虚血/再灌流保護組成物および使用法
本発明は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを有する虚血/再灌流保護組成物を提供する。本発明は、失血、発作、または心肺停止、または手術による虚血/再灌流損傷を低下させるか、または防止するために、そのような組成物を使用する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その開示が本明細書に完全に組み入れられる2007年4月12日出願の米国出願第60/911,460号および2008年2月5日出願の米国出願第61/026,321号に基づく優先権を35 U.S.C.§119(e)の下で主張する。
【0002】
連邦政府によって支援された研究または開発
米国政府は、Defense Advanced Research Projects Agency(DARPA)により授与されたグラント番号W911NF-05-1-0432およびW911NF-06-1-0088に準じ、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は、虚血傷害および再灌流損傷に関し、より具体的には、虚血および/または再灌流による損傷および傷害を処置または防止するための組成物および方法に関する。虚血および/または再灌流損傷は、例えば、出血性ショックに起因し得る。
【背景技術】
【0004】
背景
虚血とは、一般に、血液供給が制限されることであり、結果として組織の傷害または機能障害を伴う。虚血とは、器官への血液供給の絶対的または相対的な不足をさす。血液供給の相対的な不足とは、血液供給(酸素送達量)と、組織の妥当な酸素負荷の需要との不適合を意味する。
【0005】
再灌流損傷とは、虚血の期間の後に血液供給が組織に戻る際に組織に引き起こされる傷害をさす。血液からの酸素および栄養素の欠如は、循環系の回復が、炎症および酸化傷害または過酸化傷害をもたらす状態を作出する。
【発明の概要】
【0006】
概要
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、虚血傷害および/または再灌流損傷から個体を保護するために個体に投与され得る。
【0007】
一つの局面において、本発明は虚血/再灌流保護組成物を提供する。本明細書に開示されるような虚血/再灌流保護組成物は、1種もしくは複数種のケトン体およびメラトニンを含むか、または1種もしくは複数種のケトン体およびメラトニンから本質的になる。1種または複数種のケトン体は、例えば、D-ベータ-ヒドロキシブチレートもしくは薬学的に許容されるその塩(例えば、Na-D-ベータヒドロキシブチレート)、アセトアセテートもしくは薬学的に許容されるその塩、またはD-ベータヒドロキシブチレートとアセトアセテートとの組み合わせであり得る。メラトニンは、例えば、5-メトキシ-N-アセチルトリプタミンであり得る。いくつかの態様において、組成物は、無機陰イオンを実質的に含まない。
【0008】
いくつかの態様において、虚血/再灌流保護組成物は液状組成物である。液体として製剤化される場合、虚血/再灌流保護組成物は、約0.1M〜約8Mのケトン体および約4μM〜約150mMのメラトニンを有し得る。一つの具体的な態様において、虚血/再灌流保護組成物は、約4MのNa-D-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび約43mMのメラトニンを有し得る。いくつかの態様において、虚血/再灌流保護組成物は、Cl-を実質的に含まない。液状組成物のある種の態様において、溶媒は水である。いくつかの態様において、液状組成物は、可溶化剤(例えば、DMSO)および/または安定剤を含む。
【0009】
他の態様において、虚血/再灌流保護組成物は、乾燥粉末状組成物である。乾燥粉末として製剤化される場合、虚血/再灌流保護組成物は、約100対1というケトン体とメラトニンとのモル比を有し得る。
【0010】
そのような虚血/再灌流保護組成物は、1種もしくは複数種の抗生物質、1種もしくは複数種の遊離脂肪酸、1種もしくは複数種の鎮痛薬、1種もしくは複数種のホルモン、1種もしくは複数種の代謝物、1種もしくは複数種の代謝経路の分子、および/または細胞代謝を改変する1種もしくは複数種の化合物(例えば、ポリペプチド、アンチセンス分子、siRNA分子、薬物、もしくは低分子)をさらに含み得る。
【0011】
一つの局面において、本発明は、虚血/再灌流保護組成物を含む製品を提供する。一つの態様において、製品は、虚血/再灌流保護組成物(例えば、液状製剤または乾燥粉末状製剤)を含有しているIVバッグであり得る。もう一つの態様において、製品は、虚血/再灌流保護組成物を含有している第一の容器、および溶媒を含有している第二の容器を含むことができる。そのような態様において、製品は、第二の容器からの溶媒が、第一の容器内の組成物と制御可能に接触させられ得るよう配置され得る。もう一つの態様において、製品は、虚血/再灌流保護組成物を含有している注射外筒を含む。さらにもう一つの態様において、製品は、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作を経験中であるか、もしくは経験した個体、または医学的手技(例えば、手術)を受ける予定であるか、もしくは受けている個体を処置するための、指示を有する表示または添付文書を含み得る包装材料と、虚血/再灌流保護組成物とを含むことができる。
【0012】
もう一つの局面において、本発明は、失血を経験中であるか、または経験した個体を処置するための方法を提供する。そのような方法は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを個体に投与する工程を含む。いくつかの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、単一組成物で一緒に投与される。ある種の態様において、処置の必要のある個体は、75%未満のStO2レベルを有する。典型的には、投与工程により、個体のStO2レベルは75%超に戻り、これは、個体が処置済みであることの指標となる。ある種の態様において、処置の必要のある個体は、2.1mg/dl超の乳酸塩レベルを有する。典型的には、投与工程により、個体の乳酸塩レベルは2.1mg/dl未満に戻り、これは、個体が処置済みであることの指標となる。一般に、投与工程により、個体の塩基欠乏が6mEq/Lに達することが防止される。
【0013】
ある種の態様において、個体は、大出血事象を経験中であるか、または経験した(例えば、個体は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、または少なくとも約60%の血液量を失っている)。いくつかの態様において、個体における失血は、約70mmHg以下(例えば、65mmHg、60mmHg)の収縮期血圧をもたらす。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体は、約3mM〜約15mMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与され、かつメラトニンは、約20μM〜約150μMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与される。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、個体の体重1キログラム(kg)当たり約0.3〜約2ミリリットル(ml)の容量で投与される。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mlの容量で投与される。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンが個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mlの容量で投与された後、1種または複数種のケトン体およびメラトニンが1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mlの容量で投与される。1種または複数種のケトン体およびメラトニンの代表的な投与経路は、静脈内および骨内である。
【0014】
もう一つの局面において、本発明は、StO2レベルが75%未満であるか、または塩基欠乏レベルが6mEq/L超であるような個体を同定する工程;ならびに1種または複数種のケトン体およびメラトニンを個体に投与する工程を含む、StO2レベルが75%未満であり、かつ/または6mEq/L超の塩基欠乏レベルを有する個体を処置する方法を提供する。
【0015】
さらにもう一つの局面において、本発明は、虚血傷害または再灌流損傷から個体を保護する方法を提供する。そのような方法は、一般に、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを個体に投与する工程を含む。代表的な個体には、発作を起こしたか、または発作を起こすリスクを有する者、手術(例えば、神経系手術)を受ける予定である者が含まれる。いくつかの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、個体の体重1kg当たり1mlの量で投与される。ある種の態様において、そのような投与の後に、1種または複数種のケトン体およびメラトニンの低速の注入が行われてもよい。
【0016】
さらにもう一つの局面において、本発明は、臓器提供者から器官を摘出する前に、器官を処置する方法を提供する。そのような方法は、一般に、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを臓器提供者に(例えば、静脈内に)投与する工程を含む。例として、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、臓器提供者の体重1kg当たり少なくとも約1mlの量で臓器提供者に投与され得る。ある種の場合、臓器提供者は遷延性植物状態にある。
【0017】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、適当な方法および材料が以下に記載される。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。本明細書中に言及された刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照または参照材料は、全て、参照により完全に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が適用されるであろう。
【0018】
本発明の一つまたは複数の態様の詳細が、添付の図面および以下の説明において示される。本発明のその他の特色、目的、および利点は、図面および詳細な説明から、そして特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】[1-13C]グルコースの構造を示す。
【図2】[2,4-13C]D-ベータ-ヒドロキシブチレートの構造を示す。
【図3】脳内の13Cグルコースのベースラインのレベルを示すグラフである。
【図4】14.1 Tesla UNITY INOVA分光光度計(Varian;Palo Alto, CA)上でアッセイされた、冬眠中のリスに由来する選択された代謝物の標識スペクトルである。パネルAは、2月の冬眠動物における1mlの1M 13C BHBのIP注射後の結果を示す(屠殺時Tb=16.8℃)。パネルBは、12月の冬眠動物における1mlの1M 13CグルコースのIP注射後の結果を示す(屠殺時Tb=35.3℃)。両パネル中のデータは、標識の注入により変化せず、他のそれぞれの代謝物の濃度を決定するために使用され得る、二つの天然に標識された13C-タウリンピークに対して規準化された。略語は、指定された代謝物および標識された特定の炭素を反映する。Tau C1、タウリンC1;BHB C2、ベータヒドロキシブチレートC2;Tau C2、タウリンC2;Glu C4、グルタミン酸C4;BHB C4、ベータヒドロキシブチレートC4;Lac C3、乳酸塩C3;Glc C1-α、グルコースC1アルファ;Glc C1β、グルコースC1ベータ。
【図5】ラットおよびリス(GS)の脳内のモノカルボキシレートトランスポーター1(MCT1)およびグルコーストランスポーター(GLUT1)の免疫細胞化学の結果を示す。
【図6】冬眠中のリスにおける免疫細胞化学に基づく血液脳関門におけるMCT1の上昇したレベルを示す。
【図7】冬眠中(HIB)、8月(AUG)、10月(OCT)、および4月(APR)の血管内のMCT1の光学密度に基づく血液脳関門におけるMCT1の上昇したレベルを示す。
【図8】活動中のリスおよび冬眠中のリスの心臓に由来するポリペプチドの二次元ゲルを示す。1、心室ミオシン軽鎖1(n.c.活動中、n=5;冬眠中、n=4);2、スクシニルCoAトランスフェラーゼ(6倍の増加、*=p<0.005)。
【図9】急性外傷実験のタイムラインを示す。血液は、文字で示された時点で採取された(A〜J)。
【図10】ラット1kg当たり1mlの4M D-BHBまたは4M NaClの投与後のベータ-ヒドロキシブチレートの血清レベルのグラフを示す。試料は、ピペッティングの誤差を最小限に抑えるためトリプリケートで計算され、mM濃度で与えられる。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図11】1ml/kgを投与し、続いて100μl/hrを注入した後のベータ-ヒドロキシブチレートの血清レベルのグラフを示す。試料は、ピペッティングの誤差を最小限に抑えるためトリプリケートで計算され、mM濃度で与えられる。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図12】出血性ショック後の生存率に対する温度維持(左バー)および血液量減少性冷却(右バー)の効果を示すグラフである。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図13】出血性ショック後の生存率に対する様々な投与計画の効果を示す。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図14】1時間の60%失血と組み合わせて、示された処置を与えられたラットのカプランマイヤー生存率プロットを示す。1時間の60%失血の後、摘除された血液が戻され、動物が生存率についてモニタリングされた。偽処置動物は、麻酔を施され、カニューレを挿入されたが、血液は除去されなかった。
【図15】示された処置の心拍数に対する効果を示すグラフである。
【図16】示された処置の平均動脈血圧に対する効果を示すグラフである。
【図17】示された処置の体温に対する効果を示すグラフである。
【図18】ブタ出血性ショックのための蘇生戦略を示す。SBP=収縮期血圧;UO=尿量;Hgb=ヘモグロビン。
【図19】60%失血に供され、4M D-BHBおよび43mM メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物(4M D-BHB+M)、または4M D-BHB、4M NaCl、もしくは4M NaCl+43mMメラトニン(4M NaCl+M)を含有している対照溶液のいずれかを投与されたラット群についてのカプランマイヤー生存率曲線を示す。偽処置動物(SHAM)は、血液試料採取以外の失血に供されなかったが、麻酔下に置かれ、カニューレを挿入され、他の群の動物と同じ長さの時間、回復させられた。血液返戻=摘除された血液が戻された時点;18時間、24時間、48時間、72時間、96時間、および10日=それぞれ、摘除された血液の返戻から18時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、および10日後。X軸上の時点は、縮尺通りにはプロットされていない。
【図20】60%失血に供され、D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物(4M D-BHB+M)、または4M D-BHB、4M NaCl、もしくは4M NaCl+メラトニン(4M NaCl+M)を含有している対照溶液のいずれかを投与されたラットに由来する血清中の様々な時点において測定された平均乳酸塩レベルをプロットしたグラフである。各処置群には10匹の動物が存在した。偽処置動物(SHAM)は、血液試料採取以外の失血に供されなかったが、麻酔下に置かれ、カニューレを挿入され、他の群の動物と同じ長さの時間、回復させられた。低血圧前=失血前;35mmHg=約40%失血;溶液注入後=溶液注入後;60%BL=60%失血;60%BLから1時間後=60%失血から1時間後;血液返戻=摘除された血液が戻された時点。
【図21】失血に供され、低用量、中用量、または高用量の、メラトニン+D-BHBを含む虚血/再灌流保護組成物を投与されたブタに由来する血清中の多数の時点で測定されたD-BHBのレベル(mM)をプロットしたグラフである。対照ブタにおける血清D-BHBレベルもプロットされている。Shk30、60、90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、4Hr、6Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、液体投与の開始および終了を示す。
【図22】失血に供され、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタに由来する血清中のいくつかの時点で測定された平均乳酸塩レベル(mmol/L)をプロットしたグラフである。Shk30、Shk60、Shk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、液体投与の始点および終点を示す。
【図23】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおける多数の時点における塩基欠乏/過剰値(mmol/L)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図24】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタに由来する血清中のいくつかの時点で測定されたpH値をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図25】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおけるいくつかの時点で測定された末梢組織灌流(StO2;%)をプロットしたグラフである。End Sx=ショック前の動物の安定化;開始=出血性ショックプロトコルの開始;注入=虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始;ショック30=ショックから30分後;ショック終了=収縮期圧が約50mmHgであった時点。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始および終了を示す。
【図26】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液を投与されたブタにおけるいくつかの時点における酸素送達量(毎分mL O2)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図27】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタから除去された血液、および投与された液体の全容量をプロットしたグラフである。
【図28】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液を投与されたブタに多数の時点で投与された全液体(cc/kg)をプロットしたグラフである。OR液-手術室液;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図29】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおけるいくつかの時点における心拍出量(L/分)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図30】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおけるいくつかの時点における心拍数(拍動数/分)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;ボーラス=ボーラス用量が投与された時点;Shk30=ショックから30分後;蘇生=蘇生;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始および終了を示す。
【図31】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおける多数の時点における収縮期血圧(mmHg)をプロットしたグラフである。End Sx=ショック前の動物の安定化;開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;ボーラス=ボーラス用量が投与された時点;ショック30=ショックから30分後;ショック終了=ショックが終了した時点;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始時および終了時を示す。
【図32】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおける多数の時点で測定された尿量(cc/kg/時)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始時および終了時を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、虚血傷害および/または再灌流損傷から個体を保護するために個体に投与され得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作もしくは心肺停止を起こしているか、もしくは起こした個体、または手術のような手技を受ける直前であるか、もしくは受けている個体に投与され得る。さらに、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、摘出前に組織または器官を完全に灌流するために、摘出前の臓器提供者に投与され得る。
【0021】
虚血/再灌流保護組成物
本開示は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを含む組成物を提供する。これらの組成物は、重度の外傷から組織、器官を保護し、従って個体を保護することができる有用な虚血/再灌流保護液体である。本明細書に開示された組成物は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを含むことができ、例えば、治療的化合物のようなその他の成分(そのいくつかは以下に記載される)を含むことができる。本明細書に開示された組成物は、1種または複数種のケトン体およびメラトニン「から本質的になる」ことができ、即ち、そのような組成物は、主に1種または複数種のケトン体およびメラトニンであるが、組成物の虚血/再灌流保護特徴を実質的にまたは物質的に減じない組成物中に存在するその他の成分を含有していてもよい。
【0022】
本明細書において使用されるように「ケトン体」とは、ベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテート(またはベータ-ヒドロキシブチレートもしくはアセトアセテートの生理学的に許容される塩)をさす。ケトン体は、脂肪酸の分解により生成する天然生成物であり、エネルギー源として組織により使用される。アセトアセテートは、アセチルCoAから形成され、ベータ-ヒドロキシブチレートは、アセトアセテートの可逆性の還元により形成される。生理学的に、ヒドロキシブチレートとアセトアセテートとの比率は、細胞内のNADH/NAD+比に依る。虚血/再灌流保護に関して本明細書において使用されるように、「ケトン体」とは、ベータ-ヒドロキシ酪酸もしくは薬学的に許容されるその塩、またはアセト酢酸もしくは薬学的に許容されるその塩、またはそれらの任意の組み合わせをさす。「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的適用における利用可能性を与える範囲内の毒性特性を保有する塩をさす。他に明白に示されない限り、これが明示されているか否かに関わらず、本明細書におけるベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテートとの言及は、塩型の化合物を包含しているものと理解されるべきである。
【0023】
適当な薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸または有機酸から調製され得る。無機酸の例には、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、およびリン酸が含まれる。適切な有機酸は、有機酸の脂肪族クラス、脂環式クラス、芳香族クラス、芳香脂肪族クラス、複素環式クラス、カルボン酸クラス、およびスルホン酸クラスより選択され得、それらの例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2ヒドロキシエタンスルホン酸、pトルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、βヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、およびガラクツロン酸が含まれる。
【0024】
適当な薬学的に許容される塩基付加塩には、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、および亜鉛塩のような、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、および遷移金属塩を含む金属塩が、例えば含まれる。薬学的に許容される塩基付加塩には、例えば、N,N'ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(Nメチルグルカミン)、およびプロカインのような塩基性アミンから作成された有機塩も含まれる。
【0025】
これらの塩は、全て、ベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテートから、従来の手段により、例えば、適切な酸または塩基をベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテートと反応させることにより、調製され得る。好ましくは、塩は、結晶状態にあり、好ましくは適当な溶媒からの塩の結晶化により調製される。当業者は、例えば、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use By P. H. Stahl and C. G. Wermuth(Wiley-VCH 2002)に記載されるような、適当な塩型を調製し選択する方法を承知しているであろう。
【0026】
