイクロリットル
μm =ミクロン
μM =マイクロモル
mg =ミリグラム
min=分
mL =ミリリットル
NF-κB=核因子-κB
NHBD =心停止ドナー
nm =ナノメートル
O2 =酸素
PAMP =病原体関連分子パターン
PBS =リン酸緩衝生理食塩水
PEEP =呼気終末陽圧
PGN =ペプチドグリカン
PMSF =フッ化フェニルメタンスルホニル
RPMI =ロズウェルパーク記念研究所
SDS-PAGE =ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動
SIRS =全身性炎症反応症候群
TBS =トリス緩衝食塩水
TLR2 = Toll様受容体2
TLR4 = Toll様受容体4
TPCK = L-1-トシルアミド-2-フェニルエチルクロロメチルケトン
Tris=トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
W/D =湿乾燥重量比
【背景技術】
【0003】
急性肺損傷は、敗血症、全身性炎症反応、及び成人呼吸窮迫症候群の特徴である。非心原性肺水腫及びガス交換障害は、病気の原因に関係なく急性肺損傷の結果である。急性肺損傷に起因して肺水腫を引き起こすメカニズムはよく理解されていない。肺移植後直ちに生じる急性肺損傷の一形態である虚血再灌流障害(IRI)は、病的状態及び死の原因となる、頻繁な合併症である(非特許文献1)。
【0004】
虚血から間をおいた再灌流により、補体及び凝固カスケードを含み、自然免疫系の構成要素を取り込んだ炎症反応が生ずる。実質細胞及び骨髄性細胞の両方は、フリーラジカル、一酸化窒素、及び炎症誘発性及び抗炎症性サイトカインを産生する(非特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】King 他 Ann. Thorac. Surg., 69, 1681-1685 (2000)
【非特許文献2】de Perrot 他., Am. J. Respir. Crit. Care Med., 167(4), 490-511 (2003)
【非特許文献3】de Groot 及び Rauen, Transplant Proc., 39(2), 481-484 (2007)
【非特許文献4】Mollen 他, Shock, 26(5), 430-437 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肺IRIをより深く理解することは、多くの種類の急性肺損傷が関係すると考えられ、また肺移植レシピエントに加えて、多くの患者の恩恵になりうる。特に、このような理解は、肺以外の臓器の浮腫に関する虚血再灌流の患者への利益となるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、組織内の浮腫を予防又は減少させる方法であって、化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、組織とを接触させることを含み、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OH(式中、mは0〜2の整数を表す。)からなる群より選択され、
R5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、方法を提供する。
【0008】
幾つかの実施形態において、nが1である。幾つかの実施形態において、X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である。幾つかの実施形態において、R4が、−C(=O)OHである。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である。
【0009】
幾つかの実施形態において、前記化学式(I)の化合物が、nが1であり、X1が酸素原子であり、X2が酸素原子であり、R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、R4が−C(=O)OHであり、及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である。
【0010】
幾つかの実施形態において、前記浮腫が虚血再灌流に関係する。幾つかの実施形態において、前記虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関する。幾つかの実施形態において、前記虚血再灌流が、心臓手術中の心臓マヒ、又は整形外科手術に起因する骨格筋内の虚血再灌流に関連する。幾つかの実施形態において、前記虚血再灌流が臓器又は組織移植に関連する。幾つかの実施形態において、前記組織移植は、皮膚、筋肉又は軟部組織移植である。幾つかの実施形態において、前記組織移植は、自己組織移植である。
【0011】
幾つかの実施形態において、前記組織と前記化合物の有効量とを接触させることは、虚血の前、虚血の間、又は虚血の間隔を置いた後に起きる。
【0012】
幾つかの実施形態において、前記組織は心臓、肝臓、腎臓、脳、小腸、大腸、膵臓、骨格筋、皮膚、軟部組織、及び肺組織からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、前記組織は、臓器ドナーからのものである。幾つかの実施形態において、前記組織は、肺移植ドナーからの肺組織である。幾つかの実施形態において、前記肺移植ドナーは、ヒト肺移植ドナーである。幾つかの実施形態において、前記臓器ドナーは、心停止ドナーである。
【0013】
幾つかの実施形態において、前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である。幾つかの実施形態において、前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である。
【0014】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、その治療を必要とする対象における浮腫を予防又は減少させる方法であって、前記対象に化学式(I)の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、臓器又は組織移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫を予防又は減少させる方法であって、移植のための臓器又は組織を準備し、前記臓器又は組織と化学式(I)の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、を接触させ、及び、前記治療を受けた臓器又は組織を該治療を必要とする対象に移植することを含み、ここで前記化合物で治療を受けていない臓器又は組織を用いて実行される移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫と比較して、前記対象における虚血再灌流に関係する浮腫が予防又は低減される方法を提供する。
【0016】
幾つかの実施形態において、前記臓器又は組織は、心臓又は心臓組織、肝臓又は肝臓組織、腎臓又は腎臓組織、膵臓又は膵臓組織、小腸又は大腸組織、骨格筋組織、軟部組織、肺又は肺組織、及び脳組織からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、前記臓器又は組織は、肺又は肺組織である。幾つかの実施形態において、前記臓器又は組織は、心停止臓器ドナーからのものである。
【0017】
幾つかの実施形態において、前記接触は、肺組織ドナー、肺静脈、及び生体外灌流回路の肺動脈の気道の一つを介して行われる。
【0018】
幾つかの実施形態において、前記組織は、皮膚組織、骨格筋組織又は軟部組織の1つである。幾つかの実施形態において、前記組織移植は、自己組織移植である。
【0019】
幾つかの実施形態において、前記化合物は、TLR2及びTLR4の一方又は両方の拮抗薬である。幾つかの実施形態において、前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である。
【0020】
幾つかの実施形態において、前記化学式(I)の化合物は、nが1の化合物である。幾つかの実施形態において、X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である。幾つかの実施形態において、R4が、−C(=O)OHである。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である。幾つかの実施形態において、前記化学式(I)の化合物が、nが1であり、X1が酸素原子であり、X2が酸素原子であり、R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、R4が−C(=O)OHであり、及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である。
【0021】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、化学式(I)の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を含む生体外臓器又は臓器組織を治療するための保存液を提供する。幾つかの実施形態において、前記生体外臓器又は組織は、肺又はその一部である。
【0022】
本書で開示される主題の目的は、虚血再灌流に関係する浮腫のような浮腫を予防又は減少させる方法及び組成物を提供することである。
【0023】
本書で開示される主題の目的は上文に述べられ、本書で開示される主題によって全体として又は部分的に達成され、後述に最も良く述べられる添付の実施例及び図面に関して理解されるとき、他の目的は記述が進むにつれて明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】再灌流に続く0分、15分、30分、1時間、及び3時間でのToll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスからの再灌流肺における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。W/Dデータは、OuJマウスの左肺(LL OuJ、白抜き棒)と右肺(RL OuJ、影付き棒)、及びHeJマウスの左肺(LL HeJ、暗いドット付きの白抜き棒)と右肺(RL HeJ、白い四角付きの影付き棒)の両方について示される。 * = p <0.05、†= p <0.01 対照と比較。n = 6/グループ。
【図1B】1時間の肺門クランプ(clamping)及び3時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスからの拡張固定(inflation fixed)された(25cm H2O)左肺の一連の写真である。写真の上側の1組の矢印は、HeJマウスからの肺(右上写真)と比較したOuJマウスからの肺(左上写真)の気管支周囲及び血管周囲の空間の間質性浮腫の増加を示す。写真の下の1組の矢印は、HeJマウスからの肺(右下写真)と比較して厚いOuJマウスからの肺(左下写真)の肺胞壁を示す。上側の写真は40倍の倍率(上側の写真の右下の線が2.0mmを表す)で表示され、下側の写真は、200倍の倍率(下側の写真の右下の線が200μmを表す)で表示される。写真は4つの標本の代表例である。
【図1C】1時間の肺門クランプ及び1時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスからの拡張固定された左肺の一連の写真である。60分の再灌流後の湿乾燥重量比(W/D)の有意な差にもかかわらず、OuJマウス肺(左上写真)又はHeJマウス肺(右上写真)には間質性気管支周囲/血管周囲の浮腫(interstitial peribronchial/ perivascular edema)はなく、さらに肺胞壁肥厚(下写真)もない。写真は4つの標本の代表例である。写真に示される拡張固定された切片(section)は、対照試料(図示せず)と同一であるように見える。上側の写真は40倍の倍率(上側の写真の右下の線が2.0mを表す)で表示され、下側の写真は、200倍の倍率(下側の写真の右下の線が200μmを表す)で表示される。
【図1D】1時間の肺門クランプ及び1時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスの両方からの左肺(白抜き棒)と右肺(影付き棒)におけるエバンスブルー染料蓄積(光学密度(OD)/1グラム(gm)サンプルで測定された)の棒グラフである。OuJマウスのデータは、グラフの左側の1組の棒で示され、HeJマウスのデータはグラフの右側の1組の棒で示される。 * = p <0.05対応のない(unpaired)t検定;‡= p <0.05 対応のある(paired)t検定。
【図1E】1時間の肺門クランプ及び1時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウス(n = 6)、TLR4欠損(HeJ)マウス、MyD88欠損マウス(n = 5)及びC57BL/6Jマウス(MyD88欠損マウスのバックグラウンド(background)系統(strain)であり;n = 6)からの左肺(白抜き棒)と右肺(影付き棒)における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)を比較した棒グラフである。
【図1F】1時間の虚血及び0又は5分間の再灌流の後で、C57BL/6Jマウス系統と交配されたToll様受容体(TLR4)欠損マウスの右肺(RL TLR4-/-、点描された棒)と左肺(LL TLR4-/-、陰影のない棒)における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。浮腫は又、1時間の左(left)肺門クランプとその後の0又は5分間の再灌流の後で、バックグラウンド系統C57BL/6Jマウスの右肺(RL BL6、縞模様の棒)と左肺(LL BL6、暗い影付きの棒)において測定された。* p <0.05 右BL6肺並びにTLR4-/-マウスからの右及び左の肺と比較、(Tukeyの事後検定 (post hoc)とANOVA)。n= 6/グループ。
【図2A】1時間虚血状態にされ、その後に0、15、30、60、又は180分間再灌流された、対照の左肺、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウス及びTLR4欠損(HeJ)マウスにおけるJNK、ERK、p38及びNF-κBの活性化を示すウェスタン・ブロッティング・ゲル(Western blotting gels)の一連の写真である。HeJとOuJ系統の各々に対しn = 4とされた。対照は、虚血/再灌流を受けなかった2 HeJ及び2 OuJマウスの肺から抽出された蛋白質を表す。
【図2B】図2Aで表現されたウェスタン・ブロット法((Western blots)からのタンパク質濃度データ(レーザースキャニングにより定量化された強度)の一連の棒グラフである。対照、HeJ及びOuJマウスの肺のデータは、それぞれ、明灰色、濃灰色、及び白抜きの棒で表される。異なる対照サンプル間のばらつきがエラーバー(平均± SEM)で表され、各対照= 1.0とされて、リン酸/総マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPKs)及びIκBα/β-アクチンは対照の平均の比によって各比を割って正規化された。p46及びp54 JNK、並びにp44及びp42 ERKは、同様なパターンとp値を有する。* = p <0.05、†= p <0.01、‡= p<0.001 多重比較のためのテューキーの真正有意差(Tukey's Honest Significant Difference)とANOVAによる対照と比較。
【図3】NF-κBのp65成分に対して免疫染色された(immunostained)肺組織サンプルの一連の写真である。対照サンプル(一番左の写真)は、新鮮な犠牲マウスから免疫染色された肺組織である。残りの写真は、60又は180分の再灌流に続くToll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスの右肺(下側の4つの写真)と左肺(上側の4つの写真)肺からの免疫染色された肺組織を示す。各写真の右下の線は100μmを表す。
【図4A】骨髄移植後12週間のキメラマウスからの肺胞マクロファージ(AMs)における、NF-κB活性化(蛍ルシフェラーゼ(fluc)/β-ガラクトシダーゼ(β- gal)活性により測定された)の棒グラフである。AMsは気管支肺胞洗浄(BAL)によって取り出され、かつAd.NFκBLucとAd.CMV-LacZに感染させられ、その後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS、白抜きの棒)又は1μg/mlのリポ多糖類(LPS、濃灰色の棒)のいずれかで培養された。観測された蛍ルシフェラーゼ/β-ガラクトシダーゼ活性は、キメラHeJ系統(P+M-)又はキメラOuJ系統(P-M+)のいずれかからのレシピエントの骨髄の完全な置換を示した。P =実質細胞、M =骨髄由来細胞、+ =無傷の(intact)TLR4(OuJ)、- =非機能(non-functional)TLR4(HeJ)。非照射の(non-irradiated )HeJとOuJマウスから取り出されたAMsは、対照としての機能を果たす。 n= 4の実験/グループ、p <0.0001。
【図4B】IRI後3時間のキメラマウスの左肺(白抜き棒)と右肺(濃灰色の棒)からの肺組織における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。P =実質細胞、M =骨髄由来細胞、+ =無傷のTLR4(OuJ)、- =非機能TLR4(HeJ)。 * = p <0.05、†= p <0.01 P-左肺のW/Dと比較、(テューキーの真正有意差とANOVA)。
【図4C】回復された骨髄(P-M-、P+M+)を有するキメラマウス及び無傷の(intact)HeJとOuJ系統からの、左(白抜き棒)と右(濃灰色の棒)の肺組織における湿乾燥重量比(W/D)の棒グラフである。
【図5A】肺門クランプの1時間前に開始した、賦形剤(vehicle)(生理食塩水、グラフの左側の棒)又はTLR4拮抗阻害剤CRX-526(生理食塩水200μL中10μg、グラフの右側の棒)のいずれかで30分間静脈内治療を受けたOuJマウスの右肺(濃灰色の棒)と左肺(白抜き棒)における1時間の虚血再灌流障害(IRI)後の浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。N= 5/グループ、* = p = 0.0014 対応のあるt検定による同一の動物の右肺と比較、p = 0.0023 対応のないt検定によるCRX-526で前治療されたマウスの左肺と比較
【図5B】CRX-526の0.1、1、10、及び100μgの濃度(すなわち、それぞれInhib(阻害剤) 0.1、Inhib 1、Inhib 10、Inhib 100)で生じるNF-κB活性(蛍ルシフェラーゼ(fluc)/β-ガラクトシダーゼ(β- gal)活性に基づく)の体外阻害を示す棒グラフである。Fluc/β-galは、CRX-526で治療したヒト肺微小血管内皮細胞(HMVECs)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみ(白抜き棒)、10ng/mLのリポ多糖(LPS)(斑点の棒)、5ng/mLのLPS(縞模様の棒)、又は0.25ng/mLの腫瘍壊死因子(TNF、濃灰色の棒)で刺激するのに続いて測定された。CRX-526で治療されなかったHMVECsが対照として用いられた。n = 4/グループ、* p <0.05 ANOVAによる同一時点での他の値との比較。
【図6】1時間の左肺門閉塞(left hilar occlusion)と15分、30分又は60分の再灌流後、Toll様受容体2欠損マウス(TLR2-/-)における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)のグラフである。TLR2-/-マウスの右肺の浮腫(TLR2-/- RL)が縞模様の棒で示され、TLR2-/-マウスの左肺の浮腫(TLR2-/- LL)が明灰色の棒で示される。浮腫はまた、対照としてのバックグラウンドC57BL/6Jマウス系統の右肺(BL6 RL、白抜き棒)と左肺(BL6 LL、濃灰色の棒)で測定された。対照左肺に対し、†=p <0.01、‡= p <0.001。
【図7A】C57BL/6Jマウスの左肺(BL6、濃灰色の棒)、Toll様受容体4欠損マウスの左肺(TLR4-/-、縞模様の棒)、Toll様受容体2欠損マウスの左肺(TLR2-/-、点描された棒)、及び1時間の左肺門クランプの1時間前に開始して、10μgのCRX-526で30分以上前治療したC57BL/6Jマウスの左肺(CRX-526、影なし棒)における、浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)のグラフである。対照(新鮮な)データは、肺門クランプしない動物犠牲の後にすぐに取り出したマウス肺からのものである。グラフのX軸に示されるように、他のデータは、1時間の左肺門クランプかつ、0、15、30、60又は180分のいずれかの再灌流の後の肺からのものである。n= 3-6。BL6 W/Dは、他の系統又はCRX-526で治療したマウスよりも有意に高い。*p <0.05、†p <0.01、‡p <0.001、TLR4-/-及びCRX-526で治療したマウスと比較したTLR2-/-§ p <0.01、σp<0.05(各時点でのTukeyの事後検定とANOVA)。
【図7B】C57BL/6Jマウスの右肺(BL6、濃灰色の棒)、Toll様受容体4欠損マウスの右肺(TLR4-/-、縞模様の棒)、Toll様受容体2欠損マウスの右肺(TLR2-/-、点描された棒)、及び1時間の左肺門クランプの1時間前に開始して、10μgのCRX-526で30分以上前治療したC57BL/6Jマウスの右肺(CRX-526、影なし棒)における、浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)のグラフである。対照(新鮮な)データは、肺門クランプの前に動物犠牲の後にすぐに取り出したマウス肺からのものである。グラフのX軸に示されるように、他のデータは左肺門クランプかつ、0、15、30、60又は180分のいずれかの再灌流の後の肺からのものである。データn= 3-6。
【図8】Toll様受容体2(TLR2)リガンドによる刺激によってもたらされたNF-κBの活性化へのCRX-526の影響を示す棒グラフである。NF-κBが活性化されるときに、蛍ルシフェラーゼ(fluc)/β-ガラクトシダーゼ(β-gal)の比率が増加するよう、ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVECs)に組換え第一世代(recombinant first-generation)E1、E3欠失Ad.NF-κB-ルシフェラーゼ及び構成的β-ガラクトシダーゼベクターが導入(transfected with)された。導入(transfection)後48時間、HMVECsは種々の濃度のCRX-526(x軸に表示されるように)で1時間、前治療され、さらにTLR2リガンドPam(3)Cys(25μg/mL、濃灰色の棒)又はリポタイコ酸(LTA;1μg/mL、白抜きの棒)に8時間晒された。感染効率を調整するため(control for)、ルシフェラーゼ活性はβ-ガラクトシダーゼに正規化されている。CRX-526はNF-κB活性化を低減した。*p<0.05、†p<0.01 賦形剤との比較。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本書で開示される主題は、代表的実施形態が示される、添付した実施例を参照して以下にさらに詳細に記述される。しかしながら、本書で開示される主題は異なる形式に具体化することができ、また本書に示された実施形態に制限されると考えるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が充分であり完全であり、及び当業者に実施形態の範囲を完全に伝達するために提供される。
【0026】
もし、他に定義されなければ、本書に用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本書で開示される主題が属する技術分野の当業者が通常理解されるのと同じ意味を持つ。本書で述べられた全ての出版物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照することにより取り込まれる。
【0027】
明細書及び特許請求の範囲を通して、所定の化学式、又は化学名は、全ての光学的及び立体的異性体、並びにこれら異性体及び混合物が存在するラセミ体を包含する。
【0028】
1.定義
以下の用語は、当業者により良く理解されると信ずるが、以下の定義は本書で開示される主題の説明を円滑にするために示すものである。
【0029】
長年の特許法慣習に従い、用語"a(1つ、ある)"、"an(1つ、ある)"及び"the(その、この)"は、特許請求の範囲を含めて本出願で用いる際"1以上"を表す。従って、例えば、"a compound(ある化合物)"又は"a cell(ある細胞)"に関しては、複数のこのような化合物又は細胞等々を含む。
【0030】
用語" comprising(含む)"は"including(含む)" "containing(含む)"又は"characterized by(特徴とする)"と同義であり、包括的又は制限のないもの(open-ended)であり、追加的、列挙されない(unrecited)要素又は方法ステップを排除するものではない。" comprising(含む)"は、言及された要素は不可欠であるが、他の要素を追加でき、さらに特許請求の範囲の及ぶ範囲内で構成概念を形成することを意味する、特許請求の範囲の言語で使用される専門用語である。
【0031】
本書では、"consisting of(から成る)"という語句は、特許請求の範囲で指定されていない任意の要素、ステップ、又は成分を除外する。"consisting of(から成る)"という語句は、前文(preamble)に直ぐに続くよりも、特許請求の範囲の主部(body)の節(clause)に現れると、それはその節に記載されている要素のみを限定し、他の要素は全体として特許請求の範囲から除外されない。
【0032】
本書では、"consisting essentially of(から本質的に成る)"という語句は、特定された材料又はステップに特許請求の範囲の及ぶ範囲を制限し、特許請求の範囲とされた(claimed)主題の基本的及び新規な特性に実質的に影響しないものを加える。
【0033】
" comprising(含む)"、"consisting of(から成る)"、及び"consisting essentially of(から本質的に成る)"という用語に関し、これら3つの用語のいずれかが本書で使用されている場合、本書で開示され及び特許請求の範囲とされた主題は、他の2つの用語のいずれかの使用を含むことができる。
【0034】
本明細書で用いるように、用語"アルキル基"は、直線状(例えば、"直鎖")、分枝状、又は環状、飽和、又は少なくとも部分的に不飽和、及びある場合には完全に不飽和(例えば、アルケニル及びアルキニル基)炭化水素鎖を含むC1-20を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ブタジエニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、及びアレニル基を含む。"分枝"は、メチル基、エチル基、又はプロピル基のような低級アルキル基が直線状アルキル鎖に付加したアルキル基を表す。"低級アルキル基"は、1から約6個の炭素原子(即ち、C1-7アルキル基)、例えば1,2,3,4,5又は6炭素原子を有するアルキル基を表す。"高級アルキル基"は約8個から約20個の炭素水素、例えば、8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20炭素原子を有するアルキル基を表す。
【0035】
アルキル基を、任意に1個以上の、同一又は異なるアルキル基置換基により置換することができる("置換アルキル基")。"アルキル基置換基"という用語は、アルキル基、置換アルキル基、ハロ基、アリールアミノ基、アシル基、ヒドロキシル基、アリールオキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルオキシル基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基及びシクロアルキル基を含むが、これらに制限されない。アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子、又は置換若しくは非置換の窒素原子を挿入することができ、ここで、窒素置換基は、水素原子、低級アルキル基(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わす)又はアリール基を表す。
