説明

虚血性疾患及び退行性脳疾患の予防と治療のためのイネ科植物抽出物を含む組成物およびその使用

本発明は、アポトーシスを阻害することで低酸素状態下にある細胞生存率を改善するイネ科植物の抽出物を含む組成物に関する。よって、本発明のイネ科植物の1つであるTriticum aestivum L.の抽出物は、特に、虚血性疾患の動物モデルにおける脳、心臓、及び腎臓への損傷を予防し、アルツハイマー病の動物モデルにおける記憶も改善する。従って、イネ科植物の抽出物を含む組成物は虚血性疾患又は退行性脳疾患の予防及び治療のための治療薬又はヘルスケア食品として使用可能である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性疾患及び退行性脳疾患の予防と治療のための、イネ科植物抽出物を含む組成物とその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界的に見て例年の主な死因である心疾患は全ての死因の約30%を占め、その75%は脳梗塞と心筋梗塞が原因である。脳梗塞及び心筋梗塞は虚血性疾患の代表的な2例であり、それぞれ脳及び心臓における組織の壊死によって引き起こされる。これらは、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙等の様々な要因による動脈硬化により血管がすでに狭くなっている状態下で、血液を各組織に供給する大脳動脈又は冠状動脈が血栓又は塞栓によって閉塞すると起こる。心筋梗塞及び脳梗塞を軽減する最も良い方法は、可能な限り早く、閉塞した動脈を再かん流することであり、血栓又は塞栓を溶解するためには血栓溶解剤が使用されている。しかしながら、効果的に治療するためには、虚血組織が壊死する前、好ましくは閉塞から3−6時間以内に血栓溶解剤を投与すべきである。通常、閉塞から6時間以内に患者を治療することは困難である。従って、病院で閉塞した動脈を再かん流するまで組織の損傷を防ぐことが、脳梗塞及び心筋梗塞を軽減する別の方法である。脳梗塞及び心筋梗塞における細胞死の一因はアポトーシスによるものであることから(Crow MT et al., Circ. Res., 95(10), pp957-970, 2004; Friedlander RM, N. Engl. J. Med., 348(14), pp1365-1375, 2003)、抗アポトーシス剤を用いて虚血性疾患を防止することが可能である。
【0003】
これらの抗アポトーシス剤は、腎臓移植や形成手術における移植組織への損傷を防止するためにも使用することができ、これは損傷が虚血とそれに続く再かん流の間のアポトーシスによっても引き起こされるからである(虚血−再かん流)(Daemen MA et al., Transplantation, 73(11), pp1693-1700, 2002; Gastman BR et al., Plast. Reconstr. Surg., 111, pp1481-1496, 2003)。また、心臓手術のために心拍を止める際、人工心肺装置から供給される酸素量が心臓の酸素需要より少ないと心筋障害が起こる可能性があり、或いは血圧低下により脳に十分な血液が供給されないと脳に損傷が生じる可能性がある。例えば、冠状動脈バイパス移植、脳動脈及び大動脈等における動脈瘤手術の最中に血液の供給が阻害されると、心筋障害による心不全、及び脳の損傷による片麻痺が起こる場合がある。統計的には、大動脈瘤に外科的療法又はインターベンション治療を行った患者の3−16%が、虚血性心疾患、腎不全、対麻痺等の様々な副作用を示していることが報告されている。従って、手術に先立って抗アポトーシス剤を投与することで、こういった副作用を軽減できる可能性がある。
【0004】
脳梗塞の際のアポトーシスによる神経細胞死の原因は、現在に至るまで十分に解明されてはいないが、一時的な脳の虚血とそれに続く脳への酸素とグルコースの供給のブロックにより神経細胞におけるATP濃度が低下することが知られている。この状態は細胞外でのグルタミン酸塩の過剰蓄積を誘発し、続くグルタミン酸塩の細胞内への流入が細胞内カルシウムイオンの蓄積を引き起こし、神経細胞のアポトーシスにつながる(Kang TC et al., J. Neurocytol., 30(12), pp945-955, 2001)。この損傷は、虚血に引き続く血液供給の再かん流の際の急激な酸素供給によって発生する活性酸素種により悪化する(Won MH et al., Brain Res., 836(1-2), pp70-78, 1999)。これらの活性酸素種は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症等の一部の退行性脳疾患における、アポトーシスによる神経細胞死の一因でもある(Sayer LM et al., Curr Med Chem, 8, pp721-738, 2001)。従って、抗アポトーシス剤は、虚血性疾患のみならず退行性脳疾患の治療にも用いることが可能である。
【0005】
抗アポトーシス剤として評価されてきたものの1つがテトラサイクリン系抗生剤のミノサイクリンである。動物モデルを使った実験により、ミノサイクリンが脳梗塞(Yrjanheikki J et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96(23), pp13496-13500, 1999)、心筋梗塞(Scarabelli TM et al., J. Am. Coll. Cardiol., 43(5), pp865-874, 2004)及び虚血性急性腎不全(Wang J et al., J. Biol., Chem., 279(19), pp19948-19954, 2004)等の虚血性疾患、アルツハイマー病(Hunter CL, Eur. J. Neurosci., 19(12), pp3305-3316, 2004)、パーキンソン病(Wu DC et al., J. Neurosci., 22(5), pp1763-1771, 2002)、筋萎縮性側索硬化症(Zhu S et al., Nature, 417(6884), pp74-78, 2002)、ハンチントン病(Chen. M. et al., Nat. Med., 6(7), pp797-801, 2000)及び脊髄損傷(Teng YD et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101(9), pp3071-3076, 2004)等の退行性脳疾患等のアポトーシスによって引き起こされる多くの疾患の治療に効果的であることが示されている。
【0006】
本発明の発明者は、テトラサイクリン系抗生物質が、この研究で用いたものと同様の虚血状態下の細胞生存率を改善することも確認した(韓国特許登録番号第0404134号、米国特許番号第6716822号及び6818625号参照のこと)。更に、アミノグリコシド及びキノロン系抗生物質もまた、ミノサイクリンに用いたものと同じ虚血状態下において細胞生存率を改善した。特に、アミノグリコシド系抗生物質であるG418(ジェネティシン)は心筋梗塞の治療に効果的であった(米国特許番号第6716822号)。更なる実験により、G418が虚血状態下における細胞生存率をアポトーシスの阻害によって改善すること、又、G418が脳梗塞の治療にも効果的であることも示された。つまり、細胞生存率の改善においてG418と同効果を有するとスクリーニングされた薬剤は全て、虚血性疾患及び退行性脳疾患の治療に効果があると考えられる。
【0007】
本発明の発明者は、植物の可食部は通常、化学物質より毒性が低いため、上述したスクリーニング法を応用して植物の可食部から抗アポトーシス剤を発見した。発明者は、以下に記載のイネ科植物の抽出物が低酸素状態下での細胞生存率を改善することを発見し、これはトリパンブルー排除試験、MTT試験その他等の様々な試験管内試験で証明された。小麦としても知られるイネ科植物の1つTriticum aestivum L.を更なる実験におけるモデル植物として使用した。Triticum aestivum L.の種子から抽出した未精製抽出物は低酸素状態下でのアポトーシスを阻害し、これはDNA断片化試験によって証明された。加えて、Triticum aestivum L.の種子の未精製抽出物及び/又は精製画分は、心筋梗塞、脳梗塞、及び虚血性急性腎不全等の虚血性疾患の治療に効果的であり、又、退行性脳疾患、アルツハイマー病の治療にも効果的であり、その有効性は様々な動物モデル試験で立証された。
【0008】
本発明では様々な種類のイネ科植物を試験し、組成や薬剤としての使用といったその種子の特徴を以下に示す。
【0009】
オオムギとも称されるHorden vulgare L.の乾燥種子は、デンプンを60−68%、ペントサンを8−12%、セルロースを4−5%、リグニンを4%、硝酸塩成分を7−14%、エーテル抽出物を2−3%、灰分2−3%を含むことが報告されている。種子は、フォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジン酸、ステロール、エステル、グリコシド、アラントイン等を含有する。加えて、種子の主な脂肪酸はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸である(Chung BS and Shin MK HyangyakDaesacheon, p218, Youngrimsa, Seoul,1998)。