酸が使用される場合より、組成物が生理学的に許容されるpHに近くなるため、ベータ-ヒドロキシ酪酸および/またはアセト酢酸の塩は、虚血/再灌流保護組成物において一般に好ましい。虚血/再灌流保護組成物において使用するためのベータ-ヒドロキシ酪酸の適当な塩は、D-ベータ-ヒドロキシブチレートのナトリウム塩(即ち、Na-D-ベータヒドロキシブチレート)である。D-ベータ-ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸(または薬学的に許容されるそれらの塩)は、例えば、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO)のような多数の会社から市販されている。「R」立体異性体と呼ばれることもあるベータ-ヒドロキシブチレートの「D」立体異性体が、「L」立体異性体とは対照的に、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物において好ましいことに注意されたい。
【0027】
メラトニン(5-メトキシ-N-アセチルトリプタミン)は、セロトニンからの合成を介してアミノ酸トリプトファンから天然に合成されるホルモンであり、概日リズム(睡眠覚醒パターン)への関与に関して周知である。メラトニンは、広域抗酸化剤として作用し、受容体非依存性のフリーラジカル除去活性を示す。メラトニンのフリーラジカル除去能力は、その二次、三次、および四次の代謝物にまで及ぶため、メラトニンと活性酸素種および活性窒素種との相互作用は、代謝物の多くが関与している、延長されたカスケード型の過程である。従って、メラトニンの代謝物、直前の前駆体、またはアナログ(またはそれらの組み合わせ)が、本明細書に記載されるような虚血/再灌流保護組成物において使用され得る。メラトニンの代表的な代謝物には、例えば、6-ヒドロキシ-メラトニン(6-HMEL)、6-スルファトキシ(sulphatoxy)-メラトニン(aMT6s)、N1-アセチル-N2-ホルミル-5-メトキシキヌラミン(AFMK)、N1-アセチル-5-メトキシキヌラミン(AMK)、および3-ヒドロキシメラトニン(3-HMEL)が含まれ;メラトニンの代表的な直前の前駆体には、例えば、N-アセチルセロトニン、5-ヒドロキシトリプタミン、5-ヒドロキシトリプトファン、またはL-トリプトファンが例えば含まれ;メラトニンの代表的なアナログには、例えば、2-クロロメラトニン、6-フルオロメラトニン、6-クロロメラトニン、6-ヒドロキシメラトニン、N-イソブタノイル5-メトキシトリプタミン、N-バレロイル5-メトキシトリプタミン、6-メトキシメラトニン、5-メチルN-アセチルトリプタミン、5-ベンゾイルN-アセチルトリプタミン、O-アセチル5-メトキシトリプタミン、N-アセチルトリプタミン、N-アセチル5-ヒドロキシトリプタミン、および5-メトキシトリプタミンが含まれる。特定の機序に拘束はされないが、メラトニン、メラトニンの代謝物、前駆体、またはアナログ、または機能的に類似した低分子は、受容体により媒介される経路を介して(例えば、メラトニン受容体1A(MTNR1A)またはメラトニン受容体1B(MTNR1B)を介して)、それらの効果を発揮し、それにより、本明細書に報告された虚血/再灌流保護に寄与するのかもしれない。本明細書に示されるように、本明細書におけるメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの言及は、特記されない限り、塩型を包含するものと理解されるべきである。
【0028】
メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログに加えて、またはそれらの代わりに、虚血/再灌流保護組成物は、一つまたは複数の他の抗酸化剤を含んでいてもよい。代表的な抗酸化剤には、非制限的に、リスベラトロール、ビタミンA、アスコルビン酸(ビタミンC)、アルファ-トコフェロール(ビタミンE)、グルタチオン、ベータ-カロテン、リコピン、および/または4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPOL(商標))が含まれる。さらに、メラトニンはトリプトファン由来の抗酸化剤であるため、抗酸化活性を有するその他のアミノ酸の誘導体(例えば、システイン、例えば、(R)-2-アセトアミド-3-メルカプトプロパン酸(N-アセチル-システイン)または合成システイン誘導体、2-[(2-メチル-2-スルファニルプロパノイル)アミノ]-3-スルファニルプロパン酸(ブシラミン))も、虚血/再灌流保護組成物において使用するために適当であり得る。
【0029】
本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物は、例えば、使用の準備ができている液体として、または使用前に溶解もしくは再懸濁を必要とする乾燥粉末として製剤化され得る。乾燥粉末として製剤化される場合、虚血/再灌流保護組成物は、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ1モルにつき1モル未満から1×107モル以上までの任意の量のケトン体を有し得る(例えば、(0.67〜10,000,000):1)。約100対約1というケトン体とメラトニンとの比率が、本明細書に例示されたが、虚血/再灌流保護組成物は、より多いか、もしくはより少ないケトン体、またはより多いか、もしくはより少ないメラトニン(または代謝物、前駆体、もしくはアナログ)を含有していてもよい。虚血/再灌流保護組成物中のケトン体と、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの代表的なモル比には、例えば、約
という比率が含まれる。当業者は、これらの比率が例示的なものに過ぎないことを理解するであろう。
【0030】
液体として製剤化される場合、組成物は、約0.1M〜約8Mのケトン体(例えば、約0.4M〜0.5M、0.4M〜0.6M、0.4M〜0.8M、0.6M〜0.8M、0.5M〜0.9M、0.5M〜1M、0.8M〜1.3M、1M〜2M、0.5M〜8M、1M〜8M、2M〜8M、3M〜8M、0.1M〜7.5M、0.1M〜7M、0.1M〜6M、0.1M〜5M、0.5M〜7.5M、1M〜7M、2M〜6M、3M〜5M、3.5M〜4.5M、または約3M、4M、または5Mのケトン体)および約4nM〜約150mMのメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ(例えば、約4nM〜50nM、4nM〜100nM、4nM〜200nM、4nM〜0.4μM、50nM〜100nM、100nM〜0.4μM、0.4μM〜8μM、0.4μM〜40μM、0.4μM〜100μM、0.4μM〜500μM、0.4μM〜1mM、0.4μM〜50mM、4μM〜50μM、4μM〜200μM、4μM〜500μM、4μM〜1mM、4μM〜50mM、4μM〜100mM、8μM〜50μM、8μM〜250μM、20μM〜2mM、200μM〜500μM、500μM〜2mM、2mM〜4mM、2mM〜50mM、4mM〜6mM、4mM〜7mM、4mM〜9mM、4mM〜125mM、4mM〜100mM、4mM〜75mM、4mM〜50mM、5mM〜10mM、5mM〜11mM、6mM〜9mM、8mM〜15mM、10mM〜25mM、10mM〜150mM、20mM〜150mM、25mM〜150mM、30mM〜150mM、35mM〜150mM、40mM〜150mM、10mM〜130mM、12.5mM〜120mM、15mM〜110mM、20mM〜100mM、25mM〜80mM、30mM〜50mM、40mM〜45mM、0.5μM〜125mM、1μM〜100mM、150μM〜150mM、200μM〜2mM、500μM〜100mM、800μM〜150mM、または750μM〜125mMのメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ)であり得る。ケトン体およびメラトニンの毒性は低いため、各成分の濃度は比較的高くなり得るが、沈殿が起こらないよう、各成分の濃度は溶媒の飽和点未満でなければならない。虚血/再灌流保護組成物中の各成分の最終濃度は、血中の各成分の所望の濃度および投与される容量を含むいくつかの要因に依るであろう。
【0031】
多数の溶媒が、液状虚血/再灌流保護組成物において、または虚血/再灌流保護組成物の乾燥粉末状製剤を溶解もしくは再懸濁させるために使用され得る。ケトン体は易水溶性であるため、無菌蒸留水が第一の溶媒として使用され得る。メラトニンはより疎水性であるため、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはもう一つの無極性溶媒のような可溶化剤(例えば、最終容量の50%未満、40%未満、30%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、15%未満、10%未満、8%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満)が、メラトニンを溶解させるために使用され得る。可溶化剤として働くのみならず、DMSOは、ヒドロキシルラジカルスカベンジャーとしても作用し得る(Paller et al., 1985,J. Lab. Clin. Med., 105(4):459-63)。エタノール(EtOH)も、メラトニンのための可溶化剤として使用され得るが、より高い濃度を必要とし、従って、ある種の状況においては比較的望ましくないかもしれないが、それでも有用であり得る。使用され得る付加的な溶媒には、例えば、メチルスルホニルメタン(MSMまたはジメチルスルホン)およびジメチルホルムアミド(DMF)が含まれる。
【0032】
液体として一定期間保存される虚血/再灌流保護組成物は、活性成分の分解を防止し、液状組成物の貯蔵寿命を延長するため、有機糖、糖アルコール、または糖類、アミノ酸、および低分子量ポリペプチドまたはタンパク質(例えば、血清アルブミンもしくは免疫グロブリン)のような1種または複数種の安定剤を含んでいてもよい。例えば、CAPTISOL(登録商標)(Cydex, Inc., Lenexa, KS)は、薬学的組成物の溶解度、安定性、および生物学的利用能を改善するために使用され得る代表的な化合物(即ち、修飾シクロデキストリン)である。さらに、経口投与を可能にするか、またはケトン体および/もしくはメラトニン(もしくはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ)の薬物動態学的特性もしくは薬力学的特性を改善する、短い両親媒性オリゴマーのようなオリゴマーに、ケトン体またはメラトニン(またはメラトニン代謝物、前駆体、もしくはアナログ)の一方または両方を共有結合的に付着させることもできる。オリゴマーには、水溶性ポリエチレングリコール(PEG)および/または脂溶性アルキル(短鎖脂肪酸重合体)が含まれ得る。例えば、WO2004/047871を参照のこと。
【0033】
一般に、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物は、無機陰イオンを実質的に含まない。無機陰イオンには、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、亜硝酸、硝酸、オルトリン酸、および硫酸が含まれる。典型的に、「を実質的に含まない」とは、約10mM未満(例えば、約5mM未満、1mM未満、0.5mM未満、0.1mM未満、0.05mM未満、0.01mM未満、または0.001mM未満)である無機陰イオンの量をさす。
【0034】
酸が使用されるか、または塩が使用されるかに依って、必要に応じて、液状組成物のpHは、使用前に調整を必要とするかもしれない。その場合、適切な酸(例えば、HCl)または塩(例えば、NaOH)が、pHを生理学的に許容される範囲(例えば、約7.2〜約7.6のpH;例えば、約7.4のpH)に調整するために使用され得る。これらの場合、許容されるpHに達するために添加される酸または塩の量は、組成物が依然として無機陰イオンを実質的に含まないと見なされる程、十分に小さいと見なされる。組成物のpHの調整に加えて、またはその代わりに、液状虚血/再灌流保護組成物は、使用前に、例えば、組成物を滅菌するため、かつ/または組成物中の可溶化されていない結晶を除去するため、ろ過されてもよい。
【0035】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログのみを含有している虚血/再灌流保護組成物は良好に機能するが、虚血/再灌流保護組成物は、1種または複数種の治療用化合物も含有し得る。治療用化合物には、以下に限定はされないが、抗生物質または抗菌薬(例えば、セファロスポリン系(例えば、Ceftriaxone)、テトラサイクリン系(例えば、ミノサイクリン)、またはその他のベータラクタム系、特に、神経保護効果を示すもの、およびジアミノ-ジフェニルスルホン(Dapsone)またはD-ペニシラミン)、鎮痛薬、遊離脂肪酸、ホルモン、代謝物、および代謝経路分子が含まれる。さらに、治療用化合物には、非制限的に、1種または複数種の適切な標的に対して差し向けられたポリペプチド、アンチセンス分子、siRNA分子、薬物、および低分子のような、細胞代謝を改変する化合物が含まれる。虚血/再灌流保護組成物は、非制限的に、グルコース、酢酸、またはピルビン酸のような代謝基質として作用し得る1種または複数種の成分も含み得る。
【0036】
虚血/再灌流保護組成物の使用法
ケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、虚血傷害/再灌流損傷を経験中であるか、経験するリスクを有しているか、または経験した組織、器官、または個体を処置するために使用され得る。虚血傷害/再灌流損傷は、多数の異なる外傷に起因し得る。例えば、虚血傷害/再灌流損傷は、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作を起こしたか、もしくは起こすリスクを有する個体、または手術を受ける予定であるか、もしくは受けている個体において起こり得る。
【0037】
虚血損傷は、個体が血液および組織を失い、器官が十分に酸素負荷されない場合に起こり得、再灌流損傷は、その後、血流が再開するか、または個体に血液が輸血され、組織および器官が再び酸素負荷された場合に起こり得る。本明細書において言及されるように、失血は、例えば、大出血事象(例えば、相当量の血液の突然のまたは急激な喪失)により引き起こされ得る。大出血事象には、非制限的に、肢の喪失、長骨骨折、動脈の裂傷、または銃創もしくは砲創が含まれる。大出血事象には、例えば、内出血をもたらし得る鈍傷事象も含まれる。交通事故が、大出血事象の主因である。大出血事象の付加的な原因には、非制限的に、胃腸出血、分娩出血、および婦人科学的出血が含まれる。
【0038】
大出血事象には、出血性ショックも含まれる。急性外傷患者におけるショックの原因には、非制限的に、気道開存性の喪失、減弱した呼吸、誤嚥、および肺損傷のような酸素取り込み障害;血胸もしくは気胸、心タンポナーデ、血液量減少、既存の心虚血、または心損傷のような減少した心拍出量;外因性血管拡張剤(例えば、薬物およびアルコール)、医原性血管拡張剤(例えば、麻酔剤および鎮静剤、閉鎖性頭部損傷、脊髄損傷、アナフィラキシー)のような血管運動緊張度の喪失;貧血または青酸中毒のような減少した酸素運搬能;再灌流損傷、「非再灌流」現象、または細胞代謝の不全(例えば、敗血症)のような微小血管不全が含まれる。
【0039】
本明細書に記載されるような虚血/再灌流保護組成物は、個体が少なくとも約10%(例えば、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、またはそれ以上)の血液量を失った場合に投与され得る。成体における血液の容量は、全体重のおよそ7%〜9%であると考えられていることに注意されたい。約90mmHg以下(例えば、約85mmHg以下、約80mmHg以下、約75mmHg以下、約70mmHg以下、65mmHg以下、約60mmHg以下、約55mmHg以下、または約50mmHg以下)の収縮期血圧、75%未満(例えば、70%未満、65%未満、60%未満、55%未満、または50%未満)のStO2レベル、および6mEq/L超(例えば、6.5mEq/L超または7mEq/L超)の塩基欠乏レベルが、重度の失血の指標である。
【0040】
失血の間、個体の心拍数は増加し得、血圧は減少し得、尿量は減少し得、乳酸塩レベルは増加し得、組織ヘモグロビン酸素飽和(StO2)レベルは減少し得、心拍出量は減少し得、組織pHは減少し得、ミトコンドリア機能は(例えば、NADHレベルにより測定されるように)減少し得る。そのような失血からの個体の回復は、一般に、そのような症状の逆転を示すであろう;心拍数は減少し得、血圧は増加し得、尿量は増加し得、乳酸塩レベルは減少し得、StO2レベルは増加し得、心拍出量は増加し得、組織pHは増加し得、ミトコンドリア機能は増加し得る。一般に、例として、全身的に健康な個体(例えば、出血性ショックに罹患していない者)は、典型的には、100拍動数/分未満の心拍数、100mmHg超の収縮期血圧、30cc/時(または子供の場合、1cc/kg/時)超の尿量、2.1mg/デシリットル(dl)未満の乳酸塩レベル、75%超のStO2レベル、および2.5〜4.5リットル/分/m2(体表面積)の心係数、7.35〜7.45の血液pHを有し、一方で、出血性ショック(例えば、10%以上の失血)に罹患している個体は、100拍動数/分超の心拍数、100mmHg未満の収縮期血圧、300cc/時未満の尿量、2.1mg/dl超の乳酸塩レベル、75%未満のStO2レベル、2.5リットル/分/m2未満の心係数、および7.35未満の血液pHを有し得る。しばしば、生物物理学的パラメーターの変化の重度は、失われた血液の量に直接関係しており、従って、そのような生物物理学的パラメーターは、失血を経験中であるか、またはそのような失血から回復中である個体においてモニタリングされ得る。本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物の投与は、有意に、(類似した量の失血を起こしているが、組成物を投与されていない個体と比較して、本明細書に記載された生物物理学的パラメーターのうちの一つまたは複数により計測されるように)個体の失血に対する応答を抑制し、かつ/または生物物理学的パラメーターが「正常値」(即ち、全身的に健康な個体において観察されるレベル)に戻る速度を増加させることができる。
【0041】
虚血傷害/再灌流損傷は、非制限的に、発作(例えば、閉塞発作)、心停止、心筋梗塞、心臓発作、減少した動脈血流、または腎不全に起因し得る。虚血傷害/再灌流損傷は、血流および/または酸素流が破壊されるかまたは破壊されるかもしれない手術にも起因し得る。神経系手術または心臓手術のようなある種の外科的手技は、虚血傷害/再灌流損傷のより高いリスクを有し、手術中に機械的手段(例えば、人工心肺)を使用したとしても、虚血傷害/再灌流損傷を完全には防止し得ない。本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物は、そのような医学的緊急事態(例えば、重篤な低体温もしくは低酸素)または手技(例えば、手術)の間または後に組織および器官が経験するかもしれない虚血傷害/再灌流損傷を有意に低下させるかまたは防止するために個体に投与され得る。
【0042】
本明細書に記述されるように、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、成分を血流に直接導入するため、可溶化され、静脈投与され得る。しかしながら、その他の投与経路も適当であり、それらには、例えば、骨内投与、腹腔内投与、経口投与、経頬投与、吸入、または(例えば、坐剤を介した)直腸投与が含まれる。虚血/再灌流保護組成物の特定の製剤は、意図された投与経路にとって適切なものであり、投与のための製剤は当技術分野において周知である。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 2005, 21st Ed., Lippincott Williams & Wilkinsを参照のこと。特定の製剤に依って、虚血/再灌流保護組成物は、以下の成分のうちの一つまたは複数を含み得る:水、生理食塩水溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))、固定油、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコール等)、グリセリン、またはその他の合成溶媒のような無菌の希釈剤;パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等のような抗菌剤および抗真菌剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート化剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸のような緩衝剤、ならびに塩化ナトリウムまたはデキストロースのような浸透圧調整剤。
【0043】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含み、液状であるか、ゼラチンカプセルに封入されるか、または錠剤へと圧縮され得る。錠剤、丸剤、カプセル等は、以下の成分のうちのいずれかを含有し得る:微晶質セルロース、トラガント、もしくはゼラチンのような結合剤;デンプンもしくは乳糖のような賦形剤;アルギン酸、Primogel、もしくはコーンスターチのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、フマル酸、もしくはSterotesのような滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素のような流動促進剤;ショ糖もしくはサッカリンのような甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ風味のような風味剤。虚血/再灌流保護組成物の経口製剤は、成分のうちの一つまたは複数の吸収を増加させるための浸透増強剤として作用し得る発泡成分を含むことができる。例えば、発泡錠は、水に添加された時、酸と塩基との間の反応により炭酸ガスを生成させる。酸は、しばしば、クエン酸(水和物または無水物)であるが、酒石酸、フマル酸、アジピン酸、またはリンゴ酸であってもよい。塩基は、重炭酸ナトリウムのような水溶性の炭酸アルカリ金属、または炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸カリウム、重炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、もしくは炭酸グリシンナトリウム(sodium glycine carbonate)のような炭酸アルカリ金属もしくは炭酸アルカリ土類金属であり得る。
【0044】
さらに、虚血/再灌流保護組成物は、(例えばリポソームに)適切に封入され、エアロゾル化または噴霧された形態で送達されてもよい。例えば、米国特許第5,049,388号、第5,141,674号、第7,083,572号、および第7,097,827号を参照のこと。噴霧は、噴霧器のノズルから容易に排出されるサイズにまで粒子を剪断し、それにより、剪断された粒子の吸入、ならびに気道の上皮、肺、および血流への封入された材料のその後の放出が可能になる。ある種の場合、ケトン体と、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの両方が一緒に封入されてもよいし;その他の場合、ケトン体と、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとは別々に封入され、エアロゾル化または噴霧の間に混合されてもよい。直径数ミクロンまでのリポソームは、500nm未満の直径にまで剪断され得、噴霧器およびその他の要因に依って、それにより相当に小さくてもよい。
【0045】
虚血/再灌流保護組成物は、例えば、第一応対者(例えば、軍医、救急救命士(EMT)、またはその他の訓練された医療関係者)により、大出血事象または発作または心肺停止を経験中の個体に、ボーラスとして投与され得る。ボーラス投与の代わりに、またはボーラス投与に加えて、虚血/再灌流保護組成物は、ある期間にわたり点滴または注入として投与されてもよい。例えば、点滴または注入は、外傷の現場で、医療施設への移送の間に、かつ/または個体が医療施設に到着した後、投与され得る。生理学的には、損傷または外傷の直後の期間が重大であり、「死活の一時間」と呼ばれることもあるが、個体への虚血/再灌流保護組成物の投与は、72時間まで、またはそれ以上(例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、90時間まで、またはそれ以上)継続され得る。点滴または注入の代わりに、虚血/再灌流保護組成物のボーラスが、例えば、24時間、48時間、または72時間にわたり複数回投与されてもよい。
【0046】
一般に、大出血事象を経験した個体は、医療施設に到着次第、輸血を受容するであろう。それは、状況に依って、損傷後の数分のみを要するかもしれないし、または数時間もしくはそれ以上を要するかもしれない。いくつかの場合、虚血/再灌流保護組成物は、可能性のある虚血損傷または再灌流損傷が認識されるや否や、個体に投与され得、それは、輸血が既に開始された後であってもよい。虚血/再灌流保護組成物は、輸血または血漿交換と同時に投与されてもよいし、いくつかの場合、虚血/再灌流保護組成物は、血液または血漿と直接組み合わせられ、個体に投与されてもよいことを、当業者は了解するであろう。
【0047】
例えば、約4Mのケトン体および約43mMのメラトニンの濃度、個体の体重1キログラム(kg)当たり約0.3〜約2ミリリットル(ml;例えば、約0.3〜0.4ml、0.3〜0.7ml、0.5〜1.5ml、0.5〜1.0ml、0.6〜0.7ml、0.75〜2ml、1.0〜2.0ml、1.5〜2.0ml、または約0.5ml、0.1ml、もしくは1.5ml)の容量の使用が、重篤な失血による虚血傷害/再灌流損傷から個体を保護するのに有効である。この小さな容量は、野外における救急医療のため、または物資もしくは空間が制限されているかもしれないその他の状況の下で有意に有益である。しかしながら、病院または外傷センターのようなその他の状況の下では、より大きな容量の虚血/再灌流保護組成物(例えば、1kg当たり100ml以上)が、個体に投与されてもよく、各成分の濃度が適切に調整されてもよい。
【0048】
ケトン体は、投与後のある時点で約3mM〜約12または15mM(例えば、約3mM〜10mM、3mM〜7.5mM、3mM〜5mM、3.5mM〜10mM、4mM〜10mM、6mM〜10mM、または約4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、もしくは9mM)という血中濃度を達成するのに十分な量で個体に投与され、かつメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、投与後のある時点で約30μM〜約150μM(例えば、約30μM〜125μM、30μM〜100μM、30μM〜80μM、30μM〜60μM、30μM〜50μM、30μM〜40μM、35μM〜150μM、40μM〜150μM、50μM〜150μM、60μM〜150μM、70μM〜150μM、80μM〜150μM、100μM〜150μM、35μM〜125μM、40μM〜100μM、50μM〜75μM、または45μM〜65μM)という血中濃度を達成するのに十分な量で投与されることが、必要ではないが、一般に、望ましい。いくつかの場合、はるかに少量(例えば、約1×10-10mol/L、2×10-10mol/L、3×10-10mol/L、4×10-10mol/L、5×10-10mol/L、6×10-10mol/L、または7×10-10mol/Lという血中濃度を達成するのに十分な量)のメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログを個体に投与することが望ましい。医療実務者は、例えば、後続の投与を利用することにより、または連続注入もしくはその他の方法の使用を通して、標的濃度を維持するべきか否か、そしてどの程度長く維持するべきかを症例毎に評価することができる。血中のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログのレベルは、当技術分野においてルーチンの方法を使用して決定され得る。
