説明

虚血性脳血管障害治療剤

【課題】虚血性脳血管障害治療剤の提供。
【解決手段】インターロイキン17、インターロイキン23又はγδT細胞の機能、あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン17、インターロイキン23又はγδT細胞の機能を阻害する物質、あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、世界中で死亡および障害の主要な原因であるが、脳梗塞の亜急性期または後期において開始することができる有効な治療法はまだ確立されていない(1,2)(非特許文献1,2)。最近、リンパ球の漸増および活性化が大脳の虚血性再灌流(I/R)障害の進行に関係していると考えられているが、脳卒中における特定のリンパ球の亜集団およびサイトカインの役割は依然としてはっきりと解明されていない。
【0003】
一方、虚血性再灌流(I/R)障害において、先天性免疫応答が重要な役割を果たすということを示唆する多くのデータが存在する。さらに、最近、Tリンパ球は、亜急性炎症期においてI/R障害のメディエータとして役割を果たすことが示唆されている。T細胞は、虚血後の脳において、免疫組織化学によって再灌流の24時間後には同定されており、梗塞の境界領域(典型的には血管の近く4,5)に位置しているようである(非特許文献4,5)。また、これまでの研究からは、CD4陽性Tリンパ球およびIFN γが、脳の虚血性障害において欠くことのできない役割を果たしていることが示唆されている3(非特許文献3)。しかしながら、I/R障害でのIFN γの役割には議論の余地があるので6(非特許文献6)、Tリンパ球サブセットと炎症メディエータが、脳梗塞の発症に本当に関与しているかどうかについては不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sacco RL, Chong JY, Prabhakaran S, Elkind MS. Experimental treatments for acute ischaemic stroke. Lancet. 369, 331-341 (2007)
【非特許文献2】Ooboshi et al. Postischemic gene transfer of interleukin-10 protects against both focal and global brain ischemia. Circulation. 111, 913-919 (2006)
【非特許文献3】Yilmaz G, Arumugam TV, Stokes KY, Granger DN. Role of T lymphocytes and interferon-gamma in ischemic stroke. Circulation. 113, 2105-2112 (2006)
【非特許文献4】Schroeter M, Jander S, Witte OW, Stoll G. Local immune responses in the rat middle cerebral artery occlusion. J Neuroimmunol. 55, 195-203 (1994)
【非特許文献5】Jander S, Karemer M, Schroeter M, Witte OW, Stoll G. Lymphocytic infiltration and expression of intercellular adhesion molecule-1 in photochemically induced ischemia of the rat cortex. J Cereb Blood Flow Metab. 15, 42-51 (1995)
【非特許文献6】Lambertsen KL et al. A role for interferon-gamma in focal cerebral ischemia in mice. J Neuropathol Exp Neurol. 63, 942-955 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、虚血性脳血管障害、特に急性期又は亜急性期における虚血性脳血管障害に対する治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、 インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン23(IL-23)又はγδT細胞の機能あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を抑制することにより上記虚血性脳血管障害を改善し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)インターロイキン17の機能を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。
(2)インターロイキン23の機能を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。
(3)γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。
(4)インターロイキン23の機能を阻害する物質を含む、インターロイキン17産生阻害剤。
(5)γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質を含む、インターロイキン17産生阻害剤。
【0007】
本発明において、インターロイキン17の機能を阻害する物質としては、例えばインターロイキン17に対する抗体、又はインターロイキン17遺伝子の阻害性核酸が挙げられ、インターロイキン23の機能を阻害する物質としては、例えばインターロイキン23に対する抗体、又はインターロイキン23遺伝子の阻害性核酸が挙げられ、γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質としては、例えばγδT細胞に対する抗体、又はγδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸が挙げられる。
【0008】
本発明において、上記「阻害性核酸」は、上記各遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAを含む。
【0009】
本発明において、インターロイキン17の機能を阻害する物質、又はγδT細胞の機能、若しくは該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質の適用の対象となる脳血管障害は、虚血後3日又はそれ以降のものである。また、インターロイキン23の機能を阻害する物質の適用の対象となる脳血管障害は、虚血後24時間以内のものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、虚血性脳血管障害の新たな治療法が提供される。本発明において、IL-17、IL-23又はγδT細胞の機能、あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を抑制する物質は、IL-17又はIL-23の産生を抑えることにより虚血性脳血管障害を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】IL-17またはIL-23の欠損と脳虚血障害の改善との関係を示す図である。
【図2】IL-17及びIL-23と、脳虚血障害の際に生じる炎症反応との関係を示す図である。
【図3】虚血脳におけるIL-23及びIL-17の発現を示す図である。
【図4】虚血脳組織におけるγδ Tリンパ球枯渇の効果を示す図である。
【図5】脳虚血導入後におけるIL-23及びIL-17の産生メカニズムを示す概要図である。
