説明

虚血性脳障害抑制剤

【課題】 虚血性脳障害の予防又は治療に有用な、虚血性脳障害抑制剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を有効成分として含有する虚血性脳障害抑制剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を有効成分として含有する虚血性脳障害抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、動脈硬化の病状進展に関与するとともに、脳卒中等の虚血性脳障害のリスクファクターである。高血圧症の予防又は治療等の管理が虚血性脳障害に対する重要な予防戦略である。
【0003】
現代医療の発展において、降圧療法が、高血圧症の治療又は予防に使用されている。降圧療法では、降圧作用を有する降圧剤が使用される。降圧療法は、重篤な高血圧性脳内出血の発生頻度を著しく抑制する。一方、降圧療法は、閉塞性疾患である脳梗塞の発症率を増加させる。このように、降圧療法は、長期的には高血圧性脳内出血の原因である動脈硬化の進展を抑制する作用がある。しかしながら、降圧療法は、臓器血流、特に脳梗塞の発症に直接関与する局所脳血流を下げる可能性がある。すなわち、長期にわたる降圧療法は、高血圧症の予防又は治療、動脈硬化の進展、あるいは脳出血の発生の予防には有効である。しかしながら、降圧療法は、脳梗塞等の虚血性脳障害又はそれらの発症リスクを有する患者において、時には病的虚血状態を増悪させる可能性がある。そこで、降圧療法は、常に個々の患者が有する狭窄性血管病変の進行状態を考慮し、適切に使用しなければならない。
【0004】
現在までに、降圧療法に使用する、様々な作用機序を有する降圧剤が開発されてきた。しかしながら、多くの降圧剤は、虚血性脳障害等の虚血性疾患罹患リスクを有する患者において、潜在的虚血状態を悪化させる可能性があった。
【0005】
以上のように、降圧療法等の予防又は治療方法では、虚血性脳障害等の虚血性疾患罹患リスクを軽減し、脳保護効果を有する薬剤の開発が望まれている。特に、現在、日本においては、治療を必要とする高血圧症患者が3300万人存在すると推定されている。これら多数の患者に対して、虚血状態下で、脳保護効果を有する降圧剤の意義は大きい。しかしながら、現在までに、脳保護効果が証明された降圧剤は存在しなかった。
【0006】
一方、脳において、病的状況下、あるいは物理的損傷等の刺激を与え脳直流(DC)電位を変化させると、細胞内外電位分極常態に対する脱分極が生じる。脳では、その局所脱分極を焦点として、その周辺に2〜5mm/分の固有の速度でゆっくりと拡がる脱分極の波が繰り返し生じることが知られている。当該現象は、拡延性抑制と呼ばれる一過性可逆的細胞脱分極現象である(非特許文献1及び2)。本発明者らは、予め、脳を拡延性抑制に供することで、一定期間後、脳が虚血に対して強くなる、すなわち脳梗塞耐性と名づけた強度の虚血耐性を誘導することを見出した(非特許文献3)。
【0007】
拡延性抑制の波が通過する神経細胞においては、細胞膜の脱分極に伴い一時的に電位依存性L型等のカルシウムチャンネルが開く。開口したカルシウムチャンネルから多量のカルシウムイオンが細胞内に流入し、そのことが、ストレスタンパク質の産生を始めとする各種生体反応を惹起させると考えられる(非特許文献4)。また、虚血性脳障害においては、虚血時に、多量の細胞外カルシウムイオンが様々な経路を介して細胞内に流入する。当該カルシウムイオンの流入に起因して、最終的に神経細胞障害又は神経細胞死に至ると考えられている(非特許文献5)。一方、L型カルシウムチャンネルは、血管の収縮に主に関与すると考えられてきた。L型カルシウムチャンネルの阻害効果として、心筋細胞の興奮抑制作用や血管拡張による循環改善、並びに降圧作用等があるために、L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬は抗不整脈剤又は降圧剤として用いられている。
【0008】
また、カルシウム拮抗作用を有するジヒドロピリジン誘導体を含有する血管透過性亢進抑制剤が、例えば脳浮腫の予防又は治療に有用であることが報告されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1には、当該カルシウム拮抗作用を有するジヒドロピリジン誘導体が虚血性脳障害抑制効果又は脳保護効果を有することは記載されていない。
【0009】
【特許文献1】特開2000-103736号公報
【非特許文献1】Leao AAP, 大脳皮質における活性の拡延性抑制(Spreading depression of activity in the cerebral cortex), 「Journal of Neurophysiology」, 1944年, 第7巻, p.359-390
【非特許文献2】Bures Jら, 「脳波記録活性のリアオの拡延性抑制の機構及び応用(The Mechanism and Applications of Leao's Spreading Depression of Electroencephalographic Activity)」, Academia publisher, Prague, 1974年
【非特許文献3】Yanamoto H.ら, ラット脳における拡延性抑制後の一過性局所虚血に対する梗塞耐性(Infarct tolerance against temporary focal ischemia following spreading depression in rat brain), 「Brain Research」, 1998年, 第784巻, p.239-249
【非特許文献4】Yanamoto H.ら,梗塞耐性はニューロン核においてBDNF様免疫反応性の増強を伴った(Infarct tolerance accompanied enhanced BDNF-like immunoreactivity in neuronal nuclei), 「Brain Research」, 2000年, 第877巻, p.331-344
【非特許文献5】Lee KSら, 脳血管疾患における治療標的としてのカルシウム活性化タンパク質分解(Calcium-activated proteolysis as a therapeutic target in cerebrovascular disease), 「Annals of the New York Academy of Sciences」, 1997年, 第825巻, p.95-103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑み、確実にかつ安全に使用できる、虚血性脳障害を抑制する虚血性脳障害抑制剤及び脳保護薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したように、虚血性脳障害の進展の際には、様々な現象が観察されているが、虚血性脳障害の抑制又は脳保護を達成し得る知見は得られていなかった。
