説明

虚血関連状態の治療方法

本発明は、虚血関連状態の治療方法であって、そのような治療を必要とする患者に対してチオセミカルバゾン化合物を投与することによる虚血関連状態の治療方法に関する。本発明の好ましい実施例は、アルツハイマー病、パーキンソン病、冠動脈バイパス術、心停止による全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血性梗塞、 高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂による出血、頭蓋内動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血につながる頸動脈狭窄症または閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中および脊髄損傷、アテローム性動脈硬化などの脳血管障害、脈管炎、黄斑変性症、心筋梗塞、心虚血および上室性頻拍性不整脈を含むが、それらに限定されない特定の虚血関連状態の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アルツハイマー病などの変性疾患に加えて、突然の酸素喪失による神経疾患および心疾患を含む虚血関連疾患および障害の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
中枢神経系(CNS)は脊髄、脳および網膜で構成され、極めて複雑な機能を遂行できるネットワークを形成する何兆もの神経細胞(ニューロン)を含む。CNSニューロンは、生存してその生理的機能を果たすためにエネルギーを必要とする。CNSニューロンにとって唯一のエネルギー源が血液によって運ばれるグルコースと酸素であることは一般に認識されている。CNS全体または一部への血液供給が遮断され、それによってニューロンから酸素とグルコースが奪われると(虚血として知られる状態)、それらが奪われたニューロンは急速に変性する。この不適切な血流状態は、臨床神経学では一般に「脳卒中」として知られている。例えば呼吸停止、窒息または溺水によって脳への酸素供給のみが遮断される場合、当該状態を「低酸素」という。例えば、糖尿病患者がインシュリンを大量に摂取した時など、グルコース供給のみが遮断される場合は、当該状態を「低血糖」という。これらの状態はすべてエネルギーの欠乏によって生じ、臨床医学では脳障害を起こしうる原因として認識されている。以下では、「エネルギー欠乏」または「虚血」という語を同義的に使用して、CNSへのエネルギー障害を伴うこれらの状態を示す。
【0003】
近年、神経科学者はエネルギー欠乏が引き起こす神経変性の機序についての理解を深めている。虚血状態が生じると、正常で健康な状況下において重要な興奮性神経伝達物質としてCNSで機能するグルタミン酸が、「興奮毒性」と呼ばれる 神経毒性を発揮することは知られている。通常グルタミン酸は細胞内に閉じ込められており、隣接するニューロン上のグルタミン酸受容体と連絡する目的でシナプス接合部の神経細胞から少量放出されるだけである。これによって、神経シグナルが受容体を有する細胞に送られる。正常な状態で、シナプス接合部の細胞外液に放出されるグルタミン酸は、極めて効率的な輸送プロセスによって数ミリ秒以内にニューロン内へ送り戻される。
【0004】
グルタミン酸の興奮毒性は、当該輸送プロセスが正常に機能している限り抑制されている。しかし、この輸送プロセスはエネルギー依存であるため、虚血状態(エネルギー欠乏状態)では、グルタミン酸を輸送できず、伝達物質として放出されるグルタミン酸分子が細胞外シナプス液に蓄積する。これによって、グルタミン酸が絶えずその興奮性受容体と接触することになり、それら受容体を過度に刺激する。この状況によって、ニューロンが文字どおり興奮死する可能性がある。さらに二つの要素が事態を複雑化し悪化させる。一つは、過度に刺激されたニューロンが他のシナプス接合部でグルタミン酸を過剰に放出するため、さらに多くのニューロンが過度に刺激され、虚血の初期域を超える神経毒性カスケードに引き込まれてしまうこと。もう一つは、過度に刺激されたニューロンが使用可能なグルコースまた酸素の供給を通常よりも速く利用し始めるため、これらの限られたエネルギー源の消耗が加速し、グルタミン酸輸送プロセスの障害が進行することである。このため脳卒中、心不全、呼吸停止、低酸素または低血糖などのエネルギー欠乏状態が、複合機序 によって脳にダメージを与える。初期原因機序は虚血そのものであるが、これがグルタミン酸輸送システムの障害、およびその後の脳障害に大きく関与する一連のグルタミン酸媒介の興奮毒性イベントを引き起こす。
【0005】
前記の状態に加え最近では、ニューロンがエネルギー物質(グルコースおよび酸素)を利用してそのエネルギーレベルを維持する能力における様々な障害も、ニューロン死につながる興奮毒性プロセスを誘発し得ることが認識されている。これはアルツハイマー認知症、パーキンソニズム、ハンチントン舞踏病および筋萎縮性側索硬化症などの神経系疾患において神経変性を引き起こす機序であると仮定されている。例えば、細胞内エネルギー代謝の不全を示す証拠がアルツハイマー病患者の脳から生検で取り出された組織例において明らかになっている。これは、アルツハイマー病においてグルタミン酸の興奮毒性誘発し、ニューロン死を引き起こす原因機序として提示されており、そのためこの機序はエネルギー関連興奮毒性プロセスであると説明されている。また、細胞内エネルギー代謝の内因性不全を示す証拠がパーキンソニズムおよびハンチントン舞踏病において報告されている。このため、これらの疾患における神経変性を回避するための合理的な治療方針には、エネルギー欠乏を解消する方法または興奮毒性神経変性を回避する方法が含まれる。
【0006】
神経変性病は、ほとんどの場合神経細胞死につながる正常な神経機能の変化を特徴とする一群の疾患である(これら疾患の大部分は、特に末期段階で深刻な神経細胞の欠損を伴う)。大部分の例において、その病因学的原因は不明であるが、漸進的に発達する。神経変性病は結果として、例外なくその患者およびさらに広いコミュニティーに多大な精神的、肉体的、経済的負担を伴う。
【0007】
特にアルツハイマー病またはパーキンソン病において、神経変性障害を進行させる最も一貫した危険因子は加齢である。過去100年で、先進国における65歳以上の人口成長率は 全人口の成長率をはるかに上回っている。このため、次の100年で高齢者人口が2倍になり、それに伴ってある種の神経変性障害に苦しむ人の数も倍増することが予測できる。これらの障害を引き起こす病気に関連する患者、介護者、および社会への精神的、肉体的、経済的負担の増加が容易に予見できるため、この予測は、医療界および立法者の間で高まっている懸念の中心となっている。今日までに幾つかの薬剤が承認され、幾つかの神経変性病の症状をある程度は軽減しているが、それらの薬剤を長期的に使用すると、しばしば衰弱といった副作用を伴うため、どの承認薬も変性プロセスの進行を止めることができないという事実が問題を悪化させている。これに伴い、神経変性病におけるニューロン死の原因および機序に関する我々の知識不足によって、効果的な予防療法または保護療法の開発が妨げられている。この暗い見通しにも関わらず、幾つかの 神経生物学的解明により、数々の神経変性障害の秘密が明らかになり、効果的な治療方法が使用可能になる日が近づきつつある。
【0008】
CNS虚血に関連する神経細胞の損傷を予防または軽減する方法の開発において、重大な進歩が見られる。この分野では、受容体特異的な拮抗薬(医薬用語では、その受容体での作用を誘発することなく細胞表面にある特定の受容体を占有し、ブロックする薬をその受容体の拮抗薬と呼ぶ)を使用して、グルタミン酸受容体での興奮作用を抑制する方法に関して最も活発な研究が行われている。興奮毒性神経変性を調節できるグルタミン酸受容体は、大まかに「NMDA」受容体および「非NMDA」受容体と呼ばれる2つの広範なカテゴリーに分類される。NMDA受容体は、N‐メチル‐D‐アスパラギン酸にちなんで名づけられており、脳内では自然発生しないが、特定のグルタミン酸受容体と強固に結合することが発見されているため、「NMDA」受容体と呼ばれる薬物である。最近では、グルタミン酸受容体の「非NMDA」類がKA(カイニン酸)受容体およびAMPA受容体(旧称QUIS受容体)と呼ばれるさらに2つの明確なカテゴリーに細分化されている。
【0009】
インビトロ試験および多くのインビボ動物モデルの両方において、NMDA受容体拮抗薬がCNA虚血性神経変性を防ぐことができることが繰返し証明されているが、最近の様々な研究結果から、NMDA拮抗薬は「広範囲の虚血」として知られる主要タイプの虚血には効果がなく、「局所的な」虚血として知られる別のタイプの虚血において部分的な保護しか提供しないことが明らかになっている。さらに、有効な保護を提供するには、虚血の発症後直ちにNMDA拮抗薬を投与する必要があると考えられる。非NMDA拮抗薬に関して実験から証明されていることは限られているが、数例のインビボ動物実験では、虚血の発症後に適用した場合でも、これらの拮抗薬が虚血性神経変性に対して相当の保護作用を及ぼし得ることが提示されている。
【0010】
NMDAまたは非NMDAのいずれかを単独で使用すると、CNS虚血に対して相当の保護作用を提供できるという説がある一方、一連の証拠から、NMDAまたは非NMDA拮抗薬のいずれかを単独使用することで得られる保護レベルは比較的低いことが提示されている。
【0011】
虚血性神経変性に対する神経保護薬としてのグルタミン酸受容体拮抗薬の重大な限界は、それらが変性に対して一時的にニューロンを保護するだけであって、エネルギー欠陥について、またはそのエネルギー欠陥に対して二次的に発生するその他の異常については何も改善しない。そのため、これらの拮抗薬は実験動物モデルにおける虚血性神経変性に対してある程度の保護を提供するが、その保護は部分的でしかなく、そのような部分的な保護は、上記のように変性の発生時期を遅らせるだけである。しかしながら、遅延期間中に補足的および/または継続的な保護を提供するために適用できる他の薬物あるいは手順がある場合は、変性の発生を遅らせることが大変有意義であることに注記することが重要である。
【0012】
大部分の虚血研究において適切に報告されていない重要な要素の一つは、有害な(虚血性)イベントに関連する薬物投与のタイミングについてである。これは重要な考慮事項である。予測可能な虚血イベントもあるが(例えば、開胸手術に伴う)、大部分は予測できない。またほとんどの場合、治療は虚血イベント中あるいはその後に開始されるだけである。CNS細胞は虚血の発症直後に変性し始めるため、CNSニューロンが変性を開始した後に適用する効果的な新しい神経保護方法が明らかに必要である。
【0013】
別の重要な考慮事項は、虚血が一時的(例えば、心不全の発作中)であるか、または永続的(例えば、CNS血管の血栓または塞栓による閉塞に続く)であるかということである。一時的な虚血であれば、酸素とグルコースをCNSに運ぶ血液供給がすぐに回復し、神経変性あるいは虚血障害の進行を防ぐ薬剤が血液循環によって虚血状態の組織に届けられる。
【0014】
脳のある領域への血液供給が凝結塊によって永続的に遮断される場合、虚血状態の組織から酸素とグルコースが永続的に奪われ、血管が遮断されて薬剤が虚血状態の組織に送達されないため、現行の方法では虚血状態の領域の中心に起こる神経変性を防ぐことは不可能である。しかしながら、虚血状態の領域の周辺端には周縁部として知られ、隣接するCNS領域から血液を受け取る大きな組織領域があり、この組織領域が薬物治療の標的となり得る。さらに、心臓発作を起こした患者の治療に現在使用されている血液凝固を溶解する薬剤(ストレプトキナーゼおよび組織プラスミノゲン活性因子などの血栓溶解剤)が、発作後CNSへの血液供給を回復できるかについて研究開発されている。そのような薬剤がヒトのCNSに対して広く使用可能になれば、それらを使用して血管を開き、虚血状態のCNS組織が酸素およびグルコースだけでなく、神経変性を防ぎ、あるいは虚血障害からの回復を促進できる本明細書に開示の薬剤を受け取ることができる。
【0015】
最後に、眼の網膜に血液を供給する主要な動脈が血栓によって閉塞するといった特別な状況があるが、これは本明細書に開示する当該薬剤により救済することができる。この血管が閉塞した場合は、本発明の薬剤を眼の硝子体(例えば、眼球内の透明な液体)に直接注入することによって、当該薬剤を虚血状態の網膜に送達することができる。当該薬剤は硝子体から網膜に素早く拡散する。
【0016】
急性あるいは慢性に関わらず、虚血イベントの結果として起こる疾病/障害を予防または治療できる薬剤の開発が強く望まれる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の要旨
本発明は、化学式I
【0018】
【化1】