【図6】虚血脳組織におけるケモカインのmRNA発現レベルを示す図である。
【図7】細胞内のFACS染色を種々の表面マーカーについて行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、IL-23及びIL-17が、脳虚血モデルにおいて脳梗塞とそれに伴う神経学的欠損の発症に大きな役割を果たしているという知見に基づき完成されたものである。
具体的には、脳虚血の導入後24時間以内に、侵入性炎症細胞はIL-23を産生した(図5)。産生されたIL-23は、侵入性γδ Tリンパ球のIL-17産生を誘導した。脳虚血の亜急性期である3日目及び4日目において、IL-17は虚血脳のマクロファージ、ミクログリア細胞及び種々の他の細胞を刺激して、炎症性サイトカインおよび他の因子を産生した。従って、IL-23はIL-17産生性のγδ Tリンパ球を誘導し、そのTリンパ球が虚血脳障害に対して炎症反応を維持し、脳虚血の亜急性期にアポトーシス性神経死を促進することが示される(図5)。
【0013】
遺伝子欠損マウスを用いた分析から、IL-23は虚血再灌流障害(I/R障害)の直後に機能するのに対し、IL-17は亜急性期の間(I/R障害の3日後)に必要とされることが明らかになった。このことは、IL-23の発現は、I/Rの1日後に増加し、IL-17産生細胞は、3日後には脳内に侵入することを示すものである。
【0014】
IL-17産生細胞は、I/R障害を有するIL-23遺伝子欠損マウス(IL-23-KOマウス)では出現せず、このことから、IL-23によって誘導されるIL-17産生細胞が、脳の損傷の進行にとって重大なエフェクターであることが示される。また、細胞内でのサイトカイン染色によって、CD4陽性ヘルパーT細胞ではなく、γδTリンパ球がIL-17の主要な供給源であることが示された。遺伝子分断または抗TCRγδ抗体処置によってγδTリンパ球を枯渇させると、IL-17欠損マウスで観察されるレベルまで脳のI/R障害は改善した。さらに、抗TCR γδ抗体の投与は、脳虚血を発症した24時間後(急性期)の投与であっても、神経保護効果が得られることが観察された。これらの知見は、IL-23によって活性化された脳内に侵入したγδTリンパ球が、主にIL-17を産生し、虚血性脳障害に対する炎症反応を引き起こすことを示している。したがって、γδTリンパ球は、後期に起こる炎症事象(これは、脳虚血において初期損傷を悪化させる)に対する治療ターゲットとなり得るものである。
【0015】
2.IL-17、IL-23又はγδT細胞の機能あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質
「機能を阻害する」とは、IL-17、IL-23又はγδT細胞に作用してそれぞれのサイトカイン又は細胞の活性化を抑制すること、それぞれのサイトカイン又は細胞の発現を抑制すること、それぞれのサイトカインの産生を抑制すること、γδT細胞の病巣への移動を抑制すること、あるいは、IL-17やIL-23のシグナル伝達を阻害することを意味する。
また、「γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する」とは、γδT細胞の脳内の病巣への移動を抑制することを意味する。
【0016】
従って、当該IL-17、IL-23若しくはγδT細胞の機能、又はγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する活性を有する限り、「物質」に限定はない。例えば、IL-17、IL-23又はγδT細胞の機能を阻害する物質、あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質として、これらのサイトカイン又は細胞に対する抗体、これらのサイトカイン又は細胞の表面タンパク質(表面抗原又は受容体)をコードする遺伝子に対する阻害性核酸、例えばアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAなどが挙げられる。
【0017】
(1) 抗IL-17抗体、抗IL-23抗体又は抗γδT細胞抗体
本発明の治療剤又は阻害剤に含まれ得る抗体のうち、抗IL-17抗体、抗IL-23抗体及び抗γδT細胞抗体は、以下のようにして作製することができる。
【0018】
(A) ポリクローナル抗体の作製
(i) 抗原及びその溶液の調製
上記抗体を作製するに当たり、まず、免疫源(抗原)として用いるタンパク質を調製・入手することが必要である。
抗原タンパク質としては、精製IL-17、精製IL-23及びγδT細胞の表面抗原又は受容体を用いることができるが、これに限定はされず、例えば、これらのタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIL-17、IL-23又は抗γδT細胞活性を有するタンパク質を用いることもできる。
なお、ヒトIL-17及びIL-23のアミノ酸配列情報は、NCBIデータベースGeneID: 51561(IL-23)3605 (IL-17)から取得することができる。また、精製IL-17、精製IL-23及びγδT細胞に対する抗体は、市販のものを用いることもでき、例えば、human IL-17(R&D社製)、human IL-23(R&D社製)、γδT(BectonDickison社製)等を挙げることができる。
【0019】
次に、得られた精製タンパク質を、緩衝液に溶解させて抗原溶液を調製し、必要に応じて、公知のアジュバントを添加することができる。免疫は、上記精製IL-17若しくはIL-23、又はγδT細胞の表面抗原若しくは受容体を含む溶液を、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ等)に投与することにより行う。投与は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入して行う。
【0020】
上記免疫により得られる血清(抗血清)の採取は、限定はされないが、例えば、最終投与の日から1〜28日後に行われる。抗血清の採取方法は、常法に従い、免疫した動物の血液から採取することができる。
免疫した動物のそれぞれから採取した抗血清の中から、目的の抗血清をスクリーニングする。スクリーニング方法は、公知の免疫検定法(immunoassay)を、その常法に従い行うことができる。上記スクリーニングによる目的の抗血清に含まれる抗体はポリクローナル抗体である。当該抗体の精製を必要とする場合は、例えば、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の公知の精製方法を、1種のみ用いて、又は2種以上組み合わせて、適宜採用し実施すればよい。
【0021】
(B) モノクローナル抗体の作製
抗原及びその溶液の調製は、上記ポリクローナル抗体の作製の場合と同様に行うことが
できる。
免疫方法や、上記抗原溶液を用いた投与量、投与間隔及び投与回数は、上記ポリクローナル抗体の作製の場合と同様の方法・条件が採用できる。
上記免疫により得られる抗体を産生する細胞(抗体産生細胞)の採取は、限定はされないが、例えば、最終投与の日から1〜14日後に行うことが好ましく、より好ましくは2〜4日後である。
【0022】
抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が好ましく、脾臓細胞がより好ましい。
採取した抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行うことにより、融合細胞(ハイブリドーマ)を得ることができる。
【0023】
