説明

虚血組織を処置するための方法

【課題】本発明は、哺乳動物の虚血組織を処置するための方法を提供すること。
【解決手段】本方法は、虚血組織に血管形成性タンパク質を発現し得る核酸の有効量を注入する工程を包含する。本発明の方法は、任意の虚血組織、すなわち、虚血性疾患の結果として血液が不足している組織を処置するために用いられ得る。このような組織には、例えば、筋肉、脳、腎臓、および肺が含まれ得る。虚血性疾患には、例えば、脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、四肢の虚血、虚血性心筋症、および心筋虚血が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、虚血組織における血管の発達を増強するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管形成性増殖因子の治療との関わりは、Folkmanおよび共同研究者らによって、20年以上前に最初に記載された(Folkman,N Engl J Med, 285:1182-1186(1971))。最近の研究によって、組換え血管形成性増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリー(Yanagisawa-Miwaら、Science,257:1401-1403(1992)、およびBaffourら、J Vasc Surg, 16:181-91(1992))、内皮細胞増殖因子(ECGF)(Puら、JSurg Res, 54:575-83(1993)))の使用の実行可能性が確立されており、そしてより最近では、血管内皮増殖因子(VEGF)が、心筋および後肢の虚血の動物モデルにおいて、側副動脈の発達を促進および/または増大させることが確立されている(Takeshitaら、Circulation,90:228-234(1994)およびTakeshitaら、J Clin Invest, 93:662-70(1994))。組換え血管形成性増殖因子を用いる研究において、この増殖因子の筋肉内投与が10〜14日間の範囲にわたって反復された。従って、組換えタンパク質療法の1つの主な制限は、最適に高くかつ局所的な濃度の経時的な維持が潜在的に必要であることである。
【0003】
現在まで用いられている遺伝子送達システムは、2つの主要な成分によって特徴づけられている:血管の適切な部分にDNA/キャリア混合物を送達するために設計されたマクロ送達デバイス、および動脈壁の細胞へのDNAの膜貫通的侵入を促進するために利用されるミクロ送達ビヒクル(例えば、リポソーム)。マクロ送達は、代表的には、最初は薬物の局所送達のために開発された、2つのカテーテルのうちの1つを使用して達成されている:2重バルーンカテーテル(キャリア/DNA混合物が注入され得る無血清の動脈部分を局在化することを意図する)、または多孔性バルーンカテーテル(圧力下で動脈壁に遺伝子溶液を注入するために設計された)。Jorgensenら、Lancet1:1106-1108(1989); Wolinskyら、J. Am. Coll. Cardiol., 15:475-485(1990); Marchら、CardioIntervention, 2:11-26(1992); WO93/00051およびWO93/00052。
【0004】
2重バルーンカテーテルは、動脈内で膨張させたときに、バルーン間に間隔を残すバルーンを有するカテーテルである。先の努力には、バルーン間にDNA含有物質を注入して、しばらくの間DNA物質を配置して細胞に移入させ、次いでバルーンをしぼませて、残っている遺伝物質を動脈へ流れさせることが含まれていた。穿孔バルーンは、そこに小さな孔(代表的にはレーザーで形成される)を有するバルーンである。使用の際に、遺伝物質を含有する液体は、バルーンの孔を通して噴出され、そして動脈の内皮細胞と接触する。しかし、これらの遺伝子送達系は、効力および/または安全性に関する争点には妥協している。
【0005】
しかし、2重バルーンカテーテルおよび多孔性バルーンカテーテルの使用に固有の、ある不都合な点が明らかになっている。例えば、2重バルーンカテーテルおよび多孔性バルーンカテーテルはどちらも、血管形成術自体を行うためには使用できない。従って、血管形成術および薬物送達の両方を必要とする適用(例えば、再狭窄を阻害するため)においては、2つの手順が行われなければならない。さらに、2重バルーンカテーテルは、代表的には、20〜30分間の長いインキュベーション時間を必要とするが、一方、多孔性バルーンカテーテルからの経壁薬物送達を担う高速噴射には、動脈の穿孔および/または広範な炎症性浸潤が付随している(Wolinskyら、前出)。
【0006】
最近、虚血の処置のための動脈内遺伝子療法の実行可能性が、別の遺伝子送達系であるヒドロゲルコート血管形成バルーンを使用して、VEGFを用いるウサギモデルで実証された。血管壁にVEGF遺伝子を首尾良く移入しそしてその発現を維持させることによって、その結果、虚血性四肢において新生血管形成が増大した(Takeshitaら、Proc.Natl. Acad. Sci. USA(印刷中))。しかし、血管形成を誘導するための別の方法がなお、多くの理由のために望ましい。第1に、遺伝子送達系に基づくカテーテルの使用は、バルーン膨張部位での予測できない突然の閉鎖または重度の損傷を生じ得る。損傷した動脈が、存在する側副枝の主要な供給源であるかまたは虚血組織に供給する唯一の開存性血管である場合は、結果はより深刻であり得る。第2に、特にびまん性血管疾患の場合は、遠位の病変部にカテーテルを送達することは困難であり得る。最後に、外科的再血管新生技術および経皮的再血管新生技術の両方における主要な進歩にも関わらず、虚血性疼痛の場合は、四肢の救済および軽減は、多くのびまん性末梢血管疾患の患者において達成され得ない。Isnerら、Circulation88:1534-1557 (1993))。
【0007】