【0019】
の化合物またはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療法方であって、
式中、
Eは酸素、硫黄、NHまたはN‐C1-6アルキルであり、
1、R2、R3、およびR4は水素、任意で置換されるアルキル、任意で置換されるアルケニル、任意で置換されるアルキニル、任意で置換されるシクロアルキル、任意で置換されるハロアルキル、任意で置換されるアリール、任意で置換されるアミノアルキル、任意で置換されるヒドロキシアルキル、任意で置換されるアルコキシアルキル、および任意で置換されるアルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいはZ
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
HETはN、O、およびSから選択される1〜4環へテロ原子で構成され、任意で置換される5から7員へテロアリール残基である化合物、あるいはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0020】
好ましい実施例は、HETが化学式
【0021】
【化2】

【0022】
の残基であって、
式中、
mはゼロまたは1であり、
mがゼロの場合は、Z1、Z2、およびZ3がN、O、S、またはCRから独立して選択され、あるいは
mが1の場合は、Z1、Z2、およびZ3がNまたはCRから独立して選択され、
Rは水素、ハロゲン化物、ヒドロキシ、チオール、アミノ、ヒドロキシアミノ、モノ‐C1-8アルキルアミノ、ジ(C1-8アルキル)アミノ、C1-8アルコキシ、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、およびC2-8アルキニルで構成されるグループから発現ごとに独立して選択され、また
xがゼロから4の整数である本発明の方法に使用される組成に関する。
【0023】
さらに好ましい実施例は、
HETが任意で置換されるピリジル、任意で置換されるピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、オキサゾリル、チオキサゾリルで構成されるグループから選択される残基であり、また
1、R2、R3、およびR4が水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する組成の使用を含む。
【0024】
本発明の別の実施例は、化学式II
【0025】
【化3】

【0026】
の化合物、あるいはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療方法であって、
式中、
R,R1、R2、R3、およびR4は水素、任意で置換されるアルキル、任意で置換されるアルケニル、任意で置換されるアルキニル、任意で置換されるシクロアルキル、任意で置換されるハロアルキル、任意で置換されるアリール、任意で置換されるアミノアルキル、任意で置換されるヒドロキシアルキル、任意で置換されるアルコキシアルキル、および任意で置換されるアルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成さてよい3から7員環を形成し、また
xがゼロから5の整数であって、
さらに詳しくは、
式中、
xがゼロ、1、2、または3であり、
R、R1、R2、R3、およびR4が水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する化合物、またはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0027】
本発明のさらに別の実施例は、化学式III
【0028】
【化4】

【0029】
の化合物、あるいはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療方法であって、
式中、
R、R1、R2、R3、およびR4は水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
6は水素、ヒドロキシ、アミノ、またはC1-8アルキルであり、
5およびR7は水素、ハロゲン化物、ヒドロキシ、チオール、アミノ、ヒドロキシアミノ、モノ‐C1-8アルキルアミノ、ジ‐(C1-8アルキル)アミノ、 C1-8アルコキシ、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、およびC2-8アルキニルで構成されるグループから独立して選択される化合物またはプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療方法に関する。
【0030】
本発明の最も好ましい実施例は、以下の化学式
【0031】
【化5】

【0032】
のPAN811(3‐アミノピリジン‐2‐カルボキサデルヒド・チオセミカルバゾン)を虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0033】
本発明の好ましい実施例は、アルツハイマー病、パーキンソン病、冠動脈バイパス術、心停止による全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血性梗塞、 高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂による出血、頭蓋内動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血につながる頸動脈狭窄症または閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中および脊髄損傷、アテローム性動脈硬化などの脳血管障害、脈管炎、黄斑変性症、心筋梗塞、心虚血および上室性頻拍性不整脈を含むが、これらに限定されない特定の虚血関連状態の治療方法に関する。
【0034】
発明の詳細な説明
本発明の特徴および他の詳細を特許請求の範囲において詳しく記載する。本発明の特定の実施例を図によって示すが、それらが本発明を制限するものでないことを理解されたい。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく様々な実施例において機能することができる。
【0035】
虚血関連障害/疾病の病理は、一般に網膜症、急性腎不全、心筋梗塞および脳卒中などで血管が狭窄あるいは閉塞されて起こる体内器官、組織または身体部分に対する血液供給の減少に関わる。それらは急性イベント(例えば、心臓発作)またはイベントの慢性進行(例えば、神経変性病)の結果として起こる。
【0036】
本発明は、化学式I
【0037】
【化6】

【0038】
の化合物またはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療法方であって、
式中、
Eは酸素、硫黄、NHまたはN‐C1-6アルキルであり、
1、R2、R3、およびR4は水素、任意で置換されるアルキル、任意で置換されるアルケニル、任意で置換されるアルキニル、任意で置換されるシクロアルキル、任意で置換されるハロアルキル、任意で置換されるアリール、任意で置換されるアミノアルキル、任意で置換されるヒドロキシアルキル、任意で置換されるアルコキシアルキル、および任意で置換されるアルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
HETはN、O、およびSから選択される1〜4環へテロ原子で構成され、任意で置換される5から7員へテロアリール残基である化合物、あるいはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0039】
好ましい実施例は、HETが化学式
【0040】
【化7】

【0041】
の残基であって、
式中、
mはゼロまたは1であり、
mがゼロの場合は、Z1、Z2、およびZ3がN、O、S、またはCRから独立して選択され、あるいは
mが1の場合は、Z1、Z2、およびZ3がNまたはCRから独立して選択され、
Rは水素、ハロゲン化物、ヒドロキシ、チオール、アミノ、ヒドロキシアミノ、モノ‐C1-8アルキルアミノ、ジ(C1-8アルキル)アミノ、C1-8アルコキシ、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、およびC2-8アルキニルで構成されるグループから発現ごとに独立して選択され、また
xがゼロから4の整数である本発明の方法に使用される組成に関する。
【0042】
さらに好ましい実施例は、
HETが任意で置換されるピリジル、任意で置換されるピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、オキサゾリル、チオキサゾリルで構成されるグループから選択される残基であり、また
1、R2、R3、およびR4が水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する組成の使用を含む。
【0043】
本発明の別の実施例は、化学式II
【0044】
【化8】

