説明

虚血組織の細胞療法

本発明は、虚血性疾患および状態の治療、特に心筋虚血、CNS/脳虚血および肢虚血の治療のための組成物および方法を対象とする。より具体的には、本発明は、臍帯血、末梢血、または骨髄を含めた血液から得られた単球を、治療を必要とする個体に投与することによって障害を治療する方法を提供し、薬物は治療効果をもたらすように具体的に決定された時点で個体に投与される。一実施形態では、細胞は、狭心症の治療のための虚血心筋への注射用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利についての声明
本発明は、National Institute of Neurological Disorders and Strokeによって付与された助成金第RO1NS52839号の下、政府の支援によってなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、血液から単離された単球を用いた、虚血状態および疾患、特に、心筋、脳および肢虚血の治療の分野に関する。本発明は、単球系統細胞(monocyte lineage cell)に富んだ治療用細胞集団に基づいた治療薬、組成物およびそれを製造する方法に関する。本発明はまた、虚血を治療もしくは予防するためにまたは別の方法で組織灌流および側副血管形成の増強を促進するためにかかる治療薬および組成物を使用する方法に関する。一態様では、単球系統細胞に富んだ単核球(mononucleocyte)細胞集団は、心臓虚血および狭心症を治療するために用いられる。他の態様では、障害は脳卒中であり、単球はヒトの臍帯血(HUCB)から単離される。
【背景技術】
【0003】
背景
狭心症は、心筋への不十分な血流によって引き起こされる胸痛または不快感である。20歳を超える米国の成人における狭心症の有病率は、9,100,000人と見積もられる。安定狭心症は、疼痛が労作後にまたは被験体が情動ストレスを受けているときに起こるため予測可能である狭心症である。45歳を超える米国の成人における安定狭心症(対応する心筋梗塞を伴わない)の有病率は、500,000人である。非特許文献1を参照のこと。
【0004】
現在の治療には、アスピリン、β遮断薬(例えば、カルベジロール、プロプラノロール、アテノロール)、ニトログリセリン(急性緩和用)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン(Adalat)およびアムロジピン)、一硝酸イソソルビド(vsosorbide mononitrate)およびニコランジルなどの血管拡張薬、Iチャネル阻害薬(例えば、イバブラジン)、ACE阻害薬、スタチン、およびラノラジン(Ranexa)が含まれる。しかし、かかる治療は、通常、疼痛が再発しないように防ぐことなく疼痛を治療するに過ぎず、狭心症患者すべてがかかる治療に反応するわけではない。疼痛が再発しないように防ぐために新たな脈管新生を生成するための幹細胞の使用を目標とした治療抵抗性狭心症の治療のためにCD34幹細胞を用いた臨床試験が行われている。しかし、この治療は、安全かつ有効であることがいまだ実証されていない。したがって、狭心症、特に、治療抵抗性狭心症についての長期の治療オプションが必要である。
【0005】
治療抵抗性狭心症の患者の管理は、複雑であり、集学的な手法を要する。現在の治療には、アスピリン、β遮断薬(例えば、カルベジロール、プロプラノロール、アテノロール)、ニトログリセリン(急性緩和用)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン(Adalat)およびアムロジピン)、一硝酸イソソルビドおよびニコランジルなどの血管拡張薬、Iチャネル阻害薬(例えば、イバブラジン)、ACE阻害薬、スタチン、およびラノラジン(Ranexa)が含まれる。かかる治療は、通常、疼痛を軽減する試みの中で、多数の異なる薬物レジメンおよび組み合わせを試みる網羅的なレジメンを使用する。しかし、かかる治療は、通常、疼痛が再発しないように防ぐことなく疼痛を治療するに過ぎず、狭心症患者すべてがかかる治療に反応するわけではない。
【0006】
医薬品による治療に加えて、狭心症は、経皮経管冠動脈形成術または冠動脈バイパス移植(CABG)手術などの介入的手順で治療することができるが、かかる治療は、好ましくない解剖学的冠血管系(coronary anatomy bed)、細い冠動脈、遠位のまたは広汎性の冠血管病変など、任意の数の要因により一部の狭心症患者に利用できない。米国心臓協会の2002年代替療法に関するガイドラインにおける勧告には、外科用レーザーによる経心筋血行再建(クラスIIa)、増強された体外カウンターパルゼーションおよび脊髄電気刺激法(クラスIIb)が含まれる。
【0007】
新規な治療様式は、幹細胞集団の使用を含めて検討中である。多くの研究者は、心筋梗塞と関連する画分を含む骨髄単核幹細胞を用いて心臓組織の再生を実証する第1のステップを踏んでいる。かかる研究では、(i)梗塞後の心筋の再生;(ii)梗塞サイズの縮小;および(iii)ヒト骨髄細胞による心臓タンパク質の新規の発現を観察している。これらの予備的研究に関して追跡し、いくつかのグループは、異なる実験用心臓モデルの筋電位および血管形成能に主として基づいた結果と共に、これらのモデルにおける骨髄由来間葉細胞の再生可能性を実証している。
【0008】
主に急性心筋梗塞患者におけるおよび冠動脈内幹細胞送達を用いた臨床試験は、心臓修復の増強のための自己由来細胞移植の安全性および有効性を試験するためにすでに行われている。しかし、これらの試験は、試験デザインおよび細胞集団または送達の相違に明らかな根拠がなく矛盾する結果を生み出している。
【0009】
虚血性心疾患について、いくつかの臨床試験では、有効性の程度が変わりやすい骨髄由来単核幹細胞の少なくとも安全性を実証している。これらの試験における最もよく知られる送達技法は、幹細胞の心筋内注入であり、経心内膜または経心外膜(transepicardial)である。
【0010】
治療抵抗性狭心症の状況では、いくつかのグループは、主として単独治療としてまたはCABGと併せて骨髄単核細胞(BMMC)を主に用いた臨床試験を行っている。
【0011】
例として、Hamanoらは、関連する虚血性心筋症を伴う「オプションなし」の患者5名において経心外膜手法によって、CABGと併せてBMMCを注射した。結果は、患者3名において注射された領域内で心筋灌流の客観的な増加を示した。しかし、この試験は、併用のCABGの効果によって混乱され、BMMC治療の治療効果は不明確なままである。
【0012】
他の研究者は、電気機械的マッピング(NOGA(商標)システム)によって導かれた経皮的カテーテルで送達される、BMMCの心内膜心筋注射の彼らの初期の経験を報告している。全体的に、これらの非ランダム試験では、虚血心筋に移動された直接のBMMCが、すべての患者ではなく一部の患者において治療抵抗性狭心症の患者の症状および運動能力を改善し、心筋灌流および機能を増加させたことが実証されている。これらの試験の多くは、虚血性心筋症を伴う「オプションなし」の患者を登録した。
【0013】
最近、重症冠疾患における心内膜心筋注射によるBMMCの第1の前向きランダム化試験(PROTECT−CAD)が報告されている。この試験は、治療群において運動時間、左室駆出分画およびストレス誘発性心筋虚血のかなりの改善を示した。
【0014】
Losordoらは、治療抵抗性狭心症のための自己由来CD34+幹細胞の心内膜心筋注射による第I/IIa相、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照用量漸増臨床試験を行った。狭心症の頻度、ニトログリセリンの使用、運動時間、およびCCSACクラスを含めた有効性パラメータは、CD34+細胞によって治療された患者対プラセボを投与された対照の被験体に有利に働いた傾向を示した。
【0015】
したがって、「オプションなし」狭心症患者の場合、骨髄由来単核幹細胞を用いた臨床試験では、いくつかの心筋灌流の改善を示し、より少ない程度まで、心室機能を改善した。これらの試験の多くは、虚血性心筋症を伴う患者、中等度から重症の左室駆出分画(LVEF)低下を有する患者を含む。しかし、現在まで、治療用細胞(すなわち、単核細胞または中胚葉幹細胞)に基づくどの療法も、疼痛を確実に軽減するまたは治療されるほとんどまたはすべての患者における灌流を改善することはできない。
【0016】
およそ5〜15%の慢性冠動脈疾患を伴う患者は、複数のシリーズの薬物療法最適化治療、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)、および冠動脈バイパス移植術(CABG)(35、37)を含めた、従来の治療手段の組み合わせによって制御することができない重症の、身体に障害を引き起こす狭心症を示す。重症の狭心症はしばしば、生活の質のかなりの低下をもたらす。「オプションなし」の治療抵抗性狭心症患者のための症状の緩和は、複雑かつ困難な過程である。外科用レーザー経心筋血行再建、体外カウンターパルゼーション、および脊髄電気刺激法など、米国心臓協会ガイドライン(11、14)に従った代替療法は、すべてせいぜい控えめな結果をもたらしている(9、26、31、45)。大多数の治療抵抗性狭心症患者(75%)は、左室機能を維持しており、一般の冠動脈心疾患母集団よりも死亡率が低い(36、54);この患者群は急速に増大している。
【0017】
細胞の治療、特に自己由来骨髄細胞移植は、心臓の再生のための新規な治療オプションとして浮上している。いくつかの仮定上の機構の説明は、幹細胞の筋電位および血管形成能および傍分泌効果による常在の前駆細胞の増殖の活性化を含む(2、15〜17、22、48、49、52)。心筋組織の再生および梗塞された領域の同時の縮小が実験動物モデルにおいて実証されているが、心臓組織再生のためのBMMC移植を診療のためのケアの基準ではなく実験手順にする、これらの結果のヒトへの置き換えに関して多くの不確かさが残る(7、33)。
【0018】
他方では、治療抵抗性狭心症患者は、特に、血管新生に関して細胞に基づく療法から恩恵を受けることができる。これらの血管新生の効果は、細胞療法がヒトの患者のためのオプションとみなされるとき、研究者の間で非常に重要であると考えられている(8)。
【0019】
血管新生の効果は、いくつかの前臨床試験において報告された(8、28、33、48)。血管新生の改善は、陰性対照マウスと比較したとき、c−kit骨髄(BM)細胞で移植された心臓において観察された(40)。急性心筋梗塞後のマウスBM細胞の循環への動員は、筋細胞および血管構造の再生をもたらした(39)。類似のプロトコールを用いたヒト以外の霊長類における最近の研究では、BMによって治療された動物において局所灌流の改善を示し、潜在的な血管新生の効果を示唆した(30)。BM細胞の植え込みにおけるこの機能上の利益は、とりわけ、血管内皮増殖因子およびストロマ細胞由来因子1など、複数の増殖因子の局所放出により血管新生が増加する傍分泌効果による可能性がある(8、48)。
【0020】
骨髄由来幹細胞またはBMMCを投与された治療抵抗性狭心症患者が関わる臨床試験において、症状および運動能力の改善、ならびに心筋灌流の改善が観察された(4、6、8、12、13、19、21、41、53、55、56、59)。Beeresら(3)は、治療抵抗性狭心症の患者25名において自己由来BMMCの心筋内注射を用いて試験を行い、この試験は、狭心症の症状および心筋灌流に対して持続した有益な効果を示した。Losordoら(34)は、治療抵抗性狭心症患者のための自己由来CD34+幹細胞の心内膜心筋注射を用いた第I/IIa相、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照用量漸増臨床試験を実施し、CD34+細胞によって治療された患者間でカナダ心臓血管学会狭心症分類(Canadian Cardiovascular Society Angina Classification)(CCSAC)の改善に加えて、運動時間が増加する傾向を実証した。van Ramshorstら(58)は、治療抵抗性狭心症のための心筋内骨髄細胞注射のランダム化対照試験を行い、短期のフォローアップ(3〜6カ月)が、プラセボと比較した心筋灌流において適度の改善を示した。
【0021】
最低限の左心室の改善および以前の治療抵抗性狭心症試験の臨床での反応を観察し、ヒトにおける骨髄幹細胞移植の1次作用が、心筋の血管新生を促進しており、純粋な筋形成を促進していないことが示唆されている。この状況において、血管新生は、これらの試験および一部のメタ分析によって実証される通り、限られた範囲であるが、活動していない心筋を救出するまたは回復させることにより、左室機能を確実に改善することができる(1、32、44)。
【0022】
以前の前臨床および臨床試験は、心筋組織再生のための幹細胞療法の実行可能性、安全性、および有効な潜在能力を裏付けており、急性心筋梗塞から慢性虚血性心疾患までの診断の範囲で存在している患者を包含する(33)。
【0023】
ここでの最大の難問は、実験室の結果を病院のルーチンに置き換えることにある。試験デザインの相違、幹細胞および単核細胞の調製、および注入技法は、異なる試験から得られたいくぶん有望だが整合しない全体的なデータを提供している(43)。
【0024】
上位5位の非伝染性疾患の1つとみなされる脳血管疾患は、世界中でおよそ5000万人に影響を与え、死亡者が年間およそ550万人になる。5000万人のうち、脳卒中はおおよそ4000万人を占める。
【0025】
狭心症と同様、脳卒中は、虚血が重大な役割を果たす他の状態である。脳卒中は、開発国における3番目の主要な死亡原因であり、成人の能力障害の主な原因となっている。現在、唯一利用可能な治療オプションがある。脳卒中は、認知および運動機能に影響を与え、免疫系を変更する血管疾患である。この試験は、脳卒中の病態生理および初期の試験において運動機能障害をかなり改善し、梗塞サイズを縮小することが示された新規な細胞療法(ヒトの臍帯血(HUCB)細胞)の開発に焦点を絞った。脳卒中後の脳損傷の発生における免疫応答/炎症反応の役割は、十分に理解されていない。虚血イベント後、好中球、T−細胞、B−細胞、ナチュラルキラー細胞ならびにミクログリアの梗塞された半球への流入および末梢血中のこれらの同様の免疫細胞のプロファイルの変化をもたらす免疫応答がある。この試験では、HUCB注射の有益な効果が特異的な細胞集団に帰せられ得るか否かを試験した。
【0026】
脳卒中治療は、2つのカテゴリー、すなわち、予防および急性管理からなる。予防治療は、現在、抗血小板薬、抗凝血薬、外科療法、血管形成術、生活習慣の調整、および医学上の調整からなる。一般に用いられる抗血小板薬は、アスピリンである。抗凝血薬の使用は、統計的有意性がないと思われる。外科療法は、特異的なサブグループに有効であると思われる。血管形成術は、いまだ分析データが不十分な実験手順である。生活習慣の調整には、喫煙をやめること、規則的な運動、摂食の調節、ナトリウム摂取を制限することおよび飲酒量を加減することが含まれる。医学上の調整には、血圧を低下するための薬剤、コレステロールを低下させること、糖尿病を管理すること、および循環異常を管理することが含まれる。
【0027】
急性管理治療は、血栓溶解薬、神経保護薬、酸素化フルオロカーボン栄養乳剤(Oxygenated Fluorocarbon Nutrient Emulsion)(OFNE)療法、神経灌流、GPIIb/IIIa血小板凝集抑制薬療法、およびリハビリテーション/理学療法の使用からなる。
【0028】
血小板溶解薬は、血栓溶解を誘導しまたは加減し、最も一般的に用いられる薬剤は、組織プラスミノゲンアクチベーター(t−PA)である。組換え型t−PA(rt−PA)は、血流を妨げる血塊を溶解する(崩壊する)ことによって脳循環を再建するのに役立つ。これは、非常に短い治療域を有する有効な治療であり;発生から3時間以内に投与されなければならない。これはまた、治療の投与前にCTスキャンを必要とし、利用可能な時間の量をさらに減らす。Genetech Pharmaceuticals社は、ACTIV ASE(登録商標)を製造しており、現在rt−P Aの唯一の供給源である。
【0029】
神経保護薬は、虚血カスケードの影響を最小限にする薬物であり、例えば、グルタミン酸アンタゴニスト、カルシウムアンタゴニスト、オピエートアンタゴニスト、GAB A−Aアゴニスト、カルパイン阻害薬、キナーゼ阻害薬および酸化防止剤が含まれる。急性虚血性脳卒中についてのいくつかの異なる臨床試験は、進行中である。血塊破裂および脳の保護のこれらの相補的な機能によって、今後の急性治療手順は、血栓溶解および神経保護療法の組み合わせを使用する可能性が最も高い。しかし、血栓溶解薬と同様に、ほとんどの神経保護薬は、有効であるために脳卒中後6時間以内に投与される必要がある。
【0030】
酸素化フルオロカーボン栄養乳剤(OFNE)療法は、脳脊髄液により酸素および栄養分を脳へ送達する。神経灌流は、虚血性脳卒中の損傷を最小限にする方法として酸素に富む血液が脳へ経路変更される実験手順である。GPIIblIIIa血小板凝集抑制薬療法は、血小板において糖タンパク質GPlIb/IIIa受容体が凝集する、または集塊をなす能力を抑制する。リハビリテーション理学療法は、脳卒中後早期に開始しなければならないが、これらは、脳損傷を変化させることはできない。リハビリテーションの目的は、脳卒中の生存者が可能な限り自立することができるように機能を改善することである。
