説明

虚血後血管新生促進剤および血流改善剤

【課題】種々の虚血性疾患の治療及び予防に有用な新規治療剤の提供。
【解決手段】一般式(1)


(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)で示されるクエルセチン配糖体を有効成分とする虚血後血管新生促進剤。特にn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つn=1〜3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、nが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種虚血性疾患の予防又は治療に有用な虚血後血管新生促進剤、および血流改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化、生活の利便性に伴う運動不足、生活習慣の乱れなどが原因で、肥満者数は増加の一途をたどっており、さらには血糖高値、高脂血漿、高血圧などを併発した場合、これらは生活習慣病、つまりメタボリックシンドロームとして定義され、動脈硬化など重篤な循環器疾患のリスクを大きく高めるものとして、最もケアされるべき現代病の一つに挙げられる。さらに動脈硬化は、血栓形成、動脈炎、外傷などと共に慢性的な血管閉塞の大きな原因となり、この血管閉塞が持続すると、閉塞部位の周辺及び下流の支配組織に血行不良に基づく虚血状態を来たし、最終的には組織の壊死に至ることがある。
【0003】
なかでも糖尿病患者における肢は慢性閉塞性動脈硬化症を好発し、本病態は糖尿病性神経症も関与し、いわゆる糖尿病性足病変という病態を呈する。本病態が進行すると糖尿病性皮膚潰瘍に進展する恐れがあり、感染併発で下肢切断に至ることもまれではない。以上のように、糖尿病患者の生命予後に大きな影響を与えるとともに、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の低下を来すため、皮膚潰瘍は注意すべき重要な糖尿病合併症の一つである。
【0004】
このような血管閉塞に起因して起こる慢性閉塞性動脈硬化症の治療には、近年、血管外科領域における手術手技の進歩や、各種インターベーション技術の開発により、重症の虚血症に対しても良好な予後が期待できるようになった。しかし、広範囲にわたる閉塞例や糖尿病に合併しやすい末梢型閉塞例など血行再建が不可能な症例も依然残されている事実もあり、また、本治療法は当然ながら手術による大掛かりなものとなるため、患者の負担が大きいことも課題として残っている。
【0005】
さらに近年は新しい治療法として、虚血部位に血管新生を誘導し、側副血行路を発達させ虚血状態を改善しようという試みである「治療的血管新生」が注目されている。本法には大きく血管成長因子を投与する方法と、血管内皮前駆細胞を投与する方法に分かれる。前者であれば、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、HGF(Hepatic growth factor)、bFGF(Basic fibroblast growth factor)等の血管成長因子のタンパク投与またはこれらの遺伝子導入による治療が該当する。これらに関して、治療実績は上がってきているものの、タンパク組み換え体の安全性や高生理活性物質の全身循環による副作用の懸念、遺伝子導入時のベクター安全性など一部問題も有している。後者であれば、自己骨髄単核球細胞移植であり、末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPC:Endothelial progenitor cell)の移入が挙げられ、本法も徐々に症例数が増え有効であった報告もあるが、骨髄採取時の患者負担や細胞分画の煩雑さなどが課題として残る。
【0006】
また、上記に関連して、造血前駆物質の分化増殖因子であるヒトG-CSF(Granulocyte-colony stimulating factor)を投与することで、骨髄や末梢血中の造血幹細胞レベルの亢進を期待し、虚血を改善する試みも成されている。
【0007】
その他、治療法として運動療法や薬物療法もその治療法のひとつとして挙げられる。前者の場合、歩行やジョギングなどが可能ないわゆる軽度の虚血症状の場合に限定され、また大きな改善効果が得られていない現状もあり、治療効果に満足できない患者が血行再建術を希望する例も少なくない。薬物療法に関しても、血管拡張剤や抗血小板剤が適応されるが、薬物療法単独で大きな治療効果が得られた例は多くなく、根本的な治療とは成り得ていない。
【0008】
クエルセチン(Quercetin:3,3’,4’,5,7-pentahydroxyflavone)は、ポリフェノール化合物の一種であり、強力な抗酸化活性(非特許文献1参照)を有することが知られ注目されている。また、ルチン、クエルシトリンを始めとして種々の配糖体が知られている。これらクエルセチンやクエルセチン配糖体は、構造の違いにより、経口吸収性に違いがあること、抗酸化力の程度が異なること等が知られている。例えば、タマネギに多く含まれるクエルセチン配糖体(Quercetin-4’-β-D-glucoside, Quercetin-3,4’-β-D-glucoside)は、クエルセチンより吸収性に優れていることが報告されている(非特許文献2参照)。また同様に、クエルセチンの3位にグルコースがβ結合したイソクエルシトリン(Quercetin-3-β-D-glucoside)は、クエルセチンやルチンよりも吸収性が高いことが報告されている(非特許文献3参照)。
【非特許文献1】Middlton EJ. Et al., Pharmacol Rev., 52, 673-751, 2000
【非特許文献2】Hollman PC et al., Arch Toxicol Suppl., 20, 237-248, 1998