【0045】
の化合物、あるいはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療方法であって、
式中、
R,R1、R2、R3、およびR4は水素、任意で置換されるアルキル、任意で置換されるアルケニル、任意で置換されるアルキニル、任意で置換されるシクロアルキル、任意で置換されるハロアルキル、任意で置換されるアリール、任意で置換されるアミノアルキル、任意で置換されるヒドロキシアルキル、任意で置換されるアルコキシアルキル、および任意で置換されるアルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、また
xがゼロから5の整数であって、
さらに詳しくは、
式中、
xがゼロ、1、2、または3であり、
R、R1、R2、R3、およびR4が水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する化合物、またはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0046】
本発明のさらに別の実施例は、化学式III
【0047】
【化9】

【0048】
の化合物あるいはそのプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む虚血関連状態の治療方法であって、
式中、
R、R1、R2、R3、およびR4は水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
6は水素、ヒドロキシ、アミノ、またはC1-8アルキルであり、
5およびR7は水素、ハロゲン化物、ヒドロキシ、チオール、アミノ、ヒドロキシアミノ、モノ‐C1-8アルキルアミノ、ジ‐(C1-8アルキル)アミノ、 C1-8アルコキシ、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、およびC2-8アルキニルで構成されるグループから独立して選択される化合物またはプロドラッグを虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0049】
本発明の最も好ましい実施例は、以下の化学式
【0050】
【化10】

【0051】
のPAN811(3‐アミノピリジン‐2‐カルボキサデルヒド・チオセミカルバゾン)を虚血関連状態の治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法に関する。
【0052】
本発明の好ましい実施例は、アルツハイマー病、パーキンソン病、冠動脈バイパス術、心停止による全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血性梗塞、 高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂による出血、頭蓋内動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血につながる頸動脈狭窄症または閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中および脊髄損傷、アテローム性動脈硬化などの脳血管障害、脈管炎、黄斑変性症、心筋梗塞、心虚血および上室性頻拍性不整脈を含むが、これらに限定されない特定の虚血関連状態の治療方法に関する。
【0053】
本発明の方法に有効な化合物の合成方法は、当該技術分野においてよく知られている。そのような合成スキームは、米国特許:5,281,715、5,767,134、4,447,427、5,869,676および5,721,259において開示されており、これらは参照することにより全体が本書に組み込まれる。
【0054】
医薬組成
本発明の別の側面は、本発明の方法に有効なチオセミカルバゾンの医薬組成に関する。本発明の当該医薬組成は、主に本発明の方法に有効な化合物および医薬的に許容し得る担体で構成されている。ここで使用する「医薬的に許容し得る担体」は、あらゆる溶媒、分散媒体、膜、抗菌剤および抗真剤、等張剤および吸収遅延剤、および生理的に適合する同等物を含む。担体の種類は、意図する投与経路に基づいて選択できる。様々な実施例において、当該担体は、静脈、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、経皮あるいは経口投与に適している。医薬的に許容し得る担体は、無菌水溶液あるいは分散液、および無菌注入液または分散液の即時調整用無菌粉末を含む。医薬的に活性の物質にそのような媒体および媒介物を使用することは、当該技術分野においてよく知られている。従来の任意の媒体または媒介物が活性化合物と適合しない場合を除いて、本発明の医薬組成におけるその使用が考慮されている。補足的な活性化合物を当該組成に組み込むこともできる。
【0055】
通常、治療組成は製造および保存状態において無菌で安定する必要がある。当該組成は、溶媒、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高薬物濃度に適した他の秩序構造として処方することができる。当該担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびその適切な混合物を含む溶媒または分散媒体となる。例えばレシチンなどの膜の使用、分散する場合は必要とされる分子サイズの維持、また界面活性剤の使用によって適切な流動性を維持できる。多くの場合、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、あるいは塩化ナトリウムを当該組成に含むことが好まれる。例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンといった吸収遅延剤を組成に含めることによって、注入可能な組成を長期的に吸収させることができる。さらに、例えば徐放ポリマーを含む組成においては、徐放製剤で当該組成を投与することもできる。活性化合物は、埋め込み型およびマイクロカプセル化した送達システムを含む放出制御製剤で高速放出から化合物を保護する担体を用いて生成できる。エチレン酢酸ビニル、無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオーソエステル、ポリ乳酸およびポリグリコール共重合体(PLG)などの生分解性、生適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の多くの生成方法は、当業者には一般に知られている。
【0056】
無菌の注入溶液は、上記の材料の1つまたは複数を組み合わせた適切な溶媒に必要量の活性化合物を組み込むことによって生成することができ、必要に応じてろ過滅菌を行う。一般に分散液は、基本的な分散媒体および必要とされる上記の他の材料を含む無菌媒体に活性化合物を組み込むことによって生成する。無菌注入溶液生成用無菌粉末の場合、好ましい生成方法は、真空乾燥および事前に無菌ろ過された溶液から活性材料に加えて追加の望ましい材料の粉末を産出する凍結乾燥である。
【0057】
投与経路によって、酵素、酸、および薬剤を不活性にすることがある他の自然状態の作用から化合物を保護するために、当該化合物を物質でコーティングしてもよい。例えば、酵素阻害剤とともに適切な担体または希釈液において当該化合物を対象に投与するか、またはリポソームなどの適切な担体で投与することができる。医薬的に許容し得る希釈液は、生理食塩水および水性緩衝液を含む。酵素阻害剤は、膵トリプシン阻害剤、ジイソプロピルフルオロリン酸(DEP)およびトラジロールを含む。リポソームは従来のリポソームと同様に、油中水乳剤を含む(Strejanら、(1984)J. Neuroimmunol 7:27)。分散液はグリセロール、液体ポリエチレングリコール、その混合液、および油中で生成することもできる。従来の保存および使用状態では、微生物の成長を防ぐために保存料を含めて生成してもよい。
【0058】
当該組成中の活性剤(例えば、1つまたは複数のチオセミカルバゾン)は、好ましくは治療上有効な量の組成で調整される。「治療上有効な量」とは、望ましい治療結果を得て、それによって特定の病状の治療過程に影響を及ぼすのに効果的な量、必要な用量および期間を意味する。治療上有効な量の活性剤は、個人の病状、年齢、性別、および体重などの要素によって、またその個人に望ましい反応を誘引する薬剤の能力によって異なる。用法用量は、最適な治療効果をもたらすうに調整してよい。治療上有効な量は、治療上有益な効果が当該活性剤の毒性または有害な効果を上回る量でもある。別の実施例において、当該活性剤は予防的に有効な量の組成で処方される。「予防的に有効な量」は、望ましい予防効果を得るために効果的な量、必要な用量および期間を示す。一般に、予防的な用量は病気の発症前、または初期段階に使用されるため、予防的に有効な量は治療上有効な量よりも少なくなる。
【0059】
当該組成における活性化合物の量は、個人の病状、年齢、性別および体重によって変えてよい。用法用量は最適な治療効果をもたらすように調整してよい。例えば、ボーラスを単回投与するか、長期に渡って用量を複数回に分けて投与するか、あるいは治療状況の要件に示されるように、用量の比率を増減させてもよい。容易な投与と用法の統一のために、服用単位フォームとして非経口組成を処方することが特に有効である。ここで使用される服用単位フォームは、治療を受ける哺乳類対象に対する単一の用法に適した物理的不連続単位を示す。各単位は、必要とされる医薬担体と関連して、望ましい治療効果を挙げるよう事前に設定された量の活性化合物を含む。本発明の用法単位フォームに関する仕様は、(a)活性化合物固有の特性および得られる特定の治療効果、および(b)個人の治療感受性に対してそのような活性化合物を合成する技術に特有の制限事項に直接依存する。
【0060】
本発明の化合物は医薬組成に組み込むことができる。ここで当該化合物はそこで唯一の活性剤である。代替として、当該医薬組成は追加の活性剤を含むことができる。例えば、本発明の2つ以上の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本発明は、以下の実施例によって詳述されるがそれらに制限されると解釈されるものではない。本出願を通して引用されるすべての参照文献、特許、および公開特許出願の内容は、ならびに図は、参照することにより本書に組み込まれる。
【実施例】
【0062】
例証
実施例1
PAN‐811および他の周知の神経保護剤の神経保護能力比較
目的
本研究の目的は、アルツハイマー病関連の酸化的ストレスの細胞ベースモデルにおけるPAN‐811(3‐アミノピリジン‐2‐カルボキサルデヒド・チオセミカルバゾン;C795S;MW=195)の神経保護能力をビタミンE、リポ酸、およびイチョウの葉などの周知の神経保護剤と比較することである。
【0063】
1.材料および方法
1.1.研究デザイン
1.1.1.細胞の分離および受容
初代皮質ニューロンを17日齢のラット胚脳から分離し、96ウェルプレート上に標準神経細胞用基礎培地中50,000細胞/ウェルの密度で2〜3週間播種した。培地の半量を、抗酸化剤を含まない新たな神経細胞用基礎培地と2回置き換えた。
【0064】
1.1.2.PAN‐811、他の周知の神経保護剤および過酸化水素による処理
PAN‐811を1mg/ml(〜5mM)のEtOHに溶解し、さらに最終濃度0.1μM、1μM、および10μMの媒体で希釈した。他の周知の神経保護剤を適切な溶媒に溶解し、前記の最終濃度の媒体で希釈した。ニューロンをPAN‐811、周知の神経保護剤あるいは媒体で24時間事前処理した後、過酸化水素(最終濃度150μM)により誘引される酸化的ストレスをかける。対照には、未処理の細胞(化合物および過酸化水素による処理をしていない細胞)、化合物のみで処理された細胞、および化合物ではなく過酸化水素に曝露された細胞が含まれる。未処理の細胞を対照として使用し、ニューロンの毒性および向上した生存能力を評価した。各試験は3回繰り返し行った。
【0065】
細胞機能の評価
24時間後、標準MTS試験(Promega社)を使用して生存能力およびミトコンドリア作用を評価した。製造者のプロトコルは以下のとおりである。
【0066】
1.2.材料
・ 神経細胞用基礎媒地(Invitrogen社)
・ B27‐AO(Invitrogen社)
・ PAN‐811(Vion Pharmaceuticals, Inc.)
・ 過酸化水素(Calbiochem社)
・ EtOH(Sigma社)
・ ビタミンE(Sigma社)
・ リポ酸(Sigma社)
・ イチョウの葉(CVS)
・ MTS試験キット(Promega社)