【0031】
急性治療のいくつかは、臨床試験において有望さを示したが、クリーブランドで行われた試験では、脳卒中症状を示している患者の1.8%のみが、t−PA治療をさらに受けたことが示された(非特許文献2)。t−PAは現在、前述の急性脳卒中治療に最も広く使用されるが、任意の新規な「有効な」急性脳卒中治療を受けている患者の数は、10%未満であると推定される。これらの統計は、脳卒中後24時間以上で急性脳卒中治療を利用できるための明らかな必要性を示している。
【0032】
これらの急性治療(Le.、t−PA)のいくつかの場合、投与時間は重要である。最近の研究では、脳卒中患者の42%が、病院に到着する前に24時間もの間待っており、平均到着時間が脳卒中後6時間であることが判明している。t−PAは、療法を受ける患者の−113の回復を高めることが示されているが、FDA(Standard Treatment with Alteplase to Reverse Stroke)によって義務付けられた最近の研究では、約3分の1で3時間の治療域が守られておらず、無効な治療になったことが判明した。リハビリテーションを除いて、残りの急性治療はいまだ臨床試験中であり、米国、特に、必要とされる神経内科専門医および救急室要員を有する大規模な医療センターがない恐れのある農村地域で広く利用できず、脳卒中診断および療法のこれらの新規な方法のいずれかへのアクセスは、ここしばらくの間制限され得る。
【0033】
米国における脳卒中のコストは、直接コストおよび間接コストの両方を含めて430億ドルを超える。直接コストは総額の約60%を占め、病院滞在、医師の報酬、およびリハビリテーションを含む。これらのコストは、通例、最初の3カ月で患者あたり15,000ドルになるが、これらの場合のおよそ10%では、コストは、35,000ドルを超える。間接コストは、残りの部分を占め、脳卒中犠牲者の生産性の低下および家族介護者の生産性の低下を含む(National Institute of Neurological Disorders and Stroke、NIHを参照のこと)。
【0034】
およそ750,000件の脳卒中が、毎年米国で発生しており、そのうち約1/3は致命的である。残りの患者の、およそ1/3は軽度に損傷を受け、1/3は中等度に損傷を受け、1/3は重度に損傷を受ける。虚血性脳卒中は、これらの脳卒中の80%を占める。
【0035】
ベビーブーム世代が年をとるにつれて、脳卒中の総数は実質的に増加すると推定されている。脳卒中のリスクは年齢と共に増加する。年齢55歳を過ぎて、脳卒中を有するリスクは10年ごとに2倍になり、80歳代の個体のおよそ40%が脳卒中を有する。また、第2の脳卒中を有するリスクは経時的に増加する。第2の脳卒中を有するリスクは、第1の脳卒中の5年後で25〜40%である。ベビーブーム世代が老後になるときに人口の65歳を超える部分は増加するものと予想されるので、この市場のサイズは実質的に成長することになる。また、有効な治療への需要は劇的に増加する。
【0036】
脳卒中の甚大な被害をもたらす影響を有効に軽減することができない場合は、脳卒中の病的なカスケードが自然に治った後、新規な治療戦略が開発されて初期の神経外傷を最小限にするならびに損傷した脳を修復することが必須である。
【0037】
単球の移植は、脳卒中を治療する手段として提案されている。脳卒中後の患者を有効に治療するのが困難であるため、当技術分野において、脳卒中の治療を増強する方法の必要性がある。
【0038】
新生脈管形成は、炎症反応、その後の組織損傷における修復カスケードの不可欠な過程である。単球/マクロファージは、血管新生を含めた炎症性過程ならびに殺菌性のおよび免疫調節性の活性を働かせることによる防御機構において最重要な役割を果たす。現在の研究では、動員された単球/マクロファージが虚血組織、腫瘍、および慢性炎症において血管新生を調節するのを助けることが実証されている。新生脈管形成、その後の組織再生に関して、単球/マクロファージは、非発癌性、非催奇形性、倫理的論議がないこと、血管新生促進および増殖因子を含めた複数の分泌機能、および容易な自己採取などのこれらのかなりの利点により、任意の他の幹細胞に比べて細胞に基づく療法に大いに興味を引くものである。骨髄または末梢血などの成人起源だけでなく臍帯血(UCB)も、自己由来または同種異系の単球/マクロファージの潜在的な供給源となり得る。特に、UCB単球は、これらの実行可能性が速いこと、免疫拒絶が少ないこと、および独特の免疫および未完成の炎症による抗炎症反応ならびに血管新生促進能力などの複数の技術により、第1の候補とみなすべきである。単球/マクロファージの一般的な特性および潜在能力は、特に、新生脈管形成およびUCB由来単球に焦点を絞っている細胞に基づく療法について示されている。
【0039】
単球/マクロファージの1つの興味深い機能は、炎症反応に関連した血管新生を促進することである。血管新生(または新生脈管形成)は、その後の修復カスケードを含めた炎症過程の主な要素である[Sunderkotter、1994年 #4]。早期の炎症過程中、循環血液の単球は組織に血管外遊出する[Bosco、2008年 #3]。最初に、隣接した内皮細胞および炎症細胞は、一連の接着および走化性物質を放出することにより血管壁を通るこの単球を調節する[Baggiolini、2000年 #9;Imhof、2004年 #2;Bosco、2008年 #3]。正常な組織と害された組織間との走化性および酸素勾配に従って、血管外遊出した単球は、組織マクロファージに分化する前の患部組織の低酸素性および/または壊死性コアの中に移動し集合する。単球/マクロファージが蓄積しやすい代表的な病的組織は以下の通りである。すなわち、固形腫瘍、心筋梗塞または脳梗塞、慢性関節炎またはじゅく状斑の滑膜性の連結、細菌感染症、および治癒する創傷である[Baggiolini、2000年 #9;Murdoch、2004年 #1;Bosco、2008年 #3;Mantovani、2002年 #15](図1)。
【0040】
単球から分化した後、組織中のマクロファージは、分極された集団、M1およびM2サブセットとして存在することが公知である[Mantovani、2004年 #67;Sica、2006年 #16;Mantovani、2004年 #67;Mantovani、2002年 #15]。M1分極マクロファージは、炎症誘発性サイトカインを産生し病原体を貪食する強力な炎症細胞であり、一方、M2マクロファージは、炎症反応を変調し、血管新生および組織修復に役立つ[Mantovani、2004年 #67;Sica、2006年 #16;Mantovani、2004年 #67;Mantovani、2002年 #15]。興味深いことに、マクロファージの遺伝子発現において、創傷治癒中に早期にM1およびM2サブセットを組み合わせると、その後優性にM2遺伝子に変わる[Deonarine、2007年 #68]。創傷治癒過程の早期の段階中で、M1マクロファージは、創傷および微生物および/または傷害された宿主組織の残骸を浄化する直接的な炎症反応を引き起こし、組織修復および血管新生は、同時にM2マクロファージによって開始される。後の段階において、M1マクロファージによる洗浄がほとんど終了するとき、支配的なM2マクロファージは、これらの作業である血管新生を含めた組織再生を進行させる[Deonarine、2007年 #68]。蓄積されている証拠は、動員された単球/マクロファージが虚血組織、腫瘍、ならびに関節炎の関節およびアテローム性動脈硬化症などの慢性炎症における新生脈管形成を変調し調節するのを助けることを示唆している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0041】
【非特許文献1】Rosamondら、Circulation(2008年)117巻(4号):e25
【非特許文献2】Katz an ILら、JAMA(2000年)283巻:1151〜1158頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
本発明は、虚血(その好ましい例は狭心症および脳卒中である)の治療のための、および根底にある虚血を治療する灌流の改善またはかかる状態によって引き起こされる疼痛を治療することだけでなく灌流の改善のための必要性、およびかかる状態について治療用細胞に基づく治療薬の有効性の信頼性を向上させる必要性のための方法および組成物を提供することによってこれらの長い間の切実な必要性に取り組む。
【0043】
骨髄(BM)中の単芽球、造血幹細胞前駆体に由来する単球は、身体の組織に血管外遊出する前に血流中で循環する。組織中で、単球は、例えば、皮膚中のランゲルハンス細胞、肝臓中のクッパー細胞、骨中の破骨細胞、中枢神経系中のミクログリア、肺中の肺胞マクロファージ、および滑膜性の連結中の滑膜A型細胞などのこれらの解剖学的位置に応じて、様々なタイプの組織常在マクロファージに分化する(Boscoら、2008年、Gordon、2003年、Imhof and Aurrand−Lions、2004年、Murdochら、2004年、Sunderkotterら、1994年)(図1)。単球/マクロファージは、抗体または微生物をコーティングする補体成分などのメディエーターを用いることによってまたはこれらを認識する特異的受容体によって直接病原体に結合する(エンドサイトーシス)ことによって食作用を行うことができる。さらに、単球/マクロファージは、抗体に媒介される細胞傷害活性と呼ばれる免疫系応答によって、病原体により感染した宿主細胞を死滅させることができる(Nathan、1987年、Sunderkotterら、1994年)。さらに、単球/マクロファージは、T−細胞への抗原提示および広範囲のサイトカインおよび増殖因子の制御された分泌を含めた、免疫活性を刺激しかつ抑制することができる独特の免疫調節性の細胞である(Boscoら、2008年、Murdochら、2004年、Paulnockら、2000年)。要約すると、単球/マクロファージは、食作用および細胞傷害活性を含めて、病原体を死滅させることによる先天的な防御系、および免疫調節において主な役割を果たしている(Boscoら、2008年、Paulnockら、2000年)。
【0044】
狭心症および脳卒中は、代表的な虚血の状態または患者が改善された灌流が必要である状態である。その点では、本発明は、一部で、狭心症、脳卒中および虚血の他の形態を治療する新規な独特の方法を同定する必要性を満たす。他の虚血の状態または患者が改善された灌流が必要である状態は、改善された療法の同様の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0045】
一実施形態では、この方法は、単球を治療を必要とする個体に投与することを含み、単球が、治療効果をもたらすことが具体的に決定された量および時点で個体に全身的に投与される。
【0046】
本発明の態様には、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を被験体の虚血組織に注射するステップを含む、被験体における虚血の治療方法が含まれる。いくつかの実施形態において、虚血は心虚血(cardiac ischemia)であり、虚血組織は心臓の心筋である。本発明の他の態様には、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を改善された灌流を必要とする被験体の組織に注射するステップを含む、被験体において灌流を改善する方法が含まれる。いくつかの実施形態において、組織は心臓の心筋である。本発明のさらに他の態様は、単球系統細胞に富んだ幹細胞集団を被験体の心筋に注射するステップを含む、被験体における狭心症の治療方法である。前述の態様のいずれかの実施形態において、この方法は、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団中の少なくとも10個の単球系統細胞の注射を含むことができる。前述の態様および実施形態は、単球細胞集団が少なくとも2回の別個の注射、少なくとも3回の別個の注射、少なくとも4回の別個の注射、少なくとも5回の別個の注射、少なくとも10回の別個の注射、少なくとも20回の別個の注射、少なくとも30回の別個の注射、少なくとも40回の別個の注射、少なくとも50回の別個の注射、少なくとも60回の別個の注射、少なくとも70回の別個の注射、少なくとも80回の別個の注射、少なくとも90回の別個の注射、または少なくとも100回の別個の注射によって心筋に注射される一実施形態をさらに含むことができる。前述の態様および実施形態は、1回の注射が0.05ml〜0.3mlであるまたは約0.2mlである一実施形態をさらに含むことができる。前述の態様および実施形態は、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団が被験体に対して自己由来または同種異系である一実施形態をさらに含むことができる。前述の態様および実施形態は、治療用細胞集団が単核細胞集団である一実施形態をさらに含むことができる。前述の態様および実施形態は、注射するステップの前に、以下のステップから選択されるステップ、すなわち、単球系統細胞を富化させる方法を用いて幹細胞をサンプルから単離するステップ;単球系統細胞を富化させる条件下で治療用細胞集団を培養するステップ;および単球系統細胞を治療用細胞集団に加えるステップを行う一実施形態をさらに含むことができる。
【0047】
本発明の他の態様には、治療薬の測定された注射を虚血組織に送達することのできるデバイスを含む注射用治療薬が含まれ、デバイスは療法のリザーバーを含み、治療薬は単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を含む。一実施形態において、治療用細胞集団は単核細胞集団である。前述の態様および実施形態は、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団が少なくとも107個の単球系統細胞を含む一実施形態をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、注射された心筋内の単球数(細胞数×10^6、x軸)と細胞療法手順後6カ月の心筋灌流の改善(%、y軸)との比較を示す。単球の注射数と心筋灌流の改善との相関を、グラフを用いて図示し、これは静的に(statically)有意である(p<0.05、FD=6)。
【図2】図2は、心筋内の注射数(x軸)と細胞療法手順後6カ月の心筋灌流の改善(%、y軸)との比較を示す。このグラフは、心筋灌流における改善と注射数との間で観察された有意な相関がなかったため(p=n.s;FD=6)、灌流改善が、注射された細胞によるものであり、注射針または液体注入の身体的影響によるものではないことを示している。
【図3】図3は、18カ月のフォローアップにおけるCCSACの変動を示す。グラフ中の各線は、ReACTに登録された1名の患者および18カ月のフォローアップの間の対応するCCSAC改善を示す。x軸は、CCSACクラス(治療抵抗性狭心症が4番、および疼痛なしが0番)を表す。y軸は、数カ月間の患者のフォローアップを表す。左側の表は、3、6、12および18カ月のフォローアップにおけるCCSAC改善のウィルコクソン片側検定統計分析を表す。ベースラインに関連して;p<0.0125(0.05/4)(ボンフェローニの修正)の場合、狭心症クラスの変動は統計的に有意である。
【図4】図4は、12カ月のフォローアップにおいてストレステクネシウムシンチグラフィにより評価された心筋虚血領域の変動を示す。グラフ中の各線は、ReACTに登録された1名の患者および12カ月のフォローアップの間の対応するシンチグラフィによる心筋虚血領域の改善を表す。x軸は、シンチグラフィによる心筋虚血領域の百分率を表す。y軸は、数カ月間の患者フォローアップを表す(シンチグラフィによる分析は、6カ月および12カ月においてのみ評価された)。右下の表は、6カ月および12カ月フォローアップにおけるシンチグラフィによる心筋虚血領域の改善のウィルコクソン片側検定統計分析を表す。ベースラインに関連して;p<0.025(0.05/2)(ボンフェローニの修正)の場合、シンチグラフィによる心筋虚血領域の改善の変動は統計的に有意である。
【図5】図5は、単球およびマクロファージが、ラットにおける中大脳動脈閉塞術(MCAO)後に脳損傷を修復するための臍帯血の重要な成分であることを示す。A)MCAO後、同側性の半球で、特に線条体、海馬および皮質で相当な損傷がある。MCAO後48時間のHUCB治療は、病変サイズを縮小するが、ヒトの臍帯血(HUCB)画分から得られたCD14+単球およびマクロファージを除去するとこの効果をなくす。B)HUCBから得られたCD14+単球およびマクロファージを除去すると、MCAO後の梗塞容積は、もとのラットのみの未治療のMCAOにおける梗塞容積レベルまで増加した。CD14が枯渇した群における梗塞容積は、HUCBによって治療された群においてよりもかなり大きかった。
【図6】図6は、運動の非対称性(assymetry)のステップテスト測定を示す。A)MCAO後、障害のある肢で歩く歩数が減少する。HUCB投与は、この肢の性能を向上するが、HUCB画分から得られたCD14+細胞(単球およびマクロファージ)の除去によって回復は失われる。B)CD14+HUCB細胞のみを注射すると、患部前肢の運動機能を改善する。