【0049】
虚血傷害/再灌流損傷は、移植が企図されている器官において起こり得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、器官摘出前の臓器提供者に投与され得る。臓器提供者は、遷延性植物状態あるかもしれないし、または生存しており、健康であり、レシピエントにとって適当な適合者であるかもしれない。臓器提供者は、器官を完全に灌流し、それによりその後の輸送およびレシピエントへの移植の間の組織または器官の虚血傷害を防止するかまたは低下させるために、器官摘出前に、ケトン体およびメラトニンまたはメラトニン代謝物、前駆体、もしくはアナログを静脈投与され得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、上記のような血中濃度(例えば、3〜15Mのケトン体および30〜150μMのメラトニン)を達成するために臓器提供者に投与されてもよいし、またはさらに高い濃度を達成するために投与されてもよい。個体への虚血/再灌流保護組成物の投与に加え、またはその代わりに、(例えば、輸送の間に)一つまたは複数の摘出された器官を、例えば、虚血/再灌流保護組成物で灌流するか、または虚血/再灌流保護組成物に浸漬することができる。
【0050】
1種または複数種のケトン体とメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの組み合わせは、虚血傷害および/または再灌流損傷からの個体の保護において高度に有効であり得る。例えば、1種または複数種のケトン体およびメラトニン、メラトニン代謝物、前駆体、もしくはアナログは、失血を経験した個体、発作もしくは心肺停止を起こした個体、手術のような手技を受ける直前であるか、もしくは受けている個体、または臓器提供者である個体に投与され得る。1種または複数種のケトン体とメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの組み合わせは、一つまたは複数の指または肢全体を失った個体を保護することもできる。
【0051】
製品
本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物またはその中の成分は、製品に含まれ得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログを含む製品は、多数の配置を採り得るが、そのうちの少数のみが本明細書に記述される。以下の製品の代表例は、限定するためのものではない。
【0052】
製品の一つの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの液状製剤は、IVバッグで提供される。例えば、米国特許第5,098,409号;第5,257,985号;および第5,853,388号を参照のこと。IVバッグで提供される虚血/再灌流保護組成物は、無菌で、使用の準備ができている状態で提供され得、適切な有効期限がバッグ上に示される。または、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの乾燥粉末状組成物が、適切な溶媒による溶解または再懸濁の準備ができているIVバッグで提供され得る。
【0053】
もう一つの態様において、製品は、少なくとも第1および第2の容器を有することができ、第3および第4の容器を有する場合もある。配置に依って、第1の容器がケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの両方を含有し、第2の容器が溶媒を含有していてもよい。別の配置において、ケトン体が第1の容器に含有され、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログが第2の容器に含有され、一方で、第3の容器が、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログのための可溶化剤を含有し、第4の容器がケトン体を溶解または再懸濁させるのための溶媒(例えば、水性溶媒)を含有していてもよい。複数個の容器を有する製品のある種の態様において、液体部分は、成分または組成物部分と制御可能に接触させられ得る。「制御可能に接触させられる」とは、そのような調節された接触を容易にする製品の構造的特色を介して、液状部分が乾燥粉末状部分といつ組み合わせられるかを使用者が能動的に決定し得ることをさす。そのような構造的特色には、例えば、破壊可能または破砕可能な封または仕切りが含まれ得る。
【0054】
もう一つの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、注射外筒内に提供され得る。注射外筒内の虚血/再灌流保護組成物は、既に再懸濁した状態で提供されてもよいし、使用前に再懸濁させるための乾燥粉末形態で提供されてもよいし、または乾燥粉末もしくはその成分を再懸濁させるための溶媒も含有している注射外筒と共に乾燥粉末形態で提供されてもよい。虚血/再灌流保護組成物を分配するための製品は、(例えば、個体の体重または近似の体重に基づく)所望の用量の保護組成物の投与を可能にする自動装置であり得る。
【0055】
ある種の場合、1種または複数種のケトン体を含有している溶液、およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログを含有している溶液は、個体が単一組成物で両方の成分を受容するよう、投与前に混合され得る。その他の場合において、1種または複数種のケトン体が個体に投与され、その後、またはその前に、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの(別の)投与が行われてもよい。メラトニンおよびケトン体は異なる半減期を有するかもしれないため、いくつかの態様において、二つの成分がまず単一組成物で一緒に投与され、その後、一方の成分(例えば、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ)の投与が、他方の成分(例えば、ケトン体)の投与より高頻度に行われてもよい。
【0056】
製品は、一般に、ケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログに加えて、包装材料を含む。包装材料は、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作もしくは心肺停止を起こしたか、もしくは発作もしくは心肺停止を起こすリスクを有する個体、手術を受ける直前であるか、もしくは受けている個体、または器官もしくは組織を提供する直前の個体を処置するための指示を有する表示または添付文書を含み得る。
【0057】
投与の容易さおよび用量の均一性のため、単位剤形で虚血/再灌流保護組成物を製剤化することは有利である。本明細書において使用されるように、単位剤形とは、所望の治療効果を与えるために予定された量の虚血/再灌流保護組成物を各々含有している、個体に投与される単一の投薬量として適合した物理的に不連続の単位をさす。本発明の組成物の単位剤形は、一般に、例えば、個体の血中のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの所望の濃度、ならびに個体の体重に依存する。
【0058】
本発明により、当技術分野の技術の範囲内の従来の微生物学、生化学的技術、および生理学的技術が利用され得る。そのような技術は、文献に完全に説明されている。本発明は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するものではない以下の実施例においてさらに説明される。
【0059】
実施例
実施例1−冬眠中のリスおよび活動中のリスの脳および心臓におけるグルコースおよびD-ベータ-ヒドロキシブチレートの代謝
目的
[2,4-13C2]-BHB(図2)を注入し、続いて、脳内の13Cで標識されたBHBおよび代謝物を検出することにより、活動中のリスおよび冬眠中のリスの脳内のD-β-ヒドロキシブチレート(BHB)の輸送および代謝を測定した。
【0060】
これらの実験の全体的な戦略は、注入された13C-BHBから、13C-BHBの脳内プール、ならびにグルタミン酸、グルタミン、およびアスパラギン酸のようなトリカルボン酸(TCA)サイクル由来の代謝物への同位体の取り込みを測定することであった。同一の実験を、[1-13C2]-グルコース(図1)を使用して平行に実施した。BHBの血液-脳輸送の定量的決定および(グルコース消費に対して相対的な)消費の速度を、正常体温の非冬眠中のリスおよび4〜6℃の冬眠中のリスにおいて決定した。
【0061】
動物
リスに麻酔(イソフルラン)をかけた後、磁気共鳴(MR)機器の磁石内に置き、13C-BHBまたは[1-13C2]-グルコースを注射した。
【0062】
組織抽出物中の脳代謝物の分析
13C実験の完了時、動物を、完全に麻酔をかけたまま、液体窒素による脳のファネルフリージング(funnel freezing)を使用して屠殺した。凍結脳を-25℃で頭蓋から切り出し、乳鉢を使用して液体窒素下で粉砕した。過塩素酸脳抽出物を、University of Minnesotaで、14 Tesla(600MHz)で高分解能NMRを使用して分析した。
【0063】
結果および解釈
冬眠中のリスにおける標識速度は極めて遅く、およそ12〜16℃の最低体温を必要とすることが認められた。
【0064】
ケトン体が冬眠の間に優先的に利用されるという仮説を検証するために、1mlの1M 13C標識ラセミ純粋D-ベータ-ヒドロキシブチレート(13C-D-BHB)または1mlの1M 13Cグルコースのいずれかを注入された冬眠中のリスに由来する脳抽出物に対して高磁場NMRを実施した。図3は、脳へのグルコース取り込みの相対レベルを示している。結果は、D-ベータ-ヒドロキシブチレートがグルコースより良好な基質であり、有意な量の乳酸塩の生成をもたらさないことを証明した。
【0065】
図4は、13C-D-BHBおよび13C-グルコースは冬眠中の心臓に効率的に輸送されたが、各燃料源が利用され、代謝物に組み入れられる効率には差があったことを示している。BHBを注射された動物においては、TCAサイクル由来の代謝中間体が、低い体温(Tb)で産生された。図4Aは、心臓中のグルタミン酸(炭素#4で標識;グルタミン酸C4)のレベルが極めて高く、グルタミン酸基質の利用ならびにグルタミン酸およびグルタミンC3およびC2の産生を示す多くの多重線を有していたことを示している。
【0066】
グルコースを投与された動物において、13Cグルコースの過半数が心臓に進入したが、D-BHBと同じ高いレベルでは代謝されなかった(図4B)。グルタミン酸C4およびその他のようなTCAサイクル中間体のレベルは、容易には観察されず、リスが屠殺時に35.3℃という正常体温Tbを有していた場合ですら、形成された量は小さく、多重線を有していなかった(図4B)。標識グルコースの注射後に見られた最も劇的な結果は、乳酸塩の極めて大きなスパイクであった。これらの結果は、グルコースがBHBほど効率的に利用されず、代謝されたグルコースの大部分が、TCAサイクルを進むのではなく、乳酸塩へと変換されたことを示している。
【0067】
実施例2−脳および心臓におけるケトン体トランスポーターおよびケトン体分解酵素の発現
目的
活動中のリスおよび冬眠中のリスおよび正常ラットおよびケトン血症ラットの両方に由来する脳を、免疫細胞化学およびウエスタンブロットにより、モノカルボン酸トランスポーターMCT1およびMCT2、ならびにグルコーストランスポーター1(GLUT1)について分析した。これらの実験は、これらのトランスポーターの位置および発現の変化が、動物(活動中対冬眠中;正常対ケトン血症)の代謝状態の差異と相関するか否かを調査するものであった。
【0068】
ウエスタンブロットによる脳内MCT1およびMCT2の測定
様々な型のMCTが季節および動物の活動状態に基づきディファレンシャルに発現されるか否かを定量化するため、冬眠中の動物および非冬眠中の動物の脳由来のタンパク質を、ウエスタンブロット分析により分析した。活動中のリス(N=5)および冬眠中のリス(N=5)を安楽死させ、それらの脳を迅速に取り出した。脳を大脳および脳幹へとさらに分割し、液体窒素で急速凍結させた。組織ホモジナイゼーションにより脳内膜タンパク質を入手した後、膜ペレットを収集するために遠心分離を行った。
【0069】
MCT1は、内皮細胞膜に見出されることが公知であり、高脂肪食によるケトン血症を経験中の動物において、より高度に発現される。MCT1は、脈絡叢上皮および神経膠限界膜にも顕著である。MCT2は、アストロサイトの足突起およびその他の膠細胞に豊富に存在する膜トランスポーターとして最初に記載され、最近の証拠は、MCT2がニューロンにおいても有意に発現され得ることを示唆している。
【0070】
ラットMCT1と同一サイズのリス由来タンパク質と交差反応することが示されているラットMCT1のカルボキシル末端に対して産生されたニワトリポリクローナル抗血清を、リスにおけるMCT1の量の変化を測定するために使用した。同様に、ラットMCT2と同一サイズのリス由来タンパク質と交差反応することが示されているラットMCT2のカルボキシル末端に対して産生されたウサギポリクローナル抗血清を、リスにおけるMCT2の量の変化を測定するために使用した。
【0071】
MCT1、MCT2、およびGLUT1の細胞位置を決定するための免疫細胞化学
5%ハロセンによりラットおよびリスに麻酔をかけた後、ホルムアルデヒド酢酸固定液(4%ホルムアルデヒド、2%酢酸)により心臓穿刺灌流を行った。灌流時間は12分であり、組織を固定液中に4℃で一夜保存した後、加工した。組織切片を、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)および1.5%正常ヤギ血清を含有しているリン酸緩衝生理食塩水(PBS)によりブロッキングした。一次抗体を0.1%BSAで1200倍希釈し、室温で1時間、切片に適用した。次いで、切片を、ビオチン化ヤギ抗マウスIgG(ブロッキング溶液中5μg/ml)と共に30分、アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABC)試薬(いずれの試薬もVector Laboratories, Burlingame, CA)と共に30分インキュベートした。発色は、0.6g/ml 3,3'-ジアミノベンジジン(Sigma)で1〜6分であった。
【0072】
上記のウエスタンブロットをプローブするために使用されたのと同一の抗体調製物(MCT1およびMCT2)を、脳内の細胞位置を決定するために使用した。特に興味深かったのは、活動中のリスおよび冬眠中のリスにおける相対量および分布であった。活動中のリスおよび冬眠中のリスの脳の大脳皮質、海馬、および小脳において、MCT1、MCT2、およびGLUT1の位置を調査した。これらのMCTアイソフォームおよびGLUT1が内皮細胞、アストロサイト、および/またはニューロンにおいて優先的に発現されるか否かを同定するために、これらの実験は、これらの脳領域に焦点をおいた。海馬は低酸素に対して特に感受性であることが公知である。光学顕微鏡検は、Gerhartら(1997, Am. J. Physiol., 273:E207-213)に従って実施された。
【0073】
結果および解釈
図5は、ラットおよびリスの脳におけるMCT1およびグルコーストランスポーター(GLUT1)の免疫細胞化学の結果を示す。図6は、免疫細胞化学に基づくリス脳内のMCT1発現の季節変動を示し、冬眠中の血液脳関門におけるMCT1の上昇したレベルを示している。図7は、MCT1の光学密度に基づく、冬眠中の動物の血管におけるMCT1の上昇したレベルを示している。図8は、活動中のリスおよび冬眠中のリスの心臓からの二次元ゲルを示す。2Dタンパク質ゲルは、ケトン体代謝の律速段階であるスクシニルCoAトランスフェラーゼ(SCOT)が、冬眠中の動物において6倍増加していることを示している。これらの結果に基づき、ケトントランスポーターMCT1のレベルは、冬眠中の脳において増加し、SCOTについても、冬眠動物の心臓において類似した増加が見られる。
【0074】
実施例3−有意な失血からの小型哺乳動物の保護
目的
ケトン体を注入されたラットを、少なくとも1時間60%失血に供した後、摘除された血液を戻した。神経保護の終点測定は、皮質、海馬、および小脳におけるニューロンの生存およびアポトーシスの定量分析、ならびに神経学的機能試験スコアであった。目的は、虚血からの脳の保護および血液返戻後の再灌流損傷からの保護の提供における、メラトニンと組み合わせられたD形ベータ-ヒドロキシブチレート(D-BHB)の有効性を決定することであった。
【0075】
以下の実験の目標は、生存性を維持するための最少量の液体を使用して、少なくとも3時間、60%失血を維持することであった。60パーセント失血は、以下の方程式を使用することにより計算された:全血液量=動物の体重×0.06。動物の体重1キログラム当たり1mlの虚血/再灌流保護組成物のボーラス容量を、およそ40%の失血の後に動物に与えた。単一の1ml/kgボーラスのみを受容した動物もいたし、ボーラスが与えられた後、溶液の点滴静注を模倣するための低速の注入(100μl/hr)を受容した動物もいた。
【0076】
動物
雄スプラーグドーリーラット(280〜350g)を、Harland Teklad(Madison, WI)より入手し、外科的準備の前に少なくとも7日間順化させた。実験日まで、全ての動物に標準的な実験用飼料を与え、水を自由に提供した。動物の管理および取り扱いは、University of MinnesotaのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された。
【0077】
外科的準備
呼吸等級空気中のイソフルランにより動物に簡単に麻酔をかけた後、麻酔のためケタミン/キシラジン混合物(100/20mg/kg)を筋肉注射した。左大腿動脈を無菌的に単離し、ヘパリン処理された生理食塩水(10単位/ml)を含有しているポリエチレン(PE-50)管(0.023ID、0.038OD)カニューレを挿入した。平均動脈血圧(MABP)および心拍数(HR)の連続モニタリングのため、カテーテルを圧変換器に付着させた(Powerlab, AD Intruments, Hastings, UK)。採血および試料採取を容易にするために、右大腿動脈にも同様にカニューレを挿入した。
【0078】
ラットに完全に麻酔をかけ、20分間安定化させた後、失血を開始した。およそ40%の失血の時点で、体重1kg当たり1mlの4M D-BHBまたは4M NaClを、カニューレを挿入された左大腿静脈へ注入した。ボーラス注入の後、4M D-BHBまたは4M NaClを、100μl/hrの速度で動物に徐々に注入した。温度を直腸プローブによりモニタリングした。実験全体を通して、動物はケタミン/キシラジン混合物を使用して麻酔下に維持された。実験は、MABP、HR、および温度をモニタリングしながら、20分の安定化期間の後に行われた。血圧、呼吸、および前胸部運動が停止した時、動物死を記録した(タイムラインについては図9を参照のこと)。ラットは、摘除された血液が戻されてから3日後に屠殺された。
【0079】
溶液
4M D-BHB:0.5gのD-ベータ-ヒドロキシブチレートを1mlの蒸留水に添加した。この溶液を、0.2ミクロンのフィルター(Acrodisc Syringe Filter, PALL)に通すことにより濾過滅菌した。
【0080】
4M NaCl:0.233gの塩化ナトリウムを1mlの蒸留水に添加した。この溶液を、0.2ミクロンのフィルター(Acrodisc Syringe Filter, PALL)に通すことにより濾過滅菌した。
【0081】
メラトニン/DMSO:100mgのメラトニンを0.6mlの微量遠心チューブに添加した。DMSO(>99%の純度)を200μlになるまで添加した。溶液をボルテックス処理し、1.5mlの微量遠心チューブに6μlの量で分注した。チューブは使用時まで凍結され(-20℃)、1週間後に廃棄された。
【0082】
注入溶液:6μlのメラトニン/DMSOストックチューブのうちの一つを開け、294μlの4M D-BHBまたはNaClを添加した。混合を確実にするためにチューブを軽くボルテックス処理した。注入溶液は動物への注入の数分前に調製された。残りの溶液は、使用しない場合には廃棄した。
【0083】
血清アッセイ
ある時点(図9を参照のこと)において右大腿動脈を介して採取された血液試料を、5分間3500rpmで遠心分離した。それらの時点で収集された血清を、チューブからピペットに取り、20マイクロリットルの容量で分注した。これらの血清アリコートを、永久保管のため-80℃で凍結させた。β-ヒドロキシブチレートおよびグルコースのレベルを、Liquicolorテストキット(Stanbio Laboratories)を使用して、分光測光(Multiskan)により血清試料から入手した。ピペッティングの誤差を低下させるため、トリプリケートで試料を実行した。
【0084】
出血性ショックに起因する虚血により誘導される組織傷害の分析
経心灌流により固定されたラット脳を、パラフィン包埋し、前海馬領域からの10μm厚さの冠状脳切片を、ポリ-L-リジンによりコーティングされたガラススライドに載せた。傷害組織の区域を測定し、選択された顕微鏡視野において、特定の脳領域における生存ニューロンおよびアポトーシスニューロンを定量化するために、3種の組織学的技術を使用した。
【0085】
Nissl(クレシルバイオレット)により染色された切片、ならびにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)により染色された切片を、脳組織切片の虚血傷害区域と非傷害区域とを区別するために調製した。海馬のCA1、CA2、CA3領域、および歯状回におけるニューロン損傷を、細胞数により定量的に査定した。さらに、大脳皮質および視床の総面積に対して相対的な、これらの脳領域における一般細胞障害性傷害の面積を、各脳から採取された三つの切片(前頂部から3.7mm、4.0mm、および4.3mm)において測定した。ディジタル顕微鏡検を使用して傷害区域の顕微鏡写真を入手し、傷害脳区域および正常脳区域を同定するため画像分析ソフトウェアプログラム(例えば、NIH Image)を使用して、定量化を達成した。結果を統計的に評価するためにスチューデントt検定を使用した。
【0086】
ニューロン細胞死を定量化するために、インサイチュー細胞死検出キット(Boehringer Mannheim, Mannheim, Germany)による末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介ビオチン化UTPニックエンド標識(TUNEL)染色のため、脳切片を加工した。NIH Imageを使用して、海馬、歯状回、大脳皮質、および視床における選択された顕微鏡視野において、両側的に、TUNEL陽性ニューロン(即ち、アポトーシスを受けている細胞)を計数した。続いて、生存ニューロンを評価するため、同一の切片を0.5%クレシルバイオレットにより染色した。
【0087】
神経学的欠陥スコア化系
動物の神経学的機能を、神経学的欠陥スコア化系(表1)により血液返戻から1日後および3日後に評価した。
【0088】
(表1)ラット用の神経学的欠陥スコア化系
【0089】
統計分析
統計分析は、p<0.05を統計的に有意であると見なす、両側スチューデントt検定を使用して実施された。パラメトリックデータの多群統計分析のため、一元配置のANOVAを実施した。統計値は平均値±S.D.として表された。
【0090】
結果および解釈
これらの実験は、BHBおよびメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物が、およそ3時間、60%失血を経験中の動物の生存を維持したことを証明し、それは、NaClの効果と比べて有意な改良であった。さらに、BHBおよびメラトニンの虚血/再灌流保護組成物は、ラットにおける神経保護を提供し、摘除された血液が戻された後の改善された予後をもたらした。
【0091】
図9は、ベータ-ヒドロキシブチレートが重度の失血から個体を保護するために使用され得ることを証明するための実験に関するタイムラインである。血液は、低血圧前(A);およそ40%の失血(B);溶液注入後(C);60%失血(D);60%失血から30分後(E);60%失血から60分後(F);60%失血から90分後(G);60%失血から120分後(H);60%失血から150分後(I);および60%失血から180分後(J)に採取された。
【0092】
示された時点で血清を収集し、D-BHBの存在について分析した。1ml/kgのボーラス投与の後(図10)、または1ml/kgのボーラス投与およびそれに続く100μl/hrでのD-BHB注入の後(図11)、血清D-BHBレベルを分析した。
【0093】
出血性ショックを経験した動物に対する体温の効果を調査した。出血性ショックを経験し、フィードバック加熱ランプ機序を介して人工的に37℃に維持された動物(図12、左バー)は、外界温度で放置された動物(図12、右バー)より有意に速く死亡した。外界温度で放置された動物は、37℃の体温を有する動物より平均して3倍長く生存した(図12)。外界温度で放置された動物は、27℃未満には冷却されなかったことに注意されたい。
【0094】
出血性ショックを経験した動物の生存に対する様々な組成物の効果を調査した。動物に、4M D-BHBもしくは4M NaClの1ml/kgボーラス、または4M D-BHBもしくは4M NaClの100μlボーラスに続く100μl/hr注入を投与した。60%失血の後、動物を外界温度で放置し、37℃における人工的な維持は行わなかった。1時間の60%失血の後、摘除された血液を戻し、ラットを生存率についてモニタリングした。D-BHBを受容した動物は、同一浸透圧のNaClを受容した動物より長く生存した。重要なこととして、D-BHBのボーラスに続くD-BHBの注入を与えられた動物は、NaClを与えられた動物より有意に長く(p値<0.016)生存した(図13)。
【0095】
43mMメラトニンを4M D-BHBに添加した場合、血液返戻後の生存に対する有意な付加的な利益が見られた(図14および19)。失血の間、動物の心拍数(図15)、平均動脈血圧(MABP;図16)、および体温(図17)をモニタリングした。
【0096】
さらに、術後1〜6日目、ラットに神経学的スコア化を行い;術後7〜10日目、ラットに記憶試験を行い;術後10日目、ラットを屠殺し、脳組織診を実施した。
【0097】
概要
4M D-BHBのケトンに基づく溶液を与えられた動物は、出血性ショック後、4M NaClを与えられた対照動物より長く生存した。さらに、フィードバックランプにより人工的に37℃に維持された動物は、室温で放置された動物より有意に速く死亡した。外界温度で放置された動物は、熱維持された動物より平均して3倍超長く生存した。これは、軽度の低体温が出血性ショックの生存に関して重要であることを示唆し、60%失血時の生存に対する温度の効果を証明している。
【0098】
実施例4−ラットにおける重度の失血に関する付加的な実験
付加的な実験において、20%DMSOを含有している水性溶液中の4M D-BHBおよび43mMメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物を、実施例3に記載されたような出血性ショックのラットモデルにおいて対照溶液と比較した。対照溶液は、20%DMSOと、(1)4M D-BHB、(2)4M NaCl、または(3)4M NaClおよび43mMメラトニンとを含有している水性溶液であった。
【0099】