ミエローマ細胞としては、例えば、マウス等の哺乳動物において一般に入手可能な株化細胞を用いることができる。詳しくは、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミン含有培地)で生育できないが、抗体産生細胞と融合した状態では生育できる性質の株化細胞が好ましい。具体的には、マウスミエローマ細胞としては、例えば、PAI、P3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどを用いることができる。上記細胞融合は、例えば、血清を含まないRPMI-1640培地等の動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合して融合反応させることにより行う。抗体産生細胞とミエローマ細胞との混合比は任意であり、例えば5:1である。
【0024】
融合反応は、一般には、細胞融合促進剤の存在下で行うことが好ましく、当該促進剤としては、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0025】
融合反応後の細胞は、例えばHAT選択培地による培養を行う。上記培養後、HAT選択培地での増殖が認められる細胞が融合細胞(ハイブリドーマ)となる。
【0026】
上記培養により得られたハイブリドーマから、目的のハイブリドーマをスクリーニングする。スクリーニング方法は、特に限定されるものではなく、公知の免疫検定法(例えばELISA等)を、その常法に従い行うことができる。
上記スクリーニングによる目的のハイブリドーマのクローニング、すなわちモノクローナル抗体産生細胞株の樹立は、一般には、限界希釈法を用いた培養等により、1細胞由来のコロニーを選択することによって行うことができる。
【0027】
上記クローニングにより得られたハイブリドーマから、モノクローナル抗体を採取する方法は、一般には、細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。これらの方法は当分野において周知である。
【0028】
モノクローナル抗体の採取時又は採取後に当該抗体の精製を必要とする場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の公知の精製方法を、1種又は2種以上組み合わせて、適宜採用し実施することができる。
【0029】
また、本発明においては、ヒト型化抗体、ヒト抗体、前記抗体の断片も使用することが可能である。
ヒト型抗体(CDR-grafted抗体)は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、その超可変領域の相補性決定領域の一部または全部がマウスモノクローナル抗体に由来する超可変領域の相補性決定領域であり、その可変領域の枠組領域がヒトイムノグロブリン由来の可変領域の枠組領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域である抗体である。ヒト型抗体は、当該分野で周知の方法により作製することができる。
【0030】
ヒト抗体とは、イムノグロブリンを構成するH鎖の可変領域及びH鎖の定常領域並びにL鎖の可変領域及びL鎖の定常領域を含む全ての領域がヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体をいう。ヒト抗体は、当該分野で周知の方法により、ヒト抗体を産生するトランスジェニック動物を作製し、当該トランスジェニック動物を抗原で免疫感作することにより、前述したポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。
【0031】
抗体断片とは、上記抗体の抗原結合領域を含む部分又は当該領域から誘導された部分を意味し、具体的にはF(ab')、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、scFv(single chain Fv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)等が挙げられる。
【0032】
(2)遺伝子の阻害性核酸
IL-17遺伝子、IL-23遺伝子又はγδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸は、その遺伝子機能又は遺伝子発現を抑制する核酸を意味し、例えば、アンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAなどが挙げられる。これらの阻害性核酸により、上記遺伝子の発現を抑制することが可能である。抑制の対象となる遺伝子の塩基配列は公知であり、それぞれ配列情報を入手することができる。各遺伝子のGenBankアクセッション番号を以下に示す。
IL-17遺伝子:NM010552.3(マウス)、NM 002190.2(ヒト)
IL-23遺伝子:NM031252(マウス)、NM 016584.2(ヒト)
γδT細胞受容体γ鎖遺伝子:NM 000073.2(ヒト)
γδT細胞受容体δ鎖遺伝子:NM000732又はNM001040651(ヒト)
γδT細胞受容体δ鎖遺伝子を含むゲノム配列:NG001332(ヒト)
【0033】
各遺伝子の塩基配列は以下の配列番号で表す。
マウスIL-17遺伝子:配列番号1
ヒトIL-17遺伝子:配列番号2
マウスIL-23遺伝子:配列番号3
ヒトIL-23遺伝子:配列番号4
ヒトγδT細胞受容体γ鎖遺伝子:配列番号5
ヒトγδT細胞受容体δ鎖遺伝子:配列番号6、7
ヒトγδT細胞受容体δ鎖遺伝子を含むゲノム配列:配列番号8
【0034】
ここで、IL-23は、IL-23p19とIL-12p40とのヘテロダイマーであるため、IL-23遺伝子の発現を抑制するために、IL-23p19及びIL-12p40のいずれか一方又は両方を標的とすることができる。
【0035】
(2-1) アンチセンス核酸
アンチセンス核酸は、IL-17遺伝子、IL-23遺伝子又はγδT細胞受容体遺伝子(標的遺伝子)のmRNA(センス)又はDNA(アンチセンス)配列に結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)である。アンチセンス核酸配列の長さは、少なくとも約14ヌクレオチドであり、好ましくは約14〜100ヌクレオチドである。アンチセンス核酸は、上記遺伝子配列に結合して二重鎖を形成し、転写又は翻訳を抑制する。
【0036】
アンチセンス核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術として一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。
【0037】
アンチセンス核酸は、例えば、各種DNAトランスフェクション又はエレクトロポレーション等の遺伝子導入方法により、あるいはウイルスベクターを用いることにより、細胞に導入される。
【0038】
(2-2) デコイ核酸
本発明において、デコイ核酸は、IL-17遺伝子、IL-23遺伝子又はγδT細胞受容体遺伝子の転写因子に結合し、プロモーター活性を抑制することができる。本発明のデコイ核酸は、転写因子の結合部位を含む短いおとり核酸を意味し、この核酸を細胞内に導入し、転写因子がこの核酸に結合することにより、転写因子の本来のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その結果、その転写因子の発現が抑制される。具体的には、デコイ核酸は、標的結合配列に結合しうる核酸又はその類似体である。
【0039】
本発明の好ましいデコイ核酸の例は、例えば上記遺伝子のプロモーターに結合する転写因子と結合し得る核酸などが挙げられる。デコイ核酸は、上記遺伝子のプロモーター配列をもとに、1本鎖、又はその相補鎖を含む2本鎖として設計することができる。長さは特に限定されるものではなく、15〜60塩基、好ましくは20〜30塩基である。
【0040】