動物の横紋筋は、プラスミドDNAの形態で移入された、注入外来マーカー遺伝子を取り込みそして発現することが示されている(Wolffら、Science,247:1465-1468(1990))。裸のプラスミドDNAの形態で筋肉に直接注入される治療用遺伝子トランスフェクションは、ウイルスベクターおよびカテーテルに基づく送達系を用いる技術を上回る利点を有する。主に、これは、ウイルスタンパク質に関連する免疫学的反応が無く(Miller,Nature, 357:455-60(1992))、そしてカテーテル送達手順およびバルーン膨張手順によって起こり得る血管損傷が避けられる。しかし、直接遺伝子移入は、ヒトの遺伝子治療試験での使用を考慮するには発現が不十分であると考えられる(Wolffら、前出、およびJiaoら、Hum.Gene Ther., 3:21-33(1992))。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
驚くべきことに、血管形成性タンパク質(血管形成、すなわち新しい血管の形成を誘導しうるタンパク質)を発現し得る核酸(DNAまたはRNA)は、虚血組織に注入されると、血管形成を誘導し、虚血組織に血管の増加を提供することが、今回、見出された。これにより、他の遺伝子送達系の使用が避けられる一方で、虚血性疾患に伴う虚血組織の処置が可能になる。
【0009】
本発明は、血管形成性タンパク質を発現し得る核酸の有効量を虚血組織に注入する工程を包含する、哺乳動物における虚血組織を処置するための方法を提供する。
【0010】
本発明の方法は、任意の虚血組織(すなわち、虚血性疾患の結果として血液が不足している組織)を処置するために使用され得る。このような組織には、例えば、筋肉、脳、腎臓、および肺が含まれ得る。虚血性疾患には、例えば、脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、四肢の虚血、虚血性心筋症、および心筋虚血が含まれる。
【0011】
虚血組織には、任意の注入手段によって核酸が注入され得る。1つの好ましい手段は、皮下針である。他の手段としては、アレルギー試験用に抗原を注入するために使用される装置のような、外用局所注入装置;または皮下の筋肉ヘ送達し得る経皮「パッチ」が挙げられる。核酸は、虚血組織の1つより多くの部位に注入され得る。必要であれば、核酸は、さらに血管形成性タンパク質のさらなる発現を提供するために、再注入され得る。
【0012】
本発明の方法は、カチオン性リポソームおよびアデノウイルスベクターのようなミクロ送達ビヒクルを必要としない。しかし、核酸は、このようなビヒクルによって運搬され得る。異なる血管形成性タンパク質をコードする核酸は、別々にまたは同時に使用され得る。
【0013】
本明細書で使用する用語「血管形成性タンパク質」は、新しい血管の形成を直接的または間接的に誘導し得る、任意のタンパク質、ポリペプチド、ムテイン、または部分を意味する。このようなタンパク質として、例えば、酸性および塩基性の線維芽細胞増殖因子(aFGFまたはbFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(epideramal growth factor)(EGF)、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ(TGF-αおよびTGF-β)、血小板由来内皮増殖因子(PD-ECGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、エリスロポイエチン、コロニー刺激因子(CSF)、マクロファージ-CSF(M-CSF)、顆粒球/マクロファージCSF(GM-CSF)、および酸化窒素シンターゼ(NOS)が挙げられる。好ましくは、血管形成性タンパク質は、このタンパク質を分泌させる分泌シグナル配列を含む。VEGFは、好ましいタンパク質である。
【0014】
用語「有効量」は、虚血組織の細胞に送達されて適切なレベル(すなわち、血管形成を誘導し得るレベル)の血管形成性タンパク質を産生するために十分な核酸の量を意味する。従って、重要な局面は、発現されるタンパク質のレベルである。従って、複数の転写物を使用し得るか、またはこの遺伝子を高レベルの発現をもたらすプロモーターの制御下に配置し得る。別の実施態様において、遺伝子は、極めて高レベルの発現をもたらす因子(例えば、tatおよび対応するtarエレメント)の制御下にある。
【0015】
したがって、本発明は、以下を提供する。
1.虚血組織の処置に使用するためのキットであって、薬学的に受容可能な、注入可能なキャリアの溶液中に、分泌シグナル配列を有する血管形成性タンパク質を発現し得る核酸を含む薬学的組成物、およびシリンジを含む、キット。
2.上記核酸がDNAである、項目1に記載のキット。
3.上記血管形成性タンパク質が、酸性および塩基性の線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、エリスロポイエチン、コロニー刺激因子、マクロファージ-CSF、顆粒球/マクロファージCSF、および酸化窒素シンターゼからなる群より選択される、項目1に記載のキット。
4.上記血管形成性タンパク質が、酸性および塩基性の線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、および酸化窒素シンターゼからなる群より選択される、項目1に記載キット。
5.上記血管形成性タンパク質が、血管内皮増殖因子である、項目3に記載のキット。
6.上記DNAが、カチオン性リポソームによって運搬される、項目2に記載のキット。
7.虚血組織において新しい血管の発達を引き起こすために上記組織に注入するための薬学的組成物の調製における、分泌シグナル配列を有する血管形成性タンパク質を発現し得る核酸の使用。
8.上記血管形成性タンパク質が血管内皮増殖因子であり、そして上記薬学的組成物が四肢の虚血の処置用である、項目7に記載の使用。
9.虚血組織の処置のための薬学的組成物であって、薬学的に受容可能な、注入可能なキャリアの溶液中に、分泌シグナル配列を有する血管形成性タンパク質を発現し得る核酸を含む、組成物。
10.上記核酸がDNAである、項目9に記載の組成物。
11.上記血管形成性タンパク質が、酸性および塩基性の線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、エリスロポイエチン、コロニー刺激因子、マクロファージ-CSF、顆粒球/マクロファージCSF、および酸化窒素シンターゼからなる群より選択される、項目9に記載の組成物。