溶液は、実施例3に記載されたメラトニン/100%DMSOストック溶液を、メラトニン濃度を半分にすることにより希釈し、2倍容量のメラトニンストック溶液を、ラットへの注入のための溶液を調製するために使用した点を除いて、実施例3に記載されたのと同様に調製された。注入のための溶液は(実施例3に記載されたような10%DMSOの代わりに)20%DMSOを含有していた。
【0100】
典型的には、ラットは、出血開始後、約10分で血液の約40%を失った。約40%の失血が達成された後、D-BHB+メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の1mL/kgのボーラス用量をラットに注入した。ボーラス注入を約10分かけて行い、その後、D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の連続注入(100μL/時間)を開始した。さらに約10分間、摘除された血液の総量が全血液の約60%に等しくなるまで、血圧をさらに低下させた。D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入(100μL/時間)を、約60%の失血が達成されてから1時間後まで継続した。次いで、摘除された血液の返戻を開始した。研究の終点は、血液返戻後の死、または10日間の観察後の安楽死であった。
【0101】
これらの研究の結果は、60%失血に供されたラットの生存が、4M D-BHB、4M NaCl、または4M NaCl+メラトニンを含有している対照溶液を注入されたラットと比較して、D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物を注入されたラットにおいて劇的に増加したことを示した(図19)。実際、D-BHB+メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物により処置されたラットと、失血に供されなかった偽処置ラットとの間に、有意な差はなかった。血清乳酸塩濃度の処置群間の有意差は、観察されなかった(図20)。
【0102】
実施例5−重度の失血からの大型動物の保護
目的
虚血/再灌流保護組成物の有効性を、出血性ショックの臨床的に関連する大型動物モデルにおいて試験する。大血管損傷および血餅形成をシミュレートするために50mmHgの収縮期血圧を出血終点として使用する、出血性ショックの調節されたモデルが利用される。例えば、Skarda et al., 2006, J. Amer. Coll. Surg., 203(3S):S32-S33を参照のこと。
【0103】
二つの動物群を使用し、実際の生活環境をシミュレートするために処置する。動物は、出血性ショックプロトコルを受け、次いで、野外における第一応対者による初期治療をシミュレートするため、出血から15分後に虚血/再灌流保護組成物または担体溶液のいずれかを静脈内に受容する。処置施設への到着をシミュレートするため、全ての動物が、ショックから1.5時間後に標準的なプロトコルを使用した蘇生を受容する。動物は、8時間、血圧、尿量、およびヘモグロビンの標準的な臨床的終点にまで蘇生され、次いで、分析のため屠殺される。
【0104】
(表2)出血性ショック/蘇生の間に測定される終点
【0105】
実験の第一の終点は、組織灌流の妥当性のパラメーターである。これらには、乳酸塩レベル、塩基欠乏、およびStO2が含まれる。乳酸塩および塩基欠乏は、外傷患者の臨床的蘇生のための認識され広範に使用されている終点であり、一方、組織ヘモグロビンにおける酸素飽和度を測定するパラメーターであるStO2は、外傷モデルにおいて酸素送達量と相関することが示されている。重傷外傷患者の最近の観測的試験において、StO2は、乳酸塩および塩基欠乏と同様に死亡率も予測した。その他のパラメーターは表2に挙げられており、表3に示されるような実験において記録される。
【0106】
(表3)測定マトリックス
【0107】
実験プロトコル
アルテシン(althesin)およびケタミンの組み合わせを使用して動物に麻酔をかける。動物は、ステロイド麻酔薬であるアルテシン(Schering-Plough Animal Health, Kenilworth, N.J.)および亜酸化窒素からなるプロトコルを利用して、初期手術およびショック期間の間、麻酔を受容する。この組み合わせは、適切な麻酔レベルを可能にしながら、身体のショックに対する反射応答の多くを保存することが示されている。準備手術の間、FiO2を80〜120mmHgのPaO2および37〜43mmHgのPaCO2に調整して、気管内チューブを通した機械的換気を使用して動物を換気する。準備手術には、(自己血輸血を防止するための)脾臓摘出のための開腹、IVCのカニューレ挿入、および膀胱カテーテル挿入が含まれる。動脈カテーテルおよび肺動脈カテーテルを頸部切開を介して設置する。安定化期間の後、50mmHgの収縮期血圧を入手するため、ヘパリン処理された血液バッグへの採血により、出血性ショックを誘導する。ショックから15分後、動物は、D-BHBおよびメラトニン、もしくはアセト酢酸およびメラトニンのいずれかを有する虚血/再灌流保護組成物、または担体溶液のいずれかを静脈内に受容する。
【0108】
ショックから90分後、虚血/再灌流保護組成物または担体溶液の体重に基づく注入を動物に開始する。さらに、図18に概説されるような標準的な蘇生戦略を使用して、臨床的終点にまで動物を蘇生する。ショックおよび蘇生の期間を通して、動物は換気装置により維持され、BISモニターを使用して、適切なレベルの鎮静および安楽を維持するために、調整された用量のプロポフォールおよび亜酸化窒素を受容する。蘇生を開始してから8時間後、生存している動物を安楽死させる。
【0109】
実施例6−重度の失血からの大型動物の保護
D-BHB+メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物の有効性を、別記された出血性ショックのブタモデルにおいて試験した(実施例5;Beilman et al., 1999, Shock, 12(3): 196-200;Skarda et al., 2007, Resuscitation, 75(1): 135-44;Taylor et al., 2004, Shock, 21(1):58-64;Taylor et al., 2004, J. Trauma, 56(2):251-258;Mulier et al., 2005, Shock, 23(3):248-52;Skarda et al., 2006, J. Amer. Coll. Surg., 203(3):S32-S33;Taylor et al., 2005, J. Trauma, 58(6): 1119-25)。ブタモデルは、ヒトの出血性ショックの臨床的に関連するモデルとして承認されているため、選択された。重篤な失血に罹患した外傷患者において観察される血管代償不全を誘発するために、約50mmHgの収縮期血圧への失血を使用した。
【0110】
本質的には実施例5に示されるように、実験を実施した。二つの実験ブタ群に、出血性ショックを与え、実際の生活状況をシミュレートする処置を与えた。一方のブタ群には、20%DMSOを含有している水性溶液中に4M D-BHBおよび43mMメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物を与えた。他方の群には、4M NaClおよび20%DMSOを含有している対照溶液を与えた。中心静脈カテーテルを介して溶液を投与した(末梢血管を介した虚血/再灌流保護組成物の投与は、局所組織の何らかの壊死をもたらし得る)。
【0111】
現場での救急医療関係者による初期処置をシミュレートするため、出血から15分後に、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の1mL/kgのボーラス注入を、各ブタに投与した。ボーラス注入の直後、二つのブタ群の各々を、三つの投薬群へとさらに分類した。一つの投薬群には、蘇生から4時間後まで、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の0.66mL/kg/時間の連続注入を投与した(高用量)。第二の投薬群には、蘇生から4時間後まで、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の0.33mL/kg/時間の連続注入を投与した(中用量)。第三の群には、(ショックから15分後の)ボーラス注入の直後の連続注入は投与せず、ショックから60〜90分後(蘇生の時点)に開始し、蘇生から4時間後まで継続する、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の0.33mL/kg/時間の連続注入を投与した(低用量)。
【0112】
処置施設への到着をシミュレートするため、全ての動物をショックから60〜90分後に蘇生した。動物が、>8mg/dlの乳酸塩レベルを示し、50%未満への組織ヘモグロビン酸素飽和度(StO2)の低下を示し、血管運動緊張度の喪失の兆候を示した(収縮期血圧が10mmHg超低下した)時点で、蘇生を開始した。血圧、尿量、およびヘモグロビンの標準的な臨床的終点にまで動物を蘇生した(図18)。8時間の蘇生の後、動物を屠殺した。
【0113】
D-BHBの血清レベル(mM)を、対照ブタ、および低用量、中用量、または高用量の虚血/再灌流保護組成物を投与されたブタにおいて測定した。ベースライン時;ショックから30分後、60分後、および90分後;ならびに蘇生開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、および8時間後にレベルを測定した(図21)。これらの結果は、虚血/再灌流保護組成物を投与されたブタにおいて観察された血清D-BHBレベルが、虚血/再灌流保護組成物を投与されたラットにおいて観察された血清D-BHBレベルに類似していることを示した(図21を図11と比較すること)。これらの実験の結果は、D-BHB+メラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物が、ブタ出血性ショックモデルにおいて安全であり、蘇生の間にモニタリングされた重要な臨床的尺度を改善したことを示している。
【0114】
ブタ出血性ショック実験の間に測定された主要な終点のうちの一つは、血清中の乳酸塩のレベルであった(図22)。血清乳酸塩レベルは、外傷患者の臨床的な蘇生の終点として広範に使用されている組織灌流の妥当性の指標である。多数の研究が、外傷性ショックを生き延びる患者は、生存しない患者より迅速に乳酸塩レベルを正常化することを示している。血中の乳酸塩増大は、死亡の予後的な指標であり得る。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物においては、乳酸塩レベルが、対照に比べて、より迅速に減退することが観察された(図22)。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物において4時間の蘇生の後に見出されたのと同一の平均乳酸塩レベルに、対照動物における平均乳酸塩レベルが達するためには、6時間の蘇生を要した。これらのデータは、出血性ショック後の組織ホメオスタシスが、対照動物に比べて、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタにおいて優れていたことを示す。虚血/再灌流保護組成物を受容したブタにおける測定が、対照溶液を受容したブタにおける測定と同様に平均化されたことに注意されたい。
【0115】
塩基欠乏/過剰が、大型動物実験の間に査定されたもう一つのパラメーターである(図23;Siggaard-Andersen, 1974, The acid-base status of the blood, 4th Ed., Copenhagen: Munksgaard;Schmelzer et al., 2008, Am. J. Emerg. Med., 26:119-23;Eastridge et al., 2007, J. Trauma, 63:291-9;Englehart & Schreiber, 2006, Curr. Opin. Crit. Care, 12:569-74)。塩基欠乏は、血液ガス測定装置(Gem Premier Model 3000 with Base Deficit Cartridge No. 24315009;Instrumentation Laboratories Inc., Lexington, MA)を使用して測定された。乳酸塩レベルと同様に、塩基欠乏/過剰も、組織灌流の妥当性の尺度として認識されており、外傷患者の臨床的蘇生を査定するために広範に使用されている。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物において、ショックの開始から90分後に達した塩基欠乏は、対照溶液を投与された動物ほど重篤でなかった(図23)。さらに、塩基欠乏は、虚血/再灌流保護組成物により処置された群において、対照群より速く回復するのが観察された。6mEq/L超の塩基欠乏は、死亡率の予測因子であり、対照群においては、ショックから約45分後に観察され始め、蘇生から約2時間後まで持続したが、虚血/再灌流保護組成物により処置された群においてはそうでなかった(Cohn et al., 2007, J. Trauma, 62(1):44-54)。
【0116】
総合すると、図22および23に提示された結果は、D-BHBおよびメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物による処置が、乳酸塩および塩基欠乏のより迅速な排除の傾向に関連していたことを示す。これらの結果は、虚血/再灌流保護組成物による処置が、死亡率を低下させ、ヒト外傷患者の予後を改善することができるという強い証拠を提供する。
【0117】
虚血/再灌流保護組成物または対照溶液を投与されたブタにおいて、血清pH値も測定した(図24)。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物において、血清pHレベルは対照動物ほど低く低下しなかった。さらに、虚血/再灌流保護組成物により処置された動物におけるpHレベルは、対照動物に比べて速く正常化することが観察された。
【0118】
組織オキシヘモグロビン飽和度の測定によっても、組織灌流の妥当性を評価した(StO2;図25;Zenker et al., 2007, J. Trauma, 63:573-80;Puyana & Pinsky, 2007, Crit. Care, 11:116;Cohn et al., 2007, J. Trauma, 62:44-55;およびMyers et al., 2005, J. Biomed. Opt., 10:034017)。StO2値は、組織ヘモグロビンにおける酸素飽和度を示し、外傷モデルにおいて酸素送達量と相関することが示されている。重傷外傷患者の研究において、StO2は少なくとも死亡率を予測し、乳酸塩および塩基欠乏も予測した(Cohn et al., 2007, J. Trauma, 62(1):44-54)。さらに、患者が外傷性ショックを生き延びる可能性は、組織酸素送達量および消費量が蘇生後の初期に最大化された場合に、より高くなることが認識されている。対照に比べて、虚血/再灌流保護組成物により処置された動物においては、StO2レベルにより測定されるような、ショックの間の組織灌流の保存が観察された(図25)。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物におけるより高いStO2レベルは、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物の存在下では、生命に関わる器官にとって利用可能な酸素がより多く存在したことを示しており、それは、一般に、改善された患者の生存および予後に通じる。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物における高いStO2レベルに加え、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタにおいては、対照溶液により処置されたブタに比べて、改善された酸素送達量が観察された(図26)。
【0119】
虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置された出血性ショックブタにおいて、組織灌流の成功および正常なホメオスタシスへの復帰を査定するために複数の測定基準を使用することに加えて、蘇生の間に投与される必要のあった液体の容量も測定した(図27および28)。攻撃的な液体投与は増加した死亡率に通じる場合があるため、蘇生のために必要とされる液体の総量は、重要なパラメーターである。特に、止血が達成される前に低血圧を逆転する攻撃的な液体投与は、部分的に形成された血餅を排出し、既存の凝固因子を希釈して、さらなる失血をもたらす場合がある。虚血/再灌流保護組成物の投与は、蘇生のために必要とされる液体のより低い容量への一貫した傾向に関連していた(図27)。これらの結果は、虚血/再灌流保護組成物の投与が、出血性ショックに罹患している個体の死亡率を低下させ得るというさらなる証拠を提供する。
【0120】
ヒト出血性ショック患者のためのものである、心拍出量、心拍数、収縮期血圧、および尿量という基本的な生命徴候を、ブタ実験の間にモニタリングした。致死的ショックは、末梢組織の血液および酸素があまりにも不足したために、細胞エネルギーレベルがあまりにも低くなり、毒性副産物があまりにも高くなった場合に起こる。これらの条件の下では、末梢組織は、もはや、脳および心臓への血流を維持するために末梢血管収縮を維持することができない。この血管収縮の喪失は、高頻度に、最終的な死因となる。対照群において、末梢の血管運動緊張度の喪失を伴う失血は、収縮期血圧の減少(図31)をもたらし、その後、脳および心臓の血流を維持するための心拍出量の補償的増加(図28)をもたらした。しかしながら、虚血/再灌流保護組成物により処置された動物は、末梢組織血管収縮を維持していたようであり、それは、対照と比較して、増加した心拍数(図29)および増加した収縮期血圧(図30)の存在下で、減少した心拍出量(図28)をもたらした。さらに、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタにおいては、腎排出量が、より迅速に回復した(図32)。尿量は、腎機能の指標であり、腎機能は、腎臓への血流および腎細胞の完全性により決定される。これらの結果は、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物が、より効率的なエネルギー供給を提供し、毒性副産物の増大に対抗することにより、末梢組織の生存性を促進し得ることを示している。
【0121】
虚血/再灌流保護組成物による動物の処置は、腹部コンパートメント症候群(IACS)を防止し、このことは、組織へのエネルギー供給および細胞完全性の維持における虚血/再灌流保護組成物の有益な効果をさらに証明した。IACSは、外傷患者の蘇生の間に発生することがあり、未決定の死の前兆である、急速な腹部膨隆を含む症候群である。低用量の虚血/再灌流保護組成物を受容した2匹のブタは、決定的な蘇生の前に死亡したが、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタは、いずれも、IACSを発症しなかった。他方、対照群においては、1匹の動物が、蘇生開始から4.5時間後にIACSにより死亡した。表4は、出血性ショックに供され、対照溶液、または低用量、中用量、および高用量の本明細書に記載されたような虚血/再灌流保護組成物を投与された群の各々における、生存していたブタおよび死亡したブタの数を示す。
【0122】
(表4)ブタ死亡率
【0123】
その他の態様
本発明を、詳細な説明と共に記載したが、上記の説明は、本発明を例示するためのものであり、添付の特許請求の範囲の範囲により定義される本
発明の範囲を制限するものではないことが理解されるべきである。その他の局面、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その開示が本明細書に完全に組み入れられる2007年4月12日出願の米国出願第60/911,460号および2008年2月5日出願の米国出願第61/026,321号に基づく優先権を35 U.S.C.§119(e)の下で主張する。
【0002】
連邦政府によって支援された研究または開発
米国政府は、Defense Advanced Research Projects Agency(DARPA)により授与されたグラント番号W911NF-05-1-0432およびW911NF-06-1-0088に準じ、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は、虚血傷害および再灌流損傷に関し、より具体的には、虚血および/または再灌流による損傷および傷害を処置または防止するための組成物および方法に関する。虚血および/または再灌流損傷は、例えば、出血性ショックに起因し得る。
【背景技術】
【0004】
背景
虚血とは、一般に、血液供給が制限されることであり、結果として組織の傷害または機能障害を伴う。虚血とは、器官への血液供給の絶対的または相対的な不足をさす。血液供給の相対的な不足とは、血液供給(酸素送達量)と、組織の妥当な酸素負荷の需要との不適合を意味する。
【0005】
再灌流損傷とは、虚血の期間の後に血液供給が組織に戻る際に組織に引き起こされる傷害をさす。血液からの酸素および栄養素の欠如は、循環系の回復が、炎症および酸化傷害または過酸化傷害をもたらす状態を作出する。
【発明の概要】
【0006】
概要
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、虚血傷害および/または再灌流損傷から個体を保護するために個体に投与され得る。
【0007】
一つの局面において、本発明は虚血/再灌流保護組成物を提供する。本明細書に開示されるような虚血/再灌流保護組成物は、1種もしくは複数種のケトン体およびメラトニンを含むか、または1種もしくは複数種のケトン体およびメラトニンから本質的になる。1種または複数種のケトン体は、例えば、D-ベータ-ヒドロキシブチレートもしくは薬学的に許容されるその塩(例えば、Na-D-ベータヒドロキシブチレート)、アセトアセテートもしくは薬学的に許容されるその塩、またはD-ベータヒドロキシブチレートとアセトアセテートとの組み合わせであり得る。メラトニンは、例えば、5-メトキシ-N-アセチルトリプタミンであり得る。いくつかの態様において、組成物は、無機陰イオンを実質的に含まない。
【0008】
いくつかの態様において、虚血/再灌流保護組成物は液状組成物である。液体として製剤化される場合、虚血/再灌流保護組成物は、約0.1M〜約8Mのケトン体および約4μM〜約150mMのメラトニンを有し得る。一つの具体的な態様において、虚血/再灌流保護組成物は、約4MのNa-D-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび約43mMのメラトニンを有し得る。いくつかの態様において、虚血/再灌流保護組成物は、Cl-を実質的に含まない。液状組成物のある種の態様において、溶媒は水である。いくつかの態様において、液状組成物は、可溶化剤(例えば、DMSO)および/または安定剤を含む。
【0009】
他の態様において、虚血/再灌流保護組成物は、乾燥粉末状組成物である。乾燥粉末として製剤化される場合、虚血/再灌流保護組成物は、約100対1というケトン体とメラトニンとのモル比を有し得る。
【0010】
そのような虚血/再灌流保護組成物は、1種もしくは複数種の抗生物質、1種もしくは複数種の遊離脂肪酸、1種もしくは複数種の鎮痛薬、1種もしくは複数種のホルモン、1種もしくは複数種の代謝物、1種もしくは複数種の代謝経路の分子、および/または細胞代謝を改変する1種もしくは複数種の化合物(例えば、ポリペプチド、アンチセンス分子、siRNA分子、薬物、もしくは低分子)をさらに含み得る。
【0011】
一つの局面において、本発明は、虚血/再灌流保護組成物を含む製品を提供する。一つの態様において、製品は、虚血/再灌流保護組成物(例えば、液状製剤または乾燥粉末状製剤)を含有しているIVバッグであり得る。もう一つの態様において、製品は、虚血/再灌流保護組成物を含有している第一の容器、および溶媒を含有している第二の容器を含むことができる。そのような態様において、製品は、第二の容器からの溶媒が、第一の容器内の組成物と制御可能に接触させられ得るよう配置され得る。もう一つの態様において、製品は、虚血/再灌流保護組成物を含有している注射外筒を含む。さらにもう一つの態様において、製品は、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作を経験中であるか、もしくは経験した個体、または医学的手技(例えば、手術)を受ける予定であるか、もしくは受けている個体を処置するための、指示を有する表示または添付文書を含み得る包装材料と、虚血/再灌流保護組成物とを含むことができる。
【0012】
もう一つの局面において、本発明は、失血を経験中であるか、または経験した個体を処置するための方法を提供する。そのような方法は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを個体に投与する工程を含む。いくつかの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、単一組成物で一緒に投与される。ある種の態様において、処置の必要のある個体は、75%未満のStO2レベルを有する。典型的には、投与工程により、個体のStO2レベルは75%超に戻り、これは、個体が処置済みであることの指標となる。ある種の態様において、処置の必要のある個体は、2.1mg/dl超の乳酸塩レベルを有する。典型的には、投与工程により、個体の乳酸塩レベルは2.1mg/dl未満に戻り、これは、個体が処置済みであることの指標となる。一般に、投与工程により、個体の塩基欠乏が6mEq/Lに達することが防止される。
【0013】
ある種の態様において、個体は、大出血事象を経験中であるか、または経験した(例えば、個体は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、または少なくとも約60%の血液量を失っている)。いくつかの態様において、個体における失血は、約70mmHg以下(例えば、65mmHg、60mmHg)の収縮期血圧をもたらす。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体は、約3mM〜約15mMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与され、かつメラトニンは、約20μM〜約150μMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与される。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、個体の体重1キログラム(kg)当たり約0.3〜約2ミリリットル(ml)の容量で投与される。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mlの容量で投与される。ある種の態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンが個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mlの容量で投与された後、1種または複数種のケトン体およびメラトニンが1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mlの容量で投与される。1種または複数種のケトン体およびメラトニンの代表的な投与経路は、静脈内および骨内である。
【0014】