核酸は、DNAでもRNAでもよく、またはその核酸内に修飾された核酸及び/又は擬核酸を含んでいてもよい。またこれらの核酸、その変異体、又はこれらを分子内に含む核酸は、1本鎖又は2本鎖であってもよく、また環状でも線状でもよい。変異体とは、上記デコイ核酸配列の1又は数個(例えば1個〜10個、1個〜5個又は1個〜2個等)の塩基が、欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、かつ、上記遺伝子のプロモーター活性を阻害する機能、すなわち、転写因子と結合する機能を有する核酸をいう。
【0041】
本発明で用いられるデコイ核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術として一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼを用いて結合することにより所望の核酸を製造してもよい。さらに、細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、塩基等にアルキル化、アシル化等の化学修飾を付加することができる。デコイ核酸の変異体の作製方法は、当業界で公知の方法を用いて、たとえば、部位特異的突然変異誘発法等によって合成することもできる。部位特異的突然変異誘発法は当分野において周知であり、市販のキット、例えばGeneTailorTMSite-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等(タカラバイオ社製))を使用することができる。
【0042】
デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイ、ウェスタンブロッティング法、FACS解析法、RT-PCR等を採用することができる。これらのアッセイを行なうためのキットも市販されている(例えばpromega dual luciferase assay kit)。
【0043】
(2-3) RNA干渉
本発明においては、細胞においてRNA干渉(RNAi)により遺伝子発現を調節しうる合成小核酸分子、例えばsiRNA、マイクロRNA(miRNA)及びshRNA分子を使用することができる。
siRNA(small interfering RNA)分子を用いる場合は、標的遺伝子に対応する種々のRNAを標的とすることができる。そのようなRNAとしては、mRNA、標的遺伝子の選択的スプライシングにより得られるバリアント、標的遺伝子の転写後修飾RNA等が挙げられる。選択的スプライシングによって適当なエクソンの使用により区別される転写産物のファミリーが生ずる場合、siRNA分子を用いてエクソン部分又は保存配列の発現を阻害することができる。
【0044】
一般に、mRNA上の標的配列は、mRNAに対応するcDNA配列から選択することができ、好ましくは開始コドンから50〜100ヌクレオチド下流領域である。但し、標的配列は、5’若しくは3’非翻訳領域、又は開始コドン付近の領域に位置していてもよい。
siRNA分子は、当分野において周知の基準に基づいて設計できる。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくはAA(最も好ましい)、TA、GA又はCAで始まる連続する15〜30塩基、好ましくは19〜25塩基のセグメントを選択することができる。siRNA分子のGC比は、30〜70%、好ましくは35〜55%である。
【0045】
siRNAは、二本鎖部分を生成するために自身の核酸上で折り畳む一本鎖ヘアピンRNA分子として生成することができる。siRNA分子は、通常の化学合成により得ることができる。または、siRNA分子は、センス及びアンチセンスsiRNA配列を含有する発現ベクターを用いて生物学的に生成することも可能である。
siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本鎖RNAをアニールする方法などを採用することができる。
【0046】
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
【0047】
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順でこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するように連結し、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となる遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
さらに、本発明は、マイクロRNAを用いて上記遺伝子の発現を抑制することができる。マイクロRNA(miRNA)とは、細胞内に存在する長さ20〜25塩基ほどの1本鎖RNAであり、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているncRNA(non coding RNA)の一種である。miRNAは、RNAに転写された際にプロセシングを受けて生じ、標的配列の発現を抑制するヘアピン構造を形成する核酸として存在する。
miRNAも、RNAiに基づく阻害性核酸であるため、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。
【0048】
3.虚血性脳血管障害治療剤、及びIL-17の産生阻害剤
図5に示すとおり、虚血性脳障害を受けると、炎症性細胞からIL-23が放出され、その刺激によりγδT細胞は刺激を受け、γδT細胞によりIL-17が産生される。したがって、本発明において、IL-17、IL-23又はγδT細胞の機能を阻害する物質、あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質は、IL-17の産生を抑えることができ、これにより虚血性脳血管障害を改善することができる。従って、上記物質は虚血性脳血管障害治療剤、及びIL-17の産生阻害剤として使用することができる。
【0049】
本発明において適用の対象となる虚血性脳血管障害は、脳梗塞と、その前兆と考えられる一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)がある。脳梗塞は、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓、ラクナ梗塞及びその他の脳梗塞の4種類に分類される(NINDS: National Institute of Neurological Disorders and Stroke)。本発明の治療剤は上記いずれの脳梗塞及びTIAにも適用される。また、本発明において適用の対象となる疾患として、脊髄梗塞を例示することができる。
【0050】
ここで、本発明において適用の対象となる虚血性脳血管障害の時期は急性期と亜急性期である。「急性期」とは、虚血後24時間以内の時期であり、「亜急性期」とは基本的には虚血後3日以内であるが、血管病変の性状により虚血が緩徐に増悪する場合には3日以降もあり得る。
【0051】
本発明においては、IL-17の機能又はγδT細胞の機能あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質は、虚血後3日又はそれ以降の脳血管障害に適用することができ、IL-23の機能を阻害する物質は、虚血後24時間以内の脳血管障害に適用することができる。
【0052】
本発明の治療剤又は阻害剤の体内への投与は、例えば、非経口または経口等の公知の用法で行うことができ、限定はされないが、好ましくは非経口投与である。
これら各種用法に用いる製剤(非経口剤や経口剤等)は、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0053】