【非特許文献3】Morand C et al., Free Rad Res., 33, 667-676, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、各種虚血性疾患の予防又は治療に有用な新規治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定のクエルセチン配糖体のもつ作用について鋭意研究を進めたところ、虚血後の血管新生を促進し、血流を改善することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、第一の本発明は、一般式(1):
【0012】
【化1】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)で示されるクエルセチン配糖体を有効成分とする虚血後血管新生促進剤である。
【0013】
前記虚血後血管新生促進剤は、好ましくは次の態様を有する。前記クエルセチン配糖体が、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たす組成物である。(a)当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。本明細書において「n=1〜3のクエルセチン配糖体」とは、「n=1、2、又は3であるクエルセチン配糖体」を意味する。
【0014】
第二の本発明は、一般式(1):
【0015】
【化2】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)で示されるクエルセチン配糖体を有効成分とする血流改善剤である。
【0016】
前記血流改善剤は、好ましくは次の態様を有する。前記クエルセチン配糖体が、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たす組成物である。(a)当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、各種虚血性疾患の治療、改善、または予防に有用な新規な虚血後血管新生促進剤が提供され、また血流の低下や不全の改善、または予防に有用な新規な血流改善剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、クエルセチン配糖体を有効成分とする虚血後血管新生促進剤および血流改善剤である。
【0019】
本発明に用いるクエルセチン配糖体は、下記の式(1)で示される。
【0020】
【化3】

式(1)中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。
【0021】
すなわち、本発明に用いるクエルセチン配糖体は、下式(2)で示されるクエルセチンの3位にグルコースがβ結合したイソクエルシトリン (Quercetin-3-β-D-glucoside)(以下、単に「IQC」ともいう)(式(1)においてnが0の化合物)、当該IQCのグルコース残基に、さらにグルコースがα-1,4結合で例えば1〜15程度付加した個々のα−グリコシルイソクエルシトリン(式(1)においてnが1〜15程度の化合物)いずれであってもよく、またはこれらの混合物であってもよい。なお、本明細書において、複数種類の化合物からなるクエルセチン配糖体の混合物を意味する場合には、「クエルセチン配糖体組成物」または「クエルセチン配糖体混合物」と称する場合もある。
【0022】
【化4】

上記IQCおよびα−グリコシルイソクエルシトリンは、いずれもクエルセチンの配糖体であるから、本明細書ではこれらを総称して、また両者を区別することなく「クエルセチン配糖体」という場合もある。またα−グリコシルイソクエルシトリンはIQCの配糖体に相当するから、本明細書ではこれを、IQCと区別する意味で、「IQC配糖体」と称する場合もある。
【0023】
本明細書では、説明の便宜上、上記式(1)中、n=0で示されるIQCを単に「G0」、n=1で示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合で1つ結合した配糖体)を「G1」、n=2で示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合で2つ結合した配糖体)を「G2」、n=3で示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合で3つ結合した配糖体)を「G3」、n=4で示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合で4つ結合した配糖体)を「G4」、n=5で示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合で5つ結合した配糖体)を「G5」、n=6で示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合で6つ結合した配糖体)を「G6」、・・・・およびnがmで示されるIQC配糖体(IQCにグルコースがα−1,4結合でm個結合した配糖体)を「Gm」と記載する(mは7以上の整数を意味する)。
【0024】
本発明においては、前記クエルセチン配糖体として、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たす組成物(以下、「スーパークエルセチン配糖体組成物」とも称する)が好ましく用いられる。(a)当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。経口投与による体内吸収性が良いからである。
【0025】
本明細書において、「イソクエルシトリンG(1-3)の総量」または「IQC−G(1-3)の総量」とは、対象とするクエルセチン配糖体組成物中に含まれているnが1のクエルセチン配糖体(G1)、nが2のクエルセチン配糖体(G2)、およびnが3のクエルセチン配糖体(G3)の総量を意味する。また本明細書において、「イソクエルシトリンG(4≦)の総量」または「IQC−G(4≦)の総量」とは、対象とするクエルセチン配糖体組成物中に含まれるnが4以上のクエルセチン配糖体の総量を意味する。