12.上記血管形成性タンパク質が、酸性および塩基性の線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、および酸化窒素シンターゼからなる群より選択される、項目9に記載の組成物。
13.上記血管形成性タンパク質が、血管内皮増殖因子である、項目12に記載の組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、哺乳動物における虚血組織を処置するための方法を提供する。本方法は、上記の組織に、プロモーターに作動可能に連結された、虚血組織に送達されるとこのタンパク質の発現をもたらす血管形成性タンパク質をコードする核酸(核酸カセット)の有効量を注入する工程を包含する。生じる血管形成性タンパク質の発現は、虚血組織全体での血管形成の増加をもたらす。本発明の方法は、虚血性疾患(例えば、脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、四肢の虚血、虚血性心筋症、および心筋虚血)から生じる虚血組織を処置するために使用し得る。
【0017】
核酸は、血管形成性タンパク質(すなわち、新しい血管の形成を誘導し得る、タンパク質、ポリペプチド、ムテイン、または部分)をコードする任意の核酸(DNAまたはRNA)(ゲノムDNA、cDNA、およびmRNAを含む)であり得る。このようなタンパク質としては、例えば、新しい血管の形成を直接的または間接的のいずれかで誘導し得る、任意のタンパク質、ポリペプチド、ムテイン、またはその部分が挙げられる。Folkmanら、Science,235:442-447(1987)。これらには、例えば、酸性および塩基性の線維芽細胞増殖因子(aFGFおよびbFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ(TGF-αおよびTGF-β)、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)自体、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、エリスロポイエチン、コロニー刺激因子(CSF)、マクロファージ-CSF(M-CSF)、顆粒球/マクロファージCSF(GM-CSF)、および酸化窒素シンターゼ(NOS)が挙げられる。Klagsbrunら、Annu.Rev. Physiol., 53:217-239(1991); Folkmanら、J. Biol. Chem., 267:10931-10934(1992)およびSymesら、CurrentOpinion in Lipidology, 5:305-312(1994)を参照のこと。血管形成性タンパク質のムテインまたはフラグメントはこれらが新しい血管の形成を誘導または促進する限りは使用され得る。
【0018】
最近の調査によって、心筋および後肢の虚血の動物モデルにおいて、側副動脈の発達を促進および/または増大させるための、このような血管形成性増殖因子の組換え処方物の使用の実行可能性が確立された。Baffourら、前出(bFGF);Puら、Circulation, 88:208-215(1993)(aFGF);Yanagisawa-Miwaら、前出(bFGF);Ferraraら、Biochem.Biophys. Res. Commun., 161:851-855(1989)(VEGF)を参照のこと。
【0019】
さらに、治療的血管形成は、同一のモデルまたは密接に関連するモデルにおいて、組換え内皮細胞増殖因子(ECGF)(Puら、Circulation, 88:208-215(1993))およびVEGF(Takeshitaら、Circulation,90:228-234(1994)前出)の投与後に達成されている。以前の研究では、慢性の四肢の虚血の動物モデルを用いて、内皮細胞増殖因子(ECGF)の筋肉内投与の効力が実証された(Puら、Circulation,88:208-215(1993))またはVEGF(Takeshitaら、Circulation, 90:228-234(1994)前出)。
【0020】
VEGFは、Milesアッセイによって、血管透過性に関与する腫瘍分泌因子として独立して精製された(Keckら、Science,246:1309-1342(1989)およびConnollyら、J. Biol. Chem., 264:20017-20024(1989))。従って、その別名は、血管透過因子(VPF)である。VEGFは好ましい血管形成性タンパク質である。VEGFは、2つの特徴によって他のヘパリン結合性の血管形成性増殖因子と区別される。第1に、VEGFのNH2末端には、典型的なシグナル配列が先行する;従って、bFGFとは異なり、VEGFはインタクトな細胞によって分泌され得る。第2に、その高親和性の結合部位(これはチロシンキナーゼレセプターFlt-1およびFlt-1/KDRを含むことが示されている)が、内皮細胞上に存在する。Ferraraら、前出、およびConnら、ProcNatl Acad Sci USA, 87:1323-1327(1990)。(より低親和性の結合部位とVEGFとの相互作用によって単核食細胞の走化性が誘導されることが示されている)。Shenら、Blood,81:2767-2773(1993)およびClaussら、J. Exp. Med., 172:1535-1545(1990)。VEGFをコードするDNAは、米国特許第5,332,671号に開示され、その開示は本明細書中で参考として援用される。
【0021】
VEGFがインビボで血管形成を刺激するという証拠は、ラットおよびウサギの角膜(Levyら、GrowthFactors, 2:9-19(1989)およびConnollyら、J. Clin. Invest., 84:1470-1478(1989))、漿尿膜(Ferraraら、前出)、およびウサギ骨移植モデルで行われた実験で明らかにされている。Connollyら、J.Clin, Invest., 84:1470-1478(1989)前出。
【0022】
好ましくは、血管形成性タンパク質は、このタンパク質の分泌を促進する分泌シグナル配列を含む。天然のシグナル配列を有する血管形成性タンパク質(例えば、VEGF)が好ましい。天然のシグナル配列を有さない血管形成性タンパク質(例えば、bFGF)は、このような配列を含むように日常的な遺伝子操作技術を使用して改変され得る。Nabelら、Nature,362:844(1993)を参照のこと。