【図7】図7は、自発的な活動はCD14+HUCB細胞投与によって減少することを示す。MCAO後、ラットは活動過多になる。臍帯血の単球およびマクロファージを投与すると、A)水平方向の活動、B)ケージ内で移動した総距離、C)垂直方向の活動(立ち上がり)およびD)反時計回りを含めた、運動の複数のパラメータにおいて正常な(ベースライン)レベルに向かって活動を低下させる。
【図8】図8は、単球/マクロファージの個体発生を示す概略図である。多能性幹細胞は、骨髄中でミエロイドもしくはリンパ球前駆体に分化する。顆粒球−単球前駆体は、骨髄芽球および単芽球に分化する前の共通のミエロイド前駆細胞に由来する。単球は、単芽球から分化され、続いて、骨髄から血液に移動する。血液の単球は、組織に血管外遊出した後のこれらの解剖学的位置に応じて、様々なタイプの常在マクロファージに分化する。他方では、初期の炎症過程中、循環する単球の動員および経内皮遊走は、炎症細胞によって発現された一連の接着および走化性物質によって増加される。動員された単球は、正常な組織と傷害された組織との間の走化性および酸素勾配に沿って遊走し、分極化、M1またはM2サブセットを有する動員されたマクロファージに分化する前に、虚血、または固形腫瘍、または慢性炎症性疾患における炎症性および低酸素のコアの中で蓄積される。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、虚血の治療のためのおよび一般に灌流の改善のための方法および組成物を提供することによってこれらの長い間の切実な必要性に取り組む。好ましい治療は、心筋虚血および狭心症の治療である。方法および組成物は、幹細胞集団を単球系統細胞で富化させることにより、幹細胞に基づく治療薬についてこれまで観察された有効性の信頼性を改善するという驚くべき発見に一部で依存する。
【0050】
骨髄および骨髄由来幹細胞集団は、血管新生および炎症過程の制御に関与する広域性のサイトカインの天然資源である。
【0051】
血管新生の様々な段階の間、様々なサイトカインは、腫瘍壊死因子−α(TNFα)、インターロイキン(IL)、インターフェロン−g(IFN−g)、およびマクロファージコロニー刺激因子(MCSF)などを発現させる。これらのサイトカインは、平滑筋細胞を誘導して間質コラゲナーゼおよびストロメライシンを発現し、血管の菲薄化およびこれらの外側の隆起をもたらす局所コラーゲンを分解する。血管壁に発現したサイトカインは、炎症細胞に対する強力な化学誘引物質であり、内皮に対する接着分子の発現および白血球に対するこれらの相当するリガンドの発現を誘導し、血小板活性および血栓症を促進し、血栓溶解を抑制する。
【0052】
骨髄単球または前単球は、走化性刺激に応答して活性化することができ、マクロファージ中で最終的な分化を起こすことができる。マクロファージは、プロテアーゼ、増殖因子、モノカインを分泌するこれらの能力ならびに局所細胞外基質の変質、遊離するまたは増殖するための内皮細胞の誘導および分化した毛細血管の形成による血管成長の阻害などの血管新生プロセスの各相における影響により、血管新生において最重要な役割を果たす。
【0053】
虚血性疾患の生理病理学の過程は、いくつかの組織領域における血液灌流の低下である。低灌流領域における細胞は、十分な酸素供給が不足し、したがって、これらの自然な機能を行うことができない。このような状況で、血管新生の誘発は、酸素の供給を増加させることにより活動していない細胞を救出するまたは回復させることによって、組織機能を改善することができる。
【0054】
生存可能な心筋および保存されたまたはわずかに抑制された左室機能を有する標準的な治療抵抗性狭心症患者群は、本発明の単球系統細胞に富んだ幹細胞集団の心筋内注射を使用する血管新生療法の理想的な候補である。
【0055】
われわれは、保存されたまたはわずかに抑制された左室機能を有する治療抵抗性狭心症患者、および血管新生により心筋の血流、骨髄幹細胞療法の唯一十分に確立したアウトカムおよびこの患者群の独特の特異的な必要性を増強するために、単独療法としてBMMCの心筋内の注射で非ランダム臨床試験を開始した。
【0056】
定義
本明細書では、「治療用細胞集団」は、中胚葉系統の細胞に分化することのできる単核細胞集団および幹細胞集団のいずれかまたは両方となり得る。
【0057】
「患者」という用語は、本発明による細胞を用いた、予防的治療を含めた治療が提供される動物、好ましくはヒトを表すために、本明細書で用いられる。ヒトの患者などの特定の動物に特異的であるこれらの感染症、状態または病態の治療について、「患者」という用語は、その特定の動物を意味する。「ドナー」という用語は、患者に用いるための臍帯血または臍帯血細胞を提供する個体(ヒトを含めた動物)を表すために用いられる。
【0058】
「臍帯血」という用語は、新生児または胎児、最も好ましくは、新生児から得られた血液を意味し、好ましくは、新生児の臍帯または胎盤から得られる血液を意味すために本明細書で用いられる。好ましくは、臍帯血は、ヒトの新生児から単離される。単核細胞の供給源としての臍帯血の使用は、比較的容易にかつドナーへの外傷を伴わずに得ることができるため、有利である。対照的に、骨髄細胞のドナーからの収集は、外傷的体験である。臍帯血細胞は、必要なときおよび必要ならば、自己由来移植または同種異系移植のために用いることができる。臍帯血は、好ましくは、臍帯から直接ドレナージすることによりおよび/または根および膨張した静脈での送達される胎盤からの針穿刺吸引により得られる。本明細書では、「臍帯血細胞」という用語は、臍帯血内に存在する細胞を意味する。一実施形態では、臍帯血細胞は、当業者に公知の方法を用いて臍帯血からさらに単離される単核細胞である。さらなる一実施形態では、臍帯血細胞は、患者に投与する前にさらに分化させることができる。
【0059】
「有効量」という用語は、分化剤、臍帯血細胞、前駆体もしくは前駆細胞、神経系細胞および/または神経細胞またはグリア細胞などの特定化された細胞、血液脳関門透過処理剤および/または幹細胞および/または前駆細胞を、神経系細胞、神経細胞および/またはグリア細胞などの特定化された細胞に分化するまたは神経障害または脳卒中、心臓発作、または事故犠牲者などの患者の中枢神経系への損傷を含めた病的な状態を治療することを含めた所期の結果をもたらすために、または治療しようとする患者にこれらの細胞の移植を行うために有効である他の薬剤などの、構成物の濃度または量を表すために本明細書で用いられる。本発明による組成物は、脳もしくは脊髄の良好な変化または治療される疾患もしくは状態の良好な変化をもたらすために、その変化が、治療される疾患または状態の改善(疾患または状態の変性を停止するまたは逆転させる、神経欠損を減少させるまたは神経の反応を改善させるなど)であろうと、それとも完治であろうと、組成物の中で臍帯血細胞の移植を行うために用いることができる。
【0060】
「幹細胞」または「前駆細胞」という用語は、臍帯血由来幹細胞および前駆細胞を意味するために本明細書で同義的に用いられる。幹細胞および前駆細胞という用語は、当技術分野で公知である(例えば、National Institutes of Healthによって、2001年6月に作成されたレポート、Stem Cells:Scientific Progress and Future Research Directions)。「神経系細胞」という用語は、1種もしくは複数の神経細胞のまたはグリアのマーカーのための染色などの神経細胞のもしくはグリアの表現型の少なくとも1つの指標を有する細胞であるまたは神経細胞のもしくはグリアのマーカーを示す細胞に分化する細胞である。本発明による神経細胞を同定するために用いることができる神経細胞のマーカーの例としては、例えば、とりわけ、神経細胞特異的核タンパク質、チロシンヒドロキシラーゼ、微小管結合タンパク質、およびカルビンジンが含まれる。神経系細胞という用語には、神経系前駆体細胞、すなわち、神経系細胞に分化するもしくは神経系細胞になる幹細胞および/または前駆細胞である細胞、または最終的に神経細胞のもしくはグリアのマーカーを示す細胞が含まれ、かかる用語には最終的に神経細胞および/またはグリア細胞に分化する多能性の幹細胞および/または前駆細胞が含まれる。すべての上記細胞およびそれらの後代は、本発明の目的のために神経系細胞と解釈される。神経系幹細胞は、増殖する能力、自己保持または生物の生涯にわたる再生を示す能力、およびクローン的に関連する神経系の後代を産生する能力を有する細胞である。神経系幹細胞は、発生中ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを生じさせ、成人の脳において多くの神経系細胞を代償することができる。神経系幹細胞は、本発明の目的のための神経系細胞である。「神経系細胞」および「神経細胞」という用語は、一般に、本発明の多くの態様において同義的に用いられる。本発明によるいくつかの態様で用いるための好ましい神経系細胞は、とりわけ、Musashi−1、ネスチン、NeuN、クラスIII β−チューブリン、GFAP、NF−L、NF−M、微小管結合タンパク質(MAP2)、S100、CNPase、グリピカン(特にグリピカン4)、神経ペントラキシンII、神経PAS1、神経成長関連タンパク質43、神経突起伸長伸展タンパク質、ビメンチン、Hu、インターネキシン(internexin)、O4、ミエリン塩基性タンパク質およびプレイオトロフィンなどの神経系/神経の表現型のマーカーの1種または複数を示すこのような細胞が含まれる。
【0061】
本明細書では、「幹細胞」は、適切な条件下で、分化または死滅せずに数回の分裂を経て培養される能力を有する、胚、胎児、または成人から得られた細胞である。さらに、幹細胞は、適切な条件下で、少なくとも2つの異なるタイプの細胞に分化することができる。
【0062】
本明細書では、「多能性の幹細胞」は、身体のすべての細胞が生じる異なる胚葉系統(中胚葉、内胚葉、および外胚葉)に属する少なくとも2つのタイプの細胞に分化する能力を有する。多能性の細胞は、胚から得ることができる。
【0063】
「胚性幹細胞」は、胚盤胞と呼ばれる初期(4日〜5日)の胚の一部である内細胞塊と呼ばれる細胞の群から通常得られた胚に由来した幹細胞である。胚盤胞から除去した後、内細胞塊の細胞は、任意の他の幹細胞として培養することができる。
【0064】
「成人幹細胞」は、成人から単離した幹細胞(すなわち、非胚組織)である。すべての幹細胞としての成人幹細胞は、多数の培養のラウンドを経てそれ自体の同一のコピーを作製することができる。この特性は、「自己再生」と称される。成人幹細胞は、通常、適切な条件下で前駆体または前駆細胞を産生し、次いで、例えば、血管壁を形成する細胞などの特徴的な形状および特定化された機能を有する成熟したタイプの細胞にさらに分化するまたは発達する。成人幹細胞は、例として、脳、骨髄、骨膜、末梢血、血管、骨格筋、皮膚および消化器系の上皮、角膜、歯の歯髄、網膜、肝臓、膵臓、および脂肪組織を含めた多数の組織から単離することができる。
【0065】
「投与」または「投与する」という用語は、臍帯血から得られた臍帯血細胞、またはそこから得られたより分化した細胞などの本発明の細胞は、治療目的のために患者に送達される方法を記載するために明細書中で使用される。本発明の細胞は、それだけには限らないが、本発明の細胞を必要とされる最終的な標的部位に遊走させることを可能にする用語の中でもとりわけ、非経口(かかる用語は静脈内および動脈内ならびに他の適切な非経口経路を意味する)、くも膜下腔内、脳室内、(脊髄、脳幹または運動皮質内を含めた)実質内、槽内、頭蓋内、線条体内(intrastiatal)、および黒質内(intranigral)を含めた多数の方法を投与される。本発明の細胞は、無処置の臍帯血またはその画分(かかる用語は、高濃度の幹細胞または前駆細胞を含めて、その単核の画分または単核細胞の画分を含む)の形態で投与することができる。本発明による組成物は、動員剤または分化剤による治療をせずに(「未治療の」、すなわち、臍帯血サンプル内で細胞の分化を促進するためにさらなる治療をせずに)または臍帯血サンプル内で神経のおよび/またはグリアの表現型などのいくつかの幹細胞および/または前駆細胞を分化した表現型を示す細胞に分化させる分化剤または他の薬剤による治療(「治療された」)後に使用することができる。
【0066】
単球は、全身的にまたは標的の解剖学的部位に投与することができ、それらの細胞が遭遇した生理的シグナルに応答して分化できるようになる(例えば、部位特異的分化)。あるいは、細胞は、患者の中に投与する前にex vivoで分化を起こしてもよい。
【0067】
投与は、治療される疾患または状態に依存することが多く、好ましくは、非経口経路によって、例えば、静脈内に、脳脊髄液中への投与または脳内の患部組織中への直接投与によりなされ得る。例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、およびパーキンソン病の場合には、好ましい投与経路は、線条体(尾状核被殻(caudate cutamen))内への直接移植または黒質(パーキンソン病)内への直接移植となる。筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)および多発性硬化症の場合には、好ましい投与は、脳脊髄液を通してである。リソソーム蓄積症の場合には、好ましい投与経路は、静脈内経路によってまたは脳脊髄液を通してである。脳卒中の場合には、好ましい投与経路は、脳卒中のある場所に依存するが、(MRIまたは他の画像処理技法を用いて容易に決定することができる)患部組織内に直接され得るまたは全身的に投与することができる。本発明の好ましい実施形態において、脳卒中後の個体を治療するための投与経路は、全身的であり、静脈内もしくは動脈内投与によってである。
【0068】
「移植術(grafting)」および「移植する(transplanting)」および「移植片(graft)」および「移植(transplantation)」という用語は、本発明の細胞が、患者の中枢神経系への損傷を修復する(その損傷によって引き起こされる認知もしくは行動欠損を軽減することができる)、神経変性疾患を治療するまたは脳卒中、心血管疾患、心臓発作または身体的損傷または外傷または遺伝子の損傷または事故もしくは他の活動によって引き起こされる脳および/または脊髄への環境による傷害によって引き起こされる神経損傷の影響を処置するなど、細胞が良好な効果を示すように意図されている部位に送達される方法を記載するために本明細書中で同義的に用いられる。本発明の細胞は、移植を行う適切な領域への細胞の遊走を利用して、前述した通り任意の投与のやり方によって身体の遠隔領域において送達することもできる。好ましくは、細胞は、血液脳関門透過処理剤と同時投与される。
【0069】
「非腫瘍形成性」という用語は、細胞が新生物または腫瘍を生じない事実を意味する。本発明に使用するための幹細胞および/または前駆細胞は、新形成および癌がないことが好ましい。
【0070】
「神経変性疾患」という用語は、中枢神経系への損傷によって引き起こされ、その損傷が、本発明による神経系細胞の患者の脳および/または脊髄の損傷された領域への移植によって軽減するおよび/または緩和することができる疾患を記載するために、本明細書で用いられる。本発明による神経系細胞および方法を用いて治療することができる模範的な神経変性疾患には、例えば、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、アルツハイマー病、レット症候群、サンフィリポ、ゴーシェ病、テイ・サックス病(βヘキソサミニダーゼ欠損症)を含めたリソソーム蓄積症(例えば、Folkerth、J.Neuropath.Exp.Neuro.、September 1999年、58巻:9頁に記載されている「白質病」またはグリア性/脱髄疾患)、他の遺伝性疾患、多発性硬化症、虚血、事故、環境による傷害などによって引き起こされる脳損傷または外傷、脊髄損傷、運動失調およびアルコール症が含まれる。さらに、本発明は、他の方法で患者の脳における部位への血流の不足または虚血によって引き起こされるまたは脳および/または脊髄への身体的損傷から発生している、前記患者における脳卒中または心臓発作の中枢神経系への影響を軽減するおよび/またはなくすために用いることができる。神経変性疾患にはまた、例えば、多数ある中でもとりわけ、自閉症および統合失調症などの関連する神経性疾患を含めた神経発達障害が含まれる。
【0071】
「遺伝子療法」という用語は、疾患または障害の治療上の処置のための新規な遺伝情報の細胞への導入および安定した挿入を記載するために本明細書中で用いられる。外来の遺伝子は、細胞集団によって新規な遺伝子を分散させるために増殖する細胞に導入される。したがって、臍帯血細胞、または前駆細胞は、神経系細胞表現型への分化前または分化後の遺伝子導入の標的である。本発明の臍帯血幹細胞または前駆細胞は、異種ヌクレオチド配列および異種ヌクレオチド配列を発現させる使用可能に結合したプロモーターにより遺伝子的に改変することができる。ヌクレオチド配列は、目的とする様々なタンパク質またはペプチドをコード化することができる。遺伝子的に改変された細胞によって産生された遺伝子産物は、in vitroで収穫することができるまたは細胞は、遺伝子産物のin vivo送達(すなわち、遺伝子療法)のためのビヒクルとして用いることができる。
【0072】
単球系統細胞
以下の文書による説明は、本発明の様々な態様の多くを実施するために、模範的であるが、限定しない方法論および指針を提供する。
【0073】
