説明

虚血性及び糖尿病性創傷の治癒を促進する組成物、キット及び方法

SDF−1αが成熟内皮細胞(EC)におけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートして、EC−内皮前駆細胞(EPC)間の接着及びEPCホーミングを増加させるという発見に基づく、組成物、キット、及び糖尿病性創傷の治癒を促進する方法。糖尿病の対象における創傷治癒を促進する方法は、E−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及び任意に、E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤(例えば、SDF−1α)、を含有する治療有効量の組成物を提供する工程を含む。前記方法は、対象に高圧酸素療法を実施する工程をもまた含む場合がある。組成物の対象への投与は、骨髄由来前駆細胞の創傷への遊走、創傷治癒の促進、及び対象におけるE−セレクチンの発現のアップレギュレーションをもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、医療及び遺伝子治療の分野に関する。より詳細には、本発明は糖尿病の対象における創傷治癒を促進する組成物、キット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欠陥のある創傷治癒は、糖尿病患者における重大な臨床上の問題であり、また下肢切断の主要な原因である。現在の治療の成功率は低く、糖尿病性の微小血管病理に対する取り組みは不十分である。糖尿病性創傷治癒の不良は、不十分な血管形成及び脈管形成によって特徴付けられる。脈管形成はBM由来前駆細胞からの新生血管の成長を含み、後天性の血管新生過程及び創傷治癒に寄与する。骨髄(BM)由来の内皮前駆細胞(EPC)は脈管形成において機能する重要な細胞であり、虚血に反応して末梢組織にホーミングする。EPCの動員及びリクルートメント(すなわち虚血)に対する初期の生理的刺激が、糖尿病の宿主においては、なぜ治療的なEPC介在性血管新生及び治癒を誘導しないのかは未だに解明されていない。
【0003】
そのため、現在においても、糖尿病性創傷治癒を高める治療薬及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本明細書においては、SDF−1αが成熟ECにおけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートし、EC−EPC間接着及びEPCホーミングの増加を引き起こすという発見に基づく、虚血性(例えば、糖尿病性)創傷の治癒を促進する組成物、キット及び方法が記載される。EPCの標的組織へのホーミング機序には、EPCの骨髄ニッチからの離脱、血管内への移行、及び循環系内での移動、ホーミングシグナルの感知、毛細血管の単層内皮細胞(EC)上での回転及び接着、そしてその後のEPC−EC間の直接的な相互作用が必要とされる経内皮遊走を含む、連続したイベントのカスケードが含まれる。本明細書に記載される実施例においては、EPCの標的組織へのホーミングを達成するためには、毛細血管内膜のECと循環しているEPCとの間の直接的な細胞間相互作用が必要かどうか、及び、EC単層における特異的な接着分子の制御により、少なくとも部分的には、EPCホーミングにおけるSDF−1αの効果が仲介されるかどうかについて調べた。SDF−1α誘導性のEPCホーミングを仲介する接着分子として、E−セレクチンを特定した。本明細書において記載した実施例の結果は、マウス及びヒトの成熟EC単層においては、SDF−1αがE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートすること、E−セレクチンはEPCのEC単層への接着を高めることにより、EPCホーミング及びそれらの経内皮遊走におけるSDF−1αの効果を仲介する原因となること、並びにこれらの効果が創傷性血管新生及び創傷治癒(血管新生)の有意な増大を生じること、を示した。これら新規の知見は、EPCホーミングにおけるSDF−1αの生物学的な効果の根底にある分子メカニズム(シグナル)への洞察を提供するばかりでなく、E−セレクチンが虚血性(例えば、糖尿病性)創傷の治癒における治療的適応の新しい標的であることを明らかにした。
【0005】
別段の指定のない限り、本明細書で使用される全ての専門用語は、本発明が属する分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0006】
本明細書で使用する場合、「核酸」又は「核酸分子」は、RNA(リボ核酸)及びDNA(デオキシリボ核酸)のような2つ以上のヌクレオチドの鎖、及び化学的に修飾したヌクレオチドを意味する。「精製した」核酸分子は、その核酸が天然に生じる細胞又は生物中におけるその他の核酸配列から実質的に分離された核酸分子である(汚染物質を、例えば、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、100%含まない)。この用語は、例えば、ベクター、プラスミド、ウイルスに組み入れられた組換え核酸分子、又は原核生物又は真核生物のゲノムを含む。精製した核酸の例としては、cDNA、ゲノム核酸の断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生産した核酸、ゲノム核酸の制限酵素処理によって形成した核酸、組換え核酸、及び化学的に合成した核酸分子が挙げられる。「組換え」核酸分子は、例えば、化学的な合成によって、又は遺伝子工学技術による単離した核酸セグメントの操作によって、そういうことをしなければ分離していた2つの配列セグメントを人工的に組み合わせることによって作出した核酸分子である。
【0007】
「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質又は、特定の例においては、機能性若しくは構造性RNA分子をコードする核酸分子を意味する。
【0008】
「E−セレクチン遺伝子」、「E−セレクチンポリヌクレオチド」、又は「E−セレクチン核酸」という用語は、天然のヒトE−セレクチン又はE−セレクチンをコードする核酸配列、例えば、天然のヒトE−セレクチン遺伝子(アクセッション番号 NM_000450)、E−セレクチンcDNAを転写することができる配列由来の配列を含む核酸;及び/又は対立変異体及び前述したもののホモログを意味する。この用語は、二本鎖DNA、一本鎖DNA及びRNAを包含する。
【0009】
「SDF−1α遺伝子」、「SDF−1αポリヌクレオチド」、又は「SDF−1α核酸」という用語は、天然のヒトSDF−1α又はSDF−1αをコードする核酸配列、例えば、天然のヒトSDF−1α遺伝子(アクセッション番号 NM_199168、NM_000609、NM_001033886)、SDF−1α cDNAを転写することができる配列由来の配列を含む核酸;及び/又は対立変異体及び前述したもののホモログを意味する。この用語は、二本鎖DNA、一本鎖DNA及びRNAを包含する。
【0010】
核酸分子における突然変異について言及する場合、「サイレントな」変化とは、ヌクレオチド配列中の1つ以上の塩基対が置換されるが、その配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない変化である。「保存的な」変化とは、核酸のタンパク質コード領域の少なくとも1つのコドンを、この核酸配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸のうちの少なくとも1つが、類似した特徴を有するその他のアミノ酸に置換されるように変化する、変化である。
【0011】
ペプチド、オリゴペプチド又はタンパク質におけるアミノ酸残基について言及する場合、「アミノ酸残基」、「アミノ酸」及び「残基」という用語は区別なく用いられ、本明細書で使用する場合、アミド結合又は模倣アミド結合を介して少なくとも1つの他のアミノ酸又は模倣アミノ酸に共有結合した、アミノ酸又は模倣アミノ酸を意味する。
【0012】
本明細書で使用する場合、「タンパク質」及び「ポリペプチド」は同義的に用いられ、長さ又はグリコシル化若しくはリン酸化のような翻訳後修飾に関わらず、任意のペプチド結合したアミノ酸の鎖を意味する。
【0013】
「E−セレクチンタンパク質」又は「E−セレクチン」という用語は、天然のヒトE−セレクチンタンパク質(アクセッション番号 AAQ67702、NP_000441.2)のようなE−セレクチン遺伝子の発現産物、又は前述したものと少なくとも65%(しかし好ましくは75、80、85、90、95、96、97、98、又は99%)のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、天然のE−セレクチンタンパク質の機能活性を示すタンパク質を意味する。タンパク質の「機能活性」とは、そのタンパク質の生理機能に関連する任意の活性である。例えば、天然のE−セレクチンタンパク質の機能活性には、EC−EPC間接着の仲介及び、細胞と血管内膜との接着を仲介することによる、炎症部位での白血球の蓄積の促進が含まれ得る。
【0014】
「SDF−1αタンパク質」又は「SDF−1α」という用語は、天然のヒトSDF−1αタンパク質(アクセッション番号 CAG29279.1)のようなSDF−1α遺伝子の発現産物、又は前述したものと少なくとも65%(しかし好ましくは75、80、85、90、95、96、97、98、又は99%)のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、天然のSDF−1αタンパク質の機能活性を示すタンパク質を意味する。タンパク質の「機能活性」とは、そのタンパク質の生理機能に関連する任意の活性である。例えば、天然のSDF−1αタンパク質の機能活性には、細胞成長又は血管形成に対する刺激が含まれ得る。SDF−1αは、EPCへの強力なホーミングシグナルとして作用するケモカインである(Lapidot et al.,Ann NY Acad Sci 938:83−95,2001;米国特許第2008/003760号を参照のこと)。
【0015】
核酸分子、ポリペプチド、又は感染性病原体について言及する場合には、「天然の」という用語は、天然に生じる(例えば、野生型(WT))核酸、ポリペプチド、又は感染性病原体を意味する。
【0016】
「血管形成」という用語は、既存の血管に由来する新しい血管の成長を意味する。血管形成は、分岐のない血管セグメントの数の測定(単位面積当たりのセグメント数)、機能性血管密度(単位面積当たりに潅流する血管の全長)、血管径、又は血管容量密度(単位面積当たりの各セグメントの長さ及び直径に基づいて算出した全血管容量)により、評価することができる。
【0017】
「特異的な結合」及び「特異的に結合する」という用語は、酵素/基質、受容体/アゴニスト、抗体/抗原、などのような対になった種の間に生じ、かつ、共有若しくは非共有相互作用、又は共有及び非共有相互作用の組み合わせが介在する可能性のある結合を意味する。2つの種の相互作用が非共有的に結合した複合体を生産する場合、生じる結合は、一般的には静電、水素結合、又は親油性相互作用の結果である。従って、「特異的な結合」は、抗体/抗原又は酵素/基質相互作用の特徴を有する結合した複合体を生産する、2つの対になった相互作用のある種の間に生じる。具体的には、特異的な結合は、対をなすメンバーの片方が特定の種へは結合するが、化合物ファミリー(結合するメンバーに対応するメンバーが属する)内のその他の種には結合しないことによって特徴付けられる。
【0018】
本明細書で使用する場合、「配列同一性」という句は、サブユニットの一致が最大になるように(すなわちギャップ及び挿入を考慮に入れて)2つの配列を整列させた場合に、2つの配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列)において対応する位置にある、同一のサブユニットのパーセンテージを意味する。配列同一性は、配列解析ソフトウェア(例えば、Accelrys CGC、San Diego、CAのSequence Analysis Software Package)を用いて測定することができる。
【0019】
「単離した」又は「生物学的に純粋」という句は、天然の状態で見られるように、その材料に通常付随する成分を実質的に又は本質的に含まない材料を意味する。
【0020】
「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体、ヒト化抗体、可溶性又は結合形態において標識することができる抗体に対する抗イディオタイプ(抗Id)抗体、並びに、例えば酵素的開裂、ペプチド合成、若しくは組換え技術を含むがこれらには限定されない、任意の既知の技術によって提供される断片、領域又はその誘導体、を含むことを意味する。
【0021】
本明細書で使用する場合、「慢性創傷」及び「難治性創傷」及び「糖尿病性創傷」という用語は、持続的な解剖学的及び機能的な結果が達成されず、また、壊死片及び感染の除去、炎症の消失、結合組織マトリックスの修復、血管形成、及び表面再建を含む通常の創傷治癒方法では治癒しない創傷を指す。例えば、病理学的に低酸素症が上昇した場合、創傷治癒は不全であり、かつ、創傷感染率も上昇する。通常の治癒において必須な部分は、肉芽組織形成とも呼ばれる、一時的な創傷マトリックス中での新しい血管の形成である。
【0022】
一実施形態においては、「血管形成」という用語は、創傷に隣接した血管網の在住内皮細胞の増殖による過程、並びにその他の実施形態においては、繊維芽細胞のような成熟ストローマ細胞に補助される、最初は無血管である創傷組織中に成長する新生血管への遊走及びリモデリング、を指す。別の実施形態においては、「脈管形成」という用語は、創傷にリクルートされたEPCが、内皮細胞へと分化し、血管網の置換を引き起こすデノボ過程を指す。
【0023】
「前駆細胞」、又は「内皮前駆細胞」又は「EPC」という用語は、分化及び増殖によって完全に分化した機能的な後代を生成する能力を有する、任意の体細胞を意味する。別の実施形態においては、前駆細胞は、任意の組織又は血液、神経、筋肉、皮膚、消化管、骨、腎臓、肝臓、膵臓、胸腺、などを含むがこれらには限定されない器官系からの前駆細胞を含む。前駆細胞は、「分化した細胞」とは区別され、別の実施形態においては、これらは、増殖(すなわち自己複製)する能力を有しても有さなくてもよいが、通常の生理学的な条件においては異なる細胞型へのさらなる分化はしない、細胞と定義される。一実施形態においては、前駆細胞はさらに、増殖(自己複製)するが、未成熟又は未分化であるように見えるにもかかわらず通常さらには分化しない、癌細胞、特に白血病細胞のような異常な細胞からは区別される。