【0036】
従って、本明細書で用いるように、"置換アルキル基"という用語は、本明細書で定義したアルキル基を含み、ここでアルキル基の1以上の原子又は官能基は、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基を含む他の原子又は官能基に置き換えられる。
【0037】
用語"アルケニル基"は、1以上の炭素−炭素二重結合を含むアルキル基を表す。
【0038】
用語"アリール基"は、単一芳香族環、又は互いに融合し、共有結合で連結し、若しくはメチレン基又はエチレン基部分のような、しかしこれらに制限されない一般的な基に結合した多芳香族環でありうる芳香族置換基を表すように本明細書で用いられる。一般的な連結基はまた、ベンゾフェノンにおける様なカルボニル基、又はジフェニルエーテルにおける様な酸素原子、又はジフェニルアミンにおける様な窒素原子であることができる。用語"アリール基"は、とりわけ複素環式芳香族化合物を含む。この芳香族環(複数もあり)は、特にフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルアミン基及びベンゾフェノン基を含むことができる。特定の実施形態において、用語"アリール基"は、例えば5,6,7,8,9又は10炭素原子である約5から約10の炭素原子を含み、並びに5−及び6−員環の炭化水素、及び複素環式芳香族環を含む環状芳香族基を意味する。
【0039】
アリール基は、任意に、1以上の同一又は異なるアリール基置換基("置換アリール基")と置き換えることができ、ここで、"アリール基置換基"は、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、カルボキシル基、アシル基、ハロ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、アシルオキシル基、アシルアミノ基、アロイルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキレン基及びNR'R"を含み、ここでR'及びR"は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、及びアラルキル基である。
【0040】
従って、本明細書で用いるように、用語"置換アリール基"は、本明細書で定義したようなアリール基を含み、ここでアリール基の1以上の原子又は官能基は、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基を含む他の原子又は官能基と置き換えられる。
【0041】
アリール基の特別な例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、フラン基、チオフェン基、ピロール基、ピラン基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、イソチアゾール基、イソクサゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、トリアジン基、ピリミジン基、キノリン基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基等を含む
が、これらに制限されない。
【0042】
"アルキレン基"は、1から約20の炭化水素、例えば1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20炭素原子を有する直線状又は分枝状2価脂肪族炭化水素基を表わす。このアルキレン基は、直線状、分枝状又は環状である。アルキレン基はまた、任意に不飽和であってもよく、及び/又は1以上の"アルキル基置換基"で置換されてもよい。アルキレン基に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子、又は置換若しくは非置換の窒素原子(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わされる)を挿入することができ、ここで窒素置換基は、前述のようにアルキル基である。アルキレン基の例としては、メチレン基(-CH2-); エチレン基(-CH2-CH2-);プロピレン基(-(CH2)3-); シクロヘキシレン基(-C6H10-); -CH=CH-CH=CH-; -CH=CH-CH2-; -(CH2)q-N(R)-(CH2)r-を含み、ここでq及びrは、それぞれ独立して0から約20までの整数、例えば0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20であり、及びRは、水素原子又は低級アルキル基;メチレンジオキシル基(-O-CH2-O-); 及びエチレンジオキシル基 (-O-(CH2) 2-O-)である。アルキレン基は、約2から約3の炭素原子を有することができ、さらに6〜20個の炭素原子を有することができる。
【0043】
"ヒドロキシ基"及び"ヒドロキシル基"は-OH基を表す。
【0044】
用語"ヒドロキシアルキル基"は、ヒドロキシ末端を有するアルキル基を表す。幾つかの実施形態において、ヒドロキシアルキル基は、-(CH2)nOH構造を有する。
【0045】
用語"カルボン酸基"は、-C(=O)OH基を表す。用語"カルボキシレート基(carboxylate )"は、カルボン酸基の水素原子が除去されて形成されたアニオンを表す。従って、"カルボキシレート基"は-C(=O)O-基を表す。カルボキシレート基は、カチオン基と共に塩(即ち、カルボン酸塩)を形成する。用語"アルキレンカルボキシレート"及び"アルキレンカルボン酸"は、アルキレン基の1個の空の付加点へのカルボン酸基又はカルボキシレート基の付加により形成される1価の基を表す(例えば、-(CH2)nC(=O)OH 及び-(CH2)nC(=O)O-基)。
【0046】
本明細書で用いるように、用語"アシル基"は、-C(=O)R基を表し、ここでRは、上記で定義したようなアルキル基又はアリール基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基のRは、C1-C16アルキル基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基部分のアルキル基は、直鎖アルキル基又はアルケニル基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基のRは、C1-C16直鎖アルキル基を表す。
【0047】
用語"リン酸基"は、-P(=O)(OH)2基を表す。用語"リン酸基"はまた、リン酸基からの1以上の水素原子の除去により形成されるアニオン種(species)を含む。
【0048】
用語"チオール基"は、-S-R構造を有する基を表わし、Rがアルキル基、アシル基又はアリール基である。用語"チオール基"はまた、H-S-R構造を有する化合物を表すことができ、Rがアルキル基、アシル基又はアリール基である。
【0049】
用語"アミノ基"は、構造-NR1R2を有する基を表わし、ここでR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アシル基、及びアリール基の群から選択される基を表す。
【0050】
用語"カルバモイル基"は、-C(=O)NH2基を表す。
【0051】
用語"単糖類"は、化学構造H(CHOH)nC(=O)(CHOH)mHを有する開鎖式化合物(open chain form of a compound)に基づく化学式(CH2O)n+mの炭化水素単量体(モノマー)単位を表し、ここでn+mの和は2から8の間の整数である。従って、この単量体単位は、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、ノノース及びこれらの混合物を含むことができる。単糖類は環状の化学構造であることができる。従って、幾つかの実施形態において、この化合物は、ヘミアセタール又はヘミケタールを含むであろう。幾つかの実施形態において、用語"単糖類"は、化学構造H(CHOH)nC(=O)(CHOH)mH を有する化合物に基づく環状の単量体単位を表し、ここでn+mは4又は5である。従って、単糖類は、アラビノース、リキソース、リボース、キシロース、リブロース、キシルロース、アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、及びタガトースのような、アルドヘキソース、アルドペントース、ケトヘキソース及びケトペントースを含むが、これらに制限されない。
【0052】
用語"単糖類似体"は、単糖類の1以上のヒドロキシル基がリン酸基、アミン基、チオール基、又はアルキル基のような、しかしこれらに制限されない他の化学基により置き換えられた単糖を表す。
【0053】
用語"アミノ糖"は、単糖の1以上のヒドロキシル基がアミン基により置き換えられた単糖類似体を表わす。アミノ糖の例は、グルコサミン(即ち、2−デオキシ−2−アミノ−α−D−グルコピラノース)である。
【0054】
化合物に関して本明細書で用いる用語"断片"は、その構造が、本来命名された化合物の何らかの部分であり、本来命名された化合物の全体より小さい化合物を表す。従って、断片は本来の化合物より小さいが、一般的にもとの化合物の生物活性の幾つか又は全部を保持する。
【0055】
"医薬的に許容される"は、充分な医学的判定の適用範囲内で、過剰な毒性、炎症、アレルギー応答又は他の問題なしに、又は正当な利益/リスク比に釣り合った合併症なしに、ヒト及び動物の組織との接触に適した化合物、材料、組成物及び/又は投与形態を表す。従って、幾つかの実施形態において、本書に開示される化合物、材料、組成物及び/又は投与形態は、ヒトにおける使用のために医薬的に許容される。
【0056】
一般的に、用語"減少させる"は、例えば、いくらかでも既存の疾患、病気、障害又は損傷の症候又は影響を減少又は緩和することにより、既存の疾患(例えば浮腫)を治療する方法を表す。
【0057】
"予防する"は、潜在的な将来の疾患、病気、障害若しくは損傷、又はこれらの症候をいくらかでも発生しないようにする方法を表す。"予防する"は、予防処理が無い場合に発生するであろう影響より将来の疾患又は損傷の影響の大きさが小さく、又はより短期間であるよう、将来の疾患又は損傷の影響を少なくするか減らす方法を表すことができ、その上、その影響を完全に生じさせない方法をも表すことができる。従って、"予防する"は、医学的及び獣医学的治療の予防的方法を表す。
【0058】
用語"リガンド"は、Toll様受容体のような生物学的受容体に対する結合親和性を有する化合物を意味する。受容体へのリガンドの結合は、可逆的又は不可逆的であることができる。幾つかの例では、受容体へのリガンドの結合は、生物学的応答又は活性(例えば、その受容体の活性化に関連する生物学的活性)を引き起こすことができる。受容体に結合し、生物学的応答を引き起こすリガンドは、"作用薬(agonists)"と呼ばれることができる。受容体に結合するが、生物学的応答若しくは活性を引き起こさないか、又は生物学的反応若しくは活性を防止するリガンドは、"拮抗薬"と呼ばれることができる。作用薬又は拮抗薬は、受容体への結合について内因性リガンドと競合することができる。作用薬及び拮抗薬は、部分的(partial)又は完全(full)であってよい。例えば、受容体への完全作用薬の結合は、受容体に対する内因性リガンドと同じレベルの活性を生じる一方、部分作用薬の結合は、活性のそのレベルの一部だけを提供する。作用薬又は拮抗薬の有効性は、例えばそれぞれEC50(半最大有効濃度)又はIC50(半最大阻害濃度)として表すことができる。
【0059】
"浮腫"は、組織又は臓器における間質液の増加を表す。"浮腫"はまた、肺胞液の増加を表すことができる。従って、幾つかの実施形態において、浮腫は内皮透過性の増加を含む疾患に関係する。幾つかの実施形態において、浮腫は虚血再灌流に関係することができる。
【0060】
"内皮透過性の増加"は、血液中の液体及び/又はタンパク質に対する、臓器又は組織中の血管の透過性の増加を表し、浮腫を引き起こし、これは、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び様々な微生物による感染の場合のような、しかしこれらに制限されない多くの臨床シナリオにおいて生じうる。
【0061】
"虚血(Ischemia)"は、組織又は臓器への不充分な血流を表し、その結果として組織又は臓器は代謝への要求を満たすことができなくなる。虚血臓器又は組織に対する再灌流(血流の回復)は、過剰量の活性酸素種(ROS)及び活性窒素種(RNS)の産生をもたらし、これは細胞機能/完全性の喪失につながる、ミトコンドリア酸化的リン酸化の変化、ATPの枯渇(これは虚血の間及びその結果としても生ずる)、細胞間カルシウムの増加、並びにタンパク質キナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、及びヌクレアーゼの活性化のような一連のイベントをもたらす酸化ストレスを引き起こす。
【0062】
虚血再灌流障害(IRI)は、虚血に曝された(例えば、移植又は自家移植のように、臓器が手術により切除され、再結合された場合)組織において血流が再開した後に生ずる損傷を表す。他の例としてこれらに制限されないが、このような損傷は、臓器の移植のために停止していた後に;心筋梗塞の後で冠動脈が経皮的冠動脈形成術(PTCA)、ステント、又はバイパス治療を受けた後に;及び脳卒中患者へ血栓溶解剤を投与した後に;血流が再開した時にも生ずる。他の例は、しばしば心筋保護液の同時投与により、心臓手術のために心臓への血流が一時的に停止したときである。別の例は、止血帯が手足において膨らんだときに、整形外科医による無血(bloodless)部位の手術のための手足への血流の中断である。このような損傷は、心臓や脳におけるのと同様、例えば、腎臓、肝臓、肺、膵臓、骨格筋、軟部組織(例えば、腱、靭帯、筋膜、線維組織、脂肪、滑膜、神経及び血管)、及び腸のような多くの組織で発生する可能性がある。従って、本書に開示される主題によって治療される(例えば、減少又は予防される)浮腫は、大脳、網膜、肝臓、腎臓、膵臓、脊髄、腸間膜、四肢、腸、脳、心筋、中枢神経系、皮膚、又は肺の虚血再灌流、又はそれらの組み合わせを含むことができるが、これらに制限されない。特に、虚血再灌流に関連する浮腫は、臓器移植で治療され得る。
【0063】
II.一般的検討事項
"Toll様受容体"又は"TLR"は、胚発生及び病原体関連分子パターン(PAMPs)の認識の両方における役割を含む、複数の役割を持つ。Sioudら, J. Mol. Biol., 364(5), 945-954 (2006); 並びにJanssens 及びBeyaert, Clin. Microbiol. Rev., 16(4), 637-646 (2003)を参照のこと。TLRは、その細胞外ドメイン、及びToll/IL1受容体(TIR)ドメインと呼ばれる保存領域を含む細胞質尾部に、反復(repeated)ロイシンリッチモチーフを含むI型膜貫通タンパク質である。少なくとも10のヒトTLRタンパク質が、Toll様受容体1-10として同定されている。TLRは、微生物又は有害な環境因子を感知することにより、病原体を襲うための早期の自然免疫における役割を果たす。これらの進化的に保存された受容体、ショウジョウバエのToll遺伝子の同族体(homologue)は、微生物病原体(すなわち、PAMPs)によって表される高度に保存された構造モチーフを認識し、さらに例えば二本鎖RNA、ヒアルロン酸の断片、フィブロネクチン及び他である有害物質又は組織損傷による組織の障害の生成物を感知する。PAMPsは、フラジェリン、細菌DNA及びウイルス性二本鎖RNAと同様、リポ多糖類(LPS)、ペプチドグリカン(PGN)及びリポペプチドのような、様々な細菌の細胞壁成分を含む。TLRは、病原性微生物の生成物に対し"自然免疫"応答を起こすことにより、ウイルス、細菌、寄生的病原体(parasitic agent)又は真菌のような病原性微生物から、及び組織損傷から哺乳動物を保護する。それらはさらに、細胞を破壊すると共に、二本鎖RNA又はTLRと相互作用しうる他のPAMPsを放出する有害な環境因子から動物を保護する。
【0064】
自然免疫応答は、共刺激分子と同様に幾つかの炎症性サイトカイン及びケモカインをコードする遺伝子の増加をもたらすと共に、抗原特異的な適応免疫の発達に役割を果たす。PAMPsによるTLRの刺激は、MyD88及びIRAK1のような多くのタンパク質を含むシグナル伝達カスケード(signaling cascade)を開始する。このシグナル伝達カスケードは、炎症誘発性(pro-inflammatory)サイトカイン(例えば、TNFα及びIL -1βなど)、及び適応免疫応答を導くエフェクターサイトカインの分泌を誘導する転写因子NF-κBの活性化につながる。シグナル伝達カスケードは、1型IFN生成を増加させ、シグナル伝達兼転写活性化因子(Stat)を活性化させ、IRF-1遺伝子発現を増加させ、及びISRE's、インターフェロン応答因子(IRF)配列(element)を活性化させるためのIRF-3経路を知らせる(signal)ことができるTRIF/TICAM-1のようなアダプターをさらに含む。
【0065】
TRL4は、LPS認識に必須の受容体である。さらにTLR4は、熱ショックタンパク質(HSP60及びHSP70)、フィブロネクチンのドメインA、並びにヒアルロン酸、ヘパリン硫酸及びフィブリノーゲンのオリゴ糖のような、内因性リガンドの認識に関与している。
【0066】
エンドトキシン注入又は活性化補体の効果に関する初期の研究(Parker 及びBrigham, J. Appl. Physiol., 63(3), 1058-1062 (1987)を参照のこと)にまでさかのぼって、急性肺損傷の多くの形態に2つの段階(初期及び後期)が説明されている。Eganら, J. Surg. Res., 45, 204-214 (1988) を参照のこと。本書に開示される主題は、虚血再灌流による肺水腫の初期発生(early development)のための肺微小血管内皮細胞上のTLR4に関与するデータに関する。特に、以下の実施例にさらに記述されるように、本書に開示される主題は、虚血再灌流に起因する浮腫がMyD88-/-マウスにおいて生じ、さらに虚血再灌流に起因する浮腫がMAPK及びNF-κB活性化に関係なく生じることを示す。マウス内皮細胞にTRIF経路が無いこと(Harariら, Circ. Res., 98(9), 1134-1140 (2006)を参照のこと)と相俟って、この証拠は、TLR4によって媒介(mediated)される浮腫がTLR4によって媒介される転写イベントと無関係に生じることを示唆する。本書に開示される主題は又、既知のTLR4拮抗薬であるCRX - 526がIRIモデルにおける浮腫を予防するという発見に関係する。
【0067】
III.化学式(I)
IIIA.化学式(I)の化合物
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、虚血再灌流に関係する浮腫を含む、浮腫を予防又は減少させる化合物の使用に関する。幾つかの実施形態において、この化合物は、単糖類類似体を含むリピドA模擬体である。幾つかの実施形態において、単糖類類似体はアミノ糖である。幾つかの実施形態において、アミノ糖はグルコサミンである。幾つかの実施形態において、この化合物は、アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩(AGP)又はこれらの医薬的に許容された塩である。
【0068】
一般的に、AGPは、合成(即ち、化学合成された)リピドA模擬体を表し、化学式(I):
【化1】
又は医薬的に許容された該化合物の塩の構造を有することができ、
ここで:
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、mは0〜2の整数を表し;及び
R5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である。
【0069】
幾つかのAGPはTLR4の作用薬として作用する一方で、他はTLR4を阻害することが報告されている。Stoverら., J. Biol. Chem., 279(6), 4440-4449 (2004)を参照のこと。一般に、抑制AGPsは、炭素原子が8個以下の第2級アシル鎖(即ち、R1,R2又はR3)を少なくとも1つ含む。従って、幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つは-C(=O)R8であり、ここでR8はC1〜C6アルキル基(即ち、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基)である。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも2つは、C2〜C7アシル基を表す。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つは、-C(=O)R8を表し、ここでR8はC5アルキル基である。幾つかの実施形態において、R5,R6及びR7は、それぞれC10〜C12の直鎖で、完全に飽和されたアルキル基を表す。
【0070】
幾つかの実施形態において、この化合物は、CRX-526、即ち化学式(I)の化合物又は医薬的に許容されたその塩であり、ここでnは1であり;X1及びX2はそれぞれ酸素原子であり;R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり;R4が−C(=O)OHであり;及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である。
【0071】
様々なAGPの合成及び活性は、既に記述されている。Cluff 他, Infection and Immunity, 73(5), 3044-3052 (2005); Stover 他, J. Biol. Chem., 279(6), 4440-4449 (2004) 及びこの中に引用された参考文献を参照のこと。Johnson他に対する米国特許No. 6,113,918も参照のこと。
【0072】
化学式(I)の化合物は、非対称炭素原子を有し、従って光学異性体又はジアステレオマーとして存在できる。ジアステレオマー混合物は、それらの物理的化学的差異に基づき、例えばクロマトグラフィー及び/又は分別結晶法である、それ自体既知の方法により個々のジアステレオマーに分離されることができる。光学異性体は、適切な光学的活性化合物(例えば、アルコール)と反応させることで光学的異性体混合物をジアステレオマー混合物に変換し、ジアステレオマーを分離し、及び個々のジアステレオマーを対応する純粋な光学異性体に変換する(例えば、加水分解)ことにより分離することができる。ジアステレオマー、光学異性体及びこれらの混合物を含む、このような異性体は全て、本書に開示される主題の部分と考えられる。
【0073】
III.B.医薬的に許容された塩
本書に開示される主題の化合物(例えば、化学式(I)の化合物)との関連で用いられる表現"医薬的に許容された塩"は、医薬的に許容されたカチオン性の塩を含む。表現"医薬的に許容されたカチオン性の塩"は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム及びマグネシウム)、アルミニウム塩、アンモニア塩、及びベンザチン(N,N'-ジベンジルエチレンジアミン),コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)、ベネタミン(N−ベンジルフェネチルアミン)、エタノールアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリエタノールアミン(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)及びプロカインのような有機アミンの塩、のような塩を定義することを意図するがこれらに限らない。幾つかの実施形態において、本明細書で用いられる用語"医薬的に許容された塩"は、ヒトにおいて医薬的に許容された塩を表す。
【0074】
化学式(I)の化合物の医薬的に許容された塩は、共溶媒中で、遊離酸型の上記化合物を、通常1価以上の適切な塩基と反応させることにより容易に調製できる。共溶媒は、ジエチルエーテル、ジグライム及びアセトンを含むことができるが、これらに制限されない。塩基としては、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム水素化物、カリウムメトキシド、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ベンザチン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、及びトリエタノールアミンを含むことができるが、これらに制限されない。この塩は、乾燥するまで濃縮すること、又は非溶媒を加えることで単離される。多くの場合、酸の溶液を、カチオンの異なる塩の溶液(例えば、エチルヘキサン酸ナトリウム又はカリウム、オレイン酸マグネシウム)と混合し、上記のように共溶媒を使用することにより塩を調製することができ、この調製物から所望のカチオン塩を沈殿させ、又は他の場合は、濃縮により単離できる。
【0075】
IV.浮腫を予防又は減少させる方法
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、浮腫を治療する方法に関する。幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、組織内の浮腫を予防又は減少させる方法を提供し、この方法は、化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、組織とを接触させることを含み、ここで:
nは、1〜6の整数であり;
X1は酸素原子又はイオウ原子であり;
X2は酸素原子又はイオウ原子であり;
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり;
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、mは0〜2の整数であり;及び
R5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である。
【0076】
幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つは-C(=O)R8であり、ここでR8はC5の直鎖で、完全に飽和されたアルキル基を表す。幾つかの実施形態において、R5,R6及びR7は、それぞれC10〜C12の直鎖で、完全に飽和されたアルキル基を表す。
【0077】
幾つかの実施形態において、nは1である。幾つかの実施形態において、X1及びX2はそれぞれ酸素原子である。幾つかの実施形態において、R4が−C(=O)OHである。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3はそれぞれC2〜C7アシル基である。
【0078】
幾つかの実施形態において、上記化合物はCRX-526、即ち化学式(I)の化合物又は医薬的に許容されたその塩であり、ここでnは1であり;X1及びX2はそれぞれ酸素原子であり;R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり;R4が−C(=O)OHであり;及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である。
【0079】
予防又は減少される浮腫は、例えば、肺水腫、炎症、感染、外傷(例えば、外科手術)、毒素の吸入、循環障害、又は高高度への暴露を含む、多くの異なる原因に関係する可能性がある。幾つかの実施形態では、浮腫は内皮透過性の増加に関連付けられる。幾つかの実施形態では、予防又は減少される浮腫は、臓器移植、組織移植(例えば、乳房再生のような形成外科の途中)、自家移植(例えば、自己組織又は皮膚移植)、他の血管移植片又は組織片(flap)(例えば、筋肉の移植片又は筋皮弁(myocuteneous flap)、肺塞栓(肺動脈からの血餅の除去)、又は肺血栓内膜摘除術(肺血管系からの組織塊(organized clot)及びフィブリンの外科的除去)中に発生する可能性があるような虚血再灌流に関する(例えば、その結果であるか又はそれに関連付けられる)。幾つかの実施形態では、虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関連する。幾つかの実施形態では、虚血再灌流は、心臓手術中の心臓マヒ(cardioplegia)(すなわち、上行大動脈をクロスクランプ(cross clamping)することによって心臓の灌流が中断された場合のように、心臓活動が意図的に停止されたとき)、又は整形外科に起因する骨格筋の虚血(例えば、手術野で血液を減らすか、又はその他の血流を中断するため、止血帯又は他の装置が手足に適用されている場合)に関する。
【0080】