【0010】
発芽乾燥させたオオムギである麦芽は消化活動を刺激し、血糖値を下げると報告されている(Ahm DK, Illustrated Book of Korean Medicinal Herbs, 5th ed., p476, Kyo-Hak Publishing Co., Ltd. Seoul, 2002)。
【0011】
もみ殻を外した米である玄米(Oryza sativa L.)は水分を15.5%、たんぱく質を7.4%、脂肪分を3.0%、糖を71.8%、繊維を1.0%、灰成分を1.3%、及びビタミンB1を0.54mg/100g含有する。
【0012】
Avena sativa L.(エンバク)の種子は玄米と同様のアミノ酸組成を有しており、大量のビタミンB群を有する。韓国漢方では下剤、及び便秘とガンの治療のための薬剤として用いられてきた。
【0013】
Zea mays L.(トウモロコシ)の種子はデンプンを61.2%、アルブミン、グロブリン、グルテリン等のたんぱく質を4.75%、アルカロイドを0.21%、及び種々のビタミンを含むことが報告されており、その種油はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等を含む不飽和脂肪酸を含む(Chung BS and Shin MK, HyangyakDaesacheon, p234, Youngrimsa, Seoul, 1998)。
【0014】
Sorghum bicolor MOENCH(スイートソルガム)の種子は主成分としてデンプンを76.5%とたんぱく質を8.5%を含むことが報告されており、韓国漢方では胃痛と急性胃腸炎の治療に使用される(Ahn DK, Illustrated Book of Korean Medicinal Herbs, 5th ed., p441, Kyo-Hak Publishing Co., Ltd. Seoul, 2002)。
【0015】
Coix lacryma-jobi var. mayuen STAPF(ハトムギ)の種子はデンプンを67.7%、たんぱく質を13.8%、脂質を5.1%、セルロースを0.7%含み、利尿、排尿その他に効果的なことが報告されている(Ahn DK, Illustrated Book of Korean Medicinal Herbs, 5th ed., p405, Kyo-Hak Publishing Co., Ltd. Seoul, 2002)。
【0016】
Panicum miliaceum L.(キビ)の脱穀種子は、デンプンを59.65%、無機物質を2.86%、パルミチン酸、カルナバ酸、マルガリン酸、オレイン酸、リノール酸、イソリノール酸等の脂肪酸を5.07%、及びアルブミン、グルテリン、プロラミン等のたんぱく質を含むことが報告されている(Chung BS and Shin MK, HyangyakDaesacheon, p225-226, Youngrimsa, Seoul, 1998)。
【0017】
Setaria italica Beauv.(アワ)の脱穀種子はデンプンを63.27%、脂肪を1.41%、全窒素を2.48%、たんぱく質を2.41%、灰分を3.15%、還元糖を2.03%含むことが報告されている。その外皮はグルテリン、プロラミン、グロブリンその他等のたんぱく質を含有する(Chung BS and Shin MK, HyangyakDaesacheon, p229, Youngrimsa, 1998)。Setaria italica Beauv.は悪心、弱質、消化不良、下痢に効果的であることが報告されている(Ahn DK, Illustrated Book of Korean Medicinal Herbs, 5th ed., p705, Kyo-Hak Publishing Co., Ltd. Seoul, 2002)。
【0018】
Secale cereale L.(ライムギ)の種子は、主成分としてデンプンを70%、たんぱく質を12%、脂肪を2%、無機成分を1.7%含むと報告されている。プロラミンとグルテニンが総たんぱく質含有量の40%以上を占める。
【0019】
小麦とも称されるTriticum aestivum Lの種子は、内胚乳約82%、果皮16%、胚芽2%から構成されると報告されている。内胚乳はデンプン及びグリアジン、グルテニン等のたんぱく質を含有する。また、果皮はセルロース、たんぱく質、灰分を含有する。最後に、胚芽はビタミンEと、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸等の脂肪酸を含有する。Triticum aestivum L.は韓国漢方では精神安定剤として、又、熱、精神安定、出血を治療する薬剤として使用されてきた。浮小麦は、未成熟な小麦を乾燥させ、水に入れた際に水面に浮かぶ小麦を回収することで得られる(Ahn DK, Illustrated Book of Korean Medicinal Herbs, 5th ed., p727, Kyo-Hak Publishing Co., Ltd. Seoul, 2002)。
【0020】
Triticum aestivum L.の種子及びその他の中国漢方を含む組成物が胸痛、肩甲骨痛、心疾患に効果的なことが報告されている(韓国特許公報第10−2000−0033287号)。しかしながら、主成分としてのイネ科植物抽出物の、虚血性疾患と退行性脳疾患に対しての治療有効性に関しては、参照により本願に組み込まれるところの上記で引用の文献のいずれにも記載又は開示されていない。
【0021】
本発明のこれら及びその他の目的は、以下に記載の本発明の詳細な開示から明らかとなる。
【発明の開示】
【0022】
虚血性及び退行性脳疾患の一因は、壊死に加え、それぞれの臓器における細胞のアポトーシスである。従って、アポトーシスを阻害可能な医薬品組成物を用いて、虚血性及び退行性脳疾患を予防及び治療することが可能である。よって、アポトーシスの阻害による、虚血性疾患及び退行性脳疾患の予防と治療に効果的であり、同時に毒性問題を有さない医薬品組成物を開発することが重要である。
【0023】
本発明は、製剤的に許容可能な担体又はアジュバントを含み、又、有効成分としてイネ科植物の未精製抽出物または精製画分を含む医薬品組成物を提供し、この組成物はアポトーシスを阻害することで虚血性疾患及び退行性脳疾患を防止することができる。
【0024】
また、本発明は医薬品組成物を製造するための、上記のイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分の使用を提供するものであり、この医薬品組成物はアポトーシスを阻害することで虚血性疾患及び退行性脳疾患を防止することができる。
【0025】
また、本発明は、アポトーシスの阻害により虚血性疾患及び退行性脳疾患を予防又は改善するための、上述のイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分を含むヘルスケア食品又は食品添加物を提供するものである。
【0026】
本願で開示の「虚血性疾患」という用語は、心筋梗塞、脳梗塞、虚血性急性腎不全、虚血性急性肝不全、糖尿病性の足壊疽、糖尿病性ネフロパシー、及び外科手術の副作用によって引き起こされる虚血性疾患又は臓器/組織障害等の様々な虚血性疾患を含む。
【0027】
本願で開示の「外科手術の副作用によって引き起こされる虚血性疾患」という用語は、虚血性心不全、虚血性腎不全、虚血性肝不全、又は虚血性脳卒中を含む。
【0028】
本願で開示の「外科手術の副作用によって引き起こされる臓器/組織障害」という用語は、臓器手術、臓器移植、又は事故により切断された身体部位の再連結を行う際の虚血−再かん流によって引き起こされる障害を意味する。
【0029】
上述の「臓器/組織」という用語は、腎臓、肝臓、膵臓、肺又は心臓等の内臓、及び足、手、指又は耳等の外部器官を含む。
【0030】
本願で開示の「退行性脳疾患」という用語は、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)、血管性認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、又は脊髄損傷等の様々な退行性脳疾患を含む。
【0031】
本願で開示の「イネ科植物」という用語は、Triticum aestivum L.、浮Triticum aestivum L.、Secale cereale L.、玄米、Horden vulgare L.、麦芽、Avena sativa L.、Zea mays L.、Sorghum bicolor MOENCH、Coix lacryma-jobi var. mayuen STAPF、Panicum miliaceum L.又はSetaria italica Beauv.等の様々なイネ科植物を含む。
【0032】
本願で開示の「未精製抽出物」という用語は、植物材料を水、メタノール、エタノール等の低級アルコール、またはその混合物、好ましくは水で抽出することで調製した抽出物を含む。