【0023】
多数の血管形成性タンパク質のヌクレオチド配列は、多くのコンピュータデータベース(例えば、GenBank,EMBL、およびSwiss-Prot)を通して容易に入手可能である。この情報を用いて、所望のものをコードするDNAセグメントは、化学的に合成され得るか、あるいは、このようなDNAセグメントは当該分野での日常的な手順(例えば、PCR増幅)を使用して入手され得る。
【0024】
タンパク質をコードする核酸の操作および扱いを簡便にするために、核酸は、好ましくは、カセット中に挿入され、ここで、この核酸は、プロモーターに作動可能に連結される。プロモーターは、所望の標的組織の細胞でのタンパク質の発現を駆動し得なければならない。適切なプロモーターの選択は、容易に達成され得る。好ましくは、高発現プロモーターを使用する。適切なプロモーターの例には、763塩基対のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが挙げられる。ラウス肉腫ウイルス(RSV)(Davisら、Hum GeneTher 4:151(1993))およびMMTプロモーターもまた、使用し得る。あるタンパク質は、その天然のプロモーターを使用して発現され得る。発現を増強し得る他のエレメント(例えば、tat遺伝子またはtarエレメントのような、高レベルの発現をもたらす、エンハンサーまたはシステム)もまた、含まれ得る。次いで、このカセットは、例えば、E.coliの複製起点を含むベクター(例えば、pUC118、pBR322のようなプラスミドベクター、または他の公知のプラスミドベクター)に挿入され得る。Sambrookら、MolecularCloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory press, (1989)を参照のこと。このプラスミドベクターはまた、アンピシリン耐性のためのβ-ラクタマーゼ遺伝子のような選択マーカーを含み得る(ただし、マーカーポリペプチドは、処置される生体の代謝に有害な影響を与えない)。カセットはまた、WO95/22618に開示されるようなシステムのような合成送達系において、核酸結合部分に結合し得る。
【0025】
所望であれば、DNAはまた、ミクロ送達ビヒクル(例えば、カチオン性リポソームおよびアデノウイルスベクター)とともに使用され得る。リポソーム調製、内容の標的化、およびその送達のための手順の総説については、ManninoおよびGould-Fogerite,Bio Techniques, 6:682(1988)を参照のこと。FelgnerおよびHolm, Bethesda Res. Lab. Focus,11(2):21(1989)、およびMaurer, R. A., Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2):25(1989)もまた参照のこと。
【0026】
複製欠損組換えアデノウイルスベクターは、公知の技術に従って生成され得る。Quantinら、Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 89:2581-2584(1992);Stratford-Perricadetら、J. Clin.Invest., 90:626-630(1992);およびRosenfeldら、Cell, 68:143-155(1992)を参照のこと。
【0027】
核酸の有効用量は、特定の発現されるタンパク質、標的組織、患者およびその臨床状態と相関する。DNAの有効量は、約1μgと約4000μgとの間、より好ましくは約1000と約2000との間、最も好ましくは約2000と約4000との間である。
【0028】
特定の状況では、治療の結果を最適にするために、2つ以上の異なるタンパク質をコードする核酸を使用することが望ましいかもしれない。例えば、2つの血管形成性タンパク質(例えば、VEGFおよびbFGF)をコードするDNAが使用され得、そしてこれによりbFGF単独の使用を超える改善が提供される。または、血管形成因子は、他の遺伝子またはそのコードする遺伝子産物(例えば、酸化窒素シンターゼ、L-アルギニン、フィブロネクチン、ウロキナーゼ、プラスミノーゲンアクチベーター、およびヘパリンを含む)と組み合わされて、標的細胞の活性を増強し得るが、一方で血管形成を同時に誘導し得る。
【0029】
注入を容易にするために、核酸は、薬学的に受容可能なキャリアと共に処方される。適切なキャリアの例としては、生理食塩水、アルブミン、デキストロース、および滅菌水が挙げられる。核酸は、標準的な注入技術を使用して、例えば、皮下針の使用により、虚血組織に注入される。皮下針サイズは、no.29からno.16の間が好ましい。
【0030】
核酸はまた、アレルギー試験用に抗原を注入するために使用される装置のような、外用局所注入装置;または皮下筋肉に送達し得る経皮「パッチ」によって注入され得る。
【0031】
核酸は、虚血組織全体にわたって、複数の部位で注入され得る。
【0032】
一旦注入されると、所望の血管形成性タンパク質を発現し得る核酸は、その組織の細胞に取り込まれそして発現される。目的の核酸を含むベクターは、通常は細胞のゲノムには取り込まれないので、目的のタンパク質の発現は、限定された期間にのみ起こる。代表的には、血管形成性タンパク質は、約2日間から数週間、好ましくは約1〜2週間の間にのみ、治療レベルで発現する。DNAの再注入を利用することによって、血管形成性タンパク質のさらなる期間の発現が提供され得る。所望であれば、細胞のゲノムに異種DNAを取り込むためのレトロウイルスベクターの使用によって、治療用ポリペプチドが発現する期間の長さを、数週間から無期限にまで、増加し得る。
【0033】
血管形成性タンパク質の発現および組織の細胞からのその分泌は、血管形成を誘導し、虚血の処置が可能になり、従って疾患(例えば、四肢の虚血、脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、虚血性心筋症、および心筋虚血)の処置が可能になる。
【0034】
本明細書中で言及したすべての文献は、本明細書中ではその全体が参考として援用される。