もう一つの局面において、本発明は、StO2レベルが75%未満であるか、または塩基欠乏レベルが6mEq/L超であるような個体を同定する工程;ならびに1種または複数種のケトン体およびメラトニンを個体に投与する工程を含む、StO2レベルが75%未満であり、かつ/または6mEq/L超の塩基欠乏レベルを有する個体を処置する方法を提供する。
【0015】
さらにもう一つの局面において、本発明は、虚血傷害または再灌流損傷から個体を保護する方法を提供する。そのような方法は、一般に、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを個体に投与する工程を含む。代表的な個体には、発作を起こしたか、または発作を起こすリスクを有する者、手術(例えば、神経系手術)を受ける予定である者が含まれる。いくつかの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、個体の体重1kg当たり1mlの量で投与される。ある種の態様において、そのような投与の後に、1種または複数種のケトン体およびメラトニンの低速の注入が行われてもよい。
【0016】
さらにもう一つの局面において、本発明は、臓器提供者から器官を摘出する前に、器官を処置する方法を提供する。そのような方法は、一般に、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを臓器提供者に(例えば、静脈内に)投与する工程を含む。例として、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、臓器提供者の体重1kg当たり少なくとも約1mlの量で臓器提供者に投与され得る。ある種の場合、臓器提供者は遷延性植物状態にある。
【0017】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、適当な方法および材料が以下に記載される。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。本明細書中に言及された刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照または参照材料は、全て、参照により完全に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が適用されるであろう。
【0018】
本発明の一つまたは複数の態様の詳細が、添付の図面および以下の説明において示される。本発明のその他の特色、目的、および利点は、図面および詳細な説明から、そして特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】[1-13C]グルコースの構造を示す。
【図2】[2,4-13C]D-ベータ-ヒドロキシブチレートの構造を示す。
【図3】脳内の13Cグルコースのベースラインのレベルを示すグラフである。
【図4】14.1 Tesla UNITY INOVA分光光度計(Varian;Palo Alto, CA)上でアッセイされた、冬眠中のリスに由来する選択された代謝物の標識スペクトルである。パネルAは、2月の冬眠動物における1mlの1M 13C BHBのIP注射後の結果を示す(屠殺時Tb=16.8℃)。パネルBは、12月の冬眠動物における1mlの1M 13CグルコースのIP注射後の結果を示す(屠殺時Tb=35.3℃)。両パネル中のデータは、標識の注入により変化せず、他のそれぞれの代謝物の濃度を決定するために使用され得る、二つの天然に標識された13C-タウリンピークに対して規準化された。略語は、指定された代謝物および標識された特定の炭素を反映する。Tau C1、タウリンC1;BHB C2、ベータヒドロキシブチレートC2;Tau C2、タウリンC2;Glu C4、グルタミン酸C4;BHB C4、ベータヒドロキシブチレートC4;Lac C3、乳酸塩C3;Glc C1-α、グルコースC1アルファ;Glc C1β、グルコースC1ベータ。
【図5】ラットおよびリス(GS)の脳内のモノカルボキシレートトランスポーター1(MCT1)およびグルコーストランスポーター(GLUT1)の免疫細胞化学の結果を示す。
【図6】冬眠中のリスにおける免疫細胞化学に基づく血液脳関門におけるMCT1の上昇したレベルを示す。
【図7】冬眠中(HIB)、8月(AUG)、10月(OCT)、および4月(APR)の血管内のMCT1の光学密度に基づく血液脳関門におけるMCT1の上昇したレベルを示す。
【図8】活動中のリスおよび冬眠中のリスの心臓に由来するポリペプチドの二次元ゲルを示す。1、心室ミオシン軽鎖1(n.c.活動中、n=5;冬眠中、n=4);2、スクシニルCoAトランスフェラーゼ(6倍の増加、*=p<0.005)。
【図9】急性外傷実験のタイムラインを示す。血液は、文字で示された時点で採取された(A〜J)。
【図10】ラット1kg当たり1mlの4M D-BHBまたは4M NaClの投与後のベータ-ヒドロキシブチレートの血清レベルのグラフを示す。試料は、ピペッティングの誤差を最小限に抑えるためトリプリケートで計算され、mM濃度で与えられる。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図11】1ml/kgを投与し、続いて100μl/hrを注入した後のベータ-ヒドロキシブチレートの血清レベルのグラフを示す。試料は、ピペッティングの誤差を最小限に抑えるためトリプリケートで計算され、mM濃度で与えられる。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図12】出血性ショック後の生存率に対する温度維持(左バー)および血液量減少性冷却(右バー)の効果を示すグラフである。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図13】出血性ショック後の生存率に対する様々な投与計画の効果を示す。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【図14】1時間の60%失血と組み合わせて、示された処置を与えられたラットのカプランマイヤー生存率プロットを示す。1時間の60%失血の後、摘除された血液が戻され、動物が生存率についてモニタリングされた。偽処置動物は、麻酔を施され、カニューレを挿入されたが、血液は除去されなかった。
【図15】示された処置の心拍数に対する効果を示すグラフである。
【図16】示された処置の平均動脈血圧に対する効果を示すグラフである。
【図17】示された処置の体温に対する効果を示すグラフである。
【図18】ブタ出血性ショックのための蘇生戦略を示す。SBP=収縮期血圧;UO=尿量;Hgb=ヘモグロビン。
【図19】60%失血に供され、4M D-BHBおよび43mM メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物(4M D-BHB+M)、または4M D-BHB、4M NaCl、もしくは4M NaCl+43mMメラトニン(4M NaCl+M)を含有している対照溶液のいずれかを投与されたラット群についてのカプランマイヤー生存率曲線を示す。偽処置動物(SHAM)は、血液試料採取以外の失血に供されなかったが、麻酔下に置かれ、カニューレを挿入され、他の群の動物と同じ長さの時間、回復させられた。血液返戻=摘除された血液が戻された時点;18時間、24時間、48時間、72時間、96時間、および10日=それぞれ、摘除された血液の返戻から18時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、および10日後。X軸上の時点は、縮尺通りにはプロットされていない。
【図20】60%失血に供され、D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物(4M D-BHB+M)、または4M D-BHB、4M NaCl、もしくは4M NaCl+メラトニン(4M NaCl+M)を含有している対照溶液のいずれかを投与されたラットに由来する血清中の様々な時点において測定された平均乳酸塩レベルをプロットしたグラフである。各処置群には10匹の動物が存在した。偽処置動物(SHAM)は、血液試料採取以外の失血に供されなかったが、麻酔下に置かれ、カニューレを挿入され、他の群の動物と同じ長さの時間、回復させられた。低血圧前=失血前;35mmHg=約40%失血;溶液注入後=溶液注入後;60%BL=60%失血;60%BLから1時間後=60%失血から1時間後;血液返戻=摘除された血液が戻された時点。
【図21】失血に供され、低用量、中用量、または高用量の、メラトニン+D-BHBを含む虚血/再灌流保護組成物を投与されたブタに由来する血清中の多数の時点で測定されたD-BHBのレベル(mM)をプロットしたグラフである。対照ブタにおける血清D-BHBレベルもプロットされている。Shk30、60、90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、4Hr、6Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、液体投与の開始および終了を示す。
【図22】失血に供され、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタに由来する血清中のいくつかの時点で測定された平均乳酸塩レベル(mmol/L)をプロットしたグラフである。Shk30、Shk60、Shk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、液体投与の始点および終点を示す。
【図23】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおける多数の時点における塩基欠乏/過剰値(mmol/L)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図24】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタに由来する血清中のいくつかの時点で測定されたpH値をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図25】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおけるいくつかの時点で測定された末梢組織灌流(StO2;%)をプロットしたグラフである。End Sx=ショック前の動物の安定化;開始=出血性ショックプロトコルの開始;注入=虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始;ショック30=ショックから30分後;ショック終了=収縮期圧が約50mmHgであった時点。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始および終了を示す。
【図26】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液を投与されたブタにおけるいくつかの時点における酸素送達量(毎分mL O2)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図27】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタから除去された血液、および投与された液体の全容量をプロットしたグラフである。
【図28】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液を投与されたブタに多数の時点で投与された全液体(cc/kg)をプロットしたグラフである。OR液-手術室液;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図29】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおけるいくつかの時点における心拍出量(L/分)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。
【図30】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおけるいくつかの時点における心拍数(拍動数/分)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;ボーラス=ボーラス用量が投与された時点;Shk30=ショックから30分後;蘇生=蘇生;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始および終了を示す。
【図31】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおける多数の時点における収縮期血圧(mmHg)をプロットしたグラフである。End Sx=ショック前の動物の安定化;開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;ボーラス=ボーラス用量が投与された時点;ショック30=ショックから30分後;ショック終了=ショックが終了した時点;1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始時および終了時を示す。
【図32】出血性ショックを受け、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置されたブタにおける多数の時点で測定された尿量(cc/kg/時)をプロットしたグラフである。開始=出血性ショックプロトコルが開始された時点;Shk30、Shk60、およびShk90=それぞれ、ショックから30分後、60分後、および90分後。1Hr、2Hr、3Hr、4Hr、5Hr、6Hr、7Hr、および8Hr=それぞれ、蘇生から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、および8時間後。左および右の垂線は、それぞれ、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入の開始時および終了時を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、虚血傷害および/または再灌流損傷から個体を保護するために個体に投与され得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作もしくは心肺停止を起こしているか、もしくは起こした個体、または手術のような手技を受ける直前であるか、もしくは受けている個体に投与され得る。さらに、1種または複数種のケトン体およびメラトニンは、摘出前に組織または器官を完全に灌流するために、摘出前の臓器提供者に投与され得る。
【0021】
虚血/再灌流保護組成物
本開示は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを含む組成物を提供する。これらの組成物は、重度の外傷から組織、器官を保護し、従って個体を保護することができる有用な虚血/再灌流保護液体である。本明細書に開示された組成物は、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを含むことができ、例えば、治療的化合物のようなその他の成分(そのいくつかは以下に記載される)を含むことができる。本明細書に開示された組成物は、1種または複数種のケトン体およびメラトニン「から本質的になる」ことができ、即ち、そのような組成物は、主に1種または複数種のケトン体およびメラトニンであるが、組成物の虚血/再灌流保護特徴を実質的にまたは物質的に減じない組成物中に存在するその他の成分を含有していてもよい。
【0022】
本明細書において使用されるように「ケトン体」とは、ベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテート(またはベータ-ヒドロキシブチレートもしくはアセトアセテートの生理学的に許容される塩)をさす。ケトン体は、脂肪酸の分解により生成する天然生成物であり、エネルギー源として組織により使用される。アセトアセテートは、アセチルCoAから形成され、ベータ-ヒドロキシブチレートは、アセトアセテートの可逆性の還元により形成される。生理学的に、ヒドロキシブチレートとアセトアセテートとの比率は、細胞内のNADH/NAD+比に依る。虚血/再灌流保護に関して本明細書において使用されるように、「ケトン体」とは、ベータ-ヒドロキシ酪酸もしくは薬学的に許容されるその塩、またはアセト酢酸もしくは薬学的に許容されるその塩、またはそれらの任意の組み合わせをさす。「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的適用における利用可能性を与える範囲内の毒性特性を保有する塩をさす。他に明白に示されない限り、これが明示されているか否かに関わらず、本明細書におけるベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテートとの言及は、塩型の化合物を包含しているものと理解されるべきである。
【0023】
適当な薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸または有機酸から調製され得る。無機酸の例には、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、およびリン酸が含まれる。適切な有機酸は、有機酸の脂肪族クラス、脂環式クラス、芳香族クラス、芳香脂肪族クラス、複素環式クラス、カルボン酸クラス、およびスルホン酸クラスより選択され得、それらの例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2ヒドロキシエタンスルホン酸、pトルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、βヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、およびガラクツロン酸が含まれる。
【0024】
適当な薬学的に許容される塩基付加塩には、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、および亜鉛塩のような、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、および遷移金属塩を含む金属塩が、例えば含まれる。薬学的に許容される塩基付加塩には、例えば、N,N'ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(Nメチルグルカミン)、およびプロカインのような塩基性アミンから作成された有機塩も含まれる。
【0025】
これらの塩は、全て、ベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテートから、従来の手段により、例えば、適切な酸または塩基をベータ-ヒドロキシブチレートまたはアセトアセテートと反応させることにより、調製され得る。好ましくは、塩は、結晶状態にあり、好ましくは適当な溶媒からの塩の結晶化により調製される。当業者は、例えば、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use By P. H. Stahl and C. G. Wermuth(Wiley-VCH 2002)に記載されるような、適当な塩型を調製し選択する方法を承知しているであろう。
【0026】
酸が使用される場合より、組成物が生理学的に許容されるpHに近くなるため、ベータ-ヒドロキシ酪酸および/またはアセト酢酸の塩は、虚血/再灌流保護組成物において一般に好ましい。虚血/再灌流保護組成物において使用するためのベータ-ヒドロキシ酪酸の適当な塩は、D-ベータ-ヒドロキシブチレートのナトリウム塩(即ち、Na-D-ベータヒドロキシブチレート)である。D-ベータ-ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸(または薬学的に許容されるそれらの塩)は、例えば、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO)のような多数の会社から市販されている。「R」立体異性体と呼ばれることもあるベータ-ヒドロキシブチレートの「D」立体異性体が、「L」立体異性体とは対照的に、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物において好ましいことに注意されたい。
【0027】
メラトニン(5-メトキシ-N-アセチルトリプタミン)は、セロトニンからの合成を介してアミノ酸トリプトファンから天然に合成されるホルモンであり、概日リズム(睡眠覚醒パターン)への関与に関して周知である。メラトニンは、広域抗酸化剤として作用し、受容体非依存性のフリーラジカル除去活性を示す。メラトニンのフリーラジカル除去能力は、その二次、三次、および四次の代謝物にまで及ぶため、メラトニンと活性酸素種および活性窒素種との相互作用は、代謝物の多くが関与している、延長されたカスケード型の過程である。従って、メラトニンの代謝物、直前の前駆体、またはアナログ(またはそれらの組み合わせ)が、本明細書に記載されるような虚血/再灌流保護組成物において使用され得る。メラトニンの代表的な代謝物には、例えば、6-ヒドロキシ-メラトニン(6-HMEL)、6-スルファトキシ(sulphatoxy)-メラトニン(aMT6s)、N1-アセチル-N2-ホルミル-5-メトキシキヌラミン(AFMK)、N1-アセチル-5-メトキシキヌラミン(AMK)、および3-ヒドロキシメラトニン(3-HMEL)が含まれ;メラトニンの代表的な直前の前駆体には、例えば、N-アセチルセロトニン、5-ヒドロキシトリプタミン、5-ヒドロキシトリプトファン、またはL-トリプトファンが例えば含まれ;メラトニンの代表的なアナログには、例えば、2-クロロメラトニン、6-フルオロメラトニン、6-クロロメラトニン、6-ヒドロキシメラトニン、N-イソブタノイル5-メトキシトリプタミン、N-バレロイル5-メトキシトリプタミン、6-メトキシメラトニン、5-メチルN-アセチルトリプタミン、5-ベンゾイルN-アセチルトリプタミン、O-アセチル5-メトキシトリプタミン、N-アセチルトリプタミン、N-アセチル5-ヒドロキシトリプタミン、および5-メトキシトリプタミンが含まれる。特定の機序に拘束はされないが、メラトニン、メラトニンの代謝物、前駆体、またはアナログ、または機能的に類似した低分子は、受容体により媒介される経路を介して(例えば、メラトニン受容体1A(MTNR1A)またはメラトニン受容体1B(MTNR1B)を介して)、それらの効果を発揮し、それにより、本明細書に報告された虚血/再灌流保護に寄与するのかもしれない。本明細書に示されるように、本明細書におけるメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの言及は、特記されない限り、塩型を包含するものと理解されるべきである。
【0028】
メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログに加えて、またはそれらの代わりに、虚血/再灌流保護組成物は、一つまたは複数の他の抗酸化剤を含んでいてもよい。代表的な抗酸化剤には、非制限的に、リスベラトロール、ビタミンA、アスコルビン酸(ビタミンC)、アルファ-トコフェロール(ビタミンE)、グルタチオン、ベータ-カロテン、リコピン、および/または4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPOL(商標))が含まれる。さらに、メラトニンはトリプトファン由来の抗酸化剤であるため、抗酸化活性を有するその他のアミノ酸の誘導体(例えば、システイン、例えば、(R)-2-アセトアミド-3-メルカプトプロパン酸(N-アセチル-システイン)または合成システイン誘導体、2-[(2-メチル-2-スルファニルプロパノイル)アミノ]-3-スルファニルプロパン酸(ブシラミン))も、虚血/再灌流保護組成物において使用するために適当であり得る。
【0029】
本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物は、例えば、使用の準備ができている液体として、または使用前に溶解もしくは再懸濁を必要とする乾燥粉末として製剤化され得る。乾燥粉末として製剤化される場合、虚血/再灌流保護組成物は、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ1モルにつき1モル未満から1×107モル以上までの任意の量のケトン体を有し得る(例えば、(0.67〜10,000,000):1)。約100対約1というケトン体とメラトニンとの比率が、本明細書に例示されたが、虚血/再灌流保護組成物は、より多いか、もしくはより少ないケトン体、またはより多いか、もしくはより少ないメラトニン(または代謝物、前駆体、もしくはアナログ)を含有していてもよい。虚血/再灌流保護組成物中のケトン体と、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの代表的なモル比には、例えば、約
という比率が含まれる。当業者は、これらの比率が例示的なものに過ぎないことを理解するであろう。
【0030】
液体として製剤化される場合、組成物は、約0.1M〜約8Mのケトン体(例えば、約0.4M〜0.5M、0.4M〜0.6M、0.4M〜0.8M、0.6M〜0.8M、0.5M〜0.9M、0.5M〜1M、0.8M〜1.3M、1M〜2M、0.5M〜8M、1M〜8M、2M〜8M、3M〜8M、0.1M〜7.5M、0.1M〜7M、0.1M〜6M、0.1M〜5M、0.5M〜7.5M、1M〜7M、2M〜6M、3M〜5M、3.5M〜4.5M、または約3M、4M、または5Mのケトン体)および約4nM〜約150mMのメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ(例えば、約4nM〜50nM、4nM〜100nM、4nM〜200nM、4nM〜0.4μM、50nM〜100nM、100nM〜0.4μM、0.4μM〜8μM、0.4μM〜40μM、0.4μM〜100μM、0.4μM〜500μM、0.4μM〜1mM、0.4μM〜50mM、4μM〜50μM、4μM〜200μM、4μM〜500μM、4μM〜1mM、4μM〜50mM、4μM〜100mM、8μM〜50μM、8μM〜250μM、20μM〜2mM、200μM〜500μM、500μM〜2mM、2mM〜4mM、2mM〜50mM、4mM〜6mM、4mM〜7mM、4mM〜9mM、4mM〜125mM、4mM〜100mM、4mM〜75mM、4mM〜50mM、5mM〜10mM、5mM〜11mM、6mM〜9mM、8mM〜15mM、10mM〜25mM、10mM〜150mM、20mM〜150mM、25mM〜150mM、30mM〜150mM、35mM〜150mM、40mM〜150mM、10mM〜130mM、12.5mM〜120mM、15mM〜110mM、20mM〜100mM、25mM〜80mM、30mM〜50mM、40mM〜45mM、0.5μM〜125mM、1μM〜100mM、150μM〜150mM、200μM〜2mM、500μM〜100mM、800μM〜150mM、または750μM〜125mMのメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ)であり得る。ケトン体およびメラトニンの毒性は低いため、各成分の濃度は比較的高くなり得るが、沈殿が起こらないよう、各成分の濃度は溶媒の飽和点未満でなければならない。虚血/再灌流保護組成物中の各成分の最終濃度は、血中の各成分の所望の濃度および投与される容量を含むいくつかの要因に依るであろう。
【0031】