【0026】
本発明の虚血後血管新生促進剤は、虚血後の血管新生を促進し、血流を改善することにより、心筋梗塞、心不全、狭心症、脳梗塞、血管性痴呆、閉塞性動脈硬化症、バージャー病などの各種虚血性疾患の治療剤として用いることができる。また、虚血状態が見られたときに投与することにより、これらの虚血性疾患の進行と虚血による障害を未然に防止するための予防剤として用いることができる。
【0027】
本発明に係る虚血後血管新生促進剤及び血流改善剤の形態は特に限定されず、例えば、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品の形態で提供しうる。
【0028】
医薬品として提供される場合、その投与形態は特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、徐放製剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤、坐剤、塗布剤、貼付剤等の非経口剤が挙げられるが、例えばスーパークエルセチン配糖体組成物を有効成分として用いる場合、優れた経口吸収性を有することより特に経口剤の形態が好ましい。
【0029】
経口剤である場合は、クエルセチン配糖体に、さらに希釈剤、担体または添加剤等の成分を配合して任意の製剤化処理を行い調製することができる。ここで用いられる希釈剤または担体としては、本発明の効果を妨げないものであれば特に制限されず、例えばシュクロース、グルコース、果糖、マルトース、トレハロース、乳糖、オリゴ糖、デキストリン、デキストラン、サイクロデキストリン、澱粉、水飴、異性化液糖などの糖類;エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、ラクチトール、キシリトール、マルチトール、還元パラチノース、還元澱粉分解物等の糖アルコール類;トリアセチン等の溶剤;アラビアガム、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、ジェランガム、ペクチン等の多糖類;または水を挙げることができる。また添加剤としては、キレート剤等の助剤、香料、香辛料抽出物、防腐剤などを挙げることができる。
【0030】
虚血後血管新生促進剤および血流改善剤に配合されるクエルセチン配糖体の割合は特に制限されず、0.01〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。使用上の利便等から、上記希釈剤、担体または添加剤を用いて上記製剤を調製する場合は、クエルセチン配糖体が製剤100重量%中に、0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜50重量%の割合で含まれるように調製することが望ましい。
【0031】
なお、虚血後血管新生促進剤又は血流改善剤の使用量としては、生体内で虚血後血管新生促進作用又は血流改善作用を奏する限り特に制限されないが、体重60kgの成人の場合、一回投与あたり、製剤中にクエルセチン配糖体を1mg〜30gの割合で含むような範囲から適宜選択することができる。
【0032】
本発明に係る血流改善剤を含有する食品としては、本発明に係るクエルセチン配糖体そのもの、またはクエルセチン配糖体組成物に上記希釈剤、担体または添加剤等を添加配合して調製される製剤(例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル、液剤、ドリンク剤など)などの、例えばサプリメント、または一般の食品に上記本発明のクエルセチン配糖体を1成分として配合して、その食品に生体に対する血流改善作用を付加してなる機能性食品(特定保健用食品や条件付き特定保健用食品が含まれる)を挙げることができる。なお、これらの食品には、上記本発明に係るクエルセチン配糖体を含有し、血流改善作用を有することを特徴とするものであって、生体における血流改善作用のために用いられる旨の表示を付してなる食品が含まれる。
【0033】
血流改善作用を有する食品の場合、当該食品に配合されるクエルセチン配糖体の割合は、その機能を有する限り特に制限されないが、通常0.001〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。
【0034】
対象とする食品としては、制限はされないが、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類;乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末飲料等の飲料類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料、紅茶飲料等の茶飲料類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、朝鮮漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品;チーズ等の酪農製品類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品を挙げることができる。
【0035】
本発明に用いるクエルセチン配糖体の製造方法は特に限定されない。以下に本発明の有効成分として用いることができるクエルセチン配糖体組成物の一例およびその調製方法の一例について説明する。
【0036】
(I) 酵素処理イソクエルシトリンおよびその調製方法
本発明で「酵素処理イソクエルシトリン」とは、慣用の方法に従って、IQCに糖供与体(グルコース源)の存在下、グルコース残基転移酵素を作用させて得られるもので、下式で示す、IQCと種々の程度にグルコシル化されたα−グリコシルイソクエルシトリンとの混合物を意味する(例えば、FFIジャーナルVol.209、No.7、2004、p.622-628、食品衛生学雑誌, Vol.41, No.1, pp.54-60など参照のこと)。