【0035】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。これらの実施例は、本発明の理解を助けるために提供され、そして本発明を制限するものとして解釈され
ない。
【実施例】
【0036】
実施例1:DNAの直接注入による虚血組織における血管形成の誘導
方法
プラスミド
HL60白血病細胞から調製したcDNAライブラリーから単離された組換えヒトVEFG165の相補的DNAクローンを、736bpサイトメガロウイルスプロモーター/エンハンサーを用いて単純真核生物発現プラスミド中に組み立てて、VEGF発現を駆動した。VEGFcDNAから下流はSV40ポリアデニル化配列である。このプラスミドにはまた、72bpの返複を含むSV40複製起点を含むフラグメントが含まれるが、この配列はSV40T抗原の不在下では(自己複製について)機能的に関連はない。これらのフラグメントはpUC118ベクターに存在し、このベクターはE.coli.の複製起点およびアンピシリン耐性のためのβガラクトシダーゼ遺伝子を含む。この構築物(phVEGF165)でトランスフェクトされた細胞から分泌されたVEGF165の生物学的活性は、トランスフェクトされたヒト293細胞で馴化した培地が毛細管細胞の増殖を促進したという証拠により、以前に確認された(Leungら、Science、246:1306-9(1989))。
【0037】
シミアンウイルス40初期プロモーター(Bonnerotら、Proc NatlAcad Sci,U.S.A., 84:6795-9(1987))にカップリングした核標的化βガラクトシダーゼ配列を含むプラスミドpGSVLacZ(Dr.Claire Bonnerotの好意による)を、全てのコントロールトランスフェクション実験に用いた。
【0038】
動物モデル
片側の後脚の血管機能不全を手術的に誘導したニュージーランドシロウサギ(Takeshitaら、Circulation90:228-234(1994)、前出; Takeshitaら、J.Clin.Invest.93:662-70(1994)、前出;Puら、Circulation、88:208-215(1993)前出)を、急性および慢性の両方の虚血のモデルに用いた。全てのプロトコルは、InstitutionalAnimal Care and Use Commiteeにより認められた。動物保護は、動物保護のカナダ会議のガイドラインである、Principles ofLaboratory Animal Care、およびGuide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH出版番号80-23、1985改訂)に従った。59の雄ニュージーランドシロウサギ(平均体重3kg)をケタミン(50mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)で麻酔した。大腿内側での縦方向の切開を通して、大腿動脈を、その全長に沿って切開して切り離し、全ての主要な大腿動脈の分枝(下腹壁動脈、大腿深動脈、外側回旋動脈、および上腹壁動脈を含む)も同様にした。膝窩動脈および伏在動脈を遠位性にさらに切開した後、外腸骨動脈および上記動脈の全てを結紮した。最後に、大腿動脈を外腸骨動脈の分枝であるその近位の起始部から、伏在動脈と膝窩動脈とに分枝する点まで、遠位性に完全に切除した。
【0039】
筋肉内(IM)遺伝子転移
急性四肢虚血。28のウサギを、急性後脚虚血に対するIM遺伝子転移の影響力を研究するために用いた。上記に沿った大腿動脈切除の直後に、3つの主要な大腿筋における5つの異なる部位に、小さな皮膚の切開を通して進めた3mlシリンジおよび27ゲージの針を用いて、直接プラスミドDNAを注入した。各注入について、針の先端を内転筋(2部位)、内側の大きな筋(2部位)、および半膜様筋に挿入した;注入物で筋肉を貫通するのを避けるために、注入の間各筋肉を直接目視することにより注意した。同じ端まで、それぞれの場合で注入速度は注入溶液が筋外膜から漏出しないようにおよそ5秒まで遅くした。この注入技法を用いて、総容量2.5mlの、a)生理食塩水中500μgのphVEGF165(n=8);b) 0.75%ブピバカイン中500μgのphVEGF165(横紋筋によるトランスジーンの取り込みを増強することが以前に示されている)(n=10)(DankoI、Gene Therapy、1:114-21(1994);またはc) 核標的化βガラクトシダーゼをコードする、500μgのpGSVLacZ(n=10)を投与した。5回の注入(各動物につき0.5ml)を完了した後、次いで皮膚を4.0ナイロンを用いて閉鎖した。
【0040】
慢性四肢虚血。31のウサギを用いて、慢性後脚虚血のIM遺伝子治療の効果を研究した。慢性虚血モデルと上記急性四肢虚血モデルとの間の唯一の区別は、10日の間隔で内因性の側副血管の発達を含む手術後の回復が可能になったことである。従って、大腿動脈切除の後10日で、ウサギをカテーテル法の研究室に戻した。下記のベースライン生理学測定を完了した後、上記と同一の技法を用いるIM遺伝子転移を、a)2.5mlの生理食塩水で希釈した500μgのphVEGF165(n=8);b)0.75%ブピバカインで希釈した500μgのphVEGF165(n=8);c) 2.5mlの生理食塩水で希釈した500μgのpGSVLacZ;またはd)2.5mlの0.75%ブピバカインで希釈した500μgのpGSVLacZ(n=8)を用いて行った。各場合で、5回の全注入を完了した後、皮膚を上記のように閉鎖した。
【0041】
解剖学的評価
選択的血管造影 以前に記載されたように、選択的内腸骨動脈血管造影を行った(Doucetteら、Circulation、85:1899-1911(1992))。簡単に述べると、3Fr.注入カテーテル(Tracker-18、TargetTherapeutic、San Jose CA)を総頚動脈に導入し、X線透視検査装置ガイダンスに基づいて、0.014インチガイドワイヤー(Hi-TorqueFloppy II、Advanced Cardiac System、San Diego,CA)を用いて虚血四肢の内腸骨動脈に進ませた。カテーテルの先端を、第7腰椎と第1仙椎との間の空間の高さで、内腸骨動脈に配置した。ニトログリセリン(0.25mg、SoloPakLaboratories、Franklin Park、IL)の動脈内注入後、次いで全量5mlの非イオン性コントラスト媒体(Isovue-370、SquibbDiagnostics、New Brunswick、NJ)を、1ml/秒の流速で再現的に送達するようにプログラムした自動化血管造影インジェクター(Medrad、Pittsburgh、PA)を用いて注入した。次いで、虚血後肢の連続画像を、1フィルム/秒の速さで10秒間、105mmスポットフィルム上に記録した。