全体を通して論じられる様々な細胞および細胞集団は、例として、増殖特性(例えば、集団倍加能力、倍加時間、老化への継代)、核型分析(例えば、正常な核型;母体系統または新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)、(例えば、エピトープの検出のための)免疫組織化学および/または免疫細胞化学、遺伝子発現プロファイル(例えば、遺伝子チップアレイ;ポリメラーゼ連鎖反応(例えば、逆転写酵素PCR、リアルタイムPCR、および従来のPCR))、タンパク質アレイ、(例えば、血漿凝固アッセイまたはPDC条件培地の分析による、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による)タンパク質分泌、(例えば、PBMCの刺激により測定した)混合リンパ球反応、および/または他の当技術分野で公知の方法を含めた、多くの方法によって特徴付けることができる。
【0074】
単離された細胞または細胞集団は、本発明に使用するために細胞培養を開始するまたは播種するために用いることができる。かかる単離された細胞または細胞集団は、ラミニン、(未変性の、変性したもしくは架橋した)コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、および他の細胞外基質タンパク質などの細胞外基質またはリガンドでコーティングされないまたはコーティングされた無菌の組織培養容器に移すことができる。細胞は、細胞の増殖を維持することのできる任意の培養培地中で培養することができる。(当業者が、当業者に利用可能な任意の他の培地と共に、細胞または細胞集団のタイプに適するように選択することができる)かかる培地の例としては、DMEM(高もしくは低グルコース)、改良型のDMEM、DMEM/MCDB201、イーグルの基本培地、ハム(Ham)のF10培地(F10)、ハムのF−12培地(F12)、イスコブ(Iscove)のダルベッコ変法17培地、間葉幹細胞増殖培地(MSCGM)、DMEM/F12、RPMI 1640、およびCELL−GRO−FREE。培養培地は、例えば、ウシ胎児血清(FBS);ウマ血清(ES);ヒト血清(HS);β−メルカプトエタノール(BMEまたは2−ME);1種または複数の増殖因子(例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、白血球抑制因子(LIF)およびエリスロポエチン(EPO));L−グルタミンおよびL−バリンを含めたアミノ酸;および微生物汚染を制御するための1種または複数の抗生物質および/または抗真菌薬(例えば、ペニシリンG.ストレプトマイシン硫酸塩、アムホテリシンB.ゲンタマイシン、およびナイスタチンなど、単独でまたは合剤で)を含めた、細胞または細胞集団に適するような1種または複数の構成物を補充することができる。細胞は、細胞増殖を可能にする密度で培養容器に播種することができる。
【0075】
最も適切な培養培地、培地調製、および細胞または細胞集団のタイプに基づいた細胞培養技法を選択するための方法は、当技術分野において周知であり、Doyleら、(編者)、1995年、CELL &TISSUE CULTURE:LABORATORY PROCEDURES、John Wiley&Sons、Chichester;およびHo and Wang(編者)、1991年、ANIMAL CELL BIOREACTORS、Butterworth−Heinemann、Bostonを含めた、様々な情報源に記載されている。
【0076】
本発明に使用するために適当な細胞および細胞集団は、(適用可能な細胞または細胞集団に適している)細胞の増殖を刺激する少なくとも1種の因子を含む定義された増殖培地中で培養することによって拡張することができる。少なくとも1種の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、および3を含めたTGF−βファミリーのメンバー、骨形態形成タンパク質(BMP−2、−4、6、−7、−11、−12、および−13)、血清アルブミン、線維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、および−BB、多血小板血漿、インスリン成長因子(IGF−I、−II)増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−Iおよび−II(GLP−Iおよび−II)、GLP−IおよびGLP−IIミメト体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、β−メルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンIおよびII、トリエチレンペンタミンなどの銅キレート剤、フォルスコリン、酪酸ナトリウム、アクチビン、ベータセルリン、ノギン、ニューロン成長因子、結節、インスリン/トランスフェリン/セレン(ITS)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ウシ下垂体抽出物、膵島新生関連タンパク質(INGAP)、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害薬、ソニックヘッジホッグ阻害薬、またはそれらの組み合わせを含むことができる。あるいは、本発明に用いるために適当な細胞は、条件培地(すなわち、条件培地が目的とする細胞または細胞集団のために適切な可溶性因子を含むように、細胞の母集団が増殖されて細胞が培地に可溶性因子を寄与させることができた、定義された細胞培養培地)中で培養することによって拡張することができる。いくつかの実施形態において、細胞は、培地から除去され、細胞が産生する可溶性因子は残存する。その場合は、この培地は、異なる細胞または細胞集団を支持するために用いることができる。
【0077】
単球系統に従って造血発生中に、造血幹細胞はまず共通のミエロイド前駆体に分化し、次いで、骨髄芽球に分化する。骨髄芽球の後、次いで、細胞は単芽球に分化する。単芽球は、単球への分化に関係づけられるため、正確には単球系統細胞の一部である第1の細胞である。単芽球は、前単球に分化する。次いで、前単球は、単球に分化する。次いで、単球は、マクロファージまたはミエロイド樹状細胞中で単球形成を行うことができる。したがって、単球系統細胞は、単球形成によって常に単芽球で開始するすべてのタイプの細胞を含む。
【0078】
単芽球は、容易に当業者に同定可能である。単芽球は、通常、直径12〜20ミクロンである。核と細胞質との相対容積は、4:1〜3:1であり、ほとんどのミエロイド芽球と同様に、微細な染色質構造を有する円形からだ円形の核を有する。1〜4つの核小体は通常可視である。核は、中心または偏心となり得、これは弯入または折りたたみの証拠を示し得る。細胞質は、無顆粒、中程度から軽度に好塩基性に染色され、しばしば強く染色された末梢および際立った核周囲のゾーンを有する。
【0079】
単球は、同様に、当業者に容易に同定可能である。単芽球は、通常、直径13〜25ミクロンである。単球は、卵形または腎臓形である単一の大型の滑らかな明確に定義された核を有する大型の、循環する、食作用性の白血球細胞である。細胞質の広い領域は、異物を処理するための多くの内部ベシクルを有し、微細な、アズール親和性の細胞質顆粒を含む。単球は、通常、約1〜3日間血流を循環し、次いで、肺および肝臓などの身体を通して他の組織に移動する。他の組織に遊走した後、単球は、単球が移動する組織のタイプに応じてマクロファージの異なるタイプに単球形成を行う。前単球は、単球と類似しているが、前単球の核は、成熟した単球の核よりも規則的であり、核対細胞質の比はより高い。
【0080】
単球系統細胞は、当業者に利用可能な任意の方法を用いて多数の供給源から単離することができる。例としては、骨髄、末梢血および臍帯血が含まれる。被験体から直接単離することによって単球系統細胞を得ることの他に、単球系統細胞は、それだけには限らないが、造血幹細胞を含めた幹細胞の分化によって得ることができる。
【0081】
単核細胞集団
単核細胞集団は、多数の供給源から単離することができる。1つの例としては、以下の実施例において実証される密度勾配(1.0g/L〜1.1g/Lで変わり、好ましくは1.077g/L)によってである。他の例としては、骨髄、末梢血および臍帯血が含まれる。被験体から直接単離することによって単核細胞を得ることの他に、単核細胞は、それだけには限らないが、造血幹細胞を含めた幹細胞の分化によって得ることができる。
【0082】
幹細胞集団
本発明の方法に用いるために適当な幹細胞集団は、少なくとも中胚葉系統のタイプの細胞に分化することのできる幹細胞を提供することができる任意の組織から得ることができる。
【0083】
骨髄由来幹細胞は、最も研究されている2つのタイプの成人幹細胞である。現在、かかる骨髄由来幹細胞は、移植によって骨髄に様々な血液および免疫構成物を回復させるために診療所で用いられる。幹細胞の現在同定される2つの主なタイプは骨髄中で見出された。すなわち、造血幹細胞(HSC、またはCD34+細胞)は、血液および免疫細胞のすべてのタイプに分化することができ、骨、軟骨、筋肉および脂肪を形成すると通常みなされる間質(間葉)幹細胞(MSC)である。しかし、両方のタイプの骨髄由来幹細胞は、先に考えられた広範な可塑性を有することが実証されている。
【0084】
当業者は、周知であるようないくつかの方法があるため、幹細胞を単離するおよび培養するための任意の手段を用いることができる。例として、造血幹細胞は、かかる細胞の十分な供給を有する臍帯血から得ることができる。臍帯血から単離された造血幹細胞および骨髄または末梢血から単離された造血幹細胞は、移植に用いたとき本質的に等しく挙動する。さらに、胎盤および骨髄は、間葉幹細胞のための優れた供給源である。同様に、中胚葉系統細胞に分化することができる幹細胞は、(明らかに骨髄由来間葉幹細胞と全く同じ可塑性ではないが)脂肪組織に由来しており、類似の幹細胞は、他の組織に存在する可能性がある。
【0085】
幹細胞は、幹細胞に特異的であるマーカーを結合する抗体(例えば、SH2、SH3、およびSH4、米国特許第5,486,359号および米国特許第5,837,539号を参照のこと)の使用によってまたはCD4+およびCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR−1(顆粒球)、およびlad(分化した抗原提示細胞)などの望まれない細胞に特異的なマーカーを結合する抗体の使用によって多くの組織から単離することもできる。このプロトコールの例は、Izabaら、I.Exp.Med.176−1693 1702頁(1992年)において見出すことができる。
【0086】
造血幹細胞は、臍帯血、骨髄、および動員される末梢血を含めて様々な供給源から同様に得ることができる。造血幹細胞の精製は、抗体親和性手順(例えば、造血細胞に特異的であるCD34を結合するための抗体の使用)によって達成することができる。かかる抗体で細胞を単離するためのアフィニティーカラム単離手順は、Hoら、Stem Cells 13巻(補遺31:100〜105頁(1995年)において見出すことができる。また、Brenner、Journal of Hematotherapy 2巻:7〜17頁(1993年)を参照のこと。間葉幹細胞の親和性精製および培養増殖の方法はまた周知である(例えば、米国特許第5,486,359号および米国特許第5,837,539号を参照のこと)。かかる単離方法の追加の例は、米国特許第6,087,113号、米国特許第6,261,549号、米国特許第5,914,262号、米国特許第5,908,782号および米国特許第20040058412号において教示される。
【0087】
単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団
治療用細胞集団は、当業者に利用可能な任意の方法によって富化させることができる。1つの例としては、幹細胞集団の単離、次いで、単離の結果として単球中で富化させるこれらの母集団の選択が含まれる。この方法は、この富化が単核細胞集団の使用後決定されることを除いては、以下の実施例において本質的に実証される。実施例は、単球の富化が使用する前に測定され、次いで、十分な富化を有するこれらの母集団を選択するおよび/またはこれらの母集団がさらなる富化を受けやすいように、容易に改変することができる。幹細胞集団および単核細胞集団には、誘導して単球系統細胞に分化することができる細胞が含まれるため、富化の一方法には、細胞集団への(当業者に公知である)かかる分化を誘発するための1種または複数の適切な因子の付加が含まれる。富化の他の例には、誘導される単球系統細胞を細胞集団中の非単球系統細胞よりも速やかに分裂するまたは増殖するよう促進する1種もしくは複数のサイトカインまたは他の増殖因子の付加および/または単球系統細胞でない細胞の分裂または増殖を選択的に阻害する1種または複数の因子の付加が含まれる。最後に、別々に得られたまたは培養した単球系統細胞は治療用細胞集団に加えることができる。
【実施例】
【0088】
以下の実施例は、本明細書に開示した方法および組成物の代表的な使用を実証する。
【0089】
(実施例1)
単球系統細胞に富んだ単核球細胞集団の単離
骨髄単核球細胞の調製を標準的な密度勾配(1.0g/L〜1.1g/Lで変わり、好ましくは1.077g/L)によって行った。以下の実施例2で論じられる細胞の調製は、異なる量の単球系統細胞を有した。
【0090】
BMMC調製をFicoll Paque PREMIUM(登録商標)(GE Healthcare)で密度勾配分離によって行った。骨髄血液35mLを、混合物を含まずに無処置のFicoll表面張力を維持して、管当たり10mLのFicollに注意深く加えた。この手順を、患者当たり合計10本の管として9本の管で繰り返した。次いで、これらの管を350gで−ブレーキをせずに、40分間20℃で遠心した。密度分離後、単核の環(血漿/ficoll接触面)を10本の管から注意深く収集し、総管容積45mLになるように0.9%食塩水を加えながら4本の管に懸濁した。4本の管を400gで10分間20℃で遠心して、細胞を残りのFicollから分離した。上澄みを廃棄した後、すべての管から得られた単核細胞を収穫し、単一の管中で総体積40mLの0.9%食塩水と合わせた。単核細胞溶液を再び、400gで、10分間、20℃で遠心した。上澄みを再度廃棄し、細胞ペレットを0.9%食塩水10mL中で懸濁した。細胞が、適正操作規準(good manipulation practice)(GMP)の後、無菌性、生存率、および内毒素の非存在を含めたロットリリース基準を通り、適切な自動細胞カウントを行った後、細胞を0.9%食塩水プラス20%自己由来血清中で懸濁して最終濃度1×10細胞/mLで細胞生存率を維持した(自己由来血清は前もって0.22μmフィルターでろ過して汚染する細胞を除去した)。最終単核溶液を100μmフィルターに通して細胞グループを除去した。
【0091】
(実施例2)
注射された単球数対治療アウトカムの相関
次の実施例は、本明細書に記載される方法および組成物を用いて治療された患者から得られたデータを示す。
【0092】
われわれの研究の目的は、特異的BMMC処方物の単一シリーズの複数回の心筋内注射を、これらの患者のための単独外科療法として行う、独占的に設計されたプロトコールである治療抵抗性狭心症細胞療法プロトコール(ReACT)の安全性および有効性を評価することである。
【0093】
ReACTを、医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理規則(GMP)およびFDA規格基準に従って設計した。
【0094】
このプロトコールに登録された患者は、左心室機能障害を伴わない(少なくとも45%の駆出分画)および心筋の血行再建(PTCAまたはCABG)に適しない、(ストレステクネシウムシンチグラフィで診断された)生存可能な心筋、治療抵抗性狭心症を有することが必要とされる。
【0095】
治療抵抗性狭心症患者8名を、2005年9月から2007年7月まで本試験に含めた。すべての患者に、狭心症を緩和せずに1回(患者4名)、2回(患者3名)または4回(患者1名)前もって外科的血行再建を行った。患者のベースライン特性を表1に記載する。
【0096】
追加の治療抵抗性狭心症患者4名を登録し、ReACTを行ったが、同時の冠動脈バイパス移植術を必要とし、この分析から除外した。これらの患者は現在、別個の群として追跡調査されている。
【0097】
ブラジルのサンパウロ州サンパウロにある、冠動脈心疾患について推薦の第三連邦大学病院であるサンパウロ病院に定期的に通院している治療抵抗性狭心症患者を、本試験に含めた。本試験プロトコール(ReACT)は、われわれの地方および国立の倫理委員会(CEP−EPM−0314/05)によって認可され、すべての患者は文書によるインフォームドコンセントを提供した。治療抵抗性狭心症患者は、カナダ心臓血管学会狭心症分類(Canadian Cardiovascular Society Angina Classification)(CCSAC)に従って、最大限の医学療法にもかかわらず、従来の心筋の血行再建に適しないおよび生存可能な心筋が同定された、機能クラスIV(安静時狭心症)を伴う患者として定義された。経皮的または外科的な血行再建の不適格は、最も最近の(6カ月以内の)患者の冠血管造影図に基づいて少なくとも2名の心臓病専門医および2名の心血管外科医によって決定された。除外基準は、(1)経胸壁心エコー図における左室駆出分画(LVEF)<45%;(2)心臓の核画像検査における生存可能な心筋の非存在;(3)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型、B型およびC型肝炎、ヒトT細胞リンパ指向性ウイルス(HTLV)、またはシャガス病に対する陽性血清検査;(4)重大な心臓弁膜症(5)透析中の慢性腎疾患;(6)アルコールおよび薬物の乱用;(7)生存が<5年と推定される任意の他の医学上の状態;(8)以前の細胞療法試験への参加;および(9)妊娠であった。