【0037】
【化5】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を示す)
具体的には「酵素処理イソクエルシトリン」は、上記式においてα−1,4結合のグルコース数(n)が0のIQCと、α−1,4結合のグルコース数(n)が1以上、通常1〜15、好ましくは1〜10の範囲にあるα−グリコシルイソクエルシトリンとの混合物である。
【0038】
ここでIQCの配糖化処理に使用されるグルコース残基転移酵素としては、例えばα−アミラーゼ(E.C.3.2.1.1)やα−グルコシダーゼ(E.C.3.2.1.20)等のグルコシダーゼ;またはシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(E.C.2.4.1.19)(以下CGTaseと略記する)等のトランスグルコシダーゼを挙げることができる。
【0039】
これらの糖転移酵素はいずれも商業的に入手できる酵素である。かかる市販の酵素剤としては、例えばコンチザイム(商品名)(天野エンザイム(株)製)を例示することができる。なお、糖転移酵素の使用量は、CGTase〔酵素比活性約100単位(溶性デンプンからβ−シクロデキストリンを1分間あたり1mg生成する酵素量を1単位とする)〕を例にすると、イソクエルシトリン1重量部に対し、糖転移酵素を0.001〜20重量部の範囲を挙げることができる。好ましくは、0.005〜10重量部程度、より好ましくは0.01〜5重量部程度である。
【0040】
配糖化の際に用いられる糖供与体(グルコース源)としては、そのグルコース残基の1分子以上がIQCの1分子に転移されうるものであればよい。例えばグルコース、マルトース、アミロース、アミロペクチン、でん粉や、でん粉液化物、でん粉糖化物、及びシクロデキストリンなどを挙げることができる。かかるグルコース源の使用量は、反応系に存在するイソクエルシトリン1重量部に対して、通常0.1〜20重量部の割合、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の割合を挙げることができる。
【0041】
「酵素処理イソクエルシトリン」は通常80℃以下、好ましくは約20〜80℃、より好ましくは約40〜75℃、また通常pH3〜11程度、好ましくはpH4〜8の条件で、上記糖供与体(グルコース源)の存在下、IQCにグルコース残基転移酵素を作用させることによって調製することができ、通常、下記の組成を有している。
【0042】
【表1】

但し、G1〜G3のIQCの総量は65重量%以下であり、G4以上のIQCの総量は15重量%以上である。
【0043】
上記反応は、静置または攪拌若しくは振盪しながら行うことができる。反応中の酸化を防止するために、反応系のヘッドスペースを窒素等の不活性ガスで置換してもよく、またアスコルビン酸等の酸化防止剤を反応系に添加することも可能である。
【0044】
酵素処理イソクエルシトリンは、上記のようにイソクエルシトリンを原料とする他、ルチンから出発して調製することも可能である。この場合、ルチンにα−1,6−ラムノシダーゼ(E.C.3.2.1.40)を作用させてイソクエルシトリンに変えてから、上記方法に従って酵素処理イソクエルシトリンを調製することができる。α−1,6−ラムノシダーゼは、その活性を有するものであればよく、市販品としてはヘスペリジナーゼやナリンジナーゼ(何れも、田辺製薬(株)製)、及びセルラーゼA「アマノ」3(天野エンザイム(株)製)を例示することができる。
【0045】
本発明に係る虚血後血管新生促進剤、または血流改善剤には、有効成分として、例えば、上述の酵素処理イソクエルシトリンをそのもの、上述の酵素処理イソクエルシトリンをさらに精製して特定の長さの成分を取り出したもの、またはそれらを任意に組み合わせたものを用いることができる。
【0046】
(II).スーパークエルセチン配糖体組成物
本発明で好ましく用いられるクエルセチン配糖体組成物(スーパークエルセチン配糖体組成物)は、下式(1)で示される、クエルセチン配糖体の混合物であって、少なくともn=3のα−グリコシルイソクエルシトリンを含むものである。
【0047】
【化6】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を示す)
より詳細には、スーパークエルセチン配糖体組成物は、式(1)中、n=3のα−グリコシルイソクエルシトリン(G3)を含み、下記(a)の要件を満たすものである:
(a) 当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体(IQC−G(1-3))の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体(IQC−G(4≦))の総量が15モル%以下である。
【0048】
IQCにα−1,4結合したグルコース数(n)が1〜3であるα−グリコシルイソクエルシトリン(G1、G2、G3)を多く含む組成物は、公知の酵素処理イソクエルシトリンやグルコース数(n)が4〜6のα−グリコシルイソクエルシトリン(G4、G5、G6)を多く含む組成物やグルコース数(n)が3〜6のα−グリコシルイソクエルシトリン(G3、G4、G5、G6)を多く含む組成物に比べて、経口投与による体内吸収性(血中移行性)が高い。さらに、グルコース数(n)が1〜3であるα−グリコシルイソクエルシトリンの中でも、特にグルコース数(n)が3のα−グリコシルイソクエルシトリン(G3)、次いでグルコース数(n)が2のα−グリコシルイソクエルシトリン(G2)は、高い体内吸収性(血中移行性)を有している。一方、グルコース数(n)が4のα−グリコシルイソクエルシトリン(G4)になると、グルコース数(n)が3のα−グリコシルイソクエルシトリン(G3)と比べて体内吸収性(血中移行性)が低下する傾向にある。
【0049】