【0012】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬が虚血性脳障害を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は以下を包含する。
(1)L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を有効成分として含有する虚血性脳障害抑制剤。
【0014】
(2)前記L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬が降圧剤であることを特徴とする、(1)記載の虚血性脳障害抑制剤。
【0015】
(3)前記降圧剤がアゼルニジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム、ニカルジピン、ニモジピン、ベニジピン、シルニジピン及びアムロジピンから成る群より選択されるものであることを特徴とする、(2)記載の虚血性脳障害抑制剤。
【0016】
(4)前記虚血性脳障害が脳梗塞であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の虚血性脳障害抑制剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の虚血性脳障害抑制剤を含有する脳保護薬。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、虚血性脳障害抑制剤が提供される。本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、虚血性脳障害の進展に対する抑制効果を有することから、虚血性脳障害の予防又は治療に使用することができる。また、虚血性脳障害の進展に対する抑制効果に起因して、脳保護に本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を有効成分として含有するものである。本発明に係る虚血性脳障害抑制剤をヒト等の動物に投与することにより、虚血性脳障害の進展を抑制することができる。
【0019】
L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬とは、L型カルシウムチャンネルに対する阻害作用を有する物質の総称である。L型カルシウムチャンネルに対する阻害作用は、例えばL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を細胞の外及び内から適用してパッチクランプ法によりL型カルシウムチャンネル電流に対する抑制作用で測定することができる。L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の存在下、あるいは、非存在下において、L型カルシウムチャンネル電流は、例えば‐90〜40mVから+0〜70mVへの120〜200msのパルスで活性化する。
【0020】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤に使用するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬としては、L型カルシウムチャンネルに対する阻害作用を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アゼルニジピン(azelnidipine)(医薬品名:カルブロック)、ニフェジピン(nifedipine)(医薬品名:アダラート)、ジルチアゼム(diltiazem)(医薬品名:ヘルベッサー)、ニカルジピン(nicardipine)(医薬品名:ペルジピン)、ニモジピン(nimodipine)、ベニジピン(benidipine)(医薬品名:コニール)、シルニジピン(cilnidipine)(医薬品名:アテレック)及びアムロジピン(amlodipine)(医薬品名:アムロジン又はノルバスク)等の降圧剤として使用される化合物、並びにベラパミル(verapamil)(医薬品名:ワソラン)、ミベフラジル(mibefradil)、及びフルナリジン(flunarizine)(医薬品名:フルナール)が挙げられる。特に降圧剤として使用されるL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬が好ましい。
【0021】
現在、アゼルニジピンは、降圧作用を有することから、降圧剤として高血圧症の改善を目的に使用されている。また、上述のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の中で、アゼルニジピンの他に、例えば、ニフェジピン、ジルチアゼム、ニカルジピン、ニモジピン、ベニジピン、シルニジピン及びアムロジピンは、降圧作用を有し、降圧剤として使用されている。高血圧症に対する降圧療法において、上述した降圧作用を有するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を使用することで、高血圧症を予防又は治療でき、かつ虚血性脳障害罹患リスクを軽減し、脳保護効果を付与することができる。
【0022】
カルシウムチャンネルとは、カルシウムイオンを選択的に透過させるイオンチャンネルを意味する。カルシウムチャンネルは、電位依存性、活性化・不活性化の速度、組織分布、及び薬理学的性質の違いに基づいて、L型、N型、P/Q型、R型、及T型に分類される。L型カルシウムチャンネルは、例えば心筋、平滑筋、神経細胞、或いは、骨格筋、腎臓、卵巣に局在する。L型カルシウムチャンネルの特徴としては、(1)開口(活性化)に要する膜脱分極の閾値が高いこと、(2)活性及び不活性化が比較的遅いこと、及び(3)開口により流入するカルシウムが筋肉の興奮収縮連関及び分泌細胞や一部の神経細胞の興奮分泌連関を引き起こすことが挙げられる。本発明においては、L型カルシウムチャンネルを対象とする。
【0023】
病的状況下、あるいは物理的損傷等の刺激を脳に与え脳直流(DC)電位を変化させると、拡延性抑制(Spreading Depression:以下、「SD」という)が繰り返し生じる。図1は、脳におけるSDの機構を示す。図1に示すように、SD波が通過する神経細胞においては、一時的にL型カルシウムチャンネルが開き、多量のカルシウムイオンが細胞内に流入すると考えられる。
【0024】
一方、図2には、ラット脳におけるSD誘導を例示として、脳皮質内への高濃度の塩化カリウム注入が、局所での細胞脱分極を惹起し、そこが焦点となり、脳全体に電位的波であるSDが拡がっていく様子をイメージとして示したものである。SDは、脳皮質のみに留まらず、脳深部の様々な部位にも拡がることが知られている。
【0025】
図2に示すように、SDを引き起こす刺激(例えば、高濃度の塩化カリウムの局所注入)に脳を供した後、一定期間後には、脳は虚血耐性を有する。脳における当該虚血耐性は、虚血を原因とする脳梗塞に対しても耐性を付与する(脳梗塞耐性)。SDによるL型カルシウムチャンネルの開口に対して、生体はL型カルシウムチャンネルの開口を抑制し、当該抑制が脳を虚血耐性に強いると考えられる。本発明においては、以上に説明した脳における虚血耐性又は脳梗塞耐性を引き起こし、虚血性脳障害を抑制すべく、L型カルシウムチャンネルに対する阻害作用を有するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を使用する。