幾つかの実施形態では、虚血又はそれに続く再灌流の間、組織への損傷を予防又は軽減するため、予測された虚血性イベント(例えば、臓器移植のための組織の除去、心臓マヒ、止血帯の適用など)の前に組織が上記化合物の有効量と接触される。幾つかの実施形態では、虚血の間、組織は化合物と接触させられることができる。幾つかの実施形態では、虚血の間隔の後(例えば、再灌流の間)に、組織は化合物と接触させられることができる。幾つかの実施形態では、虚血の前、虚血中、虚血の間隔の後、又はそれらの任意の組み合わせで、組織が接触させられることができる。
【0081】
組織は、皮膚、骨、骨髄、脳、軟骨、角膜、骨格筋、心筋、心臓弁、平滑筋、血管、手足又は指、腎臓又はその一部、肝臓又はその一部、心臓又はその一部、膵臓又はその一部、腸又はその一部、肺又はその一部を含むことができる。幾つかの実施形態では、組織は、心臓、肝臓、腎臓、脳、小腸、膵臓、骨格筋、皮膚、及び肺組織からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、肺組織は、肺移植のレシピエントへの移植をその肺組織が目的とする肺移植のドナーによって提供される、肺又はその一部(例えば、肺葉)を含む。
【0082】
移植を含む実施形態においては、ドナー又はレシピエントは、ヒト又は非ヒト哺乳動物であることができる。臓器又は組織移植のドナー(例えば、肺移植のドナー)は、生きているか、又は死んでいて(すなわち、死体)もよい。幾つかの実施形態では、ドナーは心停止ドナー(NHBD)である。幾つかの実施形態では、ドナーは、レシピエントと同一個体(すなわち、自家移植)であることができる。
【0083】
幾つかの実施形態において、待機的(elective)整形外科手術のための無血領域(bloodless field)を提供するための止血帯の拡張の結果として虚血の間隔が起こる場合、組織は骨格筋、骨及び他の軟部組織であってよい。幾つかの実施形態では、門脈三管の圧縮によって肝臓への血流が一時的に閉塞された場合、組織は、プリングル法(Pringle maneuver)に曝される肝臓であってよい。
【0084】
化学式(I)の化合物の多くは、TLR4拮抗薬であることが期待される。従って、幾つかの実施形態において、化合物は、TLR4拮抗薬であろう。幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、TLR2拮抗薬である。幾つかの実施形態において、化合物は、TLR4及びTLR2の両方の拮抗薬である。
【0085】
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、その治療を必要とする対象に、浮腫を予防又は減少させる方法を提供する。幾つかの実施形態において、上記方法は、化学式(I)の化合物の有効量又は該化合物の医薬的に許容された塩を、対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、上記化合物は、予測される虚血性イベントの前、虚血の間、及び/又は虚血の間隔に続いて、対象に投与される。化合物は、任意の適切な経路(すなわち、経口、静脈内、非経口等)を経由して投与されることができる。
【0086】
幾つかの実施形態において、対象は哺乳類である。幾つかの実施形態において、対象はヒトである。
【0087】
V.移植の間の虚血再灌流に関連する浮腫を予防又は減少させる方法
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、臓器又は組織移植の対象における虚血再灌流に関連する浮腫を予防又は減少させる方法を提供し、この方法は:移植用の臓器又は組織を準備し;その臓器又は組織を化学式(I)の化合物又はその医薬的に許容された塩と接触させ、それによって治療を受けた臓器又は組織を提供し;その移植を必要とする対象に治療を受けた臓器又は組織を移植することを含み、ここで、前記化合物で治療を受けていない臓器又は組織を用いて実行される移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫と比較して、その対象における虚血再灌流に関係する浮腫が予防又は低減される。
【0088】
幾つかの実施形態では、臓器又は組織は、腎臓又はその一部、肝臓又はその一部、心臓又はその一部、網膜、膵臓又はその一部、腸又はその一部(例えば、小腸組織又は大腸組織)、骨格筋組織、皮膚組織、軟部組織、筋組織(骨格筋又は平滑筋)、脳組織、又は肺又はその一部を含む群から選択することができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、臓器又は組織は、肺組織が肺移植レシピエントへの移植を目的とする、肺移植ドナーから提供された肺又はその一部(例えば、肺葉)である。
【0089】
臓器又は組織のドナー又はレシピエントは、ヒト又は非ヒト哺乳動物であることができる。幾つかの実施形態では、ドナーとレシピエントは、同一種のものである。幾つかの実施形態では、ドナーとレシピエントは、同一個体である。幾つかの実施形態では、ドナーとレシピエントは異なる種のものである。従って、本書に開示される主題は、異種移植の手順の一部として使用されることができる。
【0090】
肺(又は他の臓器又は組織)移植のドナーは、生きているか、又は死んでいて(すなわち、死体)もよい。幾つかの実施形態では、ドナーは心停止ドナー(NHBD)である。
【0091】
常にではないが典型的に、肺移植ドナーは、目的とする肺移植レシピエントと同一種である。肺のドナーの選択は、ドナー年齢、喫煙歴、動脈血ガス、胸部X線所見、気管支鏡所見及び回収時の肺の身体診察:のような、一連の臨床所見に基づいて一般に行われる。本書で開示された方法は、肺移植に典型的に関連した虚血再灌流に関する浮腫を低減又は予防することができるので、幾つかの実施形態では、移植のために肺組織の機能がわずかに低下すると考えることができる(すなわち、移植術中に機能はほとんど失われない)。
【0092】
接触は、任意の適切な経路(すなわち、経口、静脈注射、気道を経由する非経口等)を経由して、上記化合物を含有する製剤の投与により行うことができる。上記方法はさらに、ドナーから上記組織又は臓器を除去する工程を含むことができる。このように、上記接触は、除去前、除去後、又は除去の前後の両方で行うことができる。この方法はさらに、上記組織又は臓器の冷保存又は温保存を含むことができる。上記接触は、冷保存又は温保存の前、冷保存又は温保存の間、又は冷保存又は温保存の前及びその間の両方で行うことができる。幾つかの実施形態において、接触は、上記化合物を含有する医薬製剤のドナーの吸入を介して生じることができる。NHBDs又は他のドナーの場合、接触は気道を経由して行うことができる。幾つかの実施形態において、接触は、生体外灌流回路の肺動脈内へ、又は肺静脈を経由した逆行により、上記化合物を含有する製剤を投与することで生じることができる。幾つかの実施形態において、接触は、ドナーからの回収後に臓器を灌流するために使用される生体外灌流回路又は装置で生じることができる。幾つかの実施形態において、接触は、肺を廃棄(refusing)及び循環するための生体外循環(ventilation)/灌流回路又は装置で生じることができる。
【0093】
幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、TLR2とTLR4の一方又は両方の拮抗薬である。幾つかの実施形態において、化合物は、TLR2とTLR4の両方の拮抗薬である。
【0094】
VI.医薬組成物
本明細書で用いるように、用語"活性化合物"は、化学式(I)の化合物及びその医薬的に許容された塩を表す。この活性化合物は、何れかの適切な方法により細胞と接触されることができる。本明細書で用いるように、用語"有効量"は、本書に記載した様々な病理学的状態及び後遺症を阻害できる活性化合物又は複数の活性化合物の量を表わす。用語"阻害"又は"阻害する"は、浮腫の危険に曝される対象の組織損傷(例えば、肺組織)に関する又はその結果である疾患(condition)のような、しかしこれに制限されない、進行の妨げ、予防、治療、緩和、改善、停止、抑制、低減、遅延若しくは逆転、又は病状の重篤性の低減を表す。従って、本書に開示される活性化合物の投与方法は、必要に応じて、医学的治療(急性)及び/又は予防(防止)投与の両者を含む。
【0095】
投与される活性化合物の量及びタイミングは、勿論、治療を受ける対象、苦痛の重篤性、投与方法及び処方した医師の判断に依存する。従って、対象間のバラツキのために、以下に示す投与量はガイドラインであり、及び医師は、医師が対象に対して適切と考えた治療を得るために化合物の投与量を徐々に増量できる。所望の治療の程度を考えると、医師は、他の疾患の存在と同様、対象の年齢、既往症の存在のような様々な因子のバランスを保つことができる。以下により詳しく議論するように、経口、静脈注射、又は気道投与のための医薬製剤が調製されることができる。
【0096】
任意の特定の活性化合物の治療上有効な用量は、その使用が本書に記載した実施形態の範囲内であるが、化合物間、及び対象間で多少変わりうると共に、対象の病態及び配送経路(route of delivery)に依存しうる。一般的提案としては、約0.1から約50mg/kgの投与量は治療上の有効性を持つことができ、ここで全ての重量は、活性化合物の重量に基づいて計算され、塩が用いられる場合も含む。より高濃度での毒性の懸念は、静脈注射の投与量をより低い濃度、例えば約10mg/kgまでに制限することができるが、ここで全ての重量は、活性主成分(active base)の重量に基づいて計算され、塩が用いられる場合も含む。経口投与に対し、約10mg/kgから約50mg/kgまでの投与量が用いられることができる。一般的に、筋肉内注射に対して、約0.5mg/kgから5mg/kgまでの投与量が用いられることができる。幾つかの実施形態において、静脈注射又は経口投与に対して、約1μmol/kgから約50μmol/kgまで、又は任意に約22μmol/kg及び約33μmol/kgの間の化合物の投与量とすることができる。
【0097】
本書に記載するin vitro及びin vivoアッセイ(assay)は、化合物の活性を比較できる方法を提供する。これらの比較の結果は、浮腫からの保護を導くためにヒトを含む哺乳動物における投与量レベルを決定するのに有用である。このようなアッセイは、化学式(I)の化合物と、他のTLR4及び/又はTLR2リガンドを含む他の化合物の活性との比較を提供する。これらの比較の結果は、このような投与量レベルを決定するために有用である。
【0098】
本書に開示される方法に従い、本書に記載された医薬的に活性な化合物は、固体又は液体として経口的に投与されることができ、又は溶液、懸濁物又は乳濁液として筋肉内注射、静脈内注射又は吸入により投与されることができる。幾つかの実施形態において、化合物又はその塩は、リポソーム懸濁物として吸入、静脈注射、又は筋肉内注射により投与されることができる。吸入による投与の場合、活性化合物又は塩は、約0.5から約5ミクロン、及び任意に約1から約2ミクロンの粒子サイズを持つ複数の固体粒子又は液滴の形態であることができる。幾つかの実施形態において、活性化合物はナノ粒子運搬賦形剤(delivery vehicles)で投与することができる。
【0099】
医薬製剤は、医薬的に許容された任意の担体内に、本書に記載された活性化合物又はその医薬的に許容された塩を含むことができる。もし溶液が所望されるならば、水溶性の化合物又は塩に関しては、水が最適な担体である。水溶性の化合物又は塩に関して、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物のような有機賦形剤(organic vehicle)が適切であることができる。後者の場合、有機賦形剤は、かなりの量の水を含むことができる。その後、どちらの場合の溶液も、一般的には0.22ミクロンフィルターを通す濾過による、当業者に公知の適切な方法で滅菌されることができる。滅菌の後、溶液は、発熱性物質除去処理を施した(depyrogenated)ガラス瓶のような適切な容器内に分配されることができる。この分配は、任意に無菌的方法で行われる。その後、滅菌した蓋(closure)が瓶の上に置かれ、また、必要に応じて瓶の内容物が凍結乾燥されることができる。
【0100】
活性化合物又はその塩(例えば、化学式(I)の化合物)に加えて、医薬製剤は、pH調整添加剤のような他の添加物を含むことができる。特に、有用なpH調整剤は、塩酸のような酸、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム又はグルコン酸ナトリウムのような塩基又は緩衝剤を含む。さらに、この製剤は、抗菌性保存剤を含むことができる。有用な抗菌性保存剤は、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びベンジルアルコールを含むことができる。この抗菌性保存剤は、一般に、複数回用量の使用のために設計された瓶内に製剤が入っている場合に使われる。本書に記載された医薬製剤は、当業者に公知の技術を用いて凍結乾燥されることができる。
【0101】
経口投与のため、医薬組成物は、溶液、懸濁物、錠剤、ピル、カプセル、粉末等の形態を取ることができる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムのような様々な添加剤(excipients)を含む錠剤は、ポリビニルピロリドン、サッカロース、ゼラチン及びアカシアのような結合剤と共に、澱粉(例えば、ジャガイモ又はタピオカ澱粉)及びある種の複合ケイ酸塩のような様々な錠剤崩壊剤と一緒に使われる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルク(talc)のような潤滑剤が、しばしば錠剤化の目的のために非常に有用である。同様なタイプの固体組成物がまた、軟質及び硬質ゼラチンカプセルの充填剤(filler)として使われる。これに関連した材料は又、高分子量ポリエチレングリコールのみならず、ラクトース又は乳糖を含む。経口投与のために水溶性懸濁物及び/又はエレキシル剤が望まれる場合、本書に記述される主題の化合物は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及び様々な類似の組合せの希釈剤と同様、様々な甘味料、香料、着色剤、乳化剤、及び/又は懸濁剤と組み合わせることができる。
【0102】
本書に記述される主題の他の実施形態において、本書に記載された活性化合物又はその塩を含む注射可能で、安定した、無菌製剤が、密封した容器内の単位用量として提供される。化合物又は塩は凍結乾燥物として提供され、これは対象への注射に適した液体製剤を形成するため、適切な医薬的に許容された担体と再構成されることができる。化合物又は塩が実質的に非水溶性の場合、生理学的に許容された十分な量の乳化剤が、水性担体に化合物又は塩を乳化させるために十分な量だけ用いられることができる。特に有用な乳化剤とは、ホスファチジルコリン及びレシチンを含む。
【0103】
本書に提供される更なる実施形態は、本書に開示される活性化合物のリポソーム製剤を含む。リポソーム懸濁物を形成する技術は、当業者に公知である。化合物が水溶性の塩であり、従来のリポソーム技術を用いる場合、同じ物が脂質小胞に取り込まれる。この場合、活性化合物の水溶性のために、活性化合物は、リポソームの親水性中心又はコア内に実質的に巻き込まれる(entrained)。用いられる脂質層は、任意の従来の組成物であることができ、コレステロールを含むか、又はコレステロールを含まないことができる。興味ある活性化合物が非水溶性であり、再び従来のリポソーム形成技術を用いる場合、塩は実質的にリポソームの構造を形成する疎水性の脂質2重層内に引きずられる。いずれの場合も、標準的な超音波処理及びホモジナイザー技術を使うことにより、生成されるリポソームはサイズが小さくなることができる。本書に開示される活性化合物を含むリポソーム製剤は、凍結乾燥物を生成するために凍結乾燥されることができ、これはリポソーム懸濁物を再生するために水のような医薬的に許容された担体と再構成されることができる。
【0104】
吸入によるエアロゾルとしての投与に適した医薬製剤もまた提供される。これらの製剤は、本書に記載された所望の化合物又はその塩の溶液若しくは懸濁物、又は化合物若しくは塩の複数の固体粒子を含む。所望の製剤は小形チャンバー内に配置されて噴霧されることができる。化合物又は塩を含む複数の液滴又は固体粒子を生成するため、噴霧は圧縮空気又は超音波エネルギーにより行うことができる。液滴又は固体粒子は、約0.5から約10ミクロン、及び任意に約0.5から約5ミクロンの範囲の粒子サイズを持つべきである。固体粒子は、微粉化のような当業者に公知の適切な手法で固体化合物又はその塩を処理することにより、得られることができる。任意に、固体粒子又は液滴のサイズは、約1から約2ミクロンであることができる。この点で、この目的を達するために市場の噴霧器を利用可能である。その開示が参照により全体が本明細書に組込まれる米国特許5,628,984に記載された方法で、呼吸域粉塵(respirable particles)のエアロゾル懸濁物を介して化合物が投与されることができる。
【0105】
エアロゾルとしての投与に適した医薬製剤が液体の形態である場合、その製剤は、水を含む担体中の水溶性活性化合物を含むことができる。界面活性剤が存在することができ、これにより製剤の表面張力が充分に低下し、噴霧の際に所望のサイズ範囲内の液滴が形成される。
【0106】
示されるように、水溶性及び非水溶性の活性化合物の両方が提供される。本書で用いられるように、用語"水溶性"は、約50mg/mL、又はそれ以上の量の水に溶ける任意の組成物を定義することを意味する。また、本書で用いられるように、用語"非水溶性"は、約20mg/mL未満の水への溶解度を持つ任意の組成物を定義することを意味する。幾つかの実施形態において、水溶性化合物又は塩が好ましいが、他の実施形態においては、非水溶性化合物又は塩が同様に好ましい。
【0107】
投与の一態様において、虚血の危険がある場合、本書に開示される主題の化合物は、手術の直前(例えば、心臓手術又は移植手術の手術前24時間以内)、手術中及び/又は手術後(手術後24時間以内)に投与されることができる。投与の他の態様において、活性化合物は、手術前に初期負荷用量(例えば、ボーラス注射又は点滴)で投与され、その後、手術前、手術中及び手術後に一定注入されることができる。この活性化合物は又、常習的な毎日のモードで投与されることができる。
【0108】
様々な医薬組成物及びある量の有効成分を伴う組成物の調製方法は、本開示に照らして当業者によって公知であり、又は決定できる。医薬組成物の調整方法の例として、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easter, Pa., 第16版 (1980)を参照のこと。本書に開示された主題に従う医薬組成物は、例えば、0.0001%〜95%の活性化合物を含むことができる。いずれにしても、投与される組成物又は製剤は、治療される対象の疾患/病態を治療するに有効な量の活性化合物(複数もあり)の量を含むことができる。
【0109】
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題の方法は、体外組織又は臓器内で、又は、組織又は臓器ドナーから移植レシピエントに移植される組織又は臓器内で、虚血再灌流に関連した浮腫を予防又は減少させるために使用されることができる。体外組織又は臓器は、個体内に存在しない組織又は臓器である(ex vivoとも呼ばれる)。組織又は臓器移植に対して、取り除かれたドナーの組織又は臓器もまた、採取の間、輸送の間、及びその後のレシピエントへの移植の間、虚血再灌流障害を受けやすい。本書に開示される方法は、例えば、移植可能な組織又は臓器を維持又は保存するために用いられる溶液を補強することにより、移植可能な組織又は臓器の機能を高めるために使用されることができる。例えば、この方法及び組成物は、輸送の間に移植可能な組織又は臓器を浸けるために用いられることができ、又は移植前、移植の間若しくは移植後、移植可能な組織又は臓器と接触させて置くことができる。幾つかの実施形態において、本書に開示される主題の製剤は、組織又は臓器がドナーの中に在るときに組織又は臓器と接触させることができる。
【0110】
本書に開示される主題の溶液は、灌流装置(例えば、ex vivoでの灌流回路)で用いられることができる。本書で用いられる灌流装置は、特定の臓器に注入するために用いる任意の機械装置、又は化合物又は組成物を含む溶液を用いる体循環である。このような装置は、1以上の容器(reservoir)を含む。装置は、臓器、静脈又は動脈に挿入できる容器から通じるチューブ、カテーテル、又はカニューレを含むことができる。装置は、電気ポンプ及び溶液の温度、配送速度又は容量を制御するための装置を有する電気機械装置であることができる。特定の実施形態において、特定の臨床症状、臓器の重量、又は臓器の大きさ(例えば、心肺バイパス手術、対、腎臓移植、対、肝臓移植)のため、1以上の溶液が適切な温度、速度又は容量で配送されるように、装置がプログラム可能である。従って、幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、ex vivoの臓器又は組織のための保存液に関する。幾つかの実施形態では、保存液は、化学式(I)の化合物を含む。幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、CRX - 526である。幾つかの実施形態において、化合物は、TLR2とTLR4の両方の拮抗薬である。
【0111】
VII.対象
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題において治療される対象は、好ましくはヒトであるが、本書に記載された方法は、用語"対象"に含めることが意図されるすべての脊椎動物種に関して有効であるということを理解すべきである。本書に記載された方法は、温血脊椎動物の虚血再灌流に関連した浮腫の治療及び/又は予防において特に有用であるが、これに限定されない。従って、この方法は、哺乳動物及び鳥の治療として用いることができる。幾つかの実施形態において、本書に開示された方法の対象は、臓器移植レシピエントである。
【0112】
より詳細には、(シベリアトラのように)絶滅の危機にある哺乳動物、経済的に重要な哺乳動物(ヒトに消費されるために農場で育つ動物)及び/又はヒトに対して社会的に重要な哺乳動物(ペット又は動物園で維持される動物)、例えば、(ネコ、イヌのような)ヒト以外の肉食動物、イノシシ属の動物(ブタ、ホッグ及びイノシシ)、反芻動物(畜牛、雄牛、羊、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、及びラクダなど)、及びウマと同様、ヒトのような哺乳動物の治療が本書に提供される。また、ニワトリ及びさらにとりわけヒトにとって経済的に重要である家禽、即ち七面鳥、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウ等と同様、絶滅の危機にある種の鳥、動物園に又はペットとして飼育されている種の鳥の治療を含む、鳥の治療が提供される。従って、本書に記載される方法の実施形態は、家畜化されたイノシシ属の動物(ブタ及びホッグ)、反芻動物、馬、家禽等を含むがこれらに制限されない家畜の治療を含む。
【実施例】
【0113】
以下の実施例は、例証となる実施形態を提供する。本書の開示及び当業者の一般的な水準に照らして、以下の実施例は例証のみを意図しており、本書に開示される主題の範囲から離れることなく、多数の変更、修正、及び調整を行うことができることを当業者は理解することができる。
【0114】
実施例1
一般的方法
C3H/HeJ、C3H/OuJ、TLR4-/-及びC57BL/6Jの雄のマウスは、Jackson Laboratories(バーハーバー、メイン州、アメリカ合衆国)から購入され、MyD88-/-マウスは、審良静男博士(大阪大学、大阪、日本)により提供された。足立ら、Immunity, 9, 143-150 (1998)を参照のこと。マウスは、25〜30グラムの重さで8〜10週齢になるまで無菌設備で保持された。特に定めがない限り、試薬はシグマ(セントルイス、ミズーリ州、アメリカ合衆国)からのものとされた。
【0115】
マウス肺IRIと関門機能(Barrier Function)の評価の外科的モデル
マウスは、ケタミン(0.1mg/gm体重)とキシラジン(0.01mg/gm)で腹腔内に(interperitoneally)麻酔され、続いて初期投与量の1/3で毎時麻酔された。気管切開は、Columbus Instruments Ventilator CIV-101 (Columbus Instruments、コロンバス、オハイオ州、アメリカ合衆国)を使用した人工呼吸器(0.4 mLの換気量、120/minの呼吸数、I/E 0.4 、PEEP 3cm H2O、FiO2、1.0で)を許容した。水和(hydration)を維持するため、右頸静脈は、シリンジポンプ(Medfusion 2010i、Medex、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)により、450μL/時間、0.9%生理食塩水中2.5%アルブミンの注入のためカニューレを挿入された。直腸温度がモニターされ、加温パッドで維持された。左肺門は、左開胸を介して微小血管クランプで1時間閉塞された。再灌流は、クランプの除去で始まった。動物は、噴門切除術によって15分から3時間の間隔で屠殺され、両方の肺が摘出された。各肺尖部は切除されて直ちに秤量され、その後、湿乾燥重量比(W/D)を決定するため、60℃のオーブンで48時間乾燥されて再秤量された。残りの肺組織は、液体窒素で急速冷凍され、-80℃で保存された。犠牲の後にすぐに切除された肺が対照として用いられた。
【0116】
エバンスブルー染料(EBD)による血管外アルブミン溢出
1時間IRI後の血管外アルブミン溢出が上記EBD法により評価された。Sariaら、J. Neurosci Methods, 8(1), 41-49 (1983)を参照のこと。左門(left hilum)を閉塞した後、0.9%生理食塩水の250μL中に溶解された30mg/kgのEBDが右頸静脈に注射された。1時間の再灌流の後、胸骨正中切開を介して胸が開かれ、マウスは右心室切開術で安楽死され、肺動脈幹が18ゲージの血管カテーテルでカニューレ挿入され、左心耳が切断された。血管内EBDを除去するため、両方の肺は、通常の生理食塩水で洗い流され、摘出及び秤量された。肺組織はホルムアミド(100mg肺組織/1mLホルムアミド、Roche Diagnostics(インディアナポリス、インディアナ州、アメリカ合衆国)に懸濁され、50℃で24時間培養された。標本は、その後(13,000g×30分)遠心分離され、50μLの上清が96-ウェルプレート(well plates)に置かれてμQuant分光光度計(Bio-Tek Instruments, Inc.,ウィヌースキ、バーモント州、アメリカ合衆国)で620nmにて比色評価された。相対光学濃度値は、試料の重量によって正規化された。
【0117】
組織学のための拡張固定(Inflation Fixation)
IRI(n= 4/系統(strain)/集団(group))の60又は180分後、肺の塊は、25cm H2Oの一定圧で、室温で24時間にわたり4%緩衝パラホルムアルデヒドで気管を介して拡張固定された後、パラフィン内に包理された。5ミクロンの切片がヘマトキシリン及びエオシンで染色された。気管切開後すぐに屠殺された動物の肺(n= 4/系統(strain))が対照として用いられた。
【0118】
NF-κB転座のための免疫染色
1:100希釈でウサギポリクローナルp65抗体(ab 31481; Abcam plc、ケンブリッジ、イギリス)を用いて、拡張固定された肺組織の免疫組織化学的染色が行われた。試料は5μmの薄片にされ、一晩乾燥され、さらに60℃で1時間焼かれた。切片は脱パラフィンされ、100℃で30分間、6.0 pHのシトラール抗原賦活化用バッファー(Citra Antigen Retrieval Buffer)(Dakocytomation, Carpinteria、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)でエピトープ賦活化(epitope retrieval)がされた。バックグラウンドは、ペルオキシダーゼブロック、無血清タンパク質ブロック、及びアビジン/ビオチンブロック(Dakocytomation、Carpinteria、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用してブロック(block)された。切片は、4℃で一次抗体p65に一晩培養された。可視化のため、DABクロモゲン(chromagen)とともにLSAB +二次抗体を用いて検出が終了した(Dakocytomation、Carpinteria、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)。対比染色は適用されなかった。標本グループを知らされていない等級病理医により、1+(軽度、幾つかの核染色が明らか)、2+(適度、幾分強い染色であるが安定的でない)又は3+(実質的にすべての核の濃い安定した染色)の等級で、スライドがp65核染色に対して採点(scored for)された。
【0119】