【0024】
本明細書で使用する場合、「全能性を有する」という用語は、胚性幹細胞(すなわち全ての型の成熟細胞の生成に必要、かつ、十分である)のような不確定な前駆細胞を意味する。全ての膵臓細胞系統を生成する能力を保持するが、自己更新できない前駆細胞は、「多能性を有する」と呼ばれる。別の実施形態においては、全てではないが内皮系統のいくつかの細胞を生産することができ、かつ、自己更新できな前駆細胞は、「いろいろな能力を有する」と呼ばれる。
【0025】
本明細書で使用する場合、「骨髄由来前駆細胞」及び「BM由来前駆細胞」という句は、骨髄幹細胞系統から派生した前駆細胞を意味する。骨髄由来前駆細胞の例としては、骨髄由来間葉幹細胞(MSC)及びEPCが挙げられる。
【0026】
「ホーミング」という用語は、治癒に関わる細胞が、損傷部位に遊走し修復を補助するように誘導及び刺激するシグナルを指す。
【0027】
「治療有効量」及び「有効量」という句は、治療上(例えば臨床上)期待される結果(結果の正確な特性は治療される障害の特性によって多様になり得る)を生じるのに有効な量を意味する。例えば、治療する障害が非治癒性の糖尿病性創傷である場合、結果は創傷の治癒となり得る(EC−EPC間接着の増大、EPCホーミング及び創傷血管新生の増大を誘導する、成熟ECにおけるE−セレクチン発現の特異的なアップレギュレートによる)。本明細書において記載される組成物及びワクチンは、1日当たり1回以上から1週間当たり1回以上までの間で投与することができる。当業者は、対象を効果的に治療するには、疾患又は障害の重篤度、それまでの治療、総体的な健康及び/又は対象の年齢、並びにその他に見つかる疾患を含むがこれらには限定されない特定の因子が、その投与量及びタイミングに影響をおよぼす可能性があることを理解するだろう。さらに、治療有効量の本発明の組成物又はワクチンを用いた対象の治療は、単独治療であっても又は一連の治療であってもよい。
【0028】
本明細書で使用する場合、「治療」という用語は、本明細書において記載した若しくは本明細書において記載した方法により特定した治療薬の、患者への、適用又は投与、又は、疾患、疾患の症状、又は疾病素因を、治す、治癒する、軽減する、救助する、変質させる、治療する、回復させる、改善する又は作用する目的における、疾患、疾患の症状若しくは疾病素因を有する患者から単離した組織又は細胞株への治療薬の適用又は投与、と定義される。
【0029】
「患者」、「対象」及び「個体」という用語は、本明細書においては区別なく用いられ、好ましくはヒト患者である、治療を受ける哺乳類対象を意味する。いくつかの例においては、本発明の方法は、マウス、ラット及びハムスターのような齧歯類、並びに非ヒト霊長類を含むがこれらには限定されない、実験動物における、獣医学的適用における、及び疾患への動物モデルの開発における利用法を見いだす。
【0030】
従って、本明細書においては、糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治療を促進する方法が記載される。この方法は以下の工程を含む:E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤からなる群より選択される少なくとも1つの治療薬と、薬学的に許容可能な担体とを含む、治療有効量の組成物を提供する工程;及び、対象において骨髄由来前駆細胞(例えば、EPC)の創傷への遊走が増加する条件で、組成物を対象に投与する工程。組成物を、例えば、経口的に、局所的に、静脈内に直接、又は血管内カテーテルを介して、創傷又は創傷に隣接した部位に投与することができる。対象への組成物の投与は、創傷治癒の促進もたらす。一実施形態においては、組成物は、E−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤、ここでこのE−セレクチン発現を特異的にアップレギュレートする薬剤はSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸である、を含む。この方法はさらに、対象に高圧酸素両方を実施する工程を含んでいてもよい。
【0031】
本明細書においては、糖尿病性創傷を有する糖尿病の対象においてE−セレクチン発現をアップレギュレートする方法がさらに記載される。この方法は、第一のAAV逆方向末端反復と第二のAAV逆方向末端反復との間に挿入されたE−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを含有する少なくとも1つのrAAVビリオンを包含する組成物を、E−セレクチンの発現をアップレギュレートし、骨髄由来前駆細胞(例えば、EPC)の創傷への遊走を誘導し、かつ対象における創傷の治癒を促進するために有効な量で、糖尿病の対象に投与する工程を含む。少なくとも1つのrAAVビリオンは、血清型2カプシドタンパク質を含有する場合がある。組成物を、例えば、創傷又は創傷に隣接した部位に直接投与してもよい。この方法は、SDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸を対象に投与する工程及び/又は対象に高圧酸素療法を実施する工程、をさらに含む場合もある。
【0032】
本明細書においては、哺乳類対象における少なくとも1つの糖尿病性創傷を治療するキットがさらに記載される。このキットは、E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤からなる群より選択される少なくとも1つの治療薬と、薬学的に許容可能な担体とを含む、治療有効量の組成物;及び使用説明書を含む。一実施形態においては、この組成物は、E−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤を含み、ここでこのE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤はSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸である。一実施形態においては、使用説明書は、対象に高圧酸素療法を実施するための説明を含む。
【0033】
本明細書においては、糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒を促進する方法もまた記載される。この方法は、薬学的に許容可能な担体と複数の骨髄由来前駆細胞(E−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを含有する)とを含む組成物を提供する工程、及び骨髄由来前駆細胞(例えば、EPC)の創傷への遊走を増加させ、対象における創傷治癒を促進するために有効な量の組成物を対象に投与する工程、を含む。E−セレクチンをコードするポリヌクレオチドは、ウイルスベクター、例えば、ウイルス粒子中に含まれるウイルスベクター中にあってもよい(例えば、AAV粒子中のrAAVベクター)。組成物は、SDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸をさらに含んでいてもよく、創傷又は創傷に隣接した部位に直接投与することもできる。一実施形態においては、この方法は、対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含む。
【0034】
本発明の実施及び試験においては、本明細書において記載したものと類似又は同等な組成物、キット及び方法を用いることができるが、好適な組成物、キット及び方法を以下に記載する。本明細書において言及する全ての出版物、特許出願、及び特許は、その全体が参照することにより組み入れられる。不一致が生じる場合には、定義を含む本明細書が優先される。以下で議論される特定の実施形態は説明するためだけのものであり、発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、SDF−1αを改変したBMDFが血管新生及び糖尿病性創傷治癒を促進することを示す、細胞の一連の顕微鏡写真及びグラフである。(A)左:回復のパーセンテージで表した創傷治癒率。2つの群のNODマウスに創傷を作製し、mSDF−1α/BMDF又はGFP/BMDFで処理した。デジタル写真を用いて、最初の創傷面積の画分を毎日測定し、創傷が治癒するまでImageJ解析を行った。GFP/BMDFで処理した対照と比較して、mSDF−1α/BMDFで処理した糖尿病マウスでは、3日目以降、有意に創傷閉塞率が改善した。右:各群におけるそれぞれの日数での代表的な創傷を示す。(B)Dil色素を用いた創傷血管潅流。上段:5日目にレーザー走査共焦点顕微鏡を用いて測定した、Dil染色創傷血管の代表的な画像を各群について示す。下段:創傷における血管密度の定量。閾値のパーセンテージは、検出した全ての血管を、全創傷面積のパーセンテージとして含む。対照と比較して、mSDF−1α/BMDFで処理した創傷は有意に高い血管密度を有した。データは、各群における4つの創傷の平均±SDとして表した。(C)mSDF−1αを検出するために、mSDF−1α/BMDF又はGFP/BMDFを注入した創傷組織のIHC。GFP/BMDFで処理した創傷と比較して、mSDF−1α/BMDFで処理した創傷ではより強いmSDF−1αの発現(茶色)が観察された(40X)。
【図2】図2は、SDF−1αで刺激したEC単層へのEPCの接着がインビトロで増加したことを示す、EC単層の写真及びグラフである。Dil−Ac−LDL−標識EPCを、SDF−1α又はBSAで刺激したEC単層に添加した。30分後、結合しなかったEPCを洗い流した。蛍光スキャニングにより結合したEPCを定量した。(A):代表的な画像。(B):定量したデータ。データは、二組の試料を用いた3回の独立したアッセイの、平均±SDとして表す。
【図3】図3は、SDF−1αによる刺激が、EC単層でのE−セレクチンの発現をアップレギュレートすることを示す、グラフ、電気泳動を行ったゲルの写真、NODマウス創傷の一連の顕微鏡写真、及び創傷組織の顕微鏡写真である。(A)HMVECをSDF−1α又はBSAで4時間刺激し、トータルRNAを抽出した。細胞外マトリックスの発現及び接着分子をRT2 PCR Arrayを用いて解析した。SDF−1αの刺激により、E−セレクチンの発現がアップレギュレートされた。BSAで処理したECにおけるmRNAのレベルを「1」と設定し、SDF−1αで処理したECでのレベルと比較した。(B):E−セレクチンの発現をウェスタンブロット解析により確認した。HMVECをSDF−1α又はBSAで刺激し、様々な時点で細胞を回収した。ローディングコントロールとしてはβ−アクチンを用いた。(C)LacZ/AAVを注入した場合と比較して、mSDF−1α/AAVを注入したNODマウス創傷では、E−セレクチンの血管での発現が増加した。血管中でのKDR(赤)とE−セレクチン(緑)の共発現(黄色)を免疫染色により検出した。(D)mSDF−1α/AAVを注入した創傷組織におけるSDF−1発現の増加をIHCにより検出した。
【図4】図4は、EC単層でのSDF−1α誘導性E−セレクチンが、EPC接着及び経内皮遊走を増大させることを示す一対のグラフと一連の顕微鏡写真である。(A)より多くのEPCが、BSAで処理したEC単層によりも、SDF−1αで刺激したEC単層に接着した。さらにE−セレクチンに対するAbをブロッキングすると、この細胞間接着アッセイにおいては、SDF−1αで刺激したECとEPCとの相互作用が阻害された。データは、二組の試料を用いた3回の独立したアッセイの平均±SDとして表す。(B、上段)より多数のDil−Ac−LDL標識EPCが、BSAで処理したEC単層を入れたチャンバーよりも、SDF−1αで刺激したEC単層を入れたトランスウェルの下チャンバーへ遊出することが観察された。E−セレクチンに対するAbをブロッキングすると、このEPC経内皮遊走が阻害された。(B、下段)トランスウェルの下チャンバーのDil−EPCを、蛍光スキャニングにより定量した。E−セレクチンに対するAbをブロッキングすると、SDF−1αで刺激したECとEPCとの相互作用が阻害された。データは、二組の試料を用いた3回の独立したアッセイの平均±SDとして表す。
【図5】図5は、SDF−1がEPCにおけるE−セレクチンリガンドの発現を誘導することを示す、ウェスタンブロットの写真である。EPCをSDF−1αで刺激し、様々な時点で細胞を回収した。E−セレクチンのリガンドであるCD162とCD44の発現をウェスタンブロッティングアッセイで試験した。ローディングコントロールとしてはβ−アクチンを用いた。実験は2回繰り返して行った。
【図6】図6は、後肢虚血と皮膚創傷のマウスモデルを用いた、SDF−1α誘導性EPCホーミング、血管新生及び創傷の治癒におけるE−セレクチンの関与を示す一連の写真及びグラフである。(A)上段:E−sel−/−又はWTマウスにおいて、大腿動脈の結合/切除後に、血流が虚血性後肢内へ自然に戻ることを示す非侵襲性のLDI測定の代表的な画像である。下段:LDI測定の定量データ。様々な時点での、2つの群のマウスにおける虚血性後肢対正常な後肢の比。データは、各群(n=6/群)の平均±SDとして表す。(B)E−sel−/−又はWTにおける創傷閉塞率。上段:E−sel−/−及びWTマウスにおける創傷治癒の代表的な画像。E−セレクチンの欠損が創傷治癒を遅延させる。下段:E−sel−/−又はWTマウスの定量的創傷閉塞率。データは、各群(n=6/群)の創傷閉塞(回復)のパーセンテージを平均±SDとして表す。(C)Dil色素を用いた創傷血管潅流。上段:各群について、7日目に共焦点レーザー走査写真撮影術により検出したDil染色創傷血管の代表的な画像。下段:7日目の残留創傷の全面積における血管密度をソフトウェアを用いて定量し、蛍光のパーセンテージとして表した。WTマウスの創傷は、E−sel−/−マウスと比較して、有意に高い血管密度を有した。データは、各群の3つの創傷における平均±SDとして表す。(D)E−selは、創傷病変へのEPCホーミングに必須である。ROSA26(LacZ)マウス由来の骨髄細胞(1x10個)をE−sel−/−及びWTマウスそれぞれに移植した。虚血性後肢創傷を作出し、SDF−1αを創傷に注入した。細胞を移植して7日後、創傷を回収し、凍結した試料をX−gal(青)及び抗KDR(茶色)染色に用いた。上段:二重染色の代表的な画像。下段:創傷試料の5つの無作為に選択した視野から、両方の染色で陽性だった細胞を計測した。データは、各群(n=3創傷/群)のパーセンテージの平均±SDとして表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