スーパークエルセチン配糖体組成物は、上記するように、G3を含み、IQC−G(4≦)の総量が15モル%以下の組成物であって、しかもIQC−G(1-3)を、総量として、全体の50モル%以上、好ましくは55モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上、またさらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、更に特に好ましくは85モル%以上の割合で含むものである。
【0050】
上記のとおり、クエルセチン配糖体組成物は、nが4以上のα−グリコシルイソクエルシトリン〔IQC−G(4≦)〕を高い割合で含有すると体内吸収性(血中移行性)が低下する傾向にある。このため、スーパークエルセチン配糖体組成物中のIQC−G(4≦)の含有割合(総量)は15モル%よりもさらに低い方が好ましい。例えばIQC−G(4≦)の含有割合として、10モル%以下、好ましくは6モル%以下を例示することができる。
【0051】
スーパークエルセチン配糖体組成物は、nが0のイソクエルシトリン(IQC)(G0)を含有するものであってもよい。但し、IQC(G0)の含有割合は低いほうが、クエルセチン配糖体組成物の全体に占めるn=1〜3のα−グリコシルイソクエルシトリン(IQC-G(1-3))の総量を一層高めることができることから、好ましい。本発明のクエルセチン配糖体組成物中に含まれるIQC(G0)の割合としては、例えば45モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下を例示することができる。
【0052】
スーパークエルセチン配糖体組成物は、好ましくは、上記(a)の要件に加えて、下記(b)の要件を満たすものである:
(b) 当該組成物中に含まれるnが0のクエルセチン配糖体の量が20モル%以下である。
【0053】
スーパークエルセチン配糖体組成物の他の好適な態様として、上記(a)の要件に加えて、または上記(a)と(b)の要件に加えて、下記の(c)の要件を満たすものを挙げることができる:
(c)n=2と3のα−グリコシルイソクエルシトリン(G2とG3)を含み、これら(IQC−G(2-3))の総量が全体の50モル%以上である。
【0054】
IQC−G(2-3)の総量としてより好ましくは、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上を挙げることができる。
【0055】
さらにスーパークエルセチン配糖体組成物の他の好適な態様として、G3を含み、IQC−G(4≦)の総量が15モル%以下であって、下記(d)の要件を満たすものを挙げることができる:
(d)当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体(IQC−G(1-3))の総量が60モル%以上であって、且つnが0のクエルセチン配糖体(IQC)(G0)が20モル%以下である。
【0056】
上記要件(d)を満たすスーパークエルセチン配糖体組成物として、より好ましくはn=1〜3のクエルセチン配糖体(IQC−G(1-3))の総量が70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上である。また好ましくはnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が10モル%以下、好ましくは6モル%以下である。さらに好ましくはnが0のクエルセチン配糖体(IQC)(G0)が10モル%以下である。
【0057】
スーパークエルセチン配糖体組成物のまた別の態様として、式(1)中、n=3のα−グリコシルイソクエルシトリン(G3)を含み、下記(e)の要件を満たすものを挙げることができる:
(e) 当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体(IQC−G(1-3))の総量が70モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体(IQC−G(4≦))の総量が10モル%以下、およびnが0のクエルセチン配糖体(IQC)(G0)が20モル%以下である。
【0058】
上記要件(e)を満たすクエルセチン配糖体組成物として、より好ましくはIQC−G(1-3)の総量が75モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上である。また好ましくはIQC−G(4≦)の総量が6モル%以下である。さらに好ましくはnが0のクエルセチン配糖体(G0)が10モル%以下のものを挙げることができる。
【0059】
(III)スーパークエルセチン配糖体組成物の調製方法
経口吸収性の高いスーパークエルセチン配糖体組成物は、酵素処理イソクエルシトリンを原料として、一般式(3):
【0060】
【化7】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは4以上の整数を意味する。)
で示されるクエルセチン配糖体(IQC−G(4≦))の量を低減してその総量を20モル%以下にする工程を経て調製することができる。
【0061】
ここで、IQC−G(4≦)の量を低減する方法は問わず、例えば酵素処理イソクエルシトリンからIQC−G(4≦)を分画除去する方法、酵素処理イソクエルシトリン中に含まれるIQC−G(4≦)を分解する方法などのいずれの方法であってもよい。好ましくは、酵素処理イソクエルシトリンをアミラーゼで処理する方法を挙げることができる。
【0062】
ここで使用されるアミラーゼは、アミラーゼ活性を有する酵素であればよく、その起原を特に制限するものではない。例えば、α-アミラーゼ(E.C.3.2.1.1)、β-アミラーゼ(E.C.3.2.1.2)、α-グルコシダーゼ(E.C.3.2.1.20)、グルコアミラーゼ(E.C.3.2.1.3)、マルトトリオヒドロラーゼなどのマルトオリゴ糖生成酵素を挙げることができる。
【0063】