ウェスタンブロット法及び濃度測定(Densitometry)
上記したように、タンパク質濃度測定及び免疫ブロット法(immunoblotting)が行われた。Wuら, Respir Res, 6(1), 26 (2005)を参照のこと。簡単に言えば、凍結肺組織が10μL/ mgの氷冷RIPA溶解緩衝液(100mM Tris- HCl pH 8.0、100mM NaCl、5mM NaF、2mM EDTA、1% NP- 40、1mM Na3VO4、100μM TPCK、1μMペプスタチンA、2μMロイペプチン、1mM PMSF、100μM ケルセチン)に懸濁され、加圧型細胞破砕(Dounce homogenized)され、さらに不溶性物質を除去するために4℃で10分間13200 rpmで遠心分離された。上清タンパク質濃度は、クマシー(Coomassie)タンパク質アッセイ試薬(Pierce Biotechnology、ロックフォード、イリノイ州、アメリカ合衆国)を用いて決定された。β-メルカプトエタノール(5%)及び追跡用色素を添加した後、試料は変性させられ、等量のタンパク質がSDS- PAGE(10%トリス-グリシン又は4%-12%ビス-トリスゲル;Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)によって分離(resolve)され、さらにイモビロン(Immobilon)- Pメンブレン(Millipore Corp、ビルリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)に転写された。ブロット(blot)は、0.1%のTween-20及び5%脱脂粉乳パウダーを加えたTBS中に1時間ブロックされ、一次抗体及びその後に二次抗体で培養され、続いてペルオキシダーゼの化学発光検出(Millipore Corp、ビルリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)が行われた。リン酸化又は全(total)JNK、p38、ERK、及びIκBαに対する抗体は、Cell Signaling Technology(ビバリー、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)から購入された。フィルムは、Epson Precision 4180フラットベッドスキャナ(Epson America, Inc.、ロングビーチ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)の16ビットグレースケールでの600 dpiでスキャンされた。濃度測定は、METAMORPH(登録商標)ソフトウェア(MDS Analytical Technologies, Inc,、サニーベール、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて行われた。
【0120】
骨髄移植(BMT)
キメラマウスは、前述の手順を使用したBMTによって生まれた。Schwallerら、 Embo J, 17(18), 5321-5333 (1998)を参照のこと。レシピエントマウスは、4時間離れた2回の線量(700cGY、その後500cGY)で供給される12Gyの致死照射(Gammacell 40137 Csγ-線源、Nordion、オタワ、カナダ)に暴露された。骨髄は、その大腿骨及び脛骨を培地(Roswell Park Memorial Institute (RPMI)緩衝液 + 10%ウシ胎仔血清(FBS) + 100単位ヘパリン + 1 M HEPES)で洗い流すことにより、ドナーマウスから得られた。採取された骨髄細胞は、0.2μmフィルタを通過され、200μLの無菌PBS + 10%FBS内に106個の細胞の濃度に数え上げられると共に再懸濁された。その後に骨髄細胞は、γ-放射線の2回目の線量を受けた直後にレシピエントの眼窩に注入された。完全な体液再構成(humoral reconstitution)を可能にするため、レシピエントマウスは無菌マイクロアイソレータ(microisolator)ケージに12週間保持された。
【0121】
実質細胞(P)又は骨髄細胞(M)の機能性(functional)TLR4(+)を有するマウスを生むため、4組のキメラが作られた。HeJマウスはOuJドナー(P-M+)から再構成された骨髄を有し;一方で、OuJマウスはHeJマウス(P+M-)から再構成された骨髄を有していた。"対照"キメラは、同じ系統(P-M-)及び(P+M+)からの骨髄を再構成することにより作られた。
【0122】
細胞培養実験に対する生存率の決定
3組で行われた別々の実験では、P35ディッシュ(dish)上にコンフルエンス(confluence;集密状態)まで増殖したHMEVCsは模擬IRIを受けた。製造者の取扱説明書に従い、同一時点で、細胞及び細胞培養培地又は乳酸リンゲル液は、CytoTox96非放射活性細胞毒性アッセイ(Promega、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)を用いて乳酸脱水素酵素(LDH)活性を評価された。実験モデルとは別に細胞生存率を評価するため、時間ゼロ及び24時間の時点で対照試料も採取された。他の試料からの吸光度を規格化するため、培養培地及び乳酸リンゲル液がバックグランド対照として用いられた。細胞毒性は、培地LDH活性を全LDH活性(細胞ペレットと培地の和)で除して計算された。生存率は逆数であり、各時点における%生存率として表された。
【0123】
気管支肺胞洗浄(BAL)及び肺胞マクロファージ(AM)細胞培養
HeJ及びOuJマウス由来のAMsは、BMT後に120日のBALで採取された。気管は、オーダーメード(tailored)の18ゲージカテーテル(Becton Dickinson、サンディ、ユタ州、アメリカ合衆国)でカニューレ挿入された。BALは、0.2mMのEGTAを含み、予め温められ滅菌された、エンドトキシン、カルシウム、及びマグネシウムを含まないPBSの4アリコート(aliquot)(35μL×グラム表示の体重)のゆっくりした気管放出によって実行された。洗浄液は、穏やかな吸引によって回収され、各マウスについて貯められ、250gで5分間遠心分離された。細胞は、10%熱不活性化FBS(Atlanta Biologicals、ローレンスビル、ジョージア州)、ペニシリンG(100 U/ mL)、及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含むRPMI 1640(Gibco BRL、ロックビル、メリーランド州、アメリカ合衆国)中に再懸濁された。生存率は、トリパンブルー色素排除(trypan blue exclusion)により安定して>95%であった。細胞は、96-ウェルプレートのウェルあたり20,000個播かれた(plate)。2時間の培養後、非接着性(non-adherent)細胞を除去するため、プレートがPBSで洗浄された。接着AMsは、5%CO2を含む加湿培養器内で37℃でRPMI 1640中に培養された。
【0124】
NF-κBレポーターアッセイ(Reporter Assay)
組換え第一世代のE1、E3欠失アデノウイルス血清型5ベクターが調製され(Sanliogluら、J. Biol. Chem., 276, 30188-30198 (2001)を参照のこと)、上皮細胞について前述したようにHMVECs及びAMsが導入(transfect)された。Wuら、Respir. Res., 6, 26 (2005)を参照のこと。
【0125】
統計的分析
すべてのデータは平均±SEMとして報告される。群は、STATISTICA(登録商標)(StatSoft, Inc.、タルサ、オクラホマ州、アメリカ合衆国)を使用したTukeyの事後検定とANOVA、又は対応のある(paired)若しくは対応のない(unpaired)t検定によって比較された。
【0126】
実施例2
虚血再灌流に関連する肺水腫のTLR4媒介
虚血再灌流に関連する肺水腫へのTLR4の影響は、TLR4が十分な(OuJ)マウス及びTLR4欠損(HeJ)マウスの肺における虚血後の体液貯留を比較することにより検討された。図1Aに示すように、1時間の肺門クランプが引き起こす、3時間の再灌流まで続く再灌流の15分以内にOuJマウスの左肺内の早期で顕著な体液貯留(W/Dの上昇に見られるように)により、左肺の再灌流は虚血性を表す。これに対し、HeJマウスは、15及び30分の再灌流の後に著しく少ない浮腫となり、より早い回復を示した。1及び3時間の再灌流の後のHeJマウスのW/Dは正常であった。
【0127】
また、図1Bに示すように、HeJマウスからの肺に比べ、3時間再灌流されたOuJマウスからの拡張固定された左肺では、より多くの血管周囲及び肺胞壁の浮腫があった。しかしながら、図1Cに示すように、1時間の再灌流の後のマウス系統間で間質性浮腫には組織学的な差はなかった。覆面観察者(masked observer)により、3時間の再灌流後の4つのHeJ標本、及び一時間後に調査されたすべての8つの肺標本は正常であり、4つの対照標本(2つのHeJと2つのOuJ)とは異ならないと判断された。いずれかの理論に拘束されることなく、3時間の再灌流後のOuJ肺の間質性浮腫の増加は、再灌流後60分の拡張固定によって検出できない急速な肺胞洪水(alveolar flooding)によるものであると仮定される。この仮説と一致して、HeJマウスからの左肺及び両方の系統からの右の肺に比べ、OuJマウスからの左肺はEBD量(アルブミンに対する微小血管透過性の尺度(Sariaら, J Neurosci Methods, 8(1), 41-49 (1983)を参照のこと))が増加した。図1Dを参照のこと。このように、W/Dの違いは、肺胞壁及び間質への体液のより遅い吸収と共に、HeJマウスに比べてOuJマウスで早期に発生する肺胞洪水に起因すると思われる。
【0128】
受容体活性化のTLR4下流シグナル伝達(signaling downstream)は、骨髄分化一次応答遺伝子88(MyD88)及びTIR-ドメイン含有アダプター誘導インターフェロン-β(TRIF)を含むアダプタータンパク質のリクルートメント(recruitment)を含む。O'Neillら、 Nat Rev Immunol, 7(5), 353-364 (2007)を参照のこと。TRIFはマウス内皮細胞(Harari ら、Circ Res, 98(9), 1134-1140 (2006)を参照)内に存在しないため、MyD88シグナル伝達はこれらの細胞におけるTLR4下流の重要なアダプターである。MyD88欠損(MyD88-/-)マウスが1時間のIRIに曝されたとき、OuJマウス及びC57BL/6Jマウス、MyD88-/-マウスのバックグラウンド系統(background strain)からの肺と同等の浮腫が、MyD88-/-マウスの肺に発症した。図1Eを参照のこと。従って、虚血再灌流によるTLR4によって媒介される肺水腫は、MyD88アダプターを介した下流のシグナル伝達とは無関係であると思われる。初期の浮腫がTLR4によるものを確認するため、実験がTLR4-/-マウスで繰り返され、さらにC57BL/6Jマウス、TLR4-/-マウスで使用されるバックグラウンド系統と比較された。一時間の肺門クランプ及び15、30、60の再灌流での再灌流の後のC57BL/6Jマウスに比べ、TLR4-/-マウスは大幅に少なく浮腫を発症する。図1Fに示すように、浮腫はC57BL/67マウスでは直ちに(再灌流の約5分以内)現れるが、TLR4-/-マウスでは現れない。
【0129】
実施例3
肺IRIに起因してTLR4によって媒介された早期のMAPK及びNF-κB活性化
タンパク質濃度測定は、肺の虚血後の早期の浮腫形成における役割に加え、機能的(functioning )TLR4が炎症に関連するシグナル伝達経路の早期活性化を媒介することを示した。図2A及び図2Bに示すように、OuJマウス中の機能的TLR4は、p38の早期リン酸化反応(虚血中に観察された)、ERK及びJNKの早期リン酸化反応、及び再灌流の後のNF-κBの早期活性化をもたらした。比較として、TLR4欠損HeJマウスは、p38、ERK、NF-κB及びJNK活性化の遅延又は減少を示した。しかしながら、ある程度のMAPK及びNF-κB活性化がHeJマウスで観察され、TLR4以外の代替活性化経路(alternative activation pathways)の関与を示唆した。
【0130】
図3に示すように、NF-κBのp65成分に対する免疫染色は、対照マウス(新しく犠牲にされた)の肺の最小限の核局在化を示す一方で、TLR4欠損(HeJ)マウス(染色が1-2+に採点された)に比べ、TLR4が十分な(OuJ)マウスから60分再灌流されたサンプルにおいて著しい核染色(染色が3+に採点された)が観測された。180分の再灌流におけるOuJ動物でのより多くのp65染色にもかかわらず、180分の再灌流におけるHeJ及びOuJ系統でIκBαレベルが同等であることを除いて、免疫染色強度は、図2A及び図2Bに見られるIκBαの分解(degradation)を補完した。これは、再灌流後180分のOuJマウスにおける、IκBα蛋白質ある程度の回復を示唆する。驚いたことに、p65染色は右及び左の肺で同一であり、右肺に浮腫が無いにもかかわらず、同じ再灌流時間では同程度に右肺(非虚血性)でNF-κBが活性化されたことを意味した。従って、NF-κB活性化が必ずしも浮腫の発症に関連付けられないと思われる。正常なW/Dと共に、3時間再灌流後のHeJマウスからの左肺でp38活性化が明らかであった。発症の速さと共に考えると、このモデルの急性期肺水腫は、MAPK及びNF-κB活性化に起因するとは思われない。
【0131】
実施例4
肺実質細胞対(versus)骨髄由来細胞へのTLR4
肺実質細胞対骨髄由来細胞、特に肺胞マクロファージ(AMs)への機能性TLR4の重要性を判断するため、各系統のマウス(OuJ及びHeJ)に致死量の放射線を照射し、骨髄移植(BMT)により骨髄を再構成することによって、実施例1に記載されるようなキメラマウスが作り出された。図4Aに示すように、リポ多糖類(LPS)刺激は、天然OuJ AMs、並びにキメラ系統P-M+から回収されたAMs、TLR4を発現する骨髄由来細胞を有するキメラ、及びTLR4を発現しない実質細胞の双方で、ルシフェラーゼ活性の約60倍の増加をもたらした。従って、キメラ動物におけるAMsの置換(replacement)は、BMT後12週間で実質的に完了したと思われる。同じ系統の骨髄で再構成され、放射線照射したマウスから取り出したAMsは、同様に作用した。
【0132】
3時間の虚血再灌流に続いて、P+M-キメラ動物は、W/Dの顕著な増加を発現した。図4Bを参照のこと。しかしながら、AMSが機能性TLR4(P-M+)を持っていても、W/Dは上昇しなかった。従って、機能性TLR4が骨髄細胞(M)に存在するか否かを問わず、機能性TLR4が肺実質細胞(P)に存在する場合にのみ、浮腫が明らかである。AMs上の機能性TLR4は浮腫の発症に十分ではないが、P+M-動物に比べてP+M+動物でW/Dが若干高いことが観察されたように、それは肺実質細胞の機能性TLR4を有するマウスの浮腫を拡大する可能性がある。しかしながら、この差は統計的に有意ではなかった。
【0133】
図4Cに示すように、キメラ対照(OuJにOuJを導入(into)し、HeJにHeJを導入)は非照射の系統に比べて肺水腫の形成に差を示さず、致死量の照射が虚血再灌流による浮腫の発症に影響を与えないことを示した。これらの"対照キメラ"からのAMsは、天然系統(データは示されず)からのAMsと同じLPSへの応答を有した。
【0134】
従って、虚血再灌流による早期の浮腫形成は、肺実質細胞上の機能性TLR4に起因するが、骨髄細胞上の機能性TLR4は、虚血再灌流に関連する早期の浮腫に重大ではない。本書に開示されたデータは、虚血再灌流誘発性の肺水腫は、再灌流後の非常に早い毛細血管漏出の増加が原因であることを示唆している。
【0135】
実施例5
虚血再灌流による肺水腫を予防するTLR4の拮抗阻害剤
左肺門クランプの60分前に開始され、OuJマウスに30分静脈内投与(生理食塩水200μL中に10μg)された競合的TLR4阻害剤CRX-526は、虚血再灌流の1時間に続く浮腫を予防した。図5Aを参照のこと。CRX-526はまた、LPSに曝された培養ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVECs)におけるNF-κB活性化を予防した。図5Bを参照のこと。TLR4阻害剤は、NF-κB活性化のTNF刺激に影響を与えないように見えた。
【0136】
実施例6
TLR2及び虚血再灌流
虚血再灌流関連浮腫に対する機能性TLR2の効果は、C57BL/6J(BL6)のバックグラウンド系統に交配されたTLR2欠損(TLR2-/-)マウスにおける1時間の肺門閉塞及び再灌流後のW/Dと、TLR2が十分なBL6マウスのW/Dと、を比較することにより調査された。図6に示すように、、TLR-/-マウスは、IRIによる浮腫を発症したが、BL6マウスに比べて遅かった。TLR2-/-マウスの左肺のW/Dは再灌流の15分後に正常であったが、BL/6マウスのW/Dは上昇した。
【0137】
TLR4阻害剤による前治療(pre-treatment)の効果を比較するため、さらなる研究が実施された。BL6マウスは、1時間の左肺門クランプの60分前に開始され、30分にわたって投与されたCRX-526(10μg)で前治療された。これらのマウスは、たとえあったとしても、再灌流の最大180分までほとんど浮腫を発症しない。図7A及び7Bを参照のこと。CRX-526の治療は、特に30〜60分の再灌流の後、TLR4及びTLR2欠損の相加的効果(added effects)と同様のW/Dを生成するように見える。図8に示すように、導入されたHMVECsの研究は、CRX-526がTLR2リガンドによって刺激されたNF-κBの活性化を低減することができることを示した。
【0138】
全体を考えると、本書に開示されたデータは、虚血再灌流に関連する浮腫の低減についてのCRX-526の効果は、単にTLR4を阻害するそれの能力より以上のものに起因することを示唆する。
【0139】
本書で開示される主題の種々の詳細は、本書で開示される主題の範囲を逸脱しない限り変更可能なことは理解されるであろう。さらに、前述の記述は例示のみを目的とし、限定を目的とするものではない。
【技術分野】
【0001】
関連する出願
この出願は2009年4月9日に出願された米国特許出願No. 61/168,089の利益を主張し、その開示は参照によりその全体が本書に援用される。
本書に開示される主題は、虚血再灌流に関連した浮腫を予防又は減少させるための方法及び組成物に関する。
【0002】
略記
℃=摂氏温度
AGP =アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩
AMs =肺胞マクロファージ
ARDS =成人呼吸窮迫症候群
BAL =気管支肺胞洗浄
BMT =骨髄移植
β-gal =β-ガラクトシダーゼ
CO2 =二酸化炭素
dpi =1インチあたりのドット数
EBD =エバンスブルー染料
EDTA =エチレンジアミン四酢酸
EGTA =エチレングリコール四酢酸
FBS =ウシ胎仔血清
FiO2 =吸気中酸素濃度
Fluc =ホタルルシフェラーゼ
g =相対遠心力
Gy =グレイ
HCl =塩酸
HEPES = N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸
HMVECs =ヒト肺微小血管内皮細胞
hr =時間
ICAM-1 =細胞間接着分子-1
IRI =虚血再灌流障害
LDH =乳酸脱水素酵素
LPS =リポ多糖類
MAPKs =マイトジェン活性化プロテインキナーゼ
μg =マイクログラム
μL =マイクロリットル
μm =ミクロン
μM =マイクロモル
mg =ミリグラム
min=分
mL =ミリリットル
NF-κB=核因子-κB
NHBD =心停止ドナー
nm =ナノメートル
O2 =酸素
PAMP =病原体関連分子パターン
PBS =リン酸緩衝生理食塩水
PEEP =呼気終末陽圧
PGN =ペプチドグリカン
PMSF =フッ化フェニルメタンスルホニル
RPMI =ロズウェルパーク記念研究所
SDS-PAGE =ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動
SIRS =全身性炎症反応症候群
TBS =トリス緩衝食塩水
TLR2 = Toll様受容体2
TLR4 = Toll様受容体4
TPCK = L-1-トシルアミド-2-フェニルエチルクロロメチルケトン
Tris=トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
W/D =湿乾燥重量比
【背景技術】
【0003】
急性肺損傷は、敗血症、全身性炎症反応、及び成人呼吸窮迫症候群の特徴である。非心原性肺水腫及びガス交換障害は、病気の原因に関係なく急性肺損傷の結果である。急性肺損傷に起因して肺水腫を引き起こすメカニズムはよく理解されていない。肺移植後直ちに生じる急性肺損傷の一形態である虚血再灌流障害(IRI)は、病的状態及び死の原因となる、頻繁な合併症である(非特許文献1)。
【0004】
虚血から間をおいた再灌流により、補体及び凝固カスケードを含み、自然免疫系の構成要素を取り込んだ炎症反応が生ずる。実質細胞及び骨髄性細胞の両方は、フリーラジカル、一酸化窒素、及び炎症誘発性及び抗炎症性サイトカインを産生する(非特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】King 他 Ann. Thorac. Surg., 69, 1681-1685 (2000)
【非特許文献2】de Perrot 他., Am. J. Respir. Crit. Care Med., 167(4), 490-511 (2003)
【非特許文献3】de Groot 及び Rauen, Transplant Proc., 39(2), 481-484 (2007)
【非特許文献4】Mollen 他, Shock, 26(5), 430-437 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肺IRIをより深く理解することは、多くの種類の急性肺損傷が関係すると考えられ、また肺移植レシピエントに加えて、多くの患者の恩恵になりうる。特に、このような理解は、肺以外の臓器の浮腫に関する虚血再灌流の患者への利益となるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、組織内の浮腫を予防又は減少させる方法であって、化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、組織とを接触させることを含み、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OH(式中、mは0〜2の整数を表す。)からなる群より選択され、
R5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、方法を提供する。
【0008】
幾つかの実施形態において、nが1である。幾つかの実施形態において、X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である。幾つかの実施形態において、R4が、−C(=O)OHである。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である。
【0009】
幾つかの実施形態において、前記化学式(I)の化合物が、nが1であり、X1が酸素原子であり、X2が酸素原子であり、R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、R4が−C(=O)OHであり、及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である。
【0010】
幾つかの実施形態において、前記浮腫が虚血再灌流に関係する。幾つかの実施形態において、前記虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関する。幾つかの実施形態において、前記虚血再灌流が、心臓手術中の心臓マヒ、又は整形外科手術に起因する骨格筋内の虚血再灌流に関連する。幾つかの実施形態において、前記虚血再灌流が臓器又は組織移植に関連する。幾つかの実施形態において、前記組織移植は、皮膚、筋肉又は軟部組織移植である。幾つかの実施形態において、前記組織移植は、自己組織移植である。
【0011】
幾つかの実施形態において、前記組織と前記化合物の有効量とを接触させることは、虚血の前、虚血の間、又は虚血の間隔を置いた後に起きる。
【0012】
幾つかの実施形態において、前記組織は心臓、肝臓、腎臓、脳、小腸、大腸、膵臓、骨格筋、皮膚、軟部組織、及び肺組織からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、前記組織は、臓器ドナーからのものである。幾つかの実施形態において、前記組織は、肺移植ドナーからの肺組織である。幾つかの実施形態において、前記肺移植ドナーは、ヒト肺移植ドナーである。幾つかの実施形態において、前記臓器ドナーは、心停止ドナーである。
【0013】
幾つかの実施形態において、前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である。幾つかの実施形態において、前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である。
【0014】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、その治療を必要とする対象における浮腫を予防又は減少させる方法であって、前記対象に化学式(I)の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、臓器又は組織移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫を予防又は減少させる方法であって、移植のための臓器又は組織を準備し、前記臓器又は組織と化学式(I)の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、を接触させ、及び、前記治療を受けた臓器又は組織を該治療を必要とする対象に移植することを含み、ここで前記化合物で治療を受けていない臓器又は組織を用いて実行される移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫と比較して、前記対象における虚血再灌流に関係する浮腫が予防又は低減される方法を提供する。
【0016】
幾つかの実施形態において、前記臓器又は組織は、心臓又は心臓組織、肝臓又は肝臓組織、腎臓又は腎臓組織、膵臓又は膵臓組織、小腸又は大腸組織、骨格筋組織、軟部組織、肺又は肺組織、及び脳組織からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、前記臓器又は組織は、肺又は肺組織である。幾つかの実施形態において、前記臓器又は組織は、心停止臓器ドナーからのものである。
【0017】
幾つかの実施形態において、前記接触は、肺組織ドナー、肺静脈、及び生体外灌流回路の肺動脈の気道の一つを介して行われる。
【0018】
幾つかの実施形態において、前記組織は、皮膚組織、骨格筋組織又は軟部組織の1つである。幾つかの実施形態において、前記組織移植は、自己組織移植である。
【0019】
幾つかの実施形態において、前記化合物は、TLR2及びTLR4の一方又は両方の拮抗薬である。幾つかの実施形態において、前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である。
【0020】
幾つかの実施形態において、前記化学式(I)の化合物は、nが1の化合物である。幾つかの実施形態において、X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である。幾つかの実施形態において、R4が、−C(=O)OHである。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である。幾つかの実施形態において、前記化学式(I)の化合物が、nが1であり、X1が酸素原子であり、X2が酸素原子であり、R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、R4が−C(=O)OHであり、及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である。
【0021】
幾つかの実施形態において、本書で開示される主題は、化学式(I)の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を含む生体外臓器又は臓器組織を治療するための保存液を提供する。幾つかの実施形態において、前記生体外臓器又は組織は、肺又はその一部である。
【0022】
本書で開示される主題の目的は、虚血再灌流に関係する浮腫のような浮腫を予防又は減少させる方法及び組成物を提供することである。
【0023】