【0033】
また、本願で開示の「精製画分」という用語は、以下の工程を含む処理によって調製したイネ科植物から単離された精製画分を含む。工程1:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基の添加によりイネ科植物の未精製抽出物をpH7とpH12に調整する。工程2:当量の無極性溶媒を工程1で調製した抽出物に添加することでイネ科植物の未精製抽出物中の無極性物質を除去し、その水溶性抽出物を得る。工程3:工程2で調製した水溶性抽出物を、当量のブタノール等の低級アルコールを添加することによる抽出及び分画に供して本発明の4つの精製画分を得る。つまり、pH12の抽出物から単離したブタノール可溶性画分と水溶性画分(以下、それぞれH12BuとH12WAと称する)、pH7の抽出物から単離したブタノール可溶性画分と水溶性画分であり(以下、それぞれH7Bu及びH7WAである)、H12Buが好ましい。
【0034】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0035】
本発明のイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分は、以下の手順により詳細に調製することが可能である。
【0036】
まず最初に、本発明のイネ科植物の未精製抽出物は以下の工程により調製することが可能である。例えば、Triticum aestivum L.、浮Triticum aestivum L.、Secale cereale L.、玄米、Horden vulgare L.、麦芽、Avena sativa L.、Zea mays L.、Sorghum bicolor MOENCH、Coix lacryma-jobi var. mayuen STAPF、Panicum miliaceum L.又はSetaria italica Beauv.を乾燥、切断、圧搾したあと、体積で1−15倍、好ましくは約5−10倍の蒸留水、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコール、又は2つの溶媒を約1:0.110で好ましくは水を一方の溶媒とした混合物と混合する。抽出対象の原料を含有する溶液を20−100℃、好ましくは50−100℃の温水で0.5−48時間、好ましくは1−24時間かけて、温水抽出、冷水抽出、還流抽出、超音波抽出等の抽出法で1−12回、好ましくは温水抽出で3−4回連続して処理する。抽出物を濾過した後、濾液をロータリーエバポレータで20−100℃、好ましくは40−70℃で濃縮し、その後、濃縮した濾液を真空凍結乾燥、熱風乾燥、または噴霧乾燥して本発明のイネ科植物の乾燥未精製抽出物粉末を得る。この粉末は水、低級アルコール、又はその混合物に可溶である。
【0037】
第二に、本発明のイネ科植物の精製画分は以下の工程により調製し得る。例えば、上述の工程で調整したイネ科植物の未精製抽出物、好ましくは未精製の水による抽出物を元々の体積の約1/5−1/20、好ましくは1/10に濃縮して、濃縮抽出物を得る。次に、濃縮抽出物を2つの群に等分し、水酸化ナトリウム等の強塩基を用いて一方の群をpH12に、もう一方をpH7に調整し、続いて当量の酢酸エチルを各群に添加する。各群の濃縮抽出物層と酢酸エチル層とを強く振って混合した後、再度分離して各群の酢酸エチル層を除去、残りの濃縮抽出物層(水溶性画分)を回収する。次に、当量の水飽和ブタノールを各群の水溶性画分に添加し、各群の水溶性画分とブタノール層とを強く混合した後、再度分離して各群の水溶性画分とブタノール可溶性画分との双方を回収する(つまり、pH12群とpH7群)。次に、pH12群のブタノール可溶性画分と水溶性画分とをまず最初にpH7に中和し、次に濃縮、乾燥させてH12BuとH12WA画分をそれぞれ得る。次に、pH7群のブタノール可溶性画分と水溶性画分とを濃縮、乾燥させてH7BuとH7WA画分とをそれぞれ得る。上述の濃縮と乾燥工程には、ロータリーエバポレータによる濃縮と、凍結乾燥装置による乾燥をそれぞれ伴う。
【0038】
本発明の目的は、アポトーシスによって引き起こされる、哺乳類及び人間における虚血性疾患及び退行性脳疾患の予防と治療のための治療薬の調製のための、上述した方法を用いて調製したイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分の使用を提供するものである。
【0039】
本発明の目的は、アポトーシスによって引き起こされる、哺乳類及び人間における虚血性疾患及び退行性脳疾患を予防及び治療する方法を提供するものであり、上述の方法により調製した有効量のイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分をその製剤的に許容可能な担体と共に投与することを含む。
【0040】
上述の手順で調製したイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分の活性は、試験管内及び生体内実験によって試験され、試験管内実験において、低酸素状態のヒト肝細胞癌細胞がイネ科植物の未精製抽出物の薬能により改善されることは、トリパンブルー排除試験及びMTT試験により示されており、低酸素状態下における抽出物による細胞の改善は、細胞のアポトーシスの阻害により生じたものであり、これはDNA断片化試験により示された。加えて、イネ科植物であるTriticum aestivum L.の精製画分の薬能はMTT試験により示された。虚血性疾患に罹患した適切なラットモデルを使用した生体内実験により、Triticum aestivum L.の未精製抽出物と精製画分が心筋梗塞、脳梗塞及び虚血性急性腎不全を予防する薬能が示された。また、Triticum aestivum L.の未精製抽出物がアルツハイマー病における記憶障害を予防する薬能を有することが、アミロイド誘発ラットモデルを用いて示された。加えて、長期間にわたって安全に使用可能なことから、本発明の抽出物は疾患の予防目的で使用可能である。
【0041】
従って、上述の方法で調製したイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分は、虚血性疾患及び退行性脳疾患の予防と治療のための医薬品組成物の調製における有効成分として使用可能である。本発明の組成物は、補足的に、当該分野で慣用的に用いられる適切な担体、アジュバント又は希釈剤を含んでいてもよい。適切な担体、アジュバント又は希釈剤は特定の材料に限定されず、用途と適用方法に応じて選択することができる。適切な希釈剤はRemington's Pharmaceutical Science(Mack Publishing Co., Easton PA)に記載されている。
【0042】
以下に製剤方法を示すが、これらは模範的な例にすぎず、本発明を制限するものでは全くない。
【0043】
イネ科植物の未精製抽出物又は精製画分を有効成分として含む本発明の医薬品組成物には、乳糖、デキストロース、蔗糖、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油等の製剤的に許容可能な担体、アジュバント又は希釈剤も含有させることが可能である。処方には、補足的に増量剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、着香剤、乳化剤、保存料その他を含めてもよい。
【0044】
本発明の組成物は、当該分野で周知のいずれの手順を用いて、患者への投与後に有効成分を迅速、徐放性、又は遅延性で放出するように処方してもよい。例えば、本発明の組成物は油類、プロピレングリコール、又は注射剤を製造する際に一般的に使用するその他の溶剤に溶解させることが可能である。
【0045】
適切な担体の例には、生理食塩水、ポリエチレングリコール、エタノール、植物性油、ミリスチン酸イソプロピルその他が含まれるが、これらに限定はされない。局所的投与の場合、本発明の抽出物を軟膏やクリームの形態で処方することが可能である。
【0046】
本発明の組成物を含有する医薬品製剤は、経口投薬形状(粉末、錠剤、カプセル、ソフトカプセル、水薬、シロップ、エリキシル剤、丸薬、粉末、サシェ剤、顆粒)、又は局所用調合物(クリーム、軟膏、ローション、ゲル、バーム、パッチ、ペースト、散布剤、エアロゾル等)、又は注射剤(水溶液、懸濁液、エマルジョン)等のいずれの形状で調製してもよい。
【0047】
薬剤投与形態での本発明の組成物は、その製剤的な観点からみて許容範囲にある塩として使用してもよく、又、その他の製剤的に活性な化合物と組み合わせての使用はもちろん、単体で使用しても適当なものと組み合わせての使用であってもよい。
【0048】
本発明の抽出物または組成物の望ましい投与量は、患者の状態や対象の体重、疾患の重症度、剤形、投与経路、投与期間によって異なり、当業者が選択してもよい。しかしながら、望ましい効果を得るためには、本発明の抽出物又は組成物を体重/日あたり、10■/kg、好ましくは0.1−1000■/kg投与することが一般的に勧められる。一日一回投与しても、何回かにわけて投与してもよい。
【0049】