本発明の治療剤又は阻害剤の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(抗IL-17抗体、抗IL-23抗体、抗γδT抗体、又はIL17遺伝子、IL-23遺伝子若しくはγδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数、投与期間等を勘案し、適宜設定することができる。
【0054】
本発明の治療剤又は阻害剤を非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に具体的に説明する。
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤等のいずれであってもよい。
【0055】
各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
【0056】
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、前述した有効成分(抗体の場合)は、適用対象(患者)の体重1kgあたり300μg-30mg/日であることが好ましく、より好ましくは3-8mg/日である。
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0057】
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、前述した有効成分を、適用対象(患者)の体重1kgあたり1μg〜100mg/日、好ましくは1-10mg/日である。
アンチセンス核酸を投与する場合は、適用対象(患者)の体重1kgあたり1μg〜100mg/日、好ましくは1-10mg/日であり、連続的に、あるいは1日1回から数回に分けて投与される。投与経路は、非経口投与(例えば静注)であることが好ましい。
【0058】
siRNA、shRNA又はmiRNAを投与する場合は、その有効量は、標的mRNAのRNAi媒介分解を引き起こすのに十分な量であれば特に限定されるものではない。当業者は、被験者に投与すべき有効量を、被験者の身長及び体重、年齢、性別、投与経路、又は局所若しくは全身投与などの要素を考慮して容易に決定することができる。一般に、siRNA、shRNA又はmiRNAは、非経口投与(例えば静注)の場合約1nM〜約100nM、好ましくは2nM〜50nMの細胞内濃度である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
1.材料と方法
マウス
C57BL/6由来のIL-17-/- (29)、IL-23p19-/-(11)、IFN γ-/-、IL-6-/-及びγδ TCR-/-の各ノックアウト(KO)マウス、並びに野生型C57BL/6マウスを使用した。
【0060】
脳梗塞の炎症細胞の調製
マウスに脳虚血を誘導した。各時間のポイントにおいて、血液細胞を除去するために、マウスに冷PBSによる心臓灌流を行った。小脳から前脳を切り出し、RPMI-1640に十分に懸濁した。IV型コラーゲナーゼ(1mg/ml, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)およびDNaseI(50μg/ml, Roche, Basel, Switzerland)を用いて、37 °Cで45分間、シェーカー上で懸濁液を酵素処理した。公知方法19に従い、37%/70% Percoll(GE Healthcare, Chalfont St. Giles, Bucks., UK)密度勾配遠心分離によって炎症細胞を単離した。この操作途中、炎症細胞を取り出してさらなる分析のためにRPMI-1640で洗浄した。
【0061】
γδ T リンパ球の枯渇
抗TCR γδ抗体(UC7-13D5)を使用して、γδ Tリンパ球を枯渇させた。脳虚血を誘導する7日前(i.p.)または誘導した24時間後に、PBSまたは250μgの上記抗体をマウスに投与した。PBS及び抗体のどちらを投与するかは、ランダムに選択した。脳虚血を誘導した7日後に、マウスを屠殺し、抗MAP2免疫染色により梗塞のサイズを測定した。PBS処置マウスまたは抗体処置マウスとTCR γδ KO マウスとの間で、体重またはCBFの減少において顕著な差はみられなかった。
【0062】
統計分析
データは、平均値+S.D.で表す。一元配置分散分析(ANOVA)とその後のpost hoc 多重比較試験(Dunnett’s correction)を行って、3以上のマウスの群の間の差を分析した。2つのマウス群の間では、Unpaired Student’s t 検定を行って差の有意性を決定した。P < 0.05は、有意差であるとみなした。
【0063】
マウスの脳虚血モデル
局所的な脳虚血実験を行うため、9〜17週齢の雄マウス(体重20〜30g)を使用した。野生型マウスと全てのKO群との間で体重の有意差はなかった。
【0064】
脳虚血は公知方法15によって誘導した。要約すると、70% 亜酸化窒素/30% 酸素の混合物中のハロタンでマウスを麻酔した。加温ランプで、頭部の温度を36°Cに維持した。頭頂葉皮質での脳の血流(CBF)は、同側の頭頂骨においてレーザードップラー流速測定によって虚血の前と虚血の間に、頭蓋を通して測定した。各々のマウスの静止CBF値は、そのマウスについてのベースラインとみなし、脳虚血を誘導した後のCBF値の変化を静止値のパーセンテージとして表した。右総頚動脈(CCA)を結紮した後、右中大脳動脈(MCA)を、先端の丸いチップを用いて7-0ナイロンモノフィラメント(ETHILONE)により閉塞した。右のCCAからフィラメント(長さ11mm)を挿入し、内頚動脈(ICA)に進めた。縫合チップから右CCA分岐への距離は、およそ9mmであった。右MCAを閉塞する間、レーザードップラー流速測定によってCBFが60%以上減少することを確認した。脳虚血の60分後、フィラメントを引き抜いて、右MCA領域を再灌流した。なお、IL-17、IL-23p19、IL-6またはIFN γ KOマウスでの脳血管の異常(エバンスブルー染色による評価)は観察されなかった。
【0065】
再灌流後1日目および4日目に、梗塞部分の容積を測定するために、脳からの連続した冠状のスライス(厚さ1mm)を2% 2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)で染色した。7日目にサンプルを得て、冷PBSとその後の4% パラホルムアルデヒド/PBSによる心臓灌流によってマウスを固定した。脳から採取した連続冠状スライス(厚さ1mm)をパラフィン切片中に包埋し、抗microtubule associated protein 2(MAP2)で免疫染色した。TTC及び抗MAP2染色によって同定した梗塞領域を、Photoshop Creative Suite 3(Adobe, San Jose, CA, USA)を使用して各切片中で測定し、梗塞部分の容積を公知方法に従って計算した16
【0066】
神経学的評価
4ポイントスケールの神経学的スコアを用いて神経学的機能を盲目的に評価した。各ポイントの評価内容は以下の通りである。
0:観察できる欠陥なし
1:前肢の屈曲
2:横から押す力に対して抵抗力が低下(旋回はなし)
3:2と同じ挙動(旋回あり)
【0067】
TUNEL染色
再灌流後4日目に、尾状核被殻(caudoputamen level)における脳切片について、TUNEL法のキット(In Situ Cell Death Detection Kit POD, Roche)を使用してゲノムDNAの切断を評価した。周辺部において皮質上の陽性染色細胞をカウントした。陽性細胞は、ブレグマの後ろ1mm及び正中線の外側2.5mmに広がっているとみなした30。3箇所の異なる領域内の陽性細胞の数(0.1平方mmあたり)を平均値として表した。
【0068】
定量的リアルタイムPCR