本明細書に記載した組成物、方法及びキットは、EC及び循環するEPCにより成熟したSDF−1αが仲介するEPCホーミングを調節するシグナルの発見に基づいている。下記に記載する実験において、細胞を用いた治療を介した創傷におけるSDF−1αレベルの上昇が、糖尿病マウスでの治癒を促進することを示した(3日目における治癒の上昇率は〜20%、P=0.006)。SDF−1αはEC−EPC間接着を増加させ、そしてヒト毛細血管ECでは、E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートした(4.6倍の上昇、P<0.01)。この効果は実験マウスの血管においてもまた有意であり、創傷血管新生の増加をもたらした。EC−EPC間接着及びEPCホーミングにおけるSDF−1αの制御作用はE−セレクチンによって特異的に仲介され、そのため、E−セレクチンアンタゴニストの適用はSDF−1α誘導性のEC−EPC間接着、EPCホーミング、創傷血管新生、及び創傷治癒を有意に阻害する。E−sel−/−マウスモデルを用いて、SDF−1α誘導性の創傷治癒の仲介におけるE−セレクチンの必要性を示した。SDF−1αを改変した細胞を用いた治療は、成熟ECにおけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートしてEC−EPC間接着及びEPCホーミングの増加を引き起こし、そして創傷血管新生を増大することにより、マウスにおける糖尿病性創傷の治癒を促進する。これらの発見は、EPCホーミングにおけるSDF−1αの生物学的な作用の根底にあるシグナルへの新規の洞察を提供し、そして、E−セレクチンが虚血性(例えば、糖尿病性)創傷の治癒において、EPC輸送を治療的に操作するための新しい、潜在的な標的であることを示すものである。
【0037】
以下に記載する好ましい実施形態は、これらの組成物、ワクチン、キット及び方法の適用を説明する。しかし、これらの実施形態の詳細な説明により、以下に提供した説明に基づいて、本発明のその他の態様を作出及び/又は実施することができる。
生物学的方法
【0038】
本明細書においては、標準的な分子生物学的技術を含む方法を記載する。このような技術は通常当該分野において一般的に既知であり、かつ、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., vol. 1−3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 2001;及びCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley−Interscience, New York, 1992(定期的な更新を含む)のような方法論に詳細に記述されている。免疫学的技術は通常当該分野において一般的に既知であり、かつ、Advances in Immunology, volume 93, ed. Frederick W. Alt, Academic Press, Burlington, MA, 2007; Making and Using Antibodies: A Practical Handbook, eds. Gary C. Howard and Matthew R. Kaser, CRC Press, Boca Raton, Fl, 2006; Medical Immunology, 6th ed., edited by Gabriel Virella, Informa Healthcare Press, London, England, 2007;及びHarlow and Lane ANTIBODIES: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1988のような方法論に詳細に記述されている。遺伝子導入及び遺伝子治療の標準的な方法もまた本発明での使用に適している場合がある。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999; 及びGene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P.D. Robbins, Humana Press, 1997を参照のこと。
虚血性創傷の治癒を促進する組成物
【0039】
本明細書においては、糖尿病の対象における虚血性(例えば、糖尿病性)創傷の治癒を促進する組成物が記載される。本明細書において記載される組成物は、糖尿病性創傷のような任意の型の虚血性創傷の治癒を促進するために用いることができる。それらの組成物は通常、薬学的に許容可能な担体とE−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸のような少なくとも1つの治療薬とを含有する、治療有効量の組成物を含む。組成物は、E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤をさらに含んでいてもよい。この実施形態においては、E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする任意の好適な薬剤を用いることができる。例えば、SDF−1αを用いることができる。さらなる例としては、IL−1、TNF−アルファ及びリポ多糖類、ポリサッカライド(LPS)が挙げられる。この実施形態においては、組成物はE−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸を含む。対象へのこの組成物の投与は、骨髄由来前駆細胞の創傷への遊走の増加、及び対象における創傷治癒の促進をもたらす。創傷治癒は、創傷の再上皮形成によって特徴付けられる。
【0040】
E−セレクチンタンパク質は、任意の好適なプロトコールにより、単離又は合成することができる(例えば、プロテインA及びプロテインGビーズを用いた抗E−セレクチン抗体捕捉技術(Invitrogen))。E−セレクチンタンパク質を投与する一般的な実施形態においては、細菌細胞(例えば、E.Coli)を形質転換、又は哺乳類細胞をトランスフェクションし、その後細胞からE−セレクチンを精製することにより、E−セレクチンタンパク質が調製/合成される。SDF−1αタンパク質も投与される実施形態においては、SDF−1αタンパク質が同様に調製される。
【0041】
別の実施形態においては、糖尿病性創傷を治療するために、E−セレクチンをコードする核酸を対象に投与してもよい。E−セレクチンをコードするコード配列は、アクセッション番号NM_000450のヌクレオチド配列と同一であってもよく、又は、遺伝子暗号の重複又は縮重の結果異なるコード配列ではあるが、アクセッション番号NM_000450のポリヌクレオチドと同じポリペプチドをコードする配列、であってもよい。本明細書において記載されるその他の核酸分子は、断片、アナログ、及び天然のE−セレクチンタンパク質の誘導体をコードする核酸分子のような、天然のE−セレクチン遺伝子の変異体を含む。このような変異体は、例えば、天然に生じる天然のE−セレクチン遺伝子の対立変異体、天然のE−セレクチン遺伝子のホモログ、又は天然に生じる天然のE−セレクチン遺伝子の変異体であってもよい。これらの変異体は、天然のE−セレクチン遺伝子とは塩基が1以上異なるヌクレオチド配列を有する。例えば、それら変異体のヌクレオチド配列は、天然のE−セレクチン遺伝子のヌクレオチドの1つ以上の欠損、付加又は置換を特徴とする場合がある。
【0042】
その他の実施形態においては、コードされたポリペプチドに保存的置換に満たない変化を生じるヌクレオチド置換を作出することにより、構造が実質的に変化した変異型E−セレクチンタンパク質を生成することができる。そのようなヌクレオチド置換の例としては、(a)ポリペプチド骨格の構造;(b)ポリペプチドの電荷又は疎水性;又は(c)アミノ酸側鎖の大部分、における変化を生じる置換が挙げられる。通常タンパク質の特性に大きな変化を生じると予測されるヌクレオチド置換は、コドンに非保存的置換を生じる置換である。タンパク質構造に大きな変化を生じると考えられるコドン変化の例としては、(a)親水性残基、例えば、セリン又はトレオニン、の(又はによる)疎水性残基、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン又はアラニンへの置換;(b)システイン又はプロリンの(又はによる)任意のその他の残基への置換;(c)電気的陽性の側鎖を有する残基、例えば、リジン、アルギニン、又はヒスチジン、の(又はによる)電気的陰性の残基、例えば、グルタミン又アスパラギンへの置換;又は(d)大きな側鎖を有する残基、例えば、フェニルアラニン、の(又はによる)側鎖のない残基、例えば、グリシンへの置換を生じる置換である。
【0043】
本明細書において記載される天然のE−セレクチン遺伝子の天然に生じる対立変異体又は天然のE−セレクチンmRNAは、天然のE−セレクチン遺伝子又は天然のE−セレクチンmRNAと少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、及び99%)の配列同一性を有し、かつ、天然のE−セレクチンタンパク質と類似の構造を有するポリペプチドをコードする、ヒト組織から単離された核酸である。本明細書において記載される天然のE−セレクチン遺伝子のホモログ又は天然のE−セレクチンmRNAは、天然のヒトE−セレクチン遺伝子又は天然のヒトE−セレクチンmRNAと少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、及び99%)の配列同一性を有し、かつ、天然のヒトE−セレクチンタンパク質と類似の構造を有するポリペプチドをコードする、その他の種から単離された核酸である。天然のE−セレクチン遺伝子又は天然のE−セレクチンmRNAと高いパーセンテージ(例えば、70、80、90%、又はそれ以上)の配列同一性を有するその他の核酸分子を同定するために、公開された及び/又は登録された核酸データベースを検索することができる。
【0044】
天然に生じないE−セレクチン遺伝子又はmRNA変異体とは、天然のヒトE−セレクチン遺伝子又は天然のヒトE−セレクチンmRNAと少なくとも75%(例えば、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、及び99%)の配列同一性を有し、かつ、天然のヒトE−セレクチンタンパク質と類似の構造を有するポリペプチドをコードする、天然には生じない(例えば、人工の)核酸である。天然に生じないE−セレクチン遺伝子変異体の例としては、E−セレクチンタンパク質の断片をコードするもの、天然のE−セレクチン遺伝子又は天然のE−セレクチン遺伝子の相補鎖にストリンジェント条件下でハイブリダイズするもの、天然のE−セレクチン遺伝子又はその相補鎖と少なくとも65%の配列同一性を有するもの、及びE−セレクチン融合タンパク質をコードするもの、が挙げられる。
【0045】
本明細書において記載した、天然のE−セレクチンタンパク質の断片をコードする核酸は、例えば、2、5、10、25、50、100、150、200又はそれ以上の天然のE−セレクチンタンパク質のアミノ酸残基をコードするものである。天然のE−セレクチンタンパク質の断片をコードする核酸をコードする又はそれとハイブリダイズするより短いオリゴヌクレオチド(例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、50、塩基対長)は、プローブ、プライマー、又はアンチセンス分子として用いることができる。天然のE−セレクチンタンパク質の断片をコードする核酸は、酵素を用いた消化(例えば、制限酵素を用いて)又は完全長の天然のE−セレクチン遺伝子、E−セレクチンmRNA若しくはcDNA、又は前述したものの変異体を化学的に分解することよって作製することができる。これまでに報告された天然のヒトE−セレクチン遺伝子のヌクレオチド配列及び天然のE−セレクチンタンパク質のアミノ酸配列を用いて、当業者は、例えば、標準的な核酸突然変異生成技術又は化学的合成によってそれらのヌクレオチド配列中に僅かな変化を有する核酸分子を作製することができる。変異型E−セレクチンタンパク質を生産するように、変異型E−セレクチン核酸分子を発現させることができる。
【0046】
糖尿病性創傷の治癒を促進する方法
糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒を促進する方法の一実施形態は、薬学的に許容可能な担体と、E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤のような少なくとも1つの治療薬を含有する治療有効量の組成物を提供する工程;及び対象において骨髄由来前駆細胞(例えば、EPC)の創傷への遊走が増加する条件下において、この組成物を対象に投与する工程を含む。例えば、組成物は、E−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及び、SDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸のようなE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤を含む可能性がある。この方法においては、この組成物は任意の好適な経路、例えば、経口的、局所的、静脈内、又は創傷若しくは創傷に隣接した部位に直接、投与することができる。対象への組成物の投与は、創傷治癒の促進をもたらす。
【0047】
糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒方法は、対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含んでいてもよい。本明細書において記載した方法においては、高圧酸素療法(HBO)は通常、毛細血管が少なくなった状況下で、創傷治癒を刺激するために用いられる補助的な治療である。HBOを用いた糖尿病の対象の治療方法は、例えば、参照することにより本明細書に組み入れられる、米国特許第2008/003760号に記載されている。糖尿病の対象(患者)における創傷治癒の促進方法の一例においては、患者は1日に1回又は2回、絶対気圧(ATA)が約2.0から約3.2の間になるように圧をかけたチャンバー内で、100% Oを吸い込む処置を20回以上受ける。処置時間は通常、約10分から約240分(例えば、約10、15、30、60、90、120、150、180、210、240分など)の範囲である。
【0048】