多数の溶媒が、液状虚血/再灌流保護組成物において、または虚血/再灌流保護組成物の乾燥粉末状製剤を溶解もしくは再懸濁させるために使用され得る。ケトン体は易水溶性であるため、無菌蒸留水が第一の溶媒として使用され得る。メラトニンはより疎水性であるため、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはもう一つの無極性溶媒のような可溶化剤(例えば、最終容量の50%未満、40%未満、30%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、15%未満、10%未満、8%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満)が、メラトニンを溶解させるために使用され得る。可溶化剤として働くのみならず、DMSOは、ヒドロキシルラジカルスカベンジャーとしても作用し得る(Paller et al., 1985,J. Lab. Clin. Med., 105(4):459-63)。エタノール(EtOH)も、メラトニンのための可溶化剤として使用され得るが、より高い濃度を必要とし、従って、ある種の状況においては比較的望ましくないかもしれないが、それでも有用であり得る。使用され得る付加的な溶媒には、例えば、メチルスルホニルメタン(MSMまたはジメチルスルホン)およびジメチルホルムアミド(DMF)が含まれる。
【0032】
液体として一定期間保存される虚血/再灌流保護組成物は、活性成分の分解を防止し、液状組成物の貯蔵寿命を延長するため、有機糖、糖アルコール、または糖類、アミノ酸、および低分子量ポリペプチドまたはタンパク質(例えば、血清アルブミンもしくは免疫グロブリン)のような1種または複数種の安定剤を含んでいてもよい。例えば、CAPTISOL(登録商標)(Cydex, Inc., Lenexa, KS)は、薬学的組成物の溶解度、安定性、および生物学的利用能を改善するために使用され得る代表的な化合物(即ち、修飾シクロデキストリン)である。さらに、経口投与を可能にするか、またはケトン体および/もしくはメラトニン(もしくはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ)の薬物動態学的特性もしくは薬力学的特性を改善する、短い両親媒性オリゴマーのようなオリゴマーに、ケトン体またはメラトニン(またはメラトニン代謝物、前駆体、もしくはアナログ)の一方または両方を共有結合的に付着させることもできる。オリゴマーには、水溶性ポリエチレングリコール(PEG)および/または脂溶性アルキル(短鎖脂肪酸重合体)が含まれ得る。例えば、WO2004/047871を参照のこと。
【0033】
一般に、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物は、無機陰イオンを実質的に含まない。無機陰イオンには、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、亜硝酸、硝酸、オルトリン酸、および硫酸が含まれる。典型的に、「を実質的に含まない」とは、約10mM未満(例えば、約5mM未満、1mM未満、0.5mM未満、0.1mM未満、0.05mM未満、0.01mM未満、または0.001mM未満)である無機陰イオンの量をさす。
【0034】
酸が使用されるか、または塩が使用されるかに依って、必要に応じて、液状組成物のpHは、使用前に調整を必要とするかもしれない。その場合、適切な酸(例えば、HCl)または塩(例えば、NaOH)が、pHを生理学的に許容される範囲(例えば、約7.2〜約7.6のpH;例えば、約7.4のpH)に調整するために使用され得る。これらの場合、許容されるpHに達するために添加される酸または塩の量は、組成物が依然として無機陰イオンを実質的に含まないと見なされる程、十分に小さいと見なされる。組成物のpHの調整に加えて、またはその代わりに、液状虚血/再灌流保護組成物は、使用前に、例えば、組成物を滅菌するため、かつ/または組成物中の可溶化されていない結晶を除去するため、ろ過されてもよい。
【0035】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログのみを含有している虚血/再灌流保護組成物は良好に機能するが、虚血/再灌流保護組成物は、1種または複数種の治療用化合物も含有し得る。治療用化合物には、以下に限定はされないが、抗生物質または抗菌薬(例えば、セファロスポリン系(例えば、Ceftriaxone)、テトラサイクリン系(例えば、ミノサイクリン)、またはその他のベータラクタム系、特に、神経保護効果を示すもの、およびジアミノ-ジフェニルスルホン(Dapsone)またはD-ペニシラミン)、鎮痛薬、遊離脂肪酸、ホルモン、代謝物、および代謝経路分子が含まれる。さらに、治療用化合物には、非制限的に、1種または複数種の適切な標的に対して差し向けられたポリペプチド、アンチセンス分子、siRNA分子、薬物、および低分子のような、細胞代謝を改変する化合物が含まれる。虚血/再灌流保護組成物は、非制限的に、グルコース、酢酸、またはピルビン酸のような代謝基質として作用し得る1種または複数種の成分も含み得る。
【0036】
虚血/再灌流保護組成物の使用法
ケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、虚血傷害/再灌流損傷を経験中であるか、経験するリスクを有しているか、または経験した組織、器官、または個体を処置するために使用され得る。虚血傷害/再灌流損傷は、多数の異なる外傷に起因し得る。例えば、虚血傷害/再灌流損傷は、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作を起こしたか、もしくは起こすリスクを有する個体、または手術を受ける予定であるか、もしくは受けている個体において起こり得る。
【0037】
虚血損傷は、個体が血液および組織を失い、器官が十分に酸素負荷されない場合に起こり得、再灌流損傷は、その後、血流が再開するか、または個体に血液が輸血され、組織および器官が再び酸素負荷された場合に起こり得る。本明細書において言及されるように、失血は、例えば、大出血事象(例えば、相当量の血液の突然のまたは急激な喪失)により引き起こされ得る。大出血事象には、非制限的に、肢の喪失、長骨骨折、動脈の裂傷、または銃創もしくは砲創が含まれる。大出血事象には、例えば、内出血をもたらし得る鈍傷事象も含まれる。交通事故が、大出血事象の主因である。大出血事象の付加的な原因には、非制限的に、胃腸出血、分娩出血、および婦人科学的出血が含まれる。
【0038】
大出血事象には、出血性ショックも含まれる。急性外傷患者におけるショックの原因には、非制限的に、気道開存性の喪失、減弱した呼吸、誤嚥、および肺損傷のような酸素取り込み障害;血胸もしくは気胸、心タンポナーデ、血液量減少、既存の心虚血、または心損傷のような減少した心拍出量;外因性血管拡張剤(例えば、薬物およびアルコール)、医原性血管拡張剤(例えば、麻酔剤および鎮静剤、閉鎖性頭部損傷、脊髄損傷、アナフィラキシー)のような血管運動緊張度の喪失;貧血または青酸中毒のような減少した酸素運搬能;再灌流損傷、「非再灌流」現象、または細胞代謝の不全(例えば、敗血症)のような微小血管不全が含まれる。
【0039】
本明細書に記載されるような虚血/再灌流保護組成物は、個体が少なくとも約10%(例えば、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、またはそれ以上)の血液量を失った場合に投与され得る。成体における血液の容量は、全体重のおよそ7%〜9%であると考えられていることに注意されたい。約90mmHg以下(例えば、約85mmHg以下、約80mmHg以下、約75mmHg以下、約70mmHg以下、65mmHg以下、約60mmHg以下、約55mmHg以下、または約50mmHg以下)の収縮期血圧、75%未満(例えば、70%未満、65%未満、60%未満、55%未満、または50%未満)のStO2レベル、および6mEq/L超(例えば、6.5mEq/L超または7mEq/L超)の塩基欠乏レベルが、重度の失血の指標である。
【0040】
失血の間、個体の心拍数は増加し得、血圧は減少し得、尿量は減少し得、乳酸塩レベルは増加し得、組織ヘモグロビン酸素飽和(StO2)レベルは減少し得、心拍出量は減少し得、組織pHは減少し得、ミトコンドリア機能は(例えば、NADHレベルにより測定されるように)減少し得る。そのような失血からの個体の回復は、一般に、そのような症状の逆転を示すであろう;心拍数は減少し得、血圧は増加し得、尿量は増加し得、乳酸塩レベルは減少し得、StO2レベルは増加し得、心拍出量は増加し得、組織pHは増加し得、ミトコンドリア機能は増加し得る。一般に、例として、全身的に健康な個体(例えば、出血性ショックに罹患していない者)は、典型的には、100拍動数/分未満の心拍数、100mmHg超の収縮期血圧、30cc/時(または子供の場合、1cc/kg/時)超の尿量、2.1mg/デシリットル(dl)未満の乳酸塩レベル、75%超のStO2レベル、および2.5〜4.5リットル/分/m2(体表面積)の心係数、7.35〜7.45の血液pHを有し、一方で、出血性ショック(例えば、10%以上の失血)に罹患している個体は、100拍動数/分超の心拍数、100mmHg未満の収縮期血圧、300cc/時未満の尿量、2.1mg/dl超の乳酸塩レベル、75%未満のStO2レベル、2.5リットル/分/m2未満の心係数、および7.35未満の血液pHを有し得る。しばしば、生物物理学的パラメーターの変化の重度は、失われた血液の量に直接関係しており、従って、そのような生物物理学的パラメーターは、失血を経験中であるか、またはそのような失血から回復中である個体においてモニタリングされ得る。本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物の投与は、有意に、(類似した量の失血を起こしているが、組成物を投与されていない個体と比較して、本明細書に記載された生物物理学的パラメーターのうちの一つまたは複数により計測されるように)個体の失血に対する応答を抑制し、かつ/または生物物理学的パラメーターが「正常値」(即ち、全身的に健康な個体において観察されるレベル)に戻る速度を増加させることができる。
【0041】
虚血傷害/再灌流損傷は、非制限的に、発作(例えば、閉塞発作)、心停止、心筋梗塞、心臓発作、減少した動脈血流、または腎不全に起因し得る。虚血傷害/再灌流損傷は、血流および/または酸素流が破壊されるかまたは破壊されるかもしれない手術にも起因し得る。神経系手術または心臓手術のようなある種の外科的手技は、虚血傷害/再灌流損傷のより高いリスクを有し、手術中に機械的手段(例えば、人工心肺)を使用したとしても、虚血傷害/再灌流損傷を完全には防止し得ない。本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物は、そのような医学的緊急事態(例えば、重篤な低体温もしくは低酸素)または手技(例えば、手術)の間または後に組織および器官が経験するかもしれない虚血傷害/再灌流損傷を有意に低下させるかまたは防止するために個体に投与され得る。
【0042】
本明細書に記述されるように、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、成分を血流に直接導入するため、可溶化され、静脈投与され得る。しかしながら、その他の投与経路も適当であり、それらには、例えば、骨内投与、腹腔内投与、経口投与、経頬投与、吸入、または(例えば、坐剤を介した)直腸投与が含まれる。虚血/再灌流保護組成物の特定の製剤は、意図された投与経路にとって適切なものであり、投与のための製剤は当技術分野において周知である。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 2005, 21st Ed., Lippincott Williams & Wilkinsを参照のこと。特定の製剤に依って、虚血/再灌流保護組成物は、以下の成分のうちの一つまたは複数を含み得る:水、生理食塩水溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))、固定油、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコール等)、グリセリン、またはその他の合成溶媒のような無菌の希釈剤;パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等のような抗菌剤および抗真菌剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート化剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸のような緩衝剤、ならびに塩化ナトリウムまたはデキストロースのような浸透圧調整剤。
【0043】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含み、液状であるか、ゼラチンカプセルに封入されるか、または錠剤へと圧縮され得る。錠剤、丸剤、カプセル等は、以下の成分のうちのいずれかを含有し得る:微晶質セルロース、トラガント、もしくはゼラチンのような結合剤;デンプンもしくは乳糖のような賦形剤;アルギン酸、Primogel、もしくはコーンスターチのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、フマル酸、もしくはSterotesのような滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素のような流動促進剤;ショ糖もしくはサッカリンのような甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ風味のような風味剤。虚血/再灌流保護組成物の経口製剤は、成分のうちの一つまたは複数の吸収を増加させるための浸透増強剤として作用し得る発泡成分を含むことができる。例えば、発泡錠は、水に添加された時、酸と塩基との間の反応により炭酸ガスを生成させる。酸は、しばしば、クエン酸(水和物または無水物)であるが、酒石酸、フマル酸、アジピン酸、またはリンゴ酸であってもよい。塩基は、重炭酸ナトリウムのような水溶性の炭酸アルカリ金属、または炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸カリウム、重炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、もしくは炭酸グリシンナトリウム(sodium glycine carbonate)のような炭酸アルカリ金属もしくは炭酸アルカリ土類金属であり得る。
【0044】
さらに、虚血/再灌流保護組成物は、(例えばリポソームに)適切に封入され、エアロゾル化または噴霧された形態で送達されてもよい。例えば、米国特許第5,049,388号、第5,141,674号、第7,083,572号、および第7,097,827号を参照のこと。噴霧は、噴霧器のノズルから容易に排出されるサイズにまで粒子を剪断し、それにより、剪断された粒子の吸入、ならびに気道の上皮、肺、および血流への封入された材料のその後の放出が可能になる。ある種の場合、ケトン体と、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの両方が一緒に封入されてもよいし;その他の場合、ケトン体と、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとは別々に封入され、エアロゾル化または噴霧の間に混合されてもよい。直径数ミクロンまでのリポソームは、500nm未満の直径にまで剪断され得、噴霧器およびその他の要因に依って、それにより相当に小さくてもよい。
【0045】
虚血/再灌流保護組成物は、例えば、第一応対者(例えば、軍医、救急救命士(EMT)、またはその他の訓練された医療関係者)により、大出血事象または発作または心肺停止を経験中の個体に、ボーラスとして投与され得る。ボーラス投与の代わりに、またはボーラス投与に加えて、虚血/再灌流保護組成物は、ある期間にわたり点滴または注入として投与されてもよい。例えば、点滴または注入は、外傷の現場で、医療施設への移送の間に、かつ/または個体が医療施設に到着した後、投与され得る。生理学的には、損傷または外傷の直後の期間が重大であり、「死活の一時間」と呼ばれることもあるが、個体への虚血/再灌流保護組成物の投与は、72時間まで、またはそれ以上(例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、90時間まで、またはそれ以上)継続され得る。点滴または注入の代わりに、虚血/再灌流保護組成物のボーラスが、例えば、24時間、48時間、または72時間にわたり複数回投与されてもよい。
【0046】
一般に、大出血事象を経験した個体は、医療施設に到着次第、輸血を受容するであろう。それは、状況に依って、損傷後の数分のみを要するかもしれないし、または数時間もしくはそれ以上を要するかもしれない。いくつかの場合、虚血/再灌流保護組成物は、可能性のある虚血損傷または再灌流損傷が認識されるや否や、個体に投与され得、それは、輸血が既に開始された後であってもよい。虚血/再灌流保護組成物は、輸血または血漿交換と同時に投与されてもよいし、いくつかの場合、虚血/再灌流保護組成物は、血液または血漿と直接組み合わせられ、個体に投与されてもよいことを、当業者は了解するであろう。
【0047】
例えば、約4Mのケトン体および約43mMのメラトニンの濃度、個体の体重1キログラム(kg)当たり約0.3〜約2ミリリットル(ml;例えば、約0.3〜0.4ml、0.3〜0.7ml、0.5〜1.5ml、0.5〜1.0ml、0.6〜0.7ml、0.75〜2ml、1.0〜2.0ml、1.5〜2.0ml、または約0.5ml、0.1ml、もしくは1.5ml)の容量の使用が、重篤な失血による虚血傷害/再灌流損傷から個体を保護するのに有効である。この小さな容量は、野外における救急医療のため、または物資もしくは空間が制限されているかもしれないその他の状況の下で有意に有益である。しかしながら、病院または外傷センターのようなその他の状況の下では、より大きな容量の虚血/再灌流保護組成物(例えば、1kg当たり100ml以上)が、個体に投与されてもよく、各成分の濃度が適切に調整されてもよい。
【0048】
ケトン体は、投与後のある時点で約3mM〜約12または15mM(例えば、約3mM〜10mM、3mM〜7.5mM、3mM〜5mM、3.5mM〜10mM、4mM〜10mM、6mM〜10mM、または約4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、もしくは9mM)という血中濃度を達成するのに十分な量で個体に投与され、かつメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、投与後のある時点で約30μM〜約150μM(例えば、約30μM〜125μM、30μM〜100μM、30μM〜80μM、30μM〜60μM、30μM〜50μM、30μM〜40μM、35μM〜150μM、40μM〜150μM、50μM〜150μM、60μM〜150μM、70μM〜150μM、80μM〜150μM、100μM〜150μM、35μM〜125μM、40μM〜100μM、50μM〜75μM、または45μM〜65μM)という血中濃度を達成するのに十分な量で投与されることが、必要ではないが、一般に、望ましい。いくつかの場合、はるかに少量(例えば、約1×10-10mol/L、2×10-10mol/L、3×10-10mol/L、4×10-10mol/L、5×10-10mol/L、6×10-10mol/L、または7×10-10mol/Lという血中濃度を達成するのに十分な量)のメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログを個体に投与することが望ましい。医療実務者は、例えば、後続の投与を利用することにより、または連続注入もしくはその他の方法の使用を通して、標的濃度を維持するべきか否か、そしてどの程度長く維持するべきかを症例毎に評価することができる。血中のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログのレベルは、当技術分野においてルーチンの方法を使用して決定され得る。
【0049】
虚血傷害/再灌流損傷は、移植が企図されている器官において起こり得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、器官摘出前の臓器提供者に投与され得る。臓器提供者は、遷延性植物状態あるかもしれないし、または生存しており、健康であり、レシピエントにとって適当な適合者であるかもしれない。臓器提供者は、器官を完全に灌流し、それによりその後の輸送およびレシピエントへの移植の間の組織または器官の虚血傷害を防止するかまたは低下させるために、器官摘出前に、ケトン体およびメラトニンまたはメラトニン代謝物、前駆体、もしくはアナログを静脈投与され得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、上記のような血中濃度(例えば、3〜15Mのケトン体および30〜150μMのメラトニン)を達成するために臓器提供者に投与されてもよいし、またはさらに高い濃度を達成するために投与されてもよい。個体への虚血/再灌流保護組成物の投与に加え、またはその代わりに、(例えば、輸送の間に)一つまたは複数の摘出された器官を、例えば、虚血/再灌流保護組成物で灌流するか、または虚血/再灌流保護組成物に浸漬することができる。
【0050】
1種または複数種のケトン体とメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの組み合わせは、虚血傷害および/または再灌流損傷からの個体の保護において高度に有効であり得る。例えば、1種または複数種のケトン体およびメラトニン、メラトニン代謝物、前駆体、もしくはアナログは、失血を経験した個体、発作もしくは心肺停止を起こした個体、手術のような手技を受ける直前であるか、もしくは受けている個体、または臓器提供者である個体に投与され得る。1種または複数種のケトン体とメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログとの組み合わせは、一つまたは複数の指または肢全体を失った個体を保護することもできる。
【0051】
製品
本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物またはその中の成分は、製品に含まれ得る。1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログを含む製品は、多数の配置を採り得るが、そのうちの少数のみが本明細書に記述される。以下の製品の代表例は、限定するためのものではない。
【0052】
製品の一つの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの液状製剤は、IVバッグで提供される。例えば、米国特許第5,098,409号;第5,257,985号;および第5,853,388号を参照のこと。IVバッグで提供される虚血/再灌流保護組成物は、無菌で、使用の準備ができている状態で提供され得、適切な有効期限がバッグ上に示される。または、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの乾燥粉末状組成物が、適切な溶媒による溶解または再懸濁の準備ができているIVバッグで提供され得る。
【0053】
もう一つの態様において、製品は、少なくとも第1および第2の容器を有することができ、第3および第4の容器を有する場合もある。配置に依って、第1の容器がケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの両方を含有し、第2の容器が溶媒を含有していてもよい。別の配置において、ケトン体が第1の容器に含有され、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログが第2の容器に含有され、一方で、第3の容器が、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログのための可溶化剤を含有し、第4の容器がケトン体を溶解または再懸濁させるのための溶媒(例えば、水性溶媒)を含有していてもよい。複数個の容器を有する製品のある種の態様において、液体部分は、成分または組成物部分と制御可能に接触させられ得る。「制御可能に接触させられる」とは、そのような調節された接触を容易にする製品の構造的特色を介して、液状部分が乾燥粉末状部分といつ組み合わせられるかを使用者が能動的に決定し得ることをさす。そのような構造的特色には、例えば、破壊可能または破砕可能な封または仕切りが含まれ得る。
【0054】
もう一つの態様において、1種または複数種のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログは、注射外筒内に提供され得る。注射外筒内の虚血/再灌流保護組成物は、既に再懸濁した状態で提供されてもよいし、使用前に再懸濁させるための乾燥粉末形態で提供されてもよいし、または乾燥粉末もしくはその成分を再懸濁させるための溶媒も含有している注射外筒と共に乾燥粉末形態で提供されてもよい。虚血/再灌流保護組成物を分配するための製品は、(例えば、個体の体重または近似の体重に基づく)所望の用量の保護組成物の投与を可能にする自動装置であり得る。
【0055】
ある種の場合、1種または複数種のケトン体を含有している溶液、およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログを含有している溶液は、個体が単一組成物で両方の成分を受容するよう、投与前に混合され得る。その他の場合において、1種または複数種のケトン体が個体に投与され、その後、またはその前に、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの(別の)投与が行われてもよい。メラトニンおよびケトン体は異なる半減期を有するかもしれないため、いくつかの態様において、二つの成分がまず単一組成物で一緒に投与され、その後、一方の成分(例えば、メラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログ)の投与が、他方の成分(例えば、ケトン体)の投与より高頻度に行われてもよい。
【0056】
製品は、一般に、ケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログに加えて、包装材料を含む。包装材料は、失血を経験中であるか、もしくは経験した個体、発作もしくは心肺停止を起こしたか、もしくは発作もしくは心肺停止を起こすリスクを有する個体、手術を受ける直前であるか、もしくは受けている個体、または器官もしくは組織を提供する直前の個体を処置するための指示を有する表示または添付文書を含み得る。
【0057】
投与の容易さおよび用量の均一性のため、単位剤形で虚血/再灌流保護組成物を製剤化することは有利である。本明細書において使用されるように、単位剤形とは、所望の治療効果を与えるために予定された量の虚血/再灌流保護組成物を各々含有している、個体に投与される単一の投薬量として適合した物理的に不連続の単位をさす。本発明の組成物の単位剤形は、一般に、例えば、個体の血中のケトン体およびメラトニンまたはメラトニンの代謝物、前駆体、もしくはアナログの所望の濃度、ならびに個体の体重に依存する。
【0058】
本発明により、当技術分野の技術の範囲内の従来の微生物学、生化学的技術、および生理学的技術が利用され得る。そのような技術は、文献に完全に説明されている。本発明は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するものではない以下の実施例においてさらに説明される。
【0059】
実施例
実施例1−冬眠中のリスおよび活動中のリスの脳および心臓におけるグルコースおよびD-ベータ-ヒドロキシブチレートの代謝
目的