本書で開示される主題の目的は上文に述べられ、本書で開示される主題によって全体として又は部分的に達成され、後述に最も良く述べられる添付の実施例及び図面に関して理解されるとき、他の目的は記述が進むにつれて明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】再灌流に続く0分、15分、30分、1時間、及び3時間でのToll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスからの再灌流肺における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。W/Dデータは、OuJマウスの左肺(LL OuJ、白抜き棒)と右肺(RL OuJ、影付き棒)、及びHeJマウスの左肺(LL HeJ、暗いドット付きの白抜き棒)と右肺(RL HeJ、白い四角付きの影付き棒)の両方について示される。 * = p <0.05、†= p <0.01 対照と比較。n = 6/グループ。
【図1B】1時間の肺門クランプ(clamping)及び3時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスからの拡張固定(inflation fixed)された(25cm H2O)左肺の一連の写真である。写真の上側の1組の矢印は、HeJマウスからの肺(右上写真)と比較したOuJマウスからの肺(左上写真)の気管支周囲及び血管周囲の空間の間質性浮腫の増加を示す。写真の下の1組の矢印は、HeJマウスからの肺(右下写真)と比較して厚いOuJマウスからの肺(左下写真)の肺胞壁を示す。上側の写真は40倍の倍率(上側の写真の右下の線が2.0mmを表す)で表示され、下側の写真は、200倍の倍率(下側の写真の右下の線が200μmを表す)で表示される。写真は4つの標本の代表例である。
【図1C】1時間の肺門クランプ及び1時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスからの拡張固定された左肺の一連の写真である。60分の再灌流後の湿乾燥重量比(W/D)の有意な差にもかかわらず、OuJマウス肺(左上写真)又はHeJマウス肺(右上写真)には間質性気管支周囲/血管周囲の浮腫(interstitial peribronchial/ perivascular edema)はなく、さらに肺胞壁肥厚(下写真)もない。写真は4つの標本の代表例である。写真に示される拡張固定された切片(section)は、対照試料(図示せず)と同一であるように見える。上側の写真は40倍の倍率(上側の写真の右下の線が2.0mを表す)で表示され、下側の写真は、200倍の倍率(下側の写真の右下の線が200μmを表す)で表示される。
【図1D】1時間の肺門クランプ及び1時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスの両方からの左肺(白抜き棒)と右肺(影付き棒)におけるエバンスブルー染料蓄積(光学密度(OD)/1グラム(gm)サンプルで測定された)の棒グラフである。OuJマウスのデータは、グラフの左側の1組の棒で示され、HeJマウスのデータはグラフの右側の1組の棒で示される。 * = p <0.05対応のない(unpaired)t検定;‡= p <0.05 対応のある(paired)t検定。
【図1E】1時間の肺門クランプ及び1時間の再灌流の後に取得された、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウス(n = 6)、TLR4欠損(HeJ)マウス、MyD88欠損マウス(n = 5)及びC57BL/6Jマウス(MyD88欠損マウスのバックグラウンド(background)系統(strain)であり;n = 6)からの左肺(白抜き棒)と右肺(影付き棒)における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)を比較した棒グラフである。
【図1F】1時間の虚血及び0又は5分間の再灌流の後で、C57BL/6Jマウス系統と交配されたToll様受容体(TLR4)欠損マウスの右肺(RL TLR4-/-、点描された棒)と左肺(LL TLR4-/-、陰影のない棒)における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。浮腫は又、1時間の左(left)肺門クランプとその後の0又は5分間の再灌流の後で、バックグラウンド系統C57BL/6Jマウスの右肺(RL BL6、縞模様の棒)と左肺(LL BL6、暗い影付きの棒)において測定された。* p <0.05 右BL6肺並びにTLR4-/-マウスからの右及び左の肺と比較、(Tukeyの事後検定 (post hoc)とANOVA)。n= 6/グループ。
【図2A】1時間虚血状態にされ、その後に0、15、30、60、又は180分間再灌流された、対照の左肺、Toll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウス及びTLR4欠損(HeJ)マウスにおけるJNK、ERK、p38及びNF-κBの活性化を示すウェスタン・ブロッティング・ゲル(Western blotting gels)の一連の写真である。HeJとOuJ系統の各々に対しn = 4とされた。対照は、虚血/再灌流を受けなかった2 HeJ及び2 OuJマウスの肺から抽出された蛋白質を表す。
【図2B】図2Aで表現されたウェスタン・ブロット法((Western blots)からのタンパク質濃度データ(レーザースキャニングにより定量化された強度)の一連の棒グラフである。対照、HeJ及びOuJマウスの肺のデータは、それぞれ、明灰色、濃灰色、及び白抜きの棒で表される。異なる対照サンプル間のばらつきがエラーバー(平均± SEM)で表され、各対照= 1.0とされて、リン酸/総マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPKs)及びIκBα/β-アクチンは対照の平均の比によって各比を割って正規化された。p46及びp54 JNK、並びにp44及びp42 ERKは、同様なパターンとp値を有する。* = p <0.05、†= p <0.01、‡= p<0.001 多重比較のためのテューキーの真正有意差(Tukey's Honest Significant Difference)とANOVAによる対照と比較。
【図3】NF-κBのp65成分に対して免疫染色された(immunostained)肺組織サンプルの一連の写真である。対照サンプル(一番左の写真)は、新鮮な犠牲マウスから免疫染色された肺組織である。残りの写真は、60又は180分の再灌流に続くToll様受容体4(TLR4)が十分な(OuJ)マウスとTLR4欠損(HeJ)マウスの右肺(下側の4つの写真)と左肺(上側の4つの写真)肺からの免疫染色された肺組織を示す。各写真の右下の線は100μmを表す。
【図4A】骨髄移植後12週間のキメラマウスからの肺胞マクロファージ(AMs)における、NF-κB活性化(蛍ルシフェラーゼ(fluc)/β-ガラクトシダーゼ(β- gal)活性により測定された)の棒グラフである。AMsは気管支肺胞洗浄(BAL)によって取り出され、かつAd.NFκBLucとAd.CMV-LacZに感染させられ、その後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS、白抜きの棒)又は1μg/mlのリポ多糖類(LPS、濃灰色の棒)のいずれかで培養された。観測された蛍ルシフェラーゼ/β-ガラクトシダーゼ活性は、キメラHeJ系統(P+M-)又はキメラOuJ系統(P-M+)のいずれかからのレシピエントの骨髄の完全な置換を示した。P =実質細胞、M =骨髄由来細胞、+ =無傷の(intact)TLR4(OuJ)、- =非機能(non-functional)TLR4(HeJ)。非照射の(non-irradiated )HeJとOuJマウスから取り出されたAMsは、対照としての機能を果たす。 n= 4の実験/グループ、p <0.0001。
【図4B】IRI後3時間のキメラマウスの左肺(白抜き棒)と右肺(濃灰色の棒)からの肺組織における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。P =実質細胞、M =骨髄由来細胞、+ =無傷のTLR4(OuJ)、- =非機能TLR4(HeJ)。 * = p <0.05、†= p <0.01 P-左肺のW/Dと比較、(テューキーの真正有意差とANOVA)。
【図4C】回復された骨髄(P-M-、P+M+)を有するキメラマウス及び無傷の(intact)HeJとOuJ系統からの、左(白抜き棒)と右(濃灰色の棒)の肺組織における湿乾燥重量比(W/D)の棒グラフである。
【図5A】肺門クランプの1時間前に開始した、賦形剤(vehicle)(生理食塩水、グラフの左側の棒)又はTLR4拮抗阻害剤CRX-526(生理食塩水200μL中10μg、グラフの右側の棒)のいずれかで30分間静脈内治療を受けたOuJマウスの右肺(濃灰色の棒)と左肺(白抜き棒)における1時間の虚血再灌流障害(IRI)後の浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)の棒グラフである。N= 5/グループ、* = p = 0.0014 対応のあるt検定による同一の動物の右肺と比較、p = 0.0023 対応のないt検定によるCRX-526で前治療されたマウスの左肺と比較
【図5B】CRX-526の0.1、1、10、及び100μgの濃度(すなわち、それぞれInhib(阻害剤) 0.1、Inhib 1、Inhib 10、Inhib 100)で生じるNF-κB活性(蛍ルシフェラーゼ(fluc)/β-ガラクトシダーゼ(β- gal)活性に基づく)の体外阻害を示す棒グラフである。Fluc/β-galは、CRX-526で治療したヒト肺微小血管内皮細胞(HMVECs)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみ(白抜き棒)、10ng/mLのリポ多糖(LPS)(斑点の棒)、5ng/mLのLPS(縞模様の棒)、又は0.25ng/mLの腫瘍壊死因子(TNF、濃灰色の棒)で刺激するのに続いて測定された。CRX-526で治療されなかったHMVECsが対照として用いられた。n = 4/グループ、* p <0.05 ANOVAによる同一時点での他の値との比較。
【図6】1時間の左肺門閉塞(left hilar occlusion)と15分、30分又は60分の再灌流後、Toll様受容体2欠損マウス(TLR2-/-)における浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)のグラフである。TLR2-/-マウスの右肺の浮腫(TLR2-/- RL)が縞模様の棒で示され、TLR2-/-マウスの左肺の浮腫(TLR2-/- LL)が明灰色の棒で示される。浮腫はまた、対照としてのバックグラウンドC57BL/6Jマウス系統の右肺(BL6 RL、白抜き棒)と左肺(BL6 LL、濃灰色の棒)で測定された。対照左肺に対し、†=p <0.01、‡= p <0.001。
【図7A】C57BL/6Jマウスの左肺(BL6、濃灰色の棒)、Toll様受容体4欠損マウスの左肺(TLR4-/-、縞模様の棒)、Toll様受容体2欠損マウスの左肺(TLR2-/-、点描された棒)、及び1時間の左肺門クランプの1時間前に開始して、10μgのCRX-526で30分以上前治療したC57BL/6Jマウスの左肺(CRX-526、影なし棒)における、浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)のグラフである。対照(新鮮な)データは、肺門クランプしない動物犠牲の後にすぐに取り出したマウス肺からのものである。グラフのX軸に示されるように、他のデータは、1時間の左肺門クランプかつ、0、15、30、60又は180分のいずれかの再灌流の後の肺からのものである。n= 3-6。BL6 W/Dは、他の系統又はCRX-526で治療したマウスよりも有意に高い。*p <0.05、†p <0.01、‡p <0.001、TLR4-/-及びCRX-526で治療したマウスと比較したTLR2-/-§ p <0.01、σp<0.05(各時点でのTukeyの事後検定とANOVA)。
【図7B】C57BL/6Jマウスの右肺(BL6、濃灰色の棒)、Toll様受容体4欠損マウスの右肺(TLR4-/-、縞模様の棒)、Toll様受容体2欠損マウスの右肺(TLR2-/-、点描された棒)、及び1時間の左肺門クランプの1時間前に開始して、10μgのCRX-526で30分以上前治療したC57BL/6Jマウスの右肺(CRX-526、影なし棒)における、浮腫(湿乾燥重量比(W/D)で測定された)のグラフである。対照(新鮮な)データは、肺門クランプの前に動物犠牲の後にすぐに取り出したマウス肺からのものである。グラフのX軸に示されるように、他のデータは左肺門クランプかつ、0、15、30、60又は180分のいずれかの再灌流の後の肺からのものである。データn= 3-6。
【図8】Toll様受容体2(TLR2)リガンドによる刺激によってもたらされたNF-κBの活性化へのCRX-526の影響を示す棒グラフである。NF-κBが活性化されるときに、蛍ルシフェラーゼ(fluc)/β-ガラクトシダーゼ(β-gal)の比率が増加するよう、ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVECs)に組換え第一世代(recombinant first-generation)E1、E3欠失Ad.NF-κB-ルシフェラーゼ及び構成的β-ガラクトシダーゼベクターが導入(transfected with)された。導入(transfection)後48時間、HMVECsは種々の濃度のCRX-526(x軸に表示されるように)で1時間、前治療され、さらにTLR2リガンドPam(3)Cys(25μg/mL、濃灰色の棒)又はリポタイコ酸(LTA;1μg/mL、白抜きの棒)に8時間晒された。感染効率を調整するため(control for)、ルシフェラーゼ活性はβ-ガラクトシダーゼに正規化されている。CRX-526はNF-κB活性化を低減した。*p<0.05、†p<0.01 賦形剤との比較。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本書で開示される主題は、代表的実施形態が示される、添付した実施例を参照して以下にさらに詳細に記述される。しかしながら、本書で開示される主題は異なる形式に具体化することができ、また本書に示された実施形態に制限されると考えるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が充分であり完全であり、及び当業者に実施形態の範囲を完全に伝達するために提供される。
【0026】
もし、他に定義されなければ、本書に用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本書で開示される主題が属する技術分野の当業者が通常理解されるのと同じ意味を持つ。本書で述べられた全ての出版物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照することにより取り込まれる。
【0027】
明細書及び特許請求の範囲を通して、所定の化学式、又は化学名は、全ての光学的及び立体的異性体、並びにこれら異性体及び混合物が存在するラセミ体を包含する。
【0028】
1.定義
以下の用語は、当業者により良く理解されると信ずるが、以下の定義は本書で開示される主題の説明を円滑にするために示すものである。
【0029】
長年の特許法慣習に従い、用語"a(1つ、ある)"、"an(1つ、ある)"及び"the(その、この)"は、特許請求の範囲を含めて本出願で用いる際"1以上"を表す。従って、例えば、"a compound(ある化合物)"又は"a cell(ある細胞)"に関しては、複数のこのような化合物又は細胞等々を含む。
【0030】
用語" comprising(含む)"は"including(含む)" "containing(含む)"又は"characterized by(特徴とする)"と同義であり、包括的又は制限のないもの(open-ended)であり、追加的、列挙されない(unrecited)要素又は方法ステップを排除するものではない。" comprising(含む)"は、言及された要素は不可欠であるが、他の要素を追加でき、さらに特許請求の範囲の及ぶ範囲内で構成概念を形成することを意味する、特許請求の範囲の言語で使用される専門用語である。
【0031】
本書では、"consisting of(から成る)"という語句は、特許請求の範囲で指定されていない任意の要素、ステップ、又は成分を除外する。"consisting of(から成る)"という語句は、前文(preamble)に直ぐに続くよりも、特許請求の範囲の主部(body)の節(clause)に現れると、それはその節に記載されている要素のみを限定し、他の要素は全体として特許請求の範囲から除外されない。
【0032】
本書では、"consisting essentially of(から本質的に成る)"という語句は、特定された材料又はステップに特許請求の範囲の及ぶ範囲を制限し、特許請求の範囲とされた(claimed)主題の基本的及び新規な特性に実質的に影響しないものを加える。
【0033】
" comprising(含む)"、"consisting of(から成る)"、及び"consisting essentially of(から本質的に成る)"という用語に関し、これら3つの用語のいずれかが本書で使用されている場合、本書で開示され及び特許請求の範囲とされた主題は、他の2つの用語のいずれかの使用を含むことができる。
【0034】
本明細書で用いるように、用語"アルキル基"は、直線状(例えば、"直鎖")、分枝状、又は環状、飽和、又は少なくとも部分的に不飽和、及びある場合には完全に不飽和(例えば、アルケニル及びアルキニル基)炭化水素鎖を含むC1-20を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ブタジエニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、及びアレニル基を含む。"分枝"は、メチル基、エチル基、又はプロピル基のような低級アルキル基が直線状アルキル鎖に付加したアルキル基を表す。"低級アルキル基"は、1から約6個の炭素原子(即ち、C1-7アルキル基)、例えば1,2,3,4,5又は6炭素原子を有するアルキル基を表す。"高級アルキル基"は約8個から約20個の炭素水素、例えば、8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20炭素原子を有するアルキル基を表す。
【0035】
アルキル基を、任意に1個以上の、同一又は異なるアルキル基置換基により置換することができる("置換アルキル基")。"アルキル基置換基"という用語は、アルキル基、置換アルキル基、ハロ基、アリールアミノ基、アシル基、ヒドロキシル基、アリールオキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルオキシル基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基及びシクロアルキル基を含むが、これらに制限されない。アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子、又は置換若しくは非置換の窒素原子を挿入することができ、ここで、窒素置換基は、水素原子、低級アルキル基(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わす)又はアリール基を表す。
【0036】
従って、本明細書で用いるように、"置換アルキル基"という用語は、本明細書で定義したアルキル基を含み、ここでアルキル基の1以上の原子又は官能基は、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基を含む他の原子又は官能基に置き換えられる。
【0037】
用語"アルケニル基"は、1以上の炭素−炭素二重結合を含むアルキル基を表す。
【0038】
用語"アリール基"は、単一芳香族環、又は互いに融合し、共有結合で連結し、若しくはメチレン基又はエチレン基部分のような、しかしこれらに制限されない一般的な基に結合した多芳香族環でありうる芳香族置換基を表すように本明細書で用いられる。一般的な連結基はまた、ベンゾフェノンにおける様なカルボニル基、又はジフェニルエーテルにおける様な酸素原子、又はジフェニルアミンにおける様な窒素原子であることができる。用語"アリール基"は、とりわけ複素環式芳香族化合物を含む。この芳香族環(複数もあり)は、特にフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルアミン基及びベンゾフェノン基を含むことができる。特定の実施形態において、用語"アリール基"は、例えば5,6,7,8,9又は10炭素原子である約5から約10の炭素原子を含み、並びに5−及び6−員環の炭化水素、及び複素環式芳香族環を含む環状芳香族基を意味する。
【0039】
アリール基は、任意に、1以上の同一又は異なるアリール基置換基("置換アリール基")と置き換えることができ、ここで、"アリール基置換基"は、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、カルボキシル基、アシル基、ハロ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、アシルオキシル基、アシルアミノ基、アロイルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキレン基及びNR'R"を含み、ここでR'及びR"は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、及びアラルキル基である。
【0040】
従って、本明細書で用いるように、用語"置換アリール基"は、本明細書で定義したようなアリール基を含み、ここでアリール基の1以上の原子又は官能基は、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基を含む他の原子又は官能基と置き換えられる。
【0041】
アリール基の特別な例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、フラン基、チオフェン基、ピロール基、ピラン基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、イソチアゾール基、イソクサゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、トリアジン基、ピリミジン基、キノリン基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基等を含む
が、これらに制限されない。
【0042】
"アルキレン基"は、1から約20の炭化水素、例えば1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20炭素原子を有する直線状又は分枝状2価脂肪族炭化水素基を表わす。このアルキレン基は、直線状、分枝状又は環状である。アルキレン基はまた、任意に不飽和であってもよく、及び/又は1以上の"アルキル基置換基"で置換されてもよい。アルキレン基に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子、又は置換若しくは非置換の窒素原子(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わされる)を挿入することができ、ここで窒素置換基は、前述のようにアルキル基である。アルキレン基の例としては、メチレン基(-CH2-); エチレン基(-CH2-CH2-);プロピレン基(-(CH2)3-); シクロヘキシレン基(-C6H10-); -CH=CH-CH=CH-; -CH=CH-CH2-; -(CH2)q-N(R)-(CH2)r-を含み、ここでq及びrは、それぞれ独立して0から約20までの整数、例えば0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20であり、及びRは、水素原子又は低級アルキル基;メチレンジオキシル基(-O-CH2-O-); 及びエチレンジオキシル基 (-O-(CH2) 2-O-)である。アルキレン基は、約2から約3の炭素原子を有することができ、さらに6〜20個の炭素原子を有することができる。
【0043】
"ヒドロキシ基"及び"ヒドロキシル基"は-OH基を表す。
【0044】
用語"ヒドロキシアルキル基"は、ヒドロキシ末端を有するアルキル基を表す。幾つかの実施形態において、ヒドロキシアルキル基は、-(CH2)nOH構造を有する。
【0045】
用語"カルボン酸基"は、-C(=O)OH基を表す。用語"カルボキシレート基(carboxylate )"は、カルボン酸基の水素原子が除去されて形成されたアニオンを表す。従って、"カルボキシレート基"は-C(=O)O-基を表す。カルボキシレート基は、カチオン基と共に塩(即ち、カルボン酸塩)を形成する。用語"アルキレンカルボキシレート"及び"アルキレンカルボン酸"は、アルキレン基の1個の空の付加点へのカルボン酸基又はカルボキシレート基の付加により形成される1価の基を表す(例えば、-(CH2)nC(=O)OH 及び-(CH2)nC(=O)O-基)。
【0046】
本明細書で用いるように、用語"アシル基"は、-C(=O)R基を表し、ここでRは、上記で定義したようなアルキル基又はアリール基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基のRは、C1-C16アルキル基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基部分のアルキル基は、直鎖アルキル基又はアルケニル基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基のRは、C1-C16直鎖アルキル基を表す。
【0047】
用語"リン酸基"は、-P(=O)(OH)2基を表す。用語"リン酸基"はまた、リン酸基からの1以上の水素原子の除去により形成されるアニオン種(species)を含む。
【0048】
用語"チオール基"は、-S-R構造を有する基を表わし、Rがアルキル基、アシル基又はアリール基である。用語"チオール基"はまた、H-S-R構造を有する化合物を表すことができ、Rがアルキル基、アシル基又はアリール基である。
【0049】
用語"アミノ基"は、構造-NR1R2を有する基を表わし、ここでR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アシル基、及びアリール基の群から選択される基を表す。
【0050】
用語"カルバモイル基"は、-C(=O)NH2基を表す。
【0051】
用語"単糖類"は、化学構造H(CHOH)nC(=O)(CHOH)mHを有する開鎖式化合物(open chain form of a compound)に基づく化学式(CH2O)n+mの炭化水素単量体(モノマー)単位を表し、ここでn+mの和は2から8の間の整数である。従って、この単量体単位は、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、ノノース及びこれらの混合物を含むことができる。単糖類は環状の化学構造であることができる。従って、幾つかの実施形態において、この化合物は、ヘミアセタール又はヘミケタールを含むであろう。幾つかの実施形態において、用語"単糖類"は、化学構造H(CHOH)nC(=O)(CHOH)mH を有する化合物に基づく環状の単量体単位を表し、ここでn+mは4又は5である。従って、単糖類は、アラビノース、リキソース、リボース、キシロース、リブロース、キシルロース、アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、及びタガトースのような、アルドヘキソース、アルドペントース、ケトヘキソース及びケトペントースを含むが、これらに制限されない。
【0052】
用語"単糖類似体"は、単糖類の1以上のヒドロキシル基がリン酸基、アミン基、チオール基、又はアルキル基のような、しかしこれらに制限されない他の化学基により置き換えられた単糖を表す。
【0053】
用語"アミノ糖"は、単糖の1以上のヒドロキシル基がアミン基により置き換えられた単糖類似体を表わす。アミノ糖の例は、グルコサミン(即ち、2−デオキシ−2−アミノ−α−D−グルコピラノース)である。
【0054】
化合物に関して本明細書で用いる用語"断片"は、その構造が、本来命名された化合物の何らかの部分であり、本来命名された化合物の全体より小さい化合物を表す。従って、断片は本来の化合物より小さいが、一般的にもとの化合物の生物活性の幾つか又は全部を保持する。
【0055】
"医薬的に許容される"は、充分な医学的判定の適用範囲内で、過剰な毒性、炎症、アレルギー応答又は他の問題なしに、又は正当な利益/リスク比に釣り合った合併症なしに、ヒト及び動物の組織との接触に適した化合物、材料、組成物及び/又は投与形態を表す。従って、幾つかの実施形態において、本書に開示される化合物、材料、組成物及び/又は投与形態は、ヒトにおける使用のために医薬的に許容される。