別の実施形態においては、糖尿病性創傷を有する糖尿病の対象においてE−セレクチンの発現をアップレギュレートする方法は、第一のAAV逆方向末端反復と第二のAAV逆方向末端反復との間に挿入されたE−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを含有する少なくとも1つのrAAVビリオンを包含する組成物を、糖尿病の対象に投与する工程を含む。この実施形態においては、この組成物の量は、E−セレクチンの発現をアップレギュレートする、骨髄由来前駆細胞(例えば、EPC)の創傷への遊走を誘導する、及び対象における創傷治癒を促進するのに有効な量である。この方法においては、少なくとも1つのrAAVビリオンは、血清型2カプシドタンパク質を含む場合がある。本明細書において記載するその他の実施形態では、組成物を任意の好適な経路、例えば、経口的、局所的、静脈内、又は、創傷若しくは創傷に隣接した部位に直接、投与することができる。この方法は、対象にSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸を投与する工程、及び/又は対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含んでいてもよい。
【0049】
さらにその他の実施形態においては、糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒を促進する方法は、薬学的に許容可能な担体と複数の骨髄由来前駆細胞を含む組成物を提供する工程、及び、この組成物を対象に、骨髄由来前駆細胞(例えば、EPC)の創傷への遊走を増加させ、かつ対象における創傷治癒を促進するのに有効な量を、投与する工程を含む。この実施形態においては、骨髄由来前駆細胞は、E−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを含む。E−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを、rAAVベクターのようなウイルスベクター中に含有させてもよい。通常、rAAVベクターはrAAVウイルス(粒子)に含有される。この実施形態においては、組成物は、SDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸を、さらに含んでいてもよい。組成物がSDF−1αをコードする核酸を含む場合、この核酸はrAAVベクター中、第二のrAAVベクター中、又はrAAV以外のウイルスベクター中に存在する可能性がある。組成物を、任意の好適な経路、例えば、経口的、局所的、静脈内、又は、創傷又は創傷に隣接した部位に直接、投与することができる。この方法は、対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含んでいてもよい。
【0050】
本明細書において記載した方法は、数多くの異なる型の創傷の治療に用いることができる。糖尿病性創傷の一例としては、網状皮斑及び白色萎縮に関連した有痛性潰瘍により特徴付けられる障害である、リベド血管炎が挙げられる。糖尿病性創傷の別の例としては、例えば、末梢動脈疾患性潰瘍、静脈鬱血性潰瘍、慢性難治性潰瘍、褥瘡、褥瘡性潰瘍、慢性足潰瘍などの糖尿病性潰瘍がある。創傷は、1以上の上記に挙げた創傷の組み合わせである場合もある。糖尿病の対象は、治療を受ける1つ又は複数の創傷を有する場合もある。対象は、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、類人猿、ウサギ、ウシなどのような任意の哺乳類を含む。対象(例えば、哺乳類)は、成人及び小児を含む、発達のいずれの段階にあるものであってもよい。標的組織は、網膜、肝臓、腎臓、心臓、肺、消化管の部分、膵臓、胆嚢、膀胱、中枢神経系(脳を含む)、皮膚、骨などのような、対象におけるいずれの組織であってもよい。
【0051】
E−セレクチンをコードする核酸(及び任意にSDF−1αをコードする核酸又はその他のEPCホーミングを調節する薬剤)を糖尿病の対象に投与する方法においては、本明細書において記載した核酸は、E−セレクチンをコードする核酸(及び任意にSDF−1αをコードする核酸又はその他のEPCホーミングを調節する薬剤)に操作可能に連結した、1つ以上の発現制御配列を含む場合がある。数多くのそのような配列が知られている。含まれるそれらの配列は、その他の適用におけるそれらの既知の機能に基づいて選択され得る。発現制御配列の例としては、プロモーター、インシュレーター、サイレンサー、応答エレメント、イントロン、エンハンサー、開始部位、終結シグナル、及びpAテールが挙げられる。
【0052】
E−セレクチン(及び任意にSDF−1α)を適切なレベルにするために、標的細胞において使用するのに好適な、任意の数のプロモーターを用いることができる。例えば、異なる強さの構成的プロモーターを用いることができる。本明細書において記載した発現ベクター及びプラスミドは、ウイルス性プロモーター、又は、通常転写の促進において活性を有する哺乳類の遺伝子由来のプロモーターのような、1つ以上の構成的プロモーターを含んでもよい。構成的なウイルス性プロモーターの例としては、単純ヘルペスウイルス(HSV)、チミジンキナーゼ(TK)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、シミアンウイルス40(SV40)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、Ad E1A及びサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが挙げられる。構成的哺乳類プロモーターの例としては、β−アクチンプロモーターのような、様々なハウスキーピング遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0053】
誘導性プロモーター及び/又は調節エレメントもまた、本明細書において記載した組成物及び方法での使用のために検討されてもよい。好適な誘導性プロモーターの例としては、シトクロムP450遺伝子、熱ショックタンパク質遺伝子、メタロチオネイン遺伝子、及びホルモン誘導性遺伝子(エストロゲン遺伝子プロモーターなど)のような遺伝子由来のプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターの別の例には、テトラサイクリン応答性のtetVP16プロモーターがある。
【0054】
組織特異的プロモーター及び/又は調節エレメントは、本明細書において記載した組成物及び方法の特定の実施形態において有用である。本明細書において記載した発現ベクターのような発現ベクターと共に用いることができるそれらプロモーターの例としては、Tie−2又はKDR_プロモーターが挙げられる。
【0055】
本明細書において記載した組成物(例えば、E−セレクチンをコードするウイルスベクターを含む組成物)を哺乳類対象に、任意の好適な技術により投与することができる。本明細書において記載した組成物及び方法により、細胞中にE−セレクチン遺伝子を導入するためのウイルスベクターを用いた、様々な技術が提供される。ウイルスは、それらの遺伝子を宿主細胞中に効率良く送達する、天然に発生した媒体であり、従って、治療的遺伝子の送達のための望ましいベクター系である。好ましいウイルスベクターは宿主細胞に対する低い毒性を示し、かつ、治療的な量のE−セレクチンタンパク質を(例えば、組織特異的な方法で)生産するものである。ウイルスベクター法及びプロトコールは、Kay et al. Nature Medicine 7:33−40, 2001にまとめられている。
【0056】
以下に記載した実施例はrAAV及びレンチウイルスを含むが、任意の好適なウイルスベクターを使用することができる。哺乳類対象に遺伝子を送達するための多くのウイルスベクターが当該分野において既知であり、以下に限定的な例を挙げる。遺伝子治療ベクターとして組換えアデノウイルスを使用する方法は、例えば、W.C. Russell, Journal of General Virology 81:2573−2604, 2000,及びBramson et al., Curr. Opin. Biotechnol. 6:590−595, 1995で議論された。単純ヘルペスウイルスベクターの使用方法については、例えば、Cotter and Robertson, Curr. Opin. MoI. Ther. 1:633−644, 1999で議論された。HIVを含む、複製欠損レンチウイルスベクターもまた用いることができる。レンチウイルスベクターの使用方法は、例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5:308−316, 2000 及び Miyoshi et al., J. Virol. 72:8150−8157, 1998で議論された。マウス白血病ウイルスに基づくベクターを含む、レトロウイルスベクターもまた用いることができる。レトロウイルスに基づくベクターの使用方法は、例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52:493−511, 2000 及び Fong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17:1−60, 2000で議論された。用いることができるその他のウイルスベクターには、セムリキ森林ウイルス及びシンドビスウイルスを含む、アルファウイルスが挙げられる。E−セレクチン遺伝子を標的組織(例えば、糖尿病性創傷)に送達するために、ハイブリッドウイルスベクターを用いてもよい。ハイブリッドベクターを構築するための標準的な技術は当業者に周知である。そのような技術は、例えば、Sambrook, et al., In Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor, NY又は組換えDNA技術について議論した多くの実験手引き書において見ることができる。
【0057】
いくつかの実施形態においては、本明細書において記載した組成物及び方法の核酸は、それらの細胞中への導入を促進するために、rAAVベクター及び/又はビリオン中に組み入れられる。有用なrAAVベクターは、(1)発現する異種配列(例えば、E−セレクチンタンパク質をコードするポリヌクレオチド)及び(2)異種遺伝子の組換え及び発現を促進するウイルス配列、を含む組換え核酸構築物である。ウイルス配列は、複製、及びDNAのビリオン中へのパッケージング(例えば、機能性ITR)のためにシスに必要とされるAAVの配列を含む場合もある。一般的な適用においては、異種遺伝子は、骨髄由来前駆細胞の創傷への遊走を増加し、糖尿病の対象における創傷治癒を促進するのに有用なE−セレクチンをコードする。そのようなrAAVベクターは、マーカー又はレポーター遺伝子をもまた含む場合がある。有用なrAAVベクターは、その全体又は一部分が欠損しているが機能性ITR配列を保持する、1つ以上のAAV WT遺伝子を有する。AAV ITRは、特定の適用において好適な任意の血清型(例えば、血清型2由来の)であってよい。rAAVベクターの使用方法は、例えば、Tal, J.,J. Biomed. Sci. 7:279−291, 2000及びMonahan and Samulski, Gene delivery 7:24−30, 2000において議論された。
【0058】
本発明の核酸及びベクターを、その核酸又はベクターの細胞中への導入を促進するために、rAAVビリオン中に組み入れることができる。AAVのカプシドタンパク質は、ビリオンの外部、非核酸部分を含み、かつ、AAV cap遺伝子によりコードされる。cap遺伝子は、ビリオンの集合に必要な3つのウイルス性コートタンパク質であるVP1、VP2及びVP3、をコードする。rAAVビリオンについては既に記載がある。例えば、米国特許第5,173,414号、同5,139,941号、同5,863,541号、及び同5,869,305号、同6,057,152号、同6,376,237号;Rabinowitz et al.、J.Virol.76:791−801、2002;並びに、Rabinowitz et al., J. Virol. 76:791−801, 2002;及びBowles et al., J. Virol. 77:423−432, 2003を参照のこと。
【0059】
本発明において有用なrAAVビリオンは、1、2、3、4、5、6、7、8及び9を含む、多数のAAV血清型由来のビリオンを含む。異なる血清型のAAVベクター及びAAVタンパク質の構築及び使用については、Chao et al., MoI. Ther. 2:619−623, 2000; Davidson et al., PNAS 97:3428−3432, 2000; Xiao et al., J. Virol. 72:2224−2232, 1998; Halbert et al., J. Virol. 74:1524−1532, 2000; Halbert et al., J. Virol. 75:6615−6624, 2001;及びAuricchio et al., Hum. Molec. Genet. 10:3075−3081, 2001において議論された。
【0060】
本明細書において記載した組成物、キット及び方法においては、偽型rAAVもまた有用である。偽型ベクターは、ある特定の偽型血清型のAAVベクターと、その特定の血清型以外の血清型由来のカプシド遺伝子とを含む。偽型rAAVビリオンの構築及び使用を含む技術は、当該分野において既知であり、及びDuan et al., J. Virol, 75:7662−7671, 2001; Halbert et al., J. Virol, 74:1524−1532, 2000; Zolotukhin et al, Methods, 28: 158−167, 2002;及びAuricchio et al, Hum. Molec. Genet. 10:3075−3081, 2001に記載されている。
【0061】
特定の細胞型に、非変異型カプシドビリオンを用いた場合よりも、より効果的に感染させるために、ビリオンカプシド中に変異を有するAAVビリオンを用いてもよい。例えば、好適なAAV突然変異体は、AAVの特異的細胞型へのターゲティングを促進するために、リガンド挿入変異を有する場合もある。挿入変異体、アラニンスクリーニング突然変異体、及びエピトープタグ突然変異体を含むAAVカプシド突然変異体の構築及び解析については、Wu et al,J.Virol. 74:8635−45,2000に記載されている。本明細書において記載した方法及び組成物において使用することができるその他のrAAVビリオンとしては、ウイルスの分子育種並びにエキソンシャッフリングにより生成されたカプシドハイブリッドがある。Soong et al, Nat. Genet. 25:436−439, 2000;及びKolman and Stemmer Nat. Biotechnol 19:423−428, 2001を参照のこと。