好適にはβ−アミラーゼを挙げることができる。アミラーゼとしてβ−アミラーゼを用いた場合、選択的にα−1,4結合のグルコース残基数(n)が4以上のα−グリコシルイソクエルシトリン(IQC−G(4≦))の含有割合を低減させて、組成物中に含まれるn=1〜3のα−グリコシルイソクエルシトリン(IQC−G(1-3))の含有量を増加させることができる。従って、G3を含み、下記(a)の要件を満たす発明のクエルセチン配糖体組成物を簡単に調製することができる。
(a) 当該組成物中に含まれるIQC−G(1-3)の総量が50モル%以上であって、且つIQC−G(4≦)の総量が15モル%以下である。
【0064】
好適に使用されるβ−アミラーゼとしては、大豆、大麦、小麦、大根,甘藷,Aspergillus oryzae,Bacillus cereus,Bacillus polymyxa,Bacillus megaterium等に含まれていることが知られており、いずれもこの発明に自由に使用することができる。β−アミラーゼは、商業的に入手できる酵素であり、例えば大豆由来のβ−アミラーゼとしては「β−アミラーゼ#1500」(ナガセケムテックス(株)製)、「ビオザイムM5」(天野エンザイム(株)製);大麦由来のβ−アミラーゼとしては、「β−アミラーゼL」(ナガセケムテック(株)製)、「ビオザイム/ML」(天野エンザイム(株)製)、及び「マルトチーム206」(ナガセケムテックス(株)製):胚芽由来のβ−アミラーゼとしては、「ビオザイムM」(天野エンザイム(株)製):Aspergillus oryzae由来のβ−アミラーゼとしては、「ユニアーゼL」(ヤクルト薬品工業(株)製)を例示することができる。
【0065】
β−アミラーゼは、必ずしも精製されている必要はなく、スーパークエルセチン配糖体組成物を調製することが達成できる限り、粗精製物であってもよい。例えば、酵素処理イソクエルシトリンとβ−アミラーゼを含む画分(例えば、大豆や大麦などの抽出物)を混合して反応させてもよい。また、β−アミラーゼを固定化して、これをバッチ式若しくは連続式に、酵素処理イソクエルシトリンと反応させてもよい。
【0066】
β−アミラーゼの反応条件は、酵素処理イソクエルシトリンにβ−アミラーゼが作用する条件であれば特に制限されない。好ましくはG3を含み、IQC−G(4≦)の総量が15モル%以下であって、IQC−G(1-3)を、総量として、全体の50モル%以上、好ましくは55モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上、またさらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、更に特に好ましくは85モル%以上の割合で含むクエルセチン配糖体組成物を生成する条件を挙げることができる。また、IQC−G(4≦)の含有割合(総量)が15モル%よりも低く、例えば10モル%以下、好ましくは6モル%以下の割合で含むクエルセチン配糖体組成物を生成する条件を挙げることができる。
【0067】
β−アミラーゼの反応条件として、例えば、4000U/gの酵素を使用した場合のβ−アミラーゼの使用量は、酵素処理イソクエルシトリン1重量部に対し、0.0001〜0.5重量部の範囲から適宜選択して使用することができる。好ましくは0.0005〜0.4重量部程度、より好ましくは0.001〜0.3重量部程度である。なお、反応系中の酵素処理イソクエルシトリンの量は、特に制限されないが、反応を効率よく行う目的からは、反応系100重量%中に、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜10重量%の割合で含まれていることが望ましい。
【0068】
反応温度としては約80℃以下の範囲を挙げることができ、この範囲で適宜選択して用いることができる。この範囲内において工業的に有利なのは約20〜80℃、好ましくは約40〜75℃である。またpH条件は通常pH3〜11程度以下、好ましくはpH4〜8である。
【0069】
反応は、静置または攪拌若しくは振盪しながら行うことができる。反応中の酸化を防止するために、反応系のヘッドスペースを窒素等の不活性ガスで置換してもよく、またアスコルビン酸等の酸化防止剤を反応系に添加することも可能である。
【0070】
なお、必要に応じて、上記の方法によって取得される反応生成物に対して、さらにイソクエルシトリンを低減する工程を行うこともできる。かかる方法としては、上記方法で得られる反応生成物の中からイソクエルシトリン(IQC)(G0)を除去・脱離できる方法であれば特に制限されず、慣用の精製方法を任意に組み合わせて行うことができる。
【0071】
例えば、上記反応物を酸性に調整して冷却することによってIQC(G0)を析出沈殿させて除去する方法、各種の樹脂処理法(吸着法、イオン交換法、ゲルろ過法など)、膜処理法(限外濾過膜処理法、逆浸透膜処理法、イオン交換膜処理法、ゼータ電位膜処理法など)、電気透析法、塩析、酸析、再結晶、溶媒分画法および活性炭処理法等を例示することができる。
【0072】
なお、IQCの除去工程は、上記のように、アミラーゼ処理後の反応生成物に対して行ってもよいが、またアミラーゼ処理前に、例えば酵素処理イソクエルシトリンに対して行うこともできる。とくにアミラーゼとしてβ-アミラーゼを用いる場合は、アミラーゼ処理前後で、IQCの含有量に殆ど変動がない。このため、予め酵素処理イソクエルシトリンからIQCを除去低減させた後にβ−アミラーゼ処理しても、酵素処理イソクエルシトリンをβ−アミラーゼで処理した後にIQCを除去低減させる場合と、得られる反応生成物にほとんど相違がない。
【0073】