【0098】
第I/IIa相前向き臨床試験を、1度限りの外科的手順のために行い、(実施例1に従って調製した)骨髄単核細胞を、正常なまたはわずかに抑制された左室機能を有する治療抵抗性狭心症に罹患している患者において心筋内に複数の注射部位で注射した。患者の治療抵抗性狭心症を、十分に最適化された薬理学的治療を用いた,および任意の医学的またはありそうな介入的手順(CABGおよびPTCA)を用いない、機能的なカナダ心臓血管学会狭心症分類(CCSAC)クラスIVとして厳密に定義した−「オプションなし」の患者。
【0099】
各患者について、骨髄の合計100ccを腸骨稜から吸引し、1mL当たり80U.I.ヘパリン濃度を含む食塩水中で保存した。単核細胞を密度勾配によって単離し、ReACTおよび医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理規則(GMP)に従って、10細胞/mLの最終濃度まで希釈した。細胞生存率、総単核、白血球分画およびCD34含有量、ならびに好気性菌および嫌気性菌の微生物学的検査を行った。今後の評価のためのサンプルを保存した。
【0100】
一連の左心室心筋への複数の細胞処方物注射を、以下の通り左側方開胸によって外科的に行った。すなわち、0.2mL(2×10細胞)/注射、注射間隔1cm、および1cm深さの上心筋注入である。各患者に対する注射数(40〜90)は、核画像検査、磁気共鳴画像(MRI)、シンチグラフィによる画像処理、および左室拡張で決定された、心筋の生存可能な虚血の領域の拡大に基づいて異なった。
【0101】
フォローアップ
患者の心調律を手術後48時間モニターした。CCSACの臨床評価を、手術後3、6、12、および18カ月目に行った。心エコーをベースライン時および1、3、6および12カ月目に行い、ベースライン時および6カ月および12カ月目に心臓磁気共鳴画像を行って安全性を評価した。核画像検査(テクネシウムストレス誘発心筋灌流シンチグラフィおよびMRI)を、ベースライン時および心筋虚血領域の百分率を評価する手順の後の6カ月および12カ月目に行った。虚血心臓領域客観分析(ストレスシンチグラフィ)に関して、すべての患者が、細胞処方物注射の前にストレステクネシウムシンチグラフィによって同定されたこれらの特異的な左心室壁において生存可能な心筋虚血領域を100%有するとみなされたことを指摘することが重要である。これらの可逆的な虚血心臓領域を、6カ月および12カ月のシンチグラフィによる分析フォローアップに対するベースライン比較とみなした。シンチグラフィによる分析を6カ月および12カ月フォローアップで行ったに過ぎなかった。
【0102】
統計分析
フリードマンノンパラメトリック検定を用いて、3、6および12カ月目の狭心症CCSACクラスの変化およびフォローアップの6および12カ月目の心筋虚血領域の変化を評価した。事後的な比較について、ボンフェローニの修正つきのウィルコクソン検定を用いた。アウトカム(手順後の狭心症クラスおよび心筋虚血領域)と注射数との相関をスピアマン検定によって評価した。手順前および手順後12カ月の心エコーにおける左室機能を比較するために、ウィルコクソンノンパラメトリック検定を用いた。
【0103】
以下に詳述した通り、患者の心筋灌流(またはその欠如)の改善は、単球系統細胞の用量に相関した。最も高い数の単球系統細胞を投与している患者は、狭心症クラスIV〜0までの減少を示した(CCSAC)。
【0104】
以下の表1Aは、組換え型タンパク質単独またはOMVと組み合わせた組換え型タンパク質で免疫されたヒトの被験体における完全な抗体陽転(力価≧1:4)の結果を示している。
【0105】
【表1A】

以下の表1Bは、狭心症分類における変動およびBMMC単球に富んだ処方物注入後の心筋虚血領域を示す。
【0106】
【表1B】

***すべての患者は、細胞処方物注射前にストレステクネシウムシンチグラフィによって同定されたこれらの特異的な左心室壁において生存可能な心筋虚血領域を100%有するとみなされた。6カ月および12カ月の分析は、これらの左心室壁における心筋虚血領域百分率の減少を反映する。
**カナダ心臓血管学会狭心症分類による
ストレステクネシウムシンチグラフィによる評価
ベースラインに関連した;狭心症クラスおよび虚血心筋領域における変動は、p<0.0125(0.05/4)およびp<0.025(0.05/2)(ボンフェローニの修正)の場合に統計的に有意である;月ごと:フォローアップの月
表1のデータからわかることができるように、心筋内に注射された単球数と狭心症症状の軽減または除去との間および心筋内に注射された単球数と心筋灌流の改善との間に強力な相関がある。図1は、第2の相関を図示する(すなわち、心筋灌流の改善)。さらに、この相関は、統計的に有意であり(p<0.05)、したがって本明細書に開示される通り方法および組成物の有効性を実証している。
【0107】
(ある程度は、単球系統細胞の用量にも相関する)注射の数による影響を除外するため、注射の数と心筋灌流の改善との相関を決定した。図2は、かかる相関の欠如をグラフを図示している。図2に示したように、統計的に有意な相関は観察されなかった。
【0108】
心筋虚血の主観的な改善
ReACT心筋の注射手順の後、ベースライン時クラス4からフォローアップの3カ月目クラス2.5(p=0.008)、6カ月目クラス2(p=0.008)、12カ月目クラス1(p=0.004)および18カ月目クラス1(p=0.004)までそれぞれ変わる、狭心症分類中央値の漸進的な改善があった(図3および表2)。
【0109】
以下の表2は、フォローアップにおけるBMMC単球含有量、リンパ球およびCD34+細胞と狭心症分類および%心筋虚血領域の改善との間のスピアマンの相関係数(rs)を示している。技術的な理由のため、われわれは、患者7名のみを分析し、本試験に登録された第1の患者についての細胞カウントおよび百分率を有さない。
【0110】
以下の表2は、フォローアップにおけるBMMC単球含有量、リンパ球およびCD34+細胞と狭心症分類および%心筋虚血領域の改善との間のスピアマンの相関係数(rs)を示している。技術的な理由のため、われわれは、患者7名のみを分析し、本試験に登録された第1の患者についての細胞カウントおよび百分率を有さない。
【0111】
【表2】

カナダ心臓血管学会狭心症分類による
ストレステクネシウムシンチグラフィにより評価された改善
カ月:フォローアップの月数
心筋虚血の客観的な改善
虚血心筋領域の漸進的な縮小を、6カ月後(39.4%の減少、p=0.06)および12カ月後(84.4%の減少、p<0.004)に、ストレステクネシウムシンチグラフィによって観察されたが、この差は12カ月目においてのみ統計的に有意であった。すべての患者は、細胞処方物注射前にストレステクネシウムシンチグラフィによって同定されたこれらの特異的な左心室壁において生存可能な心筋虚血領域を100%有するとみなされたことに留意することが重要である。これらの初期の可逆的な虚血の心臓領域を、6カ月および12カ月のシンチグラフィによる分析フォローアップと比べたときベースラインとみなした(図4および表2)。
【0112】
ReACTの処方物と改善との相関
ReACTは、単球のいくつかの百分率を有し、その特異的な処方物は、臨床での反応;特に、CCSACの改善と正に相関する(表3)。
【0113】
リンパ球またはCD34+細胞などの他のタイプの細胞は、CCSACまたは心筋虚血領域の改善と相関を示さない。
【0114】
本試験の結果は、ReACTが従来の心筋の血行再建に適さず、最大限の医学療法にかかわらず狭心症の徴候を示す治療抵抗性狭心症患者に有益となり得ることを実証している。われわれの知見は、狭心症症状の改善および心筋虚血の程度の減少を実証している。この改善のありそうな原因のメカニズムは、ReACT処方物の血管新生の特性となり得る。
【0115】
われわれの試験において、狭心症症状の緩和は、早くも手順後3カ月に始まり、その12番目の月まで改善し続け、18番目の月まで改善を持続し、血管新生が早期に始まり、手順後18カ月で進展し続けたことを示唆している(表2および図3を参照のこと)。さらに、症状の緩和が、すべての患者において順次改善したため、これは、効果が持続性であり一時的なものでなく、他の研究(6)と異なる結果であることを示唆している。したがって、心筋虚血の百分率は、減少傾向を示し、最終的に12カ月目に有意に達した。症状改善が灌流改善よりも早期に起こったという事実は、特に、このような小規模の患者群における小さな変化を検出しないようにする、核画像検査の低空間分解能および高可変性によって説明することができる。
【0116】
治療抵抗性狭心症の自然経過は、さらに重症の狭心症の自然寛解が起こり得ることを示している(9、31、54、60)。ランダム化試験の医学的に治療された群を見てみると、経皮的な心筋のレーザー血行再建試験に含まれた患者の0〜19%と外科的心筋のレーザー血行再建試験の0〜32%は、12カ月にわたってCCSACにおける少なくとも2つのポイントの改善を有し、3年で0〜44%であった(38)。われわれの結果は、明確な心筋灌流ストレス試験によって強化された、より説得力のある、より大きなCCSACの改善を示している。
【0117】
治療抵抗性狭心症試験には、主に中等症から重症の左心室機能障害を伴う患者が含まれた(13、41、57)。その結果、われわれの結果は、左室駆出分画(LVEF)の利益ではなく、狭心症症状および生活の質のより良い改善を示した。われわれの試験において、すべての患者は、ベースライン時にLVEF≧45%を有し、予想通り、12カ月目にLVEFにおいて有意な変化はなかった(p=0.726)。これらの知見はまた、直接の幹細胞注入に関連した血管新生を示唆し、心筋の穿刺が第2の血管新生を促進しないことを示唆している。他方では、持続性のLVEFは、心筋灌流の改善と同様に、手順の安全性を強化している、心筋内のReACT注射によって促進された心筋壊死または線維症による機能的な欠損がないことを示唆している。
【0118】
生存可能な心筋および保存された左室機能を有する標準的な治療抵抗性狭心症患者群は、ReACT心筋内注射を使用する血管新生療法の理想的な候補になるはずである。明らかな理由から、LVEFの分析は、この群のエンドポイントではない。主要な治療目標は、主観的な(CCSAC)および客観的な(ストレス誘発心筋画像試験)展望におけるReACT処方物を用いた心筋灌流の改善である。
【0119】
他の試験(12、57)と異なり、ReACTは、臨床的反応およびシンチグラフィによる反応、すなわち、狭心症分類の改善および心筋虚血領域の縮小とそれぞれ相関すると思われる、特異的な細胞処方物を有する。CCSAC(主観的な測定)の改善、続いて心筋虚血領域の相関した縮小(客観的な測定)は、主な幹細胞の作用機序としての血管新生を強く示唆している(図3および4)。その結果、ReACTにおいて示された単球の大型の画分は、細胞移植後に心筋虚血領域において灌流を回復する血管新生に関連していると思われる。機序は、まだ解明されておらず、本試験の次の相で分析される。それにもかかわらず、単球数と臨床的反応の改善との間の有意な相関(r=−0.759、p<0.05)は、本発明においてReACTの細胞に関連する効果を強く支持する。
【0120】
ReACTにおける単球数と狭心症クラスにおける持続性の改善との間のこの正相関は、BMMC幹細胞の作用機序のためのこれらの支持細胞および持続性の心筋血管新生の重要性を示し得る。また重要なこととして、これらの結果は、本試験の結果がReACT処方物の細胞の影響によるものであり、ReACT手順の非特異的な影響によるものではないという仮説を支持している。今後の対照試験によってさらに明確になるであろう。
【0121】
骨髄は、血管新生および炎症過程の制御に関与する広範囲のサイトカインの天然の供給源である。骨髄白血球は、血管新生のメカニズムにおいて重要な役割を果たしており、好中球および単球は、この過程における鍵として働く(10、24、29、47)。
【0122】
骨髄単球または前単球は、走化性の刺激に応答して活性化し、マクロファージへの最終分化を行うことができる。マクロファージは、プロテアーゼ、増殖因子、モノカインを分泌するこれらの能力によって血管新生において最重要な役割を果たし、局所の細胞外基質の変質、遊離するまたは増殖する内皮細胞の誘発、および分化した毛細血管の形成による脈管の増殖の阻害を含めた、血管新生の過程の各相に影響を与える(5、10、46、51)。
【0123】
心筋の再生を促進するための幹細胞の最適な数または処方物は、異なる研究者の間で意見が分かれたままであり、これらのほとんどは用量依存的な効果がないことを示している(18、20)。Iwasakiら(25)は、実験的急性心筋梗塞を伴うラットにおいて注射された幹細胞の数と心筋の再生との間の正相関を実証した唯一の試験の1つを行った。Henningら(23)は梗塞したラットにヒトの臍帯血由来骨髄幹細胞を注射し、異なる用量および投与経路(心筋内、冠動脈内または静脈内)を比較し、心筋内注射によるより高い有効性を実証した。われわれの試験において、われわれらは、ReACT、2×106BMMC処方物を含む単一シリーズの複数回の注射/心筋穿刺を行った。経時的に注射数と狭心症分類の変動との相関はなかったが、試験母集団はおそらく任意の有意な関連性が少なすぎて達成できず、ReACTプロトコールは継続するよう設計されるため、今後のデータはこれを確認することができるまたはできない。
【0124】
細胞処方物送達の心筋内の経路を、冠動脈内(順行性または逆行性注射)または冠血管間などの他の経路と比較して、心筋内注入によるより高い心筋の幹細胞の取り込みを示す実験データに基づいて選択した(33、42、50)。また、治療抵抗性狭心症の慢性の臨床的特徴は、急性の状況(急性心筋梗塞)における心筋内注射と同様に、主な合併症の懸念がなく、心筋内の手法のより安全なプロファイルを提供する。ある試験が、急性心筋梗塞における心内膜心筋注射の安全性および実行可能性を分析したPerinら(42)によって行われた。生命を脅かす合併症はなく、この方法は安全と思われた。それにもかかわらず、われわれが急性不安定心筋への直接の心筋内注射を考慮する場合、かなりの不整脈リスクは除外することができない。
【0125】
われわれは、われわれの試験が有望であるが、いくつかの制限を有することを理解していることを指摘することが重要である。われわれの研究は、ほとんどの発表された治療抵抗性狭心症試験よりもかなり長期のフォローアップ時間を有するより多数の患者を含んだが、8名の患者の小型のサンプルサイズにより、有効性の決定が困難になったが、安全性を実証することができている。倫理的な面およびこの母集団中の単離された外科的心筋内のプラセボの使用を正当化することができないことにより、これは非ランダム、オープン試験であった。その結果、プラセボ効果は除外することができない。しかし、心筋灌流の客観的な増加をも経時的に評価し維持したことは強調すべきである。
【0126】
他の臨床試験は、われわれの結果をいまだ必要としている。しかし、技術仕様書およびGMP仕様書によるこのReACT手順の有効性ならびにReACTの特異的な細胞調製は、他の研究者らによって以前に報告されたよりも良好なアウトカムを提供すると思われる。
【0127】
結論として、標準化されたプロトコールにおける自己由来の骨髄由来細胞調製の外科的心筋内移植は、治療抵抗性狭心症を伴う患者の漸進的なおよび持続性の改善を促進する上で安全かつ有効な手順となり得る。
【0128】
参考文献
以下は、実施例2および背景技術の項で引用した参考文献である。
【0129】
【数1】

【0130】
【数2】

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【数3】

【0132】
【数4】

【0133】
【数5】

【0134】
【数6】

(実施例3)
脳虚血のための単球
分子生物学技法
当技術分野で公知であり、特に記載されてない標準的な分子生物学技法を、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory、New York(1989年、1992年)、およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、Baltimore、Maryland(1989年)にある通りに一般に採用している。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、次のPCRプロトコール、すなわち、A Guide to Methods and Applications、Academic Press、San Diego、California(1990年)にある通りに一般に実施する。他の核酸技法に関する反応および操作を、別段の記載がない限り、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory Press、および米国特許第4,666,828号;米国特許第4,683,202号;米国特許第4,801,531号;米国特許第5,192,659号;および米国特許第5,272,057号に記載され参照により本明細書に組み込まれる方法論に一般に記載されている通りに実施する。フローサイトメトリーと組み合わせたin situ PCRは、特異的なDNAおよびmRNA配列を含む細胞の検出に用いることができる(例えば、Testoniら、Blood、1996年、87巻:3822頁を参照のこと)。