【0056】
一般的に、用語"減少させる"は、例えば、いくらかでも既存の疾患、病気、障害又は損傷の症候又は影響を減少又は緩和することにより、既存の疾患(例えば浮腫)を治療する方法を表す。
【0057】
"予防する"は、潜在的な将来の疾患、病気、障害若しくは損傷、又はこれらの症候をいくらかでも発生しないようにする方法を表す。"予防する"は、予防処理が無い場合に発生するであろう影響より将来の疾患又は損傷の影響の大きさが小さく、又はより短期間であるよう、将来の疾患又は損傷の影響を少なくするか減らす方法を表すことができ、その上、その影響を完全に生じさせない方法をも表すことができる。従って、"予防する"は、医学的及び獣医学的治療の予防的方法を表す。
【0058】
用語"リガンド"は、Toll様受容体のような生物学的受容体に対する結合親和性を有する化合物を意味する。受容体へのリガンドの結合は、可逆的又は不可逆的であることができる。幾つかの例では、受容体へのリガンドの結合は、生物学的応答又は活性(例えば、その受容体の活性化に関連する生物学的活性)を引き起こすことができる。受容体に結合し、生物学的応答を引き起こすリガンドは、"作用薬(agonists)"と呼ばれることができる。受容体に結合するが、生物学的応答若しくは活性を引き起こさないか、又は生物学的反応若しくは活性を防止するリガンドは、"拮抗薬"と呼ばれることができる。作用薬又は拮抗薬は、受容体への結合について内因性リガンドと競合することができる。作用薬及び拮抗薬は、部分的(partial)又は完全(full)であってよい。例えば、受容体への完全作用薬の結合は、受容体に対する内因性リガンドと同じレベルの活性を生じる一方、部分作用薬の結合は、活性のそのレベルの一部だけを提供する。作用薬又は拮抗薬の有効性は、例えばそれぞれEC50(半最大有効濃度)又はIC50(半最大阻害濃度)として表すことができる。
【0059】
"浮腫"は、組織又は臓器における間質液の増加を表す。"浮腫"はまた、肺胞液の増加を表すことができる。従って、幾つかの実施形態において、浮腫は内皮透過性の増加を含む疾患に関係する。幾つかの実施形態において、浮腫は虚血再灌流に関係することができる。
【0060】
"内皮透過性の増加"は、血液中の液体及び/又はタンパク質に対する、臓器又は組織中の血管の透過性の増加を表し、浮腫を引き起こし、これは、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び様々な微生物による感染の場合のような、しかしこれらに制限されない多くの臨床シナリオにおいて生じうる。
【0061】
"虚血(Ischemia)"は、組織又は臓器への不充分な血流を表し、その結果として組織又は臓器は代謝への要求を満たすことができなくなる。虚血臓器又は組織に対する再灌流(血流の回復)は、過剰量の活性酸素種(ROS)及び活性窒素種(RNS)の産生をもたらし、これは細胞機能/完全性の喪失につながる、ミトコンドリア酸化的リン酸化の変化、ATPの枯渇(これは虚血の間及びその結果としても生ずる)、細胞間カルシウムの増加、並びにタンパク質キナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、及びヌクレアーゼの活性化のような一連のイベントをもたらす酸化ストレスを引き起こす。
【0062】
虚血再灌流障害(IRI)は、虚血に曝された(例えば、移植又は自家移植のように、臓器が手術により切除され、再結合された場合)組織において血流が再開した後に生ずる損傷を表す。他の例としてこれらに制限されないが、このような損傷は、臓器の移植のために停止していた後に;心筋梗塞の後で冠動脈が経皮的冠動脈形成術(PTCA)、ステント、又はバイパス治療を受けた後に;及び脳卒中患者へ血栓溶解剤を投与した後に;血流が再開した時にも生ずる。他の例は、しばしば心筋保護液の同時投与により、心臓手術のために心臓への血流が一時的に停止したときである。別の例は、止血帯が手足において膨らんだときに、整形外科医による無血(bloodless)部位の手術のための手足への血流の中断である。このような損傷は、心臓や脳におけるのと同様、例えば、腎臓、肝臓、肺、膵臓、骨格筋、軟部組織(例えば、腱、靭帯、筋膜、線維組織、脂肪、滑膜、神経及び血管)、及び腸のような多くの組織で発生する可能性がある。従って、本書に開示される主題によって治療される(例えば、減少又は予防される)浮腫は、大脳、網膜、肝臓、腎臓、膵臓、脊髄、腸間膜、四肢、腸、脳、心筋、中枢神経系、皮膚、又は肺の虚血再灌流、又はそれらの組み合わせを含むことができるが、これらに制限されない。特に、虚血再灌流に関連する浮腫は、臓器移植で治療され得る。
【0063】
II.一般的検討事項
"Toll様受容体"又は"TLR"は、胚発生及び病原体関連分子パターン(PAMPs)の認識の両方における役割を含む、複数の役割を持つ。Sioudら, J. Mol. Biol., 364(5), 945-954 (2006); 並びにJanssens 及びBeyaert, Clin. Microbiol. Rev., 16(4), 637-646 (2003)を参照のこと。TLRは、その細胞外ドメイン、及びToll/IL1受容体(TIR)ドメインと呼ばれる保存領域を含む細胞質尾部に、反復(repeated)ロイシンリッチモチーフを含むI型膜貫通タンパク質である。少なくとも10のヒトTLRタンパク質が、Toll様受容体1-10として同定されている。TLRは、微生物又は有害な環境因子を感知することにより、病原体を襲うための早期の自然免疫における役割を果たす。これらの進化的に保存された受容体、ショウジョウバエのToll遺伝子の同族体(homologue)は、微生物病原体(すなわち、PAMPs)によって表される高度に保存された構造モチーフを認識し、さらに例えば二本鎖RNA、ヒアルロン酸の断片、フィブロネクチン及び他である有害物質又は組織損傷による組織の障害の生成物を感知する。PAMPsは、フラジェリン、細菌DNA及びウイルス性二本鎖RNAと同様、リポ多糖類(LPS)、ペプチドグリカン(PGN)及びリポペプチドのような、様々な細菌の細胞壁成分を含む。TLRは、病原性微生物の生成物に対し"自然免疫"応答を起こすことにより、ウイルス、細菌、寄生的病原体(parasitic agent)又は真菌のような病原性微生物から、及び組織損傷から哺乳動物を保護する。それらはさらに、細胞を破壊すると共に、二本鎖RNA又はTLRと相互作用しうる他のPAMPsを放出する有害な環境因子から動物を保護する。
【0064】
自然免疫応答は、共刺激分子と同様に幾つかの炎症性サイトカイン及びケモカインをコードする遺伝子の増加をもたらすと共に、抗原特異的な適応免疫の発達に役割を果たす。PAMPsによるTLRの刺激は、MyD88及びIRAK1のような多くのタンパク質を含むシグナル伝達カスケード(signaling cascade)を開始する。このシグナル伝達カスケードは、炎症誘発性(pro-inflammatory)サイトカイン(例えば、TNFα及びIL -1βなど)、及び適応免疫応答を導くエフェクターサイトカインの分泌を誘導する転写因子NF-κBの活性化につながる。シグナル伝達カスケードは、1型IFN生成を増加させ、シグナル伝達兼転写活性化因子(Stat)を活性化させ、IRF-1遺伝子発現を増加させ、及びISRE's、インターフェロン応答因子(IRF)配列(element)を活性化させるためのIRF-3経路を知らせる(signal)ことができるTRIF/TICAM-1のようなアダプターをさらに含む。
【0065】
TRL4は、LPS認識に必須の受容体である。さらにTLR4は、熱ショックタンパク質(HSP60及びHSP70)、フィブロネクチンのドメインA、並びにヒアルロン酸、ヘパリン硫酸及びフィブリノーゲンのオリゴ糖のような、内因性リガンドの認識に関与している。
【0066】
エンドトキシン注入又は活性化補体の効果に関する初期の研究(Parker 及びBrigham, J. Appl. Physiol., 63(3), 1058-1062 (1987)を参照のこと)にまでさかのぼって、急性肺損傷の多くの形態に2つの段階(初期及び後期)が説明されている。Eganら, J. Surg. Res., 45, 204-214 (1988) を参照のこと。本書に開示される主題は、虚血再灌流による肺水腫の初期発生(early development)のための肺微小血管内皮細胞上のTLR4に関与するデータに関する。特に、以下の実施例にさらに記述されるように、本書に開示される主題は、虚血再灌流に起因する浮腫がMyD88-/-マウスにおいて生じ、さらに虚血再灌流に起因する浮腫がMAPK及びNF-κB活性化に関係なく生じることを示す。マウス内皮細胞にTRIF経路が無いこと(Harariら, Circ. Res., 98(9), 1134-1140 (2006)を参照のこと)と相俟って、この証拠は、TLR4によって媒介(mediated)される浮腫がTLR4によって媒介される転写イベントと無関係に生じることを示唆する。本書に開示される主題は又、既知のTLR4拮抗薬であるCRX - 526がIRIモデルにおける浮腫を予防するという発見に関係する。
【0067】
III.化学式(I)
IIIA.化学式(I)の化合物
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、虚血再灌流に関係する浮腫を含む、浮腫を予防又は減少させる化合物の使用に関する。幾つかの実施形態において、この化合物は、単糖類類似体を含むリピドA模擬体である。幾つかの実施形態において、単糖類類似体はアミノ糖である。幾つかの実施形態において、アミノ糖はグルコサミンである。幾つかの実施形態において、この化合物は、アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩(AGP)又はこれらの医薬的に許容された塩である。
【0068】
一般的に、AGPは、合成(即ち、化学合成された)リピドA模擬体を表し、化学式(I):
【化1】
又は医薬的に許容された該化合物の塩の構造を有することができ、
ここで:
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、mは0〜2の整数を表し;及び
R5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である。
【0069】
幾つかのAGPはTLR4の作用薬として作用する一方で、他はTLR4を阻害することが報告されている。Stoverら., J. Biol. Chem., 279(6), 4440-4449 (2004)を参照のこと。一般に、抑制AGPsは、炭素原子が8個以下の第2級アシル鎖(即ち、R1,R2又はR3)を少なくとも1つ含む。従って、幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つは-C(=O)R8であり、ここでR8はC1〜C6アルキル基(即ち、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基)である。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも2つは、C2〜C7アシル基を表す。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つは、-C(=O)R8を表し、ここでR8はC5アルキル基である。幾つかの実施形態において、R5,R6及びR7は、それぞれC10〜C12の直鎖で、完全に飽和されたアルキル基を表す。
【0070】
幾つかの実施形態において、この化合物は、CRX-526、即ち化学式(I)の化合物又は医薬的に許容されたその塩であり、ここでnは1であり;X1及びX2はそれぞれ酸素原子であり;R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり;R4が−C(=O)OHであり;及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である。
【0071】
様々なAGPの合成及び活性は、既に記述されている。Cluff 他, Infection and Immunity, 73(5), 3044-3052 (2005); Stover 他, J. Biol. Chem., 279(6), 4440-4449 (2004) 及びこの中に引用された参考文献を参照のこと。Johnson他に対する米国特許No. 6,113,918も参照のこと。
【0072】
化学式(I)の化合物は、非対称炭素原子を有し、従って光学異性体又はジアステレオマーとして存在できる。ジアステレオマー混合物は、それらの物理的化学的差異に基づき、例えばクロマトグラフィー及び/又は分別結晶法である、それ自体既知の方法により個々のジアステレオマーに分離されることができる。光学異性体は、適切な光学的活性化合物(例えば、アルコール)と反応させることで光学的異性体混合物をジアステレオマー混合物に変換し、ジアステレオマーを分離し、及び個々のジアステレオマーを対応する純粋な光学異性体に変換する(例えば、加水分解)ことにより分離することができる。ジアステレオマー、光学異性体及びこれらの混合物を含む、このような異性体は全て、本書に開示される主題の部分と考えられる。
【0073】
III.B.医薬的に許容された塩
本書に開示される主題の化合物(例えば、化学式(I)の化合物)との関連で用いられる表現"医薬的に許容された塩"は、医薬的に許容されたカチオン性の塩を含む。表現"医薬的に許容されたカチオン性の塩"は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム及びマグネシウム)、アルミニウム塩、アンモニア塩、及びベンザチン(N,N'-ジベンジルエチレンジアミン),コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)、ベネタミン(N−ベンジルフェネチルアミン)、エタノールアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリエタノールアミン(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)及びプロカインのような有機アミンの塩、のような塩を定義することを意図するがこれらに限らない。幾つかの実施形態において、本明細書で用いられる用語"医薬的に許容された塩"は、ヒトにおいて医薬的に許容された塩を表す。
【0074】
化学式(I)の化合物の医薬的に許容された塩は、共溶媒中で、遊離酸型の上記化合物を、通常1価以上の適切な塩基と反応させることにより容易に調製できる。共溶媒は、ジエチルエーテル、ジグライム及びアセトンを含むことができるが、これらに制限されない。塩基としては、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム水素化物、カリウムメトキシド、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ベンザチン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、及びトリエタノールアミンを含むことができるが、これらに制限されない。この塩は、乾燥するまで濃縮すること、又は非溶媒を加えることで単離される。多くの場合、酸の溶液を、カチオンの異なる塩の溶液(例えば、エチルヘキサン酸ナトリウム又はカリウム、オレイン酸マグネシウム)と混合し、上記のように共溶媒を使用することにより塩を調製することができ、この調製物から所望のカチオン塩を沈殿させ、又は他の場合は、濃縮により単離できる。
【0075】
IV.浮腫を予防又は減少させる方法
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、浮腫を治療する方法に関する。幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、組織内の浮腫を予防又は減少させる方法を提供し、この方法は、化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、組織とを接触させることを含み、ここで:
nは、1〜6の整数であり;
X1は酸素原子又はイオウ原子であり;
X2は酸素原子又はイオウ原子であり;
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり;
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、mは0〜2の整数であり;及び
R5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である。
【0076】
幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3のうち少なくとも1つは-C(=O)R8であり、ここでR8はC5の直鎖で、完全に飽和されたアルキル基を表す。幾つかの実施形態において、R5,R6及びR7は、それぞれC10〜C12の直鎖で、完全に飽和されたアルキル基を表す。
【0077】
幾つかの実施形態において、nは1である。幾つかの実施形態において、X1及びX2はそれぞれ酸素原子である。幾つかの実施形態において、R4が−C(=O)OHである。幾つかの実施形態において、R1,R2及びR3はそれぞれC2〜C7アシル基である。
【0078】
幾つかの実施形態において、上記化合物はCRX-526、即ち化学式(I)の化合物又は医薬的に許容されたその塩であり、ここでnは1であり;X1及びX2はそれぞれ酸素原子であり;R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり;R4が−C(=O)OHであり;及びR5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である。
【0079】
予防又は減少される浮腫は、例えば、肺水腫、炎症、感染、外傷(例えば、外科手術)、毒素の吸入、循環障害、又は高高度への暴露を含む、多くの異なる原因に関係する可能性がある。幾つかの実施形態では、浮腫は内皮透過性の増加に関連付けられる。幾つかの実施形態では、予防又は減少される浮腫は、臓器移植、組織移植(例えば、乳房再生のような形成外科の途中)、自家移植(例えば、自己組織又は皮膚移植)、他の血管移植片又は組織片(flap)(例えば、筋肉の移植片又は筋皮弁(myocuteneous flap)、肺塞栓(肺動脈からの血餅の除去)、又は肺血栓内膜摘除術(肺血管系からの組織塊(organized clot)及びフィブリンの外科的除去)中に発生する可能性があるような虚血再灌流に関する(例えば、その結果であるか又はそれに関連付けられる)。幾つかの実施形態では、虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関連する。幾つかの実施形態では、虚血再灌流は、心臓手術中の心臓マヒ(cardioplegia)(すなわち、上行大動脈をクロスクランプ(cross clamping)することによって心臓の灌流が中断された場合のように、心臓活動が意図的に停止されたとき)、又は整形外科に起因する骨格筋の虚血(例えば、手術野で血液を減らすか、又はその他の血流を中断するため、止血帯又は他の装置が手足に適用されている場合)に関する。
【0080】
幾つかの実施形態では、虚血又はそれに続く再灌流の間、組織への損傷を予防又は軽減するため、予測された虚血性イベント(例えば、臓器移植のための組織の除去、心臓マヒ、止血帯の適用など)の前に組織が上記化合物の有効量と接触される。幾つかの実施形態では、虚血の間、組織は化合物と接触させられることができる。幾つかの実施形態では、虚血の間隔の後(例えば、再灌流の間)に、組織は化合物と接触させられることができる。幾つかの実施形態では、虚血の前、虚血中、虚血の間隔の後、又はそれらの任意の組み合わせで、組織が接触させられることができる。
【0081】
組織は、皮膚、骨、骨髄、脳、軟骨、角膜、骨格筋、心筋、心臓弁、平滑筋、血管、手足又は指、腎臓又はその一部、肝臓又はその一部、心臓又はその一部、膵臓又はその一部、腸又はその一部、肺又はその一部を含むことができる。幾つかの実施形態では、組織は、心臓、肝臓、腎臓、脳、小腸、膵臓、骨格筋、皮膚、及び肺組織からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、肺組織は、肺移植のレシピエントへの移植をその肺組織が目的とする肺移植のドナーによって提供される、肺又はその一部(例えば、肺葉)を含む。
【0082】
移植を含む実施形態においては、ドナー又はレシピエントは、ヒト又は非ヒト哺乳動物であることができる。臓器又は組織移植のドナー(例えば、肺移植のドナー)は、生きているか、又は死んでいて(すなわち、死体)もよい。幾つかの実施形態では、ドナーは心停止ドナー(NHBD)である。幾つかの実施形態では、ドナーは、レシピエントと同一個体(すなわち、自家移植)であることができる。
【0083】
幾つかの実施形態において、待機的(elective)整形外科手術のための無血領域(bloodless field)を提供するための止血帯の拡張の結果として虚血の間隔が起こる場合、組織は骨格筋、骨及び他の軟部組織であってよい。幾つかの実施形態では、門脈三管の圧縮によって肝臓への血流が一時的に閉塞された場合、組織は、プリングル法(Pringle maneuver)に曝される肝臓であってよい。
【0084】
化学式(I)の化合物の多くは、TLR4拮抗薬であることが期待される。従って、幾つかの実施形態において、化合物は、TLR4拮抗薬であろう。幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、TLR2拮抗薬である。幾つかの実施形態において、化合物は、TLR4及びTLR2の両方の拮抗薬である。
【0085】
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、その治療を必要とする対象に、浮腫を予防又は減少させる方法を提供する。幾つかの実施形態において、上記方法は、化学式(I)の化合物の有効量又は該化合物の医薬的に許容された塩を、対象に投与することを含む。幾つかの実施形態において、上記化合物は、予測される虚血性イベントの前、虚血の間、及び/又は虚血の間隔に続いて、対象に投与される。化合物は、任意の適切な経路(すなわち、経口、静脈内、非経口等)を経由して投与されることができる。
【0086】
幾つかの実施形態において、対象は哺乳類である。幾つかの実施形態において、対象はヒトである。
【0087】
V.移植の間の虚血再灌流に関連する浮腫を予防又は減少させる方法
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、臓器又は組織移植の対象における虚血再灌流に関連する浮腫を予防又は減少させる方法を提供し、この方法は:移植用の臓器又は組織を準備し;その臓器又は組織を化学式(I)の化合物又はその医薬的に許容された塩と接触させ、それによって治療を受けた臓器又は組織を提供し;その移植を必要とする対象に治療を受けた臓器又は組織を移植することを含み、ここで、前記化合物で治療を受けていない臓器又は組織を用いて実行される移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫と比較して、その対象における虚血再灌流に関係する浮腫が予防又は低減される。
【0088】
幾つかの実施形態では、臓器又は組織は、腎臓又はその一部、肝臓又はその一部、心臓又はその一部、網膜、膵臓又はその一部、腸又はその一部(例えば、小腸組織又は大腸組織)、骨格筋組織、皮膚組織、軟部組織、筋組織(骨格筋又は平滑筋)、脳組織、又は肺又はその一部を含む群から選択することができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、臓器又は組織は、肺組織が肺移植レシピエントへの移植を目的とする、肺移植ドナーから提供された肺又はその一部(例えば、肺葉)である。
【0089】
臓器又は組織のドナー又はレシピエントは、ヒト又は非ヒト哺乳動物であることができる。幾つかの実施形態では、ドナーとレシピエントは、同一種のものである。幾つかの実施形態では、ドナーとレシピエントは、同一個体である。幾つかの実施形態では、ドナーとレシピエントは異なる種のものである。従って、本書に開示される主題は、異種移植の手順の一部として使用されることができる。
【0090】
肺(又は他の臓器又は組織)移植のドナーは、生きているか、又は死んでいて(すなわち、死体)もよい。幾つかの実施形態では、ドナーは心停止ドナー(NHBD)である。
【0091】
常にではないが典型的に、肺移植ドナーは、目的とする肺移植レシピエントと同一種である。肺のドナーの選択は、ドナー年齢、喫煙歴、動脈血ガス、胸部X線所見、気管支鏡所見及び回収時の肺の身体診察:のような、一連の臨床所見に基づいて一般に行われる。本書で開示された方法は、肺移植に典型的に関連した虚血再灌流に関する浮腫を低減又は予防することができるので、幾つかの実施形態では、移植のために肺組織の機能がわずかに低下すると考えることができる(すなわち、移植術中に機能はほとんど失われない)。
【0092】
接触は、任意の適切な経路(すなわち、経口、静脈注射、気道を経由する非経口等)を経由して、上記化合物を含有する製剤の投与により行うことができる。上記方法はさらに、ドナーから上記組織又は臓器を除去する工程を含むことができる。このように、上記接触は、除去前、除去後、又は除去の前後の両方で行うことができる。この方法はさらに、上記組織又は臓器の冷保存又は温保存を含むことができる。上記接触は、冷保存又は温保存の前、冷保存又は温保存の間、又は冷保存又は温保存の前及びその間の両方で行うことができる。幾つかの実施形態において、接触は、上記化合物を含有する医薬製剤のドナーの吸入を介して生じることができる。NHBDs又は他のドナーの場合、接触は気道を経由して行うことができる。幾つかの実施形態において、接触は、生体外灌流回路の肺動脈内へ、又は肺静脈を経由した逆行により、上記化合物を含有する製剤を投与することで生じることができる。幾つかの実施形態において、接触は、ドナーからの回収後に臓器を灌流するために使用される生体外灌流回路又は装置で生じることができる。幾つかの実施形態において、接触は、肺を廃棄(refusing)及び循環するための生体外循環(ventilation)/灌流回路又は装置で生じることができる。
【0093】
幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、TLR2とTLR4の一方又は両方の拮抗薬である。幾つかの実施形態において、化合物は、TLR2とTLR4の両方の拮抗薬である。
【0094】
VI.医薬組成物
本明細書で用いるように、用語"活性化合物"は、化学式(I)の化合物及びその医薬的に許容された塩を表す。この活性化合物は、何れかの適切な方法により細胞と接触されることができる。本明細書で用いるように、用語"有効量"は、本書に記載した様々な病理学的状態及び後遺症を阻害できる活性化合物又は複数の活性化合物の量を表わす。用語"阻害"又は"阻害する"は、浮腫の危険に曝される対象の組織損傷(例えば、肺組織)に関する又はその結果である疾患(condition)のような、しかしこれに制限されない、進行の妨げ、予防、治療、緩和、改善、停止、抑制、低減、遅延若しくは逆転、又は病状の重篤性の低減を表す。従って、本書に開示される活性化合物の投与方法は、必要に応じて、医学的治療(急性)及び/又は予防(防止)投与の両者を含む。
【0095】
投与される活性化合物の量及びタイミングは、勿論、治療を受ける対象、苦痛の重篤性、投与方法及び処方した医師の判断に依存する。従って、対象間のバラツキのために、以下に示す投与量はガイドラインであり、及び医師は、医師が対象に対して適切と考えた治療を得るために化合物の投与量を徐々に増量できる。所望の治療の程度を考えると、医師は、他の疾患の存在と同様、対象の年齢、既往症の存在のような様々な因子のバランスを保つことができる。以下により詳しく議論するように、経口、静脈注射、又は気道投与のための医薬製剤が調製されることができる。
【0096】
任意の特定の活性化合物の治療上有効な用量は、その使用が本書に記載した実施形態の範囲内であるが、化合物間、及び対象間で多少変わりうると共に、対象の病態及び配送経路(route of delivery)に依存しうる。一般的提案としては、約0.1から約50mg/kgの投与量は治療上の有効性を持つことができ、ここで全ての重量は、活性化合物の重量に基づいて計算され、塩が用いられる場合も含む。より高濃度での毒性の懸念は、静脈注射の投与量をより低い濃度、例えば約10mg/kgまでに制限することができるが、ここで全ての重量は、活性主成分(active base)の重量に基づいて計算され、塩が用いられる場合も含む。経口投与に対し、約10mg/kgから約50mg/kgまでの投与量が用いられることができる。一般的に、筋肉内注射に対して、約0.5mg/kgから5mg/kgまでの投与量が用いられることができる。幾つかの実施形態において、静脈注射又は経口投与に対して、約1μmol/kgから約50μmol/kgまで、又は任意に約22μmol/kg及び約33μmol/kgの間の化合物の投与量とすることができる。