本発明の医薬品組成物は、哺乳類(ラット、マウス、家畜または人間)等の被験動物に様々な経路で投与することができる。全ての投与経路が考えられるが、例えば、経口投与、直腸投与、静脈内投与、筋肉投与、皮下投与、皮内投与、鞘内投与、硬膜外投与、または脳室内投与が挙げられる。
【0050】
また、本発明は、アポトーシスによって引き起こされる虚血性疾患又は退行性脳疾患の予防と改善のための、食品学的に許容可能な添加物と共にイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分を有効成分として含む、ヘルスケア食品を提供する。
【0051】
本願で開示の「ヘルスケア食品」という用語には栄養補助食品、栄養補給食品、食品又は食品添加物を含む。
【0052】
本発明のヘルスケア食品は、組成物の総重量に対し、上記の未精製抽出物又は精製画分を0.01−95重量%(好ましくは1−80%)含む。
【0053】
上記記載のヘルスケア食品は健康機能性食品及び健康飲料等を含み、粉末、顆粒、錠剤、チュアブル錠、カプセル、飲料等として使用してもよい。上述のイネ科植物の抽出物を含有する健康機能性及び健康飲料は、虚血性疾患及び退行性脳疾患の予防及び改善に使用することができる。
【0054】
健康飲料は、一般的に、健康飲料組成物100■あたり上記未精製抽出物又は精製画分を0.02−5g(好ましくは0.3−1g)含んでいてもよい。特定の比率での未精製抽出物に加え、本発明の健康飲料組成物は、従来の飲料で使用している様々な着香料又は天然糖類を含有していてもよく、制限はされない。上記記載の着香料の例としては、ソーマチン、ステビア抽出物(レバウディオサイドA、グリシルリジン等)等の天然着香料、及びサッカリン、アスパルテーム等の合成着香料等が挙げられる。上述の天然糖類の例としては、グルコース、果糖等の単糖類;麦芽糖、蔗糖等の二糖類;デキストリン、シクロデキストリン等の一般的な糖;キシリトール、エリスリトール等の糖アルコールが例として挙げられる。健康飲料は、一般的に、健康飲料組成物100mlあたり上記天然糖類を約1−20g(好ましくは5−12g)含んでいてもよい。
【0055】
上記記載の成分に加え、本発明の組成物は様々な栄養素、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成及び天然着香料、着色料、品質改良剤(チーズ及びチョコレート等の場合)、ペクチン酸およびその塩、アルギニン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド粘着剤、pH調整剤、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料等で使用される炭酸化剤も含有していてもよい。本発明の組成物は、天然フルーツジュース、果汁飲料、野菜飲料を製造するために果肉も含有していてもよく、成分は独立して使用しても組み合わせて使用してもよい。成分の比率はあまり重要ではないが、通常、本発明の組成物100w/w%に対して約0−20w/w%である。
【0056】
こういったものを添加する、上述の抽出物を含有する食品としては様々な食品、飲料、ガム、複合ビタミン剤、健康促進食品等が挙げられる。
【0057】
それに加え、本発明の組成物は、クエン酸、フマル酸、アジピン酸、乳酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩等のリン酸塩、ポリフェノール、カテキン、トコフェノール、ローズマリー抽出物、ビタミンC、緑茶抽出物、甘草抽出物、キトサン、タンニン酸、フィチン酸等の天然抗酸化剤を1つ以上含んでいてもよい。
【0058】
上記記載の本発明の抽出物は20−90%の高濃度液体、粉末、又は顆粒タイプであってもよい。
【0059】
同様に、上記記載の本発明の抽出物は、乳糖、カゼイン、デキストロース、グルコース、蔗糖、及びソルビトールの1つ以上を更に含むことが可能である。
【0060】
本発明の独創的な抽出物に毒性はなく、故に悪影響をもたらさず、安全に使用することが可能である。
【0061】
本発明の精神又は範囲から外れることなく、本発明の組成物、その使用および調製に様々な改良や変更を加えうることは当業者には自明である
【0062】
本発明のイネ科植物の抽出物は、虚血性疾患の動物モデルの梗塞部体積を低下させ、又、脳への損傷を予防し、アルツハイマー病の動物モデルの記憶を増強した。双方共にアポトーシスの阻害によるものである。抽出物は長期間摂取しても副作用がないことから、虚血性疾患又は退行性脳疾患を予防及び治療するための治療薬又はヘルスケア食品として使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
本発明の目的及び範囲から逸脱することなく、本発明の組成物、使用および調製に様々な改良や変更を加えうることは当業者には自明である。
【0064】
本発明を以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、いかなる方法によっても本発明はこれらの実施例に制限されるものではないことに留意しなくてはならない。
【0065】
以下の参考例、実施例、および実験例は本発明をより詳しく説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1:イネ科植物の未精製抽出物の調製
市場で購入した100gのTriticum aestivum L.を洗浄し、2Lの水と混合し、漢方用の電気抽出ポットを用いて2回抽出した(Daewoong製漢方薬電気抽出ポットDWP‐2000、Daewoong社)。抽出物を濾過して2Lの濾過抽出物を得た後、抽出物を凍結乾燥させ、Triticum aestivum L.の乾燥未精製抽出物を22g得る。以下、この抽出物をHY6228と称する。
【0067】
上述と同一の抽出法をその他の薬草にも適用し、100gあたり8gのSecale cereale L.、6gのHorden vulgare L.、11gの麦芽、18gの浮Triticum aestivum L.、20gの玄米、44gのAvena sativa L.、9gのZea mays L.、10gのSorghum bicolor MOENCH、14gのCoix lacryma-jobi var. mayuen STAPF、32gのPanicum miliaceum L.及び6gのSetaria italica Beauv.の未精製抽出物をそれぞれ得た。各抽出物を以下、それぞれHY6228B、HY6228C、HY6113、HY6138、HY6228A、HY6228I、HY6228F、HY6228E、HY6228G、HY6228D、及びHY6228Hと称する。
【0068】
実施例2:イネ科植物の精製画分の調製
実施例1で調製したTriticum aestivum L.の未精製抽出物2Lを減圧下でロータリーエバポレータで200■(未精製抽出物の1/10)にまで濃縮した。濃縮サンプルを2つの群に分割し、双方の群を水酸化ナトリウムを用いてpH12とpH7に調整した。上記で調製したpH調整後の各サンプルを当量の酢酸エチルと強く混合し、酢酸エチル画分と水溶性画分とに分割した。水溶性画分を回収し、当量のブタノールと強く混合し、ブタノール画分と水溶性画分とに分離した。上述の工程と同一の手順を3回繰り返し、それぞれ300■のブタノール画分を回収した。
【0069】
pH12に調整した抽出物から得たブタノール画分と水溶性画分とをpH7に中和、濃縮し、Triticum aestivum L.のブタノール可溶性画分を0.4g(以下、H12Buと称する)、水溶性画分を2g(以下、H12WAと称する)をそれぞれ得た。pH7に調整された抽出物から得たブタノール画分と水溶性画分を直接濃縮して、Triticum aestivum L.のブタノール可溶性画分を0.1g(以下、H7Buと称する)と水溶性画分を2g(以下、H7WAと称する)をそれぞれ得た。
【0070】
参考例1:実験動物
体重250−300gの雄のSDラット(Hyochang Science社、韓国)を温度(21±1℃)で12時間明暗サイクル、食料と水は自由摂取させて飼育した。実験に先立って、実験動物に10分間にわたって取り扱った。
【0071】
実験例1:イネ科植物の未精製抽出物が細胞生存率に与える改善効果の測定(試験管内)
イネ科植物の未精製抽出物が低酸素及び正常酸素条件下のHepG2細胞生存率に与える改善効果を求めるため、低酸素及び正常酸素条件下の生存細胞数を、文献に記載の修正トリパンブルー染色排除試験に従って、培地における濃度が様々に異なるHY6228で測定した(Sambrook J and Russel DW, Molecular Cloning 3rd ed., Vol.3, A8.6-8.8, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001)。
【0072】
HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株、ATCC HB 8065、2x10細胞/800■)を12ウェルプレートの各ウェルに播種し、EMEM(イーグルの最少必須培地、Invitrogen社、米国)で、ペニシリンGナトリウム(100単位/L、Invitrogen社、米億)、硫酸ストレプトマイシン(100mg/L、Invitrogen社、米国)と10%(w/v)ウシ胎児血清(Invitrogen社、米国)を補給して、5%CO−95%空気の培養装置内で温度37℃で48時間にわたって培養した。培地を新鮮なものと交換した後、50%エタノールに溶解させたHY6228の濃度0(ネガティブコントロール)、100、1000■/■で、低酸素(3%酸素濃度)と正常酸素条件下で、2日間にわたって生存細胞数を測定した。
【0073】
培地を除去し、細胞をPBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水)で一度洗浄し、次にトリプシン処理した。細胞を遠心分離機で回収し、新鮮な培地に再懸濁させて細胞懸濁液を調製した。懸濁液を同一容量の0.4%トリパンブルー溶液と混合した(Invitrogen社、米国)。5分後、それぞれ青色に染色された細胞を死細胞、非染色細胞を生存細胞とみなして、生存細胞数を血球計算板を用いて数えた。図1に図示されるように、低酸素条件下での培養1日後、ネガティブコントロール群(コントロール)では大半の細胞が死滅し(比率=0)、1000■/■の本発明の抽出物(HY6228)で処理した細胞はその大半がまだ生存していた(比率>0)。図2に示されるように、1000■/■のHY6228で処理した細胞の増殖率は、正常酸素条件下のコントロール群の増殖率と同様であった。結果は、HY6228が、たとえ濃度が1000■/■であっても正常酸素条件下での細胞増殖を阻害することなく、低酸素条件下での細胞生存率を著しく向上させることを示す。
【0074】
実施例1で調製したHY6228A、HY6228B、HY6228C、HY6113、HY6138、HY6228I、HY6228F、HY6228E、HY6228G、HY6228H及びHY6228Dが低酸素条件下で培地のHepG2細胞生存率に与える改善効果を調査するために、若干の修正を加えて、前述したようにMTT試験を行った(Hoffman RM, In Cell Biology (Celis JE(Ed.), Vol.1, pp369-370, Academic Press, New York, 1994)。
【0075】
HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株、ATCC HB 8065、2x10細胞/800■)を12ウェルプレートの各ウェルに播種し、EMEM(イーグルの最少必須培地、Invitrogen社、米国)で、ペニシリンGナトリウム(100単位/L、Invitrogen社、米国)、硫酸ストレプトマイシン(100mg/L、Invitrogen社、米国)と10%(w/v)ウシ胎児血清(Invitrogen社、米国)を補給して、5%CO−95%空気の培養装置内で温度37℃で48時間にわたって培養した。次に、実施例1で調製し、50%エタノールに溶解させた各HY6228A、HY6228B、HY6113、HY6138、HY6228の未精製抽出物1000■/■を、培地に添加した。同時に、細胞生存率を改善すると示された10■/■のG418(Invitrogen社、米国)も別に加え、ポジティブコントロール(ポジティブ)として用いた。低酸素条件下での48時間にわたる培養後、細胞生存率をMTT試験で測定した(図3)。
【0076】
加えて、実施例1で調製され、50%のエタノールと50%のグリセリンに溶解し、最終濃度をエタノール0.5%/グリセリン0.5%とした各HY6228C、HY6228D、HY6228E、HY6228F、HY6228G、HY6228H及びHY6228Iの未精製抽出物も培地に添加した。低酸素条件下での48時間にわたる培養後、細胞生存率をMTT試験で測定した(図4)。
【0077】
図3に示されるように、玄米(HY6228A)、Secale cereale L.(HY6228B)、麦芽(HY6113)、及び浮Triticum aestivum L.(HY6138)の未精製抽出物はTriticum aestivum L.(HY6228)と同じぐらい、低酸素条件下における細胞生存率を改善した。
【0078】
図4に示されるように、Coix lacryma-jobi var.mayuen STAPF(HY6228G)、Zea mays L.(HY6228F)、Sorghum bicolor MOENCH(HY6228E)、Panicum miliaceum L.(HY6228D)、Horden vulgare L.(HY6228C)、Avena sativa L.(HY6228I)、Setaria italica Beauv.(HY6228H)の未精製抽出物も、低酸素条件下での細胞生存率を強力に向上させた。
【0079】
本発明の未精製抽出物の中でもTriticum aestivum L.(HY6228)とSecale cereale L.(HY6228B)の未精製抽出物が細胞生存率を最も向上させた。
【0080】
要約すると、Triticum aestivum L.の未精製抽出物により動物モデルにおける虚血性疾患と退行性脳疾患の予防と治療が可能ならば、Triticum aestivum L.と同じイネ科に属するSecale cereale L.、玄米、麦芽、及び浮Triticum aestivum L.、Coix lacryma-jobi var.mayuen STAPF、Zea mays L.、Sorghum bicolor MOENCH、Panicum miliaceum L.、Horden vulgare L.、Avena sativa L.、Setaria italica Beauv.の未精製抽出物も疾患に対して同様の有効性を示すと結論づけることができる。
【0081】
実験例2:Triticum aestivum L.の未精製抽出物が低酸素条件下でアポトーシスに与える阻害効果(試験管内)
HY6228が低酸素条件下での細胞生存率をいかにして改善するかのメカニズムを特定するために、引用文献で開示の手順に若干の修正を加えたものに従ってDNA断片化試験を行った(Yoshida A et al., In Apotosis: A practical approach, Studzinski GP (Ed.), pp47-48, Oxford University Press, New York, 1999)。
【0082】
HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株、ATCC HB 8065、1x10細胞/4■)を60■シャーレに播種し、EMEM(イーグルの最少必須培地、Invitrogen社、米国)で、ペニシリンGナトリウム(100単位/L、Invitrogen社、米国)、硫酸ストレプトマイシン(100mg/L、Invitrogen社、米国)と10%(w/v)ウシ胎児血清(Invitrogen社、米国)を補給して、5%CO−95%空気の培養装置内で温度37℃で48時間にわたって培養した。培地を新鮮なものと交換した後、DNA断片化試験を実施例1で調製し50%エタノールに溶解させたHY6228濃度0(ネガティブコントロール)と400■/■で、低酸素(酸素濃度3%)と正常酸素条件下で2日間にわたって行った。
【0083】
この結果、HY6228は、ネガティブコントロールと比較して、細胞生存率を効果的に向上させ(図5を参照のこと)、DNAラダーの出現を遅延させた(図7)。従って、HY6228が、アポトーシスを阻害することで、低酸素条件下の細胞生存率を改善すると結論づけることが可能である。
【0084】
実験例3:Triticum aestivum L.から単離した精製画分が細胞生存率に与える改善効果(試験管内)
実施例2で調製したHY6228から単離した精製画分の効果を調査するため、引用文献で開示の手順に若干の修正を加えたものに従ってMTT試験を行った(Hoffman RM, In Cell biology (Celis JE (Ed.)), Vol.1, pp369-370, Academic Press, New York, 1994)。
【0085】
HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株、ATCC HB 8065、2x10細胞/800■)を12ウェルプレートに播種し、EMEM(イーグルの最少必須培地、Invitrogen社、米国)で、ペニシリンGナトリウム(100単位/L、Invitrogen社、米国)、硫酸ストレプトマイシン(100mg/L、Invitrogen社、米国)と10%(w/v)ウシ胎児血清(Invitrogen社、米国)を補給して、5%CO−95%空気の培養装置内で温度37℃で48時間にわたって培養した。培地を新鮮なものに交換した後、実施例2で調製し、DMSO(ブタノール可溶性画分の場合)又は50%エタノール(水溶性画分の場合)に溶解させたHY6228から単離した精製画分を100■/■又は1000■/■含有する培地で細胞を処理し試験群とし、添加していない群をネガティブコントロール群とした。細胞生存率を改善すると周知の10■/■のG418(Invitrogen社、米国)で処理した群をポジティブコントロール群とみなした。群を5%CO−95%空気制御した培養装置内で37℃で48時間にわたって培養し、細胞をMTT試験に供した。