【0135】
当技術分野で公知であり、特に記載されてない免疫学の標準的な方法を、Stitesら(編者)、Basic And Clinical Immunology、第8版、Appleton&Lange、Norwalk、CT(1994年);およびMishell and Shigi(編者)、Selected Methods in Cellular Immunology、W.H.Freeman and Co.、New York(1980年)にある通りに一般に採用している。
【0136】
イムノアッセイ
一般に、イムノアッセイを使用して、細胞表面マーカーなどのためなどの検体を評価する。免疫細胞化学的アッセイは、当業者に周知である。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は両方ともアッセイに用いることができる。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)などの適切な他のイムノアッセイの場合は、当業者に公知であるものとして用いることができる。利用可能なイムノアッセイは、特許および科学文献に広範に記載されている。例えば、米国特許第3,791,932号;米国特許第3,839,153号;米国特許第3,850,752号;米国特許第3,850,578号;米国特許第3,853,987号;米国特許第3,867,517号;米国特許第3,879,262号;米国特許第3,901,654号;米国特許第3,935,074号;米国特許第3,984,533号;米国特許第3,996,345号;米国特許第4,034,074号;米国特許第4,098,876号;米国特許第4,879,219号;米国特許第5,011,771号;および米国特許第5,281,521号ならびにSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor、New York、1989年を参照のこと。多数の他の参考文献も、これらの教示のために利用することができる。
【0137】
抗体産生
抗体は、モノクローナル、ポリクローナル、または組換え型となり得る。好都合には、抗体は、免疫原またはその免疫原性の部分、例えば、配列に基づいた合成ペプチドなどに対して調製しても、またはクローン化技法により組換えで調製してもよい、あるいは、天然の遺伝子産物および/またはその部分は単離し、免疫原として用いることができる。免疫原は、一般に、Harlow and Lane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Springs Harbor、New York(1988年)およびBorrebaeck、Antibody Engineering−A Practical Guide by W.H.Freeman and Co.(1992年)に記載される当業者に周知の標準的な抗体産生技術によって抗体を産生するために用いることができる。抗体フラグメントは、抗体から調製することもでき、これには当業者に公知の方法によってFabおよびF(ab’)2が含まれる。ポリクローナル抗体を産生するために、ウサギまたはヤギなどの宿主を、一般にアジュバントと共に、必要なら、担体に結合させて、免疫原もしくは免疫原性フラグメントで免疫し;免疫原に対する抗体を血清から収集する。さらに、ポリクローナル抗体は、単一特異性であるように吸収することができる。すなわち、交差反応性抗体を単一特異性にする血清からそれを除去するために、血清は、関連する免疫原に曝露することができる。
【0138】
モノクローナル抗体を産生するために、適当なドナーを、免疫原、一般にマウスで過免疫し、脾臓の抗体産生細胞を単離する。これらの細胞を骨髄腫細胞などの不死の細胞に融合して、不死であり、必要とされる抗体を分泌する融合した細胞ハイブリッドを提供する。次いで、細胞を培養し、モノクローナル抗体を培養培地から収穫する。
【0139】
組換え型抗体を産生するために、動物の抗体産生B−リンパ球またはハイブリドーマから得られたメッセンジャーRNAを逆転写して、相補的DNA(cDNA)を得る。完全長または部分的な長さとなり得る抗体cDNAを増幅し、ファージまたはプラスミドにクローン化させる。cDNAは、リンカーによって分離したまたは結合した、部分的な長さの重鎖および軽鎖cDNAとなり得る。抗体、または抗体フラグメントは、適当な発現系を用いて発現される。抗体cDNAは、適切な発現ライブラリをスクリーニングすることによって得ることもできる。抗体は、固体担体基質に結合させることができるまたは検出可能な部分と接合することができる、あるいは当技術分野で周知であるように結合し接合することができる。(蛍光または酵素部分の接合の一般的な考察について、Johnstone&Thorpe、Immunochemistry in Practice、Blackwell Scientific Publications、Oxford、1982年を参照のこと)。抗体の固体支持基質への結合はまた、当技術分野で周知である。(一般的な考察について、Harlow & Lane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Publications、New York、1988年およびBorrebaeck、Antibody Engineering− A Practical Guide、W.H.Freeman and Co.、1992年を参照のこと)。本発明で考えられる検出可能な部分は、それだけには限らないが、蛍光、金属、酵素および放射活性マーカーを含むことができる。例としては、ビオチン、金、フェリチン、アルカリ性ホスフェート(alkaline phosphate)、ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ウレアーゼ、フルオレセイン、ローダミン、トリチウム、14C、ヨウ素化および緑色蛍光タンパク質が含まれる。
【0140】
遺伝子療法
本明細書では、遺伝子療法は、遺伝のもしくは後天性の疾患または状態を治療するまたは予防するための、目的とする遺伝物質(例えば、DNAまたはRNA)の宿主への移動を意味する。目的とする遺伝物質は、in vivo産生が望まれる産物(例えば、タンパク質、ポリペプチド、およびペプチド、機能性RNA、アンチセンス)をコード化する。例えば、目的とする遺伝物質は、治療価値のあるホルモン、受容体、酵素ポリペプチドまたはペプチドをコード化する。あるいは、目的とする遺伝物質は、自殺遺伝子をコード化する。総説については、Advances in Pharmacology、Academic Press、San Diego、California、1997年の「Gene Therapy」を参照のこと。
【0141】
移植のための細胞の投与
本発明の単球は、個々の患者の臨床的状態、投与の部位および方法、投与スケジュール、患者の年齢、性別、体重および医師に公知の他の因子を考慮して、医学に関する基準(good medical practice)に従って投与し投薬することができる。したがって、本明細書で目的のための薬学的に「有効な量」は、当技術分野で公知である通りかかる考察によって決定される。この量は、生存率の改善またはより速やかな回復、または症状の改善もしくは除去および当業者によって適切な手段として選択される他の指標を含むがそれだけに限らない改善を達成するために有効でなければならない。
【0142】
本発明の方法において、本発明の単球は、静脈内および動脈内投与、くも膜下腔内投与、脳室内投与、実質内、頭蓋内、槽内、線条体内、および黒質内投与を含めた非経口を含むがそれだけには限らない、中枢神経系中のインプラントに適するはずである様々なやり方で投与することができる。場合によっては、臍帯血細胞を、免疫抑制薬と併せて投与する。
【0143】
有効量の臍帯血細胞を含む医薬組成物はまた、本発明によって考えられる。これらの組成物は、場合によっては、薬学的に許容される担体、添加物または賦形剤と組み合わせて有効な数の細胞を含む。本発明のいくつかの態様では、細胞を、無菌の食塩水中の移植を必要とする患者に投与する。本発明の他の態様では、これらの細胞を、pH7.4のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)またはIsolyte S中で投与する。他の手法は、無血清細胞培地の使用を含めて用いることもできる。細胞の患者への全身投与は、いくつかの指示において好ましい可能性があり、患部組織および/または損傷した組織の部位でのまたは近接における直接の投与が他の指示において好ましい可能性がある。
【0144】
本発明による医薬組成物は、好ましくは、一般に、溶液中で、場合によっては、薬学的に許容される担体、添加物または賦形剤と組み合わせて、約1.0×10細胞〜約1.0×10細胞、より好ましくは約1×10〜約1×10細胞、さらにより好ましくは約2×10〜約8×10細胞の範囲内の有効な数を含む。
【0145】
好ましくは、単球を血液脳関門透過処理剤と共に投与する。一実施形態では、細胞を、患者に投与する前に透過処理剤と組み合わせる。他の実施形態では、細胞を、透過処理剤とは別々に患者に投与する。場合によっては、細胞を透過処理剤と別々に投与する場合、細胞および透過処理剤の投与において時間的な隔たりがある。時間的な隔たりは、時間内の約1分未満から時間内の約数時間または数日の範囲となり得る。最適なタイミングおよび投与順序の決定は、当業者によって容易におよび定期的に決定される。
【0146】
本出願全体を通して、様々な特許公報を参照している。これらの特許公報およびこれらの特許公報中で引用したこれらの参考文献のすべての開示は、本発明が関係する現況技術をより十分に記載するために、その全体が参照により本出願に組み込まれる。以下の例は、本発明の特許請求の範囲を限定するものではないが、いくつかの実施形態の模範となることを多少意図している。当業者に見出される、例示される方法における任意の変形法は、本発明の範囲内に属するものである。
【0147】
単球/マクロファージのある興味深い機能は、炎症反応に関連する血管新生を促進することである。血管新生(または新生脈管形成)は、その後の修復カスケードを含めた炎症過程の主な要素である[Sunderkotter、1994年 #4]。初期の炎症過程中、循環血液単球は、組織中に血管外遊出する[Bosco、2008年 #3]。最初に、隣接した内皮細胞および炎症細胞は、血管壁に通されるこの単球を、一連の接着および走化性物質を放出することによって調節する[Baggiolini、2000年 #9;Imhof、2004年 #2;Bosco、2008年 #3]。正常な組織と傷害された組織との間の走化性および酸素勾配に従って、血管外遊出した単球は、組織マクロファージに分化する前の患部組織の低酸素性および/または壊死性コアに移動するまたは集合する。単球/マクロファージが蓄積しやすい代表的な病的組織は、以下の通りである。固形腫瘍、心筋梗塞または脳梗塞、慢性関節炎の滑膜性の連結またはじゅく状斑、細菌感染症、および治癒する創傷[Baggiolini、2000年 #9;Murdoch、2004年 #1;Bosco、2008年 #3;Mantovani、2002年 #15](図1)。
【0148】
単球から分化後、組織中のマクロファージは、分極された集団、M1およびM2サブセットとして存在することが公知である[Mantovani、2004年 #67;Sica、2006年 #16;Mantovani、2004年 #67;Mantovani、2002年 #15]。M1分極マクロファージが炎症誘発性のサイトカインを産生し病原体を貪食する強力な炎症細胞であり、一方、M2マクロファージは、炎症反応を変調し、血管新生および組織修復に役立つ[Mantovani、2004年 #67;Sica、2006年 #16;Mantovani、2004年 #67;Mantovani、2002年 #15]。興味深いことに、マクロファージの遺伝子発現において、創傷治癒中に早期にM1およびM2サブセットを組み合わせると、その後優性にM2遺伝子に変わる[Deonarine、2007年 #68]。創傷治癒過程の早期の段階中、M1マクロファージは、創傷および微生物および/または傷害された宿主組織の残骸を浄化する直接的な炎症反応を生じ、組織修復および血管新生は、同時にM2マクロファージによって開始される。後の段階において、M1マクロファージによる洗浄がほとんど終了するとき、支配的なM2マクロファージは、これらの作業である血管新生を含めた組織再生を進行させる[Deonarine、2007年 #68]。蓄積されている証拠は、動員された単球/マクロファージが虚血組織、腫瘍、ならびに関節炎の関節およびアテローム性動脈硬化症などの慢性炎症における新生脈管形成を変調し調節するのを助けることを示唆している。
【0149】
虚血における血管新生
近年では、新生脈管形成における循環する単球/マクロファージの重要性は、虚血性疾患において実証されている[Shireman、2007年 #23;Herold、2004年 #33;Capoccia、2008年 #32]。事前に確立されたクモの巣状の細動脈の、真性の有効な側副動脈への構造的な増殖である、動脈新生は、発現している側副動脈中のおよび組織低酸素および虚血によって誘発されない動脈の閉塞によって生じる、液体ずり応力(fluid shear stress)の増加によって開始されると思われる[Ito、1997年 #41;Heil、2006年 #19]。対照的に、既存の血管からの新規な毛細血管の形成である、血管新生は、低酸素によって誘発され、毛細血管の密度は重症および急性虚血の部位で高くなる[Scholz、2002年 #20;Ito、1997年 #41]。
【0150】
動脈新生および血管新生は、どちらも異なる機序によって新生脈管形成を誘発し、単球/マクロファージは、両方の作用に本質的に寄与する。動脈新生において、塞栓または進行性の狭窄によって生じる急激な動脈の流れの閉塞によって、クモの巣状の細動脈、続いて内皮の接着分子などの接着分子およびケモカインにおける液体ずり応力を増加させ[Nagel、1994年 #21]、単球走化性タンパク質−1(MCP−1)[Eischen、1991年 #22]は有意に増加する。血液単球は、活性化され、MCP−1により側副動脈に吸引される。その後、血液単球は、接着分子への結合によって血管壁を通過するかつ/または多くの増殖因子およびサイトカインを産生する前に組織マクロファージに分化し[Sunderkotter、1994年 #4]、これは、内皮細胞および平滑筋細胞増殖を促進することができる[Heil、2006年 #19;Shireman、2007年 #23]。
【0151】
血管新生は、より入り組んだ過程の組み合わせであり、その多くは、血管内皮増殖因子(VEGF)および血管新生を開始することが公知であるその受容体(VEGFR)によって調節される[Shireman、2007年 #23]。最近のデータによれば、アンジオポエチン(Ang−1および2)およびそれらの受容体(Tie)の一部のサブセットは、血管の成熟、安定化、およびリモデリングなどの血管新生過程の第2の段階に重要であることを示唆している[Thurston、2003年 #57]。低酸素および組織壊死は、VEGF/VEGFRおよびアンジオポエチン/Tie受容体の産生にかなり影響を与える[Milkiewicz、2006ら #24;Zhang、2005ら #56;Beck、2000ら #58;Murdoch、2007 #59]。また、VEGFおよびアンジオポエチンは、内皮前駆細胞および単球/マクロファージの動員を誘発する[Tammela、2005年 #25;Murdoch、2007年 #59]。
【0152】
動員された単球/マクロファージは、以下のいくつかの潜在的な機序によって血管新生を促進する。まず、マクロファージは、マトリックスメタロプロテアーゼおよびタンパク質分解酵素を用いて細胞外基質を分解し、内皮細胞遊走をもたらす[Moldovan、2005年 #26]。細胞外基質による経路を介して、増殖因子および内皮細胞は、確立された血管から遊走されて新規な毛細血管を形成する[Shireman、2007年 #23]。
【0153】
第2に、単球/マクロファージは、内皮細胞増殖、遊走、または管形成を促進する作用を直接的または間接的に有する[Shireman、2007年 #23;Sunderkotter、1994年 #4]、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、VEGF、インターロイキン−8(IL−8)、サブスタンスP、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−αおよび−β、およびプロスタグランジンなどの多くの血管新生促進サイトカインを放出する[Sunderkotter、1994年 #4;Moldovan、2005年 #26]。血管新生促進因子と同様に、単球/マクロファージは、トロンボスポンジン(thrombospodin)1、インターフェロン−αおよび−γなどの血管新生抑制サイトカインを放出することもできる[Sunderkotter、1994年 #4]が、抑制性サイトカインのその産生は、血管新生促進因子によって調節される。例えば、IL−12などは、Ang−2を増加することによって抑制される[Murdoch、2007 #59]。