【0026】
ここで、虚血性脳障害とは、局所脳血流の低下等により脳神経細胞が十分な酸素の供給を受けられなくなり、その結果、それらの細胞が代謝障害を起こし、やがて、脳神経細胞の機能低下、あるいは、細胞死に至った状態を意味する。本発明において、予防又は治療対象とする虚血性脳障害としては、限定されるものではないが、例えば、脳梗塞及び一過性脳虚血障害、並びに、心停止、低血圧、貧血、脱血、各種ガス中毒又は窒息等による脳障害、及び低酸素による脳障害が挙げられる。特に脳梗塞が好ましい。
【0027】
一方、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、循環改善作用に依存することなく虚血性脳障害を抑制することから、脳保護効果を有するといえる。ここで、脳保護効果とは、虚血性脳障害等の致死的虚血状態に陥った脳を機能障害あるいは死から守ることを意味する。本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、脳保護薬として使用することができる。
【0028】
虚血性脳障害の進展を抑制する上、あるいは脳を保護する上で、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤をヒト等の動物に長期にわたり投与することが必要な場合がある。このような場合には、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を使用する上で、長期にわたる投与が、ヒト等の動物の生体にとって安全であることが必要である。この点において、上述したアゼルニジピン等のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬は、既に臨床の場で使用されている。従って、アゼルニジピン等のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を有効成分として含有する本発明に係る虚血性脳障害抑制剤がヒト等の動物の生体にとって高い安全性を有することは、既に確認されている。
【0029】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、上述した1又は複数のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬単独、又は医薬用成分と組み合わせて製剤化することができる。
【0030】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、粉剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤が挙げられる。
【0031】
また、L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬と組み合わせることができる医薬用成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤及び香料が挙げられる。
【0032】
賦形剤としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等が挙げられる。
【0033】
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖及びマクロゴールが挙げられる。
【0034】
崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム及びトラガントが挙げられる。
【0035】
界面活性剤としては、例えば、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム及びラウロマクロゴールが挙げられる。
【0036】
滑沢剤としては、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0037】
流動性促進剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム及びケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0038】
また、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の剤形が、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤又はエリキシル剤である場合には、矯味矯臭剤、着色剤等を含有してもよい。
【0039】
さらに、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、更なる成分を含んでいてもよい。本発明に係る虚血性脳障害抑制剤が含むことができる成分としては、例えば、血小板機能抑制剤、血液凝固阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、胃粘膜保護剤、各種ビタミン剤及び各種ミネラル、並びにコエンザイムQ10等のいわゆるサプリメントと称されるものが挙げられる。
【0040】
一方、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤におけるL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の含有量は、投与目的、投与経路、剤形等によって適宜変更し得る。
【0041】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の投与回数、投与量及び投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、病気の種類、患者の年齢、性別、体重又は症状の程度、あるいは投与方法などに応じて適宜決定することができる。尚、1日に1回〜数回以上の内服で、連日服用する場合には、一般薬剤と同様に体内での薬剤蓄積効果が生じるため、単回内服法に比して、1回あたりは比較的低用量でも十分な効果が得られる場合がある。すなわち、その薬剤の体内での代謝速度(血中半減期)や内服法により、1回あたりの至的有効薬剤用量は変動する。投与回数は、例えば、経口投与で、1日1回〜6回、好ましくは1日1〜3回である。本発明に係る虚血性脳障害抑制剤に含まれるL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の投与量は、1日当たり0.01〜10mg/kg体重、好ましく0.01〜1mg/kg体重である。また、投与期間は、3日間〜10年間以上、好ましくは持続的投与である。
【0042】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の投与経路は、剤形や使用目的に応じて、適宜決定することができるが、例えば、経口投与及び非経口投与(腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与等)が挙げられる。