斯くして得られるクエルセチン配糖体組成物は、IQC−G(4≦)およびIQC(G0)の含有割合が低減する結果、全体に占めるIQC−G(1-3)の割合を一層高めることができる。かかるクエルセチン配糖体組成物として、好適にはIQC−G(1-3)の割合が全体(100モル%)の60モル%以上、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、さらにまた好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85モル%以上の組成物を挙げることができる。中でも、IQC−G(2-3)の割合が、全体(100モル%)の50モル%以上、好ましくは55モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上の組成物、さらにまた好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上を占めるクエルセチン配糖体組成物は、体内吸収性の点でより好適な組成物である。かかるクエルセチン配糖体組成物中のIQC−G(4≦)およびIQC(G0)の割合は、上記IQC−G(1-3)の含有量に応じて定めることができるが、通常、IQC−G(4≦)の割合として10モル%以下、好ましくは2モル%以下、IQC(G0)の割合として20モル%以下、好ましくは10モル%以下を好適に例示することができる。
【実施例】
【0074】
以下、調製例、実験例、および製剤例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
参考調製例1:酵素処理イソクエルシトリンの調製
(1)イソクエルシトリンの調製
マメ科植物であるエンジュのつぼみ250gを2500mLの熱水(95℃以上)に2時間浸漬した後、濾別した濾液を「第一抽出液」として取得した。一方、濾別した残渣を更に熱水に浸漬して抽出し、「第二抽出液」を得た。これらの第一および第二抽出液を合わせ、30℃以下に冷却して沈殿した成分を濾別し、沈殿部を水洗、再結晶、および乾燥することにより、純度95%以上のルチン22.8gを得た。
【0075】
このルチン20gを水400mLに分散し、pH調整剤を用いてpH4.9に調整した。これにナリンギナーゼ(天野エンザイム(株)、商品名「ナリンギナーゼ"アマノ"」、3,000U/g)を0.12g添加して反応を開始し、これを72℃で24時間保持した。その後、反応液を20℃に冷却し、冷却によって生じた沈殿物を濾別した。得られた沈殿物(固形分)を水洗した後、乾燥し、イソクエルシトリン13.4gを回収した。
【0076】
(2)酵素処理イソクエルシトリンの調製
上記で得られたイソクエルシトリン10gに、500mLの水を加えコーンスターチ40gを添加し分散させた。これにシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase:天野エンザイム(株)、商品名「コンチザイム」、600U/mL)15gを添加して反応を開始し、これをpH7.25、60℃の条件下、24時間保持した。得られた反応液を冷却した後、ダイヤイオンHP-20(三菱化学工業(株)製)のカラム(Φ3.0×40cm)に付加し、1000mLの水で洗浄した。次いでカラムに600mLの50容量%のエタノール水溶液を供し、得られた溶出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して、酵素処理イソクエルシトリン〔以下、これを「イソクエルシトリンG(mix)」または「IQC-G(mix)」という〕12.8gを取得した。これを下記条件のHPLCに供して各成分を分取し、各成分を質量分析装置(LC/MS/MS,日本Waters,型式Quattro Micro)を使用して分析した。
【0077】
<HPLC条件>
カラム:Inertsil ODS-2 Φ4.6×250mm(GLサイエンス製)
溶離液:水/アセトニトリル/TFA=850/15/2
検出:波長351nmにおける吸光度測定
流速:0.8mL/min。
【0078】
その結果、上記酵素処理イソクエルシトリン〔IQC-G(mix)〕は、下式で示すIQCと各種IQC配糖体の混合物からなることが分かった。
【0079】
【化8】

(式中、Glcはグルコース残基、nは0または1以上の整数を示す。)
HPLC分析結果より、次式に基づいて、上記混合物に含まれるIQCおよび各IQC配糖体のモル比(%)を算出したところ、表2に示すような組成であった。
【0080】
【数1】

【0081】
【表2】

調製例1:イソクエルシトリンG(1-3)画分およびイソクエルシトリンG(3-6)画分の調製
参考調製例1で得られた酵素処理イソクエルシトリン(IQC-G(mix))0.65gを含水メタノールに溶解し、ゲルろ過樹脂(Sephadex LH-20 : Amersham Bioscience K.K.)を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行った。通過液を一定量ずつ分取した後、上記参考調製例1に記載する条件でHPLC分析を行い、IQCにグルコースが3個α1,4結合したG3、4個結合したG4、5個結合したG5、および6個結合したG6を豊富に含む画分(以下、「イソクエルシトリンG(3-6)画分」または「IQC-G(3-6)」画分という)と、IQCにグルコースが1個α1,4結合したG1、2個結合したG2、および3個結合したG3を豊富に含む画分(以下、「イソクエルシトリンG(1-3)画分」または「IQC-G(1-3)画分」という)との2画分に分けた。次いで、これら2画分をそれぞれ減圧濃縮により溶媒を除去した後、凍結乾燥して、「イソクエルシトリンG(3-6)画分」(「IQC-G(3-6)画分」)0.15gおよび「イソクエルシトリンG(1-3)画分」(「IQC-G(1-3)画分」)0.1gを得た。これらの画分について前述の参考調製例1に記載する条件のHPLC分析を行い、各画分に含まれるIQC並びに各IQC配糖体のモル比(%)を算出した。
【0082】
結果を表3に示す。表3からわかるように、IQC-G(1-3)画分中に含まれるG1、G2およびG3の割合は総量で94%、IQC-G(3-6)画分中に含まれるG3、G4、G5およびG6の割合は総量で86%であった。
【0083】
【表3】

実験例:虚血後血管新生促進の観察
(1)一側下肢虚血モデルの作成及びクエルセチン配糖体の投与