【0062】
ウイルスベクター又はウイルス粒子の注入による非経口投与、例えばボーラス注入又は持続注入、を行ってもよい。注入用製剤は、単位容量形態、例えばアンプル中又は複数回投与用の容器中に、保存料を含めて提供してもよい。組成物は、懸濁液、溶液、又は油性若しくは水性媒体中の乳濁液としてそのような形態をとることができ、また、懸濁化剤、安定化剤、及び/又は分散剤のような成形剤を含んでもよい。あるいは、ベクター又はウイルス粒子は、使用前に無菌の発熱物質を含まない水などで構成するための粉末形態(例えば凍結乾燥した)であってもよい。
【0063】
ウイルスベクターに加え、少なくとも1つの糖尿病性創傷を有する糖尿病の対象へE−セレクチンをコードする核酸を導入するのに好適な任意の媒体又はベクターを用いることができる。例えば、超音波を用いた遺伝子送達技術を用いることができる。さらなる例としては、パーティクルボンバードメント及び細胞のエレクトロポレーションが挙げられる。プラスミドDNAと共に多細胞性集合体を形成する、合成遺伝子導入分子もまた有用である。そのような分子には、高分子DNA結合性陽イオン(Guy et al.,MoI. Biotechnol. 3:237−248,1995)、陽イオン性両親媒性試薬(リポポリアミン及び陽イオン性脂質、Feigner et al.,Ann.NY Acad.Sci.772:126−139,1995)、及び陽イオン性リポソーム(Fominaya et al.,J.Gene Med.2:455−464,2000)が含まれる。
【0064】
いくつかの実施形態においては、rAAV−E−セレクチンベクター又はウイルスを含むEPCを、1以上の糖尿病性創傷を治療するために糖尿病の対象に投与する。対象にEPCを導入するためには、カテーテルを介した静脈内送達(例えば、血管内カテーテル)又は標的部位、例えば糖尿病性創傷への直接注入を含む複数の方法が用いられ得る。ドナー幹細胞の単離及び、そのような単離した細胞の移植の技術は当該分野において周知である。rAAVビリオンを用いて導入した細胞のex vivo送達もまた、本明細書において記載した方法に包含される。ex vivoの遺伝子送達は、移植、例えばrAAVを導入した宿主細胞(例えばEPC)を宿主に戻すために用いられる場合がある。好適なex vivoのプロトコールは複数の工程を含む場合がある。標的組織のセグメント(例えば、BM由来EPC)を宿主から回収してもよく、及びE−セレクチンをコードする核酸を対象(すなわち宿主)の細胞に導入するために、rAAVビリオンを用いてもよい。これらの遺伝的に改変された細胞をその後、対象に戻すために移植してもよい。細胞を対象に再導入するためには、静脈内注入、腹腔内注入、又は標的組織へのin situ注入を含む複数の方法が用いられ得る。用いることができるその他の技術には、ex vivoでrAAVを導入又は感染させた細胞のマイクロカプセル化がある。本発明による自家並びに同種細胞移植を用いてもよい。
【0065】
BMから非BM区域(例えば、標的組織)へのBM由来前駆細胞のリクルートメントを増加するために、本明細書において記載した創傷治癒を促進する組成物は、E−セレクチン及びSDF−1αに加えて、BM由来前駆細胞のリクルートメントを促進することができる任意のその他の薬剤を含む場合がある。多数のそのような薬剤が既知である。例えば、国際公開第00/50048号に記載されている薬剤;インテグリン(例えば、α4、α5)、接着分子のセレクチンファミリー、VCAM−1、及びコロニー刺激因子を参照のこと。
【0066】
本明細書において記載した治療方法は通常、治療を必要とする哺乳類(特にヒト)対象(例えば動物、ヒト)に、治療有効量の本明細書において記載した組成物を投与する工程を含む。そのような治療は、対象(特に、疾患、障害、又はその症状に、罹患している、有する、感受性のある、又はリスクを有するヒト)に好適な方法で投与される。「リスクを有する」対象の決定は、診断検査又は対象若しくは健康管理者の意見による、任意の主観的又は客観的判断においてなされる場合がある。本明細書において記載される方法及び組成物は、E−セレクチンのシグナル伝達、発現、又は活性のダウンレギュレーションを意味すると考えられる、いずれのその他の障害の治療にもまた有用である可能性がある。
【0067】
一実施形態においては、糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒を促進する方法は、治療経過をモニタリングする工程を含む。対象における治療経過のモニタリングは通常、創傷の治療を促進するのに十分な治療量の本明細書において記載した組成物を対象に投与する前に、糖尿病性創傷を有する対象における創傷の大きさの測定値又はその他の診断的測定値を決定する工程を含む。治療を促進するのに十分な治療量の本明細書において記載した組成物を対象に投与した後、1回以上の時点において、創傷の大きさの2回目の測定を行い、最初に測定した創傷の大きさと比較する。最初及びその後の大きさを、創傷治癒の経過(例えば創傷の大きさの減少)及びその治療の効果をモニターするために比較する。
【0068】
キット
哺乳類対象における少なくとも1つの糖尿病性創傷を治療するキットを本明細書において記載した。一般的にはキットは、E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンタンパク質をコードする核酸、又はE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤のような治療薬を少なくとも1つと、薬学的に許容可能な担体とを含有する、治療有効量の組成物、並びに使用説明書を含む。一実施形態においては、キットは、治療有効量のE−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤を含有する治療用組成物、並びに使用説明書を含む。例えば、哺乳類対象における少なくとも1つの糖尿病性創傷を治療するキットは、治療有効量のE−セレクチンタンパク質又はE−セレクチン(例えば、rAAV−E−セレクチン)をコードする核酸、及び創傷治癒を促進する治療有効量のSDF−1α、並びに薬学的に許容可能な担体とを単位容量形態で含有する治療用組成物を含む。通常、本明細書において記載したキットは、包装及び使用説明書を含む。いくつかの実施形態においては、このキットは治療用又は予防用組成物を含む無菌的な容器を含む。そのような容器は、箱、アンプル、瓶、バイアル、チューブ、袋、パウチ、ブリスターパック、又はその他の、当該分野において既知の好適な形態の容器であってよい。そのような容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属ホイル、又はその他の、薬物を保持するための好適な材料から作製することができる。本明細書において記載した治療用組成物に加えて、治療を受ける対象に高圧酸素療法を実施する実施形態においては、使用説明書は一般的に、対象への高圧酸素療法の実施についての方法を含むだろう。
【0069】
EPC(例えば、rAAV−E−セレクチンを含むEPC)を糖尿病の対象に投与する一実施形態では、本明細書において記載したキットは、治療量のEPCと共に、1つ以上の糖尿病性創傷を有する対象への細胞の投与方法についての説明書を含む。細胞を輸送及び保存するために好適な任意の手段で、細胞を包装することができ、そのような方法は当該分野において周知である。使用説明書は通常、細胞;糖尿病性創傷の治療のための投与量計画及び投与;予防策;警告;適応症;不適応症;過剰投与情報;有害反応;動物での薬理;臨床試験;及び/又は参考文献、についての説明を1つ以上含む。この使用説明書は、容器(がある場合)に直接印刷してもよく、又は容器に適用したラベルとして、又は、容器中に若しくは容器と共に提供する別個の紙、パンフレット、カード若しくはホルダーとして印刷してもよい。
【0070】
組成物の投与
本発明の組成物を、哺乳類(例えば、齧歯類、ヒト)に任意の好適な製剤として投与することができる。例えば本明細書において記載した創傷治癒を促進する組成物(例えば、E−セレクチン、E−セレクチンをコードする核酸、SDF−1α)を、薬学的に許容可能な担体又は生理食塩水若しくは緩衝塩類溶液のような希釈剤中に処方することができる。方法及び投与経路並びに標準的な薬務に基づき、好適な担体及び希釈剤を選択することができる。薬学的に許容可能な担体及び希釈剤、並びに薬剤処方の例についての説明は、当該分野における標準的な教科書であるRemington’s Pharmaceutical Sciences、及びUSP/NF中に見ることができる。組成物の安定化及び/又は保存のために、その他の物質を加えてもよい。
【0071】
任意の標準的な技術により、本発明の組成物を哺乳類に投与することができる。一般的には、それらの投与は、局所(例えば、エアロゾル、クリーム、泡、ゲル、液体、軟膏、ペースト、粉末、シャンプー、スプレー、パッチ、円板状、若しくは包帯)又は経口となるであろう。一実施形態において組成物が経口送達用に処方される場合、活性成分は賦形剤に含まれ、摂取可能な錠剤、口腔用錠剤、トローチ、カプセル、エリキシール、懸濁液、シロップ、ウェハース、などの形態において用いられ得る。錠剤、トローチ、丸薬、カプセルなどは、結合剤(トラガカントゴム、アカシアゴム、コーンスターチ、若しくはゼラチンなど);賦形剤(第二リン酸カルシウムなど);崩壊剤(コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など);滑沢剤(ステアリン酸マグネシウムなど);及び甘味料(ショ糖、ラクトース、若しくはサッカリンなどを加えてもよい)又は香味料(ペパーミント、イチヤクソウ油、若しくはサクランボ香料)をまた含んでいてもよい。投与量単位形態がカプセルである場合、それは、上述の型の材料に加え、液体担体を含んでもよい。様々なその他の材料を、被覆材として、そうでなければ投与量単位の物理的形状を変化させるものとして含んでもよい。例えば、錠剤、丸薬又はカプセルを、シェラック、糖、又はその両方で被覆してもよい。エリキシールのシロップは、活性化合物、甘味料としてのショ糖、保存剤としてのメチルパラベン及びプロピルパラベン、色素、並びに香味料としてのサクランボ及びオレンジ香料を含む場合がある。加えて、活性化合物を、徐放性、パルス放出性、制御放出性又は遅延放出性調整物及び製剤中に組み入れることもできる。
【0072】
あるいは、投与は非経口(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、筋内、腹腔内、又は髄腔内導入)であってもよい。本明細書においては、組成物はまた、皮内パッチ、すなわち治療する皮膚部分に隣接して投与するパッチを介しても提供され得る。本明細書で使用する場合、「パッチ」は少なくとも、本明細書において提供される組成物、及びそのパッチが治療する皮膚部分を覆って配置される被覆層を含む。本明細書において提供する組成物の、角質層を介した表皮又は真皮への送達が最大になるように、遅滞時間が減少するように、一様な吸収を促進するように、及び機械的な摩擦落ちを低減させるように、パッチを設計することができる。
【0073】
組成物を標的部位に、例えば、標的部位の内部若しくは外部への外科的な送達、又は血管から到達することが可能な部位へのカテーテル(例えば、血管内カテーテル)を用いて、直接投与することもできる。糖尿病性創傷を有する対象を治療する場合、静脈内に、直接創傷中に、又は創傷表面に、組成物を対象に投与することができる。組成物を、単一の丸薬、頻回注射として、又は持続注入(例えば、静脈内に、腹膜透析、輸液ポンプ)により投与することができる。非経口投与については、組成物は好ましくは無菌的な発熱物質を含まない形態において処方される。
【0074】
治療薬(例えば、E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンをコードする核酸、E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤)を実質的に投与の直後に、又は投与後の任意の予め決められた時間若しくは期間放出するように、本明細書において記載した医薬組成物を処方してもよい。後者の型の組成物は通常、制御放出処方として知られている。長期間にわたって体内の薬の濃度を実質的に一定にする製剤を用いることができる。別の実施形態においては、予め決められた遅滞時間の後に、長期間にわたって体内の薬の濃度を実質的に一定にする製剤を用いることができる。別の例としては、相対的な、一定の、効果的な体内レベルを維持し、同時に、活性物質の血漿レベルにおける変動と関係する望ましくない副作用を最小限にすることにより、予めじめ決められた期間中その作用を持続する製剤を用いることができる。本明細書において記載した組成物は、簡便な投与、例えば投与量の毎週又は隔週に一度の投与、を可能にする製剤、並びに、例えば浸透圧ポンプ又は治療薬を特定の細胞型(例えば、内皮細胞)に送達するための超音波を用いた遺伝子送達技術により糖尿病性創傷を標的とする製剤においてもまた用いられる。
【0075】
送達される治療薬の放出速度が代謝速度に勝る制御放出を達成するために、数多くの方法が使用可能である。一例において制御放出は、様々な製剤指標、並びに成分(例えば、様々な型の制御放出組成物及び被覆剤を含む)の適切な選択により達成される。治療薬を適切な賦形剤と共に、投与に際して治療薬を制御された方法で放出する医薬組成物として処方することができる。例としては、単一又は複数単位の錠剤若しくはカプセル組成物、油溶液、懸濁液、乳濁液、マイクロカプセル、ミクロスフェア、分子複合体、ナノ粒子、パッチ、及びリポソームが挙げられる。
【0076】
有効投与量
上述した組成物は、有効量で、すなわち治療される哺乳類において所望される効果(例えば、成熟ECでのE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートし、EC−EPC間接着、EPCホーミング及び創傷血管新生の増加を誘導することにより、マウスにおける糖尿病性創傷の治癒を促進する)をもたらすことが可能である量で、好ましくは哺乳類(例えば、ヒト)に投与される。そのような治療有効量は以下に記載するように決定することができる。
【0077】