1.3.装置
・ バランス(Mettler−Toledo, Inc.)
・ 可調整ピペット(Finnpipette社)
・ 細胞培養フード(Thermo Forma社)
・ 細胞培養器(Thermo Forma社)
・ プレートリーダー(Bio−Rad Model 550)。
【0067】
2.結果
2.1 実験
上記の研究デザインに記載の手順に従って実験を行った。PAN‐811を1mg/mlのEtOH(〜5mM)に溶解し、さらに神経細胞用基礎培地で最終濃度0.1μM、1μM、および10μMまで希釈した。リポ酸を240mMのEtOHに溶解し、さらに神経細胞用基礎培地で最終濃度10μM、25μM、50μM、および100μMまで希釈した。ビタミンEを100mM濃度のEtOHに溶解し、神経細胞用基礎培地で最終濃度50μM、100μM、200μM、および400μMまで希釈した。イチョウの葉は、6mg/mlのdH2Oに溶解し、神経細胞用基礎培地で最終濃度2.5μg/ml、5μg/ml、25μg/ml、250μg/mlまで希釈した。処理の最後に媒体を、B27(‐AO)を加えた100μlの新しい加温済み神経細胞用基礎培地と取り替えた。プレートを37℃で5%CO2の培養器に1時間戻した。次に20μlMTS試薬を各ウェルに加え、プレートを37℃で5%CO2の培養器でさらに2時間培養した。各ウェルの490nmでの吸収度をBioRadプレートリーダー(モデル550)で記録した。培地のみを含むウェルをブランクとして使用した。各データポイントは、3つの個別の試験ウェルの平均である。未処理の細胞を対照として使用し、細胞の生存能力および神経保護能力を算出した。当該研究には2週齢の初代培地を使用した。結果については図1を参照のこと。
【0068】
結論
PAN‐811は、過酷な過酸化水素処理下においても1〜10μM濃度で良好な神経保護能力を示した。ビタミンEおよびリポ酸は、過酷な処理下で最小限の神経保護能力を示した。イチョウの葉は過酷な処理下である程度の神経保護を示した。
【0069】
PAN‐811は、過酷な過酸化水素下においても最終濃度1〜10μMで著しい神経保護を示した。PAN‐811の神経保護の有効性は、他の周知の神経保護剤、ビタミンE、リポ酸、およびイチョウの葉の有効性をはるかに上回っていた。
【0070】
実施例2
神経細胞における活性酸素種(ROS)産生に対するPAN‐811の効果
目的
本研究の目的は、PAN‐811のアルツハイマー病関連酸化的ストレスの細胞ベースモデルにおけるROS産生の削減能力を評価することである。
【0071】
1. 材料および方法
1.1 研究デザイン
1.1.1.細胞の分離および受容
初代皮質ニューロンを17日齢のラット胚脳から分離し、96ウェルプレートに標準神経細胞用基礎培地中50,000細胞/ウェルの密度で2〜3週間播種した。培地の半量を、酸化防止剤を含まない新たな神経細胞用基礎培地と2回置き換えた。
【0072】
1.1.2 .細胞のCM‐H2DCFDA色素事前負荷およびPAN‐811と過酸化水素による処理
初代皮質ニューロンをHBSS緩衝液で1回洗浄し、10μMの5‐(および‐6)クロロメチル‐2’,7’‐ジクロロジヒドロフルオロセインニ酢酸アセチルエステル(CM‐H2DCFDA)で培養して色素を事前に含ませた。その後、細胞をHBSS緩衝液で1回洗浄し、最終濃度0.1、1、5、および10μMのPAN‐811で1時間処理した後、300μMの過酸化水素によって誘導される酸化的ストレスを2時間かけた。
【0073】
1.1.3.神経細胞におけるROS産生の評価
各ウェルの485/520nm(Ex/Em)におけるc‐DCF蛍光体をBMG Polarstarプレートリーダーで記録し、それを使用して細胞におけるROS産生を評価した。色素を含む未処理の細胞を対照として使用し、c‐DCF蛍光体の変化を算出した。各試験は3回繰り返し行った。
【0074】
1.2 材料
・ 神経細胞用基礎培地(Invitrogen社)
・ B27‐AO(Invitrogen社)
・ HBSS緩衝液(Invitrogen社)
・ CM‐H2DCFDA(分子プローブ)
・ PAN‐811(Vion Pharmaceuticals, Inc.)
・ 過酸化水素(Calibiochem社)
・ EtOH(Sigma社)
・ PEG‐300(Sigma社)
1.3 装置
・ バランス(Mettler−Toledo, Inc.)
・ 可調整ピペット(Finnpipette社)
・ 細胞培養フード(Thermo Forma社)
・ 細胞培養器(Thermo Forma社)
・ Polarstar蛍光プレートリーダー(BMG)。
【0075】
2.0 結果
2.1 実験
上記の研究デザインに記載の手順に従って実験を行った。各ウェルの485/520nm(Ex/Em)でのc‐DCF蛍光体をBMG Polarstarプレートリーダーで記録した。色素のない細胞を含むウェルをブランクとして使用した。各データポイントは、3つの個別の試験ウェルの平均である。色素含む未処理の細胞を対照として使用し、c‐DCF蛍光体の変化を算出した。当該研究には2週齢の初代培養を使用した。
【0076】
3.0 考察
CM‐H2DCFDAは、細胞内エステラーゼによって酢酸基が取り除かれ、細胞内で酸化が起こるまでの非蛍光性ROSの細胞透過指標である。これは、細胞および動物における活性酸素種(ROS)産生の検出に広く使用されている。ここでは研究デザインに記載の手順に従って、神経細胞におけるROS産生に対するPAN‐811の効果を判定するツールとして使用している。図2は、PAN‐811が神経細胞における基礎レベルのROS産生と同様に、過酸化水素誘導ROS産生を削減する良好な能力を示したことを図示している。PAN‐811の代わりに、緩衝液PGE‐300/EtOHを使用した平行対照実験は、細胞におけるROS産生に対する効果を示さなかった。異なる細胞群で4回実験を繰り返したところ、同様の結果が得られた。代表的な実験については、図2を参照のこと。
【0077】
4.0 結論
PAN‐811は、初代神経細胞において、過酸化水素誘導ROS産生(10μMで最高30%)および初期レベルのROS産生(10μMで最高50%)を大幅に削減した。
【0078】
文献
(1). Gibson GE, Zhang H, Xu H, Park LC, Jeitner TM. (2001). Oxidative stress increases internal calcium stores and reduces a key mitochondrial enzyme. Biochim Biophys Acta. Mar 16;1586(2):177−89.
(2). Chignell CF, Sik RH. (2003). A photochemical study of cells loaded with 2’,7’−dichlorofluorescin: implications for the detection of reactive oxygen species generated during UVA irradiation. Free Radic Biol Med. Apr 15;34(8):1029−34。
【0079】
実施例3
低酸素誘導神経毒性または低酸素/低血糖誘導神経毒性に対する潜在的神経保護剤PAN‐811
1.0 はじめに
虚血性発作後、最初の数分における神経損傷を軽減することが効果的な治療につながる重要な方法である。脳卒中の発作の間、動脈が血栓/塞栓によって閉塞するため脳の局所領域への酸素およびグルコースの輸送が遮断され、これによって梗塞の中核に神経細胞の欠損が生じる。中核の細胞死は壊死機序を介して非常に速く進行する。虚血性梗塞を取り囲む脳領域は、その構造は保持するが機能的(電気的)には無反応であり、周縁部と呼ばれる。梗塞に至るまでの進化が比較的漸進的な現象であるため、当該周縁部は一時的な領域である(Touzaniら、2001)。この領域は、幾つかの脳の機能を保護する可能性を提供し、周縁部の治療のための治療濃度域は梗塞領域のそれよりはるかに長い。当該周縁部は、エネルギー代謝が保護される血液供給抑制領域として説明することもできる。そのため当該周縁部は、休止状態のニューロンを再活性させる高圧酸素などの作用因子および神経保護治療のターゲットである。CNS外傷における損傷直後のダメージは回復不可能であるが、脳の損傷、主として全脳低酸素/虚血を悪化させる一連のイベントの進行を神経保護の効果的な方法によって回避することができる。例えば、冠動脈バイパス術(CABG)前および術中に神経保護剤を投与することによって、術中に脳への血流が短期間変化すること(軽度の低酸素/低血糖状態につながる)によって生じる神経変性を効果的に防ぐことができる。このため、顕著な神経保護および損傷を受けた後のニューロン救済の両方が可能な化合物が重要である。
【0080】
2.0 目的
本研究の目的は、PAN‐811がインビトロで低酸素誘導神経毒性または低酸素/低血糖(H/H)誘導神経毒性を保護できるかどうかを理解することである。PAN‐811は、関連する研究において、過酸化水素で処理した初代ニューロンに対して顕著な神経保護を提供することが既に示されている。
【0081】
3.0 材料および方法
3.1 材料
・ 神経細胞用基礎培地(Invitrogen社)
・ B27‐AO(Invitrogen社)
・ PAN‐811(Vion Pharmaceuticals社)
・ EtOH(Sigma社)
・ DMSO(Sigma社)
・ PEG‐300(Sigma社)
・ MTS試験キット(Promega社)
・ LDH試験キット(Sigma社)
2.2 装置
・ バランス(Mettler−Toledo, Inc.)
・ 可調整ピペット(Finnpipette社)
・ 細胞培養フード(Thermo Forma社)
・ 細胞培養器(Thermo Forma社)
・ プレートリーダー(Bio‐Rad Model550)
・ FYRITEガス分析計(Bacharach, Inc)
・ モジュール培養室‐101TM(Billups‐Rothenberg,Inc.)
3.3 略称
BSS=平衡塩類溶液(Balanced Salt Solution)
CABG=冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Graft)
d.i.v.=試験管内日数(Days in vitro)
EtOH=エタノール(Ethanol)
H/H=低酸素/低血糖(Hypoxia/Hypoglycemia)
LDH=乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase)
MCAO=中大脳動脈閉塞(Middle Cerebral Artery Occlusion)
NB=神経細胞用基礎培地(Neurobasal medium)
NMDA=N‐メチル‐D‐アスパラギン酸
PEG=ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)。
【0082】
3.4 研究デザイン
3.4.1 神経培養
96ウェルプレート形式で実験を行った。ポリ‐D‐リシンでコーティングされた表面に皮質ニューロンを50,000細胞/ウェルの密度で播種し、無血清培地(NBにB27を補足)で培養してニューロンの富栄養培地を得る。ニューロンを14日以上試験管内で培養し、興奮性アミノ酸に対する細胞の感受性を増加させる(チヤン(Jiang)ら、2001)。定量分析を容易にするため、6つの複製ウェルを1グループとして処理した。
【0083】
3.4.2 神経毒性の誘導‐インビトロモデル
以下の表に示すように、脳内のグルコース濃度は通常2.2mM以上である。虚血の間、中核および周縁部のグルコース濃度はそれぞれ0.2mMおよび1.4mMまで低下する。再循環後1、2時間でグルコースレベルは正常に戻る(Folbergrovaら、1995)。
【0084】
【表1】