【0042】
側副血管発達の体型測定的血管造影分析を、5mm間隔の列に整列した直径2.5mmの円からなるグリッドの上掛けを用いて行った。この上掛けを、大腿内側の高さで、記録した4秒の血管造影にわたり配置した。限定した領域を選択し、そこでは円を横切るコントラスト不透明の動脈の数、ならびに大腿内側領域を包囲する円の総数を、単一盲検様式で計数した。血管造影スコアを、各フィルムについて、虚血大腿の限定した領域における円の総数で割った横断する不透明の動脈の比率として算出した。
【0043】
毛細管密度および毛細管/筋細胞比。側副動脈形成の解剖学的証拠を、虚血後足から得た光学顕微鏡用切片中の毛細管の数を測定することによりさらに試験した(Takeshitaら、J.Clin.Invest.,93:662-70(1994)前出)。組織標本を、屠殺時(30日目)に、虚血四肢の大腿内側の主要な筋肉である内転筋から横断切片として得た。筋肉サンプルをO.C.T化合物(Miles、Elkhart、IN)中に包埋し、そして液体窒素中でスナップ凍結した。次いで、複数の凍結切片(5μm厚)を、筋繊維が横断様式の方向になるように、クリオスタット(Miles)上で各試料から切断した。組織切片は、前述したようにインドキシルーテトラゾリウム法を用いてアルカリホスファターゼで染色し、次いでエオシンで対比染色し、毛細管内皮細胞を検出した。1つの筋肉切片の全部で20の異なる視野を無作為に選択し、毛細管の数を毛細管密度(毛細管/mm2の平均数)を決定するために対物20倍で計測した。毛細管密度の分析を筋萎縮症のため過大評価しないことまたは間質の浮腫のため過小評価しないことを確実にするために、剖検時に同定された毛細管もまた組織学切片中の筋線維に相関するものとして評価した。毛細管/筋細胞比を見積もるために用いた計測スキームは、毛細管密度を見積もるために用いたものと他の点では同じであった。
【0044】
生理学的評価
腓の血圧。腓の血圧をDoppler Flowmeter(Model 1059、ParksMedical Electronics、Aloha、OR)を用いて測定した。後脛骨動脈の拍動をDopplerプローブを用いて決定し、両肢の心収縮期血圧を標準的な技術(Takeshitaら、J.Clin.Invest.93:662-70(1994))を用いて測定した。腓の血圧比を、正常四肢の心収縮期血圧に対する虚血四肢の心収縮期血圧の比として各ウサギについて定義した。
【0045】
流速の動脈内Dopplerガイドワイヤー測定。動脈内Doppler評価をまた、選択的内腸骨血管造影の前0日および30日で行った。3Fr.注入カテーテルの先端を大動脈分枝の上2cmに配置した。総量5mlの非イオン性コントラスト媒体(Isovue-370、SquibbDiagnostics、New Brunwick、NJ)を、1ml/秒の速さで自動化血管造影インジェクター(Medrad、Pittsburgh、PA)を用いて注入した。次いで大動脈-腸骨分枝の連続的画像を1フィルム/秒の速さで5秒間、105mmスポットフィルム上に記録した。次いで、0.018インチのDopplerガイドワイヤー(Cardiometrics,Inc.,MountainView, CA)を用いて、前述(Doucetteら、前出)のように血液流速を測定した。ワイヤーを、虚血四肢に供給する内腸骨動脈に近い区画に、総腸骨動脈の起始部に配置した3Fr.注入カテーテルを介して進ませた。DopplerワイヤーはDopplerシグナルのスペクトル分析をリアルタイムで記録し、そこから平均ピーク流速(APV、瞬間のピーク流速波形の時間平均)を計算し、オンラインで表示した。本発明者らは、静止APVを記録する前2分間の安定した流速を必要としていた。最大APVは、注入カテーテルを介する0.4ml生理食塩水中の2mgパパベリン(Sigma,St.Louis, MO)のボーラス注入後に記録された。次いで、Dopplerワイヤーを内腸骨動脈から引き戻し、正常四肢の総腸骨動脈に再進入させた;3Fr.注入カテーテルの遠位端を総腸骨動脈の起始部に再配置した。血流速を安静時、およびパパベリン注入後、再び記録した。すべてのDoppler測定を完了した後に、この3Fr.注入カテーテルを虚血四肢の内腸骨動脈の近くの区画に再び向け、そして選択的内腸骨血管造影を上記のように行った。
【0046】
血管造影および血流計算の定量的分析。虚血四肢の内腸骨動脈および正常四肢の外腸骨動脈の血管造影の内腔の直径を、自動化末端検出システム(Quantum 2000I;QCS,Ann Arbor, MI)を用いて決定した。分析のために選択したフィルムを、高解像度ビデオカメラでスキャニングした;ビデオカメラから出されたシグナルはデジタル化され、ビデオモニター(LaserScan; ImageComm, Santa Clara, CA)上に表示された。センターラインを、Dopplerワイヤーの先端のすぐ遠方に始まる10-mm長の区画について手動で追跡した。続いて、輪郭を、デジタル化された明るさの情報に適用した一次および二次の導関数の加重総量に基づいて、自動的に検出した。次いで、血管の直径を、Dopplerサンプル容量の部位(ワイヤー先端から5mm)で測定した。横断面面積を円形の管腔と仮定して算出した。
【0047】
Dopplerから導かれた流量をQD=(πd2/4)(0.5×APV)として計算した。ここで、QD=Dopplerから導かれた時間平均流量、d=血管直径、およびAPV=スペクトルピーク流速の時間平均である。平均流速は、血管を横切る時間平均化した放物線状の流速プロフィールを仮定することにより、0.5×APVとして評価した。このように算出されたDopplerから導かれた血流は、インビトロおよびインビボの両方で、電磁石血流メーターにより測定された血流測定と相関することが示されている(Doucetteら、前出)。2mgのパパベリンは血管直径に影響しないので、本発明者らは、静止および最高流速の両方の計算のために、Doppler測定の直前に記録した血管造影からの直径の測定を用いた。