24-32週齢の雄性マウス(C3H/HeJ)の片側大腿動脈を結紮及び切離し、下肢虚血モデルマウスを作成した。本モデルマウスは計30匹準備し、本発明に係るクエルセチン配糖体投与群(N=15)および蒸留水投与群(N=15)とした。前者には、虚血手術2週間前より術後4週間までの計6週間、調製例1で調製したIQC-G(1-3)画分を1日1回、1日あたり100mg/kgの強制経口投与にて与え、後者には蒸留水を同様に与えた。
【0084】
(2)レーザードップラー血流計による血流測定
手術当日、1、2、3、4週間後の計5回、マウスをペントバルビタールにて麻酔し、40℃のホットプレート上に置いたケージ内で約10分間加温後、40℃のホットプレート上にてレーザードップラー血流計(Moor社製)を用いて、両側の下肢の血流を定量し、また血流量を反映する画像を取得した。図1に血流量を虚血肢側/健常肢側にて表し、また図2に各投与群に属する一匹のマウスの下肢における血流量を反映する画像((a)クエルセチン配糖体投与群、(b)蒸留水投与群)を示す。
【0085】
(3)毛細血管密度の定量
術後4週間目(レーザードップラー血流計による血流測定後)に深麻酔にてマウスを屠殺し、虚血肢の筋組織の横断面を抗CD31抗体(BD Pharmingen社製)にて免疫組織染色を行った。光学顕微鏡200倍視野で10視野につき単位面積当たりの毛細血管数をカウントし、平均した。図3に、クエルセチン配糖体投与群(a)及び蒸留水投与群(b)の毛細血管密度を示す。
【0086】
(4)考察
図1より、蒸留水投与群の虚血肢側/健常肢側の血流比が術後2-4週間で0.6程度を示したのに対し、本発明に係るクエルセチン配糖体投与群が0.9程度を示し、術後3、4週間時点で有意な血流改善(血管新生促進)作用を示したことがわかる。
【0087】
図2より、蒸留水投与群では虚血肢側の血流が改善されていないのに対し、クエルセチン配糖体投与群では健常肢とほぼ同程度に血流が改善されており、血流改善(血管新生促進)作用を示したことがわかる。
【0088】
図3より、クエルセチン配糖体投与群では、蒸留水投与群と比較して、有意な血管密度亢進作用を示し、血管新生が促進されたことがわかる。
製剤例
(1)製剤例1:錠剤
(重量%)
IQC−G(1-3)画分(調製例1) 18
乳糖 78
ショ糖脂肪酸エステル 4
上記各成分を均一に混合し、1粒250mgの錠剤とした。
【0089】
(2)製剤例2:散剤および顆粒剤
(重量%)
IQC−G(1-3)画分(調製例1) 18
乳糖 60
でんぷん 22
上記各成分を均一に混合し、散剤あるいは顆粒剤とした。
【0090】
(3)製剤例3:カプセル剤
(重量%)
ゼラチン 70.0
グリセリン 22.9
パラオキシ安息香酸メチル 0.15
パラオキシ安息香酸プロピル 0.35
水 残量
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、製剤例2で調製した顆粒剤を常法により充填し、1粒250mgのソフトカプセルを得た。
【0091】
(4)製剤例4:ドリンク剤
呈味:DL-酒石酸ナトリウム 0.10 g
コハク酸 0.009g
甘味:液糖 800.00 g
酸味:クエン酸 12.00 g
ビタミン:ビタミンC 10.00 g
IQC−G(1-3)画分(調製例1) 1.80 g
ビタミンE 30.00 g
シクロデキストリン 5.00 g
香料 15.00ml
塩化カリウム 1.00 g
硫酸マグネシウム 0.50 g
上記成分を配合し、水を加えて10リットルとした。このドリンク剤は、1回あたりの投与用量が約250mlとなるように調製されている。
【0092】
(5)製剤例5:飴
砂糖 98g
水飴(ブリックス75) 91g
IQC−G(1-3)画分(調製例1)の濃縮液
(ブリックス40) 75g
上記の各成分をよく混合し、水分が2%になるまで煮詰め、1粒あたり2gの飴を作製した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の虚血後血管新生促進剤は、種々の虚血性疾患の予防用又は治療用の医薬品として有用である。また、本発明の血流改善剤は、血流の低下や不全の予防又は改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】クエルセチン配糖体投与群及び蒸留水投与群の虚血肢側/健常肢側の血流比の変化を示す図である。
【図2】クエルセチン配糖体投与群及び蒸留水投与群のレーザードップラー血流計による画像を示す図である。
【図3】クエルセチン配糖体投与群及び蒸留水投与群の術後4週間目の毛細血管密度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)で示されるクエルセチン配糖体を有効成分とする虚血後血管新生促進剤。
【請求項2】
前記クエルセチン配糖体が、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たす組成物である、請求項1に記載の虚血後血管新生促進剤:
(a)当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。
【請求項3】
一般式(1):
【化2】

(式中、Glcはグルコース残基を、nは0または1以上の整数を意味する。)で示されるクエルセチン配糖体を有効成分とする血流改善剤。
【請求項4】
前記クエルセチン配糖体が、少なくともn=3のクエルセチン配糖体を含み、且つ下記(a)の要件を満たす組成物である、請求項3に記載の血流改善剤:
(a)当該組成物中に含まれるn=1〜3のクエルセチン配糖体の総量が50モル%以上であって、且つnが4以上のクエルセチン配糖体の総量が15モル%以下である。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−266215(P2008−266215A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111975(P2007−111975)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】