【0097】
本書に記載するin vitro及びin vivoアッセイ(assay)は、化合物の活性を比較できる方法を提供する。これらの比較の結果は、浮腫からの保護を導くためにヒトを含む哺乳動物における投与量レベルを決定するのに有用である。このようなアッセイは、化学式(I)の化合物と、他のTLR4及び/又はTLR2リガンドを含む他の化合物の活性との比較を提供する。これらの比較の結果は、このような投与量レベルを決定するために有用である。
【0098】
本書に開示される方法に従い、本書に記載された医薬的に活性な化合物は、固体又は液体として経口的に投与されることができ、又は溶液、懸濁物又は乳濁液として筋肉内注射、静脈内注射又は吸入により投与されることができる。幾つかの実施形態において、化合物又はその塩は、リポソーム懸濁物として吸入、静脈注射、又は筋肉内注射により投与されることができる。吸入による投与の場合、活性化合物又は塩は、約0.5から約5ミクロン、及び任意に約1から約2ミクロンの粒子サイズを持つ複数の固体粒子又は液滴の形態であることができる。幾つかの実施形態において、活性化合物はナノ粒子運搬賦形剤(delivery vehicles)で投与することができる。
【0099】
医薬製剤は、医薬的に許容された任意の担体内に、本書に記載された活性化合物又はその医薬的に許容された塩を含むことができる。もし溶液が所望されるならば、水溶性の化合物又は塩に関しては、水が最適な担体である。水溶性の化合物又は塩に関して、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物のような有機賦形剤(organic vehicle)が適切であることができる。後者の場合、有機賦形剤は、かなりの量の水を含むことができる。その後、どちらの場合の溶液も、一般的には0.22ミクロンフィルターを通す濾過による、当業者に公知の適切な方法で滅菌されることができる。滅菌の後、溶液は、発熱性物質除去処理を施した(depyrogenated)ガラス瓶のような適切な容器内に分配されることができる。この分配は、任意に無菌的方法で行われる。その後、滅菌した蓋(closure)が瓶の上に置かれ、また、必要に応じて瓶の内容物が凍結乾燥されることができる。
【0100】
活性化合物又はその塩(例えば、化学式(I)の化合物)に加えて、医薬製剤は、pH調整添加剤のような他の添加物を含むことができる。特に、有用なpH調整剤は、塩酸のような酸、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム又はグルコン酸ナトリウムのような塩基又は緩衝剤を含む。さらに、この製剤は、抗菌性保存剤を含むことができる。有用な抗菌性保存剤は、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びベンジルアルコールを含むことができる。この抗菌性保存剤は、一般に、複数回用量の使用のために設計された瓶内に製剤が入っている場合に使われる。本書に記載された医薬製剤は、当業者に公知の技術を用いて凍結乾燥されることができる。
【0101】
経口投与のため、医薬組成物は、溶液、懸濁物、錠剤、ピル、カプセル、粉末等の形態を取ることができる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムのような様々な添加剤(excipients)を含む錠剤は、ポリビニルピロリドン、サッカロース、ゼラチン及びアカシアのような結合剤と共に、澱粉(例えば、ジャガイモ又はタピオカ澱粉)及びある種の複合ケイ酸塩のような様々な錠剤崩壊剤と一緒に使われる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルク(talc)のような潤滑剤が、しばしば錠剤化の目的のために非常に有用である。同様なタイプの固体組成物がまた、軟質及び硬質ゼラチンカプセルの充填剤(filler)として使われる。これに関連した材料は又、高分子量ポリエチレングリコールのみならず、ラクトース又は乳糖を含む。経口投与のために水溶性懸濁物及び/又はエレキシル剤が望まれる場合、本書に記述される主題の化合物は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及び様々な類似の組合せの希釈剤と同様、様々な甘味料、香料、着色剤、乳化剤、及び/又は懸濁剤と組み合わせることができる。
【0102】
本書に記述される主題の他の実施形態において、本書に記載された活性化合物又はその塩を含む注射可能で、安定した、無菌製剤が、密封した容器内の単位用量として提供される。化合物又は塩は凍結乾燥物として提供され、これは対象への注射に適した液体製剤を形成するため、適切な医薬的に許容された担体と再構成されることができる。化合物又は塩が実質的に非水溶性の場合、生理学的に許容された十分な量の乳化剤が、水性担体に化合物又は塩を乳化させるために十分な量だけ用いられることができる。特に有用な乳化剤とは、ホスファチジルコリン及びレシチンを含む。
【0103】
本書に提供される更なる実施形態は、本書に開示される活性化合物のリポソーム製剤を含む。リポソーム懸濁物を形成する技術は、当業者に公知である。化合物が水溶性の塩であり、従来のリポソーム技術を用いる場合、同じ物が脂質小胞に取り込まれる。この場合、活性化合物の水溶性のために、活性化合物は、リポソームの親水性中心又はコア内に実質的に巻き込まれる(entrained)。用いられる脂質層は、任意の従来の組成物であることができ、コレステロールを含むか、又はコレステロールを含まないことができる。興味ある活性化合物が非水溶性であり、再び従来のリポソーム形成技術を用いる場合、塩は実質的にリポソームの構造を形成する疎水性の脂質2重層内に引きずられる。いずれの場合も、標準的な超音波処理及びホモジナイザー技術を使うことにより、生成されるリポソームはサイズが小さくなることができる。本書に開示される活性化合物を含むリポソーム製剤は、凍結乾燥物を生成するために凍結乾燥されることができ、これはリポソーム懸濁物を再生するために水のような医薬的に許容された担体と再構成されることができる。
【0104】
吸入によるエアロゾルとしての投与に適した医薬製剤もまた提供される。これらの製剤は、本書に記載された所望の化合物又はその塩の溶液若しくは懸濁物、又は化合物若しくは塩の複数の固体粒子を含む。所望の製剤は小形チャンバー内に配置されて噴霧されることができる。化合物又は塩を含む複数の液滴又は固体粒子を生成するため、噴霧は圧縮空気又は超音波エネルギーにより行うことができる。液滴又は固体粒子は、約0.5から約10ミクロン、及び任意に約0.5から約5ミクロンの範囲の粒子サイズを持つべきである。固体粒子は、微粉化のような当業者に公知の適切な手法で固体化合物又はその塩を処理することにより、得られることができる。任意に、固体粒子又は液滴のサイズは、約1から約2ミクロンであることができる。この点で、この目的を達するために市場の噴霧器を利用可能である。その開示が参照により全体が本明細書に組込まれる米国特許5,628,984に記載された方法で、呼吸域粉塵(respirable particles)のエアロゾル懸濁物を介して化合物が投与されることができる。
【0105】
エアロゾルとしての投与に適した医薬製剤が液体の形態である場合、その製剤は、水を含む担体中の水溶性活性化合物を含むことができる。界面活性剤が存在することができ、これにより製剤の表面張力が充分に低下し、噴霧の際に所望のサイズ範囲内の液滴が形成される。
【0106】
示されるように、水溶性及び非水溶性の活性化合物の両方が提供される。本書で用いられるように、用語"水溶性"は、約50mg/mL、又はそれ以上の量の水に溶ける任意の組成物を定義することを意味する。また、本書で用いられるように、用語"非水溶性"は、約20mg/mL未満の水への溶解度を持つ任意の組成物を定義することを意味する。幾つかの実施形態において、水溶性化合物又は塩が好ましいが、他の実施形態においては、非水溶性化合物又は塩が同様に好ましい。
【0107】
投与の一態様において、虚血の危険がある場合、本書に開示される主題の化合物は、手術の直前(例えば、心臓手術又は移植手術の手術前24時間以内)、手術中及び/又は手術後(手術後24時間以内)に投与されることができる。投与の他の態様において、活性化合物は、手術前に初期負荷用量(例えば、ボーラス注射又は点滴)で投与され、その後、手術前、手術中及び手術後に一定注入されることができる。この活性化合物は又、常習的な毎日のモードで投与されることができる。
【0108】
様々な医薬組成物及びある量の有効成分を伴う組成物の調製方法は、本開示に照らして当業者によって公知であり、又は決定できる。医薬組成物の調整方法の例として、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easter, Pa., 第16版 (1980)を参照のこと。本書に開示された主題に従う医薬組成物は、例えば、0.0001%〜95%の活性化合物を含むことができる。いずれにしても、投与される組成物又は製剤は、治療される対象の疾患/病態を治療するに有効な量の活性化合物(複数もあり)の量を含むことができる。
【0109】
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題の方法は、体外組織又は臓器内で、又は、組織又は臓器ドナーから移植レシピエントに移植される組織又は臓器内で、虚血再灌流に関連した浮腫を予防又は減少させるために使用されることができる。体外組織又は臓器は、個体内に存在しない組織又は臓器である(ex vivoとも呼ばれる)。組織又は臓器移植に対して、取り除かれたドナーの組織又は臓器もまた、採取の間、輸送の間、及びその後のレシピエントへの移植の間、虚血再灌流障害を受けやすい。本書に開示される方法は、例えば、移植可能な組織又は臓器を維持又は保存するために用いられる溶液を補強することにより、移植可能な組織又は臓器の機能を高めるために使用されることができる。例えば、この方法及び組成物は、輸送の間に移植可能な組織又は臓器を浸けるために用いられることができ、又は移植前、移植の間若しくは移植後、移植可能な組織又は臓器と接触させて置くことができる。幾つかの実施形態において、本書に開示される主題の製剤は、組織又は臓器がドナーの中に在るときに組織又は臓器と接触させることができる。
【0110】
本書に開示される主題の溶液は、灌流装置(例えば、ex vivoでの灌流回路)で用いられることができる。本書で用いられる灌流装置は、特定の臓器に注入するために用いる任意の機械装置、又は化合物又は組成物を含む溶液を用いる体循環である。このような装置は、1以上の容器(reservoir)を含む。装置は、臓器、静脈又は動脈に挿入できる容器から通じるチューブ、カテーテル、又はカニューレを含むことができる。装置は、電気ポンプ及び溶液の温度、配送速度又は容量を制御するための装置を有する電気機械装置であることができる。特定の実施形態において、特定の臨床症状、臓器の重量、又は臓器の大きさ(例えば、心肺バイパス手術、対、腎臓移植、対、肝臓移植)のため、1以上の溶液が適切な温度、速度又は容量で配送されるように、装置がプログラム可能である。従って、幾つかの実施形態において、本書に開示される主題は、ex vivoの臓器又は組織のための保存液に関する。幾つかの実施形態では、保存液は、化学式(I)の化合物を含む。幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、CRX - 526である。幾つかの実施形態において、化合物は、TLR2とTLR4の両方の拮抗薬である。
【0111】
VII.対象
幾つかの実施形態において、本書に開示される主題において治療される対象は、好ましくはヒトであるが、本書に記載された方法は、用語"対象"に含めることが意図されるすべての脊椎動物種に関して有効であるということを理解すべきである。本書に記載された方法は、温血脊椎動物の虚血再灌流に関連した浮腫の治療及び/又は予防において特に有用であるが、これに限定されない。従って、この方法は、哺乳動物及び鳥の治療として用いることができる。幾つかの実施形態において、本書に開示された方法の対象は、臓器移植レシピエントである。
【0112】
より詳細には、(シベリアトラのように)絶滅の危機にある哺乳動物、経済的に重要な哺乳動物(ヒトに消費されるために農場で育つ動物)及び/又はヒトに対して社会的に重要な哺乳動物(ペット又は動物園で維持される動物)、例えば、(ネコ、イヌのような)ヒト以外の肉食動物、イノシシ属の動物(ブタ、ホッグ及びイノシシ)、反芻動物(畜牛、雄牛、羊、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、及びラクダなど)、及びウマと同様、ヒトのような哺乳動物の治療が本書に提供される。また、ニワトリ及びさらにとりわけヒトにとって経済的に重要である家禽、即ち七面鳥、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウ等と同様、絶滅の危機にある種の鳥、動物園に又はペットとして飼育されている種の鳥の治療を含む、鳥の治療が提供される。従って、本書に記載される方法の実施形態は、家畜化されたイノシシ属の動物(ブタ及びホッグ)、反芻動物、馬、家禽等を含むがこれらに制限されない家畜の治療を含む。
【実施例】
【0113】
以下の実施例は、例証となる実施形態を提供する。本書の開示及び当業者の一般的な水準に照らして、以下の実施例は例証のみを意図しており、本書に開示される主題の範囲から離れることなく、多数の変更、修正、及び調整を行うことができることを当業者は理解することができる。
【0114】
実施例1
一般的方法
C3H/HeJ、C3H/OuJ、TLR4-/-及びC57BL/6Jの雄のマウスは、Jackson Laboratories(バーハーバー、メイン州、アメリカ合衆国)から購入され、MyD88-/-マウスは、審良静男博士(大阪大学、大阪、日本)により提供された。足立ら、Immunity, 9, 143-150 (1998)を参照のこと。マウスは、25〜30グラムの重さで8〜10週齢になるまで無菌設備で保持された。特に定めがない限り、試薬はシグマ(セントルイス、ミズーリ州、アメリカ合衆国)からのものとされた。
【0115】
マウス肺IRIと関門機能(Barrier Function)の評価の外科的モデル
マウスは、ケタミン(0.1mg/gm体重)とキシラジン(0.01mg/gm)で腹腔内に(interperitoneally)麻酔され、続いて初期投与量の1/3で毎時麻酔された。気管切開は、Columbus Instruments Ventilator CIV-101 (Columbus Instruments、コロンバス、オハイオ州、アメリカ合衆国)を使用した人工呼吸器(0.4 mLの換気量、120/minの呼吸数、I/E 0.4 、PEEP 3cm H2O、FiO2、1.0で)を許容した。水和(hydration)を維持するため、右頸静脈は、シリンジポンプ(Medfusion 2010i、Medex、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)により、450μL/時間、0.9%生理食塩水中2.5%アルブミンの注入のためカニューレを挿入された。直腸温度がモニターされ、加温パッドで維持された。左肺門は、左開胸を介して微小血管クランプで1時間閉塞された。再灌流は、クランプの除去で始まった。動物は、噴門切除術によって15分から3時間の間隔で屠殺され、両方の肺が摘出された。各肺尖部は切除されて直ちに秤量され、その後、湿乾燥重量比(W/D)を決定するため、60℃のオーブンで48時間乾燥されて再秤量された。残りの肺組織は、液体窒素で急速冷凍され、-80℃で保存された。犠牲の後にすぐに切除された肺が対照として用いられた。
【0116】
エバンスブルー染料(EBD)による血管外アルブミン溢出
1時間IRI後の血管外アルブミン溢出が上記EBD法により評価された。Sariaら、J. Neurosci Methods, 8(1), 41-49 (1983)を参照のこと。左門(left hilum)を閉塞した後、0.9%生理食塩水の250μL中に溶解された30mg/kgのEBDが右頸静脈に注射された。1時間の再灌流の後、胸骨正中切開を介して胸が開かれ、マウスは右心室切開術で安楽死され、肺動脈幹が18ゲージの血管カテーテルでカニューレ挿入され、左心耳が切断された。血管内EBDを除去するため、両方の肺は、通常の生理食塩水で洗い流され、摘出及び秤量された。肺組織はホルムアミド(100mg肺組織/1mLホルムアミド、Roche Diagnostics(インディアナポリス、インディアナ州、アメリカ合衆国)に懸濁され、50℃で24時間培養された。標本は、その後(13,000g×30分)遠心分離され、50μLの上清が96-ウェルプレート(well plates)に置かれてμQuant分光光度計(Bio-Tek Instruments, Inc.,ウィヌースキ、バーモント州、アメリカ合衆国)で620nmにて比色評価された。相対光学濃度値は、試料の重量によって正規化された。
【0117】
組織学のための拡張固定(Inflation Fixation)
IRI(n= 4/系統(strain)/集団(group))の60又は180分後、肺の塊は、25cm H2Oの一定圧で、室温で24時間にわたり4%緩衝パラホルムアルデヒドで気管を介して拡張固定された後、パラフィン内に包理された。5ミクロンの切片がヘマトキシリン及びエオシンで染色された。気管切開後すぐに屠殺された動物の肺(n= 4/系統(strain))が対照として用いられた。
【0118】
NF-κB転座のための免疫染色
1:100希釈でウサギポリクローナルp65抗体(ab 31481; Abcam plc、ケンブリッジ、イギリス)を用いて、拡張固定された肺組織の免疫組織化学的染色が行われた。試料は5μmの薄片にされ、一晩乾燥され、さらに60℃で1時間焼かれた。切片は脱パラフィンされ、100℃で30分間、6.0 pHのシトラール抗原賦活化用バッファー(Citra Antigen Retrieval Buffer)(Dakocytomation, Carpinteria、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)でエピトープ賦活化(epitope retrieval)がされた。バックグラウンドは、ペルオキシダーゼブロック、無血清タンパク質ブロック、及びアビジン/ビオチンブロック(Dakocytomation、Carpinteria、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用してブロック(block)された。切片は、4℃で一次抗体p65に一晩培養された。可視化のため、DABクロモゲン(chromagen)とともにLSAB +二次抗体を用いて検出が終了した(Dakocytomation、Carpinteria、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)。対比染色は適用されなかった。標本グループを知らされていない等級病理医により、1+(軽度、幾つかの核染色が明らか)、2+(適度、幾分強い染色であるが安定的でない)又は3+(実質的にすべての核の濃い安定した染色)の等級で、スライドがp65核染色に対して採点(scored for)された。
【0119】
ウェスタンブロット法及び濃度測定(Densitometry)
上記したように、タンパク質濃度測定及び免疫ブロット法(immunoblotting)が行われた。Wuら, Respir Res, 6(1), 26 (2005)を参照のこと。簡単に言えば、凍結肺組織が10μL/ mgの氷冷RIPA溶解緩衝液(100mM Tris- HCl pH 8.0、100mM NaCl、5mM NaF、2mM EDTA、1% NP- 40、1mM Na3VO4、100μM TPCK、1μMペプスタチンA、2μMロイペプチン、1mM PMSF、100μM ケルセチン)に懸濁され、加圧型細胞破砕(Dounce homogenized)され、さらに不溶性物質を除去するために4℃で10分間13200 rpmで遠心分離された。上清タンパク質濃度は、クマシー(Coomassie)タンパク質アッセイ試薬(Pierce Biotechnology、ロックフォード、イリノイ州、アメリカ合衆国)を用いて決定された。β-メルカプトエタノール(5%)及び追跡用色素を添加した後、試料は変性させられ、等量のタンパク質がSDS- PAGE(10%トリス-グリシン又は4%-12%ビス-トリスゲル;Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)によって分離(resolve)され、さらにイモビロン(Immobilon)- Pメンブレン(Millipore Corp、ビルリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)に転写された。ブロット(blot)は、0.1%のTween-20及び5%脱脂粉乳パウダーを加えたTBS中に1時間ブロックされ、一次抗体及びその後に二次抗体で培養され、続いてペルオキシダーゼの化学発光検出(Millipore Corp、ビルリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)が行われた。リン酸化又は全(total)JNK、p38、ERK、及びIκBαに対する抗体は、Cell Signaling Technology(ビバリー、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)から購入された。フィルムは、Epson Precision 4180フラットベッドスキャナ(Epson America, Inc.、ロングビーチ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)の16ビットグレースケールでの600 dpiでスキャンされた。濃度測定は、METAMORPH(登録商標)ソフトウェア(MDS Analytical Technologies, Inc,、サニーベール、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて行われた。
【0120】
骨髄移植(BMT)
キメラマウスは、前述の手順を使用したBMTによって生まれた。Schwallerら、 Embo J, 17(18), 5321-5333 (1998)を参照のこと。レシピエントマウスは、4時間離れた2回の線量(700cGY、その後500cGY)で供給される12Gyの致死照射(Gammacell 40137 Csγ-線源、Nordion、オタワ、カナダ)に暴露された。骨髄は、その大腿骨及び脛骨を培地(Roswell Park Memorial Institute (RPMI)緩衝液 + 10%ウシ胎仔血清(FBS) + 100単位ヘパリン + 1 M HEPES)で洗い流すことにより、ドナーマウスから得られた。採取された骨髄細胞は、0.2μmフィルタを通過され、200μLの無菌PBS + 10%FBS内に106個の細胞の濃度に数え上げられると共に再懸濁された。その後に骨髄細胞は、γ-放射線の2回目の線量を受けた直後にレシピエントの眼窩に注入された。完全な体液再構成(humoral reconstitution)を可能にするため、レシピエントマウスは無菌マイクロアイソレータ(microisolator)ケージに12週間保持された。
【0121】
実質細胞(P)又は骨髄細胞(M)の機能性(functional)TLR4(+)を有するマウスを生むため、4組のキメラが作られた。HeJマウスはOuJドナー(P-M+)から再構成された骨髄を有し;一方で、OuJマウスはHeJマウス(P+M-)から再構成された骨髄を有していた。"対照"キメラは、同じ系統(P-M-)及び(P+M+)からの骨髄を再構成することにより作られた。
【0122】
細胞培養実験に対する生存率の決定
3組で行われた別々の実験では、P35ディッシュ(dish)上にコンフルエンス(confluence;集密状態)まで増殖したHMEVCsは模擬IRIを受けた。製造者の取扱説明書に従い、同一時点で、細胞及び細胞培養培地又は乳酸リンゲル液は、CytoTox96非放射活性細胞毒性アッセイ(Promega、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)を用いて乳酸脱水素酵素(LDH)活性を評価された。実験モデルとは別に細胞生存率を評価するため、時間ゼロ及び24時間の時点で対照試料も採取された。他の試料からの吸光度を規格化するため、培養培地及び乳酸リンゲル液がバックグランド対照として用いられた。細胞毒性は、培地LDH活性を全LDH活性(細胞ペレットと培地の和)で除して計算された。生存率は逆数であり、各時点における%生存率として表された。
【0123】
気管支肺胞洗浄(BAL)及び肺胞マクロファージ(AM)細胞培養
HeJ及びOuJマウス由来のAMsは、BMT後に120日のBALで採取された。気管は、オーダーメード(tailored)の18ゲージカテーテル(Becton Dickinson、サンディ、ユタ州、アメリカ合衆国)でカニューレ挿入された。BALは、0.2mMのEGTAを含み、予め温められ滅菌された、エンドトキシン、カルシウム、及びマグネシウムを含まないPBSの4アリコート(aliquot)(35μL×グラム表示の体重)のゆっくりした気管放出によって実行された。洗浄液は、穏やかな吸引によって回収され、各マウスについて貯められ、250gで5分間遠心分離された。細胞は、10%熱不活性化FBS(Atlanta Biologicals、ローレンスビル、ジョージア州)、ペニシリンG(100 U/ mL)、及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含むRPMI 1640(Gibco BRL、ロックビル、メリーランド州、アメリカ合衆国)中に再懸濁された。生存率は、トリパンブルー色素排除(trypan blue exclusion)により安定して>95%であった。細胞は、96-ウェルプレートのウェルあたり20,000個播かれた(plate)。2時間の培養後、非接着性(non-adherent)細胞を除去するため、プレートがPBSで洗浄された。接着AMsは、5%CO2を含む加湿培養器内で37℃でRPMI 1640中に培養された。
【0124】
NF-κBレポーターアッセイ(Reporter Assay)
組換え第一世代のE1、E3欠失アデノウイルス血清型5ベクターが調製され(Sanliogluら、J. Biol. Chem., 276, 30188-30198 (2001)を参照のこと)、上皮細胞について前述したようにHMVECs及びAMsが導入(transfect)された。Wuら、Respir. Res., 6, 26 (2005)を参照のこと。
【0125】
統計的分析
すべてのデータは平均±SEMとして報告される。群は、STATISTICA(登録商標)(StatSoft, Inc.、タルサ、オクラホマ州、アメリカ合衆国)を使用したTukeyの事後検定とANOVA、又は対応のある(paired)若しくは対応のない(unpaired)t検定によって比較された。
【0126】
実施例2
虚血再灌流に関連する肺水腫のTLR4媒介
虚血再灌流に関連する肺水腫へのTLR4の影響は、TLR4が十分な(OuJ)マウス及びTLR4欠損(HeJ)マウスの肺における虚血後の体液貯留を比較することにより検討された。図1Aに示すように、1時間の肺門クランプが引き起こす、3時間の再灌流まで続く再灌流の15分以内にOuJマウスの左肺内の早期で顕著な体液貯留(W/Dの上昇に見られるように)により、左肺の再灌流は虚血性を表す。これに対し、HeJマウスは、15及び30分の再灌流の後に著しく少ない浮腫となり、より早い回復を示した。1及び3時間の再灌流の後のHeJマウスのW/Dは正常であった。
【0127】
また、図1Bに示すように、HeJマウスからの肺に比べ、3時間再灌流されたOuJマウスからの拡張固定された左肺では、より多くの血管周囲及び肺胞壁の浮腫があった。しかしながら、図1Cに示すように、1時間の再灌流の後のマウス系統間で間質性浮腫には組織学的な差はなかった。覆面観察者(masked observer)により、3時間の再灌流後の4つのHeJ標本、及び一時間後に調査されたすべての8つの肺標本は正常であり、4つの対照標本(2つのHeJと2つのOuJ)とは異ならないと判断された。いずれかの理論に拘束されることなく、3時間の再灌流後のOuJ肺の間質性浮腫の増加は、再灌流後60分の拡張固定によって検出できない急速な肺胞洪水(alveolar flooding)によるものであると仮定される。この仮説と一致して、HeJマウスからの左肺及び両方の系統からの右の肺に比べ、OuJマウスからの左肺はEBD量(アルブミンに対する微小血管透過性の尺度(Sariaら, J Neurosci Methods, 8(1), 41-49 (1983)を参照のこと))が増加した。図1Dを参照のこと。このように、W/Dの違いは、肺胞壁及び間質への体液のより遅い吸収と共に、HeJマウスに比べてOuJマウスで早期に発生する肺胞洪水に起因すると思われる。
【0128】