本発明の方法において用いられる組成物の毒性及び治療上の有効性は、培養細胞、又はLD50(集団の50%致死量)を決定するための実験動物のいずれかを用いて、標準的な薬学的手法により決定することができる。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す組成物が好ましい。有毒性の副作用を示す組成物を使用することもできるが、そのような副作用による潜在的な被害を最少にする送達系を設計する治療を用いなくてはならない。好ましい組成物の投与量は、好ましくは、毒性がないまたは毒性がほとんどない、ED50を含んだ範囲にある。投与量は、用いられる投与形態及び使用する投与経路により、この範囲内で多様になり得る。
【0078】
医学及び獣医学の分野において周知であるように、任意のある対象に対する投与量は、対象の大きさ、体表面積、年齢、投与する特定の組成物、投与の時間及び経路、総体的な健康、及び同時に投与されるその他の薬剤、を含む多くの因子に左右される。静脈内に投与する粒子の適切な投与量は、例えば、1つの創傷当たり約10のウイルス粒子、及び組換えタンパク質(例えば、SDF−1α、E−セレクチン)の適切な投与量は例えば、25μg/kgの範囲になると予測される。
【0079】
実施例
本発明を以下の特定の実施例によりさらに説明する。提供した実施例は説明するためだけのものであり、決して本発明の範囲を限定すると解釈されるものではない。
【0080】
実施例1 E−セレクチンはSDF−1αに応答して内皮前駆細胞のホーミングを仲介し、また、正常な四肢血行再建及び創傷治癒率を仲介する:糖尿病に関連した難治性細小血管障害及び難治性創傷への潜在的な臨床的有用性
SDF−1αは、骨髄から血管新生を必要とする末梢部位へとEPCをリクルートさせるためのホーミングシグナルを生じるが(Gallagher et al., SDF−lα as a critically important factor, deficient in Diabetes−associated non−healing cutaneous wounds: J Clin Invest 2007, 117:1249−1259)、SDF−1αによって循環しているEPCが標的組織へとホーミングするようになる機序は、これまで明かになっていなかった。EPCの標的組織へのホーミングを達成するためには、毛細血管内膜のECと循環しているEPCとの間の直接的な細胞間相互作用が必要であり、かつ、それらの相互作用が四肢血行再建及び皮膚創傷の治癒率に影響を与えると推測された。本明細書においては、成熟ECにおいてSDF−1αにより制御される特異的接着分子であって、EPCホーミング過程を仲介する分子の同定について記載した。マウス及びヒト細胞における研究によるこの新規データから、この分子をE−セレクチンと同定した。さらなるデータにより、E−セレクチンの組織レベルの発現が、四肢血行再建及び創傷治癒に有利に影響を与えることが示された。また、E−セレクチンを細小血管障害に罹患した難治性創傷(糖尿病を有する患者における難治性創傷のような)へ局所的に送達することが、新しい創傷治癒技術としての有用性をもたらすだろうと推測された。虚血性及び糖尿病性創傷において試験することができる、E−セレクチンをコードするAAVベクターを開発中である。
【0081】
RT Profiler PCRアレイを用いて、ヒト成熟ECにおいてSDF−1αによって誘導される細胞外マトリックス及び接着分子を解析した。アレイにより、遺伝子発現が有意に増加することが認められた分子については、ウェスタンブロッティング及び免疫組織化学によって確認した。ヒトEPCとECとの間の直接的な細胞間相互作用におけるSDF−1αの効果を、細胞接着及び経内皮遊走アッセイによって解析した。同定した接着分子の、SDF−1α誘導性EC−EPC相互作用、EPCホーミング、四肢血管再建、及び創傷治癒の仲介における特異的な機能を、アンタゴニストを用いてインビトロ及びインビボで試験した。組織レベルでのE−セレクチンの発現がある場合及び発現がない場合のEPCの創傷へのリクルートメント、及び創傷治癒率を調べるために、骨髄移植実験(Rasa26マウス由来の骨髄細胞をE−sel+/+若しくはE−sel−/−マウスに移植した)を行った。データをANOVAにより解析した。
【0082】
SDF−1αは、インビトロでのEC−EPC間接着及び経内皮遊走を有意に増加させ、及びインビボでのEPCホーミングを高めた。SDF−1αは、培養ヒト成熟微小血管EC及び実験用マウスの血管におけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートしたが、P−及びL−セレクチンの発現は増加させなかった。E−セレクチンアンタゴニストの適用がSDF−1α誘導性EC−EPC間接着、遊出及びEPCホーミングを有意に阻害したように、EC−EPC間接着及びEPCホーミングにおけるSDF−1αの効果はE−セレクチンにより特異的に仲介される。インビボにおいてはE−セレクチンの組織レベルでの発現が正常な創傷治癒及び血管新生に必要であり、E−セレクチンの組織レベルでの発現は、糖尿病に関連した難治性創傷の正常な治癒及び不良において重大なこれら2つの生物学的イベントに好都合な影響を及ぼす。
【0083】
結論として、SDF−1αは成熟ECにおけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートして、EC−EPC間接着、EPCホーミング、四肢血管再建、及び創傷治癒の増加を引き起こす。これら新規の知見は、EPCホーミング及び糖尿病性創傷の治癒に及ぼすSDF−1αの生物学的効果の根底にある分子機構に対する深い洞察を提供し、その結果、糖尿病に関連した細小血管障害及び難治性皮膚創傷におけるEPC輸送、血管新生、及び創傷治癒の治療上の取扱いにおいてE−セレクチンが新しい標的であることを示す。
【0084】
実施例2 後天的な血管新生の制御に対する新規標的としてのE−セレクチンの同定:糖尿病性創傷治癒における重要性
糖尿病性創傷においては、EPCの血管新生部位へのリクルートメントのためのホーミングシグナルであるSDF−1αがダウンレギュレートされていることがこれまでに報告されている(Gallagher et al., J Clin Invest 2007, 117:1249−1259)。以下に記載した実施例では、成熟EC及び循環しているEPCのSDF−1α介在性EPCホーミングを達成するシグナルについての研究を行った。糖尿病性創傷におけるSDF−1αは、SDF−1α改変骨髄由来繊維芽細胞を注入することにより、対照細胞と比較して、治療的に増加した(N=48(20、NOD)、(28、STZ−C57))。PCRアレイによる遺伝子発現の違いを、ウェスタンブロッティング及び免疫組織化学により確認した。さらにアンタゴニストを用いて、SDF−1α誘導性EPCホーミング及び創傷治癒の仲介における接着分子の機能についてインビトロ及びインビボで研究を行った。細胞を用いた治療を介した創傷でのSDF−1αの増加は、糖尿病性マウスでの治癒を促進した(3日目における治癒率は〜20%増加した。p=0.006)。SDF−1αはEC−EPC間接着を増加させ、ヒト微小血管ECにおけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートした(2.3倍の増加、p<0.01)。この効果は実験マウスの血管においても有意であり、そして創傷性血管新生の増加をもたらした。EC−EPC間接着及びEPCホーミングにおけるSDF−1αの制御効果はE−セレクチンによって特異的に仲介され、E−セレクチンアンタゴニストの適用はSDF−1α誘導性EC−EPC間接着、EPCホーミング、創傷性血管新生、及び創傷治癒を有意に阻害した。SDF−1α改変細胞を用いた治療は、成熟ECにおけるE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートしてEC−EPC間接着の増加、EPCホーミング、及び創傷性血管新生の増加を引き起こすことにより、マウスにおける糖尿病性創傷治癒を促進した。これらの知見は、EPCホーミングにおけるSDF−1αの生物学的効果の根底にあるシグナルについての新規の知見を提供し、かつ、糖尿病性創傷の治癒でのEPC輸送の治療的取扱いにおいてE−セレクチンが新しい標的となることを示すものである。
【0085】
材料及び方法
正常ヒト真皮からHMVECを単離し、1%ゼラチンでコーティングしたプレート上で培養した。ヒトEPCをNDRI(Philadelphia、PA)から購入し、サプリメント及び5%ウシ胎仔血清(FBS)(Cambrex Bioscience,Walkersville、MD)を含む完全EGM2培地中で培養した。293、293T及びNIH/3T3細胞を10% FBSを添加したDMEM(Invitrogen,Carsbad、CA)中で培養した。細胞は全て、5% COを含む98%に加湿した大気中、37℃で培養した。細胞接着及び経内皮遊走アッセイには、EPCをDil−Ac−LDL(BT−902,Biomedical Technologies,Stoughton,MA)で4時間、37℃で標識し、その後リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。サブコンフルエントに達したHMVEC又はEPCを組換えヒトSDF−1α(100ng/ml)で、実施例において示したように様々な時間刺激した。BSA(100ng/ml)を対照として用いた。
【0086】
8〜12週齢の野生型(WT)のメスのC57BL6マウスはCharles River(Wilmington,MA)から購入した。10〜12週齢のNOD(NOD/shilTJ)、8週齢のE−sel−/−(B6.129S4−seletmiDmil/J)マウス及び10〜12週齢のRosa26(lacZ)(B6.129S7−GT(ROSA)26sor/J)マウスはJackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から購入した。全ての外科的手法では、80mg/kgのケタミン及び20mg/kgのキシラジンの腹腔内注入により、マウスを麻酔した。骨髄移植実験には、Rosa26マウス由来の1x10個の骨髄細胞を100μlのPBSに懸濁し、尾静脈注射により、E−sel−/−又はWTマウス(C57BL6)中に移植した。
【0087】
既に記載のあるようにストレプトゾシン(STZ、Sigma−Aldrich)糖尿病を誘導し、モニターした(Gallagher et al,J Clin Invest 2007,117:1249−1259)。NODマウスは一般に、14〜20週以内に糖尿病を発症する。全48匹の糖尿病マウス(N=28、STZ−C57;N=20、NOD)を解析した。グルコメーターを用いて、マウス尾静脈の血清グルコースを測定した。血清グルコースが250mg/dlに達した後、実験での使用に先だって、マウスを3日間毎日測定した。糖尿病マウスにおける平均血清グルコースレベルは446mg/dlであり、その範囲は356〜512mg/dlであったが、対照の非糖尿病マウスにおける平均血清グルコースレベルは122mg/dlであり、その範囲は96〜137mg/dlだった。6mmのパンチ生検を用いてマウス背の背面に創傷を誘導した。完全に肥厚した皮膚を除去し、その下にある筋肉を露出させた。
【0088】
最適なウイルスの導入効率を記載したこれまでの研究、及び予測された潜在的な臨床的関連に基づき、SDF−1αのレベルを操作する道具として、インビトロでの研究のためにレンチウイルスベクターを、インビボ実験のためにアデノ随伴ウイルスベクターを選択した。pHXベクター中にヒト又はマウスSDF−1a遺伝子を挿入することにより、ヒトSDF−lα/lentiを構築した(Balint et al.,J Clin Invest 2005,115:3166−3176)。対照ベクターであるGFP/lentiは、これまでの記載に従って構築した(Liu et al.,Cancer Res 2006,66:4182−4190)。293T細胞と既に記載のある3種類のプラスミドを共にトランスフェクションすることにより、偽型レンチウイルスを作製した(Liu et al.,FASEB J 2006,20:1009−1011)。形質転換の48時間後に回収したレンチウイルスの力価は、NIH/3T3細胞中において、約10導入単位/mlであった。レンチウイルスを標的細胞に感染させるには、細胞を6時間、4μg/mlポリブレン(Sigma−Aldrich)存在下で、MOI(感染多重度)5のウイルスに曝露した。その後細胞を洗い、さらに2日間通常の完全培地で培養し、そしてELISAでタンパク質発現を解析するか、又は個々の実験において示したその後の解析用に蓄えた。マウスSDF−1α/AAV及び対照ベクターであるLacZ/AAVを、AAV2ベクター中にマウスSDF−1α又はLacZ遺伝子を挿入することにより構築した(Gao et al.,Curr Gene Ther 2005,5:285−297)。293細胞と3種類のプラスミドをトランスフェクションすることによりAAVを作出し、そしてAAVをヘパリンクロマトグラフ法により精製し、力価を測定した。組換えAAVを用いた局所的な創傷への注入には、PBSに溶解した1012ウイルス単位/mlのAAV、100μlを、創底に注入した。細胞を用いた治療には、マウス骨髄細胞を10% FBSを含むDMEM培地を入れたプラスチック製の容器中で2週間、3日毎に培地を交換しながら培養することにより、骨髄由来繊維芽細胞(BMDF)を作出した。接着細胞は紡錘型、及び筋繊維芽細胞表現型と一致するα−平滑筋アクチン(αSMC)を示した。BMDFを、マウスSDF−1α又はGFP(対照)をコードするレンチウイルスベクターと共に形質導入した。BMDFにおける外因性mSDF−1αの発現をELISAによって確認した(データは示さない)。6mmのパンチ生検皮膚創傷を作製し、100μlのPBSに懸濁した1x10mSDF−1α/BMDF又はGFP/BMDFを創傷に注入した。
【0089】
Human Adhesion Molecules & ECM RT Profiler(商標)PCRアレイは、接着分子及びECMの84遺伝子の発現を定量的にプロファイリングする(#PA−011、SABiosciences,Frederick,MD)。Trizol(登録商標)(invitrogen)を用いてトータルRNAを抽出し、そしてRT First Strandキット(SABiosciences)を用いてcDNAを合成した。PCRアレイは製造業者によるプロトコールに従って行った。検量線をプロットするためには閾値に達するサイクル(Ct)での値を用いた。全ての試料は、β−アクチンに対する相対的なレベルとして標準化し、そして結果を相対的なレベルにおける蛍光強度として表した。