虚血脳組織またはPercoll 勾配遠心分離によって調製した侵入性炎症細胞を、RNA調製のためにRNAiso(Takara, Shiga, Japan)中に溶解した。Power SYBR Green(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて、cDNAサンプルに対してリアルタイムPCRを行った。相対的な定量値は2-ΔCtとして表した。式中、ΔCtは、サンプルとコントロール(内因性ヒポキサチンホスホリボシルトランスフェラーゼ 1(HPRT1))との二重測定値の平均Ct値の間の差である。
【0069】
細胞内サイトカイン染色
表面及び細胞内のサイトカイン染色のために、Percollによって収集した侵入性炎症細胞を、50 nM ホルボール 12-ミリステート 13-アセテート(PMA, Sigma-Aldrich)、1 μg/ml イオノマイシン(Sigma-Aldrich)及び1 μM ブレフェルジン A(eBioscience, San Diego, CA, USA)で4.5時間再刺激した。蛍光標識した抗体の対応混合物を用いて表面染色を15分間行った。虚血脳組織に由来するこれらの侵入性炎症細胞を異なる表面マーカーによって分類した。各炎症性細胞と表面マーカーとの関係は以下の通りである。
マクロファージ:CD45 高 CD11b 高;
ミクログリア細胞:CD45 高 CD11b 中;
好中球:CD45 高 CD11b 高 Gr-1+ 細胞;
Tリンパ球:CD45 高 CD3+ 細胞;
γδ Tリンパ球:CD45 高 CD3+ TCR γδ+ 細胞
【0070】
表面染色の後、Fixation緩衝液(eBioscience)に細胞を懸濁し、製造業者のプロトコルのとおりに抗IL-17-APC、抗IFNγ-APC及び抗TNF α-PE (eBioscience)を用いて細胞内サイトカイン染色を行った。
【0071】
FACS分析
FACSAria機器(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, USA)でFACS分析を行って、FlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR, USA)を用いて分析した。
【0072】
2.結果
脳のI/R障害に関与するいくつかの型のT細胞とサイトカインの中で、本発明者らは、新たに同定されたTリンパ球サブセットであるTh17に焦点をあてた。その理由は、これらの細胞は、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)において欠くことのできない役割を果たすことが示されているからである。EAEは、よく確立された、T細胞媒介性の脳と脊髄の炎症モデルである。このモデルにおいて、IL-17及びTh17細胞に由来する他の炎症メディエータは、EAEの発症及び進行に関与している7-9。 Th17は、IL-6及びTGF βを用いてインビトロで刺激することによって、ナイーブCD4陽性T細胞から分化することが示されている。さらに、IL-23p19とIL-12p40とのヘテロダイマーであるIL-23は、Th17をインビボで誘導するために必要不可欠であることが示されている10。IL-23は、樹状細胞などの抗原提示細胞から主に産生される。実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)の発症については、IL-23が重要なサイトカインであることが実証されている11,12。また、IL-23及びIL-17の両方が、中枢神経系の多くの炎症反応を改変することが報告されている13,14
【0073】
脳梗塞に対するサイトカイン(特に、IL-17、IL-23p19、IL-6及びIFN γ)の機能的な重要性を決定するために、本発明者らは、 遺伝子が破壊されたマウスに対して、実験的な脳虚血モデルを適用した15
結果を図1に示す。図1は、IL-17またはIL-23の欠損が脳虚血障害を弱めたことを示すものである。図1の各パネルは以下の通りである。
(a)梗塞部分の容積の時間経過を1日目及び4日目にTTC染色によって測定した結果。
(b)7日目の脳切片の抗MAP2免疫染色。
(c)1日目と4日目のWTマウス及びKOマウスの神経学的スコア。
(d)4日目の脳切片に対するTUNEL染色の結果(スケールバー:100μm)。
*: P<0.05, **: P<0.01, ***: P<0.001 vs 野生型(Dunnett’s correctionを用いた一元ANOVA、エラーバー、s.d.)。
マウスの数はバー上に記載する。
【0074】
図1aに示すように、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)染色によって、1日目と4日目に梗塞部分の容積を評価した16。驚くべきことに、野生型(WT)マウスとIFN γノックアウト(KO)マウスとの間で、梗塞部分の容積に顕著な差はなかった(図1a)。しかしながら、IL-23p19 KOマウスにおいては、野生型マウスと比較して、1日目と4日目に梗塞部分の容積が顕著に減少したことが観察された(図1a)。IL-17 KOマウスにおいても、4日目に梗塞部分の容積の顕著な減少が示されたが、1日目には極端な減少は観察されず、このことから、障害のごく初期(急性期:虚血後24時間以内)にIL-23p19が機能する一方で、IL-17は障害の亜急性期に役割を果たすことが示唆される。
【0075】
また、7日目の抗微小管結合タンパク質2(microtubule associated protein 2: MAP2)免疫染色により、IL-17及びIL-23p19の欠損に関連して梗塞部分の容積が顕著に減少することが確認された(図1b)。興味深いことに、IL-6欠損は、I/Rによって生じる梗塞部分の容積の増加に影響しなかった(図1b)。
【0076】
4日目にIL-17 KO マウスとIL-23p19 KOマウスとの両方において神経欠損が減少していることが確認され、IL-17及びIL-23p19が、I/R障害によって引き起こされる神経障害を促進していることが示唆される(図1c)。虚血性脳障害の進行は、脳虚血の数時間から数日後に周辺部(虚血中心部の周りの隣接領域)で起こるアポトーシス性のニューロン死と関連する17,18。予想したとおり、虚血脳の周辺領域でのTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP-biotin in situ nick end labeling)染色から、野生型及びIFN γ KOマウスよりもIL-17 KOマウス及びIL-23p19 KOマウスにおいてアポトーシス性のニューロンが少ないことが明らかになった(図1d)。
【0077】
次に、どの型の細胞が炎症性サイトカインを産生するかを明確にするために、虚血脳からPercoll勾配遠心分離によって単核細胞を単離し19、フローサイトメトリーを用いてフラクションに分けた。
結果を図2に示す。図2は、IL-17及びIL-23が、脳虚血障害についてその後期に生じる炎症反応を増強したことを示すものである。図2の各パネルは以下の通りである。
(a)虚血脳に侵入した種々の炎症細胞の絶対数の時間経過。
(b)WTマウスとKOマウスとの間の3日目の侵入性炎症細胞の細胞集団の比較。
(c)WTマウスとKOマウスとの間の3日目の侵入性炎症細胞のマクロファージにおけるMHCクラスII発現の平均蛍光強度(MFI)。
インタクト(無処置)マウス、n=2;
WTマウス及びKOマウス、各々n=4。
(d)炎症性サイトカインおよび他の炎症因子のmRNA発現レベルの相対的変化(虚血脳組織を使用した定量的リアルタイムPCRによる、インタクトマウスとの比較)。
インタクトマウス、各々n=2、1日目:WT、n=4;IL-17KO、n=3;IL-23p19KO、n=3;及び4日目:WT、n=5;IL-17KO、n=4;IL-23p19KO、n=3。
(e) 細胞内FACSによって評価されたマクロファージおよびミクログリア細胞のTNF α産生の比較。