受容体活性化のTLR4下流シグナル伝達(signaling downstream)は、骨髄分化一次応答遺伝子88(MyD88)及びTIR-ドメイン含有アダプター誘導インターフェロン-β(TRIF)を含むアダプタータンパク質のリクルートメント(recruitment)を含む。O'Neillら、 Nat Rev Immunol, 7(5), 353-364 (2007)を参照のこと。TRIFはマウス内皮細胞(Harari ら、Circ Res, 98(9), 1134-1140 (2006)を参照)内に存在しないため、MyD88シグナル伝達はこれらの細胞におけるTLR4下流の重要なアダプターである。MyD88欠損(MyD88-/-)マウスが1時間のIRIに曝されたとき、OuJマウス及びC57BL/6Jマウス、MyD88-/-マウスのバックグラウンド系統(background strain)からの肺と同等の浮腫が、MyD88-/-マウスの肺に発症した。図1Eを参照のこと。従って、虚血再灌流によるTLR4によって媒介される肺水腫は、MyD88アダプターを介した下流のシグナル伝達とは無関係であると思われる。初期の浮腫がTLR4によるものを確認するため、実験がTLR4-/-マウスで繰り返され、さらにC57BL/6Jマウス、TLR4-/-マウスで使用されるバックグラウンド系統と比較された。一時間の肺門クランプ及び15、30、60の再灌流での再灌流の後のC57BL/6Jマウスに比べ、TLR4-/-マウスは大幅に少なく浮腫を発症する。図1Fに示すように、浮腫はC57BL/67マウスでは直ちに(再灌流の約5分以内)現れるが、TLR4-/-マウスでは現れない。
【0129】
実施例3
肺IRIに起因してTLR4によって媒介された早期のMAPK及びNF-κB活性化
タンパク質濃度測定は、肺の虚血後の早期の浮腫形成における役割に加え、機能的(functioning )TLR4が炎症に関連するシグナル伝達経路の早期活性化を媒介することを示した。図2A及び図2Bに示すように、OuJマウス中の機能的TLR4は、p38の早期リン酸化反応(虚血中に観察された)、ERK及びJNKの早期リン酸化反応、及び再灌流の後のNF-κBの早期活性化をもたらした。比較として、TLR4欠損HeJマウスは、p38、ERK、NF-κB及びJNK活性化の遅延又は減少を示した。しかしながら、ある程度のMAPK及びNF-κB活性化がHeJマウスで観察され、TLR4以外の代替活性化経路(alternative activation pathways)の関与を示唆した。
【0130】
図3に示すように、NF-κBのp65成分に対する免疫染色は、対照マウス(新しく犠牲にされた)の肺の最小限の核局在化を示す一方で、TLR4欠損(HeJ)マウス(染色が1-2+に採点された)に比べ、TLR4が十分な(OuJ)マウスから60分再灌流されたサンプルにおいて著しい核染色(染色が3+に採点された)が観測された。180分の再灌流におけるOuJ動物でのより多くのp65染色にもかかわらず、180分の再灌流におけるHeJ及びOuJ系統でIκBαレベルが同等であることを除いて、免疫染色強度は、図2A及び図2Bに見られるIκBαの分解(degradation)を補完した。これは、再灌流後180分のOuJマウスにおける、IκBα蛋白質ある程度の回復を示唆する。驚いたことに、p65染色は右及び左の肺で同一であり、右肺に浮腫が無いにもかかわらず、同じ再灌流時間では同程度に右肺(非虚血性)でNF-κBが活性化されたことを意味した。従って、NF-κB活性化が必ずしも浮腫の発症に関連付けられないと思われる。正常なW/Dと共に、3時間再灌流後のHeJマウスからの左肺でp38活性化が明らかであった。発症の速さと共に考えると、このモデルの急性期肺水腫は、MAPK及びNF-κB活性化に起因するとは思われない。
【0131】
実施例4
肺実質細胞対(versus)骨髄由来細胞へのTLR4
肺実質細胞対骨髄由来細胞、特に肺胞マクロファージ(AMs)への機能性TLR4の重要性を判断するため、各系統のマウス(OuJ及びHeJ)に致死量の放射線を照射し、骨髄移植(BMT)により骨髄を再構成することによって、実施例1に記載されるようなキメラマウスが作り出された。図4Aに示すように、リポ多糖類(LPS)刺激は、天然OuJ AMs、並びにキメラ系統P-M+から回収されたAMs、TLR4を発現する骨髄由来細胞を有するキメラ、及びTLR4を発現しない実質細胞の双方で、ルシフェラーゼ活性の約60倍の増加をもたらした。従って、キメラ動物におけるAMsの置換(replacement)は、BMT後12週間で実質的に完了したと思われる。同じ系統の骨髄で再構成され、放射線照射したマウスから取り出したAMsは、同様に作用した。
【0132】
3時間の虚血再灌流に続いて、P+M-キメラ動物は、W/Dの顕著な増加を発現した。図4Bを参照のこと。しかしながら、AMSが機能性TLR4(P-M+)を持っていても、W/Dは上昇しなかった。従って、機能性TLR4が骨髄細胞(M)に存在するか否かを問わず、機能性TLR4が肺実質細胞(P)に存在する場合にのみ、浮腫が明らかである。AMs上の機能性TLR4は浮腫の発症に十分ではないが、P+M-動物に比べてP+M+動物でW/Dが若干高いことが観察されたように、それは肺実質細胞の機能性TLR4を有するマウスの浮腫を拡大する可能性がある。しかしながら、この差は統計的に有意ではなかった。
【0133】
図4Cに示すように、キメラ対照(OuJにOuJを導入(into)し、HeJにHeJを導入)は非照射の系統に比べて肺水腫の形成に差を示さず、致死量の照射が虚血再灌流による浮腫の発症に影響を与えないことを示した。これらの"対照キメラ"からのAMsは、天然系統(データは示されず)からのAMsと同じLPSへの応答を有した。
【0134】
従って、虚血再灌流による早期の浮腫形成は、肺実質細胞上の機能性TLR4に起因するが、骨髄細胞上の機能性TLR4は、虚血再灌流に関連する早期の浮腫に重大ではない。本書に開示されたデータは、虚血再灌流誘発性の肺水腫は、再灌流後の非常に早い毛細血管漏出の増加が原因であることを示唆している。
【0135】
実施例5
虚血再灌流による肺水腫を予防するTLR4の拮抗阻害剤
左肺門クランプの60分前に開始され、OuJマウスに30分静脈内投与(生理食塩水200μL中に10μg)された競合的TLR4阻害剤CRX-526は、虚血再灌流の1時間に続く浮腫を予防した。図5Aを参照のこと。CRX-526はまた、LPSに曝された培養ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVECs)におけるNF-κB活性化を予防した。図5Bを参照のこと。TLR4阻害剤は、NF-κB活性化のTNF刺激に影響を与えないように見えた。
【0136】
実施例6
TLR2及び虚血再灌流
虚血再灌流関連浮腫に対する機能性TLR2の効果は、C57BL/6J(BL6)のバックグラウンド系統に交配されたTLR2欠損(TLR2-/-)マウスにおける1時間の肺門閉塞及び再灌流後のW/Dと、TLR2が十分なBL6マウスのW/Dと、を比較することにより調査された。図6に示すように、、TLR-/-マウスは、IRIによる浮腫を発症したが、BL6マウスに比べて遅かった。TLR2-/-マウスの左肺のW/Dは再灌流の15分後に正常であったが、BL/6マウスのW/Dは上昇した。
【0137】
TLR4阻害剤による前治療(pre-treatment)の効果を比較するため、さらなる研究が実施された。BL6マウスは、1時間の左肺門クランプの60分前に開始され、30分にわたって投与されたCRX-526(10μg)で前治療された。これらのマウスは、たとえあったとしても、再灌流の最大180分までほとんど浮腫を発症しない。図7A及び7Bを参照のこと。CRX-526の治療は、特に30〜60分の再灌流の後、TLR4及びTLR2欠損の相加的効果(added effects)と同様のW/Dを生成するように見える。図8に示すように、導入されたHMVECsの研究は、CRX-526がTLR2リガンドによって刺激されたNF-κBの活性化を低減することができることを示した。
【0138】
全体を考えると、本書に開示されたデータは、虚血再灌流に関連する浮腫の低減についてのCRX-526の効果は、単にTLR4を阻害するそれの能力より以上のものに起因することを示唆する。
【0139】
本書で開示される主題の種々の詳細は、本書で開示される主題の範囲を逸脱しない限り変更可能なことは理解されるであろう。さらに、前述の記述は例示のみを目的とし、限定を目的とするものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織内の浮腫を予防又は減少させる方法であって、化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、組織とを接触させることを含み、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、方法。
【請求項2】
nが1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R4が、−C(=O)OHである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化学式(I)の化合物が、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記浮腫が虚血再灌流に関係する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関連する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記虚血再灌流が、心臓手術中の心臓マヒ、又は整形外科手術に起因する骨格筋内の虚血に関連する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記虚血再灌流が臓器又は組織移植に関連する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記組織移植は、皮膚移植、筋肉移植又は軟部組織移植である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組織移植は、自己組織移植である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織と前記化合物の有効量とを接触させることは、虚血の前、虚血の間、又は虚血の間隔を置いた後に起きる請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記組織は心臓、肝臓、腎臓、脳、小腸、大腸、膵臓、骨格筋、皮膚、軟部組織、及び肺組織からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記組織は、臓器ドナーからのものである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組織は、肺移植ドナーからの肺組織である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記肺移植ドナーは、ヒト肺移植ドナーである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記臓器ドナーは、心停止ドナーである請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
その治療を必要とする対象における浮腫を予防又は減少させる方法であって、前記対象に化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を投与することを含み、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、方法。
【請求項22】
nが1である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
R4が、−C(=O)OHである請求項21に記載の方法。
【請求項25】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記化学式(I)の化合物が、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記浮腫が虚血再灌流に関係する請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関連する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記虚血再灌流が、心臓手術中の心臓マヒ、又は整形外科手術に起因する骨格筋内の虚血に関連する請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記虚血再灌流が臓器又は組織移植に関連する請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記組織移植は、皮膚移植、筋肉移植又は軟部組織移植の1つである請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記組織移植は、自己組織移植である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物は、予測される虚血イベントの前、虚血の間、又は虚血の間隔を置いた後に前記対象に投与される請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項21に記載の方法。
【請求項35】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
臓器又は組織移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫を予防又は減少させる方法であって、
移植のための臓器又は組織を準備し、
前記臓器又は組織と化学式(I)
【化1】
の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、を接触させ、それによって治療を受けた臓器又は組織を提供し、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基であり、及び、
前記治療を受けた臓器又は組織を該治療を必要とする対象に移植し、ここで前記化合物で治療を受けていない臓器又は組織を用いて実行される移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫と比較して、前記対象における虚血再灌流に関係する浮腫が予防又は低減される方法。
【請求項37】
前記臓器又は組織は、心臓又は心臓組織、肝臓又は肝臓組織、腎臓又は腎臓組織、膵臓又は膵臓組織、小腸組織、大腸組織、皮膚組織、骨格筋組織、軟部組織、肺又は肺組織、及び脳組織からなる群から選択される請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記臓器又は組織は、肺又は肺組織である請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記接触は、肺組織ドナー、肺静脈、及び生体外灌流回路の肺動脈の気道の一つを介して行われる請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記組織は、皮膚組織、骨格筋組織又は軟部組織である請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記組織移植は、自己組織移植である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記臓器又は組織は、心停止臓器ドナーからのものである請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
nが1である請求項36に記載の方法。
【請求項46】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項36に記載の方法。
【請求項47】
R4が、−C(=O)OHである請求項36に記載の方法。
【請求項48】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項36に記載の方法。
【請求項49】
前記化合物は化学式(I)のアミノアルキルグルコサミニドリン酸塩又は医薬的に許容された該化合物の塩であり、ここで、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である請求項36に記載の方法。
【請求項50】
化学式(I)
【化1】
の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を含む生体外臓器又は臓器組織を治療するための保存液であって、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、保存液。
【請求項51】
nが1である請求項50に記載の保存液。
【請求項52】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項50に記載の保存液。
【請求項53】
R4が、−C(=O)OHである請求項50に記載の保存液。
【請求項54】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項50に記載の保存液。
【請求項55】
前記化学式(I)の化合物が、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である請求項50に記載の保存液。
【請求項56】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項50に記載の保存液。
【請求項57】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項56に記載の保存液。
【請求項58】
前記生体外臓器又は臓器組織は、肺又はその一部である請求項50に記載の保存液。
【請求項1】
組織内の浮腫を予防又は減少させる方法であって、化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、組織とを接触させることを含み、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、方法。
【請求項2】
nが1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R4が、−C(=O)OHである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化学式(I)の化合物が、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記浮腫が虚血再灌流に関係する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関連する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記虚血再灌流が、心臓手術中の心臓マヒ、又は整形外科手術に起因する骨格筋内の虚血に関連する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記虚血再灌流が臓器又は組織移植に関連する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記組織移植は、皮膚移植、筋肉移植又は軟部組織移植である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組織移植は、自己組織移植である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織と前記化合物の有効量とを接触させることは、虚血の前、虚血の間、又は虚血の間隔を置いた後に起きる請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記組織は心臓、肝臓、腎臓、脳、小腸、大腸、膵臓、骨格筋、皮膚、軟部組織、及び肺組織からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記組織は、臓器ドナーからのものである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組織は、肺移植ドナーからの肺組織である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記肺移植ドナーは、ヒト肺移植ドナーである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記臓器ドナーは、心停止ドナーである請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
その治療を必要とする対象における浮腫を予防又は減少させる方法であって、前記対象に化学式(I)
【化1】
の有効量の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を投与することを含み、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、方法。
【請求項22】
nが1である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項21に記載の方法。
【請求項24】
R4が、−C(=O)OHである請求項21に記載の方法。
【請求項25】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記化学式(I)の化合物が、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記浮腫が虚血再灌流に関係する請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記虚血再灌流は心筋梗塞又は脳卒中に関連する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記虚血再灌流が、心臓手術中の心臓マヒ、又は整形外科手術に起因する骨格筋内の虚血に関連する請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記虚血再灌流が臓器又は組織移植に関連する請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記組織移植は、皮膚移植、筋肉移植又は軟部組織移植の1つである請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記組織移植は、自己組織移植である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物は、予測される虚血イベントの前、虚血の間、又は虚血の間隔を置いた後に前記対象に投与される請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項21に記載の方法。
【請求項35】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
臓器又は組織移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫を予防又は減少させる方法であって、
移植のための臓器又は組織を準備し、
前記臓器又は組織と化学式(I)
【化1】
の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩と、を接触させ、それによって治療を受けた臓器又は組織を提供し、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基であり、及び、
前記治療を受けた臓器又は組織を該治療を必要とする対象に移植し、ここで前記化合物で治療を受けていない臓器又は組織を用いて実行される移植の対象における虚血再灌流に関係する浮腫と比較して、前記対象における虚血再灌流に関係する浮腫が予防又は低減される方法。
【請求項37】
前記臓器又は組織は、心臓又は心臓組織、肝臓又は肝臓組織、腎臓又は腎臓組織、膵臓又は膵臓組織、小腸組織、大腸組織、皮膚組織、骨格筋組織、軟部組織、肺又は肺組織、及び脳組織からなる群から選択される請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記臓器又は組織は、肺又は肺組織である請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記接触は、肺組織ドナー、肺静脈、及び生体外灌流回路の肺動脈の気道の一つを介して行われる請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記組織は、皮膚組織、骨格筋組織又は軟部組織である請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記組織移植は、自己組織移植である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記臓器又は組織は、心停止臓器ドナーからのものである請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
nが1である請求項36に記載の方法。
【請求項46】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項36に記載の方法。
【請求項47】
R4が、−C(=O)OHである請求項36に記載の方法。
【請求項48】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項36に記載の方法。
【請求項49】
前記化合物は化学式(I)のアミノアルキルグルコサミニドリン酸塩又は医薬的に許容された該化合物の塩であり、ここで、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である請求項36に記載の方法。
【請求項50】
化学式(I)
【化1】
の化合物又は医薬的に許容された該化合物の塩を含む生体外臓器又は臓器組織を治療するための保存液であって、ここで、
nは、1〜6の整数であり、
X1は酸素原子又はイオウ原子であり、
X2は酸素原子又はイオウ原子であり、
R1,R2及びR3は、それぞれ独立して、C2〜C16アシル基であり、ここでR1,R2及びR3のうち少なくとも1つはC2〜C7アシル基であり、
R4は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH2、及び−(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここで、mは0〜2の整数であり、
かつR5,R6及びR7は、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、保存液。
【請求項51】
nが1である請求項50に記載の保存液。
【請求項52】
X1及びX2が、それぞれ、酸素原子である請求項50に記載の保存液。
【請求項53】
R4が、−C(=O)OHである請求項50に記載の保存液。
【請求項54】
R1,R2及びR3が、それぞれ、C2〜C7アシル基である請求項50に記載の保存液。
【請求項55】
前記化学式(I)の化合物が、
nが1であり、
X1が酸素原子であり、
X2が酸素原子であり、
R1,R2及びR3が、それぞれ、−C(=O)(CH2)4CH3であり、
R4が−C(=O)OHであり、及び
R5,R6及びR7が、それぞれ、−(CH2)10CH3である化合物、又は医薬的に許容された該化合物の塩である請求項50に記載の保存液。
【請求項56】
前記化合物は、Toll様受容体2(TLR2)及びToll様受容体4(TLR4)の一方又は両方の拮抗薬である請求項50に記載の保存液。
【請求項57】
前記化合物は、TLR2及びTLR4の両方の拮抗薬である請求項56に記載の保存液。
【請求項58】
前記生体外臓器又は臓器組織は、肺又はその一部である請求項50に記載の保存液。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図2A】
【図3】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図2A】
【図3】
【公表番号】特表2012−523432(P2012−523432A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504890(P2012−504890)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/030556
【国際公開番号】WO2010/118334
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/030556
【国際公開番号】WO2010/118334
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】
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