【0085】
低酸素誘導神経毒性に対するグルコース濃度の効果を理解するため、異なる用量のグルコースをテストした。図3に示すように、グルコース濃度が25mMである正常状態と比較して、グルコース濃度が2.9mMまで低下しても神経細胞死を生じなかった。 グルコース濃度が0.4mMまで低下した場合、MTS試験が示すように確固たる細胞死が発生した。
【0086】
脳卒中の脳環境を再現するために、3つのインビトロモデルシステムを確立した。極度のH/Hモデル(0.4mMグルコース)は梗塞の中核における環境の再現であり、軽度のH/Hモデル(1.63mMグルコース)はMCAO中の周縁部における環境の再現、また低酸素のみのモデル(正常なインビトログルコース濃度‐25mM中のニューロン)は、再かん流後の周縁部の環境を再現している。これは、再かん流後に起こり得る細胞死が主にエネルギー欠陥よりも低酸素の影響の結果であるためである。
【0087】
極度のH/Hの場合は0.4mM、軽度のH/Hの場合は1.63mMまでグルコース濃度を下げることによって、低酸素/低血糖状態を得た。BSS(116.0mMのNaCl、5.4mMのKCl、0.8mMのMgSO4・7H2O、1.0mMのNaH2PO4、1.8mMのCaCl2・2H2O、26.2mMのNaHCO3、および0.01mMのグリシン)あるいは25mMのグルコースを含むBSSは、5分間脱気した後使用した。低酸素用のプレート中の培地をBSSあるいはグルコースを含むBSSと置き換えた。一方、正常酸素用のプレート中の培地は、非脱気BSSあるいはグルコースを含むBSSと置き換えた。プレートを密封容器(モジュール培養室‐101TM、Billups‐Rothenberg,Inc.)に移し、20分間真空処理して酸素または他のガスを培地から除去した後、室内に5%CO2および95%N2を30psiの圧力で1分間再充填して、細胞を低酸素状態に置いた。室内の酸素レベルはO2指示計(FYRITEガス分析計、Bacharach,Inc.)でゼロとした。当該室内に培養プレートを6時間維持した。実験対照として、複製した培養プレートを正常な培養条件下(5%CO2および95%環境大気)で同期間維持した。6時間の処理後、プレートを当該室から取り出し、低酸素および正常酸素培養における培地を、25mMグルコースを含む最終溶液(1xピルビン酸ナトリウム、10.0mMのHEPES、および1xN2サプリメントで補完されたDMEM)と置き換え、5%CO2および95%環境大気中で培養した。ニューロンを様々な濃度のPAN‐811あるいは負の対照としての媒体で処理した。MK801は正の対照として使用した。ミトコンドリア作用および細胞死はH/H状態に置いてから24時間または48時間後にMTSおよびLDH分析で評価した(以下参照)。
【0088】
低酸素のみのモデルにおいて、ニューロンを溶媒またはPAN‐811で24時間または48時間事前処理した。薬剤による処理を24時間の低酸素期間中および期間後も継続した。低酸素状態に置いてから24時間または48時間後に細胞形態および機能(MTSおよびLDH試験)を計測した。
【0089】
3.4.3 形態のモニタリング
形態学的に評価した神経細胞死を図4に示す。低酸素状態前のニューロンは健康で、様相の優れた細胞体(矢じり)および正常な神経突起(白抜き矢印)を持つ。当該プロセスおよびそれらの分枝がバックグラウンドに密なネットワークを形成する。低酸素状態は細胞体の収縮および神経突起やネットワークの崩壊を招く。用量5μMのグルタミン酸NMDA受容体拮抗薬MK801と同様に、PAN‐811は神経細胞死から効果的に保護し、神経突起を部分的に留保することを示した。
【0090】
3.4.4 MTS試験
MTS試験は、代謝的に活発な細胞におけるミトコンドリア作用を測定する比色試験である。この測定は直接細胞生存能力に反映する。MTSテトラゾリウム化合物は、代謝的に活発なミトコンドリア中では減少し、組織培地において溶解可能な有色のホルマザン生成物になり、490nmの吸収度で検出できる。20μlのMTS試薬(Promega社)を、100μlの培地にサンプルを含む96ウェル試験プレートの各ウェルに添加する。次に当該プレートを37℃の加湿した5%CO2雰囲気中で1〜2時間、完全に発色するまで培養する。Bio‐Rad96ウェルプレートリーダーを使用して、490nmの吸収度を記録した。
【0091】
3.4.5 LDH試験
乳酸脱水素酵素(LDH)試験は、LDHの作用によるNADの減少に基づいている。結果として減少するNAD(NADH)をテトラゾリウム染色の化学量論的変換に使用する。異なる処理を行った培養物から得た無細胞のアリコート培地を試験する場合、膜の完全性の作用と同様に、LDHの作用量を関連する細胞死の指標として使用することができる。試験した96ウェルプレート中のウェルから得た50μlアリコートの培地を未使用のプレート中のウェルに移し、均等に混合した基質、酵素および染色溶液(Sigma社)25μlで補完した。当該生成物を室温で20〜30分間培養した後、490nmの波長で分光光度法的に測定した。
【0092】
3.結果
4.1 低酸素のみのモデル
3.1.1.PAN‐811の有効性および毒性
低酸素前の48時間、皮質ニューロンをPAN‐811で処理した。PAN‐811を低酸素状態で24時間、その後48時間静置した。用量2μMのPAN‐811は細胞死を完全にブロックしたが、50μMでは毒性を示した(図5を参照)。
【0093】
3.1.2.他の神経保護剤との比較
低酸素期間の24時間前、低酸素期間中、およびその後24時間、皮質ニューロンを2μMのPAN‐811、1:80の緑茶、または5μMのMK801で処理した。テストした試薬の中で、PAN‐811は最も高い有効性を示し、神経細胞死およびミトコンドリア作用不全を完全にブロックした。
【0094】
軽度のH/Hモデル
3.1.3. 低酸素期間前および期間中、PAN‐811はニューロンを軽度のH/H誘導神経毒性から保護した。
【0095】
胚(E17)ラット皮質ニューロンを15日間培養し、低酸素/低血糖前の24時間およびその期間中(6時間)、PAN‐811および媒体で処理した。当該発作の17時間後にMTS試験およびLDH試験を実施した。5μMのPAN‐811は、低酸素/低血糖誘導ミトコンドリア作用不全および神経細胞死を完全に防いだが、PEG:EtOH=1:1の520希釈液(5μMのPAN‐811の媒体量に対応する)は防御しなかった。
【0096】
代表的なデータを図6に示す。2〜50μMの濃度範囲をカバーする6実験の要約を以下の表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
4.2.2. 発作中、特に発作後に、PAN‐811は軽度のH/H誘導神経毒性から細胞を保護した。
【0099】
ニューロンを15日間培養し、PAN‐811またはPEG:EtOH(7:3)を媒体として用いて6時間のH/H前の24時間処理した(H/H前グループ)。代替として、ニューロンを16日間培養し、6時間のH/H中に上記の試薬で処理し(H/H中グループ)、6時間のH/H期間中およびH/H後48時間処理する(H/H中およびH/H後グループ)、あるいはH/H後48時間処理した(H/H後グループ)。H/H期間後48時間にLDH試験を実施した。H/Hの直前ではなく、H/H中および特にH/H後にニューロンを処理した場合、PAN‐811は神経細胞死から保護した。図7を参照のこと。
【0100】
3.2.極度のH/Hモデル
50μM以下のPAN‐811は、神経細胞死を防がなかった(データ表示せず)。
【0101】
4.結論
4.1. 2μMのPAN‐811は低酸素誘導神経毒性および軽度のH/H誘導神経毒性を完全に防いだ。100μMのPAN‐811は、極度のH/H誘導神経細胞死を一部ブロックしたにすぎず、エネルギー代謝に関与しているとは考えにくい。
【0102】
4.2. 低酸素または虚血発作中、あるいはその後のいずれかに投与した場合、PAN‐811はニューロンを細胞死から顕著に保護した。
【0103】
4.3. PAN‐811の有効性は、MK801および/または緑茶よりはるかに優れている。
【0104】
4.4. 50μMのPAN‐811を長期的に接触させると、ニューロンにとって毒性となる(120時間曝露)。
【0105】
5.参照文献
1. Jiang, Z.−G., Piggee, C.A., Heyes, M.P., Murphy, C.M., Quearry, B., Zheng, J., Gendelman, H.E., and Markey, S.P. Glutamate is a principal mediator of HIV−1−infected immune competent human macrophage neurotoxicity. J. Neuroimmunology 117(1 2):97−107, 2001.
2. Folbergrova, J., Zhao, Q., Katsura, K., and Siesjo, B.K. N−tert−butyl-phenylnitrone improves recovery of brain energy state in rats following transient focal ischemia. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:5057−5061, 1995.
3. Touzani, O., Roussel, S., and MacKenzie, E.T. The ischemic penumbra. Curr. Opin. Neurol. 14:83−8, 2001。
【0106】
実施例4
一時的な局所脳虚血のインビボモデルにおいて顕著な神経保護を示すPAN‐811
1.はじめに