[2,4-13C2]-BHB(図2)を注入し、続いて、脳内の13Cで標識されたBHBおよび代謝物を検出することにより、活動中のリスおよび冬眠中のリスの脳内のD-β-ヒドロキシブチレート(BHB)の輸送および代謝を測定した。
【0060】
これらの実験の全体的な戦略は、注入された13C-BHBから、13C-BHBの脳内プール、ならびにグルタミン酸、グルタミン、およびアスパラギン酸のようなトリカルボン酸(TCA)サイクル由来の代謝物への同位体の取り込みを測定することであった。同一の実験を、[1-13C2]-グルコース(図1)を使用して平行に実施した。BHBの血液-脳輸送の定量的決定および(グルコース消費に対して相対的な)消費の速度を、正常体温の非冬眠中のリスおよび4〜6℃の冬眠中のリスにおいて決定した。
【0061】
動物
リスに麻酔(イソフルラン)をかけた後、磁気共鳴(MR)機器の磁石内に置き、13C-BHBまたは[1-13C2]-グルコースを注射した。
【0062】
組織抽出物中の脳代謝物の分析
13C実験の完了時、動物を、完全に麻酔をかけたまま、液体窒素による脳のファネルフリージング(funnel freezing)を使用して屠殺した。凍結脳を-25℃で頭蓋から切り出し、乳鉢を使用して液体窒素下で粉砕した。過塩素酸脳抽出物を、University of Minnesotaで、14 Tesla(600MHz)で高分解能NMRを使用して分析した。
【0063】
結果および解釈
冬眠中のリスにおける標識速度は極めて遅く、およそ12〜16℃の最低体温を必要とすることが認められた。
【0064】
ケトン体が冬眠の間に優先的に利用されるという仮説を検証するために、1mlの1M 13C標識ラセミ純粋D-ベータ-ヒドロキシブチレート(13C-D-BHB)または1mlの1M 13Cグルコースのいずれかを注入された冬眠中のリスに由来する脳抽出物に対して高磁場NMRを実施した。図3は、脳へのグルコース取り込みの相対レベルを示している。結果は、D-ベータ-ヒドロキシブチレートがグルコースより良好な基質であり、有意な量の乳酸塩の生成をもたらさないことを証明した。
【0065】
図4は、13C-D-BHBおよび13C-グルコースは冬眠中の心臓に効率的に輸送されたが、各燃料源が利用され、代謝物に組み入れられる効率には差があったことを示している。BHBを注射された動物においては、TCAサイクル由来の代謝中間体が、低い体温(Tb)で産生された。図4Aは、心臓中のグルタミン酸(炭素#4で標識;グルタミン酸C4)のレベルが極めて高く、グルタミン酸基質の利用ならびにグルタミン酸およびグルタミンC3およびC2の産生を示す多くの多重線を有していたことを示している。
【0066】
グルコースを投与された動物において、13Cグルコースの過半数が心臓に進入したが、D-BHBと同じ高いレベルでは代謝されなかった(図4B)。グルタミン酸C4およびその他のようなTCAサイクル中間体のレベルは、容易には観察されず、リスが屠殺時に35.3℃という正常体温Tbを有していた場合ですら、形成された量は小さく、多重線を有していなかった(図4B)。標識グルコースの注射後に見られた最も劇的な結果は、乳酸塩の極めて大きなスパイクであった。これらの結果は、グルコースがBHBほど効率的に利用されず、代謝されたグルコースの大部分が、TCAサイクルを進むのではなく、乳酸塩へと変換されたことを示している。
【0067】
実施例2−脳および心臓におけるケトン体トランスポーターおよびケトン体分解酵素の発現
目的
活動中のリスおよび冬眠中のリスおよび正常ラットおよびケトン血症ラットの両方に由来する脳を、免疫細胞化学およびウエスタンブロットにより、モノカルボン酸トランスポーターMCT1およびMCT2、ならびにグルコーストランスポーター1(GLUT1)について分析した。これらの実験は、これらのトランスポーターの位置および発現の変化が、動物(活動中対冬眠中;正常対ケトン血症)の代謝状態の差異と相関するか否かを調査するものであった。
【0068】
ウエスタンブロットによる脳内MCT1およびMCT2の測定
様々な型のMCTが季節および動物の活動状態に基づきディファレンシャルに発現されるか否かを定量化するため、冬眠中の動物および非冬眠中の動物の脳由来のタンパク質を、ウエスタンブロット分析により分析した。活動中のリス(N=5)および冬眠中のリス(N=5)を安楽死させ、それらの脳を迅速に取り出した。脳を大脳および脳幹へとさらに分割し、液体窒素で急速凍結させた。組織ホモジナイゼーションにより脳内膜タンパク質を入手した後、膜ペレットを収集するために遠心分離を行った。
【0069】
MCT1は、内皮細胞膜に見出されることが公知であり、高脂肪食によるケトン血症を経験中の動物において、より高度に発現される。MCT1は、脈絡叢上皮および神経膠限界膜にも顕著である。MCT2は、アストロサイトの足突起およびその他の膠細胞に豊富に存在する膜トランスポーターとして最初に記載され、最近の証拠は、MCT2がニューロンにおいても有意に発現され得ることを示唆している。
【0070】
ラットMCT1と同一サイズのリス由来タンパク質と交差反応することが示されているラットMCT1のカルボキシル末端に対して産生されたニワトリポリクローナル抗血清を、リスにおけるMCT1の量の変化を測定するために使用した。同様に、ラットMCT2と同一サイズのリス由来タンパク質と交差反応することが示されているラットMCT2のカルボキシル末端に対して産生されたウサギポリクローナル抗血清を、リスにおけるMCT2の量の変化を測定するために使用した。
【0071】
MCT1、MCT2、およびGLUT1の細胞位置を決定するための免疫細胞化学
5%ハロセンによりラットおよびリスに麻酔をかけた後、ホルムアルデヒド酢酸固定液(4%ホルムアルデヒド、2%酢酸)により心臓穿刺灌流を行った。灌流時間は12分であり、組織を固定液中に4℃で一夜保存した後、加工した。組織切片を、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)および1.5%正常ヤギ血清を含有しているリン酸緩衝生理食塩水(PBS)によりブロッキングした。一次抗体を0.1%BSAで1200倍希釈し、室温で1時間、切片に適用した。次いで、切片を、ビオチン化ヤギ抗マウスIgG(ブロッキング溶液中5μg/ml)と共に30分、アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABC)試薬(いずれの試薬もVector Laboratories, Burlingame, CA)と共に30分インキュベートした。発色は、0.6g/ml 3,3'-ジアミノベンジジン(Sigma)で1〜6分であった。
【0072】
上記のウエスタンブロットをプローブするために使用されたのと同一の抗体調製物(MCT1およびMCT2)を、脳内の細胞位置を決定するために使用した。特に興味深かったのは、活動中のリスおよび冬眠中のリスにおける相対量および分布であった。活動中のリスおよび冬眠中のリスの脳の大脳皮質、海馬、および小脳において、MCT1、MCT2、およびGLUT1の位置を調査した。これらのMCTアイソフォームおよびGLUT1が内皮細胞、アストロサイト、および/またはニューロンにおいて優先的に発現されるか否かを同定するために、これらの実験は、これらの脳領域に焦点をおいた。海馬は低酸素に対して特に感受性であることが公知である。光学顕微鏡検は、Gerhartら(1997, Am. J. Physiol., 273:E207-213)に従って実施された。
【0073】
結果および解釈
図5は、ラットおよびリスの脳におけるMCT1およびグルコーストランスポーター(GLUT1)の免疫細胞化学の結果を示す。図6は、免疫細胞化学に基づくリス脳内のMCT1発現の季節変動を示し、冬眠中の血液脳関門におけるMCT1の上昇したレベルを示している。図7は、MCT1の光学密度に基づく、冬眠中の動物の血管におけるMCT1の上昇したレベルを示している。図8は、活動中のリスおよび冬眠中のリスの心臓からの二次元ゲルを示す。2Dタンパク質ゲルは、ケトン体代謝の律速段階であるスクシニルCoAトランスフェラーゼ(SCOT)が、冬眠中の動物において6倍増加していることを示している。これらの結果に基づき、ケトントランスポーターMCT1のレベルは、冬眠中の脳において増加し、SCOTについても、冬眠動物の心臓において類似した増加が見られる。
【0074】
実施例3−有意な失血からの小型哺乳動物の保護
目的
ケトン体を注入されたラットを、少なくとも1時間60%失血に供した後、摘除された血液を戻した。神経保護の終点測定は、皮質、海馬、および小脳におけるニューロンの生存およびアポトーシスの定量分析、ならびに神経学的機能試験スコアであった。目的は、虚血からの脳の保護および血液返戻後の再灌流損傷からの保護の提供における、メラトニンと組み合わせられたD形ベータ-ヒドロキシブチレート(D-BHB)の有効性を決定することであった。
【0075】
以下の実験の目標は、生存性を維持するための最少量の液体を使用して、少なくとも3時間、60%失血を維持することであった。60パーセント失血は、以下の方程式を使用することにより計算された:全血液量=動物の体重×0.06。動物の体重1キログラム当たり1mlの虚血/再灌流保護組成物のボーラス容量を、およそ40%の失血の後に動物に与えた。単一の1ml/kgボーラスのみを受容した動物もいたし、ボーラスが与えられた後、溶液の点滴静注を模倣するための低速の注入(100μl/hr)を受容した動物もいた。
【0076】
動物
雄スプラーグドーリーラット(280〜350g)を、Harland Teklad(Madison, WI)より入手し、外科的準備の前に少なくとも7日間順化させた。実験日まで、全ての動物に標準的な実験用飼料を与え、水を自由に提供した。動物の管理および取り扱いは、University of MinnesotaのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された。
【0077】
外科的準備
呼吸等級空気中のイソフルランにより動物に簡単に麻酔をかけた後、麻酔のためケタミン/キシラジン混合物(100/20mg/kg)を筋肉注射した。左大腿動脈を無菌的に単離し、ヘパリン処理された生理食塩水(10単位/ml)を含有しているポリエチレン(PE-50)管(0.023ID、0.038OD)カニューレを挿入した。平均動脈血圧(MABP)および心拍数(HR)の連続モニタリングのため、カテーテルを圧変換器に付着させた(Powerlab, AD Intruments, Hastings, UK)。採血および試料採取を容易にするために、右大腿動脈にも同様にカニューレを挿入した。
【0078】
ラットに完全に麻酔をかけ、20分間安定化させた後、失血を開始した。およそ40%の失血の時点で、体重1kg当たり1mlの4M D-BHBまたは4M NaClを、カニューレを挿入された左大腿静脈へ注入した。ボーラス注入の後、4M D-BHBまたは4M NaClを、100μl/hrの速度で動物に徐々に注入した。温度を直腸プローブによりモニタリングした。実験全体を通して、動物はケタミン/キシラジン混合物を使用して麻酔下に維持された。実験は、MABP、HR、および温度をモニタリングしながら、20分の安定化期間の後に行われた。血圧、呼吸、および前胸部運動が停止した時、動物死を記録した(タイムラインについては図9を参照のこと)。ラットは、摘除された血液が戻されてから3日後に屠殺された。
【0079】
溶液
4M D-BHB:0.5gのD-ベータ-ヒドロキシブチレートを1mlの蒸留水に添加した。この溶液を、0.2ミクロンのフィルター(Acrodisc Syringe Filter, PALL)に通すことにより濾過滅菌した。
【0080】
4M NaCl:0.233gの塩化ナトリウムを1mlの蒸留水に添加した。この溶液を、0.2ミクロンのフィルター(Acrodisc Syringe Filter, PALL)に通すことにより濾過滅菌した。
【0081】
メラトニン/DMSO:100mgのメラトニンを0.6mlの微量遠心チューブに添加した。DMSO(>99%の純度)を200μlになるまで添加した。溶液をボルテックス処理し、1.5mlの微量遠心チューブに6μlの量で分注した。チューブは使用時まで凍結され(-20℃)、1週間後に廃棄された。
【0082】
注入溶液:6μlのメラトニン/DMSOストックチューブのうちの一つを開け、294μlの4M D-BHBまたはNaClを添加した。混合を確実にするためにチューブを軽くボルテックス処理した。注入溶液は動物への注入の数分前に調製された。残りの溶液は、使用しない場合には廃棄した。
【0083】
血清アッセイ
ある時点(図9を参照のこと)において右大腿動脈を介して採取された血液試料を、5分間3500rpmで遠心分離した。それらの時点で収集された血清を、チューブからピペットに取り、20マイクロリットルの容量で分注した。これらの血清アリコートを、永久保管のため-80℃で凍結させた。β-ヒドロキシブチレートおよびグルコースのレベルを、Liquicolorテストキット(Stanbio Laboratories)を使用して、分光測光(Multiskan)により血清試料から入手した。ピペッティングの誤差を低下させるため、トリプリケートで試料を実行した。
【0084】
出血性ショックに起因する虚血により誘導される組織傷害の分析
経心灌流により固定されたラット脳を、パラフィン包埋し、前海馬領域からの10μm厚さの冠状脳切片を、ポリ-L-リジンによりコーティングされたガラススライドに載せた。傷害組織の区域を測定し、選択された顕微鏡視野において、特定の脳領域における生存ニューロンおよびアポトーシスニューロンを定量化するために、3種の組織学的技術を使用した。
【0085】
Nissl(クレシルバイオレット)により染色された切片、ならびにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)により染色された切片を、脳組織切片の虚血傷害区域と非傷害区域とを区別するために調製した。海馬のCA1、CA2、CA3領域、および歯状回におけるニューロン損傷を、細胞数により定量的に査定した。さらに、大脳皮質および視床の総面積に対して相対的な、これらの脳領域における一般細胞障害性傷害の面積を、各脳から採取された三つの切片(前頂部から3.7mm、4.0mm、および4.3mm)において測定した。ディジタル顕微鏡検を使用して傷害区域の顕微鏡写真を入手し、傷害脳区域および正常脳区域を同定するため画像分析ソフトウェアプログラム(例えば、NIH Image)を使用して、定量化を達成した。結果を統計的に評価するためにスチューデントt検定を使用した。
【0086】
ニューロン細胞死を定量化するために、インサイチュー細胞死検出キット(Boehringer Mannheim, Mannheim, Germany)による末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介ビオチン化UTPニックエンド標識(TUNEL)染色のため、脳切片を加工した。NIH Imageを使用して、海馬、歯状回、大脳皮質、および視床における選択された顕微鏡視野において、両側的に、TUNEL陽性ニューロン(即ち、アポトーシスを受けている細胞)を計数した。続いて、生存ニューロンを評価するため、同一の切片を0.5%クレシルバイオレットにより染色した。
【0087】
神経学的欠陥スコア化系
動物の神経学的機能を、神経学的欠陥スコア化系(表1)により血液返戻から1日後および3日後に評価した。
【0088】
(表1)ラット用の神経学的欠陥スコア化系
【0089】
統計分析
統計分析は、p<0.05を統計的に有意であると見なす、両側スチューデントt検定を使用して実施された。パラメトリックデータの多群統計分析のため、一元配置のANOVAを実施した。統計値は平均値±S.D.として表された。
【0090】
結果および解釈
これらの実験は、BHBおよびメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物が、およそ3時間、60%失血を経験中の動物の生存を維持したことを証明し、それは、NaClの効果と比べて有意な改良であった。さらに、BHBおよびメラトニンの虚血/再灌流保護組成物は、ラットにおける神経保護を提供し、摘除された血液が戻された後の改善された予後をもたらした。
【0091】
図9は、ベータ-ヒドロキシブチレートが重度の失血から個体を保護するために使用され得ることを証明するための実験に関するタイムラインである。血液は、低血圧前(A);およそ40%の失血(B);溶液注入後(C);60%失血(D);60%失血から30分後(E);60%失血から60分後(F);60%失血から90分後(G);60%失血から120分後(H);60%失血から150分後(I);および60%失血から180分後(J)に採取された。
【0092】
示された時点で血清を収集し、D-BHBの存在について分析した。1ml/kgのボーラス投与の後(図10)、または1ml/kgのボーラス投与およびそれに続く100μl/hrでのD-BHB注入の後(図11)、血清D-BHBレベルを分析した。
【0093】
出血性ショックを経験した動物に対する体温の効果を調査した。出血性ショックを経験し、フィードバック加熱ランプ機序を介して人工的に37℃に維持された動物(図12、左バー)は、外界温度で放置された動物(図12、右バー)より有意に速く死亡した。外界温度で放置された動物は、37℃の体温を有する動物より平均して3倍長く生存した(図12)。外界温度で放置された動物は、27℃未満には冷却されなかったことに注意されたい。
【0094】
出血性ショックを経験した動物の生存に対する様々な組成物の効果を調査した。動物に、4M D-BHBもしくは4M NaClの1ml/kgボーラス、または4M D-BHBもしくは4M NaClの100μlボーラスに続く100μl/hr注入を投与した。60%失血の後、動物を外界温度で放置し、37℃における人工的な維持は行わなかった。1時間の60%失血の後、摘除された血液を戻し、ラットを生存率についてモニタリングした。D-BHBを受容した動物は、同一浸透圧のNaClを受容した動物より長く生存した。重要なこととして、D-BHBのボーラスに続くD-BHBの注入を与えられた動物は、NaClを与えられた動物より有意に長く(p値<0.016)生存した(図13)。
【0095】
43mMメラトニンを4M D-BHBに添加した場合、血液返戻後の生存に対する有意な付加的な利益が見られた(図14および19)。失血の間、動物の心拍数(図15)、平均動脈血圧(MABP;図16)、および体温(図17)をモニタリングした。
【0096】
さらに、術後1〜6日目、ラットに神経学的スコア化を行い;術後7〜10日目、ラットに記憶試験を行い;術後10日目、ラットを屠殺し、脳組織診を実施した。
【0097】
概要
4M D-BHBのケトンに基づく溶液を与えられた動物は、出血性ショック後、4M NaClを与えられた対照動物より長く生存した。さらに、フィードバックランプにより人工的に37℃に維持された動物は、室温で放置された動物より有意に速く死亡した。外界温度で放置された動物は、熱維持された動物より平均して3倍超長く生存した。これは、軽度の低体温が出血性ショックの生存に関して重要であることを示唆し、60%失血時の生存に対する温度の効果を証明している。
【0098】
実施例4−ラットにおける重度の失血に関する付加的な実験
付加的な実験において、20%DMSOを含有している水性溶液中の4M D-BHBおよび43mMメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物を、実施例3に記載されたような出血性ショックのラットモデルにおいて対照溶液と比較した。対照溶液は、20%DMSOと、(1)4M D-BHB、(2)4M NaCl、または(3)4M NaClおよび43mMメラトニンとを含有している水性溶液であった。
【0099】
溶液は、実施例3に記載されたメラトニン/100%DMSOストック溶液を、メラトニン濃度を半分にすることにより希釈し、2倍容量のメラトニンストック溶液を、ラットへの注入のための溶液を調製するために使用した点を除いて、実施例3に記載されたのと同様に調製された。注入のための溶液は(実施例3に記載されたような10%DMSOの代わりに)20%DMSOを含有していた。
【0100】
典型的には、ラットは、出血開始後、約10分で血液の約40%を失った。約40%の失血が達成された後、D-BHB+メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の1mL/kgのボーラス用量をラットに注入した。ボーラス注入を約10分かけて行い、その後、D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の連続注入(100μL/時間)を開始した。さらに約10分間、摘除された血液の総量が全血液の約60%に等しくなるまで、血圧をさらに低下させた。D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の注入(100μL/時間)を、約60%の失血が達成されてから1時間後まで継続した。次いで、摘除された血液の返戻を開始した。研究の終点は、血液返戻後の死、または10日間の観察後の安楽死であった。
【0101】
これらの研究の結果は、60%失血に供されたラットの生存が、4M D-BHB、4M NaCl、または4M NaCl+メラトニンを含有している対照溶液を注入されたラットと比較して、D-BHBおよびメラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物を注入されたラットにおいて劇的に増加したことを示した(図19)。実際、D-BHB+メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物により処置されたラットと、失血に供されなかった偽処置ラットとの間に、有意な差はなかった。血清乳酸塩濃度の処置群間の有意差は、観察されなかった(図20)。
【0102】
実施例5−重度の失血からの大型動物の保護
目的
虚血/再灌流保護組成物の有効性を、出血性ショックの臨床的に関連する大型動物モデルにおいて試験する。大血管損傷および血餅形成をシミュレートするために50mmHgの収縮期血圧を出血終点として使用する、出血性ショックの調節されたモデルが利用される。例えば、Skarda et al., 2006, J. Amer. Coll. Surg., 203(3S):S32-S33を参照のこと。
【0103】
二つの動物群を使用し、実際の生活環境をシミュレートするために処置する。動物は、出血性ショックプロトコルを受け、次いで、野外における第一応対者による初期治療をシミュレートするため、出血から15分後に虚血/再灌流保護組成物または担体溶液のいずれかを静脈内に受容する。処置施設への到着をシミュレートするため、全ての動物が、ショックから1.5時間後に標準的なプロトコルを使用した蘇生を受容する。動物は、8時間、血圧、尿量、およびヘモグロビンの標準的な臨床的終点にまで蘇生され、次いで、分析のため屠殺される。
【0104】
(表2)出血性ショック/蘇生の間に測定される終点
【0105】
実験の第一の終点は、組織灌流の妥当性のパラメーターである。これらには、乳酸塩レベル、塩基欠乏、およびStO2が含まれる。乳酸塩および塩基欠乏は、外傷患者の臨床的蘇生のための認識され広範に使用されている終点であり、一方、組織ヘモグロビンにおける酸素飽和度を測定するパラメーターであるStO2は、外傷モデルにおいて酸素送達量と相関することが示されている。重傷外傷患者の最近の観測的試験において、StO2は、乳酸塩および塩基欠乏と同様に死亡率も予測した。その他のパラメーターは表2に挙げられており、表3に示されるような実験において記録される。
【0106】
(表3)測定マトリックス
【0107】
実験プロトコル
アルテシン(althesin)およびケタミンの組み合わせを使用して動物に麻酔をかける。動物は、ステロイド麻酔薬であるアルテシン(Schering-Plough Animal Health, Kenilworth, N.J.)および亜酸化窒素からなるプロトコルを利用して、初期手術およびショック期間の間、麻酔を受容する。この組み合わせは、適切な麻酔レベルを可能にしながら、身体のショックに対する反射応答の多くを保存することが示されている。準備手術の間、FiO2を80〜120mmHgのPaO2および37〜43mmHgのPaCO2に調整して、気管内チューブを通した機械的換気を使用して動物を換気する。準備手術には、(自己血輸血を防止するための)脾臓摘出のための開腹、IVCのカニューレ挿入、および膀胱カテーテル挿入が含まれる。動脈カテーテルおよび肺動脈カテーテルを頸部切開を介して設置する。安定化期間の後、50mmHgの収縮期血圧を入手するため、ヘパリン処理された血液バッグへの採血により、出血性ショックを誘導する。ショックから15分後、動物は、D-BHBおよびメラトニン、もしくはアセト酢酸およびメラトニンのいずれかを有する虚血/再灌流保護組成物、または担体溶液のいずれかを静脈内に受容する。
【0108】
ショックから90分後、虚血/再灌流保護組成物または担体溶液の体重に基づく注入を動物に開始する。さらに、図18に概説されるような標準的な蘇生戦略を使用して、臨床的終点にまで動物を蘇生する。ショックおよび蘇生の期間を通して、動物は換気装置により維持され、BISモニターを使用して、適切なレベルの鎮静および安楽を維持するために、調整された用量のプロポフォールおよび亜酸化窒素を受容する。蘇生を開始してから8時間後、生存している動物を安楽死させる。
【0109】
実施例6−重度の失血からの大型動物の保護
D-BHB+メラトニンを含有している虚血/再灌流保護組成物の有効性を、別記された出血性ショックのブタモデルにおいて試験した(実施例5;Beilman et al., 1999, Shock, 12(3): 196-200;Skarda et al., 2007, Resuscitation, 75(1): 135-44;Taylor et al., 2004, Shock, 21(1):58-64;Taylor et al., 2004, J. Trauma, 56(2):251-258;Mulier et al., 2005, Shock, 23(3):248-52;Skarda et al., 2006, J. Amer. Coll. Surg., 203(3):S32-S33;Taylor et al., 2005, J. Trauma, 58(6): 1119-25)。ブタモデルは、ヒトの出血性ショックの臨床的に関連するモデルとして承認されているため、選択された。重篤な失血に罹患した外傷患者において観察される血管代償不全を誘発するために、約50mmHgの収縮期血圧への失血を使用した。
【0110】
本質的には実施例5に示されるように、実験を実施した。二つの実験ブタ群に、出血性ショックを与え、実際の生活状況をシミュレートする処置を与えた。一方のブタ群には、20%DMSOを含有している水性溶液中に4M D-BHBおよび43mMメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物を与えた。他方の群には、4M NaClおよび20%DMSOを含有している対照溶液を与えた。中心静脈カテーテルを介して溶液を投与した(末梢血管を介した虚血/再灌流保護組成物の投与は、局所組織の何らかの壊死をもたらし得る)。
【0111】
現場での救急医療関係者による初期処置をシミュレートするため、出血から15分後に、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の1mL/kgのボーラス注入を、各ブタに投与した。ボーラス注入の直後、二つのブタ群の各々を、三つの投薬群へとさらに分類した。一つの投薬群には、蘇生から4時間後まで、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の0.66mL/kg/時間の連続注入を投与した(高用量)。第二の投薬群には、蘇生から4時間後まで、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の0.33mL/kg/時間の連続注入を投与した(中用量)。第三の群には、(ショックから15分後の)ボーラス注入の直後の連続注入は投与せず、ショックから60〜90分後(蘇生の時点)に開始し、蘇生から4時間後まで継続する、虚血/再灌流保護組成物または対照溶液の0.33mL/kg/時間の連続注入を投与した(低用量)。