【0154】
第3に、単球/マクロファージは、血管壁産生に直接役立つ、内皮細胞に分化することができる[Moldovan、2005年 #26;Moldovan、2000年 #28;Anghelina、2006年 #27]。特異的な血管新生促進因子を刺激して、単球/マクロファージ前駆体は、新たな血管に直接組み入れられる内皮様細胞に分化転換することができる[Schmeisser、2003年 #30;Schmeisser、2002年 #29;Shireman、2007年 #23;Hoenig、2008年 #31]。
【0155】
第4に、VEGFまたは低酸素への曝露によって、内皮細胞は、MCP−1[Marumo、1999年 #34;Lakshminarayanan、2001年 #35]ならびにVEGF[Moldovan、2005年 #26]およびアンジオポエチン[Murdoch、2007年 #59]を産生し、それらすべては、単球/マクロファージを活性化し誘引する[Shireman、2007年 #23]。逆に、単球/マクロファージは、Tie−2(アンジオポエチン受容体)をアップレギュレートするだけでなく[Murdoch、2007 #59]、それらが低酸素によって活性化されるときに、自己分泌および傍分泌作用によって内皮細胞、さらにはそれ自体に影響を与え、続いて、血管新生過程への効果を倍加させる、MCP−1およびVEGFを分泌する[Ferrara、2004年 #60]。
【0156】
腫瘍における血管新生および慢性炎症
ここ数十年間、腫瘍性組織がマクロファージによってのみ新生脈管形成を示し[Mostafa、1980 #64]、単球が枯渇した動物が腫瘍血管新生のかなりの減少を示した[Evans、1977 #63]ため、腫瘍細胞自体と共に、単球/マクロファージは、血管新生および腫瘍の進行において主な役割を果たしているという証拠を蓄積している[Sunderkotter、1994年 #4]。腫瘍組織中のマクロファージの数は、ほとんどの正常組織よりも多い[Gouon−Evans、2002年 #79]。組織マクロファージそのものの増殖ではなく、循環する単球からの動員および分化の増大は、腫瘍組織中でマクロファージを増加させる可能性が高い[Mantovani、2002年 #15;Schmid、2007年 #13]。腫瘍細胞および中枢性低酸素によって誘発される炎症誘発性サイトカインは、腫瘍性の壊死および増殖の部位に単球/マクロファージを誘引する[Pugh−Humphreys、1992年 #44;Coussens、2002年 #78]。
【0157】
とりわけ、単球/マクロファージは、動員されて、腫瘍増殖および進行に重要である新生脈管形成を促進するようである。ほとんどの腫瘍では、腫瘍に関連するマクロファージ(TAMs)のかなり多くは、腫瘍細胞を死滅させるM1サブセットに比べて、血管新生を増強する、M2マクロファージ分集団のものである[Sironi、2006年 #17;Mantovani、2002年 #15;Sica、2006年 #16]。M2TAMは、VEGF、TNF−α、IL−8、TGF−βおよびbFGFなどの大量の血管新生促進因子[Mantovani、2002年 #15;Sica、2006年 #16;Murdoch、2004年 #1;Nozawa、2006年 #18;Schmid、2007年 #13;Mantovani、2004年 #67]、および細胞外基質を分解することができるが、血管新生のための内皮細胞の遊走をもたらす[Moldovan、2005年 #26;Schmid、2007年 #13]、広範なタンパク質分解酵素[Nozawa、2006年 #18]を分泌する。重要なことに、TAMと血管の密度との有意な相関は、結腸癌[Oosterling、2005年 #10]、乳癌[Leek、2002年 #12]、および膵癌[Esposito、2004年 #11]において観察され、TAMが腫瘍血管新生を増強することを示唆している[Schmid、2007年 #13]。さらに、強力なTAM動員は、一部の腫瘍タイプにおける予後の悪さにかなり関連する[Leek、2002年 #12;Oosterling、2005年 #10].
血管新生はまた、慢性炎症性疾患に寄与する。慢性炎症性状態は、連続的に炎症細胞を送達し、酸素および栄養分を炎症の領域に供給する、新たな血管形成のために維持されることができる[Jackson、1997年 #37]。慢性炎症に関連する新生脈管形成の機序および特性は、虚血または腫瘍によって誘発される血管新生と異ならない。血管新生を調節することが公知であるほとんどのサイトカインおよび増殖因子は、単球/マクロファージによって産生することができる[Sunderkotter、1994年 #4]。関節リウマチにおけるパンヌス形成およびアテローム性動脈硬化症におけるじゅく状斑形成中、増殖する炎症性の組織は、いくつかの炎症細胞、特に単球/マクロファージ、新たに形成する血管および誘発された炎症媒介物質を含む[Jackson、1997年 #37]。最終結果は、血管新生が虚血、腫瘍および慢性炎症性疾患ならびに創傷治癒などの病的な状態を含めて異常な環境で発生している場合、単球/マクロファージの増加は、ほとんどの炎症性領域で観察することができるということである[Wagner、2008年 #38;Jackson、1997年 #37;Sunderkotter、1994年 #4;Hunt、1984年 #39]。
【0158】
移植のための単球対幹細胞
いくつかの研究は、虚血性疾患モデルにおける主として動脈新生および/または血管新生についての単球/マクロファージの治療可能性を探索するために行われている[Buschmann、2001年 #42;Heil、2002年 #43;Herold、2004年 #33;Ito、1997年 #45;Hirose、2008年 #65]。動脈新生および血管新生について、単球は、側副血管増殖、それに続く組織再生の促進に向けた、細胞に基づく療法のための標的細胞として、新規であり魅力的となり得、局所的な組織の虚血を減弱し臨床成績を向上することができる[Sasayama、1992年 #40;Krupinski、1994年 #54]。内在性単球から得られた新生脈管形成は、MCP−1[Ito、1997年 #45]、または顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)[Buschmann、2001年 #42]の注入により直接誘発することができる、あるいは5−フルオロウラシルの投与後に反跳作用によって間接的に誘発することができ[Heil、2002年 #43];これらの物質のすべては、側副動脈へのホーミングおよびその周囲への蓄積、または内在性単球の増殖を促進することができる。
【0159】
さらに、新生脈管形成は、ex vivoエンジニアリングを用いてまたは用いずに外来の自己由来もしくは同種異系の単球の移植によって達成することができる。単球の末梢血からの単離のために有効な方法を開発することによって[Herold、2006 #46;Gonzalez−Barderas、2004年 #47;de Almeida、2000年 #48;Repnik、2003年 #49]、適当な自己由来単球系統は収集することができる。末梢血は限られた数の単球を産生するが、単球系統は、白血球除去(leucapharesis)により被験体の末梢血から自己由来単球の収穫を繰り返すことによって、将来用いるための適切な細胞量になり得る[Herold、2006 #46]。ex vivo組織エンジニアリングの進歩は、例えば、新生脈管形成を促進するためのGM−CSFの送達などの治療遺伝子形質移入のためのビヒクルとして[Herold、2004 #33]ならびに細胞移植のための直接のエフェクターとして単球を用いた新たな戦略をもたらす。細胞単離から適用までのこうした技術的な開発は、単球を再生医学について、特に、動脈新生および血管新生の増強に関して、より有望にするべきである。
【0160】
幹細胞に比べて単球移植(表1)のいくつかの利点があり得る。第1に、前駆体/幹細胞と違って、単球は自己再生し増殖する能力を有さず、したがって、細胞移植による腫瘍形成の可能性を減少させる。第2に、単球が特定の組織に移植されるまたは遊走される場合、単球はその組織において望まれない影響を及ぼし得る他の細胞系統に分化することができない。第3に、胚および胎児の組織と違って、単球は、出生時および成人の末梢血または骨髄から容易に収集することができるため、調達および移植に関する倫理的および道徳的な問題がない。第4に、単球移植は、ヒト白血球抗原(HLA)不適正宿主において同種異系の白血球輸血またはBM移植後にしばしば起こる、移植片対宿主病(GvHD)などの免疫反応を避けることができる。GvHDは、抗原性の異なる宿主組織(レシピエント細胞)を検出した後に移植片(ドナー細胞)中のT−細胞の活性化から生じる免疫反応である[Brichard、2001年 #75]。活性化したドナーT−細胞は、大量の細胞毒性および炎症性サイトカインを産生し、宿主組織を攻撃する。GvHDに関して、HLA適合にかかわらず、単球画分単独の移植は、必ずリンパ球を含む、BMまたはGM−CSFに動員された末梢血の単核の画分の移植よりもかなり安全である。最後に、単球/マクロファージは、他の組織再生ならびに血管新生を直接促進することができるいくつかのサイトカイン、増殖因子および栄養性物質を分泌することができる[Sunderkotter、1994年 #4]。例えば、VEGFは、神経発生を刺激できることが公知である[Jin、2002年 #55;Teng、2008年 #61]。
【0161】
臍帯血から得られた単球
単球は、ヒトの末梢血白血球の〜5〜10%を構成し[Gordon、2005年 #72;Mielcarek、1997年 #74]、これらの細胞はBM単核細胞の2%を含む[Mielcarek、1997年 #74]。対照的に、臍帯血(UCB)と成人の末梢血との間で単球含有量の差はないと報告されている[Sorg、2001年 #73;Mills、1996年 #71]。したがって、BMおよびUCB、ならびに末梢血は、自己由来または同種異系の単球/マクロファージの供給源として潜在的な候補となり得る。実際に、BMおよびUCBは、悪性および非悪性血液疾患における骨髄破壊的療法後に血液系統を再構成するために用いる造血前駆細胞の現在の金標準的な供給源である。しかし、細胞に基づく療法のためのこれらの幹細胞集団の潜在能力はまた、他の変性障害、特に虚血性疾患において実証されている。直接の局所移植または血液への注射による骨髄幹細胞または臍帯血幹細胞の虚血の領域への送達は、病的な病変および機能的な障害を改善することができることの証拠が蓄積されつつある[Henning、2007年 #70;Chen、2003年 #51;Willing、2003年 #52;Newcomb、2007年 #26;Chang、2007年 #143]。虚血のおよび/または虚血周囲のコア中の幹細胞がこれらの血管新生の効果に影響を及ぼす機序が完全に理解されていなくても、このような改善は、虚血のおよび/または虚血周囲のコア中の幹細胞によって誘発された血管新生から部分的に起こると考えられる[Chen、2003年 #51;Taguchi、2004年 #53;Chang、2007年 #143]。
【0162】
本質的に、UCB中の単球は、成人のBMおよび末梢血中で生じるものと比べて独特である[Newcomb、2007年 #26]。成人の単球は、抗原提示などの正常な単球機能に必須である、肝細胞増殖因子によって活性化されるに過ぎない[Jiang、2001年 #154]。UCB単球は、成人細胞よりも少ないヒト白血球抗原−DRを発現するため、これらの細胞毒性能力はより低い[Theilgaard−Monch、2001年 #155]。さらに、UCB単球は、IL−4およびGM−CSFによる刺激によってさらに成熟した単球と同じ程度で成熟した樹状細胞に分化せず[Liu、2001年 #66];樹状細胞は、ナイーブT細胞の活性化において主な役割を果たしている。分泌機能はまた、UCB単球および成人の血液単球の間で異なる。IL−1βおよびTNF−αの分泌の低下は、その両方が炎症を刺激するならびに組換え型インターフェロン−γへの曝露後にUCB単球による、GvHD[Hill、1997 #76]などの免疫反応において主な役割を果たし、CD64、CD14、CD33およびCD45ROなどの単球抗原の発現における成人の血液単球との差に関係する可能性が最も高い[Brichard、2001年 #75]。正常な妊婦の子宮の脱落膜組織および血液中のCD14単球/マクロファージは、母体胎児免疫反応を変調し組織リモデリングおよび血管新生を促進して成功した妊娠を維持する、主としてM2サブセットである[Gustafsson、2008年 #69]。これらの知見は、ほとんどのUCB単球はまた、脱落膜マクロファージがおそらくは部分的にUCB単球から分化されるため、炎症が少なく血管新生が多いM2分極マクロファージになり得ることを示唆している。
【0163】
UCB単球中の免疫および炎症刺激機能の未熟さは、たとえこれらが同種異系の供給源から得られていても、GvHDを含めた免疫拒絶および/または移植後有害な炎症反応の抑制の発生率の低下に寄与し得る。自己由来BMまたは末梢血から得られた単球の移植が免疫拒絶およびGvHDを回避することができるが、それ自体を収穫するBMは、追加の時間、コスト、および患者への身体的負担を必要とする。単球の収穫および患者自身の末梢血からの単離を繰り返すと、余分な時間およびコストを必要とする。対照的に、細胞に基づく療法の標的に関して、成人の自己由来単球に比べたUCB単球の最大の利点の1つは、速やかな利用可能性である。例えば、脳卒中患者において、「妥当なタイミング」は重要であり、それが現在の医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理規則(cGMP)条件内で患者から治療域の範囲内で品質操作細胞を回復する、取り扱う、および処理するのに適していない可能性がある。実行可能性および安全性に関する限り、UCB単球は、細胞がレシピエントのものに免疫学的に不適合であっても、移植前のドナーまたはレシピエントに害を与えずにあらかじめ完全に操作することができる最も有望な同種異系細胞である。表2は、細胞に基づく療法のためのUCB単球の利点を示している。
【0164】
BMおよび末梢血に対するUCB単球のこのような優位性は、細胞に基づく療法のためのこれらの有望な役割をより活発に探索させるべきである。最近では、われわれのグループは、単球分集団(CD14)が枯渇したヒトUCB細胞の移植が、中大脳動脈閉塞術ラットモデルにおける他のUCB細胞(枯渇したT−細胞、枯渇したB−細胞、枯渇したCD133、および全単核画分)の移植と同じ程度まで神経のアウトカムを改善することに失敗したことを示した(Wombleら、2008年)。血管新生に関して、これらの知見は、単球枯渇ヒトUCBの移植が適切に血管新生を誘発することができず、神経の機能障害を改善しなかったことを示唆している。少なくとも、UCBの単球分集団は、脳卒中後にUCBによって誘発された回復にとって重要であるべきである。
【0165】
さらに、われわれはまた、歩行運動機能障害および記憶がサンフィリポ症候群B型(MPS III B)マウスモデルにおいてヒトUCBから得られた単球/マクロファージの静脈内移植後に改善されたことを実証した(Garbuzova−Davisら、2008年)。MPS III Bにおいて、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)酵素の欠乏は、細胞内のグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸(HS)の蓄積をもたらし、最終的に進行性の大脳のおよび全身的な臓器の異常を招く。グリコサミノグリカンは、マクロファージの食作用能力に影響を与える細胞外基質分子として公知であるが、サンフィリポ症候群などの病的なHSに富む状態における単球/マクロファージの機能は明らかでない。この研究において、神経の改善と同様に、病理組織学的な研究では、ミクログリア(脳内のマクロファージ)の数が、単球で治療されたNaglu変異マウスのすべての海馬領域において増加し、HSレベルが治療されたマウスの肝臓において低下したことを示した。さらに、通常高齢になったマウスにおけるかなりの問題である、泌尿器の膨張はまた、治療されたマウスにおいて改善された。これらの知見は、ヒトUCB単球/マクロファージの投与がこの疾患のHSに富む環境において食作用の機序に対する移植された細胞による影響により、MPS III Bをモデリングするマウスに有益であることを示唆している(Garbuzova−Davisら、2008年)。
【0166】