【0090】
培養細胞上清におけるSDF−1αの濃度を、Quantikine(登録商標)SDF−1αELISAキット(DY460,R&D Systems)を用いて、製造業者のプロトコールに従って測定した。
【0091】
HMVECのEC単層を、コンフルエント近くになるまで、24ウェルプレート中で培養し、100ng/mlの組換えヒトSDF−1α又はBSAを用いて8時間刺激した。その後培地を、SDF−1αを含まないEGM2培地に交換した。予め標識し、2%のアガロースでコーティングされたプレート上で懸濁液として16時間培養しておいた、1x10のDil−Ac−LDL標識EPCをウェル中に加え、HMVEC単層と共に1時間、37℃で培養した。結合しなかったEPCをPBSで2回洗い流し、接着Dil−Ac−LDL−標識EPCを蛍光スキャナー(GE Typhoon Trio,Piscataway,NJ)を用いて測定し、撮影した。
【0092】
フィブロネクチン(5μg/ml)でコーティングされた24トランスウェルインサート(8.0μM 孔;Falcon353097,Becton Dickinson Bedford,MA)の上部チャンバー内で、HMVEC細胞を1ウェル当たり1x10細胞の密度で培養した。各実験の前に、倒立蛍光顕微鏡を用いて、コンフルエントな単層であることを確認した。HMVEC単層を、100ng/mlの組換えヒトSDF−1α又はBSAを用いて8時間刺激した。先に詳しく記載したように予め標識した1x10のDil−Ac−LDL−標識EPCを、0.3mLの基本EGM2培地を加えた上部チャンバーに添加した。0.6mLの完全EGM2培地を、トランスウェルの下部チャンバーに添加した。細胞を12時間、37℃で培養し、トランスウェルの上部チャンバーから下部チャンバーへのEPCの横断を定量した。
【0093】
免疫ブロットを記載されたように行った(Liu et al.,Mol Cell Biol 2003、23:14−25)。膜をE−セレクチン(ab−18981)又はβ−アクチン(AC−15、Abcam,Cambridge,MA)に対する抗体(Ab)を用いてプロービングした。これを次にHRPに結合した二次Ab(Santa Cruz,Santa Cruz,CA)を用いてプロービングし、そしてECL(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)に用いた。膜をはがし、個々の実験で望まれるように再度ブロッティングした。
【0094】
免疫染色及び免疫組織化学(IHC)用に、5μmのパラフィン又は凍結切片を作製し、その後、FITC−抗E−セレクチン(R&DS ystems)、PE−抗KDR(Cell Signaling Technology,Danvers,MA)又は抗SDF−1α(sc28876,Santa Cruz)と4℃で一晩インキュベーションし、次にHRP結合二次抗体とインキュベーションした。DABキット(Dako,Carpinteria,CA)を用いて免疫反応を検出した。DAPI(Vector Labs,Burlingame,CA)又はヘマトキシリン(IHC)のいずれかを用いて核を対比染色した。全ての抗体に対するネガティブコントロールとしては、同じ業者から購入した、非免疫原性でアイソタイプが一致するAbを一次抗体として置き換えたものを用いた。
【0095】
四肢虚血を誘導するために、右大腿動脈/静脈血管束の全長(約3〜4mm)を結紮し、そして切除した(2群のマウスについて試験した:E−sel−/−マウス(n=6)及びWTマウス(n=6))。その後5−0ナイロン(Ethicon)を用いて皮膚を縫合した。四肢虚血をレーザードップラー血流画像化装置(Laser Dopplerper fusion imaging)により確認した。4mmのパンチ生検を用いて、マウス大腿の腹面に、虚血性後肢創傷を誘導した。皮膚の完全な厚さの切片を除去し、大腿部のレベルより遠位の、下層にある筋肉に曝露した。組換えマウスSDF−1αタンパク質(R&D Systems)をPBS中に再構成し、手術直後に、創底に注入した(25μg/kg)。
【0096】
オリンパス製デジタルカメラを用いて、創傷を毎日のデジタル写真により連続して観察した。測定を較正可能にするために、目盛りを全ての写真に含めた。画像をImageJソフトウェア(Imaging Processing and Analysis in Java(登録商標), National Institutes of Health, MD)を用いて解析した。毎日創傷部位を測定し、そして創傷の回復率のパーセンテージを{(最初の創傷面積−その日の創傷面積)/(最初の創傷面積)}X100として表した。
【0097】
接触すると内皮細胞膜に取り込まれるDiI(D−282,Invitrogen/Molecular Probes)を含む、特別に処方した水溶液(7ml/マウス)を用いた肝潅流により、麻酔したマウスの血管を直接インビボで標識し、そしてこの溶液を動物を実験に用いる前に、直接心内注入によって投与した。Dilを潅流した後、7mlの固定液(4%パラホルムアルデヒド)を注入し、そして全創傷組織を回収した。レーザー走査共焦点顕微鏡(Vibratome(VTlOOOS、Leica Microsystems)を用いて、厚さ又は深さ200μmの全創傷組織をスキャニングすることによって、血管網を可視化した。ImageJソフトウェアを用いて、スキャンした全創傷面積に対して標準化した、赤色のDilで標識された血管の総数を評価することにより、血管密度を定量した。
【0098】
レーザードップラー血流画像化装置(LDI)(Periscan PIM II、Perimed AB、Sweden)を用いて、各日の四肢潅流を評価した。四肢とは、マウスの大腿部より遠位の、画像化した全ての組織として定義した。温度の変化及び鎮静のレベルによるアーティファクトを最小限にするために重量に基づく鎮静を用い、温度を制御した施設においてLDIを行った。相対的な潅流のデータを、虚血(右)と正常(左)な四肢血流の比として表した。
【0099】
10〜12週齢のRosa26(LacZ)マウス由来の1x10個の骨髄細胞を、虚血性後肢創傷(右)を作製した直後に、尾静脈注入を介してE−sel−/−マウス(n=6)及びWTマウス(n=6)に移植した。β−ガラクトシダーゼアッセイにより、創傷組織にリクルートされ、且つ組織切片内の血管に組み込まれたLacZEPCの数を定量した。回収した創傷組織を凍結させ、その後組織切片をX−gal(Fermentas,Canada)及び抗KDR(ab−2349,Abcam)と共に室温で2時間インキュベーションした。切片をヌクレアファストレッド(nuclear fast red)(Vector Labs)を用いて対比染色した。EPCの数は、手術後7日目に、切除した創傷の下層にある創傷肉芽組織の一連の切片における、KDR+血管中のβ−ガラクトシダーゼ+細胞を計測することにより定量した(n=3)。細胞の計測は、少なくとも3つの連続した切片の、1切片当たり5つの無作為に選択した高倍率視野(HPF、40X)について行った。
【0100】
差の統計分析は、ANOVA及びスチューデントの両側t検定を用いて行った。Microsoft Excel(Microsoft Corp,Redmond,WA)を用いてデータを解析した。データは、平均±標準偏差として表す。p<0.05の場合に、値が統計的に有意であると見なされる。
【0101】
結果
SDF−1α−改変細胞を用いた治療は、皮膚の創傷血管新生及び糖尿病性創傷の治癒を促進する。皮膚創傷の肉芽組織中にある微小血管は、定住繊維芽細胞により生成される結合組織要素によって物理的に支持されている。これらの繊維芽細胞は、血管の新生を促進し、持続させる固有の微小環境を提供する。繊維芽細胞及びそれらの活性化体である筋繊維芽細胞は、細胞外マトリックス(ECM)の合成、及び様々な可溶性因子を分泌することにより、創傷治癒過程の血管新生の制御において中心的な役割を果たす(Tomasek et al., Nat Rev MoI Cell Biol 2002, 3:349−363; Kalluri and Zeisberg, Nat Rev Cancer 2006, 6:392−401; Hinz et al., Am J Pathol 2007, 170:1807−1816)。糖尿病性マウス創傷においてはSDF−1αのレベルが有意に低下していることが既に報告されており、これは部分的には、筋繊維芽細胞におけるSDF−1αのダウンレギュレーションによる。筋繊維芽細胞は、局所的な定住繊維芽細胞又は循環している間葉前駆体/幹細胞のいずれかから発生する可能性がある(De Wever and Mareel, J Pathol 2003, 200:429−447; Direkze et al., Cancer Res 2004, 64:8492−8495)。
【0102】
糖尿病性創傷の治癒におけるSDF−1α改変細胞を用いた治療の有効性を試験した。遺伝的(NOD)糖尿病マウスモデルの糖尿病性創傷の治癒における線維芽細胞由来SDF−1αの治癒促進効果を試験することを目的とした。糖尿病に関連した創傷を有する患者における成熟した定住皮膚繊維芽細胞は欠陥があることが知られており、そのため潜在的な治療媒体としての臨床的関連をほとんどもたないので、BMDFを選択した。100μlのPBSに懸濁した1x10個のmSDF−1α/BMDF又はGFP/BMDFを創傷に注入した。閉塞するまで、創傷を毎日撮影した。mSDF−1α/BMDFで処理した糖尿病性創傷は、GFP/BMDFを注入した創傷よりも、有意に早く完全に治癒した(図1A)。同様の治癒促進効果が、皮膚創傷を有するSTZ−C57糖尿病マウスにおいても観察された。ネイキッドベクターを用いた創傷の治療もまた治癒促進反応を示したが、細胞を用いた方法ほど著明ではなかった。最も有意な差は、4及び5日目に見られた。これと一致して、Dil色素を用いて血管還流を行った後の創傷の共焦点レーザー走査顕微鏡像により示されたように、mSDF−1α/BMDFを用いて治療した創傷においては、対照の創傷と比較して、有意により活性な血管新生が発達した(図1B)。創傷を回収し、IHC解析に用いた。GFP/BMDFを注入した場合よりも、mSDF−1α/BMDFを注入した創傷においてSDF−1αがより強く発現することを、IHCにより確認した(図1C)。これらの結果は、糖尿病マウスモデルにおけるSDF−1αの治癒促進及び血管形成促進効果を確認し、並びに、SDF−1α改変細胞を用いた治療が糖尿病性創傷の治療における新規ツールとして役立つ可能性があるという前臨床的証拠を提供した。
【0103】
インビトロにおける、SDF−1αで刺激したEC単層への、ヒトEPCの接着の上昇。SDF−1αがEPCホーミングに及ぼす効果が、成熟した内皮細胞上の接着分子の制御により仲介されているという仮説を試すために、インビトロ細胞間接着アッセイにおいて、SDF−1αによる刺激が、EC単層がEPCの接着をより支持するようになるかどうかを試験した。24ウェルプレート中で培養した、サブコンフルエントなHMVECを、組換えヒトSDF−1α又はBSAで刺激した。Dil−Ac−LDL−標識EPCをウェル中に添加し、EC単層と共に1時間培養した。結合しなかったEPCをPBSで2回洗い流し、接着したDil−Ac−LDL−標識EPCを蛍光スキャナーを用いて測定した(図2A)。SDF−1αで刺激したEC単層では、BSAで処理した対照と比較して、EPC接着の数がおよそ8倍増加した(図2B)。このデータは、SDF−1αでの刺激がEPC−EC間の直接的な接着を促進することを示し、このことはEC上の特定の接着分子の発現が、SDF−1αによって特異的に制御されている可能性を示唆している。
【0104】
SDF−1αによる刺激は、EC単層(インビトロ)及びマウスの創傷毛細血管の内皮(インビボ)でのE−セレクチンの発現をアップレギュレートした。SDF−1αにより、EC単層でアップレギュレートされた接着分子を同定するために、RT Profiler(商標)PCRアレイを行った。サブコンフルエントなHMVECを、100ng/mlの組換えヒトSDF−1αタンパク質又はBSAで4時間刺激した。細胞を回収し、トータルRNAを抽出してRT Profiler(商標)PCRアレイに用いた。アレイで試験した84遺伝子のうち、13の遺伝子がアップレギュレートされ(>1.5倍)、20の遺伝子がダウンレギュレートされ(<1.5倍)、そして51の遺伝子が変化しなかった(表1)。特に、E−セレクチン遺伝子の発現はSDF−1αによる刺激によって、約2.3倍上昇した(図3A)。観察されたE−セレクチンmRNAの上昇を確認するために、免疫ブロット解析を行い、そして、SDF−1αで刺激したEC単層では、BSAで処理した対照と比較して、E−セレクチンのタンパク質発現が上昇することを確認した(図3B)。成熟した内皮細胞における、SDF−1αによるE−セレクチンの上昇をインビボでさらに確認するために、mSDF−1α/AAV又はlacZ/AAVを注入した糖尿病NODマウス創傷の血管を免疫染色により評価した。FITC−結合抗E−セレクチンAbを用いてE−セレクチンを、そしてPE−結合抗KDRAbを用いてECを染色した。mSDF−1α/AAVを注入した糖尿病マウス創傷の血管中のECにおいては、LacZ/AAVを注入したものと比較して、より強くE−セレクチン(黄色)が発現していた(図3C)。mSDF−1α/AAVにおける組織レベルでの上昇をIHCにより示した(図3D)。これらの実験により、E−セレクチンが、血管のECにおいてSDF−1αの下流の標的としてアップレギュレートされる、重要な接着分子の1つであることを確認した。
【0105】
【表1】


【0106】