MFIは以下のとおりであった。
WTのマクロファージ、701;IL-17KOのマクロファージ、421;及び、WTのミクログリア細胞、28.4;IL-17KOのミクログリア細胞、28.7。
データは、2回の独立した実験の典型である。
(f)3日目の侵入性炎症細胞における炎症性サイトカインのmRNA発現レベルの比較。
インタクトマウスと比較した相対値を示す。
WT及びIL-17KO、各々n=3。
*: P<0.05, **: P<0.01 vs 野生型(Dunnett’s correctionを用いた一元ANOVA(d)または両側Student’s t-test (f))。
エラーバー、s.d.。
【0078】
図2aに示すとおり、CD45陽性の炎症細胞(そのほとんどはマクロファージ及びミクログリア細胞である)の絶対数は、3日目まで増加し、6日目には減少し始めた。侵入したマクロファージの数は3日目に急に増加したが、6日目には極端に低下した。これに対し、ミクログリア細胞の数には目立った変化はなかった。侵入性Tリンパ球及びγδTリンパ球の数は、3日目まで増加し続け、CD4ヘルパーT細胞の数は、6日目まで徐々に増加した。野生型マウスとKOマウスとの間で細胞集団及びマクロファージのMHCクラスII発現に顕著な差はなかった(図2b,c)。しかしながら、野生型マウスと比較して、より多くのTリンパ球及びγδTリンパ球がIL-17 KOマウス及びIL-23p19 KOマウスの虚血脳に侵入していた。
【0079】
脳虚血におけるIL-17及びIL-23の関連についての分子機構を明らかにするために、炎症メディエータの発現レベルを定量的リアルタイムPCRによって評価した(図2d)。
IL-1 β及びTNF αは神経毒性サイトカインであり、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)(例えば、MMP-3及びMMP-9)は、血液脳関門(BBB)のブレークダウン(breakdown)及び神経炎症反応と関係しているということが報告されている20-22。また、IL-1 βとMMP-9との両方が、アポトーシス性のニューロン死を促進することが示唆されている23, 24
【0080】
脳全体におけるこれらの全ての因子の発現は、I/Rの4日後にはIL-23p19 KO マウスとIL-17 KOマウスとの両方で低かった(図2d)。しかしながら、ケモカインのmRNAレベルは、野生型マウスとKOマウスとの間で変化はなかった(図6)。
図6は、虚血脳組織におけるケモカインのmRNA発現レベルを示す図である。
インタクトマウス(n=2)、WT (n=5)、IL-17KOマウス(n=4)及びIL-23p19KOマウス(n=3)。得られた差は全て、Dunnett’s correctionを用いた一元ANOVA(エラーバー、s.d.)によって計算した。
従って、IL-17 KOマウス及びIL-23p19 KOマウスにおいて梗塞部分の容積が減ったことは、おそらく、これらの神経毒性の炎症因子が減少したことに起因する。これらのうちの一部(IL-1 β、TNF α及びMMP-3)は、1日目からIL-23p19 KOマウスの脳で既に低下していた。この結果は、IL-23はIL-17の上流に作用し、IL-17が脳虚血の亜急性期において重要な役割を果たすことを示すものである(図5)。
【0081】
細胞内のサイトカイン染色から、TNF αは、侵入したマクロファージから多く産生されるが、ミクログリア細胞からは産生されないことが明らかになった(図2e)。マクロファージからのTNF α産生は、IL-17 KOマウスにおいて減少した(図2e)。これと矛盾なく、3日目の侵入性炎症細胞のTNF α及びIL-1 βのmRNAレベルは、IL-17 KOマウスで顕著に減少した(図2f)。
【0082】
次に、虚血脳におけるIL-23及びIL-12の発現を調べた。
結果を図3に示す。図3は、虚血脳におけるIL-23及びIL-17の発現を示すものである。図3において、各パネルは以下の通りである。
(a)野生型マウスの侵入性炎症細胞におけるIL-23とIL-12とのmRNA発現の時間経過(インタクトマウスとの比較)。
インタクト、n=2;
1日目及び3日目、各々n=3。
(b)侵入したTリンパ球中のIFNγ産生細胞及びIL-17産生細胞のマウス間の比較。
データは、2回の独立した実験の典型例である。
(c)虚血脳における侵入性のIL-17陽性細胞またはIFN γ陽性細胞の数の時間経過。
エラーバー、s.d.(各時間ポイントについて、n=3)。
(d)虚血脳でのIL-17及びIFN γの供給源。IL-17陽性またはIFNg陽性の細胞集団を、TCRgdまたはCD4の発現レベルに対してさらに分析した。データは、3回の独立した実験の典型である。
【0083】
本発明者らは、IL-23p19、IL-12p35及びIL-12p40のmRNAレベルは、侵入性炎症細胞において1日目で高く、その後低下することを見出した(図3a)。次に、虚血脳組織においてIL-17産生細胞を同定するために、侵入性炎症細胞を使用して細胞内FACS分析を行った。KO細胞を用いてIL-17及びIFN γの特異的な染色を確認した(図3b)。重要なことに、IFN γ産生細胞は、IL-17 KOマウス及びIL-23p19 KOマウスにおいて、野生型マウスで見出されるのと同様のレベルで存在し、そしてIL-17産生細胞もまた、IFN γ KOマウスに存在した。しかし、IL-23 KOマウス由来の侵入性単核細胞においてはIL-17産生細胞は検出されなかった(図3b)。これらのデータは、IL-23/IL-17軸とIL-17/IFN γ軸は、脳虚血において互いに独立していることを示している。
【0084】
虚血脳組織中のIL-17陽性細胞の数は、まず3日目に測定可能であり、そして6日目には減少した(図3c)。同様に、IFN γ陽性細胞の数は、3日目まで増加し、6日目には減少した(図3c)。
【0085】
IL-17及びIFN γの供給源を決定するために、細胞内のFACS染色を種々の表面マーカーについて行った(図7)。数匹のマウスにおいて脳虚血を誘導し、3日目の虚血脳から侵入性炎症細胞を回収してプールした。これらの細胞を用い、種々の表面マーカーを用いて細胞内FACSを行って、(a)IL-17の供給源を検出し、そして(b)IFN γの供給源を検出した。データは、3回以上の独立した実験の典型である。
【0086】
全てのIL-17陽性細胞及びIFN γ陽性細胞は、CD45陽性でもあった。およそ90%のIL-17陽性細胞及び85%のIFN γ陽性細胞は、CD3陽性のTリンパ球であった。IL-17とIFN γが二重で陽性である細胞はなかった。驚くべきことに、ほとんど全てのIL-17産生Tリンパ球はCD4陰性であるが、γδ TCR陽性であった(図3d)。他方で、およそ60%のIFN γ産生Tリンパ球は、CD4陽性かつγδ TCR陰性であった。これらのデータから、IL-17の供給源は、Th17細胞よりむしろγδ T細胞であり、IFN γの供給源はTh1細胞であることが示される。
【0087】
脳虚血におけるγδ Tリンパ球枯渇の効果を試験するために、本発明者らは、γδ TCR欠損マウスまたは抗TCR γδ抗体(UC7-13D5)で処置したマウスを使用した25
結果を図4に示す。図4は、虚血脳組織におけるγδ Tリンパ球枯渇の効果を示すものである。図4において、各パネルは以下の通りである。
(a)抗MAP2免疫染色によって評価した梗塞部分の容積の比較。
(b)侵入性炎症細胞を用いた細胞内FACSによって、IL-17産生γδ Tリンパ球枯渇の効果を評価した。
(c)3日目の侵入性炎症細胞における炎症性サイトカインのmRNA発現。インタクトマウスと比較した相対発現を示す。
WTマウス及び抗体処理マウス、各々n=3。
(d)脳虚血の誘導後、24時間PBSまたは抗体で処置したマウスの梗塞部分の容積。