もちろん、細胞移植のための単球の能力は、炎症および免疫変調におけるこれらの特異的な役割および機能がまだ十分に理解されていないため、臨床的な治療に適用する前に慎重に評価しなければならない。腫瘍脈管新生、糖尿病網膜症、関節炎のパンヌス、およびアテローム性動脈硬化性プラークの発生におけるこれらの有害な可能性はまた、真摯な調査を必要とされ得る[Herold、2006年 #46]。しかし、提案のレシピエントが既存の悪性腫瘍、無管理の糖尿病、関節炎、アテローム性動脈硬化症を有するか否かに関する慎重な評価により、これらの危険な副作用は防止することができる。治療前評価中、患者が単球移植によって増悪し得る既存の疾患を有することが確認される場合、患者は細胞移植前に除外されるはずである。われわれが知っている限りでは,単球がBMおよびUCBのかなりの部分を含んでも、血液系悪性もしくは非悪性疾患を伴う患者におけるBMもしくはUCB移植後に、既存の腫瘍または慢性炎症性疾患進行などの単球関連合併症が報告されていないため、こうした可能性は少ない。
【0167】
対照的に、UCB単球の使用は、ありそうな有害な影響を防止するまたは抗炎症効果を発現させることができる。UCB単核細胞がいくつかの疾患状態において抗炎症反応をもたらすという証拠を蓄積している。前もって、われわれは、単核のヒトUCB細胞の移植は、中大脳動脈閉塞術によるラットの脳内のCD45/CD11b(ミクログリア/マクロファージ)およびCD45/B220(B−細胞)細胞の数を有意に減少させたことを実証した[Vendrame、2005年 #106]。さらに、UCB移植は、TNF−αおよびIL−1βなどの炎症誘発性サイトカインを減少させた[Vendrame、2005年#106]。最近では、われわれはまた、老齢ラットにおける静脈内注射によるヒトUCB単核細胞の移植が、活性化されたミクログリアの数を有意に減少させ、神経発生を増大させることができるということも明らかにした[Bachstetter、2008年 #5]。慢性小神経膠細胞症は、脳組織中に慢性炎症反応を示し、虚血傷害における神経系構造損傷、ならびにパーキンソン病およびアルツハイマー病などの他の神経変性疾患に関与する[Streit、1999 #9]。したがって、この知見は、UCB単核細胞が抗炎症反応によって老化した海馬の不適な環境を寛解させ、続いて、老化した神経系幹細胞/前駆細胞の可能性を再生させることができるということを示唆している。上記の研究に基づいて、UCB単核細胞をかなり含む単球画分は、脳卒中を含めた損傷の動物モデルにおいて示された機能的な改善を部分的に担い得る抗炎症反応の可能性を有するべきである。
【0168】
結論として、単球/マクロファージは、様々な疾患において動脈新生および血管新生を促進する能力を治療目的のための幹細胞移植の有望な代替に提供する。これらの単球は、これらの目立った実行可能性、安全性、および抗炎症反応ならびに血管新生などの複数の機能により数種の中から第1の候補となるべきである。
【0169】
本発明は例示的な方式で記載されており、用いられる専門用語は、制限ではなく説明の性質であるよう意図されていることを理解されるべきである。明らかに、本発明の多くの修正形態および変形形態は、上記の教示に照らして可能性があり、当業者は、この教示に照らしてここに請求する発明の精神から逸脱することなく、またはその範囲を超えることなく追加の実施形態および修正形態を生成することができる。したがって、添付した特許請求の範囲内で、本発明が具体的に記載されるものよりも他の方法で実施できることを理解されるべきである。したがって、本明細書の図面および説明が、本発明の理解を容易にするための例として提供されるものと理解されるべきであり、それらの範囲を制限するものと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における虚血を処置する方法であって、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を前記被験体の虚血組織に注射するステップを含む、方法。
【請求項2】
被験体において灌流を改善する方法であって、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を、改善された灌流を必要とする前記被験体の組織に注射するステップを含む、方法。
【請求項3】
前記虚血が心虚血であり、前記虚血組織が虚血心筋である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記灌流が心臓の灌流であり、前記組織が心筋である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
被験体における狭心症を処置する方法であって、単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を前記被験体の心筋に注射するステップを含む、方法。
【請求項6】
前記心筋に注射された、前記富化された治療用細胞集団が少なくとも10個の単球系統細胞を含む、請求項3から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記単球細胞集団が、少なくとも2回の別個の注射、少なくとも3回の別個の注射、少なくとも4回の別個の注射、少なくとも5回の別個の注射、少なくとも10回の別個の注射、少なくとも20回の別個の注射、少なくとも30回の別個の注射、または少なくとも40回の別個の注射によって、前記心筋に注射される、請求項3から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
1回の注射が0.05ml〜0.3mlである、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記注射が約0.2mlである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団が前記被験体にとって自己由来である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団が前記被験体にとって同種異系である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
以下のステップ、すなわち、単球系統細胞を富化させる方法を用いてサンプルから前記治療用細胞を単離するステップ;単球系統細胞を富化させる条件下で治療用細胞集団を培養するステップ;および単球系統細胞を治療用細胞集団に加えるステップから選択されるステップを、注射するステップの前にさらに含む、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記治療用細胞集団が単核細胞集団である、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
治療薬の測定された注射を虚血組織に送達することのできるデバイスを含む注射用治療薬であって、前記デバイスが前記治療薬のリザーバーを含み、前記治療薬が単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団を含む、治療薬。
【請求項15】
前記治療用細胞集団が単核細胞集団である、請求項14に記載の注射用治療薬。
【請求項16】
単球系統細胞に富んだ治療用細胞集団が、少なくとも10個の単球系統細胞を含む、請求項14から15のいずれかに記載の注射用治療薬。
【請求項17】
臍帯血からヒト単球細胞を単離する方法であって、前記方法は:
a.前記臍帯血から単核細胞のサンプルを得るステップと;
b.ステップaから得られた前記サンプル内で前記ヒト単球細胞を選択し、単離するステップと
を含む、方法。
【請求項18】
臍帯血から得られたヒト単球を含む医薬組成物を生成する方法であって、前記方法は:
a.前記臍帯血から単核細胞のサンプルを得るステップと;
b.ステップaから得られた前記サンプル内でヒト単球細胞を選択し、単離するステップと;
c.ステップbから得られた前記細胞を薬学的に許容される担体、添加物または賦形剤と組み合わせるステップと
を含む、方法。
【請求項19】
末梢血からヒト単球細胞を単離する方法であって、前記方法は:
a.前記末梢血から単核細胞のサンプルを得るステップと;
b.ステップaから得られた前記サンプル内で前記ヒト単球細胞を選択し、単離するステップと
を含む、方法。
【請求項20】
末梢血から得られたヒト単球を含む医薬組成物を生成する方法であって、前記方法は:
a.前記末梢血から単核細胞のサンプルを得るステップと;
b.ステップaから得られた前記サンプル内でヒト単球細胞を選択し、単離するステップと;
c.ステップbから得られた前記細胞を、薬学的に許容される担体、添加物または賦形剤と組み合わせるステップと
を含む、方法。
【請求項21】
骨髄からヒト単球細胞を単離する方法であって、前記方法は:
a.前記骨髄から単核細胞のサンプルを得るステップと;
b.ステップaから得られた前記サンプル内で前記ヒト単球細胞を選択し、単離するステップと
を含む、方法。
【請求項22】
骨髄から得られたヒト単球を含む医薬組成物を生成する方法であって、
a.前記骨髄から単核細胞のサンプルを得るステップと;
b.ステップaから得られた前記サンプル内で前記ヒト単球細胞を選択し、単離するステップと;
c.ステップbから得られた前記細胞を、薬学的に許容される担体、添加物または賦形剤と組み合わせるステップを含む、方法。
【請求項23】
前記薬学的に許容される担体、添加物または賦形剤が…を含む群から選択される、請求項18、20、および22に記載の方法。
【請求項24】
神経変性疾患を有するヒト患者を処置するまたは神経損傷の影響を処置する方法であって、そのヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項25】
筋萎縮性側索硬化症を有するヒト患者を処置する方法であって、造血細胞の骨髄産生を障害するために用いられる照射ステップまたは化学療法ステップの存在なしに、そのヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項26】
神経変性疾患を有するヒト患者を処置するまたは神経損傷の影響を処置する方法であって、そのヒト単球の有効な数を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項27】
神経変性疾患を有するヒト患者を処置するまたは神経損傷の影響を処置する方法であって、造血細胞の骨髄産生を障害するために用いられる照射ステップまたは化学療法ステップの存在なしに、そのヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項28】
神経変性疾患を有するヒト患者を処置するまたは神経損傷の影響を処置する方法であって、ヒト単球の有効な数を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項29】
神経変性疾患を有するヒト患者を処置するまたは神経損傷の影響を処置する方法であって、造血細胞の骨髄産生を障害するために用いられる照射ステップまたは化学療法ステップの存在なしに、ヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項30】
神経変性疾患を有するヒト患者を処置するまたは神経損傷の影響を処置する方法であって、請求項2、4、および6に記載の方法に従って得られたヒト単球細胞の有効な数を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項31】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ティ・サックス病(βヘキソサミニダーゼ欠損症)、レット症候群、リソソーム蓄積症、虚血、脊髄損傷、外傷性脳損傷、運動失調、アルコール症、統合失調症、または自閉症を含む群から選択される、請求項24から30に記載の方法。
【請求項32】
前記神経損傷の原因が、脳卒中、心血管疾患、心臓発作、身体的損傷、外傷、遺伝的損傷、あるいは脳および/または脊髄への環境による傷害を含む群から選択される、請求項24から30に記載の方法。
【請求項33】
循環障害(circulatory disorder)を有するヒト患者を処置する方法であって、そのヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項34】
循環障害を有するヒト患者を処置する方法であって、そのヒト単球の有効な数を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項35】
循環障害を有するヒト患者を処置する方法であって、造血細胞の骨髄産生を障害するために用いられる照射ステップまたは化学療法ステップの存在なしに、そのヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項36】
循環障害を有するヒト患者を処置する方法であって、ヒト単球の有効な数を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項37】
循環障害を有するヒト患者を処置する方法であって、造血細胞の骨髄産生を障害するために用いられる照射ステップまたは化学療法ステップの存在なしに、ヒト単球の有効量を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項38】
循環障害を有するヒト患者を処置する方法であって、請求項18、20、および22に記載の方法に従って得られたヒト単球細胞の有効な数を移植によって前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項39】
個体において傷害された組織を処置する方法であって、前記方法は:
a.前記個体において組織損傷の部位を決定するステップと;
b.ヒト単球の有効量を前記患者に前記組織損傷の部位におよびその周囲に投与するステップと
を含む、方法。
【請求項40】
細胞の移植を必要とする患者に、細胞を移植する方法であって、ヒト単球の有効量を前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項41】
前記患者が病的な状態に罹患している、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記病的な状態が細胞死、細胞喪失、または細胞機能障害に関連する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記病的な状態が癌、神経変性疾患、糖尿病、および外傷を含む群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記病的な状態が、熱傷、頭部外傷、脊髄損傷、脳卒中、心筋梗塞、関節症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、トゥレット症候群、筋萎縮性側索硬化症、アジソン病、下垂体機能不全、肝不全、炎症性関節症、神経障害性疼痛、失明、および難聴を含む群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
その細胞移植片を受けているヒト患者において移植片対宿主病を軽減するための方法であって、ヒト単球の有効量を前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項46】
前記患者が病的な状態に罹患している、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記病的な状態が細胞死、細胞喪失、または細胞機能障害に関連する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記病的な状態が、癌、神経変性疾患、糖尿病、および外傷を含む群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記病的な状態が、熱傷、頭部外傷、脊髄損傷、脳卒中、心筋梗塞、関節症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、トゥレット症候群、筋萎縮性側索硬化症、アジソン病、下垂体機能不全、肝不全、炎症性関節症、神経障害性疼痛、失明、および難聴を含む群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記投与が(静脈内もしくは動脈内(intraartrtial)を含む)非経口、くも膜下腔内、脳室内、実質内、槽内、頭蓋内、線条体内、または黒質内を含む群から選択される、請求項24から30、請求項33から40、および請求項45に記載の方法。
【請求項51】
前記移植が同種異系の移植または自己移植からなる、請求項24から30、請求項33から40、および請求項45に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−502114(P2012−502114A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527030(P2011−527030)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/056867
【国際公開番号】WO2010/031006
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(511065613)
【出願人】(511065624)ウニベルシダーデ フェデラル デ サン パウロ − ウエニイーエフィエーエスペー (1)
【出願人】(398014333)ユニヴァーシティ オブ サウス フロリダ (17)
【Fターム(参考)】