発作後最初の数分における神経損傷を軽減することが効果的な治療につながる重要な方法である。脳卒中の発作の間、動脈が血栓/塞栓によって閉塞するため脳の局所領域への酸素およびグルコースの輸送が遮断され、これによって梗塞の中核に神経細胞の欠損が生じる。中核の細胞死は壊死機序を介して非常に速く進行する。虚血性梗塞を取り囲む脳領域は、その構造は保持するが機能的(電気的)には無反応であり、周縁部と呼ばれる。梗塞に至るまでの進化が比較的漸進的な現象であるため、当該周縁部は一時的な領域である(Touzaniら、2001)。この領域は、幾つかの脳の機能を保護する可能性を提供し、周縁部の治療のための治療濃度域は梗塞領域のそれよりはるかに長い。当該周縁部は、エネルギー代謝が保護される血液供給抑制領域として説明することもできる。そのため当該周縁部は、休止状態のニューロンを再活性させる高圧酸素などの作用因子および神経保護治療のターゲットである。CNS外傷における損傷直後のダメージは回復不可能であるが、脳の損傷、主として全脳低酸素/虚血を悪化させる一連のイベントの進行を神経保護の効果的な方法によって回避することができる。例えば、冠動脈バイパス術(CABG)前および術中に神経保護剤を投与することによって、術中に脳への血流が短期間変化すること(軽度の低酸素/低血糖状態につながる)によって生じる神経変性を効果的に防ぐことができる。このため、顕著な神経保護および損傷を受けた後のニューロン救済の両方が可能な化合物が重要である。
【0107】
2.目的
PAN‐811は、酸化的ストレスおよび虚血のインビトロモデルにおいて顕著な神経保護を示している。周知の毒性プロファイルおよび薬物動態データを含め、先の研究は脳卒中の治療におけるその可能性を高く示唆している。
【0108】
3.材料および方法
3.1 材料
・ PAN‐811(Vion Pharmaceuticals社)
・ EtOH(Sigma社)
・ PEG‐300(Sigma社)
・ MTS試験キット(Sigma社)
3.2 略称
CABG=冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Graft)
EtOH=エタノール(Ethanol)
H/H=低酸素/低血糖(Hypoxia/Hypoglycemia)
MCAO=中大脳動脈閉塞(Middle Cerebral Artery Occlusion)
PEG=ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)
3.3 研究デザイン
3.3.1 インビトロ研究
インビボ研究に着手する前に、PAN‐811を幾つかの神経変性細胞モデルにおいてテストした。
【0109】
3.3.1.1.神経培養
富養神経培養物を15日齢のSprague‐Dawleyラット胚から生成した。無菌技術を使用して、ラット胚を子宮から取り出し、無菌神経細胞用培地に配置した。解剖顕微鏡を使用して、髄膜および血管を除去するように注意しながら脳組織を各胚から取り出した。小脳を顕微鏡下、全体切開によって分離し、小脳組織のみを培養に使用した。組織を粉砕して細胞を分離し、ポリ(L‐リシン)で事前にコーティングされた48ウェルプレートに5x105細胞/ウェルの密度で播種した。Eagleの基礎培地(グルタミンを含まない)の同等部および10%加熱不活性化ウマ血清、10%ウシ胎孔血清、グルコース600μg/ml、グルタミン100μg/ml、ペニシリン50U/ml、およびストレプトマイシン50μg/mlで補完したHamのF‐12k媒体を含む媒体で培養を維持した。48時間後、10μMのシトシンアラビノシドを加えて非神経細胞分裂を阻害した。培養7日後の細胞を実験に使用した。
【0110】
3.3.1.2.PAN‐811の神経毒性
様々な量のPAN‐811(0〜100μM)で24時間細胞を処理した。細胞の生存能力はMTT試験で判定した。
【0111】
3.3.1.3.神経毒性の誘導‐インビトロモデル
4つのインビトロモデルにおいて興奮毒性を調べた。細胞をH/H状態に3時間置くか、あるいはグルタミン酸(100μM)、スタウロスポリン(1μM)、あるいはベラトリジン(10μM)のいずれかで45分間処理した。Locke溶液中でPAN‐811(10μM)を用いて、または用いずに、すべての細胞を併せて処理した。それぞれの興奮毒性照射の最後に、条件培地(オリジナル)を置き換えた。95%窒素および5%CO2で飽和した加湿気密室内で、グルコースを添加しないLocke溶液中で3時間細胞を培養することによってH/Hを誘導した。
【0112】
3.3.1.4.MTT試験
24時間後に興奮毒性発作細胞の生存能力を試験した。細胞の損傷は、3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐yl)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウム(MTT;Sigma Chemical Co.、ミズーリ州セントルイス)を用いたテトラゾリウム塩比色試験を使用して定量的に試験した。つまり、色素を各ウェル(最終濃度1.5mg/ml)に添加し、細胞をMTT‐酸性化イソプロパノール(イソプロパノール中0.1N HCl)で培養して、各サンプルの吸収度(540nm)を96ウェルプレートリーダーで測定した。各プレート上に維持された媒体処理済み対照細胞に相対する値が示され、細胞の生存能力の比率変化を計算した。
【0113】
3.1.2 インビボ研究
3.1.2.1.MCAO
本研究には36匹の雄Sprague‐Dawleyラット(270‐330g;Charles River Labs、バージニア州ローリー)を使用した。麻酔は酸素で送達される5%のハロタンで誘導し、2%のハロタンで維持した。体温は恒温性の暖房装置を使用して手術の全工程を通じて正常温度(37±1℃)に維持した(Harvard Apparatus、マサチューセッツ州サウスナティック)。術前および術後に、必要に応じて食べ物と水を与え、12時間の明暗サイクル下で1匹ずつ保管した。ラットに麻酔をかけ、中大脳動脈閉塞のフィラメント法および再かん流を使用して一時的な局所虚血状態を用意した。つまり、右外頸動脈を分離し、その分枝を凝固させた。先端が丸くコーティングしていない3‐0モノフィラメントナイロン縫合を、外頸動脈を介して内頚動脈に導入し、わずかな抵抗が見られ、MCAの起点を閉塞するまで進めた(頸動脈分岐部から約22mm)。血管内縫合は2時間同位置に維持した後、MCAに血液が再かん流するよう縫合を除去した。MCAO手術後、環境大気温度を22℃に維持しながらラットを回復ケージに入れた。実験中の体温を正常温度に維持するため、2時間の虚血期間および虚血後最初の6時間、75ワットの加温ランプを各ケージの上部に直接配置した。
【0114】
3.1.2.2.PAN‐811による処理
MCAOに先立って、ラットに1mg/kgのPAN‐811をIV注射して10分間処理した。PAN‐811を70%PEG300、30%EtOHの原液として生成した。この原液を無菌の生理食塩水で5倍に希釈して注入した(最終濃度1mg/ml)。
【0115】
3.1.2.3.損傷量の測定
各ラット脳について、虚血による脳損傷の分析を総梗塞量として測定した。これは、7つの冠状断面(厚さ2‐mm)から染まる2,3,5‐トリフェニル塩化テトラゾリウム(TTC)を使用して行った。脳の断面は、前頭極から1mmのところから、皮小脳境界部のすぐ吻側まで取った。コンピューターによる画像解析を使用して、梗塞量を計算した。つまり、各TTC染色された前頭断面の後面をデジタル画像処理し(Loats Associates、メリーランド州ウェストミンスター)、虚血による損傷領域を定量した(平方ミリメートル)。
【0116】
4.結果
4.1 インビトロ研究
4.1.1 PAN‐811の神経毒性
結果を図1に示す。基本的にPAN‐811は100μMまでの濃度でわずかな毒性を示しただけであった。最大毒性は、テストした最高濃度で7.8%にすぎなかった(図8を参照)。
【0117】
4.1.2 PAN‐811による神経保護
PAN‐811は異なる興奮毒性発作からニューロンを顕著に保護することが分かった(図2)。10μMのPAN‐811でニューロンを事前処理することで、3時間の低酸素/低血糖により誘導されるダメージから(92%保護)、100μMのグルタミン酸(最高75%)、1μMのスタウロスポリン、タンパク質キナーゼCの阻害剤およびアポトーシス誘導剤(最高47%)、およびナトリウムチャンネル阻害剤である10μMのベラトリジン(最高39%)から細胞を保護した。図9を参照のこと。
【0118】
4.2 インビボ研究
この実験の結果を表3に示す。当該実験には合計36匹のラットを使用したが、そのうち11匹は以下の理由により除外した。4匹は出血を併発しない重度の卒中で死亡したため、4匹は亜急性の出血のため(うち3匹は24時間以内に死亡)、1匹は術中に火災訓練があったため、1匹は統計的に異常値を示したため、および1匹はハロタンの過剰投与により死亡したため除外。死亡した7匹のうち(4匹はSAHを伴わない重度の卒中、3匹はSAHを伴う)、6匹は未処理の(媒体)ラットであり、1匹のみをPAN‐811で処理した。媒体処理したラットは、198.75〜355.81の範囲で292.96mm3のわずかな梗塞量を示した。PAN‐811処理したラットは、42.36〜387.08の範囲で225.85mm3のわずかな梗塞量を示した。これは23%(p<0.05)の神経保護を示す。理由はまだ明らかになっていないが、正常に測定される対照群においてさらに重度の損傷が観察された。従って、PAN‐811処理した動物の梗塞サイズは、著名な神経保護に期待されるサイズよりも大きい。この問題に関わらず、両方の処理群は良好な生存能力を示し(SEMの10%以下)、そうでない場合でも公開済みの我々の研究の大部分よりも優れていた。
【0119】
5.結論
11.1 PAN‐811はインビトロおよびインビボモデルシステムにおいて優れた耐性を示し、比較的非毒性である。
【0120】
11.2 10μMのPAN‐811でニューロンを事前処理すると、神経変性につながる興奮毒性発作に対して顕著な保護を提供した。
【0121】
11.3 一時的な局所性脳虚血前の10分間に、PAN‐811(1mg/kg)を単回投与してラットを事前処理すると、平均梗塞量が23%減少した。
【0122】
6.参照文献
6.1文献
5.1.1.Williams AJ, Dave JR, Phillips JB, Lin Y, McCabe RT, and Tortella FC. (2000) Neuroprotective efficacy and therapeutic window of the high−affinity N−methyl−D−aspartate antagonist conantokin−G: in vitro (primary cerebellar neurons) and in vivo (rat model of transient focal brain ischemia) studies. J Pharmacol Exp Ther. Jul;294(1):378−86。
【0123】
【表3】