【0043】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の薬理評価は、例えば、虚血性脳障害の1つである脳梗塞のモデル動物を用いて行うことができる。
【0044】
脳梗塞モデル動物の作製方法としては、例えば、血管内塞栓子挿入法及び3血管閉塞開放手技(以下、「3血管閉塞法」という)が挙げられる。
【0045】
血管内塞栓子挿入法とは、一側の頚動脈に小孔を設け、そこよりナイロン糸等の塞栓子を頭側に向けて挿入する方法である。塞栓子の先端は頭蓋内の脳血管(中大脳動脈)に達し、そこで脳血流を遮断することとなる。しかしながら、この方法では、血管内へ挿入したナイロン糸等の異物が凝固系タンパク質分解酵素群への刺激となり様々な程度の凝血塊が生じる。従って、虚血領域は塞栓子の達することのできる中大脳動脈以外の様々な領域へも拡がる。また、塞栓子により生じた凝血塊が新たな脳虚血を生じ、塞栓子の抜去後もこれら凝血塊による虚血状態が持続する場合が生じる。すなわち、血管内塞栓子挿入法で作製したモデル動物では、脳保護効果を有さない血小板阻害剤、或いは血液凝固阻害剤等が脳循環を改善し、その結果、虚血そのものが軽度となり、虚血性脳障害を改善する可能性がある。
【0046】
一方、3血管閉塞法とは、両側の頚動脈と一側の中大脳動脈等の頭蓋内血管の計3血管を同時に閉塞させる手法であり、基本的に血管内での血液凝固が虚血の原因とならない、血流低下のみによる脳虚血の導入が可能である。3血管閉塞法で作製したモデル動物では、基本的に凝血塊が生じないため、血液凝固阻害剤等は虚血状態の改善あるいは虚血性脳障害を改善し得ない。
【0047】
虚血性脳障害に対する抑制効果を評価する上において、虚血の緩和に起因する局所脳循環改善効果による虚血性脳障害抑制効果と、虚血性脳障害抑制効果による脳保護効果とは、厳密に区別されるべきものである。上記に説明した、3血管閉塞法で作製したモデル動物において観察される脳梗塞は、血管内血液凝固の進展等による新たな血管閉塞に依存しないため、例えば、血管内で生じた凝血塊を溶かすことで局所脳血流を改善する、いわゆる血栓溶解療法等による脳循環改善療法は有効ではない。3血管閉塞法で作製したモデル動物における脳梗塞は、血管内の凝固・血栓によって生じたものではなく、血管閉塞のみによる一期的局所血流低下と閉塞時間に依存して生じる(Yanamoto H.ら, Exp. Neurol., 2003, 182, 261-274)。このように、3血管閉塞法で作製したモデル動物を用いることで、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤について、局所脳循環改善効果(例えば、凝固・血栓抑制や血栓溶解効果による)でなく、虚血性脳障害抑制効果による真の意味での脳保護効果を判定することができる。
【0048】
以上から、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の薬理評価では、脳梗塞モデル動物として、3血管閉塞法で作製したモデル動物を用いることが好ましい。
【0049】
例えば、予め、C57BL/6J系雄性マウスに本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を、単回経口投与する。本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の投与終了後、間隔をおいて(例えば1時間)、当該マウスを3血管閉塞法に供する。当該マウスを脳梗塞モデルマウス、すなわち3血管閉塞法で作製したモデルマウスとして使用する。なお、3血管閉塞法に供した後に、虚血性脳障害を治療すべく、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を投与してもよい。次いで、3血管閉塞法で作製したモデルマウスにおける脳梗塞の体積を測定する。また、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤の代わりに偽薬(例えば、溶媒)を投与した3血管閉塞法で作製したモデルマウスを対照とする。
【0050】
対照の3血管閉塞法で作製したモデルマウスに比べて、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を投与した3血管閉塞法で作製したモデルマウスにおいて、脳梗塞体積が、統計的に有意差を持って減少した場合には、虚血性脳障害の進展を抑制することができた(脳保護効果を示した)と判断することができる。
【0051】
本発明に係る虚血性脳障害抑制剤において有効成分として含有するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬は、虚血性脳障害の進展を抑制することから、その有効量を、年齢や性別を問わずヒト等の動物に投与することにより、生体内において虚血性脳障害の進展を抑制することができる。例えば、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、脳梗塞等の虚血性脳卒中の新たな急性期治療方法に使用することができる。また、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、虚血性脳障害罹患に関するリスクファクターを有する患者の発症リスク軽減を目的としても使用することができる。
【0052】
脳において、栄養血管が閉塞した場合又は狭窄状態が生じた場合には、十分な血流および酸素の供給が得られなくなり、この状態が持続した場合には、代謝障害が生じる。その結果、永続する機能障害の出現や細胞死(部分的臓器壊死)といった臓器障害に至る。そこで、虚血性代謝障害による部分的臓器壊死等の臓器障害を、虚血の緩和に起因する局所脳循環改善効果に拠らず、脳保護効果により予防又は治療するために、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を使用することができる。
【0053】
さらに、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、脳保護効果を有することから、あらゆる動物の脳保護に適用することができる。一方、酸素の供給不足状態が持続することによる細胞の代謝傷害あるいは、細胞死は、脳神経のみに限って生じるものではなく、様々な血管の閉塞や狭窄等により、各種臓器や筋肉、骨、皮膚等からなる四肢にも生じ得る。これらの臓器では、脳と同様に様々な機能障害や細胞死が生じることとなる。そこで、本発明に係る虚血性脳障害抑制剤を、あらゆる動物の臓器保護に適用できる。特に本発明に係る虚血性脳障害抑制剤は、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ及びウマ等)の脳保護又は臓器保護に好適に適用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例の前に、本発明を説明する上で参照となる実験例を記載する。