【0048】
四肢の筋肉への局所血流。慢性後脚虚血を有する動物の局所組織潅流を、着色マイクロスフェア(直径15μm)を用いて測定した(Kowalik, Circulation 83, 974-82(1991))。上記の侵襲的測定の完了後、3×106のDye-Trak着色ミクロスフェア(TritonTechnology,Inc.,San Diego, CA)を3Fr.テフロン(登録商標)カテーテルを通して、総頚動脈を介して左心室に注入した。対照血流のための血液サンプルを回収するために、第二のカテーテルを総頚動脈を介して下部腹大動脈に挿入し、シリンジ吸引ポンプ(Sage351, Orion Research, Boston, MA)に連結した。このカテーテルを通して、血液サンプルをミクロスフェア注入の10秒前に、3分間にわたって1.2ml/分の速度で吸引した。次いで動物を屠殺し、各後肢(虚血および非虚血)の2つの異なる筋肉(トランスフェクトした大腿内側の筋肉(内転筋)、および下肢の筋肉(腓腹筋))の組織サンプル(重量=2g)を回収した。組織サンプルおよび対照血液サンプルを水酸化カリウムで消化し、次いでマイクロスフェアを吸引濾過で回収した。色素をジメチルホルムアミドを用いてミクロスフェアから抽出した後、各サンプルの吸光度を従来の分光光度計(Model8452A、Hewlett Packard, Palo Alto, CA.)を用いて測定した。筋肉への局所血流を次のように算出した:
組織血流=(吸引速度/組織重量)×(OD組織/OD対照血液)、ここでOD=光学密度。
【0049】
骨格筋におけるVEGF遺伝子発現
骨格筋におけるphVEGF165遺伝子の発現を評価するために、さらに16匹の急性および慢性の両方の虚血モデルの雄ニュージーランドシロウサギ(各時点で2匹のウサギ)を、トランスフェクション後、3、7、14、および30日で屠殺した。ヒトVEGFmRNAの存在を前述のように(Takeshitaら、Proc Natl Acad Sci (印刷中)、前出)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて検出した。特異性を確実にし、内因性ウサギVEGFの増幅を避けるために、プライマーを異なる種間で保存されていない領域から選択した。使用したプライマーの配列は、以下である:5’-GAGGGCAGAATCATCACGAAGT-3’(センス)(配列番号1);5’-TCCTATGTGCTGGCCTTGGTGA-3’(アンチセンス)(配列番号2)。RT-PCR産物を、2%アガロースゲル電気泳動で分析した。DNAバンドを、臭化エチジウムで染色後、UV照射下で可視化した。
【0050】
統計学的分析
結果を、平均±標準偏差(SD)で現した。統計学的有意性は、Scheffeの検定に続くANOVAを用いて評価した。p<0.05の値は統計学的有意性を示すと判断した。
【0051】
結果
解剖学的評価
血管造影。30日目のコントロールおよびVEGF処置の両方の動物から記録された代表的な血管造影図を図1に例示する。コントロール動物では、大腿内側における側副動脈の発達は、0日目および30日目で記録された連続的血管造影図において、典型的には変化がないか、またはほんの少し進んでいるかであった。対照的に、VEGFトランスフェクト群において、側副動脈の顕著な進行が0日目とおよび30日目との間に観察された。図2に例示したように、ベースライン(0日)に、群間で血管造影スコアに有意な差異はなかった(CI:0.47±0.10、CII: 0.44±0.10、CIII: 0.43±0.06、CIV: 0.42±0.10)。しかし、30日目までに、各VEGFトランスフェクト群の血管造影スコアは、コントロール(CI:0.76±0.05、CII: 0.72±0.05、CIII: 0.52±0.06、CIV: 0.58±0.09、p<.01)ならびに四肢虚血の急性モデル(AI:0.72±0.06、AII: 0.71±0.03、AIII: 0.48±0.10、p<.01)に比べて、有意に改善された。ブピバカインの投与は、観察し得る効果をもたらさなかった。
【0052】
毛細管密度および毛細管/筋細胞比率。再血管形成に対する筋肉内VEGF遺伝子移入の好ましい効果はまた、毛細管レベルで明らかであった(図3Aおよび3B)。虚血四肢の内転筋を、両モデルにおいて30日目に組織学的に検査した。図4に例示したように、VEGFトランスフェクト動物は急性虚血(AI:248±37、AII: 228±22、AIII: 188±32/mm2、p<.01)および四肢虚血の慢性モデル(CI:259±24、CII:256±31、CIII: 197±18、CIV: 192±31/mm2、p<.01)において、筋線維の回りにより多い毛細管を有していた。毛細管/筋細胞比率の分析もまた、急性および慢性の両方の後脚虚血において、VEGFトランスフェクト動物で高かった(急性モデル:AI:0.73±0.07、AII: 0.70±0.06、AIII: 0.61±0.09、p<.01;慢性モデル:CI: 0.78±0.08、CII: 0.76±0.05、CIII:0.51±0.06、CIV: 0.55±0.09、p<.01)。ブピバカインを投与された動物対生理食塩水を注入された動物の間に差異は観察されなかった。
【0053】
生理学的評価
腓の血圧。筋肉内VEGFトランスフェクション後の虚血四肢における血行力学的欠乏の低減を、腓の血圧の測定により確認した。図5に例示したように、急性虚血の動物において、トランスフェクション後30日目に測定した血圧比は、コントロールよりVEGFトランスフェクト群において有意に高かった(AI:0.80±0.09、AII: 0.76±0.11、AIII: 0.56±0.10、p<.01)。ブピバカイン処置動物と生理食塩水処置動物との間に差異はなかった。慢性モデルにおいて、虚血の誘導後10日(トランスフェクションの直前)に、腓の血圧比は全ての群で事実上同一であった。(CI:0.36±0.05、CII: 0.36±0.04、CIII: 0.36±0.05、CIV: 0.32±0.03)。トランスフェクション後30日目までに、VEGFトランスフェクト群の血圧比は、コントロールより有意に高かった(CI:0.84±0.09、CII: 0.82±0.06、CIII: 0.67±0.06、CIV: 0.66±0.10、p<.01)。ブピバカイン処置動物と生理食塩水処置動物との間に差異はなかった。