【0086】
図8に示されるように、実施例2で調製した1000■/■のH7WAとH7Buで処理した試験群は、低酸素条件下での細胞生存率を若干改善し、実施例2で調製した1000■/■のH12Buは、低酸素条件下での細胞生存率を若干改善した。一方、実施例2で調製した1000■/■のH12WAは細胞生存率に何の効果も及ぼさなかった。従って、H12Bu画分が細胞の生存率に対して強い改善効果を示す有効成分で強化されていることが確認された。
【0087】
実験例4:腹腔内投与したTriticum aestivum L.の未精製抽出物が心筋梗塞に与える効果(生体内)
腹腔内投与したHY6228の心筋梗塞への治療有効性を、文献で挙げられている手順に従って動物モデルを用いて求めた(Haisong J et al., Circulation, 97, pp892-899,1998)。
【0088】
参考例1で準備したSDラットをケタミン(Yuhan社、韓国)10■/■とキシラジン(Sigma社、米国)5■/■で麻酔し、気管挿管した。第三、第四肋骨の切除により開胸した後、心臓を肋間内側から取り出した。左冠状動脈を5−0プロレン糸で結紮し、心臓を胸部に戻した。皮下組織及び皮膚を縫合し、心筋梗塞動物モデルを完成させた。
【0089】
実施例1で調製したHY6228を心筋梗塞動物モデルに注入し、心筋梗塞部のサイズを測定した。安全かつ効果的な注入投与量を求めるために、試験は実験例1の結果に基づいた最低量から開始し、倍加投与法を用いて段階的に投与量を増大させ、例えば、投与量を50、100−200■/■の順で増加した。
【0090】
左冠状動脈の結紮の1時間前に、1■のHY6228又はビークルをそれぞれ投与量400■/■で腹腔内注入した。虚血から3日後、取り出した心臓をTTC(2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム、Sigma社、米国)溶液で染色し、梗塞部位の体積を画像分析システム(Qunatity One 4.2、Bio-Rad社、米国)で測定した。ビークル処理群とHY6228処理群についてのTTC染色した心臓の断面例が図10、11にそれぞれ示されている。
【0091】
有効性は、数式1で計算した虚血指数(%)で比較した。
【0092】
(数式1)
虚血指数(%)=A/B×100
であり、A:心臓の梗塞部体積(■)、B:心臓の総体積(■)である。
【0093】
HY6228処理群(n=7)の虚血指数(%)は1.8%、一方、ビークル処理群(n=6)の虚血指数は4.9%であり、HY6228が梗塞部のサイズを強力に減少させることを示す(63%、p<0.01)。従って、HY6228を腹腔内投与した場合、心筋梗塞の治療に効果的である。
【0094】
実験例5:経口投与したTriticum aestivum L.の未精製抽出物が心筋梗塞に与える効果(生体内)
経口投与したHY6228の心筋梗塞への治療有効性を、文献で挙げられている手順に従って動物モデルを用いて求めた(Haisong J et al., Circulation, 97, pp892-899,1998)。
【0095】
参考例1で準備したSDラットにHY6228を混ぜた(400■/■)を餌を3日間与え、次に、左冠状動脈を結紮して虚血状態を誘発させた。虚血から3日後、心臓を取り出し、TTC溶液で染色し、梗塞部位の体積を画像分析システム(Qunatity One 4.2、Bio-Rad社、米国)で測定した。数式1により虚血指数(%)を計算し、HY6228の有効性を比較した。加えて、心臓の薄片をヘマトキシリン及びエオシン(Sigma社、米国)で染色し、心臓組織への損傷を顕微鏡により細胞レベルで観察した。
【0096】
HY6228処理群(n=10)の虚血指数(%)は0.46%、一方、ビークル処理群(n=4)の虚血指数は4.6%であり、HY6228が梗塞部のサイズを強力に減少させることを示す(90%、p<0.001)(図12)。また、ヘマトキシリン及びエオシンで染色したところ、HY6228処理群(図14)では、ビークル処理群(図13)と比較して細胞損傷が著しく軽減されていた。従って、HY6228を経口投与した場合でも、心筋梗塞の治療に効果的である。
【0097】
実験例6:経口投与したTriticum aestivum L.の未精製抽出物が脳梗塞に与える効果(生体内)
経口投与したHY6228の脳梗塞への治療有効性を、文献で挙げられている手順に若干の修正を加えたものに従って動物モデルを用いて求めた(Han HS et al., J. Neurosci., 22, pp3921-3928, 2002)。
【0098】
参考例1で準備したSDラットをエンフルラン(Choongwae Pharm.社、韓国)で吸引により麻酔した。ラットの首を切開して頚動脈を露出させ、頚動脈及び外頚動脈を結紮した。3−0ナイロン糸を内頚動脈内に挿入し、中大脳動脈(MCA)をブロックして虚血状態を誘発させた。0.5■に溶解させた400mg/kgのHY6228又は同容量のビークルを、虚血状態を誘発させる7日前から1日前まで毎日経口投与した。虚血から2時間後、糸を除去してMCA血流を回復させた。再かん流から22時間後、ラットを安楽死させて脳を取り出し、脳組織をTTC溶液で染色した。ビークル処理群とHY6228処理群についてのTTCで染色した脳の断面例が図16、17にそれぞれ示されている。
【0099】
大脳半球における梗塞部位体積を画像分析システム(Qunatity One 4.2、Bio-Rad社、米国)で測定した。有効性は、数式2で計算した梗塞指数(%)で比較した。
【0100】
(数式2)
虚血指数(%)=A/B×100
であり、A:大脳半球の梗塞部体積(■)、B:大脳半球の総体積(■)である。
【0101】
HY6228処理群(n=7)の虚血指数(%)は67%、一方、ビークル処理群(n=12)の虚血指数は93%であり、HY6228が梗塞部のサイズを強力に減少させることを示す(28%、p<0.05)(図15)。従って、HY6228を経口投与した場合、脳梗塞の治療に効果的である。
【0102】
実験例7:腹腔内投与したTriticum aestivum L.の未精製抽出物とブタノール可溶性画分が虚血性急性腎不全に与える効果(生体内)
腹腔内投与したHY6228又はH12Buの虚血性急性腎不全への治療有効性を、文献で挙げられている手順に若干の修正を加えたものに従って動物モデルを用いて求めた(Wang J et al., J. Biol. Chem., 279(19), pp19948-19954, 2004)。
【0103】
7−1: Triticum aestivum L.の未精製抽出物が虚血性急性腎不全に与える効果(生体内)
参考例1で準備したSDラットをケタミン(Yuhan社、韓国)50■/■とキシラジン(Sigma社、米国)20■/■で麻酔し、腹腔を切開した。両方の腎臓を鉗子で止め血流をブロックすることで腎虚血を誘発させ、次に、右腎動脈を除去した。左腎動脈を遮断する1時間前、1■の0.9%生理食塩水に溶解させた400mg/kgのHY6228又は同容量のビークルを腹腔内投与した。虚血から45分後、鉗子を除去して再かん流させた。再かん流から24時間後、血液サンプルを採取し、腎機能の一指標である血清クレアチニンレベル(■/■)を測定した。
【0104】
HY6228処理群(n=7)の血清クレアチニンレベルは2.2■/■、一方、ビークル処理群(n=4)の血清クレアチニンレベルは3.7■/■であり、HY6228が血清クレアチンレベルを強力に低下させることを示す(40%、p<0.05)(図18)。この結果は、HY6228がクレアチニンの排出を促進することで血清クレアチニンレベルを下げ、腎臓の損傷の阻害によるものであることを示す。従って、HY6228を腹腔内投与した場合、虚血性急性腎不全の治療に有効である。
【0105】
7−2:腹腔内投与したTriticum aestivum L.から単離したブタノール可溶性画分が虚血性急性腎不全に与える効果(生体内)
上記実験例3で有効成分を豊富に含有していると示されたブタノール可溶性画分(H12Bu)を、実験例7−1で用いたものと同一の手順で以下のように腹腔内投与した。
【0106】
左腎動脈を鉗子で止める1時間前、1■の0.9%生理食塩水に溶解させた100mg/kgのH12Bu又は同容量のビークルを腹腔内投与した。虚血から45分後、鉗子を除去して再かん流させた。再かん流から24時間後、血液サンプルを採取し、血清クレアチニンレベル(■/■)を測定した。
【0107】
H12Bu処理群(n=10)の血清クレアチニンレベルは1.7■/■、一方、ビークル処理群(n=6)の血清クレアチニンレベルは3.6■/■であり、H12Buが血清クレアチンレベルを強力に低下させることを示す(53%、p<0.05)(図19)。この結果は、H12Buもクレアチニンの排出を促進することで血清クレアチニンレベルを下げることを示した。従って、H12Buも、腹腔内投与した場合に虚血性急性腎不全の治療に有効である。
【0108】
実験例8:経口投与したTriticum aestivum L.の未精製抽出物がアルツハイマー病に与える効果(生体内)