****: P<0.024. *: P<0.05, ***: P<0.001 vs 野生型(Dunnett’s correctionを用いた一元ANOVA(a)または両側Student’s t-test (c,d)、エラーバー、s.d.)。
マウスの数はバー上に記載する。
【0088】
抗体で処置したマウスとγδ TCR KO マウスにおいて、梗塞部分の容積が顕著に減少したことが観察された(図4a)。本発明者らは、この抗体を投与すると、脳のγδ Tリンパ球および虚血脳組織のIL-17陽性Tリンパ球がほぼ完全に枯渇したことを確認した(図4b)。抗体の投与によっても、3日目に侵入性炎症細胞において炎症性サイトカインのmRNA発現レベルが顕著に低下し(図4c)、マウスにおけるIL-17のノックアウトと同様の効果が得られた(図2c)。さらに、脳虚血の発生の24時間後でさえ、抗TCR γδ抗体を投与すると神経保護効果が得られることが観察された(図4d)。
【0089】
最近の研究から、γδ Tリンパ球はIL-17の主要な供給源であり、肝臓および腸において細菌感染を予防するのに欠くことのできない役割を果たしていることが明らかになっている26,27。IL-6ではなくIL-23が、NKTリンパ球からIL-17分泌を直接活性化する28。Shibata et al.は、IL-17を産生するこれらのγδ Tリンパ球(しかし、IFN-γまたはIL-4は産生しない)は胸腺で発生し、天然に存在するIL-17産生細胞と呼ばれることを報告した25。虚血脳におけるγδ Tリンパ球は、IFN γではなくIL-17を産生するので、そしてIL-23は、IL-17産生細胞の発生に必要不可欠であるので、本発明者らは、脳に侵入するγδ Tリンパ球は、このような天然に存在するIL-17産生γδ Tリンパ球に由来するものであると推測した。本発明者らは、IL-17とIFN γとのいくつかの組み合わせ、またはIL-17とγδ Tリンパ球に由来する他のいくつかのメディエータとの組み合わせが、脳のI/R障害の進行において重要であるという可能性を排除することはできなかった。しかしながら、IL-17 KOマウス及びTCR γδ KOマウスにおいて同様の梗塞部分の容積の減少が観察されるので、本発明者らの研究は、IL-17はγδ Tリンパ球の最も強力なエフェクターであることを実証した。IL-17産生γδ Tリンパ球が他の組織に対するI/R障害において重要であるか否かを決定することは興味深い。
【0090】
参照文献
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4. Schroeter M, Jander S, Witte OW, Stoll G. Local immune responses in the rat middle cerebral artery occlusion. J Neuroimmunol. 55, 195-203 (1994)
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【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明により、脳虚血の亜急性期においてγδ Tリンパ球からのIL-23誘導型のIL-17産生が、侵入性マクロファージの炎症反応を促進し、かつアポトーシス性ニューロン死を促進することが示された。これらの知見から、IL-23とIL-17を産生するγδ T リンパ球の機能を阻害する物質が虚血性脳血管障害に対する新規の治療ターゲットとなり、脳虚血に対する神経保護のための治療時間を確保することができる。
本発明において、インターロイキン17、インターロイキン23又はγδT細胞の機能、あるいはγδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質は、虚血性脳血管障害治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン17の機能を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。
【請求項2】
インターロイキン23の機能を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。
【請求項3】
γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質を含む、虚血性脳血管障害治療剤。
【請求項4】
インターロイキン17の機能を阻害する物質が、インターロイキン17に対する抗体、又はインターロイキン17遺伝子の阻害性核酸である請求項1に記載の治療剤。
【請求項5】
インターロイキン17遺伝子の阻害性核酸が、インターロイキン17遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAである請求項4に記載の治療剤。
【請求項6】
インターロイキン23の機能を阻害する物質が、インターロイキン23に対する抗体、又はインターロイキン23遺伝子の阻害性核酸である請求項2に記載の治療剤。
【請求項7】
インターロイキン23遺伝子の阻害性核酸が、インターロイキン23遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAである請求項6に記載の治療剤。
【請求項8】
γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質が、γδT細胞に対する抗体、又はγδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸である請求項3に記載の治療剤。
【請求項9】
γδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸が、γδT細胞受容体遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAである請求項8に記載の治療剤。
【請求項10】
脳血管障害が虚血後3日又はそれ以降のものである請求項1又は3に記載の治療剤。
【請求項11】
脳血管障害が虚血後24時間以内のものである請求項2に記載の治療剤。
【請求項12】
インターロイキン23の機能を阻害する物質を含む、インターロイキン17産生阻害剤。
【請求項13】
γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質を含む、インターロイキン17産生阻害剤。
【請求項14】
インターロイキン23の機能を阻害する物質が、インターロイキン23に対する抗体、又はインターロイキン23遺伝子の阻害性核酸である請求項12に記載の阻害剤。
【請求項15】
γδT細胞の機能、又は該γδT細胞の脳内への浸潤を阻害する物質が、γδT細胞に対する抗体、又はγδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸である請求項13に記載の阻害剤。
【請求項16】
インターロイキン23遺伝子の阻害性核酸が、インターロイキン23遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAである請求項14に記載の阻害剤。
【請求項17】
γδT細胞受容体遺伝子の阻害性核酸が、γδT細胞受容体遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAである請求項15に記載の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197227(P2012−197227A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148727(P2009−148727)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】