【0055】
〔実験例1〕 血管内塞栓子挿入法又は3血管閉塞法により作製された脳梗塞モデル動物における虚血時間(血管の閉塞時間)に対する脳梗塞体積の変化
雄性ラットを用いて、ハロセン吸入全身麻酔下に以下の操作を行った。
【0056】
まず、前頚部正中皮膚切開にて両側の総経動脈を露出させ、これに手術用ミニクリップをかけることで頭側への血流を遮断した。次に左側頭部にて皮膚を横切開し、頬骨弓を部分的に切除し、顎関節外内側を解放させ、左下顎骨を下方に圧排し、左側側頭骨を露出させた。左中大脳動脈の直上にて直径約2mmの骨窓(burr hole)を穿ち、さらに脳を損傷しないように、硬膜のみを切開した。
【0057】
左中大脳動脈は、嗅神経側外側部にて電気凝固により閉塞させた。この時点で3血管(両側総頚動脈、左中大脳動脈)閉塞を達成する。虚血負荷中は、全身動脈血圧、体温、動脈血酸素・二酸化炭素分圧、およびPhを厳密に生理的範囲内に保ち、様々な時間、一過性局所脳虚血を負荷した。脳梗塞の判定は、虚血負荷後2日間、通常のケージにて飼育の後に全身深麻酔下に全脳を取りだし、2mm厚の冠状脳切片を作製し、2,3,4-triphenyltetrazolium chloride(TTC)染色により脳組織内での生存部を赤色に呈色させた。この染色後切片より画像解析装置を用いて脳梗塞体積を算出することができる。虚血中の局所脳血流に関しては、レーザードップラー血流計、および水素クリアランス法を用いて測定することが可能である。また、本手法では、中大脳動脈凝固以遠の血管の血流は手術2日後も保たれること、すなわち、血管閉塞部位より拡がる血管内血液凝固(による新たな血管閉塞)がないことを確認した(Yanamoto H.ら, Exp. Neurol., 2003, 182, 261-274)。
【0058】
以上のように3血管閉塞法により作製された脳梗塞モデルラット(以下、「3血管閉塞モデルラット」という)並びに既に発表された文献(以下、「参考文献」という)に記載される、血管内塞栓子挿入法により作製された脳梗塞モデルラット(以下、「血管内塞栓子挿入モデルラット」という)及び3血管閉塞モデルラットを、虚血時間(血管の閉塞時間)に対する脳梗塞体積の変化について比較した(Yanamoto H.ら, Exp. Neurol., 2003, 182, 261-274)。結果を図3に示す。
【0059】
図3において、各プロットは、以下の虚血時間を示す。
下向きの黒塗り三角のプロット:1時間虚血(参考文献に記載のモデルラット)。
上向きの黒塗り三角のプロット:1.5時間虚血(参考文献に記載のモデルラット)。
黒塗り丸のプロット:2時間虚血(参考文献に記載のモデルラット)。
黒塗り四角のプロット:3時間虚血(参考文献に記載のモデルラット)。
黒塗り菱形のプロット:永久虚血(参考文献に記載のモデルラット)。
下向きの白抜き三角のプロット:1時間虚血(上記で作製した3血管閉塞モデルラット)。
上向きの白抜き三角のプロット:1.5時間虚血(上記で作製した3血管閉塞モデルラット)。
白抜き丸のプロット:2時間虚血(上記で作製した3血管閉塞モデルラット)。
また、図3において、横軸は、以下の参考文献を示す文献番号である。
【0060】
参考文献
1:Wang L., Kittaka M., Sun N., Schreiber S.S., Zlokovic B.V., Chronic nicotine treatment enhances focal ischemic brain injury and depletes free pool of brain microvascular tissue plasminogen activator in rats. J. Cereb. Blood Flow Metab. 1997; 17:136-146.
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20:Yanamoto H.ら, Exp. Neurol., 2003, 182, 261-274(上記で作製した3血管閉塞モデルラットを記載).
21:Liu T.H., Beckman J.S., Freeman B.A., Hogan E.L., Hsu C.Y., Polyethylene glycol-conjugated superoxide dismutase and catalase reduce ischemic brain injury. Am. J. Physiol. 1989; 256:H589-H593.
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23:Yanamoto H.ら, Exp. Neurol., 2003, 182, 261-274(上記で作製した3血管閉塞モデルラットを記載).
24:Yip P.K., He Y.-Y., Hsu C.Y., Garg N., Marangos P., Hogan E.L., Effect of plasma glucose on infarct size in focal cerebral ischemia-reperfusion. Neurology 1991; 41:899-905.
25:Liu T.H., Beckman J.S., Freeman B.A., Hogan E.L., Hsu C.Y., Polyethylene glycol-conjugated superoxide dismutase and catalase reduce ischemic brain injury. Am. J. Physiol. 1989; 256:H589-H593.
26:Yip P.K., He Y.-Y., Hsu C.Y., Garg N., Marangos P., Hogan E.L., Effect of plasma glucose on infarct size in focal cerebral ischemia-reperfusion. Neurology 1991; 41:899-905.
27:Yanamoto H., Nagata I., Hashimoto N., Kikuchi H., Three-vessel occlusion using a micro-clip for the proximal left middle cerebral artery produces a reliable neocortical infarct in rats. Brain Res. Brain Res. Protoc. 1998; 3:209-220.
28:Yanamoto H., Hashimoto N., Nagata I., Kikuchi H., Infarct tolerance against temporary focal ischemia following spreading depression in rat brain. Brain Res. 1998; 784:239-249.
29:Yanamoto H.ら, Exp. Neurol., 2003, 182, 261-274(上記で作製した3血管閉塞モデルラットを記載).