経口投与したHY6228のアルツハイマー病への治療有効性を、文献で挙げられている手順に若干の修正を加えたものに従って動物モデルを用いて求めた(Yamaguchi Y and Kawashima S, Eur. J. Pharmacol., 412, pp265-272, 2001)。
【0109】
参考例1で準備したSDラットを50■/■のペントバルビタール(Hanlim Pharm.社、韓国)で麻酔し、次に定位固定装置内に入れた。注入領域の頭皮を切開した。
【0110】
次に、ラムダ及びブレグマ点を顕微鏡での観察により特定した後、アミロイド15nmol(5■/日)を側脳室に14日間にわたって注入した。アミロイド(5■)は流量1■/分でシリンジポンプで注入し、注射針は注入後5分間放置した。シャム群(シャム)について、アミロイドの代わりに生理食塩水(5■)を注入したこと以外、同一の手順を適用した。
【0111】
アルツハイマー病の誘発後、ラットに400■/■のHY6228(HY6228)又は生理食塩水(コントロール)を14日間にわたって経口投与して治療し、1週間安静にさせた。8日間にわたり、ラット1匹につき水迷路試験を24時間ごとに、1日3回の試験を連続的に実施した。水迷路試験は、温度約22℃の透明な水道水で満たした円形槽(内部寸法:直径180cm、深さ50cm)から成る水槽中で行い、避難用プラットフォーム(直径10cm、高さ25cm)を水面から2■水没させた。ラットの動きをビデオトラッキングシステム(Etho Vision(R)、Noldus Information Technology社、オランダ・ワーヘニンゲン)により自動録画した。
【0112】
試験において、「避難待ち時間」とはラットが水没したプラットフォームを発見、避難するまでにかかる時間と定義され、ラットが水没したプラットフォームに避難してからそこに30秒を越えて留まった場合に認めるものとする。「平均避難待ち時間」は1日3度の避難試験の平均値である。平均避難待ち時間が90秒を越える場合は、平均避難待ち時間を90秒とする。プラットフォームの位置をラットが記憶してるかどうかを試験するために「プラットフォーム(PF)滞在時間」を行い、ラットがプラットフォーム位置に到着後、そのプラットフォーム位置近辺に留まる時間と定義され、この実験のためにプラットフォームは前もって除去される。PF滞在時間は2日ごとに、試験日にラットに行う試験の3回目に測定した(例えば、2日目の6回目試験時、4日目の12回目試験時、6日目の18回目試験時、8日目の24回目試験時)。
【0113】
避難実験4、5、6、8日目のHY6228処理群(HY6228)(n=4)の平均避難待ち時間はコントロール群(コントロール)(n=5)と比較して顕著に短縮された(p<0.01、図20)。HY6228とシャム群(n=4)との間に平均避難待ち時間における顕著な差は見られなかった。従って、HY6228の治療によりアミロイドによって誘発されると思われる記憶障害が予防され、記憶がほぼ正常に維持されることが確認された。
【0114】
加えて、HY6228群(HY6228)のPF滞在時間は、避難試験4日目以降、コントロール群(コントロール)より顕著に長かった(p<0.01)(つまり、4日目の12回目試験、6日目の18回目試験、8日目の24回目試験。図21)。こういった結果は全てHY6228の摂取によりプラットフォームへの正確な方向を発見するだけでなく、プラットフォーム位置を特定する記憶が改善されることを示している。HY6228の摂取は脳の損傷を予防するのと同様に記憶を改善すると結論づけられる。
【0115】
実験例9:毒性試験
方法
SDラット(平均体重320±20g)への急性毒性試験を実施例1のHY6228を用いて行った。それぞれ10匹のラットから成る2つの群にそれぞれ500mg/kgのHY6228を腹腔内注入、又は生理食塩水に溶解させた5000mg/kgのHY6228を経口投与し、24時間にわたって観察した。
【0116】
結果
いずれの群においても、死亡率、臨床的徴候、体重変化、および全体の所見に処置による悪影響は見られなかった。これらの結果は、本発明で調製した抽出物が強力でありながらも安全であることを示唆している。
【0117】
以下に、製剤方法と賦形剤の種類とを説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。代表的な製剤例は以下に記載のとおりである。
【0118】
粉剤の調製
実施例1のHY6228 50mg
乳糖 100mg
タルク 10mg
上記成分を混合して密封容器に充填することで粉剤を調製した。
【0119】
錠剤の調製
実施例1のHY6228 50mg
コーンスターチ 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記成分を混合、錠剤状にすることで錠剤を調製した。
【0120】
カプセルの調製
実施例1のHY6228 50mg
コーンスターチ 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
錠剤は、慣用のゼラチン調製方法で上記成分を混合し、ゼラチンカプセルに充填することで調製した。
【0121】
注射剤の調製
実施例1のHY6228 50mg
注射用蒸留水 最適量
pH調整剤 最適量
注射剤は、慣用の注射剤調製法により有効成分を溶解し、pHを約7.5に調整し、2mlのアンプルに全成分を充填して殺菌することで調製した。
【0122】
液剤の調製
実施例1のHY6228 0.1−80g
糖 5〜10g
クエン酸 0.05−0.3%
カラメル 0.005−0.02%
ビタミンC 0.1−1%
蒸留水 79−94%
COガス 0.5−0.82%
液剤は、慣用の液剤調製法によりまず有効成分を溶解し、全成分を充填し、殺菌することで調製した。
【0123】
ヘルスケア食品の調製
実施例1のHY6228 1000mg
ビタミン混合物 最適量
酢酸ビタミンA 70■
ビタミンE 1.0mg
ビタミンB 0.13mg
ビタミンB 0.15mg
ビタミンB 0.5mg
ビタミンB12 0.2g
ビタミンC 10mg
ビオチン 10■
ニコチン酸アミド 1.7mg
葉酸 50■
パントテン酸カルシウム 0.5mg
ミネラル混合物 最適量
硫酸鉄 1.75mg
酸化亜鉛 0.82mg
炭酸マグネシウム 25.3mg
リン酸一カリウム 15mg
リン酸二カルシウム 55mg
クエン酸カリウム 90mg
炭酸カルシウム 100mg
塩化マグネシウム 24.8mg
上記記載のビタミンおよびミネラル混合物には様々な変更を加えてもよく、そういった変更は本発明の精神と範囲から外れるものとはみなされない。
【0124】
健康飲料の調製
実施例1のHY6228 1000mg
クエン酸 1000mg
オリゴ糖 100g
アプリコット濃縮物 2g
タウリン 1g
蒸留水 900■
健康飲料は、慣用の健康飲料調製方法により有効成分を溶解、混合、85℃で1時間攪拌、濾過、全成分を1000■のアンプルに充填・殺菌することで調製した。
【0125】
本発明の記載より、様々な変更を加えうることは明白である。そういった変更は本発明の精神と範囲から外れるものとはみなされない。また、当業者に自明なそういった改良は全て、以下に述べる請求項の範囲に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明で記載のように、本発明のイネ科植物の抽出物は、虚血状態にある動物モデルでの細胞のアポトーシスを阻害することで梗塞部位を軽減する。本発明の抽出物は、副作用を伴うことなく心臓及び脳の損傷を防止し、アルツハイマー病動物モデルにおける記憶を改善する。従って、虚血性疾患又は退行性脳疾患の治療及び予防のための治療薬又はヘルスケア食品として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
本発明の上記記載又はその他の目的、特徴、及びその他の利点は、添付の図面と共に以下の詳細な記載からより明確に理解されるものである。
【図1】異なる濃度のTriticum aestivum L.の未精製抽出物を成長培地に添加することによる低酸素条件下のHepG2細胞の生存率の改善を示す。
【図2】正常酸素条件下でのHepG2細胞の生存率に異なる濃度のTriticum aestivum L.の未精製抽出物が与える影響を示す。
【図3】MTT試験で測定した、異なる濃度のイネ科植物(玄米、Secale cereale L.、麦芽、Triticum aestivum L.、及び浮Triticum aestivum L.)の未精製抽出物を成長培地に添加することによる低酸素条件下のHepG2細胞の生存率の改善を示す。
【図4】MTT試験で測定した、異なる濃度のイネ科植物(Coix lacryma-jobi var.mayuen STAPF, Zea mays L.、Sorghum bicolor MOENCH、Panicum miliaceum L.、Horden vulgare L.、Avena sativa L.、Setaria italica Beauv.、Secale cereale L.、Triticum aestivum L.)の未精製抽出物を成長培地に添加することによる低酸素条件下のHepG2細胞の生存率の改善を示す。