【0124】
実施例5
PAN‐811による過酸化水素誘導酸化的ストレスからのニューロン保護
1.0 目的
本研究の目的は、アルツハイマー病に関連する酸化的ストレスの細胞ベースモデルにおけるPAN‐811の神経保護剤としての有効性を判定することである。神経保護および細胞毒性を判別する。様々な溶媒をテストして、PAN‐811の送達用媒体としての適性を判断した。
【0125】
2 材料および方法
2.1 材料
・ 神経細胞用基礎培地(Invitrogen社)
・ B27‐AO(Invitrogen社)
・ PAN‐811(Vion Pharmaceuticals社)
・ 過酸化水素(Calibiochem社)
・ EtOH(Sigma社)
・ DMSO(Sigma社)
・ PEG‐300(Sigma社)
・ MTS試験キット(Promega社)
2.2 装置
・ バランス(Mettler−Toledo, Inc.)
・ 可調整ピペット(Finnpipette社)
・ 細胞培養フード(Thermo Forma社)
・ 細胞培養器(Thermo Forma社)
・ プレートリーダー(Bio‐Rad Model550)
2.3 研究デイン
2.3.1 細胞の分離および受容
初代皮質ニューロンを17日齢のラット胚脳から分離し、96ウェルプレート上に標準神経細胞用基礎培地中50,000細胞/ウェルの密度で2〜3週間播種した。培地の半量を、抗酸化剤を含まない新しい神経細胞用基礎培地と2回置き換えた。
【0126】
2.3.2 PAN‐811および過酸化水素による処理
PAN‐811を1mg/ml(〜5mM)のEtOHあるいはDMSOのいずれか、5mg/ml(〜25mM)のPEG‐300/EtOH(70%/30%)に溶解し、さらに培地で最終濃度1μM、5μM、20μM、および50μMまで希釈した。ニューロンをPAN‐811または媒体で24時間事前処理し、その後過酸化水素(最終濃度60〜70μM)によって誘引された酸化的ストレスをかけた。対照には、未処理の細胞(PAN‐811および過酸化水素処理を行っていない細胞)、PAN‐811のみで処理した細胞、PAN‐811ではなく過酸化水素に曝露された細胞を含む。未処理の細胞を対照として使用し、ニューロンの毒性および向上した生存能力の両方を評価した。各試験は3回繰り返し行った。等量の溶媒(EtOH、DMSO,およびPEG‐300/EtOH)を細胞に加え、当該試験に対する溶媒の効果をテストした。
【0127】
2.3.3.細胞機能の評価
24時間後、標準MTS試験(Promega社)を使用して、培養物の生存能力およびミトコンドリア作用を評価した。製造者のプロトコルは以下のとおりである。
【0128】
3.結果
3.1 実験1
研究デザインに記載の手順に従って実験を行った。処理の最後に、すべての処理および媒体を、B27(‐AO)を加えた100μMの新しい加温済神経細胞用基礎培地と置き換えた。5%CO2を含む37℃の培養器に当該プレートを1時間戻し、その後20μlのMTS試薬を各ウェルに添加して、5%CO2を含む37℃の培養器でさらに2時間プレートを培養した。各ウェルの490nm吸収度をBioRadプレートリーダー(モデル550)で記録した。媒体のみを含むウェルはブランクとして使用した。各データポイントは、3つの個別の試験ウェルの平均である。未処理の細胞を対照として使用し、細胞の生存能力および神経保護能力を算出した。この一連の研究には3週齢の初代培地を使用した。結果については図10を参照のこと。
【0129】
3.2 実験2
実験1と同様の手順に従って実験を行った。この研究には2週齢の初代培地を使用した。結果については図11を参照のこと。
【0130】
4.考察
3つの溶媒すべてが1〜10μMのPAN‐811最終濃度に対応する希釈での定量法において最低限の効果を示した。DMSOはPAN‐811の最終濃度20μMまたはそれ以上に対応する希釈である程度の神経保護を示した。EtOHおよびPEG‐300/EtOHは、最終濃度50μMのPAN‐811に対応する希釈である程度の神経保護能力を示した。PAN‐811は、1〜10μMで良好な神経保護能力を示した。PAN‐811は、EtOh担体と比較して、PEG‐300/EtOH中で良好な溶解度を示した。
【0131】
5.結論
PAN‐811は、最終濃度1〜10μMで良好な神経保護能力を示した。PEG‐300/EtOHは、1〜20μMのPAN‐811に対応する希釈での定量法でほとんど干渉を示さなかったことから、テストした3つの溶媒の中でPAN‐811に最も適した溶媒である。
【0132】
当業者であれば、本発明が目的の遂行に適しており、本来の結果および利点に加えて、上記の結果および利点が得られることは容易に理解できるであろう。本発明の実施において、本発明の精神あるいは範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更を行うことができることは当業者には明らかである。特許請求の範囲に定義される発明の精神に包含される変更および他の使用は、当業者であれば容易に思い当たるものである。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1は、PAN‐811(A)あるいは周知の神経保護剤であるビタミンE(B)、リポ酸(C)、またはイチョウの葉(D)を用いて事前処理を行い、過酸化水素で処理した後の細胞の生存能力(左パネル)および神経保護能力(右パネル)を図解している。
【図2】図2は、神経細胞におけるROS産生に対するPAN‐811の効果(A)、神経細胞における過酸化水素誘導ROS産生に対するPAN‐811の効果(B)、神経細胞における基礎レベルのROS産生に対するPAN‐811の効果を図解している。
【図3】図3は、低酸素状態における神経毒性のグルコース濃度依存を示す図である。
【図4】図4は、神経保護剤MK801およびPAN‐811を使用した場合としない場合の低酸素状態における細胞の組織学的写真を示す。
【図5】図5は、正常酸素状態および低酸素状態におけるPAN‐811の神経保護効果を示す図である。
【図6】図6は、低酸素/低血糖状態におけるPAN‐811の毒性を示す図である。
【図7】図7は、軽度の低酸素/低血糖状態におけるPAN‐811の神経細胞死に対する保護効果を示す図である。
【図8】図8は、皮質ニューロンをPAN‐811で24時間処理した場合のPAN‐811の神経毒性を示す図である。
【図9】図9は、虚血による毒性に対するPAN‐811の保護効果を示す図である。
【図10】図10は、PAN‐811または溶媒で事前処理し、過酸化水素で処理した後の細胞生存を示す図である。
【図11】図11は、PAN‐811または溶媒で事前処理し、過酸化水素で処理した後の細胞生存を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式I
【化1】