30:Liu T.H., Beckman J.S., Freeman B.A., Hogan E.L., Hsu C.Y., Polyethylene glycol-conjugated superoxide dismutase and catalase reduce ischemic brain injury. Am. J. Physiol. 1989; 256:H589-H593.
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【0061】
図3に示すように、血管内塞栓子挿入モデルラットでは、脳梗塞体積は、血管閉塞時間(1時間、1.5時間、2時間、3時間又は永久)に非依存的であり、増加しない。すなわち、血管内塞栓子挿入モデルラットにおける虚血時間とそれによる脳梗塞の発症は、塞栓子の留置時間のみではなく、その他の因子、例えば血管内血栓形成に左右される可能性がある。一方、3血管閉塞モデルラットでは、脳梗塞体積は、血管の閉塞時間に比例して増加する。3血管閉塞モデルラットにおける脳梗塞の発症は、血栓や塞栓に左右されるものではなく、血管閉塞による局所血流低下のみに起因するといえる。
【0062】
〔実験例2〕 SD刺激による虚血耐性誘導
(1) 3血管閉塞モデルラットの作製及び3血管閉塞モデルラットに対するSD刺激
予め、8〜13週齢のSprague‐Dawley ラットに、4Mの塩化カリウムを1時間あたり1μlの速度にて連続的に2日間、脳皮質内へ注入することで、連続的拡延性抑制を生じさせた。一方、対照群として、上記ラットに生理食塩水を同様に2日間注入した。生理食塩水の注入では、塩化カリウム注入時に観察されるような連続的拡延性抑制は生じないことを確認した。なお、各群は、それぞれ8匹とした。
【0063】
上記塩化カリウム又は生理食塩水の注入の12日又は15日後に、一過性両側頚動脈閉塞及び一側中大脳動脈閉塞(3血管閉塞法)によって、一過性局所脳虚血を負荷した。この手法により、脳皮質に限局する一定の体積を有する脳梗塞が出現する。
【0064】
(2) 脳梗塞に対するSD刺激の効果の検討
上記(1)のごとく予め拡延性抑制を与えた、あるいは、与えなかった3血管閉塞モデルラットについて、脳梗塞体積を測定することで、拡延性抑制の脳梗塞に与える影響を検討した。
【0065】
3血管閉塞法によって一過性局所脳虚血を負荷した2日後、拡延性抑制負荷群及び対照群について、以下の方法により脳梗塞の体積を測定した。まず、全身深麻酔下にラット脳を取りだし、脳を2mm厚の冠状脳切片とし、これらに対し、2%の2,3,4-triphenyltetrazolium chloride (TTC)を用いて、脳摘出時に生存していた脳組織部位を赤色に染色した。コンピューター画像解析装置を用いて各脳切片の染色後のイメージを取りこみ、これらの脳断面での生存脳領域、及び脳梗塞に陥った領域面積を測定し、それらの値より各個体あたりの脳梗塞体積を算出した。
【0066】
(3) 脳梗塞に対するSD刺激の効果の分析結果
図4は、3血管閉塞モデルラットにおいて、高濃度塩化カリウムの局所注入により観察されたSD波を示す。図4において、パネル(a)は、脳皮質における直流電位のモニター上で観察された代表的な一過性脱分極性電位変化、すなわち、一つの拡延性抑制波である。この一つの拡延性抑制は、高濃度の塩化カリウムを注入する間、連続して生じ続ける。例えば、パネル(b)は、一回のSDの後に比較的長いインターバルが、またパネル(c)は、一回のSDの後に比較的短いインターバルが観察された例である。
【0067】
このように、一つのSD波は脳内に留置した針電極をおよそ1分かけて通過し(パネル(a))、また、高濃度塩化カリウムの局所注入により、その周囲の脳には、連続的にSD波が生じることが示された(パネル(b)及び(c))。
【0068】
一方、SDの前処置に供した3血管閉塞モデルラットにおける脳断面図の写真を図5に示す。図5において、矢印の部位は、脳梗塞の部位を示す。図5に示すように、SDの前処置に供した3血管閉塞モデルラットでは、対照の3血管閉塞モデルラットと比較して明らかな脳梗塞の縮小が観察された。従って、SDの前処置により、一定期間後、虚血耐性又は脳梗塞耐性と呼ばれる内在性脳保護機構が誘導されることが証明された。
【0069】
〔実施例1〕 L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の虚血性脳障害抑制活性
(1) 3血管閉塞モデルマウスの作製及びL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の投与
予め(虚血開始前に)、8〜9週齢のC57BL/6J系雄性マウスに、アゼルニジピンとして医薬品カルブロックを、体重1kgあたり0.3mg、1mg又は3mg(以下、「0.3mg/kg、1mg/kg又は3mg/kg」という)の用量で生理食塩水0.2mlに溶解した溶液として、単回経口投与した。一方、対照群として、上記マウスに生理食塩水0.2mlのみを同様に単回経口投与した。虚血時及び再灌流時において、カルブロックを投与したマウスの脳では、L型カルシウムチャンネルが阻害される。なお、各群は、それぞれ8匹とした。
【0070】
カルブロック又は生理食塩水の投与の1時間後に、一過性両側頚動脈閉塞及び一側中大脳動脈閉塞(3血管閉塞法)によって、一過性局所脳虚血を負荷した。この手法により、脳皮質に限局する一定の体積を有する脳梗塞が出現する。上述した3血管閉塞法により一過性局所脳虚血を負荷したマウスを、3血管閉塞モデルマウスとして使用した。
【0071】
(2) 脳梗塞に対するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の効果の検討