【0112】
処置施設への到着をシミュレートするため、全ての動物をショックから60〜90分後に蘇生した。動物が、>8mg/dlの乳酸塩レベルを示し、50%未満への組織ヘモグロビン酸素飽和度(StO2)の低下を示し、血管運動緊張度の喪失の兆候を示した(収縮期血圧が10mmHg超低下した)時点で、蘇生を開始した。血圧、尿量、およびヘモグロビンの標準的な臨床的終点にまで動物を蘇生した(図18)。8時間の蘇生の後、動物を屠殺した。
【0113】
D-BHBの血清レベル(mM)を、対照ブタ、および低用量、中用量、または高用量の虚血/再灌流保護組成物を投与されたブタにおいて測定した。ベースライン時;ショックから30分後、60分後、および90分後;ならびに蘇生開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、および8時間後にレベルを測定した(図21)。これらの結果は、虚血/再灌流保護組成物を投与されたブタにおいて観察された血清D-BHBレベルが、虚血/再灌流保護組成物を投与されたラットにおいて観察された血清D-BHBレベルに類似していることを示した(図21を図11と比較すること)。これらの実験の結果は、D-BHB+メラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物が、ブタ出血性ショックモデルにおいて安全であり、蘇生の間にモニタリングされた重要な臨床的尺度を改善したことを示している。
【0114】
ブタ出血性ショック実験の間に測定された主要な終点のうちの一つは、血清中の乳酸塩のレベルであった(図22)。血清乳酸塩レベルは、外傷患者の臨床的な蘇生の終点として広範に使用されている組織灌流の妥当性の指標である。多数の研究が、外傷性ショックを生き延びる患者は、生存しない患者より迅速に乳酸塩レベルを正常化することを示している。血中の乳酸塩増大は、死亡の予後的な指標であり得る。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物においては、乳酸塩レベルが、対照に比べて、より迅速に減退することが観察された(図22)。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物において4時間の蘇生の後に見出されたのと同一の平均乳酸塩レベルに、対照動物における平均乳酸塩レベルが達するためには、6時間の蘇生を要した。これらのデータは、出血性ショック後の組織ホメオスタシスが、対照動物に比べて、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタにおいて優れていたことを示す。虚血/再灌流保護組成物を受容したブタにおける測定が、対照溶液を受容したブタにおける測定と同様に平均化されたことに注意されたい。
【0115】
塩基欠乏/過剰が、大型動物実験の間に査定されたもう一つのパラメーターである(図23;Siggaard-Andersen, 1974, The acid-base status of the blood, 4th Ed., Copenhagen: Munksgaard;Schmelzer et al., 2008, Am. J. Emerg. Med., 26:119-23;Eastridge et al., 2007, J. Trauma, 63:291-9;Englehart & Schreiber, 2006, Curr. Opin. Crit. Care, 12:569-74)。塩基欠乏は、血液ガス測定装置(Gem Premier Model 3000 with Base Deficit Cartridge No. 24315009;Instrumentation Laboratories Inc., Lexington, MA)を使用して測定された。乳酸塩レベルと同様に、塩基欠乏/過剰も、組織灌流の妥当性の尺度として認識されており、外傷患者の臨床的蘇生を査定するために広範に使用されている。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物において、ショックの開始から90分後に達した塩基欠乏は、対照溶液を投与された動物ほど重篤でなかった(図23)。さらに、塩基欠乏は、虚血/再灌流保護組成物により処置された群において、対照群より速く回復するのが観察された。6mEq/L超の塩基欠乏は、死亡率の予測因子であり、対照群においては、ショックから約45分後に観察され始め、蘇生から約2時間後まで持続したが、虚血/再灌流保護組成物により処置された群においてはそうでなかった(Cohn et al., 2007, J. Trauma, 62(1):44-54)。
【0116】
総合すると、図22および23に提示された結果は、D-BHBおよびメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物による処置が、乳酸塩および塩基欠乏のより迅速な排除の傾向に関連していたことを示す。これらの結果は、虚血/再灌流保護組成物による処置が、死亡率を低下させ、ヒト外傷患者の予後を改善することができるという強い証拠を提供する。
【0117】
虚血/再灌流保護組成物または対照溶液を投与されたブタにおいて、血清pH値も測定した(図24)。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物において、血清pHレベルは対照動物ほど低く低下しなかった。さらに、虚血/再灌流保護組成物により処置された動物におけるpHレベルは、対照動物に比べて速く正常化することが観察された。
【0118】
組織オキシヘモグロビン飽和度の測定によっても、組織灌流の妥当性を評価した(StO2;図25;Zenker et al., 2007, J. Trauma, 63:573-80;Puyana & Pinsky, 2007, Crit. Care, 11:116;Cohn et al., 2007, J. Trauma, 62:44-55;およびMyers et al., 2005, J. Biomed. Opt., 10:034017)。StO2値は、組織ヘモグロビンにおける酸素飽和度を示し、外傷モデルにおいて酸素送達量と相関することが示されている。重傷外傷患者の研究において、StO2は少なくとも死亡率を予測し、乳酸塩および塩基欠乏も予測した(Cohn et al., 2007, J. Trauma, 62(1):44-54)。さらに、患者が外傷性ショックを生き延びる可能性は、組織酸素送達量および消費量が蘇生後の初期に最大化された場合に、より高くなることが認識されている。対照に比べて、虚血/再灌流保護組成物により処置された動物においては、StO2レベルにより測定されるような、ショックの間の組織灌流の保存が観察された(図25)。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物におけるより高いStO2レベルは、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物の存在下では、生命に関わる器官にとって利用可能な酸素がより多く存在したことを示しており、それは、一般に、改善された患者の生存および予後に通じる。虚血/再灌流保護組成物により処置された動物における高いStO2レベルに加え、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタにおいては、対照溶液により処置されたブタに比べて、改善された酸素送達量が観察された(図26)。
【0119】
虚血/再灌流保護組成物または対照溶液により処置された出血性ショックブタにおいて、組織灌流の成功および正常なホメオスタシスへの復帰を査定するために複数の測定基準を使用することに加えて、蘇生の間に投与される必要のあった液体の容量も測定した(図27および28)。攻撃的な液体投与は増加した死亡率に通じる場合があるため、蘇生のために必要とされる液体の総量は、重要なパラメーターである。特に、止血が達成される前に低血圧を逆転する攻撃的な液体投与は、部分的に形成された血餅を排出し、既存の凝固因子を希釈して、さらなる失血をもたらす場合がある。虚血/再灌流保護組成物の投与は、蘇生のために必要とされる液体のより低い容量への一貫した傾向に関連していた(図27)。これらの結果は、虚血/再灌流保護組成物の投与が、出血性ショックに罹患している個体の死亡率を低下させ得るというさらなる証拠を提供する。
【0120】
ヒト出血性ショック患者のためのものである、心拍出量、心拍数、収縮期血圧、および尿量という基本的な生命徴候を、ブタ実験の間にモニタリングした。致死的ショックは、末梢組織の血液および酸素があまりにも不足したために、細胞エネルギーレベルがあまりにも低くなり、毒性副産物があまりにも高くなった場合に起こる。これらの条件の下では、末梢組織は、もはや、脳および心臓への血流を維持するために末梢血管収縮を維持することができない。この血管収縮の喪失は、高頻度に、最終的な死因となる。対照群において、末梢の血管運動緊張度の喪失を伴う失血は、収縮期血圧の減少(図31)をもたらし、その後、脳および心臓の血流を維持するための心拍出量の補償的増加(図28)をもたらした。しかしながら、虚血/再灌流保護組成物により処置された動物は、末梢組織血管収縮を維持していたようであり、それは、対照と比較して、増加した心拍数(図29)および増加した収縮期血圧(図30)の存在下で、減少した心拍出量(図28)をもたらした。さらに、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタにおいては、腎排出量が、より迅速に回復した(図32)。尿量は、腎機能の指標であり、腎機能は、腎臓への血流および腎細胞の完全性により決定される。これらの結果は、本明細書に記載された虚血/再灌流保護組成物が、より効率的なエネルギー供給を提供し、毒性副産物の増大に対抗することにより、末梢組織の生存性を促進し得ることを示している。
【0121】
虚血/再灌流保護組成物による動物の処置は、腹部コンパートメント症候群(IACS)を防止し、このことは、組織へのエネルギー供給および細胞完全性の維持における虚血/再灌流保護組成物の有益な効果をさらに証明した。IACSは、外傷患者の蘇生の間に発生することがあり、未決定の死の前兆である、急速な腹部膨隆を含む症候群である。低用量の虚血/再灌流保護組成物を受容した2匹のブタは、決定的な蘇生の前に死亡したが、虚血/再灌流保護組成物により処置されたブタは、いずれも、IACSを発症しなかった。他方、対照群においては、1匹の動物が、蘇生開始から4.5時間後にIACSにより死亡した。表4は、出血性ショックに供され、対照溶液、または低用量、中用量、および高用量の本明細書に記載されたような虚血/再灌流保護組成物を投与された群の各々における、生存していたブタおよび死亡したブタの数を示す。
【0122】
(表4)ブタ死亡率
【0123】
その他の態様
本発明を、詳細な説明と共に記載したが、上記の説明は、本発明を例示するためのものであり、添付の特許請求の範囲の範囲により定義される本
発明の範囲を制限するものではないことが理解されるべきである。その他の局面、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物。
【請求項2】
1種または複数種のケトン体が、D-ベータ-ヒドロキシブチレートまたは薬学的に許容されるその塩を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
1種または複数種のケトン体が、アセトアセテートまたは薬学的に許容されるその塩を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
1種または複数種のケトン体が、D-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートまたは薬学的に許容されるそれらの塩を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
無機陰イオンを実質的に含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
薬学的に許容される塩が、Na-D-ベータヒドロキシブチレートである、請求項2記載の組成物。
【請求項7】
メラトニンが5-メトキシ-N-アセチルトリプタミンである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
液状組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
約0.1M〜約8Mのケトン体および約4nM〜約150mMのメラトニンを有する、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
約4MのNa-D-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび約43mMのメラトニンを有する、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
Cl-を実質的に含まない、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
液状組成物中の溶媒が水である、請求項8記載の組成物。
【請求項13】
液状組成物が可溶化剤および/または安定剤を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項14】
可溶化剤がDMSOである、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
乾燥粉末状組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
約100対1というケトン体とメラトニンとのモル比を有する、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
約1×107対1というケトン体とメラトニンとのモル比を有する、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
治療用化合物をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
請求項1記載の組成物を含む製品。
【請求項20】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンから本質的になる組成物。
【請求項21】
失血を経験中であるか、または経験した個体を処置する方法であって、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを該個体に投与する工程を含む方法。
【請求項22】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが単一組成物で一緒に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
個体が、大出血事象を経験中であるか、または経験した、請求項21記載の方法。
【請求項24】
個体が少なくとも約10%の血液量を失っている、請求項21記載の方法。
【請求項25】
個体が少なくとも約20%の血液量を失っている、請求項21記載の方法。
【請求項26】
個体が少なくとも約30%の血液量を失っている、請求項21記載の方法。
【請求項27】
個体における失血が、約70mmHg以下の収縮期血圧をもたらす、請求項21記載の方法。
【請求項28】
1種または複数種のケトン体が、約3mM〜約15mMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与され、かつメラトニンが、約20μM〜約150μMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項29】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、個体の体重1キログラム(kg)当たり約0.3〜約2ミリリットル(ml)の容量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項30】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mLの容量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項31】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mLの容量で投与された後、該1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mLの容量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項32】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、静脈内投与される、請求項21記載の方法。
【請求項33】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、骨内投与される、請求項21記載の方法。
【請求項34】
個体のStO2レベルが75%未満である、請求項21記載の方法。
【請求項35】
投与により、個体のStO2レベルが75%超に戻る結果となる、請求項34記載の方法。
【請求項36】
個体のStO2レベルが75%超である場合に個体が処置済みである、請求項21記載の方法。
【請求項37】
個体の乳酸塩レベルが2.1mg/dl超である、請求項21記載の方法。
【請求項38】
投与により、個体の乳酸塩レベルが2.1mg/dl未満に戻る結果となる、請求項37記載の方法。
【請求項39】
個体の乳酸塩レベルが2.1mg/dl未満である場合に個体が処置済みである、請求項21記載の方法。
【請求項40】
投与により、個体の塩基欠乏が6mEq/Lに達することが防止される、請求項21記載の方法。
【請求項41】
個体に血液または血漿を輸血することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項42】
輸血が、1種または複数種のケトン体およびメラトニンが投与された後に実施される、請求項41の方法。
【請求項43】
StO2レベルが75%未満である個体を処置する方法であって、StO2レベルが75%未満である個体を同定する工程;ならびに1種または複数種のケトン体およびメラトニンを該個体に投与する工程を含む方法。
【請求項44】
6mEq/L超の塩基欠乏レベルを有する個体を処置する方法であって、塩基欠乏レベルが6mEq/L超である個体を同定する工程;ならびに1種または複数種のケトン体およびメラトニンを該個体に投与する工程を含む方法。
【請求項1】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンを含む虚血/再灌流保護組成物。
【請求項2】
1種または複数種のケトン体が、D-ベータ-ヒドロキシブチレートまたは薬学的に許容されるその塩を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
1種または複数種のケトン体が、アセトアセテートまたは薬学的に許容されるその塩を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
1種または複数種のケトン体が、D-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートまたは薬学的に許容されるそれらの塩を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
無機陰イオンを実質的に含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
薬学的に許容される塩が、Na-D-ベータヒドロキシブチレートである、請求項2記載の組成物。
【請求項7】
メラトニンが5-メトキシ-N-アセチルトリプタミンである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
液状組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
約0.1M〜約8Mのケトン体および約4nM〜約150mMのメラトニンを有する、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
約4MのNa-D-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび約43mMのメラトニンを有する、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
Cl-を実質的に含まない、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
液状組成物中の溶媒が水である、請求項8記載の組成物。
【請求項13】
液状組成物が可溶化剤および/または安定剤を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項14】
可溶化剤がDMSOである、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
乾燥粉末状組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
約100対1というケトン体とメラトニンとのモル比を有する、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
約1×107対1というケトン体とメラトニンとのモル比を有する、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
治療用化合物をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
請求項1記載の組成物を含む製品。
【請求項20】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンから本質的になる組成物。
【請求項21】
失血を経験中であるか、または経験した個体を処置する方法であって、1種または複数種のケトン体およびメラトニンを該個体に投与する工程を含む方法。
【請求項22】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが単一組成物で一緒に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
個体が、大出血事象を経験中であるか、または経験した、請求項21記載の方法。
【請求項24】
個体が少なくとも約10%の血液量を失っている、請求項21記載の方法。
【請求項25】
個体が少なくとも約20%の血液量を失っている、請求項21記載の方法。
【請求項26】
個体が少なくとも約30%の血液量を失っている、請求項21記載の方法。
【請求項27】
個体における失血が、約70mmHg以下の収縮期血圧をもたらす、請求項21記載の方法。
【請求項28】
1種または複数種のケトン体が、約3mM〜約15mMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与され、かつメラトニンが、約20μM〜約150μMの血中濃度を達成するために十分な量で個体に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項29】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、個体の体重1キログラム(kg)当たり約0.3〜約2ミリリットル(ml)の容量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項30】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mLの容量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項31】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mLの容量で投与された後、該1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、1時間当たり個体の体重1kg当たり約0.3〜約2mLの容量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項32】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、静脈内投与される、請求項21記載の方法。
【請求項33】
1種または複数種のケトン体およびメラトニンが、骨内投与される、請求項21記載の方法。
【請求項34】
個体のStO2レベルが75%未満である、請求項21記載の方法。
【請求項35】
投与により、個体のStO2レベルが75%超に戻る結果となる、請求項34記載の方法。
【請求項36】
個体のStO2レベルが75%超である場合に個体が処置済みである、請求項21記載の方法。
【請求項37】
個体の乳酸塩レベルが2.1mg/dl超である、請求項21記載の方法。
【請求項38】
投与により、個体の乳酸塩レベルが2.1mg/dl未満に戻る結果となる、請求項37記載の方法。
【請求項39】
個体の乳酸塩レベルが2.1mg/dl未満である場合に個体が処置済みである、請求項21記載の方法。
【請求項40】
投与により、個体の塩基欠乏が6mEq/Lに達することが防止される、請求項21記載の方法。
【請求項41】
個体に血液または血漿を輸血することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項42】
輸血が、1種または複数種のケトン体およびメラトニンが投与された後に実施される、請求項41の方法。
【請求項43】
StO2レベルが75%未満である個体を処置する方法であって、StO2レベルが75%未満である個体を同定する工程;ならびに1種または複数種のケトン体およびメラトニンを該個体に投与する工程を含む方法。
【請求項44】
6mEq/L超の塩基欠乏レベルを有する個体を処置する方法であって、塩基欠乏レベルが6mEq/L超である個体を同定する工程;ならびに1種または複数種のケトン体およびメラトニンを該個体に投与する工程を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2010−523714(P2010−523714A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503249(P2010−503249)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/060100
【国際公開番号】WO2008/128095
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/060100
【国際公開番号】WO2008/128095
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【Fターム(参考)】
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