【図5】Triticum aestivum L.の未精製抽出物400■/■の成長培地への添加による、低酸素条件下のHepG2細胞の生存率の改善を示す。
【図6】低酸素条件下のHepG2細胞のDNA断片化パターンを示す。
【図7】低酸素条件下のHepG2細胞のDNA断片化にTriticum aestivum L.の未精製抽出物が及ぼす阻害効果。
【図8】MTT試験で測定した、異なる濃度のTriticum aestivum L.のブタノール可溶性及び水溶性画分の成長培地への添加による、低酸素条件下のHepG2細胞の生存率の改善を示す。
【図9】心筋梗塞の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.の未精製抽出物の腹腔内投与が梗塞部体積に与える阻害効果を示す。
【図10】生理食塩水を腹腔内投与した場合の、TTC(2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム)で染色した梗塞心臓の断面例を示す。
【図11】Triticum aestivum L.の未精製抽出物を腹腔内投与した場合の、TTC(2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム)で染色した梗塞心臓の断面例を示す。
【図12】心筋梗塞の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.の未精製抽出物の経口投与が梗塞部体積に与える阻害効果を示す。
【図13】生理食塩水を経口投与した場合の、ヘマトキシリン・エオジン染色した梗塞心臓の薄片例を示す。
【図14】Triticum aestivum L.の未精製抽出物を経口投与した場合の、ヘマトキシリン・エオジン染色した梗塞心臓の薄片例を示す。
【図15】脳梗塞の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.の未精製抽出物の経口投与が梗塞部体積に与える阻害効果を示す。
【図16】生理食塩水を経口投与した場合の、TTC(2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム)で染色した梗塞脳の断面例を示す。
【図17】Triticum aestivum L.の未精製抽出物を経口投与した場合の、TTC(2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム)で染色した梗塞脳の断面例を示す。
【図18】血清クレアチニンレベルの測定による、虚血性急性腎不全の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.の未精製抽出物の腹腔内投与が腎障害に与える阻害効果を示す。
【図19】血清クレアチニンレベルの測定による、虚血性急性腎不全の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.のブタノール可溶性画分の腹腔内投与が腎障害に与える阻害効果を示す。
【図20】水迷路試験を用いて測定した、アルツハイマー病の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.の未精製抽出物の経口投与が記憶障害に与える阻害効果を示す。
【図21】水迷路試験を用いて測定した、アルツハイマー病の動物モデルにおける、Triticum aestivum L.の未精製抽出物の経口投与が記憶に与える改善効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性疾患の治療と予防のための、有効成分としてイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分と、製剤的に許容可能な担体又はアジュバントとを含む医薬品組成物。
【請求項2】
該虚血性疾患が心筋梗塞、脳梗塞、虚血性急性腎不全、虚血性急性肝不全、糖尿病性の足壊疽、糖尿病性ネフロパシー、及び外科手術の副作用によって引き起こされる虚血性疾患又は臓器/組織障害等の様々な虚血性疾患を含む、請求項1に記載の医薬品組成物。
【請求項3】
該外科手術の副作用によって引き起こされる虚血性疾患が虚血性心不全、虚血性腎不全、虚血性肝不全又は虚血性脳卒中を含む、請求項2に記載の医薬品組成物。
【請求項4】
該外科手術の副作用によって引き起こされる臓器/組織障害が、臓器手術、臓器移植、又は事故により切断された身体部位の再連結を行う際の虚血−再かん流によって引き起こされる、請求項2に記載の医薬品組成物。
【請求項5】
該臓器/組織が、腎臓、肝臓、膵臓、肺又は心臓等の内臓、及び足、手、指又は耳等の外部器官を含む、請求項4に記載の医薬品組成物。
【請求項6】
アポトーシスによって引き起こされる、哺乳類及び人間における虚血性疾患の予防と治療のための治療薬の調製のための、イネ科植物の未精製抽出物又は精製画分の使用。
【請求項7】
退行性脳疾患の予防と治療のための、有効成分としてイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分と、製剤的に許容可能な担体又はアジュバントとを含む医薬品組成物。
【請求項8】
該退行性脳疾患が、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)、血管性認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、又は脊髄損傷等の様々な退行性脳疾患を含む、請求項7に記載の医薬品組成物。
【請求項9】
該イネ科植物がTriticum aestivum L.、浮Triticum aestivum L.、Secale cereale L.、玄米、Horden vulgare L.、麦芽、Avena sativa L.、Zea mays L.、Sorghum bicolor MOENCH、Coix lacryma-jobi var. mayuen STAPF、Panicum miliaceum L.又はSetaria italica Beauv.等の様々なイネ科植物を含む、請求項1又は7に記載の医薬品組成物。
【請求項10】
該未精製抽出物が水、低級アルコール、及びその混合物から成る群から選択された溶媒で抽出される、請求項1又は7に記載の医薬品組成物。
【請求項11】
該精製画分が、以下の強塩基の添加により請求項1のイネ科植物の未精製抽出物をpH7とpH12に調整する工程1と、当量の無極性溶媒を工程1で調製した抽出物に添加することで請求項1のイネ科植物の未精製抽出物中の無極性物質を除去し、その水溶性抽出物を得る工程2と、工程2で調製した水溶性抽出物を、当量の低級アルコールを添加することによる抽出及び分画に供して本発明のpH12の抽出物から単離したブタノール可溶性画分と水溶性画分、pH7の抽出物から単離したブタノール可溶性画分と水溶性画分を得る工程3を含む処理によって調製したイネ科植物から単離した精製画分を含む、請求項1又は7に記載の医薬品組成物。
【請求項12】
該精製画分がpH12で調製した抽出物から単離したブタノール可溶性画分である、請求項11に記載の医薬品組成物。
【請求項13】
アポトーシスによって引き起こされる、哺乳類及び人間における退行性脳疾患の予防と治療のための治療薬の調製のための、イネ科植物の未精製抽出物又は精製画分の使用。
【請求項14】
以下の強塩基の添加により請求項1のイネ科植物の未精製抽出物をpH7とpH12に調整する工程1と、当量の無極性溶媒を工程1で調製した抽出物に添加することで請求項1のイネ科植物の未精製抽出物中の無極性物質を除去し、その水溶性抽出物を得る工程2と、工程2で調製した水溶性抽出物を、当量の低級アルコールを添加することによる抽出及び分画に供して本発明のpH12の抽出物から単離したブタノール可溶性画分と水溶性画分、pH7の抽出物から単離したブタノール可溶性画分と水溶性画分を得る工程3から成る工程を含む、イネ科植物から単離した精製画分を調製するための方法。
【請求項15】
アポトーシスによって引き起こされる虚血性疾患又は退行性脳疾患の予防と改善のための、食品学的に許容可能な添加物と共にイネ科植物の未精製抽出物又は精製画分を有効成分として含む、ヘルスケア食品。
【請求項16】
該ヘルスケア食品が粉末、顆粒、錠剤、チュアブル錠、カプセル、飲料タイプで提供される、請求項15に記載のヘルスケア食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2008−526737(P2008−526737A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549276(P2007−549276)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000027
【国際公開番号】WO2006/073265
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507213916)ヒポキシ カンパニー リミテッド (2)
【出願人】(507213927)サン モク インスティテュート エデュケイション ファウンデーション (2)
【Fターム(参考)】