予め(虚血開始前に)カルブロックを投与した3血管閉塞モデルマウスについて、脳梗塞体積を測定することで、カルブロックの脳梗塞に与える影響を検討した。
【0072】
3血管閉塞法によって一過性局所脳虚血を負荷した1日後、カルブロック投与群及び対照群について、上記実験例2と同様の方法により脳梗塞の体積を計測、算出した。まず、深麻酔下にマウス脳を取りだし、冠状断にて脳を1mm厚の脳切片とし、これらに対し、2%のTTCを用いて、脳摘出時に生存していた脳組織部位を赤色に染色した。コンピューター解析装置を用いて各脳切片の染色イメージを取りこみ、これらの脳断面での生存脳領域、及び脳梗塞に陥った領域面積を測定し、それらの値より各個体あたりの脳梗塞体積を算出した。
【0073】
(3) 脳梗塞に対するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の効果の分析結果
予めカルブロックを、1mg/kgを投与した3血管閉塞モデルマウスの脳断面図の写真を図6に示す。図6において、パネル(a)〜(j)は、以下の3血管閉塞モデルマウスの脳断面図の写真である。
パネル(a)〜(e):カルブロック1mg/kgを投与した3血管閉塞モデルマウスの虚血後1日経過した脳の断面図である。なお、パネル(a)〜(e)の各断面図は、同一の3血管閉塞モデルマウスの脳から作製した、それぞれ異なる脳の位置の脳切片を用いた断面図である。パネル(a)〜(e)の断面図は、最吻側(パネル(a))から最尾側(パネル(e))へと連続的に徐々に移動した脳断面図である。
パネル(f)〜(j):生理食塩水を投与した対照群の3血管閉塞モデルマウスの虚血後1日経過した脳の断面図である。なお、パネル(f)〜(j)の各断面図は、同一の3血管閉塞モデルマウスの脳から作製した、それぞれ異なる脳の位置の脳切片を用いた断面図である。パネル(f)〜(j)の断面図は、最吻側(パネル(f))から最尾側(パネル(j))へと連続的に徐々に移動した脳断面図である。
また、図6の各パネルにおいて、白色の箇所が脳梗塞部位である。
【0074】
図6から判るように、対照群と比較して、1mg/kgの用量でカルブロックを単回投与した3血管閉塞モデルマウスでは、3血管閉塞法によって一過性局所脳虚血を負荷した後に生じる脳梗塞体積が減少した。
【0075】
さらに、カルブロックを単回虚血前投与した3血管閉塞モデルマウスの群における、脳梗塞体積の測定結果を図7に示す。図7は、各群(対照群及び0.3mg/kg、1mg/kg又は3mg/kgの用量でカルブロックを投与した群)に対する脳梗塞の平均体積(mm3)を示す。図7において、*は対照群と比較して有意差があることを示す。
【0076】
図7から判るように、中用量(1mg/kg)で単回カルブロックを投与した3血管閉塞モデルマウスの群では、脳梗塞の体積が対照群に比して、有意に縮小することが明らかとなった。
【0077】
以上より、アゼルニジピン等のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬は、脳梗塞等の虚血性脳障害を抑制し、脳保護効果を有することが明らかとなった。
【0078】
〔実施例2〕 虚血前、虚血中及び虚血後における局所脳血流の測定
実施例1で示したアゼルニジピンによる脳梗塞体積の縮小が、局所脳血流改善による効果ではないことを確認すべく、3血管閉塞モデルマウスにおいて局所脳血流を測定した。
【0079】
実施例1で作製した、対照群及び1mg/kgの用量で単回カルブロックを投与した群の3血管閉塞モデルマウスの脳における局所脳血流を、それぞれ生理食塩水及びカルブロック投与時から130分間まで測定した。局所脳血流の測定は、レーザードップラー脳血流計にて測定した。
【0080】
測定結果を図8に示す。時間経過に対する局所脳血流の割合(%)を示す。尚、局所脳血流の割合は、カルブロック又は生理食塩水投与前に測定した値を100%とした場合に対する割合である。
【0081】
図8から判るように、対照群と1mg/kgでカルブロックを単回投与した3血管閉塞モデルマウスの群とを比較すると、虚血時の局所脳血流量に差は認められなかった。従って、カルブロックは、虚血領域の脳血流(脳循環)を改善しないことが明らかとなった。このように、カルブロックを投与したモデルマウスの群における脳梗塞体積の縮小は、局所脳血流(脳循環)改善作用によるものでないことが示された。アゼルニジピン等のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬は、局所脳血流(脳循環)改善作用に依存することなく、虚血によって生じる虚血性脳傷害から脳を守る、すなわち厳密な意味での脳保護効果を有することが証明された。
【0082】
〔実施例3〕 L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の虚血性脳障害治療活性
(1) 3血管閉塞モデルマウスにおけるL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の虚血後投与の効果
8〜9週齢のC57BL/6J系雄性マウスに、一過性両側頚動脈閉塞及び一側中大脳動脈閉塞(3血管閉塞法)によって、一過性局所脳虚血を負荷した。この手法により、脳皮質に限局する一定の体積を有する脳梗塞が出現する。虚血負荷直後に初めてアゼルニジピンとして医薬品カルブロックを、体重1kgあたり1mg(以下、「1mg/kg」という)の用量で生理食塩水0.2mlに溶解した溶液として、単回経口投与した。一方、対照群として、上記マウスに生理食塩水0.2mlのみを同様に単回経口投与した。虚血時及び再灌流時において、カルブロックを投与したマウスの脳では、L型カルシウムチャンネルが阻害される。なお、各群は、それぞれ8匹とした。