アップレギュレートされたE−セレクチンは、SDF−1αにより高められたEC−EPC間相互作用及びEPC経内皮遊走の仲介に関与する。アップレギュレートされたE−セレクチンがSDF−1αにより高められたEC−EPC間接着の仲介に関与しているかどうかを試験するために、SDF−1αで刺激したEC単層へのEPCの接着におけるE−セレクチンアンタゴニストの効果をインビトロで試験した。24ウェルプレート中で培養したサブコンフルエントなHMVECを100ng/mlの組換えヒトSDF−1α又はBSAで8時間刺激し、そして培地を、E−セレクチン中和Ab又はアイソタイプが一致した対照Ab(2μg/ml)のいずれかを含み、SDF−1αを含まないEGM2培地と交換し、37℃で15分間インキュベーションし、その後EPCを添加した。その後、先に詳しく記載したように予め標識しておいた1x10のDil−Ac−LDL−標識EPCをウェル中に添加し、EC単層と共に37℃で1時間培養した。結合しなかったEPCをPBSで2回洗い流し、接着したDil−Ac−LDL−標識EPCを蛍光スキャナーで測定した。E−セレクチン中和Abの添加は、SDF−1αで刺激したEC単層に接着するEPCの数を有意に抑制し、一方対照のAbは有意な効果を示さなかった(図4A)。EPCとEC単層との間の特異的相互作用の仲介におけるE−セレクチンの生物学的機能をさらに研究するために、EPCとEC単層との間の接着の増加が、EC単層を通じたより多くのEPC遊出をもたらすかどうかを試験し、もしそうであった場合には、この遊出効果がE−セレクチン依存性かどうかを試験した。EPC経内皮遊走をインビトロトランスウェル系において試験した。HMVEC単層を、γhSDF−1α又はBSA存在下で、トランスウェルインサートの上部チャンバー内で培養した。EPCをインサート中に添加する15分前に、下部チャンバー内のEGM2培地を、γhSDF−1α又はBSAをそれぞれ含む新しい培地と交換した。上述したように調製した1x10のDil−Ac−LDL−標識EPC懸濁液をインサート中に添加し、そして37℃で一晩培養した。BSAで処理したEC単層と比較して、SDF−1αで刺激したEC単層では、トランスウェルの上部チャンバーから下部チャンバーへのEPC遊出の有意な増加が認められた(図4B)。重要なことは、E−セレクチンのブロッキング剤である中和Ab(2μg/ml)のトランスウェルへの添加が有意にEPCの経内皮遊走を阻害したことから、この効果が、少なくとも部分的には、E−セレクチン依存性であることである(図4B)。全体として、これらの結果は、アップレギュレートされたE−セレクチンが、SDF−1αにより増加したEC−EPC間接着及びEPC経内皮遊走の仲介に関与することを示した。
【0107】
SDF−1αによる刺激はEPCでのE−セレクチンリガンドの発現をアップレギュレートする。最終的に、創傷部の毛細血管内膜のECと循環しているEPCとの間の直接的な相互作用は、両方の細胞型の表面にある接着分子の相互に関連した対応部に依存すると考えられる。SDF−1αが、EC及びEPC両方の関連した接着分子の発現を誘導するだろうと予測した。先に詳しく記載した、ECにおいてはSDF−1α誘導性E−セレクチンが直接的なEC−EPC間相互作用を仲介するという結果に基づき、SDF−1αでの刺激に応答した、EPC上での2種類のE−セレクチンリガンド、CD44及びCD162(PSGP−1)の発現を解析した。サブコンフルエントなヒトEPCを、γhSDF−1α又はBSA、それぞれを用いて、様々な時間、刺激した。細胞を回収し、免疫ブロット解析に用いた。刺激しなかったEPCでは、強い基礎レベルのCD162及び低いレベルのCD44の発現が認められた。SDF−1αによる刺激は、EPCにおけるCD162及びCD44両方の発現をアップレギュレートした(図5)。CD162及びCD44の誘導は、SDF−1αで刺激してから4時間後に最初に観察され、その後16時間まで上昇し続けた。これらの実験により、EPCが基礎レベルのE−セレクチンリガンドを発現することが確認され、またSDF−1αがEPCでのこれらE−セレクチンリガンドの発現をアップレギュレートすることが可能であることが示された。このことは、可溶性の因子であるSDF−1αが、2種類の重要な細胞型である成熟内皮細胞とEPCにおける接着分子のプロファイルを特異的に制御することによりEPCホーミングを仲介するという、全体的な仮説と一致するものであった。
【0108】
E−セレクチンは、マウス虚血性後肢及び皮膚創傷モデルにおいてSDF−1αが、EPCホーミング、血管新生及び創傷治癒に及ぼす効果の仲介に必要である。EPCホーミング、血管新生、及び皮膚創傷の治癒におけるSDF−1α誘導性E−セレクチンの特異的な生物学的重要性を試験するために、機能喪失型の方法を、骨髄移植と組み合わせて用いた。E−sel−/−又はWTマウスAを用いて、大腿動脈の結紮/切除を介した片側後肢虚血のマウスモデルを作出し、その後両側に、4mmの皮膚切除創傷を作製した。直接的な創傷注入により、組換えマウスSDF−1αを創傷に投与した。血管新生及び創傷の治癒におけるEPCホーミングの貢献度を定量(部分的に)するために、尾静脈を介してマウス中にRosa26(LacZ)マウス由来の骨髄細胞、1x10個を注入することにより、さらなる治療を施した。手術後の四肢虚血の確認、モニター、及び、時間経過に伴って測定した潅流の平均を介した、後肢血流の自然な回復の定量には、LDIを用いた。デジタル写真撮影により、創傷面積の測定を毎日行った。7日目に半数のマウスから回収した創傷組織を用いた血管Dil潅流とその後のレーザー走査共焦点顕微鏡解析により、創傷組織における血管新生を評価した。残りのマウスについては、創傷を回収し、IHCに用いた。創傷組織にリクルートされ、血管に組み入れられたEPCを、β−gal(青)及び抗KDRを用いて二重染色した。WTマウスと比較して、E−sel−/−マウスの虚血性後肢は、有意に低い平均血流測定値によって示されたように、時間経過にわたる潅流において回復の遅れを示した(図6A)。一貫して、E−sel−/−マウスの虚血性創傷は、WTマウスにおける閉塞率と比較して、有意に遅い閉塞率を有した(図6B)。加えて、E−sel−/−マウスの虚血性創傷は、WTマウスのものと比較して、かなり少ない血管化しか示さなかった(図6C)。WTマウスと比較して、E−sel−/−マウスの虚血性創傷の血管においては有意に少ないLacZ細胞しか検出されなかったことから(図6D)、E−sel−/−マウスの虚血性創傷におけるこの少ない血管新生は、少なくとも部分的には、より少ないEPCホーミングと関連した。これらインビボでの実験は、SDF−1α誘導性EPCホーミング、血管新生及び創傷治癒の仲介に、E−セレクチンが必要であることを示した。
【0109】
本明細書において記載した実験は、SDF−1αが成熟ECにおけるE−セレクチンの発現及びEPC上のE−セレクチンリガンドを特異的にアップレギュレートし、それにより、EC−EPC間接着及びEPCホーミングを仲介することを示した。これらの知見は、SDF−1αがEPCホーミングに及ぼす生物学的効果の根底にある分子機構についての深く、かつ、新規の洞察を提供し、及び、糖尿病に関連した細小血管障害及び創傷治癒の遅延(並びにその他の虚血性創傷)でのEPCホーミングの治療上の操作において、E−セレクチンが新しい標的であることを示した。EC及びEPC中のE−セレクチン及びそのリガンドを変化させることは、EPCに関連した直接的な血管新生反応を制御するばかりでなく、創傷治癒に及ぼすEPCに関連し、糖尿病に関連した皮膚創傷治癒の遅延の未解決な臨床上の問題に本質的に関連する、直接的及び間接的な効果をも提供する。
【0110】
その他の実施形態
組成物、キット、及び方法工程の一部分又は全てに、任意の変更を加えてもよい。出版物、特許出願及び特許を含む、本明細書において引用された全ての参考文献は、参照することにより、本明細書に組み入れられる。本明細書において提供された、任意の及び全ての実施例の使用、又は例となる言葉(例えば、「のような」)は、本発明を説明することを目的とし、別途に請求した場合を除き、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、本明細書において記載した実験は糖尿病性創傷を扱うが、本明細書において記載した組成物、キット及び方法は、任意の虚血性創傷を含む、多数のその他の治療的及び予防的適用において用いることが可能である。本発明又は好ましい実施形態の本質又は有効性に関する、本明細書における任意の文言は限定することを意図せず、及び添付の請求項もそれらの文言によって限定されると見なされるべきではない。さらに通常、本明細書に明示されていなくても、本発明の実施に必須な請求されていない要素は示されていると解釈されるべきである。本発明は、適用法によって認められるように、全ての変更、及び添付の請求項に記載された対象事項の等価物を含む。さらに別段の指定のない限り、本明細書においては、可能な全変異型の上述した要素の任意の組み合わせが本発明に包含され、そうでない場合は、文脈から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒を促進する方法であって、
E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤からなる群より選択される少なくとも1つの治療薬と、薬学的に許容可能な担体とを含む、治療有効量の組成物を提供する工程;並びに、
前記対象における骨髄由来前駆細胞の前記創傷への遊走を増加させる条件下で、前記組成物を前記対象に投与する工程、を含む方法。
【請求項2】
前記組成物を経口的に、局所的に、又は静脈内に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物を前記創傷又は前記創傷に隣接した部位に直接投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記骨髄由来前駆細胞が内皮前駆細胞(EPC)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物の前記対象への投与が創傷治癒の促進をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物がE−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤を含み、ここで前記E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤がSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
糖尿病性創傷を有する糖尿病の対象においてE−セレクチンの発現をアップレギュレートする方法であって、第一のAAV逆方向末端反復と第二のAAV逆方向末端反復との間に挿入されたE−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを含有する、少なくとも1つのrAAVビリオンを包含する組成物を、E−セレクチンの発現をアップレギュレートし、骨髄由来前駆細胞の前記創傷への遊走を誘導し、かつ前記対象における前記創傷の治癒を促進するのに有効な量で、前記糖尿病の対象に投与する工程を含む方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのrAAVビリオンが血清型2カプシドタンパク質を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物を前記創傷又は前記創傷に隣接した部位に直接投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記骨髄由来前駆細胞がEPCを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記対象にSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸を投与する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
糖尿病の対象における糖尿病性創傷の治癒を促進する方法であって、
薬学的に許容可能な担体及びE−セレクチンをコードするポリヌクレオチドを含む複数の骨髄由来前駆細胞を含む組成物を提供する工程;並びに、
骨髄由来前駆細胞の前記創傷への遊走を増加させ、かつ前記対象における創傷の治癒を促進するのに有効な量の前記組成物を前記対象に投与する工程、を含む方法。
【請求項15】
前記E−セレクチンをコードするポリヌクレオチドがウイルスベクター中に組み込まれている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルスベクターがウイルス粒子中に組み入れられている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルスベクターがrAAVベクターであり、かつ、前記ウイルス粒子がAAV粒子である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物がSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物を前記創傷又は前記創傷に隣接した部位に直接投与する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記骨髄由来前駆細胞がEPCを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記対象に高圧酸素療法を実施する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
哺乳類対象における少なくとも1つの糖尿病性創傷を治療するためのキットであって、
(a)E−セレクチンタンパク質、E−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤、からなる群より選択される少なくとも1つの治療薬と、薬学的に許容可能な担体とを含む、治療有効量の組成物;並びに、
(b)使用説明書
を含むキット。
【請求項23】
前記組成物がE−セレクチンタンパク質又はE−セレクチンタンパク質をコードする核酸、及びE−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤を含み、ここで前記E−セレクチンの発現を特異的にアップレギュレートする薬剤がSDF−1αタンパク質又はSDF−1αタンパク質をコードする核酸である、請求項1に記載のキット。
【請求項24】
前記使用説明書が前記対象への高圧酸素療法の実施方法の説明を含む、請求項1に記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2012−524781(P2012−524781A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507248(P2012−507248)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/030471
【国際公開番号】WO2010/123699
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(591279353)ユニバーシティー・オブ・マイアミ (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF MIAMI
【Fターム(参考)】