の化合物またはそのプロドラッグを患者に投与することを含む虚血関連状態の治療法方であって、
式中、
Eは酸素、硫黄、NHまたはN-C1-6アルキルであり、
1、R2、R3、およびR4は水素、任意で置換されるアルキル、任意で置換されるアルケニル、任意で置換されるアルキニル、任意で置換されるシクロアルキル、任意で置換されるハロアルキル、任意で置換されるアリール、任意で置換されるアミノアルキル、任意で置換されるヒドロキシアルキル、任意で置換されるアルコキシアルキル、および任意で置換されるアルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
HETはN、O、およびSから選択される1〜4環へテロ原子で構成され、任意で置換される5から7員へテロアリール残基である化合物、あるいはそのプロドラッグを患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法。
【請求項2】
Eが硫黄である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HETが化学式
【化2】

の残基であって、
式中、
mはゼロまたは1であり、
mがゼロの場合は、Z1、Z2、およびZ3がN、O、S、またはCRから独立して選択され、あるいは
mが1の場合は、Z1、Z2、およびZ3がNまたはCRから独立して選択され、
Rは水素、ハロゲン化物、ヒドロキシ、チオール、アミノ、ヒドロキシアミノ、1‐C1-8アルキルアミノ、2‐(C1-8アルキル)アミノ、C1-8アルコキシ、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、およびC2-8アルキニルで構成されるグループから発現ごとに独立して選択され 、また
xがゼロから4の整数である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1、Z2、またはZ3のうち多くても1つがNであり、残りのZ1、Z2、およびZ3がCRである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
HETが任意で置換されるピリジル、任意で置換されるピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、オキサゾリルおよびチオキサゾリルで構成されるグループから選択される残基である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
HETが任意で置換されるピリジル残基である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Eが硫黄であり、
HETが任意で置換されるピリジル、任意で置換されるピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、オキサゾリル、チオキサゾリルで構成されるグループから選択される残基であり、また
1、R2、R3、およびR4が水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
化学式II
【化3】

の化合物、あるいはそのプロドラッグを患者に投与することを含む虚血関連状態の治療方法であって、
式中、
R,R1、R2、R3、およびR4は水素、任意で置換されるアルキル、任意で置換されるアルケニル、任意で置換されるアルキニル、任意で置換されるシクロアルキル、任意で置換されるハロアルキル、任意で置換されるアリール、任意で置換されるアミノアルキル、任意で置換されるヒドロキシアルキル、任意で置換されるアルコキシアルキル、および任意で置換されるアルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
xがゼロから5の整数である化合物、あるいはそのプロドラッグを患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法。
【請求項9】
xがゼロ、1、2、または3であり、
R、R1、R2、R3、およびR4は水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
R、R1、R2、およびR3はC1-4アルキル、C1-2ハロアルキル、フェニル、アミノ‐C1-4アルキル、ヒドロキシ‐C1-4アルキル、C1-4アルコキシ‐C148アルキル、およびC1-4アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、または1つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
化学式III
【化4】

の化合物、あるいはそのプロドラッグが投与される請求項8に記載の方法であって、
式中、
R、R1、R2、R3、およびR4は水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、C6-10アリール、アミノ‐C1-8アルキル、ヒドロキシ‐C1-8アルキル、C1-8アルコキシ‐C1-8アルキル、およびC1-8アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロ、1つ、または2つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成し、および
6は水素、ヒドロキシ、アミノ、またはC1-8アルキルであり、
5およびR7は水素、ハロゲン化物、ヒドロキシ、チオール、アミノ、ヒドロキシアミノ、C1-8モノアルキルアミノ、(C1-8アルキル)ジアミノ、 C1-8アルコキシ、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、およびC2-8アルキニルで構成されるグループから独立して選択される化合物、あるいはそのプロドラッグが投与される請求項8に記載の方法。
【請求項12】
4が水素またはC1-6アルキルである請求項8に記載の方法。
【請求項13】
4が水素、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピルである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
5は水素または任意で置換されるアミノから選択され、
6は水素またはC1-4アルキルであり、および
7は水素、任意で置換されるアミノ、またはヒドロキシであり、少なくともR5アミノ、N‐ヒドロキシルアミノ、モノ‐またはジ‐(C1-4アルキル)アミノ、またはN‐(C1-4アルキル)‐N‐(ヒドロキシ)アミノのうちの1つであり、また
5は水素、ヒドロキシアミノ、モノ‐およびジ‐(C1-8アルキル)アミノ、ヒドロキシ、およびC1-8アルコキシで構成されるグループから選択され、
6は水素、ヒドロキシアミノ、モノ‐およびジ‐(C1-8アルキル)アミノで構成されるグループから選択され、さらに
5がR6とは異なり、R5またはR6が水素である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
4は水素またはC1-6アルキルであり、
1、R2、およびR3は水素、C1-4アルキル、C1-2ハロアルキル、フェニル、アミノ‐C1-4アルキル、ヒドロキシ‐C1-4アルキル、C1-4アルコキシ‐C148アルキル、およびC1-4アルカノイルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してN、O、およびSから選択されるゼロまたは1つの追加環へテロ原子で構成されてよい3から7員環を形成する請求項11に記載の方法。
【請求項16】
4が水素、メチル、エチル、n‐プロピルまたはイソプロピルであり、
1、R2、およびR3が水素、メチル、エチル、アセチル、ホルミルで構成されるグループから独立して選択され、あるいは
NR12を結合してピペラジニル、ピロリジニル、モルホリニル、チオモルホリニルを形成する請求項11に記載の方法。
【請求項17】
4が水素、メチルまたはエチルであり、
1、R2、およびR3が水素、メチル、エチルおよびアセチルで構成されるグループから独立して選択される請求項11に記載の方法。
【請求項18】
虚血関連障害がアルツハイマー病、パーキンソン病、冠動脈バイパス術、心停止による全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血性梗塞、 高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂による出血、頭蓋内動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血につながる頸動脈狭窄症または閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中および脊髄損傷、アテローム性動脈硬化などの脳血管障害、脈管炎、黄斑変性症、心筋梗塞、心虚血および上室性頻拍性不整脈で構成されるグループから選択される請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
以下の化学式
【化5】

の化合物を患者に投与することを含む、虚血関連状態の治療方法。
【請求項20】
虚血関連障害がアルツハイマー病、パーキンソン病、冠動脈バイパス術、心停止による全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血性梗塞、 高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂による出血、頭蓋内動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血につながる頸動脈狭窄症または閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中および脊髄損傷、アテローム性動脈硬化などの脳血管障害、脈管炎、黄斑変性症、心筋梗塞、心虚血および上室性頻拍性不整脈で構成されるグループから選択される請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−527854(P2007−527854A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513463(P2006−513463)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/013334
【国際公開番号】WO2004/099371
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(503010210)パナシア ファーマシューティカルズ インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】