【0083】
(2) 脳梗塞に対するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の効果の検討
虚血後に初めてカルブロックを投与した3血管閉塞モデルマウスについて、脳梗塞体積を測定することで、カルブロックの脳梗塞急性期治療効果を検討した。
【0084】
3血管閉塞法によって一過性局所脳虚血を負荷した1日後、カルブロック単回投与群及び対照群について、上記実施例1と同様の方法により脳梗塞の体積を計測、算出した。
【0085】
(3) 脳梗塞に対するL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬の虚血後単回投与による効果の分析結果
カルブロックを、虚血後に1mg/kgで投与した3血管閉塞モデルマウスの脳断面図の写真を図9に示す。図9において、パネル(a)〜(d)は、以下の3血管閉塞モデルマウスの脳断面図の写真である。
パネル(a)及び(b):生理食塩水を投与した対照群の3血管閉塞モデルマウスの虚血後1日経過した脳の断面図である。なお、パネル(a)及び(b)の各断面図は、同一の3血管閉塞モデルマウスの脳から作製した、それぞれ異なる脳の位置の脳切片を用いた断面図である。
パネル(c)及び(d):虚血後にカルブロック1mg/kgを投与した3血管閉塞モデルマウスの虚血後1日経過した脳の断面図である。なお、パネル(c)及び(d)の各断面図は、同一の3血管閉塞モデルマウスの脳から作製した、それぞれ異なる脳の位置の脳切片を用いた断面図である。
また、図9の各パネルにおいて、白色の箇所(矢印の部位)が脳梗塞部位である。
【0086】
図9から判るように、対照群と比較して、1mg/kgの用量でカルブロックを虚血後に単回投与した3血管閉塞モデルマウスでは、3血管閉塞法によって一過性局所脳虚血を負荷した後に生じる脳梗塞体積が減少した。
【0087】
さらに、カルブロックを虚血後に投与した3血管閉塞モデルマウスの群における、脳梗塞体積の測定結果を図10に示す。図10は、対照群及びカルブロックを単回投与した群に対する脳梗塞の平均体積(mm3)を示す。図10において、*は対照群と比較して有意差があることを示す。
【0088】
図10から判るように、1mg/kgでカルブロックを虚血後に単回投与した3血管閉塞モデルマウスの群では、脳梗塞の体積が対照群に比して、有意に縮小することが明らかとなった。
【0089】
以上より、アゼルニジピン等のL型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬は、脳梗塞等の虚血性脳障害急性期に用いることで、脳梗塞の進展を抑制する、すなわち、虚血性脳障害に対する治療効果を有することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、脳における拡延性抑制の機構を示す。
【図2】図2は、塩化カリウムの脳内局所注入法により生じる拡延性抑制波のイメージを示す。
【図3】図3は、脳梗塞モデルラットにおける、虚血時間(血管の閉塞時間)に対する脳梗塞体積の変化を示す。
【図4】図4は、3血管閉塞モデルラットにおいて、高濃度塩化カリウムの局所注入により観察される拡延性抑制波を示す。
【図5】図5は、拡延性抑制の前処置に供した3血管閉塞モデルラットにおける脳断面図の写真を示す。
【図6】図6は、対照群及びカルブロックを1mg/kgを虚血開始前に投与した3血管閉塞モデルマウスの脳断面図の写真を示す。
【図7】図7は、対照群及びカルブロックを虚血開始前に投与した3血管閉塞モデルマウスの群における、脳梗塞体積の測定結果を示す。
【図8】図8は、対照群及び1mg/kgの用量でカルブロックを虚血開始前に投与した3血管閉塞モデルマウスの群の脳における局所脳血流の測定結果を示す。
【図9】図9は、対照群及びカルブロック(アゼルニジピン)を虚血開始後に投与した3血管閉塞モデルマウスの脳断面図の写真を示す。
【図10】図10は、対照群及びカルブロックを虚血開始後に投与した3血管閉塞モデルマウスの群における、脳梗塞体積の測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬を有効成分として含有する虚血性脳障害抑制剤。
【請求項2】
前記L型チャンネル作動性カルシウム拮抗薬が降圧剤であることを特徴とする、請求項1記載の虚血性脳障害抑制剤。
【請求項3】
前記降圧剤がアゼルニジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム、ニカルジピン、ニモジピン、ベニジピン、シルニジピン及びアムロジピンから成る群より選択されるものであることを特徴とする、請求項2記載の虚血性脳障害抑制剤。
【請求項4】
前記虚血性脳障害が脳梗塞であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の虚血性脳障害抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の虚血性脳障害抑制剤を含有する脳保護薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−131511(P2006−131511A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319719(P2004−319719)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】