【0054】
動脈内Dopplerガイドワイヤー測定(表1) 急性虚血モデルにおいて、VEGFトランスフェクト動物は、安静時(AI:21.6±5.2、AII:19.5±3.2、AIII: 13.9±3.7ml/分、p<.01)、およびパパベリン誘導充血状態(AI: 59.1±16.9、AII:55.2±5.1、AIII:39.0±11.5、ml/分、p<.01)に、虚血四肢への有意に高い血流を示した。慢性モデルにおいて、安静時の虚血四肢への血流およびパパベリンで刺激した虚血四肢への血流は、0日目で全ての群において同一であった(安静時血流;CI:13.7±1.5、CII: 15.5±1.4、CIII:13.7±2.2、CIV: 13.4±1.9ml/分、充血血流;CI:28.9±3.6、CII:30.6±3.0、CIII: 31.3±3.7、CIV: 28.1±1.7ml/分)。30日目で、VEGFトランスフェクト動物は、安静時(CI: 22.7±4.6、CII:19.9±2.8、CIII:14.9±1.7、CIV: 14.1±1.5ml/分、p<.01)、およびパパベリン誘導充血状態(CI:52.5±12.6、CII:56.0±12.0、CIII: 38.4±4.3、CIV:35.8±5.6ml/分、p<.05)で、虚血四肢への有意に高い血流を示した。ベースラインおよび非虚血四肢への充血血流は、0日目および30日目で全ての群で同一であった。
【0055】
(表1 虚血組織への血流)
【0056】
【表1】

【0057】
四肢筋肉への局所血流(表2) 虚血四肢筋肉への局所血流を、慢性虚血モデルにおいて着色ミクロスフェア技法を用いて分析した。内転筋での局所血流、トランスフェクトした大腿内側の筋肉(CI:4.3±0.5、CII:4.6±1.2、CIII:2.9±0.6、CIV:3.1±0.4ml/分/100g組織、p<.05)、ならびに下肢の末端筋肉、腓腹筋(CI:3.9±0.8、CII: 4.2±0.7、CIII: 2.8±0.9、CIV: 2.6±0.7、ml/分/100g組織、p<.05)は、VEGFトランスフェクト動物において1.5倍大きい。注入溶液に起因する有意差は観察されなかった。全ての群において、非虚血筋肉への局所血流における差異はなかった(内転筋への血流;CI:5.2±0.5、CII:5.6±1.0、CIII:4.9±0.6、CIV: 5.6±1.0ml/分/100g組織、腓腹筋への血流;CI: 4.4±1.0、CII: 4.7±1.0、CIII:4.6±1.2、CIV: 5.0±1.1ml/分/100g組織)。
【0058】
(表2 四肢の筋への局所血流)
【0059】
【表2】

【0060】
筋肉中のヒトVEGF遺伝子発現
インビボでのトランスフェクトされたウサギ四肢筋肉におけるヒトVEGF遺伝子の発現を確認するために、本発明者らは、RT-PCRにより、ヒトVEGFmRNAの存在についてトランスフェクトされた動脈を分析した。上に示すとおり、首尾良いトランスフェクションの結果得られたヒトVEGF mRNA(対、内因性ウサギVEGFmRNA)についてのRT-PCRの特異性を確実にするために、用いたプライマーは異なる種の間で保存されていない領域から選んだ。内転筋をVEGF遺伝子注入後3、7、14、および30日目で採取した。ヒトVEGFmRNAの存在は、急性および慢性の両方のモデルで3日目から14日目にphVEGF165を有する内転筋に容易に検出された。pGSVLacZ遺伝子を注入されたウサギ内転筋はヒトVEGFmRNAについて陰性であった(図6)。
【0061】
本発明者らは、血管形成性タンパク質をコードする遺伝子が虚血筋肉に首尾良く移入され、そこでこの遺伝子が発現され、そして血管形成を誘導し、虚血組織に血管の増加を提供することを示した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1Aおよび1Bは、コントロール動物(1B)およびVEGF処置動物(1A)の両方から30日目に記録した、典型的な血管造影図を示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、急性虚血モデル(2A)および慢性虚血モデル(2B)においてみられた血管造影のスコアを例示する。
【図3】図3Aおよび3Bは、毛細管レベルでの再血管新生の際の、筋肉内VEGF遺伝子移入の順調な効果を例示する(図3A VEGF、図3Bコントロール)。
【図4】図4Aおよび4Bは、四肢の虚血の急性虚血(4A)モデルおよび慢性モデル(4B)の両方における、毛細管密度および毛細管/筋細胞比を例示する。
【図5】図5Aおよび5Bは、腓の血圧測定によって確認した、筋肉内VEGFトランスフェクション後の急性虚血モデル(5A)および慢性モデル(5B)の両方における、虚血の四肢の血行力学的不足の減少を例示する。
【図6】図6は、VEGF発現の時間経過を例示する。レーン1:マーカー、レーン2:ポジティブコントロール、レーン3:トランスフェクトしていない筋肉、レーン4:RT上、レーン5、6、7、および8は、それぞれ、トランスフェクション後、3、7、14、および30日目である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血組織を処置するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−24718(P2008−24718A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259278(P2007−259278)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【分割の表示】特願平9−516039の分割
【原出願日】平成8年10月18日(1996.10.18)
【出願人】(501127051)カリタス セント エリザベス メディカル センター オブ ボストン, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】